説明

化学物質の排出を抑止する方法およびシステム

(a)誤って容器から危険物を排出または漏出する危険性を増大させる少なくとも1つの所定の事象の発生時に、液体状態にある前記危険物を含む容器中に結合剤を展開させる工程;および(b)前記危険物と前記結合剤とを接触させることにより、前記危険物と前記結合剤との少なくとも一部分を含む組成物であって、かつ固体または半固体状態、周囲条件で前記危険物の粘度を超える粘度、周囲条件で前記危険物の蒸気圧より低い蒸気圧、および前記危険物の表面張力を超える表面張力から選択される少なくとも1つの性質を有する組成物を形成する工程;を含む化学物質の排出を抑止する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の排出を抑止する方法およびシステムに関する。より具体的には、本発明は、容器からの危険な化学物質の偶発的な(事故による)放出を抑止する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
危険物は、経済および公共に不可欠な多くの用途で使用されている。例えば、危険な液体が、車両用の燃料として、家庭およびオフィスを暖房および冷房するために、ならびに多くの商業的製造工程のための洗浄剤および/または中間体として使用されている。
【0003】
何百万トンもの爆発性の、毒性の、腐食性の、引火性の、放射性の液体、およびその他の危険な液体が毎日輸送されている。そのような危険物は、航空機、トラック、鉄道、または船舶により数オンス(数十グラム)から数千バレル(数百立方メートル)の範囲の量で移送される。これらの危険物は、事故による流出の結果が、傷害、人命の損失、または重大な環境被害を生じさせ得る、人口密度の高いまたは環境的に影響されやすい地域を通って移送されることが多い。
【0004】
危険な液体を固定化する方法および危険な液体流出物を処理する方法は知られている。例えば、米国特許第4,341,078号明細書(特許文献1)は、容器中に保持されている液体ハロゲン化芳香族化合物を、当該液体中にポリマー粒子と低温冷却剤(低温冷媒)とのスラリーを注入することにより、固定化する方法を記載している。冷却剤(冷媒)の蒸発は、液体中におけるポリマーの分散を引き起こし、それらの急速な分散とそれに続くゴム状固体の形成を生じる。
【0005】
米国特許第4,383,868号明細書(特許文献2)は、危険な液体(例えば、無水フッ化水素および濃フッ化水素酸)の流出を、当該液体をポリアクリルアミドおよびポリアルキル(アルク)アクリレートの両方を含む固体の粒子状混合物と接触させて、ゼラチン状フィルムを当該液体表面上に生成させることにより処理する方法を記載している。この特許は、ポリマーの混合物が、固体の粒子状消火剤を分散させるために使用される装置などの機械的装置により、当該液体に適用され得ることを提案している。
【0006】
米国特許第6,177,058号明細書(特許文献3)は、フッ化水素(HF)とポリアクリル酸ナトリウムまたはポリアクリルアミドとのゼラチン状混合物を記載しており、その混合物からフッ化水素が回収可能であることを記載している。これらの開発にも拘わらず、特に、危険物が容器から事故により流出する危険性が増大する条件下で、危険物を迅速に抑止する方法に対する必要性が存続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,341,078号明細書
【特許文献2】米国特許第4,383,868号明細書
【特許文献3】米国特許第6,177,058号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、危険物と本発明の結合剤とを迅速に接触させることを含む、化学物質の排出を抑止するための本発明の組成物、方法およびシステムを見出した。ある好ましい実施形態において、危険物は容器またはコンテナ中に入れられている。好ましくは、容器から危険物を誤って(事故により)排出または漏出する危険性を増大させるような、容器の急減速または傾きなどの所定の事象が存在するとき、結合剤が推進(噴射)されて危険物と接触する。危険な液体は結合剤と接触して、誤って危険物を周囲の環境中に排出する可能性を減少させる組成物、および/または排出が起こる事象中に排出により惹起される損害を最小化する組成物を形成する。例えば、結合剤は、ゲルの形態であってよく、および/またはその場で形成されるゲルであってもよく、危険物を吸収および/または抑止するように作用する。従って、例えば、容器が傾き、および/または容器が構造的に損傷した結果、危険物が容器から漏出する可能性は小さくなる。結合剤はまた、周囲圧力よりも下の蒸気圧を有する組成物を形成することができ、それにより危険物が蒸発により失われる可能性を減少させることができる。このように、本発明の方法は、流出、またはその他の、誤って危険物が環境中に排出される危険性を実質的に減少させる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の一態様は、化学物質の排出を抑止する方法であって、
(a)誤って容器から危険物を排出または漏出する危険性を増大させる少なくとも1つの所定の事象の発生時に、液体状態にある前記危険物を含む容器中に結合剤を展開させる工程;および
(b)前記危険物と前記結合剤とを接触させることにより、前記危険物と前記結合剤との少なくとも一部分を含む組成物であって、かつ(1)固体または半固体状態、(2)周囲条件で測定した際の、前記危険物の粘度を超える粘度、(3)周囲条件で測定した際の、前記危険物の蒸気圧より低い蒸気圧、および(4)周囲条件で測定した際の、前記危険物の表面張力を超える表面張力、から選択される少なくとも1つの性質を有する組成物、を形成する工程;
を含む、前記方法である。
【0010】
本発明の他の態様により、液体状態にある危険物を内部に保持する容器;結合剤および推進剤(噴射剤)を含有し、容器の内部と流体で通じている脆い表面を有する、1つまたは複数のモジュール;容器から危険物を誤って排出または漏出する危険性を増大させる所定の事象を検知するための検知器(好ましくは計器中に統合されている);および前記容器(キャニスター)の前記脆い表面を通じて前記容器の内部に結合剤の展開を開始させるイニシエーター(好ましくは、検知器を統合した計器と同一または異なる計器中にやはり統合されている)を含む、危険な化学物質を抑止するシステムが提供される。
【発明を実施するため形態】
【0011】
本発明は、好ましくは、容器中の危険な液体を固定化して、それにより液体の容器からの偶発的な(事故による)流出の危険性および/もしくは損害を軽減することにより、ならびに/または危険な液体の蒸気圧および/もしくは表面張力を低下させて、それにより危険物の周囲大気中への排出の危険性を減少させ、ならびに/または排出が起こったときそれに伴う損害を減少させることにより、化学物質の排出を抑止するための組成物、方法およびシステムを提供する。好ましい実施形態において、危険物は、吸収性ポリマーまたは錯化剤などの結合剤と接触することにより、危険物の少なくとも一部分を含み、固体、半固体もしくは粘稠液体であり、および/または周囲圧力以下の蒸気圧を有し、および/または高い表面張力を有する、組成物を形成する。好ましくは、このような抑止は、危険物の容器からの誤った排出の危険性を増大させる事象に対応して実施される。
【0012】
本明細書で使用する場合、用語「抑止する」とは、阻止する(制御する)または防止し続けることを意味する。抑止することの例は、固定化、ならびに揮発するおよび/またはエアロゾル化する傾向の抑制を含むが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書で使用する場合、用語「排出する」とは、物質の一部または全体を閉じ込めた状態から開放することを意味する。排出の例は、流出、漏出、噴出、揮発、蒸発、ガス抜き、散乱、吹出、滴下等を含むが、これらに限定されない。
【0014】
本明細書で使用する場合、用語「固定化する」とは、動きを妨げることを意味する。
【0015】
本明細書で使用する場合、用語「危険(危険な)」とは、ヒト、植物、動物、もしくは環境の安全性もしくは安定性を危険に曝すかもしくはそうでなくとも悪影響を及ぼすか、または抑止されなければ厄介なものを意味する。危険物の例は、引火性、腐食性、爆発性、発癌性、毒性、変異誘発性、臭気性、放射性、揮発性の、またはそうでなくても化学的に不安定であるものを含むが、それらに限定されない。
【0016】
本明細書で使用する場合、用語「結合剤」とは、2種の物質間に強い化学的または物理化学的引力を及ぼすまたは生み出す能力を有する物質を意味する。強い化学的および物理化学的引力の例は、イオン結合、非イオン結合、求(親)電子性、疎(嫌)電子性等を含む。結合剤の例は、ヒドロゲルなどの吸収性ポリマー、およびイオン性液体などの錯化剤を含むが、それらに限定されない。
【0017】
偶発的な(事故による)排出の危険性を増大させる「事象」とは、例えば、容器の構造的完全性が傷つけられるか、またはその可能性があれば起こり得る、コンテナ中の物質が意図されないまたは制御されない様式で排出される危険性を増大させる条件または要因の存在を意味する。そのような条件は、急加速、急減速、傾き、温度上昇、圧力変化、および容器の周囲環境中の危険な化学物質の存在を含むが、これらに限定されない。そのような条件は、下記状況の1つまたは複数から生じ得る;すなわち、衝突、火災、脱線、破損、崩壊、敵対的襲撃、亀裂、風化、および劣化である。
【0018】
好ましい実施形態において、本方法は、容器から危険物を誤って排出または漏出する危険性を増大させる、少なくとも1つの所定の事象が起こったときに、液体状態にある危険物を含む容器中に、結合剤を手動でまたは自動的に展開させる工程を含む。
【0019】
結合剤は、好ましくは、容器から危険物を偶発的に(事故により)排出する危険性を増大させる、上記のような事象が起こったときに展開される。事象は、直線加速度計、角加速度計、ジャイロスコープ、温度計、熱電対、サーミスタ、歪ゲージ、ピエゾ抵抗素子、機械的たわみ圧力センサー、化学物質検知センサー(容器の周囲環境における危険物の存在を検知するための)、および光学センサー(容器からの危険物の散乱を視覚的に検知するための)などの計器により、自動的に検知されることが好ましい。これらの計器の2種以上の組合せも、利用することができる。ある種の好ましい実施形態において、計器は、微小電子機械システム(あるいはマイクロマシン技術)(MEMS)、特にMEMS加速度計中に組み込まれる。ある種の他の実施形態において、計器は、慣性航法システム(INS)中に組み込まれる。そのようなシステムは、最適展開条件を決定するための、および展開が不必要なときに状況を検知するための、きっかけとなるアルゴリズムを含むこともできる。
【0020】
結合剤は、液体中または液体表面上に容易にかつ急速に展開可能な形態であることが好ましい。容易にかつ急速に展開可能な形態の例は、液体、および粉末、顆粒、ペレット、繊維、もしくはそれらの組合せなどの固体を含む。
【0021】
結合剤を液体中またはその表面上に展開させる任意の手段が、制限なく本発明で使用され得る。好ましくは、展開は、結合剤を液体と急速に接触させることを意味する。初期の展開時点から危険物と結合剤との最初の接触時点までに経過した時間である展開時間は、約1.0秒未満であることが好ましく、約0.1秒未満であることがより好ましい。
【0022】
ある種の実施形態において、展開は、危険な液体全体にわたって結合剤を実質的に分散させるのに十分な力で、結合剤を推進させる(噴射させる)ことを意味する。すなわち、結合剤は、危険な液体と混合され、危険性の小さい組成物を、急速にかつ実質的に形成する。他の実施形態において、展開は、結合剤を危険な液体の表面上に推進させて(噴射させて)、そこで結合剤が液体を覆って保護層を形成することを意味する。さらに他の実施形態において、展開は、結合剤を、危険な液体の1つまたは複数の離散的部分の表面上または中に推進させて(噴射させて)、そこから結合剤が危険な液体と混合されることを意味する。装置または方法は、これらのおよび他の展開手段の2つ以上の任意の組合せを含み得ることは理解されるであろう。
【0023】
ある種の実施形態において、結合剤は、圧縮ガスを開放することにより、ガスを発生させることにより、またはバネから機械的エネルギーを開放することにより、危険な液体を含む容器中に展開される。結合剤は、自動車のエアバッグを展開するのに使用される手段と同様に、ガスで推進される(噴射される)ことが好ましい。ある種の実施形態において、結合剤は、推進剤(噴射剤)と一緒に、容器の内部と流体で接触している脆い表面を有するモジュール中に装填される。モジュールは、限定されずに、任意の実用的形状であってよい。モジュールの例は、キャニスター(容器、缶)、空気袋およびパイプ(管)を含む。脆い表面は、容器中の危険物に関して化学的に不活性な薄い箔で構成されていることが好ましい。好ましい箔は、金属、炭素、セラミックス、ポリマー、およびフルオロポリマーで構成されたものを含む。
【0024】
ある種の好ましい推進剤(噴射剤)は、燃料および酸化剤を含み、任意に、燃焼速度改良剤などの他の成分を含んでよい。燃料は点火されると、酸化剤の存在下で急速に燃焼して、ガスの突然の爆発を起こす。このガス爆発は、脆い表面を容易に破壊して、キャニスターから結合剤を容器中に推進(噴射)し、そこで結合剤は危険な液体と接触する。好ましい燃料は、アジド、テトラゾール、トリアゾール、およびそれらの塩を含む。
【0025】
ある種の実施形態において、推進剤(噴射剤)は、酸化可能な燃料の代わりにまたはそれに加えて、空気、窒素、二酸化炭素または希ガスなどの圧縮ガスを含むことができる。そのような実施形態については、圧縮ガスはキャニスター内で急速に開放されてその脆い表面を破壊し、酸化された燃料が結合剤を推進する(噴射する)のと同様に、結合剤をキャニスターから外へ推進(噴射)する。
【0026】
危険な液体を保持する容器は、一般的に、当技術分野において既知の、任意の種類、形状、または寸法の容器であってよい。例えば、容器は、開放されていても、または閉鎖されていてもよく(例えば、封入容器)、球形、円筒形、箱形、または不規則形であってもよく、絶縁されていてもまたはされていなくてもよく、加圧されていてもいなくてもよく、約28グラム(約1オンス)未満から約64万立方メートル(約4百万バレル)以上の内容積を有することができる。好ましい容器の例は、フラスコ、樽、半牽引タンカー、鉄道タンカー、超大型タンカー、およびパイプライン(輸送管路)を含むが、これらに限定されない。
【0027】
本発明の方法は、危険物と結合剤とを接触させることにより、危険物と結合剤との少なくとも一部分を含む組成物であって、かつ固体または半固体状態、周囲条件で危険物の粘度を超える粘度、周囲条件で危険物の蒸気圧より低い蒸気圧、および危険物の表面張力を超える表面張力から選択される少なくとも1つの性質を有する組成物を形成する工程も含むことが好ましい。
【0028】
結合剤および危険物(好ましくは液体である)は、急速な変換を経て、固体または半固体であり、および/または危険物自体に比較して粘度がより高く、蒸気圧がより低く、および/または表面張力がより高い組成物を形成することが好ましい。液体に比較して、固体または半固体である組成物は、たとえ容器の完全性が傷つけられても、容器内によりとどまりやすい。同様に、粘度の高い液体はゆっくり流れ、したがって容器中によりとどまりやすい。蒸気圧が低い組成物は、揮発性でなく、したがって閉じ込めにくい危険な蒸気を放出しない。
【0029】
ある種の好ましい実施形態において、組成物は、組成物の温度および/または圧力を変化させるようなある種の条件で、危険物を容易に開放する様式で危険物と結合する。そのような実施形態において、危険物は、それが再び安全にされた後で、回収することができる。
【0030】
結合剤の選択は、主として、容器中に保持された危険物に基づいて決定される。本発明を実施できる危険物の例には、硝酸、濃硫酸、濃塩酸、シアン化ナトリウム水溶液、無水シアン化ナトリウム、シアン化水素水溶液、無水シアン化水素、臭素、三フッ化ホウ素、アンモニア、ホスフィン、四塩化チタン、発煙硫酸(oleum)、クロロスルホン酸、塩素、フッ素、フッ化水素水溶液、無水フッ化水素、ホスゲン、石油、およびそれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用する場合、用語「誘導体」とは、当該関連化合物と、同一の基本構造、化学的基礎または化学的性質を有する化合物または化学構造を意味する。そのような誘導体は、限定されないが、当該関連ある化合物から製造されまたは得られた化合物、または化学構造を含むことができる。
【0031】
ある種の好ましい実施形態において、結合剤は吸収性物質である。特に好ましい吸収性物質は吸収性ポリマーである。吸収性ポリマーの例には、ポリアクリルアミド、ポリアルキルアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリアルキルアクリレート、ポリアクリル酸塩、架橋ポリアクリルアミド−ポリアクリレートコポリマー、セルロースエーテル、加工(変成)デンプン、デンプン誘導体、天然ゴム誘導体、エチレンオキシドポリマー、ポリエチレンイミンポリマー、ポリビニルピロリドンポリマー、およびそれらの混合物またはコポリマーが含まれるが、これらに限定されない。そのような結合剤は、例えば、米国特許第4,383,868号明細書(特許文献2)および米国特許第6,177,058号明細書(特許文献3)に記載されており、それらの各々は参照により本明細書に組み込まれる。
【0032】
これらの吸収性ポリマーは、硝酸、濃硫酸、濃塩酸溶液、シアン化ナトリウム水溶液、臭素、四塩化チタン、発煙硫酸(oleum)、クロロスルホン酸および無水フッ化水素を結合するために特に好ましい。
【0033】
無水フッ化水素およびフッ化水素水溶液を結合するためには、ポリアクリレート−ポリアクリルアミド架橋コポリマー、特にポリアクリル酸塩から誘導されたもの、ならびに架橋ポリアクリルアミド−ポリアクリレートコポリマーと、ポリアクリルアミド、ポリアルキルアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリアルキルアクリレートおよびポリアクリル酸塩の少なくとも1つとの混合物を使用することができる。
【0034】
ある種の実施形態において、結合剤は錯化剤(complexing agent)である。好ましい錯化剤は、有機塩、特にイオン性液体を形成する有機塩を含むが、これらに限定されない。好ましい有機塩の例には、テトラアルキルホスホニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピリジニウム、N−アルキルピリジニウム、N,N’−ジアルキルイミダゾリウム、およびイミダゾリウムからなる群から選択されたカチオンを含む塩が含まれるが、これらに限定されない。特に好ましい有機塩は、置換されたイミダゾリウムクロリドであり、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムクロリドはより好ましい。これらの有機塩は、塩素を結合するために特に有用である。これらの有機塩と塩素との好ましい組成物の蒸気圧は、周囲蒸気圧より低い。
【0035】
本発明を実施できる他の結合剤には、シアン化水素水溶液および無水シアン化水素ならびにアンモニアを結合するために有用であるポリアクリル酸;石油および石油系化合物を結合するために有用であるステアリン酸カルシウム;さらに三フッ化臭素とともに電解質を生成するのに有用である置換イミダゾリウムテトラフルオロボレートが含まれる。
【実施例】
【0036】
実施例1
無水フッ化水素に使用できる、透明なシリンダーに、定格0.138MPa(20psi)の破裂板を取り付けて、200グラムの無水HFを装填した。破裂板の反対側に、10グラムのポリアクリル酸ナトリウム−ポリアクリルアミドコポリマーを装填した。こちらの側に、0.345MPa(50psi)の窒素ガス供給源に接続したボール弁を取り付けた。実験はビデオテープに記録した。
【0037】
速動式のボール弁を開くと、窒素ガスがポリマーおよび破裂板を加圧して破裂板を破裂させ、ポリマーを無水HF中に放出した。ポリマー粉末は、内部の無水HFを吸収し、数分以内に液体無水HF全体を半固体の固定化したゲル状の塊に変換した。
【0038】
このように本発明の少数の特定の実施形態を説明したが、本明細書に含まれる教示を考慮すれば、具体的に記載されていない種々の変更、改変、および改良が利用可能であり、かつ本発明の範囲内であることは、当業者には明らかであろう。本明細書の開示により明らかにされるような変更、改変および改良は、本明細書中において、明示的に記述されていなくとも、本明細書の記載の一部であることを意図しており、かつ本発明の精神および範囲に入ることを意図している。したがって、前出の記載は例のためにすぎず、限定するものではない。本発明は、以下の特許請求の範囲およびそれらに均等なもので規定されたように限定されるだけである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誤って容器から危険物を排出または漏出する危険性を増大させる少なくとも1つの所定の事象の発生時に、液体状態にある前記危険物を含む容器中に結合剤を展開させる工程;および
前記危険物と前記結合剤を接触させることにより、前記危険物の少なくとも一部分と前記結合剤の少なくとも一部分を含む組成物であって、かつ固体または半固体状態、前記危険物の粘度を超える粘度、前記危険物の蒸気圧より低い蒸気圧、および前記危険物の表面張力を超える表面張力から選択される少なくとも1つの性質を有する組成物を形成する工程;
を含む、化学物質の排出を抑止する方法。
【請求項2】
前記展開させる工程が、前記事象の前記発生に対応して手動で開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記展開させる工程が、前記事象の前記発生に対応して、前記事象を検知し得る計器により自動的に開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記事象が、容器の急加速、容器の急減速、容器の傾き、容器または危険物の温度上昇、容器内の圧力変化、および容器の周囲環境における危険な化学物質の存在からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記計器が、直線加速度計、角加速度計、ジャイロスコープ、温度計、熱電対、サーミスタ、歪ゲージ、ピエゾ抵抗素子、機械的たわみ圧力センサー、化学物質検知センサー、および光学センサーの少なくとも1つを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記計器が微小電子機械システム(マイクロマシン技術)中に組み込まれている、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記計器が慣性航法システム中に組み込まれている、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記結合剤が、液体、粉末、顆粒、ペレット、繊維、またはそれらの2種以上の組合せとして展開される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記展開させる工程が、圧縮ガスの放出により、ガスの発生により、およびバネによる機械的エネルギーの開放により、前記結合剤を推進させる(噴射させる)ことの1つまたは複数を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記展開させる工程が、ガスの発生により結合剤を推進させる(噴射させる)ことを含み、前記ガスの発生が燃料の酸化を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記危険物が、硝酸、濃硫酸、濃塩酸、シアン化ナトリウム水溶液、無水シアン化ナトリウム、シアン化水素水溶液、無水シアン化水素、臭素、三フッ化ホウ素、アンモニア、ホスフィン、四塩化チタン、発煙硫酸、クロロスルホン酸、塩素、フッ素、フッ化水素水溶液、無水フッ化水素、ホスゲン、石油、およびそれらから誘導された化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記接触させることが、前記危険物を固定化することである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が固体または半固体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、危険物の露出表面を実質的に覆うフィルムである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、前記危険物の実質的な部分をその中に包含したゲルである、請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2010−528952(P2010−528952A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511325(P2010−511325)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/065926
【国際公開番号】WO2009/025921
【国際公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】