説明

化学物質飛散抑制装置、化学物質貯留装置、及び化学物質飛散抑制方法

【課題】自然環境に与える負荷を少なく、且つコスト安価に化学物質の飛散を抑制することができる、化学物質飛散抑制装置、化学物質貯留装置、及び化学物質飛散抑制方法を提供する。
【解決手段】化学物質飛散抑制装置5は、噴霧機構23を備える。噴霧機構23は、揮発性の化学物質を含み、且つ水の比重よりも大きい比重を有する液体100が存在し得る領域14において、流出防止槽7に貯留される液体100の液面100aの位置よりも高い位置から、水200を噴霧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性の化学物質を含む液体の飛散を抑制するための、化学物質飛散抑制装置、化学物質貯留装置、及び化学物質飛散抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工場では、種々の化学物質が用いられる。化学物質として、人体に有害な塩酸を使用する場合、塩酸は、タンク内に貯留され、当該タンクの外部に漏れださないようにされている。しかしながら、例えば、地震による、強制的な外力の作用により、タンクに亀裂が生じると、タンクから塩酸が漏れ出してしまう。また、タンクに供給される塩酸の量が多すぎると、タンクの蓋等から塩酸が溢れ出してしまう。このように、タンクから漏れるか又は溢れることでタンクから流出した塩酸に対しては、大量の水をかけることで下水に流すようにしている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「安全な塩酸の取扱い」、日本ソーダ工業会、p.6、インターネット<URL:http://www.jsia.gr.jp/data/handling_02.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載の方法では、タンクから流出した塩酸を大量の水で希釈するので、塩酸の濃度を下げることができ、塩酸の揮発等による飛散を抑制できる。よって、タンクから流出した塩酸が人体に悪影響を及ぼすことを抑制できる。しかしながら、このような方法では、大量の水と下水設備が必須となる。タンクから漏出した塩酸を大量の水で希釈すると、希釈された塩酸は、本来予定されていた用途に適しない廃液となり、例えば、工場内の下水処理施設で当該廃液を大量に処理しなければならない。このため、タンクから流出した塩酸の処理費用が高くついてしまう。また、大量の廃液の存在は、環境に与える負荷が大きく、地球環境保全の観点から好ましくない。同様の課題は、塩酸以外の化学物質についても存在する。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、自然環境に与える負荷を少なく、且つコスト安価に化学物質の飛散を抑制することができる、化学物質飛散抑制装置、化学物質貯留装置、及び化学物質飛散抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明における化学物質飛散抑制装置は、揮発性の化学物質を含み、且つ水の比重よりも大きい比重を有する液体が存在し得る領域において、前記液体のうち噴霧対象となる液体の液面の位置よりも高い位置から、水を噴霧するための噴霧機構を備えることを特徴とする。
【0007】
この構成によると、噴霧された水が化学物質に接触することによって、化学物質の揮発による飛散を抑制することができる。しかも、霧状の水であれば、少量で、広い範囲に水を行き渡らせることができるので、水の使用量が少なくて済む。水の使用量が少ないので、噴霧した水と混合する化学物質の量が少なくて済み、大部分の化学物質をそのまま利用することができる。したがって、廃液として処理しなければならない液体の量が少なくて済み、廃液の処理費用、及び環境に与える負荷の双方を少なくできる。しかも、化学物質の揮発による飛散を抑制する媒体として水を用いるので、廃液の処理が容易であり、廃液の処理費用、及び環境に与える負荷の双方をより一層少なくできる。
【0008】
従って、本発明によると、自然環境に与える負荷が少なく、且つコスト安価に化学物質の飛散を抑制することができる。
【0009】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記領域には、貯留部が配置されており、前記貯留部は、閉じられた空間を形成し当該空間に前記液体を貯留可能な第1貯留部と、上部が開放された空間を形成し、前記第1貯留部から流出した前記液体を貯留可能な第2貯留部と、を含み、前記噴霧機構は、前記第2貯留部に向けて前記水を噴霧可能であることが好ましい。
【0010】
この構成によると、通常時には、液体を第1貯留部に貯留しておくことができる。また、例えば、第1貯留部の破損、又は第1貯留部からの液体の溢れにより、第1貯留部から第2貯留部に液体が流出した場合には、当該流出した液体の化学物質の揮発による飛散を、噴霧機構からの水の噴霧によって抑制することができる。
【0011】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記噴霧機構は、第1噴霧部及び第2噴霧部の少なくとも一方を有し、前記第1噴霧部は、前記液面上に水の膜を形成するように前記水を噴霧可能であり、前記第2噴霧部は、前記液面から揮発した前記化学物質を捕集するために当該揮発した化学物質へ向けて水を噴霧可能であることが好ましい。
【0012】
この構成によると、第1噴霧部から噴射された霧状の水は、水の比重より高い比重の液体の液面上に水の膜を形成する。これにより、水の膜が、化学物質の揮発を抑制するシールとして機能する。したがって、液体からの化学物質の揮発量を確実に少なくすることができる。しかも、水は、実質的に、液体のうちの液面にのみ触れることとなる。したがって、液体のうち液面よりも下方にある部分は、水と混合することが抑制されており、水が噴霧される前の性質を維持することができる。したがって、廃液として処理する必要のある液体は、水の膜と接している部分周辺の僅かな箇所で済み、廃液の処理量をより少なくできる。また、第2噴霧部から噴霧された水は、液体から揮発した化学物質を捕集する霧として機能する。これにより、例えば、第1噴霧部によって水の膜が形成される前の時点で液体から化学物質が揮発した場合でも、当該揮発した化学物質を、第2噴霧部から噴射された霧によって捕集することができる。これにより、化学物質の飛散をより確実に抑制することができる。
【0013】
更に、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第1噴霧部及び第2噴霧部の少なくとも一方は、前記液面に向けて前記水を噴霧することが好ましい。
【0014】
この構成によると、第1噴霧部が液面に向けて水を噴霧した場合には、風等に頼らずに液面上に直接水の霧を形成することができるので、液面上に水の膜をより確実に形成することができる。また、第2噴霧部が液面に向けて水を噴霧した場合には、揮発した化学物質を捕集した水を、化学物質とともに、水の膜に向けて落下させることができる。これにより、第1噴霧部からの水と、第2噴霧部からの水とを一か所に集めることができるので、これらの水を含む廃液の回収作業を容易に行うことができ、廃液の処理にかかるコストをより低減することができる。その上、液体から揮発した化学物質が拡散する前に、第2噴霧部からの水を、揮発した化学物質に接触させて捕集できる。これにより、揮発した化学物質をより確実に回収できる。
【0015】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第1噴霧部及び前記第2噴霧部の少なくとも一方は、前記液面の全域を上方から覆うように前記水を噴霧可能であることが好ましい。
【0016】
この構成によると、第1噴霧から噴射された霧状の水を、略均等な密度で液面上に降らせることができる。これにより、第1噴霧からの水が液体の一部に集中して噴霧されることを抑制できる。これにより、液体の内部に水が侵入して混ざることを抑制できるので、希釈された液体の量を少なくできる。よって、廃液の発生量を、より少なくすることができる。
【0017】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第1噴霧部及び前記第2噴霧部の少なくとも一方は、前記水を鉛直方向の下側に向けて円錐状に噴霧することが好ましい。
【0018】
この構成によると、第1噴霧部及び第2噴霧部の何れにおいても、広い範囲に水を噴霧することができ、且つ、均等な密度で水を噴霧することができる。
【0019】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第2噴霧部が噴霧する前記水の粒子径は、前記第1噴霧部が噴霧する前記水の粒子径よりも小さいことが好ましい。
【0020】
この構成によると、第2噴霧部から噴霧された水は、粒子径が小さいので、液体から揮発した化学物質と一緒に、風になびき易い。このため、第2噴霧部から噴霧された水を、液体から揮発した化学物質の動きに追従させることができ、当該化学物質をより確実に捕集することができる。
【0021】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第1噴霧部における前記水の噴射角度は、前記第2噴霧部における前記水の噴射角度よりも大きいことが好ましい。この構成によると、第1噴霧部における水の噴射角度を大きくすることにより、第1噴霧部から噴霧された水を、液面の全域に亘って均等な密度で液面上に着地することができる。また、噴射角度が小さい第2噴霧部から噴射された水は、下向きのエネルギーが大きく、液体から揮発した化学物質を取り込みながら確実に落下することができる。これにより、揮発した化学物質を、水とともにより確実に回収することができる。
【0022】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第1噴霧部は、当該第1噴霧部が前記水を噴霧する方向と直交する断面において、円形状をなす霧を形成するように前記水を噴霧することが好ましい。この構成によると、第1噴霧部から噴霧された水の密度を、噴霧領域の全域に亘ってより均等にすることができる上に、噴霧面積を広くすることができる。
【0023】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第2噴霧部は、当該第2噴霧部が前記水を噴霧する方向と直交する断面において、円環状をなす霧を形成するように前記水を噴霧することが好ましい。この構成によると、第2噴霧部は、広い範囲に水を噴霧しつつ、当該水を噴霧する領域をある程度集中させることができる。これにより、第2噴霧部からの水を、液体から揮発した化学物質を取り込ませつつ確実に落下させることができる。
【0024】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第1噴霧部における前記水の圧力と、前記第2噴霧部における前記水の圧力とは同じであることが好ましい。この構成によると、第1噴霧部に水を送るポンプ等と、第2噴霧部に水を送るポンプ等とを共用することができるので、水を噴霧するための構成を簡易且つコスト安価に実現できる。
【0025】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第2噴霧部の位置は、前記第1噴霧部の位置よりも高いことが好ましい。
【0026】
この構成によると、第1噴霧部が液面の近傍で迅速に水の膜を形成しつつ、第2噴霧部が水を広範囲に噴霧できる。これにより、液体からの化学物質の揮発量を少なくするとともに、液体から揮発した化学物質をより確実に捕集することができる。また、第1噴霧部から噴霧された水が第2噴霧部と混ざって大きな水滴に成長することを抑制できる。これにより、大きな水滴が液面を突き抜けて液体内に侵入し液体と混合されることを抑制できる。
【0027】
また、本発明における化学物質飛散抑制装置は、前記第2貯留部に隣接して配置され、前記化学物質を検出するためのセンサと、前記センサが前記化学物質を検出した場合に前記噴霧機構を駆動させる制御部と、を更に備えることが好ましい。
【0028】
この構成によると、第1貯留部から液体が流出した場合に、自動的に水を噴霧することができる。これにより、安全且つ迅速に、液体からの揮発による化学物質の飛散を抑制できる。
【0029】
また、本発明における化学物質貯留装置は、揮発性の化学物質を含み、且つ水の比重よりも大きい比重を有する液体を貯留可能な貯留部と、前記貯留部に貯留された前記液体のうち噴霧対象となる液体の液面の位置よりも高い位置から、水を噴霧するための噴霧機構と、を備えることを特徴とする。
【0030】
この構成によると、噴霧された水が化学物質に接触することによって、化学物質の揮発による飛散を抑制することができる。しかも、霧状の水であれば、少量で、広い範囲に水を行き渡らせることができるので、水の使用量が少なくて済む。水の使用量が少ないので、噴霧した水と混合する化学物質の量が少なくて済み、大部分の化学物質をそのまま利用することができる。したがって、廃液として処理しなければならない液体の量が少なくて済み、廃液の処理費用、及び環境に与える負荷の双方を少なくできる。しかも、化学物質の揮発による飛散を抑制する媒体として水を用いるので、廃液の処理が容易であり、廃液の処理費用、及び環境に与える負荷の双方をより一層少なくできる。
【0031】
また、本発明における化学物質飛散抑制方法は、揮発性の化学物質を含み、且つ水の比重よりも大きい比重を有する液体が存在する領域において、前記液体のうち噴霧対象となる液体の液面の位置よりも高い位置から、水を噴霧することを特徴とする。
【0032】
この構成によると、噴霧された水が化学物質に接触することによって、化学物質の揮発による飛散を抑制することができる。しかも、霧状の水であれば、少量で、広い範囲に水を行き渡らせることができるので、水の使用量が少なくて済む。水の使用量が少ないので、噴霧した水と混合する化学物質の量が少なくて済み、大部分の化学物質をそのまま利用することができる。したがって、廃液として処理しなければならない液体の量が少なくて済み、廃液の処理費用、及び環境に与える負荷の双方を少なくできる。しかも、化学物質の揮発による飛散を抑制する媒体として水を用いるので、廃液の処理が容易であり、廃液の処理費用、及び環境に与える負荷の双方をより一層少なくできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、自然環境に与える負荷を少なく、且つコスト安価に化学物質の飛散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態にかかる化学物質貯留装置の全体構成を示す模式的な側面図である。
【図2】図1の第1噴霧部及び第2噴霧部の拡大図であって、流出防止槽に液体が流出した状態及び噴霧機構が駆動している状態を示している。
【図3】(a)は、第1噴射方向と直交する切断面で切断した断面図であって、第1噴霧部から噴射された霧状の水を示しており、(b)は、第2噴射方向と直交する切断面で切断した断面図であって、第2噴霧部から噴射された霧状の水を示している。
【図4】(a)は、実施例1について説明するための模式的な側面図であり、(b)は、水噴霧後のビーカの側面図である。
【図5】(a)は、実施例1について説明するための模式的な側面図であり、(b)は、水噴霧後のビーカの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本実施形態は、化学物質飛散抑制装置、化学物質貯留装置、及び化学物質飛散抑制方法として、種々の用途に対して広く適用することができる。
【0036】
(化学物質貯留装置の全体構成)
図1は、本発明の一実施の形態にかかる化学物質貯留装置1の全体構成を示す模式的な側面図である。図1に示すように、化学物質貯留装置(以下、単に貯留装置1ともいう。)は、例えば、工場の敷地内において屋外に設置されている。貯留装置1は、液体100を貯留するために設けられている。この液体100は、常温常圧(例えば、20℃、1気圧)で揮発性を有する化学物質を含み、且つ、水の比重より大きい比重を有している。上記の化学物質として、塩酸、酢酸等の揮発性酸、及びアンモニア等を例示することができる。本実施形態では、化学物質を含む液体として、35%濃度の塩酸(塩化水素)を例に説明する。
【0037】
また、上記の「水」とは、純水に限らず、不純物が含まれていてもよく、主成分が水であればよい。また、化学物質貯留装置1は、液体100に含まれる塩酸が飛散する虞があるときに、当該塩酸及び塩酸ガス(塩化水素ガス)の飛散を抑制するように構成されている。これにより、貯留装置1の周辺の自然環境が塩酸ガスによって汚染されることを抑制し、人体悪影響が生じることを抑制する。
【0038】
貯留装置1は、地盤101上に設置されている。貯留装置1は、貯留部2と、液体供給部3と、液体排出部4と、化学物質飛散抑制装置5と、を備えている。尚、以下では、化学物質飛散抑制装置5を、単に抑制装置5ともいう。
【0039】
貯留部2は、液体100を貯留するために設けられている。貯留部2は、第1貯留部としての貯留タンク6と、第2貯留部としての流出防止槽7と、を有している。貯留タンク6は、通常時、即ち、貯留装置1に異常が生じていない場合に液体100を貯留するために設けられている。貯留タンク6は、土台8上に設置されている。貯留タンク6は、例えば、FRP(Fiber Reinforced Plastic)等の、液体100に対する耐蝕性を有する材料を用いて形成されている。この貯留タンク6は、筒状の側壁と、この側壁を下方から覆う底壁と、側壁を上方から覆う天壁と、を有しており、内部に閉じられた空間9を形成している。尚、この場合の「閉じられた空間」とは、貯留タンク6の底壁、側壁及び天壁によって形成された空間であって、貯留タンク6の外部から隔離された空間をいい、完全に密封された空間でなくてもよい。この空間9に、液体100が貯留されている。液体100は、貯留タンク6の天壁に接続された液体供給部3を介して、空間9内に注入される。
【0040】
また、貯留タンク6の例えば天壁には、排気管10が接続されている。排気管10は、貯留タンク6内において液体100から揮発した塩酸ガスを、貯留タンク6の外部に排出するために設けられている。排気管10には、図示しない、化学物質回収装置が接続されている。これにより、貯留タンク6内の塩酸ガスは、排気管10を通り、化学物質回収装置で化学物質が除去された後、大気に放出される。貯留タンク6を取り囲むようにして、流出防止槽7が設けられている。
【0041】
流出防止槽7は、貯留タンク6から漏出した液体100、及び貯留タンク6から溢れた液体100等、貯留タンク6から流出した液体100を一時的に貯留することにより、液体100の更なる流出を防止するために設けられている。貯留タンク6から液体100が漏出する場合として、例えば、地震等に起因して貯留タンク6に衝撃荷重が作用し、貯留タンク6に亀裂が生じた場合を挙げることができる。また、貯留タンク6から液体100が溢れる場合として、例えば、液体供給部3から貯留タンク6に供給される液体100の量が多すぎることにより、貯留タンク6の天壁に設けられた蓋の周囲から液体100が溢れ出す(オーバーフローする)漏れ出す場合を挙げることができる。このように、偶発的な事象が発生した場合に、貯留タンク6から流出した液体100を流出防止槽7に一時的に貯留するようになっている。流出防止槽7が液体100を貯めることが可能な量(許容貯留量)は、貯留タンク6が液体100を貯めることが可能な量を上回っている。
【0042】
流出防止槽7は、上端が外部に開放された容器状に形成されており、外部に開放された空間に、液体100を貯留可能である。流出防止槽7は、底部11と、側壁12と、を有している。底部11は、例えば、地盤101上に形成されている。底部11の一部には、ピット13が形成されている。ピット13は、底部11から鉛直方向P1の下向きに延びる孔部である。底部11の上面には、ピット13に向かって下りとなる勾配がつけられている。これにより、流出防止槽7に貯留された液体100は、ピット13に向かって流れることが可能である。底部11の周囲を取り囲むように、側壁12が配置されている。
【0043】
側壁12は、平面視において貯留タンク6を取り囲むように環状に配置されており、地盤101の表面から所定の高さを有している。上記の構成を有する貯留部2は、液体100が存在し得る領域14に配置されている。この領域14は、貯留部2と、平面視における貯留部2の外側領域と、を含む。貯留部2には、液体排出部4が接続されている。
【0044】
液体排出部4は、貯留タンク6に貯留された液体100、及び流出防止槽7に貯留された液体100を、貯留装置1の外部に排出するために設けられている。液体排出部4は、第1配管15と、液体ポンプ16と、第2配管17と、第1分岐管18と、第2分岐管19と、を有している。
【0045】
第1配管15の一端は、バルブを介して貯留タンク6の側壁の下部に接続されている。第1配管15の一端のバルブは、例えば仕切弁である。第1配管15は、流出防止槽7の内側から外側に延びており、流出防止槽7の側壁を貫通している。第1配管15の他端には、液体ポンプ16が接続されている。液体ポンプ16は、第2配管17の一端に接続されている。液体ポンプ16は、貯留タンク6内の液体100を、第1配管15を介して吸い込み、第2配管17へ吐出することが可能である。第2配管17の他端は、貯留装置1の外部の装置に接続可能に構成されている。当該外部の装置として、タンクを備える輸送船を例示することができる。
【0046】
第1分岐管18は、流出防止槽7に貯留された液体100を回収するために設けられている。第1分岐管18の一端は、流出防止槽7のピット13の下部に配置されている。第1分岐管18は、貯留部2の内側から外側へ延びており、側壁12を貫通している。第1分岐管18の他端は、第1配管15の中間部に接続されている。また、第1分岐管18と第1配管15とが接続される箇所の近傍において、第1分岐管18及び第1配管15には、それぞれ、バルブが設けられている。液体ポンプ16が貯留タンク6の液体100を吸い込む場合には、第1配管15のバルブが開かれる。一方、液体ポンプ16がピット13の液体100を吸い込む場合には、第1配管15のバルブが閉じられ、第1分岐管18のバルブが開かれる。
【0047】
第2分岐管19の一端は、第2配管17の途中部に接続されている。第2配管17の他端は、貯留装置1の外部の装置に接続可能に構成されている。当該外部の装置として、タンクローリを例示することができる。また、第2配管17には、液体ポンプ16と第2分岐管19の一端との間において、開閉バルブが設けられている。また、第2分岐管19と第2配管17とが接続される箇所の近傍において、第2分岐管19及び第2配管17には、それぞれ、バルブが設けられている。液体ポンプ16からの液体100を、第2配管17を介して外部の装置に供給する場合には、上記開閉バルブを開いた状態で、第2配管17のバルブが開かれ、第2分岐管19のバルブが閉じられる。一方、液体ポンプ16からの液体100を、第2分岐管19を介して外部の装置に供給する場合には、開閉バルブが開かれた状態で、第2分岐管19のバルブが開かれ、第2配管17のバルブが閉じられる。
【0048】
次に、抑制装置5について説明する。抑制装置5は、貯留タンク6の液体100が流出防止槽7に流出した場合において、流出防止槽7の液体100から塩酸が揮発することを抑制するために設けられている。また、抑制装置5は、上記流出防止槽7の液体100から揮発した塩酸が飛散することを抑制するために設けられている。抑制装置5は、水を噴霧することにより、上記の機能を発揮するように構成されている。
【0049】
抑制装置5は、水タンク21と、水供給部22と、噴霧機構23と、センサ24と、制御部25と、を有している。
【0050】
水タンク21は、水を貯めるために設けられている。後述するように、抑制装置5における水の使用量が少なくて済むようにされている。このため、水タンク21の大きさは、貯留タンク6の大きさよりも小さい。これにより、抑制装置5は、コンパクトな構成とされている。水タンク21は、流出防止槽7の外側において、地盤101上の土台26に設置されており、水受入配管27に接続されている。水受入配管27は、図示しない工業用水路又は上水道等に接続されている。
【0051】
水タンク21は、筒状の側壁と、側壁を下側から覆う底壁と、側壁を上側から覆う天壁とを有しており、内部に水200を貯留することが可能である。水タンク21は、水受入配管27を通じて水200を受け入れる。水タンク21には、水供給部22が接続されている。
【0052】
水供給部22は、水タンク21に貯留された水200を、噴霧機構23へ供給するために設けられている。水供給部22は、主配管28、第1給水管29、及び第2給水管30等を備えて構成されている。主配管28の一端は、電磁開閉弁等の第1バルブ31を介して、水タンク21の下部に接続されている。主配管28の途中部には、水ポンプ35が設けられている。水ポンプ35は、水タンク21内の水200を吸い込み、吐出する。また、主配管28の途中部には、第2バルブ32、第3バルブ33、及びろ過機としてのストレーナ34が、水200の流れ方向に沿ってこの順番で設けられている。
【0053】
例えば、第2バルブ32は、圧力調整弁であり、噴霧機構23へ供給される水200の圧力を調整する。また、例えば、第3バルブ33は、流量調節弁であり、噴霧機構23へ供給される水200の流量を調整する。ストレーナ34は、主配管28を流れる水200に混入している異物を除去するために設けられている。ストレーナ34を設けることにより、噴霧機構23において異物が原因の詰まりを抑制できる。主配管28の他端に、第1給水管29の一端及び第2給水管30の一端が接続されている。
【0054】
第1給水管29は、主配管28からの水200を、噴霧機構23の後述する第1噴霧部41に供給するために設けられている。第1給水管29は、主配管28から流出防止槽7へ向けて延びており、例えば、流出防止槽7の側壁12に支持されている。第2給水管30は、主配管28からの水200を、噴霧機構23の後述する第2噴霧部42に供給するために設けられている。第2給水管30は、主配管28から貯留タンク6へ向けて延びており、例えば、貯留タンク6の天壁に支持されている。第1給水管29からの水200及び第2給水管30からの水200は、噴霧機構23によって霧状に噴射(噴霧)される。
【0055】
図2は、図1の第1噴霧部41及び第2噴霧部42の拡大図であって、流出防止槽7に液体100が流出した状態及び噴霧機構23が駆動している状態を示している。図1及び図2に示すように、噴霧機構23は、貯留部2に貯留された液体100のうち、噴霧対象としての、液体防止槽7に貯留された液体100の液面100aよりも高い位置から、水200を噴霧するように構成されている。これにより、噴霧機構23は、液体100中の塩酸の揮発を抑制し、且つ、液体100中の塩酸の揮発により発生した塩酸ガスの飛散を抑制する。本実施形態において、噴霧機構23は、第1噴霧部41と、第2噴霧部42と、を有している。
【0056】
第1噴霧部41は、流出防止槽7に貯留された液体100の液面100aに、水の膜としての水膜200aを形成するために設けられている。第1噴霧部41は、流出防止槽7の周囲に1又は複数(本実施形態において、複数)設けられている。複数の第1噴霧部41が設けられることにより、第1噴霧部41から噴射された霧状の水200は、平面視において、少なくとも、流出防止槽7の側壁12の内側領域のうち貯留タンク6の周囲の領域を全域に亘って覆う。即ち、複数の第1噴霧部41から噴射された霧状の水200によって、流出防止槽7に貯留された液体100の液面100aが全域に亘って上方から覆われる。
【0057】
尚、各第1噴霧部41の構成は同様であるので、以下では、主に1つの第1噴霧部41について説明する。第1噴霧部41は、水を噴霧するための噴射ノズルを含む。第1噴霧部41には、第1給水管29が接続されており、第1給水管29からの水200が供給される。第1噴霧部41は、流出防止槽7の側壁12の上端の位置よりも高い位置に配置されており、鉛直方向P1の下側に向かう第1噴射方向D1に向けて、水を噴霧する。第1噴射方向D1は、鉛直方向P1と同じでもよいし、鉛直方向P1に対して傾斜していてもよい。このような構成により、第1噴霧部41は、流出防止槽7の内側の液体100の液面100aに向けて水を噴霧し、液面100a上に水膜(水の膜)200aを形成する。
【0058】
図3(a)は、第1噴射方向D1と直交する切断面で切断した断面図であって、第1噴霧部41から噴射された霧状の水200を示しており、図3(b)は、第2噴射方向D2と直交する切断面で切断した断面図であって、第2噴霧部42から噴射された霧状の水200を示している。
【0059】
図2及び図3(a)に示すように、第1噴霧部41は、水200を、中実の円錐状に噴霧する。即ち、第1噴霧部41は、第1噴射方向D1と直交する断面において、円形状をなす霧F1を形成するように、水200を噴射する。これにより、第1噴射方向D1と直交する断面において、水200の密度は、霧F1の外縁部で囲まれた領域の全域において、略均等である。また、第1噴霧部41における水200の噴射角度θ1は、例えば、120度程度に設定される。噴射角度θ1は、第1噴霧部41から水200を噴霧することによって形成された円錐状の霧F1を側方から見たときの角度である。
【0060】
また、第1噴霧部41の設置高さ、即ち、流出防止槽7の上端から第1噴霧部41までの鉛直方向P1の設置高さは、好ましくは、2m〜3mに設定される。第1噴霧部41の設置高さが上記の下限未満であると、第1噴霧部41からの霧F1が十分に広がらず、1つの第1噴霧部41からの霧F1によって上方から液面100aを覆う面積が小さくなってしまう。また、第1噴霧部41の設置高さが上記の上限を超えると、霧F1が流出防止槽7における液面100aを覆う面積は、第1噴霧部41の設置高さに拘らず実質的に変化しない一方で、霧F1が風になびき易くなって液面100aに到達し難くなる。
【0061】
霧F1における水の粒子の直径としての第1粒子径は、好ましくは340μm〜420μmである。第1粒子径は、いわゆる、「霧雨」における雨粒の粒子径に相当する。第1粒子径が上記の下限未満であると、風が吹いたときに、霧F1が風になびく量が大きくなり、流出防止槽7の液体100の液面100a上に霧F1の水の粒子を到達させ難くなる。その結果、液面100a上に形成される水膜200aの厚みが小さくなり、水膜200aによる、塩酸のシール効果を十分に発揮し難い。また、第1粒子径が上記の上限よりも大きいと、第1粒子径が大きくて重いことから、流出防止槽7の液体100内に霧F1の水が液体100内に侵入し易くなる。その結果、霧F1を構成する水が液体100と混ざり合ってしまう。
【0062】
霧F1が流出防止槽7の液面100a上に落下することで形成される水膜200aの厚み(膜厚)は、少なくとも3mm以上であることが好ましい。膜厚が上記の下限未満であると、液体100の液面100aを封止するシール効果を十分に発揮し難く、液体100からの塩酸ガスの発生を十分に抑制し難い。
【0063】
第1噴霧部41へ供給される水200の圧力は、0.2MPa以上であることが好ましく、0.3MPa以上であることがより好ましい。第1噴霧部41へ供給される水200の圧力が上記の下限未満であると、第1噴霧部41から噴霧される水の勢いが弱く、霧F1の第1粒子径が大きくなり過ぎてしまう。また、1つの第1噴霧部41へ供給される水量は、約10L/min以上とされる。これにより、短時間で、第1噴霧部41から十分な量の霧F1を発生させることができる。その結果、短時間(例えば、1分〜3分程度で)、十分な厚みの水膜200aを形成することができる。
【0064】
また、第1噴霧部41の霧F1が直接、液面100aに落下することが可能なように、霧F1が形成される領域には、極力物体が配置されないようにされている。これにより、霧F1を構成する水滴が液面100a以外の物体に付着して大きな水滴となることを抑制できる。これにより、大きな水滴が液体100内部に混ざり、水膜200aが乱されることを抑制できる。第1噴霧部41が設置されている位置よりも高い位置に、第2噴霧部42が配置されている。
【0065】
第2噴霧部42は、流出防止槽7に溜まった液体100の液面100aからの揮発による塩酸ガス300を捕集するために設けられている。例えば、貯留タンク6の亀裂6aから液体100が流出した後、第1噴霧部41が水膜200aを形成するまでの間に、流出防止槽7の液体100の揮発によって塩酸ガス300が発生することが考えられる。第2噴霧部42は、このような塩酸ガス300に向けて水200を噴霧して当該塩酸ガス300を捕集するために設けられている。第2噴霧部42は、流出防止槽7の周囲に1又は複数(本実施形態において、複数)設けられている。
【0066】
複数の第2噴霧部42が設けられることにより、第2噴霧部42から噴霧された霧状の水200は、平面視において、少なくとも、流出防止槽7の側壁12の内側領域のうち貯留タンク6の周囲の領域を全域に亘って覆う。即ち、複数の第2噴霧部42から液面100aに向かって噴射された霧状の水200によって、流出防止槽7に貯留された液体100の液面100aを全域に亘って上方から覆う。
【0067】
尚、各第2噴霧部42の構成は同様であるので、以下では、主に1つの第2噴霧部42について説明する。第2噴霧部42は、水200を噴霧するための噴射ノズルを含む。第2噴霧部42には、第2給水管30が接続されており、第2給水管30からの水200が供給される。第2噴霧部42は、前述したように、第1噴霧部41の位置よりも高い位置に配置されており、鉛直方向P1の下側に向かう第2噴射方向D2に向けて、水を噴霧する。第2噴射方向D2は、鉛直方向P1と同じでもよいし、鉛直方向P1に対して傾斜していてもよい。このような構成により、第2噴霧部42は、流出防止槽7内の液体100の上方に向けて水を噴霧し、液面100aの上方に、霧F2を形成する。この霧F2によって、流出防止槽7の液体100の揮発により発生した塩酸ガス300が捕集される。
【0068】
図2及び図3(b)に示すように、第2噴霧部42は、水200を、中空の円錐状に噴霧する。即ち、第2噴霧部42は、第2噴射方向D2と直交する断面において、略一定の幅を有する円環状の霧F2を形成するように、水200を噴霧する。これにより、第2噴射方向D2と直交する断面において、水200の密度は、霧F2の外縁部と内縁部とで囲まれた領域の全域において、略均等である。このように、第2噴射方向D2と直交する断面において、霧F2が円環状をなすように第2噴霧部42が水200を噴霧することにより、霧F2を構成する水の粒子径としての第2粒子径を、より細かくすることができる。また、第2噴霧部42における水200の噴射角度θ2は、例えば、60度程度に設定される。このように、噴射角度θ2は、第1噴霧部41における噴射角度θ1よりも小さくされており、本実施形態では、噴射角度θ2の値は、噴射角度θ1の半分の値である。噴射角度θ2は、第2噴霧部42から水を噴霧することによって形成された円錐状の霧F2を側方から見たときの角度である。
【0069】
また、第2噴霧部42の設置高さ、即ち、流出防止槽7の上端から第2噴霧部42までの鉛直方向P1の設置高さは、第1噴霧部41の設置高さ以上に設定されることが好ましい。これにより、第2噴霧部42によって形成された霧F2を、より広い範囲に拡散させることができ、霧F2によるガスの捕集効果を高くすることができる。本実施形態では、第2噴霧部42は、貯留タンク6の天壁に設置されているけれども、貯留タンク6の側壁に設置されてもよい。
【0070】
霧F2における水200の粒子の直径としての第2粒子径は、好ましくは100μm〜130μmである。このように、第2粒子径は、第1粒子径よりも小さい。第2粒子径は、空気抵抗に抗して落下することが可能な水滴の最小径に近い値とされている。第2粒子径が小さいほど、霧F2における粒子数を多くでき、水200の粒子と塩酸ガス300との接触面積を増すことができるけれども、第2粒子径が上記の下限未満であると、霧F2が自重で落下し難い上に、風が吹いたときに、霧F2が大きく舞ってしまい、塩酸ガス300を捕集し難くなる。また、第2粒子径が上記の上限よりも大きいと、第2粒子径が大きいため、風が吹いたときに、霧F2が塩酸ガス300のなびきに追従し難くなる。その結果、霧F2と塩酸ガス300との接触量が少なくなり、霧F2による塩酸ガス300の捕集効果が低減してしまう。一方、第2粒子径を上記好ましい範囲に設定することにより、霧F2は、風が吹いたときに、塩酸ガス300と同じ方向へなびくことができ、塩酸ガス300を捕集する効果をより高く発揮することができる。
【0071】
第2噴霧部42へ供給される水200の圧力は、第1噴霧部41へ供給される水200の圧力と同じに設定されている。一方、各第2噴霧部42へ供給される水量は、約0.5L/min以上とされており、第1噴霧部41へ供給される水量よりも少なくされている。これにより、第2噴霧部42からの水200の噴霧量が過度に多くならずに済む。
【0072】
図1に示すように、上記の構成を有する噴霧機構23による水200の噴霧は、センサ24の検出結果に基づいて、制御部25が制御する。
【0073】
センサ24は、液体100の揮発による塩酸ガスの検出及び濃度の測定を行うために設けられている。センサ24は、例えば、流出防止槽7の側壁12に取り付けられており、流出防止槽7に隣接している。液体100が貯留タンク6から流出防止槽7に流出したことにより、流出防止槽7において液体100が揮発すると、この揮発によって発生した塩酸ガスの濃度を、センサ24が検出する。センサ24は、検出結果を示す電気信号を、制御部25へ出力する。
【0074】
制御部25は、センサ24が、塩酸ガスを検出したことに基づいて、噴霧機構23に水200を噴霧させるために設けられている。制御部25は、例えば、リレー回路、PLC(Programmable Logic Controller)又はCPU等を用いて形成されており、センサ24、第1バルブ31の駆動部、及び水ポンプ35の電動モータに接続されている。
【0075】
(抑制装置5の動作)
図1及び図2を参照して、次に、抑制装置5の動作について説明する。前述したように、貯留タンク6から液体100が流出した場合、貯留タンク6の液体100は、流出防止槽7に流れる。流出防止槽7に流れた液体100が揮発することにより、流出防止槽7には、塩酸ガス300が生じる。この塩酸ガス300は、センサ24によって検出される。制御部25は、センサ24によって塩酸ガスが検出された場合、第1バルブ31の電磁駆動部を制御することにより、第1バルブ31を開かせる。また、制御部25は、水ポンプ35の電動モータを駆動させる。
【0076】
これにより、水タンク21の水は、水ポンプ35によって主配管28に送られ、第2バルブ32及び第3バルブ33を通過し、更に、ストレーナ34を通過する。ストレーナ34を通過した水200は、第1給水管29と第2給水管30とに供給される。第2給水管30に送られた水200は、第2噴霧部42から噴霧され、霧F2を形成する。これにより、霧F2を構成する水200の粒子が、流出防止槽7の塩酸ガス300を捕集し、塩酸ガス300を溶融(吸着)した状態で落下する。
【0077】
また、霧F2を構成する水200がガスを捕集している間、第1噴霧部41から噴霧された水200によって、霧F1が形成される。霧F1を構成する水200の粒子は、流出防止槽7の液面100aに緩やかに載り、液面100a上に水膜200aを形成する。霧F1が生じている間、水膜200aの厚みは次第に大きくなり、例えば、3mm程度の厚みとなる。水膜200aは、流出防止槽7に溜められている液体100の液面100aを全域に亘って覆い、シールとして機能する。これにより、液体100の揮発が停止される。
【0078】
尚、制御部25が第1バルブ31を開かせている時間、及び水ポンプ35の電動モータを駆動させている時間は、例えば、1分〜3分と、予め定められている。このように、予め定められた時間だけ抑制装置5を駆動することにより、十分な厚みの水膜200aを形成しつつ、水膜200aが形成されるまでに流出防止槽7の液体100から発生した塩酸ガス300を、確実に第2噴霧部42からの霧F2によって捕集することができる。
【0079】
以上説明したように、本実施形態によると、流出防止槽7における液体100の液面100aの位置よりも高い位置から水200を噴霧するための噴霧機構23が設けられている。これにより、噴霧された水200が液面100a及び塩酸ガス300に接触することによって、塩酸の揮発による飛散を抑制することができる。しかも、霧状の水200であれば、少量で、広い範囲に水200を行き渡らせることができるので、水200の使用量が少なくて済む。水200の使用量が少ないので、噴霧した水200と混合する塩酸の量が少なくて済み、大部分の塩酸をそのまま利用することができる。したがって、廃液として処理しなければならない液体100の量が少なくて済み、廃液の処理費用、及び環境に与える負荷の双方を少なくできる。しかも、塩酸の飛散を抑制する媒体として水200を用いるので、廃液の処理が容易であり、廃液の処理費用、及び環境に与える負荷の双方をより一層少なくできる。
【0080】
従って、本実施形態によると、自然環境に与える負荷が少なく、且つコスト安価に化学物質の飛散を抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態によると、通常時には、液体100を貯留タンク6に貯留しておくことができる。また、貯留タンク6の破損、又は貯留タンク6からの液体100の溢れにより、貯留タンク6から流出防止槽7に液体100が流出した場合には、当該流出した液体100の塩酸の揮発による飛散を、噴霧機構23からの水200の噴霧によって抑制することができる。
【0082】
より具体的には、本実施形態によると、第1噴霧部41から噴射された霧状の水200は、水200の比重より高い比重の液体100の液面100a上に水膜200aを形成する。これにより、水膜200aが、塩酸の揮発を抑制するシールとして機能する。したがって、液体100からの塩酸の揮発量を確実に少なくすることができる。しかも、水200は、実質的に、流出防止槽7の液体100のうちの液面100aにのみ触れることとなる。したがって、液体100のうち液面100aよりも下方にある部分は、水200と混合することが抑制されており、水200が噴霧される前の性質を維持することができる。したがって、廃液として処理する必要のある液体100は、水膜200aと接している部分周辺の僅かな箇所で済み、廃液の処理量をより少なくできる。また、第2噴霧部42から噴霧された水は、液体100からの揮発による塩酸ガス300を捕集する霧F2として機能する。これにより、第1噴霧部41によって水膜200aが形成される前の時点で液体100が揮発することにより生じた塩酸ガス300を、第2噴霧部42から噴射された霧F2によって捕集することができる。これにより、塩酸の飛散をより確実に抑制することができる。
【0083】
また、本実施形態によると、第1噴霧部41及び第2噴霧部42は、それぞれ、流出防止槽7における液体100の液面100aに向けて水200を噴霧する。これにより、第1噴霧部41は、風等に頼らずに液面100a上に直接霧F1を形成することができるので、液面100a上に水膜200aをより確実に形成することができる。また、第2噴霧部42から液面100aに向けて噴霧された水200は、吸収したとともに、水膜200aに向けて落下することができる。これにより、第1噴霧部41からの水200と、第2噴霧部42からの水200とを一か所に集めることができるので、これらの水200を含む廃液の回収作業を容易に行うことができ、廃液の処理にかかるコストをより低減することができる。
【0084】
また、本実施形態によると、第1噴霧部41及び第2噴霧部42は、それぞれ、液面100aの全域を上方から覆うように水200を噴霧する。これにより、第1噴霧部41から噴射された霧状の水200を、略均等な密度で液面100a上に降らせることができる。これにより、第1噴霧部41からの水200が液面100aの一部に集中して噴霧されることを抑制できる。これにより、液体100の内部に水200が侵入して混ざることを抑制できるので、希釈された液体100の量を少なくできる。よって、廃液の発生量を、より少なくすることができる。
【0085】
また、本実施形態によると、第1噴霧部41及び第2噴霧部42は、水200を鉛直方向の下側に向けて円錐状に噴霧する。これにより、第1噴霧部41及び第2噴霧部42の何れにおいても、広い範囲に水200を噴霧することができ、且つ、均等な密度で水200を噴霧することができる。
【0086】
また、本実施形態によると、第2噴霧部42が噴霧する水200の粒子径(第2粒子径)は、第1噴霧部41が噴霧する水200の粒子径(第1粒子径)よりも小さい。このように、第2噴霧部42から噴霧された水200は、粒子径が小さいので、液体100の揮発による塩酸ガス300と一緒に、風になびき易い。このため、第2噴霧部42から噴霧された水200を、液体100の揮発による塩酸ガス300の動きに追従させることができ、当該塩酸ガス300をより確実に捕集することができる。
【0087】
また、本実施形態によると、第1噴霧部41における水200の噴射角度θ1は、第2噴霧部42における水の噴射角度θ2よりも大きい。このように、第1噴霧部41における水200の噴射角度θ1を大きくすることにより、第1噴霧部41から噴霧された水200を、液面100aの全域に亘って均等な密度で液面100a上に着地することができる。また、噴射角度θ2が小さい第2噴霧部42から噴霧された水200は、下向きのエネルギーが大きく、液体100から揮発した塩酸ガス300を取り込みながら確実に落下することができる。これにより、揮発した塩酸ガス300を、水200とともにより確実に回収することができる。
【0088】
また、本実施形態によると、第1噴霧部41は、第1噴霧部41が水200を噴霧する第1噴射方向D1と直交する断面において、円形状をなす霧を形成するように水200を噴霧する。これにより、第1噴霧部41から噴霧された水200の密度を、霧F1の全域に亘ってより均等にすることができる上に、噴霧面積を広くすることができる。
【0089】
また、本実施形態によると、第2噴霧部42は、当該第2噴霧部42が水200を噴霧する第2噴射方向D2と直交する断面において、円環状をなす霧を形成するように水200を噴霧する。これにより、第2噴霧部42は、広い範囲に水200を噴霧しつつ、当該水200を噴霧する領域をある程度集中させることができる。これにより、第2噴霧部42からの水を、液体100の揮発による塩酸ガス300を取り込ませつつ確実に落下させることができる。
【0090】
また、本実施形態によると、第1噴霧部41における水200の圧力と、第2噴霧部42における水200の圧力とが同じとされている。これにより、第1噴霧部41に水200を送る水ポンプ35等と、第2噴霧部42に水を送る水ポンプ35等とを共用することができるので、水200を噴霧するための構成を簡易且つコスト安価に実現できる。
【0091】
また、本実施形態によると、第2噴霧部42の位置は、第1噴霧部41の位置よりも高い。これにより、第1噴霧部41が液面100a上で迅速に水膜200aを形成しつつ、第2噴霧部42が、水200を広範囲に噴霧できる。これにより、液体100からの塩酸の揮発量を少なくするとともに、液体100の揮発による塩酸ガス300を、より確実に捕集することができる。また、第1噴霧部41から噴霧された水200が第2噴霧部42と混ざって大きな水滴に成長することを抑制できる。これにより、大きな水滴が液面100aを突き抜けて液体100内に侵入して液体100と混合されることを抑制できる。
【0092】
また、本実施形態によると、センサ24が化学物質を検出した場合に、制御部25は噴霧機構23を駆動させる。これにより、貯留タンク6から液体100が流出した場合に、自動的に水200を噴霧することができる。これにより、安全且つ迅速に、液体100からの塩酸の飛散を抑制できる。
【0093】
(変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は前述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。例えば、前述の実施形態において例示した形態の他に、次のような変形例を実施することができる。
【0094】
(1)前述の実施形態では、噴霧機構が、流出防止槽の液体に向けて水を噴霧する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、噴霧機構を貯留タンク内に設置し、貯留タンク内において水を噴霧してもよい。この場合、噴霧機構の第1噴霧部から噴霧された水は、貯留タンク内の噴霧対象としての液体の液面に水膜を形成し、第2噴霧部から噴霧された水は、貯留タンク内で生じたガスを捕集する。
【0095】
(2)前述の実施形態では、噴霧機構は、液体が存在し得る領域(貯留部)の真上から水を噴霧する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。噴霧機構は、鉛直方向において、流出防止槽の側壁の上方よりも高い位置に設けられていればよく、貯留部の真上の位置から外れた位置に配置されていなくてもよい。
【0096】
(3)前述の実施形態では、噴霧機構が、第1噴霧部及び第2噴霧部を有する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、噴霧機構の第1噴霧部又は第2噴霧部を省略してもよい。
【0097】
(4)前述の実施形態では、第2噴霧部は、流出防止槽に貯留された液体の液面に向けて水を噴霧する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、第2噴霧部は、流出防止槽の外側に向けて水を噴霧してもよい。これにより、流出防止槽の外側に飛散したガスを、第2噴霧部から噴霧された水で捕集することができる。
【0098】
(5)前述の実施形態では、第1噴霧部における水の噴射角度が、第2噴霧部における水の噴射角度よりも大きい形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、第1噴霧部における水の噴射角度は、第2噴霧部における水の噴射角度と同じでもよいし、第2噴霧部における水の噴射角度より小さくてもよい。
【0099】
(6)前述の実施形態では、第1噴霧部は、水を中実の円錐状に噴霧する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。第1噴霧部は、水を中空の円錐状に噴霧してもよい。また、第2噴霧部は、水を中空の円錐状に噴霧する形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。第2噴霧部は、水を中実の円錐状に噴霧してもよい。
【0100】
(7)前述の実施形態では、第1噴霧部における水の圧力と、第2噴霧部における水の圧力とが同じである形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、第1噴霧部における水の圧力と、第2噴霧部における水の圧力とが異なっていてもよい。
【0101】
(8)前述の実施形態では、センサが化学物質を検出した場合に、噴霧機構を予め定められた時間だけ駆動させる形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。例えば、噴霧機構を駆動させた後、センサによって化学物質が検出されなくなるまで、噴霧機構を駆動し続けてもよい。
【0102】
(9)前述の実施形態では、第1噴霧部及び第2噴霧部を、一流体ノズルで形成した形態を例にとって説明したけれども、この通りでなくてもよい。第1噴霧部及び第2噴霧部は、二流体ノズルであってもよい。二流体ノズルであれば、水と、噴霧用の気体とを混合させることにより、より広い範囲に水を噴霧できる。
【実施例】
【0103】
(実施例1)
図4(a)に示すように、貯留部としてのビーカと、化学物質を含む液体としての35%濃度の塩酸と、第1噴霧部41と同様の噴霧器と、を用意した。この噴霧器から噴霧される水の粒径は、約1mmである。35%濃度の塩酸100mLを、ビーカに入れ、ビーカの上方から噴霧器を用いて純水を噴霧した。これにより、図4(b)に示すように、ビーカ内の塩酸の液面上に、純水による水膜を形成した。その結果、水膜の厚みが10mmになった時点で、ビーカ上方において塩酸による臭気が感じられなくなった。即ち、塩酸ガスの発生が停止された。また、純水の噴霧開始時点から、塩酸による臭気が感じられなくなるまでの間、一定時間毎に、図示しない湿ったPH試験紙を用いて、塩酸ガスのPH値を測定した。その結果、PH試験紙が示すPH値は、1に近い値から、最終的に略7(中性)となった。
【0104】
図4(b)に示すように、塩酸の上方に、塩酸とは明らかに分離した状態の水膜が形成されており、当該水膜によって塩酸を上方から完全にシールできていることが実証された。尚、ビーカ内における塩酸の液面の面積は、2300mmであり、水膜を構成に使用した水量は、約5.4mLであった。このことから、水膜の形成に必要な水の量は、約2.3kg/mである。即ち、塩酸の揮発を停止させるのに必要な水量は、液面1平方メートルあたり僅か2.3kgで済む。
【0105】
以上より、少量の水を用いることで、塩酸の揮発による塩酸ガスの発生を完全に止めることができた。しかも、水膜は塩酸とは完全に分離しているので、水膜下の塩酸が薄まることが実質的に無く、当該塩酸を廃液として処理する必要がない。以上の次第で、廃液を少なくできる点と、水を用いて塩酸ガスの発生を停止できる点とから、自然環境に与える負荷を少なく、且つコスト安価に塩酸の飛散を抑制できることが実証された。
【0106】
(実施例2)
図5(a)に示すように、貯留部としての合成樹脂製の容器と、貯留部としてのビーカと、化学物質を含む液体としての35%濃度の塩酸と、第1噴霧部41と同様の構成を有する第1噴霧ノズルと、第2噴霧部42と同様の構成を有する第2噴霧ノズルと、を用意した。容器は、中空の直方体状に形成され、且つ上面が開放された形状であった。容器の寸法は、縦850mm、横1300mm、高さが690mmであった。容器の開口面積は、1.105mであった。この容器には、約3cmの深さとなるように、35%濃度の塩酸を入れた。ビーカは、無色透明であって500mLの容量を有しており、容器に隣接して配置した。ビーカにも、容器と同様に、35%濃度の塩酸を入れた。
【0107】
第1噴霧ノズルを、容器の上方約2.8mの位置に、1つ配置した。また、第2噴霧ノズルを、第1噴霧ノズルの高さ位置と同じ高さ位置に、3つ配置した。尚、図5(a)では、図示の便宜上、第2噴霧ノズルの下方に第1噴霧ノズルを配置した状態を示している。第1噴霧ノズル及び各第2噴霧ノズルには、それぞれ、ストレーナが設置された管路を通して水(工業用水)が供給されるようにした。
【0108】
第1噴霧ノズルは、平均粒径が340μm〜420μmの水の粒子を噴射するものであった。第1噴射ノズルの噴射水量は、14.0L/minであり、第1噴射ノズルにおける水圧は、約0.4Mpaであった。また、第1噴霧ノズルにおける噴射角度は、120度であった。平面視において、第1噴霧ノズルによる噴霧領域は、円形であり半径が約1.75m、面積が約9.6mであった。また、第1噴霧ノズルから噴霧された水の量は、毎分1.46L/mであった。
【0109】
各第2噴霧ノズルは、平均粒径が130μmの水の粒子を噴射するものであった。第1噴射ノズルの噴射水量は、0.6L/minであり、第1噴射ノズルにおける水圧は、約0.4Mpaであった。また、各第2噴霧ノズルにおける噴射角度は、60度であった。平面視において、1つの第2噴霧ノズルによる噴霧領域は、円形であり半径が約0.195mであった。また、平面視において、第2噴霧ノズル3つの噴霧領域の面積は、約1mであった。また、3つの第2噴霧ノズルから噴霧された水の量は、合計で、毎分1.8L/mであった。
【0110】
上記の条件で、第1ノズル及び各第2ノズルからそれぞれ水を1分間噴霧した。水の噴霧の前後において、容器の上方50cm付近における塩酸ガスの濃度を測定した。また、水の噴霧前と噴霧中において、容器の周囲における塩酸ガスの濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
表1に示すように、容器の上方50cm付近における塩酸ガスの濃度は、水噴霧前には20pm以上という高い値を示していたのに対し、水噴霧後には、0ppm〜0.5ppmと、塩素ガスの濃度が少なくとも1/40に低減された。このように、塩酸ガス濃度を低減する効果が顕著であった。また、容器の周囲における塩酸ガス濃度は、水噴霧前には10ppm〜20ppm以上という高い値を示していたのに対し、水噴霧後には、0ppm〜0.5ppmと、塩素ガスの濃度が少なくとも1/40に低減された。このように、塩酸ガス濃度を低減する効果が顕著であった。
【0113】
また、水の噴霧の前後において、容器内の塩酸濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
表2に示すように、水噴霧前における容器内の塩酸の濃度は、35.5%であったのに対し、水噴霧後における容器内の塩酸の濃度は、35.2%であり、実質的に濃度が変化していないことが確認された。
【0116】
尚、一般的に、塩酸濃度が約25%以下になることで、塩酸からの塩酸ガスの発生が停止する。仮に、容器内の上記35.5%濃度の塩酸を、水で希釈することで濃度を25%以下にする場合、塩酸1Lあたり水が約496mL必要である。一方、上記した、水膜の形成による塩酸ガスの発生の停止の場合(実施例2の場合)であれば、塩酸の濃度は、35.5%から35.2%に低下したに過ぎず、塩酸1Lあたりに必要な水の量は、僅か10mLで済む。即ち、実施例2によると、塩酸ガスの発生の停止に必要な水の量は、塩酸を水で希釈して塩酸ガスの発生を停止する場合と比べて、約1/50で済む。このように、塩酸ガスの発生を停止させつつ、塩酸の希釈を抑制することができるので、水の噴霧後にも、当該塩酸は、本来の用途に使用することができ、廃液として処理される必要が無い。
【0117】
更に、水噴霧後のビーカを調べたところ、ビーカの塩酸上には、図5(b)に示すように、厚さが約3mmの水膜が形成されていた。この水膜の酸性度を調べたところ、中性であった。このため、水膜は、塩酸と混ざっておらず、当該水膜の水は、水噴霧前の状態と同様であり、処理が容易であることが実証された。
【0118】
以上より、実施例2では、実施例1と同様に、少量の水を用いることで、塩酸の揮発による塩酸ガスの発生を完全に止めることができた。しかも、水膜は塩酸とは完全に分離しているので、水膜下の塩酸が薄まることが実質的に無く、当該塩酸を廃液として処理する必要がない。以上の次第で、廃液を少なくできる点と、水を用いて塩酸ガスの発生を停止できる点とから、自然環境に与える負荷を少なく、且つコスト安価に塩酸の飛散を抑制できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、揮発性の化学物質を含む液体の飛散を抑制するための、化学物質飛散抑制装置、化学物質貯留装置、及び化学物質飛散抑制方法として広く適用することができる。
【符号の説明】
【0120】
1 化学物質飛散抑制装置
14 領域
23 噴霧機構
100 液体
100a 液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性の化学物質を含み、且つ水の比重よりも大きい比重を有する液体が存在し得る領域において、前記液体のうち噴霧対象となる液体の液面の位置よりも高い位置から、水を噴霧するための噴霧機構を備えることを特徴とする、化学物質飛散抑制装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学物質飛散抑制装置であって、
前記領域には、貯留部が配置されており、
前記貯留部は、
閉じられた空間を形成し当該空間に前記液体を貯留可能な第1貯留部と、
上部が開放された空間を形成し、前記第1貯留部から流出した前記液体を貯留可能な第2貯留部と、を含み、
前記噴霧機構は、前記第2貯留部に向けて前記水を噴霧可能であることを特徴とする、化学物質飛散抑制装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の化学物質飛散抑制装置であって、
前記噴霧機構は、第1噴霧部及び第2噴霧部の少なくとも一方を有し、
前記第1噴霧部は、前記液面上に水の膜を形成するように前記水を噴霧可能であり、
前記第2噴霧部は、前記液面から揮発した前記化学物質を捕集するために当該揮発した化学物質へ向けて水を噴霧可能であることを特徴とする、化学物質飛散抑制装置。
【請求項4】
請求項3に記載の化学物質飛散抑制装置であって、
前記第1噴霧部及び第2噴霧部の少なくとも一方は、前記液面に向けて前記水を噴霧することを特徴とする、化学物質飛散抑制装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の化学物質飛散抑制装置であって、
前記第1噴霧部及び前記第2噴霧部の少なくとも一方は、前記液面の全域を上方から覆うように前記水を噴霧可能であることを特徴とする、化学物質飛散抑制装置。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5の何れか1項に記載の化学物質飛散抑制装置であって、
前記第1噴霧部及び前記第2噴霧部の少なくとも一方は、前記水を鉛直方向の下側に向けて円錐状に噴霧することを特徴とする、化学物質飛散抑制装置。
【請求項7】
請求項3至請求項6何れか1項に記載の化学物質飛散抑制装置であって、
前記第2噴霧部が噴霧する前記水の粒子径は、前記第1噴霧部が噴霧する前記水の粒子径よりも小さいことを特徴とする、化学物質飛散抑制装置。
【請求項8】
請求項3乃至請求項7の何れか1項に記載の化学物質飛散抑制装置であって、
前記第2噴霧部の位置は、前記第1噴霧部の位置よりも高いことを特徴とする、化学物質飛散抑制装置。
【請求項9】
請求項2に記載の化学物質飛散抑制装置であって、
前記第2貯留部に隣接して配置され、前記化学物質を検出するためのセンサと、
前記センサが前記化学物質を検出した場合に前記噴霧機構を駆動させる制御部と、を更に備えることを特徴とする、化学物質飛散抑制装置。
【請求項10】
揮発性の化学物質を含み、且つ水の比重よりも大きい比重を有する液体を貯留可能な貯留部と、
前記貯留部に貯留された前記液体のうち噴霧対象となる液体の液面の位置よりも高い位置から、水を噴霧するための噴霧機構と、
を備えることを特徴とする、化学物質貯留装置。
【請求項11】
揮発性の化学物質を含み、且つ水の比重よりも大きい比重を有する液体が存在する領域において、前記液体のうち噴霧対象となる液体の液面の位置よりも高い位置から、水を噴霧することを特徴とする、化学物質飛散抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−102822(P2013−102822A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246783(P2011−246783)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】