説明

化学機械研磨パッド用組成物および化学機械研磨パッド

【課題】研磨速度が大きく、被研磨面の表面状態に優れ、且つ耐用寿命の長い研磨パッドを製造するために好適に用いられる化学機械研磨パッド用組成物および該組成物から製造された化学機械研磨パッドを提供すること.
【解決手段】化学機械研磨パッド用組成物は、(A)1,2−ポリブタジエンを含む重合体100質量部、(B)水溶性物質を(A)重合体と(B)水溶性物質との合計体積に対して5〜80体積%、(C)有機過酸化物0.01〜10質量部または加硫剤0.1〜20質量部および(D)シリカ3〜100質量部を含む。
化学機械研磨パッドは、上記の組成物から製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学機械研磨パッド用組成物および化学機械研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造において、シリコン基板またはその上に配線や電極等が形成されたシリコン基板(以下、「半導体ウェハ」という。)につき、優れた平坦性を有する表面を形成することができる研磨方法として、化学機械研磨方法(Chemical Mechanical Polishing、一般に「CMP」と略称される。)が広く採用されている。化学機械研磨では、化学機械研磨パッドと被研磨面とを摺動させながら、砥粒が分散された化学機械研磨用水系分散体を研磨パッド表面に滴下させて化学機械的に研磨が行われる。化学機械研磨においては、化学機械研磨パッドの性状、特性等により研磨結果が大きく左右されることが知られており、従来から様々な化学機械研磨パッドが提案されている。
【0003】
特許文献1および特許文献2には多数の微細な空孔を含有するポリウレタンフォームを化学機械研磨パッドとして用い、このパッドの表面に開口する穴(以下、「ポア」ともいう。)に化学機械研磨用水系分散体を保持させて研磨を行う化学機械研磨方法が提案されている。
しかし、ポリウレタンフォームの場合、発泡気泡の大きさや密度等をフォームの全域に亘って均一に制御することは極めて困難であるため、ポリウレタンフォームからなる化学機械研磨パッドはその品質がばらつき、研磨速度および被研磨面の表面状態がばらつくとの問題がある。
【0004】
これに対し、ポアの制御が容易な化学機械研磨パッドとして、マトリクス樹脂中に水溶性粒子を分散させた研磨パッドが提案されている(例えば、特許文献4ないし6参照。)。この技術は、マトリクス樹脂中に分散された水溶性粒子が、研磨時に化学機械研磨用水系分散体または水に接触して溶解、脱落することにより、ポアを形成するものである。
特許文献4においては、マトリクス樹脂中に水溶性粒子を分散させた研磨パッドの有効性が示唆されてはいるものの、マトリクス樹脂としていかなる重合体を採用すれば研磨性能の向上に資するかという観点での十分な検討はなされていない。特許文献5において、マトリクス樹脂種の詳細な検討がなされ、研磨速度の向上および安定した研磨が実現され、このタイプの研磨パッドは実用の域に達した。次いで特許文献6において、マトリクス樹脂種について更なる検討がなされ、研磨速度の向上および被研磨面の表面状態の改善の要請はほぼ充たされた。
【0005】
ところで、化学機械研磨パッドは、研磨工程における被研磨物との接触、摺動によりその表面が磨耗するほか、少なくともその使用前および一定枚数の半導体ウェハの研磨をするごとに行われる「ドレッシング」と呼ばれる目立て処理によっても磨耗する。そして、研磨パッドの表面の磨耗が限界に達すると、研磨パッドは新しいものに交換されることになる。研磨パッドは、通常、500〜1,000枚の半導体ウェハを研磨するごとに交換される消耗品である。
近年、化学機械研磨工程におけるスループットの向上およびコストの削減のために、研磨パッドの交換頻度を減らしたい、すなわち研磨パッドの耐用寿命を向上したいとの要望が出されつつある。
【特許文献1】特開平11−70463号公報
【特許文献2】特開平8−216029号公報
【特許文献3】特表平8−500622号公報
【特許文献4】特開2000−33552号公報
【特許文献5】特開2000−34416号公報
【特許文献6】特開2001−334455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、研磨速度が大きく、被研磨面の表面状態に優れ、且つ耐用寿命の長い研磨パッドを製造するために好適に用いられる化学機械研磨パッド用組成物および該組成物から製造された化学機械研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本発明の上記課題は、第一に(A)1,2−ポリブタジエンを含む重合体100質量部、(B)水溶性物質を(A)重合体と(B)水溶性物質との合計体積に対して5〜80体積%、(C)有機過酸化物0.01〜10質量部または加硫剤0.1〜20質量部および(D)シリカ3〜100質量部を含む、化学機械研磨パッド用組成物によって達成される。
本発明の上記課題は第二に、上記化学機械研磨パッド用組成物から製造された化学機械研磨パッドによって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物に含有される(A)重合体は、1,2−ポリブタジエンを含有する。本発明の(A)重合体が含有することのできる1,2−ポリブタジエンの1,2−結合量としては90%以上であることが好ましい。また、1,2−ポリブタジエンの密度としては0.890〜0.915g/cmであることが好ましい。1,2−ポリブタジエンの結晶化度としては15〜35%であることが、好ましい。
【0009】
(A)重合体は、1,2−ポリブタジエンのみからなるものであってもよく、1,2−ポリブタジエンのほかに他のゴムまたは熱可塑性重合体を含有するものであってもよい。上記他のゴムとしては、例えばブタジエンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、スチレン−イソプレンゴム等を挙げることができる。上記他の熱可塑性重合体としては、例えばオレフィン系熱可塑性樹脂、スチレン系熱可塑性樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、(メタ)アクリレート系熱可塑性樹脂、ポリアミド系熱可塑性重合体およびその他の熱可塑性エラストマーを挙げることができる。
【0010】
上記オレフィン系熱可塑性樹脂としては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン−1、ポリメチルペンテン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体等;
上記スチレン系熱可塑性樹脂としては、例えばポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−α−メチルスチレン共重合体、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂等;
上記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えばSBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)ブロックコポリマー、SEBS(スチレン−[エチレン−ブテン]−スチレン)ブロックコポリマー等;
上記(メタ)アクリレート系熱可塑性樹脂としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル等;
上記ポリアミド系熱可塑性重合体としては、例えば6ナイロン、6,6ナイロン、熱可塑性ポリアミドエラストマー等;
その他の熱可塑性エラストマーとしては、例えば熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー等を、それぞれ挙げることができる。
【0011】
(A)重合体が、1,2−ポリブタジエンのほかに他のゴムまたは熱可塑性重合体を含有するものである場合における1,2−ポリブタジエンの量としては、1,2−ポリブタジエン、他のゴムおよび熱可塑性重合体の合計量に対して50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%であることが更に好ましい。
なお、(A)重合体に含有される1,2−ポリブタジエンおよび他のゴムまたは熱可塑性重合体は、酸無水物基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基等を有する化合物によって変性されたものであってもよい。
【0012】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物に含有される(B)水溶性物質は、化学機械研磨の際に化学機械研磨用水系分散体と接触することにより研磨パッドから脱離し、水系分散体を保持するポアを形成する機能を有する。水溶性物質の脱離は、水系分散体との接触により溶解して脱落する場合のほか、水系分散体中の水等によって膨潤し、ゾル状となることによって遊離するものであってもよい。
かような水溶性物質は粒子状であることが好ましく、例えば有機水溶性物質および無機水溶性物質からなる粒子を挙げることができる。上記有機水溶性物質としては、例えばデキストリン、シクロデキストリン、マンニット、糖類(乳糖等)、セルロース類(ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等)、でんぷん、蛋白質、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、水溶性の感光性樹脂、スルフォン化ポリイソプレン、スルフォン化イソプレン共重合体等を挙げることができる。上記無機水溶性物質としては、酢酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、リン酸カリウム、硝酸マグネシウム等を挙げることができる。これらの水溶性物質は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
(B)水溶性物質としては、シクロデキストリン、デキストリン、マンニットまたは糖類からなる水溶性粒子が好ましく、シクロデキストリンからなる水溶性粒子がより好ましい。
(B)水溶性物質が粒子状である場合、その粒径は0.1〜500μmであることが好ましく、0.5〜100μmであることがより好ましい。(B)水溶性物質の粒径をこの範囲に設定することにより、化学機械研磨時における水系分散体の保持能と研磨パッドの機械的強度のバランスに優れた化学機械研磨パッドを製造することのできる化学機械研磨パッド用組成物とすることができる。
【0014】
(B)水溶性物質の配合量は、(A)重合体と(B)水溶性物質との合計体積に対して5〜80体積%であるが、この値は好ましくは10〜60体積%であり、より好ましくは10〜40体積%である。(B)水溶性物質の配合量をこの範囲とすることにより、研磨パッド製造時の加工性に優れ、且つ研磨速度と機械的強度に優れる化学機械研磨パッドを製造することのできる組成物とすることができる。
【0015】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物には、(C)有機過酸化物または加硫剤が含有される。
上記有機過酸化物としては、例えば1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシ−イソプロピル)ベンゼン等を挙げることができる。これらのうち、ジクミルペルオキシド、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンまたは2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシンが好ましく、ジクミルペルオキシドがより好ましい。これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
本発明の化学機械研磨パッド用組成物が(C)成分として有機過酸化物を含有するものである場合、その配合量は(A)重合体100質量部に対して0.01〜10質量部であるが、この値は好ましくは0.01〜5質量部であり、より好ましくは0.01〜1質量部であり、更に0.01〜0.5質量部であることが好ましく、特に0.01〜0.25質量部であることが好ましく、就中0.01〜0.1質量部であることが好ましい。
【0016】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物が(C)成分として有機過酸化物を含有するものである場合、有機過酸化物とともに架橋助剤を併用することができる。
このような架橋助剤としては、例えば硫黄化合物、多官能性モノマー、オキシム化合物等を挙げることができる。これらの架橋助剤は単独で使用することができ、または2種以上を混合して使用することができる。
架橋助剤の配合量は、(A)重合体100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。
【0017】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物が(C)成分として加硫剤を含有するものである場合、使用できる加硫剤としては、例えば硫黄、硫黄以外の無機加硫剤、硫黄原子含有有機化合物等を挙げることができる。上記硫黄としては、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄等;上記硫黄以外の無機加硫剤としては、例えば塩化イオウ、セレン、テルル等;上記硫黄原子含有有機化合物としては、例えばモルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド化合物、チウラムジスルフィド化合物、ジチオカルバミン酸塩等を、それぞれ挙げることができる。これらの加硫剤は単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
本発明の化学機械研磨パッド用組成物が(C)成分として加硫剤を含有するものである場合、その配合量は(A)重合体100質量部に対して0.1〜20質量部であるが、この値は好ましくは0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0018】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物が(C)成分として加硫剤を含有するものである場合、加硫剤とともに加硫促進剤および加硫活性剤を併用することができる。
かかる加硫促進剤としては、例えばアルデヒドアンモニア化合物、グアニジン化合物、チオウレア化合物、チアゾール化合物、スルフェンアミド化合物、チウラム化合物、カルバミン酸塩、キサントゲン酸塩等が挙げられる。これらのうち、チアゾール化合物を使用することが好ましい。これらの加硫促進剤は単独で、または2種以上を混合して使用することができる。加硫促進剤の配合量は、加硫剤100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部以下であり、より好ましくは0.2〜10質量部である。
【0019】
上記加硫活性剤としては、例えば金属酸化物、有機酸またはその塩等を挙げることができる。上記金属酸化物としては、例えば酸化マグネシウム、酸化亜鉛、リサージ、鉛丹、鉛白等;上記有機酸またはその塩としては、例えばステアリン酸、オレイン酸、ステアリン酸亜鉛等を、それぞれ挙げることができ、特に、酸化亜鉛またはステアリン酸が好ましい。これらの加硫活性剤は単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
加硫活性剤の配合量は、加硫剤100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部以下であり、より好ましくは0.5〜10質量部である。
本発明の化学機械研磨パッド用組成物は、(C)成分として、上記有機過酸化物および加硫剤の双方を含有することができるが、どちらか一方を含有して他方を含有しないものであることが好ましく、有機過酸化物を含有して加硫剤を含有しないものであることがより好ましい。
【0020】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物に含有される(D)シリカとしては、その一次粒子径が5〜100nmであることが好ましい。ここで、(D)シリカの一次粒子系が5nm以上50nm未満である場合、本発明の化学機械研磨パッド用組成物は後述する(E)シランカップリング剤を含有することが好ましく、一方(D)シリカの一次粒子系が50〜100nmである場合、本発明の化学機械研磨パッド用組成物は(E)シランカップリング剤を含有してもしなくてもよい。
なお、上記(D)シリカの粒子径は数平均粒子径であり、粒子の走査型電子顕微鏡の観察により知ることができる。
上記(D)シリカとしては、湿式法により合成したシリカが好ましい。湿式法によるシリカの合成方法としては、ケイ酸ナトリウムと鉱酸(硫酸等)の中和反応による沈降法、アルコキシケイ素化合物を原料として加水分解反応および/または縮合反応によるゾルゲル法等を好ましく例示することができる。
【0021】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物は、更に(E)シランカップリング剤を含有することができる。(E)シランカップリング剤は、一分子内にビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、アルキル基およびアミノ基から選択される少なくとも1種の基と、アルコキシル基とをともに有する有機シラン化合物であることが好ましく、ビニル基とアルコキシル基とをともに有する有機シラン化合物であることがより好ましい。このようなシランカップリング財の具体例としては、例えばビニルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン等を挙げることができる。シランカップリング剤は、重合度が3〜7程度のオリゴマーであってもよい。
このようなシランカップリング剤の市販品としては、例えばVP Si525、VP Si225、VP Si208(以上、デグサジャパン(株)製)、Z−6519、Z−6341(以上、東レダウコーニング(株)製)等を挙げることができる。
本発明の化学機械研磨パッド用組成物が(E)シランカップリング剤を含有する場合、その含有量としては(D)シリカ100質量部に対して好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1〜20質量部であり、更に好ましくは5〜15質量部であり、特に7〜12質量部であることが好ましい。
【0022】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物は、上記のとおり、(A)1,2−ポリブタジエンを含む重合体、(B)水溶性粒子、(C)有機過酸化物または加硫剤および(D)シリカを必須成分として含有し、場合により(E)カップリング剤を含有するものであるが、本発明の特性を損なわない範囲において、更に他の添加剤を含有してもよい。このような他の添加剤としては、例えば(F)軟化剤等を挙げることができる。
上記(F)軟化剤としては、例えばアロマティック油、ナフテニック油、パラフィン油等のプロセスオイル、やし油等の植物油、アルキルベンゼンオイル等の合成油等が挙げられる。これらのうち、プロセスオイルが好ましい。上記軟化剤は単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0023】
本発明の化学機械研磨パッド用組成物を得る方法は特に限定されない。例えば、所定の成分を混練機等を用いて公知の方法により混練して得ることができる。混練機としては従来より公知のものを用いることができる。例えばロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押出機(単軸、多軸)等の混練機を挙げることができる。混練の際の温度は、使用する成分の種類により適宜に設定するべきであるが、80〜150℃程度であることが好ましい。
本発明の化学機械研磨パッドは、上記の如き組成物から製造される。その製造方法は特に限定されないが、本発明の化学機械研磨パッド用組成物を150〜190℃程度に加熱しつつ所望の形状に成形する方法、あるいはパッド用組成物を150〜190℃程度に加熱しつつシート状に成形した後に所望の形状に切断する方法等によることができる。
本発明の化学機械研磨パッドは、そのデュローD硬度が40〜80であることが好ましい。
【0024】
本発明の化学機械研磨パッドの形状としては、例えば円柱状、多角柱状等であることができ、円柱状であることが好ましい。
研磨パッドの大きさとしては、例えば円柱状のパッドである場合、その研磨面(円柱の一方の底面)の直径が例えば150〜1,200mmであることができ、特に500〜820mmであることができる。研磨パッドの厚さとしては、例えば0.5〜5.0mmであることができ、特に1.0〜3.0mm、就中1.5〜3.0mmであることができる。
本発明の化学機械研磨パッドは、その研磨面またはその裏面に適当な凹部を有することができる。凹部の形状としては、同心円状の溝、放射状の溝、円形の凹部および多角形の凹部ならびにこれらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0025】
本発明の化学機械研磨パッドは、上記のようなパッドの片面に支持層を備える多層型パッドであることもできる。
上記支持層は、化学機械研磨パッドを研磨面の裏面側で支える層である。この支持層の特性は特に限定されないが、パッド本体に比べてより軟質であることが好ましい。より軟質な支持層を備えることにより、パッド本体の厚さが薄い場合であっても、研磨時にパッド本体が浮き上がることや、研磨層の表面が湾曲すること等を防止でき、安定して研磨を行うことができる。この支持層の硬度は、パッド本体のデュローD硬度の90%以下が好ましく、さらに好ましくは50〜90%であり、特に好ましくは50〜80%であり、就中50〜70%が特に好ましい。
支持層の平面形状は、例えば円形状、多角形状等とすることができるが、研磨パッドの平面形状と同じ平面形状であり、かつ同じ大きさであることが好ましい。支持層の厚さとしては、0.1〜5mmであることが好ましく、0.2〜2.0mmとすることがより好ましい。
上記した如き本発明の化学機械研磨パッドは、後述する実施例から明らかなとおり、高い研磨速度で高品位の被研磨面を与えることができ、且つ耐摩耗性に優れ、耐用寿命の長いものである。
【実施例】
【0026】
実施例1
[1]化学機械研磨パッド用組成物の調製
80〜110℃に調温された3Lニーダーに、(A)成分としてRB810(商品名、JSR(株)製、1,2−ポリブタジエン)100質量部、(B)成分としてデキシーパール100(商品名、(株)横浜国際バイオ研究所製、β−シクロデキストリン、平均粒子径15μm)を(A)成分と(B)成分との合計体積に対して50体積%に相当する量、(D)成分としてNipsil VN3(商品名、東ソー・シリカ(株)製、シリカ、一次粒子径16nm)45質量部および(E)成分としてVP Si525(商品名、デグサジャパン(株)製、平均重合度5のビニルトリエトキシシランのオリゴマーである。)4.5質量部を投入し、4分間混練した。次いで(C)成分としてパークミルD−40(商品名、日本油脂(株)製、ジクミルペルオキシドを40質量%含有する。)0.25質量部(純ジクミルペルオキシド換算で0.1質量部に相当する。)を添加し、更に一分間混練して化学機械研磨パッド用組成物を得た。
[2]化学機械研磨パッドの製造
この組成物をパッド成型用金型にセットし、170℃で18分間加熱して、直径60cm、厚さ2.8mmの成形体を得た。次いでこの成形体の研磨面となるべき面に、加藤機械(株)製の切削加工機を用いて、溝幅0.5mm、溝深さ1.4mm、ピッチ4.0mmの同心円状の溝を形成し、化学機械研磨パッドを製造した。
【0027】
[3]研磨性能の評価
上記で製造した化学機械研磨パッドを、化学機械研磨装置((株)荏原製作所製、型式「EPO112」)に装着し、表面にPETEOS膜(テトラエチルオルトシリケートを原料として、促進条件としてプラズマを利用して化学気相成長法により成膜した酸化シリコン膜である。)が形成された直径8インチのウェハを300枚準備し、これを被研磨膜として下記の条件において化学機械研磨を連続して行った。
化学機械研磨用水系分散体:SS−25(商品名、キャボット・マイクロエレクトロニクス社製)をイオン交換水で2倍に希釈した水系分散体。
水系分散体供給速度:150mL/分
ヘッド押し付け圧:250hPa
定盤回転数:70rpm
ヘッド回転数:70rpm
研磨時間:60秒/枚
【0028】
(3−1)研磨速度の評価
研磨速度は、電気伝導式膜厚測定機(KLA−TENCOR社製、形式「オムニマップRS75)を用いて以下の手順にて評価した。
被研磨膜である8インチPETEOS膜付きウェハについて、外周5mmを除いて直径方向に均等に21点の特定点を設定し、これら特定点について研磨前後のPETEOS膜の厚さの差と研磨時間から各点における研磨速度を算出し、その平均値をもって研磨速度とした。研磨速度は、連続して研磨されたウェハ50枚目ごとに評価し、6回の評価の平均を研磨速度としたところ、その値は282nm/分であった。
(3−2)研磨速度の面内均一性の評価
上記21点の特定点における研磨前後のPETEOS膜の厚さの差(この値を「研磨量」とする。)を用いて、下記の計算式により研磨量の面内均一性を算出した。
研磨量の面内均一性(%)=(研磨量の標準偏差÷研磨量の平均値)×100
研磨速度の面内均一性は、連続して研磨されたウェハ50枚目ごとに評価し、6回の評価の平均をとったところ、その値は4.6%であった。
【0029】
(3−3)スクラッチの評価
化学機械研磨後の被研磨面につき、欠陥検査装置(KLA−TENCOR社製、型式「KLA2351」)を用いて下記のように欠陥検査を行った。
先ず、ピクセルサイズ0.62μm、しきい値(threshold)30の条件で、化学機械研磨後のウェハ被研磨面の全範囲について、欠陥検査装置が欠陥としてカウントした数を計測した。次いで、これらの欠陥をランダムに100個抽出して装置のディスプレイ上に表示して観察し、欠陥がスクラッチであるか否かを見極め、欠陥総数中に占めるスクラッチの割合を算出し、これよりウェハ全面あたりのスクラッチ数を算出した。
スクラッチは、連続して研磨されたウェハ50枚目ごとに評価し、6回の評価の平均をとったところ、1個/面であった。
(3−4)研磨パッドの寿命(磨耗速度)の評価
上記化学機械研磨パッドの製造直後およびウェハ300枚連続研磨後の溝深さを三次元測定機((株)ミツトヨ製、型式「FJ905」)で測定し、溝深さの減少量を総研磨時間(300分)で除した値を磨耗速度としたところ、磨耗速度は0.58μm/分であった。
【0030】
実施例2〜14、比較例1〜5
(A)ないし(E)成分の種類および使用量ならびに組成物混練時のニーダーの調温温度範囲を表1ないし4のとおりとしたほかは実施例1と同様にして化学機械研磨パッドを製造し、評価した。結果を表1ないし4に示す。
なお実施例7においては、加硫活性剤は2種類を併用し、加硫剤(硫黄)、加硫促進剤および加硫活性剤は同時に添加した。
比較例6
化学機械研磨パッドとして、IC1010(ローム・アンド・ハース・エレクトロニック・マテリアルズ社製)を用い、実施例1と同様にして研磨性能の評価を行った。その結果、研磨速度は287nm/分、研磨速度の面内均一性は6.5%、スクラッチは20個/面および磨耗速度は0.41μm/分であった。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
なお、上記表中、各成分の略称はそれぞれ以下を表す。
(A)重合体
RB810:商品名、JSR(株)製、1,2−ポリブタジエン(1,2−結合量90%、結晶化度18%)
RB820:商品名、JSR(株)製、1,2−ポリブタジエン(1,2−結合量92%、結晶化度25%)
RB830:商品名、JSR(株)製、1,2−ポリブタジエン(1,2−結合量93%、結晶化度29%)
(B)水溶性物質
WSP:商品名「デキシーパールβ−100」、(株)横浜国際バイオ研究所製、β−シクロデキストリン(平均粒系15μm)
(C)架橋剤または加硫剤
D−40:商品名「パークミルD−40」、日本油脂(株)製、ジクミルペルオキシドを40質量%含有する。
硫黄:鶴見化学工業(株)製、粉末硫黄
加硫促進剤
Acc DM:商品名「ノクセラーDM」、大内新興化学工業(株)製、ジベンゾチアジルジスルフィド
加硫活性剤
ステアリン酸:商品名「ルナックS−30」、花王(株)製、ステアリン酸
ZnO:商品名「酸化亜鉛2種」、ハイスイテック(株)製、酸化亜鉛
【0036】
(D)シリカ
Nipsil VN3:商品名「Nipsil VN3」、東ソー・シリカ(株)製、シリカ(一次粒子径16nm)
シリカA:試作品シリカ(一次粒子径52nm)
Nipsil E−743:商品名「Nipsil E−743」、東ソー・シリカ(株)製、特殊シリカ(一次粒子径67nm)
シリカB:試作品シリカ(一次粒子径95nm)
(E)シランカップリング剤
VP Si525:商品名、デグサジャパン(株)製、重合度5のビニルトリエトキシシランのオリゴマー
【0037】
(B)水溶性物質の使用量は、(A)成分と(B)水溶性物質との体積との合計量に対する体積(%)で示した。また、(C)成分が「D−40」である場合の使用量は、純ジクミルペルオキシドに換算した値を示した。
表中の「−」は、その欄に対応する成分を使用しなかったことを示す。
比較例2および4は組成物の混りができず、化学機械研磨パッドを製造することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1,2−ポリブタジエンを含む重合体100質量部、(B)水溶性物質を(A)重合体と(B)水溶性物質との合計体積に対して5〜80体積%、(C)有機過酸化物0.01〜10質量部または加硫剤0.1〜20質量部および(D)シリカ3〜100質量部を含むことを特徴とする、化学機械研磨パッド用組成物。
【請求項2】
(D)シリカの一次粒子径が5〜100nmである、請求項1に記載の化学機械研磨パッド用組成物。
【請求項3】
更に(E)シランカップリング剤を(D)シリカ100質量部に対して1〜20質量部含む、請求項1に記載の化学機械研磨パッド用組成物。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載の化学機械研磨パッド用組成物から製造された化学機械研磨パッド。
【請求項5】
デュローD硬度が40〜80である、請求項4に記載の化学機械研磨パッド。

【公開番号】特開2007−318074(P2007−318074A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9534(P2007−9534)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】