化学感覚能センサチップ
【課題】本発明は、操作が簡便で携帯が可能であり、また低廉な小型化学感覚能センサ装置を提供するために、センサ部分をチップ化し、さらに当該チップ化した化学感覚能センサを用いた化学感覚能センサ装置とその測定方法の提供を課題とする。
【解決手段】
本発明は上記課題を解決するために、液膜型参照電極の内部溶液を固相化した積層構造を有する化学感覚能センサ用参照電極(0303)を提供する。また、当該化学感覚能センサ用参照電極と作用電極(0302)とを一支持体(0301)上で一体化した集積可能な化学感覚能センサチップ(0300)を提供する。さらに本発明は、当該当該化学感覚能センサチップを有する小型で携帯可能な化学感覚能センサ装置を提供する。
【解決手段】
本発明は上記課題を解決するために、液膜型参照電極の内部溶液を固相化した積層構造を有する化学感覚能センサ用参照電極(0303)を提供する。また、当該化学感覚能センサ用参照電極と作用電極(0302)とを一支持体(0301)上で一体化した集積可能な化学感覚能センサチップ(0300)を提供する。さらに本発明は、当該当該化学感覚能センサチップを有する小型で携帯可能な化学感覚能センサ装置を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学感覚能センサ用参照電極、化学感覚能センサチップ及び当該チップを有する化学感覚能センサ装置と、その装置の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の五感の一つである味覚を代行する人工センサに関しては、特許文献1、5、7、8、及び9に示す本発明者らが発明した味覚センサ等が公知技術として知られている。また、これらの味覚センサ等を用いた味覚センサ装置のシステムや味の測定方法についても特許文献2、3、4、及び6等が公知技術として既に知られている。当該特許文献の味覚センサは、イオン選択性電極の技術を応用して開発された膜電位計測型のセンサである。すなわち、当該味覚センサは作用電極に生物の生体膜を模した多種類の脂質高分子膜を使用することで基本味である塩味、甘味、苦味、酸味、旨味に対して様々な膜電位を発生させることができる。また、当該味覚センサを有する味覚センサ装置は、味覚センサを被測定対象物である水溶液に浸漬させることで作用電極から発生する膜電位と参照電極から発生する膜電位を取得する。当該取得した膜電位に適当な処理を行うことで味のデジタル化、視覚化、及び再生を行うことができる。
【0003】
しかし、従来技術の膜電位計測型の味覚センサ装置は概して大型であり、センサ部分だけでもデスクトップサイズが必要であった。そのため携帯は非常に困難で、かつ貴重な測定用サンプルも多量に必要とするという問題を有していた。さらに、装置自体が一般ユーザには高額で、取扱いや測定方法も煩雑であったことから専門業者専用の測定装置の感が否めず、普及面での問題も有していた。
【特許文献1】特開平3−54446
【特許文献2】特開平3−163351
【特許文献3】特開平4−64053
【特許文献4】特開平4−297863
【特許文献5】特開平4−324351
【特許文献6】特開平5−99896
【特許文献7】特開平6−18479
【特許文献8】特開平7−5147
【特許文献9】特開平7−269826
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は化学感覚能センサ装置の小型化を目的とする。そのためには、まずセンサ部分を小型化する必要がある。そこで、本発明は従来の液膜型参照電極の内部溶液を固相化した参照電極の提供を第一の課題とする。また、本発明は前記固相化した参照電極と作用電極とが一体化した化学感覚能センサチップの提供を第2の課題とする。さらに、本発明は前記化学感覚能センサチップを用いることで、携帯性の向上や測定サンプルの低減が可能な化学感覚能センサ装置の提供を第3の課題とする。また、本発明は前記化学感覚能センサチップを利用した時の化学感覚能センサシステムの測定方法の提供を更なる課題とする。以上の課題を解決することで、目的とする化学感覚能センサ装置の小型化を達成する。
【0005】
本発明で「化学感覚能」とは、水溶液中に溶解、若しくは混在する化学物質が有する性質を受容できる機能を意味する。例えば、水溶性化学物質の溶解した水溶液を味、すなわち塩味、甘味、酸味、旨味として感知できる機能や、当該水溶液の水素イオン濃度を測定する機能等が該当する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本件出願の発明は積層構造を有する化学感覚能センサ用参照電極を提供する。本件出願の他の発明は、当該参照電極を有する一の支持体上に形成された化学感覚能センサチップを提供する。本件出願のさらなる発明は、当該化学感覚能センサチップを有する化学感覚能センサ装置を提供する。また、本件出願の発明は当該化学感覚能センサ装置の測定方法を提供する。すなわち、以下の発明を提供する。
【0007】
(1)本発明は、第一導電体と、第一導電体との間で電荷交換可能な電解液を湿潤材に保持した湿潤層と、湿潤層に保持された電解液が外部イオンと電荷交換することを防止する電荷交換防止層と、湿潤層に保持された電解液が外部に漏洩することを防止する電解液漏洩防止層とを有する化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0008】
(2)本発明は、前記湿潤層の湿潤材が高分子ポリマーであることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0009】
(3)本発明は、前記湿潤層の電解液がKCl溶液であることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0010】
(4)本発明は、前記第一導電体がAg、又はAg/AgClであることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0011】
(5)本発明は、前記湿潤層の電解液がKClとAgClの混合溶液であることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0012】
(6)本発明は、前記電荷交換防止層が高分子膜材と、可塑剤とからなることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0013】
(7)本発明は、前記電解質漏洩防止層が逆浸透膜で構成されることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0014】
(8)本発明は、前記電荷交換防止層と前記電解質漏洩防止層が、双方の機能を有する一層で構成されることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0015】
(9)本発明は、支持体と、前記支持体上に形成され、第二導電体と、第二導電体との間で電荷交換可能な脂質高分子膜とを有する一以上の作用電極と、前記支持体上に形成される前記(1)から(8)のいずれか一の化学感覚能センサ用参照電極であって、かつ少なくとも一以上の化学感覚能センサ用参照電極と、前記作用電極と、前記化学感覚能センサ用参照電極とを電気的に隔離する隔離部とを有する化学感覚能センサチップを提供する。
【0016】
(10)本発明は、前記作用電極が二以上である場合、各作用電極は一の化学物質に対して他の作用電極と異なる応答性を示す脂質高分子膜を有することを特徴とする化学感覚能センサチップを提供する。
【0017】
(11)本発明は、前記隔離部が前記第一導電体及び前記第二導電体の周囲に設けられる壁状絶縁体であり、化学感覚能センサ用参照電極は前記壁状絶縁体により被測定対象物との接触領域として電解漏洩防止層のみを残し、作用電極は被測定対象物との接触領域として前記脂質高分子膜のみを残すように構成されることを特徴とする化学感覚能センサチップを提供する。
【0018】
(12)本発明は、前記壁状絶縁体が感光性ガラスを露光し、熱処理後に酸処理して形成されたものであることを特徴とする化学感覚能センサチップを提供する。
【0019】
(13)本発明は、(9)から(12)のいずれか一の化学感覚能センサチップを有する測定プローブと、前記測定プローブの化学感覚能センサチップの参照電極から電位値を取得する参照電極電位値取得部と、前記測定プローブの一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得部と、前記作用電極電位値取得部で取得されたそれぞれの作用電極ごとの電位値と、参照電極電位取得部にて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得部と、差分電位値取得部にて取得された差分電位値を作用電極ごとに出力し、また作用電極電位値に基づいて得られる差分電位値パターンを出力する差分電位値出力部とを有する化学感覚能センサ装置を提供する。
【0020】
(14)本発明は、前記化学感覚能センサ装置の構成に加えて、既知の化学物質によるそれぞれの作用電極ごとの既知差分電位値パターンを蓄積する蓄積部と、前記差分電位値出力部から出力される作用電極の電位差値パターンと前記蓄積部に保存された既知差分電位値パターンとを比較する比較部と、前記比較部での比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する判定部とを有する化学感覚能センサ装置を提供する。
【0021】
(15)本発明は、(13)又は(14)の化学感覚能センサ装置の構成に加えて、前記測定プローブが(9)から(12)のいずれかの化学感覚能センサチップを着脱可能な着脱部を有する化学感覚能センサ装置を提供する。
【0022】
(16)本発明は、前記測定プローブの一以上の作用電極に配置される脂質高分子膜が被測定対象物によって一以上の作用電極に発生する複数の電位値からなるパターンが、被測定対象物である甘味溶液、塩味溶液、酸味溶液、旨味溶液、苦味溶液により異なるパターンとする脂質高分子膜であることを特徴とする化学感覚能センサ装置を提供する。
【0023】
(17)本発明は、(9)から(12)のいずれか一の化学感覚能センサチップを有する測定プローブにおいて、化学感覚能センサチップの参照電極から電位値を取得する参照電極電位値取得ステップと、前記測定プローブの一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得ステップと、前記作用電極電位値取得ステップで取得された作用電極ごとの電位値と、参照電極電位取得ステップにて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得ステップと差分電位値取得ステップにて取得された差分電位値を作用電極ごとに出力する差分電位値出力ステップと、
を有する化学感覚能センサシステムの測定方法を提供する。
【0024】
(18)本発明は、前記差分電位値出力ステップ後に、既知の化学物質による作用電極ごとの既知差分電位値を蓄積する蓄積ステップと、前記差分電位値出力ステップから出力される作用電極ごとの電位差値パターンと前記蓄積ステップに保存された既知差分電位値パターンとを比較する比較ステップと、前記比較ステップでの比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する判定ステップとをさらに有する化学感覚能センサシステムの測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の化学感覚能センサ用参照電極によれば、従来の液膜型参照電極の内部液を固相化することで参照電極を小型化することができる。
【0026】
本発明の化学感覚能センサチップによれば、支持体上で参照電極と作用電極の一体化、さらにこれらの電極の集積化が可能となる。また、それによって化学感覚能センサ部の小型化、軽量化が可能となる。また、化学感覚能センサ部の大量生産も可能なことから化学感覚能センサ装置全体の低廉化にも繋がる。
【0027】
本発明の化学感覚能センサ装置によれば、本発明の化学感覚能センサチップを用いることで携帯性の向上、測定サンプルの低減、低廉化、及び取扱いと測定方法を簡便化することができる。
【0028】
本発明の化学感覚能センサシステムの測定方法によれば、測定方法の簡便化することができる。
【0029】
本発明の化学感覚能センサ装置、及び化学感覚能センサシステムの測定方法によれば、低廉化、測定方法の簡便化が向上することで一般ユーザが気軽に利用できるようになる。それによって化学感覚能センサ装置の普及を促進できる。さらに、当該化学感覚能センサ装置で検出されるデータベースを充実させることができ、食品における味の品質管理を厳密に行う事も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、各発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる様態で実施しうる。
【0031】
なお、実施形態1は、主に請求項1から8に関する。実施形態2は、主に請求項9から12に関する。実施形態3は、主に請求項13、及び15から17に関する。実施形態4は、主に請求項14から16、及び18に関する。
【0032】
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要> 実施形態1について説明する。本実施形態は、導電体と、異なる性質を有する複数の層から構成される固相の化学感覚能センサ用参照電極に関する。当該複数の層は、湿潤層、電荷防止層、及び電解液漏洩防止層を有する。本化学感覚能センサ用参照電極は、当該電極を構成する湿潤層が、従来の液膜型イオン選択性電極装置の参照電極における内部溶液と同様の機能を果たし、かつ固相であることを特徴とする。
【0033】
<実施形態1:構成> 図1のAは本実施形態の構成の一例である。この図に示すように、本実施形態の化学感覚能センサ用参照電極(0100)は、その構成として第一導電体(0101)と、湿潤層(0102)と、電荷交換防止層(0103)と、電解液漏洩防止層(0104)を有する。以下、各構成について詳細に説明する。
【0034】
「化学感覚能センサ用参照電極」(0100)は、従来の液膜型イオン選択性電極装置の参照電極と同様に、被測定対象物との接触によって測定の基準となる電位を発生するように構成されている。当該化学感覚能センサ用参照電極の形状は、前記のような積層構造をなし、かつ電解液漏洩防止層のみが被測定対象物と接触可能であれば、特に限定はしない。例えば、図1の化学感覚能センサ用参照電極の断面図において、Aのように周囲を後述する支持体(0105)で囲まれた形状であってもよいし、Bのように支持体に一面のみが接した電解液漏洩防止層を最外層とする半円状のような形状であってもよいし、Cのように電解液漏洩防止層を最外層とし支持体を必要としない形状であってもよい。
【0035】
「第一導電体」(0101)は、導電体によって構成される。導電体の材質は、電子導電体、イオン導電体、又は電子・イオン混合導電体のいずれであってもよいが、加工処理の点を考慮すれば電子導電体が好ましい。電子導電体の場合には、例えば、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、銅(Cu)、銀(以下Agとする。)、白金(Pt)、金(Au)等の金属や炭素(C)のいずれであってもよい。Ag、又は銀・塩化銀(以下Ag/AgClとする。)は、液膜型イオン選択性電極装置の参照電極で一般的な配線材として使用されており、入手が容易なことからも好ましい。特に、Ag/AgClはAg表面に塩化銀(以下AgClとする。)を生成、若しくは付着させたもので当該第一導電体がAgから構成される場合の分極現象を抑制できることから便利である。当該第一導電体は配線の端末部であり、化学感覚能センサ装置において化学感覚能センサ用参照電極で取得される電位値を電気信号として他の部へ伝達する機能を有する。
【0036】
「湿潤層」(0102)は、主に電解液と湿潤材とから成り、前記第一導電体上に構成される。当該湿潤層は前記第一導電体に直接接するように形成されることが好ましい。また、当該湿潤層の厚さは機能上、及び電解液の乾燥を抑制する上で50〜450μmの範囲内で構成されることが好ましい。当該湿潤層の機能は、湿潤材に保持された電解液と前記第一導電体との間で電荷交換を行うことである。すなわち、当該湿潤層は、固相でありながら従来液相であった液膜型参照電極の内部溶液と同等の機能を果たすことができる。
【0037】
「電解液」は、水等の溶媒に電解質が溶解することで導電性を有する液体である。当該電解液を構成する電解質の種類は特に限定されないが、塩化カリウム(以下KClとする。)溶液であれば特に好ましい。これは塩化カリウムを構成する陽イオン(カリウムイオン)と陰イオン(塩素イオン)の輸率がほぼ等しいことから、湿潤層内に局部的電池が発生しにくいためである。ただし、陽イオンと陰イオンの輸率をアンバランスにすることで電荷交換の感度を調節できる場合には必ずしも輸率をほぼ等しくする必要はない。また、前記第一導電体の一部が金属によって構成される場合には、KClと当該金属の金属塩との混合溶液であることが好ましい。例えば、第一導電体が前記Ag/AgClで構成される場合の電解液は、KClとAgClの混合溶液であることが好ましい。これは、Ag/AgCl表面のAgのイオン化による電極の消耗を防止し、寿命を延ばすためである。当該電解液における電解質の濃度は特に限定されない。好ましくは当該電解質が前記湿潤層に保持されたときに析出しない最大の濃度である。当該最大濃度は電解質の溶解度、又は後述の湿潤材の材質に応じて適宜調整すれば良い。例えば、湿潤層に含まれる電解液がKCl溶液の場合は約1.7M程度となる。また、電解液にグリセリン(glycerin)を添加してもよい。グリセリンは保水性が高く蒸発しにくい性質を有することから、これを添加することで電解質の水分蒸発を抑制することができる。グリセリンの添加量は、電解液容量の5%から50%、好ましくは10%から40%、さらに好ましくは15%から35%の範囲内である。当該電解液の機能は、その導電性によって前記第一導電体との間で電荷交換をすることである。
【0038】
「湿潤材」は、前記電解質を保持し、かつマトリクスとしての構造を有する物質である。当該湿潤材の材質は、前記電解液を保持可能な材質であれば特に限定されない。例えば、スポンジのような多孔質体、綿やパルプのような毛細管構造を有する繊維の集合体、又は高分子ポリマー等が該当する。加圧しても電解液が容易に流出しない点や多量の電解液を保持できる点を考慮した場合、高分子ポリマーが好ましい。
【0039】
本発明の「高分子ポリマー」は、網目構造を有し、多量の電解液を保持できる親水性の重合体である。具体的にはポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(poly−hydroxyethyl methacrylate:以下pHEMAとする。)、ポリアクリル酸塩(poly−acrylate)、ポリアクリルアミド(poly−acrylamide)、コンニャクマンナン(konnyaku−mannan)のような多糖類高分子ポリマー、又はゼラチンゼリー(gelatin−jelly)のようなゲル化タンパク質等が該当する。これらの高分子ポリマーは、各モノマーに前記電解液を加えて重合させることで電解液を保持することが可能となる。高分子ポリマーと電解液との混合比は、ある分量の高分子ポリマーにおける水分保持限界容量(飽和水分量)を100とする場合、電解液の容量が80以上となるように混合することが好ましい。高分子ポリマーの種類により保持可能な水分量が変わる為、使用する高分子ポリマーの種類に応じて電解液の容量を適宜変えればよい。また、この時、電解液には前記グリセリンを添加することが好ましい。当該高分子ポリマーは、電解液を保持させることで重合してハイドロゲルを形成する。
【0040】
「電荷交換防止層」(0103)は、前記湿潤層に積層するように構成される。当該電荷交換防止層は湿潤層に直接接するように構成されることが好ましい。当該電荷交換防止層の機能は、前記湿潤層に保持された電解液中のイオンが前記外部イオン、すなわち被測定対象物内に存在するイオンと直接的な電荷交換することを防止する緩衝層として機能する。当該電荷交換防止層の材質は、前記機能を有する材質であれば、特に限定はされない。例えば、高分子膜材に可塑剤を混合した材質であってもよい。また、当該電荷交換防止層の厚さは機能上10〜200μmの範囲内で構成されることが好ましい。
【0041】
「高分子膜材」は、可塑剤を混合して電荷交換防止層として使用する場合の支持部材として構成される。当該高分子膜材は、液膜型イオン選択性電極等で使用される公知の高分子膜材料(特許文献1参照)であって、それ自身がイオン交換性を有さないものを使用すればよく、その種類に関しては特に限定はしない。また、当該高分子膜材は液膜型イオン選択性電極の高分子膜材料と異なりイオノフォア(イオン輸送体)を担持していない必要がある。具体的には、ポリ塩化ビニル(以下PVCとする。)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリサルフォン(PSF)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリビニルアルコール(PVA)等のプラスティックや、漆のような天然樹脂等が該当する。中でもPVCは入手が容易な上に、ニトロベンゼンやテトラヒドロフラン(以下THFとする。)、シクロヘキサノン等の溶媒で容易に溶け、後述の可塑剤との混合比によって軟化、硬化を調節し易い等の利点がある。そのような理由からPVCは液膜型イオン選択性電極で最も一般的に使用されている高分子膜材料であり、当該高分子膜材としても好ましい。
【0042】
「可塑剤」は、前記高分子膜材を可塑化できる物質である。当該可塑剤の分子は極性領域と非極性領域を有する構造を持つ。極性領域が高分子膜材の分子と電気的に結びつき、また非極性領域が高分子膜材の分子間距離を広げることで高分子膜材の軟性が保たれる。一般的にはエステル化合物やエーテル化合物が多用されるが、可塑化の性質を有する物質であれば特に限定はしない。具体的には、2−ニトロフェニルオクチルエーテル(以下NPOEとする。)、4−ニトロフェニルフェニルエーテル(NPPE)、リン酸ジオクチル(以下DOPとする)、リン酸ジ−n−オクチルフェニル(以下DOPPとする。)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、セバシン酸ジブチル(DBS)、リン酸トリクレシル(TCP)等が該当する。可塑剤の種類は、目的とするイオン選択性と使用する前記高分子膜材に対する相溶性、可塑化効率、低移行性、低揮発性等に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
当該化学感覚能センサ用参照電極における電荷交換防止層の作製は、例えば、前記高分子膜材を溶媒で溶解後、可塑剤を加えて混合したものを前記湿潤層上に塗布する。続いて、風乾等により溶剤を除去して前記高分子膜材を固化させることで目的とする層を形成してもよい。また、湿潤層とは独立に前記と同様の方法で層を形成させた後、湿潤層に積層するように載置してもよい。
【0044】
「電解液漏洩防止層」(0104)は、前記電荷交換防止層に積層するように構成される。当該電解液漏洩防止層は電荷交換防止層に直接接するように構成されることが好ましい。また、当該電解液漏洩防止層は被測定対象物と直接接するように構成される。ただし、後述するように前記電荷交換防止層と当該電荷漏洩防止層との機能を併せ持つ層の場合にはこの限りではない。当該電解液漏洩防止層の材質は、前記湿潤層に保持された電解液が外部に漏洩することを防止できる材質、すなわち防水性素材であれば特に限定されない。例えば、ニトロセルロース(cellulose nitorate:以下CNとする。)のような逆浸透膜であってもよいし、ナフィオン(Nafion:デュポン社製)のようなイオン交換膜であってもよい。当該電解液漏洩防止層の厚さはその機能を果たし得る範囲内では薄いほどよいが、機械的な強度等を考慮した場合、1〜100μmの範囲内で構成することが好ましい。当該電解質漏洩防止層の機能は、前記湿潤層内の電解液が電荷交換防止層を介して外部に漏洩することを防ぐことである。
【0045】
当該化学感覚能センサ用参照電極における電解質漏洩防止層の作製は、例えば、CNであれば溶媒で溶解したものを前記電荷交換防止層に塗布した後、風乾等によって溶媒を除去して固化させることで形成してもよい。また、ナフィオンのように膜として既に形成されたものを使用する場合であれば、適当なサイズの電解質漏洩防止層を前記電荷交換防止層上に貼り付けてもよい。
【0046】
本発明の化学感覚能センサ用参照電極は、前記電荷交換防止層と前記電解液漏洩防止層の2層の働きによって湿潤層内の電解液が外部に漏洩と、外部イオンの湿潤層内への流出入が防止されている。したがって、当該化学感覚能センサ用参照電極において電荷交換防止層と電解液漏洩防止層の2層の機能を有する層を使用した場合には、前記電荷交換防止層と前記電解液漏洩防止層は、当該2層の機能を有する1層に置き換えることができる。
例えば、電荷交換防止層が電解液漏洩防止層と同等の機能を併せ持つ場合等が該当する。具体的には、前記電荷交換防止層が高分子膜材と可塑剤から構成される場合、高分子膜材に混合する可塑剤の量を減じ、撹拌等により均質化した場合等が該当する。このような電荷交換防止層では高分子膜材の分子間距離が狭まる結果、電解液の漏洩を防止する機能を同時に持ち得ることが可能となる。このように2層の機能を有する1層に置き換えられた場合には、当該置き換えられた1層のみが被測定対象物と接触可能となる。すなわち、前記例の場合には電荷交換防止層が被測定対象物と接触可能となる。なお、ここで言う「層」とは、均質の同一材料から構成される重なりをなすものの一つを意味する。
【0047】
<実施形態1:効果> 本実施形態の化学感覚能センサ用参照電極によれば、従来の液膜型参照電極の内部溶液を固相化した湿潤層を設け、さらに湿潤層と外部との電荷交換を防止する層とフィルタリングとして機能する層を設けた積層構造にすることで、参照電極の小型化が可能となる。また、それによって携帯性、測定の簡易性を向上させることもできる。
【0048】
<<実施形態2>>
<実施形態2:概要> 実施形態2について説明する。本実施形態は、一の支持体上に
作用電極と、前記実施形態1の化学感覚能センサ用参照電極とが共に形成された一体型の化学感覚能センサチップに関する。両電極は一の支持体上にそれぞれ少なくとも一以上形成され、各電極は隔離部によって電気的に隔離されていることを特徴とする。
【0049】
図2は、本実施形態の化学感覚能センサチップの一例を示したものである。図2で示す化学感覚能センサチップ(0200)は、ガラス基板(0201)を支持体とする小指よりも小さいサイズの化学感覚能センサチップである。一の化学感覚能センサ用参照電極(0203)と複数の作用電極(0202)が当該ガラス基板の一面側の端部周辺に形成されたスリット状のチャネル(0204)内に形成され、各電極はガラスの隔壁部(0205)により仕切られている。当該ガラス基板の他方の端部には、各電極内の第一導電体、又は第二導電体に連結された接続端子(0206)が露出している。
【0050】
<実施形態2:構成> 図3は本実施形態の化学感覚能センサチップの構成例であり、当該化学感覚能センサチップを構成する2種の電極面に対して垂直に切断した場合の断面図である。この図に示すように、本実施形態の「化学感覚能センサチップ」(0300)は、支持体(0301)と、少なくとも一以上の作用電極(0302)と、化学感覚能センサ用参照電極(0303)と、隔離部(0304)とを有する。また、前記作用電極(0302)は第二導電体(0305)と、脂質高分子膜(0306)とを有する。なお、図3では作用電極と、化学感覚能センサ用参照電極の厚さを等しく示しているが、各電極の最適な厚さはそれを構成する要素等により変化するため、必ずしも等しくする必要はない。以下、各構成について詳細に説明する。
【0051】
「支持体」(0301)は、前記作用電極と化学感覚能センサ用参照電極を形成する基盤として構成される。当該支持体の材質は絶縁体で、かつ耐水性であれば特に限定はしない。具体的には、ガラス、プラスティック、合成ゴム、セラミックス、又は耐水処理した紙や木材等が該当する。ただし、当該支持体が複合材料から構成される場合には、最外部が耐水性の絶縁体で被覆されていれば、導電体を有していてもよい。例えば、内部が絶縁体と導電体からなる積層構造を有し、最外部が耐水性の絶縁体で構成される多層基板等が該当する。当該支持体の形状は、前記作用電極、及び前記化学感覚能センサ用参照電極を形成可能な形状であれば特に限定されない。例えば、図2に示すように板状の基板(0201)であってもよいし、図4に示すような球状(A)、立方方形状(B)、カプセル状(C)、円錐状(D)、角錐状(E)、又は不定形状等であってもよい。なお、0401は内部に各電極を形成することができるチャネル(溝)を示し、0402は接続端子を示す。
【0052】
「作用電極」(0302)は、主に第二導電体と脂質高分子膜とから構成され、前記支持体上に少なくとも一以上形成される。
【0053】
「第二導電体」(0305)は、作用電極における固体電極であり、導電体によって構成される。その材質、機能については前記第一導電体(0101)と同様であることから、ここではその説明を省略する。当該第二導電体の材質と前記第一導電体の材質は、同一であることが好ましい。
【0054】
「脂質高分子膜」(0306)は、脂質性分子を高分子支持部材に吸着、若しくは混合させた膜であり、第二導電体との間で電荷交換可能なように構成される。当該脂質高分子膜は液膜型イオン選択性電極で使用される公知の脂質高分子膜を用いてもよい(特許文献1参照)。当該脂質高分子膜を構成する成分の種類は、被測定対象物に応じて脂質高分子膜を適宜選択すれば、特に限定はしない。また、当該脂質高分子膜の作製方法に関しても公知の脂質高分子膜の作製方法に準じてよい。当該脂質高分子膜は主要な構成成分として脂質性分子、可塑剤、高分子支持部材を有するが、各構成成分の混合比率や混合方法はそれぞれの種類によって異なるため、公知技術(特許文献1参照)に従って適宜調節すればよい。例えば、脂質性分子をトリオクチルメチルアンモニウムクロライド(tri−octyl methyl ammonium cloride:以下TOMAとする。)、可塑剤をDOPP、高分子支持部材をPVCとする場合には、それぞれを重量比で1:3:2程度で混合すればよい。作用電極を作製する場合には、例えば、THFで溶解したPVCにTOMAとDOPPを添加して混合した後、第二導電体上に塗布してTHFを揮散させて固化して形成させてもよいし、あるいは別個に膜状に広げてTHFを揮散させて固化した後、第二導電体上に載置することで形成させてもよい。
【0055】
当該脂質高分子膜を構成する成分のうち、高分子支持部材及び可塑剤は、前記化学感覚能センサ用参照電極の電荷交換防止層における高分子膜材及び可塑剤とそれぞれ同一のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。
【0056】
一の化学感覚能センサチップ上に作用電極が二以上ある場合には、各作用電極は一の化学物質に対して他の作用電極と異なる応答性を示す脂質高分子膜を有することが好ましい。ここで言う「化学物質」とは、被測定対象物に含有され、当該化学感覚能センサ装置で測定可能な物質である。例えば、金属塩、アミノ酸塩、糖、酸、アルカリ等の水溶性物質や脂質等が該当する。
【0057】
なお、作用電極は脂質高分子膜が第二導電体に直接接するように形成されているが、当該脂質高分子膜と当該第二導電体との間に緩衝層を有していてもよい。当該緩衝層の構成は前記化学感覚能センサ用参照電極における湿潤層の構成と同様でよい。当該緩衝層の使用により、第二導電体の周囲のイオン濃度を一定にできる他、被測定対象物中のイオンが脂質高分子膜を介して第二導電体に到達することで生じる第二導電体と脂質高分子膜との間の電位の変動を抑制できるので便利である。
【0058】
当該作用電極の機能は、従来の液膜型イオン選択性電極と同様の機能を有する。即ち、被測定対象物との接触によって作用電極電位を発生することである。当該作用電極電位は作用電極を構成する脂質高分子膜を構成する成分によって異なる。
【0059】
「化学感覚能センサ用参照電極」(0303)は、一の前記支持体上に少なくとも一以上形成される前記実施形態1に記載の化学感覚能センサ用参照電極である。当該参照電極は、一の支持体上に一つ存在すればよいが、一の支持体上に二以上存在していても構わない。その場合は、各参照電極のそれぞれが同一の構成を有するものであってもよいし、異なる構成を有するものであってもよい。
【0060】
「隔離部」(0304)は、絶縁体から構成される。当該隔離部の機能は、化学感覚能センサチップにおいて各電極を電気的に隔離することである。当該隔離部は、前記支持体(0301)と一体成型されたものであってもよいし、支持体とは独立して成型された後に接着等によって後に一体化されたものであってもよい。当該隔離部を支持体と独立して成型する場合には、その材質は絶縁体であれば特に限定しない。例えば、支持体と同一材質であってもよいし、また異なる材質であってもよい。
【0061】
当該隔離部の形状は、各電極を電気的に隔離可能な形状であれば、特に限定しない。例えば、前記導電体の周囲に壁状絶縁体を設けるように隔離部を形成してもよい。「壁状絶縁体」とは、高さを有する絶縁体であって、第一導電体、及び第二導電体の周囲を取り巻くように構成される。当該壁状絶縁体により各導電体周囲にはチャネルが形成される。これにより当該チャネル内に化学感覚能センサ用参照電極の各層や作用電極の脂質高分子膜を積層することができる。その際には、各電極を機能的に隔離するために化学感覚能センサ用参照電極では被測定対象物との接触領域として前記電解漏洩防止層のみを残すように構成し、また作用電極では被測定対象物との接触領域として前記脂質高分子膜のみを残すように構成されることが望ましい。すなわち、参照電極用のチャネル内には電解漏洩防止層を最上層として化学感覚能センサ用参照電極の各層が積層され、他層は外部に露出しないように構成されることが望ましい。また作用電極用のチャネル内には脂質高分子膜のみが外部に露出するように構成されることが望ましい。当該壁状絶縁体の高さ、すなわちチャネルの深さは、参照電極の各層や作用電極の脂質高分子膜が機能上十分な厚さを確保するために100μmから1mmの範囲内にあることが好ましい。
【0062】
当該隔離部が壁状絶縁体を設けるように形成される場合、前記壁状絶縁体は感光性ガラスを露光して熱処理後に酸処理して形成されたものであってもよい。「感光性ガラス」は、石英ガラス中に少量の感光性金属と増感剤を加えたものである。当該感光性金属には銀や金等が、また当該増感剤には塩化セリウム等がある。感光性ガラスの性質は、紫外線露光をすることで露光された部分の金属イオンが金属原子に変わる。それに約500℃で熱処理を加えることで金属コロイドが生成され、当該金属コロイドが結晶核となってメタケイ酸リチウム結晶が析出するという性質を有する。このメタケイ酸リチウム結晶はフッ化水素(Hydorogen fluoride:以下HFとする。)溶液等の酸処理で容易に溶解できることから当該感光性ガラスはウェットエッチングが可能である。また、当該感光性ガラスは垂直方向に対して高いエッチングレート選択性を有していることから、当該エッチングの処理時間を変化させることでチャネル幅を必要以上に広げることなくチャネルの深さを調節し、正確な化学切削を行うことができる。これらの性質を利用して前記壁状絶縁体を形成させてもよい。
【0063】
<実施形態2:効果> 本発明の化学感覚能センサチップによれば、参照電極と作用電極を支持体上に一体化して形成できる。また、一の化学感覚能センサチップの異なる応答性を示す作用電極によって、被測定対象物を同時測定することが可能となる。さらに、支持体上の電極の集積化が可能となることから、化学感覚能センサ部の小型化、軽量化も可能となる。本実施形態の化学感覚能センサチップは大量生産化が可能であることから化学感覚能センサ装置全体の低廉化にも繋がる。また、支持体をプラスティックや紙等にして化学感覚能センサチップをディスポーザブル化することで、洗浄の手間を省くことができる。さらに、化学感覚能センサチップは使用後に当該チップを洗浄しても微量に残留する前被測定対象物が次の被測定対象物の測定に影響する可能性がある。しかし、当該化学感覚能センサチップをディスポーザブル化することで、その問題を解消し被測定対象物に測定結果の精度を上げることができる。
【0064】
<<実施形態3>>
<実施形態3:概要> 実施形態3について説明する。本実施形態は、前記実施形態2の化学感覚能センサチップを有する化学感覚能センサ装置に関する。当該装置は、測定プローブを被測定対象物に接触させることで、化学感覚能センサ用参照電極から電位値を取得する参照電極電位取得部と、複数の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得部と作用電極電位値取得部で取得された電位値と、参照電極電位取得部にて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得部と、差分電位値取得部にて取得された差分電位値をそれぞれの作用電極ごとに出力する差分電位値出力部とを有することを特徴とする。また、当該装置は、測定プローブの化学感覚能センサチップが、着脱部によって着脱可能であることを特徴とする。
【0065】
図5は、本実施形態の化学感覚能センサ装置の一例を示したものである。図5で示す化学感覚能センサ装置(0500)は、マイクロピペットの形状を模したポータブルタイプの化学感覚能センサ装置である。先端部分(0501)が測定プローブを構成しており、実施形態2の化学感覚能センサチップ(0502)が着脱可能なように装着されている。グリップ部分(0503)には参照電極電位取得部、作用電極電位取得部、差分電位値取得部、及び差分電位値出力部が内蔵されている。先端部分の測定プローブを被測定対象物に浸漬することで、電極から発生する参照電極電位値と作用電極電位値を取得し、それらの電位値や差分電位値、また差分電位値パターンを出力する。
当該化学感覚能センサ装置で得られた差分電位値、また差分電位値パターンは、例えばグリップ部等に内蔵された液晶モニタ(0504)等の出力部で目視可能なように構成してもよい。また、当該装置にUSB端子(0505)等の接続端子を設けてケーブルを介してPC(0506)、PDA、携帯電話等の外部電子機器の表示部(0507)等に出力して目視可能なように構成してもよい。さらに、SDカード(0508)等のリムーバブルメモリに記憶させた後、前記外部電子機器に当該リムーバブルメモリを接続して表示部等に出力して目視可能なように構成してもよい。また、当該装置に無線送出部を設けて無線(0509)にて送出し、前記外部電子機器の表示部等で目視可能にしてもよい。さらに、前記外部電子機器がプリンターであれば、入力された差分電位値、また差分電位値パターンをプリントアウトすることによって目視可能にしてもよい。
【0066】
<実施形態3:構成> 図6は本実施形態の構成の一例である。この図に示すように、本実施形態の化学感覚能センサ装置(0600)は、その構成として測定プローブ(0601)と、参照電極電位値取得部(0602)と、作用電極電位値取得部(0603)と、差分電位値取得部(0604)と、差分電位値出力部(0605)と、を有する。また、着脱部(0606)を有していてもよい。以下、各構成について詳細に説明する。
【0067】
「測定プローブ」(0601)は、前記実施形態2の化学感覚能センサチップを一以上有し、当該センサチップ上の電極が被測定対象物と接触可能なように構成されている。例えば、当該測定プローブの全部又は一部を被測定対象物である溶液中に直接浸すことで接触可能にしてもよいし、当該測定プローブの前記センサチップに被測定対象物である溶液を滴下することで当該センサチップ上の電極と接触可能にしてもよい。また、当該測定プローブは、必要な箇所が防水処理、又は耐水処理されていてもよい。さらに、当該測定プローブは、化学感覚能センサチップ上の各電極から発生する電位を後述の参照電極電位値取得部(0602)と作用電極電位値取得部(0603)とに出力可能なように構成されている。化学感覚能センサチップ上の各電極は空気中に晒し続けることで乾燥により劣化する可能性がある。したがって、測定プローブは化学感覚能センサチップの乾燥を防止可能なように構成されていてもよい。例えば、非測定時には測定プローブの全部又は一部に、密閉性の高い専用のキャップを取り付け可能なように構成されてもよいし、後述する基本溶液等を入れたケースに収納可能なように構成されてもよいし、また電極を気密性フィルムでシールできるように構成されてもよい。
【0068】
当該測定プローブの化学感覚能センサチップに作用電極が複数配置される場合には、各作用電極を構成する脂質高分子膜が異なる被測定対象物に対してそれぞれ異なる電位を発生するように構成されていることが好ましい。特に被測定対象物が甘味溶液、塩味溶液、酸味溶液、旨味溶液、苦味溶液である場合には当該複数の作用電極に発生する複数の電位値がそれぞれ異なる値を示すことが好ましい。例えば、図6のように測定プローブの化学感覚能センサチップに作用電極A、B、Cの3つの作用電極が配置される場合には、A、B、Cの作用電極を構成する脂質高分子膜の成分が異なるように構成すればよい。具体的には、脂質高分子膜の成分のうち高分子支持部材をいずれもPVCとした場合には、脂質性分子と可塑剤を作用電極Aはそれぞれリン酸ジデシルエステル(phosphoric acid di−n−decyl ester:以下2C10とする。)とDOPPで、作用電極Bはそれぞれテトラドデシルアンモニウムクロライド(tetra−dodecyl ammonium bromide:以下TDABとする。)とDOPPで、そして作用電極CはそれぞれTOMAとDOPPで構成すればよい。
【0069】
当該測定プローブは「着脱部」(0606)を有していてもよい。当該着脱部は測定プローブの全部、又は一部(前記化学感覚能センサチップ等)を着脱可能なように構成されている。例えば、化学感覚能センサチップのみが着脱可能な場合には、当該着脱部は測定プローブ内に当該化学感覚能センサチップを固定する固定部材と、当該チップの端子に接続可能な接続端子を有するように構成されていてもよい。また、当該着脱部は一の化学感覚能センサ装置に二以上あるように構成してもよい。
【0070】
「参照電極電位値取得部」(0602)は、化学感覚能センサチップ上の化学感覚能センサ用参照電極から参照電極電位値V0を取得し、後述の差分電位値取得部(0604)に出力可能なように構成されている。「参照電極電位値」とは、前記測定プローブを被測定対象物に接触させた時に化学感覚能センサ用参照電極で発生する電位の値である。
【0071】
「作用電極電位値取得部」(0603)は、化学感覚能センサチップ上の複数の作用電極のそれぞれから作用電極電位値Vi(iは自然数)を取得するように構成されている。「作用電極電位値」とは、前記測定プローブを被測定対象物に接触させた時に化学感覚能センサチップの複数の作用電極で発生する電位の値である。
【0072】
前記参照電極電位値取得部と前記作用電極電位値取得部は、取得したそれぞれの電位値を増幅して出力できるように構成されていてもよい。例えば、電位値の増幅であればバッファ増幅器をそれぞれの部に有していてもよい。また、当該二つの取得部は、取得したアナログ電位値、若しくは増幅した電位値を必要に応じてA/D変換して出力できるように構成されていてもよい。
【0073】
前記参照電極電位値取得部と前記作用電極電位値取得部で取得したそれぞれの電位値は、差分電位値取得部に出力されてもよいし、モニタ等に直接出力されてもよい。
【0074】
「差分電位値取得部」(0604)は、前記作用電極電位値取得部で取得されたそれぞれの作用電極電位値と参照電極電位取得部にて取得された電位値との差分値を取得するように構成されている。当該差分電位値は、各作用電極電位値から参照電極電位値を減じた値を基礎とするものであってもよいし、参照電極電位値から各作用電極電位値を減じた値を基礎とするものであってもよい。「基礎とする」とは、当該得られた値に対して定数を加減乗除すること等を意味する。図6を一例として説明する。測定プローブの作用電極A、B、Cから発生し、作用電極電位値取得部で取得されたそれぞれの作用電極電位値がV1、V2、V3であり、また化学感覚能センサ用参照電極から発生し、参照電極電位取得部で取得された参照電極がV0であるとする。この時、当該差分電位値取得部は、取得した作用電極電位値V1、V2、V3のそれぞれから参照電極電位値V0を減じた差分電位値ΔV1、ΔV2、ΔV3を取得する。すなわち、本例の場合、差分電位値はV1−V0=ΔV1、V2−V0=ΔV2、V3−V0=ΔV3として得られる。
【0075】
「差分電位値出力部」(0605)は、前記差分電位値取得部にて取得された差分電位値を取得し、それぞれの作用電極ごとに出力するように構成されている。また、それぞれの作用電極電位値に基づいて得られる差分電位値のパターンを「差分電位値パターン」として出力するようにも構成されている。当該差分電位値パターンは、例えば各作用電極ごとにそれぞれの差分電位値をプロットしたパターンであってもよいし、一の作用電極において、異なる濃度の同一被測定対象物から得られる作用電極電位値に基づいた濃度ごとの差分電位値をプロットしたパターンであってもよい。図6を一例として説明する。前記差分電位値取得部で得られた差分電位値ΔV1、ΔV2、ΔV3は、関連する作用電極と共に出力される。すなわち、図6では、各差分電位値は作用電極A=ΔV1、作用電極B=ΔV2、作用電極C=ΔV3として出力される。また、差分電位値出力部は、作用電極A・B・Cを横軸に、差分電位値を縦軸にして、各作用電極の差分電位値ΔV1・ΔV2・ΔV3をそれぞれプロットして線で結んだグラフパターンを差分電位値パターンとして出力することもできる。
【0076】
また、差分電位値の精度を高める上で、予め測定プローブを基本溶液に浸漬し、当該基本溶液における参照電極電位値bV0と作用電極電位値bVi(iは自然数)を取得しておいてもよい。この場合、差分電位値ΔViは、基本溶液への浸漬に続いて、当該測定プローブを被測定対象物に接触させることで取得される参照電極電位値V0と作用電極電位値Vi、並びに前記bV0とbViから取得される。例えば、差分電位値ΔViは、ΔVi=(Vi−V0)−(bVi−bV0)により得られてもよい。すなわち、基準溶液で得られる差分電位値を被測定対象物で得られる差分電位値から減じた値を、目的の差分電位値としてもよい。
【0077】
基本溶液は当該化学感覚能センサチップの各電極の状態を安定的に保持し得る溶液であれば特に限定はしないが、望ましくは30mM KCl溶液と0.3mM 酒石酸を混合した溶液である。
【0078】
<実施形態3:処理の流れ> 本実施形態における化学感覚能センサシステムの処理の流れについて説明する。図7は実施形態3での処理の流れの一例を示したものである。この図で示すように、まず、前記実施形態2に記載の化学感覚能センサチップを有する測定プローブを被測定対象物に接触させることにより、化学感覚能センサチップ上に形成された参照電極から発生した電位値を取得する(S0701:参照電極電位値取得ステップ)。次に、前記化学感覚能センサチップ上に形成された一以上の作用電極のそれぞれから発生した電位値を取得する(S0702:作用電極電位値取得ステップ)。ここで、参照電極電位値取得ステップと作用電極電位値取得ステップの処理の順序は問わない。すなわち、いずれのステップが先に処理されても構わない。また、取得した電位値が全体的に比較して低い場合には各電位値を取得後、増幅器により増幅するステップを加えてもよい。続いて、前記作用電極電位値取得ステップ(S0702)で取得されたそれぞれの作用電極の電位値と、前記参照電極電位値取得ステップ(S0701)にて取得された電位値との差分値を取得する(S0703:差分電位値取得ステップ)。最後に、前記差分電位値取得ステップ(S0703)にて取得された差分電位値をそれぞれの作用電極ごとに出力する(S0704:差分電位値出力ステップ)。本実施形態における化学感覚能センサシステムでは、以上の主たるステップにより、被測定対象物の有する化学感覚能情報を測定する。
【0079】
以上の処理は、計算機に実行させるためのプログラムで実行することができ、また、このプログラムを計算機によって読み取り可能な記録媒体に記録することができる(本明細書の全体を通して同様である。)。
<実施形態3:効果>
【0080】
本発明の化学感覚能センサ装置によれば、本発明の化学感覚能センサチップを用いることで従来デスクトップサイズであったセンサ部分を小型化できる。また、当該装置の携帯性を向上させ、測定サンプルの必要量を低減することもできる。さらに、着脱部により測定プローブや化学感覚能センサチップが着脱可能なことから、測定後のセンサ部分の洗浄、被測定対象物に応じた化学感覚能センサチップへの交換等を容易に行うことができる。しかも、化学感覚能センサチップ自体の低廉化により、当該装置の低廉化も可能となる。さらに、化学感覚能センサ装置を化学感覚能センサチップを埋設したICカード化することも可能となる。当該カードタイプの化学感覚能センサ装置は、ディスポーザブル化することで前記実施形態2の効果と同様にコンタミの影響のない精度の高い測定値を得ることもできる。
【0081】
<<実施形態4>>
<実施形態4:概要> 実施形態4について説明する。本実施形態は、前記実施形態3を基礎とし、測定によって取得される差分電位値と蓄積部に蓄積されている既知差分電位値とを比較し、その比較結果から測定された被測定対象物の有する化学特性を判定することができる化学感覚能センサ装置に関する。
【0082】
<実施形態4:構成> 図8は本実施形態の構成の一例である。この図に示すように、本実施形態の化学感覚能センサ装置(0800)の構成は、前記実施形態3の構成を基本とする。すなわち測定プローブ(0801)と、参照電極電位値取得部(0802)と、作用電極電位値取得部(0803)と、差分電位値取得部(0804)と、差分電位値出力部(0805)を有し、さらに蓄積部(0806)と、比較部(0807)と、判断部(0808)を有する。また、着脱部(0809)を有していてもよい。このうち差分電位値出力部(0805)までと着脱部(0809)に関しては前記実施形態3と同様であることからその説明は省略し、ここでは本実施形態に特徴的な蓄積部(0806)と、比較部(0807)と、判断部(0808)の各構成について以下で詳細に説明する。
【0083】
「蓄積部」(0806)は、前記差分電位値出力部から既知の化学物質により各作用電極ごとに得られる既知差分電位値パターンを取得して蓄積するように構成されている。「既知の化学物質」は、当該物質の有する特有の性質が明らかな化学物質である。例えば、弱酸性で酸味を与える性質を有することが明らかな酢酸(CH3COOH)、電解質でイオン化により塩味を与える性質を有することが明らかな塩化ナトリウム(NaCl)、アミノ酸塩であり旨味を与える性質を有することが明らかなグルタミン酸ナトリウム、若しくはこれら既知の化学物質の組み合わせによる混合物質等が該当する。また、既知の化学物質は、当該化学感覚能センサ装置の判定部で判定された結果、既知となった化学物質であってもよい。「既知差分電位値パターン」とは、既知の化学物質より得られる差分電位値パターンである。当該既知差分電位値パターンは前記差分電位値出力部から出力される既知差分電位値パターンを取得できるように構成されている。また、判定部で既知となった化学物質の既知差分電位値パターンも取得できるように構成されている。蓄積する全ての既知差分電位値パターンを比較部に出力可能なように構成されていてもよい。被測定対象物の測定に際しては、予め既知の化学物質を測定して既知差分電位値パターンを当該蓄積部に蓄積するか、あるいは当該装置の蓄積部が接続端子等を介して、外部蓄積部(0809)から既知差分電位値パターンを取得するようにしておくことが好ましい。
【0084】
「比較部」(0807)は、前記差分電位値出力部から取得される差分電位値パターンと前記蓄積部に保存された既知差分電位値パターンとを比較するように構成されている。当該比較部における比較とは、被測定対象物の測定によって前記差分電位値出力部から取得される差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの比較である。例えば、被測定対象物から得られる差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの形状や座標値等が合致するか、合致しないが類似するか、全く異なるか等を比較する。差分電位値パターンと既知差分電位値パターンを比較する際に、直接比較する比較領域は同一の条件に基づいて取得されるパターンであることが望ましい。例えば、差分電位値パターンと既知差分電位値パターンが複数の作用電極から取得される場合には、当該比較領域内の作用電極の数や構成する脂質高分子膜は前記両パターン間で同一であることが好ましい。また、差分電位値パターンと既知差分電位値パターンが、作用電極を横軸に差分電位値を縦軸にしたグラフパターンとして取得される場合には、当該縦軸の差分電位値の桁数や横軸の作用電極数、およびその間隔も同一であることが好ましい。
【0085】
「判定部」(0808)」は、前記比較部での比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定可能なように構成されている。「化学特性」とは、被測定対象物に含有される化学物質特有の性質である。当該判定部における化学特性の判定基準は、化学物質の属するカテゴリーレベルであっても良いし、当該化学物質を特定するレベルであってもよい。例えば、判定基準が化学物質の属するカテゴリーレベルの場合には、被測定対象物が味物質であれば、塩味物質、甘味物質、酸味物質、旨味物質、又は苦味物質のいずれであるかを判定する。また、判定基準が化学物質を特定するレベルの場合には、被測定対象物が旨味物質であれば、それがグルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate:以下MSGとする。)であるか、イノシン酸ナトリウム(sodium inosinate)か、あるいは他の旨味物質であるか等のように当該化学物質を特定して判定する。当該判定部におけるこれらの判定は、前記比較部での被測定対象物から得られる差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの比較結果に基づいて以下のように行われても良い。例えば、被測定対象物から得られる差分電位値パターンと既知差分電位値パターンが合致するという比較結果の場合には、当該被測定対象物に含有される化学物質が当該既知差分電位値パターンを示す化学物質と同一の化学特性を有すると判定してもよい。また、差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの形状は合致しないが全部、又は一部が類似するという比較結果の場合には、当該被測定対象物に含有される化学物質が当該既知差分電位値パターンを示す化学物質と化学特性上関連性があるものと類推判定してもよい。さらに、差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの形状が全く異なる場合には、当該被測定対象物に含有される化学物質は前記蓄積部に差分電位値パターンが蓄積されていない化学物質であると判定してもよい。なお、本実施形態における判定部は、前記差分電位値パターンと前記既知差分電位値パターンの形状が同一であっても、両パターンが上下にずれている場合には、当該被測定対象物に含有される化学物質と当該既知差分電位値パターンを示す化学物質とは異なる化学物質であると判定する。
【0086】
<実施形態4:処理の流れ> 本実施形態における化学感覚能センサシステムの処理の流れについて説明する。図9は実施形態4での処理の流れの一例を示したものである。この図で示すように、本実施形態の処理の流れは、前記実施形態3の処理の流れを基本とする。すなわち、まず、測定プローブを被測定対象物に接触させることにより、参照電極電位値取得ステップ(S0901)で参照電極から電位値を取得する。次に、作用電極電位値取得ステップ(S0902)で一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する。実施形態3と同様に参照電極電位値取得ステップと作用電極電位値取得ステップの処理の順序は問わない。ここで、取得した電位値が全体的に比較して低い場合には各電位値を取得後、増幅器により増幅するステップを加えてもよい。続いて、差分電位値取得ステップ(S0903)で参照電極にて取得された電位値と、作用電極のそれぞれから取得された電位値との差分値を取得する。そして、差分電位値出力ステップ(S0904)で差分電位値をそれぞれの作用電極ごとに出力する。ここまでは、実施形態3の処理の流れと同様である。本実施形態では、続いて、前記差分電位値出力ステップ(S0904)から出力される各作用電極の電位差値と、既知の化学物質によるそれぞれの作用電極ごとの既知差分電位値とを比較する(S0905:比較ステップ)。最後に、当該比較ステップ(S0905)での比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する(S0906:判定ステップ)。本実施形態における化学感覚能センサシステムでは、以上の主たるステップにより、被測定対象物の有する化学感覚能情報を測定する。
【0087】
<実施形態4:効果>
【0088】
本発明の化学感覚能センサ装置、及び化学感覚能センサシステムの測定方法によれば、低廉化、測定方法の簡便化が向上することで一般ユーザへの化学感覚能センサ装置の普及を促進できる。それによって、当該化学感覚能センサ装置で検出されるデータベースを充実させることができ、食品における味の品質管理を厳密に行う事も可能となる。
【実施例1】
【0089】
以下の実施例1から5をもって本発明を具体的に説明する。ただし、以下の実施例は単に例示するのみであり、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0090】
<化学感覚能センサ用センサチップの作製>
実施形態1の化学感覚能センサ用参照電極を有する実施形態2の化学感覚能センサ用センサチップの作製の一例として支持体にガラス基板を使用した場合の作製方法を以下に示す。ガラス基板は13mmx38mmに切り分けたものを用いた。
【0091】
(1)導電体を配置したガラス基板の作製
図10に当該作製方法を図示する。まず、前記ガラス基板(1001)上に100nm厚のチタン層(1002)を電子ビーム蒸着によって蒸着させた。次に、チタン層上に400nm厚の銀層(1003)を同じ方法で蒸着した(A)。ここでチタン層を設けた理由は、銀はガラスとの接着性が悪いことからガラス基板上に銀層を固定する上でガラスと銀の両者に対して接着性の高いチタンを接着層とするためである。続いて、銀層上に100μm厚のネガ型フォトレジスト(OMR−83)(1004)をスピンコート法によって塗布した(B)。次に、電極パターンが描かれたフォトマスク(1005)を前記フォトレジスト層上に載置し、当該フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を紫外線露光(1006)した(C)。露光処理後、現像液によって洗浄(1007)することで露光された部位以外のフォトレジストは溶解除去される。これによって、電極パターンが基板上に現像された(D)。現像後、NH3とH2O2の1:1混合液を用いて露出した銀層とチタン層のウェットエッチング処理(1008)を行った(E)。その後、イソプロパノール(iso−propanol:IPA)によって残ったフォトレジストが洗浄除去(1009)された(F)。当該基板をKCl溶液中で0.5mA、10分間印加した。これによって、銀層が塩化されて銀/塩化銀層(1010)が形成される(G)。以上の手順をもって導電体を配置したガラス基板を作製した。
【0092】
(2)隔離部の作製
図11に当該作製法を図示する。本実施例では、隔離部に感光性ガラスを用いて、前記ガラス基板とは別個に隔離部を作製する方法を示す。まず、500μm厚の感光性ガラス(1101)を13mmX13mm四方に切り分けて(A)、前記電極パターンの全部、若しくは一部に合致、又はほぼ一致するパターンが描かれたフォトマスク(1102)を通して紫外線露光を行った(B)。次に、電気炉を用いて505℃で90分間、続いて535℃で2時間の熱処理を行った(C)。当該熱処理によって紫外線で露光された部位にメタケイ酸リチウム結晶(1103)が析出する(D)。その後、攪拌器を用いて当該結晶を5%HFによって溶解除去することでウェットエッチングを施した(E)。エッチングの時間は60分行った。この時間でチャネル幅の広げることなく当該感光性ガラスに貫通孔を開けることができる。以上の手順をもって隔離部を作製した。
【0093】
(3)化学感覚能センサ用チップ基板の作製
前記(2)の隔離部の形成を行った感光性ガラスに接着剤としてシリコーンを塗布し、前記(1)の導電体を配置したガラス基板上の導電体の配線パターンと隔離部のチャネルパターンがほぼ一致するように載置した(図11のF)。シリコーンの乾燥によりガラス基板上の各導電体は壁状絶縁体で構成されたチャネルを有することが可能となる。以上の手順をもって化学感覚能センサ用チップ基板を作製した。
【0094】
(4)化学感覚能センサ用参照電極の作製
まず、湿潤層の作製のためにHEMAモノマー混合液を調製した。当該HEMAモノマー混合液は、60%(w/v)HEMA、38%(w/v)エチレングリコール(ethylene glycol)、1%(w/v)アセトフェノン(demethoxy−2−phenylacethophenone:DMPA)、及び1%(w/v)ジメタクリル酸テトラエチレングリコール(tetra ethylene glycol dimethacrylate)を混合したもの100μlに、さらにグリセリン10μl、飽和KCl溶液50μl、並びに少量のAgCl粉末を加えて攪拌器で十分に混合したものである。調製したHEMAモノマー混合液を、マイクロピペット等を用いて参照電極用のチャネル内に充填した。これに約2分間、紫外線照射して重合化を行いpHEMAにした。当該pHEMAを一晩乾燥させたものを湿潤層とした。次に、電荷交換防止層の作製のためにTHFに溶解した50%(w/w)PVCと50%(w/w)NPOEの混合液を前記湿潤層の上に充填した。THFを乾燥除去してPVC/NPOEを固化させた後、再度、当該PVC/NPOE上に同じ処理を行った。THFを風乾等で除去して再び固化させることで形成される2重のPVC/NPOEを電荷交換防止層とした。最後に、電解液漏洩防止層の作製のためにエタノールで5%に調製したCN溶液を電荷効果防止層上に塗布した。これを乾燥してエタノールを除去することにより形成される層を電解液漏洩防止層とした。
【0095】
(5)作用電極の作製
作用電極の作製に際しては、まず脂質高分子膜の作製が必要である。当該脂質高分子膜を構成する脂質性分子としては、TOMA、TDAB、及び2C10の3種を選択した。また、これらの可塑剤としては、DOP、DOPP、テトラデシルアルコール(n−tetradecyl alcohol:以下TDAとする。)を選択した。さらに高分子支持部材としては、PVCを選択した。前記脂質性分子のいずれかひとつと、それに対応する可塑剤とPVCとをそれぞれ1:3:2の重量比でTHFに溶解し、攪拌子を用いて十分に混合した。調製した混合液を、マイクロピペット等を用いて作用電極用のチャネル内に充填した。THFを風乾等で除去して乾燥し、再び固化させることで形成される。500μmの厚さを有する隔離部は、第二導電体部の厚さを差し引いてもチャネル内に脂質高分子膜を満たすことで、測定に十分な膜厚を得ることができる。
【実施例2】
【0096】
<化学感覚能センサ用参照電極の電位安定性の確認実験>
(目的)本発明の化学感覚能センサ用参照電極が、従来の液膜型参照電極と同様に、一定濃度の被測定対象物に対して安定性と再現性の高い電位を発生できるかを測定時間を変化させて確認する。
【0097】
(実験方法)
・化学感覚能センサ用参照電極の作製
本実施例に使用する化学感覚能センサ用参照電極を、前記実施例1に記載した方法に基づいて作製した。以下に示す2種からなる8つの化学感覚能センサ用参照電極が一の化学感覚能センサチップ上に前記実施例1に記載した方法に従って作製された。なお、当該化学感覚能センサチップには化学感覚能センサ用参照電極のみを有し作用電極はない。
(1)湿潤層に電解液としてKClを導入した化学感覚能センサ用参照電極、即ち前記実施形態1と同一組成の化学感覚能センサ用参照電極を3つ(A、B、C)。
(2)湿潤層に電解質を導入せず水のみを導入した以外は前記実施形態1と同一組成であるコントロールとしての化学感覚能センサ用参照電極を5つ(D、E、F、G、H)。
【0098】
・測定方法
被測定対象物は1M KCl溶液とした。当該溶液中に実施形態3の化学感覚能センサ装置に装着された前記化学感覚能センサチップを浸漬し、当該センサチップの各化学感覚能センサ用参照電極から発生する電位の値を120分間参照電極電位値取得部にて取得した。得られた電位値は、増幅器であるオペアンプ(OPA129P)によって増幅された後、DAQ card 6036E (National Instrument)に入力されて外部電子機器であるPCへ送られた。当該PCに送られた電位値のデータは分析機器の制御、及び分析データの解析に用いられるソフトウェアであるLabVIEW7.0 software(National Instrument)により処理された。測定結果はPCのモニタ表示部、若しくはプリンターから得られた。
【0099】
(結果)図12に本実施例の結果を示す。湿潤層に電解液を導入していない前記(2)の化学感覚能センサ用参照電極は、120分間では全ての電極の電位値がいずれも全く一致しなかった。また、各電極内で発生する電位が非常に不安定で、当該時間内において一の電極で発生する電位の変動幅は、大きなものでは約200mVにも達していた。一方、湿潤層に電解液KClを導入した前記(1)の化学感覚能センサ用参照電極は、120分間ではA、B、Cのいずれの電極も約−150mV前後の安定した電位値を示した。当該時間内で一の電極から発生する電位の変動幅は約3mV程度であった。以上の結果から、電解質KClを導入した湿潤層を有する本発明の化学感覚能参照電極は、少なくとも120分間は発生する電位が安定していることが立証された。また、独立した各電極から発生した電位のパターンはほぼ一致していた。これは本発明の化学感覚能センサ用参照電極で得られる結果の再現性の高さを表している。よって、本発明の化学感覚能参照電極は、一定濃度の被測定対象物に対しては、従来の液膜型参照電極と同様の機能を果たし得ることが明らかとなった。
【実施例3】
【0100】
<化学感覚能センサチップの動作確認実験>
【0101】
(目的)本発明の化学感覚能センサ用参照電極が、従来の液膜型参照電極と同様に、被測定対象物の濃度変化に対しても安定性と再現性の高い電位を発生できるかを確認する。また、同時に同一化学感覚能センサチップ上の作用電極が被測定対象物の濃度変化に応じた電位を発生できるかを確認する。
【0102】
(実験方法)
・化学感覚能センサ用参照電極の作製
本実施例に使用する化学感覚能センサ用参照電極は、前記実施例1に記載した方法に従って一の化学感覚能センサチップ上に作用電極と共に作製された。当該チップ上には作用電極を1つ(A)と同一組成の化学感覚能センサ用参照電極を3つ(B、C、D)が形成されている。当該作用電極の脂質高分子膜は、脂質性分子としてTDAB、可塑剤としてDOPP、そして高分子支持部材としてPVCを構成成分として前記実施例1の方法に従って作製されている。
【0103】
・測定方法
被測定対象物は3種類の濃度(1M、100μM、10μM)のKCl溶液とした。実施形態3の化学感覚能センサ装置に装着された前記化学感覚能センサチップを、まず、1Mの溶液に浸漬した。作用電極の電位を測定し、当該電位が安定した後に前記化学感覚能センサチップを当該溶液から取り出した。次に、100μMの溶液に浸漬した。再び作用電極の電位を測定し、当該電位が安定した後に前記化学感覚能センサチップを当該溶液から取り出した。続いて、0.01Mの溶液に浸漬した。再度作用電極の電位を測定し、当該電位が安定した後に前記化学感覚能センサチップを当該溶液から取り出した。以上までのステップを1サイクルとして3サイクル繰り返した。この間に当該センサチップの作用電極と各化学感覚能センサ用参照電極から発生するそれぞれの電位の値を作用電極電位値取得部と参照電極電位値取得部にてそれぞれ取得した。得られた電位値は、前記実施例2と同様の方法により処理された(本実施例の増幅器は作用電極電位値取得部と参照電極電位値取得部で共有されている。)。
【0104】
(結果)図13に本実施例の結果を示す。aは1M KCl溶液浸漬期間、bは100μM KCl溶液浸漬期間、cは10μM KCl溶液浸漬期間を示す。作用電極の電位値は、KCl溶液の濃度変化に対して顕著に変化した。また、測定時間内で行われた3回のサイクルで得られた電位値の変化は、いずれもほぼ同じパターンを示した。これは当該化学感覚能センサチップの作用電極が被測定対象物に対しての応答性を有していることを示している。一方、化学感覚能センサ用参照電極の電位値は、KCl溶液の濃度変化に対してもほとんど変化がなく、測定時間内での電位値はB、C、Dのいずれも約−100mV前後で安定していた。当該測定時間内で一の電極から発生する電位の変動幅は最も安定した電極で約2mVであった。これにより本発明の化学感覚能センサ用参照電極は、被測定対象物の濃度変化に対しても安定した電位を発生することが示された。また、独立した各参照電極から発生した電位のパターンはいずれもほぼ一致しており、再現性が高いことも示された。さらに、図示していないが、被測定対象物を苦味物質(後述の実施例4の基本味サンプルdを参照)、又は旨味物質(後述の実施例4の基本味サンプルcを参照)として本実施例と同様に濃度を変えて電位測定を行ったところ、いずれの場合にも当該化学感覚能参照電極から発生する電位は安定していた。以上の結果から本発明の化学感覚能参照電極は、被測定対象物の濃度変化に対しても安定性と再現性の高い電位を発生し、従来の液膜型参照電極と同様の機能を果たし得ることが明らかとなった。また、作用電極は被測定対象物の濃度に応じた再現性の高い電位を発生することから、本発明の化学感覚能センサチップの実用性が確認された。
【実施例4】
【0105】
<化学感覚能センサ装置による基本味の測定実験>
【0106】
(目的)本発明の化学感覚能センサチップを有する化学感覚能センサ装置により被測定対象物として基本味物質を測定し、複数の作用電極から得られる作用電極電位値に基づく差分電位値パターンを得る。
【0107】
(実験方法)
・基本味サンプル溶液
以下の溶液を準備した。
(a)塩味の基本味サンプル溶液は300mM KCl、及び0.3mM 酒石酸(tartaric acid)、
(b)酸味の基本味サンプル溶液は30mM KCl、及び3mM 酒石酸、
(c)旨味の基本味サンプル溶液は30mM KCl、0.3mM 酒石酸、及び10mM MSG、
(d)苦味の基本味サンプル溶液は30mM KCl、0.3mM 酒石酸、及び0.1mM 塩酸キニーネ(quinine−HCl)、
をそれぞれ混合したものである。また、
(e)基本溶液は30mM KCl溶液と0.3mM 酒石酸を混合したものである。
【0108】
・化学感覚能センサチップの作製方法
実施例1に従った。各作用電極の脂質高分子膜の構成成分は以下の通り。
(チャネル1)脂質性分子:2C10、可塑剤:DOPP、高分子支持部材:PVC
(チャネル2)脂質性分子:TDAB、可塑剤:DOPP+TDA、高分子支持部材:PVC
(チャネル3)脂質性分子:TOMA、可塑剤:DOPP+DOP、高分子支持部材:PVC
(チャネル4)脂質性分子:TDAB、可塑剤:DOPP、高分子支持部材:PVC
【0109】
・測定方法
まず、実施形態3の化学感覚能センサ装置に装着された化学感覚能センサチップを前記基本溶液に浸漬した。当該溶液での電位の安定化をはかり、その時の参照電極電位値bV0と作用電極電位値bVi(iは各チャネル番号:1、2、3、4)をそれぞれ測定した。次に、電極を当該基本溶液を洗浄溶液として洗浄後、前記(a)の基本味サンプル溶液に浸漬し、当該溶液で電位が安定した時の参照電極電位値V0と作用電極電位値Viをそれぞれ測定した。洗浄溶液でセンサを洗浄した後、同様の操作を前記(b)から(d)の各基本味サンプル溶液に対して順次行った。得られた各電位値は、前記実施例2と同様に増幅器によって増幅された後、DAQ card 6036E (National Instrument)に入力されて外部電子機器であるPCへ送られた。当該PCに送られた電位値のデータはLabVIEW7.0 software(National Instrument)により処理された。当該処理で各基本味サンプルの差分電位値ΔViは、ΔVi=(Vi−V0)−(bVi−bV0)によって算出された。得られた差分電位値から各基本味サンプルの差分電位値パターンが作成された。
【0110】
(結果)図14に本実施例の差分電位値パターンの結果を示す。■プロットパターン(1401)は塩味の、●プロットパターン(1402)は酸味の、◆プロットパターン(1403)は旨味の、▼プロットパターン(1404)は苦味の、基本味サンプル溶液から得られた差分電位値パターンを表す。各作用電極から得られる作用電極電位値に基づく基本味サンプルの差分電位値パターンは、いずれも従来の味覚センサ装置(INSENT:味認識装置SA402B)とほぼ同様の傾向を示した。これは本発明の化学感覚能センサ装置が基本味物質に対して従来の味覚センサ装置と同様の機能を果たし得ることを示しており、本発明の化学感覚能センサ装置の実用性が確認できた。実施形態4の化学感覚能センサ装置では、これらの基本味物質の差分電位値パターンを蓄積部に蓄積させ、その後に化学特性の不明な被測定対象物質を測定した際に得られる差分電位値パターンと比較部にて比較することで、当該不明な被測定対象物質の化学特性を判定することが可能となる。
【実施例5】
【0111】
<化学感覚能センサ装置による基本味の濃度変化に対する測定実験>
【0112】
(目的)本発明の化学感覚能センサチップを有する化学感覚能センサ装置により基本味物質の濃度を変化させた時の電位値を測定し、各作用電極においてそれぞれの濃度から得られる作用電極電位値に基づく差分電位値パターンを得る。
【0113】
(実験方法)前記実施例4に準じて行った。基本味サンプル溶液は実施例4の基本味サンプル溶液(a)から(d)を1として、それぞれ0.001倍、0.01倍、0.1倍、10倍、100倍の濃度サンプル溶液を調製した。基本溶液は前記実施例4と同一である。まず基本溶液での電位値をそれぞれの電極から取得した。その後、測定プローブを各基本味サンプル溶液の低濃度から高濃度に移して、各濃度における電位値を取得した。測定プローブの移動時には、予め当該プローブの溶液浸漬部分に付着した前濃度の基本味サンプル溶液を洗浄溶液にて洗浄した。それぞれの作用電極(チャネル1から4)において得られた各濃度の差分電位値を算出し、作用電極ごとに濃度変化に対する差分電位値パターンを作成した。なお、本実施例の作用電極は、必ずしも前記実施例4の基本味サンプル溶液(a)から(d)全てに対して測定していない。また、ある一の濃度の基本味サンプル溶液で、同一の作用電極を用いて2回以上測定を行った場合もある。
【0114】
(結果)図15に本実施例の各作用電極から発生する作用電極電位値に基づいた各濃度の差分電位値パターンの結果を示す。同一の作用電極を用いて、ある一の濃度の基本味サンプル溶液を2回以上測定した場合には、それらの全てをプロットし、その平均値を差分電位値パターンとしてグラフ化した。プロット形状は、いずれのグラフも■プロットが塩味の、●プロットが酸味の、◇プロットが旨味の、▼プロットが苦味の基本味サンプル溶液から得られた差分電位値を表す。グラフIは作用電極チャネル1の、グラフIIは作用電極チャネル2の、グラフIIIは作用電極チャネル3の、そしてグラフIVは作用電極チャネル4の、各基本味サンプル溶液の濃度変化に対する差分電位値と差分電位値パターンを示している。これらの差分電位値パターンは、いずれも従来の味覚センサ装置(INSENT:味認識装置SA402B)とほぼ同様の傾向を示した。したがって、本発明の化学感覚能センサ装置が基本味物質の濃度変化に対しても従来の味覚センサ装置と同様の機能を果たし得ることを示しており、本発明の化学感覚能センサ装置のさらなる実用性が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】実施形態1の化学感覚能センサ用参照電極の概念図。
【図2】実施形態2の化学感覚能センサチップの概念図。
【図3】実施形態2の化学感覚能センサチップの構成断面図。
【図4】実施形態2の支持体の形状を示す概念図。
【図5】実施形態3の化学感覚能センサ装置の概念図。
【図6】実施形態3の化学感覚能センサ装置の構成概念図。
【図7】実施形態3の処理の流れ図。
【図8】実施形態4の化学感覚能センサ装置の概念構成図。
【図9】実施形態4の処理の流れ図。
【図10】化学感覚能センサチップの導電体を配置したガラス基板の作製方法の概念図。
【図11】化学感覚能センサチップの隔離部の作製方法の概念図。
【図12】実施例2の測定結果。
【図13】実施例3の測定結果。
【図14】実施例4の測定結果。
【図15】実施例5の測定結果。
【符号の説明】
【0116】
0300:化学感覚能センサチップ
0301:支持体
0302:作用電極
0303:化学感覚能センサ用参照電極
0304:隔離部
0305:第二導電体
0306:脂質高分子膜
図6−a:PC等の外部電子機器へ
図6−b:被測定対象物
図8−a:PC等の外部電子機器へ
図8−b:被測定対象物
図15−I:各濃度において作用電極チャネル1から発生する作用電極電位値に基づいた差分電位値パターンの結果。
図15−II:各濃度において作用電極チャネル2から発生する作用電極電位値に基づいた差分電位値パターンの結果。
図15−III:各濃度において作用電極チャネル3から発生する作用電極電位値に基づいた差分電位値パターンの結果。
図15−IV:各濃度において作用電極チャネル4から発生する作用電極電位値に基づいた差分電位値パターンの結果。
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学感覚能センサ用参照電極、化学感覚能センサチップ及び当該チップを有する化学感覚能センサ装置と、その装置の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の五感の一つである味覚を代行する人工センサに関しては、特許文献1、5、7、8、及び9に示す本発明者らが発明した味覚センサ等が公知技術として知られている。また、これらの味覚センサ等を用いた味覚センサ装置のシステムや味の測定方法についても特許文献2、3、4、及び6等が公知技術として既に知られている。当該特許文献の味覚センサは、イオン選択性電極の技術を応用して開発された膜電位計測型のセンサである。すなわち、当該味覚センサは作用電極に生物の生体膜を模した多種類の脂質高分子膜を使用することで基本味である塩味、甘味、苦味、酸味、旨味に対して様々な膜電位を発生させることができる。また、当該味覚センサを有する味覚センサ装置は、味覚センサを被測定対象物である水溶液に浸漬させることで作用電極から発生する膜電位と参照電極から発生する膜電位を取得する。当該取得した膜電位に適当な処理を行うことで味のデジタル化、視覚化、及び再生を行うことができる。
【0003】
しかし、従来技術の膜電位計測型の味覚センサ装置は概して大型であり、センサ部分だけでもデスクトップサイズが必要であった。そのため携帯は非常に困難で、かつ貴重な測定用サンプルも多量に必要とするという問題を有していた。さらに、装置自体が一般ユーザには高額で、取扱いや測定方法も煩雑であったことから専門業者専用の測定装置の感が否めず、普及面での問題も有していた。
【特許文献1】特開平3−54446
【特許文献2】特開平3−163351
【特許文献3】特開平4−64053
【特許文献4】特開平4−297863
【特許文献5】特開平4−324351
【特許文献6】特開平5−99896
【特許文献7】特開平6−18479
【特許文献8】特開平7−5147
【特許文献9】特開平7−269826
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は化学感覚能センサ装置の小型化を目的とする。そのためには、まずセンサ部分を小型化する必要がある。そこで、本発明は従来の液膜型参照電極の内部溶液を固相化した参照電極の提供を第一の課題とする。また、本発明は前記固相化した参照電極と作用電極とが一体化した化学感覚能センサチップの提供を第2の課題とする。さらに、本発明は前記化学感覚能センサチップを用いることで、携帯性の向上や測定サンプルの低減が可能な化学感覚能センサ装置の提供を第3の課題とする。また、本発明は前記化学感覚能センサチップを利用した時の化学感覚能センサシステムの測定方法の提供を更なる課題とする。以上の課題を解決することで、目的とする化学感覚能センサ装置の小型化を達成する。
【0005】
本発明で「化学感覚能」とは、水溶液中に溶解、若しくは混在する化学物質が有する性質を受容できる機能を意味する。例えば、水溶性化学物質の溶解した水溶液を味、すなわち塩味、甘味、酸味、旨味として感知できる機能や、当該水溶液の水素イオン濃度を測定する機能等が該当する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本件出願の発明は積層構造を有する化学感覚能センサ用参照電極を提供する。本件出願の他の発明は、当該参照電極を有する一の支持体上に形成された化学感覚能センサチップを提供する。本件出願のさらなる発明は、当該化学感覚能センサチップを有する化学感覚能センサ装置を提供する。また、本件出願の発明は当該化学感覚能センサ装置の測定方法を提供する。すなわち、以下の発明を提供する。
【0007】
(1)本発明は、第一導電体と、第一導電体との間で電荷交換可能な電解液を湿潤材に保持した湿潤層と、湿潤層に保持された電解液が外部イオンと電荷交換することを防止する電荷交換防止層と、湿潤層に保持された電解液が外部に漏洩することを防止する電解液漏洩防止層とを有する化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0008】
(2)本発明は、前記湿潤層の湿潤材が高分子ポリマーであることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0009】
(3)本発明は、前記湿潤層の電解液がKCl溶液であることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0010】
(4)本発明は、前記第一導電体がAg、又はAg/AgClであることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0011】
(5)本発明は、前記湿潤層の電解液がKClとAgClの混合溶液であることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0012】
(6)本発明は、前記電荷交換防止層が高分子膜材と、可塑剤とからなることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0013】
(7)本発明は、前記電解質漏洩防止層が逆浸透膜で構成されることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0014】
(8)本発明は、前記電荷交換防止層と前記電解質漏洩防止層が、双方の機能を有する一層で構成されることを特徴とする化学感覚能センサ用参照電極を提供する。
【0015】
(9)本発明は、支持体と、前記支持体上に形成され、第二導電体と、第二導電体との間で電荷交換可能な脂質高分子膜とを有する一以上の作用電極と、前記支持体上に形成される前記(1)から(8)のいずれか一の化学感覚能センサ用参照電極であって、かつ少なくとも一以上の化学感覚能センサ用参照電極と、前記作用電極と、前記化学感覚能センサ用参照電極とを電気的に隔離する隔離部とを有する化学感覚能センサチップを提供する。
【0016】
(10)本発明は、前記作用電極が二以上である場合、各作用電極は一の化学物質に対して他の作用電極と異なる応答性を示す脂質高分子膜を有することを特徴とする化学感覚能センサチップを提供する。
【0017】
(11)本発明は、前記隔離部が前記第一導電体及び前記第二導電体の周囲に設けられる壁状絶縁体であり、化学感覚能センサ用参照電極は前記壁状絶縁体により被測定対象物との接触領域として電解漏洩防止層のみを残し、作用電極は被測定対象物との接触領域として前記脂質高分子膜のみを残すように構成されることを特徴とする化学感覚能センサチップを提供する。
【0018】
(12)本発明は、前記壁状絶縁体が感光性ガラスを露光し、熱処理後に酸処理して形成されたものであることを特徴とする化学感覚能センサチップを提供する。
【0019】
(13)本発明は、(9)から(12)のいずれか一の化学感覚能センサチップを有する測定プローブと、前記測定プローブの化学感覚能センサチップの参照電極から電位値を取得する参照電極電位値取得部と、前記測定プローブの一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得部と、前記作用電極電位値取得部で取得されたそれぞれの作用電極ごとの電位値と、参照電極電位取得部にて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得部と、差分電位値取得部にて取得された差分電位値を作用電極ごとに出力し、また作用電極電位値に基づいて得られる差分電位値パターンを出力する差分電位値出力部とを有する化学感覚能センサ装置を提供する。
【0020】
(14)本発明は、前記化学感覚能センサ装置の構成に加えて、既知の化学物質によるそれぞれの作用電極ごとの既知差分電位値パターンを蓄積する蓄積部と、前記差分電位値出力部から出力される作用電極の電位差値パターンと前記蓄積部に保存された既知差分電位値パターンとを比較する比較部と、前記比較部での比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する判定部とを有する化学感覚能センサ装置を提供する。
【0021】
(15)本発明は、(13)又は(14)の化学感覚能センサ装置の構成に加えて、前記測定プローブが(9)から(12)のいずれかの化学感覚能センサチップを着脱可能な着脱部を有する化学感覚能センサ装置を提供する。
【0022】
(16)本発明は、前記測定プローブの一以上の作用電極に配置される脂質高分子膜が被測定対象物によって一以上の作用電極に発生する複数の電位値からなるパターンが、被測定対象物である甘味溶液、塩味溶液、酸味溶液、旨味溶液、苦味溶液により異なるパターンとする脂質高分子膜であることを特徴とする化学感覚能センサ装置を提供する。
【0023】
(17)本発明は、(9)から(12)のいずれか一の化学感覚能センサチップを有する測定プローブにおいて、化学感覚能センサチップの参照電極から電位値を取得する参照電極電位値取得ステップと、前記測定プローブの一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得ステップと、前記作用電極電位値取得ステップで取得された作用電極ごとの電位値と、参照電極電位取得ステップにて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得ステップと差分電位値取得ステップにて取得された差分電位値を作用電極ごとに出力する差分電位値出力ステップと、
を有する化学感覚能センサシステムの測定方法を提供する。
【0024】
(18)本発明は、前記差分電位値出力ステップ後に、既知の化学物質による作用電極ごとの既知差分電位値を蓄積する蓄積ステップと、前記差分電位値出力ステップから出力される作用電極ごとの電位差値パターンと前記蓄積ステップに保存された既知差分電位値パターンとを比較する比較ステップと、前記比較ステップでの比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する判定ステップとをさらに有する化学感覚能センサシステムの測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の化学感覚能センサ用参照電極によれば、従来の液膜型参照電極の内部液を固相化することで参照電極を小型化することができる。
【0026】
本発明の化学感覚能センサチップによれば、支持体上で参照電極と作用電極の一体化、さらにこれらの電極の集積化が可能となる。また、それによって化学感覚能センサ部の小型化、軽量化が可能となる。また、化学感覚能センサ部の大量生産も可能なことから化学感覚能センサ装置全体の低廉化にも繋がる。
【0027】
本発明の化学感覚能センサ装置によれば、本発明の化学感覚能センサチップを用いることで携帯性の向上、測定サンプルの低減、低廉化、及び取扱いと測定方法を簡便化することができる。
【0028】
本発明の化学感覚能センサシステムの測定方法によれば、測定方法の簡便化することができる。
【0029】
本発明の化学感覚能センサ装置、及び化学感覚能センサシステムの測定方法によれば、低廉化、測定方法の簡便化が向上することで一般ユーザが気軽に利用できるようになる。それによって化学感覚能センサ装置の普及を促進できる。さらに、当該化学感覚能センサ装置で検出されるデータベースを充実させることができ、食品における味の品質管理を厳密に行う事も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、各発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる様態で実施しうる。
【0031】
なお、実施形態1は、主に請求項1から8に関する。実施形態2は、主に請求項9から12に関する。実施形態3は、主に請求項13、及び15から17に関する。実施形態4は、主に請求項14から16、及び18に関する。
【0032】
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要> 実施形態1について説明する。本実施形態は、導電体と、異なる性質を有する複数の層から構成される固相の化学感覚能センサ用参照電極に関する。当該複数の層は、湿潤層、電荷防止層、及び電解液漏洩防止層を有する。本化学感覚能センサ用参照電極は、当該電極を構成する湿潤層が、従来の液膜型イオン選択性電極装置の参照電極における内部溶液と同様の機能を果たし、かつ固相であることを特徴とする。
【0033】
<実施形態1:構成> 図1のAは本実施形態の構成の一例である。この図に示すように、本実施形態の化学感覚能センサ用参照電極(0100)は、その構成として第一導電体(0101)と、湿潤層(0102)と、電荷交換防止層(0103)と、電解液漏洩防止層(0104)を有する。以下、各構成について詳細に説明する。
【0034】
「化学感覚能センサ用参照電極」(0100)は、従来の液膜型イオン選択性電極装置の参照電極と同様に、被測定対象物との接触によって測定の基準となる電位を発生するように構成されている。当該化学感覚能センサ用参照電極の形状は、前記のような積層構造をなし、かつ電解液漏洩防止層のみが被測定対象物と接触可能であれば、特に限定はしない。例えば、図1の化学感覚能センサ用参照電極の断面図において、Aのように周囲を後述する支持体(0105)で囲まれた形状であってもよいし、Bのように支持体に一面のみが接した電解液漏洩防止層を最外層とする半円状のような形状であってもよいし、Cのように電解液漏洩防止層を最外層とし支持体を必要としない形状であってもよい。
【0035】
「第一導電体」(0101)は、導電体によって構成される。導電体の材質は、電子導電体、イオン導電体、又は電子・イオン混合導電体のいずれであってもよいが、加工処理の点を考慮すれば電子導電体が好ましい。電子導電体の場合には、例えば、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、銅(Cu)、銀(以下Agとする。)、白金(Pt)、金(Au)等の金属や炭素(C)のいずれであってもよい。Ag、又は銀・塩化銀(以下Ag/AgClとする。)は、液膜型イオン選択性電極装置の参照電極で一般的な配線材として使用されており、入手が容易なことからも好ましい。特に、Ag/AgClはAg表面に塩化銀(以下AgClとする。)を生成、若しくは付着させたもので当該第一導電体がAgから構成される場合の分極現象を抑制できることから便利である。当該第一導電体は配線の端末部であり、化学感覚能センサ装置において化学感覚能センサ用参照電極で取得される電位値を電気信号として他の部へ伝達する機能を有する。
【0036】
「湿潤層」(0102)は、主に電解液と湿潤材とから成り、前記第一導電体上に構成される。当該湿潤層は前記第一導電体に直接接するように形成されることが好ましい。また、当該湿潤層の厚さは機能上、及び電解液の乾燥を抑制する上で50〜450μmの範囲内で構成されることが好ましい。当該湿潤層の機能は、湿潤材に保持された電解液と前記第一導電体との間で電荷交換を行うことである。すなわち、当該湿潤層は、固相でありながら従来液相であった液膜型参照電極の内部溶液と同等の機能を果たすことができる。
【0037】
「電解液」は、水等の溶媒に電解質が溶解することで導電性を有する液体である。当該電解液を構成する電解質の種類は特に限定されないが、塩化カリウム(以下KClとする。)溶液であれば特に好ましい。これは塩化カリウムを構成する陽イオン(カリウムイオン)と陰イオン(塩素イオン)の輸率がほぼ等しいことから、湿潤層内に局部的電池が発生しにくいためである。ただし、陽イオンと陰イオンの輸率をアンバランスにすることで電荷交換の感度を調節できる場合には必ずしも輸率をほぼ等しくする必要はない。また、前記第一導電体の一部が金属によって構成される場合には、KClと当該金属の金属塩との混合溶液であることが好ましい。例えば、第一導電体が前記Ag/AgClで構成される場合の電解液は、KClとAgClの混合溶液であることが好ましい。これは、Ag/AgCl表面のAgのイオン化による電極の消耗を防止し、寿命を延ばすためである。当該電解液における電解質の濃度は特に限定されない。好ましくは当該電解質が前記湿潤層に保持されたときに析出しない最大の濃度である。当該最大濃度は電解質の溶解度、又は後述の湿潤材の材質に応じて適宜調整すれば良い。例えば、湿潤層に含まれる電解液がKCl溶液の場合は約1.7M程度となる。また、電解液にグリセリン(glycerin)を添加してもよい。グリセリンは保水性が高く蒸発しにくい性質を有することから、これを添加することで電解質の水分蒸発を抑制することができる。グリセリンの添加量は、電解液容量の5%から50%、好ましくは10%から40%、さらに好ましくは15%から35%の範囲内である。当該電解液の機能は、その導電性によって前記第一導電体との間で電荷交換をすることである。
【0038】
「湿潤材」は、前記電解質を保持し、かつマトリクスとしての構造を有する物質である。当該湿潤材の材質は、前記電解液を保持可能な材質であれば特に限定されない。例えば、スポンジのような多孔質体、綿やパルプのような毛細管構造を有する繊維の集合体、又は高分子ポリマー等が該当する。加圧しても電解液が容易に流出しない点や多量の電解液を保持できる点を考慮した場合、高分子ポリマーが好ましい。
【0039】
本発明の「高分子ポリマー」は、網目構造を有し、多量の電解液を保持できる親水性の重合体である。具体的にはポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(poly−hydroxyethyl methacrylate:以下pHEMAとする。)、ポリアクリル酸塩(poly−acrylate)、ポリアクリルアミド(poly−acrylamide)、コンニャクマンナン(konnyaku−mannan)のような多糖類高分子ポリマー、又はゼラチンゼリー(gelatin−jelly)のようなゲル化タンパク質等が該当する。これらの高分子ポリマーは、各モノマーに前記電解液を加えて重合させることで電解液を保持することが可能となる。高分子ポリマーと電解液との混合比は、ある分量の高分子ポリマーにおける水分保持限界容量(飽和水分量)を100とする場合、電解液の容量が80以上となるように混合することが好ましい。高分子ポリマーの種類により保持可能な水分量が変わる為、使用する高分子ポリマーの種類に応じて電解液の容量を適宜変えればよい。また、この時、電解液には前記グリセリンを添加することが好ましい。当該高分子ポリマーは、電解液を保持させることで重合してハイドロゲルを形成する。
【0040】
「電荷交換防止層」(0103)は、前記湿潤層に積層するように構成される。当該電荷交換防止層は湿潤層に直接接するように構成されることが好ましい。当該電荷交換防止層の機能は、前記湿潤層に保持された電解液中のイオンが前記外部イオン、すなわち被測定対象物内に存在するイオンと直接的な電荷交換することを防止する緩衝層として機能する。当該電荷交換防止層の材質は、前記機能を有する材質であれば、特に限定はされない。例えば、高分子膜材に可塑剤を混合した材質であってもよい。また、当該電荷交換防止層の厚さは機能上10〜200μmの範囲内で構成されることが好ましい。
【0041】
「高分子膜材」は、可塑剤を混合して電荷交換防止層として使用する場合の支持部材として構成される。当該高分子膜材は、液膜型イオン選択性電極等で使用される公知の高分子膜材料(特許文献1参照)であって、それ自身がイオン交換性を有さないものを使用すればよく、その種類に関しては特に限定はしない。また、当該高分子膜材は液膜型イオン選択性電極の高分子膜材料と異なりイオノフォア(イオン輸送体)を担持していない必要がある。具体的には、ポリ塩化ビニル(以下PVCとする。)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリサルフォン(PSF)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリビニルアルコール(PVA)等のプラスティックや、漆のような天然樹脂等が該当する。中でもPVCは入手が容易な上に、ニトロベンゼンやテトラヒドロフラン(以下THFとする。)、シクロヘキサノン等の溶媒で容易に溶け、後述の可塑剤との混合比によって軟化、硬化を調節し易い等の利点がある。そのような理由からPVCは液膜型イオン選択性電極で最も一般的に使用されている高分子膜材料であり、当該高分子膜材としても好ましい。
【0042】
「可塑剤」は、前記高分子膜材を可塑化できる物質である。当該可塑剤の分子は極性領域と非極性領域を有する構造を持つ。極性領域が高分子膜材の分子と電気的に結びつき、また非極性領域が高分子膜材の分子間距離を広げることで高分子膜材の軟性が保たれる。一般的にはエステル化合物やエーテル化合物が多用されるが、可塑化の性質を有する物質であれば特に限定はしない。具体的には、2−ニトロフェニルオクチルエーテル(以下NPOEとする。)、4−ニトロフェニルフェニルエーテル(NPPE)、リン酸ジオクチル(以下DOPとする)、リン酸ジ−n−オクチルフェニル(以下DOPPとする。)、セバシン酸ジオクチル(DOS)、セバシン酸ジブチル(DBS)、リン酸トリクレシル(TCP)等が該当する。可塑剤の種類は、目的とするイオン選択性と使用する前記高分子膜材に対する相溶性、可塑化効率、低移行性、低揮発性等に応じて適宜選択すればよい。
【0043】
当該化学感覚能センサ用参照電極における電荷交換防止層の作製は、例えば、前記高分子膜材を溶媒で溶解後、可塑剤を加えて混合したものを前記湿潤層上に塗布する。続いて、風乾等により溶剤を除去して前記高分子膜材を固化させることで目的とする層を形成してもよい。また、湿潤層とは独立に前記と同様の方法で層を形成させた後、湿潤層に積層するように載置してもよい。
【0044】
「電解液漏洩防止層」(0104)は、前記電荷交換防止層に積層するように構成される。当該電解液漏洩防止層は電荷交換防止層に直接接するように構成されることが好ましい。また、当該電解液漏洩防止層は被測定対象物と直接接するように構成される。ただし、後述するように前記電荷交換防止層と当該電荷漏洩防止層との機能を併せ持つ層の場合にはこの限りではない。当該電解液漏洩防止層の材質は、前記湿潤層に保持された電解液が外部に漏洩することを防止できる材質、すなわち防水性素材であれば特に限定されない。例えば、ニトロセルロース(cellulose nitorate:以下CNとする。)のような逆浸透膜であってもよいし、ナフィオン(Nafion:デュポン社製)のようなイオン交換膜であってもよい。当該電解液漏洩防止層の厚さはその機能を果たし得る範囲内では薄いほどよいが、機械的な強度等を考慮した場合、1〜100μmの範囲内で構成することが好ましい。当該電解質漏洩防止層の機能は、前記湿潤層内の電解液が電荷交換防止層を介して外部に漏洩することを防ぐことである。
【0045】
当該化学感覚能センサ用参照電極における電解質漏洩防止層の作製は、例えば、CNであれば溶媒で溶解したものを前記電荷交換防止層に塗布した後、風乾等によって溶媒を除去して固化させることで形成してもよい。また、ナフィオンのように膜として既に形成されたものを使用する場合であれば、適当なサイズの電解質漏洩防止層を前記電荷交換防止層上に貼り付けてもよい。
【0046】
本発明の化学感覚能センサ用参照電極は、前記電荷交換防止層と前記電解液漏洩防止層の2層の働きによって湿潤層内の電解液が外部に漏洩と、外部イオンの湿潤層内への流出入が防止されている。したがって、当該化学感覚能センサ用参照電極において電荷交換防止層と電解液漏洩防止層の2層の機能を有する層を使用した場合には、前記電荷交換防止層と前記電解液漏洩防止層は、当該2層の機能を有する1層に置き換えることができる。
例えば、電荷交換防止層が電解液漏洩防止層と同等の機能を併せ持つ場合等が該当する。具体的には、前記電荷交換防止層が高分子膜材と可塑剤から構成される場合、高分子膜材に混合する可塑剤の量を減じ、撹拌等により均質化した場合等が該当する。このような電荷交換防止層では高分子膜材の分子間距離が狭まる結果、電解液の漏洩を防止する機能を同時に持ち得ることが可能となる。このように2層の機能を有する1層に置き換えられた場合には、当該置き換えられた1層のみが被測定対象物と接触可能となる。すなわち、前記例の場合には電荷交換防止層が被測定対象物と接触可能となる。なお、ここで言う「層」とは、均質の同一材料から構成される重なりをなすものの一つを意味する。
【0047】
<実施形態1:効果> 本実施形態の化学感覚能センサ用参照電極によれば、従来の液膜型参照電極の内部溶液を固相化した湿潤層を設け、さらに湿潤層と外部との電荷交換を防止する層とフィルタリングとして機能する層を設けた積層構造にすることで、参照電極の小型化が可能となる。また、それによって携帯性、測定の簡易性を向上させることもできる。
【0048】
<<実施形態2>>
<実施形態2:概要> 実施形態2について説明する。本実施形態は、一の支持体上に
作用電極と、前記実施形態1の化学感覚能センサ用参照電極とが共に形成された一体型の化学感覚能センサチップに関する。両電極は一の支持体上にそれぞれ少なくとも一以上形成され、各電極は隔離部によって電気的に隔離されていることを特徴とする。
【0049】
図2は、本実施形態の化学感覚能センサチップの一例を示したものである。図2で示す化学感覚能センサチップ(0200)は、ガラス基板(0201)を支持体とする小指よりも小さいサイズの化学感覚能センサチップである。一の化学感覚能センサ用参照電極(0203)と複数の作用電極(0202)が当該ガラス基板の一面側の端部周辺に形成されたスリット状のチャネル(0204)内に形成され、各電極はガラスの隔壁部(0205)により仕切られている。当該ガラス基板の他方の端部には、各電極内の第一導電体、又は第二導電体に連結された接続端子(0206)が露出している。
【0050】
<実施形態2:構成> 図3は本実施形態の化学感覚能センサチップの構成例であり、当該化学感覚能センサチップを構成する2種の電極面に対して垂直に切断した場合の断面図である。この図に示すように、本実施形態の「化学感覚能センサチップ」(0300)は、支持体(0301)と、少なくとも一以上の作用電極(0302)と、化学感覚能センサ用参照電極(0303)と、隔離部(0304)とを有する。また、前記作用電極(0302)は第二導電体(0305)と、脂質高分子膜(0306)とを有する。なお、図3では作用電極と、化学感覚能センサ用参照電極の厚さを等しく示しているが、各電極の最適な厚さはそれを構成する要素等により変化するため、必ずしも等しくする必要はない。以下、各構成について詳細に説明する。
【0051】
「支持体」(0301)は、前記作用電極と化学感覚能センサ用参照電極を形成する基盤として構成される。当該支持体の材質は絶縁体で、かつ耐水性であれば特に限定はしない。具体的には、ガラス、プラスティック、合成ゴム、セラミックス、又は耐水処理した紙や木材等が該当する。ただし、当該支持体が複合材料から構成される場合には、最外部が耐水性の絶縁体で被覆されていれば、導電体を有していてもよい。例えば、内部が絶縁体と導電体からなる積層構造を有し、最外部が耐水性の絶縁体で構成される多層基板等が該当する。当該支持体の形状は、前記作用電極、及び前記化学感覚能センサ用参照電極を形成可能な形状であれば特に限定されない。例えば、図2に示すように板状の基板(0201)であってもよいし、図4に示すような球状(A)、立方方形状(B)、カプセル状(C)、円錐状(D)、角錐状(E)、又は不定形状等であってもよい。なお、0401は内部に各電極を形成することができるチャネル(溝)を示し、0402は接続端子を示す。
【0052】
「作用電極」(0302)は、主に第二導電体と脂質高分子膜とから構成され、前記支持体上に少なくとも一以上形成される。
【0053】
「第二導電体」(0305)は、作用電極における固体電極であり、導電体によって構成される。その材質、機能については前記第一導電体(0101)と同様であることから、ここではその説明を省略する。当該第二導電体の材質と前記第一導電体の材質は、同一であることが好ましい。
【0054】
「脂質高分子膜」(0306)は、脂質性分子を高分子支持部材に吸着、若しくは混合させた膜であり、第二導電体との間で電荷交換可能なように構成される。当該脂質高分子膜は液膜型イオン選択性電極で使用される公知の脂質高分子膜を用いてもよい(特許文献1参照)。当該脂質高分子膜を構成する成分の種類は、被測定対象物に応じて脂質高分子膜を適宜選択すれば、特に限定はしない。また、当該脂質高分子膜の作製方法に関しても公知の脂質高分子膜の作製方法に準じてよい。当該脂質高分子膜は主要な構成成分として脂質性分子、可塑剤、高分子支持部材を有するが、各構成成分の混合比率や混合方法はそれぞれの種類によって異なるため、公知技術(特許文献1参照)に従って適宜調節すればよい。例えば、脂質性分子をトリオクチルメチルアンモニウムクロライド(tri−octyl methyl ammonium cloride:以下TOMAとする。)、可塑剤をDOPP、高分子支持部材をPVCとする場合には、それぞれを重量比で1:3:2程度で混合すればよい。作用電極を作製する場合には、例えば、THFで溶解したPVCにTOMAとDOPPを添加して混合した後、第二導電体上に塗布してTHFを揮散させて固化して形成させてもよいし、あるいは別個に膜状に広げてTHFを揮散させて固化した後、第二導電体上に載置することで形成させてもよい。
【0055】
当該脂質高分子膜を構成する成分のうち、高分子支持部材及び可塑剤は、前記化学感覚能センサ用参照電極の電荷交換防止層における高分子膜材及び可塑剤とそれぞれ同一のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。
【0056】
一の化学感覚能センサチップ上に作用電極が二以上ある場合には、各作用電極は一の化学物質に対して他の作用電極と異なる応答性を示す脂質高分子膜を有することが好ましい。ここで言う「化学物質」とは、被測定対象物に含有され、当該化学感覚能センサ装置で測定可能な物質である。例えば、金属塩、アミノ酸塩、糖、酸、アルカリ等の水溶性物質や脂質等が該当する。
【0057】
なお、作用電極は脂質高分子膜が第二導電体に直接接するように形成されているが、当該脂質高分子膜と当該第二導電体との間に緩衝層を有していてもよい。当該緩衝層の構成は前記化学感覚能センサ用参照電極における湿潤層の構成と同様でよい。当該緩衝層の使用により、第二導電体の周囲のイオン濃度を一定にできる他、被測定対象物中のイオンが脂質高分子膜を介して第二導電体に到達することで生じる第二導電体と脂質高分子膜との間の電位の変動を抑制できるので便利である。
【0058】
当該作用電極の機能は、従来の液膜型イオン選択性電極と同様の機能を有する。即ち、被測定対象物との接触によって作用電極電位を発生することである。当該作用電極電位は作用電極を構成する脂質高分子膜を構成する成分によって異なる。
【0059】
「化学感覚能センサ用参照電極」(0303)は、一の前記支持体上に少なくとも一以上形成される前記実施形態1に記載の化学感覚能センサ用参照電極である。当該参照電極は、一の支持体上に一つ存在すればよいが、一の支持体上に二以上存在していても構わない。その場合は、各参照電極のそれぞれが同一の構成を有するものであってもよいし、異なる構成を有するものであってもよい。
【0060】
「隔離部」(0304)は、絶縁体から構成される。当該隔離部の機能は、化学感覚能センサチップにおいて各電極を電気的に隔離することである。当該隔離部は、前記支持体(0301)と一体成型されたものであってもよいし、支持体とは独立して成型された後に接着等によって後に一体化されたものであってもよい。当該隔離部を支持体と独立して成型する場合には、その材質は絶縁体であれば特に限定しない。例えば、支持体と同一材質であってもよいし、また異なる材質であってもよい。
【0061】
当該隔離部の形状は、各電極を電気的に隔離可能な形状であれば、特に限定しない。例えば、前記導電体の周囲に壁状絶縁体を設けるように隔離部を形成してもよい。「壁状絶縁体」とは、高さを有する絶縁体であって、第一導電体、及び第二導電体の周囲を取り巻くように構成される。当該壁状絶縁体により各導電体周囲にはチャネルが形成される。これにより当該チャネル内に化学感覚能センサ用参照電極の各層や作用電極の脂質高分子膜を積層することができる。その際には、各電極を機能的に隔離するために化学感覚能センサ用参照電極では被測定対象物との接触領域として前記電解漏洩防止層のみを残すように構成し、また作用電極では被測定対象物との接触領域として前記脂質高分子膜のみを残すように構成されることが望ましい。すなわち、参照電極用のチャネル内には電解漏洩防止層を最上層として化学感覚能センサ用参照電極の各層が積層され、他層は外部に露出しないように構成されることが望ましい。また作用電極用のチャネル内には脂質高分子膜のみが外部に露出するように構成されることが望ましい。当該壁状絶縁体の高さ、すなわちチャネルの深さは、参照電極の各層や作用電極の脂質高分子膜が機能上十分な厚さを確保するために100μmから1mmの範囲内にあることが好ましい。
【0062】
当該隔離部が壁状絶縁体を設けるように形成される場合、前記壁状絶縁体は感光性ガラスを露光して熱処理後に酸処理して形成されたものであってもよい。「感光性ガラス」は、石英ガラス中に少量の感光性金属と増感剤を加えたものである。当該感光性金属には銀や金等が、また当該増感剤には塩化セリウム等がある。感光性ガラスの性質は、紫外線露光をすることで露光された部分の金属イオンが金属原子に変わる。それに約500℃で熱処理を加えることで金属コロイドが生成され、当該金属コロイドが結晶核となってメタケイ酸リチウム結晶が析出するという性質を有する。このメタケイ酸リチウム結晶はフッ化水素(Hydorogen fluoride:以下HFとする。)溶液等の酸処理で容易に溶解できることから当該感光性ガラスはウェットエッチングが可能である。また、当該感光性ガラスは垂直方向に対して高いエッチングレート選択性を有していることから、当該エッチングの処理時間を変化させることでチャネル幅を必要以上に広げることなくチャネルの深さを調節し、正確な化学切削を行うことができる。これらの性質を利用して前記壁状絶縁体を形成させてもよい。
【0063】
<実施形態2:効果> 本発明の化学感覚能センサチップによれば、参照電極と作用電極を支持体上に一体化して形成できる。また、一の化学感覚能センサチップの異なる応答性を示す作用電極によって、被測定対象物を同時測定することが可能となる。さらに、支持体上の電極の集積化が可能となることから、化学感覚能センサ部の小型化、軽量化も可能となる。本実施形態の化学感覚能センサチップは大量生産化が可能であることから化学感覚能センサ装置全体の低廉化にも繋がる。また、支持体をプラスティックや紙等にして化学感覚能センサチップをディスポーザブル化することで、洗浄の手間を省くことができる。さらに、化学感覚能センサチップは使用後に当該チップを洗浄しても微量に残留する前被測定対象物が次の被測定対象物の測定に影響する可能性がある。しかし、当該化学感覚能センサチップをディスポーザブル化することで、その問題を解消し被測定対象物に測定結果の精度を上げることができる。
【0064】
<<実施形態3>>
<実施形態3:概要> 実施形態3について説明する。本実施形態は、前記実施形態2の化学感覚能センサチップを有する化学感覚能センサ装置に関する。当該装置は、測定プローブを被測定対象物に接触させることで、化学感覚能センサ用参照電極から電位値を取得する参照電極電位取得部と、複数の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得部と作用電極電位値取得部で取得された電位値と、参照電極電位取得部にて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得部と、差分電位値取得部にて取得された差分電位値をそれぞれの作用電極ごとに出力する差分電位値出力部とを有することを特徴とする。また、当該装置は、測定プローブの化学感覚能センサチップが、着脱部によって着脱可能であることを特徴とする。
【0065】
図5は、本実施形態の化学感覚能センサ装置の一例を示したものである。図5で示す化学感覚能センサ装置(0500)は、マイクロピペットの形状を模したポータブルタイプの化学感覚能センサ装置である。先端部分(0501)が測定プローブを構成しており、実施形態2の化学感覚能センサチップ(0502)が着脱可能なように装着されている。グリップ部分(0503)には参照電極電位取得部、作用電極電位取得部、差分電位値取得部、及び差分電位値出力部が内蔵されている。先端部分の測定プローブを被測定対象物に浸漬することで、電極から発生する参照電極電位値と作用電極電位値を取得し、それらの電位値や差分電位値、また差分電位値パターンを出力する。
当該化学感覚能センサ装置で得られた差分電位値、また差分電位値パターンは、例えばグリップ部等に内蔵された液晶モニタ(0504)等の出力部で目視可能なように構成してもよい。また、当該装置にUSB端子(0505)等の接続端子を設けてケーブルを介してPC(0506)、PDA、携帯電話等の外部電子機器の表示部(0507)等に出力して目視可能なように構成してもよい。さらに、SDカード(0508)等のリムーバブルメモリに記憶させた後、前記外部電子機器に当該リムーバブルメモリを接続して表示部等に出力して目視可能なように構成してもよい。また、当該装置に無線送出部を設けて無線(0509)にて送出し、前記外部電子機器の表示部等で目視可能にしてもよい。さらに、前記外部電子機器がプリンターであれば、入力された差分電位値、また差分電位値パターンをプリントアウトすることによって目視可能にしてもよい。
【0066】
<実施形態3:構成> 図6は本実施形態の構成の一例である。この図に示すように、本実施形態の化学感覚能センサ装置(0600)は、その構成として測定プローブ(0601)と、参照電極電位値取得部(0602)と、作用電極電位値取得部(0603)と、差分電位値取得部(0604)と、差分電位値出力部(0605)と、を有する。また、着脱部(0606)を有していてもよい。以下、各構成について詳細に説明する。
【0067】
「測定プローブ」(0601)は、前記実施形態2の化学感覚能センサチップを一以上有し、当該センサチップ上の電極が被測定対象物と接触可能なように構成されている。例えば、当該測定プローブの全部又は一部を被測定対象物である溶液中に直接浸すことで接触可能にしてもよいし、当該測定プローブの前記センサチップに被測定対象物である溶液を滴下することで当該センサチップ上の電極と接触可能にしてもよい。また、当該測定プローブは、必要な箇所が防水処理、又は耐水処理されていてもよい。さらに、当該測定プローブは、化学感覚能センサチップ上の各電極から発生する電位を後述の参照電極電位値取得部(0602)と作用電極電位値取得部(0603)とに出力可能なように構成されている。化学感覚能センサチップ上の各電極は空気中に晒し続けることで乾燥により劣化する可能性がある。したがって、測定プローブは化学感覚能センサチップの乾燥を防止可能なように構成されていてもよい。例えば、非測定時には測定プローブの全部又は一部に、密閉性の高い専用のキャップを取り付け可能なように構成されてもよいし、後述する基本溶液等を入れたケースに収納可能なように構成されてもよいし、また電極を気密性フィルムでシールできるように構成されてもよい。
【0068】
当該測定プローブの化学感覚能センサチップに作用電極が複数配置される場合には、各作用電極を構成する脂質高分子膜が異なる被測定対象物に対してそれぞれ異なる電位を発生するように構成されていることが好ましい。特に被測定対象物が甘味溶液、塩味溶液、酸味溶液、旨味溶液、苦味溶液である場合には当該複数の作用電極に発生する複数の電位値がそれぞれ異なる値を示すことが好ましい。例えば、図6のように測定プローブの化学感覚能センサチップに作用電極A、B、Cの3つの作用電極が配置される場合には、A、B、Cの作用電極を構成する脂質高分子膜の成分が異なるように構成すればよい。具体的には、脂質高分子膜の成分のうち高分子支持部材をいずれもPVCとした場合には、脂質性分子と可塑剤を作用電極Aはそれぞれリン酸ジデシルエステル(phosphoric acid di−n−decyl ester:以下2C10とする。)とDOPPで、作用電極Bはそれぞれテトラドデシルアンモニウムクロライド(tetra−dodecyl ammonium bromide:以下TDABとする。)とDOPPで、そして作用電極CはそれぞれTOMAとDOPPで構成すればよい。
【0069】
当該測定プローブは「着脱部」(0606)を有していてもよい。当該着脱部は測定プローブの全部、又は一部(前記化学感覚能センサチップ等)を着脱可能なように構成されている。例えば、化学感覚能センサチップのみが着脱可能な場合には、当該着脱部は測定プローブ内に当該化学感覚能センサチップを固定する固定部材と、当該チップの端子に接続可能な接続端子を有するように構成されていてもよい。また、当該着脱部は一の化学感覚能センサ装置に二以上あるように構成してもよい。
【0070】
「参照電極電位値取得部」(0602)は、化学感覚能センサチップ上の化学感覚能センサ用参照電極から参照電極電位値V0を取得し、後述の差分電位値取得部(0604)に出力可能なように構成されている。「参照電極電位値」とは、前記測定プローブを被測定対象物に接触させた時に化学感覚能センサ用参照電極で発生する電位の値である。
【0071】
「作用電極電位値取得部」(0603)は、化学感覚能センサチップ上の複数の作用電極のそれぞれから作用電極電位値Vi(iは自然数)を取得するように構成されている。「作用電極電位値」とは、前記測定プローブを被測定対象物に接触させた時に化学感覚能センサチップの複数の作用電極で発生する電位の値である。
【0072】
前記参照電極電位値取得部と前記作用電極電位値取得部は、取得したそれぞれの電位値を増幅して出力できるように構成されていてもよい。例えば、電位値の増幅であればバッファ増幅器をそれぞれの部に有していてもよい。また、当該二つの取得部は、取得したアナログ電位値、若しくは増幅した電位値を必要に応じてA/D変換して出力できるように構成されていてもよい。
【0073】
前記参照電極電位値取得部と前記作用電極電位値取得部で取得したそれぞれの電位値は、差分電位値取得部に出力されてもよいし、モニタ等に直接出力されてもよい。
【0074】
「差分電位値取得部」(0604)は、前記作用電極電位値取得部で取得されたそれぞれの作用電極電位値と参照電極電位取得部にて取得された電位値との差分値を取得するように構成されている。当該差分電位値は、各作用電極電位値から参照電極電位値を減じた値を基礎とするものであってもよいし、参照電極電位値から各作用電極電位値を減じた値を基礎とするものであってもよい。「基礎とする」とは、当該得られた値に対して定数を加減乗除すること等を意味する。図6を一例として説明する。測定プローブの作用電極A、B、Cから発生し、作用電極電位値取得部で取得されたそれぞれの作用電極電位値がV1、V2、V3であり、また化学感覚能センサ用参照電極から発生し、参照電極電位取得部で取得された参照電極がV0であるとする。この時、当該差分電位値取得部は、取得した作用電極電位値V1、V2、V3のそれぞれから参照電極電位値V0を減じた差分電位値ΔV1、ΔV2、ΔV3を取得する。すなわち、本例の場合、差分電位値はV1−V0=ΔV1、V2−V0=ΔV2、V3−V0=ΔV3として得られる。
【0075】
「差分電位値出力部」(0605)は、前記差分電位値取得部にて取得された差分電位値を取得し、それぞれの作用電極ごとに出力するように構成されている。また、それぞれの作用電極電位値に基づいて得られる差分電位値のパターンを「差分電位値パターン」として出力するようにも構成されている。当該差分電位値パターンは、例えば各作用電極ごとにそれぞれの差分電位値をプロットしたパターンであってもよいし、一の作用電極において、異なる濃度の同一被測定対象物から得られる作用電極電位値に基づいた濃度ごとの差分電位値をプロットしたパターンであってもよい。図6を一例として説明する。前記差分電位値取得部で得られた差分電位値ΔV1、ΔV2、ΔV3は、関連する作用電極と共に出力される。すなわち、図6では、各差分電位値は作用電極A=ΔV1、作用電極B=ΔV2、作用電極C=ΔV3として出力される。また、差分電位値出力部は、作用電極A・B・Cを横軸に、差分電位値を縦軸にして、各作用電極の差分電位値ΔV1・ΔV2・ΔV3をそれぞれプロットして線で結んだグラフパターンを差分電位値パターンとして出力することもできる。
【0076】
また、差分電位値の精度を高める上で、予め測定プローブを基本溶液に浸漬し、当該基本溶液における参照電極電位値bV0と作用電極電位値bVi(iは自然数)を取得しておいてもよい。この場合、差分電位値ΔViは、基本溶液への浸漬に続いて、当該測定プローブを被測定対象物に接触させることで取得される参照電極電位値V0と作用電極電位値Vi、並びに前記bV0とbViから取得される。例えば、差分電位値ΔViは、ΔVi=(Vi−V0)−(bVi−bV0)により得られてもよい。すなわち、基準溶液で得られる差分電位値を被測定対象物で得られる差分電位値から減じた値を、目的の差分電位値としてもよい。
【0077】
基本溶液は当該化学感覚能センサチップの各電極の状態を安定的に保持し得る溶液であれば特に限定はしないが、望ましくは30mM KCl溶液と0.3mM 酒石酸を混合した溶液である。
【0078】
<実施形態3:処理の流れ> 本実施形態における化学感覚能センサシステムの処理の流れについて説明する。図7は実施形態3での処理の流れの一例を示したものである。この図で示すように、まず、前記実施形態2に記載の化学感覚能センサチップを有する測定プローブを被測定対象物に接触させることにより、化学感覚能センサチップ上に形成された参照電極から発生した電位値を取得する(S0701:参照電極電位値取得ステップ)。次に、前記化学感覚能センサチップ上に形成された一以上の作用電極のそれぞれから発生した電位値を取得する(S0702:作用電極電位値取得ステップ)。ここで、参照電極電位値取得ステップと作用電極電位値取得ステップの処理の順序は問わない。すなわち、いずれのステップが先に処理されても構わない。また、取得した電位値が全体的に比較して低い場合には各電位値を取得後、増幅器により増幅するステップを加えてもよい。続いて、前記作用電極電位値取得ステップ(S0702)で取得されたそれぞれの作用電極の電位値と、前記参照電極電位値取得ステップ(S0701)にて取得された電位値との差分値を取得する(S0703:差分電位値取得ステップ)。最後に、前記差分電位値取得ステップ(S0703)にて取得された差分電位値をそれぞれの作用電極ごとに出力する(S0704:差分電位値出力ステップ)。本実施形態における化学感覚能センサシステムでは、以上の主たるステップにより、被測定対象物の有する化学感覚能情報を測定する。
【0079】
以上の処理は、計算機に実行させるためのプログラムで実行することができ、また、このプログラムを計算機によって読み取り可能な記録媒体に記録することができる(本明細書の全体を通して同様である。)。
<実施形態3:効果>
【0080】
本発明の化学感覚能センサ装置によれば、本発明の化学感覚能センサチップを用いることで従来デスクトップサイズであったセンサ部分を小型化できる。また、当該装置の携帯性を向上させ、測定サンプルの必要量を低減することもできる。さらに、着脱部により測定プローブや化学感覚能センサチップが着脱可能なことから、測定後のセンサ部分の洗浄、被測定対象物に応じた化学感覚能センサチップへの交換等を容易に行うことができる。しかも、化学感覚能センサチップ自体の低廉化により、当該装置の低廉化も可能となる。さらに、化学感覚能センサ装置を化学感覚能センサチップを埋設したICカード化することも可能となる。当該カードタイプの化学感覚能センサ装置は、ディスポーザブル化することで前記実施形態2の効果と同様にコンタミの影響のない精度の高い測定値を得ることもできる。
【0081】
<<実施形態4>>
<実施形態4:概要> 実施形態4について説明する。本実施形態は、前記実施形態3を基礎とし、測定によって取得される差分電位値と蓄積部に蓄積されている既知差分電位値とを比較し、その比較結果から測定された被測定対象物の有する化学特性を判定することができる化学感覚能センサ装置に関する。
【0082】
<実施形態4:構成> 図8は本実施形態の構成の一例である。この図に示すように、本実施形態の化学感覚能センサ装置(0800)の構成は、前記実施形態3の構成を基本とする。すなわち測定プローブ(0801)と、参照電極電位値取得部(0802)と、作用電極電位値取得部(0803)と、差分電位値取得部(0804)と、差分電位値出力部(0805)を有し、さらに蓄積部(0806)と、比較部(0807)と、判断部(0808)を有する。また、着脱部(0809)を有していてもよい。このうち差分電位値出力部(0805)までと着脱部(0809)に関しては前記実施形態3と同様であることからその説明は省略し、ここでは本実施形態に特徴的な蓄積部(0806)と、比較部(0807)と、判断部(0808)の各構成について以下で詳細に説明する。
【0083】
「蓄積部」(0806)は、前記差分電位値出力部から既知の化学物質により各作用電極ごとに得られる既知差分電位値パターンを取得して蓄積するように構成されている。「既知の化学物質」は、当該物質の有する特有の性質が明らかな化学物質である。例えば、弱酸性で酸味を与える性質を有することが明らかな酢酸(CH3COOH)、電解質でイオン化により塩味を与える性質を有することが明らかな塩化ナトリウム(NaCl)、アミノ酸塩であり旨味を与える性質を有することが明らかなグルタミン酸ナトリウム、若しくはこれら既知の化学物質の組み合わせによる混合物質等が該当する。また、既知の化学物質は、当該化学感覚能センサ装置の判定部で判定された結果、既知となった化学物質であってもよい。「既知差分電位値パターン」とは、既知の化学物質より得られる差分電位値パターンである。当該既知差分電位値パターンは前記差分電位値出力部から出力される既知差分電位値パターンを取得できるように構成されている。また、判定部で既知となった化学物質の既知差分電位値パターンも取得できるように構成されている。蓄積する全ての既知差分電位値パターンを比較部に出力可能なように構成されていてもよい。被測定対象物の測定に際しては、予め既知の化学物質を測定して既知差分電位値パターンを当該蓄積部に蓄積するか、あるいは当該装置の蓄積部が接続端子等を介して、外部蓄積部(0809)から既知差分電位値パターンを取得するようにしておくことが好ましい。
【0084】
「比較部」(0807)は、前記差分電位値出力部から取得される差分電位値パターンと前記蓄積部に保存された既知差分電位値パターンとを比較するように構成されている。当該比較部における比較とは、被測定対象物の測定によって前記差分電位値出力部から取得される差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの比較である。例えば、被測定対象物から得られる差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの形状や座標値等が合致するか、合致しないが類似するか、全く異なるか等を比較する。差分電位値パターンと既知差分電位値パターンを比較する際に、直接比較する比較領域は同一の条件に基づいて取得されるパターンであることが望ましい。例えば、差分電位値パターンと既知差分電位値パターンが複数の作用電極から取得される場合には、当該比較領域内の作用電極の数や構成する脂質高分子膜は前記両パターン間で同一であることが好ましい。また、差分電位値パターンと既知差分電位値パターンが、作用電極を横軸に差分電位値を縦軸にしたグラフパターンとして取得される場合には、当該縦軸の差分電位値の桁数や横軸の作用電極数、およびその間隔も同一であることが好ましい。
【0085】
「判定部」(0808)」は、前記比較部での比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定可能なように構成されている。「化学特性」とは、被測定対象物に含有される化学物質特有の性質である。当該判定部における化学特性の判定基準は、化学物質の属するカテゴリーレベルであっても良いし、当該化学物質を特定するレベルであってもよい。例えば、判定基準が化学物質の属するカテゴリーレベルの場合には、被測定対象物が味物質であれば、塩味物質、甘味物質、酸味物質、旨味物質、又は苦味物質のいずれであるかを判定する。また、判定基準が化学物質を特定するレベルの場合には、被測定対象物が旨味物質であれば、それがグルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate:以下MSGとする。)であるか、イノシン酸ナトリウム(sodium inosinate)か、あるいは他の旨味物質であるか等のように当該化学物質を特定して判定する。当該判定部におけるこれらの判定は、前記比較部での被測定対象物から得られる差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの比較結果に基づいて以下のように行われても良い。例えば、被測定対象物から得られる差分電位値パターンと既知差分電位値パターンが合致するという比較結果の場合には、当該被測定対象物に含有される化学物質が当該既知差分電位値パターンを示す化学物質と同一の化学特性を有すると判定してもよい。また、差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの形状は合致しないが全部、又は一部が類似するという比較結果の場合には、当該被測定対象物に含有される化学物質が当該既知差分電位値パターンを示す化学物質と化学特性上関連性があるものと類推判定してもよい。さらに、差分電位値パターンと既知差分電位値パターンの形状が全く異なる場合には、当該被測定対象物に含有される化学物質は前記蓄積部に差分電位値パターンが蓄積されていない化学物質であると判定してもよい。なお、本実施形態における判定部は、前記差分電位値パターンと前記既知差分電位値パターンの形状が同一であっても、両パターンが上下にずれている場合には、当該被測定対象物に含有される化学物質と当該既知差分電位値パターンを示す化学物質とは異なる化学物質であると判定する。
【0086】
<実施形態4:処理の流れ> 本実施形態における化学感覚能センサシステムの処理の流れについて説明する。図9は実施形態4での処理の流れの一例を示したものである。この図で示すように、本実施形態の処理の流れは、前記実施形態3の処理の流れを基本とする。すなわち、まず、測定プローブを被測定対象物に接触させることにより、参照電極電位値取得ステップ(S0901)で参照電極から電位値を取得する。次に、作用電極電位値取得ステップ(S0902)で一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する。実施形態3と同様に参照電極電位値取得ステップと作用電極電位値取得ステップの処理の順序は問わない。ここで、取得した電位値が全体的に比較して低い場合には各電位値を取得後、増幅器により増幅するステップを加えてもよい。続いて、差分電位値取得ステップ(S0903)で参照電極にて取得された電位値と、作用電極のそれぞれから取得された電位値との差分値を取得する。そして、差分電位値出力ステップ(S0904)で差分電位値をそれぞれの作用電極ごとに出力する。ここまでは、実施形態3の処理の流れと同様である。本実施形態では、続いて、前記差分電位値出力ステップ(S0904)から出力される各作用電極の電位差値と、既知の化学物質によるそれぞれの作用電極ごとの既知差分電位値とを比較する(S0905:比較ステップ)。最後に、当該比較ステップ(S0905)での比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する(S0906:判定ステップ)。本実施形態における化学感覚能センサシステムでは、以上の主たるステップにより、被測定対象物の有する化学感覚能情報を測定する。
【0087】
<実施形態4:効果>
【0088】
本発明の化学感覚能センサ装置、及び化学感覚能センサシステムの測定方法によれば、低廉化、測定方法の簡便化が向上することで一般ユーザへの化学感覚能センサ装置の普及を促進できる。それによって、当該化学感覚能センサ装置で検出されるデータベースを充実させることができ、食品における味の品質管理を厳密に行う事も可能となる。
【実施例1】
【0089】
以下の実施例1から5をもって本発明を具体的に説明する。ただし、以下の実施例は単に例示するのみであり、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0090】
<化学感覚能センサ用センサチップの作製>
実施形態1の化学感覚能センサ用参照電極を有する実施形態2の化学感覚能センサ用センサチップの作製の一例として支持体にガラス基板を使用した場合の作製方法を以下に示す。ガラス基板は13mmx38mmに切り分けたものを用いた。
【0091】
(1)導電体を配置したガラス基板の作製
図10に当該作製方法を図示する。まず、前記ガラス基板(1001)上に100nm厚のチタン層(1002)を電子ビーム蒸着によって蒸着させた。次に、チタン層上に400nm厚の銀層(1003)を同じ方法で蒸着した(A)。ここでチタン層を設けた理由は、銀はガラスとの接着性が悪いことからガラス基板上に銀層を固定する上でガラスと銀の両者に対して接着性の高いチタンを接着層とするためである。続いて、銀層上に100μm厚のネガ型フォトレジスト(OMR−83)(1004)をスピンコート法によって塗布した(B)。次に、電極パターンが描かれたフォトマスク(1005)を前記フォトレジスト層上に載置し、当該フォトマスクを通して前記フォトレジスト層を紫外線露光(1006)した(C)。露光処理後、現像液によって洗浄(1007)することで露光された部位以外のフォトレジストは溶解除去される。これによって、電極パターンが基板上に現像された(D)。現像後、NH3とH2O2の1:1混合液を用いて露出した銀層とチタン層のウェットエッチング処理(1008)を行った(E)。その後、イソプロパノール(iso−propanol:IPA)によって残ったフォトレジストが洗浄除去(1009)された(F)。当該基板をKCl溶液中で0.5mA、10分間印加した。これによって、銀層が塩化されて銀/塩化銀層(1010)が形成される(G)。以上の手順をもって導電体を配置したガラス基板を作製した。
【0092】
(2)隔離部の作製
図11に当該作製法を図示する。本実施例では、隔離部に感光性ガラスを用いて、前記ガラス基板とは別個に隔離部を作製する方法を示す。まず、500μm厚の感光性ガラス(1101)を13mmX13mm四方に切り分けて(A)、前記電極パターンの全部、若しくは一部に合致、又はほぼ一致するパターンが描かれたフォトマスク(1102)を通して紫外線露光を行った(B)。次に、電気炉を用いて505℃で90分間、続いて535℃で2時間の熱処理を行った(C)。当該熱処理によって紫外線で露光された部位にメタケイ酸リチウム結晶(1103)が析出する(D)。その後、攪拌器を用いて当該結晶を5%HFによって溶解除去することでウェットエッチングを施した(E)。エッチングの時間は60分行った。この時間でチャネル幅の広げることなく当該感光性ガラスに貫通孔を開けることができる。以上の手順をもって隔離部を作製した。
【0093】
(3)化学感覚能センサ用チップ基板の作製
前記(2)の隔離部の形成を行った感光性ガラスに接着剤としてシリコーンを塗布し、前記(1)の導電体を配置したガラス基板上の導電体の配線パターンと隔離部のチャネルパターンがほぼ一致するように載置した(図11のF)。シリコーンの乾燥によりガラス基板上の各導電体は壁状絶縁体で構成されたチャネルを有することが可能となる。以上の手順をもって化学感覚能センサ用チップ基板を作製した。
【0094】
(4)化学感覚能センサ用参照電極の作製
まず、湿潤層の作製のためにHEMAモノマー混合液を調製した。当該HEMAモノマー混合液は、60%(w/v)HEMA、38%(w/v)エチレングリコール(ethylene glycol)、1%(w/v)アセトフェノン(demethoxy−2−phenylacethophenone:DMPA)、及び1%(w/v)ジメタクリル酸テトラエチレングリコール(tetra ethylene glycol dimethacrylate)を混合したもの100μlに、さらにグリセリン10μl、飽和KCl溶液50μl、並びに少量のAgCl粉末を加えて攪拌器で十分に混合したものである。調製したHEMAモノマー混合液を、マイクロピペット等を用いて参照電極用のチャネル内に充填した。これに約2分間、紫外線照射して重合化を行いpHEMAにした。当該pHEMAを一晩乾燥させたものを湿潤層とした。次に、電荷交換防止層の作製のためにTHFに溶解した50%(w/w)PVCと50%(w/w)NPOEの混合液を前記湿潤層の上に充填した。THFを乾燥除去してPVC/NPOEを固化させた後、再度、当該PVC/NPOE上に同じ処理を行った。THFを風乾等で除去して再び固化させることで形成される2重のPVC/NPOEを電荷交換防止層とした。最後に、電解液漏洩防止層の作製のためにエタノールで5%に調製したCN溶液を電荷効果防止層上に塗布した。これを乾燥してエタノールを除去することにより形成される層を電解液漏洩防止層とした。
【0095】
(5)作用電極の作製
作用電極の作製に際しては、まず脂質高分子膜の作製が必要である。当該脂質高分子膜を構成する脂質性分子としては、TOMA、TDAB、及び2C10の3種を選択した。また、これらの可塑剤としては、DOP、DOPP、テトラデシルアルコール(n−tetradecyl alcohol:以下TDAとする。)を選択した。さらに高分子支持部材としては、PVCを選択した。前記脂質性分子のいずれかひとつと、それに対応する可塑剤とPVCとをそれぞれ1:3:2の重量比でTHFに溶解し、攪拌子を用いて十分に混合した。調製した混合液を、マイクロピペット等を用いて作用電極用のチャネル内に充填した。THFを風乾等で除去して乾燥し、再び固化させることで形成される。500μmの厚さを有する隔離部は、第二導電体部の厚さを差し引いてもチャネル内に脂質高分子膜を満たすことで、測定に十分な膜厚を得ることができる。
【実施例2】
【0096】
<化学感覚能センサ用参照電極の電位安定性の確認実験>
(目的)本発明の化学感覚能センサ用参照電極が、従来の液膜型参照電極と同様に、一定濃度の被測定対象物に対して安定性と再現性の高い電位を発生できるかを測定時間を変化させて確認する。
【0097】
(実験方法)
・化学感覚能センサ用参照電極の作製
本実施例に使用する化学感覚能センサ用参照電極を、前記実施例1に記載した方法に基づいて作製した。以下に示す2種からなる8つの化学感覚能センサ用参照電極が一の化学感覚能センサチップ上に前記実施例1に記載した方法に従って作製された。なお、当該化学感覚能センサチップには化学感覚能センサ用参照電極のみを有し作用電極はない。
(1)湿潤層に電解液としてKClを導入した化学感覚能センサ用参照電極、即ち前記実施形態1と同一組成の化学感覚能センサ用参照電極を3つ(A、B、C)。
(2)湿潤層に電解質を導入せず水のみを導入した以外は前記実施形態1と同一組成であるコントロールとしての化学感覚能センサ用参照電極を5つ(D、E、F、G、H)。
【0098】
・測定方法
被測定対象物は1M KCl溶液とした。当該溶液中に実施形態3の化学感覚能センサ装置に装着された前記化学感覚能センサチップを浸漬し、当該センサチップの各化学感覚能センサ用参照電極から発生する電位の値を120分間参照電極電位値取得部にて取得した。得られた電位値は、増幅器であるオペアンプ(OPA129P)によって増幅された後、DAQ card 6036E (National Instrument)に入力されて外部電子機器であるPCへ送られた。当該PCに送られた電位値のデータは分析機器の制御、及び分析データの解析に用いられるソフトウェアであるLabVIEW7.0 software(National Instrument)により処理された。測定結果はPCのモニタ表示部、若しくはプリンターから得られた。
【0099】
(結果)図12に本実施例の結果を示す。湿潤層に電解液を導入していない前記(2)の化学感覚能センサ用参照電極は、120分間では全ての電極の電位値がいずれも全く一致しなかった。また、各電極内で発生する電位が非常に不安定で、当該時間内において一の電極で発生する電位の変動幅は、大きなものでは約200mVにも達していた。一方、湿潤層に電解液KClを導入した前記(1)の化学感覚能センサ用参照電極は、120分間ではA、B、Cのいずれの電極も約−150mV前後の安定した電位値を示した。当該時間内で一の電極から発生する電位の変動幅は約3mV程度であった。以上の結果から、電解質KClを導入した湿潤層を有する本発明の化学感覚能参照電極は、少なくとも120分間は発生する電位が安定していることが立証された。また、独立した各電極から発生した電位のパターンはほぼ一致していた。これは本発明の化学感覚能センサ用参照電極で得られる結果の再現性の高さを表している。よって、本発明の化学感覚能参照電極は、一定濃度の被測定対象物に対しては、従来の液膜型参照電極と同様の機能を果たし得ることが明らかとなった。
【実施例3】
【0100】
<化学感覚能センサチップの動作確認実験>
【0101】
(目的)本発明の化学感覚能センサ用参照電極が、従来の液膜型参照電極と同様に、被測定対象物の濃度変化に対しても安定性と再現性の高い電位を発生できるかを確認する。また、同時に同一化学感覚能センサチップ上の作用電極が被測定対象物の濃度変化に応じた電位を発生できるかを確認する。
【0102】
(実験方法)
・化学感覚能センサ用参照電極の作製
本実施例に使用する化学感覚能センサ用参照電極は、前記実施例1に記載した方法に従って一の化学感覚能センサチップ上に作用電極と共に作製された。当該チップ上には作用電極を1つ(A)と同一組成の化学感覚能センサ用参照電極を3つ(B、C、D)が形成されている。当該作用電極の脂質高分子膜は、脂質性分子としてTDAB、可塑剤としてDOPP、そして高分子支持部材としてPVCを構成成分として前記実施例1の方法に従って作製されている。
【0103】
・測定方法
被測定対象物は3種類の濃度(1M、100μM、10μM)のKCl溶液とした。実施形態3の化学感覚能センサ装置に装着された前記化学感覚能センサチップを、まず、1Mの溶液に浸漬した。作用電極の電位を測定し、当該電位が安定した後に前記化学感覚能センサチップを当該溶液から取り出した。次に、100μMの溶液に浸漬した。再び作用電極の電位を測定し、当該電位が安定した後に前記化学感覚能センサチップを当該溶液から取り出した。続いて、0.01Mの溶液に浸漬した。再度作用電極の電位を測定し、当該電位が安定した後に前記化学感覚能センサチップを当該溶液から取り出した。以上までのステップを1サイクルとして3サイクル繰り返した。この間に当該センサチップの作用電極と各化学感覚能センサ用参照電極から発生するそれぞれの電位の値を作用電極電位値取得部と参照電極電位値取得部にてそれぞれ取得した。得られた電位値は、前記実施例2と同様の方法により処理された(本実施例の増幅器は作用電極電位値取得部と参照電極電位値取得部で共有されている。)。
【0104】
(結果)図13に本実施例の結果を示す。aは1M KCl溶液浸漬期間、bは100μM KCl溶液浸漬期間、cは10μM KCl溶液浸漬期間を示す。作用電極の電位値は、KCl溶液の濃度変化に対して顕著に変化した。また、測定時間内で行われた3回のサイクルで得られた電位値の変化は、いずれもほぼ同じパターンを示した。これは当該化学感覚能センサチップの作用電極が被測定対象物に対しての応答性を有していることを示している。一方、化学感覚能センサ用参照電極の電位値は、KCl溶液の濃度変化に対してもほとんど変化がなく、測定時間内での電位値はB、C、Dのいずれも約−100mV前後で安定していた。当該測定時間内で一の電極から発生する電位の変動幅は最も安定した電極で約2mVであった。これにより本発明の化学感覚能センサ用参照電極は、被測定対象物の濃度変化に対しても安定した電位を発生することが示された。また、独立した各参照電極から発生した電位のパターンはいずれもほぼ一致しており、再現性が高いことも示された。さらに、図示していないが、被測定対象物を苦味物質(後述の実施例4の基本味サンプルdを参照)、又は旨味物質(後述の実施例4の基本味サンプルcを参照)として本実施例と同様に濃度を変えて電位測定を行ったところ、いずれの場合にも当該化学感覚能参照電極から発生する電位は安定していた。以上の結果から本発明の化学感覚能参照電極は、被測定対象物の濃度変化に対しても安定性と再現性の高い電位を発生し、従来の液膜型参照電極と同様の機能を果たし得ることが明らかとなった。また、作用電極は被測定対象物の濃度に応じた再現性の高い電位を発生することから、本発明の化学感覚能センサチップの実用性が確認された。
【実施例4】
【0105】
<化学感覚能センサ装置による基本味の測定実験>
【0106】
(目的)本発明の化学感覚能センサチップを有する化学感覚能センサ装置により被測定対象物として基本味物質を測定し、複数の作用電極から得られる作用電極電位値に基づく差分電位値パターンを得る。
【0107】
(実験方法)
・基本味サンプル溶液
以下の溶液を準備した。
(a)塩味の基本味サンプル溶液は300mM KCl、及び0.3mM 酒石酸(tartaric acid)、
(b)酸味の基本味サンプル溶液は30mM KCl、及び3mM 酒石酸、
(c)旨味の基本味サンプル溶液は30mM KCl、0.3mM 酒石酸、及び10mM MSG、
(d)苦味の基本味サンプル溶液は30mM KCl、0.3mM 酒石酸、及び0.1mM 塩酸キニーネ(quinine−HCl)、
をそれぞれ混合したものである。また、
(e)基本溶液は30mM KCl溶液と0.3mM 酒石酸を混合したものである。
【0108】
・化学感覚能センサチップの作製方法
実施例1に従った。各作用電極の脂質高分子膜の構成成分は以下の通り。
(チャネル1)脂質性分子:2C10、可塑剤:DOPP、高分子支持部材:PVC
(チャネル2)脂質性分子:TDAB、可塑剤:DOPP+TDA、高分子支持部材:PVC
(チャネル3)脂質性分子:TOMA、可塑剤:DOPP+DOP、高分子支持部材:PVC
(チャネル4)脂質性分子:TDAB、可塑剤:DOPP、高分子支持部材:PVC
【0109】
・測定方法
まず、実施形態3の化学感覚能センサ装置に装着された化学感覚能センサチップを前記基本溶液に浸漬した。当該溶液での電位の安定化をはかり、その時の参照電極電位値bV0と作用電極電位値bVi(iは各チャネル番号:1、2、3、4)をそれぞれ測定した。次に、電極を当該基本溶液を洗浄溶液として洗浄後、前記(a)の基本味サンプル溶液に浸漬し、当該溶液で電位が安定した時の参照電極電位値V0と作用電極電位値Viをそれぞれ測定した。洗浄溶液でセンサを洗浄した後、同様の操作を前記(b)から(d)の各基本味サンプル溶液に対して順次行った。得られた各電位値は、前記実施例2と同様に増幅器によって増幅された後、DAQ card 6036E (National Instrument)に入力されて外部電子機器であるPCへ送られた。当該PCに送られた電位値のデータはLabVIEW7.0 software(National Instrument)により処理された。当該処理で各基本味サンプルの差分電位値ΔViは、ΔVi=(Vi−V0)−(bVi−bV0)によって算出された。得られた差分電位値から各基本味サンプルの差分電位値パターンが作成された。
【0110】
(結果)図14に本実施例の差分電位値パターンの結果を示す。■プロットパターン(1401)は塩味の、●プロットパターン(1402)は酸味の、◆プロットパターン(1403)は旨味の、▼プロットパターン(1404)は苦味の、基本味サンプル溶液から得られた差分電位値パターンを表す。各作用電極から得られる作用電極電位値に基づく基本味サンプルの差分電位値パターンは、いずれも従来の味覚センサ装置(INSENT:味認識装置SA402B)とほぼ同様の傾向を示した。これは本発明の化学感覚能センサ装置が基本味物質に対して従来の味覚センサ装置と同様の機能を果たし得ることを示しており、本発明の化学感覚能センサ装置の実用性が確認できた。実施形態4の化学感覚能センサ装置では、これらの基本味物質の差分電位値パターンを蓄積部に蓄積させ、その後に化学特性の不明な被測定対象物質を測定した際に得られる差分電位値パターンと比較部にて比較することで、当該不明な被測定対象物質の化学特性を判定することが可能となる。
【実施例5】
【0111】
<化学感覚能センサ装置による基本味の濃度変化に対する測定実験>
【0112】
(目的)本発明の化学感覚能センサチップを有する化学感覚能センサ装置により基本味物質の濃度を変化させた時の電位値を測定し、各作用電極においてそれぞれの濃度から得られる作用電極電位値に基づく差分電位値パターンを得る。
【0113】
(実験方法)前記実施例4に準じて行った。基本味サンプル溶液は実施例4の基本味サンプル溶液(a)から(d)を1として、それぞれ0.001倍、0.01倍、0.1倍、10倍、100倍の濃度サンプル溶液を調製した。基本溶液は前記実施例4と同一である。まず基本溶液での電位値をそれぞれの電極から取得した。その後、測定プローブを各基本味サンプル溶液の低濃度から高濃度に移して、各濃度における電位値を取得した。測定プローブの移動時には、予め当該プローブの溶液浸漬部分に付着した前濃度の基本味サンプル溶液を洗浄溶液にて洗浄した。それぞれの作用電極(チャネル1から4)において得られた各濃度の差分電位値を算出し、作用電極ごとに濃度変化に対する差分電位値パターンを作成した。なお、本実施例の作用電極は、必ずしも前記実施例4の基本味サンプル溶液(a)から(d)全てに対して測定していない。また、ある一の濃度の基本味サンプル溶液で、同一の作用電極を用いて2回以上測定を行った場合もある。
【0114】
(結果)図15に本実施例の各作用電極から発生する作用電極電位値に基づいた各濃度の差分電位値パターンの結果を示す。同一の作用電極を用いて、ある一の濃度の基本味サンプル溶液を2回以上測定した場合には、それらの全てをプロットし、その平均値を差分電位値パターンとしてグラフ化した。プロット形状は、いずれのグラフも■プロットが塩味の、●プロットが酸味の、◇プロットが旨味の、▼プロットが苦味の基本味サンプル溶液から得られた差分電位値を表す。グラフIは作用電極チャネル1の、グラフIIは作用電極チャネル2の、グラフIIIは作用電極チャネル3の、そしてグラフIVは作用電極チャネル4の、各基本味サンプル溶液の濃度変化に対する差分電位値と差分電位値パターンを示している。これらの差分電位値パターンは、いずれも従来の味覚センサ装置(INSENT:味認識装置SA402B)とほぼ同様の傾向を示した。したがって、本発明の化学感覚能センサ装置が基本味物質の濃度変化に対しても従来の味覚センサ装置と同様の機能を果たし得ることを示しており、本発明の化学感覚能センサ装置のさらなる実用性が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】実施形態1の化学感覚能センサ用参照電極の概念図。
【図2】実施形態2の化学感覚能センサチップの概念図。
【図3】実施形態2の化学感覚能センサチップの構成断面図。
【図4】実施形態2の支持体の形状を示す概念図。
【図5】実施形態3の化学感覚能センサ装置の概念図。
【図6】実施形態3の化学感覚能センサ装置の構成概念図。
【図7】実施形態3の処理の流れ図。
【図8】実施形態4の化学感覚能センサ装置の概念構成図。
【図9】実施形態4の処理の流れ図。
【図10】化学感覚能センサチップの導電体を配置したガラス基板の作製方法の概念図。
【図11】化学感覚能センサチップの隔離部の作製方法の概念図。
【図12】実施例2の測定結果。
【図13】実施例3の測定結果。
【図14】実施例4の測定結果。
【図15】実施例5の測定結果。
【符号の説明】
【0116】
0300:化学感覚能センサチップ
0301:支持体
0302:作用電極
0303:化学感覚能センサ用参照電極
0304:隔離部
0305:第二導電体
0306:脂質高分子膜
図6−a:PC等の外部電子機器へ
図6−b:被測定対象物
図8−a:PC等の外部電子機器へ
図8−b:被測定対象物
図15−I:各濃度において作用電極チャネル1から発生する作用電極電位値に基づいた差分電位値パターンの結果。
図15−II:各濃度において作用電極チャネル2から発生する作用電極電位値に基づいた差分電位値パターンの結果。
図15−III:各濃度において作用電極チャネル3から発生する作用電極電位値に基づいた差分電位値パターンの結果。
図15−IV:各濃度において作用電極チャネル4から発生する作用電極電位値に基づいた差分電位値パターンの結果。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一導電体と、
第一導電体との間で電荷交換可能な電解液を湿潤材に保持した湿潤層と、
湿潤層に保持された電解液が外部イオンと電荷交換することを防止する電荷交換防止層と、
湿潤層に保持された電解液が外部に漏洩することを防止する電解液漏洩防止層と、
を有する化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項2】
前記湿潤層の湿潤材は、高分子ポリマーである請求項1に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項3】
前記湿潤層の電解液は、KCl溶液である請求項1又は2に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項4】
前記第一導電体は、Ag、又はAg/AgClである請求項1から3のいずれか一に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項5】
前記湿潤層の電解液は、KClとAgClの混合溶液である請求項4に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項6】
前記電荷交換防止層は、高分子膜材と、可塑剤と、からなる請求項1から5のいずれか一に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項7】
前記電解質漏洩防止層は、逆浸透膜で構成される請求項1から6のいずれか一に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項8】
前記電荷交換防止層と前記電解質漏洩防止層は、双方の機能を有する一層で構成される請求項1から7のいずれか一に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項9】
支持体と、
前記支持体上に形成され、第二導電体と、第二導電体との間で電荷交換可能な脂質高分子膜とを有する少なくとも一以上の作用電極と、
前記支持体上に形成される請求項1から8のいずれか一に記載の一以上の化学感覚能センサ用参照電極と、
前記作用電極と、前記化学感覚能センサ用参照電極とを電気的に隔離する隔離部と、
を有する化学感覚能センサチップ。
【請求項10】
前記作用電極が二以上である場合、各作用電極は一の化学物質に対して他の作用電極と異なる応答性を示す脂質高分子膜を有する請求項9に記載の化学感覚能センサチップ。
【請求項11】
前記隔離部は、前記第一導電体及び前記第二導電体の周囲に設けられる壁状絶縁体であり、化学感覚能センサ用参照電極は、前記壁状絶縁体により被測定対象物との接触領域として電解漏洩防止層のみを残し、作用電極は、被測定対象物との接触領域として前記脂質高分子膜のみを残すように構成される請求項9又は10に記載の化学感覚能センサチップ。
【請求項12】
前記壁状絶縁体は、感光性ガラスを露光し、熱処理後に酸処理して形成されたものである請求項11に記載の化学感覚能センサチップ。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一に記載の化学感覚能センサチップを有する測定プローブと、
前記測定プローブにおける化学感覚能センサチップの参照電極から電位値を取得する参照電極電位値取得部と、
前記測定プローブにおける化学感覚能センサチップの一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得部と、
前記作用電極電位値取得部で取得された作用電極ごとの電位値と、参照電極電位取得部にて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得部と、
差分電位値取得部にて取得された差分電位値を作用電極ごとに出力し、また作用電極電位値に基づいて得られる差分電位値パターンを出力する差分電位値出力部と、
を有する化学感覚能センサ装置。
【請求項14】
既知の化学物質による作用電極ごとの既知差分電位値パターンを蓄積する蓄積部と、
前記差分電位値出力部から出力される差分電位値パターンと前記蓄積部に保存された既知差分電位値パターンとを比較する比較部と、
前記比較部での比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する判定部と、
を有する請求項13に記載の化学感覚能センサ装置。
【請求項15】
前記測定プローブは、請求項9から12のいずれか一に記載の化学感覚能センサチップを着脱可能な着脱部を有する請求項13又は14に記載の化学感覚能センサ装置。
【請求項16】
前記測定プローブの一以上の作用電極に配置される脂質高分子膜は、被測定対象物によって一以上の作用電極に発生する複数の電位値からなるパターンが、被測定対象物である甘味溶液、塩味溶液、酸味溶液、旨味溶液、苦味溶液により異なるパターンとする脂質高分子膜である請求項13から15のいずれか一に記載の化学感覚能センサ装置。
【請求項17】
請求項9から12のいずれか一に記載の化学感覚能センサチップを有する測定プローブにおいて、
化学感覚能センサチップの参照電極から電位値を取得する参照電極電位値取得ステップと、
前記化学感覚能センサチップの一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得ステップと、
前記作用電極電位値取得ステップで取得された作用電極ごとの電位値と、参照電極電位取得ステップにて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得ステップと、
差分電位値取得ステップにて取得された差分電位値を作用電極ごとに出力する差分電位値出力ステップと、
を有する化学感覚能センサシステムの測定方法。
【請求項18】
前記差分電位値出力ステップに続いて、
前記差分電位値出力ステップから出力される作用電極ごとの電位差値パターンと既知の化学物質から取得されて蓄積されている既知差分電位値電位値パターンとを比較する比較ステップと、
前記比較ステップでの比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する判定ステップと、
をさらに有する請求項17に記載の化学感覚能センサシステムの測定方法。
を蓄積する蓄積ステップと、
【請求項1】
第一導電体と、
第一導電体との間で電荷交換可能な電解液を湿潤材に保持した湿潤層と、
湿潤層に保持された電解液が外部イオンと電荷交換することを防止する電荷交換防止層と、
湿潤層に保持された電解液が外部に漏洩することを防止する電解液漏洩防止層と、
を有する化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項2】
前記湿潤層の湿潤材は、高分子ポリマーである請求項1に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項3】
前記湿潤層の電解液は、KCl溶液である請求項1又は2に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項4】
前記第一導電体は、Ag、又はAg/AgClである請求項1から3のいずれか一に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項5】
前記湿潤層の電解液は、KClとAgClの混合溶液である請求項4に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項6】
前記電荷交換防止層は、高分子膜材と、可塑剤と、からなる請求項1から5のいずれか一に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項7】
前記電解質漏洩防止層は、逆浸透膜で構成される請求項1から6のいずれか一に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項8】
前記電荷交換防止層と前記電解質漏洩防止層は、双方の機能を有する一層で構成される請求項1から7のいずれか一に記載の化学感覚能センサ用参照電極。
【請求項9】
支持体と、
前記支持体上に形成され、第二導電体と、第二導電体との間で電荷交換可能な脂質高分子膜とを有する少なくとも一以上の作用電極と、
前記支持体上に形成される請求項1から8のいずれか一に記載の一以上の化学感覚能センサ用参照電極と、
前記作用電極と、前記化学感覚能センサ用参照電極とを電気的に隔離する隔離部と、
を有する化学感覚能センサチップ。
【請求項10】
前記作用電極が二以上である場合、各作用電極は一の化学物質に対して他の作用電極と異なる応答性を示す脂質高分子膜を有する請求項9に記載の化学感覚能センサチップ。
【請求項11】
前記隔離部は、前記第一導電体及び前記第二導電体の周囲に設けられる壁状絶縁体であり、化学感覚能センサ用参照電極は、前記壁状絶縁体により被測定対象物との接触領域として電解漏洩防止層のみを残し、作用電極は、被測定対象物との接触領域として前記脂質高分子膜のみを残すように構成される請求項9又は10に記載の化学感覚能センサチップ。
【請求項12】
前記壁状絶縁体は、感光性ガラスを露光し、熱処理後に酸処理して形成されたものである請求項11に記載の化学感覚能センサチップ。
【請求項13】
請求項9から12のいずれか一に記載の化学感覚能センサチップを有する測定プローブと、
前記測定プローブにおける化学感覚能センサチップの参照電極から電位値を取得する参照電極電位値取得部と、
前記測定プローブにおける化学感覚能センサチップの一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得部と、
前記作用電極電位値取得部で取得された作用電極ごとの電位値と、参照電極電位取得部にて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得部と、
差分電位値取得部にて取得された差分電位値を作用電極ごとに出力し、また作用電極電位値に基づいて得られる差分電位値パターンを出力する差分電位値出力部と、
を有する化学感覚能センサ装置。
【請求項14】
既知の化学物質による作用電極ごとの既知差分電位値パターンを蓄積する蓄積部と、
前記差分電位値出力部から出力される差分電位値パターンと前記蓄積部に保存された既知差分電位値パターンとを比較する比較部と、
前記比較部での比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する判定部と、
を有する請求項13に記載の化学感覚能センサ装置。
【請求項15】
前記測定プローブは、請求項9から12のいずれか一に記載の化学感覚能センサチップを着脱可能な着脱部を有する請求項13又は14に記載の化学感覚能センサ装置。
【請求項16】
前記測定プローブの一以上の作用電極に配置される脂質高分子膜は、被測定対象物によって一以上の作用電極に発生する複数の電位値からなるパターンが、被測定対象物である甘味溶液、塩味溶液、酸味溶液、旨味溶液、苦味溶液により異なるパターンとする脂質高分子膜である請求項13から15のいずれか一に記載の化学感覚能センサ装置。
【請求項17】
請求項9から12のいずれか一に記載の化学感覚能センサチップを有する測定プローブにおいて、
化学感覚能センサチップの参照電極から電位値を取得する参照電極電位値取得ステップと、
前記化学感覚能センサチップの一以上の作用電極のそれぞれから電位値を取得する作用電極電位値取得ステップと、
前記作用電極電位値取得ステップで取得された作用電極ごとの電位値と、参照電極電位取得ステップにて取得された電位値との差分値を取得する差分電位値取得ステップと、
差分電位値取得ステップにて取得された差分電位値を作用電極ごとに出力する差分電位値出力ステップと、
を有する化学感覚能センサシステムの測定方法。
【請求項18】
前記差分電位値出力ステップに続いて、
前記差分電位値出力ステップから出力される作用電極ごとの電位差値パターンと既知の化学物質から取得されて蓄積されている既知差分電位値電位値パターンとを比較する比較ステップと、
前記比較ステップでの比較結果に基づいて前記測定プローブにて測定された被測定対象物の化学特性を判定する判定ステップと、
をさらに有する請求項17に記載の化学感覚能センサシステムの測定方法。
を蓄積する蓄積ステップと、
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−57459(P2007−57459A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−245473(P2005−245473)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、文部科学省、科学技術振興調整費 科学技術総合研究委託研究、戦略的研究拠点育成プログラム、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(502240607)株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー (10)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、文部科学省、科学技術振興調整費 科学技術総合研究委託研究、戦略的研究拠点育成プログラム、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(502240607)株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー (10)
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