説明

化学物質分解剤組成物及びそれを用いた化学物質の分解処理方法

【課題】トリクロロエチレン等の化学物質の分解効率が高く、且つ過硫酸塩が短時間で消費されることなく分解能力を長期に維持することのできる化学物質分解剤組成物を提供すること。
【解決手段】過硫酸塩1モルに対して、2価又は3価の鉄イオン0.1〜1モル及びアスコルビン酸0.005〜0.1モルを含有する化学物質分解剤組成物とする。この化学物質分解剤組成物を、化学物質に汚染された土壌又は水と接触させることで、当該化学物質を効率よく分解処理することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質によって汚染された土壌に添加することで、当該化学物質を効率よく分解処理することができる化学物質分解剤組成物及びそれを用いた化学物質の分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機塩素化合物などの化学物質が洗浄剤などとして半導体工場やクリーニング店(工場)などで広く使用されてきたが、その環境負荷が大きいため、近年はその使用が敬遠されている。しかしながら、既に使用されたこれらの化学物質が、土壌や地下水に混入している場合も多く、土地の再利用をするに際し大きな社会問題となっているのが現状である。そこで様々な手段で、こうした汚染土壌や汚染水を浄化する試みがなされている。
【0003】
汚染土壌や汚染水を物理的に除去する方法や、汚染物質を生物的あるいは化学的に分解する方法が知られているが、物理的な方法は、除去した汚染土壌等の二次的な処理が必要となる欠点がある。また、生物的に汚染物質を分解する方法においては、環境への影響が少ないという利点はあるものの、高濃度の汚染物質や有機塩素化合物等の難分解性化合物への適用は難しい。これに対して化学的に分解する方法では、現地で汚染物質の分解が可能であるため二次的な処理は不要であり、更に高濃度の汚染物質や有機塩素化合物等の難分解性化合物への適用も可能である。
【0004】
化学的に分解する方法としては、過酸化水素や過硫酸塩を用いて汚染物質を酸化分解する方法が知られている。分解方法としては地盤中に注入する方法が一般的であるが、過酸化水素は不安定で分解が早いため、地盤に注入すると直ちに分解してしまい、浄化する範囲が極端に狭くなる欠点がある。一方、過硫酸塩は安定であるため、酸化剤として使用するためには触媒等の活性化剤が必要である。こうした触媒としては鉄イオン等の金属イオンを使用することが知られており、更に幅広いpH領域に対応させるため、あるいは触媒の鉄イオン等がオキシ水酸化鉄等の不溶性物質になることを抑制するために、クエン酸やグルコン酸等のキレート剤を併用することが知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。過硫酸塩と触媒とを含む組成物は、キレート剤の使用により汚染物質の酸化分解の分解効率や分解速度を一定の範囲でコントロールできる。近年、過硫酸塩を含む組成物による汚染物質の分解処理が活発に検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−082600号公報
【特許文献2】特開2011−020108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、過硫酸塩と触媒とを含む組成物は、触媒の量が少ないと分解効率が極端に低くなってしまう。一方、触媒の量を多くすると分解効率は上がるが、過硫酸塩が短時間で大量に消費され、過硫酸塩と触媒とを含む組成物が土壌中に拡散する前に汚染物質を分解する効力が短時間で消失するため、土壌中の狭い範囲の汚染物質しか分解できない欠点があった。
従って、本発明は、化学物質の分解効率が高く、且つ過硫酸塩が短時間で消費されることなく分解能力を長期に維持することのできる化学物質分解剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は、鋭意検討した結果、化学物質の分解効率が高く、且つ分解能力が長期にわたって維持される組成物を見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、過硫酸塩(A)、2価又は3価の鉄イオン(B)及びアスコルビン酸(C)を含有することを特徴とする化学物質分解剤組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、化学物質の分解効率が高く、且つ過硫酸塩が短時間で消費されることなく分解能力を長期に維持することのできる化学物質分解剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の化学物質分解剤組成物は、過硫酸塩(A)、2価又は3価の鉄イオン(B)及びアスコルビン酸(C)の3成分を含有する組成物である。
分解の対象となる化学物質は、有機物であれば種類を選ばず、例えば、ヘキサン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、クリセン等の芳香族炭化水素化合物;灯油、軽油、重油、ガソリン、軽油、潤滑油等の石油製品;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモトリフルオロメタン、ブロモクロロジフルオロメタン、ジブロモジフルオロメタン、ジブロモテトラフルオロエタン、トリブロモフルオロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン、クロロエチレン、ヘキサクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロテトラフルオロエタン、1,3−ジクロロプロペン、2−クロロ−1,3−ブタジエンが挙げられる。ハロゲン化脂環式化合物としては、例えば、1,2,3,4,5,6−ヘキサクロロシクロヘキサン、アルドドリン(Aldrin)、ディルドリン(Dieldrin)、エンドリン(Endrin)、クロルデン(Chlorden)、ヘプタクロル(Heptachor)、マイレックス(Mirex)、トキサフェン(Toxaphene)が挙げられる。ハロゲン化芳香族化合物としては、例えば、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)、2,4−ジクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノール、2,4,6−トリクロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ポリ塩化ビフェニル類(PCB)、ダイオキシン類等の有機ハロゲン化合物等が挙げられる。本発明の化学物質分解剤組成物は、難分解性として知られる有機ハロゲン化合物に対して効果的に使用することができる。
【0010】
上記の化学物質が混入した対象物を浄化する目的で、本発明の化学物質分解剤組成物は使用されるが、こうした対象物としては、例えば、土壌、汚泥、工場排水、生活排水、河川水、湖沼水、地下水等が挙げられる。
【0011】
本発明の化学物質分解剤組成物に使用される(A)成分の過硫酸塩としては、例えば、過硫酸リチウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸カリウム等が挙げられる。これらの中でも、過硫酸ナトリウム及び過硫酸カリウムが好ましく、経済的に安価で水溶性の高い過硫酸ナトリウムが更に好ましい。上記した過硫酸塩は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
本発明の化学物質分解剤組成物に使用される(B)成分は2価又は3価の鉄イオンである。これらの鉄イオンのイオン源は、水に溶解あるいは分散するものであれば特に限定されないが、水への溶解性が良好なことから鉄塩を使用することが好ましい。こうした鉄塩としては、例えば、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、過塩酸鉄(II)、過塩酸鉄(III)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、ヨウ化鉄(II)、ヨウ化鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、チオシアン酸鉄(II)、チオシアン酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、硫酸アンモニウム鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸カリウム鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、フェロシアン化ナトリウム、フェリシアン化ナトリウム、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム等が挙げられ、有機物質の分解率と経済性の点から、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)が好ましく、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)、硫酸鉄(II)が更に好ましく、塩化鉄(II)及び硫酸鉄(II)が最も好ましい。これらの鉄塩は無水塩でもよいし水和物でもよく、水への溶解または分散のしやすさを考慮して、適宜選択すればよい。なお、本発明において水和物とは結晶水を有する塩をいい、例えば、硫酸鉄(II)は無水塩の他に、一水和物、四水和物、五水和物及び七水和物が知られている。上記した鉄イオンのイオン源は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明の化学物質分解剤組成物に使用される(C)成分はアスコルビン酸である。アスコルビン酸には、L体とD体の2つの光学異性体が存在するが、安全性が高く、安価であることからL−アスコルビン酸が好ましい。なお、上記(B)成分と(C)成分とが複合して、例えば、アスコルビン酸鉄塩等を形成してもよい。
【0014】
本発明の化学物質分解剤組成物に使用される(A)成分、(B)成分及び(C)成分の配合比は特に規定されないが、化学物質を効率よく分解する点から、(A)成分1モルに対して、(B)成分を0.1〜1モル、好ましくは0.2〜0.8モル、より好ましくは0.3〜0.7モル配合し、更に(C)成分を0.005〜0.1モル、好ましくは0.01〜0.05モル、より好ましくは0.01〜0.03モル配合すればよい。(B)成分が0.1モルより少ないと化学物質の分解が進まない場合があり、1モルを超えると(A)成分が短時間で消費されて持続性が損なわれる場合や、配合量に見合った効果が得られない場合がある。また(C)成分が0.005モルより少ないと化学物質の分解が進まない場合があり、0.1モルを超えると(A)成分が短時間で消費されて持続性が損なわれる場合がある。
【0015】
本発明の化学物質の分解処理方法は、本発明の化学物質分解剤組成物(以下、「本薬剤」という)を、化学物質に汚染された土壌又は水と接触させ、当該化学物質を分解処理する方法である。
化学物質に汚染された工場排水や地下水等の汚染水を浄化する場合には、汚染水に本薬剤を添加した後、攪拌を行って混合する。本薬剤は、添加後に汚染水中で素早く分散することから水溶液の状態が好ましい。本薬剤の添加量は、化学物質の種類や量によって適宜決めればよく、具体的には、化学物質1モルに対して、本薬剤中の(A)成分である過硫酸塩が5〜50モルになるように添加するのが好ましく、8〜30モルがより好ましく、10〜20モルが更に好ましい。過硫酸塩の量が5モル未満の場合は化学物質の分解が完全に終了しない場合があり、50モルを超えると添加量に見合った効果が得られない場合がある。なお、過硫酸塩の添加量が5モル未満であっても、必要量の本薬剤をその後に追加添加することで化学物質を分解処理することが可能である。本薬剤を添加後は、添加剤が均一に分散していれば攪拌を続けていても静置してもよい。更に、定期的に汚染水をサンプリングして汚染物質のモニタリングを行い、化学物質の濃度が目標値以下に達すれば分解処理が終了する。なお、化学物質の濃度が目標値以下に達しない場合は、一定量の本薬剤を汚染水に追加すればよい。
【0016】
次に、化学物質により汚染された土壌を浄化する場合について説明する。汚染された土壌を浄化するには、汚染された土壌を掘り返し、当該土壌に水を加えてスラリー状にしてから分解処理してもよいし、汚染された土壌に本薬剤を直接注入して分解処理してもよい。スラリーにして浄化する方法は、掘削や土壌撹拌が必要であることによる浄化コストや、土壌のスラリー化による土粒子の構造変化や間隙率の増大による地盤の脆弱化対策の必要性等の問題がある。よって汚染土壌の浄化方法としては、浄化コストや地盤の安定性の点から、土壌に本薬剤を直接注入することが好ましい。なお、本薬剤を土壌に直接注入する場合において、本薬剤を構成する成分をそれぞれ別々に土壌に注入してもよい。
【0017】
土壌に注入する本薬剤は、注入後に土壌中に広がりやすいことから水溶液の状態が好ましく、具体的には、(A)成分である過硫酸塩が1〜20質量%の水溶液になるように本薬剤を水で希釈し、浄化しようとする土量1mに対して、水で希釈した本薬剤中の(A)成分である過硫酸塩が0.5〜50kgになるように本薬剤の水溶液を添加するのが好ましく、1〜40kgがより好ましく、2〜20kgが更に好ましい。過硫酸塩が0.5kg未満の場合は化学物質の分解速度が遅くなる場合や、分解が完全に終了しない場合があり、50kgを超えると環境に悪影響を与える場合や、添加量に見合った効果が得られない場合がある。また、本薬剤を構成する成分をそれぞれ別々に土壌に注入することも可能であり、この場合は過硫酸塩が1〜20質量%水溶液の溶液Aと、鉄イオン及びアスコルビン酸の合計の濃度が0.05〜30質量%水溶液の溶液Bをそれぞれ調整し、溶液A及び溶液Bを別々に土壌に注入すればよいが、化学物質を効率よく分解するためには最初に溶液B、次に溶液Aの順で土壌に注入することが好ましい。しかしながら別々に注入する場合は、各成分の比率が本発明の範囲内になるように調整して注入しなければならないため、こうした調整の必要がない本薬剤を直接注入する方法が好ましい。
【0018】
本薬剤を土壌に注入する場合には、汚染深度に達する注入用の井戸を、例えば、1〜20m、好ましくは1.5〜5m程度の間隔で設置する。また、本薬剤の拡散を促進するために揚水用の井戸を設置し、地下水を揚水しながら本発明の分解処理方法に用いる薬剤を注入することが好ましい。注入井戸の間に観測井戸を設置し、定期的に地下水あるいは土壌をサンプリングし、化学物質の分解率のモニタリングを行い、化学物質の濃度が目標値以下に達したら注入を停止すればよい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
下記試験方法に従い、粉砕及び乾燥した土とトリクロロエチレン(TCE)とを含むモデル汚染土壌に対して薬剤を使用してTCEの分解試験を行った。
【0020】
<試験方法>
120mlの遮光バイアル瓶に、粉砕及び乾燥した土を10g、TCEが200mg/lの水溶液を50g入れた。表1及び表2に記載のモル比で各成分を配合し、過硫酸塩の濃度が6000mg/lになるように水で希釈して各薬剤(実施例1〜8及び比較例1〜7)を調製した。これらの薬剤50gを、土とTCE水溶液の入った遮光バイアル瓶にそれぞれ添加した。その後、遮光バイアル瓶を上下に振って内容物を均一化し、25℃の恒温槽内に静置した。この時点(分解前)でのTCE濃度は100mg/lである。
2日間静置後、遮光バイアル瓶中の上澄み水を10ml採取し、ガスクロマトグラフィーを用いて残存TCE量と残存過硫酸塩量とを測定した。ガスクロマトグラフィーの条件は下記の通りである。なお、比較例2及び比較例3については、残存過硫酸塩量が0%になるまで(7日間静置)分解を続けた。2日静置後のデータを表1及び表2に、7日間静置後の比較例2及び比較例3のデータを表3に示す。
【0021】
<ガスクロマトグラフィー条件>
機器:GC−2014(島津製作所株式会社製)
カラム:InterCap1(内径0.25mm、長さ30m、膜厚1.5μm;GLサイエンス社製)
カラム温度:40℃から200℃に昇温(5℃/min)
インジェクション温度:200℃
ディテクター温度:250℃
注入量:0.1ml
スプリット比:1:50
【0022】
下記表1及び2において、各成分の数字はモル比であり、過硫酸ナトリウムあるいは過硫酸カリウム1モルに対するその他の化合物の配合モル数である。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
上記結果より、実施例の薬剤はいずれもTCE濃度を1mg/l未満に低下させており、本発明の薬剤の分解能力が高いことが分かる。また、実施例では過硫酸塩も一定量以上残存しており、2日経過後も分解能力を維持していることが分かる。一方、比較例の薬剤はいずれもTCE濃度を1mg/l未満に低下させることができなかった。また、比較例では過硫酸塩の残量が0%になるまで試験を継続してもTCE濃度が1mg/l未満に達していないことから、本発明の薬剤と比較例の薬剤との間には、分解能力に大きな差があることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過硫酸塩(A)、2価又は3価の鉄イオン(B)及びアスコルビン酸(C)を含有することを特徴とする化学物質分解剤組成物。
【請求項2】
過硫酸塩(A)1モルに対して、2価又は3価の鉄イオン(B)を0.1〜1モル、アスコルビン酸(C)を0.005〜0.1モル含有する水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の化学物質分解剤組成物。
【請求項3】
過硫酸塩(A)が過硫酸ナトリウム又は過硫酸カリウムであり、2価又は3価の鉄イオン(B)のイオン源が硫酸鉄であり、且つアスコルビン酸(C)がL−アスコルビン酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化学物質分解剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の化学物質分解剤組成物を、化学物質に汚染された土壌又は水と接触させて当該化学物質を分解処理することを特徴とする化学物質の分解処理方法。

【公開番号】特開2012−246434(P2012−246434A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120620(P2011−120620)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【出願人】(300065121)ADEKA総合設備株式会社 (4)
【Fターム(参考)】