説明

化学物質モニタ装置及び化学物質モニタ方法

【課題】 高精度な分析が可能な化学物質モニタ装置及び化学物質モニタ方法を提供する。
【解決手段】 試料ガス中の測定対象物質のイオンを生成するイオン源部3と、イオン源部に試料ガスを導入する導入配管2と、イオンの質量分析を行う質量分析部4と、試料ガスを希釈する乾燥空気を導入配管に導入する配管とを有し、イオン源部に導入される試料ガス中の水分濃度がほぼ1%以下となるように導入配管に乾燥空気を導入して、測定対象物質の検出を行う。
【効果】 水分濃度の管理により水分による感度低下を防ぎ、定量精度を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質モニタ装置で使用する質量分析装置の感度の安定化及び定量精度の向上方法に係る。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の焼却処理施設、ポリ塩化ビフェニル(PCB)等の有害物質処理施設等から排出される排ガスが、人体や環境に与える影響が問題となっている。これら処理施設の設置、運営にあたっては、周辺環境、住民、作業従事者への配慮が不可欠である。このため、これら施設が正常に運転されているか否か、これら施設の内部の作業環境雰囲気あるいはこれら施設の周辺大気が汚染されていないか否か、をオンラインでモニタ(監視)することが必須となっている。
【0003】
排ガス中のダイオキシン類、ダイオキシン前駆体等の有機塩素化合物を選択的にモニタすることが可能な、化学物質のモニタ方法及びモニタ装置並びにそれを用いた燃焼炉は、例えば、特許文献1に記載されている。
【0004】
多様な夾雑物質を含むガス中における測定対象物質の濃度を時々刻々補正しながら測定することができ、高精度な分析が可能な、試料分析用モニタ装置及びそれを用いた燃焼炉が、特許文献2に記載されている。
【0005】
コロナ放電において、コロナ放電の領域に対する試料の導入方向とコロナ放電によりイオンを引き出す方向をほぼ対向させることにより、イオン生成効率を向上させた、コロナ放電を用いたイオン源を用いる大気圧化学イオン化質量分析計が、特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−162189号公報
【特許文献2】特開2001−147216号公報
【特許文献3】特開2001−93461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
質量分析装置を使用した化学物質モニタ装置により、廃棄物の焼却処理施設から排出される排気ガス、各種の化学物質の分解処理施設から排出される排気ガス、周辺環境の大気中の有害ガス等、の濃度を計測する場合、試料ガスに含まれる夾雑物質の影響のにより測定物質の感度が、大きく低下するという課題があった。
【0008】
感度の安定化及び定量精度の向上を図るには、夾雑物質の主要成分である水分の影響を弱める必要がある。
【0009】
特許文献2には、夾雑物成分の濃度が高く、測定対象物の感度が著しく低下して、測定精度が悪くなってしまう場合には、イオン源入口に流量コントロールした空気を導入し、排ガスを希釈することにより、夾雑物成分の影響を弱めることができるとの記載があるが、試料ガス中の水分濃度を管理することにより、感度の安定化及び定量精度の向上に関する具体的な記載は何もない。
【0010】
本発明の目的は、高精度な分析が可能な化学物質モニタ装置及び化学物質モニタ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、水分濃度をモニターし、試料ガス中の水分濃度がほぼ1%以下となるように試料ガスへの乾燥空気の導入量を調整して、乾燥空気で希釈された試料ガスをイオン源に導入し、水分濃度を管理することで、夾雑物質の影響による測定対象物質の感度変動を防ぎ、高精度な計測を達成する。
【0012】
本発明の第1の構成の化学物質モニタ装置は、試料ガス中の測定対象物質のイオンを生成するイオン源部と、イオン源部に試料ガスを導入する導入配管と、イオンの質量分析を行う質量分析部と、試料ガスを希釈する乾燥空気を導入配管に導入する第1の配管とを有する。イオン源部に導入される試料ガス中の水分濃度がほぼ1%以下となるように導入配管に乾燥空気を導入した条件下で、測定対象物質のイオンの検出を行う。
【0013】
第1の構成の化学物質モニタ装置は、更に、第1の配管に配置され乾燥空気の流量を制御する手段と、導入配管の内部又はイオン源部を排気する排気用配管の内部に配置され、導入配管又は排気用配管の内部の気体中の水分濃度を検出する検出手段とを有する。この検出手段の出力に基づいて乾燥空気の流量を制御する。また、水分濃度がほぼ1%以下である乾燥空気を生成する装置を有し、この装置は第1の配管に接続される。
【0014】
第1の構成の化学物質モニタ装置は、更に、測定対象物質の濃度の計測を行うための標準物質を導入配管に導入する第2の配管と、第2の配管に流す標準物質の流量を制御する手段とを有しており、標準物質のイオン化効率は測定対象物質のイオン化効率にほぼ等しい。測定対象物質は、イオン源部として使用される、大気圧下でコロナ放電によりイオン化する大気圧化学イオン源でイオン化される。測定対象物質がPCBであり、イオン源部で測定対象物質の正イオンを生成する場合、標準物質としてテトラクロロベンゼンまたはペンタクロロベンゼンを使用し、イオン源部で測定対象物質の負イオンを生成する場合、標準物質としてトリクロロフェノールを使用する。測定対象物質の濃度は、計測された、標準物質と測定対象物質のイオンの強度に基づいて、決定される。
【0015】
第1の構成によれば、安価な標準物質を使用することにより、試料中の測定対象物質を10%以下の精度で定量できる。
【0016】
本発明の第2の構成の化学物質モニタ装置は、試料ガス中の測定対象物質のイオンを生成するイオン源部と、イオン源部に試料ガスを導入する導入配管と、イオンの質量分析を行う質量分析部と、試料ガスを希釈する乾燥空気を導入配管に導入する第1の配管と、第1の配管に配置され乾燥空気の流量を制御する制御手段とを有する。この流量制御手段により、イオン源部に導入される試料ガス中の水分濃度がほぼ5%以下となるように、導入配管に導入する乾燥空気の流量が制御された条件下で、測定対象物質のイオンの検出を行う。
【0017】
第2の構成によれば、安価な標準物質を使用することにより、試料中の測定対象物質を200%以下の精度で定量できる。
【0018】
本発明の第3の構成の化学物質モニタ装置は、試料ガス中の測定対象物質のイオンを生成するイオン源部と、イオン源部に試料ガスを導入する導入配管と、イオン源部を排気する排気用配管と、イオンの質量分析を行う質量分析部と、試料ガスを希釈する乾燥空気を導入配管に導入する第1の配管と、第1の配管に配置され乾燥空気の流量を制御する第1の流量制御手段と、測定対象物質の濃度の計測を行うための標準物質を導入配管に導入する第2の配管と、第2の配管に配置され標準物質の流量を制御する第2の流量制御手段と、排気用配管の内部に配置され排気用配管の内部の気体中の水分濃度を検出する検出手段と、検出手段の出力に基づいて、イオン源部に導入される試料ガス中の水分濃度がほぼ1
%以下となるように、第1の流量制御手段を制御する手段とを有する。測定対象物質の濃度は、標準物質と対象物質のイオン強度に基づいて決定される。導入配管に導入される乾燥空気の水分濃度がほぼ1%以下となるように管理される。導入配管の一端はPCB分解処理装置の排気管に接続され、この排気管から試料ガスが導入配管に導入される。あるいは、導入配管の一端は、化学薬剤の検出又は化学薬剤の分解処理を行う化学薬剤処理室の内部に配置され、試料ガスが一端から導入配管に導入される。導入配管の他端はイオン源部に接続される。また、試料ガスは、屋外の大気中からガス採取手段により採取される。
【0019】
第3の構成によれば、安価な標準物質を使用することにより、試料中の測定対象物質を10%以下の精度で定量できる。
【0020】
本発明の第4の構成の化学物質モニタ装置は、試料ガス中の測定対象物質のイオンを生成するイオン源部と、イオン源部に試料ガスを導入する導入配管と、イオンの質量分析を行う質量分析部と、導入配管の内部又はイオン源部を排気する排気用配管の内部に配置され、導入配管又は排気用配管の内部の気体中の水分濃度を検出する検出手段と有し、この検出手段により検出された水分濃度の値により検出されたイオンの感度を補正する。
【0021】
本発明の化学物質モニタ方法は、イオン源部に接続される導入配管に試料ガスが流され、試料ガスがイオン源部に導入される工程と、導入配管に接続される第1の配管に配置される第1の流量制御手段により、水分濃度がほぼ1%以下である乾燥空気の流量が制御され、試料ガスを希釈する乾燥空気が導入配管に導入される工程と、導入配管に接続される第2の配管に配置される第2の流量制御手段により、試料ガスに含まれる測定対象物質の濃度の計測を行うための標準物質の流量が制御され、標準物質が導入配管に導入される工程と、測定対象物質と標準物質のイオンがイオン源部で生成される工程と、イオン源部で生成したイオンの質量分析を行う工程と、イオン源部を排気する排気用配管の内部の気体中の水分濃度を検出する工程と、検出された水分濃度に基づいて、イオン源部に導入される試料ガス中の水分濃度がほぼ1%以下となるように第1の流量制御手段が制御される工程と、標準物質と測定対象物質のイオンの強度に基づいて、測定対象物質の濃度を決定する工程とを有している。本方法によれば、安価な標準物質を使用することにより、試料中の測定対象物質を10%以下の精度で定量できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、夾雑物質の主要成分である水分の影響に伴う測定対象物質の感度の低減を防ぎ、定量誤差を解消し、高い定量精度をもつ化学物質モニタ装置及び化学物質モニタ方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1であり、PCB処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図。
【図2】本発明の実施例の化学物質モニタ装置で使用する吸着式エアードライヤーの概略構成例を示す図。
【図3】本発明の実施例2であり、PCB処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図。
【図4】本発明の実施例3であり、PCB処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図。
【図5】本発明の実施例において、PCBの水分濃度の影響による感度低下を、実験により確認するために使用した装置の一例の概略構成図。
【図6】本発明の実施例において、図5に示す装置より、PCBを正イオン化モードで測定した場合の、水分濃度の影響による感度低下を示す実験結果例を示す図。
【図7】本発明の実施例において得られた、PCBのTeCBに対する信号強度比の水分濃度の変化の実験結果例を示す図。
【図8】本発明の実施例において得られた、PCBのPeCBに対する信号強度比の水分濃度の変化の実験結果例を示す図。
【図9】本発明の実施例4であり、PCB処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図。
【図10】本発明の実施例5であり、化学薬剤の検出又は化学薬剤の分解処理を行なう化学薬剤処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施例1であり、PCB処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図である。
【0026】
図1に示すように、測定対象ガスをPCB処理施設60の排ガスライン1から導入配管2(約200°Cに加熱されている)へ導入する。排ガスライン1から導入した試料ガスは、フィルター16でダストやミストといった微小なゴミを除去した後、導入配管2を通り、イオン化部3に導入される。イオン化部3を通るガスは、ポンプ7で吸引され、排気ライン19を用いて排気する。排気ライン19を流れるガスの流量は、マスフローコントローラー12によって制御される。質量分析部へのガス流量は1〜3L/min程度で充分であるので、余剰な流量は、バイパスライン18を用いて排気する。バイパスライン18を流れるガスの流量は、マスフローコントローラー6によって制御される。ポンプ7を通過した排気ガスは活性炭8を通り、排気ガスに含まれるPCBや標準試料は、活性炭8に吸着されて安全に排気される。
【0027】
標準試料17は、乾燥空気製造装置14で製造した乾燥空気をキャリヤーガスに用い、標準試料発生器5を経由して、導入配管2に導入される。標準試料の発生量は、マスフローコントローラー13の流量に影響されるため、乾燥空気の導入配管2への導入量の調整は、別のマスフローコントローラー15による導入系を用いて行なう。ここでは、標準試料17を導入するためのキャリヤーガスに、乾燥空気製造装置14で製造した乾燥空気を用いているが、大気を用いたり、空気ボンベを用いて標準試料を導入してもよい。標準試料の濃度は、予めGC/MS等により測定した試料ガス中の測定対象物質の平均的な濃度と同程度になるようにする。
【0028】
標準試料発生器5の形状は、蒸発した標準試料が乾燥空気製造装置14から流れる乾燥空気に混ざるような構造であればどのようなものでもよいが、標準試料の発生量は、温度の影響を強く受けるため、標準試料発生器5にヒーターを巻き、温度を一定にコントロールすることが重要である。標準試料を入れる容器の穴径や形状は、標準試料の蒸発量によって目的とする濃度を発生できるように決めてよい。測定対象物質が複数あり、それに合わせて標準試料を複数添加したい場合は、標準試料の入った容器を複数個、標準試料発生器5の中に入れればよい。
【0029】
イオン化部3で用いるイオン源には、大気圧化学イオン化法、化学イオン化法、電子衝撃イオン化法、プラズマによるイオン化法、グロー放電によるイオン化法等が用いられる。ここでは、特許文献3に記載のコロナ放電を用いたイオン源を用いたが、このイオン源では、イオン化部に導入する試料を、針電極近傍で生じたイオンが電界により進行する方向と逆向き、つまり針電極に向かうように流すと、測定対象物イオンを効率よくイオン化できる。本発明の実施例では、試料が針電極に向かう流れは、10mL/min以上である。イオン化部でイオン化されたイオンは、質量分析部4に導入され、データ処理部9によって処理される。データ処理部9による分析結果70は、PCB処理施設60に送られる。
【0030】
試料ガスには様々な夾雑物質が存在し、夾雑物質の影響により、測定対象物質の感度が変動する。夾雑物質の中でも主要な成分である水分の影響は大きく、水分濃度を管理することが重要である。そのため、大気を乾燥空気製造装置14に導入して、乾燥空気を製造し、マスフローコントローラー15により流量を制御して導入配管2へ導入することで、試料ガスを希釈する。試料ガスの水分濃度は排気ライン19に設けた湿度計11により計測され、その値はコントローラー10に送られ、コントローラー10およびマスフローコントローラー15により、乾燥空気の流量を制御して、試料ガスの水分濃度を管理する。但し、測定対象物質が湿度計に吸着してしまう可能性がない場合や、湿度計自身から測定に影響を及ぼす成分の発生がない場合には、乾燥空気導入部50からイオン化部3までの間に設けてもよい。
【0031】
乾燥空気は、空気ボンベを用いて導入してもよいが、空気ボンベでは容量に限りがあり、頻繁に交換が必要となるので、乾燥空気製造装置に大気を導入し、乾燥空気を製造した方がよい。乾燥空気製造装置14として各種の装置を使用でき、例えば、冷凍式エアードライヤー、吸着式エアードライヤー、膜式エアードライヤー等が使用できる。
【0032】
冷凍式エアードライヤーでは、圧縮機(冷凍機)、凝縮器、膨張弁、蒸発器、その他電機部品から形成される冷凍サイクルを使用し、その蒸発器に圧縮空気を通過させ、圧縮空気中の水分を除去して、乾燥空気を得る。
【0033】
吸着式エアードライヤーでは、特殊な水分吸着剤を用い、その吸着剤をチャンバー内に充満させ、チャンバーに圧縮空気を導入し、出口側から乾燥空気を得る。
【0034】
膜式エアードライヤーでは、水分を透過しやすく空気を透過しにくい高分子膜で形成された中空糸膜が、水蒸気透過が酸素や窒素と比べ著しく早いことを利用して、濃度と圧力差を利用して水蒸気を除去する。中空糸膜フィルターの内部に圧縮空気を導入し、水蒸気のみが外側に排出され、出口側で乾燥空気が得られる。
【0035】
図2は、本発明の実施例の化学物質モニタ装置で使用する吸着式エアードライヤーの概略構成例を示す図である。圧縮空気が、吸着剤が満たされた吸着カラムに導入され、乾燥した空気となって吸着カラムから排出される。吸着剤は、ある一定量水分を吸着すると、水分吸着性がなくなるため、吸着剤を充満した吸着カラムを2つ以上設けて、切り替えて使用する。吸着性が悪くなった吸着カラムは、ヒーターまたは別の方法で乾燥させて再生させる。
【0036】
図2に示す構成では、三方弁23を介して圧縮空気は、吸着剤が満たされた吸着カラム26に導入され、吸着カラム26から乾燥空気が排出される。パージ空気調節弁30を調節して吸着カラム26で水分を除去した乾燥空気の一部を、吸着カラム27へ導入し、吸着カラム27を乾燥させ再生し、バルブ25のパージ空気排出口から排出する。吸着カラム26の脱湿性能が落ちてきたら、三方弁23を切換えて圧縮空気を吸着カラム27に導入し、パージ空気調節弁30を調節して吸着カラム27で水分を除去した乾燥空気の一部を、吸着カラム26へ導入し、吸着カラム26を乾燥させ再生し、バルブ24のパージ空気排出口から排出する。この操作を、吸着カラム26と吸着カラム27で交互に繰り返すことによって吸着剤を自動再生し、連続して乾燥空気をパージ空気排出口から排出する。各部位の気体の流れは、バルブ24、25、逆止弁28、29により調整される。
【0037】
図3は、本発明の実施例2であり、PCB処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図である。
【0038】
図1に示す構成では、乾燥空気を、標準試料発生器5と導入配管2の双方に導入しているが、図3に示す構成では、乾燥空気を標準試料発生器5に導入せず、乾燥空気製造装置14からの乾燥空気を導入配管2に導入している。空気が、ポンプ20、活性炭21、マスフローコントローラー13を介して、標準試料発生器5に導入される。
【0039】
図4は、本発明の実施例3であり、PCB処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図である。図4に示す構成では、乾燥空気を導入配管2に導入せず、乾燥空気製造装置14からの乾燥空気を、マスフローコントローラー13を介して、標準試料発生器5に導入している。試料ガスの水分濃度の変化が大きくなく、水分濃度範囲が把握できており、一定量の乾燥空気を導入して試料ガスを希釈すればよい場合等には、図4に示すように、湿度計、コントローラーがない構成にすることも可能である。
【0040】
例えば、試料ガスの水分濃度が、4.5〜5%の範囲にあることが分かっており、用いる乾燥空気中の水分濃度が0.5%、試料ガスの導入量が、1.0L/min、標準試料(乾燥空気)の導入量が、1.0L/minの場合、乾燥空気の導入量を、7.0L/minにするとイオン源上流の水分濃度を0.9〜1.0%にすることができる。この場合、乾燥空気の導入量は固定される。
【0041】
測定対象物質がPCBの場合、感度は水分濃度の影響を受ける。
【0042】
図5は、本発明の実施例において、PCBの水分濃度の影響による感度低下を、実験により確認するために使用した装置の一例の概略構成図である。
【0043】
標準試料発生器5の中に、標準試料17として、PCB(polychlorobiphenyl)、1、2、4、5−テトラクロロベンゼン(TeCB:1,2,4,5-tetrachlorobenzen)、ペンタクロロベンゼン(PeCB:Bpentachlorobenzen)を入れ、標準試料の蒸気を一定量発生させる。標準試料の蒸気は、乾燥空気(流量は、マスフローコントローラー13により制御されている)により導入配管2に送流される。一方、加湿器35により生成した、0〜10%
(日本の大気中の湿度は最大6%)の水蒸気(流量は、マスフローコントローラー32により制御されている)を導入配管2に導入する。
【0044】
標準試料の蒸気に、水蒸気が添加された試料ガスは、イオン化部3でイオン化され、質量分析部4で質量分析される。イオン化部3では、大気圧化学イオン化法を用い、質量分析部4として、イオントラップ型質量分析計を使用した。
【0045】
試料ガスとしてPCBは、KC300(3〜4塩化のPCBが主成分)、KC600(5〜7塩化が主成分)を使用し、各塩化物のPCB、TeCB、PeCBの添加濃度は約10μg/Nm3程度である。
【0046】
図6は、本発明の実施例において、図5に示す装置より、PCBを正イオン化モードで測定した場合の、水分濃度の影響による感度低下を示す実験結果例を示す図である。図6の横軸は、水分濃度Wを示す。図6の縦軸は、検出された信号強度I(W)/検出された信号強度I(W=0)で定義される、信号強度比である。図6から明らかなように、各塩化物のPCB、TeCB、PeCBに関する信号強度比は、相互に異なる挙動を示している。
【0047】
図7は、本発明の実施例において得られた、PCBのTeCBに対する信号強度比の水分濃度の変化の実験結果例を示す図である。図7の縦軸は、水分濃度Wにおける、PCBのTeCBに対する信号強度比を、水分濃度W=0における、PCBのTeCBに対する信号強度比を1とする相対比を、補正係数として示している。
【0048】
図8は、本発明の実施例において得られた、PCBのPeCBに対する信号強度比の水分濃度の変化の実験結果例を示す図である。図8の縦軸は、水分濃度Wにおける、PCBのPeCBに対する信号強度比を、水分濃度W=0における、PCBのPeCBに対する信号強度比を1とする相対比を、補正係数として示している。
【0049】
図7、図8において、相対比が1に近いほど、PCBとTeCB、PCBとPeCBの信号強度変化が等しいことを示している。
【0050】
図6、図7、図8より、図1、図3に示す装置において、測定対象物質がPCBの場合、定量精度を±10%以内にしたい場合には、試料ガス中の水分濃度を1%以内に、定量精度を±200%以内にしたい場合は、試料ガス中の水分濃度を5%以内に管理すればよい。
【0051】
予め水分濃度の変化に応じた測定対象物質の感度変化が把握できており、水分濃度に応じた補正係数が得られている場合は、乾燥空気を導入して試料ガスを希釈する構成をなくし、湿度計により計測される水分濃度とその水分濃度に応じた補正係数を用いて、感度補正を行うことも可能である。
【0052】
図9は、本発明の実施例4であり、PCB処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図である。図9に示す構成では、図3に示す装置の構成で、乾燥空気製造装置14、コントローラー10、マスフローコントローラー15を省略している。
【0053】
例えば、水分濃度5%の試料ガスをペンタクロロベンゼン(PeCB)を標準試料に用いて、正イオン化モードで測定した場合、4塩化PCBの濃度は以下のようになる。4塩化PCB及びPeCBの添加濃度をAμg/Nm3とし、水分濃度W=0の時の信号強度(4塩化PCBの信号強度/PeCBの信号強度)をBとする。図8に示す結果から、水分濃度W=0の時の4塩化PCB/PeCBに関する相対比を1とする時、水分濃度5%の時の4塩化PCB/PeCBに関する相対比は1.66であるので、水分濃度5%の時の4塩化PCBの濃度は、AxB/1.66となる。
【0054】
図1、図3、図4、図9に示す構成では、PCB処理施設の排ガスラインからの排ガスを導入して分析する例を示しているが、PCB処理施設内の作業環境空気、PCB処理施設の周辺空気を導入して分析することもできる
図1、図3、図4、図9に示す構成で、PCB処理施設60を化学薬剤処理施設70に置き換えることも可能である。
【0055】
図10は、本発明の実施例5であり、化学薬剤の検出又は化学薬剤の分解処理を行なう化学薬剤処理施設に適用した化学物質モニタ装置の概略構成例を示す図である。
【0056】
図10に示す構成では、図3に示す構成で、PCB処理施設60を化学薬剤処理施設70に置き換え、標準試料を導入するラインを省略している。なお、化学剤処理施設80からの排ガス、化学剤処理施設80内の作業環境空気、化学剤処理施設80の周辺空気を導入して分析することもできることは言うまでもない。
【0057】
さらに、図10に示す構成で、化学剤処理施設80を、危険物処理施設、爆発物処理施設等に置き換えることもできることは言うまでもない。
【0058】
危険物、爆発物、化学剤の分析の際も、水分濃度をモニターし、乾燥空気の導入量を調整して、水分濃度を管理することは、夾雑物質の影響による測定対象物質の感度変動を防ぐために重要である。イオン化効率の変動が少なく、測定対象物質を安定に計測できる場合等には、図10に示すように標準試料を導入するラインをなくし、それにかかるコストを低減することも可能である。有害物質の分解処理施設では作業従事者の安全確保や周辺環境の保護への配慮も重要となる。
【0059】
以上説明した実施例において、PCB処理施設、危険物処理施設、爆発物処理施設、化学剤処理施設からの排ガスや処理施設内の作業環境空気、処理施設の周辺空気をモニターしている場合に、分析結果70に基づいて、測定対象物質が予め設定した基準値以上を検知した場合、分析結果70に加えて、処理装置を停止させる情報を付加することも重要である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、夾雑物質の影響に伴う感度の低減をし、定量誤差を解消して高い定量精度をもつ化学物質モニタ装置及び化学物質モニタ方法を提供できる。
【符号の説明】
【0061】
1…排気ライン、2…導入配管、3…イオン化部、4…質量分析部、5…標準試料発生器、6、12、13、15、32…マスフローコントローラー、7、20…ポンプ、8、21…活性炭、9…データー処理部、10…コントローラー、11…湿度計、14…乾燥空気製造装置、16…フィルター、17…標準試料、18…バイパスライン、19…排気ライン、23…三方弁、24、25…バルブ、26、27…吸着カラム、28、29…逆止弁、30…パージ空気調節弁、35…加湿器、50…乾燥空気導入部、60…PCB処理施設、70…分析結果、80…化学剤処理施設。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と、
前記イオン源に試料ガスを導入する第1の配管と、
前記第1の配管に乾燥空気を導入する第2の配管と、
前記第2の配管に設けられ、標準物質を発生する標準物質発生器と、
前記イオン源によるイオンの質量分析を行う質量分析計と、
前記質量分析計による前記試料ガス及び前記標準物質のデータから、前記試料ガスの分析を行うデータ処理部とを備えた分析装置。
【請求項2】
前記データ処理部において、前記標準物質のデータを用いた係数により前記試料ガスのデータを補正して、前記試料ガスの定量を行うことを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記標準物質発生器は、温度調節機構を備えていることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記第2の配管は、前記乾燥空気の流量制御部を有することを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
前記イオン源を排気する排管又は前記第1の配管の水分濃度を検出する水分濃度検出器を有し、前記水分濃度検出器の検出結果に応じて前記流量制御部の流量を制御することを特徴とする請求項4に記載の分析装置。
【請求項6】
前記乾燥空気は、冷凍式エアドライヤー、吸着式エアドライヤー、膜式エアドライヤーのいずれかにより生成されることを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項7】
前記イオン源を排気する排管又は前記第1の配管の水分濃度を検出する水分濃度検出器を有し、前記水分濃度検出器により検出された水分濃度の値により、前記イオンの感度を補正することを特徴とする請求項1記載の分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−14727(P2010−14727A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218411(P2009−218411)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【分割の表示】特願2003−329293(P2003−329293)の分割
【原出願日】平成15年9月22日(2003.9.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】