説明

化学物質検出装置

【課題】小型化が可能で比較的簡易な構造を有し、検体ガス中の多成分の化学物質を効率良く高精度で定量できる化学物質検出装置ならびに、複数の呼気中疾病マーカ物質を効率良く高精度で定量でき、もって被験者が抱える疾病を正確に診断することができる疾病診断用の化学物質検出装置を提供する。
【解決手段】ガス導入口およびガス排出口を有するチャンバと、ガス導入口に接続された、検体ガスをチャンバ内に導入するためのガス導入経路と、ガス排出口に接続された、検体ガスをチャンバから排出するためのガス排出経路と、チャンバ内に配置された、化学物質を検出するためのセンサ素子を基板上に配置してなる1または2以上のセンサアレイと、該センサ素子からの信号を受信する信号受信手段と、検体ガスの物理的状態を検知する参照センサとを備え、チャンバ内に配置されたセンサアレイは総計で2以上のセンサ素子を備える化学物質検出装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体ガスに含まれる各種化学物質の濃度を効率良くかつ精度良く測定できる化学物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ヒト呼気中に微量に存在する揮発性物質の濃度を測定し、その増減から代謝反応および生化学的病態メカニズム等を明らかにすることによって、これまで知られていなかった新しい生体情報を非侵襲にモニタリングする研究が盛んである。現在日本では、医療費の増大および医療保険制度の崩壊などが危惧されており、予防医療社会の実現が待ち望まれている。そのためには、個人で手軽にかつ迅速に健康状態をチェックできるシステムが必要である。そして、個人の健康状態を手軽かつ迅速に把握するために用いられる生体検体としては、血液、尿、汗、唾液および呼気等が知られている。これらの生体検体のなかでも、特に呼気は、体内において肺胞の空気と毛細血管中の血液とは非常に薄い膜で隔てられているだけであることから、疾病に関する生体情報を多く含んでいることが知られている。
【0003】
たとえば、呼気中のエタン、ペンタンおよびH22(過酸化水素)は、酸化ストレスとの相関が高く、呼気中のこれらの濃度が高くなると、脂質酸化、喘息、気管支炎という症状が現れてくる。また、呼気中のNO(一酸化窒素)、CO(一酸化炭素)およびH22は、肺疾患との相関が高く、呼気中のこれらの濃度が高くなると、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺炎)の症状が見られる。また、呼気中のH2(水素)およびカーボンアイソトープは、胃腸疾患との相関が高く、呼気中のこれらの濃度が高くなると、消化不良、胃炎、十二指腸潰瘍の症状が見られる。さらに、呼気中のアセトンは、代謝異常との相関が高く、呼気中のアセトン濃度が高くなると、糖尿病の症状が見られる。一方、呼気中のアセトン濃度が、健康なヒトと比較して低い場合には、メタボリック症候群の傾向が見られる。
【0004】
このように、呼気に含まれる特定の物質を定量することにより、被験者が抱える疾病をある程度診断することが可能となっている。本明細書中においては、疾病に連動して呼気中濃度が有意に増減する物質を「呼気中疾病マーカ物質」と称する。
【0005】
近年、呼気中疾病マーカ物質を、機器を用いて検出し疾病を診断するという機器がいくつか開発されている。たとえば、呼気中のNO濃度を測定し、喘息の度合いを判定する機器として、Aerocrine社のNIOX MINO(登録商標)という機器が発売されている(aerocrine社ホームページ(http://www.aerocrine.com/)(非特許文献1参照)。これは、喘息の発作時に放出されるNO濃度を検知して喘息を診断するというものである。
【0006】
また、特開2004−77467号公報(特許文献1)には、ガスクロマトグラフィを利用して呼気中の特定のガス成分を分離し、検出器を用いて分離されたガス成分の濃度を測定するガス分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−77467号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】aerocrine社ホームページ(http://www.aerocrine.com/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記非特許文献1に記載の機器においては、検出できる呼気中疾病マーカ物質は1種類のみである。一方、COPDなどの喘息以外の肺疾患においても、喘息と同様に呼気中のNO濃度が上昇する傾向があり、1種類の呼気中疾病マーカ物質の定量では、どのような肺疾患なのかを正確に診断することができない。
【0010】
また、上記特許文献1に記載のガス分析装置は、高価である;装置サイズが大きい;カラムの昇温および恒温が必須である;取り扱いに専門性を有する;ならびに、メンテナンスが煩雑である;などの諸問題を有しており、パーソナルユースは不可能であると考えられる。
【0011】
このように、呼気中疾病マーカ物質の分析(定量)を行なう従来の分析装置においては、呼気中疾病マーカ物質が共通する疾病を区別できないため、被験者の疾病を正確に診断することができず、一方、診断精度を高めようとすると、装置の簡略化およびコストダウン等が困難であるという問題があり、手軽にかつ正確に疾病を診断することができなかった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、小型化が可能で比較的簡易な構造を有し、検体ガス中の多成分の化学物質を効率良く高精度で定量できる化学物質検出装置を提供することである。また、本発明の他の目的は、小型化が可能で比較的簡易な構造を有する化学物質検出装置であって、複数の呼気中疾病マーカ物質を効率良く高精度で定量でき、もって被験者が抱える疾病を正確に診断することができる、疾病診断用の化学物質検出装置(疾病診断装置)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の化学物質検出装置は、検体ガスに含まれる化学物質の濃度を測定する化学物質検出装置であって、ガス導入口およびガス排出口を有するチャンバと、ガス導入口に接続された、検体ガスをチャンバ内に導入するためのガス導入経路と、ガス排出口に接続された、検体ガスをチャンバから排出するためのガス排出経路と、チャンバ内に配置された、化学物質を検出するためのセンサ素子を基板上に配置してなる1または2以上のセンサアレイと、センサ素子からの信号を受信する信号受信手段とを備えることを特徴とする。本発明の化学物質検出装置は、検体ガスに含まれる複数の化学物質の濃度を測定する化学物質検出装置であって、チャンバ内に配置された1または2以上のセンサアレイは、総計で2以上のセンサ素子を備えるものであってもよい。
【0014】
本発明の化学物質検出装置は、検体ガスの物理的状態を検知する参照センサをさらに備えることが好ましい。参照センサは、ガス導入経路内部に設置されることが好ましい。参照センサは、検体ガスの温度を検知する温度センサ、相対湿度を検知する湿度センサ、または、温度および/もしくは相対湿度を検知する温湿度センサであってよい。また、参照センサは、検体ガスの流量を検知するセンサであってもよい。本発明の化学物質検出装置においては、好ましくは、センサ素子からの信号に基づいて算出される化学物質の濃度は、参照センサにより得られる検体ガスの物理的状態に関する情報に基づいて適切に補正される。
【0015】
チャンバは、その側面に前記ガス導入口および前記ガス排出口を有しており、センサアレイの少なくとも1つは、ガス導入口およびガス排出口よりも低い位置または高い位置に配置されることが好ましい。
【0016】
また、本発明の化学物質検出装置は、チャンバ内に配置された2つのセンサアレイを備えていてもよい。この場合、一方のセンサアレイは、ガス導入口およびガス排出口よりも低い位置に配置され、他方のセンサアレイは、ガス導入口およびガス排出口よりも高い位置に配置されることが好ましい。
【0017】
検体ガスが上記チャンバ内の雰囲気ガスよりも比重の小さい化学物質を含む場合、上記2以上のセンサ素子のうち、いずれか1以上のセンサ素子は、ガス導入口およびガス排出口よりも高い位置に配置されたセンサアレイの基板上に配置されることが好ましい。また、検体ガスが上記チャンバ内の雰囲気ガスよりも比重の大きい化学物質を含む場合、上記2以上のセンサ素子のうち、いずれか1以上のセンサ素子は、ガス導入口およびガス排出口よりも低い位置に配置されたセンサアレイの基板上に配置されることが好ましい。
【0018】
また、検体ガスは、比重の異なる2種以上のガス状の化学物質を含み、少なくとも1つのセンサアレイが2以上のセンサ素子を備える場合において、該2以上のセンサ素子は、より比重の大きい化学物質を検出するためのセンサ素子が、よりガス導入口に近い位置になるように配置されることが好ましい。
【0019】
センサ素子は、半導体センサまたはナノ構造体センサを含むことが好ましい。すなわち、本発明の化学物質検出装置は、半導体センサあるいはナノ構造体センサ、またはこれらの双方を含むことが好ましい。
【0020】
ナノ構造体センサとしては、その化学物質を検出する部位がカーボンナノチューブまたは金属錯体によって表面修飾されたカーボンナノチューブから構成されたものを好ましく用いることができる。
【0021】
少なくとも1つのセンサアレイは、その基板上に配置されたいずれか1以上のセンサ素子の温度を制御するセンサ温度制御手段を備えていてもよい。センサ温度制御手段は、加熱素子または冷却素子を含むことが好ましい。すなわち、センサアレイは、加熱素子あるいは冷却素子、またはこれら双方を含むことが好ましい。少なくとも1つのセンサアレイが2以上のセンサ素子と冷却素子とを有する場合、該冷却素子により温度制御されるセンサ素子は、該センサアレイが有する他のセンサ素子よりも、よりガス排出口に近い位置に配置されることが好ましい。
【0022】
少なくとも1つのセンサアレイが、センサ温度制御手段を備え、該センサアレイが2以上のセンサ素子を有する場合、該センサアレイは、隣り合うセンサ素子同士を熱的に隔てる断熱手段をさらに備えることができる。断熱手段としては、隣り合うセンサ素子の間に位置する基板内に介在された断熱材あるいは隣り合うセンサ素子の間に位置する基板に形成された溝、またはこれらの双方が好適に用いられる。
【0023】
また、本発明の化学物質検出装置は、チャンバ内を流通する検体ガスの流量を制御するガス流量制御手段をさらに備えることができる。ガス流量制御手段としては、抵抗管、選択透過膜、マスフローコントローラおよび定流量ポンプを挙げることができる。
【0024】
本発明の化学物質検出装置においては、いずれかのセンサ素子からの信号に基づいて算出される化学物質の濃度は、必要に応じて、該センサ素子の検出対象である化学物質以外の物質が該センサ素子の信号に与える影響に関する情報に基づいて適切に補正される。
【0025】
また、本発明は、ヒト呼気に含まれる化学物質の濃度を測定する化学物質検出装置であって、化学物質の濃度と疾病との関連性を示す疾病データベースをさらに備える化学物質検出装置を提供する。当該化学物質検出装置は、ヒト呼気に含まれる化学物質(呼気中疾病マーカ物質)の濃度を測定し、得られた濃度値から、疾病データベースを参照して被験者の疾病を診断する疾病診断装置として好適である。本発明の化学物質検出装置は、ヒト呼気に含まれる複数の化学物質の濃度を測定するものであることが好ましい。
【0026】
測定対象となる上記複数の化学物質(呼気中疾病マーカ物質)は、少なくともNO、COおよびH22を含むことが好ましい。本発明の化学物質検出装置(疾病診断装置)によれば、これらの濃度を測定することにより、同じ疾患に属する類似の疾病を区別することが可能となり、より正確な疾病判定を行なうことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、小型で簡易な構造を有するとともに、検体ガス中の1種または2種以上の化学物質を効率良く高精度で定量できる化学物質検出装置を提供することができる。また、本発明によれば、小型で簡易な構造を有するとともに、1種または2種以上の呼気中疾病マーカ物質を効率良く高精度で定量でき、もって疾病を正確に診断することができる疾病診断用化学物質検出装置(疾病診断装置)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の化学物質検出装置の好ましい一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1の化学物質検出装置に用いられるセンサアレイを模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の化学物質検出装置における基板上に配置されたセンサ素子の並び方の一例を模式的に示す平面図である。
【図4】本発明におけるセンサ素子として用いることができる半導体センサの一例を示す模式図である。
【図5】本発明におけるセンサ素子として用いることができる、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノチューブから構成されるセンシング部を備えたナノ構造体センサの一例を示す模式図である。
【図6】センサ温度制御手段を備えるセンサアレイの一例を模式的に示す斜視図である。
【図7】センサ温度制御手段および断熱手段を備えるセンサアレイの一例を模式的に示す斜視図である。
【図8】本発明の化学物質検出装置の全体構成の一例を模式的に示す図である。
【図9】ガス流量制御手段を備える化学物質検出装置の例を模式的に示す斜視図である。
【図10】実施例1で作製した化学物質検出装置を模式的に示す斜視図および断面図である。
【図11】実施例1で用いた過酸化水素センサユニットを模式的に示す図である。
【図12】NOを検出するセンサ素子がNOを検出した際の抵抗値の変化の一例を示す図である。
【図13】実施例1における呼気分析実験の概要を示す模式的な図である。
【図14】実施例2で作製した化学物質検出装置を模式的に示す斜視図および断面図である。
【図15】実施例3の疾病診断装置を模式的に示す図である。
【図16】喘息、COPD、CFおよび肺がんに係る各呼気中疾病マーカ物質の閾値濃度の、健常時における呼気中疾病マーカ物質濃度に対する比、ならびに、実施例3および参考例4で得られた各呼気中疾病マーカ物質のヒト呼気中の実測濃度の、健常時における呼気中疾病マーカ物質濃度に対する比をレーダーチャート化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。また、図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表してはいない。
【0030】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の化学物質検出装置の好ましい一例を模式的に示す斜視図である。また、図2は、図1の化学物質検出装置1に用いられているセンサアレイ10を模式的に示す斜視図である。図1に示される化学物質検出装置1は、検体ガスに含まれる複数の目的化学物質の当該検体ガス中の濃度を測定するための装置である。
【0031】
図1に示される化学物質検出装置1は、側面にガス導入口12aおよびガス排出口13aを有する直方体のチャンバ11;ガス導入口12aに接続された中空状のガス導入経路12;ガス排出口13aに接続された中空状のガス排出経路13;チャンバ11内の上部および下部に配置された、複数のセンサ素子101を備えるセンサアレイ10;ガス導入経路12内に設置された参照センサ14;および、各センサ素子101からの信号を受信する信号受信手段(図1において図示せず)から主に構成される。センサアレイ10と信号受信手段とは、導線15によって電気的に接続されており、また、センサアレイ10は、センサ信号測定用の電力を供給するための定電圧電源装置(図示せず)とも接続されている。なお、導線15は、チャンバ11の上面および下面に設けられた、導線15を通すことができる程度の大きさを有する開口を介してチャンバ11外部に引き出されている。
【0032】
図2を参照して、センサアレイ10は、基板100と、基板100の一方の表面上に配置された複数のセンサ素子101と、基板100の他方の表面に形成された各センサ素子101からの信号を信号受信手段に送信するための回路(図示せず)とから構成される。
【0033】
ガス導入経路12内に設置された参照センサ14は、チャンバ11内に導入される、分析対象である検体ガス(たとえばヒト呼気)の分析時における物理的状態を検知するためのセンサである。本実施形態の化学物質検出装置においては、濃度測定の対象となる検体ガス中の化学物質(以下、目的化学物質とも称する)の定量(検体ガス中の濃度の測定)を正確なものとするために、参照センサ14による検体ガスの物理的状態の検知結果に基づいて、各センサ素子101からの信号を適切に補正する。
【0034】
上記構成を有する化学物質検出装置1において、ガス導入経路12におけるガス導入口12a側とは反対側の端部より、ガス導入経路12内に導入された検体ガスは、参照センサ14によりその物理的状態(たとえば、検体ガスの温度、相対湿度など)が検知された後、チャンバ11内に入り、ガス排出経路13より排出される。この際、チャンバ11の上部および下部に配置されたセンサアレイ10が有する複数のセンサ素子101によって、目的化学物質が検出される。得られたセンサ素子101の検出信号(目的化学物質の接触による信号変化)は、導線15を介して信号受信手段(デジタルマルチメータなど)に送られ、データの収集がなされる。該データは、典型的には、信号受信手段に接続されたコンピュータに蓄積される。センサ素子101の検出結果より求められる検体ガス中における目的化学物質の濃度は、参照センサ14によって検知された、チャンバ11内に導入される検体ガスの物理的状態に関する情報に基づいて、より正確な濃度値に補正される。
【0035】
以下、本実施形態の化学物質検出装置についてより詳細に説明する。
(チャンバ、ガス導入経路およびガス排出経路)
チャンバは、その内部に配置されるセンサアレイを支持するとともに、センサアレイの周囲(ガス導入口およびガス排出口)を密閉状態(あるいは略密閉状態)にするための中空部材である。チャンバの形状は、特に制限されず、直方体のほか、球体、斜方体などであってもよい。チャンバは、軽量で耐久性の高い材料から構成されることが好ましく、このような材料としては、たとえば、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の樹脂材料を挙げることができる。
【0036】
チャンバは、検体ガスをチャンバ内に導入するためのガス導入口および検体ガスをチャンバ外へ排出するためのガス排出口を有している。ガス導入口およびガス排出口はともに、チャンバ内空間とチャンバ外部と接続するチャンバ壁を貫通する貫通口である。ガス導入口およびガス排出口の位置は、特に制限されないが、センサアレイがチャンバ内の上部および/または下部に配置される(たとえば、図1に示されるように、センサアレイがチャンバ内部の天井面および/または底面に接するように配置される)場合には、チャンバ側面に配置されることが好ましい。より好ましくは、ガス導入口およびガス排出口は次のように配置される。
(A)センサアレイがチャンバ内の下部に配置される場合、ガス導入口およびガス排出口は、チャンバ側面であって、センサアレイを構成するセンサ素子よりも高い位置に配置される(すなわち、センサアレイは、ガス導入口およびガス排出口よりも低い位置に配置される)。
(B)センサアレイがチャンバ内の上部に配置される場合、ガス導入口およびガス排出口は、チャンバ側面であって、センサアレイを構成するセンサ素子よりも低い位置に配置される(すなわち、センサアレイは、ガス導入口およびガス排出口よりも高い位置に配置される)。
(C)センサアレイがチャンバ内の下部および上部に配置される場合、ガス導入口およびガス排出口は、チャンバ側面であって、下部のセンサアレイを構成するセンサ素子よりも高く、上部のセンサアレイを構成するセンサ素子よりも低い位置に配置される。
【0037】
センサ素子に対して、上記のようにガス導入口およびガス排出口を配置することにより、目的化学物質の比重などの物理的性質を利用して、複数の目的化学物質を効率良くかつ精度良く検出することが可能となる。
【0038】
ガス導入口とガス排出口との位置関係は、特に制限されないが、検体ガスが全てのセンサ素子上を通過できるよう、チャンバの一側面にガス導入口を設け、該側面に対向する側面にガス排出口を設けることが好ましい。また、検体ガスの圧力損失の観点からは、ガス排出口は、ガス導入経路の経路方向(ガス導入経路より導入される検体ガスの進行方向)の延長線上に位置することが好ましい。
【0039】
ガス導入経路は、ガス導入口に接続される中空部材であって、検体ガスをチャンバ内へ誘導するためのものである。また、ガス排出経路は、ガス排出口に接続される中空部材であって、目的化学物質検出後の検体ガスをチャンバ内からチャンバ外部の所望の位置へ排出するためのものである。ガス導入経路およびガス排出経路の形状は、検体ガスの流通が妨げられない限り特に制限されず、その断面形状は、たとえば、四角形、円形、楕円形などとすることができる。ガス導入経路およびガス排出経路は、軽量で耐久性の高い材料から構成されることが好ましく、このような材料としては、たとえば、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の樹脂材料を挙げることができる。
【0040】
(センサアレイおよびセンサ素子)
上記したように、センサアレイは、基板と、基板の一方の表面上に配置された複数のセンサ素子と、基板の他方の表面に形成された各センサ素子からの信号を信号受信手段に送信するための回路とから構成される。ここでいうセンサ素子からの信号とは、目的化学物質の接触による信号変化を意味し、たとえば、センサ素子全体の抵抗値またはコンダクタンスの変化などである。この信号変化から、目的化学物質の検体ガス中の濃度を算出することが可能となる。基板としては、たとえば、ガラスエポキシ樹脂製基板(エポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んで積層プレスして得られる基板)、紙フェノール製基板(紙にフェノール樹脂を含浸させたもの)、セラミック製基板等を用いることができる。
【0041】
化学物質検出装置が備えるセンサ素子の数は、1以上あれば特に制限されず、濃度測定の対象となる目的化学物質の数を考慮して決定される。センサ素子の数は好ましくは2以上である。通常、濃度測定の対象となる目的化学物質の数と同じ数のセンサ素子が設けられ、1つの目的化学物質に対して1つのセンサ素子が割り当てられる。ただし、化学物質検出装置は、測定対象となる目的化学物質数を超える数のセンサ素子を有していてもよい。このような付加的なセンサ素子は、たとえば、別途の化学物質測定において必要となる場合がある。
【0042】
化学物質検出装置が備えるセンサアレイの数は、1または2以上であり、好ましくは1または2である。1つのセンサアレイに対し、少なくとも1つのセンサ素子が設けられる。化学物質検出装置が1つのセンサアレイを有する場合、このセンサアレイは、好ましくは、チャンバ内の上部または下部に配置される(たとえば、図1に示されるように、チャンバ内部の天井面または底面に接するように配置される)。また、化学物質検出装置が2つのセンサアレイを有する場合、これらのセンサアレイは、好ましくは、それぞれチャンバ内の上部および下部に配置される(たとえば、図1に示されるように、それぞれチャンバ内部の天井面および底面に接するように配置される)。これにより、目的化学物質の比重などの物理的性質を利用して、複数の目的化学物質を効率良くかつ精度良く検出することが可能となる。化学物質検出装置が1つのセンサアレイを有する場合において、チャンバ内の上部に設置するか、下部に設置するかは、目的化学物質の比重などの物理的性質を考慮して決定される。
【0043】
1つのセンサアレイがチャンバ内の上部または下部に配置される場合、当該センサアレイは、そのセンサ素子を有する側の面がチャンバの内側を向くように設置される。また、2つのセンサアレイがチャンバ内の上部および下部に配置される場合、これらのセンサアレイは、同様にそのセンサ素子を有する側の面がチャンバの内側を向くように(各センサアレイが有するセンサ素子が対向するように)設置される。
【0044】
なお、センサアレイを3以上用い、これらをたとえば、チャンバ内の上部と下部とに分けて配置することも可能である。
【0045】
次に、目的化学物質の物理的性質を考慮した、センサ素子のチャンバ内における配置について説明する。図3は、本発明の化学物質検出装置における基板上に配置されたセンサ素子の並び方の一例を模式的に示す平面図である。図3に示されるセンサアレイ10において、基板100上には、センサ素子101が(m×n)個設置されている。mはチャンバ内における検出ガスの流通方向(図3に示される例において、ガス導入経路12からガス排出経路13に至る方向)へのセンサ素子101の順列を示し、nはチャンバ内における検出ガスの流通方向に垂直な方向へのセンサ素子101の順列を示す。mは0,1,2,・・・であり、nは0,±1,±2,・・・である。m、nの値が0に近いほど、ガス導入経路12(したがって、ガス導入口12a)に近いことを示す。
【0046】
検体ガスがチャンバ内に導入された際における、検体ガスに含まれる目的化学物質のチャンバ内における拡散挙動は、その目的化学物質の比重などの物理的性質に応じて異なる。具体的には、検体ガス中の、チャンバ内の雰囲気ガスより比重の大きい目的化学物質は、ガス導入口よりも下方(チャンバ底面方向)へ拡散し、チャンバ内の雰囲気ガスより比重の小さい目的化学物質は、ガス導入口よりも上方(チャンバ天井面方向)へ拡散する。このように、目的化学物質の物理的性質を考慮してセンサ素子を配置することにより、各目的化学物質をより効率的にかつ正確に検出することが可能となる。チャンバ内の雰囲気ガスとしては、たとえば空気が挙げられる。
【0047】
さらに具体的に説明すると、センサ素子のチャンバ内における配置を決定する際には、まず、目的化学物質を選定した後、その目的化学物質の比重とチャンバ内の雰囲気ガスの比重とを比較し、チャンバ内の雰囲気ガスより比重が小さい群と大きい群とに分ける。チャンバ内の雰囲気ガスより比重が小さい目的化学物質が存在する場合、このような物質は、ガス導入口よりも上方(チャンバ天井面方向)へ拡散することから、センサアレイは、チャンバ内の上部であって、ガス導入口およびガス排出口よりも高い位置に設置される。チャンバ内の雰囲気ガスより比重が大きい目的化学物質が存在する場合、このような物質は、ガス導入口よりも下方(チャンバ底面方向)へ拡散することから、センサアレイは、チャンバ内の下部であって、ガス導入口およびガス排出口よりも低い位置に設置される。チャンバ内の雰囲気ガスより比重が小さい目的化学物質およびチャンバ内の雰囲気ガスより比重が大きい目的化学物質の双方が存在する場合には、上記2つのセンサアレイが用いられる。
【0048】
次に、上記それぞれの群において、目的化学物質の比重を相対的に比較し、比重が大きい目的化学物質から順位付けを行なう。この順位付けに基づき、最も高順位の目的化学物質の検出に用いるセンサ素子101を図3における(0,0)の位置(すなわち、ガス導入経路に最も近い位置)に配置する。それ以外の目的化学物質については、順位が高いものほどガス導入経路に近くになるよう配置し、最も順位が低いものが、ガス排出経路に一番近い位置に配置される。
【0049】
また、センサ素子の配置を決定するにあたっては、目的化学物質の揮発性が考慮されてもよい。相対的に揮発性の高い目的化学物質ほど奥へ(すなわち、図3に示される例において、よりガス排出経路13の近くへ)拡散し、相対的に揮発性の低い目的化学物質ほど手前へ(すなわち、図3に示される例において、よりガス導入経路12の近くへ)拡散することから、揮発性のより低い目的化学物質を検出するセンサ素子ほど、ガス導入経路に近くになるよう配置することが考えられる。
【0050】
(センサ素子の構成)
センサ素子としては、半導体センサ、ナノ構造体センサなどを用いることができ、目的化学物質の種類に応じて、半導体センサあるいはナノ構造体センサのみを用いてもよいし、半導体センサおよびナノ構造体センサの双方を用いてもよい。図4は、本発明におけるセンサ素子として用いることができる一般的な半導体センサの一例を示す模式図である。図4に示される半導体センサは、正極104、負極105からなる2つの電極;当該2つの電極に接触するように配置された、目的化学物質を検出する部位であるセンシング部106;センシング部106の下部に位置するセンサ温度制御手段102;2つの電極に接するように配置され、2つの電極およびセンシング部106とセンサ温度制御手段102との間に位置する絶縁体107;ならびに、定抵抗108からなる。
【0051】
センシング部106は、主に金属酸化物からなり、空気中の酸素を吸着する性質をもつ。この際、吸着酸素はセンシング部106中の自由電子をトラップしており、この状態では半導体センサ全体の抵抗値は高い。このセンシング部106に対して、目的化学物質を含む検体ガス、たとえばCOを含む空気を接触させると、センシング部106の表面の酸素とCOが反応してCO2となり、センシング部106から離れる。つまり、センシング部106の表面の酸素が減少し、トラップされていた電子が解放されるため、これにより半導体センサ全体の抵抗値が減少する。この抵抗値の変動を、定抵抗108における電圧VRLの変化を測定することによって算出し、検体ガス中の目的化学物質の有無および含有量を明らかにすることができる。なお、半導体センサにおいては、目的化学物質に対する十分な検出感度を得るために、通常、センサ温度制御手段102が設けられる。また、絶縁体107としては、熱伝導性が高い材料を用いることが好ましい。
【0052】
半導体センサは、CO、炭素原子を含む有機ガス(たとえば、炭化水素ガス、アルコール等)、H2等の可燃性ガスなどの目的化学物質を検出するためのセンサ素子として好適に用いることができる。
【0053】
ナノ構造体センサは、センシング部がナノスケールの導電性物質によって構成されること、および、必ずしもセンサ温度制御手段および絶縁体を伴わないこと以外はすべて上記半導体センサにおける構造と同一とすることができる。ナノスケールの導電性物質としては、後述するカーボンナノチューブの他に、カーボンナノファイバーなどが好適に用いられる。カーボンナノチューブ等のナノスケールの導電性物質を、センシング部を構成する材料として用いることにより、小型、軽量で常温にて高感度なセンサ素子を実現することができる。
【0054】
カーボンナノチューブから構成されたセンシング部を備えるナノ構造体センサにおいて、当該センシング部は、具体的には、カーボンナノチューブの集合体からなる。このセンシング部に対して、目的化学物質を含む検体ガスを接触させると、センシング部の表面に目的化学物質が吸着し、これによりナノ構造体センサ全体の抵抗値が変化する。この抵抗値の変動を、定抵抗における電圧VRLの変化を測定することによって算出し、検体ガス中の目的化学物質の有無および含有量を明らかにすることができる。
【0055】
カーボンナノチューブから構成されるセンシング部の作製法としては、フィルム状カーボンナノチューブを溶媒中に分散させた後、メンブレンフィルタなどでろ過して作製する方法や、マイクロ波プラズマCVD装置などを用いて基板上にカーボンナノチューブを直接成長させる方法などがある。
【0056】
また、ナノ構造体センサとして、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノチューブから構成されるセンシング部を備えたナノ構造体センサを用いることも有効である。カーボンナノチューブに金属錯体による表面修飾を施すことにより、特定の目的化学物質に対する吸着選択性をさらに向上させることができ、これにより、目的化学物質の検出精度をより向上させることができる。
【0057】
図5は、本発明におけるセンサ素子として用いることができる、金属錯体により表面修飾されたカーボンナノチューブから構成されるセンシング部を備えたナノ構造体センサの一例を示す模式図である。図5に示されるナノ構造体センサは、正極104、負極105からなる2つの電極;当該2つの電極に接触するように配置された、目的化学物質を検出する部位であるセンシング部106;および、定抵抗108からなる。センシング部106は、金属触媒109により表面修飾されたカーボンナノチューブの集合体からなる。このセンシング部106に対して、目的化学物質を含む検体ガスを接触させると、センシング部106の金属錯体109の一部に特定の目的化学物質が選択的に吸着し、これによりナノ構造体センサ全体の抵抗値が変化する。この抵抗値の変動を、定抵抗108における電圧VRLの変化を測定することによって算出し、検体ガス中の目的化学物質の有無および含有量を明らかにすることができる。
【0058】
金属錯体は、特定の目的化学物質を選択的に吸着するものが好ましく、たとえば、NOを選択的に吸着するコバルト(II)フタロシアニン;COを選択的に吸着する鉄(II)フタロシアニン;ペンタンを吸着する銅(II)フタロシアニン;アセトンを選択的に吸着するマンガン(II)フタロシアニンなどを挙げることができる。
【0059】
金属錯体により表面修飾されたカーボンナノチューブから構成されるセンシング部の作製法としては、あらかじめカーボンナノチューブに金属錯体を付着、含有させ、該ナノチューブを溶媒中に分散させた後、メンブレンフィルタなどでろ過して作製する方法や、マイクロ波プラズマCVD装置などを用いて基板上にカーボンナノチューブを直接成長させた後、金属錯体を含む溶液をインクジェット等により噴霧して塗布する方法などがある。
【0060】
ここで、センサアレイは、上記した図4に示されるように、センサアレイが有するいずれか1つ以上のセンサ素子の温度を制御するセンサ温度制御手段を備えていてもよい。検体ガスに含まれる不揮発性物質等の一部の目的化学物質は、検体ガス温度や検体ガス中の他の物質の存在などにより、気体、液体、固体のいずれかの状態、またはこれらのうちの2以上の複合状態で存在していると考えられる。このような不揮発性物質等の目的化学物質をセンサ素子により精度よく検出するためには、そのセンサ素子が良好な検出精度を示すような物理状態となるように、目的化学物質の物理的状態を適切に誘導することが好ましい。たとえば、センサ素子が気体に対してより良好な検出精度を示す場合には、不揮発性または難揮発性の目的化学物質の気化を促進するために、センシング部を加熱することが好ましい。また上記したように、センサ素子として半導体センサ等を用いる場合においては、検出感度を向上させるために、センサ素子を適切な温度に調整する必要が生じ得る。また、センサ素子が液体に対してより良好な検出精度を示す場合には、不揮発性または難揮発性の目的化学物質の凝縮を促進するために、センシング部を冷却することが好ましい。このように、センサ温度制御手段を設けることにより、目的化学物質の物理状態(温度を含む)を、これを検出するセンサ素子に適した物理状態に導くことができるため、センサ素子の検出精度を高めることができ、もって正確な目的化学物質濃度を得ることができる。
【0061】
上記のように、センサ温度制御手段としては、センサ素子を加熱する加熱素子(たとえばヒータ)であってもよいし、これを冷却する冷却素子であってもよい。また、センサアレイが、加熱することが好ましいセンサ素子および冷却することが好ましいセンサ素子の双方を含む場合には、センサアレイは、加熱素子および冷却素子の双方を備えていてもよい。センサ温度制御手段として加熱素子および/または冷却素子を用いることにより、比較的簡便かつ安価な方法で、目的化学物質の物理状態を、これを検出するセンサ素子に適した物理状態に導くことができ、センサ素子の検出精度を高めることができる。
【0062】
図6は、センサ温度制御手段を備えるセンサアレイの一例を模式的に示す斜視図である。図6に示されるように、センサ温度制御手段102は、該当するセンサ素子101の周辺、または周辺および下部に設けることができる。このような構成は、たとえば、センサ素子101の基板100側表面より大きいセンサ温度制御手段102を、基板100の表面に埋め込み、または基板100上に積層し、このセンサ温度制御手段102上にセンサ素子101を設置することにより得ることができる。ただし、センサ温度制御手段の加熱に対して十分な耐熱性を有しない基板を用いる場合には、基板とセンサ温度制御手段との間に断熱手段を設けるなど、センサ温度制御手段と基板とが直接接しないようにすることが好ましい。
【0063】
なお、上述のように、図3を参照して、不揮発性または難揮発性の目的化学物質は、よりガス導入経路12の近くへ拡散することから、不揮発性または難揮発性の目的化学物質の気化を促進するための加熱手段(加熱素子)を有するセンサ素子は、ガス導入経路12に比較的近い位置に配置されることが好ましい。一方、不揮発性または難揮発性の目的化学物質の凝縮を促進するための冷却手段(冷却素子)を有するセンサ素子は、他の目的化学物質までもが凝縮してしまう可能性をできるだけ排除するために(より具体的には、他の目的化学物質までもが凝縮し、その結果、該目的化学物質の濃度が低く測定されてしまうことを防止するために)、他のすべての目的化学物質を検出するセンサ素子より下流側の位置、すなわちガス排出経路(ガス排出口)に最も近い位置に配置されることが好ましい。
【0064】
また、センサアレイが、いずれか1つ以上のセンサ素子の温度を制御するセンサ温度制御手段を備える場合、該温度制御が他のセンサ素子の検出精度に影響を与えないように、断熱手段を備えていてもよい。これにより、センサアレイが温度制御を要するセンサ素子と温度制御が不要なセンサ素子を含む場合であっても、温度制御を要するセンサ素子に対してなされた温度制御が、温度制御が不要なセンサ素子に与える影響を排除することができ、それぞれのセンサ素子は、高い検出精度を維持することができる。
【0065】
図7は、センサ温度制御手段および断熱手段を備えるセンサアレイの一例を模式的に示す斜視図である。図7に示されるセンサアレイにおいては、センサ素子101−(m,n)に設けられたセンサ温度制御手段102による温度制御が、隣り合うセンサ温度制御手段を有しないセンサ素子101−(m’,n’)の検出精度に影響を与えないよう、センサ素子101−(m,n)とセンサ素子101−(m’,n’)との間に断熱手段103が設けられている。具体的には、センサ素子101−(m,n)とセンサ素子101−(m’,n’)との間に設けられた断熱手段103によって、基板100が、センサ素子101−(m,n)が形成されている側の基板とセンサ素子101−(m’,n’)が形成されている側の基板とに隔てられている。なお、断熱手段によって隔てられる2つのセンサ素子は、いずれか一方がセンサ温度制御手段を有するものであってもよく、双方がセンサ温度制御手段を有するものであってもよい(たとえば、一方が加熱素子であり、他方が冷却素子である場合など)。
【0066】
断熱手段としては、隣り合うセンサ素子同士を熱的に隔てることができる限り特に制限されないが、たとえば、センサ素子101−(m,n)とセンサ素子101−(m’,n’)との間に位置する基板100内に介在させるグラスウール等の断熱材;および、センサ素子101−(m,n)とセンサ素子101−(m’,n’)との間に位置する基板100を掘削することにより形成された溝などを挙げることができる。これらの断熱手段は、それぞれ単独で用いることができ、あるいは組み合わせて用いることもできる。これらの断熱手段は、比較的簡便かつ安価に形成できるとともに、良好な断熱効果が得られる点で好ましい。
【0067】
(参照センサ)
参照センサ(図1における参照センサ14)は、チャンバ内に導入される検体ガスの物理的状態を検知するためのセンサ素子である。本実施形態の化学物質検出装置においては、各センサ素子から送信される検出信号の変化より求められる検体ガス中における目的化学物質の濃度を、参照センサによって検知された、チャンバ内に導入される検体ガスの物理的状態に関する情報に基づいて、より正確な濃度値に補正される。参照センサにより検知されるべき検体ガスの物理的状態としては、特に制限されないが、とりわけ検体ガスの温度や相対湿度がセンサ素子の検出信号(したがって、それから算出される目的化学物質の濃度)に大きな影響を与えることから、検体ガスの温度、相対湿度などが挙げられる。この場合、検体ガスの温度または相対湿度のみが参照センサによって検知されてもよいし、両者が検知されてもよい。また、参照センサは、検体ガスの流量を検知するセンサであってもよい。
【0068】
検体ガスの温度および/または相対湿度を検知するための参照センサとしては、市販の温度センサ、湿度センサまたは温湿度センサを用いることができる。温湿度センサとしては、たとえば、クリマテック株式会社製の小型温湿度センサ「CVS−HMP−50」などを用いることができる。検体ガスの流量を検知するセンサとしては、キーエンス社製「FD−V40」、SUNX社製「FM−200」等の流量センサ、あらかじめ流量特性についてデータを取得したカーボンナノチューブセンサなどを用いることができる。
【0069】
参照センサを設置する位置は、化学物質検出装置内での検体ガスの流通方向に関して、チャンバより上流側であることが好ましく、より好ましくは、チャンバより上流側であって、かつガス導入口の近傍である。したがって、参照センサは、ガス導入経路内に設置されることが好ましく、ガス導入経路内であって、ガス導入口近傍(さらに好ましくは直前)に設置されることが好ましい。このような位置に参照センサを設置することにより、チャンバ内に導入され、センサ素子によって検出されることになる検体ガスの検出時における物理的状態をより正確に測定することができる。
【0070】
なお、参照センサと上記した信号受信手段(デジタルマルチメータなど)と接続することにより、参照センサの検出信号を信号受信手段に送信し、このデータを、センサアレイの各センサ素子からの信号データとともに、信号受信手段に接続されたコンピュータに蓄積するようにしてもよい。これにより、各センサ素子からの信号データに基づいて求められる検体ガス中における目的化学物質の濃度の補正計算を該コンピュータに行なわせることができる。
【0071】
(信号受信手段)
信号受信手段は、各センサ素子(参照センサを含んでいてもよい)の検出信号を受信する手段であり、導線(図1における導線15)によってセンサアレイと接続されている。信号受信手段としては、デジタルマルチメータが好ましく用いられる。この場合、デジタルマルチメータに受信、収集された検出信号データは、アナログデータからデジタルデータへと変換される。図8は、本実施形態の化学物質検出装置の全体構成の一例を模式的に示す図である。図8に示されるように、本実施形態の化学物質検出装置は、USBインターフェース22を介してデジタルマルチメータ21に接続されたコンピュータ20をさらに有していてもよい。コンピュータ20は、デジタルデータの蓄積および該データを目的化学物質濃度へ変換する計算を行なう。コンピュータ20は、たとえば、データを送受信するインターフェース201、計算を行なうCPU202およびデータを蓄積するデータ記憶部203を含む(図8参照)。本実施形態においては、上記参照センサによって検知された、チャンバ内に導入される検体ガスの物理的状態に関する情報に基づく、目的化学物質の濃度値の補正計算は、CPU202に行なわせることができる。
【0072】
(ガス流量制御手段)
化学物質検出装置は、チャンバ内を流通する検体ガスの流量を制御するガス流量制御手段をさらに備えることが好ましい。ガス流量制御手段は、チャンバ内を流通する検体ガスの流量を任意のある一定値に保持することができるものであることが好ましい。このようなガス流量制御手段を備えることにより、チャンバ内を流通する検体ガスの流量が一定に保たれるため、センサ素子から安定した検出信号が得られるとともに、検出感度や検出精度が検体ガスの流量に左右されるセンサ素子を使用する場合であっても、安定した検出信号を得ることが可能となる。
【0073】
図9は、ガス流量制御手段を備える化学物質検出装置の例を模式的に示す斜視図である。図9に示すように、ガス流量制御手段としては、抵抗管、選択透過膜、マスフローコントローラおよび定流量ポンプなどを好適に用いることができる。
【0074】
図9(a)は、ガス流量制御手段として抵抗管16aを用いた場合の一例である。抵抗管16aは、ガス導入経路よりも流路の径を小さくする、もしくは長くするなどし、圧力損失を生じさせることで、一定圧力下における検体ガスの流量を制限する。抵抗管16aをガス導入経路より前(検体ガス流通方向における上流側)に接続することで、一定流量の検体ガスをチャンバ内に流通させることができる。抵抗管16aの材料は、ガス吸着性の乏しい材料であれば特に限定されないが、ガラス、石英、ステンレスなどが好ましい。
【0075】
図9(b)は、ガス流量制御手段として選択透過膜16bを用いた場合の一例である。目的化学物質の中で最も分子サイズが大きいガスおよび空気などのチャンバ内の雰囲気を構成するガスが通過できるような選択透過膜16bを用いることで、圧力損失が生じ、抵抗管16aの場合と同様に一定圧力下における検体ガスの流量を制限する。選択透過膜16bの素材は、上記条件を満たす限り特に限定されない。選択透過膜16bは、たとえば、ガス導入経路内に設置することができる。
【0076】
図9(c)は、ガス流量制御手段としてマスフローコントローラ16cを用いた場合の一例である。マスフローコントローラ16cは、検体ガスの流量をあらかじめ設定入力しておけば、自動的に検体ガスの流量をモニタリングし、設定値になるように制御する。マスフローコントローラ16cの種類は特に限定されないが、小型で携帯可能なサイズのものが好ましい。マスフローコントローラ16cは、たとえば、ガス導入経路より前(検体ガス流通方向における上流側)に接続することができる。
【0077】
図9(d)は、ガス流量制御手段として定流量ポンプ16dを用いた場合の一例である。この例の場合、定流量ポンプ16d内にマスフローコントローラが備わっており、検体ガスの流量をあらかじめ設定入力しておけば、設定値の流量で検体ガスが流通するようにポンプを自動制御するため、チャンバ内の検体ガスの流量を一定にすることができる。定流量ポンプ16dの種類は特に限定されないが、小型で携帯可能なサイズのものが好ましい。定流量ポンプ16dは、たとえば、ガス排出経路より後(検体ガス流通方向における下流側)に接続することができる。
【0078】
<第2の実施形態>
本実施形態の化学物質検出装置は、上記した図8に示される構成と同様の構成とすることができる。ただし、本実施形態の化学物質検出装置においては、上記第1の実施形態と同様、参照センサにより得られる検体ガスの物理的状態の情報に基づく目的化学物質の濃度値の補正とともに、化学物質検出装置が備えるいずれかのセンサ素子が、検出対象とする目的化学物質以外の物質に対しても感度を有する場合を考慮した濃度値の補正を行なう。
【0079】
用いるセンサ素子によっては、特定の一種の化学物質に対してのみ感度を有するのではなく、検出対象とする目的化学物質以外の物質に対しても感度を有することがある。たとえば、一般的な金属酸化物半導体センサなどにおいては、おおむね吸着される化学物質の炭素数や構造によって、反応に寄与する酸素濃度は決まってしまい、原理上、単一センサ素子で類似構造の化学物質を見分けることがほぼ不可能である。このようなセンサ素子を用いる場合、特に、このような2種以上の物質に感度を示すセンサ素子を複数用いる場合には、それぞれのセンサ素子が対象とする目的化学物質の濃度を正確に算出するために、多変量解析を用いてデータを横断的に解析し、結果を補正することが好ましい。複数のセンサ素子における検出される複数の目的化学物質およびその検出感度を多元的に解析することにより、各センサ素子におけるそれぞれの目的化学物質の検出信号を分離できる。
【0080】
多変量解析手法の一例として、重回帰分析を挙げることができる。各センサ素子は、それが作製された時点で、各物質に対する感度が決まる。本実施形態においては、選択性が低いセンサ素子について、あらかじめ、そのセンサ素子の検出対象である目的化学物質以外の物質(妨害物質)がセンサ素子の抵抗値変化に及ぼす影響についてデータを取っておく。これらのデータを用いて抵抗変化量(信号変化)を目的変量に、センサ素子の抵抗値をもたらす目的化学物質の各濃度を説明変量として重回帰分析を行ない、各物質濃度に対して重み付けを行なうことで、各センサ素子における回帰方程式が得られる。この回帰方程式に基づき、検出対象である目的化学物質のみによる抵抗変化量を導き出し、高精度に補正された目的化学物質濃度を得ることができる。
【0081】
<第3の実施形態>
本実施形態の化学物質検出装置は、ヒト呼気に含まれる1種また2種以上の目的化学物質の濃度を測定し、あらかじめ蓄積された、目的化学物質の濃度と疾病との関連性を示す疾病データベースを参照して、目的化学物質の濃度と、被験者の疾病とを関連付けることにより、被験者の疾病を診断する疾病診断用の化学物質検出装置(疾病診断装置)に関する。本実施形態の化学物質検出装置は、基本的には、上記した第1または第2の実施形態と同様の構成とすることができる。本実施形態では、上記第1および第2の実施形態における検体ガスとして、ヒト呼気を用いる。また、本実施形態の化学物質検出装置によりその濃度が測定される目的化学物質は、上述した呼気中疾病マーカ物質である。本実施形態の化学物質検出装置によれば、複数の呼気中疾病マーカ物質の同時定量が可能となることから、手軽にかつ正確に疾病を診断できる小型で非侵襲な疾病診断装置を実現することができる。
【0082】
複数の呼気中疾病マーカ物質と疾病との関連性については、すでに多くが明らかになっている。本実施形態の化学物質検出装置においては、このような複数の呼気中疾病マーカ物質と疾病との関連性を疾患別にレーダーチャート化したデータベースが、コンピュータ20内のデータベース部にあらかじめ収められている(図8参照)。ここで、複数の呼気中疾病マーカ物質と疾病との関連性を疾患別にレーダーチャート化したデータベースとは、たとえば、その疾病であると一般的に判断できる、複数の呼気中疾病マーカ物質の最小濃度(閾値濃度)が、疾患別に、かつそれぞれの疾病ごとにレーダーチャート化されたデータベースなどである。
【0083】
本実施形態の化学物質検出装置(疾病診断装置)においては、好ましくは、ある疾病に対応する複数の呼気中疾病マーカ物質を検出するための複数のセンサ素子を用いて化学物質検出装置が構築される。用いられるセンサ素子は、ある特定の疾病を診断するためのセンサ素子のみであってもよいし、複数の疾病を診断可能とするために、様々な種類の呼気中疾病マーカ物質を検出する各種のセンサ素子を搭載してもよい。本実施形態の化学物質検出装置を用い、呼気分析を行なうと、各センサ素子から送信された信号変化データは、呼気中疾病マーカ物質の濃度に変換されるとともに、適切な補正がなされてコンピュータ20内のデータ記憶部203にレーダーチャート化されて蓄積される(呼気中疾病マーカ物質の濃度への変換計算および補正は、たとえばコンピュータ20のCPU202によって行なうことが可能である)。そして、レーダーチャート化された呼気中疾病マーカ物質濃度は、コンピュータ20のデータベース部にあらかじめ蓄積された疾患別にレーダーチャート化された呼気中疾病マーカ物質の濃度と疾病との関連性を示す疾病データベースと比較され、最も近接したパターンを持つ疾病を、その被験者の疾病と仮定(推察)する。次に、被験者がこの疾病に実際にかかっているかどうか(疾病危険性)を評価する。具体的には、化学物質検出装置により定量された実測の複数の呼気中疾病マーカ物質濃度と、各疾病における複数の呼気中疾病マーカ物質の閾値濃度とをそれぞれ比較し、前者が全体的に高ければ上記で仮定した「疾病にかかっている」と診断し、全体的に低ければ「疾病にかかっていない」と診断する。この診断基準においては、たとえば、呼気中疾病マーカ物質の閾値濃度より大きい値が出た場合を「レベル5(疾病危険性大)」とし、呼気中疾病マーカ物質の閾値濃度よりはるかに小さく、パターンを為さない場合を「レベル1(疾病危険性なし)」とし、これらの間を均等にレベル分けして、5段階評価で表示することができる。ただし、今後医学的見地からの修正や改善があれば、この限りではない。
【0084】
なお、上記のようなレーダーチャートパターンの解析による疾病の特定および疾病危険性の評価は、コンピュータ20が行なうことも勿論可能である。
【0085】
代表的な疾患およびそれに分類される疾病と、その疾病に関連付けられる呼気中疾病マーカ物質およびその閾値濃度を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
上記表1においては、ある疾病に関連付けられる呼気中疾病マーカ物質として、1種の呼気中疾病マーカ物質のみを例示的に示しているが、ある1つの疾病に対して、複数の呼気中疾病マーカ物質が関連付けられることが一般的に知られてきている。本実施形態の化学物質検出装置によれば、複数の呼気中疾病マーカ物質の濃度定量を行ない、得られた複数の呼気中疾病マーカ物質の濃度値に基づいて、被験者がその疾病にかかっているかどうかの診断を行なうことができるため、1種のみの呼気中疾病マーカ物質に基づく診断と比較して、より正確に診断を行なうことができる。
【0088】
本実施形態の化学物質検出装置により定量される呼気中疾病マーカ物質の組み合わせとしては、たとえば、NO、COおよびH22の組み合わせが挙げられる。これら3種の呼気中疾病マーカ物質は、いずれも喘息、COPD(慢性閉塞性肺炎)、CF(嚢胞性線維症)および肺がん等の肺疾患に関連付けられるものである。また、ペンタンもこのような肺疾患に関連付けられる呼気中疾病マーカ物質であることから、ペンタンを加えた4種を肺疾患に関連付けられる呼気中疾病マーカ物質として測定してもよい。このように、複数(好ましくは3種、より好ましくは4種)の呼気中疾病マーカ物質濃度を測定することにより、同じ疾患に属する類似の疾病を区別することが可能となり、より正確な疾病判定を行なうことができる。本実施形態の化学物質検出装置によれば、年々患者数が増加している種々の肺疾患において、どの肺疾患なのかという簡易診断が可能となり、患者が取るべき対策や医療機関が明確になるため、疾病の進行を遅らせる手立てのひとつとなる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0090】
<実施例1>
ヒト呼気中の目的化学物質の濃度を測定するために好適に用いられる、下記の構成を有する化学物質検出装置2を作製し、下記方法にて呼気分析実験を行なった。
【0091】
(化学物質検出装置の構成)
(1)化学物質検出装置の全体構成
図10は、実施例1で作製した化学物質検出装置2を模式的に示す斜視図(図10(a))および断面図(図10(b))である。本実施例で作製した化学物質検出装置2は、基本的には、図8に示される化学物質検出装置と同様の構成を有している。すなわち、本実施例の化学物質検出装置2は、側面にガス導入口12aおよびガス排出口13aを有する直方体のチャンバ11;ガス導入口12aに接続された中空状のガス導入経路12;ガス排出口13aに接続された中空状のガス排出経路13;チャンバ11内の上部に配置されたセンサ素子101cを備えるセンサアレイ10a;チャンバ11内の下部に配置されたセンサ素子101aおよび101bを備えるセンサアレイ10b;ガス導入経路12内に設置された参照センサ14;および、各センサ素子からの信号を受信する信号受信手段としてのデジタルマルチメータ21(図8を併せて参照);USBインターフェース22を介してデジタルマルチメータ21に接続されたコンピュータ20(図8を併せて参照);および、ガス導入経路12におけるガス導入口12a側とは反対側の端部に接続されたガス流量制御手段としてのマスフローコントローラ16cから構成される。各センサアレイの裏面回路に接続された導線15が、チャンバ11の上面および下面に設けられた開口部から引き出されており、これらの導線15の他端は、デジタルマルチメータ21に接続されている。ガス導入口12aおよびガス排出口13aは、チャンバ11側面であって、下部のセンサアレイ10bが有するセンサ素子101aおよび101bよりも高く、上部のセンサアレイ10aが有するセンサ素子101cよりも低い位置に配置されている。また、ガス排出口13aは、ガス導入経路12の経路方向の延長線上に位置している。
【0092】
チャンバ11の外形は、縦5cm×横5cm×高さ8cmである。チャンバ11、ガス導入経路12およびガス排出経路13は、それぞれアクリル樹脂より構成されている。また、各センサアレイの基板としては、ガラスエポキシ樹脂基板(エポキシ樹脂にガラス不織布を織り込んで積層プレスして得られる基板)を用いた。基板のセンサ素子が設置される側の表面には銅パターンが形成されている。
【0093】
この化学物質検出装置2は、目的化学物質として、NO、COおよびH22を検出する化学物質検出装置である。
【0094】
(2)センサ素子の配置
チャンバ11内の上部に設置されたセンサアレイ10aが備えるセンサ素子101cは、COを検出するためのセンサ素子である。センサ素子101cには、センサ温度制御手段102としての白金ヒータが設けられている。また、チャンバ11内の下部に設置されたセンサアレイ10bが備えるセンサ素子101aおよび101bは、それぞれNO、H22を検出するためのセンサ素子である。センサアレイ10bにおいて、センサ素子101aおよび101bは、ガス導入口12aとガス排出口13aと結ぶ直線の直下に配置されており、NOを検出するためのセンサ素子101aがよりガス導入口12aに近くに配置されており、H22を検出するためのセンサ素子101bがよりガス排出口13aに近くに配置されている。このような3種のセンサ素子の配置は、チャンバ内の雰囲気ガスである空気に対する目的化学物質の比重を考慮して決定した。表2に、NO、CO、H22の空気に対する比重等について示す。なお、表2におけるペンタンについては、後述する。
【0095】
【表2】

【0096】
表2からわかるように、H22は難揮発性であり、液体として検出されることが好ましいことから、H22を検出するセンサ素子101bは、センサアレイ10bのなかで最もガス排出経路13に近い位置に配置することとした。また、NO、COおよび空気は、比重の大きい順に並べると、NO>空気(比重1)>COとなるため、図10(b)に示すように、チャンバ11上面にCOを検出するセンサ素子101cを配置し、チャンバ11の底面にNOを検出するセンサ素子101aを配置し、かつ、ガス導入経路12に近い方から順に、NOを検出するセンサ素子101a、H22を検出するセンサ素子101bとなるように配置した。COを検出するガスセンサ素子101cにセンサ温度制御手段120としての白金ヒータを設けたのは、COに対して十分な検出感度を得るためである。
【0097】
(3)NOを検出するセンサ素子
NOがコバルト(II)フタロシアニン(以下、CoPc)中のCoに選択的に吸着することが検証されたことから、NOを検出するセンサ素子101aには、CoPcにより表面修飾されたカーボンナノチューブからなるセンシング部を備えるナノ構造体センサを選択した。NOを検出するセンサ素子101aの作製手順は次のとおりである。
【0098】
まず、CoPc粉末(和光純薬社製)を1.4mg秤量しサンプル瓶に投入し、テトラヒドロフラン(以下、THF)50mLを加えて十分に溶解させ、CoPc 0.05mMの標準溶液を作製した。次に、シングルウォールカーボンナノチューブ(以下、SWCNT;本荘ケミカル製)を2mg秤量しサンプル瓶に投入し、CoPc 0.05mMの標準溶液を5mL加え、30分間超音波分散を行ない、これをメンブレンフィルタにてろ過して回収した。このフィルタを別のサンプル瓶に入れ、CoPc 0.05mMの標準溶液を5mL加えてSWCNTを剥離し、メンブレンフィルタを回収後、再び30分間超音波分散して、これをメンブレンフィルタにてろ過して回収した。同様の操作をもう一度行ない、計3回の表面修飾を行なった。SWCNT回収メンブレンフィルタをサンプル瓶に入れ、エタノール50mLを加えてSWCNTを剥離し、メンブレンフィルタを回収後、30分間超音波分散を行ない、CoPc表面修飾SWCNT分散液を作製した。ついで、このCoPc表面修飾SWCNT分散液を2mL量り取り、メンブレンフィルタでろ過し、センサアレイ用の基板に両面テープで貼り付け後、CoPc表面修飾SWCNTからなるセンシング部の両端それぞれから基板上の銅パターンに向かって、銀ペーストにより正極および負極を作製し、NOを検出するセンサ素子101aを得た。
【0099】
(4)COを検出するセンサ素子
COが鉄(II)フタロシアニン(以下、FePc)中のFeに選択的に吸着することが検証されたことから、COを検出するセンサ素子101cには、鉄(II)フタロシアニンにより表面修飾されたカーボンナノチューブからなるセンシング部を備えるナノ構造体センサを選択した。COを検出するセンサ素子101cの作製手順は、CoPcに代えて、FePc粉末(和光純薬社製)を用いたこと以外は、NOを検出するセンサ素子101aと同様とした。
【0100】
(5)H22を検出するセンサ素子
22を検出するセンサ素子101bには、H22の検出精度を上げるために、ほとんどガス状態である検体ガスを冷却、凝縮し、H22を液体状態で検出できる、二酸化マンガン固定化膜と溶存酸素センサとからなる冷却機能を備えた過酸化水素センサユニットを選択した。
【0101】
図11は、過酸化水素センサユニット(センサ素子101b)を模式的に示す図である。図11(a)は、過酸化水素センサユニットの全体図である。また、図11(b)は、過酸化水素センサユニットに用いる専用ホルダの断面図であり、図11(c)は専用ホルダの斜視図である。
【0102】
図11を参照して、過酸化水素センサユニット(センサ素子101b)を次の手順で作製した。まず、ニトロフェニルオクチルエーテルにポリ塩化ビニルを溶かし、さらに二酸化マンガン粉末を添加して乾燥させることにより、二酸化マンガン固定化膜61を作製した。また、塩化カリウム水溶液からなる電解液67と、電解液67に浸漬されたPt電極65およびAg電極66と、電極間の電流値を測定するための電流計68とから構成された溶存酸素センサ70を用意した。次に、溶存酸素センサ70と二酸化マンガン固定化膜61とが酸素選択透過膜64としてのテフロン膜を間に挟んで密着するように、金属部62を備える専用ホルダ60で固定した。また、専用ホルダ60にペルチェ素子63が密着するように設置した。専用ホルダ60は、検体ガスが接触する側に金属部62を備えており、金属部62の検体ガス接触側の面は、専用ホルダ60が有する空洞部に向けて傾斜している。
【0103】
上記構成を有する過酸化水素センサユニット(センサ素子101b)において、ペルチェ素子63によって冷却された金属部62の傾斜面に検体ガスが接触すると、該傾斜面上に検体ガス凝縮液71が生成する。この凝縮液は、一定の大きさ以上になると、その重みにより二酸化マンガン固定化膜61へと流れていき、検体ガス凝縮液71中のH22は、二酸化マンガン固定化膜61中の二酸化マンガンの触媒作用により還元され、酸素が発生する。生成した酸素は、酸素選択透過膜64を透過し、溶存酸素センサ70にて検出される。その酸素濃度は、電流計68が示す電流値を測定することにより得ることができ、得られた酸素濃度値から検体ガス中のH22濃度を知ることができる。
【0104】
(6)参照センサ、マスフローコントローラおよびデジタルマルチメータ
参照センサ14には、小型温湿度センサ(クリマテック株式会社製)を用いた。ガス流量制御手段としてのマスフローコントローラ16cには、マスフローコントローラ(コフロック製)を用いた。また、信号受信手段としてのデジタルマルチメータ21には、デジタルマルチメータ(アジレント社製)を用いた。デジタルマルチメータ21には、USBインターフェース22を介してコンピュータ20が接続されている。コンピュータ20は、図8に示されるように、データを送受信するインターフェース201、計算を行なうCPU202およびデータを蓄積するデータ記憶部203を含む。
【0105】
(各センサ素子の信号変化に基づく目的化学物質濃度の算出)
各センサ素子から送信された信号変化(センサ素子101aおよび101cについては、センサ素子全体の抵抗値の変化であり、センサ素子101bについては、電流計68が示す電流値の変化である。)を、目的化学物質の検体ガス中における濃度に換算するために、あらかじめ呼気分析実験前に、各センサ素子について、様々な目的化学物質濃度における信号変化を測定し、これより、各センサ素子における、そのセンサ素子が検出する目的化学物質の濃度と、そのセンサ素子の特性値yとの関係式(検量線)を作成した。ここで、特性値yは、下記式(1)で示される。
【0106】
y(%)=(目的化学物質検出時のコンダクタンス−目的化学物質検出直前のコンダクタンス)/(目的化学物質検出直前のコンダクタンス)×100 (1)
ただし、H22を検出するセンサ素子101bにおいては、上記式(1)中のコンダクタンスは、電流計68が示す電流値である。センサ素子の特性値yは、センサ素子を作製する際におけるセンシング部構成材料および表面修飾物質の種類および量、ならびに電極の配置等により一義的に決まる。
【0107】
センサ素子の特性値yを求める際に用いた抵抗値と目的化学物質濃度との関係を示すデータプロファイルの一例として、図12に、NOを検出するセンサ素子101aがNOを検出した際の抵抗値の変化の一例を示す。図12において、横軸は経過時間(sec)であり、縦軸は抵抗値(kΩ)である。図12におけるAまでは、NOを含まない試験ガスを供給し、Aの時点で、供給するガスをNOを含む試験ガスに切り替え、さらに、Bの時点で、再度NOを含まない試験ガスに切り替えた。図12に示されるように、センサ素子がNOを検出すると抵抗値が上昇し、ある一定値に達することがわかる。この一定値を様々なNO濃度について求め、NOの濃度とセンサ素子の特性値yとの関係式(検量線)を作成した。他のセンサ素子についても同様である。なお、検量線作成において、上記試験ガスとしては、検体ガスがヒト呼気であることを想定して、N279%、O216%およびCO25%からなる混合ガス(空気とほぼ同様の組成、相対湿度は0である)を用いた。
【0108】
表3〜5はそれぞれ、上記方法により測定された種々の目的化学物質濃度におけるセンサ素子の特性値yを示している。表3はNOを検出するセンサ素子101aについての結果であり、表4はCOを検出するセンサ素子101cについての結果であり、表5はH22を検出するセンサ素子101bについての結果である。試験ガスの流量は、500ml/minとした。
【0109】
【表3】

【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
上記表3〜5のデータに基づき、最小二乗法を用いて、下記式(2)〜(4)で示される、試験ガスに含まれる目的化学物質の濃度x(単位:ppb)とセンサ素子の特性値y(単位:%)との直線近似関係式(検量線)を求めた。
【0113】
〔NOを検出するセンサ素子101a〕
NO=−0.06215xNO (2)
(式中、xNOは、検体ガスに含まれるNOの濃度、すなわち、NOの体積/(NOの体積+試験ガスの体積)[ppb]を示し、yNOは、NOを検出するセンサ素子101aのそのNO濃度における特性値[%]である。下記式(3)および(4)についても同様。)
〔COを検出するセンサ素子101c〕
CO=0.01332xCO (3)
〔H22を検出するセンサ素子101b〕
H2O2=0.01008xH2O2 (4)
上記(2)〜(4)の関係式より、各センサ素子の信号変化から各目的化学物質の濃度を算出することが可能となる。本実施例では、上記のような単回帰解析(すなわち、特性値yが1つの変数xを用いて表される)により、目的化学物質濃度が求められる。
【0114】
(検出ガスの湿度データに基づく補正)
本実施例の化学物質検出装置を用いた目的化学物質の定量においては、得られる目的化学物質濃度の正確性をより向上させるために、上記式から求められる目的化学物質濃度xを、参照センサ14からの検出データに基づき適切に補正する。具体的には、あらかじめ呼気分析実験前に、NOを検出するセンサ素子101a、COを検出するセンサ素子101cのそれぞれについて、様々な検体ガスの相対湿度における特性値変化を測定し、これより、各センサ素子における、特性値yと相対湿度との関係式(検量線)を作成した。結果を表6および表7に示す。なお、検量線作成において、試験ガスとしては、上記と同様、N279%、O216%およびCO25%からなる混合ガス(ただし、表6および7に示される相対湿度を示す水分を含有する)を用いた。
【0115】
表6は、NOを検出するセンサ素子101aにおける、検体ガス中の相対湿度(%)を種々変化させたときの特性値を示している。検体ガス中のNO濃度(すなわち、NOの体積/(NOの体積+試験ガスの体積)[ppb])は、100ppbに固定して測定を行なった。また、表7は、COを検出するセンサ素子101cにおける、検体ガス中の相対湿度(%)を種々変化させたときの特性値を示している。検体ガス中のCO濃度(すなわち、COの体積/(COの体積+試験ガスの体積)[ppb])は、500ppbに固定して測定を行なった。なお、H22を検出するセンサ素子101bについては、検出ガスを液体状態にしてからの検出し、該液体はほとんどが水分であることは、検体ガスの相対湿度データによる補正の対象には含めなかった。
【0116】
【表6】

【0117】
【表7】

【0118】
上記表6および7のデータに基づき、最小二乗法を用いて、下記式(5)および(6)で示される、検体ガスの相対湿度RH(単位:%)とセンサ素子の特性値y(単位:%)との直線近似関係式(検量線)を求めた。
【0119】
〔NOを検出するセンサ素子101a〕
y’NO=yNO,RH=0−0.0901RH (5)
(式中、RHは、検体ガス(試験ガス+水分+NO)の相対湿度[%]を示す。y’NOは、検体ガスの相対湿度がRH[%]である場合におけるNOを検出するセンサ素子101aの特性値[%]を示す。また、yNO,RH=0は、相対湿度が0%である場合における特性値[%]を示す。下記式(6)についても同様。)
〔COを検出するセンサ素子101c〕
y’CO=yCO,RH=0−0.01956RH (6)
したがって、参照センサ14から得られる検体ガスの相対湿度RH(%)を上記式(5)のRHに代入し、呼気分析実験において実測される特性値をy’NOに代入することにより、相対湿度が0である場合における特性値yNO,RH=0を算出し、これを、上記式(2)のyNOに代入することにより、検体ガスに含まれる水分に起因する特性値が排除され、純粋にNOに起因する特性値のみを考慮したNO濃度を得ることができる。COについても同様である。
【0120】
(化学物質検出装置を用いた呼気分析実験)
図13は、呼気分析実験の概要を示す模式的な図である。以下、図13に基づいて本実施例で行なった呼気分析実験について説明する。まず、図13(a)に示すように、Aバルブ301およびBバルブ302の2つの切換バルブを有する1L容量の洗浄済みテドラーバッグ30を準備した。そして、Aバルブ301にマウスピース31を設置し、Aバルブ301を開とし、Bバルブ302は閉じた状態とした。被験者であるヒトは大きく息を吸い込んだ後、10秒間息を止め、10秒間息を吐いた後、マウスピースをくわえて、残りのヒト呼気をテドラーバッグ30内に収集し、すぐにAバルブ301を閉じた。次に、図13(b)に示すように、ガスタイトシリンジ32を用いてBバルブ302から100mLの呼気を採取した。
【0121】
次に、図13(c)に示すように、ガスタイトシリンジ32の先端針をガス導入経路12の端部に設置したマスフローコントローラ16cの注入口に刺し込み、ガスタイトシリンジ32にほぼ一定の負荷をかけて、ヒト呼気を、ガス導入経路12からチャンバ11内に導入し、参照センサ14によりヒト呼気の相対湿度データを取得するとともに、各センサ素子からの信号変化を取得した。各センサ素子からの信号データは、コンピュータ20に蓄積した。得られたデータから、上記式(2)〜(6)を用いて、相対湿度データにより補正されたヒト呼気中のNOおよびCO濃度、ならびにH22濃度を算出した。
【0122】
<比較例1>
参照センサ14が設置されていないことを除いては、すべて実施例1と同様にして化学物質検出装置を構築し、ヒト呼気の相対湿度データによる補正を行なわないこと以外は、実施例1と同様にしてNO、COおよびH22濃度を算出した。
【0123】
<参考例1>
上記実施例1および比較例1で得られた各目的化学物質濃度の正確性を評価するために、テドラーバッグ30内のヒト呼気中の実際のNO濃度、CO濃度およびH22濃度を、それぞれ下記の装置を用いて定量した。
NO濃度:日本サーモ社製NO濃度測定装置、
CO濃度:島津製作所社製GC−FID、
22濃度:GLサイエンス社製HPLC+ECD。
【0124】
実施例1および比較例1のNO用センサ素子(センサ素子101a)、CO用センサ素子(センサ素子101c)およびH22用センサ素子(センサ素子101b)の実測された特性値、ならびに参照センサ14から得られたヒト呼気の相対湿度(実施例1のみ)を表8に示す。また、表9に、表8に示される実測された特性値から、上記式(2)〜(4)に基づいて算出されるNO、COおよびH22のヒト呼気中の濃度を示す(実施例1)。表9には、上記参考例1で測定した、NO、COおよびH22の実際の濃度も併せて示している。ここで、表9に示される実施例1のNOおよびCOの濃度は、表8に示される実測された特性値および相対湿度から、上記式(2)、(3)、(5)および(6)に基づいて算出されたものであり、ヒト呼気中の水分の影響を排除した、補正された濃度である。一方、比較例1のNOおよびCOの濃度は、表8に示される実測された特性値のみから、上記式(2)および(3)に基づいて算出されたものであり、ヒト呼気中の水分の特性値への影響は考慮されていない。
【0125】
【表8】

【0126】
【表9】

【0127】
表9に示される結果から明らかなように、H22用センサ素子以外のセンサ素子においては、その特性値は、呼気中の水分に大きく影響を受けるが、このような水分の影響を参照センサにより得られるデータに基づき適切に排除し、特性値の補正を行なうことにより、極めて正確な目的化学物質濃度が得られることがわかる。
【0128】
ここで、表10は、NOを検出するセンサ素子101aにおける、検体ガス(試験ガス)の流量(ml/min)を種々変化させたときの特性値および特性値校正定数kNO(基準流量を500ml/minとしたときの各流量における特定値yのずれを補正するための係数であり、各流量における特性値を、基準流量での特性値で割ったもの。)を示している。検体ガス中のNO濃度(すなわち、NOの体積/(NOの体積+試験ガスの体積)[ppb])は、50ppbに固定して測定を行なった。
【0129】
【表10】

【0130】
上記表10のデータに基づき、最小二乗法を用いると、検体ガスの流量u(単位:ml/min)とセンサ素子の特性値校正係数kNOとの間の関係は、下記式で近似される。
【0131】
NO=0.00014u+0.92435
すべてのセンサの基本特性は、この基準流量にて測定されている。基準流量以外の流量で検体ガスを導入する場合であっても、得られる特性値に校正係数をかけることにより、基準流量における特性値に補正することができる。このような検体ガスの流量の補正は、化学物質検出装置がガス流量制御手段を有しない場合や検体ガスの流量が少なすぎて基準流量を確保できない場合に有効である。
【0132】
表10は、NOを検出するセンサ素子101aの場合を示しているが、センサ素子の種類により流量特性は異なるため、上記した相対湿度に基づく補正の場合と同様に、センサ素子ごことに上記関係式を求めておく。また、検体ガス中の目的化学物質濃度によっても、流量特性が異なるため、各濃度ごとに上記関係式を求めておくことが好ましい。
【0133】
<実施例2>
ヒト呼気中の目的化学物質の濃度を測定するために好適に用いられる、下記の構成を有する化学物質検出装置3を作製し、下記方法にて呼気分析実験を行なった。
【0134】
(化学物質検出装置の構成)
(1)化学物質検出装置の全体構成
図14は、実施例2で作製した化学物質検出装置3を模式的に示す斜視図(図14(a))および断面図(図14(b))である。本実施例で作製した化学物質検出装置3は、チャンバ11内の上部に配置されたセンサアレイ10aが、COを検出するためのセンサ素子101cに加えて、ペンタンを検出するためのセンサ素子101dをさらに備えること以外は、基本的に実施例1の化学物質検出装置2と同様である。すなわち、この化学物質検出装置3は、目的化学物質として、NO、CO、H22およびペンタンを検出する化学物質検出装置である。
【0135】
(2)センサ素子の配置
チャンバ11内の上部に設置されたセンサアレイ10aが備えるセンサ素子101cは、COを検出するためのセンサ素子であり、センサ素子101dは、ペンタンを検出するためのセンサ素子である。センサ素子101cには、センサ温度制御手段102としての白金ヒータが設けられている。また、チャンバ11内の下部に設置されたセンサアレイ10bが備えるセンサ素子101aおよび101bは、それぞれNO、H22を検出するためのセンサ素子である。センサアレイ10aにおいて、センサ素子101cおよび101dは、ガス導入口12aとガス排出口13aと結ぶ直線の直上に配置されており、COを検出するためのセンサ素子101cがよりガス導入口12aに近くに配置されており、ペンタンを検出するためのセンサ素子101dがよりガス排出口13aに近くに配置されている。同様に、センサアレイ10bにおいて、センサ素子101aおよび101bは、ガス導入口12aとガス排出口13aと結ぶ直線の直下に配置されており、NOを検出するためのセンサ素子101aがよりガス導入口12aに近くに配置されており、H22を検出するためのセンサ素子101bがよりガス排出口13aに近くに配置されている。このような4種のセンサ素子の配置は、チャンバ内の雰囲気ガスである空気に対する目的化学物質の比重を考慮して決定されており、センサ素子101d以外については既に述べた。上記した表2に示されるように、ペンタン、COおよび空気は、比重の大きい順に並べると、空気(比重1)>CO>ペンタンとなるため、ペンタンを検出するセンサ素子101dは、上部のセンサアレイに配置し、かつ、COよりも比重が小さく、より遠くまで運ばれやすいことから、COを検出するセンサ素子101cより下流側(ガス排出経路13により近い側)に配置することとした。上部のセンサアレイ10aにおいて、センサ素子101cに設けられた白金ヒータの加熱が、センサ素子101dに悪影響を与えないように、センサ素子101cとセンサ素子101dとの間に位置する基板に、断熱手段103として、幅5mm×深さ5mmの長方形状の溝を形成した。
【0136】
(3)NOを検出するセンサ素子
本実施例の化学物質検出装置3で用いたNOを検出するセンサ素子101aは、実施例1の化学物質検出装置2で用いたCoPcにより表面修飾されたカーボンナノチューブからなるセンシング部を備えるナノ構造体センサと同じセンサ素子である。
【0137】
(4)COを検出するセンサ素子
本実施例では、COを検出するセンサ素子101cとして、図4に示される構造を有し、センシング部を構成する金属酸化物として酸化スズを用いた半導体センサを用いた。
【0138】
(5)H22を検出するセンサ素子
本実施例の化学物質検出装置3で用いたH22を検出するセンサ素子101bは、実施例1の化学物質検出装置2で用いた過酸化水素センサユニットと同じセンサ素子である。
【0139】
(6)ペンタンを検出するセンサ素子
ペンタンがCu(II)フタロシアニン(以下、CuPc)中のCuに吸着することが検証されたことから、ペンタンを検出するセンサ素子101dには、Cu(II)フタロシアニンにより表面修飾されたカーボンナノチューブからなるセンシング部を備えるナノ構造体センサを選択した。ペンタンを検出するセンサ素子101dの作製手順は、CoPcに代えて、CuPc粉末(和光純薬社製)を用いたこと以外は、実施例1で用いたNOを検出するセンサ素子と同様とした。
【0140】
(7)参照センサ、マスフローコントローラおよびデジタルマルチメータ
参照センサ14、マスフローコントローラ16cおよびデジタルマルチメータ21は、実施例1と同じものである。デジタルマルチメータ21には、USBインターフェース22を介してコンピュータ20が接続されている。コンピュータ20は、図8に示されるように、データを送受信するインターフェース201、計算を行なうCPU202およびデータを蓄積するデータ記憶部203を含む。
【0141】
(各センサ素子の信号変化に基づく目的化学物質濃度の算出)
各センサ素子から送信された信号変化(センサ素子101a、101cおよび101dについては、センサ素子全体の抵抗値の変化であり、センサ素子101bについては、電流計68が示す電流値の変化である。)を、目的化学物質の検体ガス中における濃度に換算するために、実施例1と同様にして、あらかじめ呼気分析実験前に、各センサ素子について、様々な目的化学物質濃度における信号変化を測定し、これより、各センサ素子における、そのセンサ素子が検出する目的化学物質の濃度と、そのセンサ素子の特性値yとの関係式(検量線)を作成した。
【0142】
なお、検量線作成において、試験ガスとしては、実施例1と同様に、N279%、O216%およびCO25%からなる混合ガス(相対湿度は0である)を用いた。試験ガスの流量は、500ml/minとした。
【0143】
表11および12はそれぞれ、COを検出するセンサ素子101c、ペンタンを検出するセンサ素子101dについて、上記方法により測定された種々の目的化学物質濃度におけるセンサ素子の特性値yを示している。
【0144】
【表11】

【0145】
【表12】

【0146】
上記表11および12のデータに基づき、最小二乗法を用いて、下記式(7)および(8)で示される、試験ガスに含まれる目的化学物質の濃度x(単位:ppb)とセンサ素子の特性値y(単位:%)との直線近似関係式(検量線)を求めた。
【0147】
〔COを検出するセンサ素子101c〕
CO=−0.010498xCO (7)
(式中、xCOは、検体ガスに含まれるCOの濃度、すなわち、COの体積/(COの体積+試験ガスの体積)[ppb]を示し、yCOは、COを検出するセンサ素子101cのそのCO濃度における特性値[%]である。下記(8)についても同様。)
〔ペンタンを検出するセンサ素子101d〕
pentane=−0.014897xpentane (8)
NOを検出するセンサ素子101aおよびH22を検出するセンサ素子101bについては、上記式(2)および(4)を本実施例でも用いた。
【0148】
(検出ガスの湿度データに基づく補正)
得られる目的化学物質濃度の正確性をより向上させるために、実施例1と同様にして、COを検出するセンサ素子101cおよびペンタンを検出するセンサ素子101dについて、目的化学物質濃度を固定し、特性値yと検体ガスの相対湿度との関係式(検量線)を作成した。結果を表13および表14に示す。なお、検量線作成において、試験ガスとしては、上記と同様、N279%、O216%およびCO25%からなる混合ガス(ただし、表12および13に示される相対湿度を示す水分を含有する)を用いた。
【0149】
【表13】

【0150】
【表14】

【0151】
上記表13および14のデータに基づき、最小二乗法を用いて、下記式(9)および(10)で示される、検体ガスの相対湿度RH(単位:%)とセンサ素子の特性値y(単位:%)との直線近似関係式(検量線)を求めた。
【0152】
〔COを検出するセンサ素子101c〕
y’CO=yCO,RH=0−0.008895RH (9)
(式中、RHは、検体ガス(試験ガス+水分+CO)の相対湿度[%]を示す。y’COは、検体ガスの相対湿度がRH[%]である場合におけるCOを検出するセンサ素子101cの特性値[%]を示す。また、yCO,RH=0は、相対湿度が0である場合における特性値[%]を示す。下記式(10)についても同様。)
〔ペンタンを検出するセンサ素子101d〕
y’pentane=ypentane,RH=0−0.02204RH (10)
NOを検出するセンサ素子101aについては、上記式(5)を本実施例でも用いた。
【0153】
(多変量解析による目的化学物質濃度の補正)
本実施例で用いるNOを検出するセンサ素子101aおよびH22を検出するセンサ素子101bは、それぞれNO、H22に対して選択的に感度を示し、他の物質に対しては感度を示さない。一方、本実施例のCOを検出するセンサ素子101cは、ペンタンに対しても感度を示し、また、ペンタンを検出するセンサ素子101dは、COに対してもやや感度を示す。すなわち、これら2つのセンサ素子は、目的とする化学物質以外のガス(妨害ガス)に対しても特性値を示す。したがって、このような2種以上の物質に感度を示すセンサ素子を複数用いる場合には、それぞれのセンサ素子が対象とする目的化学物質の濃度を正確に算出するために、多変量解析を用いてデータを横断的に解析し、結果を補正することが好ましく、本実施例においては、重回帰分析による補正を行なった。詳細は次のとおりである。
【0154】
表15および表16に、相対湿度0%における、ペンタンを検出するためのセンサ素子101dおよび、COを検出するためのセンサ素子101cの、様々な濃度のペンタンとCOとの混合気体に対する特性値を示した。表15は、実測値から得られた生データそのままであり、表16は、これらのデータを標準化した場合のデータである。標準化とは、あるデータ値とそのデータ集の平均を、そのデータ集の分散で割ることで規準化することを意味しており、回帰分析の際、データ間のスケールが大きく異なる場合や、データ間の単位が異なる場合に通常実施される。表16のデータを重回帰分析すると、下記式(11)および(12)で示される回帰方程式が得られた。
【0155】
【表15】

【0156】
【表16】

【0157】
〔COを検出するセンサ素子101c〕
y’’CO=−8.4574xCO−28.4427xpentane (11)
(式中、y’’COは、COを検出するセンサ素子101cの、RH=0%における妨害ガス(ペンタン)の影響を含めた特性値であり、xCO、xpentaneはそれぞれ、検体ガスに含まれるCO、ペンタンの濃度である。これらはすべて標準化後の値である。下記式(12)についても同様。)
〔ペンタンを検出するセンサ素子101d〕
y’’pentane=−5.349747xCO−64.8568xpentane (12)
したがって、参照センサ14から得られる検体ガスの相対湿度RH(%)を上記式(9)のRHに代入し、呼気分析実験において実測されるCOを検出するセンサ素子101c特性値を同式のy’COに代入することにより、相対湿度が0である場合における特性値yCO,RH=0を算出し、また、参照センサ14から得られる検体ガスの相対湿度RH(%)を上記式(10)のRHに代入し、呼気分析実験において実測されるペンタンを検出するセンサ素子101d特性値を同式のy’pentaneに代入することにより、相対湿度が0である場合における特性値ypentane,RH=0を算出し、これらをそれぞれ、上記式(11)、(12)のy’’CO、y’’pentaneに代入して、方程式を解くことにより、検体ガスに含まれる水分および妨害ガスに起因する特性値が排除された正確なCO濃度およびペンタン濃度を得ることができる。なお、NO濃度およびH22濃度の算出については、実施例1と同様である。
【0158】
上記回帰方程式(11)および(12)の、実測値とのフィッティングを表す自由度調整済み決定係数は、センサ素子101cで0.888、センサ素子101dで0.887となり、この回帰方程式と実測値とが非常によい相関をもつことを示した。
【0159】
なお、本実施例においては、CO濃度およびペンタン濃度の算出に、上記回帰方程式(11)および(12)を用いるため、上記した式(7)および(8)は用いていない。
【0160】
(化学物質検出装置を用いた呼気分析実験)
実施例1と同様の呼気分析実験を行ない、上記式(2)、(4)、(5)、(9)〜(12)を用いて、NO、CO、H22およびペンタン濃度を算出した。
【0161】
<参考例2>
CO濃度およびペンタン濃度の算出に、上記回帰方程式(11)および(12)を用いず、上記式(7)および(8)を用いたこと(すなわち、センサ素子101cおよび101dの特性値への妨害ガスの影響を考慮しなかったこと)を除いては、実施例2と同様にしてNO、CO、H22およびペンタン濃度を算出した。
【0162】
<参考例3>
上記実施例2および参考例2で得られた各目的化学物質濃度の正確性を評価するために、テドラーバッグ30内のヒト呼気中の実際のNO濃度、CO濃度、H22濃度およびペンタン濃度を、それぞれ下記の装置を用いて定量した。
NO濃度:日本サーモ社製NO濃度測定装置、
CO濃度:島津製作所社製GC−FID、
22濃度:GLサイエンス社製HPLC+ECD、
ペンタン濃度:JEOL社製GC−MS。
【0163】
実施例2および参考例2のNO用センサ素子(センサ素子101a)、CO用センサ素子(センサ素子101c)、H22用センサ素子(センサ素子101b)およびペンタン用センサ素子(センサ素子101d)の実測された特性値、ならびに参照センサ14から得られたヒト呼気の相対湿度を表17に示す。これらの実測データは、実施例2および参考例2で共通である。
【0164】
【表17】

【0165】
また、表18に、表17に示される実測された特性値から、上記式上記式(2)、(4)、(5)、(9)〜(12)に基づいて算出されるNO、CO、H22およびペンタンのヒト呼気中の濃度を示す(実施例2)。表18には、上記参考例2および3で測定した、NO、CO、H22およびペンタンの実際の濃度も併せて示している。表18に示されるように、センサ素子の低選択性を考慮せず、センサ素子101cおよびセンサ素子101dにおける抵抗値変化を、単一の化学物質に起因する変化として捉えてデータ処理を行なうと、より正確な濃度が得られにくいことがわかる。
【0166】
【表18】

【0167】
<実施例3>
ヒト呼気中の複数の呼気中疾病マーカ物質を定量する化学物質検出装置(疾病診断装置)を構築し、実施例2と同じヒト呼気を検体として疾病を診断する実験を行なった。
【0168】
(疾病診断装置の構成)
図15は、本実施例の疾病診断装置を模式的に示す図である。この疾病診断装置は、上記実施例2の化学物質検出装置3とほぼ同様の構成を有するものであるが、コンピュータ20がデータベースを蓄積するためのデータベース部204を有しており(図15(a)参照)、このデータベース部204に、複数の呼気中疾病マーカ物質と疾病との関連性を疾患別にレーダーチャート化したデータベースがあらかじめ蓄積されている点が特徴である。このデータベースは、その疾病であると一般的に判断できる、複数の呼気中疾病マーカ物質の最小濃度(閾値濃度)が、疾患別に、かつそれぞれの疾病ごとにレーダーチャート化されたデータベースである。
【0169】
本実施例の疾病診断装置は、上記実施例2の化学物質検出装置3と同じく、NOを検出するセンサ素子101a、H22を検出するセンサ素子101b、COを検出するセンサ素子101cおよびペンタンを検出するセンサ素子101dを、同じ配置構成で有している。これら4種の化学物質はいずれも、肺疾患に関連付けられる呼気中疾病マーカ物質である。
【0170】
(疾病診断実験)
実施例2と同じヒト呼気を検体として実施例2と同様にして呼気分析実験を行ない、各センサ素子の特性値を実測した。結果は、表19のとおりである。この実測された特性値は、上記表17に記載のものと同じである。
【0171】
【表19】

【0172】
上記実測の特性値に基づき、実施例2と同様にして、適切に補正されたヒト呼気中のNO、CO、H22およびペンタン濃度を算出した。結果を表20に示す。この結果は、上記表17に記載のものと同じである。なお、表20には、後述する参考例4の疾病診断装置を用いて得られた呼気中疾病マーカ物質濃度、および上記した参考例3で得られた呼気中疾病マーカ物質濃度を併せて示している。
【0173】
【表20】

【0174】
上記呼気分析により得られたヒト呼気中のNO、CO、H22およびペンタン濃度をレーダーチャート化し、これをデータベース部204内の疾患別レーダーチャートと比較することにより、最も近接したパターンを持つ疾病を選定した。次に、呼気分析により得られた各呼気中疾病マーカ物質濃度と、選定した疾病における呼気中疾病マーカ物質の閾値濃度とを比較し、疾病危険性を5段階のレベルで評価した。
【0175】
<参考例4>
呼気中疾病マーカ物質として、NOおよびペンタンの2種類のみを採用し、これら2種類の呼気中疾病マーカ物質濃度に基づいて、疾病の選定および疾病危険性の評価を行なったこと以外は、実施例3と同様にして疾病診断実験を行なった。
【0176】
〔実施例3および参考例4の疾病診断実験の結果および評価〕
表21に、肺疾患に属する喘息、COPD(慢性閉塞性肺炎)、CF(嚢胞性線維症)および肺がんにおける呼気中疾病マーカ物質の閾値濃度、および、健常時におけるこれらの呼気中疾病マーカ物質濃度を示す。また、表21には、実施例3および参考例4で得られた各呼気中疾病マーカ物質のヒト呼気中の実測濃度を併せて示している。なお、表21中の「Ave.」とは、疾病を患っていない状態、すなわち健常時と同等レベルであることを示す。
【0177】
【表21】

【0178】
表22は、健常時における呼気中疾病マーカ物質濃度を1とし、各呼気中疾病マーカ物質の閾値濃度ならびに、実施例3および参考例4で得られた各呼気中疾病マーカ物質のヒト呼気中の実測濃度を健常時における呼気中疾病マーカ物質濃度に対する比として換算したときの数値である。また、図16は、表22に示される各呼気中疾病マーカ物質の閾値濃度の、健常時における呼気中疾病マーカ物質濃度に対する比(図16(a)〜(d))、ならびに、実施例3および参考例4で得られた各呼気中疾病マーカ物質のヒト呼気中の実測濃度の、健常時における呼気中疾病マーカ物質濃度に対する比(図16(e)および(f))をレーダーチャート化したものである。
【0179】
【表22】

【0180】
図16(e)に示される実施例3で得られた実測呼気中疾病マーカ物質濃度のレーダーチャートと、各肺疾患のレーダーチャート(図16(a)〜(d))とを比較すると、図16(e)のレーダーチャートのパターンは、図16(b)のパターンに最も近接していることから、被験者の疾病は、肺疾患のなかでも、COPDであることが十分に推察される。一方、図16(f)に示される参考例4のレーダーチャートパターンによっては、測定する呼気中疾病マーカ物質の種類が少ないため、COPDであるのか、あるいは他の肺疾患であるのか判断が困難である。
【0181】
次に、実施例3で得られた実測呼気中疾病マーカ物質濃度と、COPDにおける呼気中疾病マーカ物質の閾値濃度とを比較したところ、COにおいて実測値が閾値濃度を超えており、また、ペンタンにおいては、実測値が閾値濃度に極めて近い値であることから、「レベル3(疾病危険性中)」と診断された。一方、参考例4の場合には、肺疾患の種類を判断することが困難であることから、疾病危険性を評価することが困難である。このように、同類の疾患に属する、異なる疾病を正確に区別して、その疾病危険性を評価するためには、測定する呼気中疾病マーカ物質の種類を多くすることが好ましい。
【0182】
本発明は、上記実施の形態および実施例に限定されるものではない。適宜変更して実施することができることは勿論である。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明により、小型で簡便、かつ、検体ガス中の複数の目的化学物質を高精度に測定可能な化学物質検出装置の提供が可能となる。さらに、かかる化学物質検出装置は、ヒト呼気中の複数の呼気中疾病マーカ物質を定量して、疾病を高精度で診断する疾病診断装置に好適に適用できる。その結果、従来に無かった小型で、簡便に、非侵襲かつ、高精度な疾患診断装置の提供が可能となり、予防医療社会の実現に向けた着実な進歩が確認された。
【符号の説明】
【0184】
1,2,3 化学物質検出装置、10,10a,10b センサアレイ、11 チャンバ、12 ガス導入経路、12a ガス導入口、13 ガス排出経路、13a ガス排出口、14 参照センサ、15 導線、16a 抵抗管、16b 選択透過膜、16c マスフローコントローラ、16d 定流量ポンプ、20 コンピュータ、21 デジタルマルチメータ、22 USBインターフェース、30 テドラーバッグ、31 マウスピース、32 ガスタイトシリンジ、60 専用ホルダ、61 二酸化マンガン固定化膜、62 金属部、63 ペルチェ素子、64 酸素選択透過膜、65 Pt電極、66 Ag電極、67 電解液、68 電流計、70 溶存酸素センサ、71 検体ガス凝縮液、100 基板、101,101a,101b,101c,101d センサ素子、102 センサ温度制御手段、103 断熱手段、104 正極、105 負極、106 センシング部、107 絶縁体、108 定抵抗、109 金属錯体、201 インターフェース、202 CPU、203 データ記憶部、204 データベース部、301 Aバルブ、302 Bバルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体ガスに含まれる化学物質の濃度を測定する化学物質検出装置であって、
ガス導入口およびガス排出口を有するチャンバと、
前記ガス導入口に接続された、前記検体ガスを前記チャンバ内に導入するためのガス導入経路と、
前記ガス排出口に接続された、前記検体ガスを前記チャンバから排出するためのガス排出経路と、
前記チャンバ内に配置された、前記化学物質を検出するためのセンサ素子を基板上に配置してなる1または2以上のセンサアレイと、
前記センサ素子からの信号を受信する信号受信手段と、
を備える化学物質検出装置。
【請求項2】
検体ガスに含まれる複数の化学物質の濃度を測定する化学物質検出装置であって、
前記チャンバ内に配置された1または2以上のセンサアレイは、総計で2以上の前記センサ素子を備える請求項1に記載の化学物質検出装置。
【請求項3】
前記検体ガスの物理的状態を検知する参照センサをさらに備える請求項1または2に記載の化学物質検出装置。
【請求項4】
前記参照センサは、前記ガス導入経路内部に設置される請求項3に記載の化学物質検出装置。
【請求項5】
前記参照センサは、前記検体ガスの温度を検知する温度センサ、相対湿度を検知する湿度センサ、または、温度および/もしくは相対湿度を検知する温湿度センサである請求項3または4に記載の化学物質検出装置。
【請求項6】
前記参照センサは、前記検体ガスの流量を検知するセンサである請求項3または4に記載の化学物質検出装置。
【請求項7】
前記センサ素子からの信号に基づいて算出される前記化学物質の濃度は、前記参照センサにより得られる前記検体ガスの物理的状態に関する情報に基づいて補正される請求項3〜6のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項8】
前記チャンバは、その側面に前記ガス導入口および前記ガス排出口を有しており、
前記センサアレイの少なくとも1つは、前記ガス導入口および前記ガス排出口よりも低い位置または高い位置に配置される請求項2〜7のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項9】
前記チャンバ内に配置された2つのセンサアレイを備え、
一方のセンサアレイは、前記ガス導入口および前記ガス排出口よりも低い位置に配置され、
他方のセンサアレイは、前記ガス導入口および前記ガス排出口よりも高い位置に配置される請求項8に記載の化学物質検出装置。
【請求項10】
前記検体ガスは、前記チャンバ内の雰囲気ガスよりも比重の小さい前記化学物質を含み、
前記2以上のセンサ素子のうち、いずれか1以上のセンサ素子は、前記ガス導入口および前記ガス排出口よりも高い位置に配置されたセンサアレイの基板上に配置される請求項8または9に記載の化学物質検出装置。
【請求項11】
前記検体ガスは、前記チャンバ内の雰囲気ガスよりも比重の大きい前記化学物質を含み、
前記2以上のセンサ素子のうち、いずれか1以上のセンサ素子は、前記ガス導入口および前記ガス排出口よりも低い位置に配置されたセンサアレイの基板上に配置される請求項8〜10のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項12】
前記検体ガスは、比重の異なる2種以上のガス状の前記化学物質を含み、
少なくとも1つのセンサアレイは、2以上のセンサ素子を備え、
前記2以上のセンサ素子は、より比重の大きい化学物質を検出するためのセンサ素子が、より前記ガス導入口に近い位置になるように配置される請求項8〜11のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項13】
前記センサ素子は、半導体センサまたはナノ構造体センサを含む請求項1〜12のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項14】
前記ナノ構造体センサは、その前記化学物質を検出する部位がカーボンナノチューブから構成される請求項13に記載の化学物質検出装置。
【請求項15】
前記ナノ構造体センサは、その前記化学物質を検出する部位が金属錯体によって表面修飾されたカーボンナノチューブから構成される請求項13に記載の化学物質検出装置。
【請求項16】
少なくとも1つのセンサアレイは、その基板上に配置されたいずれか1以上のセンサ素子の温度を制御するセンサ温度制御手段を備える請求項1〜15のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項17】
前記センサ温度制御手段は、加熱素子または冷却素子を含む請求項16に記載の化学物質検出装置。
【請求項18】
少なくとも1つのセンサアレイは、2以上のセンサ素子と前記冷却素子とを有し、
前記冷却素子により温度制御されるセンサ素子は、前記センサアレイが有する他のセンサ素子よりも、より前記ガス排出口に近い位置に配置される請求項17に記載の化学物質検出装置。
【請求項19】
少なくとも1つのセンサアレイは、2以上のセンサ素子を有し、
隣り合う前記センサ素子同士を熱的に隔てる断熱手段をさらに備える請求項16〜18のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項20】
前記断熱手段は、前記隣り合うセンサ素子の間に位置する基板内に介在された断熱材または前記隣り合うセンサ素子の間に位置する基板に形成された溝を含む請求項19に記載の化学物質検出装置。
【請求項21】
前記チャンバ内を流通する前記検体ガスの流量を制御するガス流量制御手段をさらに備える請求項1〜20のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項22】
前記ガス流量制御手段は、抵抗管、選択透過膜、マスフローコントローラまたは定流量ポンプである請求項21に記載の化学物質検出装置。
【請求項23】
いずれかの前記センサ素子からの信号に基づいて算出される前記化学物質の濃度は、該センサ素子の検出対象である化学物質以外の物質が該センサ素子の信号に与える影響に関する情報に基づいて補正される請求項1〜22のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項24】
ヒト呼気に含まれる化学物質の濃度を測定する化学物質検出装置であって、
前記化学物質の濃度と疾病との関連性を示す疾病データベースをさらに備える請求項1〜23のいずれかに記載の化学物質検出装置。
【請求項25】
前記疾病データベースを参照して、得られた前記化学物質の濃度値から、被験者の疾病を診断可能に構成される請求項24に記載の化学物質検出装置。
【請求項26】
ヒト呼気に含まれる複数の化学物質の濃度を測定する化学物質検出装置であって、
前記複数の化学物質は、NO、COおよびH22を含む請求項24または25に記載の化学物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−112651(P2012−112651A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71438(P2009−71438)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】