説明

化学療法に対する応答者の決定

【課題】阻害剤治療、特にEGFR阻害剤の化学療法剤との併用治療に対する感受性を決定するための方法の提供。
【解決手段】ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であることの指標として、前記生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定することを含んで成る方法。EGFR阻害剤は、例えばエルロチニブ(N−(3−エチニルフェニル)−6,7−ビス(2−メトキシエトキシ)キナゾリン−4−アミン)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定することにより、ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が、上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であるかどうかを決定する方法に関する。本発明は、リン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質が用いられる患者中の肺癌の進行を阻害するための候補薬剤を得るための又は組成物を選択するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
erbB1遺伝子によりコードされるEGFRは、ヒト悪性腫瘍において因果的に関係する。特に、EGFRの発現の増加は、乳癌、膀胱癌、肺癌、頭部癌、頸部癌及び胃癌、並びに神経膠芽腫において観察された。上皮成長因子受容体(EGFR)(170kDの糖タンパク質)は、N末端細胞外ドメイン、疎水性膜貫通ドメイン、及びキナーゼドメインを含むC末端細胞内領域から構成される。EGFRリガンド誘導性二量化は、固有のRTKドメイン(Srcホモロジードメイン1、SH1)を活性化し、細胞質ドメインの非触媒尾部中の6個の特異的なEGFRチロシン残基上での自己リン酸化を生じさせる。
【0003】
癌細胞中のEGFR活性化の細胞効果としては、増殖の増大、細胞運動の促進、接着、浸潤、血管新生、及びアポトーシスの阻害による細胞生存性の強化が挙げられる。EGFRの活性化は、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)カスケードの刺激により、腫瘍細胞増殖を誘導する。EGFRに結合するリガンドにおいて、SOSグアニンヌクレオチド交換因子は、Grb2アダプタータンパク質により原形質膜に動員され、これは、小さなGタンパク質であるRas上で、GTPのGDPへの交換を促進し、その後、Raf、MEK、及びERKから成るMAPKカスケードを活性化する。ERK(pMAPK、pERK1/2)の活性化は、順に、ELK−1又はc−Myc(細胞成長を促進する)などの転写因子をリン酸化し、活性化する。
【0004】
多くの成長因子経路は、多くのキナーゼの活性化を通して、NSCLC細胞の発達及び生存に寄与する。EGFRは、ホスファチジルイノシトール−3−キナーゼ(PI3K)/Akt経路及びSTAT経路を経るシグナル伝達によっても、癌細胞の生存率を強化する。Aktは、他の成長因子、例えばインスリン成長因子1、塩基性線維芽細胞成長因子、及びインターロイキン3及び6によっても刺激される。Akt1〜3の3つのアイソフォームは、全て、活性化ドメインにおけるT308残基とCOOH末端ドメインにおけるS473残基において、同様の様式でリン酸化される(pAKT)。
【0005】
エルロチニブ(Tarceva(登録商標))は、有力な上皮成長因子受容体(HER1/EGFR)チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であり、これは、単剤(WO01/34574)として用いた場合に、以前の化学療法が失敗であった非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者に対して、延命効果を提供する。様々な試験においてTarceva(登録商標)の有効性が試験された。その化学名は、N−(3−エチニルフェニル)−6,7−ビス(2−メトキシエトキシ)キナゾリン−4−アミンである。
【0006】
TALENT試験は、一次NSCLC患者におけるプラセボ対照第3相試験であり、患者は、150mg/日でのエルロチニブ(Tarceva(登録商標))又はプラセボと組み合わせてゲムシタビン及びシスプラチン(この併用化学放射線療法は、治療の非US標準であった)を受けた。主要評価項目は、生存期間であり、副次的評価項目は、腫瘍増殖停止時間、奏功率;奏功期間;薬物動態パラメータ及び薬力学的パラメータ、及び生活の質であった。HER1/EGFR及びHER2の発現率も評価した。標準安全性解析を実施した。TALENT試験の全ての結果は、陰性であった。主要評価項目及び副次的評価項目に関して、ゲムシタビン及びシスプラチン単独と比較して、エルロチニブ(Tarceva(登録商標))と化学療法(ゲムシタビン及びシスプラチン)に対する実証できる利点は存在しなかった(Gatzemeier,U.,et al.,Proc Am Soc Clin Oncol 23(2004)617(Abstract7010))。エルロチニブとカルボプラチン及びパクリタキセルを用いた、US基準のTRIBUTE試験において、同一結果が見られた(Herbst,R.S.,et al.,J Clin Oncol(2004)ASCO Annual Meeting Proceedings.Post−Meeting Edition;22(July 15 Suppl.)(Abstract7011))。非小細胞肺癌(NSCLC)に対する二次又は三次治療としての単剤エルロチニブの無作為プラセボ対照第3相試験(BR.21;NCIC/OSIP)は、プラセボ(4.7ヶ月)と比較して、エルロチニブ(6.7ヶ月)による生存性において、統計学的に顕著な改善を見出した。
【0007】
様々な試験は、非小細胞肺癌中のバイオマーカー及び特定のEGFR阻害薬剤への関係の調査に関する。Han等(Int J Cancer 113(2005)109−115)は、ゲフィチニブ(Iressa(登録商標)、EGFR TKI)単剤治療により65人の患者を調べる。彼らは、化学療法耐性非小細胞肺癌中のゲフィチニブに対する応答予測マーカーとして、EGFRの下流分子を分析する。Cappuzzo,F.等(JNCl 96(2004)1133−1141)は、ゲフィチニブ(Iressa、EGFR TKI)単剤治療により106人の患者を調べる。彼らは、進行性非小細胞肺癌を有する患者におけるAktリン酸化及びゲフィチニブの有効性を調査し、ゲフィチニブを受けたP−Akt−陽性腫瘍を有する患者は、P−Akt−陰性腫瘍を有する患者より、治療からより多く利益を得ることを見出す。Vicent,S.等(Br J Cancer90(2004)1047−1052)は、111人のNSCLC患者を調べる。彼らは、pERKが非小細胞肺癌中で活性化され、進行性腫瘍に関連することを見出す。Han,S.W.等(J Clin Oncol 23(2005)2493−2501)は、ゲフィチニブ(EGFR TKI)単剤治療により90人の患者を調べる。彼らは、ゲフィニチブで処置した、非小細胞肺癌患者における上皮成長因子受容体変異の予測及び予後影響を分析する。Mukohara,T.等(Lung Cancer 41(2003)123−130)は、ネオアジュバント化学療法又は放射線療法のいずれかを受けた60人の患者(1段階あたり20人の患者)を調べる。EGFRの発現は、pERK及びpAktの発現と相互に関連する。試料サイズは、著者自身により言及されているように過度に低い。Raben,D.等(Int J Radiation Oncology Biol.Phys 59(2004)27−38)は、非小細胞肺癌に対する標的治療を調べる。Ono,M.等(Mol Cancer Ther 3(2004)465−472)は、9個のNSCLC細胞株を試験し、ゲフィチニブで処理した。Hirsch,F.R.等(Curr Opin Oncol 17(2005)118−122)は、ゲフィチニブ耐性に対する有力なマーカーとしてAkt及びMAPKのリン酸化状態を再調査する。Meert等(Clinical Cancer Research(2003)2316−2326)は、EGFR阻害剤活性の側面において、NSCLC細胞株を調べる。EGFRの発現レベルもHer2の発現レベルも、EGFR阻害剤に対する感受性と相互に関連しない。Brognard,J.等(Cell Death and Differentiation9(2002)893−904)は、19個のNSCLC細胞株を試験し、それにより、17個は、Erk1/2のリン酸化及び恒常的活性を示した。David,O.等(Clinical Cancer Research 10(2004)6865−6871)は、pAktの過剰発現は、NSCLC中の独立した予後因子であることを開示する。Kakiuchi,S.等(Human Molecular Genetics 13(2004)3029−3043)は、33人のNSCLC患者の、ゲノム規模でのcDNAマイクロアレイを調べる。全てには、単剤治療設定においてゲフィチニブが与えられた。Akt/pAktの発現レベル、EGFR遺伝子状態又はpEGFR染色とゲフィチニブ応答の間の相互関係に関して、証拠は見出されなかった。Kim,R.H.等(Cancer Cell 7(2005)263−273)は、DJ−1の発現(癌遺伝子)が、pAktレベルに等しいことを開示した。Balsara,B.R.等(Carcinogenesis 25(2004)2053−2059)は、TMA pAkt発現により、110人のNSCLC患者を調べる。pAkt陰性と陽性の間に、生存率の顕著な差異は存在しない。Hirami,Y.等(Cancer Letters 214(2004)157−164)は、非小細胞肺癌中の上皮成長因子受容体、pAkt及び低酸素誘導因子−1アルファの関係を調べる。Lee,S.H.等(APMIS 110(2002)587−592)は、NSCLC患者の43LN転移について分析する。NSCLC中のAkt活性化は、腫瘍進行よりむしろ、腫瘍発達において役割を果たす。Engelman,J.A.等(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102(2004)3788−3793)は、erbB−3がゲフィチニブ感受性非小細胞肺癌細胞株におけるホスホイノシチド3−キナーゼ活性を介在することを分析する。David,O.(J Cell Mol Med 5(2001)430−433)は、肺癌における新規の診断マーカーとしての、Akt及びPTENの役割を論じる。Mantha,A.等(Clin.Cancer Res.11(2005)2398−2407)は、上皮成長因子受容体の役割を阻害するメバロン酸経路標的化について調べる。
【0008】
EGFR陽性癌に関連する予後マーカーは、WO2004/046386において調べられている。EGFR阻害薬剤に対する応答に関する遺伝子発現マーカーは、US2004/0157255により開示されている。上皮成長因子受容体モジュレーターに対する感受性を決定するためのバイオマーカー及び方法は、WO2004/063709に開示されている。WO01/00245は、ヒト化抗ErbB2抗体及び抗ErbB2抗体、例えばヒト化抗erbB2抗体を用いて癌を処置するための方法について記載する。
【発明の概要】
【0009】
発明の概要
EGFR阻害剤治療、特にEGFR阻害剤の化学療法剤との併用治療に対する感受性を決定するための方法を提供する必要性が未だに存在する。
【0010】
従って、本発明の実施態様において、ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であるかどうかを決定する方法であって、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現が、ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であることの指標である、生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定することを含んで成る前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エルロチニブ/ゲムシタビン/シスプラチン(A)又はプラセボ/ゲムシタビン/シスプラチン処置に無作為に割り当てられた全ての患者の間での、死亡までの時間(OS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、事象が生じる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図2】エルロチニブ/ゲムシタビン/シスプラチン(A)又はプラセボ/ゲムシタビン/シスプラチン処置に無作為に割り当てられた、バイオマーカーのデータを含む全ての患者の間での、死亡までの時間(OS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図3】エルロチニブ/ゲムシタビン/シスプラチン(A)又はプラセボ/ゲムシタビン/シスプラチン処置に無作為に割り当てられた全ての患者の間での、進行/死亡までの時間(PFS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図4】エルロチニブ/ゲムシタビン/シスプラチン(A)又はプラセボ/ゲムシタビン/シスプラチン処置に無作為に割り当てられた、バイオマーカーのデータを含む全ての患者の間での、進行/死亡までの時間(PFS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図5】pMAPK H−スコア≧100(H)を有する患者を、pMAPK H−スコア<100を有する患者と比較する、プラセボ/ゲムシタビン/シスプラチンで処置した全てのバイオマーカー患者の間での、死亡までの時間(OS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図6】エルロチニブ/ゲムシタビン/シスプラチン(A)をプラセボ/ゲムシタビン/シスプラチン処置と比較する、pMAPK H−スコア<100を有する全てのバイオマーカー患者の間での、死亡までの時間(OS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図7】それぞれ、エルロチニブ/ゲムシタビン/シスプラチン(LA、HA)をプラセボ/ゲムシタビン/シスプラチン(H)処置と比較する、pMAPK H−スコア<100及びpMAPK H−スコア≧100を有する全てのバイオマーカー患者の間での、死亡までの時間(OS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図8】それぞれ、エルロチニブ/ゲムシタビン/シスプラチン(LA、HA)をプラセボ/ゲムシタビン/シスプラチン(H)処置と比較する、pMAPK H−スコア<100及びpMAPK H−スコア≧100を有する全てのバイオマーカー患者の間での、進行/死亡までの時間(PFS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図9】pAKT1 H−スコア<300(L)及びpAKT1 H−スコア≧300(H)を比較する、全てのプラセボ/ゲムシタビン/シスプラチン処置したバイオマーカー患者の間での、死亡までの時間(OS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図10】pAKT1 H−スコア<300(L)及びpAKT1 H−スコア≧300(H)を比較する、全てのエルロチニブ/ゲムシタビン/シスプラチン処置したバイオマーカー患者の間での、死亡までの時間(OS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【図11】それぞれ、エルロチニブ/ゲムシタビン/シスプラチン(LA、HA)をプラセボ/ゲムシタビン/シスプラチン(H)処置と比較する、pAKT1 H−スコア<300(L)及びpAKT1 H−スコア≧300を有する全てのバイオマーカー患者の間での、死亡までの時間(OS)試験に関するカプラン−マイヤー曲線(円は、イベントが起こる前に観測が終了された場合の、打ち切り観測時間を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の別の実施態様において、リン酸化AKTタンパク質に結合する抗体又はリン酸化MAPKタンパク質に結合する抗体は、ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であるかどうかを決定するために用いられる。
【0013】
本発明の別の実施態様においては、
a)複数の試験組成物の存在下で、患者からのEGFR阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性である肺癌細胞を含んで成る生物試料のアリコートを、別々に曝露すること;
b)試験組成物と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベル、及び試験組成物と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを比較すること、
c)試験組成物と接触させていないアリコートと比べて、試験組成物を含むアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを変化させる試験組成物の1つを選択すること、ここで、試験組成物と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルと、試験組成物と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの間の少なくとも10%の差異が、試験組成物の選択のための指標である、
を含んで成る、患者における肺癌の進行を阻害するための組成物を選択する方法が提供される。
【0014】
本発明の更に別の実施態様においては、
a)EGFR阻害剤及び化学療法剤に対して感受性である肺癌細胞を含む生物試料のアリコートを、候補薬剤と接触させること、
(b)候補薬剤と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、及び候補薬剤と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、
(c)候補薬剤と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベル、及び候補薬剤と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを比較することにより、候補薬剤の効果を観察すること、
(d)観察された効果から当該薬剤を得ること、ここで、候補薬剤と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルと、候補薬剤と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの間の少なくとも10%の差異が、候補薬剤の効果の指標である、
を含んで成る、候補薬剤を得る方法が提供される。
【0015】
本発明の別の実施態様においては、本発明の方法により得られる候補薬剤、及び本発明の薬剤を含んで成る医薬調製物が提供される。
【0016】
本発明の更に別の実施態様において、本発明の薬剤は、肺癌の進行の阻害のための組成物の調製に用いられる。
【0017】
本発明の更に別の実施態様においては、本発明の方法の段階、及び
(i)対象に対して治療有効量の薬剤を供給するのに十分な量で、段階(c)で同定された候補薬剤又はその類似体若しくは誘導体を合成すること;及び/又は
(ii)段階(c)で同定された候補薬剤又はその類似体若しくは誘導体を、医薬として許容される担体と混合すること、
を含んで成る、薬剤を製造するための方法。
【0018】
本発明の別の実施態様においては、Aktタンパク質、MAPKタンパク質、リン酸化Aktタンパク質、リン酸化MAPKタンパク質、リン酸化Aktタンパク質又はリン酸化MAPKタンパク質に対して選択的に結合する抗体が、患者において肺癌の進行を阻害するための候補薬剤を得るために又は組成物を選択するために用いられる。
【0019】
本発明の更に別の実施態様においては、リン酸化MAPK及び/又はリン酸化Aktタンパク質に対する抗体を含んで成るキットが提供される。
【0020】
用語「生物試料」は、一般的に、個々の体液、細部株、組織培養、又は他の起源から得られる任意の生物試料を意味する。体液は、例えばリンパ液、血清、血漿、尿、精液、滑液及び髄液である。本発明によると、生物試料は、肺癌細胞及び非肺癌細胞(他の細胞)を含んで成る。哺乳動物から生検組織及び体液を得るための方法は、当業界で周知である。
【0021】
用語「発現のレベル」又は「発現レベル」は、一般的に、試料中のアミノ酸産物又はタンパク質の量、好ましくは本発明の試料中のリン酸化アミノ酸産物又はリン酸化タンパク質の量を指す。「発現」は、遺伝子コード情報が、細胞中に存在し、作動(例えば、本発明のリン酸化)する構造へと変換される工程を指す。本明細書中で用いる場合、「発現遺伝子」は、mRNAへと転写され、その後タンパク質へと翻訳され、翻訳後に修飾(例えば、リン酸化)されたものを含む。単に完全性のために、この用語は、RNAへと転写されるが、タンパク質へと翻訳されない(例えば、トランスファーRNA及びリボソームRNA)発現遺伝子も含む。用語「過剰発現」及び「過少発現」は、コントロールとして用いる試料中のベースライン発現レベルと比較した場合の、発現レベルにおける上方又は下方の偏差それぞれを指す。従って、「過剰発現」は「増大した発現」でもあり、「過少発現」は「減少した発現」である。
【0022】
本明細書中の用語「抗体」は、最も広い意味において用いられ、具体的には、所望の生物活性を示す限り、インタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成される多特異的抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体フラグメントに及ぶ。
【0023】
本明細書中で用いる場合、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に同質な抗体の集団から得られる抗体を指す。すなわち、その集団を組んで成る個々の抗体は、少量で存在し得る自然に生じる可能性のある変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位に向けられる。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に向けられる。特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらが他の抗体により汚染されずに合成することができる点で有利である。修飾語句「モノクローナル」は、実質的に同質な抗体の集団から得られる抗体の性質を示し、抗体の生成を必要とする場合、任意の特定の方法により構築されない。例えば、本発明で用いられるモノクローナル抗体は、Kohler,G.等(Nature 256(1975)495)により最初に説明されたハイブリドーマ法により生成することができ、或いは組み換えDNA法により生成することができる(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)。「抗体フラグメント」は、インタクトな抗体の一部分を含んで成る。
【0024】
本発明の着目の抗原(すなわち、リン酸化MAPK又はリン酸化pAKTタンパク質)に「結合する」抗体は、抗体が抗原の存在を検出するのに有用であるように十分な親和性で抗原に結合することができるものである。本発明の抗体は、リン酸化MAPK又はリン酸化pAKTタンパク質に結合するものであり、これは、通常、非リン酸化MAPK又は非リン酸化pAKTタンパク質とは対照的に、リン酸化MAPK又はリン酸化pAKTタンパク質に選択的に結合し、或いは非リン酸化MAPK又は非リン酸化pAKTタンパク質とは顕著に交差反応しない。このような実施態様において、非リン酸化タンパク質への抗体の結合の程度は、蛍光活性化細胞分類(FACS)分析又は放射性免疫沈降法(RIA)により測定した場合に、10%未満であるだろう。言い換えれば、それは、リン酸化MAPK又はリン酸化pAKTタンパク質に特異的に結合し、非リン酸化MAPK又は非リン酸化pAKTタンパク質に特異的に結合しないか又は全く結合しない。
【0025】
「化学療法剤」は、癌の処置に有用な化合物である。化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えばチオテパ及びシクロスホスファミド(CYTOXAN(登録商標))、スルホン酸アルキル、例えばブスルファン、インプロスルファン及びピポスルファン;アジリジン、例えばベンゾドーパ(benzodopa)、カルボコン、メトレドーパ(meturedopa)、及びウレドーパ(uredopa);エチレンイミン及びメチラメラミン(methylamelamin)、例えばアルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド、トリエチレンチオホスファオラミド(triethylenethiophosphaoramide)及びトリメチロロメラミン(trimethylolomelamine);ナイトロジェンマスタード、例えばクロラムブシル、クロルナファジン、クロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノベンビシン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロホスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソウレア、例えばカルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン;抗生物質、例えばアクラシノマイシン、アクチノマイシン、オウスラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポフィロマイシン(poffiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗物質、例えばメトトレキサート及び5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似体、例えばフルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニン;ピリミジン類似体、例えばアンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FU;アンドロゲン、例えばカルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎剤、例えばアミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補充物質(replenisher)、例えばフロリニン酸(frolinic acid);アセグラトン;アルドホスファミド配糖体;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビスアントレン;エダトラキサート(edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エルホルミチン(elformithine);エリプチニム酢酸塩(elliptinium);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン;モピダモル(mopidamol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン;フェナメト(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン(razoxane);シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン(triaziquone);2,2’,2’’−トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン、例えばパクリタキセル(TAXOL(登録商標)、Bristol−Myers Squibb Oncology、Princeton、NJ.)及びドセタキセル(TAXOTERE(登録商標)、Rhone−Poulenc Rorer、Antony、France);クロラムブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体、例えばシスプラチン及びカルボプラチン;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP−16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロネート;CPT−11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン;カペシタビン;及び任意の上記のものの医薬として許容される塩、酸又は誘導体が挙げられる。また、この定義の中に、腫瘍においてホルモン作用を調節又は阻害するように作用する抗ホルモン剤、例えば抗エストロゲン剤、例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリゾキシム、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストン、及びトレミフェン(Fareston);及び、抗アンドロゲン剤、例えばフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、及びゴセレリン;及び、任意の上記のものの医薬として許容される塩、酸又は誘導体も含まれる。「化学療法剤」自体は、上記の癌の組み合わせの処置に有用である化合物の組み合わせであることができる。すなわち、当該組み合わせは、ゲムシタビン/シスプラチンだけでなく、例えばシスプラチン/パクリタキセル、シスプラチン/ドセタキセル、シスプラチン/ビノレルビン、ゲムシタビン/カルボプラチン、又はカルボプラチン/ドセタキセルであることができる。
【0026】
用語「EGFR阻害剤」は、EGFRに結合し、任意にEGFR活性を阻害する治療剤を指す。このような薬剤の例としては、EGFRに結合する抗体及び小分子が挙げられる。EGFRに結合する抗体の例としては、MAb579(ATCC CRL HB 8506)、MAb455(ATCC CRL HB8507)、MAb225(ATCC CRL 8508)、MAb528(ATCC CRL 8509)(US4,943,533、Mendelsohn et al.を参照のこと)、及びその変異体、例えばキメラ化225(C225又はCetuximab;ERBUTIX(登録商標))及び再形成ヒト225(H225)(WO96/40210、Imclone Systems Inc.を参照のこと);タイプ11変異体EGFRに結合する抗体(US5,212,290);US5,891,996に記載されたEGFRに結合するヒト化及びキメラ化抗体;及びEGFRに結合するヒト抗体、例えばABX−EGF(WO98/50433、Abgenixを参照のこと)が挙げられる。抗EGFR抗体は、細胞毒性剤により抱合して、免疫抱合体を生成することができる(例えば、EP0659439A2、Merck Patent GmbHを参照のこと)。EGFRに結合する小分子の例としては、ZD1839又はゲフィチニブ(IRESSA(登録商標);Astra Zeneca)、CP−358774(Tarceva(登録商標);Genentech/OSI)及びAG1478、AG1571(SU5271;Sugen)が挙げられる。本出願において特に好ましいのは、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、特に小分子EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、例えばTarceva(登録商標)である。「小分子」は、例えば、約10,000グラム/モル未満、好ましくは約5,000グラム/モル未満の分子量を有するペプチド又はペプチド模倣体であることができる。好ましくは、「小分子」は、約5,000グラム/モル未満、好ましくは約1,000グラム/モル未満、より好ましくは500グラム/モル未満の分子量を有する化合物、すなわち有機化合物又は無機化合物、並びにそのような化合物の塩、エステル、及び他の医薬として許容される形態である。従って、本発明の好ましい実施態様において、EGFR阻害剤は、約5,000グラム/モル未満、好ましくは約1,000グラム/モル未満の分子量を有する化合物であるEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、並びにそのような化合物の塩、エステル、及び他の医薬として許容される形態である。言い換えると、EGFR阻害剤は、EGFRチロシンキナーゼ活性を阻害し、約5,000グラム/モル未満、好ましくは約1,000グラム/モル未満、より好ましくは500グラム/モル未満の分子量を有する化合物、並びにそのような化合物の塩、エステル、及び他の医薬として許容される形態である。
【0027】
「ゲムシタビン」は、デオキシリボース部分が2位において2個のフッ素原子を含む、デオキシシチジンのピリミジン類似体である、化学療法剤2’,2’−ジフルオロデオキシシチジン(dFdC)である(Heinemann,V.等、Cancer Res 48(1988)4024を参照のこと)。それは、Gemzar(登録商標)として、Eli Lilly and Company(Indianapolis,Indiana,USA)から市販されている。
【0028】
本出願において用いる場合、「シスプラチン」は、Platinol(登録商標)として、Bristol−Myers Squibb Company(New York,NY,USA)から市販されている、化学療法剤シス-ジアンミンジクロロ白金(US5,562,925を参照のこと)である。「シスプラチン」は、シス位の2個の塩素原子及び2個のアンモニア分子により囲まれた白金の中心原子を含む重金属複合体である。
【0029】
本発明によると、「ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性である」という表現は、ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が、上皮成長因子受容体阻害剤単独での処理とは対照的に、上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせによる処置に対して感受性であることを意味する。「感受性である」とは、「に対して反応する」又は「に対して反応を示す」と理解されることもでき、特に肺癌患者に対して有効な反応である。それにより、肺癌患者が、上皮成長因子受容体阻害剤単独での処理とは対照的に、上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせによる処置に対して感受性であるかどうかを決定することができる。これは、患者がそのような処置から利益を享受するだろうことを意味する。
【0030】
「MAPK」タンパク質は、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)又は細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)として知られる、高度に保存された細胞質セリン/スレオニンタンパク質キナーゼファミリーのメンバーである。このタンパク質ファミリーは、いくつかのサブグループを有する。ERKは、様々な細胞外シグナル、例えば浸透圧ストレス、熱ショック、炎症誘発性サイトカイン、ホルモン、及びマイトジェンに応答して、活性化及びチロシン−又はスレオニン−リン酸化される。本発明で用いる場合、用語「MAPKタンパク質」は、好ましくは、MAPK1及びMAPK3を含んで成る、或いは、好ましくは、MAPK1及びMAPK3から成るMAPKタンパク質ファミリーのメンバーを指す。MAPK1(ERK2)のアミノ酸配列は、配列番号1であり、MAPK3(ERK1)(配列番号2)。これらのアミノ酸配列は、mRNA配列、すなわちMAPK1に関してはcDNA配列の配列番号3及び4、MAPK3に関しては配列番号5によりコードされている。MAPK1における主なリン酸化部位は、Thr185及びTyr185であり、MAPK3における主なリン酸化は、Thr202及びTyr204である。これらのリン酸化部位は、本発明において用いられる抗体、すなわち好ましくはMAPK1及びMAPK3のリン酸化形態に対するポリクローナル抗体血清によっても認識される。
【0031】
用語「Akt」タンパク質は、それぞれAkt1/PKBアルファ、Akt2/PKBベータ(Staal,S.P.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84(1987)5034−5037)、及びAkt3/PKBガンマ(Nakatani,K.et al.,Biochem.Biophys.Res.Comm.257(1999)906−910;US6,881,555)と呼ばれている3つのメンバーを有する、二次メッセンジャー調節セリン/スレオニンタンパク質キナーゼのAkt/PKBサブファミリーのタンパク質を指す。アイソフォームは相同であり、ホスファチジルイノシトール3’−OHキナーゼ(PI3K)シグナル伝達に応答してリン酸化により活性化される。PI3K/Akt/PKB経路は、腫瘍形成においても、細胞生存/細胞死を調節するのに重要であるようである(Dudek,H.et al.,Science275(1997)661−665)。本発明において用いる場合、用語「Aktタンパク質」は、好ましくは、Akt1、Akt2及びAkt3を含んで成る、或いは、好ましくは、Akt1、Akt2及びAkt3から成るAktタンパク質ファミリーのメンバーを指す。Akt/PKBαのリン酸化は、2つの部位Thr308及びSer473において生じる(Meier,R.,et al.,J.Biol.Chem.272(1997)30491−30497)。同等のリン酸化部位は、Akt2/PKBベータ(Thr309及びSer474)及びAkt3/PBKガンマ(Thr305及びSer472)中に生じる。用語「リン酸化Akt」タンパク質は、リン酸化された、好ましくは上記の部位においてリン酸化された「Akt」タンパク質を指す。本発明において用いる場合、用語「MAPKタンパク質」は、好ましくは、MAPK1及びMAPK3を含んで成る、或いは、好ましくは、MAPK1及びMAPK3から成るMAPKタンパク質ファミリーのメンバーを指す。Akt1は、ヒトRAC−アルファ セリン/スレオニン−タンパク質キナーゼ(EC2.7.1.37)(RAC−PK−アルファ)、タンパク質キナーゼB(PKB)(C−AKT)としても知られており、Akt1のアミノ酸配列は、配列番号6である。AKT2は、ヒトRAC−ベータ セリン/スレオニン−タンパク質キナーゼ(EC2.7.1.37)(RAC−PK−ベータ)、タンパク質キナーゼAkt−2、又はタンパク質キナーゼB、ベータ(PKBベータ)としても知られており、Akt2のアミノ酸配列は、配列番号7である。AKT3は、ヒトRAC−ガンマ セリン/スレオニン−タンパク質キナーゼ)(EC2.7.1.37)(RAC−PK−ガンマ)、タンパク質キナーゼAkt−3又はタンパク質キナーゼB、ガンマ(PKBガンマ)(STK−2)としても知られており、Akt3のアミノ酸配列は、配列番号8である。
【0032】
発明の詳細な説明
当業界の技術の範囲内である分子生物学及び核酸化学の通常の技術は、文献中で説明される。例えば、Sambrook,J.et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New York,1989;Gait,MJ.(ed.),Oligonucleotide Synthesis−A Practical Approach,IRL Press,1984;Hames,B.D.,and Higgins,SJ.(eds.),Nucleic Acid Hybridisation−A Practical Approach,IRL Press,1985;及び、シリーズ,Methods in Enzymology,Academic Press,Inc.を参照のこと。これらの全ては、引用文献により本明細書中に組み込まれる。上記及び下記の、全ての特許、特許出願、及び本明細書中で言及される刊行物は、引用文献により本明細書中に組み込まれる。
【0033】
本発明の実施態様において、ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であるかどうかを決定する方法であって、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現が、ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であることの指標である、生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定することを含んで成る前記方法を提供する。
【0034】
好ましくは、本発明の方法において、生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を、
a)生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、
b)上皮成長因子阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性でないヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料中の、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、
c)段階a)及び段階b)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異を測定し、それにより、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定すること、
により測定する。
【0035】
好ましくは、段階a)及び段階b)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、少なくとも10%である。より好ましくは、段階a)及び段階b)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、少なくとも25%である。別の実施態様において、段階a)及び段階b)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、少なくとも50%、75%、100%、125%、150%、175%、200%、300%、400%、500%又は1,000%である。段階a)及び段階b)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、最大で10,000%又は50,000%であることができる。段階a)及び段階b)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、好ましくは10%〜10,000%、より好ましくは25%〜10,000%、50%〜10,000%、100%〜10,000%、更により好ましくは25%〜5,000%、50%〜5,000%、100%〜5,000%である。
【0036】
本発明の好ましい実施態様において、生物試料は、例えば肺生検により、或いは生検により他の器官から得ることができる原発肺腫瘍又は転移(局所又は遠隔)である。転移は、例えば肝臓又はリンパ節からの遠隔転移であることもできる。このような遠隔転移は、転移が肺に由来する場合、肺癌細胞も含むことに注意する必要がある。
【0037】
別の好ましい実施態様において、癌は、膵臓癌のような肺癌以外の別の癌である。しかし、固形腫瘍を有する他の癌も適しており、例えば卵巣、結腸直腸、頭部及び頸部、腎臓細胞癌、神経膠腫及び消化管癌、特に胃癌である。
【0038】
別の好ましい実施態様において、EGFR阻害剤は、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、特に小分子EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、例えばTarceva(登録商標)である。従って、言い換えれば、本発明の特に好ましい実施態様において、EGFR阻害剤は、エルロチニブ又はN−(3−エチニルフェニル)−6,7−ビス(2−メトキシエトキシ)キナゾリン−4−アミンである。
【0039】
本発明の更に別の好ましい実施態様において、化学療法剤は、ゲムシタビン及び/又はシスプラチンである。
【0040】
本発明の別の好ましい実施態様において、リン酸化Aktタンパク質又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現は、リン酸化タンパク質に特異的に結合し、好ましくは非リン酸化タンパク質に特異的に結合しないか又は全く結合しない試薬を用いて測定する。好ましくは、抗体、抗体誘導体、又は抗体フラグメントは、リン酸化AKTタンパク質又はリン酸化MAPKタンパク質に特異的に結合し、好ましくは非リン酸化AKTタンパク質又は非リン酸化MAPKタンパク質に特異的に結合しないか又は全く結合しない。
【0041】
本発明の更に別の好ましい実施態様において、リン酸化AKTタンパク質は、Akt1タンパク質のアミノ酸位置473に対応するアミノ酸位置でリン酸化され、或いはMAPKタンパク質は、MAPK1のアミノ酸位置202及び204に対応するアミノ酸位置でリン酸化される。好ましくは、MAPKタンパク質のアミノ酸配列は、アミノ酸配列の配列番号1又は2であり、AKTタンパク質のアミノ酸配列は、アミノ酸配列の配列番号6、7又は8である。
【0042】
本発明の方法で用いることができる多くの異なるタイプの免疫測定法が存在し、例えば酵素結合免疫測定法(ELISA)、蛍光免疫吸着法(FIA)、化学発光免疫吸着法(CLIA)、放射免疫測定法(RIA)、及び免疫ブロット法である。用いることのできる異なる免疫測定法の概説に関しては、以下を参照のこと:Lottspeich and Zorbas(eds.),Bioanalytik,1st edition 1998,Spektrum Akademischer Verlag,Heidelberg,Berlin,Germany。従って、本発明の更に別の好ましい実施態様において、発現レベルは、プロテオミクス、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、免疫組織化学及び酵素結合免疫測定法から成る群から選択される方法を用いて測定される。
【0043】
本発明の好ましい実施態様において、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現は、以下の段階により測定することができる:
a)生物試料を免疫組織化学的に染色すること、
b)生物試料中の細胞の染色の外観検査により、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルに対して、1、2、3及び4の数から選択されるグレードを割り当て、それにより、発現レベルに対して最も高い検出可能なグレードを割り当てること、
c)免疫組織化学的に染色した生物試料中で、最も高い検出可能なグレードを有する細胞のパーセンテージを測定すること、
d)割り当てたグレードに、免疫組織化学的に染色した生物試料中で最も高い検出可能なグレードを有する細胞のパーセンテージ、及び100を掛けること、及び
e)段階d)における掛け算の結果が100超である場合に、生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定すること。
【0044】
本発明の別の実施態様において、肺癌患者が、上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせから利益を得るかどうかを決定するための方法であって、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現が、患者が上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせから利益を得ることの指標である、患者からの試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定することを含んでなる前記方法が提供される。上記の全ての他の好ましい実施態様は、等しくこの実施態様に適用する。好ましくは、本発明の方法において、患者からの試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現は、以下の段階により測定される、
a)患者からの試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現レベルを測定すること、
b)上皮成長因子阻害剤と化学療法剤の組み合わせから利益を得ない肺癌患者からの試料中の、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現レベルを測定すること、
c)段階a)及び段階b)において測定されたリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異を測定すること、それにより、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定する。用語「利益を得る」は、上皮成長因子受容体阻害剤単独での処置とは対照的に、上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせの処置から患者が利益を得ないことを意味する。
【0045】
本発明の別の好ましい実施態様において、リン酸化AKTタンパク質に結合する抗体又はリン酸化MAPKタンパク質に結合する抗体を、ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が、上皮成長因子阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であるかどうかを決定するのに用いる。
【0046】
本発明の更に別の実施態様において、
a)複数の試験組成物の存在下で、患者からのEGFR阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性である肺癌細胞を含んで成る生物試料のアリコートを、別々に曝露すること;
b)試験組成物と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベル、及び試験組成物と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを比較すること、
c)試験組成物と接触させていないアリコートと比べて、試験組成物を含むアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを変化させる試験組成物の1つを選択すること、ここで、試験組成物と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルと、試験組成物と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの間の少なくとも10%の差異が、試験組成物の選択のための指標である、
を含んで成る、患者における肺癌の進行を阻害するための組成物を選択する方法が提供される。
【0047】
好ましくは、段階c)における、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、少なくとも25%である。より好ましくは、段階c)における、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、少なくとも50%である。別の実施態様において、段階c)における、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、少なくとも75%、100%、125%、150%、175%、200%、300%、400%、500%又は1,000%である。段階c)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、最大で10,000%又は50,000%であることができる。段階c)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、好ましくは10%〜10,000%、より好ましくは25%〜10,000%、50%〜10,000%、100%〜10,000%、更により好ましくは25%〜5,000%、50%〜5,000%、100%〜5,000%である。
【0048】
本発明の更に別の実施態様においては、
a)EGFR阻害剤及び化学療法剤に対して感受性である肺癌細胞を含む生物試料のアリコートを、候補薬剤と接触させること、
(b)候補薬剤と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、及び候補薬剤と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、
(c)候補薬剤と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベル、及び候補薬剤と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを比較することにより、候補薬剤の効果を観察すること、
(d)観察された効果から当該薬剤を得ること、ここで、候補薬剤と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルと、候補薬剤と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの間の少なくとも10%の差異が、候補薬剤の効果の指標である、
を含んで成る、候補薬剤を得る方法が提供される。
【0049】
好ましくは、段階d)におけるリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、少なくとも25%である。より好ましくは、段階d)におけるリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、少なくとも50%である。別の実施態様において、段階d)におけるリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、少なくとも75%、100%、125%、150%、175%、200%、300%、400%、500%又は1,000%である。段階d)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、最大で10,000%又は50,000%であることができる。段階d)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異は、好ましくは10%〜10,000%、より好ましくは25%〜10,000%、50%〜10,000%、100%〜10,000%、更により好ましくは25%〜5,000%、50%〜5,000%、100%〜5,000%である。
【0050】
好ましい実施態様において、候補薬剤は、候補阻害剤又は候補増強剤である。
【0051】
本発明の別の実施態様において、本発明の方法により得られる候補薬剤が提供される。
【0052】
更に別の実施態様において、本発明の薬剤を含んで成る医薬調製物が提供される。
【0053】
更に別の実施態様において、本発明の薬剤は、肺癌の進行を阻害するための組成物の調製のために用いられる。
【0054】
本発明の更に別の実施態様において、本発明の方法の段階、及び
(i)対象に対して治療有効量の薬剤を提供するのに十分な量で、段階(c)で同定された候補薬剤、或いはその類似体又は誘導体を合成すること;及び/又は
(ii)段階(c)で同定された候補薬剤、或いはその類似体又は誘導体を、医薬として許容される担体と混合すること、
を含んで成る薬剤を製造する方法が提供される。
【0055】
更に別の実施態様において、Aktタンパク質、MAPKタンパク質、リン酸化Aktタンパク質、リン酸化MAPKタンパク質、リン酸化Aktタンパク質又はリン酸化MAPKタンパク質に選択的に結合する抗体を、患者における肺癌の進行を阻害するための候補薬剤を得るため又は組成物を選択するのに用いる。
【0056】
本発明の別の実施態様において、キットは、リン酸化MAPK及び/又はリン酸化Aktタンパク質に対する抗体を含んで成ることが意図される。当業界で知られたこのようなキットは、本発明の方法、好ましくは免疫測定法、例えば酵素結合免疫測定法(ELISA)、蛍光免疫吸着法(FIA)、化学発光免疫吸着法(CLIA)、放射免疫測定法(RIA)、及び免疫ブロット法を実施するための、増幅手順の間に用いることのできるプラスチック用品、例えば96又は384ウエル形式のマイクロタイタープレート、又は例えばEppendorf(Hamburg、Germany)により製造された通常の反応チューブ、及び全ての他の試薬を更に含んで成る。用いることのできる異なる免疫測定法及び試薬の概説に関しては、以下のものを参照のこと:Lottspeich and Zorbas(eds.)、Bioanalytik、1st edition 1998、Spektrum Akademischer Verlag、Heidelberg、Berlin、Germany。
【0057】
以下の実施例、引用文献、配列表及び図面は、本発明の理解を助けるために提供され、その真の範囲は、添付した特許請求の範囲において示される。本発明の精神から逸脱することなく、示した方法において変更が可能であることが理解される。
【実施例】
【0058】
実施例1
腫瘍組織飼料におけるバイオマーカー試験
臨床試験に関する探索腫瘍バイオマーカー試験の目的は、Tarceva(登録商標)処置の陽性又は陰性臨床転帰を最も良く予測するそれらのマーカー又はマーカーの組み合わせの同定であった。試験の臨床結果が、Tarceva(登録商標)による処置からより利益を得る患者集団をどのように選択するかについて仮説を生み出さなかったので、特別な重点が、Tarceva(登録商標)の組み合わせ対化学療法単独の対照治療群において特異的に利益を得る患者(サブグループ)を区別するマーカーの同定に置かれた。更に、Tarceva(登録商標)対化学療法単独の対照治療群との具体的な組み合わせからの有害な作用を有する患者(サブグループ)を区別するマーカーの同定が、調べられた。
【0059】
この試験の目的は、EGFRシグナル伝達経路に関連する腫瘍特異的なバイオマーカー、例えばEGFR、HER2、pAKT、及びpMAPKを試験することである。
【0060】
バイオマーカーデータは、臨床データと相互に関連した(全体的及び治療特異的試験)。
【0061】
材料及び方法:
臨床試料:
バイオマーカー試験は、141人の患者の試料サブセットについて実施した。このために、最初の診断からのホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織ブロックを得た。
【0062】
IHC試験のための抗体:
【表1】

【0063】
pMAPK IHCプロトコル:
1.パラフィン−アレイ−ブロックから約3〜4nmの厚さの切片を切り取る。
2.スライド・グラス上に切片を載せ、それらを一晩乾燥させる。
3.キシレン、その後低下するエタノール系において、スライドを脱パラフィンする:
−キシレン 一晩
−キシレン 2×10分間
−無水エタノール 2×10分間
−96%のエタノール 2×5分間
−80%のエタノール 1×5分間
−70%のエタノール 2×5分間
−PBS緩衝液 10分間(1又は2回緩衝液を交換する)
4.抗原回復/試料前処理
圧力釜 pH6の1×クエン酸緩衝液中で120℃において5分間(Biocyc GmbH、注文番号400300692)。TBS/PBS(1:10)緩衝液中で5分間洗浄する。
5.ペルオキシダーゼブロッキング
−スライドを、3%のH22中で10分間インキュベートする。
−TBS/PBS緩衝液中で2×5分間洗浄する。
6.抗体インキュベーション
−トリス緩衝液又は他のブロッキング溶液中に希釈した正常血清(1.5%)中にスライドを置く。
−1:150希釈した一次抗体(Zymed ウサギ抗ホスホ−ERK1+2 cat no.36−8800)をスライド上に置き、腐植化(humified)チャンバー中で30℃において2時間それをインキュベートする。
−TBS/PBS緩衝液中で2×5分間洗浄する。
−スライド上にEnvision Polymer HRP(Dako)を置き、腐植化チャンバー中で30℃において30分間インキュベートする。
−TBS/PBS緩衝液中で2×5分間洗浄する。
7.検出
−pH7.6の0.05Mのトリス緩衝液で20分間スライドを洗浄する
−5分間DAB−Chromogen(Liquid DAB Dako code no.K3467)でスライドをカバーし、それを5〜10分間インキュベートする。
−脱塩水で5分間スライドを洗浄し、呈色反応を止める。
−ヘマトキシリン(Harris Hamatoxylin HTX 31000、Medite GmbH)で対比染色する
−水ですすぐ
−HCL−エタノール中で識別する
−5分間水中で「青」
−漸増するエタノール系
−キシレン
−カバー
【0064】
pAKT IHCプロトコル:
以下のことを除いて、pMAPKと同様のプロトコル
−比較4.:pH9のクエン酸緩衝液中での試料の前処理(Dako code no.S2367)
−比較6.:1:450希釈した一次抗体(abcam AKT ホスホ S473)(比較6.)
【0065】
IHCデータ報告:
一人の病理学者が、全ての免疫染色を評価した。核染色強度(pAKT、pMAPK)を、4段階スケール(0、1、2、3)で、外観検査により評価した。核染色強度に加えて、陽性細胞のパーセンテージ、及び分析の失敗の理由(すなわち、組織スポット中の腫瘍細胞の欠如、又はTMAスライド上の組織スポットの欠如)を記録した。
【0066】
調査統計分析:
バイオマーカーデータの統計分析は、各マーカーにより別々に及び/又は適切な組み合わせにより、臨床上の利益及び/又は毒性を予測する潜在的能力を調査することを目的とした。
【0067】
経験によると、多くのバイオマーカーは、患者を超えて及び患者内で、傾斜統計分布を示す。しばしば、変動プロセスが乗法構造を有している点で、このゆがみのいくつかの生化学的バックグラウンドも存在する。線形統計アプローチ(例えば、回帰)を用いる場合、傾斜分布は問題を示す。統計モデルにおいて共変量として用いる場合、ゆがみも結果を曖昧にし得る。従って、これらの測定結果をおよそガウス型の分布へと変換する適切な変換が見出される必要がある。バイオマーカー領域における典型的な選択は、式log(x+c)の変換である。これらの変換は、値の順序は変えず、ランク又はカットオフに基づくノンパラメトリック分析は、変換により不変のままである。線形多変量法、例えば判別分析及び主成分分析を用いる場合、このような変換は必須でもある。
【0068】
異なるマーカーの基礎統計及び相互依存性を、記述的に調べた。例えばIHCのための異なる測定アプローチを比較する方法論的分析を、信頼性及び妥当性に関して実施した。Tarceva(登録商標)の利益を、臨床的エンドポイント生存期間(又は死亡までの時間、TTD)、PFS時間(進行までの時間、TTP/D)、客観的反応、最良反応(CR/PR/SD/PD)により規定される。
【0069】
これらの分析から現れるp値は、確認的意味に解釈されない;それらは、効率的な候補予測ルールへの調査を導くための特別な記述ツールとして理解される。マーカーは、臨床的エンドポイントの予測(例えば、カットオフのためのサーチ)の可能性に関する一変量レベルについて評価した。更なる多変量法(例えば、線形判別分析、多重ロジスティック回帰、回転による主成分分析、クラスタ分析、CART方法論)を用いて、マーカーの組み合わせを試験した。バイオマーカー及び臨床的共変量による応答補正を調べた。バイオマーカーから得た候補分類は、イベントまでの時間変数によりチェックした(カプラン−マイヤー曲線、Cox比例ハザードモデル、ログランク検定)。
【0070】
結果:
全ての試験集団と比較したTMA試料サブセットの分析
バイオマーカー分析のための試料を用いた患者サブセットを、ベースライン患者特性及び臨床転帰パラメータに関して、全体の試験集団と比較した。概要を、以下の表に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
結果:
バイオマーカーデータを有する患者サブセットは、BO16411試験集団に関する代表ではない。主な集団とバイオマーカーサブグループの間で、TTDとTTPに関する危険率における差異が存在する。バイオマーカーサブグループのTarceva(登録商標)処置患者は、主な臨床集団と比較して、より悪い予後を有する。いくつかのベースライン共変量は、バイオマーカーサブグループ−及びこのサブグループ内、特にTarceva(登録商標)−関連患者は、主な試験集団と比較して、より病的な場合の混合を示したことを示す。KMプロット(図1〜4)も、考慮されるべきである。
【0073】
pMAPK IHC分析の結果
・pMAPK IHCデータは、更なる統計分析にふさわしい十分な分散を示した。
・pMAPK発現及び臨床転帰の間の相互関係を測定するために、記述的統計分析により、カットオフ値を確立した:フランクリン H−スコアを、染色強度と染色腫瘍細胞のパーセンテージを組み合わせることにより決定した(pMAPK_hsco=(pMAPK_核_染色+1)*pMAPK_核_Pos_細胞;範囲:0〜400)。「陽性」pMAPK染色を、H−スコアの=/>100により規定し、さもなければ、染色は「陰性」であった。
・カプラン−マイヤープロットを、図5〜8に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
結果:
・化学療法/プラセボで処置した患者に関して、「陽性」pMAPK発現は、より悪い予後に関連し(TTD:HR 4.882、p=0.0001)、一方、「陰性」pAKT発現は、より長い生存に関連するようである。
・傾向:「陽性pMAPK」患者は、化学療法/Tarceva(登録商標)の組み合わせから利益を受け得る(HR 0.500、p:0.0516)(−−−−)
【0076】
pAKT IHC分析の結果
・pAKT IHCデータは、更なる統計分析にふさわしい十分な分散を示した。
・pAKT発現及び臨床転帰の間の相互関係を測定するために、記述的統計分析により、カットオフ値を確立した:フランクリン H−スコアを、核染色強度と染色腫瘍細胞のパーセンテージを組み合わせることにより決定した(pAKT_hsco=(pAKT_核_染色+1)*pAKT_核_Pos_細胞;範囲:0〜400)。「陽性」pAKT染色を、H−スコアの=/>300により規定し、さもなければ、染色は「陰性」であった。
・カプラン−マイヤープロットを、図9〜11に示す。
【0077】
IHCと臨床データの相互関係
【表4】

【0078】
結果:
・化学療法/プラセボで処置した患者に関して、「陽性」pAKt発現は、より悪い予後に関連し(TTD:HR 2.258、p=0.0573)、一方、「陰性」pAKT発現は、より長い生存に関連するようである。
・より小さな差異は、化学療法/Tarceva(登録商標)の組み合わせで処置した患者に対して見出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であるかどうかを決定する方法であって、
リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現が、ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が上皮成長因子受容体阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であることの指標である、生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定することを含んで成る前記方法。
【請求項2】
生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を、
a)生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、
b)上皮成長因子阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性でないヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料中の、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、
c)段階a)及び段階b)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異を測定し、それにより、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定すること、
により測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階a)及び段階b)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異が、少なくとも10%である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
段階a)及び段階b)において測定したリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの差異が、少なくとも25%である、請求項2〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
生物試料が、原発肺腫瘍又は転移である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
EGFR阻害剤が、エルロチニブ又はN−(3−エチニルフェニル)−6,7−ビス(2−メトキシエトキシ)キナゾリン−4−アミンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
化学療法剤が、ゲムシタビン又はシスプラチンである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
リン酸化Aktタンパク質又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現が、リン酸化タンパク質に特異的に結合する試薬を用いて測定される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
抗体、抗体誘導体、又は抗体フラグメントが、リン酸化AKTタンパク質又はリン酸化MAPKタンパク質に特異的に結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
リン酸化AKTタンパク質が、Akt1タンパク質のアミノ酸位置473に対応するアミノ酸位置でリン酸化され、或いはMAPKタンパク質が、MAPK1のアミノ酸位置202及び204に対応するアミノ酸位置でリン酸化される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
MAPKタンパク質のアミノ酸配列が、アミノ酸配列の配列番号1又は2であり、AKTタンパク質のアミノ酸配列が、アミノ酸配列の配列番号6、7又は8である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
発現レベルが、プロテオミクス、フローサイトメトリー、免疫細胞化学、免疫組織化学及び酵素結合免疫測定法から成る群から選択される方法を用いて測定される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を、
a)生物試料を免疫組織化学的に染色すること、
b)生物試料中の細胞の染色の外観検査により、リン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルに対して、1、2、3及び4の数から選択されるグレードを割り当て、それにより、発現レベルに対して最も高い検出可能なグレードを割り当てること、
c)免疫組織化学的に染色した生物試料中で、最も高い検出可能なグレードを有する細胞のパーセンテージを測定すること、
d)割り当てたグレードに、免疫組織化学的に染色した生物試料中で最も高い検出可能なグレードを有する細胞のパーセンテージ、及び100を掛けること、及び
e)段階d)における掛け算の結果が100超である場合に、生物試料中のリン酸化AKTタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の過剰発現を測定すること、
により測定する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ヒト肺癌細胞を含んで成る生物試料が、上皮成長因子阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性であるかどうかを決定するための、リン酸化AKTタンパク質に結合する抗体又はリン酸化MAPKタンパク質に結合する抗体の使用。
【請求項15】
a)複数の試験組成物の存在下で、患者からのEGFR阻害剤と化学療法剤の組み合わせに対して感受性である肺癌細胞を含んで成る生物試料のアリコートを、別々に曝露すること;
b)試験組成物と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベル、及び試験組成物と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを比較すること、
c)試験組成物と接触させていないアリコートと比べて、試験組成物を含むアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを変化させる試験組成物の1つを選択すること、ここで、試験組成物と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルと、試験組成物と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの間の少なくとも10%の差異が、試験組成物の選択のための指標である、
を含んで成る、患者における肺癌の進行を阻害するための組成物を選択する方法。
【請求項16】
a)EGFR阻害剤及び化学療法剤に対して感受性である肺癌細胞を含む生物試料のアリコートを、候補薬剤と接触させること、
b)候補薬剤と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、及び候補薬剤と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを測定すること、
c)候補薬剤と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベル、及び候補薬剤と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルを比較することにより、候補薬剤の効果を観察すること、
d)観察された効果から当該薬剤を得ること、ここで、候補薬剤と接触させた生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルと、候補薬剤と接触させていない生物試料のアリコート中のリン酸化Aktタンパク質及び/又はリン酸化MAPKタンパク質の発現レベルの間の少なくとも10%の差異が、候補薬剤の効果の指標である、
を含んで成る、候補薬剤を得る方法。
【請求項17】
候補薬剤が候補阻害剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
候補薬剤が候補増強剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法により得られる候補薬剤。
【請求項20】
請求項19に記載の薬剤を含んで成る、医薬調製物。
【請求項21】
肺癌の進行の阻害のための組成物の調製のための、請求項19に記載の薬剤の使用。
【請求項22】
請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法の段階;及び
i)対象に対して治療有効量の薬剤を供給するのに十分な量で、段階(c)で同定された候補薬剤又はその類似体若しくは誘導体を合成すること;及び/又は
ii)段階(c)で同定された候補薬剤又はその類似体若しくは誘導体を、医薬として許容される担体と混合すること、
を含んで成る、薬剤を製造する方法。
【請求項23】
患者における肺癌の進行を阻害するための候補薬剤を得るための又は組成物を選択するための、Aktタンパク質、MAPKタンパク質、リン酸化Aktタンパク質、リン酸化MAPKタンパク質、リン酸化Aktタンパク質又はリン酸化MAPKタンパク質に選択的に結合する抗体の使用。
【請求項24】
リン酸化MAPK及び/又はリン酸化Aktタンパク質に対する抗体を含んで成るキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−21997(P2012−21997A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178014(P2011−178014)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【分割の表示】特願2008−508171(P2008−508171)の分割
【原出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】