説明

化学物質の分離キット及び分離方法

【課題】特定のアミド化合物と該アミド化合物に混和する化学物質とを含有する混合物から、前記化学物質を高純度で分離できる手段の提供。
【解決手段】下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物からなる群から選択される一種以上のアミド化合物と、該アミド化合物及び該アミド化合物に混和する化学物質を含有する混合物から、該化学物質を除去するための担体と、を備えたことを特徴とする化学物質の分離キット;下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物からなる群から選択される一種以上のアミド化合物と、該アミド化合物に混和する化学物質と、を含有する混合物を、前記化学物質を除去するための担体と接触させ、前記化学物質と前記アミド化合物とを分離する工程を有することを特徴とする化学物質の分離方法。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質と特定のアミド化合物とを含有する混合物から、前記化学物質を分離するためのキット及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含有される化学物質を分離する方法としては、従来、(1)分離対象の化学物質を溶解させる溶媒を使用して液体試料から該化学物質を抽出する、いわゆる液−液抽出法、(2)同様の溶媒を使用して固体試料から分離対象の化学物質を抽出する、いわゆる固相抽出法等が適用されている(非特許文献1参照)。
【0003】
一方、製品の品質管理、製品の製造過程における工程管理、環境試験、病理検査等、種々の分野では、上記の方法で化学物質を分離し、その試料中での含有量を定量する分析が汎用されている。通常、このような分析では、対象となる化学物質は微量である。そして、特に健康管理や安全管理の重要性が一層認識されるようになった近年では、ますますその実施の機会が増えてきている。例えば、日本においては、食品衛生法によってポジティブリスト制度が定められ、農薬、動物用医薬品及び飼料添加物が一定量以上残留する食品の販売等が禁止されている。厚生労働省では、これら農薬等についての試験法(一斉試験法、個別試験法)を公開しているが、対象となる農薬等は、上記のような従来法で分離及び定量が行われる。
このような中、産業界においては、処理が必要な試料数の増大に伴い、簡便且つ高精度に試料中の化学物質を分析できるように改善することが、強く望まれるようになってきている。
【0004】
しかし、従来適用されてきた化学物質の分離方法では、化学物質の抽出に揮発性の有機溶媒を使用することがほとんどであり、抽出した化学物質を含む溶液は、分離操作の過程で濃度変化が避けられない。したがって、化学物質の含有量を正確に分析するためには、抽出後の溶媒を一度完全に除去した後、再度溶媒を添加して溶液の濃度調整を行う必要があった。そのため、化学物質の抽出から分析を終了するまでの一連の工程が複雑になり、時間を要するだけでなく、誤操作を伴い易いので分析の精度が低下してしまうという問題点があった。
【0005】
このような中、本発明者らは、試料中の微量な化学物質を簡便且つ高精度に分離する方法として、下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物を使用する方法を見出した。かかる分離方法は、試料中に含有される化学物質を分離する方法であって、分離対象の前記化学物質を混和させる、下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物からなる群から選択される一種以上のアミド化合物、水及び前記試料を混合して混合物を調製する工程と、前記混合物を複数層に分離させる工程と、前記複数層のうち、前記アミド化合物及び化学物質を含む層を、前記アミド化合物及び化学物質のいずれにも該当しないその他の物質を除去するための担体と接触させ、前記化学物質を回収する工程と、を有することを特徴とする。
【0006】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】新版 続実験を安全に行うために、化学同人編集部編、1987年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記アミド化合物を使用する分離方法は、各工程が簡略化され、分離対象の化学物質やアミド化合物の損失も抑制されることから、試料中の微量な化学物質を簡便且つ高精度に分離できる点で、従来の分離方法よりも格段に優れる。
しかし、前記アミド化合物は前記化学物質との親和性が高く、これらを含有する混合物から前記化学物質を高純度で分離することが困難になることがあるという問題点があった。この場合さらに、前記化学物質を容易には高精度に解析できないという問題点もあった。例えば、前記アミド化合物の影響で、前記化学物質のシグナルを正確に検出できないことがあった。また、前記化学物質が微量である場合、質量分析法(Mass Spectrometry)を利用する方法で前記化学物質を解析するが、前記化学物質だけでなく前記アミド化合物もイオン化されて前記化学物質の検出が阻害されてしまったり、前記アミド化合物が解析装置を汚染してしまうことがあった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、特定のアミド化合物と該アミド化合物に混和する化学物質とを含有する混合物から、前記化学物質を高純度で分離できる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、
本発明は、下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物からなる群から選択される一種以上のアミド化合物と、該アミド化合物及び該アミド化合物に混和する化学物質を含有する混合物から、該化学物質を除去するための担体と、を備えたことを特徴とする化学物質の分離キットを提供する。
【0011】
【化2】

【0012】
本発明の化学物質の分離キットにおいては、前記担体が、鎖状のアルキル基が導入されたシリカゲルであることが好ましい。
本発明の化学物質の分離キットにおいては、前記アルキル基がオクタデシル基であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物からなる群から選択される一種以上のアミド化合物と、該アミド化合物に混和する化学物質と、を含有する混合物を、前記化学物質を除去するための担体と接触させ、前記化学物質と前記アミド化合物とを分離する工程を有することを特徴とする化学物質の分離方法を提供する。
【0014】
【化3】

【0015】
本発明の化学物質の分離方法においては、前記担体が、鎖状のアルキル基が導入されたシリカゲルであることが好ましい。
本発明の化学物質の分離方法においては、前記アルキル基がオクタデシル基であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定のアミド化合物と該アミド化合物に混和する化学物質とを含有する混合物から、前記化学物質を高純度で分離できる。そして、微量な化学物質も簡便且つ高精度に解析できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の化学物質の分離方法における手順を説明するための図である。
【図2】GC−MSの測定結果を示すスペクトルデータであり、(a)は実施例1、(b)は比較例1のデータである。
【図3】図2の12分〜17分5秒のスペクトルデータを拡大して示す図であり、(a)は実施例1、(b)は比較例1のデータである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<化学物質の分離方法>
本発明の化学物質の分離方法は、下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物(以下、それぞれアミド化合物(1)〜(7)と略記することがある)からなる群から選択される一種以上のアミド化合物と、該アミド化合物に混和する化学物質と、を含有する混合物を、前記化学物質を除去するための担体と接触させ、前記化学物質と前記アミド化合物とを分離する工程(以下、分離工程と略記することがある)を有することを特徴とする。
以下、本発明の化学物質の分離方法について、図1に示す、手順を説明するための図を参照しながら詳しく説明する。
【0019】
【化4】

【0020】
前記化学物質は、分析対象である試料中に含有されるものであって、定量等の解析対象となるものである。また、前記アミド化合物は、前記試料から前記化学物質を分離するためのものである。そして、本発明の分離方法を適用することで、前記化学物質と前記アミド化合物とを含有する混合物から、前記化学物質を高純度で分離できるので、該化学物質の定量や、構造の特定を簡便且つ高精度に行うことができる。
【0021】
アミド化合物(1)〜(7)からなる群から選択される一種以上のアミド化合物と、該アミド化合物に混和する化学物質と、を含有する混合物としては、例えば、分析対象である前記試料から前記アミド化合物を使用して得られた、前記化学物質を含む抽出物が例示できる。かかる抽出物は、さらに必要に応じて、目的とする前記化学物質以外の成分を除去又は低減するために、別途精製操作に供しても良い。ここで、精製操作としては、カラムクロマトグラフィー、抽出、洗浄、蒸留、再結晶等の公知のものが例示できる。
【0022】
前記化学物質は、分析対象となる試料中に含有されるものであり、前記アミド化合物と混和するものであれば、特に限定されるものではなく、無機化合物、有機化合物及びこれらの複合体のいずれでも良い。具体的には、水と任意の比率で混合する化学物質以外の化学物質であり、低水溶性物質であることが好ましい。ここで「低水溶性物質」とは、例えば、常温において、水よりも水とは分離する溶媒の方に多く溶解する物質を指す。そして、前記化学物質は、有機化合物であることが好ましい。
【0023】
前記化学物質の代表的な具体例としては、医薬;動物用医薬;農薬;飲食品、動物用飼料等に含有される各種添加剤;タンパク質、アミノ酸、糖、脂質、核酸、これらの一種以上からなる複合体等の生体由来成分;前記生体由来成分の誘導体等が例示でき、天然物、天然物の誘導体、合成物のいずれでも良い。ここで、「誘導体」とは、原料に対して化学物質を作用させ、構造の一部を改変したものを指し、より具体的には、分解、基の導入又は除去等の操作を行ったものを指す。そして、前記試料とは、このような化学物質を含有するすべてのものが対象となる。
【0024】
例えば、前記試料の好ましいものとして、食品由来成分を含有するものが例示でき、具体的には、農産物、畜産物、水産物等の未加工飲食品からの抽出物;前記未加工飲食品を加工して得られた加工飲食品;該加工飲食品からの抽出物等が例示できる。
前記未加工飲食品としては、野菜類、果物類、穀類、肉類、乳類、魚類、甲殻類、海藻類等が例示できる。
前記加工飲食品としては、前記未加工飲食品を加工して得られた搾汁液、磨砕物、破砕物、発酵物、加熱物、乾燥物、前記搾汁液の濃縮物又は希釈物等が例示できる。
【0025】
飲食品からは、公知の方法で試料を抽出すれば良い。例えば、固形状の飲食品であれば、これを水や有機溶媒に浸漬してホモジナイズし、固形物をろ過して得られたろ液を試料とする方法が例示できる。また、液状の飲食品であれば、これを水や有機溶媒で希釈して撹拌した後、固形物をろ過して得られたろ液を試料とする方法が例示できる。また、前記希釈物をそのまま試料としても良い。ただし、これらの方法に限定されるものではない。
【0026】
農産物には、前記化学物質として農薬が含有され得るが、農薬としては、殺菌剤、殺虫剤、除草剤、植物成長調節剤等が例示できる。
農薬のうち、前記殺菌剤としては、無機化合物系殺菌剤;SH基酵素阻害剤;電子伝達系阻害剤;タンパク質合成阻害剤、核酸生合成阻害剤、細胞膜成分生合成阻害剤、細胞壁成分合成阻害剤、メラニン生合成阻害剤、メチオニン合成系阻害剤、糖代謝系阻害剤等の菌体成分合成阻害剤;細胞膜機能阻害剤;細胞内容物の漏出剤;グルコース吸収阻害剤;細胞分裂阻害剤;酵素分泌阻害剤;作物の病害抵抗性誘導剤;トリアジン系、シアノアセトアミド系、酸アミド系、フェンヘキサミド等のその他の殺菌剤等が例示できる。
【0027】
前記殺虫剤としては、天然物殺虫剤;その誘導体等の有機合成殺虫剤;無機化合物系殺虫剤;アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、ニコチン性アセチルコリン受容体活性化剤、アセチルコリン受容体阻害剤、GABA(γ−アミノ酪酸)受容体拮抗剤、GABA受容体作用剤、神経軸索シグナル伝達阻害剤、セロトニン受容体作用剤等の神経機能阻害剤;脱共役剤;チオウレア系殺虫剤;キチン合成阻害剤、幼若ホルモン様活性剤、脱皮ホルモン様活性剤等の昆虫成長制御剤;昆虫性ホルモン剤等の誘引剤又は忌避剤;電子伝達系阻害剤、抗生物質系、ピレスロイド系、ピリミジフェン、ビフェナゼート、キノメチオネート、アミトラズ、クロフェンテジン等の殺ダニ剤;殺線虫剤;シロマジン、メタアルデヒド、安息香酸樹脂、ポリブテン、メトキシフェノジド、石油系粘着物質等のその他の殺虫剤等が例示できる。
【0028】
前記除草剤としては、無機除草剤;光合成電子伝達系阻害剤(光合成阻害剤)、色素合成阻害剤、光要求型又は光白化型光誘導活性酵素発生剤等の光合成関連除草剤;脂肪酸生合成阻害剤;アセトラクテート合成酵素阻害剤、エノールピルビルシキミ酸リン酸合成酵素阻害剤、グルタミン合成酵素阻害剤等のアミノ酸生合成阻害剤;タンパク質合成阻害剤;細胞分裂阻害剤;ホルモン作用阻害又はかく乱剤;脂肪酸系除草剤;イソキサフルトール、ブタフェナシル等のその他の除草剤等が例示できる。
【0029】
前記植物成長調節剤としては、植物ホルモン剤;植物ホルモン拮抗剤;矮化剤;蒸散抑制剤;オキシン硫酸塩、過酸化カルシウム、コリン、デシルアルコール、ピペロニルブトキサイド、塩化カルシウム、硫酸カルシウム等のその他の植物成長調節剤等が例示できる。
【0030】
本発明における前記化学物質としては、なかでも、食品衛生法に基づくポジティブリスト制度の対象となる農薬、動物用医薬品及び飼料添加物(以下、農薬等と略記する)、並びに検疫所のモニタリング対象物質が好適である。
【0031】
ポジティブリスト制度の対象となる農薬等のうち、「GC/MSによる農薬等の一斉試験法(農産物)」、「(GC/MSによる農薬等の一斉試験法(畜水産物))」の対象である化学物質を以下に例示する。
α−BHC、β−BHC、γ−BHC(リンデン)、δ−BHC、op’−DDT、pp’−DDD、pp’−DDE、pp’−DDT、EPN、TCMTB、XMC、アクリナトリン、アザコナゾール、アザメチホス、アジンホスメチル、アセタミプリド、アセトクロール、アセフェート、アゾキシストロビン、アトラジン、アニロホス、アメトリン、アラクロール、アラマイト、アルジカルブ分解物、アルドキシカルブ分解物、アルドリン、アレスリン、イサゾホス、イソキサジフェンエチル、イソキサチオン、イソフェンホス、イソフェンホスオキソン、イソプロカルブ、イソプロチオラン、イプロジオン、イプロジオン代謝物、イプロベンホス、イマザメタベンズメチルエステル、イマザリル、イミベンコナゾール、イミベンコナゾール脱ベンジル体、ウニコナゾールP、エスプロカルブ、エスフェンバレレート、エタルフルラリン、エチオン、エディフェンホス、エトキサゾール、エトフェンプロックス、エトフメセート、エトプロホス、エトリジアゾール、エトリムホス、エポキシコナゾール、α−エンドスルファン、β−エンドスルファン、エンドスルファンスルファート、エンドリン、オキサジアゾン、オキサジキシル、オキサベトリニル、オキシフルオルフェン、オメトエート、オリザリン、カズサホス、カフェンストロール、カルバリル、カルフェントラゾンエチル、カルボキシン、カルボスルファン、カルボフラン、カルボフラン(分解物)、キナルホス、キノキシフェン、キノクラミン、キントゼン、クレソキシムメチル、クロゾリネート、クロマゾン、クロルエトキシホス、クロルタールジメチル、cis−クロルデン、trans−クロルデン、オキシクロルデン、クロルピリホス、クロルピリホスメチル、クロルフェナピル、クロルフェンソン、クロルフェンビンホス(E)α、クロルフェンビンホス(Z)β、クロルブファム、クロルプロファム、クロルベンシド、クロルベンジレート、クロロネブ、シアナジン、シアノホス、ジエトフェンカルブ、ジオキサチオン、ジクロシメット、ジクロトホス、ジクロフェンチオン、ジクロホップメチル、ジクロラン、1,1−ジクロロ−2,2−ビス(4−エチルフェニル)エタン、ジコホール、ジコホール分解物(4,4’−ジクロロベンゾフェノン)、ジスルホトン、ジスルホトンスルホン体、シニドンエチル、シハロトリン、シハロホップブチル、ジフェナミド、ジフェニルアミン、ジフェノコナゾール、シフルトリン、ジフルフェニカン、シプロコナゾール、シペルメトリン、シマジン、ジメタメトリン、ジメチルビンホス(E)、ジメチルビンホス(Z)、ジメテナミド、ジメトエート、ジメトモルフ、シメトリン、ジメピペレート、スピロキサミン、スピロジクロフェン、ゾキサミド、ゾキサミド(分解物)、ターバシル、ダイアジノン、ダイアレート、チアクロプリド、チアベンダゾール、チオベンカルブ、チオメトン、チフルザミド、ディルドリン、テクナゼン、テトラクロルビンホス、テトラコナゾール、テトラジホン、テニルクロール、テブコナゾール、テブチウロン分解物、テブフェンピラド、テフルトリン、デメトン−S−メチル、デルタメトリン、テルブトリン、テルブホス、トラロメトリン、トラロメトリン分解物1[=デルタメトリン(異性体1)]、トラロメトリン分解物2[=デルタメトリン(異性体2)]、トリアジメノール、トリアジメホン、トリアゾホス、トリアレート、トリシクラゾール、トリチコナゾール、トリデモルフ、トリブホス、トリフルミゾール、トリフルラリン、トリフロキシストロビン、トルクロホスメチル、トルフェンピラド、2−(1−ナフチル)アセタミド、ナプロパミド、ニトラピリン、ニトロタールイソプロピル、ノルフルラゾン、パクロブトラゾール、バーバン、パラチオン、パラチオンメチル、ハルフェンプロックス、ビオアレスリン、ビオレスメトリン、ピコリナフェン、ピテルタノール、ビフェノックス、ビフェントリン、ピペロニルブトキシド、ピペロホス、ピラクロストロビン分解物、ピラクロホス、ピラゾホス、ピラフルフェンエチル、ピリダフェンチオン、ピリダベン、ピリフェノックス(E)、ピリフェノックス(Z)、ピリブチカルブ、ピリプロキシフェン、ピリミカーブ、ピリミノバックメチル(E)、ピリミノバックメチル(Z)、ピリミホスメチル、ピリメタニル、ピレトリンI、ピレトリンII、ピロキロン、ビンクロゾリン、ファムフール、ファモキサドン、フィプロニル、フェナミホス、フェナリモル、フェニトロチオン、フェノキサニル、フェノキサプロップエチル、フェノチオカルブ、フェノトリン、フェノブカルブ、フェンアミドン、フェンクロルホス、フェンスルホチオン、フェンチオン、フェントエート、フェンバレレート、フェンブコナゾール、フェンプロパトリン、フェンプロピモルフ、フサライド、ブタクロール、ブタミホス、ブピリメート、ブプロフェジン、フラチオカルブ、フラムプロップメチル、フリラゾール、フルアクリピリム、フルキンコナゾール、フルジオキソニル、フルシトリネート、フルシラゾール、フルチアセットメチル、フルトラニル、フルトリアホール、フルバリネート、フルフェナセット、フルフェンピルエチル、フルミオキサジン、フルミクロラックペンチル、フルリドン、プレチラクロール、プロクロラズ、プロシミドン、プロチオホス、プロパキザホップ、プロパクロール、プロパジン、プロパニル、プロパホス、プロパルギット、プロピコナゾール、プロピザミド、プロヒドロジャスモン、プロフェノホス、プロペタンホス、プロポキスル、ブロマシル、プロメトリン、ブロモブチド、ブロモプロピレート、ブロモホス、ブロモホスエチル、ヘキサクロロベンゼン、ヘキサコナゾール、ヘキサジノン、ベナラキシル、ベノキサコル、ヘプタクロール、ヘプタクロールエポキシド、ペルメトリン、ペンコナゾール、ベンダイオカルブ、ペンディメタリン、ベンフラカルブ、ベンフルラリン、ベンフレセート、ホサロン、ボスカリド、ホスチアゼート、ホスファミドン、ホスメット、ホルモチオン、ホレート、マラチオン、ミクロブタニル、メカルバム、メタクリホス、メタミドホス、メタラキシル(異性体:メフェノキサム)、メチダチオン、メトキシクロル、メトプレン、メトミノストロビン、メトラクロール、メトリブジン、メビンホス、メフェナセット、メフェノキサム、メフェンピルジエチル、メプロニル、モノクロトホス、リンデン(γ−BHC)、レスメトリン、レナシル
【0032】
ポジティブリスト制度の対象となる農薬等としては、上記以外にさらに、「LC/MSによる農薬等の一斉試験法I〜II(農産物)」、「(LC/MSによる農薬等の一斉試験法(畜水産物))」、「個別試験法」等の対象となる化学物質がある。
【0033】
アミド化合物(1)〜(7)は、分離対象の化学物質を混和させるものであり、前記化学物質との親和性が高く、前記化学物質と安定して共存するものである。
前記アミド化合物は、常温においてはもとより、100℃以上の温度でも気化することがないため、各工程における損失が抑制されると共に、取り扱い性に極めて優れる。
【0034】
アミド化合物(1)〜(7)は、固体(粉体)及び液体のいずれの状態でも使用できる。
アミド化合物(1)〜(7)としては、市販品を使用しても良いし、合成したものを使用しても良い。アミド化合物(1)〜(7)は、例えば、カルボン酸の酸ハロゲン化物とアミンとを反応させて、アミド結合を形成する公知の方法で合成できる。
【0035】
前記アミド化合物及び水の混合物は、下限臨界溶液温度(以下、LCSTと略記することがある)を有するものであり、所定温度未満の温度で均一な層であるが、所定温度以上の温度で複数層に分離するものである。
LCSTは塩類が共存することで低下するので、後述するように前記アミド化合物及び水の混合物に塩類を添加することで、LCSTを目的に応じて任意に調節できる。例えば、LCSTが高い場合には、塩類を添加して、分離させる時の加熱温度が低くても済むように、又は加熱が不要となるようにLCSTを調整でき、常温(例えば、15〜25℃程度)で分離させることも可能となる。このように、分離条件を穏和にすることで、分離対象の化学物質に対する熱の影響を軽減できる。
【0036】
前記アミド化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。
【0037】
前記アミド化合物と前記化学物質とを含有する混合物は、これら以外のその他の成分を含有していても良く、含有していなくても良い。
前記その他の成分としては、試料中に前記化学物質と共存していた成分や、溶媒成分が例示できる。前記その他の成分を含有している場合、その混合物中における含有量は、試料から前記化学物質を得る方法等に依存して異なっていても良いが、少ないほど好ましい。
【0038】
図1の「A」に、本発明の化学物質の分離方法における手順を例示する。
分離工程(図1「A」中の(a))においては、前記混合物を、前記化学物質を除去するための担体と接触させ、前記化学物質と前記アミド化合物とを分離する。なお、以下においては、ここで説明する分離方法を、後述する「第二の分離方法」と区別するために、特に「第一の分離方法」と称することがある。そして、第一の分離方法を行う工程を特に「第一の分離工程」、第一の分離方法で使用する前記混合物を特に「第一の混合物」、前記担体を特に「第一の担体」と称することがある。
【0039】
前記担体(第一の担体)は、前記アミド化合物よりも前記化学物質との間でより強い相互作用を発現し、前記化学物質に対してより強い捕捉能を有するものであり、前記化学物質を優先的に捕捉できるものであれば、特に限定されない。また、前記担体は、固形状物質又はゲル状物質である。
【0040】
好ましい担体として具体的には、各種クロマトグラフィーにおいて担体として使用されるものが例示できる。すなわち、移動相の存在下、相互作用の強さの違いに基づいて、化学物質を分離し得るものであり、なかでも好ましいものとしては、逆相クロマトグラフィー用の担体が例示できる。ここで、「逆相クロマトグラフィー」とは、移動相よりも小さい極性を有する固定相(担体)を使用するクロマトグラフィーであって、分離対象の化学物質のうち、通常、疎水性の小さいものから順次溶出させる手法である。
【0041】
逆相クロマトグラフィー用の担体として、具体的には、シリカゲル等の基材に各種官能基が導入され、修飾されたものが例示できる。前記官能基としては、プロピル基、ブチル基、オクタデシル基等の鎖状のアルキル基;フェニル基、フェネチル基等の芳香族基;シアノプロピル基、アミノプロピル基等の水素原子が置換基で置換されたアルキル基等が例示できる。また、官能基としては、これら以外にもポリマー構造を有するものも適用できる。
前記担体としては、基材がシリカゲル以外のものも好適であり、かかる基材としては、スチレンジビニルベンゼン等のポリマーが例示できる。
【0042】
1つの前記担体に導入されている官能基は、一種でも良いし、二種以上でも良い。二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0043】
前記担体は、例えば、メチル基等のアルキル基が二つ結合したケイ素原子(−Si(R)−、式中、R、Rは互いに独立してアルキル基である。)を介して、前記官能基が基材中の酸素原子等に結合しているものが好ましい。ケイ素原子にこれら二つのアルキル基と、前記官能基と、塩素原子等のハロゲン原子とが結合したシランカップリング剤を基材と反応させることで、容易に所望の担体を調製できる。前記担体は、このように官能基が導入され、さらにエンドキャッピング処理されたものでも良い。また、前記担体としては、市販品を使用しても良い。
【0044】
前記担体は、官能基として鎖状のアルキル基が導入されたものが好ましく、オクタデシル基が導入されたものがより好ましい。
【0045】
担体は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0046】
担体と接触させ、前記化学物質と前記アミド化合物とを分離する方法としては、カラムクロマトグラフィーと同様の方法が好ましい。すなわち、カラム内に充填した前記担体上に前記混合物を載せ、担体の混合物を載せた側から反対側へ向けて移動相を流す。この時、前記化学物質は、担体に優先的に捕捉され、前記アミド化合物が前記化学物質よりも先に移動相と共に溶出するので、前記化学物質と前記アミド化合物とを容易に分離できる。また、このような方法によれば、前記化学物質が担体に固定化されないものであっても、担体による捕捉の程度が、前記化学物質の場合と僅かでも異なれば、前記化学物質を前記アミド化合物の混入が抑制された状態で得られ、前記化学物質の混入が抑制された前記アミド化合物を回収できる。回収された前記アミド化合物は、移動相である溶媒を除去し、必要に応じて精製操作を行うことで、繰り返し再利用できる。
【0047】
担体と接触させる前記混合物(第一の混合物)は、前記化学物質以外にその他の物質も含み得るが、主成分はアミド化合物である。このような、溶媒成分をほぼ又は全く含まない組成物は、たとえ液状であっても粘性が高かったり、固形物が析出し易かったりするため、通常であれば、担体との接触に供することはない。特に、カラムクロマトグラフィーと同様の方法を適用する場合には、組成物が担体に引っ掛かったり、担体中で析出したりするために溶出が困難であり、移動相を流すことも困難となる。
しかし、本発明においては、前記アミド化合物を使用することにより、全く意外にも、溶媒成分をほぼ又は全く含まない前記アミド層は、上記のような問題点を生じないだけでなく、担体中を極めて容易に移動する。このような、前記アミド化合物に特有の性質を見出したことにより、担体を使用して前記化学物質と前記アミド化合物とを分離できる。また、前記アミド化合物は、上記のように担体中を極めて容易に移動するので、全量を溶出させることができ、分離工程での前記アミド化合物及び前記化学物質の損失が抑制される。
【0048】
移動相として使用する溶媒は、前記アミド化合物及び化学物質と反応せず、前記化学物質ではなく該アミド化合物と優先的に混合するものであれば、特に限定されない。前記アミド化合物は、水と任意の比率で混合するので、特に好ましい溶媒としては、水を主成分とするものが例示できる。この時の水の比率は、75体積%以上であることが好ましく、85体積%以上であることがより好ましく、100体積%であっても良い。また、水と併用する溶媒としては、上記条件に加え水と容易に混合するものが好ましく、メタノール、エタノール等のアルコール類やアセトニトリルが例示でき、メタノール、アセトニトリルが特に好ましい。
【0049】
逆相クロマトグラフィー用の担体を使用する場合、通常であれば、移動相として水を主成分とするものを選択することはない。逆相クロマトグラフィーは、上記のように、分離対象の化学物質のうち、疎水性の小さいものから順次溶出させる手法であり、水のような極性が高い溶媒を主成分とする移動相を選択すると、目的物を十分に分離できないからである。また、有機溶媒ではなく水への溶解度が高い成分は、溶出させる成分として選択されないからである。その理由は、水への溶解度が高い成分は、通常、このような担体中では不安定であり、さらに、その他の成分として水への溶解度が低い成分が共存する場合には、析出したこれらその他の成分との分離が不完全になるからである。
しかし、本発明においては、溶出させる成分である前記アミド化合物が、上記のように担体中を極めて容易に移動することに加え、全く意外にも、水の共存下でも極めて安定であり、水への溶解度が低い成分とも容易に分離するので、移動相として、水を主成分とするものが選択可能となっている。
【0050】
移動相としての溶媒は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、適宜選択すれば良い。
【0051】
担体と接触させる前の前記混合物が、前記化学物質及びアミド化合物以外のその他の成分を含有する場合には、該その他の成分は、前記アミド化合物と共に溶出されるか、担体に捕捉される。
【0052】
前記化学物質は、さらに担体から分離することで得られる。この時の分離方法は特に限定されず、例えば、前記化学物質及び担体を含有する混合物を、前記化学物質を溶解させることができる溶媒で洗浄し、前記化学物質の溶液を回収して、溶媒を除去する方法が例示できる。特に、前記アミド化合物を溶出させた後、引き続きこのような溶媒を移動相として前記化学物質を溶出させる方法が好ましい。このようにすることで、前記化学物質を一層簡便且つ高純度で得られる。さらに、これら分離操作を行った後、必要に応じて公知の精製操作を一回以上行っても良い。ここで、精製操作としては、カラムクロマトグラフィー、抽出、洗浄、蒸留、再結晶等の公知のものが例示できる。
担体に前記化学物質以外のその他の成分が捕捉されている場合には、担体の場合と同様に前記化学物質と分離すれば良い。
【0053】
回収された前記アミド化合物は、移動相である溶媒を除去することで、繰り返し再利用できる。前記アミド化合物中にその他の成分が含まれる場合には、上記と同様の公知の精製操作を一回以上行うことで、その他の成分を除去できる。
【0054】
前記化学物質の有無や、その同定は、公知の方法で行えば良い。例えば、前記化学物質が微量である場合には、好ましい方法としては、質量分析法(Mass Spectrometry)を利用する方法が例示でき、より具体的には、液体クロマトグラフィー(LC)と組み合わせたLC/MS、LC/MS/MS、ガスクロマトグラフィーと組み合わせたGC/MS、GC/MS/MS、キャピラリー電気泳動と組み合わせたCE−MS等が例示できる。
【0055】
前記混合物が、前記その他の成分を含有する場合には、担体と接触させる前に、該その他の成分を予め除去又は低減しておいても良い。この場合、例えば、このような混合物を、上記と同様の公知の精製操作に供しておく方法が例示できる。
【0056】
前記混合物としては、上記のように、分析対象である前記試料から前記アミド化合物を使用して得られた、前記化学物質を含む抽出物が好適である。前記アミド化合物は、解析対象の前記化学物質が微量であっても、試料中の該化学物質を簡便且つ高精度に分離できる。以下、前記アミド化合物を使用して、試料から化学物質を分離する方法について説明する。
なお、以下においては、「第二の」なる接頭語を付した語句は、特に断りの無い限り、すべて前記混合物を調製する方法に関係する語句を指すものとし、これまでに説明した、前記アミド化合物と前記化学物質とを分離する方法に関係する語句と区別する。
【0057】
[試料からの化学物質の分離方法]
試料中に含有される化学物質の前記分離方法(以下、第二の分離方法と略記する)としては、前記アミド化合物、水及び前記試料を混合して混合物(以下、第二の混合物と略記する)を調製する工程(以下、第二の混合工程と略記する)と、前記第二の混合物を複数層に分離させる工程(以下、第二の分離工程と略記する)と、前記複数層のうち、前記アミド化合物及び化学物質を含む層を、前記アミド化合物及び化学物質のいずれにも該当しないその他の物質を除去するための担体(以下、第二の担体と略記する)と接触させ、前記化学物質を回収する工程(以下、第二の回収工程と略記する)と、を有する方法が例示できる。
図1の「B」に、第二の分離方法における手順を例示する。
【0058】
(第二の混合工程)
第二の混合工程(図1「B」中の(b))においては、前記アミド化合物、水及び前記試料を混合するが、その混合方法は特に限定されない。例えば、混合順序は適宜調整でき、水及び前記試料を混合してから前記アミド化合物を混合しても良いし、前記アミド化合物及び水を混合してから前記試料を混合しても良い。あるいは、前記アミド化合物、水及び前記試料を同時に混合しても良い。
前記アミド化合物は、先の説明のように100℃以上の温度でも気化することがないため、第二の分離方法においても、各工程における損失が抑制されると共に、取り扱い性に極めて優れる。
【0059】
アミド化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に選択できる。第二の分離方法で使用するアミド化合物と、上記本発明の化学物質の分離方法で使用するアミド化合物とは、同じであることが好ましい。
【0060】
第二の混合物における水の量は、アミド化合物や前記試料の種類及び量等に応じて、任意に調節できる。ただし通常は、アミド化合物/水の質量比が2/1〜1/8であることが好ましく、1/1〜1/5であることがより好ましい。
第二の混合物は、前記アミド化合物、水及び前記試料からなるものが好ましいが、これら以外の成分を含有していても良く、この場合当該成分は、水溶性が高いものほど好ましい。
【0061】
第二の混合物は、必ずしも不溶物が存在しない水溶液でなくても良いが、水溶液であることが好ましい。
【0062】
第二の混合物を調製することにより、前記アミド化合物には、試料中の前記化学物質が混和する。
第二の分離方法においては、アミド化合物(1)〜(7)には、一種につき一種の前記化学物質を混和させても良いし、複数種の前記化学物質を混和させても良い。例えば、複数種の前記化学物質が、同時に別々に検出できるものである場合には、これら複数種のものを一種の前記アミド化合物に混和させて同時に分離することで、試料の分析時間を大幅に短縮できる。
【0063】
第二の混合物を調製する条件は、試料中に含有される分離対象の化学物質が劣化しない限り特に限定されない。
例えば、温度は通常、15〜25℃程度であることが好ましい。
撹拌は、撹拌翼又は撹拌子を使用した撹拌、振とう撹拌、超音波を利用する撹拌等、公知の方法が適用できる。
【0064】
(第二の分離工程)
第二の分離工程(図1「B」中の(c))においては、第二の混合物を複数層に分離させる。複数層に分離するのは、アミド化合物及び水の混合物がLCSTを有するからである。
複数層に分離させるためには、第二の混合物をLCST以上の温度に温度調節する必要がある。そして、第二の混合物を十分に撹拌したり、遠心分離に供することが好ましい。
【0065】
第二の分離工程を行うことにより、第二の混合物は、前記アミド化合物を主成分とし、分離対象の前記化学物質を含むアミド層と、水層との少なくとも二層に分離する。通常、これら二層はいずれも溶液となり、アミド層は上層に、水層は下層にそれぞれ分配される。
さらに試料の種類によっては、試料由来の固形物等の不溶物をおもに含む不溶物層が形成され、第二の混合物は三層に分離することもある。この場合、不溶物層は、例えば、上層及び下層間で中間層を形成することがあるが、上記のように遠心分離した場合には、最下層に位置する。本発明においては、不溶物層を除去するためのろ過等の操作は不要である。
【0066】
この段階で第二の混合物に含まれていた水は、水層に分配される。そして、前記アミド化合物が個体及び液体のいずれであっても、アミド層はこの段階で液状である。これは、体積としては無視し得るほどの極微量の水がアミド化合物中に混在していることが理由であると推測される。
一方、前記アミド化合物は水層へは分配されない。そして、アミド化合物は、前記化学物質との親和性が高いので、前記化学物質は水層へは分配されず、アミド層でアミド化合物と共存する。したがって、本発明においては、分離工程でのアミド化合物及び前記化学物質の損失が抑制される。
【0067】
前記アミド層には、通常はさらに、前記アミド化合物及び化学物質のいずれにも該当しないその他の物質が共存する。その他の物質としては、代表的なものとして、試料中に含有されていた低水溶性物質やその分解物、あるいは組織等の固形物が例示できる。例えば、試料が飲食品である場合には、前記低水溶性物質として各種色素、タンパク質、糖、糖タンパク質が例示できる。色素は、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族環や、該芳香族環を構成する一つ以上の炭素原子が、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子で置換された芳香族複素環を有しているものが多く、水溶性が低いものが多い。また、タンパク質、糖、糖タンパク質では、分子量が大きく脂溶性が高い官能基を有するものは水溶性が低くなる。なお、ここで「低水溶性物質」とは、前記と同様である。また、前記組織としては、例えば野菜であれば、茎や葉等の構造を構成していたものが例示できる。
【0068】
第二の分離工程における温度や撹拌方法は、第二の混合工程の場合と同様で良い。
【0069】
本発明においては、第二の分離工程の前に、さらに、前記第二の混合物に塩類を添加する工程(以下、塩類添加工程と略記することがある)を有することが好ましい。これにより、LCSTが低下するので、第二の混合物が容易に複数層に分離するようになる。この場合、塩類が添加された第二の混合物を加熱せずに又は加熱温度を低下させて第二の分離工程を行うこともできる。このように塩類添加工程を有することで、例えば、加熱が不要になったり、軽度で済むなど、より穏和な条件で第二の分離工程を行うことができる。その結果、工程を一層簡略化できると共に、分離対象の化学物質の劣化が一層抑制されるので、化学物質の分離精度が一層向上する。
【0070】
(塩類添加工程)
塩類添加工程で使用する塩類は、有機塩類及び無機塩類のいずれでも良く、目的に応じて任意に選択できるが、水溶性が高いものが好ましく、無機塩類が好ましい。
無機塩類として、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩;硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩;硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム等の硫酸水素塩;リン酸ナトリウム(NaPO)、リン酸水素ナトリウム(NaHPO)、リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、リン酸カリウム(KPO)、リン酸水素カリウム(KHPO)、リン酸二水素カリウム(KHPO)等のリン酸塩;塩化アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、リン酸アンモニウム((NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO))、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)等のアンモニウム塩;塩化ニッケル(NiCl)、塩化鉄(II)(FeCl)、塩化鉄(III)(FeCl)、塩化銅(II)(CuCl)等の金属の塩化物;硫酸鉄(II)(FeSO)、硫酸鉄(III)(Fe(SO)、硫酸銅(II)(CuSO)等の金属の硫化物;ニクロム酸カリウム(KCr)、クロム酸カリウム(KCrO)、クロム酸ナトリウム(NaCrO)等のニクロム酸又はクロム酸の塩等が例示できる。
【0071】
塩類の添加量は、塩類が析出しないように第二の混合物の組成に応じて適宜調節すれば良く、特に限定されない。
【0072】
塩類は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0073】
本発明においては、前記第二の混合物を加熱して第二の分離工程を行っても良い。この場合、第二の分離工程の前に、第二の混合物に塩類を添加しても良いし、添加しなくても良い。加熱することで、第二の混合物は容易に複数層に分離するようになるので、塩類を添加しなくても、第二の分離工程を容易に行うことができるようになるが、塩類を添加することで、LCSTが低下するので、第二の分離工程を行うことが一層容易となり、さらに、第二の混合物を加熱する時の温度を調節することもできる。
第二の混合物を加熱する時の温度は、LCSTよりも高く、かつ分離対象の化学物質が劣化しない範囲内で任意に選択できる。
【0074】
(第二の回収工程)
第二の回収工程(図1「B」中の(d))においては、前記複数層のうち、前記アミド化合物及び化学物質を含む層(アミド層)を、前記アミド化合物及び化学物質のいずれにも該当しないその他の物質を除去するための第二の担体と接触させ、前記化学物質を回収する。
ここで、その他の物質とは、第二の分離工程で説明したものである。
【0075】
第二の担体は、アミド層からその他の物質を分離するものであり、固形状物質又はゲル状物質である。
好ましい担体として具体的には、各種クロマトグラフィーにおいて担体として使用されるものが例示できる。すなわち、静電引力、ファンデルワールス力、疎水結合、分子ふるい作用等を利用して、相互作用の強さの違いに基づいて、移動相の存在下、物質を分離し得るものが例示できる。より具体的には、前記第一の分離工程において説明した逆相クロマトグラフィー用の担体(ただし、第一の分離工程と第二の分離工程とで、使用する担体は異なることが好ましい);シリカゲル;ジエチルアミノエチル基、スルホプロピル基、カルボキシルメチル基、第4級アンモニウム基等の官能基を有するイオン交換樹脂;活性炭等が例示できるが、これらに限定されない。
【0076】
第二の担体は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
すなわち、本発明においては、一種の第二の担体で除去するその他の物質は一種でも良いし複数種でも良い。そして、複数種の第二の担体で一種のその他の物質を除去しても良いし、複数種のその他の物質を除去しても良い。
【0077】
例えば、前記化学物質やその他の物質との相互作用の形態が異なる複数種の第二の担体を組み合わせて使用することで、一種又は複数種のその他の物質の除去効果を一層向上させることができる。これは、複数種のその他の物質を除去する場合に特に有効であり、試料の分析時間を一層短縮できる。
二種以上の第二の担体を併用する場合には、これら複数種の担体は、混合して使用しても良いが、混合せずに、一種の担体からなる担体層を複数積層させて使用することが好ましい。
【0078】
アミド層を第二の担体と接触させ、前記化学物質を回収する方法としては、カラムクロマトグラフィーと同様の方法が好ましい。すなわち、カラム内に充填した第二の担体上にアミド層を載せ、第二の担体のアミド層を載せた側から反対側へ向けて移動相を流し、溶出した前記化学物質を回収する。このような方法によれば、その他の物質が第二の担体に固定化されないものであっても、第二の担体との間の相互作用の程度が、前記化学物質の場合と僅かでも異なれば、その他の物質の混入なく前記化学物質を全量回収できる。
【0079】
第二の担体と接触させるアミド層は、前記化学物質及びその他の物質を含むものの、主成分はアミド化合物である。このような、溶媒成分をほぼ又は全く含まない組成物は、先の説明のように、たとえ液状であっても粘性が高かったり、固形物が析出し易かったりするため、通常であれば、担体との接触に供することはない。特に、カラムクロマトグラフィーと同様の方法を適用する場合には、組成物が担体に引っ掛かったり、担体中で析出したりするために溶出が困難であり、移動相を流すことも困難となる。
しかし、本発明においては、前記アミド化合物を使用することにより、全く意外にも、溶媒成分をほぼ又は全く含まない前記アミド層は、上記のような問題点を生じないだけでなく、担体中を極めて容易に移動する。このような、前記アミド化合物に特有の性質を見出したことにより、第二の担体を使用してその他の物質を容易に除去できる。
【0080】
第二の回収工程では、アミド層に含まれていたその他の物質が除去され、前記化学物質がアミド化合物及び移動相と共に溶出される。
前記アミド化合物は、前記化学物質との親和性が高いので、前記化学物質が前記アミド化合物と別々に溶出することは無く、通常、前記化学物質は前記アミド化合物との混合物として溶出される。そして、前記アミド化合物は、上記のように第二の担体中を極めて容易に移動するので、全量を溶出させることができ、前記化学物質もたとえ微量であっても、容易に全量を回収できる。このように、本発明においては、第二の回収工程での前記アミド化合物及び化学物質の損失が抑制される。
【0081】
移動相は、前記アミド化合物及び化学物質と反応しないものの中から、第二の担体の種類やその使用法等に応じて、適宜選択すれば良い。例えば、第二の担体をカラム内に充填して使用する場合には、通常のカラムクロマトグラフィーで使用する移動相をそのまま使用できる。具体的には、アセトニトリル、メタノール、n−ヘキサン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム等の有機溶媒が例示できる。
移動相としての溶媒は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0082】
また、移動相は、前記化学物質の劣化を防止したり、その他の物質の除去を容易にするために、必要に応じて酸及び/又は塩基を含んでいても良い。これら酸及び塩基は、無機化合物及び有機化合物のいずれでも良い。
【0083】
回収した溶液は、そのまま第一の分離工程に供する混合物とすることができる。また、回収した溶液から、前記アミド化合物及び化学物質以外のその他の成分のうち、少なくとも一部の成分を除去してから、第一の分離工程に供する混合物としても良い。本発明においては、回収した溶液から移動相等の溶媒や、水等の微量成分(以下、溶媒等と略記する)を除去することで得られる、前記アミド化合物及び前記化学物質を含有する混合物を、第一の分離工程に供することが好ましい。
溶媒等は、減圧条件下又は気流存在下で留去することが好ましい。この時、水溶性有機溶媒を共存させることで、共沸により水等を容易に除去できることがある。ここで好ましい水溶性有機溶媒としては、アセトニトリル、アセトン等が例示できる。
また、気流存在下で溶媒等を留去する場合には、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等、不活性ガスを使用することが好ましい。
【0084】
回収された前記化学物質は、アミド化合物と共に安定して存在するので、溶媒等の除去時に溶媒等と共に除去されることは無い。
また、アミド化合物は、上記のように常温においては気化することがないので、アミド化合物中の化学物質の濃度が変動しない。
【0085】
前記アミド化合物中における前記化学物質の有無や、その同定は、前記化学物質と前記アミド化合物との分離において説明した方法と同様の方法で行うことができる。
【0086】
第二の分離方法は、各工程が簡略化されているので、誤操作を伴う危険性が低く、しかも短時間で行うことができる。そして、前記化学物質の損失が抑制されるので、該化学物質を高精度に分離できる。さらに、前記アミド化合物の損失も抑制されるので、前記化学物質の濃度が変動することが無く、前記化学物質が微量でも高精度に定量できる。また、濃度調整のための溶媒の除去が不要である。さらに、必要な原材料が格段に少ない。したがって、短時間で大量の試料を低コストで高精度に分析できる。
第二の分離方法は、分離対象の化学物質が微量である場合に特に好適である。
【0087】
本発明の化学物質の分離方法によれば、前記アミド化合物が前記化学物質との親和性が高くても、これらを含有する混合物から前記化学物質を高純度で容易に分離できる。したがって、例えば、前記アミド化合物の影響を受けることなく、前記化学物質のシグナルを正確に検出できる。また、前記化学物質が微量でも、質量分析法を利用する方法において、前記アミド化合物による前記化学物質の検出阻害や、解析装置の汚染が抑制される。このように、目的物である化学物質を高精度に解析できる。
【0088】
<化学物質の分離キット>
本発明の化学物質の分離キットは、下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物からなる群から選択される一種以上のアミド化合物と、該アミド化合物及び該アミド化合物に混和する化学物質を含有する混合物から、該化学物質を除去するための担体と、を備えたことを特徴とする。
【0089】
【化5】

【0090】
本発明の分離キットは、前記アミド化合物及び化学物質を含有する混合物から前記化学物質を分離するためのものであり、上記本発明の化学物質の分離方法で使用するのに特に好適なものである。
【0091】
本発明の分離キットにおけるアミド化合物、担体、分析対象である試料、分離対象である化学物質等は、いずれも、上記本発明の化学物質の分離方法で説明したものと同じである。
【0092】
分離キットにおけるアミド化合物は、固体及び液体のいずれでも良い。
アミド化合物及び担体は、密封されていることが好ましく、不活性ガス雰囲気下で密封されていることがより好ましい。ここで、不活性ガスとは、上記と同様のものである。アミド化合物及び担体を、使用前の段階で水分との接触を防止しておくことで、一層高精度に化学物質を分離できる。
【0093】
前記アミド化合物及び担体の量は、目的に応じて任意に設定でき、特に限定されない。
前記アミド化合物及び担体は、それぞれ一種でも良いし、複数種でも良い。本発明の分離キットは、前記化学物質として一種を分離するためのものでも良いし、複数種を分離するためのものでも良い。
【0094】
分離キットには、アミド化合物及び担体以外に、前記化学物質の分離に好適なその他のものを必要に応じて備えても良い。このようなものとして具体的には、前記混合物の調製に使用する容器、前記分離工程(第一の分離工程)で使用する容器、水等が例示できる。
【0095】
分離キットには、前記第二の分離方法に適用するものを供えていても良い。このようなものとして具体的には、前記第二の混合物の調製に使用する容器、第二の分離工程〜第二の回収工程で使用する容器、水、第二の担体、塩類等が例示できる。
例えば、前記第二の混合物の調製に使用する容器を、アミド化合物が内壁面上に塗布されたものとすれば、第二の混合物を容易に調製できる。
また、いずれの容器も耐圧性又は耐衝撃性を有する材質で作製されたものとすれば、いずれの分離方法においても、複数の工程を一貫して行うことができる。また、内容物をカラム等に直接移液できる接続部が設けられたものとすれば、混合物の調製から前記化学物質の回収までを一貫して行うことができる。
【0096】
第二の担体及び塩類の量は、目的に応じて任意に設定でき、特に限定されない。
第二の担体及び塩類は、それぞれ一種でも良いし、複数種でも良い。
【実施例】
【0097】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0098】
なお、以下の実施例においては、農薬混合標準品PL1−1(和光純薬社製)を使用しているが、これに含まれる農薬を以下に示す。
オメトエート(Omethoate)、トリフルラリン(Trifluralin)、ジメトエート(Dimethoate)、アトラジン(Atrazine)、テルブフォス(Terbufos)、テフルトリン(Tefluthrin)、スピロキサミン(Spiroxamin)、クロルピリフォスメチル(Chlorpyrifosmethyl)、テルブトリン(Terbutryn)、ベンチオカルブ(Benthiocarb)、マラチオン(マラトン)(Malathion(Malathon))、フェンプロピモルフ(Fenpropimorph)、ペンジメタリン(Pendimethalin)、ペンコナゾール(Penconazole)、プロシミドン(Procymidone)、メチダチオン(Methidathion)、フェナミホス(Fenamiphos)、オキサジアゾン(Oxadiazon)、クレソキシム−メチル(Kresoxim−methyl)、クロルフェナピル(Chlorfenapyr)、β−エンドスルファン(β−ベンゾエピン)(β−Endosulfan(β−Benzoepin))、ピレスリンI、II(Pyrethrin I、II)、ノルフルラゾン(Norflurazon)、ジフルフェニカン(Diflufenican)、ビフェントリン(Bifenthrin)、アジンホス−メチル(Azinphos−methyl)、フェナリモール(Fenarimol(Bloc))、トランス−ペルメチルン(trans−Permethirn)、シス−ペルメチルン(cis−Permethirn)、シフルトリン(Cyfluthrin)、フルシトリネート(Flucythrinate)、フルヴァリネート(Fluvalinate)
【0099】
[実施例1]
<キャベツ中の残留農薬の分析>
(残留農薬の分離)
室温(25℃)において、キャベツ100gに、農薬混合標準品PL1−1(和光純薬社製)0.01mlと水100gとを混合したものをミキサーにかけてペーストとした。
次いで、前記ペースト9gとN−イソプロピルプロピオンアミド(アミド化合物(1))1gとを混合し、さらに塩化ナトリウム3gを加えて撹拌した。
次いで、遠心分離機を使用して、上記の撹拌したもの10000rpmで5分間遠心分離し、二層に分離させた。分離した二層は、いずれも明瞭であった。
次いで、アミノプロピル修飾シリカゲル500mgからなる下層と、カーボングラファイト500mgからなる上層とが積層された固相担体を備えたカラム「ENVI Carb/NH」(スペルコ社製)に、アセトニトリル/トルエン(3/1、体積比)の混合溶媒を流し、分離させた前記二層のうちの上層0.1mlを前記カラムに導入して、アセトニトリル/トルエン(3/1、体積比)の混合溶媒を移動相として流し、農薬を含むアミド化合物(1)をカラムから溶出させ、回収した。そして、回収した溶液から、エバポレーターで溶媒を除去し、水0.5mlを添加した。以上の操作により、分離させた二層のうちの上層に含まれていた、農薬及びアミド化合物(1)以外の解析対象ではないその他の化学物質が除去された、農薬、アミド化合物(1)及び水を主成分とする混合物を得た。
次いで、ODSカラムにアセトニトリル5ml、水5mlをこの順に流し、得られた上記混合物をODSカラムに導入した。さらに、水5mlを流して、アミド化合物を移動相と共に溶出させると共に、農薬をODSカラムの固相担体に保持した。
次いで、ODSカラムにアセトニトリル5mlを流して、農薬を移動相と共に溶出させ、該溶出物からエバポレーターで溶媒を除去することで、農薬を回収した。
以上の操作により、第二の担体を使用して、試料中の農薬をアミド化合物(1)との混合物として抽出し、さらに第二の担体とは異なる担体を使用して第一の分離工程を行うことにより、アミド化合物(1)から農薬を分離して回収した。
【0100】
(農薬の解析)
回収した農薬全量に、アセトン/ヘキサン(1:1、質量比)の混合溶媒1mlを添加して、解析用試料を調製した。
そして、前記解析用試料をGC−MS解析に供した。解析条件は以下の通りである。
その結果、図2(a)に示すように、農薬に由来するシグナル(11分台〜17分台のシグナルが主に該当する)を高精度に検出でき、農薬中のアミド化合物(1)(5分台のシグナルが該当)の含有量は0.1質量%未満と定量された。図2は、この時得られたGC−MSの測定結果を示すスペクトルデータである。図2中の横軸は保持時間(分)を、縦軸はピーク面積の比率(%)をそれぞれ表す。なお、図2には、後述する比較例1のスペクトルデータ((b))もあわせて示した。このように、農薬は極めて高純度であって、容易に解析できるものであり、試料中の含有量を定量するのに好適なものであった。
【0101】
(GC−MS解析条件)
(1)ガスクロマトグラフ部
装置:N6890(アジレント社製)
条件:
(1−a)気化室温度:250℃
(1−b)カラム昇温条件:50℃(1分) → 昇温(25℃/分) → 125℃(0分) → 昇温(10℃/分) → 300℃(10分)
(1−c)全測定時間:31.5分
(1−d)ガス:ヘリウムガス
(1−e)ガス流量:2.2ml/分(流量一定)
(1−f)カラム:5%diphenyl 95%dimethylpolysiloxane(Ultra ALLOY+ −5、フロンティアラボ社製)、30m(長さ)×0.25mm(内径)
(1−g)スプリット比 1:1
(1−h)試料注入量:1μl
(2)質量分析部
装置:AUTOMASS SUN(日本電子製)
条件:
(2−a)イオン化法:EI法
(2−b)イオン源温度:250℃
(2−c)イオン化エネルギー:300μA、70eV
(2−d)検出器電圧:380V
(2−e)インターフェイス温度:250℃
(2−f)測定質量条件:40〜500(フルスキャン)
(2−g)サイクルスピード:300ms
【0102】
[比較例1]
<キャベツ中の残留農薬の分析>
実施例1と同様に、農薬を含むアミド化合物(1)をカラムから溶出させ、回収した。そして、回収した溶液から、エバポレーターで溶媒を除去し、アセトン/ヘキサン(1:1、質量比)の混合溶媒1mlを添加して、解析用試料を調製した。
そして、前記解析用試料をGC−MS解析に供した。解析条件は実施例1の場合と同じである。
その結果、農薬中にはアミド化合物(1)が多量に含まれ、図2(b)に示すように、アミド化合物(1)に由来するシグナル(5分台〜7分台の幅広のシグナル)によって、農薬に由来するシグナル(11分台〜17分台のシグナルが主に該当する)を正確に検出できず、そのままでは試料中の含有量の定量をはじめ、農薬の各種解析を行うことができなかった。これは、図2の12分〜17分5秒のデータを拡大した図3からも明らかである。図3中の横軸は保持時間(分)を、縦軸はピーク面積の比率(%)をそれぞれ表す。また、図3からは、本発明によって、農薬のシグナル強度が大きくなり、さらに検出時のグラフのバックグラウンド(見かけ上、シグナルがない領域)が平坦になって、農薬の検出及び定量に極めて好適であることが確認できた。なお、図3においては、由来する農薬を特定できたピークに番号を付した。番号と農薬名との対応は以下の通りである。
1・・・・アトラジン
2・・・・テルブフォス
3・・・・テフルトリン
4・・・・クロルピリフォスメチル
5・・・・ベンチオカルブ
6・・・・ペンジメタリン
7・・・・プロシミドン
8・・・フェナミホス
9・・・・オキサジアゾン
10・・・・クレソキシム−メチル
【0103】
本発明は、試料中の化学物質の解析が必要な全ての分野で利用可能であり、化学物質の微量解析に特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物からなる群から選択される一種以上のアミド化合物と、該アミド化合物及び該アミド化合物に混和する化学物質を含有する混合物から、該化学物質を除去するための担体と、を備えたことを特徴とする化学物質の分離キット。
【化1】

【請求項2】
前記担体が、鎖状のアルキル基が導入されたシリカゲルであることを特徴とする請求項1に記載の化学物質の分離キット。
【請求項3】
前記アルキル基がオクタデシル基であることを特徴とする請求項2に記載の化学物質の分離キット。
【請求項4】
下記式(1)〜(7)で表されるアミド化合物からなる群から選択される一種以上のアミド化合物と、該アミド化合物に混和する化学物質と、を含有する混合物を、前記化学物質を除去するための担体と接触させ、前記化学物質と前記アミド化合物とを分離する工程を有することを特徴とする化学物質の分離方法。
【化2】

【請求項5】
前記担体が、鎖状のアルキル基が導入されたシリカゲルであることを特徴とする請求項4に記載の化学物質の分離方法。
【請求項6】
前記アルキル基がオクタデシル基であることを特徴とする請求項5に記載の化学物質の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179848(P2011−179848A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41923(P2010−41923)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】