説明

化学物質発光評価方法及びその方法を実行する化学物質発光評価装置

【課題】 化学物質の発光を短時間で容易に評価することができる化学物質発光評価方法を提供する。
【解決手段】 第一の化学物質に電荷を注入することにより、ラジカルカチオンである第二の化学物質に変化させる第一変化ステップと、ラジカルカチオンである第二の化学物質に電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質に変化させる第二変化ステップと、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質が、基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質に変化する際に発光した光を検出する測定ステップとを含む化学物質発光評価方法であって、第一変化ステップにおいて、第一の化学物質をチューブに入れるとともに、第一の化学物質が入れられたチューブにX線を照射することで、第一の化学物質に電荷を注入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の発光を評価する化学物質発光評価方法及びその方法を実行する化学物質発光評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネセンス(EL)素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプ等の代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途に注目されており、また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されている。特に、素子材料が有機材料によって構成されている有機EL素子は、低消費電力型のFPDとして製品化が進んできている。
しかし、有機EL素子について、これまで精力的に研究が行われてきたが、発光効率が低いので、フルカラーディスプレイを構築する上で、障害となっている。
【0003】
このような問題を解決する一つの手段として、励起三重項からのりん光を利用する有機EL素子の検討がなされている。励起三重項からのりん光を利用できれば、励起一重項からの蛍光を利用した場合に比べ原理的に少なくとも3倍の発光量子収率が期待できる。さらに、エネルギー的に高い励起一重項からのエネルギー的に低い励起三重項への項間交差による励起子の利用も考え合わせると、原理的には蛍光のみを利用した場合の25%の発光量子収率に比べ4倍、すなわち100%の発光量子収率が利用できる。
【0004】
そこで、励起三重項からのりん光を利用する有機EL素子が開示されている(例えば、特許文献1参照)。図2は、有機EL素子の発光方法の一例を説明するための図である。
第一の化学物質「化合物1」に電荷を注入することにより、「化合物1」を経てラジカルカチオンである第二の化学物質「化合物2」に変化させ、その後、第二の化学物質「化合物2」に電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造(励起三重項)を有する第三の化学物質「化合物2」に変化させ、さらに、第三の化学物質「化合物2」が、基底ビラジカル構造(基底三重項)を有する第四の化学物質「化合物2」に変化する際に、光を発光させている。
なお、基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質「化合物2」は、第一の化学物質「化合物1」に変化することになる。つまり、発光すると、第一の化学物質「化合物1」に戻る。
【0005】
ここで、第一の化学物質「化合物1」は、環状構造を有し、第二の化学物質「化合物2」と第三の化学物質「化合物2」と第四の化学物質「化合物2」とは、環状構造が開環した化学構造を有する。
具体的には、環状構造を有する第一の化学物質「化合物1」として、シクロプロパン、メチレンシクロプロパン、ビシクロプロパン等の小員環化合物類や、ヘキサジエン等のジオレフィン類等が挙げられる。また、小員環化合物類は、単環式であっても多環式であってもよい。
【0006】
このような有機EL材料の発光を評価する化学物質発光評価方法では、試験体を作製することになる。図6は、試験体の一例を示す側面図である。
試験体Sは、膜厚120nmのカソード(陰極)と、膜厚100nmのエレクトロルミネセント層と、アノード(陽極)と、透明基体(例えば、ガラスや透明ポリマー等)とがこの順に積層されたものである。
エレクトロルミネセント層は、例えば、8重量%の第一の化学物質「化合物1」と77重量%のポリビニルカルバゾールと15重量%の2-(4-ビフェニル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾールとを含有するものである。
カソードの材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金等が挙げられる。また、アノードとしては、透明基体上に、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)を形成したもの等が挙げられる。
【0007】
そして、まず、第一変化ステップにおいて、第一の化学物質「化合物1」にアノードからの正孔(電荷)を注入することにより、速やかに結合開裂反応を起こすことによって第二の化学物質「化合物2」に変化させる。
次に、第二変化ステップにおいて、第二の化学物質「化合物2」にカソードからの電子(電荷)を再結合させることにより、第三の化学物質「化合物2」に変化させる。
次に、測定ステップにおいて、第三の化学物質「化合物2」が第四の化学物質「化合物2」に変化する際に発光した光を検出器(トプコン社製、商品名「SR−3」)で検出する。
その後、第三変化ステップにおいて、第四の化学物質「化合物2」が速やかに結合生成反応を起こすことによって第一の化学物質「化合物1」に変化することになる。
【0008】
しかしながら、有機EL材料を開発するたびに、その有機EL材料の発光を評価するために、試験体Sを作製することは、非常に手間がかかった。
そこで、有機EL材料を開発しても試験体Sを作製せずに、γ線を用いて有機EL素子の発光を簡単に評価する化学物質発光評価方法がある。図7は、γ線装置の概略構成を示すブロック図である。
このような化学物質発光評価方法に使用されるγ線装置50は、γ線を照射するγ線光源部51と、光を検出するマルチチャンネル検出器(浜松フォトニクス社製、商品名「PMA11」)12と、γ線光源部51の設定軸(X方向)上に配置される合成石英製セル53と、合成石英製セル53が配置される空間を有するデュワー瓶14aと、γ線光源部51とマルチチャンネル検出器と合成石英製セル53とデュワー瓶14aとを内部に配置する防護壁55と、γ線装置50を制御する制御部60とを備える。
【0009】
合成石英製セル53のY方向の大きさは、1.0cm以上1.5cm以下となっており、X方向の大きさは、1.0cm以上1.5cm以下となっている。
このような合成石英製セル53の内部に、5mmol/Lの第一の化学物質「化合物1」と溶媒とを入れて、その後、脱気している。
なお、溶媒としては、例えば、1-クロロブタン、2-メチルテトラヒドロフラン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0010】
デュワー瓶14aの空間には、液体窒素等が入れられるようになっている。これにより、デュワー瓶14aの空間の温度を−196℃以上−190℃以下とすることができるようになっている。
防護壁55は、人体がγ線を浴びると非常に危険なため、鉛、鉄、コンクリート等で形成されるとともに、使用者が操作する制御部60とは別室となるように配置されている。
制御部60は、CPU61やメモリ22を備え、さらにモニタ画面等を有する表示装置23と、キーボードやマウス等を有する入力装置24とが連結されている。
また、CPU61が処理する機能をブロック化して説明すると、入力装置24からの信号に基づいてγ線光源部51を制御するγ線光源部制御部61aと、マルチチャンネル検出器12を制御する検出器制御部61bとを有する。
【0011】
このようなγ線装置50によれば、使用者は、準備段階(P’)として第一の化学物質「化合物1」を入れた合成石英製セル53をデュワー瓶14aを用いて液体窒素等で−196℃に冷却し、溶媒を凍結した後、防護壁55の内部のγ線光源部51の設定軸(X方向)上に配置することになる。
そして、まず、第一変化ステップ(A’)において、γ線光源部制御部61aが第一の化学物質「化合物1」にγ線を40時間、照射することで、電荷を注入することにより、第二の化学物質「化合物2」に変化させる。
次に、第二変化ステップ(B’)において、合成石英製セル53の温度が自然に約−143℃に上昇することで、溶媒が溶解して、第二の化学物質「化合物2」に電荷を再結合させることにより、第三の化学物質「化合物2」に変化させる。
次に、測定ステップ(C)において、検出器制御部61bが第三の化学物質「化合物2」が、第四の化学物質「化合物2」に変化する際に発光した光を検出する。
その後、第三変化ステップ(D)において、第四の化学物質「化合物2」が第一の化学物質「化合物1」に変化することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−62677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述したようなγ線装置50を用いると、試験体Sを作製せずに、合成石英製セル53の内部に有機EL材料を入れるだけで評価を行え、容易に評価することができるが、γ線装置50そのものが全国に数箇所しか存在しないため、γ線装置50を用いて容易に評価することができないという問題点があった。
また、γ線装置50を使用することができたとしても、1つの有機EL材料に長時間(例えば、40時間)の照射時間が必要であるという問題点もあった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本件発明者らは、上記課題を解決するために、有機EL素子の発光を評価する化学物質発光評価方法について検討を行った。
まず、γ線装置50は全国に数箇所しか存在しないが、X線装置は各大学に数台存在しうることに注目した。しかし、X線のPhoton Energy(0.1〜100keV)は、γ線のPhoton Energy(3MeV)と比較して低い。だが、γ線はγ線光源部51から360°に放射されるのに対して、X線はX線光源部から極めて小さな照射範囲(例えば、0.5cm以上2.0cm以下)に放射されることができるものがある。その結果、小さな範囲に放射されるX線を用いて有機EL素子の発光を評価することができる上に、小さな範囲に放射されるX線を用いた方が短時間(例えば、2時間)の照射時間で実施することができることを見出した。
また、小さな照射範囲(例えば、0.5cm以上2.0cm以下)にX線を放射することができるので、第一の化学物質「化合物1」を入れるための容器(合成石英製セル)の大きさを小さくすることができ、その結果、容器内の温度を均一に容易に保持することができることがわかった。これにより、小さな範囲に放射されるX線を用いた方が正確に実施することができることも見出した。
【0015】
すなわち、本発明の化学物質発光評価方法は、第一の化学物質に電荷を注入することにより、ラジカルカチオンである第二の化学物質に変化させる第一変化ステップと、ラジカルカチオンである第二の化学物質に電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質に変化させる第二変化ステップと、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質が、基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質に変化する際に発光した光を検出する測定ステップとを含む化学物質発光評価方法であって、前記第一変化ステップにおいて、第一の化学物質と溶媒とをチューブ内に入れるとともに、第一の化学物質が入れられたチューブに、照射面積が0.5cm以上2.0cm以下となるX線を照射することで、第一の化学物質に電荷を注入するようにしている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の化学物質発光評価方法によれば、X線を用いるので、γ線を用いるときと比較して、安全である上に、化学物質の発光を短時間で容易に評価することができる。
【0017】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の化学物質発光評価方法は、前記第一変化ステップにおいて、第一の化学物質の濃度が、15mmol/L以上25mmol/L以下となるように、前記チューブ内に入れるようにしてもよい。
また、本発明の化学物質発光評価方法は、前記第一変化ステップでは、第一の化学物質に電荷を注入することにより、ラジカルカチオンである第二の化学物質と、ラジカルアニオンである第五の化学物質とに変化させ、前記第二変化ステップにおいて、ラジカルカチオンである第二の化学物質に、ラジカルアニオンである第五の化学物質からの電荷を再結合させるようにしてもよい。
【0018】
また、本発明の化学物質発光評価方法は、前記第一変化ステップにおいて、前記チューブの温度を、−196℃以上−190℃以下とすることにより、溶媒を凍結し、前記第二変化ステップにおいて、前記チューブの温度を、−143℃以上−133℃以下とすることにより、溶媒を溶解させて、ラジカルカチオンである第二の化学物質に、ラジカルアニオンである第五の化学物質からの電荷を再結合させるようにしてもよい。
本発明の化学物質発光評価方法によれば、チューブの温度を制御するが、チューブの大きさを小さくすることができ、チューブの温度を正確に制御することができるので、その結果、化学物質の発光を正確に評価することができる。
また、本発明の化学物質発光評価方法は、第一の化学物質は、環状構造を有し、第二の化学物質、第三の化学物質及び第四の化学物質は、環状構造が開環した化学構造を有し、環状構造を有する第一の化学物質に電荷を注入することにより、環状構造が開環した化学構造を有する第二の化学物質に変化させる第一変化ステップと、環状構造が開環した化学構造を有する第四の化学物質が、環状構造を有する第一の化学物質に変化する第三変化ステップとを含むようにしてもよい。
【0019】
そして、本発明の化学物質発光評価装置は、第一の化学物質に電荷を注入することにより、ラジカルカチオンである第二の化学物質に変化させる第一変化ステップと、ラジカルカチオンである第二の化学物質に電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質に変化させる第二変化ステップと、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質が、基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質に変化する際に発光した光を検出する測定ステップとを含む化学物質発光評価方法を実行する化学物質発光評価装置であって、内部に第一の化学物質と溶媒とを入れるためのチューブと、第一の化学物質が入れられたチューブに、照射面積が0.5cm以上2.0cm以下となるX線を照射するX線光源部と、前記チューブ内の第一の化学物質からの光を検出する検出器とを備えるようにしている。
さらに、本発明の化学物質発光評価装置は、前記チューブの温度を、−196℃から25℃までの温度に少なくとも調整することが可能な温度調整機構を備えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態である化学物質発光評価装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】有機EL素子の発光方法の一例を説明するための図である。
【図3】2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパンの発光方法を説明するための図である。
【図4】有機EL素子の発光方法の他の一例を説明するための図である。
【図5】蛍光スペクトルである。
【図6】試験体の一例を示す側面図である。
【図7】γ線装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態である化学物質発光評価装置の概略構成を示すブロック図である。
化学物質発光評価装置10は、X線を照射するX線光源部11と、光を検出するマルチチャンネル検出器12と、X線光源部11の設定軸(X方向)上に配置されるチューブ13と、温度調整機構14と、X線光源部11とマルチチャンネル検出器12とチューブ13と温度調整機構14とを内部に配置する防護壁15と、化学物質発光評価装置10全体を制御する制御部20とを備える。
X線光源部11は、Photon Energyが0.1〜100keVであるとともに、小さな照射範囲(例えば、0.5cm以上2.0cm以下)でX線を設定軸(X方向)に出射するものである。
チューブ13の材料としては、例えば、合成石英スプラジル等が挙げられ、チューブ13の直径は5mm以上10mm以下となっており,Z方向の長さは、10cm以上25cm以下となっていることが好ましい.
【0023】
温度調整機構14は、チューブ13が配置される空間を有するデュワー瓶14aと、デュワー瓶14aの空間に取り付けられた熱電対14bとを有する。
デュワー瓶14aの空間には、液体窒素等が入れられるようになっている。これにより、デュワー瓶14aの空間の温度を−196℃以上−190℃以下とすることができるようになっている。
熱電対14bは、デュワー瓶14aの空間の温度を検出する。熱電対14bとしては、例えば、サーミスタ等の温度に比例する抵抗温度センサ等が挙げられる。
防護壁15は、人体がX線を浴びると少し危険なため、含鉛ガラス等で形成されるが、使用者が操作する制御部20とは同室となるように配置されている。
【0024】
制御部20は、CPU21やメモリ22を備え、さらにモニタ画面等を有する表示装置23と、キーボードやマウス等を有する入力装置24とが連結されている。
また、CPU21が処理する機能をブロック化して説明すると、入力装置23からの信号に基づいてX線光源部11を制御するX線光源部制御部21aと、マルチチャンネル検出器12を制御する検出器制御部21bとを有する。
【0025】
ここで、本発明に係る化学物質発光評価方法は、準備段階(P)と、第一の化学物質「化合物1」を第二の化学物質「化合物2」に変化させる第一変化ステップ(A)と、第二の化学物質「化合物2」を第三の化学物質「化合物2」に変化させる第二変化ステップ(B)と、第三の化学物質「化合物2」が第四の化学物質「化合物2」に変化する際に発光した光を検出する測定ステップ(C)と、第四の化学物質「化合物2」が第一の化学物質「化合物1」に変化する第三変化ステップ(D)とを含む。
なお、図2は、有機EL素子の発光方法の一例を説明するための図である。図2のような発光方法を示す第一の化学物質「化合物1」としては、シクロプロパン、メチレンシクロプロパン、ビシクロプロパン等の小員環化合物類や、ヘキサジエン等のジオレフィン類等が挙げられる。また、図3(a)は、2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパンの発光方法を説明するための図である。
【0026】
(P)準備段階
まず、第一の化学物質「化合物1」と溶媒とをチューブ13に入れて、その後、脱気する。
溶媒としては、例えば、1-クロロブタン、2-メチルテトラヒドロフラン、メチルシクロヘキサン等が挙げられる。
そして、溶媒中における第一の化学物質「化合物1」の濃度は、15mmol/L以上25mmol/L以下であることが好ましい。
最後に、第一の化学物質「化合物1」と溶媒とを入れたチューブ13をX線光源部11の設定軸(X方向)上に配置されるデュワー瓶14aの空間に配置する。
【0027】
(A)第一変化ステップ
まず、デュワー瓶14aの空間に液体窒素等を入れることにより、チューブ13の温度を−196℃以上−190℃以下とすることが好ましい。これにより、チューブ13内の溶媒が、凍結することになる。
次に、チューブ13内の第一の化学物質「化合物1」に、X線光源部制御部21aがX線光源部11からのX線を照射することで、第一の化学物質「化合物1」に電荷を注入することにより、結合開裂反応が起こり、ラジカルカチオンである第二の化学物質「化合物2」と、ラジカルアニオンである第五の化学物質「化合物2」とに変化させる。このとき、X線を照射する照射時間は、1時間以上3時間以下であることが好ましい。
【0028】
(B)第二変化ステップ
第二の化学物質「化合物2」と第五の化学物質「化合物2」と溶媒とを入れたチューブ13の温度を、−143℃以上−133℃以下とすることで、チューブ13内の溶媒が溶解することになり、第二の化学物質「化合物2」に第五の化学物質「化合物2」からの電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質「化合物2」に変化させる。
【0029】
(C)測定ステップ
励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質「化合物2」が、基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質「化合物2」に変化する際に発光した光を、マルチチャンネル検出器12で検出する。
(D)第三変化ステップ
基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質「化合物2」に、結合開裂反応が起こり、第一の化学物質「化合物1」に変化することになる。
【0030】
また、図4は、有機EL素子の発光方法の他の一例を説明するための図である。図3のような発光方法を示す第一の化学物質「化合物1」としては、メチレンシクロプロパン等が挙げられる。
【0031】
(P)準備段階
まず、第一の化学物質「化合物1」と溶媒とをチューブ13に入れて、その後、脱気する。
最後に、第一の化学物質「化合物1」と溶媒とを入れたチューブ13をX線光源部11の設定軸(X方向)上に配置されるデュワー瓶14aの空間に配置する。
(A)第一変化ステップ
まず、デュワー瓶14aの空間に液体窒素等を入れることにより、チューブ13の温度を−196℃以上−190℃以下とすることが好ましい。
次に、チューブ13内の第一の化学物質「化合物1」に、X線光源部制御部21aがX線光源部11からのX線を照射することで、第一の化学物質「化合物1」に電荷を注入することにより、結合生成反応が起こり、ラジカルカチオンである第二の化学物質「化合物2」と、ラジカルアニオンである第五の化学物質「化合物2」とに変化させる。
【0032】
(B)第二変化ステップ
第二の化学物質「化合物2」と第五の化学物質「化合物2」と溶媒とを入れたチューブ13の温度を−143℃以上−133℃以下とすることで、チューブ13内の溶媒が溶解することになり、第二の化学物質「化合物2」に第五の化学物質「化合物2」からの電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質「化合物2」に変化させる。
【0033】
(C)測定ステップ
励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質「化合物2」が、基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質「化合物2」に変化する際に発光した光を、マルチチャンネル検出器12で検出する。
(D)第三変化ステップ
基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質「化合物2」に、結合開裂反応が起こり、第一の化学物質「化合物1」に変化することになる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
<実施例1>化学物質発光評価装置10による2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」の評価(図3参照)
(P)準備段階
まず、20mmol/Lの2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」とメチルシクロヘキサンとをチューブ13に入れて、その後、脱気した。
最後に、2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」とメチルシクロヘキサンとを入れたチューブ13をX線光源部11の設定軸(X方向)上に配置されるデュワー瓶14aの空間に配置した。
(A)第一変化ステップ
まず、デュワー瓶14aの空間に液体窒素を入れることにより、チューブ13の温度を−196℃とした。これにより、チューブ13内のメチルシクロヘキサンが、凍結した。
次に、チューブ13内の2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」に、X線光源部制御部21aがX線光源部11からのX線を2時間照射することで、2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」に電荷を注入することにより、結合開裂反応が起こり、ラジカルカチオンである「化合物2」と、ラジカルアニオンである「化合物2」とに変化させた。
【0035】
(B)第二変化ステップ
チューブ13の温度を−143℃以上−133℃以下とすることで、チューブ13内のメチルシクロヘキサンが溶解することになり、「化合物2」に「化合物2」からの電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造を有する「化合物2」に変化させた。
(C)測定ステップ
励起ビラジカル構造を有する「化合物2」が、基底ビラジカル構造を有する「化合物2」に変化する際に発光した光を、マルチチャンネル検出器12で検出した。
(D)第三変化ステップ
基底ビラジカル構造を有する「化合物2」に、結合開裂反応が起こり、2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」に変化した。
【0036】
<比較例1>γ線装置50による2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」の評価(図3参照)
(P’)準備段階
まず、5mmol/Lの2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」とメチルシクロヘキサンとを合成石英製セル53に入れて、その後、脱気した。
次に、2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」とメチルシクロヘキサンとを入れた合成石英製セル53をデュワー瓶14aを用いて液体窒素で冷却することにより、合成石英製セル53の温度を−196℃とした。これにより、合成石英製セル53内のメチルシクロヘキサンが、凍結した。
最後に、冷却した合成石英製セル53をγ線光源部51の設定軸(X方向)上に配置した。
(A’)第一変化ステップ
合成石英製セル53内の2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」に、γ線光源部制御部61aがγ線光源部51からのγ線を40時間照射することで、2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」に電荷を注入することにより、結合開裂反応が起こり、ラジカルカチオンである「化合物2」と、ラジカルアニオンである「化合物2」とに変化させた。
【0037】
(B’)第二変化ステップ
合成石英製セル53の温度を−143℃以上−133℃以下とすることで、合成石英製セル53内のメチルシクロヘキサンが溶解することになり、「化合物2」に「化合物2」からの電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造を有する「化合物2」に変化させた。
(C)測定ステップ
励起ビラジカル構造を有する「化合物2」が、基底ビラジカル構造を有する「化合物2」に変化する際に発光した光を、マルチチャンネル検出器12で検出した。
(D)第三変化ステップ
基底ビラジカル構造を有する「化合物2」に、結合開裂反応が起こり、2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」に変化した。
【0038】
<物性評価>蛍光スペクトル
実施例1において、マルチチャンネル検出器12で検出した蛍光スペクトルを図5(a)に示す。また、比較例1において、マルチチャンネル検出器12で検出した蛍光スペクトルを図5(b)に示す。
図5(a)と図5(b)とに示すように、実施例1及び比較例1で得られた蛍光スペクトルの波形においては、同様な結果が得られた。また、実施例1で得られた蛍光スペクトルの強度は、比較例1で得られた蛍光スペクトルの強度よりも強かった。
したがって、本発明によれば、2-ジフェニル-1-メチレンシクロプロパン「化合物1」の発光を短時間(2時間)で正確に評価することができた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、化学物質の発光を評価する化学物質発光評価方法等に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 化学物質発光評価装置
50 γ線装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の化学物質に電荷を注入することにより、ラジカルカチオンである第二の化学物質に変化させる第一変化ステップと、
ラジカルカチオンである第二の化学物質に電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質に変化させる第二変化ステップと、
励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質が、基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質に変化する際に発光した光を検出する測定ステップを含む化学物質発光評価方法であって、
前記第一変化ステップにおいて、第一の化学物質と溶媒とをチューブ内に入れるとともに、
第一の化学物質が入れられたチューブに、照射面積が0.5cm以上2.0cm以下となるX線を照射することで、第一の化学物質に電荷を注入することを特徴とする化学物質発光評価方法。
【請求項2】
前記第一変化ステップにおいて、第一の化学物質の濃度が、15mmol/L以上25mmol/L以下となるように、前記チューブ内に入れることを特徴とする請求項2に記載の化学物質発光評価方法。
【請求項3】
前記第一変化ステップでは、第一の化学物質に電荷を注入することにより、ラジカルカチオンである第二の化学物質と、ラジカルアニオンである第五の化学物質とに変化させ、
前記第二変化ステップにおいて、ラジカルカチオンである第二の化学物質に、ラジカルアニオンである第五の化学物質からの電荷を再結合させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化学物質発光評価方法。
【請求項4】
前記第一変化ステップにおいて、前記チューブの温度を、−196℃以上−190℃以下とすることにより、溶媒を凍結し、
前記第二変化ステップにおいて、前記チューブの温度を、−143℃以上−133℃以下とすることにより、溶媒を溶解させて、ラジカルカチオンである第二の化学物質に、ラジカルアニオンである第五の化学物質からの電荷を再結合させることを特徴とする請求項3に記載の化学物質発光評価方法。
【請求項5】
第一の化学物質は、環状構造を有し、
第二の化学物質、第三の化学物質及び第四の化学物質は、環状構造が開環した化学構造を有し、
環状構造を有する第一の化学物質に電荷を注入することにより、環状構造が開環した化学構造を有する第二の化学物質に変化させる第一変化ステップと、
環状構造が開環した化学構造を有する第四の化学物質が、環状構造を有する第一の化学物質に変化する第三変化ステップを含むことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の化学物質発光評価方法。
【請求項6】
第一の化学物質に電荷を注入することにより、ラジカルカチオンである第二の化学物質に変化させる第一変化ステップと、
ラジカルカチオンである第二の化学物質に電荷を再結合させることにより、励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質に変化させる第二変化ステップと、
励起ビラジカル構造を有する第三の化学物質が、基底ビラジカル構造を有する第四の化学物質に変化する際に発光した光を検出する測定ステップを含む化学物質発光評価方法を実行する化学物質発光評価装置であって、
内部に第一の化学物質と溶媒とを入れるためのチューブと、
第一の化学物質が入れられたチューブに、照射面積が0.5cm以上2.0cm以下となるX線を照射するX線光源部と、
前記チューブ内の第一の化学物質からの光を検出する検出器を備えることを特徴とする化学物質発光評価装置。
【請求項7】
前記チューブの温度を、−196℃から25℃までの温度に少なくとも調整することが可能な温度調整機構を備えることを特徴とする請求項6に記載の化学物質発光評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−38974(P2011−38974A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188501(P2009−188501)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物に発表 発行者名 社団法人日本化学会 刊行物名 「日本化学会第89春季年会(2009)講演予稿集 DVD−ROM」 発行年月日 平成21年 3月13日 2.刊行物に発表 発行者名 株式会社日本経済新聞社 刊行物名 「日経産業新聞 平成21年4月7日刊」 発行年月日 平成21年 4月 7日 3.刊行物に発表 発行者名 株式会社化学工業日報社 刊行物名 「化学工業日報 平成21年4月10日刊」 発行年月日 平成21年 4月10日
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】