説明

化学物質が生体に与える毒性の検出方法

【課題】血液学的手法または病理学的手法による肝臓毒性の検出は指標(マーカー)が限られているため、その評価が困難である。
【解決手段】外部環境の変化による生体内の遺伝子発現変化は鋭敏であるため、生体毒性を判別するための遺伝子セットを同定することは、生体毒性が起こる前に及びそれが病理学的検査により実証される前に生体毒性を迅速かつ正確に検出することが可能である。本発明は、その新たな遺伝子セットを用いた生体毒性の検出・予測方法、そのキット、生体毒性の処置方法及び生体毒性の候補薬剤確認方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質が生体に与える影響、毒性の検出、診断、予測及び/もしくは処置のための方法、及び、生体毒性を検出又は予測するためのキットに関する。特に、本発明は、化学物質が生体に与える影響を指標とした化学物質の毒性の検出・予測方法、肝毒性の処置の有効性を確認することを助けるための遺伝子発現解析手段及びその結果の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人類の生活する環境の中で、膨大な数の化学物質が利用されており、現在でも年々新しい化学物質が開発され続けている。しかしながら、これらの化学物質が環境中に放出されることにより、人体を含む生態系に有害な影響を及ぼすことが問題となっており、特に化学物質に起因する環境汚染による人体への影響は社会問題にまでなっている。新規化学物質の人体に及ぼす有害な影響による事故を未然に防ぎ安全性を確保するためには、それらの化学物質の毒性の有無・強さ・ターゲット臓器等の情報を事前に調査し把握しておくことが重要である。そのような観点から、新規化学物質の許認可・承認・登録等を行う各省庁は新規化学物質の届け出の際には一定の毒性試験を行うことを求めており、その試験の基準には法的な規制がなされている。
【0003】
これまでの化学物質のリスク評価は、OECD等で国際標準化された試験方法を踏まえて我が国の「化学物質審査規制法」等に導入された試験法である細菌等を用いた単純で簡便な試験と、ラット等の実験動物を用いた長期毒性試験等によって取得・蓄積されてきた知見とを、その基盤としていた(非特許文献1参照)。
【0004】
近年、急速な発展を見せるゲノム学的なアプローチが、個別化医療に向けてバイオマーカーを用いた薬剤の感受性や副作用との相関を調べるファーマコゲノミクス(非特許文献2及び3参照)、食品成分の摂取に伴って起こるmRNAやタンパク質の発現量の変動を網羅的に解析し、食物が生体に与える影響を調べるニュートリゲノミクス(非特許文献4)等と同様に、化学物質の生物学的活性(特にその有害性)の評価にも応用され始めてきたトキシコゲノミクスと呼ばれる手法が用いられ始めてきた(非特許文献5乃至7参照)。
【0005】
これらのゲノム学的手法は、全遺伝子を個々のパラメータとして活用することで、従来の手法では得られない膨大かつ多様な観点による生物学的現象の評価を可能にした。
【0006】
遺伝子発現変動解析を用いた化学物質の毒性評価手法としては、酵母を用いた毒性物質の検出方法(特許文献1及び2参照)、細胞を用いた遺伝毒性の判定方法(特許文献3参照)、哺乳動物を用いた発達神経毒性の検出方法(特許文献4乃至6参照)、哺乳動物を用いた発がん物質の予測方法(特許文献7及び8参照)、哺乳動物を用いた発生毒性の予測方法(特許文献9参照)などが公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4022610号公報
【特許文献2】特許第4475373号公報
【特許文献3】特許第4573876号公報
【特許文献4】特開2006−115748号公報
【特許文献5】特開2009−232842号公報
【特許文献6】特開2009−77701号公報
【特許文献7】特開2009−159852号公報
【特許文献8】特開2007−54022号公報
【特許文献9】特開2010−11843号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】非臨床試験マニュアル(株式会社エル・アイ・シー)(2001)
【非特許文献2】Alison H. Harrill et al., Expert Opin. Drug Metab. Tosicol. November;4(11):1379−1389(2008)
【非特許文献3】Elisa Giovannetti et al., Mol. Cancer Ther. 5(6):1387−1394(2006)
【非特許文献4】Licia Iacoviello et al., Genes Nutr. 3:19−24(2008)
【非特許文献5】Preeti Chavan et al., Evid Based Complement Alternat Med. Dec;3(4):447−457(2006)
【非特許文献6】渡邉肇 YAKUGAKU ZASSHI:127(12):1967−1974(2007)
【非特許文献7】Uehara, Takeki et al., Mol. Nutr. Food Res. 54:218−227(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の化学物質のリスク評価は、細菌等を用いた単純で簡便な試験、及び、ラット等の実験動物を用いた長期毒性試験によって取得・蓄積されてきた知見を、その基盤としていた。しかしながら、これらの従来の毒性学的な手法によって獲得される生物学的情報は知見の種類が限られること、並びに、長期毒性試験では費用と効率等の面で問題があることから、これらの課題を解決できる新規の手法の確立が望まれていた。
【0010】
特に、ラット等の実験動物を用いた従来の28日間反復投与毒性試験は、血液学的検査や病理組織学的検査を主体としており、それらの生物学的情報は限られていた。さらに、病理組織学的検査での評価は、判断した者の主観に左右されやすく、同じ病態を見ているにもかかわらず別の表現を用いるなど、異なる化学物質間の毒性を評価するための客観的な指標が乏しかった。
【0011】
本発明は化学物質の肝毒性を簡便かつ確実に検出するための客観的な指標の一つを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、テトラブロモエタン(CAS登録番号79-27-6)をラットに28日間反復投与した後の肝臓で対照群と比較して顕著に発現変動した遺伝子を特定することにより、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は以下を提供する。
1.被検化学物質を生体または細胞に所定期間曝露させた後の遺伝子発現レベルを測定することにより該被検化学物質の毒性を評価する方法であって、
(A)実験動物または肝臓由来の細胞試料を複数用意し、その一部について前記被検化学物質を所定期間だけ曝露した後の肝臓または肝臓由来の細胞試料を検査試料とするとともに、残りを未処理または前記化学物質の溶媒を曝露した後の肝臓または肝臓由来の細胞試料を参照試料とするステップと、
(B)前記検査試料について、配列番号1〜58に示される塩基配列を有する遺伝子群としての生体応答遺伝子群のうちから選択される任意の1以上の選択生体応答遺伝子群に対する遺伝子の発現レベルを測定する第1の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(C)前記参照試料について、前記選択生体応答遺伝子群に対する遺伝子の発現レベルを測定する第2の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(D)前記第1の遺伝子発現レベル測定ステップ及び前記第2の遺伝子発現レベル測定ステップで測定した遺伝子発現レベルを対応する遺伝子ごとに比較し、前記遺伝子の発現レベルの差異に基づいて前記被験化学物質が有する毒性を評価するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の毒性評価方法。
2.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜33に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の毒性評価方法。
3.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜9に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の毒性評価方法。
4.前記遺伝子の発現レベルは、前記生体応答遺伝子群のうちのそれぞれの生体応答遺伝子におけるプロモーター配列に連結されたレポータータンパク質をコードする配列を含むレポーター遺伝子における発現レベルを指標として測定されることを特徴とする前記1乃至3のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
5.前記4記載の方法に使用されるレポーター遺伝子を含む核酸構成物、これを含むベクター、又は、これらを宿主細胞に導入した形質転換細胞であって、前記生体応答遺伝子のプロモーター配列に連結されたレポータータンパク質をコードする配列を含むことを特徴とする核酸構成物、これを含むベクター、又は、これらを宿主細胞に導入した形質転換細胞。
6.前記宿主細胞は、動物細胞、幹細胞、または胚性幹細胞であることを特徴とする前記5記載の形質転換細胞。
7.化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を判別・予測する方法であって、
(A)肝毒性を有することが既知の化学物質について所定量を所定期間生体または肝臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(B)肝毒性を有さないことが既知の化学物質について所定量を所定期間生体または肝臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(C)前記化学物質の溶媒を対照として所定量を所定期間生体または肝臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(D)前記生体の肝臓または前記肝臓由来の細胞試料からmRNAを単離して、配列番号1〜58の塩基配列を有する遺伝子群としての生体応答遺伝子群のうちから選択される任意の1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定する測定ステップと、
(E)前記遺伝子発現レベルを対応する前記化学物質、曝露量、曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(F)被検化学物質を適当な濃度で一定期間生体または肝臓由来の細胞試料に曝露させるステップと、
(G)前記生体由来の前記肝臓または前記肝臓由来の細胞試料からmRNAを単離して、(D)のステップで選択した生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(H)(G)で得られた前記遺伝子発現レベルを前記被検化学物質、曝露量及び曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(I)(H)で収集された遺伝子発現データを(E)で収集された照合用の対応する遺伝子発現データと比較するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の毒性評価方法。
8.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜33に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記7記載の化学物質の毒性評価方法。
9.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜9に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記7記載の化学物質の毒性評価方法。
10.前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と肝毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における遺伝子発現レベルの差異であることを特徴とする、前記7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
11.前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と肝毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における前記生体応答遺伝子群の発現プロファイルを指標としたクラスタ分析であることを特徴とする、前記7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
12.前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と肝毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における前記生体応答遺伝子群の発現プロファイルの相関係数を指標とすることを特徴とする、前記7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
13.肝毒性を有することが既知の化学物質が、2-ブタノンオキシム(CAS登録番号96-29-7)、3-シアノピリジン(CAS登録番号100-54-9)、スルホラン(CAS登録番号126-33-0)、2-イソプロポキシエタノール(CAS登録番号109-59-1)、ヒドラジン一水和物(CAS登録番号7803-57-8)、4-エチルモルホリン(CAS登録番号100-74-3)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(CAS登録番号56539-66-3)、o-ジクロロベンゼン(CAS登録番号95-50-1)、3,4-キシリジン(CAS登録番号95-64-7)、N-メチルアニリン(CAS登録番号100-61-8)、トリレンジイソシアナート(CAS登録番号26471-62-5)、2-(ジブチルアミノ)エタノール(CAS登録番号102-81-8)、p-クミルフェノール(CAS登録番号599-64-4)、m-クレゾール(CAS登録番号108-39-4)、2,3-ジメチルアニリン(CAS登録番号87-59-2)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(CAS登録番号538-75-0)、フタル酸ジヘプチル(CAS登録番号3648-21-3)、テトラブロモエタン(CAS登録番号79-27-6)、p-エチルフェノール(CAS登録番号123-07-9)、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール(CAS登録番号96-76-4)、3,5-キシリジン(CAS登録番号108-69-0)、1,3-ジブロモプロパン(CAS登録番号109-64-8)、1-ブロモ-3-クロロプロパン(CAS登録番号109-70-6)、プソイドクメン(CAS登録番号95-63-6)、1,4-ジブロモベンゼン(CAS登録番号106-37-6)のうちから選択される任意の1以上の化学物質であることを特徴とする、前記7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
14.肝毒性を有さないことが既知の化学物質が、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(CAS登録番号111-41-1)、テトラヒドロフルフリルアルコール(CAS登録番号97-99-4)、メタクリルアミド(CAS登録番号79-39-0)、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(CAS登録番号5039-78-1)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム(CAS登録番号56-93-9)、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(CAS登録番号127-68-4)、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物(CAS登録番号130-13-2)、アジピン酸ジブチル(CAS登録番号105-99-7)、N,N-ジメチルベンジルアミン(CAS登録番号103-83-3)、n-ヘキサデカン(CAS登録番号544-76-3)、ジシクロヘキシルアミン(CAS登録番号101-83-7)、及び2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸(CAS登録番号88-44-8)のうちから選択される任意の1以上の化学物質であることを特徴とする、前記7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
15.前記遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、Real Time PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つの方法を用いることを特徴とする前記1乃至14のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
16.前記ハイブリダイゼーション法は、マイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする前記15記載の化学物質の毒性評価方法。
17.前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする前記16記載の化学物質の毒性評価方法。
18.前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする前記17記載の化学物質の毒性評価方法。
19.前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする前記17または18記載の化学物質の毒性評価方法。
20.前記遺伝子発現レベルの測定は、前記生体応答遺伝子に対応する核酸、又は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質について、存在するか、もしくは、量の測定によることを特徴とする前記1乃至14のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
21.前記タンパク質は、免疫学的方法で測定されることを特徴とする前記20記載の化学物質の毒性評価方法。
22.前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法によることを特徴とする前記21記載の化学物質の毒性評価方法。
23.前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、及び抗体フラグメントから選択されることを特徴とする前記22記載の化学物質の毒性評価方法。
24.前記1乃至23のうちのいずれか1つに記載の方法に用いられるプローブを含む化学物質の毒性判別キットであって、前記プローブは、前記生体応答遺伝子またはその転写産物に特異的にハイブリダイズする配列を有する分子を含むことを特徴とする化学物質の毒性評価キット。
25.前記プローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする前記24記載の化学物質の毒性評価キット。
26.前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、又は合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする前記25記載の化学物質の毒性評価キット。
27.前記ヌクレオチドは、前記生体応答遺伝子のセンス鎖又はアンチセンス鎖とハイブリダイズし、10〜100塩基であることを特徴とする前記26記載の化学物質の毒性評価キット。
28.前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする前記26または27記載の化学物質の毒性評価キット。
29.前記プローブは、抗体及び/又はアプタマーであるタンパク質であることを特徴とする前記28記載の化学物質の毒性評価キット。
30.前記プローブは、任意の1つ以上を固体支持体に固定したDNAマイクロアレイ、DNAチップ、タンパクチップまたは抗体チップを含むことを特徴とする前記24乃至29のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価キット。
31.前記固体支持体は、ガラス、シリコン、プラスチック又は生体膜であることを特徴とする前記30記載の化学物質の毒性評価キット。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、化学物質を生体に投与した後の肝臓又は化学物質を曝露した後の肝臓由来の細胞試料における遺伝子発現パターンを比較することにより、化学物質が生体に対して毒性を有するか否かを簡便に判定あるいは予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】配列番号1〜58に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図2】配列番号1〜33に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図3】配列番号1〜9に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
他に特に規定されない限り、明細書及び特許請求の範囲を含む本出願に使用される用語は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者(当業者)によって、一般的に理解されるものと同一の意味を有する。
【0017】
当業者は、本明細書中に記載されるものと同等又は類似の多くの方法及び物質を認識する。ただし、本発明は本明細書に記載される方法及び物質に限定されない。
【0018】
被検化学物質の投与量は、被検化学物質を曝露された試験動物または細胞内の遺伝子発現レベルが適度に増加または減少する量であることが望ましい。例えば、試験動物又は細胞の致死量未満の最大用量が望ましく、被検化学物質の試験動物に対するLD50値を基準にして決定することも可能である。
【0019】
被検化学物質(被検群)またはその溶媒(対照群)を投与する対象となる試験動物には、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サルなどの哺乳動物を使用することもできる。また、その対象となる細胞には、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル、ヒトなどの哺乳動物由来の細胞を使用することができる。
【0020】
被検化学物質の投与期間は1〜90日が望ましく、より好ましくは1〜60日であり、さらに好ましくは1〜28日であるが、より迅速に試験を行う観点から1〜14日でも構わない。投与は1日数回が望ましく、より好ましくは1日1回が望ましい。
【0021】
被検化学物質の投与方法は特に制限されない。例えば、経口投与、腹腔内投与、静脈注射等の一般的な方法を使用できる。
【0022】
「遺伝子発現レベルを測定する」とは、該遺伝子の発現レベルを検出又は定量する限り特に制限されず、例えば、該遺伝子のmRNAやcDNAを検出又は定量してもよい。さらには、該遺伝子がコードするタンパク質を検出又は定量してもよい。これらの検出又は定量には、該遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子を用いることが望ましい。遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子とは、特に制限されないが、該遺伝子に特異的に結合するヌクレオチド、DNA、cDNA、RNA、ペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する抗体等を例示することができる。また、該遺伝子の発現レベルの検出又は定量には、該遺伝子のmRNAもしくはタンパク質の断片又はホモログを用いてもよい。
【0023】
配列番号1〜58に示される塩基配列は、例えば、National Center for Biotechnology InformationのBLAST(URL; http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)を利用したホモロジー検索により遺伝子を特定することが可能である。
【0024】
「DNAマイクロアレイ」とは、オリゴヌクレオチドや一本鎖または二本鎖のDNAをガラス基板上などに高密度に配置したものをいい、「DNAマイクロアレイ法」とは、そのDNAマイクロアレイ上で蛍光標識したcDNA分子などとハイブリッド形成を行わせて定性的且つ定量的にDNAと結合した核酸の種類や量を測定する手法をいう。
【0025】
「オリゴヌクレオチド」とは、ヌクレオチドが数個重合した分子の総称のことをいう。
【0026】
mRNAの「ホモログ」とは、該mRNAに実質的に類似したヌクレオチドに関連する。「実質的に類似した」とは、当業者によって十分理解され、具体的にはそれぞれの配列類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%を有することを意味する。
【0027】
また、タンパク質の「ホモログ」とは、該mRNAに実質的に類似したペプチドに関連する。「実質的に類似した」とは、当業者によって十分理解され、具体的にはそれぞれの配列類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%を有することを意味する。
【0028】
「化学物質に曝露された臓器組織または細胞試料」とは、組織もしくは細胞試料、または試料が由来した動物が、化学物質により処理されたことを意味する。
【0029】
「幹細胞」とは、自己複製能と分化した細胞をつくる能力を併せ持った未分化細胞のことを言い、胚性幹細胞(ES細胞:Embryonic stem cell)、組織幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)で例示できるが、これらに限られるものではない。
【0030】
「プロモーター」とは、転写開始反応の効率に関与するDNA領域をいう。
【0031】
「レポーター遺伝子」とは、目的の因子の機能を測定するために代用される遺伝子のことであり、産物の活性が簡単に定量化できるものが好まれる。本発明のレポーター遺伝子には、生体応答遺伝子のプロモーター配列と当該プロモーター配列に作動可能に接続されたレポータータンパク質をコードする配列とを含み、レポータータンパク質としては、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、β‐ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)または赤色蛍光タンパク質(dsRed)等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0032】
本発明において「生体応答遺伝子のプロモーター配列に連結される」とは、対象の遺伝子の発現が該プロモーター配列の制御下に配置されることをいい、通常、対象となる遺伝子のすぐ上流にプロモーター配列が配置されるが、必ずしも隣接している必要はない。
【0033】
「ベクター」とは、組換えDNA技術において、外来性DNAを組み込み、宿主細胞中で増えることのできるDNAのことをいい、プラスミド、ファージ、ウイルス、酵母人工染色体などが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0034】
「形質転換細胞」とは、形質転換体、トランスフォーマントとも呼ばれ、ある形質を示す細胞(供与細胞)のDNAを、それを示さない細胞(受容細胞)へ導入して生じた供与細胞の形質を示す細胞をいう。供与細胞又は受容細胞としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等が例示される。
【0035】
「毒性作用」とは、化学物質の存在に起因する、生体、臓器系、各臓器、組織、細胞、又は細胞内単位に対する有害作用を指す。毒性作用は、生理的もしくは物理的な症状、又は細胞もしくは臓器の壊死のような撹乱であり得る。
【0036】
「試料」には、好ましくは肝臓組織由来の材料、並びに、例えば血液、血漿、血清、リンパ液、腹水、尿、便のような任意の体液が含まれるものとする。なお、これに限られるものではない。
【0037】
明細書及び特許請求の範囲を含む本出願で使用される際には、「個体」とは、ヒトの個体、動物又は個体の集団もしくはプールを意味するものとする。
【0038】
「CAS登録番号」とは米国化学会の一部門であるCAS(Chemical Abstracts Service)が運営・管理する化学物質登録システムから付与される化学物質に固有の数値識別番号のことを意味する。
【0039】
本出願に係る特許請求の範囲及び明細書で使用する「生体応答遺伝子」とは、化学物質の曝露等の外的な刺激により生体内において発現レベルが変動する遺伝子を意味し、「生体応答遺伝子群」とは複数の生体応答遺伝子の組合せのことを意味する。
【0040】
遺伝子の発現レベルを検出、測定又は定量する具体的な方法としては、該遺伝子に特異的に結合するプローブ用の標識化ヌクレオチド、標識化cDNAまたは標識化RNAを用いたノーザンブロット法、ドットブロット法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、PCR法、又はmRNA分子を直接測定する方法等を用いることができる。PCR法としては、RT-PCR法、Real Time PCR法、競合PCR法を挙げることができる。
【0041】
前記Real Time PCR法としては、例えば、試料内の全RNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、該cDNAを鋳型にして目的領域をPCR法により増幅し、該増幅産物の生産過程をリアルタイムにモニタリングする方法が挙げられる。リアルタイムにモニタリングする試薬としては、例えば、SYBR(登録商標:Moleclar Probes社)Green Iや、TaqMan(登録商標:アプライドバイオシステムズ社)プローブ等が挙げられる。
【0042】
前記競合PCR法としては、例えば、試料内の全RNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、該cDNAと内部標準DNAを同一の反応チューブ内で反応させる方法や、さらに前記逆転写反応時にmRNAとともにRNA内部標準を加えて反応させる方法等が挙げられる。また、内部標準遺伝子の配列は、例えば、増幅目的遺伝子の配列と相同配列でもよく、非相同な配列でもよい。
【0043】
さらに、遺伝子の発現レベルを検出又は定量する具体的な方法としては、DNAマイクロアレイ、DNAチップ、又は抗体アレイ等を用いる方法が挙げられる。DNAマイクロアレイ又はDNAチップには該遺伝子のヌクレオチド又はcDNAが1つ以上固定化されているものを用いる。
【0044】
なお、ヌクレオチド又はcDNAは、該遺伝子の一部に相当する部分でもよい。
【0045】
上記プローブの標識化に用いられる標識試薬は、例えば放射性同位元素である[125I]、[131I]、[3H]、[14C]、[32P]、[35S]、酵素であるβ‐ガラクトシダーゼ、β‐グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、また、蛍光物質であるシアニン蛍光色素蛍光色素(例えば、Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cyanine3、Cyanine5など)を用いることができる。
【0046】
また、上記Real Time PCR法としては、例えば、組織内又は細胞内の全RNAやmRNAから逆転写酵素により合成したcDNAを鋳型にして、PCRの増幅産物をリアルタイムでモニタリングする方法が挙げられる。リアルタイムPCR用モニタリング試薬としては、例えばSYBR GreenIやTaqManプローブ等が用いられる。
【0047】
通常、DNAマイクロアレイやDNAチップは、プローブが支持体の上に固定されているアレイ又はチップであり、DNAマイクロアレイ又はDNAチップの支持体としては、ハイブリダイゼーションに使用可能なものであればよく、例えばガラス、シリコン、プラスチックなどの基板や、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等を用いることができる。
【0048】
なお、DNAマイクロアレイとは、生体応答遺伝子群に含まれる遺伝子全長、またはその部分配列と相補的なcDNA断片若しくはオリゴDNAを固定支持体に1つ以上固定したものをいう。ここでいう相補的なオリゴDNAは一般的には25〜100塩基の長さのものが用いられるが、必ずしもこれに限定されない。
【0049】
DNAマイクロアレイやDNAチップの使用方法については特に制限されない。例えば、生体試料からmRNAを精製し、該mRNAを鋳型とした逆転写反応を行う際に、適切な標識を付したプライマーや標識ヌクレオチドを使用することにより、標識されたcDNAを得ることができる。この標識化cDNAとDNAマイクロアレイやDNAチップ表面上に固定された本発明におけるプローブとの間でハイブリダイゼーションを行わせ、被検試料とのハイブリダイゼーション及び対照試料とのハイブリダイゼーションのそれぞれの結果を比較し、該遺伝子の有無を検出したり、発現レベルを測定したりすることにより、臓器毒性の検出または予測を行うことができる。
【0050】
遺伝子に対応するポリペプチド又はタンパク質は上記生体応答遺伝子の発現産物であり、該ポリペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列の配列情報は、NCBIの遺伝子データベースにおいて、それぞれのアクセッションナンバーによりアプローチすることもできる。
【0051】
上記ポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する方法としては、所定のポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する方法であれば特に制限されない。例えば、該ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体やアプタマー等を用いることができ、抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等を例示できる。これらの抗体は、慣用のプロトコルを用いて該ポリペプチド又はタンパク質又はそれらの断片を抗原として用いて作製することができる。また、アプタマーとは、タンパク質、アミノ酸等の分子に特異的に結合する核酸分子である。
【0052】
上記ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、被検試料中に存在する該ポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する場合、免疫沈降法、電気化学発光法、RIA(Radioimmunoassay)法、ELISA(Enzyme-liked immunosorbent assay)法、蛍光抗体法等の公知の免疫学的方法を用いることができる。
【0053】
上記判定の基準としては、被検試料中に存在する該遺伝子の発現レベル(又は該遺伝子に対応するポリペプチド若しくはタンパク質の発現レベル)が正常対照試料中に存在する、該遺伝子の発現レベル(又は該遺伝子に対応するポリペプチド若しくはタンパク質の発現レベル)よりも高い又は低いことを利用する。例えば、1群3検体以上の試料の発現レベルを測定した結果について、t検定を行った場合に、P<0.05、より好ましくはP<0.01、さらに好ましくはP<0.001、さらにより好ましくはP<0.0001である場合が挙げられる。
【0054】
検定方法はt検定に限定されるものではなく、U検定、F検定、マン・ホイットニ検定やウィルコクサン符号付順位検定でもよい。また検定に限定されるものではなく、例えば各群の発現レベルの平均値の差を用いてもよい。
【0055】
基準値は、被検試料における発現レベルを測定する度に毎回測定する必要はなく、例えば、様々な種の生体試料における正常対照試料中に存在する遺伝子の発現レベルをあらかじめ測定しておき、その測定値を用いて比較することができる。
【0056】
遺伝子発現レベルの変化には特定の化学物質と生体組織との直接の反応のみならず、臓器に障害が生じた結果としての二次的反応も含まれる。
【0057】
生体応答遺伝子群に含まれる遺伝子は、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、又はサルのような任意の哺乳動物において、マーカーとして用いられ得る。好ましくは、生体応答遺伝子群に含まれる遺伝子は、ラット又はマウスにおいてマーカーとして用いられる。
【0058】
動物の種類は特に限定されるものではなく、例えば、ラットの場合にはSprague Dawleyラット、Wistarラットなどでもよく、雄でも雌でも構わない。
【0059】
以下、実施例により本発明による化学物質の毒性判別・予測方法、核酸構成物、ベクター、形質転換細胞、照合用遺伝子発現データベースの作成方法、及び、化学物質の毒性判別キットをより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0060】
本発明の毒性作用を検出または予測するための方法に用いられる生体応答遺伝子群は、テトラブロモエタン(CAS登録番号79-27-6)を雄のSprague Dawleyラット(6週齢)(日本チャールス・リバー社)に28日間反復投与することにより肝臓で発現レベルが著しく変動した遺伝子群である。
【0061】
本発明で用いられる生体応答遺伝子群は以下の方法により得られる。なお、ここで、「発現レベル」とは絶対量である必要はなく相対量でよい。
【0062】
<遺伝子発現データベース>
本発明による遺伝子発現データベースの作成は、
(1)種々の化学物質について、ラットなどが死亡しない適当な投与量を決定し、
(2)適当な濃度の化学物質を一定期間、ラットなどに繰り返し曝露し、
(3)曝露した生体から各臓器を摘出し、
(4)摘出した臓器からmRNAを単離し、
(5)DNAマイクロアレイ法などにより特定遺伝子の発現レベルを測定し、
(6)得られた遺伝子発現レベルを化学物質、その濃度、曝露時間とともに遺伝子発現データベースとしてまとめる、と以上6つの工程によりなされる。
【0063】
<動物試験>
5週齢のCrl:CD(SD)ラット(雄)を準備し、ポリカーボネイトケージに入れ、エアーコンディショニング・アニマルラック(商品名)内で飼育した。エアーコンディショニング・アニマルラックは、温度22℃、湿度55%に設定し、照明は明期7:00〜19:00、暗期19:00〜7:00の12時間サイクルに設定した。水は給水ビンを用いて、浄水器を通した水道水を不断給与し、飼料は固形飼料を不断給餌した。実験開始までに1週間の馴化検疫期間を設けた。
【0064】
国立医薬品食品衛生研究所の「既存化学物質毒性データベース」(http://dra4.nihs.go.jp/mhlw_data/jsp/SearchPage.jsp)に登録されている37種類の化学物質、2-ブタノンオキシム、3-シアノピリジン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物、4-エチルモルホリン、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、o-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノール、p-クミルフェノール、m-クレゾール、2,3-ジメチルアニリン、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、フタル酸ジヘプチル、テトラブロモエタン、アジピン酸ジブチル、p-エチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、3,5-キシリジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、1,3-ジブロモプロパン、n-ヘキサデカン、1-ブロモ-3-クロロプロパン、プソイドクメン、ジシクロヘキシルアミン、1,4-ジブロモベンゼン、又は2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸を28日間反復してSprague Dawleyラット(6週齢、雄)に経口投与した。正常対照群として、オリブ油、注射用水又はゴマ油を28日間反復してSprague Dawleyラット(6週齢、雄)に経口投与した。また、1群あたり3個体のラットを使用した。なお、動物試験は28日間に制限されることはなく、例えば数日間でもよい。
【0065】
化学物質の投与液は、化学物質を必要量秤量し、適当な溶媒(注射用水、オリブ油、ゴマ油など)を用いて溶液又は均一な懸濁液を作製した。経口投与は2.5mL用または5.0mL用注射用シリンジにフレキシブル経口ゾンデ(商品名)を装着したものを用いたが、これに限定されるものではない。なお、溶媒は、2-ブタノンオキシム、3-シアノピリジン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物、4-エチルモルホリン、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物、および3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールは注射用水(大塚製薬株式会社製)を使用し、o-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノール、p-クミルフェノール、m-クレゾール、2,3-ジメチルアニリン、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、フタル酸ジヘプチル、テトラブロモエタン、アジピン酸ジブチル、p-エチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、3,5-キシリジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、1,3-ジブロモプロパンおよびn-ヘキサデカンはオリブ油(小堺製薬株式会社製)を使用し、1-ブロモ-3-クロロプロパン、プソイドクメン、ジシクロヘキシルアミン、1,4-ジブロモベンゼン、および2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸はゴマ油(小堺製薬株式会社製)を使用した。なお、投与液に使用する溶媒はこれらに限定されることはない。
【0066】
各化学物質の投与量はそれぞれ、2-ブタノンオキシムが100mg/kg/day、3-シアノピリジンが180mg/kg/day、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールが1,000mg/kg/day、テトラヒドロフルフリルアルコールが600mg/kg/day、メタクリルアミドが150mg/kg/day、スルホランが700mg/kg/day、2-イソプロポキシエタノールが500mg/kg/day、ヒドラジン一水和物が30mg/kg/day、4-エチルモルホリンが500mg/kg/day、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリドが1,000mg/kg/day、塩化ベンジルトリメチルアンモニウムが120mg/kg/day、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが1,000mg/kg/day、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物が1,000mg/kg/day、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールが1,000mg/kg/day、o-ジクロロベンゼンが500mg/kg/day、3,4-キシリジンが250mg/kg/day、N-メチルアニリンが125mg/kg/day、トリレンジイソシアナートが300mg/kg/day、2-(ジブチルアミノ)エタノールが250mg/kg/day、p-クミルフェノールが700mg/kg/day、m-クレゾールが1,000mg/kg/day、2,3-ジメチルアニリンが200mg/kg/day、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミドが300mg/kg/day、フタル酸ジヘプチルが1,000mg/kg/day、テトラブロモエタンが200mg/kg/day、アジピン酸ジブチルが1,000mg/kg/day、p-エチルフェノールが1,000mg/kg/day、2,4-ジ-tert-ブチルフェノールが300mg/kg/day、3,5-キシリジンが200mg/kg/day、N,N-ジメチルベンジルアミンが200mg/kg/day、1,3-ジブロモプロパンが250mg/kg/day、n-ヘキサデカンが1,000mg/kg/day、1-ブロモ-3-クロロプロパンが300mg/kg/day、プソイドクメンが1,000mg/kg/day、ジシクロヘキシルアミンが70mg/kg/day、1,4-ジブロモベンゼンが300mg/kg/day、2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸が1,000mg/kg/dayとし、投与対象となるラットの体重の測定値から投与液量を計算して、ラットに投与した。
【0067】
臓器の採取は、化学物質の最終投与の約24時間後に行った。具体的には、ラットを麻酔下で腹部大動脈より放血(全採血)して安楽死させた後、肝臓を採取し、速やかに液体窒素で凍結させた。凍結させた肝臓はISOGEN(ニッポンジーン社製)溶液中でホモジナイズすることにより粉砕した。
【0068】
<全RNAの抽出>
肝臓組織からの全RNAの抽出はISOGEN試薬(ニッポンジーン社製)を用いて推奨のプロトコルに従って行った。
【0069】
<核酸検体の調製>
検体用mRNAの調製は、肝臓組織からISOGEN試薬(ニッポンジーン社製)を用いて抽出した全RNAから、Poly(A)Pureキット(Ambion社製)を用い、各社推奨のプロトコルに従って行った。
【0070】
<マイクロアレイの作製>
ラット遺伝子断片ライブラリー(マイクロダイアグノスティック社製)を用いてマイクロアレイを作製した。該ラット遺伝子断片ライブラリーには、配列番号1〜58で示される塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを含んでいた。また、マイクロアレイの作製方法・条件に限定はないが、例えば(Schena,M.et.al.,Science,270,467-470.(1995))に記載の作製方法を用いることができる。
【0071】
ラット遺伝子断片ライブラリーを超微量分注装置(マイクロダイアグノスティク社製)によりスライドガラス(松波硝子工業社製、HAコートスライドガラス)にプリントしてマイクロアレイを作製した。該マイクロアレイを気相恒温器内にて80℃で1時間静置し、さらにUVクロスリンカー(Hoefer社製、UVC500)を用いて120mJの紫外線を照射した。
【0072】
<マイクロアレイの後処理>
マイクロアレイの後処理については、特許公報(特許第4190899号)記載の方法により行った。
【0073】
<標識cDNAの合成>
該mRNA 1.5μgを核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素SuperScriptII(登録商標:ライフテクノロジーズ)(インビトロジェン社製)、Cyanine5-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine5-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。一方、対照としてラット共通レファレンス(マイクロダイアグノスティック社製)を使用した。共通レファレンスに対しては核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素SuperScriptII(インビトロジェン社製)、Cyanine3-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine3-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。作製方法は、各社推奨のプロトコルに従った。
【0074】
<標識プローブの作製>
これらの標識cDNA、すなわち、Cyanine5-dUTPで標識した検体及びCyanine3-dUTPで標識した対照レファレンスを同一試験管内で混合した後、MicropureEZ(ミリポア社製)及びMicroconYM30(登録商標:ミリポア)(ミリポア社製)により精製した。最終的には核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬に付属のハイブリダイゼーションバッファー及び純水を用いて15μlに調製した。
【0075】
<ハイブリダイゼーション>
該溶液を99℃で5分間加熱して熱変性させた後に、DNAマイクロアレイ上に滴下し、ハイブリダイゼーションカセット(マイクロダイアグノスティック社製)に格納した。該ハイブリダイゼーションカセットを気相恒温器(三洋電機バイオメディカ社製)に入れ、42℃で約20時間、静置した状態で保温した。この操作によって、サンプル中に含まれる標識cDNAがDNAマイクロアレイ上の相補的なオリゴDNAと特異的に結合する。
【0076】
<洗浄>
ハイブリダイゼーションカセットからスライドガラスを取り出し、核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)付属のハイブリダイゼーション洗浄溶液を用い、同社推奨のプロトコルに従ってスライドガラスを洗浄した。
【0077】
<蛍光強度の検出及び数値化>
各遺伝子の発現レベルはDNAマイクロアレイ上に固定されたオリゴDNAと結合した標識cDNAの蛍光強度を測定することにより見積もることができる。洗浄したスライドガラスをスキャナGenePix4000B(Axon Instrument社製)を用いて蛍光を測定し、スキャナに付属の解析ソフトウェアGenePixPro(Axon Instrument社製)を用いて光学的に評価し、蛍光強度の相対値(Cyanine5/Cyanine3)数値化した。すなわち、DNAマイクロアレイ上に固定されたオリゴDNAのスポットの蛍光強度をそれぞれ別々に測定し、蛍光強度をヒト共通レファレンスとの相対比(log2比)で表した。また、スポット以外の場所の蛍光強度からバックグラウンドを算出してノイズとしてそれぞれのスポットの蛍光強度から差し引いた。さらに、サンプルにおける蛍光強度/共通レファレンスの蛍光強度を算出するという解析を行った。すなわち、各サンプルの遺伝子発現レベルはすべて共通レファレンスに対する相対比として検出されるため、単純に複数サンプルを横並び比較できる状態となっている。このようにして取得された数値を集積してデータベース化した。
【0078】
<二次比の算出>
次に、すべての対照群の平均値を算出し、それぞれのサンプルについてその平均値との相対値(「二次比」と呼ぶ。)を算出した。以下の計算はすべて二次比を用いて行った。
【0079】
<肝臓に影響を与える化学物質の選択>
「既存化学物質毒性データベース」(国立医薬品食品衛生研究所)に登録されている化学物質から37種類の化学物質、すなわち、2-ブタノンオキシム、3-シアノピリジン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物、4-エチルモルホリン、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、o-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノール、p-クミルフェノール、m-クレゾール、2,3-ジメチルアニリン、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、フタル酸ジヘプチル、テトラブロモエタン、アジピン酸ジブチル、p-エチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、3,5-キシリジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、1,3-ジブロモプロパン、n-ヘキサデカン、1-ブロモ-3-クロロプロパン、プソイドクメン、ジシクロヘキシルアミン、1,4-ジブロモベンゼン、2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸を選択した。
【0080】
<遺伝子群の抽出>
テトラブロモエタンを28日間反復投与したラットの肝臓とその溶媒を投与した対照群ラットの肝臓とを比較して、各遺伝子の対数変換相対的発現比に対するスチューデントのt検定を行ってP値を算出した。それぞれの化学物質投与群と対照群との間で発現レベルの平均値の差の絶対値が1.0以上、かつ、P値が0.01未満である遺伝子群を抽出したところ58プローブ存在した(配列番号1〜58に示される塩基配列を有する遺伝子群)。表1〜14には配列番号1〜58に示される塩基配列を有する遺伝子群の発現情報を記しており、数値は二次比で表している。また表中、「配列番号」の欄には特定した遺伝子の配列番号を記している。また、表中の略号は「C1」は「第1回目の実験に使用した注射用水投与群」を、「2bo」は「2-ブタノンオキシム投与群」を、「3cp」は「3-シアノピリジン投与群」を、「2ae」は「2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール投与群」を、「thf」は「テトラヒドロフルフリルアルコール投与群」を、「C2」は「第2回目の実験に使用した注射用水投与群」を、「mca」は「メタクリルアミド投与群」を、「suf」は「スルホラン投与群」を、「2ip」は「2-イソプロポキシエタノール投与群」を、「hmh」は「ヒドラジン一水和物投与群」を、「4em」は「4-エチルモルホリン投与群」を、「C3」は「第3回目の実験に使用した注射用水投与群」を、「mta」は「メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド投与群」を、「bac」は「塩化ベンジルトリメチルアンモニウム投与群」を、「mns」は「m-ニトロベンゼンスルホンサンナトリウム投与群」を、「nat」は「1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物投与群」を、「mmb」は「3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール投与群」を、「C4」は「第4回目の実験に使用した注射用水投与群」を、「dcb」は「o-ジクロロベンゼン投与群」を、「34x」は「3,4-キシリジン投与群」を、「nma」は「N-メチルアニリ投与群ン」を、「tdn」は「トリレンジイソシアナート投与群」を、「2de」は「2-(ジブチルアミノ)エタノール投与群」を、「C5」は「第5回目の実験に使用したオリブ油投与群」を、「pcp」は「p-クミルフェノール投与群」を、「mcs」は「m-クレゾール投与群」を、「23d」は「2,3-ジメチルアニリン投与群」を、「dhc」は「N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド投与群」を、「dhp」は「フタル酸ジヘプチル投与群」を、「C6」は「第6回目の実験に使用したオリブ油投与群」を、「tbe」は「テトラブロモエタン投与群」を、「dba」は「アジピン酸ジブチル投与群」を、「pep」は「p-エチルフェノール投与群」を、「C7」は「第7回の実験に使用したオリブ油投与群」を、「24b」は「2,4-ジ-tert-ブチルフェノール投与群」を、「35x」は「3,5-キシリジン投与群」を、「nda」は「N,N-ジメチルベンジルアミン投与群」を、「13d」は「1,3-ジブロモプロパン投与群」を、「nhd」は「n-ヘキサデカン投与群」を、「C8」は「ゴマ油投与群」を、「bcp」は「1-ブロモ-3-クロロプロパン投与群」を、「tmb」は「プソイドクメン投与群」を、「dha」は「ジシクロヘキシルアミン投与群」を、「14d」は「1,4-ジブロモベンゼン投与群」を、「ams」は「2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸投与群」を表す。また、略号に付随の数字は個体の別を表している。
【0081】
実験は8回に分けて行い、第1回目の実験では2-ブタノンオキシム、3-シアノピリジン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコールの4種類の化学物質をそれぞれ注射用水に溶解して投与し、第2回目の実験ではメタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物、4-エチルモルホリンの5種類の化学物質をそれぞれ注射用水に溶解して投与し、第3回目の実験ではメタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、m-ニトロベンゼンスルホンサンナトリウム、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールの5種類の化学物質をそれぞれ注射用水に溶解して投与し、第4回目の実験ではo-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノールの5種類の化学物質をそれぞれ注射用水に溶解して投与し、第5回目の実験ではp-クミルフェノール、m-クレゾール、2,3-ジメチルアニリン、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド、フタル酸ジヘプチルの5種類の化学物質をそれぞれオリブ油に溶解して投与し、第6回目の実験ではテトラブロモエタン、アジピン酸ジブチル、p-エチルフェノールの3種類の化学物質をそれぞれオリブ油に溶解して投与し、第7回目の実験では2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、3,5-キシリジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、1,3-ジブロモプロパン、n-ヘキサデカンの5種類の化学物質をそれぞれオリブ油に溶解して投与し、第8回目の実験では1-ブロモ-3-クロロプロパン、プソイドクメン、ジシクロヘキシルアミン、1,4-ジブロモベンゼン、2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸の5種類の化学物質をそれぞれゴマ油に溶解して投与した。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【0087】
【表6】

【0088】
【表7】

【0089】
【表8】

【0090】
【表9】

【0091】
【表10】

【0092】
【表11】

【0093】
【表12】

【0094】
【表13】

【0095】
【表14】

【0096】
なお、前記37種類の化学物質の中で21種類の化学物質をラットに投与した場合に、肝臓の病理所見の異常が報告されていた。「3-シアノピリジン投与群」、「4-エチルモルホリン投与群」、「2-(ジブチルアミノ)エタノール投与群」、「m-クレゾール投与群」、「テトラブロモエタン投与群」、「2,4-ジ-tert-ブチルフェノール投与群」、「1,3-ジブロモプロパン投与群」、「1-ブロモ-3-クロロプロパン投与群」、「1,4-ジブロモベンゼン投与群」は肝細胞肥大が、「o-ジクロロベンゼン投与群」、「フタル酸ジヘプチル投与群」は肝細胞肥大、肝細胞の脂肪化(減少性変化)および小葉中心性の単細胞壊死が、「3,5-キシリジン投与群」は髄外造血や色素沈着が、「3,4-キシリジン投与群」は髄外造血や色素沈着の他さらに単細胞壊死が、「2,3-ジメチルアニリン投与群」、「p-クミルフェノール投与群」は胆管増殖が、「2-ブタノンオキシム投与群」、「2-イソプロポキシエタノール投与群」、「N-メチルアニリン投与群」は髄外造血および色素沈着が、「ヒドラジン一水和物投与群」、「トリレンジイソシアナート投与群」は肝細胞の脂肪化が、「N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド投与群」は肝細胞壊死が報告されていた。また、病理所見では顕著な変化はなかったが、他の検査で肝臓に毒性があると報告された化学物質は「スルホラン投与群」、「3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール投与群」、「p-エチルフェノール投与群」、「プソイドクメン投与群」であった。
【実施例2】
【0097】
<クラスタ分析>
DNAマイクロアレイで取得した遺伝子発現データの分析手法として、例えばクラスタ分析が挙げられる。クラスタ分析とは、遺伝子発現変化パターンの類似した遺伝子同士をグルーピングする統計的手法である。データ間の類似度(例えばユークリッド距離など)を定義し、その類似度を用いることにより遺伝子発現パターンが類似した、すなわち、遺伝子発現に対して類似した影響を持つ化学物質同士がグループ化される。
【0098】
配列番号1〜58に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行った。階層的クラスタ分析は解析用ソフトウェア「Expression View Pro」(マイクロダイアグノスティック社製)を用いて行った。また、階層的クラスタ分析は「cluster」や「treeview」などのソフトウェアを用いても行うことができる。その結果、化学物質を大きく5つのクラスタに分類することができた。図1にクラスタ分析の結果を示す。なお、図中、「C1」は「第1回目の実験に使用した注射用水投与群」を、「2bo」は「2-ブタノンオキシム投与群」を、「3cp」は「3-シアノピリジン投与群」を、「2ae」は「2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール投与群」を、「thf」は「テトラヒドロフルフリルアルコール投与群」を、「C2」は「第2回目の実験に使用した注射用水投与群」を、「mca」は「メタクリルアミド投与群」を、「suf」は「スルホラン投与群」を、「2ip」は「2-イソプロポキシエタノール投与群」を、「hmh」は「ヒドラジン一水和物投与群」を、「4em」は「4-エチルモルホリン投与群」を、「C3」は「第3回目の実験に使用した注射用水投与群」を、「mta」は「メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド投与群」を、「bac」は「塩化ベンジルトリメチルアンモニウム投与群」を、「mns」は「m-ニトロベンゼンスルホンサンナトリウム投与群」を、「nat」は「1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物投与群」を、「mmb」は「3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール投与群」を、「C4」は「第4回目の実験に使用した注射用水投与群」を、「dcb」は「o-ジクロロベンゼン投与群」を、「34x」は「3,4-キシリジン投与群」を、「nma」は「N-メチルアニリン投与群」を、「tdn」は「トリレンジイソシアナート投与群」を、「2de」は「2-(ジブチルアミノ)エタノール投与群」を、「C5」は「第5回目の実験に使用したオリブ油投与群」を、「pcp」は「p-クミルフェノール投与群」を、「mcs」は「m-クレゾール投与群」を、「23d」は「2,3-ジメチルアニリン投与群」を、「dhc」は「N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド投与群」を、「dhp」は「フタル酸ジヘプチル投与群」を、「C6」は「第6回目の実験に使用したオリブ油投与群」を、「tbe」は「テトラブロモエタン投与群」を、「dba」は「アジピン酸ジブチル投与群」を、「pep」は「p-エチルフェノール投与群」を、「C7」は「第7回の実験に使用したオリブ油投与群」を、「24b」は「2,4-ジ-tert-ブチルフェノール投与群」を、「35x」は「3,5-キシリジン投与群」を、「nda」は「N,N-ジメチルベンジルアミン投与群」を、「13d」は「1,3-ジブロモプロパン投与群」を、「nhd」は「n-ヘキサデカン投与群」を、「C8」は「ゴマ油投与群」を、「bcp」は「1-ブロモ-3-クロロプロパン投与群」を、「tmb」は「プソイドクメン投与群」を、「dha」は「ジシクロヘキシルアミン投与群」を、「14d」は「1,4-ジブロモベンゼン投与群」を、「ams」は「2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸投与群」を表す。サンプル名を表した略号の下にある黒と白のバーは肝毒性の有無を表しており、黒が肝毒性を有する化学物質、白が肝毒性を有さない化学物質を表している。さらに、黒丸と白丸は、配列番号1〜58に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。また、「A」〜「E」はクラスタの分類を表している。
【0099】
「A」のクラスタには、3-シアノピリジン投与群(3cp)が3個体中3個体、1,4-ジブロモベンゼン投与群(14d)が3個体中3個体、3,4-キシリジン投与群(34x)が3個体中3個体、1,3-ジブロモプロパン投与群(13d)が3個体中3個体、1-ブロモ-3-クロロプロパン投与群(bcp)が3個体中3個体、o-ジクロロベンゼン投与群(dcb)が3個体中3個体、テトラブロモエタン投与群(tbe)が3個体中3個体含まれていた。「B」のクラスタには、フタル酸ジヘプチル投与群(dhp)が3個体中3個体含まれていた。「C」のクラスタには、ヒドラジン一水和物投与群(hmh)が3個体中2個体含まれていた。「D」のクラスタには、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール投与群投与群(mmb)が3個体中3個体含まれていた。「E」のクラスタには、対象群を含むその他のサンプルが含まれていた。また、「A」〜「D」のクラスタに含まれていた化学物質は、すべて肝毒性を有することが既知の化学物質であった。この結果は、配列番号1〜58に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンによって、これらの化学物質を対照群と区別することができ、また、化学物質を分類できることを意味する。
【実施例3】
【0100】
次に、テトラブロモエタンを28日間反復投与したラットの肝臓とその溶媒を投与した対照群ラットの肝臓とを比較して、各遺伝子の対数変換相対的発現比に対するスチューデントのt検定を行ってP値を算出し、両者の間で発現レベルの平均値の差の絶対値が1.0以上、かつ、P値が0.005未満である遺伝子群を抽出したところ33プローブ(配列番号1〜33に示される塩基配列を有する遺伝子群)であった。配列番号1〜33に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行った。その結果、化学物質を大きく5つのクラスタに分類することができた。図2にクラスタ分析の結果を示す。なお、図中の略号等は図1と同様に表している。
【0101】
「A」のクラスタには、3-シアノピリジン投与群(3cp)が3個体中2個体、1,4-ジブロモベンゼン投与群(14d)が3個体中3個体、3,4-キシリジン投与群(34x)が3個体中3個体、1,3-ジブロモプロパン投与群(13d)が3個体中3個体、1-ブロモ-3-クロロプロパン投与群(bcp)が3個体中3個体、o-ジクロロベンゼン投与群(dcb)が3個体中3個体、テトラブロモエタン投与群(tbe)が3個体中3個体含まれていた。「B」のクラスタには、フタル酸ジヘプチル投与群(dhp)が3個体中2個体含まれていた。「C」のクラスタには、ヒドラジン一水和物投与群(hmh)が3個体中2個体含まれていた。「D」のクラスタには、3-シアノピリジン投与群(3cp)が3個体中1個体、3,5-キシリジン投与群(35x)が3個体中3個体、p-クミルフェノール投与群(pcp)が3個体中3個体、トリレンジイソシアナート投与群(tdn)が3個体中3個体、N,N-ジメチルベンジルアミン投与群(nda)が3個体中1個体、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール投与群(24b)が3個体中3個体、m-クレゾール投与群(mcs)が3個体中2個体、フタル酸ジヘプチル投与群(dhp)が3個体中1個体、プソイドクメン投与群(tmb)が3個体中3個体、p-エチルフェノール投与群(pep)が3個体中2個体含まれていた。「E」のクラスタには、対象群を含むその他のサンプルが含まれていた。また、「A」〜「D」のクラスタに含まれていた化学物質は、1サンプルを除いてすべて肝毒性を有することが既知の化学物質であった。この結果は、配列番号1〜33に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンによって、これらの化学物質を対照群と区別することができ、また、化学物質を分類できることを意味する。
【実施例4】
【0102】
次に、テトラブロモエタンを28日間反復投与したラットの肝臓とその溶媒を投与した対照群ラットの肝臓とを比較して、各遺伝子の対数変換相対的発現比に対するスチューデントのt検定を行ってP値を算出し、両者の間で発現レベルの平均値の差の絶対値が1.0以上、かつ、P値が0.001未満である遺伝子群を抽出したところ9プローブ(配列番号1〜9に示される塩基配列を有する遺伝子群)であった。配列番号1〜9に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行った。その結果、化学物質を大きく3つのクラスタに分類することができた。図3にクラスタ分析の結果を示す。なお、図中の略号等は図1と同様に表している。
【0103】
「A」のクラスタには、3-シアノピリジン投与群(3cp)が3個体中2個体、o-ジクロロベンゼン投与群(dcb)が3個体中3個体、テトラブロモエタン投与群(tbe)が3個体中3個体含まれていた。「B」のクラスタには、3,4-キシリジン投与群(34x)が3個体中3個体、1,4-ジブロモベンゼン投与群(14d)が3個体中3個体、p-クミルフェノール投与群(pcp)が3個体中3個体、スルホラン投与群(suf)が3個体中2個体、フタル酸ジヘプチル投与群(dhp)が3個体中2個体、プソイドクメン投与群(tmb)が3個体中3個体、1,3-ジブロモプロパン投与群(13d)が3個体中3個体、1-ブロモ-3-クロロプロパン投与群(bcp)が3個体中3個体、3-シアノピリジン投与群(3cp)が3個体中1個体含まれていた。「C」のクラスタには、対象群を含むその他のサンプルが含まれていた。また、「A」および「B」のクラスタに含まれていた化学物質は、すべて肝毒性を有することが既知の化学物質であった。この結果は、配列番号1〜9に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンによって、これらの化学物質を対照群と区別することができ、また、化学物質を分類できることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の毒性判定遺伝子セットは、肝毒性のモニタリング、それらの診断および/またはそれらに対する種々の措置もしくは薬剤の有効性を判定することを助けることができる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検化学物質を生体または細胞に所定期間曝露させた後の遺伝子発現レベルを測定することにより該被検化学物質の毒性を評価する方法であって、
(A)実験動物または肝臓由来の細胞試料を複数用意し、その一部について前記被検化学物質を所定期間だけ曝露した後の肝臓または肝臓由来の細胞試料を検査試料とするとともに、残りを未処理または前記化学物質の溶媒を曝露した後の肝臓または肝臓由来の細胞試料を参照試料とするステップと、
(B)前記検査試料について、配列番号1〜58に示される塩基配列を有する遺伝子群としての生体応答遺伝子群のうちから選択される任意の1以上の選択生体応答遺伝子群に対する遺伝子の発現レベルを測定する第1の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(C)前記参照試料について、前記選択生体応答遺伝子群に対する遺伝子の発現レベルを測定する第2の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(D)前記第1の遺伝子発現レベル測定ステップ及び前記第2の遺伝子発現レベル測定ステップで測定した遺伝子発現レベルを対応する遺伝子ごとに比較し、前記遺伝子の発現レベルの差異に基づいて前記被験化学物質が有する毒性を評価するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の毒性評価方法。
【請求項2】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜33に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項3】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜9に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項4】
前記遺伝子の発現レベルは、前記生体応答遺伝子群のうちのそれぞれの生体応答遺伝子におけるプロモーター配列に連結されたレポータータンパク質をコードする配列を含むレポーター遺伝子における発現レベルを指標として測定されることを特徴とする請求項1乃至3のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法に使用されるレポーター遺伝子を含む核酸構成物、これを含むベクター、又は、これらを宿主細胞に導入した形質転換細胞であって、前記生体応答遺伝子のプロモーター配列に連結されたレポータータンパク質をコードする配列を含むことを特徴とする核酸構成物、これを含むベクター、又は、これらを宿主細胞に導入した形質転換細胞。
【請求項6】
前記宿主細胞は、動物細胞、幹細胞、または胚性幹細胞であることを特徴とする請求項5記載の形質転換細胞。
【請求項7】
化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を判別・予測する方法であって、
(A)肝毒性を有することが既知の化学物質について所定量を所定期間生体または肝臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(B)肝毒性を有さないことが既知の化学物質について所定量を所定期間生体または肝臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(C)前記化学物質の溶媒を対照として所定量を所定期間生体または肝臓由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(D)前記生体の肝臓または前記肝臓由来の細胞試料からmRNAを単離して、配列番号1〜58の塩基配列を有する遺伝子群としての生体応答遺伝子群のうちから選択される任意の1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定する測定ステップと、
(E)前記遺伝子発現レベルを対応する前記化学物質、曝露量、曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(F)被検化学物質を適当な濃度で一定期間生体または肝臓由来の細胞試料に曝露させるステップと、
(G)前記生体由来の前記肝臓または前記肝臓由来の細胞試料からmRNAを単離して、(D)のステップで選択した生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(H)(G)で得られた前記遺伝子発現レベルを前記被検化学物質、曝露量及び曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(I)(H)で収集された遺伝子発現データを(E)で収集された照合用の対応する遺伝子発現データと比較するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の毒性評価方法。
【請求項8】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜33に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項7記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項9】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜9に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項7記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項10】
前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と肝毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における遺伝子発現レベルの差異であることを特徴とする、請求項7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項11】
前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と肝毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における前記生体応答遺伝子群の発現プロファイルを指標としたクラスタ分析であることを特徴とする、請求項7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項12】
前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と肝毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における前記生体応答遺伝子群の発現プロファイルの相関係数を指標とすることを特徴とする、請求項7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項13】
肝毒性を有することが既知の化学物質が、2-ブタノンオキシム(CAS登録番号96-29-7)、3-シアノピリジン(CAS登録番号100-54-9)、スルホラン(CAS登録番号126-33-0)、2-イソプロポキシエタノール(CAS登録番号109-59-1)、ヒドラジン一水和物(CAS登録番号7803-57-8)、4-エチルモルホリン(CAS登録番号100-74-3)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(CAS登録番号56539-66-3)、o-ジクロロベンゼン(CAS登録番号95-50-1)、3,4-キシリジン(CAS登録番号95-64-7)、N-メチルアニリン(CAS登録番号100-61-8)、トリレンジイソシアナート(CAS登録番号26471-62-5)、2-(ジブチルアミノ)エタノール(CAS登録番号102-81-8)、p-クミルフェノール(CAS登録番号599-64-4)、m-クレゾール(CAS登録番号108-39-4)、2,3-ジメチルアニリン(CAS登録番号87-59-2)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(CAS登録番号538-75-0)、フタル酸ジヘプチル(CAS登録番号3648-21-3)、テトラブロモエタン(CAS登録番号79-27-6)、p-エチルフェノール(CAS登録番号123-07-9)、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール(CAS登録番号96-76-4)、3,5-キシリジン(CAS登録番号108-69-0)、1,3-ジブロモプロパン(CAS登録番号109-64-8)、1-ブロモ-3-クロロプロパン(CAS登録番号109-70-6)、プソイドクメン(CAS登録番号95-63-6)、1,4-ジブロモベンゼン(CAS登録番号106-37-6)のうちから選択される任意の1以上の化学物質であることを特徴とする、請求項7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項14】
肝毒性を有さないことが既知の化学物質が、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(CAS登録番号111-41-1)、テトラヒドロフルフリルアルコール(CAS登録番号97-99-4)、メタクリルアミド(CAS登録番号79-39-0)、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(CAS登録番号5039-78-1)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム(CAS登録番号56-93-9)、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(CAS登録番号127-68-4)、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物(CAS登録番号130-13-2)、アジピン酸ジブチル(CAS登録番号105-99-7)、N,N-ジメチルベンジルアミン(CAS登録番号103-83-3)、n-ヘキサデカン(CAS登録番号544-76-3)、ジシクロヘキシルアミン(CAS登録番号101-83-7)、及び2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸(CAS登録番号88-44-8)のうちから選択される任意の1以上の化学物質であることを特徴とする、請求項7乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項15】
前記遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、Real Time PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つの方法を用いることを特徴とする請求項1乃至14のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項16】
前記ハイブリダイゼーション法は、マイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする請求項15記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項17】
前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項16記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項18】
前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項17記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項19】
前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする請求項17または18記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項20】
前記遺伝子発現レベルの測定は、前記生体応答遺伝子に対応する核酸、又は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質について、存在するか、もしくは、量の測定によることを特徴とする請求項1乃至14のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項21】
前記タンパク質は、免疫学的方法で測定されることを特徴とする請求項20記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項22】
前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法によることを特徴とする請求項21記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項23】
前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、及び抗体フラグメントから選択されることを特徴とする請求項22記載の化学物質の毒性評価方法。
【請求項24】
請求項1乃至23のうちのいずれか1つに記載の方法に用いられるプローブを含む化学物質の毒性判別キットであって、前記プローブは、前記生体応答遺伝子またはその転写産物に特異的にハイブリダイズする配列を有する分子を含むことを特徴とする化学物質の毒性評価キット。
【請求項25】
前記プローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項24記載の化学物質の毒性評価キット。
【請求項26】
前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、又は合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項25記載の化学物質の毒性評価キット。
【請求項27】
前記ヌクレオチドは、前記生体応答遺伝子のセンス鎖又はアンチセンス鎖とハイブリダイズし、10〜100塩基であることを特徴とする請求項26記載の化学物質の毒性評価キット。
【請求項28】
前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする請求項26または27記載の化学物質の毒性評価キット。
【請求項29】
前記プローブは、抗体及び/又はアプタマーであるタンパク質であることを特徴とする請求項28記載の化学物質の毒性評価キット。
【請求項30】
前記プローブは、任意の1つ以上を固体支持体に固定したDNAマイクロアレイ、DNAチップ、タンパクチップまたは抗体チップを含むことを特徴とする請求項24乃至29のうちのいずれか1つに記載の化学物質の毒性評価キット。
【請求項31】
前記固体支持体は、ガラス、シリコン、プラスチック又は生体膜であることを特徴とする請求項30記載の化学物質の毒性評価キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−31372(P2013−31372A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167763(P2011−167763)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「高機能簡易型有害性評価手法の開発/28日間反復投与試験結果と相関する遺伝子発現データセットの開発」にかかる業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(509088653)株式会社メディクローム (19)
【Fターム(参考)】