説明

化学気相成長用原料及びルテニウム化合物

【課題】熱安定性を向上させた(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を含有してなる化学気相成長用原料を提供すること。また、室温域で液体の(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を含有してなる化学気相成長用原料を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表される(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を化学気相成長用原料として用いる。


(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表し、R2は、R1が水素原子の場合は、メチル基又はエチル基を表し、R1がメチル基の場合は、メチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の構造を有する(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を含有してなる化学気相成長用原料及び新規ルテニウム化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウム及び酸化ルテニウム等のルテニウム含有薄膜は、ドライエッチング加工が可能であるため主に電子デバイスの電極材料として有用である。このようなルテニウム含有薄膜の形成方法としては、Chemical Vapor Deposition法(以下CVD法という)やAtomic Layer Deposition法(以下ALD法という)が、組成制御性、段差被覆性に優れること、量産化に適すること、ハイブリッド集積が可能であること等多くの長所を有しているので有効である。
【0003】
CVD法、ALD法において、薄膜にルテニウムを供給するプレカーサとしては、種々の揮発性のルテニウム化合物が使用されており、シクロペンタジエン、シクロオクタジエン、アレーン等の環状不飽和炭化水素を有機配位子としたルテニウム化合物が種々報告されている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、ルテニウム薄膜を低温製造し得る方法として、(1,5−オクタジエン)(トルエン)を使用したMOCVD法が開示されている。また、特許文献1には、ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを使用したCVD法におけるインキュベーション短縮化のための添加剤として、240℃以下で分解する(1,5−シクロオクタジエン)(1,3,5−シクロオクタトリエン)ルテニウム、(1,5−シクロオクタジエン)(1,3,5−シクロヘプタトリエン)ルテニウム、(トルエン)(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウムが開示されている。
【0005】
また、環状不飽和炭化水素を有機配位子としたルテニウム化合物は、高分子や有機合成の触媒として知られている。特許文献2には、2−ヘキセン−1,6−ジアールを製造する方法の触媒として、(η−シクロオクタジエン)(η−シクロオクタトリエン)ルテニウム、(η−ベンゼン)(η−1,3−シクロヘキサジエン)ルテニウム、ビス(エテン)(η−ヘキサメチルベンゼン)ルテニウム、(η−シクロオクタジエン)(η−ヘキサメチルベンゼン)ルテニウム、(η−ベンゼン)(η−シクロオクタジエン)ルテニウム、(η−ベンゼン)(η−ノルボルナジエン)ルテニウム、(η−シクロオクタジエン)(η−1,3,5−トリメチルベンゼン)ルテニウム、(η−ノルボルナジエン)(η−1,3,5−トリメチルベンゼン)ルテニウム、(η−シクロオクタジエン)(η−トルエン)ルテニウム、(η−シクロオクタジエン)(η−キシレン)ルテニウム、(η−シクロオクタジエン)(η−シクロヘプタトリエン)ルテニウム、(η−シクロヘプタジエン)(η−シクロヘプタトリエン)ルテニウム、ビス(シクロヘキサジエニル)ルテニウム、ビス(ヘキサメチルベンゼン)ルテニウムが開示されている。
【0006】
しかし、(1,5−オクタジエン)(トルエン)ルテニウムは、低温分解性であり、低温成膜が可能であるが、その反面熱安定性が不良であり、CVD法、ALD法(以下、本発明では、あわせて化学気相成長法という)において、パーティクル発生等の不具合を有している。また、(1,5−オクタジエン)(トルエン)ルテニウムは、室温で固体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−169725号公報(特に請求項3)
【特許文献2】特開平5−97759号公報(特に[0009]段落)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Chem. Vap. Deposition 2005,11, No.2, p99-105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱安定性を向上させた(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を含有してなる化学気相成長用原料を提供することにある。また、室温域で液体の(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を含有してなる化学気相成長用原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、検討を重ねた結果、特定の構造を有する(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を化学気相成長用原料として用いることにより、上記目的を達成し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0011】
本発明は、下記一般式(1)で表される(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を含有してなる化学気相成長用原料を提供するものである。
【0012】
【化1】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表し、R2は、R1が水素原子の場合は、メチル基又はエチル基を表し、R1がメチル基の場合は、メチル基を表す。)
【0013】
また、本発明は、下記式(2)で表される新規(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を提供するものである。
【0014】
【化2】

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱安定性の改善された(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物、更に室温域で液体の(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を含有してなる化学気相成長用原料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1において得られた本発明に係るルテニウム化合物(化合物No.1)の1H−NMRチャートを示す。
【図2】図2は、実施例2において得られた本発明に係るルテニウム化合物(化合物No.2)の1H−NMRチャートを示す。
【図3】図3は、実施例3において得られた本発明に係るルテニウム化合物(化合物No.3)の1H−NMRチャートを示す。
【図4】図4は、本発明に係るルテニウム薄膜の形成に用いられるCVD装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の化学気相成長用原料は、上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物を薄膜のプレカーサとして含有する。一般式(1)で表されるルテニウム化合物は、具体的には、下記式で表される化合物No.1、化合物No.2及び化合物No.3(上記式(2)で表わされる化合物)である。
【0018】
【化3】

【0019】
上記ルテニウム化合物のうち、化合物No.1と化合物No.2は、特に熱安定性が良好である。
【0020】
上記ルテニウム化合物のうち、化合物No.3は、室温域で液体である新規化合物である。化合物No.3は、化学気相成長用原料のプレカーサ以外に、各種合成触媒、重合触媒として使用することができる。
【0021】
これらのルテニウム化合物は、周知の化学反応を応用して製造することができる。製造方法としては、例えば、亜鉛と1,5−シクロオクタジエンとメタノールの混合系に、三塩化ルテニウムを加え反応させて、中間体である(1,5−シクロオクタジエン)(1,3,5−シクロオクタトリエン)ルテニウムを合成し、これにη6−アレーンを加え、水素の存在下で撹拌することにより、本発明に係るルテニウム化合物を製造する方法が挙げられる。
【0022】
本発明の化学気相成長用原料は、上記のルテニウム化合物を含有するものであるが、その形態は使用される化学気相成長法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
【0023】
本発明の化学気相成長用原料を輸送供給する(原料導入工程)方法としては、化学気相成長用原料を原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に堆積反応部へと導入する気体輸送法、化学気相成長用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて堆積反応部へと導入する液体輸送法が挙げられる。気体輸送法の場合は、上記のルテニウム化合物そのものが化学気相成長用原料となり、液体輸送法の場合は、上記のルテニウム化合物そのもの、又はこれを有機溶剤に溶かした溶液が化学気相成長用原料となる。
【0024】
また、多成分系薄膜を形成する場合の多成分系化学気相成長法においては、化学気相成長用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、シングルソース法という)と、多成分原料をあらかじめ所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、カクテルソース法という)がある。カクテルソース法の場合、上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物と他のプレカーサとの混合物或いはこれらの混合物に有機溶剤を加えた混合溶液が化学気相成長用原料である。
【0025】
また、上記一般式(1)で表わされるルテニウム化合物とは構造の異なる、他のルテニウム化合物を主成分とする化学気相成長用原料に、一般式(1)で表されるルテニウム化合物を添加剤的に必要量(他のルテニウム化合物1モル部に対し、好ましくは一般式(1)で表わされるルテニウム化合物0.0001〜0.05モル部)使用したものも本発明の化学気相成長用原料である。このような他のルテニウム化合物の一つとして、例えば、特許文献1(特開2007−169725号)に記載のビス(エチルシクロペンタジエン)ルテニウムが挙げられる。
【0026】
本発明の化学気相成長用原料に使用される有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤で、且つ本発明に係るルテニウム化合物に対し反応しないものを用いることが出来る。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;N−メチル−2−ピロリジノン、N−エチル−2−ピロリジノン、N−シクロヘキシル−2−ピロリジノン等の有機アミド類;ピリジン、ルチジンが挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は2種類以上の混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中における、本発明に係るルテニウム化合物を含むプレカーサ成分の合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。また、使用する有機溶剤の沸点は60℃以上が好ましい。
【0027】
上記の一般式(1)で表されるルテニウム化合物以外のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物及び有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される1種又は2種以上と金属元素との化合物が挙げられる。プレカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1族元素;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の2族元素;スカンジウム、イットリウム、ランタノイド元素(ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテニウム)、アクチノイド元素等の3族元素;チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムの4族元素;バナジウム、ニオブ、タンタルの5族元素;クロム、モリブデン、タングステンの6族元素;マンガン、テクネチウム、レニウムの7族元素;鉄、ルテニウム、オスミウムの8族元素;コバルト、ロジウム、イリジウムの9族元素;ニッケル、パラジウム、白金の10族元素;銅、銀、金の11族元素;亜鉛、カドミウム、水銀の12族元素;アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムの13族元素;ケイ素、ゲルマニウム、錫、鉛の14族元素;砒素、アンチモン、ビスマスの15族元素;ポロニウムの16族元素が挙げられる。
【0028】
上記の有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、第3ブタノール、アミルアルコール、イソアミノアルコール、第3アミノアルコール等のアルキルアルコール類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−メトキシ−1−メチルエタノール、2−メトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエタノール、2−プロポキシ−1,1−ジエチルエタノール、2−第2ブトキシ−1,1−ジエチルエタノール、3−メトキシ−1,1−ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;N,N−ジメチルアミノエタノール、1,1−ジメチルアミノ−2−プロパノール、1,1−ジメチルアミノ−2−メチル−2−プロパノール等のジアルキルアミノアルコール類が挙げられる。
【0029】
上記の有機配位子として用いられるグリコール化合物としては、例えば、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,4−ヘキサンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0030】
上記の有機配位子として用いられるβ−ジケトン化合物としては、例えば、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、5−メチルへキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、2−メチルヘプタン−3,5−ジオン、5−メチルヘプタン−2,4−ジオン、6−メチルヘプタン−2,4−ジオン、2,2−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6−トリメチルヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオン、オクタン−2,4−ジオン、2,2,6−トリメチルオクタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルオクタン−3,5−ジオン、2,2−ジメチル−6−エチルオクタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチルオクタン−3,5−ジオン、2,9−ジメチルノナン−4,6−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ノナンジオン、2−メチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン、2,2−ジメチル−6−エチルデカン−3,5−ジオン等のアルキル置換β−ジケトン類;1,1,1−トリフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,3−ジパーフルオロへキシルプロパン−1,3−ジオン等のフッ素置換アルキルβ−ジケトン類;1,1,5,5−テトラメチル−1−メトキシへキサン−2,4−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−メトキシヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−(2−メトキシエトキシ)ヘプタン−3,5−ジオン等のエーテル置換β−ジケトン類が挙げられる。
【0031】
上記の有機配位子として用いられるシクロペンタジエン化合物としては、例えば、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン、プロピルテトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0032】
上記の有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、第2ブチルアミン、第3ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン、ビス(トリメチルシリル)アミン等が挙げられる。
【0033】
また、本発明の化学気相成長用原料には、必要に応じて、一般式(1)で表わされるルテニウム化合物及び他のプレカーサ(以下、プレカーサ成分ともいう)に安定性を付与するため、求核性試薬を含有させてもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類;18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類;ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類;アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ−ジケトン類等が挙げられる。またプレカーサ成分に安定性を付与させる、他の求核性試薬としては、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類;サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類が挙げられる。これらの求核性試薬の使用量は、プレカーサ成分1モルに対して0.05モル〜10モルの範囲で使用され、好ましくは0.1〜5モルで使用される。
【0034】
本発明の化学気相成長用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素等の不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにする。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIの電極膜、導電膜、バリア層として用いる場合は、得られる電薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及び同属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が更に好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましい。また、水分は、化学気相成長用原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、プレカーサ成分、有機溶剤、及び求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。プレカーサ成分、有機溶剤、及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下が更に好ましい。
【0035】
また、本発明の化学気相成長用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、固体状の不純物粒子であるパーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが更に好ましい。
【0036】
本発明の化学気相成長用原料を使用した化学気相成長法によるルテニウム薄膜の製造方法は、上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物、必要に応じて用いられる他のプレカーサを気化させたガスと必要に応じて用いられる反応性ガスを基板上に導入し、次いで、当該ルテニウム化合物、必要に応じて用いられる他のプレカーサを基板上で分解及び/又は反応させて所望の薄膜を基板上に成長、堆積させるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法を用いることができる。
【0037】
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化ルテニウム等の酸化物を製造するものとしては酸化性ガスである酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、ルテニウム等の金属性薄膜を製造するものとしては、還元性ガスである水素が挙げられ、また、窒化ルテニウム等の窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア、窒素等が挙げられる。これらの反応性ガスは混合して使用してもよい。
【0038】
また、上記の輸送供給方法としては、前記に記載の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
【0039】
また、上記の堆積方法としては、上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物(及び他のプレカーサガス)又は当該ルテニウム化合物(及び他のプレカーサガス)と反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD,熱とプラズマを使用するプラズマCVD、熱と光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALD法が挙げられる。
【0040】
また、上記の製造条件としては、反応温度(基板温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、ルテニウム化合物が充分に反応する温度である100℃以上が好ましく150〜450℃がより好ましい。また、反応圧力は、大気圧〜100Paが好ましく、プラズマを使用する場合は、50〜100Paが好ましい。また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度及び気化圧力)、反応温度及び反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.2〜40.0nm/分が好ましく、1.0〜25.0nm/分がより好ましい。また、ALD法の場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
【0041】
例えば、ルテニウム薄膜をALD法により形成する場合は、前記で説明した原料導入工程の次に、堆積反応部に導入した上記一般式(1)で表されるルテニウム化合物により、基体上に前駆体薄膜を成膜させる(前駆体薄膜成膜工程)。このときに、基体を加熱するか、堆積反応部を加熱して、熱を加えてもよい。この工程で成膜される前駆体薄膜は、当該ルテニウム化合物薄膜、又は、これの一部が分解及び/又は反応して生成した薄膜であり、目的の薄膜組成とは異なる組成を有する。本工程が行われる温度は、室温〜250℃が好ましい。
【0042】
次に、堆積反応部から、未反応のプレカーサガスや副生したガスを排気する(排気工程)。未反応のプレカーサガスや副生したガスは、堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。減圧する場合の減圧度は、10〜200Paが好ましい。
【0043】
次に、堆積反応部に還元性ガスを導入し、還元性ガス、還元性ガス及び熱の作用により、先の前駆体薄膜成膜工程で得た前駆体薄膜からルテニウム薄膜を形成する(ルテニウム薄膜形成工程)。本工程において熱を作用させる場合の温度は、100℃より低いとルテニウム薄膜中に不純物が多く含まれる場合があり、500℃を超えた温度にしても、得られる薄膜の膜質の向上は見られないので、100〜500℃が好ましい。本発明に係るルテニウム化合物は、反応性が良好であり、150〜450℃で膜質の良好なルテニウム薄膜を得ることができる。
【0044】
上記の原料導入工程、前駆体薄膜成膜工程、排気工程、及びルテニウム薄膜形成工程からなる一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返してもよい。この場合、1サイクル行った後、上記排気工程と同様にして、堆積反応部から、未反応のプレカーサガス、及び還元性ガス、並びに更に副成したガスを排気した後、次の1サイクルを行うことが好ましい。
【0045】
また、ルテニウム薄膜のALD法による形成においては、プラズマ、光、電圧等のエネルギーを印加してもよい。これらのエネルギーを印加する時期は、特には限定されず、例えば、原料導入工程におけるルテニウムプレカーサ導入時、前駆体薄膜成膜工程における加温時、排気工程における系内の排気時、ルテニウム薄膜形成工程における還元性ガス導入時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
【0046】
本発明に係る薄膜形成方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な膜質を得るために不活性雰囲気下、又は反応性ガス雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、400〜1200℃、特に500〜800℃が好ましい。
【0047】
本発明の化学気相成長用原料を使用して、形成製造されるルテニウム含有薄膜としては、例えば、ルテニウム、酸化ルテニウム、ルテニウム酸ストロンチウム薄膜が挙げられ、これらの薄膜の用途としては、電極膜、バリア膜等の電子部品及び電子部材が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。尚、文中の「部」又は、「%」とあるのは、断りのない限り質量基準である。
【0049】
[実施例1]化合物No.1からなる化学気相成長用原料の製造
アルゴン雰囲気下、塩化ルテニウム(III)3水和物1モル部をメタノールに溶解する。塩化ルテニウム(III)3水和物に対して、6.7倍(質量)の亜鉛粉末に1,5−シクロオクタジエン14モル部を添加したスラリーへ、先に調製済みの塩化ルテニウム(III)メタノール溶液を室温で滴下し、室温で30分撹拌後、加熱還流下で3時間反応させて冷却した。反応液をろ過し、脱溶媒した後、ヘキサンにて抽出を行い、m−キシレン10モル部を加え、水素雰囲気下室温で12時間撹拌した。反応液をろ過、濃縮した後、アルミナカラムクロマトグラフィー(展開溶媒ヘキサン)にて精製して得た結晶を、ヘキサンにて再結晶を行い、目的物である化合物No.1を収率2.2%で得た。得られた化合物について、重ベンゼン溶媒中の1H−NMRの測定を行った。結果を図1に示す。
【0050】
[実施例2]化合物No.2からなる化学気相成長用原料の製造
m−キシレンを1,2,4−トリメチルベンゼンに換えた以外は、上記実施例1と同様の操作により、化合物No.2を収率1.3%で得た。重ベンゼン中の1H−NMR測定の結果を図2に示す。
【0051】
[実施例3]化合物No.3からなる化学気相成長用原料の製造
m−キシレンをm−エチルトルエンに換え、再結晶をしない以外は、上記実施例1と同様の操作により、化合物No.3を収率7.1%で得た。重ベンゼン中の1H−NMR測定の結果を図3に示す。
【0052】
[評価例1〜8]揮発性の評価
上記の実施例1〜3で得た化合物No.1〜3からなる化学気相用成長用原料、及び下記式で表される比較化合物1〜5について、それぞれTG−DTAにより、融点、揮発性及び熱安定性の評価を行った。測定条件は、アルゴン100ml/min、10℃/min昇温で行い、揮発性の評価は、重量減少が終了し恒量となった温度、熱安定性は恒量温度での残分で行った。尚、サンプル量は、8mg〜12mgであった。
【0053】
【化4】

【0054】
【表1】

【0055】
上記表1より、化合物No.1及び化合物No.2は、類似化合物である比較化合物1〜5の何れよりも良好な熱安定性を示すことが確認できた。また、化合物No.3は、類似化合物である比較化合物1、2、4、及び5よりも良好な熱安定性を示し、比較化合物3と同等の熱安定性を示すことが確認できた。化合物No.3は、液体である比較化合物2及び比較化合物4よりも、熱安定性と揮発性が良好であることが確認できた。
【0056】
[評価例9]ルテニウム薄膜の製造
図4に示すCVD装置を用いて、シリコン基板上に以下の条件で、ルテニウム薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚と膜組成を蛍光X線で確認した。
(製造条件)
化学気相成長用原料:化合物No.1、原料温度:100℃、原料流量:100sccm、キャリアガス;アルゴン200sccm、還元性ガス:水素300sccm、反応圧力600Pa、反応温度(基盤温度):300℃、成膜時間:30分。
(結果)
膜厚;50nm、膜組成;ルテニウム
【0057】
[評価例10]ルテニウム薄膜の製造
図4に示すCVD装置を用いて、シリコン基板上に以下の条件で、ルテニウム薄膜を製造した。製造した薄膜について、膜厚と膜組成を蛍光X線で確認した。
(製造条件)
化学気相成長用原料:化合物No.3、原料温度:100℃、原料流量:100sccm、キャリアガス;アルゴン200sccm、還元性ガス:水素300sccm、反応圧力600Pa、反応温度(基盤温度):300℃、成膜時間:30分。
(結果)
膜厚;45nm、膜組成;ルテニウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物を含有してなる化学気相成長用原料。
【化1】

(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表し、R2は、R1が水素原子の場合は、メチル基又はエチル基を表し、R1がメチル基の場合は、メチル基を表す。)
【請求項2】
下記式(2)で表される新規(1,5−シクロオクタジエン)(η6−アレーン)ルテニウム化合物。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−106008(P2011−106008A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264493(P2009−264493)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】