説明

化学物質の溶解パラメータ予測方法

【課題】既知および未知化学物質の溶解パラメータを予測するシステムを提供する。
【解決手段】化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、重回帰解析により溶解パラメータを予測する式を決定し、その式を用いて化学物質の溶解パラメータを算出する方法であって、化学物質の溶解パラメータの予測式が、下記数式(1)であることを特徴とする化学物質の溶解パラメータ予測方法。
δ =[(ΣmΔE+a)/Vmol +b]1/2 (1)
式中、δは溶解パラメータを表し、mは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの個数を表し、ΔEは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、Vmolは化学物質のモル体積を表し、aおよびbは定数を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の溶解パラメータを予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶解パラメータ(δ)は、ヒルデブラントが液体の凝集エネルギー密度として定義した溶解のしやすさを評価する指標であり、単位体積あたりの蒸発エネルギーの平方根から計算される(非特許文献1)。
δ=(ΔE/V)1/2
=(ΔH/V−RT/V)1/2
(式中、Vは分子量/密度すなわちモルあたりの体積を表し、ΔEは気化エネルギーを表す。ΔHは気化熱を表し、Rは気体定数を表し、Tは絶対温度を表す。)
【0003】
溶解パラメータ(δ)は、経験上多くの化学物質相互の溶解度すなわち相溶性に関係しており、光学材料、塗料、反応溶媒、相溶化剤、コーティング剤、インク、トナー、分散溶媒、感熱記録材料などの設計指針として用いられている。
【0004】
溶解パラメータは前記のように気化熱がわかればそれをもとに求めることができるが、一般に実験的に気化熱を測定することは困難である。また、樹脂などのように気化熱を測定することができない物質や、未知物質であるため気化熱を測定することができない物質は多い。このように多くの場合、溶解パラメータを実験を元に計算することは困難もしくは不可能である。このような場合、溶解パラメータは化合物の構造から予測するしかない。化合物の構造をもとに原子および官能基の寄与の総和を使用する溶解パラメータの予測については、スモール、ライネックおよびリン、クレベリンおよびホフタイザー、フェドーズ、らによりいくつかの方法が開発されてきた。
【0005】
例えばフェドーズは、以下の数式(101)を提唱している(非特許文献2)。
δ=(ΣΔE/ΣV1/2 (101)
(式中、δは溶解パラメータを表し、ΔEは気化エネルギーに関する加成的な原子および官能基の寄与を表し、Vはモル体積に関する加成的な原子および官能基の寄与を表す)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.H.Hildebrand and R.L.Scott, “Solubility of Non-electrolytes”, 3rd.ed.(1964).Rheinhold, Dover, New York.
【非特許文献2】Fedors, R. F., Poly., Jet. Propul. Lab. Quart. Tech Rev., 3,45(1973).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記非特許文献1に記載の方法では、単純な構造の鎖状化合物の予測性は良いが、ベンゼン環を置換基の数によって区別する必要がある、ハロゲン原子を同一の炭素原子に結合したハロゲン原子の数によって区別する必要がある、水酸基を隣接炭素原子に結合したものとそうでないものとを区別必要がある、環状化合物には補正が必要である、その補正をしても環状化合物の予測性特に複素環化合物の予測性がよくない、スルホン化合物(R1-SO2-R2)の予測ができない、などの問題があった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、従来の予測方法よりも精度の良い化学物質の溶解パラメータ予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者は鋭意検討を行った結果、化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解して、気化エネルギーに関する加成的な原子または官能基の寄与に対応するパラメータ、およびモル体積に関する加成的な原子または官能基の寄与対応するパラメータを、重回帰分析により算出すると、溶解パラメータの良好な予測式を構築できることを見出し、以下に示す本発明を完成した。
【0010】
〔1〕化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、重回帰解析により溶解パラメータを予測する式を決定し、その式を用いて化学物質の溶解パラメータを算出する方法であって、
化学物質の溶解パラメータの予測式が、下記数式(1)であり、式中のΔEi、aおよびbを重回帰解析により算出することを特徴とする化学物質の溶解パラメータ予測方法。
δ =[(ΣmΔE+a)/Vmol +b]1/2 (1)
式中、δは溶解パラメータを表し、mは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの個数を表し、ΔEは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、Vmolは化学物質のモル体積を表し、aおよびbは定数を表す。
【0011】
ここで、数式(1)は以下に示す数式(1´)のように書き換えることができる。
δ =[{(m×ΔE+m×ΔE+m×ΔE+…)+a}
/Vmol +b]1/2 (1´)
式中、mは化学物質中のフラグメントAの個数を表し、ΔEはフラグメントAの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、mは化学物質中のフラグメントBの個数を表し、ΔEはフラグメントBの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、mは化学物質中のフラグメントCの個数を表し、ΔEはフラグメントCの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、…以下同様にフラグメントの数および気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、Vmolは化学物質のモル体積を表し、aおよびbは定数を表す。
【0012】
〔2〕化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、重回帰解析により溶解パラメータを予測する式を決定し、その式を用いて化学物質の溶解パラメータを算出する方法であって、
化学物質の溶解パラメータの予測式が、下記数式(2)であり、式中のΔEを重回帰解析により算出することを特徴とする化学物質の溶解パラメータ予測方法。
δ =(ΣmΔE/Vmol 1/2 (2)
式中、δは溶解パラメータを表し、mは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの個数を表し、ΔEは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、Vmolは化学物質のモル体積を表す。
【0013】
ここで、数式(2)は以下に示す数式(2´)のように書き換えることができる。
δ=[(m×ΔE+m×ΔE+m×ΔE+…)
/Vmol 1/2 (2´)
式中、mは化学物質中のフラグメントAの個数を表し、ΔEはフラグメントAの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、mは化学物質中のフラグメントBの個数を表し、ΔEはフラグメントBの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、mは化学物質中のフラグメントCの個数を表し、ΔEはフラグメントCの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、…以下同様にフラグメントの数および気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、Vmolは化学物質のモル体積を表す。
【0014】
〔3〕前記〔1〕の式(1)又は前記〔2〕の式(2)のVmol を、下記数式(3)を用いて重回帰解析により算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化学物質の溶解パラメータ予測方法。
mol = Σm (3)
式中、mは、前記式(1)又は前記式(2)に示されるmと同一であり、Vは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiのモル体積に関する加成的な寄与に対応するパラメータを表す。
【0015】
〔4〕化学物質を部分構造ごとに分解したフラグメントに含まれる炭素原子の数が1以下であるようにフラグメントを分解することを特徴とする前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の化学物質の溶解パラメータ予測方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、溶解パラメータが求められていない既知および未知化学物質の溶解パラメータをより精度良く予測することが可能になった。特に実測が困難な化学物質、既知で合成が困難な化学物質、あるいはまだ分子設計段階で現物が得られていない新規物質の溶解パラメータを予測するのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施携帯に係る溶解パラメータ予測方法が実行される溶解パラメータ計算装置を示す図である。
【図2】溶解パラメータ予測回帰式の作成方法の基本的な処理を示すフローチャートである。
【図3】未知化学物質の溶解パラメータを予測する基本的な処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によれば、化学物質の溶解パラメータは数式(1)により算出することが可能である。
δ =[(ΣmΔE+a)/Vmol+b]1/2 (1)
式中、δは溶解パラメータを表し、mは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの個数を表し、ΔEは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、Vmolは化学物質のモル体積を表し、aおよびbは定数を表す。
【0019】
式(1)によって溶解パラメータ(δ)を算出するためには、あらかじめ複数の既知化学物質を選定し、それぞれの化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、そのフラグメントの種類(i)とフラグメントの個数(m)に関する情報、その化学物質のモル体積(Vmol)および化学物質の溶解パラメータ(δ)のデータを入手し、あらかじめ選定した複数の既知化学物質の前記データを用いて数式(4)で重回帰解析することにより、その化学物質を構成するラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータ(ΔE)、定数aおよび定数bの値を算出する。
δ=(ΣmΔE+a)/Vmol+b (4)
【0020】
また、本発明によれば、化学物質の溶解パラメータは数式(2)によっても算出することが可能である。
δ =(ΣmΔE/Vmol1/2 (2)
式中、δは溶解パラメータを表し、mは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの個数を表し、ΔEは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、Vmolは化学物質のモル体積を表す。
【0021】
式(2)によって溶解パラメータ(δ)を算出するためには、あらかじめ複数の既知化学物質を選定し、それぞれの化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、そのフラグメントの種類(i)とフラグメントの個数(m)に関する情報、その化学物質のモル体積(Vmol)および化学物質の溶解パラメータ(δ)のデータを入手し、あらかじめ選定した複数の既知化学物質の前記データを用いて数式(5)で重回帰解析することにより、その化学物質を構成するラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータ(ΔE)を算出する。
δ=ΣmΔE/Vmol (5)
【0022】
上記の式(1)若しくは式(2)により化学物質の溶解パラメータ(δ)を算出する際にまたは上記の式(4)若しくは式(5)により重回帰解析する際に、化学物質のモル体積(Vmol)は、その化学物質のモル体積(Vmol)が既知であれば、その値を用いることができるが、化学物質のモル体積(Vmol)が分かっていない場合、密度既知の化学物質であれば分子量を密度で除して求めることができる。化学物質の密度は、たとえば文献(J.A.Riddick, W.B.Bunger and T.K.Sakano, 1986,John Wiley & Sons,Techniques of Chemistry Volume II Organic Solvents)および試薬カタログ(アルドリッチ社試薬カタログ)、に収録されたデータを用いることができる。
【0023】
また、密度未知の化学物質であれば化学物質のモル体積は分子力場計算あるいは半経験的分子軌道法計算で求めることができる。分子力場計算および半経験的分子軌道法計算は、CambridgeSoft社製ChemDrawやフリーの3D分子モデル作成ソフトFacioなどで行うことができる。
【0024】
さらに、未知物質である場合は、以下のようにしてその化学物質のモル体積(Vmol)を求めることができる。
すなわち、あらかじめ複数の既知化学物質を選定し、それぞれの化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、そのフラグメントの種類(i)とフラグメントの個数(m)に関する情報およびその化学物質のモル体積(Vmol)のデータを入手し、前記データを用いて数式(3)で重回帰解析することにより、それぞれのフラグメントに対応するモル体積に関する加成的な寄与に対応するパラメータ(V)を算出することができる。
mol = Σm (3)
【0025】
この場合においても、既知化学物質でモル体積(Vmol)が分かっていない場合は、前述のように密度既知の化学物質であれば分子量を密度で除して求めてモル体積(Vmol)のデータとして用いることができる。
【0026】
また、密度未知の化学物質の既知化学物質であれば、前述のようにして化学物質のモル体積は分子力場計算あるいは半経験的分子軌道法計算で求めてモル体積(Vmol)のデータとして用いることができる。
【0027】
本発明システムの化学物質のフラグメントに分解する手法は任意であるが、予測システムの汎用性を高くするためにはフラグメントを小さくする方が好ましい。
【0028】
そして、化学物質を部分構造ごとに分解したフラグメントに含まれる炭素原子の数が1以下であるようにフラグメントを分解することが好ましい。
【0029】
より好ましくは、フラグメントに含まれる炭素原子の数が1のフラグメント、その化学物質の特性に影響を及ぼしている官能基もしくはヘテロ原子のみのフラグメントに分解する手法がより好ましい。
フラグメントに含まれる炭素数が1であれば、炭素原子とヘテロ原子からなるその化学物質の特性に影響を及ぼしている官能基をフラグメントに優先して分解することが好ましく、炭素数が1のフラグメントにギ酸エステル類およびギ酸アミド類を構成する上で必要なホルミル水素が含まれている場合には、ホルミル水素(H(CO)−)をフラグメントとすることが好ましい。
例えば、ホルミル水素(H(CO)−)、メチル基(−CH)、sp3メチレン基(−CH−)、sp3メチン基(−CH<)、sp3四級炭素(>C<)、spメチレン基(CH=)、spメチン基(−CH=)、sp四級炭素(>C=)、spメチン基(CH≡)、sp四級炭素(−C≡)、フッ素原子(−F)、塩素原子(−Cl)、臭素原子(−Br)、ヨウ素原子(−I)、水酸基(−OH)、エーテル基(−O−)、ホルミル基(−CHO)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−COOH)、オキシカルボニル基(−COO−)、第一アミド基(‐CONH)、第二アミド基(−CONH−)、第三アミド基(−CON<)、一級アミノ基(−NH)、二級アミノ基(−NH−)、三級アミノ基(−N<)、sp窒素(−N=)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO)、メルカプト基(−SH)、スルフィド基(−S−)、スルホキシド基(−SO−)、スルホン基(−SO−)、などに分解するのが好ましい。
【0030】
上記で、炭素原子とヘテロ原子からなるその化学物質の特性に影響を及ぼしている官能基をフラグメントに優先して分解したのが、ホルミル基(−CHO)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−COOH)、オキシカルボニル基(−COO−)、第一アミド基(‐CONH)、第二アミド基(−CONH−)、第三アミド基(−CON<)、一級アミノ基(−NH)、二級アミノ基(−NH−)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO)、スルホキシド基(−SO−)、スルホン基(−SO−)である。
【0031】
上記のようなフラグメントに分解することで、一置換のベンゼン環はspメチン基(−CH=)5個と、sp四級炭素(>C=)1個で表すことができ、二置換ベンゼン環はspメチン基(−CH=)4個と、sp四級炭素(>C=)2個で表すことができ、三置換ベンゼン環はspメチン基(−CH=)3個と、sp四級炭素(>C=)3個で表すことができる。以下同様に6置換ベンゼン環までspメチン基(−CH=)と、sp四級炭素(>C=)の2種類フラグメントで表すことができる。また一置換ピリジン環はspメチン基(−CH=)4個と、sp四級炭素(>C=)1個およびsp窒素(−N=)1個であらわすことができ、二置換チアゾール環はspメチン基(−CH=)1個と、sp四級炭素(>C=)2個と、sp窒素(−N=)1個およびスルフィド基(−S−)1個で表すことができる。この様に複雑な複素環も上記フラグメントを組み合わせることによって表すことができる。
【0032】
ここで、ホルミル基(−CHO)を末端に有する化合物について、詳細に説明すると、ギ酸エステル類およびギ酸アミド類を構成する上で必要なホルミル水素が含まれている場合には、ホルミル水素(H(CO)−)をフラグメントとすることが好ましく、それ以外の化合物ではホルミル基(−CHO)をフラグメントにすることが好ましい。すなわち、ギ酸エステル類では、ホルミル水素(H(CO)−)とオキシカルボニル基(−COO−)のフラグメントに分解し、ギ酸アミド類では、ホルミル水素(H(CO)−)と、第一アミド基(‐CONH)、第二アミド基(−CONH−)又は第三アミド基(−CON<)のフラグメントに分解することになる。
【0033】
また、リン、ケイ素、ホウ素のヘテロ原子を含む場合のフラグメントへの分解は、ホスホリル基(−PO<)のような官能基のフラグメントとホスフィン基(−P<)、ケイ素原子(>Si<)、ホウ素原子(−B<)などのヘテロ原子のみのフラグメントに分解するのが好ましい。
更に、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、等の金属原子を含む場合は、そのヘテロ原子単位をフラグメントにするのが好ましい。
【0034】
このように、フラグメントに分解することにより、重回帰解析または溶解パラメータを算出する式のフラグメントの種類(i)とフラグメントの個数(m)を求めることができる。
【0035】
本発明による化学物質の溶解パラメータの予測には、予め、予測に用いる前記式(1)または前記式(2)の計算に適用するフラグメント毎の定数である気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータ(ΔE)の及び前記式(1)の定数aおよびbを決定しておく必要がある。
【0036】
これらの定数の決定は、既知化学物質のデータを用いて、前記式(4)または前記式(5)による重回帰解析によって求められるが、重回帰解析に用いる既知化学物質の数は、できるだけ多いほうが好ましく、少なくとも数十以上の既知化学物質のデータが必要である。
【0037】
また、重回帰解析に用いる複数の既知化学物質の選定においては、溶解パラメータを予測したい化学物質をフラグメントに分解したある特定のフラグメントを含む化学物質が二つ以上存在することが好ましい。より好ましくは5個以上存在することが好ましい。
【0038】
さらに、重回帰解析に用いる複数の既知化学物質の選定においては、溶解パラメータを予測したい化学物質と類似したフラグメントから構成された複数の既知化学物質を選定しておくことも有効である。
【0039】
そして、重回帰解析は、汎用パソコンおよび汎用計算ソフトウエアを用いて行うことができる。
【0040】
次に、溶解パラメータを予測したい化学物質の溶解パラメータを算出する方法について説明する。
【0041】
まず最初に、化学物質の化学構造式を決定し、対象となる化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解することにより、フラグメントの種類とフラグメントごとの個数(m)のデータを求める。続いて、フラグメント毎の定数である気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータ(ΔE)、定数aおよびbが決定している前記式(1)またはフラグメント毎の定数である気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータ(ΔE)が決定している前記式(2)により演算して演算値を求めることにより、対象となる化学物質の溶解パラメータ(δ)を求めることができる。
【0042】
更に、本発明の化学物質の溶解パラメータ予測方法は、以下に示すように化学物質の溶解パラメータ予測システムとすることもできる。
【0043】
なお、以下に示す例は、モル体積(Vmol)および溶解パラメータ(δ)が未知の化学物質の溶解パラメータ(δ)を前記予測式(1)により求める例を示すが、前記予測式(2)を求める場合も同様の化学物質の溶解パラメータ予測システムとすることができる。
【0044】
すなわち、情報処理装置において、(A)あらかじめ選定した複数の既知化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解するステップと、(B)あらかじめ選定した複数の既知化学物質のフラグメントの種類とフラグメントの個数(m)に関する情報とモル体積(Vmol)について前記式(3)で重回帰解析することにより、フラグメントのモル体積に関する加成的な寄与に対応するパラメータ(V)を算出するステップと、(C)あらかじめ選定した複数の既知化学物質のフラグメントの種類とフラグメントの個数(m)に関する情報と溶解パラメータ(δ)について上記関係式前記式(1)で重回帰解析することにより、フラグメントの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータ(ΔE)、定数aおよび定数bの値を算出するステップと、(D)予測対象となる化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解するステップと、(E)ステップBで算出されたフラグメントiのモル体積に関する加成的な寄与に対応するパラメータ(V)およびステップCで算出されたフラグメントの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータ(ΔE)、定数aおよび定数bの値の値を予測式である前記式(1)に入力して決定された予測式に基づいて、予測対象となる化学物質のフラグメントの種類(i)とフラグメントの個数(m)に関する情報から演算値を求めることにより、対象となる化学物質の溶解パラメータ(δ)を決定するステップ、を有する溶解パラメータ予測システムである。
【0045】
前記溶解パラメータ予測システムについて更に詳細に説明する。
図1に、本実施形態に係る溶解パラメータ予測方法が実行される溶解パラメータ計算装置10を示す。溶解パラメータ予測装置10は、具体的には、ワークステーションやパーソナルコンピューター等の情報処理装置である。溶解パラメータ予測装置10は、例えば中央演算処理装置(CPU)や内部メモリ等のハードウェアにより構成されており、これらの構成要素が動作することにより後述する溶解パラメータ予測装置10としての機能が発揮される。なお、本実施形態に係る溶解パラメータ予測方法を情報処理装置に対して実行させるプログラムが溶解パラメータ予測装置10において実行されることにより、本方法が行われてもよい。
【0046】
溶解パラメータ予測装置10は、化学物質情報部11と、化学物質選定部12と、フラグメント分解部13と、重回帰分析部14と、回帰式作成部15と、判断部16と、未知化学物質情報部17と、溶解パラメータ予測部18と出力部19とを備えて構成される。また、溶解パラメータ予測装置10は、外部装置20と接続されており、外部装置20から情報が入力される。
【0047】
化学物質情報部11は、化学物質の構造式、溶解パラメータ、分子量、比重、モル体積などの情報を蓄積する。情報の入力は外部装置20から行われる。化学物質選定部12は、化学物質情報部11の中から複数の化学物質を選定する。フラグメント分解部13は、化学物質選定部12で選定された化学物質をフラグメントに分解しフラグメントの種類および個数のデータを求める。重回帰分析部14は、化学物質選定部12で選定された化学物質の溶解パラメータ、モル体積、およびそれらの化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメントの種類および個数のデータを重回帰分析する。回帰式作成部15は、重回帰分析部14で分析した結果を回帰式として出力および記憶する。
【0048】
判断部16は、重回帰分析部14で重回帰分析した結果があらかじめ設定された条件を満足するか否かを判断して、満足していると判断されたら当該回帰式を回帰式作成部15に出力および記憶させ、満足していないと判断されたら上記化学物質の選定および/またはフラグメント分解を変更して再度重回帰解析をして回帰式を求める。
【0049】
未知化学物質情報部17は、溶解パラメータを予測する化学物質の構造式、分子量、比重、モル体積などの情報を蓄積し、化学物質情報部11と同一の部でも良い。溶解パラメータ予測部18は、回帰式作成部15より出力および記憶された回帰式に、未知化学物質情報部17の溶解パラメータを予測する化学物質の情報および溶解パラメータを予測する化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメント種類および個数のデータを代入して予測溶解パラメータを算出する。出力部19は、溶解パラメータ予測部18で算出された予測溶解パラメータを出力する。
【0050】
上記の各構成要素の処理は、全て情報処理として行われる。それぞれの処理の具体的内容については、より詳細に後述する。
【0051】
以下、本実施形態に係る溶解パラメータ予測方法(溶解パラメータ予測装置10において実行される処理)を説明する。まず、溶解パラメータ予測回帰式の作成方法の基本的な処理を第一の処理として図2のフローチャートを用いて説明する。
【0052】
まず化学物質選定部12が、化学物質情報部11に蓄積された化学物質から複数の化学物質を選定する(S01)。選定は、重回帰解析を統計的に有意のものにするために後述するフラグメント分解ステップで設定される各フラグメントが5つ以上の化学物質に含まれるように化学物質を選定することが好ましい。選定される化学物質の総数は特に制限がないが、少なすぎると回帰式の精度が悪くなり好ましくない。化学物質の総数は多い方が精度の上では好ましいが、多すぎると計算時間が長くなりすぎる。上記を考慮して、フラグメントの種類が35程度の場合は選定される化学物質の総数が150〜250程度が好ましい。
【0053】
次いでフラグメント分解部13が、選定した複数の化学物質をフラグメントに分解しフラグメントの種類および個数のデータを求める(S02)。化学物質のフラグメントの分解方法はあらかじめ設定しておく。化学物質をフラグメントに分解する手法は任意であるが、予測システムの汎用性を高くするためにはフラグメントを小さくする方が好ましく、フラグメントに含まれる炭素原子の数が1のフラグメントもしくはヘテロ原子のみのフラグメントに分解する手法がより好ましい。
【0054】
次いで重回帰解析部14が、化学物質選定部12で選定された化学物質のモル体積、およびそれらの化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメントの種類および個数のデータを数式(3)を用いて重回帰解析することにより、フラグメントのモル体積に関する加成的な寄与に対応するパラメータ(V)を算出する(S03)。
mol = Σm (3)
【0055】
次いで重回帰解析部14が、化学物質選定部12で選定された化学物質の溶解パラメータ、およびそれらの化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメントの種類および個数のデータを数式(4)を用いて重回帰解析することにより、フラグメント毎の定数である気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータ(ΔE)、定数aおよびbを算出する(S04)。
δ=(ΣmΔE+a)/Vmol+b (4)
【0056】
重回帰の手法はあらかじめ設定しておく。重回帰の手法は任意であるが、最小二乗法が好ましい。
上記の処理(S01〜S04)が終了すると判断部16が、回帰式があらかじめ設定された条件を満足しているか否かを判断する(S05)。あらかじめ設定された条件は例えば重相関係数の自乗が下限閾値以上というものである。この閾値はあらかじめ判断部に記憶されている。
【0057】
判断部16が条件を満たしていないと判断した場合は、判断部16は、化学物質選定部12に再度化学物質の選定を行うように制御がなされる(S05)。化学物質選定部12が再度化学物質情報部11に蓄積された化学物質から複数の化学物質を選定し、一連の処理(S01〜S04)が行われる。
判断部16が条件を満たしていると判断した場合は、重回帰解析結果を回帰式として回帰式作成部15に出力および記憶させるよう制御がなされる(S06)。
【0058】
次に、未知化学物質の溶解パラメータを予測する基本的な処理を第二の処理として図3のフローチャートを用いて説明する。
フラグメント分解部13が、未知化学物質情報部17に蓄積された溶解パラメータを予測する化学物質をフラグメントに分解しフラグメントの種類および個数のデータを求める(S11)。化学物質のフラグメントの分解方法はS02の分解方法と同一にする。
【0059】
次いで、溶解パラメータ予測部18が、S06において出力および記憶された回帰式に、未知化学物質情報部17の溶解パラメータを予測する化学物質の情報、およびS11において溶解パラメータを予測する化学物質についてフラグメント分解部13で求められたフラグメント種類および個数のデータを代入して予測溶解パラメータを算出する(S12)。
【0060】
次いで、出力部19が、S12で算出された予測溶解パラメータを出力する(S13)。出力部19は、溶解パラメータ予測部18で算出された予測溶解パラメータを出力する。出力は、ユーザが予測溶解パラメータの情報を参照できるように、例えば、溶解パラメータ予測装置10が備えるディスプレイ等の表示装置に表示することにより行われる。それ以外でも、別の装置への出力が行われてもよい。また、予測溶解パラメータの出力の際に、併せて当該予測溶解パラメータの算出の対象となった化学物質の構造に関する情報が出力されてもよい。
【実施例】
【0061】
<実施例1>
本実施形態に係る予測式である前記式(1)を用いた溶解パラメータ予測方法により、化学物質の溶解パラメータを予測した実施例を示す。本実施例は、図1に示した本実施形態に係る溶解パラメータ予測方法が実行される溶解パラメータ計算装置10にて図2および図3に示したフローチャートに従って行った。
199種の化学物質を選定して溶解パラメータ計算装置に入力した。199種の化学物質は、シクロヘキサン、n‐ヘキサン、2,2−ジメチルブタン、2,2,3−トリメチルペンタン、デカヒドロナフタレン、n−トリデカン、ベンゼン、トルエン、イソプロピルベンゼン、1−メチルナフタレン、1,2−ジメチルナフタレン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、スチレン、シクロヘキシルベンゼン、1−オクテン、1−メチル−4−(1−メチルエテニル)シクロヘキセン、2,6,6−トリメチルビシクロ[3.1.1]ヘプ−2−テン、1−ブチン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−オクタデカフルオロオクタン、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−ドデカフルオロシクロヘキサン、フルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、1,2,3,4,5,6−ヘキサフルオロベンゼン、2−フルオロトルエン、1−クロロ−2−メチルプロパン、2−クロロ−2−メチルプロパン、クロロベンゼン、塩化ベンジル、1−クロロナフタレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエチレン、クロロアセチレン、ブロモエタン、2−ブロモプロパン、1−ブロモ−2−メチルプロパン、ブロモベンゼン、1−ブロモナフタレン、ブロモエチレン、ブロモホルム、1,1,2,2−テトラブロモエタン、ブロモアセチレン、ヨードメタン、2−ヨードプロパン、1−ヨードブタン、ジヨードメタン、ヨードベンゼン、メタノール、2−プロパノール、シクロヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、ベンジルアルコール、2−プロペン−1−オール、2−プロピン−1−オール、1,2−エタンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、o−クレゾール、フェノール、m−クレゾール、4−メチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、ピロカテコール、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アニソール、フェノキシベンゼン、1−ビニルオキシブタン、エトキシアセチレン、アセトアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−フルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2−プロピナール、アセトン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、4−メチル−3−ペンテ−2−ノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ギ酸、酢酸、吉草酸、イソ吉草酸、アクリル酸、メタクリル酸、安息香酸、ギ酸エチル、ギ酸イソブチル、ギ酸アリル、酢酸ビニル、トリアセチン、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、桂皮酸エチル、マレイン酸ジブチル、フタル酸ジブチル、酢酸プロパルギル、γ−ブチロラクトン、ニトロメタン、2−ニトロプロパン、ニトロベンゼン、2−ニトロアニソール、ニトロエタン、イソブチロニトリル、アセトニトリル、ピルボニトリル、ベンゾニトリル、シアン化ベンジル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、2−ブチンジニトリル、n−ブチルアミン、2−アミノ−2−メチルプロパン、シクロヘキシルアミン、アニリン、m−トルイジン、エチレンジアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ピロール、ピロリジン、モルホリン、ピペリジン、N−メチルアニリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、トリn−ブチルアミン、N−メチルピロリジン、ピリジン、3−ピコリン、2−アミノピリジン、4−ビニルピリジン、キノリン、イソキノリン、ホルムアミド、アセトアミド、プロピオンアミド、ベンズアミド、ブチルアミド、2−クロロアセトアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−フェニルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジブチルホルムアミド、N−ホルミルピロリドン、エタンチオール、チオグリコール酸、1,2−エタンジチオール、1−ブタンチオール、ベンゼンチオール、2−クロロベンゼンチオール、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジブチルスルフィド、チオフェン、テトラヒドロチオフェン、ジエチルジスルフィド、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジイソプロピルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、ジイソブチルスルホキシド、ジ(p−トリル)スルホキシド、2−メチルチオフェン、3−メチルチオフェン、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、メチルビニルスルホン、ジ(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリn−ブチル、リン酸トリクレジル、メチルホスホン酸ジイソプロピル、ヘキサメチルリン酸トリアミド、テトラメチルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロエチルシラン、テトラエチルシラン、テトラエトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、である。
選定した199種の化学物質をフラグメントへの分解した結果は、ホルミル水素(H(CO)−)、メチル基(−CH)、sp3メチレン基(−CH−)、sp3メチン基(−CH<)、sp3四級炭素(>C<)、spメチレン基(CH=)、spメチン基(−CH=)、sp四級炭素(>C=)、spメチン基(CH≡)、sp四級炭素(−C≡)、フッ素原子(−F)、塩素原子(−Cl)、臭素原子(−Br)、ヨウ素原子(−I)、水酸基(−OH)、エーテル基(−O−)、ホルミル基(−CHO)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(−COOH)、オキシカルボニル基(−COO−)、第一アミド基(‐CONH)、第二アミド基(−CONH−)、第三アミド基(−CON<)、一級アミノ基(−NH)、二級アミノ基(−NH−)、三級アミノ基(−N<)、sp窒素(−N=)、シアノ基(−CN)、ニトロ基(−NO)、メルカプト基(−SH)、スルフィド基(−S−)、スルホキシド基(−SO−)、スルホン基(−SO−)、ホスホリル基(−PO<)、ケイ素原子(>Si<)の35種のフラグメントであった。各々の化学物質に対するフラグメントの種類および数がデータとして得られた。
【0062】
199種の化学物質について前記数式(3)で前記に記載の方法によって重回帰解析した。その結果、mの係数としてVすなわち化学物質を構成する原子または官能基すなわちフラグメントiのモル体積に関する加成的な寄与に対応するパラメータが求められ、下記数式(31)で示される相関関係式が決定された。
mol =mH(CO)- ×10.66 + m-CH3 ×28.22 + m-CH2- ×17.53+……
+ m>Si< ×14.72 (31)
n=199、R2=0.999
ここで、nは解析した化学物質の数を表し、R2は原点回帰における自由度調整済み重相関係数の二乗を表す。
【0063】
次いで、同じ199種の化学物質について前記数式(4)で前記に記載の方法によって重回帰解析した。その結果、mの係数としてΔEすなわち化学物質を構成する原子または官能基すなわちフラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータが求められ、下記数式(41)で示される相関関係式が決定された。
δ=(ΣmΔE+12708)/Vmol+82 (41)
式(41)に計算されたΔEおよびVmolを代入した式を示すと以下のようになる。
δ=[{mH(CO)-×(-1760)+m-CH3×(-1004)+m-CH2-×1391+……
+m>Si<×3484}+12708]/(mH(CO)-×10.66+m-CH3×28.22+m-CH2-×17.53
+……+m>Si<×14.72)+82
n=199、R2=0.881
ここで、nは解析した化学物質の数を表し、R2は自由度調整済み重相関係数の二乗を表す。
【0064】
次いで、前記数式(1)に上記で求められたV、ΔE、aおよびbを入力して、下記予測式数式(11)が決定された。
δ=[[{mH(CO)-×(-1760)+m-CH3×(-1004)+m-CH2-×1391+……
+m>Si<×3484}+12708]/(mH(CO)-×10.66+m-CH3×28.22+m-CH2-×17.53
+……+m>Si<×14.72)+82]1/2 (11)
【0065】
実施例1の前記予測式(11)を用いて、溶解パラメータ既知の化合物の溶解パラメータを予測計算した結果を表1に示す。
【0066】
<実施例2>
予測式である前記式(2)を用いた以外は実施例1と同様の方法で、化学物質の溶解パラメータを予測した実施例を実施例2として示す。
実施例2の結果として、前記式(2)に実施例2で求められたVおよびΔEを入力して、実施例2の予測式数式(21)が決定された。
δ=[{mH(CO)-×3683+m-CH3×5421+m-CH2-×4390+……
+m>Si<×(-2399)}/(mH(CO)-×10.66+m-CH3×28.22+m-CH2-×17.53+……
+m>Si<×14.72)]1/2 (21)
【0067】
実施例2の前記予測式(21)を用いて、溶解パラメータ既知の化合物の溶解パラメータを予測計算した結果を表1に示す。
【0068】
<比較例>
フェドーズの予測式を用いて溶解パラメータ既知の化合物の溶解パラメータを予測した。結果を表1に示す。フェドーズ法ではスルホランの予測はできなかった。

【0069】
表1
【表1】

【0070】
実施例1、実施例2および比較例の各予測式による予測値と文献値との相関関係は次のようになった(数式(6)、(7)、(8))。
文献値 = 0.9897×[実施例1の予測値] (6)
n=43、R2=0.8668
文献値 = 0.9890×[実施例2の予測値] (7)
n=43、R2=0.7996
文献値 = 0.9870×[比較例の予測値] (8)
n=42、R2=0.6105
【0071】
上記数式(6)、(7)、(8)はいずれも原点を通り傾きがほぼ1の直線を表している。実施例1の相関関係の数式(6)および実施例2の相関関係の数式(7)は比較例の相関関係の数式(8)と比べて、相関係数の二乗R2は大きい値を示した。また数式(6)および(7)の傾きは数式(8)の傾きよりも1に近い値を示した。すなわち、本発明の実施例の予測式は従来のフェドーズの予測式よりも優れた予測性を示した。特に、実施例1は、より優れた予測性を示した。
また本発明の予測式は従来のフェドーズ法では予測できなかったスルホランなどのスルホン化合物の予測にも適用できる汎用性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、光学材料、塗料、反応溶媒、相溶化剤、コーティング剤、インク、トナー、分散溶媒、感熱記録材料などの設計指針となる溶解パラメータの予測が可能になるので、前記などの機能性材料の設計が効率的になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、重回帰解析により溶解パラメータを予測する式を決定し、その式を用いて化学物質の溶解パラメータを算出する方法であって、
化学物質の溶解パラメータの予測式が、下記数式(1)であり、式中のΔEi、aおよびbを重回帰解析により算出することを特徴とする化学物質の溶解パラメータ予測方法。
δ =[(ΣmΔE+a)/Vmol +b]1/2 (1)
式中、δは溶解パラメータを表し、mは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの個数を表し、ΔEは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、Vmolは化学物質のモル体積を表し、aおよびbは定数を表す。
【請求項2】
化学物質を部分構造ごとのフラグメントに分解し、重回帰解析により溶解パラメータを予測する式を決定し、その式を用いて化学物質の溶解パラメータを算出する方法であって、
化学物質の溶解パラメータの予測式が、下記数式(2)であり、式中のΔEを重回帰解析により算出することを特徴とする化学物質の溶解パラメータ予測方法。
δ =(ΣmΔE/Vmol 1/2 (2)
式中、δは溶解パラメータを表し、mは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの個数を表し、ΔEは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiの気化エネルギーに関する加成的な寄与に対応するパラメータを表し、Vmolは化学物質のモル体積を表す。
【請求項3】
請求項1の式(1)又は請求項2の式(2)のVmol を、下記数式(3)を用いて重回帰解析により算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化学物質の溶解パラメータ予測方法。
mol = Σm (3)
式中、mは、前記式(1)又は前記式(2)に示されるmと同一であり、Vは化学物質の部分構造ごとのフラグメントiのモル体積に関する加成的な寄与に対応するパラメータを表す。
【請求項4】
化学物質を部分構造ごとに分解したフラグメントに含まれる炭素原子の数が1以下であるようにフラグメントを分解することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の化学物質の溶解パラメータ予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−47652(P2012−47652A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191619(P2010−191619)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)