説明

化学変換セルを含むアルシンおよびホスフィンの検出装置および検出方法

硝酸銀を含む化学セル(40)が、イオン移動度分光計(1)の導入口(10)に接続されており、検出対象のサンプルガスはその化学セルを通ってIMSに流れ込む。サンプルガスが、イIMSでは通常感知できないアルシンまたはホスフィンを含む場合、これらの物質はセル(40)中の硝酸銀によって硝酸に変換される。IMSは硝酸には高い反応を示す。アルシンまたはホスフィンに反応して生成された硝酸と、セル(40)に供給される前のサンプルガス中に存在する硝酸とを区別するために、導入口(10)がサンプルガスを直接的に受け入れるよう切り替わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプルガス中のアルシンまたはホスフィンの存在を検出する検出装置であって、この装置がガス導入口を有する検出ユニットを含み、この検出ユニットがユニット内のアルシンまたはホスフィンの存在に比較的無反応である検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン移動度分光計は、空気中の有害物質を検出し、その性質を示すために一般的に用いられる。イオン移動度分光計は、幅広い種類の有害物質を検出するのに有効であるが、イオン移動度分光計の確立した構成ではアルシンまたはホスフィンを確実には検出することができない。これらの物質は、イオン移動度分光計の検出器で検出可能な生成イオンを形成しないからである。アルシン(またはAsH3、アルシンガス、アルシン曝露、ヒ化水素、水素化ヒ素(arsenous hydride)、三水素化ヒ素、水素ヒ化物)およびホスフィン(またはリン化水素、PHもしくはホスファン)は毒性の強い化学物質で、テロリストや軍隊の化学兵器に使用されることもある。したがって、それらを低い水準量でも確実に検出できることが重要であり、その他の有害物質を検出するためにも利用可能な検出器を用いることが好ましい。
【発明の開示】
【0003】
本発明の目的は、代替の検出装置および検出方法を提供することである。
【0004】
本発明の一態様によって、上記した特定の種類の検出装置であって、該装置が、サンプルガスを受け入れるよう接続された導入口と検出ユニットのガス導入口と連結した排出口を有する化学セルを含み、その化学セルは、アルシンまたはホスフィンがセルに供給された場合に検出ユニットによってより容易に検出され得る化学物質を生成するよう作動することを特徴とする装置を提供する。
【0005】
化学セル内を通過する前のサンプルガス中に化学物質が存在するかどうかを明らかにするために、この装置は、好ましくは、装置が化学物質の存在を検出すると化学セルから切り離してサンプルガスを検出ユニットに供給するよう構成されている。化学セルは、好ましくは、アルシンまたはホスフィンに反応して硝酸を生成する構成になっている。化学セルは、好ましくは、硝酸銀を含んでおり、この硝酸銀は、セル内の細粒表面のようなセル表面にコーティングされている。検出ユニットは、好ましくは、イオン移動度分光計を含む。
【0006】
本発明の別の態様によって、本発明の上記一態様である検出装置に利用される化学セルを提供する。
【0007】
本発明のさらに別の態様によって、導入口と排出口を有する化学セルであって、排出口が検出ユニットに連結するよう調整され、導入口がアルシンまたはホスフィンをを含有する疑いのあるサンプルガスを受け入れるよう調整されており、そのセルが、セル中をアルシンまたはホスフィンの通過に反応して硝酸を生成するのに有効な硝酸銀を含むことを特徴とする化学セルを提供する。
【0008】
本発明の第四の態様によって、サンプルガス内のアルシンまたはホスフィンを検出する方法であって、サンプルガスを供給し、アルシンまたはホスフィンが存在する場合にアルシンまたはホスフィンとは異なる第二化学物質を生成するよう構成された化学物質にサンプルガスを接触させる工程と、第二化学物質の存在を検出する工程と、アルシンまたはホスフィンの検出を示す出力反応を提供する工程とを含むことを特徴とする方法を提供する。
【0009】
第二化学物質は硝酸であることが好ましい。化学セル内を通過する前のサンプルガス中に第二化学物質が存在するかどうかを明らかにするために、その方法は、好ましくは、第二化学物質の存在が示される場合に、化学物質をバイパスする工程を含む。化学物質は硝酸銀を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の第五の態様によって、本発明の上記第四の態様による方法で使用される装置を提供する。
【0011】
本発明に係るイオン移動度分光装置およびその動作方法について、装置の概略側断面図である添付の図面を参照しつつ例示的に説明する。
【0012】
装置は、導入口10を有する従来のイオン移動度分光計ユニット1を含む。この導入口10によってサンプルガスがユニット内に供給され、検出および同定が実行される。導入口10はユニット1の左端位置で、イオン化および反応領域11に開口している。この領域11は、コロナ放電針12またはその他の構造を含み、サンプルガス内の物質をイオン化する。電気シャッター13は、ドリフト室14からイオン化領域11を絶縁する。ドリフト室14は、シャッター13から離れた端にコレクタ板15を有する。電極16はドリフト室14に沿って間隔を空けて位置し、電源17に接続されている。こうして、ドリフト室に沿って電場が形成され、シャッター13が通したイオンは左から右へコレクタ板15に向かって移動する。ポンプ18および分子篩19は、ユニット1の左端に開口した導入口21からユニット1の右端に開口した排出口22まで延びるガス流路20に接続され、浄化され乾燥されたガスはドリフト室14内を右から左にイオンの流れに逆らって通常どおり流れる。コレクタ板15は、プロセッサ30に接続され、このプロセッサ30はシャッター13を制御するためにも接続されている。プロセッサ30は、イオンまたはイオン束がコレクタ板15に衝突するときに発生する電荷を検出し、飛行時間を計算する。この情報から多くのイオン種の性質が同定され、表示部31のような利用手段に出力される。
【0013】
上記したように、この装置は従来のものであり、アルシンまたはホスフィンを検出することができない。
【0014】
この装置は空気中またはサンプルガスの他の供給源に開口した導入口41を有する化学セル40を含むことによって改造される。セル40の排出口42は、分光計ユニット1の導入口10に接続されている。こうして、分光計の導入口に供給される全てのガスは、最初にこのセル内を通り抜ける。セル40は、アルシンまたはホスフィンが存在する場合に第二化学物質を生成するのに有効な化学物質43を含む。この第二化学物質はアルシンまたはホスフィンとは異なるもので、イオン移動度分光計1を用いて確実に検出できる物質である。より具体的には、セル40の中の化学物質43は硝酸銀であり、アルシンおよびホスフィンと反応して硝酸蒸気を発生させる。この硝酸蒸気は、IMS1で容易に検出される。例えば、一分子のアルシンから六分子分の硝酸が生成される(Demange,Elcabache et al,J Environ Monit 2000,Oct 2(5),476−82)。したがって、IMSがアルシン自体を検出することができたとしても、硝酸銀を利用すると検出感度について6倍の改善が可能となる。化学物質43は様々に異なる形態でセル40に含まれる。例えば、化学物質43は、図に示されるように円筒状のハウジング45内に充填された細粒44の表面にコーティングされ、大面積がセルに沿って流れるガスにさらされることになる。あるいは、化学物質を粉状とすることもでき、メッシュまたは繊維性材料にコーティングとすることもでき、または単にセル壁の裏層として設けることもできる。硝酸銀自体は通常気温では気化しない。そうでなければ、IMS1で反応を起こす。
【0015】
したがって、IMSユニット1に供給されるサンプルガスは、化学セル40内を通り抜けなければならないことが分かる。IMSユニット1は、ユニットが反応する標準範囲内の物質に通常の方法で反応する。アルシンまたはホスフィンがサンプルガス内に存在する場合、それの少なくともいくらかはセル40の中で硝酸蒸気に変化し、IMSの導入口10に流れ込んで検出される。プロセッサ30によって出力される反応は、硝酸に対する反応と同一となる。硝酸よりもアルシンまたはホスフィンが多い可能性がある場合において装置が使用されると、プロセッサ30は表示部31にタイトル「Arsine/Phosphine」(アルシン/硝酸)を表示するようになっている。あるいは、プロセッサ30が「Arsine/Phosphine or Nitric Acid」(アルシン/ホスフィンまたは硝酸)と表示するようになっている場合もある。
【0016】
2種類の化学物質に対する反応の違いの曖昧さを解消するために、装置が、IMSの導入口10に接続されたバイパス導入経路50を含むことが好ましい。つまり、バイパス導入経路50はIMSユニット1と化学セル40との間に三方向バルブ51を介して位置する。バイパス導入経路50は、大気または検出対象となるサンプルガスの供給源に開口した導入口52を有する。バルブ51はプロセッサ30によって制御されており、それの標準位置では、図に示されるように、化学セルの排出口42がIMSの導入口10にガス流連通しており、バイパス導入口は分離されている。プロセッサ30が硝酸を検出すると、IMSの導入口10から化学セル40を切り離し、代わりに、IMSユニット1にバイパス導入口52を接続するようバルブ51を切り替える。こうして、空気またはサンプルガスは、化学セル40を通り抜けることなく、IMSの導入口10に直接的に供給される。IMSユニット1がなおも同じ反応を示す場合には、硝酸が空気またはサンプルガス自体の中に存在するのであり、化学セル40によって生成されているものではないことが明らかとなる。したがって、表示部31は「Nitric Acid」(硝酸)という反応を表示する。しかしながら、バルブ51がバイパス経路位置に切り替わったときに硝酸反応が停止したなら、全ての硝酸は、アルシンまたはホスフィンに反応して化学セル40により生成されたものであり、プロセッサ30が表示部31に「Arsine/Phosphine」(アルシン/ホスフィン)を表示することは明らかであろう。バイパス経路に切り替わったときに反応が完全にはなくならずに小さくなれば、硝酸とアルシンまたはホスフィンの何れかとの両方が存在することを示し、表示部31には「Arsine/Phosphine&Nitric Acid」(アルシン/ホスフィンと硝酸)と表示されることになる。
【0017】
アルシンまたはホスフィンと反応して硝酸を発生させるために、その他の硝酸塩含有の化学物質が硝酸銀の代わりに使われる場合がある。同様に、アルシンおよびホスフィンが検出器の中で検出可能な硝酸以外の第二化学物質を生成するために反応するその他の化学物質が存在する場合もある。上記したように、反応が6倍に改良された検出感度を発揮するので、硝酸銀等の使用は、アルシンおよびホスフィンの検出が可能な検出装置に用途がある。
【0018】
本発明はイオン移動度分光計での利用に適しているが、質量分析計および電気化学電導度検出器のようなその他の形態の検出器においても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明に従う装置の概略側断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルガス中のアルシンまたはホスフィンを検出する検出装置であって、前記装置はガス導入口(10)を有する検出ユニット(1)を含み、前記検出ユニットは該ユニット内のアルシンまたはホスフィンの存在に比較的無反応であり、前記装置が前記サンプルガスを受け入れるよう接続された導入口(41)と前記検出ユニット(1)の前記ガス導入口(10)と連結した排出口(42)を有する化学セル(40)を含み、前記化学セル(40)は、アルシンまたはホスフィンが前記セル(40)に供給された場合に前記検出ユニット(1)によってより容易に検出され得る化学物質を生成するよう作動することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記装置が、前記化学物質を検出すると前記化学セル(40)から切り離して前記サンプルガスを前記検出ユニット(1)に供給するよう構成されており、前記化学セル(40)内を通過する前の前記サンプルガス中に前記化学物質が存在するかどうかを明らかにすることを特徴とする、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記化学セル(40)が、アルシンまたはホスフィンに反応して硝酸を生成するよう構成されている、請求項1または2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記化学セル(40)が硝酸銀を含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の検出装置。
【請求項5】
前記硝酸銀が前記セル(40)の表面にコーティングされていることを特徴とする、請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記硝酸銀が前記セル(40)内の細粒(44)表面にコーティングされていることを特徴とする、請求項5に記載の検出装置。
【請求項7】
前記検出ユニットがイオン移動度分光計(1)を含むことを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の検出装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の検出装置に利用される化学セル(40)。
【請求項9】
導入口(41)および排出口(42)を有する化学セル(40)であって、前記排出口(42)が検出ユニット(1)に連結するよう調整され、前記導入口(41)がアルシンまたはホスフィンを含有する疑いのあるサンプルガスを受け入れるよう調整されて、前記セル(40)が、該セル中をアルシンまたはホスフィンに通過に反応して硝酸を生成するのに有効な硝酸銀を含むことを特徴とする化学セル(40)。
【請求項10】
サンプルガス内のアルシンまたはホスフィンを検出する方法であって、該方法が、サンプルガスを供給し、アルシンまたはホスフィンが存在する場合にアルシンまたはホスフィンとは異なる第二化学物質を生成するよう構成された化学物質に前記サンプルガスを接触させる工程と、前記第二化学物質の存在を検出する工程と、アルシンまたはホスフィンの検出を示す出力反応を提供する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記第二化学物質が硝酸であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、前記第二化学物質の存在が示される場合に前記化学物質をバイパスする工程を含み、前記化学物質内が通過する前に、サンプルガス中に前記第二化学物質が存在するかどうかを明らかにすることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記化学物質が硝酸銀を含むことを特徴とする、請求項10〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項10〜13の何れか一項に記載の方法に利用される装置。

【図1】
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【公表番号】特表2009−533667(P2009−533667A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504804(P2009−504804)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001251
【国際公開番号】WO2007/119044
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(507235789)スミスズ ディテクション−ワトフォード リミテッド (25)
【Fターム(参考)】