説明

化学強化用ガラス組成物

【課題】優れた耐熱性および優れたイオン交換能を有し、イオン交換による化学強化処理によって高い強度を付与できるガラス組成物を提供する。
【解決手段】質量%で示して、SiO 53〜62%、Al 11〜17%、LiO 0〜5%、NaO 10〜15%、KO 3〜9%、MgO 0〜4%、CaO 0〜4%、SrO 0〜6%、BaO 0〜5%、ZrO 1〜4%、TiO 2〜6%、を含むガラス組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性を有し、かつイオン交換に伴う化学強化処理により大きい強化層を付与することが可能なガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスは、高い表面平滑性や大きな表面強度などの優れた性質を持つため、タッチパネルやカラーフィルターなどのディスプレー用基板に広く使用されている。
【0003】
しかし、ガラスは割れやすいという欠点がある。その対策として急冷やイオン交換による表面への圧縮応力の付与、いわゆる強化処理が行なわれてきた。強化処理のなかでも、イオン交換による化学強化処理は、他の強化処理と比較して、ガラスの板厚が薄くても強化しやすいため、ディスプレー基板材料などに対して好適な強化処理である。
【0004】
化学強化処理は、ガラス中の表面付近のイオン(一般的にはNa)を、よりイオン半径の大きいイオンと交換することによって、ガラス表面に圧縮応力を与えるものであり、強化のしやすさや強度は、当然ガラスの組成に影響される。
【0005】
例えば、質量%で示して、SiO 58〜65%、Al 8〜15%、LiO 4〜10%、NaO 9〜13%、ZrO 0.5〜2%、ZnO 2〜5%、P 0.5〜2%、を含有した、化学強化用ガラスが開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
また例えば、質量%で示して、SiO 59〜68%、Al 9.5〜15%、LiO 0〜1%、NaO 3〜18%、KO 0〜3.5%、MgO 0〜15%、CaO 1〜15%、SrO 0〜4.5%、BaO 0〜1%、ZrO 1〜10%、TiO 0〜2%、を含有した、化学強化用ガラスが開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−7372号公報
【特許文献2】特開2005−15328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
化学強化ガラスは、その強化層の大きさでガラス表面キズへの抵抗となり、強化層が大きい程キズへの抵抗が大きくなる。また、強化層はイオン交換におけるイオン交換量とも相関している。
【0009】
当然強化のしやすさ、強化層の大きさはガラスの組成によって影響を受ける。例えば、特開2000−7372号公報に記載のものは、LiO、P、ZnOが必須で、多量に含むため、ガラス転移点が低く強化において反りが生じやすい。また、Pを含むために化学的耐久性に劣る。
【0010】
また、特開2005−15328号公報に記載のものは、CaOが、請求範囲は広いものの、実施例では多量に含まれている。一般的に使用される硝酸カリウム液では、CaOの溶解により強化能が著しく低下することがわかっており、化学強化に向いた組成とは言い難い。
【0011】
本発明は、このような従来技術を鑑み、例えばタッチパネルディスプレー用ガラスとして使用しても表面キズに強く、さらに、化学強化処理により、大きな機械的強度を付与できるガラス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、質量%で示して、SiO 53〜62%、Al 11〜17%、NaO 10〜15%、KO 3〜9%、CaO 0〜4%、MgO 0〜4%、SrO 0〜6%、BaO 0〜5%、ZrO 1〜4%、TiO 2〜5%、の成分を含むことを特徴とする。
【0013】
また本発明は、ガラス歪点の0.9倍の温度の硝酸カリウム溶液の化学強化処理においてイオン交換能(化学強化処理においてガラス表面積当たりのイオン交換重量)が0.2mg/cm以上となる上記のガラス組成物である。
【0014】
また本発明は、ガラス転移点が580℃以上である上記のガラス組成物である。
【0015】
さらに本発明は、上記のガラス組成物を含むガラス物品をNaイオン半径より大きいイオン半径を有する一価の陽イオンを含む溶融塩に浸漬することにより、上記ガラス物品に含まれるNaイオンと上記一価の陽イオンとイオン交換して得た化学強化物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガラス組成物は、化学強化することにより大きな化学強化層を得ることできる。また、ガラスを高温に加熱しても熱による変形が生じ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のガラス組成物は、質量%で示して、
SiO 53〜62%、Al 11〜17%、NaO 10〜15%、KO 3〜9%、CaO 0〜4%、MgO 0〜4%、SrO 0〜6%、BaO 0〜5%、ZrO 1〜4%、TiO 2〜5%、からなることが好ましい。この好ましいガラス組成を有するガラス組成物は、化学強化処理することによって、より確実に大きな化学強化層を付与できる。
【0018】
本ガラス組成物、ガラス転移点が少なくとも580℃であることが好ましい。このガラス組成物は、例えば、化学強化するときの溶融塩中の加熱など高温の熱処理を受けても、ガラスの変形が生じにくい。
【0019】
本発明の化学強化ガラス物品によれば、ガラス物品の表面に大きな強化層が形成されるので、機械的強度が増し、外部から衝撃が加えられたときに、ガラスの破壊を防止することができる。
【0020】
さらにまた、本発明の化学強化ガラス物品は、ガラス物品の表面により大きな強化層が形成されるため外部からのこすれや、引っかきによるキズによる強度低下が少なく表面キズに強い。
【0021】
以下、本発明のガラス組成物について、組成の限定理由を説明する。なお、以下の記述において、組成を示す%表示は全て質量%である。
【0022】
SiOは、ガラスを形成する成分で、質量%で53〜62%含有することが好ましい。SiOが53%より少ないと、化学的耐久性が悪く。62%より多いと、ガラスの溶融温度が高くなり均質なガラスを得難くなるため不適である。
【0023】
Alは、SiOと同様にガラスの主成分であるとともに、イオン交換速度を速め、ガラスの耐水性を向上させる成分であり、質量%で11〜17%含有することが好ましい。Alが11%より少ないと、その効果は出しにくくなる。一方、17%より多いと、ガラス融液の粘度が高くなり均質なガラスを得難くなるため不適である。さらに望ましくは11〜15%である。
【0024】
LiOは、溶融塩中でLiイオンがNaイオン、Kイオンなどの他の陽イオンとイオン交換されることによりガラスの強度を向上させる成分である。しかし、その含有率が多いとガラスの耐熱性を損ねるという欠点をもつ。したがって、LiOの含有率は5%以下が望ましい。
【0025】
NaOは、溶融塩中でNaイオンがKイオンなど他の陽イオンとイオン交換されることによりガラスの強度を向上させる成分であるとともに溶融性を高める成分である。10%以下では、その効果が十分でなく、溶融性も悪い。一方、15%を越えると化学的耐久性が悪化する。
【0026】
Oは、NaOと同様にガラスの溶解性を向上させる成分であり、そのために3%以上が好ましい。しかし、通常、化学強化は硝酸カリウム溶融塩が用いられているためKOの含有量が9%を越えると、十分なイオン交換が起こらない。したがって9%以下が好ましい。
【0027】
MgOは、ガラスの粘性を下げて溶解性を向上させる成分であるが、ガラスの失透温度を上昇させるため、質量%で0〜4%含有することが好ましい。
【0028】
CaOもMgOと同様に、ガラスの粘性を下げて溶解性を向上させる成分であるが、ガラスの失透温度を上昇させるそのため、質量%で0〜5%含有することが好ましい。
【0029】
SrOもMgO、CaOと同様に、ガラスの粘性を下げて溶解性を向上させる成分であるが、SrOはガラス中のアルカリ成分の移動を妨げるため、質量%で0〜6%含有することが好ましい。
【0030】
BaOもMgO、CaOと同様に、ガラスの粘性を下げて溶解性を向上させる成分であるが、BaOはガラス中のアルカリ成分の移動を妨げるため、質量%で5%以下が好ましい。
【0031】
ZrOは、イオン交換速度を速めガラスの耐水性も向上させる成分であり、1%以下では、その効果が十分ではなく、4%を越えると溶融温度が高くなることから1〜4%の含有が好ましい。
【0032】
TiOは、ガラスの粘性を下げて溶解性を向上させる成分であるが、アルカリ成分ほど化学的耐久性を悪くしないので2%以上は必須であり、TiOの含有量が5%を越えると失透温度が上昇して成形性を妨げるため、質量%で2〜5%が好ましい。より好ましくは4〜5%である。
【0033】
また、必要に応じて清澄剤としてAs、Sb、SnOを合計で質量%で1%まで含有してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づき、説明する。本発明のガラス組成物の実施例を1〜11に示したガラス組成を有するガラスを溶融実験によりにより作製し、得られたガラスの溶融温度、作業温度、熱膨張係数、ガラス転移点、歪点、失透温度、化学強化能の測定結果を表1に示す。また、比較例を表2に示した。
【表1】

【表2】

【0035】
実施例1〜10および比較例1〜4のガラス作製および得られたガラスの物性は、以下の手順にしたがって実施した。
【0036】
(ガラスの作製)
表1、または表2に示すガラス組成となるように、通常のガラス原料であるシリカ、アルミナ、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、酸化チタニウム、珪酸ジルコニウムを用いてガラス原料(バッチ)を調合した。調合したバッチを混合した後、白金ルツボに投入し、電気炉内において1600℃で3時間加熱保持後白金棒で2度撹拌した。再度2時間加熱保持したのち1500℃でカーボン板上に流しだし、ただちに650℃の徐冷炉へ投入し550℃まで4時間で降温後炉内放冷し、ガラスブロックとした。
【0037】
(物性測定)
試料ガラスをΦ5mm、長さ20mmの円柱状に加工し、示差熱膨張計(株式会社RIGAKU製サーモプラス、TMA8310)を用いて、JIS R3102、3103に準拠して30℃〜300℃の熱膨張係数およびガラス転移点を測定した。
【0038】
高温粘度のlogη=2と4はオプト製球引き上げ粘度計BVB−13LHを用いて測定した。
【0039】
ビームベンディング式粘度計BBVM−900(オプト社製)を用いて撓み速度を測定して歪点を求めた。(JIS R3103−2に準拠)
温度傾斜炉(英興製)を用いて所定の温度で2時間保持後、偏光顕微鏡ECLIPSE E600 POL(Nikon製)を用いて結晶の有無を確認し失透温度を測定した。
【0040】
イオン交換能は、NaがKに交換したことによるガラス表面積当たりの増加重量をイオン交換能とした。増加量が多い方が、イオン交換能が高いことになる。
【0041】
ガラスを約40×40×3mmに光学研磨し、歪点の0.9倍の温度の硝酸カリウム中で4時間イオン交換処理して、処理前後の重量(0.1mg単位)と寸法を測定し、表面積当たりの増加重量を算出した。
【0042】
表1および表2に示すように、本発明における実施例1〜10のガラス転移点は580℃以上で耐熱性がある。また、化学強化能も0.2mg/cm以上とイオン交換し易いガラスであり、イオン交換量が多いとそのガラス表面からの内部へのイオン交換層も深くなり表面のキズに強いガラスといえる。
【0043】
これに対し、比較例1は、一般的なフロートガラスであるが、その化学強化能は0.06mg/cmと低くキズに弱いガラスといえる。
また、比較例2は、特開2000−7372号公報の実施例4のガラスであるが、ガラス転移点が450℃と低く耐熱性が低い。
また、比較例3は、特開2005−15328号公報の実施例5のガラスであるが、化学強化能が0.17mg/cmと少ない。
【0044】
比較例4は、BaOが8.9%と多く化学強化能が0.17mg/cmと少ない。
【0045】
(産業上の利用可能性)
本発明は、例えばタッチパネル等のディスプレー基板で、キズなどの外的表面キズに強く、さらに、化学強化処理により、大きな機械的強度を付与できるガラス組成物を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で示して、
SiO 53〜62%、
Al 11〜17%、
NaO 10〜15%、
O 3〜9%、
CaO 0〜4%、
MgO 0〜4%、
SrO 0〜6%、
BaO 0〜5%、
ZrO 1〜4%、
TiO 2〜5%、
を含むガラス組成物。
【請求項2】
ガラス歪点の0.9倍の温度の硝酸カリウム溶液の化学強化処理においてイオン交換能(化学強化処理においてガラス表面積当たりのイオン交換重量)が0.2mg/cm以上となる請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
ガラス転移点が580℃以上の請求項1または2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス組成物を含むガラス物品をNaイオン半径より大きいイオン半径を有する一価の陽イオンを含む溶融塩に浸漬することにより、前記ガラス物品に含まれるNaイオンと前記一価の陽イオンとをイオン交換した化学強化ガラス物品。

【公開番号】特開2012−106897(P2012−106897A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258916(P2010−258916)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】