説明

化学物質の生体に対する影響の評価方法

【課題】神経毒性は、実験動物の感覚異常を的確に把握することが難しく、また、形態学的変化を伴わない場合も多いため、評価することが難しい。
【解決手段】外部環境の変化による生体内の遺伝子発現変化は鋭敏であるため、生体毒性を判別するための遺伝子セットを同定することは、生体毒性が起こる前に及びそれが病理学的検査により実証される前に生体毒性を迅速かつ正確に検出することが可能である。本発明は、その新たな遺伝子セットを用いた生体毒性の検出・予測方法、そのキット、生体毒性の処置方法及び生体毒性の候補薬剤確認方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質が生体に与える影響、神経毒性の検出、診断、予測及び/もしくは処置のための方法、及び、生体毒性を検出又は予測するためのキットに関する。特に、本発明は、化学物質が生体に与える影響を指標とした化学物質の神経毒性の検出・予測方法、神経毒性の処置の有効性を確認することを助けるための遺伝子発現解析手段及びその結果の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人類の生活する環境の中で、膨大な数の化学物質が利用されており、現在でも年々新しい化学物質が開発され続けている。しかしながら、これらの化学物質が環境中に放出されることにより、人体を含む生態系に有害な影響を及ぼすことが問題となっており、特に化学物質に起因する環境汚染による人体への影響は社会問題にまでなっている。特に、呼吸・血液循環など生命維持の基本的機能のみならず、運動機能・精神活動などの調節中枢として極めて重要な神経系組織に対する毒性は、我が国において過去に経験した水俣病(水銀)、スモン病(キノホルム)などの化学物質による中毒例が物語っているように、非常に悲惨な結果を招くことが多い。
【0003】
OECD、米国EPA、ならびに農林水産省から発行されるガイドラインに共通する基本姿勢は、一般毒性試験を1次スクリーニングと位置づけ、その試験で得られた成績に基づいて成獣の神経毒性試験ならびに発達期の神経毒性試験を実施するようにガイドラインを設定していることにある。一般毒性試験では、通常、単回投与試験に続いて反復毒性試験が実施され、これらの試験において神経毒性が疑われた場合に神経毒性試験が実施される。さらに、神経毒性試験や繁殖毒性などの安全性試験の結果から、発達期の神経毒性を検査する必要が生じた場合に発達神経毒性試験が実施される。
【0004】
しかしながら、EPAの神経毒性ガイドラインやOECD神経毒性試験法ガイドラインのいずれにおいても、各機能検査の方法に関しては具体的な記載はなく、どのような検査法を採用するかは各研究者の裁量に任されているのが現状である(非特許文献1)。
【0005】
近年、急速な発展を見せるゲノム学的なアプローチが、個別化医療に向けてバイオマーカーを用いた薬剤の感受性や副作用との相関を調べるファーマコゲノミクス(非特許文献2及び3参照)、食品成分の摂取に伴って起こるmRNAやタンパク質の発現量の変動を網羅的に解析し、食物が生体に与える影響を調べるニュートリゲノミクス(非特許文献4)等と同様に、化学物質の生物学的活性(特にその有害性)の評価にも応用され始めてきたトキシコゲノミクスと呼ばれる手法が用いられ始めてきた(非特許文献5乃至7参照)。
【0006】
これらのゲノム学的手法は、全遺伝子を個々のパラメータとして活用することで、従来の手法では得られない膨大かつ多様な観点による生物学的現象の評価を可能にした。
【0007】
遺伝子発現変動解析を用いた化学物質の毒性評価手法としては、酵母を用いた毒性物質の検出方法(特許文献1及び2参照)、細胞を用いた遺伝毒性の判定方法(特許文献3参照)、哺乳動物を用いた発達神経毒性の検出方法(特許文献4乃至6参照)、哺乳動物を用いた発がん物質の予測方法(特許文献7及び8参照)、哺乳動物を用いた発生毒性の予測方法(特許文献9参照)などが公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4022610号公報
【特許文献2】特許第4475373号公報
【特許文献3】特許第4573876号公報
【特許文献4】特開2006−115748号公報
【特許文献5】特開2009−232842号公報
【特許文献6】特開2009−77701号公報
【特許文献7】特開2009−159852号公報
【特許文献8】特開2007−54022号公報
【特許文献9】特開2010−11843号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】非臨床試験マニュアル(株式会社エル・アイ・シー)(2001)
【非特許文献2】Alison H. Harrill et al., Expert Opin. Drug Metab. Tosicol. November;4(11):1379−1389(2008)
【非特許文献3】Elisa Giovannetti et al., Mol. Cancer Ther. 5(6):1387−1394(2006)
【非特許文献4】Licia Iacoviello et al., Genes Nutr. 3:19−24(2008)
【非特許文献5】Preeti Chavan et al., Evid Based Complement Alternat Med. Dec;3(4):447−457(2006)
【非特許文献6】渡邉肇 YAKUGAKU ZASSHI:127(12):1967−1974(2007)
【非特許文献7】Uehara, Takeki et al., Mol. Nutr. Food Res. 54:218−227(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の反復投与毒性試験は血液学的検査や病理組織学的検査を主体としており、それらの生物学的情報は限られている。さらに、病理組織学的検査での評価は、判断した者の主観に左右されやすく、同じ病態を見ているにもかかわらず別の表現を用いたり、異なる化学物質間の毒性を評価するための客観的な指標が乏しかった。
【0011】
特に、神経毒性の評価については、実験動物の感覚異常を的確に把握することが難しいこと、神経系組織の解剖学的知見、特に機能分担関連は実験動物では情報が不十分であること、形態学的変化と機能障害の程度が一致しないこと、等の様々な問題点が指摘されていた。
【0012】
また、EPAの神経毒性ガイドライン、OECD神経毒性試験法ガイドラインのいずれも各機能検査の方法に関しては具体的な記載はなく、どのような検査法を採用するかは、各研究者の裁量に任されているのが現状である。
【0013】
本発明は化学物質の神経毒性を簡便かつ確実に検出するための客観的な指標の一つを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、メタクリルアミドメタクリルアミド(CAS登録番号79-39-0)またはヒドラジン一水和物(CAS登録番号7803-57-8)をラットに28日間反復投与したことにより、ラットの小脳で統計的に有意に発現変動した遺伝子が107遺伝子存在していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明は以下を提供する。
1.被検化学物質を生体または細胞に所定期間曝露させた後の遺伝子発現レベルを測定することにより該被検化学物質の毒性を評価する方法であって、
(A)実験動物または神経由来の細胞試料を複数用意し、その一部について前記被検化学物質を所定期間だけ曝露した後の小脳または神経由来の細胞試料を検査試料とするとともに、残りを未処理または前記化学物質の溶媒を曝露した後の小脳または神経細胞由来の細胞試料を参照試料とするステップと、
(B)前記検査試料について、配列番号1〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群としての生体応答遺伝子群のうちから選択される任意の1以上の選択生体応答遺伝子群に対する遺伝子の発現レベルを測定する第1の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(C)前記参照試料について、前記選択生体応答遺伝子群に対する遺伝子の発現レベルを測定する第2の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(D)前記第1の遺伝子発現レベル測定ステップ及び前記第2の遺伝子発現レベル測定ステップで測定した遺伝子発現レベルを対応する遺伝子ごとに比較し、前記遺伝子の発現レベルの差異に基づいて前記被験化学物質が有する神経毒性を評価するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の神経毒性評価方法。
2.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜41に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
3.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜11、42〜67に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
4.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜67に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
5.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜3、12、68〜97に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
6.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、13、42、43、68〜83、98〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
7.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、12、13、42、43、68〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
8.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜3、68〜83に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
9.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、12、13、42、43に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
10.前記遺伝子の発現レベルは、前記生体応答遺伝子群のうちのそれぞれの生体応答遺伝子におけるプロモーター配列に連結されたレポータータンパク質をコードする配列を含むレポーター遺伝子における発現レベルを指標として測定されることを特徴とする前記1乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
11.前記10記載の方法に使用されるレポーター遺伝子を含む核酸構成物、これを含むベクター、又は、これらを宿主細胞に導入した形質転換細胞であって、前記生体応答遺伝子のプロモーター配列に連結されたレポータータンパク質をコードする配列を含むことを特徴とする核酸構成物、これを含むベクター、又は、これらを宿主細胞に導入した形質転換細胞。
12.前記宿主細胞は、動物細胞、幹細胞、または胚性幹細胞であることを特徴とする前記11記載の形質転換細胞。
13.化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を判別・予測する方法であって、
(A)神経毒性を有することが既知の化学物質について所定量を所定期間生体または神経由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(B)神経毒性を有さないことが既知の化学物質について所定量を所定期間生体または神経由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(C)前記化学物質の溶媒を対照として所定量を所定期間生体または神経由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(D)前記生体の小脳または前記神経由来の細胞試料からmRNAを単離して、配列番号1〜107の塩基配列を有する遺伝子群としての生体応答遺伝子群のうちから選択される任意の1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定する測定ステップと、
(E)前記遺伝子発現レベルを対応する前記化学物質、曝露量、曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(F)被検化学物質を適当な濃度で一定期間生体または神経由来の細胞試料に曝露させるステップと、
(G)前記生体由来の前記小脳または前記神経由来の細胞試料からmRNAを単離して、(D)のステップで選択した生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(H)(G)で得られた前記遺伝子発現レベルを前記被検化学物質、曝露量及び曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(I)(H)で収集された遺伝子発現データを(E)で収集された照合用の対応する遺伝子発現データと比較するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の神経毒性評価方法。
14.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜41に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
15.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜11、42〜67に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
16.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜67に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
17.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜3、12、68〜97に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
18.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、13、42、43、68〜83、98〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
19.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、12、13、42、43、68〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
20.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜3、68〜83に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
21.前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、12、13、42、43に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする前記13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
22.前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と神経毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における遺伝子発現レベルの差異であることを特徴とする、前記13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
23.前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と神経毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における前記生体応答遺伝子群の発現プロファイルを指標としたクラスタ分析であることを特徴とする、前記13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
24.前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と神経毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における前記生体応答遺伝子群の発現プロファイルの相関係数を指標とすることを特徴とする、前記13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
25.神経毒性を有することが既知の化学物質が、メタクリルアミド(CAS登録番号79-39-0)またはヒドラジン一水和物(CAS登録番号7803-57-8)であることを特徴とする、前記13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
26.神経毒性を有さないことが既知の化学物質が、2-ブタノンオキシム(CAS登録番号96-29-7)、m-キシリレンジアミン(CAS登録番号1477-55-0)、3-シアノピリジン(CAS登録番号100-54-9)、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(CAS登録番号111-41-1)、テトラヒドロフルフリルアルコール(CAS登録番号97-99-4)、スルホラン(CAS登録番号126-33-0)、2-イソプロポキシエタノール(CAS登録番号109-59-1)、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(CAS登録番号5039-78-1)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム(CAS登録番号56-93-9)、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(CAS登録番号127-68-4)、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物(CAS登録番号130-13-2)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(CAS登録番号56539-66-3)、o-ジクロロベンゼン(CAS登録番号95-50-1)、3,4-キシリジン(CAS登録番号95-64-7)、N-メチルアニリン(CAS登録番号100-61-8)、トリレンジイソシアナート(CAS登録番号26471-62-5)、p-クミルフェノール(CAS登録番号599-64-4)、m-クレゾール(CAS登録番号108-39-4)、2,3-ジメチルアニリン(CAS登録番号87-59-2)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(CAS登録番号538-75-0)、フタル酸ジヘプチル(CAS登録番号3648-21-3)、テトラブロモエタン(CAS登録番号79-27-6)、アジピン酸ジブチル(CAS登録番号105-99-7)、P-エチルフェノール(CAS登録番号123-07-9)、o-t-ブチルフェノール(CAS登録番号88-18-6)、p-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(CAS登録番号140-66-9)、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール(CAS登録番号96-76-4)、3,5-キシリジン(CAS登録番号108-69-0)、N,N-ジメチルベンジルアミン(CAS登録番号103-83-3)、1,3-ジブロモプロパン(CAS登録番号109-64-8)、n-ヘキサデカン(CAS登録番号544-76-3)、プソイドクメン(CAS登録番号95-63-6)、1,4-ジブロモベンゼン(CAS登録番号106-37-6)、及び2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸(CAS登録番号88-44-8)のうちから選択される1以上の化学物質であることを特徴とする、前記13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
27.前記遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、Real Time PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つの方法を用いることを特徴とする前記1乃至26のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
28.前記ハイブリダイゼーション法は、マイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする前記27記載の化学物質の神経毒性評価方法。
29.前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする前記28記載の化学物質の神経毒性評価方法。
30.前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする前記29記載の化学物質の神経毒性評価方法。
31.前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする前記29または30記載の化学物質の神経毒性評価方法。
32.前記遺伝子発現レベルの測定は、前記生体応答遺伝子に対応する核酸、又は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質について、存在するか、もしくは、量の測定によることを特徴とする前記1乃至26のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
33.前記タンパク質は、免疫学的方法で測定されることを特徴とする前記32記載の化学物質の神経毒性評価方法。
34.前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法によることを特徴とする前記33記載の化学物質の神経毒性評価方法。
35.前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、及び抗体フラグメントから選択されることを特徴とする前記34記載の化学物質の神経毒性評価方法。
36.前記1乃至35のうちのいずれか1つに記載の方法に用いられるプローブを含む化学物質の毒性判別キットであって、前記プローブは、前記生体応答遺伝子またはその転写産物に特異的にハイブリダイズする配列を有する分子を含むことを特徴とする化学物質の神経毒性評価キット。
37.前記プローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする前記36記載の化学物質の神経毒性評価キット。
38.前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、又は合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする前記37記載の化学物質の神経毒性評価キット。
39.前記ヌクレオチドは、前記生体応答遺伝子のセンス鎖又はアンチセンス鎖とハイブリダイズし、10〜100塩基であることを特徴とする前記38記載の化学物質の神経毒性評価キット。
40.前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする前記38または39記載の化学物質の神経毒性評価キット。
41.前記プローブは、抗体及び/又はアプタマーであるタンパク質であることを特徴とする前記37記載の化学物質の神経毒性評価キット。
42.前記プローブは、任意の1つ以上を固体支持体に固定したDNAマイクロアレイ、DNAチップ、タンパクチップまたは抗体チップを含むことを特徴とする前記36乃至41のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価キット。
43.前記固体支持体は、ガラス、シリコン、プラスチック又は生体膜であることを特徴とする前記42記載の化学物質の神経毒性評価キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、化学物質を生体に投与した後の小脳又は化学物質を曝露した後の神経由来の細胞試料における遺伝子発現様式を比較することにより、化学物質が生体に対して神経毒性を有するか否かを簡便に判定あるいは予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】配列番号1〜107に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図2】配列番号1〜41に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図3】配列番号1〜11、42〜67に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図4】配列番号1〜67に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図5】配列番号1〜3、12、68〜97に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図6】配列番号1〜4、13、42、43、68〜83、98〜107に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図7】配列番号1〜4、12、13、42、43、68〜107に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図8】配列番号1〜3、68〜83に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【図9】配列番号1〜4、12、13、42、43に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
他に特に規定されない限り、明細書及び特許請求の範囲を含む本出願に使用される用語は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者(当業者)によって、一般的に理解されるものと同一の意味を有する。
【0019】
当業者は、本明細書中に記載されるものと同等又は類似の多くの方法及び物質を認識する。ただし、本発明は本明細書に記載される方法及び物質に限定されない。
【0020】
被検化学物質の投与量は、被検化学物質を曝露された試験動物または細胞内の遺伝子発現レベルが適度に増加または減少する量であることが望ましい。例えば、試験動物又は細胞の致死量未満の最大用量が望ましく、被検化学物質の試験動物に対するLD50値を基準にして決定することも可能である。
【0021】
被検化学物質(被検群)またはその溶媒(対照群)を投与する対象となる試験動物には、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サルなどの哺乳動物を使用することもできる。また、その対象となる細胞には、ラット、マウス、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル、ヒトなどの哺乳動物由来の細胞を使用することができる。
【0022】
被検化学物質の投与期間は1〜90日が望ましく、より好ましくは1〜60日であり、さらに好ましくは1〜28日であるが、より迅速に試験を行う観点から1〜14日でも構わない。投与は1日数回が望ましく、より好ましくは1日1回が望ましい。
【0023】
被検化学物質の投与方法は特に制限されない。例えば、経口投与、腹腔内投与、静脈注射等の一般的な方法を使用できる。
【0024】
「遺伝子発現レベルを測定する」とは、該遺伝子の発現レベルを検出又は定量する限り特に制限されず、例えば、該遺伝子のmRNAやcDNAを検出又は定量してもよい。さらには、該遺伝子がコードするタンパク質を検出又は定量してもよい。これらの検出又は定量には、該遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子を用いることが望ましい。遺伝子又はその遺伝子産物であるペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する分子とは、特に制限されないが、該遺伝子に特異的に結合するヌクレオチド、DNA、cDNA、RNA、ペプチド若しくはタンパク質に特異的に結合する抗体等を例示することができる。また、該遺伝子の発現レベルの検出又は定量には、該遺伝子のmRNAもしくはタンパク質の断片又はホモログを用いてもよい。
【0025】
配列番号1〜107に示される塩基配列は、例えば、National Center for Biotechnology InformationのBLAST(URL; http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)を利用したホモロジー検索により遺伝子を特定することが可能である。
【0026】
「DNAマイクロアレイ」とは、オリゴヌクレオチドや一本鎖または二本鎖のDNAをガラス基板上などに高密度に配置したものをいい、「DNAマイクロアレイ法」とは、そのDNAマイクロアレイ上で蛍光標識したcDNA分子などとハイブリッド形成を行わせて定性的且つ定量的にDNAと結合した核酸の種類や量を測定する手法をいう。
【0027】
「オリゴヌクレオチド」とは、ヌクレオチドが数個重合した分子の総称のことをいう。
【0028】
mRNAの「ホモログ」とは、該mRNAに実質的に類似したヌクレオチドに関連する。「実質的に類似した」とは、当業者によって十分理解され、具体的にはそれぞれの配列類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%を有することを意味する。
【0029】
また、タンパク質の「ホモログ」とは、該mRNAに実質的に類似したペプチドに関連する。「実質的に類似した」とは、当業者によって十分理解され、具体的にはそれぞれの配列類似性が少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%を有することを意味する。
【0030】
「化学物質に曝露された臓器組織または細胞試料」とは、組織もしくは細胞試料、または試料が由来した動物が、化学物質により処理されたことを意味する。
【0031】
「幹細胞」とは、自己複製能と分化した細胞をつくる能力を併せ持った未分化細胞のことを言い、胚性幹細胞(ES細胞:Embryonic stem cell)、組織幹細胞、人工多能性肝細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)で例示できるが、これらに限られるものではない。
【0032】
「プロモーター」とは、転写開始反応の効率に関与するDNA領域をいう。
【0033】
「レポーター遺伝子」とは、目的の因子の機能を測定するために代用される遺伝子のことであり、産物の活性が簡単に定量化できるものが好まれる。本発明のレポーター遺伝子には、生体応答遺伝子のプロモーター配列と当該プロモーター配列に作動可能に接続されたレポータータンパク質をコードする配列とを含み、レポータータンパク質としては、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、β‐ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)または赤色蛍光タンパク質(dsRed)等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0034】
本発明において「生体応答遺伝子のプロモーター配列に連結される」とは、対象の遺伝子の発現が該プロモーター配列の制御下に配置されることをいい、通常、対象となる遺伝子のすぐ上流にプロモーター配列が配置されるが、必ずしも隣接している必要はない。
【0035】
「ベクター」とは、組換えDNA技術において、外来性DNAを組み込み、宿主細胞中で増えることのできるDNAのことをいい、プラスミド、ファージ、ウイルス、酵母人工染色体などが挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0036】
「形質転換細胞」とは、形質転換体、トランスフォーマントとも呼ばれ、ある形質を示す細胞(供与細胞)のDNAを、それを示さない細胞(受容細胞)へ導入して生じた供与細胞の形質を示す細胞をいう。供与細胞又は受容細胞としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等が例示される。
【0037】
「毒性作用」とは、化学物質の存在に起因する、生体、臓器系、各臓器、組織、細胞、又は細胞内単位に対する有害作用を指す。毒性作用は、生理的もしくは物理的な症状、又は細胞もしくは臓器の壊死のような撹乱であり得る。
【0038】
「試料」には、好ましくは神経組織由来の材料、並びに、例えば血液、血漿、血清、リンパ液、腹水、尿、便のような任意の体液が含まれるものとする。なお、これに限られるものではない。
【0039】
明細書及び特許請求の範囲を含む本出願で使用される際には、「個体」とは、ヒトの個体、動物又は個体の集団もしくはプールを意味するものとする。
【0040】
「CAS登録番号」とは米国化学会の一部門であるCAS(Chemical Abstracts Service)が運営・管理する化学物質登録システムから付与される化学物質に固有の数値識別番号のことを意味する。
【0041】
本出願に係る特許請求の範囲及び明細書で使用する「生体応答遺伝子」とは、化学物質の曝露等の外的な刺激により生体内において発現レベルが変動する遺伝子を意味し、「生体応答遺伝子群」とは複数の生体応答遺伝子の組合せのことを意味する。
【0042】
遺伝子の発現レベルを検出、測定又は定量する具体的な方法としては、該遺伝子に特異的に結合するプローブ用の標識化ヌクレオチド、標識化cDNAまたは標識化RNAを用いたノーザンブロット法、ドットブロット法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、PCR法、又はmRNA分子を直接測定する方法等を用いることができる。PCR法としては、RT-PCR法、Real Time PCR法、競合PCR法を挙げることができる。
【0043】
前記Real Time PCR法としては、例えば、試料内の全RNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、該cDNAを鋳型にして目的領域をPCR法により増幅し、該増幅産物の生産過程をリアルタイムにモニタリングする方法が挙げられる。リアルタイムにモニタリングする試薬としては、例えば、SYBR(登録商標:Moleclar Probes社)Green Iや、TaqMan(登録商標:アプライドバイオシステムズ社)プローブ等が挙げられる。
【0044】
前記競合PCR法としては、例えば、試料内の全RNAやmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、該cDNAと内部標準DNAを同一の反応チューブ内で反応させる方法や、さらに前記逆転写反応時にmRNAとともにRNA内部標準を加えて反応させる方法等が挙げられる。また、内部標準遺伝子の配列は、例えば、増幅目的遺伝子の配列と相同配列でもよく、非相同な配列でもよい。
【0045】
さらに、遺伝子の発現レベルを検出又は定量する具体的な方法としては、DNAマイクロアレイ、DNAチップ、又は抗体アレイ等を用いる方法が挙げられる。DNAマイクロアレイ又はDNAチップには該遺伝子のヌクレオチド又はcDNAが1つ以上固定化されているものを用いる。
【0046】
なお、ヌクレオチド又はcDNAは、該遺伝子の一部に相当する部分でもよい。
【0047】
上記プローブの標識化に用いられる標識試薬は、例えば放射性同位元素である[125I]、[131I]、[3H]、[14C]、[32P]、[35S]、酵素であるβ‐ガラクトシダーゼ、β‐グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、また、蛍光物質であるシアニン蛍光色素蛍光色素(例えば、Cy2、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cyanine3、Cyanine5など)を用いることができる。
【0048】
また、上記Real Time PCR法としては、例えば、組織内又は細胞内の全RNAやmRNAから逆転写酵素により合成したcDNAを鋳型にして、PCRの増幅産物をリアルタイムでモニタリングする方法が挙げられる。リアルタイムPCR用モニタリング試薬としては、例えばSYBR GreenIやTaqManプローブ等が用いられる。
【0049】
通常、DNAマイクロアレイやDNAチップは、プローブが支持体の上に固定されているアレイ又はチップであり、DNAマイクロアレイ又はDNAチップの支持体としては、ハイブリダイゼーションに使用可能なものであればよく、例えばガラス、シリコン、プラスチックなどの基板や、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等を用いることができる。
【0050】
なお、DNAマイクロアレイとは、生体応答遺伝子群に含まれる遺伝子全長、またはその部分配列と相補的なcDNA断片若しくはオリゴDNAを固定支持体に1つ以上固定したものをいう。ここでいう相補的なオリゴDNAは一般的には25〜100塩基の長さのものが用いられるが、必ずしもこれに限定されない。
【0051】
DNAマイクロアレイやDNAチップの使用方法については特に制限されない。例えば、生体試料からmRNAを精製し、該mRNAを鋳型とした逆転写反応を行う際に、適切な標識を付したプライマーや標識ヌクレオチドを使用することにより、標識されたcDNAを得ることができる。この標識化cDNAとDNAマイクロアレイやDNAチップ表面上に固定された本発明におけるプローブとの間でハイブリダイゼーションを行わせ、被検試料とのハイブリダイゼーション及び対照試料とのハイブリダイゼーションのそれぞれの結果を比較し、該遺伝子の有無を検出したり、発現レベルを測定したりすることにより、臓器毒性の検出または予測を行うことができる。
【0052】
遺伝子に対応するポリペプチド又はタンパク質は上記生体応答遺伝子の発現産物であり、該ポリペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列の配列情報は、NCBIの遺伝子データベースにおいて、それぞれのアクセッションナンバーによりアプローチすることもできる。
【0053】
上記ポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する方法としては、所定のポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する方法であれば特に制限されない。例えば、該ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体やアプタマー等を用いることができ、抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、2つのエピトープを同時に認識することができる二機能性抗体等を例示できる。これらの抗体は、慣用のプロトコルを用いて該ポリペプチド又はタンパク質又はそれらの断片を抗原として用いて作製することができる。また、アプタマーとは、タンパク質、アミノ酸等の分子に特異的に結合する核酸分子である。
【0054】
上記ポリペプチド又はタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、被検試料中に存在する該ポリペプチド又はタンパク質を検出又は定量する場合、免疫沈降法、電気化学発光法、RIA(Radioimmunoassay)法、ELISA(Enzyme-liked immunosorbent assay)法、蛍光抗体法等の公知の免疫学的方法を用いることができる。
【0055】
上記判定の基準としては、被検試料中に存在する該遺伝子の発現レベル(又は該遺伝子に対応するポリペプチド若しくはタンパク質の発現レベル)が正常対照試料中に存在する、該遺伝子の発現レベル(又は該遺伝子に対応するポリペプチド若しくはタンパク質の発現レベル)よりも高い又は低いことを利用する。例えば、1群3検体以上の試料の発現レベルを測定した結果について、t検定を行った場合に、P<0.05、より好ましくはP<0.01、さらに好ましくはP<0.001、さらにより好ましくはP<0.0001である場合が挙げられる。
【0056】
検定方法はt検定に限定されるものではなく、U検定、F検定、マン・ホイットニ検定やウィルコクサン符号付順位検定でもよい。また検定に限定されるものではなく、例えば各群の発現レベルの平均値の差を用いてもよい。
【0057】
基準値は、被検試料における発現レベルを測定する度に毎回測定する必要はなく、例えば、様々な種の生体試料における正常対照試料中に存在する遺伝子の発現レベルをあらかじめ測定しておき、その測定値を用いて比較することができる。
【0058】
遺伝子発現レベルの変化には特定の化学物質と生体組織との直接の反応のみならず、臓器に障害が生じた結果としての二次的反応も含まれる。
【0059】
生体応答遺伝子群に含まれる遺伝子は、ヒト、ラット、マウス、ウサギ、又はサルのような任意の哺乳動物において、マーカーとして用いられ得る。好ましくは、生体応答遺伝子群に含まれる遺伝子は、ラット又はマウスにおいてマーカーとして用いられる。
【0060】
動物の種類は特に限定されるものではなく、例えば、ラットの場合にはSprague Dawleyラット、Wistarラットなどでもよく、雄でも雌でも構わない。
【0061】
以下、実施例により本発明による化学物質の毒性判別・予測方法、核酸構成物、ベクター、形質転換細胞、照合用遺伝子発現データベースの作成方法、及び、化学物質の毒性判別キットをより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0062】
本発明の毒性作用を検出または予測するための方法に用いられる生体応答遺伝子群は、メタクリルアミド(CAS登録番号79-39-0)またはヒドラジン一水和物(CAS登録番号7803-57-8)を雄のSprague Dawleyラット(6週齢)(日本チャールス・リバー社)に28日間反復投与することにより小脳で発現レベルが著しく変化した遺伝子群である。
【0063】
本発明で用いられる生体応答遺伝子群は以下の方法により得られる。なお、ここで、「発現レベル」とは絶対量である必要はなく相対量でよい。
【0064】
<遺伝子発現データベース>
本発明による遺伝子発現データベースの作成は、
(1)種々の化学物質について、ラットなどが死亡しない適当な投与量を決定し、
(2)適当な濃度の化学物質を一定期間、ラットなどに繰り返し曝露し、
(3)曝露した生体から各臓器を摘出し、
(4)摘出した臓器からmRNAを単離し、
(5)DNAマイクロアレイ法などにより特定遺伝子の発現レベルを測定し、
(6)得られた遺伝子発現レベルを化学物質、その濃度、曝露時間とともに遺伝子発現データベースとしてまとめる、と以上6つの工程によりなされる。
【0065】
<動物試験>
5週齢のCrl:CD(SD)ラット(雄)を準備し、ポリカーボネイトケージに入れ、エアーコンディショニング・アニマルラック(商品名)内で飼育した。エアーコンディショニング・アニマルラックは、温度22℃、湿度55%に設定し、照明は明期7:00〜19:00、暗期19:00〜7:00の12時間サイクルに設定した。水は給水ビンを用いて、浄水器を通した水道水を不断給与し、飼料は固形飼料を不断給餌した。実験開始までに1週間の馴化検疫期間を設けた。
【0066】
国立医薬品食品衛生研究所の「既存化学物質毒性データベース」(http://dra4.nihs.go.jp/mhlw_data/jsp/SearchPage.jsp)に登録されている22種類の化学物質、2-ブタノンオキシム、m-キシリレンジアミン、3-シアノピリジン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物、4-エチルモルホリン、o-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、3,5-キシリジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、1,3-ジブロモプロパン、n-ヘキサデカン、1-ブロモ-3-クロロプロパン、ジシクロヘキシルアミンをそれぞれ28日間反復してSprague Dawleyラット(6週齢、雄)に経口投与した。正常対照群として、オリブ油、注射用水又はゴマ油を28日間反復してSprague Dawleyラット(6週齢、雄)に経口投与した。また、1群あたり3個体のラットを使用した。なお、動物試験は28日間に制限されることはなく、例えば数日間でもよい。
【0067】
化学物質の投与液は、化学物質を必要量秤量し、適当な溶媒(注射用水、オリブ油、ゴマ油など)を用いて溶液又は均一な懸濁液を作製した。経口投与は2.5mL用または5.0mL用注射用シリンジにフレキシブル経口ゾンデ(商品名)を装着したものを用いたが、これに限定されるものではない。なお、溶媒は、2−ブタノンオキシム、m-キシリレンジアミン、3-シアノピリジン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、メタクリルアミド、スルホラン、2-イソプロポキシエタノール、ヒドラジン一水和物および4-エチルモルホリンは注射用水(大塚製薬株式会社製)を使用し、o-ジクロロベンゼン、3,4-キシリジン、N-メチルアニリン、トリレンジイソシアナート、2-(ジブチルアミノ)エタノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、3,5-キシリジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、1,3-ジブロモプロパンおよびn-ヘキサデカンはオリブ油(小堺製薬株式会社製)を使用し、1-ブロモ-3-クロロプロパンおよびジシクロヘキシルアミンはゴマ油(小堺製薬株式会社製)を使用した。なお、投与液に使用する溶媒はこれらに限定されることはない。
【0068】
各化学物質の投与量はそれぞれ、2−ブタノンオキシムが100mg/kg/day、m-キシリレンジアミンが400mg/kg/day、3-シアノピリジンが180mg/kg/day、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールが1,000mg/kg/day、テトラヒドロフルフリルアルコールが600mg/kg/day、メタクリルアミドが150mg/kg/day、スルホランが700mg/kg/day、2-イソプロポキシエタノールが500mg/kg/day、ヒドラジン一水和物が30mg/kg/day、4-エチルモルホリンが500mg/kg/day、o-ジクロロベンゼンが500mg/kg/day、3,4-キシリジンが250mg/kg/day、N-メチルアニリンが125mg/kg/day、トリレンジイソシアナートが300mg/kg/day、2-(ジブチルアミノ)エタノールが250mg/kg/day、2,4-ジ-tert-ブチルフェノールが300mg/kg/day、3,5-キシリジンが200mg/kg/day、N,N-ジメチルベンジルアミンが200mg/kg/day、1,3-ジブロモプロパンが250mg/kg/day、n-ヘキサデカンが1,000mg/kg/day、1-ブロモ-3-クロロプロパンが300mg/kg/day、ジシクロヘキシルアミンが70mg/kg/dayとし、投与対象となるラットの体重の測定値から投与液量を計算して、ラットに投与した。
【0069】
臓器の採取は、化学物質の最終投与の約24時間後に行った。具体的には、ラットを麻酔下で腹部大動脈より放血(全採血)して安楽死させた後、小脳を採取し、速やかに液体窒素で凍結させた。凍結させた小脳はISOGEN(ニッポンジーン社製)溶液中でホモジナイズすることにより粉砕した。
【0070】
<全RNAの抽出>
小脳組織からの全RNAの抽出はISOGEN試薬(ニッポンジーン社製)を用いて推奨のプロトコルに従って行った。
【0071】
<核酸検体の調製>
検体用mRNAの調製は、小脳組織からISOGEN試薬(ニッポンジーン社製)を用いて抽出した全RNAから、Poly(A)Pureキット(Ambion社製)を用い、各社推奨のプロトコルに従って行った。
【0072】
<マイクロアレイの作製>
ラット遺伝子断片ライブラリー(マイクロダイアグノスティック社製)を用いてマイクロアレイを作製した。該ラット遺伝子断片ライブラリーには、配列番号1〜107で示される塩基配列を有する合成オリゴヌクレオチドを含んでいた。また、マイクロアレイの作製方法・条件に限定はないが、例えば(Schena,M.et.al.,Science,270,467-470.(1995))に記載の作製方法を用いることができる。
【0073】
ラット遺伝子断片ライブラリーを超微量分注装置(マイクロダイアグノスティク社製)によりスライドガラス(松波硝子工業社製、HAコートスライドガラス)にプリントしてマイクロアレイを作製した。該マイクロアレイを気相恒温器内にて80℃で1時間静置し、さらにUVクロスリンカー(Hoefer社製、UVC500)を用いて120mJの紫外線を照射した。
【0074】
<マイクロアレイの後処理>
マイクロアレイの後処理については、特許公報(特許第4190899号)記載の方法により行った。
【0075】
<標識cDNAの合成>
該mRNA 1.5μgを核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素SuperScriptII(登録商標:ライフテクノロジーズ)(インビトロジェン社製)、Cyanine5-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine5-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。一方、対照としてラット共通レファレンス(マイクロダイアグノスティック社製)を使用した。共通レファレンスに対しては核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)、逆転写酵素SuperScriptII(インビトロジェン社製)、Cyanine3-deoxyuridinetriphosphate(Cyanine3-dUTP)(Perkin Elmer社製)を用い、標識cDNAを作製した。作製方法は、各社推奨のプロトコルに従った。
【0076】
<標識プローブの作製>
これらの標識cDNA、すなわち、Cyanine5-dUTPで標識した検体及びCyanine3-dUTPで標識した対照レファレンスを同一試験管内で混合した後、MicropureEZ(ミリポア社製)及びMicroconYM30(登録商標:ミリポア)(ミリポア社製)により精製した。最終的には核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬に付属のハイブリダイゼーションバッファー及び純水を用いて15μlに調製した。
【0077】
<ハイブリダイゼーション>
該溶液を99℃で5分間加熱して熱変性させた後に、DNAマイクロアレイ上に滴下し、ハイブリダイゼーションカセット(マイクロダイアグノスティック社製)に格納した。該ハイブリダイゼーションカセットを気相恒温器(三洋電機バイオメディカ社製)に入れ、42℃で約20時間、静置した状態で保温した。この操作によって、サンプル中に含まれる標識cDNAがDNAマイクロアレイ上の相補的なオリゴDNAと特異的に結合する。
【0078】
<洗浄>
ハイブリダイゼーションカセットからスライドガラスを取り出し、核酸標識・ハイブリダイゼーション試薬(マイクロダイアグノスティック社製)付属のハイブリダイゼーション洗浄溶液を用い、同社推奨のプロトコルに従ってスライドガラスを洗浄した。
【0079】
<蛍光強度の検出及び数値化>
各遺伝子の発現レベルはDNAマイクロアレイ上に固定されたオリゴDNAと結合した標識cDNAの蛍光強度を測定することにより見積もることができる。洗浄したスライドガラスをスキャナGenePix4000B(Axon Instrument社製)を用いて蛍光を測定し、スキャナに付属の解析ソフトウェアGenePixPro(Axon Instrument社製)を用いて光学的に評価し、蛍光強度の相対値(Cyanine5/Cyanine3)数値化した。すなわち、DNAマイクロアレイ上に固定されたオリゴDNAのスポットの蛍光強度をそれぞれ別々に測定し、蛍光強度をヒト共通レファレンスとの相対比(log2比)で表した。また、スポット以外の場所の蛍光強度からバックグラウンドを算出してノイズとしてそれぞれのスポットの蛍光強度から差し引いた。さらに、サンプルにおける蛍光強度/共通レファレンスの蛍光強度を算出するという解析を行った。すなわち、各サンプルの遺伝子発現レベルはすべて共通レファレンスに対する相対比として検出されるため、単純に複数サンプルを横並び比較できる状態となっている。このようにして取得された数値を集積してデータベース化した。
【0080】
<二次比の算出>
次に、すべての対照群の平均値を算出し、それぞれのサンプルについてその平均値との相対値(「二次比」と呼ぶ。)を算出した。以下の計算はすべて二次比を用いて行った。
【0081】
<遺伝子群の抽出>
メタクリルアミドは神経毒性を有する化学物質として報告されている化学物質であり、28日間反復投与試験により小脳脚の軸策膨化(7個体中1個体に症状が出現したと報告されている)、坐骨神経の神経線維の変性などの病理所見、よろめき歩行の観察などが報告されている(国立医薬品食品衛生研究所「既存化学物質毒性データベース」参照)。また、ヒドラジン一水和物は国立医薬品食品衛生研究所の「既存化学物質毒性データベース」では神経毒性に関する報告はなかったものの、「化学物質等安全データシート」(昭和化学株式会社)ではヒトにおける神経症状、振戦、嗜眠、言動の一貫性喪失などの神経毒性が報告されている。
【0082】
そこで、これらの化学物質をラットに反復投与した際に生体に与える影響を判別するために有用な遺伝子を選択するために、メタクリルアミド(CAS登録番号79-39-0)またはヒドラジン一水和物(CAS登録番号7803-57-8)を28日間反復投与したラットの小脳と注射用水を投与した対照群ラットの小脳とを比較して、各遺伝子の対数変換相対的発現比に対するスチューデントのt検定を行ってP値を算出した。それぞれの化学物質投与群と対照群との間で発現レベルの平均値の差の絶対値が0.75以上、かつ、P値が0.05未満である遺伝子群を抽出したところ、メタクリルアミドで41遺伝子、ヒドラジン一水和物が37遺伝子抽出できた。これらを合わせたところ、のべ67遺伝子となった。
【0083】
一方、第2回目の実験で使用した注射用水(「C2」で表す。)を投与したラットの小脳において、それらの標準偏差が0.5以上の遺伝子を除いた後、C2およびメタクリルアミド投与群のサンプルのうち2以上のサンプルで1以上または−1以下の値を有する遺伝子を抽出した。さらに、それらの遺伝子から1以上のサンプルで値が0の遺伝子を除いた。次に、メタクリルアミド投与群のうち動物番号4(「mca_4」で表す。)または動物番号5(「mca_5」で表す。)で−1以上、1以下の値を有する遺伝子群を除いた。さらに、mca_4とmca_5のうちどちらか一方が正の値、かつ、他方が負の値を有する遺伝子群を除いた。その結果、34遺伝子が抽出できた。
【0084】
同様にして、第2回目の実験で使用した注射用水(「C2」で表す。)を投与したラットの小脳において、それらの標準偏差が0.5以上の遺伝子を除いた後、C2およびヒドラジン一水和物投与群のサンプルのうち2以上のサンプルで1以上または−1以下の値を有する遺伝子を抽出した。さらに、それらの遺伝子から1つ以上のサンプルで値が0の遺伝子を除いた。次に、メタクリルアミド投与群のうち動物番号19(「mca_19」で表す。)または動物番号20(「mca_20」で表す。)で−1以上、1以下の値を有する遺伝子群を除いた。さらに、mca_19とmca_20のうちどちらか一方が正の値、かつ、他方が負の値を有する遺伝子群を除いた。その結果、33遺伝子が抽出できた。前記34遺伝子と該33遺伝子を合わせたところ、のべ48遺伝子となった。
【0085】
前記t検定で抽出した遺伝子群(67遺伝子)と前記48遺伝子を合わせたところ、のべ107遺伝子となった。表1〜10には該107遺伝子の発現情報を記しており、数値は二次比で表している。また表中、「配列番号」の欄には特定した遺伝子の配列番号を記している。また、表中の略号は「C1」は「第1回目の実験に使用した注射用水」を、「2bo」は「2-ブタノンオキシム」を、「mxa」は「m-キシリレンジアミン」を、「3cp」は「3-シアノピリジン」を、「2ae」は「2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール」を、「thf」は「テトラヒドロフルフリルアルコール」を、「C2」は「第2回目の実験に使用した注射用水」を、「mca」は「メタクリルアミド」を、「suf」は「スルホラン」を、「2ip」は「2-イソプロポキシエタノール」を、「hmh」は「ヒドラジン一水和物」を、「4em」は「4-エチルモルホリン」を、「C4」は「第4回目の実験に使用した注射用水」を、「dcb」は「o-ジクロロベンゼン」を、「34x」は「3,4-キシリジン」を、「nma」は「N-メチルアニリン」を、「tdn」は「トリレンジイソシアナート」を、「2de」は「2-(ジブチルアミノ)エタノール」を、「C7」は「第7回の実験に使用したオリブ油」を、「24b」は「2,4-ジ-tert-ブチルフェノール」を、「35x」は「3,5-キシリジン」を、「nda」は「N,N-ジメチルベンジルアミン」を、「13d」は「1,3-ジブロモプロパン」を、「nhd」は「n-ヘキサデカン」を、「C8」は「ゴマ油」を、「bcp」は「1-ブロモ-3-クロロプロパン」を、「dha」は「ジシクロヘキシルアミン」を表す。また、略号に付随の数字は個体の別を表している。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
【表7】

【0093】
【表8】

【0094】
【表9】

【0095】
【表10】

【実施例2】
【0096】
<クラスタ分析>
DNAマイクロアレイで取得した遺伝子発現データの分析手法として、例えばクラスタ分析が挙げられる。クラスタ分析とは、遺伝子発現変化パターンの類似した遺伝子同士をグルーピングする統計的手法である。データ間の類似度(例えばユークリッド距離など)を定義し、その類似度を用いることにより遺伝子発現パターンが類似した、すなわち、遺伝子発現に対して類似した影響を持つ化学物質同士がグループ化される。
【0097】
配列番号1〜107に示される塩基配列を有する遺伝子の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行った。階層的クラスタ分析は解析用ソフトウェア「Expression View Pro」(マイクロダイアグノスティック社製)を用いて行った。また、階層的クラスタ分析は「cluster」や「treeview」などのソフトウェアを用いても行うことができる。その結果、メタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)とヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)で一つのクラスタを形成し、他のサンプルと区別することができた(図1)。なお、図中、「C1」は「第1回目の実験に使用した注射用水」を、「2bo」は「2-ブタノンオキシム」を、「mxa」は「m-キシリレンジアミン」を、「3cp」は「3-シアノピリジン」を、「2ae」は「2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール」を、「thf」は「テトラヒドロフルフリルアルコール」を、「C2」は「第2回目の実験に使用した注射用水」を、「mca」は「メタクリルアミド」を、「suf」は「スルホラン」を、「2ip」は「2-イソプロポキシエタノール」を、「hmh」は「ヒドラジン一水和物」を、「4em」は「4-エチルモルホリン」を、「C4」は「第4回目の実験に使用した注射用水」を、「dcb」は「o-ジクロロベンゼン」を、「34x」は「3,4-キシリジン」を、「nma」は「N-メチルアニリン」を、「tdn」は「トリレンジイソシアナート」を、「2de」は「2-(ジブチルアミノ)エタノール」を、「C7」は「第7回の実験に使用したオリブ油」を、「24b」は「2,4-ジ-tert-ブチルフェノール」を、「35x」は「3,5-キシリジン」を、「nda」は「N,N-ジメチルベンジルアミン」を、「13d」は「1,3-ジブロモプロパン」を、「nhd」は「n-ヘキサデカン」を、「C8」は「ごま油」を、「bcp」は「1-ブロモ-3-クロロプロパン」を、「dha」は「ジシクロヘキシルアミン」を表す。また、各化学物質の略号に付随している数字はラットの個体の別を表している。黒丸と白丸は、配列番号1〜107に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。
【0098】
この結果は、配列番号1〜107に示される塩基配列を有する遺伝子セットの遺伝子発現変動パターンを比較することにより、対照群と小脳に影響を与える特定の化学物質を判別することが可能であることを示唆している。
【0099】
なお、動物実験においては、個体差が生じることが珍しくなく国立医薬品食品衛生研究所の「既存化学物質毒性データベース」の報告書においても個体差が生じている例が多い。したがって、本実施例で示す結果も個体差が生じているものと考えられる。
【実施例3】
【0100】
メタクリルアミド投与群と対照群との間のt検定を行い、P値が0.05以下、かつ、メタクリルアミド投与群の平均値と対照群の平均値の差が0.75以上という条件で抽出した遺伝子群(配列番号1〜41に示される塩基配列を有する41遺伝子)の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行った。その結果、メタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)とヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)で一つのクラスタを形成し、他のサンプルと区別することができた(図2)。図2の中で記されている略号は図1と同様の意味を表している。また、黒丸と白丸は、配列番号1〜41に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。
【0101】
該遺伝子セットがメタクリルアミド投与群のみを考慮して抽出したものであるのにもかかわらず、ヒドラジン一水和物投与群の個体も同じクラスタに含まれたことは、ヒドラジン一水和物をラットに投与した場合において、小脳における遺伝子発現に関してメタクリルアミドと類似した影響を与えることを意味している。また、この結果は、配列番号1〜41に示される塩基配列を有する遺伝子セットの遺伝子発現変動パターンを比較することにより、対照群と小脳に影響を与える特定の化学物質を判別することが可能であることを示唆している。
【実施例4】
【0102】
ヒドラジン一水和物投与群と対照群との間のt検定を行い、P値が0.05以下、かつ、ヒドラジン一水和物投与群の平均値と対照群の平均値の差が0.75以上という条件で抽出した遺伝子群(配列番号1〜11、42〜67に示される塩基配列を有する37遺伝子)の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行った。その結果、ヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)とメタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)で一つのクラスタを形成し、他のサンプルと区別することができた(図3)。図3の中で記されている略号は図1と同様の意味を表している。また、黒丸と白丸は、配列番号1〜11、42〜67に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。
【0103】
該遺伝子セットがヒドラジン一水和物投与群のみを考慮して抽出したものであるのにもかかわらず、メタクリルアミド投与群の個体も同じクラスタに含まれたことは、ヒドラジン一水和物をラットに投与した場合において、小脳における遺伝子発現に関してメタクリルアミドと類似した影響を与えることを意味している。
【実施例5】
【0104】
実施例3および4で示した遺伝子群を集めて統合したところ、67遺伝子(配列番号1〜67)存在した。これらの遺伝子群の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、ヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)とメタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)で一つのクラスタを形成し、他のサンプルと区別することができた(図4)。図2の中で記されている略号は図1と同様の意味を表している。また、黒丸と白丸は、配列番号1〜67に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。
【実施例6】
【0105】
第2回目の実験の対照群(「C2」で表す。)の3個体のデータを用いて標準偏差を算出し、標準偏差が0.5以上の遺伝子を削除した。次に、C2群とメタクリルアミド投与群のデータの中から2以上のサンプルで値が1以上または−1以下の遺伝子を抽出した。次に、メタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)のデータで値が−1以上、かつ1以下の遺伝子を削除した。さらに、メタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)のデータを比較して一方が正の値を他方が負の値を示している遺伝子を削除した。このようにして抽出した遺伝子群は34遺伝子であった(配列番号1〜3、12、68〜97)。
【0106】
これらの遺伝子群の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、メタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)とヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)で一つのクラスタを形成し、他のサンプルと区別することができた(図5)。図5の中で記されている略号は図1と同様の意味を表している。また、黒丸と白丸は、配列番号1〜3、12、68〜97に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。
【0107】
該遺伝子セットがメタクリルアミド投与群のみを考慮して抽出したものであるのにもかかわらず、ヒドラジン一水和物投与群の個体も同じクラスタに含まれたことは、ヒドラジン一水和物をラットに投与した場合において、小脳における遺伝子発現に関してメタクリルアミドと類似した影響を与えることを意味している。また、この結果は、配列番号1〜3、12、および68〜97に示される塩基配列を有する遺伝子セットの遺伝子発現変動パターンを比較することにより、対照群と小脳に影響を与える特定の化学物質を判別することが可能であることを示唆している。
【実施例7】
【0108】
第2回目の実験の対照群(「C2」で表す。)の3個体のデータを用いて標準偏差を算出し、標準偏差が0.5以上の遺伝子を削除した。次に、C2群とヒドラジン一水和物投与群のデータの中から2以上のサンプルで値が1以上または−1以下の遺伝子を抽出した。次に、ヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)のデータで値が−1以上、かつ1以下の遺伝子を削除した。さらに、ヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)のデータを比較して一方が正の値を他方が負の値を示している遺伝子を削除した。このようにして抽出した遺伝子群は33遺伝子であった(配列番号1〜4、13、42、43、68〜83、98〜107)。
【0109】
これらの遺伝子群の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、ヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)とメタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)で一つのクラスタを形成し、他のサンプルと区別することができた(図6)。図6の中で記されている略号は図1と同様の意味を表している。また、黒丸と白丸は、配列番号1〜4、13、42、43、68〜83、98〜107に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。
【0110】
該遺伝子セットがヒドラジン一水和物投与群のみを考慮して抽出したものであるのにもかかわらず、メタクリルアミド投与群の個体も同じクラスタに含まれたことは、メタクリルアミドをラットに投与した場合において、小脳における遺伝子発現に関してヒドラジン一水和物と類似した影響を与えることを意味している。また、この結果は、配列番号1〜4、12、13、42、43、68〜83、98〜107に示される塩基配列を有する遺伝子セットの遺伝子発現変動パターンを比較することにより、対照群と小脳に影響を与える特定の化学物質を判別することが可能であることを示唆している。
【実施例8】
【0111】
実施例6および7で示した遺伝子群を集めて統合したところ、48遺伝子(配列番号1〜4、12、13、42、43、68〜107)存在した。これらの遺伝子群の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、ヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)とメタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)で一つのクラスタを形成し、他のサンプルと区別することができた(図7)。図7の中で記されている略号は図1と同様の意味を表している。また、黒丸と白丸は、配列番号1〜4、12、13、42、43、68〜107に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。
【実施例9】
【0112】
実施例6および7で示した遺伝子群の中で両者に共通する遺伝子を抽出したところ、19遺伝子(配列番号1〜3、68〜83)存在した。これらの遺伝子群の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、ヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)とメタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)で一つのクラスタを形成し、他のサンプルと区別することができた(図8)。図8の中で記されている略号は図1と同様の意味を表している。また、黒丸と白丸は、配列番号1〜3、68〜83に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。
【実施例10】
【0113】
実施例5および9で示した遺伝子群の中で両者に共通する遺伝子を抽出したところ、8遺伝子(配列番号1〜4、12、13、42、43)存在した。これらの遺伝子群の発現変動パターンに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、ヒドラジン一水和物を投与したラットの2個体(hmh_19およびhmh_20)とメタクリルアミドを投与したラットの2個体(mca_4およびmca_5)で一つのクラスタを形成し、他のサンプルと区別することができた(図9)。図9の中で記されている略号は図1と同様の意味を表している。また、黒丸と白丸は、配列番号1〜4、12、13、42、43に示される塩基配列を有する遺伝子を特定する際に比較対象としたサンプルを表しており、黒丸が化学物質投与サンプルを、白丸が対照サンプルを表している。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の毒性判定遺伝子セットは、神経毒性のモニタリング、それらの診断および/またはそれらに対する種々の措置もしくは薬剤の有効性を判定することを助けることができる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検化学物質を生体または細胞に所定期間曝露させた後の遺伝子発現レベルを測定することにより該被検化学物質の毒性を評価する方法であって、
(A)実験動物または神経由来の細胞試料を複数用意し、その一部について前記被検化学物質を所定期間だけ曝露した後の小脳または神経由来の細胞試料を検査試料とするとともに、残りを未処理または前記化学物質の溶媒を曝露した後の小脳または神経細胞由来の細胞試料を参照試料とするステップと、
(B)前記検査試料について、配列番号1〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群としての生体応答遺伝子群のうちから選択される任意の1以上の選択生体応答遺伝子群に対する遺伝子の発現レベルを測定する第1の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(C)前記参照試料について、前記選択生体応答遺伝子群に対する遺伝子の発現レベルを測定する第2の遺伝子発現レベル測定ステップと、
(D)前記第1の遺伝子発現レベル測定ステップ及び前記第2の遺伝子発現レベル測定ステップで測定した遺伝子発現レベルを対応する遺伝子ごとに比較し、前記遺伝子の発現レベルの差異に基づいて前記被験化学物質が有する神経毒性を評価するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項2】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜41に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項3】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜11、42〜67に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項4】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜67に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項5】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜3、12、68〜97に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項6】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、13、42、43、68〜83、98〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項7】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、12、13、42、43、68〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項8】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜3、68〜83に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項9】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、12、13、42、43に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項10】
前記遺伝子の発現レベルは、前記生体応答遺伝子群のうちのそれぞれの生体応答遺伝子におけるプロモーター配列に連結されたレポータータンパク質をコードする配列を含むレポーター遺伝子における発現レベルを指標として測定されることを特徴とする請求項1乃至9のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法に使用されるレポーター遺伝子を含む核酸構成物、これを含むベクター、又は、これらを宿主細胞に導入した形質転換細胞であって、前記生体応答遺伝子のプロモーター配列に連結されたレポータータンパク質をコードする配列を含むことを特徴とする核酸構成物、これを含むベクター、又は、これらを宿主細胞に導入した形質転換細胞。
【請求項12】
前記宿主細胞は、動物細胞、幹細胞、または胚性幹細胞であることを特徴とする請求項11記載の形質転換細胞。
【請求項13】
化学物質が生体に与える影響を遺伝子発現レベルで検出することにより被検化学物質の毒性を判別・予測する方法であって、
(A)神経毒性を有することが既知の化学物質について所定量を所定期間生体または神経由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(B)神経毒性を有さないことが既知の化学物質について所定量を所定期間生体または神経由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(C)前記化学物質の溶媒を対照として所定量を所定期間生体または神経由来の細胞試料に投与(曝露)するステップと、
(D)前記生体の小脳または前記神経由来の細胞試料からmRNAを単離して、配列番号1〜107の塩基配列を有する遺伝子群としての生体応答遺伝子群のうちから選択される任意の1以上の生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定する測定ステップと、
(E)前記遺伝子発現レベルを対応する前記化学物質、曝露量、曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(F)被検化学物質を適当な濃度で一定期間生体または神経由来の細胞試料に曝露させるステップと、
(G)前記生体由来の前記小脳または前記神経由来の細胞試料からmRNAを単離して、(D)のステップで選択した生体応答遺伝子に対する遺伝子発現レベルを測定するステップと、
(H)(G)で得られた前記遺伝子発現レベルを前記被検化学物質、曝露量及び曝露期間とともに遺伝子発現データとして収集するステップと、
(I)(H)で収集された遺伝子発現データを(E)で収集された照合用の対応する遺伝子発現データと比較するステップと、
を含むことを特徴とする化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項14】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜41に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項15】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜11、42〜67に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項1記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項16】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜67に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項17】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜3、12、68〜97に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項18】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、13、42、43、68〜83、98〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項19】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、12、13、42、43、68〜107に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項20】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜3、68〜83に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項21】
前記生体応答遺伝子群が配列番号1〜4、12、13、42、43に示される塩基配列を有する遺伝子群であることを特徴とする請求項13記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項22】
前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と神経毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における遺伝子発現レベルの差異であることを特徴とする、請求項13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項23】
前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と神経毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における前記生体応答遺伝子群の発現プロファイルを指標としたクラスタ分析であることを特徴とする、請求項13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項24】
前記遺伝子発現データの比較が、被検化学物質曝露群と神経毒性を有さないことが既知の化学物質曝露群における前記生体応答遺伝子群の発現プロファイルの相関係数を指標とすることを特徴とする、請求項13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項25】
神経毒性を有することが既知の化学物質が、メタクリルアミド(CAS登録番号79-39-0)またはヒドラジン一水和物(CAS登録番号7803-57-8)であることを特徴とする、請求項13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項26】
神経毒性を有さないことが既知の化学物質が、2-ブタノンオキシム(CAS登録番号96-29-7)、m-キシリレンジアミン(CAS登録番号1477-55-0)、3-シアノピリジン(CAS登録番号100-54-9)、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(CAS登録番号111-41-1)、テトラヒドロフルフリルアルコール(CAS登録番号97-99-4)、スルホラン(CAS登録番号126-33-0)、2-イソプロポキシエタノール(CAS登録番号109-59-1)、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(CAS登録番号5039-78-1)、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム(CAS登録番号56-93-9)、m-ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(CAS登録番号127-68-4)、1-ナフチルアミン-4-スルホン酸ナトリウム四水和物(CAS登録番号130-13-2)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(CAS登録番号56539-66-3)、o-ジクロロベンゼン(CAS登録番号95-50-1)、3,4-キシリジン(CAS登録番号95-64-7)、N-メチルアニリン(CAS登録番号100-61-8)、トリレンジイソシアナート(CAS登録番号26471-62-5)、p-クミルフェノール(CAS登録番号599-64-4)、m-クレゾール(CAS登録番号108-39-4)、2,3-ジメチルアニリン(CAS登録番号87-59-2)、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(CAS登録番号538-75-0)、フタル酸ジヘプチル(CAS登録番号3648-21-3)、テトラブロモエタン(CAS登録番号79-27-6)、アジピン酸ジブチル(CAS登録番号105-99-7)、P-エチルフェノール(CAS登録番号123-07-9)、o-t-ブチルフェノール(CAS登録番号88-18-6)、p-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(CAS登録番号140-66-9)、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール(CAS登録番号96-76-4)、3,5-キシリジン(CAS登録番号108-69-0)、N,N-ジメチルベンジルアミン(CAS登録番号103-83-3)、1,3-ジブロモプロパン(CAS登録番号109-64-8)、n-ヘキサデカン(CAS登録番号544-76-3)、プソイドクメン(CAS登録番号95-63-6)、1,4-ジブロモベンゼン(CAS登録番号106-37-6)、及び2-アミノ-5-メチルベンゼンスルホン酸(CAS登録番号88-44-8)のうちから選択される1以上の化学物質であることを特徴とする、請求項13乃至21のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項27】
前記遺伝子発現レベルの測定は、RT-PCR法、Real Time PCR法、iAFLP(introduced Amplified Fragment Length Polymorphism)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、nCounter Analysis system、ハイブリダイゼーション法のうちの1つの方法を用いることを特徴とする請求項1乃至26のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項28】
前記ハイブリダイゼーション法は、マイクロアレイ法又はブロット法であることを特徴とする請求項27記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項29】
前記マイクロアレイ法又はブロット法に用いられるプローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項28記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項30】
前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項29記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項31】
前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする請求項29または30記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項32】
前記遺伝子発現レベルの測定は、前記生体応答遺伝子に対応する核酸、又は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質について、存在するか、もしくは、量の測定によることを特徴とする請求項1乃至26のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項33】
前記タンパク質は、免疫学的方法で測定されることを特徴とする請求項32記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項34】
前記免疫学的方法は、前記生体応答遺伝子によってコードされるタンパク質又はその断片に対する特異抗体と標的タンパク質との免疫学的複合体を検出する方法によることを特徴とする請求項33記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項35】
前記特異抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、及び抗体フラグメントから選択されることを特徴とする請求項34記載の化学物質の神経毒性評価方法。
【請求項36】
請求項1乃至35のうちのいずれか1つに記載の方法に用いられるプローブを含む化学物質の毒性判別キットであって、前記プローブは、前記生体応答遺伝子またはその転写産物に特異的にハイブリダイズする配列を有する分子を含むことを特徴とする化学物質の神経毒性評価キット。
【請求項37】
前記プローブは、ヌクレオチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項36記載の化学物質の神経毒性評価キット。
【請求項38】
前記ヌクレオチドは、mRNA、cDNA、又は合成オリゴヌクレオチドであることを特徴とする請求項37記載の化学物質の神経毒性評価キット。
【請求項39】
前記ヌクレオチドは、前記生体応答遺伝子のセンス鎖又はアンチセンス鎖とハイブリダイズし、10〜100塩基であることを特徴とする請求項38記載の化学物質の神経毒性評価キット。
【請求項40】
前記ヌクレオチドは、標識化ヌクレオチドであることを特徴とする請求項38または39記載の化学物質の神経毒性評価キット。
【請求項41】
前記プローブは、抗体及び/又はアプタマーであるタンパク質であることを特徴とする請求項37記載の化学物質の神経毒性評価キット。
【請求項42】
前記プローブは、任意の1つ以上を固体支持体に固定したDNAマイクロアレイ、DNAチップ、タンパクチップまたは抗体チップを含むことを特徴とする請求項36乃至41のうちのいずれか1つに記載の化学物質の神経毒性評価キット。
【請求項43】
前記固体支持体は、ガラス、シリコン、プラスチック又は生体膜であることを特徴とする請求項42記載の化学物質の神経毒性評価キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−13384(P2013−13384A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149990(P2011−149990)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「高機能簡易型有害性評価手法の開発/28日間反復投与試験結果と相関する遺伝子発現データセットの開発」にかかる業務委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(509088653)株式会社メディクローム (19)
【Fターム(参考)】