説明

化学浴析出装置

【課題】光電変換素子のバッファ層として、低コストに、かつ、より高い品質のバッファ層を得る。
【解決手段】化学浴析出装置1において、成膜用基板10の成膜面10aに対して膜を化学浴析出させるための反応液2を蓄える反応槽3と、成膜用基板10の裏面が密着固定されるステンレスからなる固定面21aを有し、少なくとも成膜面10aを反応液2に接触させるように成膜用基板10を保持する基板保持部20と、成膜用基板10をその裏面側から加熱する、固定面21aの裏側に装着されたヒーター30と、反応槽3中の反応液2の温度を制御する反応液温度制御部40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子のバッファ層の製造等に用いられる化学浴析出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光電変換層とこれに導通する電極とを備えた光電変換素子が、太陽電池等の用途に使用されている。従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Siまたは多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発がなされている。化合物半導体系太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCISあるいはCIGS系等の薄膜系とが知られている。CI(G)Sは、一般式Cu1−zIn1−xGaSe2−y(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)で表される化合物半導体であり、x=0のときがCIS系、x>0のときがCIGS系である。本明細書では、CISとCIGSとを合わせて「CI(G)S」と表記してある。
【0003】
CI(G)S系等の従来の薄膜系光電変換素子においては一般に、光電変換層とその上に形成される透光性導電層(透明電極)との間にバッファ層(CdSなどのCd系化合物、Zn(O,OH,S)などのZn系化合物)が設けられている。かかる系では通常、バッファ層は化学浴析出(CBD:Chemical Bath Deposition)法により成膜されている。
【0004】
バッファ層の役割としては、(1)光生成キャリアの再結合の防止、(2)バンド不連続の整合、(3)格子整合、及び(4)光電変換層の表面凹凸のカバレッジ等が考えられる。CI(G)S系等では光電変換層の表面凹凸が比較的大きく、特に(4)の条件を良好に充たすために、液相法であるCBD法が好ましいと考えられる。
【0005】
CBD法では、所定温度に加熱した反応液中に光電変換層を表面に備えた基板を浸漬させることにより光電変換層上にバッファ層を成膜する方法が一般的である。
他方、CBD法においては、光電変換層へのバッファ層析出と同時に、反応液中で粒子(コロイド)が発生し、この粒子が成膜面に付着してしまうという問題や、反応液を繰り返し使用できないために、低コスト化が困難であり、また量産性が低いという問題がある。なお、成膜面に粒子が付着したバッファ層を用いて光電変換素子を形成した場合に光電変換素子の性能劣化を引き起こす恐れもある。
【0006】
特許文献1には、量産化を図ったCdSの生成方法および装置が開示されている。具体的には、基板ホルダの温度を基板上にCdSが生成する温度(例えば、60℃)に設定すると共に、溶液温度はCdSの生成反応が起こらない温度(40℃以下)に維持してCdSを成膜する方法が提案されている。また、これにより、基板以外の部分にCdSが生じず、連続成膜が可能となる旨記載されている。
【0007】
特許文献2には、材料溶液使用量を低減して低コスト化を実現するための成膜方法が開示されている。具体的には、基板表面に溶液を必要量滴下し、基板を保持する保持部を加熱する装置が提案されている。これにより、溶液使用量を低減すると共に、基板の温度分布を高精度に制御することができ、膜厚分布や膜質分布に優れ、成膜速度を短縮したプロセスを提供することができる旨記載されている。
【0008】
特許文献3には、反応液は加熱せず、基板を保持する保持部を加熱する方法が提案されており、これにより反応液中における粒子の生成を抑制することができる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−240385号公報
【特許文献2】特開2009−259938号公報
【特許文献3】米国特許出願公開2011/0027938号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1から3に記載のCBD方法、装置であれば、反応液中の粒子の発生を抑制することができるため、成膜面への粒子の付着を低減すると共に、反応液の繰り返し使用を可能として低コスト化が可能となり、また、量産化を図ることができると考えられる。
【0011】
さらに、実用化に当たっては、より光電変換率の高い光電変換素子を得るために、より品質の高いバッファ層を成膜することができる装置が求められている。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、反応液中における粒子の発生を抑制して低コスト化を図ることができ、より品質の高いバッファ層を実現できる実用的な化学浴析出装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の化学浴析出装置は、成膜用基板の成膜面に対して膜を化学浴析出させるための反応液を蓄える反応槽と、
前記成膜用基板の裏面が密着固定されるステンレスあるいはチタンからなる固定面を有し、少なくとも前記成膜面を前記反応液に接触させるように前記成膜用基板を保持する基板保持部と、
前記成膜用基板を、該成膜用基板の裏面側から加熱する、前記固定面の裏側に配設されたヒーターと、
前記反応槽中の前記反応液の温度を制御する反応液温度制御部とを備えていることを特徴とするものである。
【0014】
前記ヒーターは、前記固定面の前記成膜用基板が固定される面積よりも大きな面積に亘って設けられている面状ヒーターであることが好ましい。
【0015】
前記ヒーターは、特にラバーヒーターであることが好ましい。
【0016】
前記基板保持部が、前記成膜用基板を前記成膜面が鉛直下向き(反応槽の底面と向かい合う向き)となるように保持するものであることが好ましく、このとき、前記基板保持部の前記固定面が凸状の湾曲面であることが特に好ましい。
【0017】
あるいは、前記基板保持部が、前記成膜用基板を前記成膜面が鉛直下向きから傾くように保持するものであることが好ましい。
【0018】
また、前記基板保持部が、前記成膜用基板を前記反応槽の側壁面に対して平行に保持するものであってもよい。
【0019】
前記基板保持部が、前記固定面に固定された基板の側端面が前記反応液と接触するのを防止する端面保護部材を備えていることが好ましい。
【0020】
さらに、前記反応槽は、その内壁のうち少なくとも前記反応液と接触する部分が、疎水性材料で被覆されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の化学浴析出装置は、成膜用基板を裏面から加熱するヒーター、反応液の温度を制御する反応液温度制御部とを個別に備えているので、成膜用基板の温度と、反応液の温度とを個別に制御することができる。基板と反応液の温度を同一にして反応槽中の反応液温度の均一性をより高めることも可能であるし、基板温度を反応液よりも高く設定することにより、反応液中における粒子(コロイド)の発生を抑制すると共に、基板に選択的に成膜がなされるようにすることも可能である。粒子(コロイド)の発生抑制は、反応液の繰り返しの使用を可能とすることから、コスト抑制を達成することができる。
【0022】
成膜用基板が固定される固定面がステンレスあるいはチタンからなるため、基板加熱用のヒーターからの熱を均一にかつ高い熱伝導率で成膜用基板に伝えることができるため、基板の熱の均一性が非常に高いものとなる。したがって、成膜される層の膜厚の均一性を高めることができ、従来以上に品質の高いバッファ層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る化学浴析出装置の概略構成を示す断面図
【図2】図1に示す化学浴析出装置の斜視図
【図3】基板保持部の設計変更例を示す断面模式図
【図4】実施例4に用いられたCBD装置の概略構成を示す模式図
【図5】比較例1に用いられたCBD装置の概略構成を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係る化学浴析出装置1(以下、CBD装置1とする。)の断面模式図であり、図2は図1に示すCBD装置1の概略構成を示す斜視図である。
図1に示すように、CBD装置1は、成膜用基板10の成膜面10aに対して膜を化学浴析出させるための反応液2を蓄える反応槽3と、成膜用基板10を保持する基板保持部(基板ホルダ)20と、成膜用基板10を、その裏面側から加熱するヒーター30と、反応槽3中の反応液2の温度を制御する反応液温度制御部40とを備えている。
【0026】
基板ホルダ20は、成膜用基板10が密着固定される固定面21aを備えたステンレス板状部材21を底面とし、該板状部材21からなる底面に連続して設けられた壁面22を備えた容器状のホルダ本体23と、該ホルダ本体23に接続され、反応槽3の一部に掛止可能とされた支持部26とを備えている。
【0027】
ここで、ステンレス板状部材21の固定面21aは、本体23の外側に凸の湾曲面となるように構成されている。図1に示すように、固定面21aは、紙面左右方向のほぼ中央が最も底面に近くなる凸状に湾曲しており、成膜用基板10はこの湾曲面に沿って湾曲させて固定される。そして、成膜用基板10は成膜面が鉛直方向(図1において軸A)の下向き(反応槽の底面と向かい合う向き)となるように保持される。このとき、成膜用基板10が湾曲して固定されることにより、成膜面10aも湾曲することとなるため、成膜面10aに気泡が付着することを抑制できる。成膜中には、反応漕3内で気泡(ガス)が発生するが、この気泡が成膜面に付着すると、気泡が付着した部分にはバッファ層の析出が起こらず、完全な成膜を行うことが困難となる。すなわち、成膜固定面が平坦面で成膜面が反応液面2aに対して水平に、すなわち平坦な成膜面10aが鉛直下向きとなるように成膜用基板が保持された場合、気泡が成膜面に付着し、一部成膜不良が生じる恐れがある。一方、本実施形態のように、成膜面10aを湾曲させることにより、気泡の付着を抑えることができ、より良好な成膜を実現することができる。なお、この場合、成膜用基板10の下地基板11としては、固定面の湾曲に沿って湾曲できる程度の可撓性を有するものを用いればよい。湾曲面の好ましい曲率は、その反応槽のサイズなどによるが、曲率半径であらわすと100mm〜10000mmの範囲が好ましい。
【0028】
なお、ステンレス板状部材の材料としてはアルカリ耐性を有するSUS316(JIS規格)が最も好ましい。なお、ステンレスの表面をテフロン(登録商標)やカーボン系材料(カーボン材やSiCなどのカーボン化合物)などの耐熱性および耐アルカリ性を有する材料で被覆してもよい。
【0029】
また、本実施形態においては、基板ホルダ20は、固定面21aに成膜用基板10を、その表面(成膜面)10aのみを反応液2に接触可能なように、成膜用基板10を基板ホルダ本体23に向けて液漏れ防止治具24によって把持するよう構成されている。さらに、締め付け固定が可能な固定枠25によって、液漏れ防止治具24と把持された成膜用基板10の隙間から反応液2が侵入しないように液漏れ防止治具24と成膜用基板10を締め付け固定するよう構成されている。この液漏れ防止治具24および固定枠25により基板の側端面が反応液と接触するのを防止する端面保護部材を構成するものである。
【0030】
このように、成膜用基板10の成膜面のみを反応液2に接触可能とすることにより、成膜用基板10の最表面の層13以外の部分が反応液2に接触しないように成膜用基板10を保持することができる場合には、下地基板11として、反応液2に浸食される可能性のある基材、例えばAl基材を用いることもできる。
【0031】
ヒーター30は、ホルダ本体23のステンレス板状部材21の固定面21aの反端側の面、すなわち容器状のホルダ本体23の内側底面に、成膜用基板10より大きい領域に一様に配置されたシート状のヒーターである。特にここでは、ラバーヒーターを備えるものとしている。成膜用基板10の面積より大きい領域にラバーヒーターを備えることにより、ステンレス板状部材を介して、成膜用基板10を均一に加熱することができ、基板温度の均一性を高めることができる。基板温度の均一性が高いほど、析出される膜の膜厚均一性を高めることができ、好ましい。
【0032】
反応液温度制御部40は、反応槽3の底面に備えられた温度調整手段41と、底面付近の反応液温度を測定する温度測定部42を備えている。温度調整手段41としては、加熱および/または冷却手段を備える。加熱手段としては各種ヒーター、冷却手段としては、冷水等による水冷デバイス、ファン等の空冷デバイスの他、ヒートシンクなどを備えればよい。
なお、反応液の温度は、温度調整手段41が備えられている近傍の反応液温度で定義するものとする。
【0033】
温度調整手段41としては、別途恒温槽を備え、反応液を循環させることにより反応液の温度を一定にすることも考えられるが、反応液を循環させることにより、反応液中の粒子(コロイド)の生成を促進することとなるため、成膜中には反応液を循環させない構成がより好ましい。
【0034】
本CBD装置1は、成膜用基板10を加熱するヒーター30と、反応液の温度を制御する反応液温度制御部40とを個別に備えており、成膜用基板10の温度と、反応液の温度とを個別に制御することができる。基板と反応液の温度を同一にして反応液温度の均一性をより高めることも可能であるし、基板と反応液の温度を変化させ、例えば基板付近のみを反応温度(70−90℃付近)まで上昇させ、一方反応液温度制御部近傍の反応液の温度を反応温度よりも低くすることにより、反応液中における粒子(コロイド)の発生を抑制し、基板に選択的に成膜がなされるようにすることも可能である。
【0035】
反応槽3の内壁は、耐アルカリ性のある疎水性材料によるコーティングを施こしておくことが好ましい。この疎水性材料のコーティングを施すことにより、基板への膜析出時における、内壁へ膜析出を抑制することができる。これにより、原料の浪費やメンテナンスの手間を省くことができる。
しかしながら、疎水性材料によりコーティングを行っていても、長時間の成膜工程を経ると内壁に析出物がこびりついてくる。このような析出物は塩酸水溶液などで洗浄することにより、溶解して除去することができる。したがって、内壁をコーティングする疎水性材料は、耐アルカリ性のみならず、耐酸性を有するものであることが好ましい。このようなコーティング材料としては、テフロン(登録商標)が好適である。
【0036】
成膜用基板10が固定される固定面がステンレスからなるため、基板加熱用のヒーター30からの熱を均一にかつ高い熱伝導率で基板に伝えることができるため、基板の熱の均一性が非常に高いものとなる。したがって、成膜される層の膜厚の均一性を高めることができる。
なお、固定面を有するステンレス板状部材は、チタンからなる部材に置き換えても同様の効果を得ることができる。
【0037】
(設計変更)
図3は、基板ホルダの設計変更例20’を示す断面模式図である。上述の実施形態のCBD装置1においては、基板ホルダ20の基板固定面21aが曲面であるものとしたが、図3に示すように、ステンレス板状部材27が湾曲せず固定面27aは平坦なものとして、成膜用基板10を、その成膜面10aが鉛直下向き(反応液面2aに対して水平)から傾くように(図3の点線で示すように)保持してもよい。基板の傾斜角は1度〜30度の範囲が好ましい。基板の成膜面が水平から傾斜させると、成膜面を湾曲させた場合と同様に、光電変換半導体層13に対して気泡が付着することを抑制できる。
【0038】
基板固定面21aが曲面であるときには、成膜用基板10の下地基板11が可撓性を有するものであることを要するが、平坦な固定面27aであれば、ガラス等の非可撓性の基板を用いることも可能である。
【0039】
なお、CBD装置としては、反応液の各種原料溶液を貯留する複数の原料溶液タンク、原料溶液を混合するためのタンクを備え、混合して調製された反応液を反応槽に注入する配管ラインが備えられていることが好ましい。また、反応槽の反応液を循環させてろ過し、反応液中に生じた粒子(コロイド)等を回収した後に、溶液を再度反応槽に戻すための配管ラインを備えていることが好ましい。既述の通り、反応液の循環は粒子(コロイド)の生成を促進させるものであることから、成膜中ではなく、成膜と成膜のインターバル期間中に行うのが好ましい。
【0040】
反応液の透過率を測定する透過率測定部を備えていてもよい。この場合、予め透過率の低下と成膜膜厚との関係を調べておき、反応液の透過率をインサイチュ(in-situ)で測定し、透過率の低下量に基づいて、成膜を終了するようにすることができる。
【0041】
反応液のpHを測定するpH測定部を備えていてもよい。この場合、予めpHの変化と成膜膜厚との関係を調べておき、反応液のpHをインサイチュで測定し、pHの変化量に基づいて、成膜を終了するようにすることができる。
【0042】
あるいは、反応液の電気伝導度を測定する電気伝導度測定部を備えていてもよい。この場合、予め電気伝導度の変化と成膜膜厚との関係を調べておき、反応液の電気伝導度をインサイチュで測定し、電気伝導度の変化量に基づいて、成膜を終了するようにすることができる。
【0043】
なお、透過率、pH、電気伝導度の変化は、反応液の使用限界の検出に用いてもよい。また、単なる反応液の交換のタイミングのみならず、フレッシュな反応液、あるいはリサイクル溶液を追加添加するタイミングの判定にも用いるようにしてもよい。
【0044】
CBD装置1においては、基板ホルダを始め、CBD液が接触する可能性のある金属部分には、アルカリ耐性がある素材、例えばSUS316を用いることが好ましい。反応槽3の内壁はテフロン(登録商標)コーティングしてあることが好ましい。
【0045】
なお、図1に示すCBD装置1において、バッチ式の成膜を行う場合、基板ホルダを回転可能に構成し、成膜中に基板ホルダを回転させるようにすれば析出ムラをより抑制することができ、膜の均一性をさらに高めることができると考えられる。
【0046】
CBD装置1は、塵挨混入の観点等から図示しない筐体内に配置される。このとき、筐体の一部にはアルカリ性の気体を排気するための排気口が設けられていることが好ましい。
また、筐体には帯電防止機能が付与されていることが、塵挨付着を防止する観点から好ましい。帯電防止機能は、筐体に帯電防止剤が塗布されて付与されるものであってもよいし、導電性素材が練り込まれた樹脂材料から筐体を形成することによって付与されるものであってもよい。
【0047】
図1に示したCBD装置1は、バッチ式の成膜を行う形態を想定し、基板ホルダ20に矩形状の基板を1枚ずつ装着するよう構成されている。しかしながら、本発明は、バッチ式に限るものではなく、ロール・トゥ・ロール式の成膜においても適用できる。基板ホルダが、ロール状基板の一領域を順次装着できる機構を有するものであればよい。具体的には、固定面を備えたステンレス板状部材に代えて、ステンレス製の回転式ドラム形状のホルダ本体を有する基板ホルダとし、ドラム表面を固定面順次長尺基板の一領域が装着するように構成し、ドラム内側にヒーターを備えるようにすればよい。
【0048】
本発明のCBD装置は、基板上に下部電極、光電変換半導体層、バッファ層および透明電極を積層してなる光電変換素子のバッファ層の成膜に好適に用いることができる。図1に示す実施形態のCBD装置1を用い、基板上に下部電極および光電変換半導体層が形成されてなるものを成膜用基板10として、最表面となる光電変換半導体層13上にバッファ層を成膜する方法について簡単に説明する。
【0049】
反応槽3内の反応液2の温度を反応液温度制御部40により、一定温度(例えば40℃)に設定する。
他方、反応槽3の外部において、成膜用基板10を基板ホルダ20の固定面21aに固定する。その後、ヒーター30をオンにして基板10を加熱する。基板10の加熱温度は、例えば90℃に設定する。その後、基板ホルダ20により基板10を反応液2中に浸漬させる。
【0050】
基板10を、反応槽3の底面に対向するように、少なくともその成膜面10aが反応液2に接触するように一定時間保持することにより、光電変換半導体層13上にバッファ層を析出させる。
バッファ層析出中も基板10はヒーター30により一定温度(90℃)に維持される。他方反応液2の温度は反応液温度制御部40によりやはり一定温度(40℃)に維持される。なお、反応液は溶液中で温度分布が生じることとなるが、反応液2の温度は既述の通り、少なくとも反応液温度制御部40の近傍の温度が一定温度となるように維持される。
【0051】
成膜時間(反応時間)は特に制限されない。成膜時間は基板温度や反応液温度にもよるが、例えば10〜60分間で、下地を良好に被覆し、バッファ層として充分な厚みの層を成膜することができる。
【0052】
なお、成膜中は、反応液の撹拌をはげしく行わないか、または全く行わないことが好ましい。ここで、撹拌には、スターラー等による撹拌の他、液循環、反応液への超音波の印加によるものを含むこととする。反応液の撹拌は反応液中での粒子(コロイド)の発生を促進させ、反応液中に浮遊する粒子(コロイド)の量が増加してしまうので、析出膜表面への粒子状固形物の付着の可能性が高くなってしまう。
先行技術の項で述べた特許文献1の実施形態においては、反応液を循環させることにより溶液濃度を一定に制御する旨記載されているが、このような循環を行うと、基板と反応液との間に設けた温度差が小さくなる方向にシフトすることとなる。一方、撹拌(液循環)をさせない方が温度差をより保つことができ、より基板への選択的な析出を行う効果が高い。
【0053】
ここで、粒子状固形物とは、一次粒子径が数十〜数百nmオーダーの粒子が凝集した固形物である。概ね円相当径が1μm以上の粒子状固形物(二次凝集体)がバッファ層表面に付着したまま、光電変換素子を作製すると、この部分だけ抵抗が増し、電流が流れにくい領域が発生することになり、光電変換素子の性能が低下する可能性がある。
また、バッファ層上に透光性導電層を形成する工程においてバッファ層表面に付着した粒子状固形物(二次凝集体)が剥離して、それと同時にバッファ層の剥離などが生じて、光電変換素子の性能が低下する可能性がある。
【0054】
反応液を撹拌することなくバッファ層の成膜を行うことにより、撹拌した場合と比較して粒子状固形物の発生を抑制することができる。
【0055】
バッファ層の形成後、基板ホルダごと基板を反応液から引き上げて、基板ホルダから光電変換半導体層の上にバッファ層が形成された基板を取外す。このとき、基板をホルダから取り外す前に、基板がホルダについたままの状態である程度の水洗を行ってもよい。最終的には、バッファ層が形成された基板は、ホルダから取り外した後に十分な水洗を行い、さらに水洗後にエアーナイフ等の水分除去機構により水分除去を行う。さらに、バッファ層がZnS、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)の場合には150℃〜230℃の温度、好ましくは170℃〜210℃の温度で、5分〜60分、アニールを行う。アニールの方式としては特に限定されないが、市販のオーブン、電気炉、真空オーブン等を利用した温風加熱が好ましい。このように加熱処理を行うことによって光電変換素子の変換効率等の特性を向上させることができる。
【0056】
「CBD法」とは、一般式 [M(L)] m+ ⇔ Mn++iL(式中、M:金属元素、L:配位子、m,n,i:正数を各々示す。)で表されるような平衡によって過飽和条件となる濃度とpHを有する金属イオン溶液を反応液として用い、金属イオンMの錯体を形成させることで、安定した環境で適度な速度で基板上に金属化合物薄膜を析出させる方法である。
【0057】
CBD装置1を用いたバッファ層の製造に用いられる反応液はCd、ZnまたはInの金属(M)源と硫黄源を含むものである。これによって、CdS、ZnS,Zn(S,O)及び/又はZn(S,O,OH)、InS,In(S,O)及び/又はIn(S,O,OH)等のバッファ層を形成することができる。硫黄源としては硫黄を含有する化合物、例えばチオ尿素(CS(NH22、チオアセトアミド(C25NS)の他、チオリア、チオセミカルバジド、チオウレタン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン等を用いることができる。
【0058】
反応液中の各成分の濃度は、所望のバッファ層を析出させることができれば、特に限定されない。
【0059】
CdSバッファ層を形成する場合には、上記硫黄源と、Cd化合物(例えば硫酸カドミウム、酢酸カドミウム、硝酸カドミウム、塩化カドミウムおよびこれらの水和物等)と、アンモニア水あるいはアンモニウム塩(例えばCH3COONH4、NH4Cl、NH4Iおよび(NH42SO4等)との混合溶液を反応液として用いることができる。
【0060】
ZnS、Zn(S,O)、Zn(S,O,OH)などのCdフリーのZn化合物層からなるバッファ層を形成する場合には、上記硫黄源と、Zn化合物(例えば硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、炭酸亜鉛およびこれらの水和物等)と、アンモニア水あるいはアンモニウム塩(上記と同様)とのCdフリーの混合溶液を反応液として用いることができる。
なお、Zn化合物層からなるバッファ層を形成する場合には、反応液にはクエン酸化合物(クエン酸三ナトリウムおよび/またはその水和物)を含有させることが好ましい。クエン酸化合物を含有させることによって錯体が形成されやすく、CBD反応による結晶成長が良好に制御され、膜を安定的に成膜することができる。
【0061】
実施形態のCBD装置1に示したように、基板ホルダ20の基板固定面21aが湾曲しているものである場合には、可撓性基板へのバッファ層形成に適する。一方、図3に示した設計変更例のように、基板ホルダ20’の固定面27aが平面である場合には、基板の可撓性、非可撓性を問わず適用することができる。
【0062】
成膜用基板10は、下地基板11とその上に形成された図示しない下部電極および最表面を構成する光電変換半導体層13を少なくとも備えている。
下地基板11の具体例としては、ガラス基板、表面に絶縁膜が成膜されたステンレス等の金属基板、及びポリイミド等の樹脂基板等が挙げられる。
【0063】
また、本実施形態のCBD装置1のように、基板ホルダ20が端面保護部材を備えている場合には、下地基板11がCBD反応液に溶解してしまう成分を含むものであっても、基板からこのような成分を溶出させることがない。特に、基板が水酸化物イオンと錯イオンを形成しうる金属を含むものである場合にその効果を得ることができ、より詳細にはAlを含む基板に効果的に適用できる。
【0064】
具体的には、下地基板11は、Alを主成分とするAl基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl材が複合された複合基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板、および、Feを主成分とするFe材の少なくとも一方の面側にAlを主成分とするAl膜が成膜された基材の少なくとも一方の面側にAl23を主成分とする陽極酸化膜が形成された陽極酸化基板のうちいずれか1つの陽極酸化基板であることが好ましい。
【0065】
さらに、下地基板11上にソーダライムガラス(SLG)層が設けられたものであってもよい。ソーダライムガラス層を備えることにより、光電変換半導体層にNaを拡散させることができる。光電変換半導体層がNaを含むことにより、光電変換効率をさらに向上させることができる。
【0066】
下地基板11上に形成される下部電極としては、特に制限されず、Mo,Cr,W,及びこれらの組合せが好ましく、Mo等が特に好ましい。下部電極の膜厚は制限されず、200〜1000nm程度が好ましい。例えば、基板上にスパッタ法により成膜することができる。
【0067】
また、下部電極上に設けられる光電変換半導体層13の主成分は特に制限されないが、高光電変換効率が得られることから、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることが好ましく、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることがより好ましい。
【0068】
光電変換半導体層13の主成分としては、
CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,およびTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
【0069】
上記化合物半導体としては、
CuAlS2,CuGaS2,CuInS2
CuAlSe2,CuGaSe2
AgAlS2,AgGaS2,AgInS2
AgAlSe2,AgGaSe2,AgInSe2
AgAlTe2,AgGaTe2,AgInTe2
Cu(In,Al)Se2,Cu(In,Ga)(S,Se)2
Cu1-zIn1-xGaxSe2-yy(式中、0≦x≦1,0≦y≦2,0≦z≦1)(CI(G)S),
Ag(In,Ga)Se2,およびAg(In,Ga)(S,Se)2等が挙げられる。
【0070】
また、CuZnSnS,CuZnSnSe,CuZnSn(S,Se),CdTe,(Cd,Zn)Te等であってもよい。
【0071】
光電変換半導体層13の膜厚は特に制限されず、1.0〜4.0μmが好ましく、1.5〜3.5μmが特に好ましい。
【0072】
なお、本実施形態のCBD装置においてバッファ層を形成した後、バッファ層上に、光を取り込むと共に、下部電極と対になって、光電変換半導体層で生成された電流が流れる電極として機能する層である透光性導電層(例えばZnO:Al等のn−ZnO等)、上部電極(Al等)を形成すれば光電変換素子が完成する。光電変換素子は、太陽電池等に好ましく使用することができ、光電変換素子に対して必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けて、太陽電池とすることができる。
【0073】
なお、本発明の製造方法で作製される光電変換素子は、太陽電池のみならずCCD等の他の用途にも適用可能である。
【実施例】
【0074】
本発明の実施例および比較例について説明する。
図1に示した
【0075】
<成膜用基板>
成膜用基板は、下地基板11上に下部電極および光電変換半導体層13が積層されてなるものである。
成膜用基板は、100μm厚ステンレス(SUS)−30μm厚Al複合基材上のAl表面にアルミニウム陽極酸化膜(AAO)が形成された陽極酸化基板を用い、AAO表面にソーダライムガラス(SLG)層及びMo電極層、および光電変換半導体層が順次形成されてなるものとした。具体的には、SLG層およびMo電極層をスパッタ法により形成し、光電変換半導体層として、Cu(In0.7Ga0.3)Se2層を3段階法により成膜した。各層の膜厚は、SUS(100μm)、Al(30μm)、AAO(20μm)、SLG(0.2μm)、Mo(0.8μm)、CIGS(1.8μm)であった。基板の大きさは10cm×10cmとした。
【0076】
<表面処理>
KCN10%水溶液の入った反応槽を用意し、成膜用基板表面であるCIGS層の表面を室温で3分間分浸漬させてCIGS層表面の不純物除去を行った。取り出した後に十分に水洗を行った。
【0077】
<反応液Iの調製>
成分(Z)の水溶液(I)として硫酸亜鉛水溶液(0.18[M])、成分(S)の水溶液(II)としてチオ尿素水溶液(チオ尿素0.30[M])、成分(C)の水溶液(III)としてクエン酸三ナトリウム水溶液(0.18[M])、及び成分(N)の水溶液(IV)としてアンモニア水(0.30[M])をそれぞれ調製した。次に、これらの水溶液のうち、I,II,IIIを同体積ずつ混合して、硫酸亜鉛0.06[M],チオ尿素0.10[M],クエン酸三ナトリウム0.06[M]となる混合溶液を完成させ、この混合溶液と、0.30[M]のアンモニア水を同体積ずつを混合してCBD液(反応液)を得た。水溶液(I)〜(IV)を混合する際には、水溶液(IV)を最後に添加するようにした。透明な反応液とするには、水溶液(IV)を最後に添加することが重要である。混合して得られた反応液は、孔サイズ0.22μmのろ過フィルタを用いてろ過した。最終的に得られた反応液のpHは10.3であった。
【0078】
<反応液IIの調製>
CdSO4水溶液、チオ尿素水溶液、アンモニア水溶液を所定量混合して、CdSO4:0.0015M、チオ尿素:0.05M、アンモニア:1.5MであるCBD溶液(反応液II)を調製した。最終的に得られた反応液IIのpHは12.0であった。
【0079】
(実施例1)
準備した成膜用基板を図1に示すCBD装置の基板保持部にセットした。
基板の表面を反応液に接触させる前に、ヒーターをオンにして基板を90℃に加熱した。
その後、図1に示すように、基板保持部を下降させて、40℃に調温した反応液Iに基板を浸漬させて、光電変換半導体層表面にバッファ層の析出を行った。析出時間は30分とした。析出期間中は、ヒーターによる基板の加熱(設定温度90℃)、反応液の温調(設定温度40℃)を継続した。
【0080】
(実施例2)
実施例2は、図1に示すCBD装置において、基板固定面が平坦な図3に示す基板保持部20’を備えた装置を用いた。実施例2では、基板を反応液に浸漬する際、図3に破線で示すように、固定面が水平面2aから傾くように挿入した。この点以外は実施例1と同様の方法でバッファ層の析出を行った。
【0081】
(実施例3)
実施例3は、実施例2と同様の装置を用いたが、基板を反応液に浸漬させる際、固定面は水平面2aと平行となるようにした。この点以外は実施例1および2と同様の方法でバッファ層の析出を行った。
【0082】
(実施例4)
実施例4は、図4に模式的に示すCBD装置100を用いた。CBD装置100は、反応液2を蓄えることが可能な反応槽103と、反応槽103の壁面に形成された、成膜用基板10の大きさよりも小さい開口部103aと、この開口部103aに対応する位置であって反応槽103の外側壁面に、開口部103a全体を成膜用基板10で覆うように成膜用基板10を保持する基板保持部(基板ホルダ)104を備え、さらに、反応液温度制御部110および基板加熱制御部120を備えている。
【0083】
基板ホルダ104は、基板10の背面全体を均一に押圧することが可能な背板106(後述の恒温水循環路の一部を兼ねている)と、この背板106を開口部103aに向けて押あ圧することが可能なネジ部材107とを備えている。本基板ホルダ104は、基板を反応槽の側壁面に平行に保持するものである。
【0084】
反応液温度制御部110は、反応槽103の外側から反応液2を加熱もしくは冷却するために恒温水111を循環させる反応槽103外部に配設された反応液温調用恒温水循環路112と、液温度を一定に維持する恒温槽113を備えている。
【0085】
また、基板加熱制御部120は、基板裏面から基板10を加熱するために恒温水121を循環させる基板裏面に配設された基板加熱用恒温水循環路122と、液温度を一定に維持する恒温槽123とを備えている。すなわち、このCBD装置100は、基板裏面を加熱する機構(基板加熱制御部120)とは別(独立に)に、このCBD装置に導入した反応液を所定の温度に制御する機構(反応液温度制御部110)を備え、それぞれの温度を独立に制御することができるようになっている。
【0086】
実施例4は、成膜用基板を基板ホルダにセットして90℃に加熱し、40℃に温調しておいた反応液Iを基板の加熱開始15分後に反応槽内に注入し、30分間バッファ層の析出を行った。バッファ層の析出期間中は、基板加熱制御部120および反応液温度制御部110により、それぞれ90℃の恒温水121、40℃の恒温水122を循環させてた状態を維持した。
【0087】
(実施例5)
実施例5は、実施例1と同様のCBD装置を用いた。反応液IIを用い、基板加熱温度を80℃とし、成膜時間を4分としたこと以外は実施例1と同様とした。
【0088】
(比較例1)
比較例1は、図5に模式的に示すガラス製ビーカーからなる反応容器150に準備した反応液2を入れ、成膜用基板(基板10)を反応容器中に析出面が下になるように立てかけた状態で、反応容器150ごと恒温槽155の恒温水156中に浸漬させて反応液を90℃に加熱し、90℃に加熱後60分間バッファ層の析出を行った。本比較例1では、成膜用基板は反応液を介して加熱されている。
【0089】
<膜厚評価>
CIGS層を被覆したバッファ層の膜厚を評価するために、バッファ層表面に保護膜を形成した後に収束イオンビーム(FIB)加工を行ってバッファ層の断面出しを行い、その断面についてSEM観察を実施した。この断面SEM像から合計35ポイントについて膜厚計測を行い、その平均値を算出した。
なお、具体的には、10cm角の基板の中心点とこの中心点から上下左右にそれぞれ3cmの距離に位置する箇所の計5箇所について、各箇所毎にSEM像から7点計測し、トータルとして35ポイント計測して、平均膜厚および膜厚の標準偏差をそれぞれ算出した。
【0090】
<膜表面粒子付着数の評価>
100μm×100μmの視野において、一次粒子サイズが数十〜数百nmオーダーの粒子が凝集した付着物(膜表面を真上から観察した時に発見される凝集体)の存在状態を以下の基準で評価した。
円相当径が3μm以上のものが3個以下の場合を良好(○)、円相当径が3μm以上のものが4個以上、10個以下の場合を可(△)、円相当径が3μm以上のものが11個以上の場合を不良(×)とした。
【0091】
<気泡付着による膜抜け程度の評価>
CIGS層上にCBD法によって製膜を実施した場合、100nm未満の非常に薄い膜であっても、その干渉作用により目視で膜の存在を確認することが可能であるので、まず目視評価から、膜がついていないと判定できた部分を確認した。目視評価の結果、基板面積の5%以上に相当した場合は×、5%未満であるが膜が付いていない箇所がある場合には△、膜が付いていない箇所がない場合には○とした。さらに、このような評価を行ったサンプルについては、膜が付いていないと目視された箇所に関してSEM観察を行い、膜がついていないことの確認も合わせてを行った。
なお、気泡がCIGS表面に存在していた場合、反応液が析出させたい表面に接触することがないので、このような部分があると、まったく析出が進まなくなる。
【0092】
<基板の溶出量評価>
成膜終了後の反応液に溶出したAl量[ppm]を測定した。
上記実施例、比較例のバッファ層析出後、CBD反応液2.5mLを25mLメスフラスコでメスアップ(10倍希釈)し、SPS3000 ICP発光分光分析装置を用いてAl濃度を測定した(定量下限値:Al(<1ppm))。なお、測定結果は各サンプルについて2回ずつ測定を行い、得られた値の平均値で算出した。
【0093】
実施例1〜5は、いずれも基板はその端面が保護された状態で反応液中に浸漬されていたため、Alの溶出はなかった。比較例1は端面が保護されていなかったため、成膜終了後の反応液にAl量31ppmが溶出していた。
【0094】
【表1】

【0095】
表1から明らかなように、本発明の製造装置を用いた実施例は、成膜表面における粒子の付着を良好に抑制することができた。
実施例1〜4では、反応液温度を基板温度より低く設定することにより、粒子(コロイド)付着数が非常に少なく、良好な膜が得られた。また、このとき、反応液透過率はいずれも80%以上と粒子(コロイド)の発生が抑制されていることも明らかである。
【0096】
また、基板保持部の形状が凸状の湾曲である場合には、バッファ層の膜抜けも抑制することができた。これは、気泡が湾曲に沿って上昇するため、成膜面への気泡付着が抑制されたためと考えられる。なお、基板保持部の形状が平坦な場合であっても、傾けて保持した場合(実施例2)傾けない場合(実施例3)と比較して成膜面への気泡付着が抑制され、気泡付着による膜抜けを抑制することができた。
【0097】
実施例において膜厚の標準偏差は若干小さくなる傾向が見られた。本発明における膜厚の均一性の効果は、より厚膜でバッファ層を形成する際に顕在化するものと期待される。
【0098】
なお、実施例1〜5は反応槽の内壁をテフロン(登録商標)コーティングしたものを用いており、内壁への析出膜の付着は非常に少なかった。一方、比較例1は反応槽がガラス製ビーカーであり、テフロン(登録商標)コーティングされておらず、内壁への析出膜の付着が激しかった。
【符号の説明】
【0099】
1 CBD装置
2 反応液
3 反応槽
10 成膜用基板
11 下地基板
13 光電変換半導体層
20 基板ホルダ(基板保持部)
21 ステンレス板状部材
21a 固定面
22 壁面
23 ホルダ本体
24 液漏れ防止治具
25 固定枠
30 ヒーター
40 反応液温度制御部
41 温度調整手段
42 温度測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜用基板の成膜面に対して膜を化学浴析出させるための反応液を蓄える反応槽と、
前記成膜用基板の裏面が密着固定されるステンレスあるいはチタンからなる固定面を有し、少なくとも前記成膜面を前記反応液に接触させるように前記成膜用基板を保持する基板保持部と、
前記成膜用基板を、該成膜用基板の裏面側から加熱する、前記固定面の裏側に配設されたヒーターと、
前記反応槽中の前記反応液の温度を制御する反応液温度制御部とを備えていることを特徴とする化学浴析出装置。
【請求項2】
前記ヒーターが、前記固定面の前記成膜用基板が固定される面積よりも大きな面積に亘って設けられている面状ヒーターであることを特徴とする請求項1記載の化学浴析出装置。
【請求項3】
前記ヒーターが、ラバーヒーターであることを特徴とする請求項2記載の化学浴析出装置。
【請求項4】
前記基板保持部が、前記成膜用基板を前記成膜面が鉛直下向きとなるように保持するものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の化学浴析出装置。
【請求項5】
前記基板保持部の前記固定面が凸状の湾曲面であることを特徴とする請求項4記載の化学浴析出装置。
【請求項6】
前記基板保持部が、前記成膜用基板を前記成膜面が鉛直下向きから傾くように保持するものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の化学浴析出装置。
【請求項7】
前記基板保持部が、前記成膜用基板を前記反応槽の側壁面に対して平行に保持するものであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の化学浴析出装置。
【請求項8】
前記基板保持部が、前記固定面に固定された基板の側端面が前記反応液と接触するのを防止する端面保護部材を備えていることを特徴とする請求項1から7いずれか1項記載の化学浴析出装置。
【請求項9】
前記反応槽の内壁のうち少なくとも反応液と接触する部分が、疎水性材料で被覆されていることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載の化学浴析出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−52361(P2013−52361A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192896(P2011−192896)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「太陽光発電システム次世代高性能技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】