説明

化学療法剤を装荷したナノ粒子に結合した抗インテグリン抗体

本発明は、化学療法薬/細胞毒が事前に装荷されているナノ粒子に共有結合した抗インテグリン抗体に関する。本発明による抗体-化学療法剤-ナノ粒子結合体、特に抗体がMAb DI17E6であり、細胞毒がドキソルビシンである抗体-化学療法剤-ナノ粒子結合体は、腫瘍細胞毒性の有意な増加を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子に共有結合した抗インテグリン抗体に関する。これらのナノ粒子は、好ましくは、化学療法剤が装荷されているか、または化学療法剤に結合している。抗体-化学療法剤-ナノ粒子結合体は腫瘍細胞毒性が有意に増している。本発明は、特に、抗体がインテグリン阻害剤、好ましくはavインテグリン遮断抗体であり、ナノ粒子が血清アルブミンナノ粒子である抗体複合体に関する。本発明の抗体ナノ粒子結合体は、腫瘍治療に用いることができる。従って、抗体結合ヒト血清アルブミンナノ粒子は、腫瘍受容体陽性または腫瘍受容体発現細胞への標的薬物輸送のための潜在的デリバリーシステムの役割を果たす。
【背景技術】
【0002】
近年、癌研究において、薬物を装荷したナノ粒子製剤に基づく癌治療の新戦略が出現した。
ナノ粒子は、特に、腫瘍部位への抗癌薬の特異的輸送のための有望な薬物担体になる。ナノ粒子は、薬物漏出の少ない高い薬物装荷効率、優れた貯蔵安定性を示し、癌細胞の多剤耐性を回避することができる[Cho K, Wang X, Nie S, Chen ZG, Shin DM.; Clin Cancer Res 2008;14(5):1310-1316]。ヒト血清アルブミン(HSA)からなるナノ粒子は、いくつかの特定の利点を提供する[Weber C, Coester C, Kreuter J, Langer K.; Int J Pharm 2000;194(1):91-102]:HSAは認容性が良好であり、HSAナノ粒子は生体内分解性である。HSAナノ粒子の調製は容易で再現性があり[Langer K, Balthasar S, Vogel V, Dinauer N, von Briesen H, Schubert D.; Int J Pharm 2003;257(1-2):169-180]、ナノ粒子の表面における官能基の存在により、ナノ粒子の薬物標的化リガンドによる共有結合での誘導体化が可能である[Nobs L, Buchegger F, Gurny R, Allemann E.; J Pharm Sci 2004;93(8):1980-1992; Wartlick H, Michaelis K, Balthasar S, Strebhardt K, Kreuter J, Langer K.; J Drug Target 2004;12(7):461-471; Dinauer N, Balthasar S, Weber C, Kreuter J, Langer K, von Briesen H.; Biomaterials 2005;26(29):5898-5906; Steinhauser I, Spankuch B, Strebhardt K, Langer K.; Biomaterials 2006;27(28):4975-4983]。
【0003】
腫瘍組織におけるナノ粒子の富化は、受動的または能動的標的化機構によって生じ得る。受動的標的化は、腫瘍において、漏出しやすい癌血管と未発達のリンパドレナージとの組み合わせによるナノ粒子系の集積亢進を特徴とする“透過性の亢進および滞留(Enhanced Permeability and Retention; EPR) 効果”により引き起こされる[Maeda H, Wu J, Sawa T, Matsumura Y, Hori K.; J Control Release 2000;65(1-2):271-284]。特に、その表面にポリ(エチレン)グリコール(PEG)修飾を有する長期循環ナノ粒子は、受動的腫瘍標的化を示すことが知られている[Greenwald RB;. J Control Release 2001;74(1-3):159-171]。
【0004】
薬物担体系の表面に腫瘍特異的リガンドを結合させることによって能動的薬物標的化がもたらされる。モノクローナル抗体(mAb)は、薬物標的化リガンドとしての大きな潜在性を秘めている[Adams GP, Weiner LM.; Nat Biotechnol 2005;23(9):1147-1157]。
【0005】
種々の実体からの癌細胞が、高レベルのインテグリンαvβ3を発現することが報告されている[Albelda SM, Mette SA, Elder DE, Stewart R, Damjanovich L, Herlyn M, et al.; Cancer Res 1990;50(20):6757-6764; Pijuan-Thompson V, Gladson CL.; J Biol Chem 1997;272(5):2736-2743; Rabb H, Barroso-Vicens E, Adams R, Pow-Sang J, Ramirez G; Am J Nephrol 1996;16(5):402-408; Liapis H, Adler LM, Wick MR, Rader JS.; Hum Pathol 1997;28(4):443-449; Bello L, Zhang J, Nikas DC, Strasser JF, Villani RM, Cheresh DA, et al. ; Neurosurgery 2000;47(5):1185-1195; Gladson CL.; J Neuropathol Exp Neurol 1996;55(11):1143-1149; Gladson CL, Hancock S, Arnold MM, Faye-Petersen OM, Castleberry RP, Kelly DR. ; Am J Pathol 1996;148(5):1423-1434; Patey M, Delemer B, Bellon G, Martiny L, Pluot M, Haye B.; J Clin Pathol 1999;52(12):895-900; Ritter MR, Dorrell MI, Edmonds J, Friedlander SF, Friedlander M.; Proc Natl Acad Sci U S A 2002;99(11):7455-7460.]。
【0006】
αvβ3インテグリンはビトロネクチン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニンなどの細胞外マトリックス(ECM)リガンドの受容体であり、"ビトロネクチン受容体"とも呼ばれる。大部分の組織および細胞型は、低レベルのαvβ3インテグリンまたはαvβ3インテグリン発現の非存在を特徴とする。しかしながら、これは特に、肉芽組織および腫瘍からの血管における内皮細胞および平滑筋細胞に、サイトカインによる活性化後に過剰発現される[Eliceiri BP, Cheresh DA. ; J Clin Invest 1999;103(9):1227-1230]。従って、それは血管新生中に重要な機能を発揮する。αvβ3インテグリンは、in vivoモデルにおいて黒色腫の増殖に関与する。αvβ3阻害薬は、血管新生および腫瘍増殖を妨げる[Mitjans F, Sander D, Adan J, Sutter A, Martinez JM, Jaggle CS, et al.; J Cell Sci 1995;108 ( Pt 8):2825-2838; Mitjans F, Meyer T, Fittschen C, Goodman S, Jonczyk A, Marshall JF, et al.; Int J Cancer 2000;87(5):716-723]。さらにまた、乳癌または黒色腫などのある種の癌においては、αvβ3発現は、疾患の攻撃性と関連があると思われる[Brooks PC, Stromblad S, Klemke R, Visscher D, Sarkar FH, Cheresh DA.; . J Clin Invest 1995;96(4):1815-1822; Felding-Habermann B, Mueller BM, Romerdahl CA, Cheresh DA. ; J Clin Invest 1992;89(6):2018-2022]。
【0007】
インテグリンαvβ3のアンタゴニストは、腫瘍関連血管の成長を抑制およびin vivoで定着腫瘍の退縮を引き起こす。種々の抗体、アンタゴニストおよび低分子阻害剤が潜在的抗血管新生戦略として開発されてきており、インテグリンαvβ3は、腫瘍増殖および新生血管を抑制し、腫瘍のアポトーシス指数を増大させる、特異的抗血管新生療法のための内皮細胞上の潜在的標的となり得ることが推定されている[Brooks PC, Montgomery AM, Rosenfeld M, Reisfeld RA, Hu T, Klier G, et al. ; Cell 1994;79(7):1157-1164; Petitclerc E, Stromblad S, von Schalscha TL, Mitjans F, Piulats J, Montgomery AM, et al. ; Cancer Res 1999;59(11):2724-2730]。
【0008】
マウスモノクローナル抗体17E6は、ヒトインテグリン受容体保有細胞のαvインテグリンサブユニットを特異的に阻害する。マウスIgG1抗体は、例えば、Mitjansら(1995;J.Cell Sci.108,2825)ならびに米国特許第5,985,278号および欧州特許第719 859号に記載されている。マウス17E6は、精製してセファロースに固定したヒトαvβ3で免疫したマウスから作成した。免疫したマウスからの脾臓リンパ球をマウス骨髄腫細胞に融合させ、得られたハイブリドーマクローンの1つがモノクローナル抗体17E6を生産した。DI-17E6は、マウスモノクローナル抗体17E6の生物学的特性を有し、とりわけヒトにおける免疫原性に関して改善された特性を有する抗体である。DI17E6の特性およびこの改変抗体の完全な可変および定常アミノ酸配列はPCT/EP2008/005852で示されている。この抗体は以下の配列を有する:
(i)可変および定常L鎖配列(配列番号1):

および
(ii)可変および定常H鎖配列(配列番号2):

【0009】
in vitroでは、この抗体は細胞接着および遊走を妨げ、ビトロネクチンでコーティングされた表面からの細胞脱離を誘導する。内皮細胞において、これはまたアポトーシスも誘導する。化学療法との併用により効果が増強される。in vivoで、DI17E6は黒色腫および他の腫瘍の増殖ならびに増殖因子によって誘導される血管新生を妨げる。従って、17E6およびDI17E6 mAbは、共に、腫瘍細胞および腫瘍血管新生を直接に妨げることができる[Mitjans F, Sander D, Adan J, Sutter A, Martinez JM, Jaggle CS, et al.; J Cell Sci 1995;108 ( Pt 8):2825-2838; Mitjans F, Meyer T, Fittschen C, Goodman S, Jonczyk A, Marshall JF, et al.; Int J Cancer 2000;87(5):716-723]。
【0010】
他の抗αvβ3抗体は、例えばビタキシンまたはLM609である。
【0011】
化学療法剤は、一般に癌疾患の治療に用いられる。化学療法剤は、抗体の投与と共に投与される場合、あるいは抗体の投与と組み合わせて投与される場合、並外れた腫瘍細胞毒性を示すことが明らかにされている。既知の市販抗腫瘍抗体の大部分は、化学療法剤、例えばシスプラチン、ドキソルビシンまたはイリノテカンとの併用治療においてのみ有効である。
【0012】
従って、解決されるべき本発明の課題は、治療、好ましくは化学療法と組み合わせた腫瘍治療において、抗体の有効性を高めるために、ナノ粒子の表面に直接または間接に結合された抗インテグリン抗体、好ましくは抗av抗体を提供することである。
【発明の概要】
【0013】
抗体がタンパク質ベースのナノ粒子、好ましくは血清アルブミンナノ粒子に結合される場合、抗腫瘍活性に関連する抗体の有効性は、治療が化学療法剤による化学療法と併用されると、一般に増強されることができることが見いだされた。驚くべきことに、それぞれの抗体が結合されているタンパク質ナノ粒子に、化学療法剤/抗体併用療法における使用を目的とする化学療法剤が装荷されている場合、この効果は並外れている。化学療法剤が装荷され、抗腫瘍抗体が共有結合されているタンパク質ナノ粒子の細胞毒性は、化学療法剤が装荷されているそれぞれのナノ粒子または抗体単独よりも高い。完全結合体の細胞毒性は、遊離化学療法剤および遊離抗腫瘍抗体の併用よりもいっそう増強されている。
【0014】
本発明は、特に、例えばMab 17E6またはその脱免疫化(deimmunized)バージョンであるDI17E6がドキソルビシン装荷HSAナノ粒子の表面に連結されたそれぞれの結合体に関する。結合させた後、DI17E6の生物活性は、αvβ3陽性細胞への接着試験およびビトロネクチンでコーティングされた表面からのαvβ3陽性細胞の脱離の誘導によって示された。さらに、ドキソルビシン修飾DI17E6ナノ粒子は、遊離ドキソルビシンおよび遊離抗体よりも、αvβ3陽性癌細胞において、より優れた抗癌効果を引き起こす。
本発明によれば、ドキソルビシン以外の化学療法剤、例えばイリノテカンまたはシスプラチンに関してばかりでなく、17E6またはDI17E6以外の抗腫瘍抗体、例えば他の抗インテグリン抗体についても効果を示すことができる。
本発明は、好ましくは、HSAナノ粒子に関する。
【0015】
ナノテクノロジー研究の主要な目的は、標的細胞において高い薬物レベルをもたらす、腫瘍組織における薬物の効率的な集積の利点を有するナノ粒子担体の能動的標的化である。従って、モノクローナル抗体起源の薬物標的化リガンドがしばしば用いられる。本発明は、化学療法剤、例えばドキソルビシンが装荷されている特異的ヒト血清アルブミンベースナノ粒子の調製を説明する。例えば、αvインテグリンに対するモノクローナル抗体であるDI17E6をナノ粒子表面に結合させることによって、αvβ3インテグリン発現癌細胞の特異的標的化が可能である。
【0016】
本発明によれば、抗体とナノ粒子の間の共有結合には、抗体表面のチオール化が必要である。チオール化抗体の二量体化の傾向だけでなく抗体へのスルフヒドリル基の導入効率を考慮に入れなければならない。チオール化時間が長ければ長いほど、そしてチオール化試薬2-イミノチオランのモル過剰量が大きければ大きいほど、抗体二量体化の過剰が大きくなる。この二量体化プロセスは、恐らく2つの抗体分子間のジスルフィド結合生成によって生じる。
【0017】
例えば、50または100倍モル過剰量、インキュベーション時間2〜5時間で、2-イミノチオランを用いることによって導入されたチオール基の定量によって、効果的なチオール化には少なくとも50倍モル過剰量の2-イミノチオランが必要であることが示される。インキュベーション時間が長ければ長いほど、そしてチオール化試薬のモル過剰量が大きければ大きいほど、タンパク質分子内により多くのチオール基/抗体を導入することができる。我々の結果に基づいて、チオール化効率と二量体化反応との折衷により、標準プロトコルのパラメータを2時間および50倍モル過剰量の2-イミノチオランに固定した。
【0018】
DI17E6抗体がIgG起源であるため、SEMにおいて、金抗ヒトIgG抗体反応を用いてDI17E6がナノ粒子表面に結合することを示すことができる。ナノ粒子は、SEM画像において150〜220nmの灰色の球で示される。ナノ粒子表面に結合させたDI17E6は金表面での電子ビームの反射によって間接的に示された。
【0019】
本発明は、種々の抗インテグリン抗体、例えばαv特異的DI17E6で修飾されたHASナノ粒子の、αvβ3インテグリン陽性黒色腫細胞M21への特異的細胞結合および細胞内取り込みを明らかにする。対照的に、インキュベーション後に、αv欠損黒色腫細胞M21Lへの特異的結合は検出できない。細胞分裂抑制薬ドキソルビシンによるナノ粒子の装荷は、この特異性に影響を持たない。表面に非特異的mAb IgGを有する対照ナノ粒子は同様に非特異的細胞結合を示すが、細胞内取り込みは見られず、細胞外膜に固着しただけである。
【0020】
細胞接着および脱離アッセイによって示される、抗体の生物活性、例えばDI17E6の生物活性は、ナノ粒子の調製を通じて保たれる。DI17E6については、両方のアッセイは、ビトロネクチンでコーティングされた表面上への主な細胞接着はαvβ3インテグリンによって行われるという事実に基づく。また、αvβ3インテグリンはビトロネクチン受容体とも呼ばれる。従って、αvβ3インテグリンの阻害は、すでに接着した細胞の脱離を引き起こすか、または細胞の接着を阻害する。DI17E6およびDI17E6修飾ナノ粒子製剤は、αvβ3陽性黒色腫細胞M21のαvβ3インテグリン部位を遮断することができ、ビトロネクチンでコーティングされた表面上への細胞の接着を阻害することができる。さらにまた、それらはすでに接着した細胞を脱離させることができるが、対照抗体を有するナノ粒子製剤は、細胞接着にほとんど影響を持たない。それぞれのアプローチ内で他の抗体を用いて同様な観察を行うことができる。
【0021】
種々のナノ粒子製剤または遊離細胞毒、例えばドキソルビシンの平行した脱離動力学的研究により、細胞脱離アッセイ結果が確立される。DI17E6およびドキソルビシンの場合、NP-DI17E6およびNP-Dox-DI17E6によって細胞脱離が引き起されるが、ドキソルビシン装荷ナノ粒子はより有効と考えられる。さらに、より驚くべき結果は、遊離ドキソルビシンよりもドキソルビシン含有ナノ粒子による方が細胞死の誘導が迅速なことである。
【0022】
MTTアッセイのIC-50値もまた、遊離細胞毒よりもナノ粒子結合ドキソルビシンの細胞毒性の方が高いというこれらの発見を支持する。細胞生存率を低下させるために、同じ効果を引き起こす遊離細胞毒より低濃度のNP-CA-MAb(式中、NPはナノ粒子であり、CAは細胞毒または化学療法剤であり、Mabはモノクローナル抗体である)、例えばNP-Dox-DI17E6(式中Doxはドキソルビシンである)しか必要としない。ドキソルビシンの細胞内輸送において、遊離ドキソルビシンよりも特異的DI17E6修飾ドキソルビシン装荷ナノ粒子の方が優れていると考えられる。αv欠損黒色腫細胞M21Lに対するインキュベーション後のDI17E6修飾ナノ粒子の無効性およびαvβ3陽性黒色腫細胞M21に対するインキュベーション後の有効性によって、NP-Dox-DI17E6の特異性を立証することができる。IgG修飾ナノ粒子は、αvβ3陽性黒色腫細胞M21およびαv欠損黒色腫細胞M21Lの両方の細胞系に対して効果がなかった。
【0023】
癌細胞による未修飾ナノ粒子の非特異的取り込みは知られているが、NP-Doxによって示されるような、リガンド修飾ナノ粒子ほどは効果的ではない。要約すれば、本発明は、遊離化学療法薬/細胞毒および未修飾ナノ粒子よりも有効な、抗体特異的/化学療法剤装荷ナノ粒子薬物標的化系、好ましくはDI17E6ベースαv特異的ドキソルビシン装荷ナノ粒子薬物標的化系を提供する。
【0024】
抗癌効果を増強し、中毒性副作用を最小限にするための、腫瘍細胞に細胞毒を特異的に輸送するための戦略には大変興味が持たれる。このことに関連して多くのナノ粒子製剤が研究されてきた(概説に関しては、Haleyら(引用文献)を参照のこと)。例えば、アントラサイクリンの薬動力学が変化し、心臓リスクが低い、FDAにより認可されたドキソルビシンリポソームカプセル化(Doxil(登録商標)/Caelyx(登録商標)およびMyocet(登録商標))が存在する[Working PK, Newman MS, Sullivan T, Yarrington J. ; J Pharmacol Exp Ther 1999;289(2):1128-1133; Waterhouse DN, Tardi PG, Mayer LD, Bally MB. ; Drug Saf 2001;24(12):903-920; Gabizon A, Shmeeda H, Barenholz Y.; Clin Pharmacokinet 2003;42(5):419-436;O'Brien ME, Wigler N, Inbar M, Rosso R, Grischke E, Santoro A, et al.; Ann Oncol 2004;15(3):440-449]。
【0025】
さらなる例は、2005年にFDAに承認された最初のHSAベースナノ粒子製剤のAbraxane(登録商標)である。これらのナノ粒子は細胞分裂抑制薬パクリタキセルを含む。パクリタキセルの水溶性が低いため、ナノ粒子結合パクリタキセルには、腫瘍内濃度の増加、パクリタキセルの高い送達量および前投薬なしでの注入時間の減少などの種々の利点がある。[Gradishar WJ, Tjulandin S, Davidson N, Shaw H, Desai N, Bhar P, et al. ; J Clin Oncol 2005;23(31):7794-7803; Desai N, Trieu V, Yao Z, Louie L, Ci S, Yang A, et al.; Clin Cancer Res 2006;12(4):1317-1324]。
【0026】
ここで、本発明は、αvインテグリンを特異的に標的化し、αvインテグリンの高発現を示す腫瘍細胞を標的化し、かつ/または内皮細胞を標的化することによって血管新生を阻害する潜在性を有するナノ粒子系を提供する。
【0027】
本発明は、特に、細胞分裂抑制薬ドキソルビシンが装荷されている標的特異的ヒト血清アルブミンナノ粒子の調製を提供する。ナノ粒子表面に共有結合させるために、αvインテグリンに対するモノクローナル抗体であるDI17E6を使用することによって、αvβ3インテグリン陽性黒色腫細胞に対するDI17E6修飾HSA-ナノ粒子の特異的な細胞結合および細胞取り込みを示すことができる。細胞接着および脱離アッセイの2つの生物学的アッセイによって示されるDI17E6抗体の生物活性はナノ粒子の調製を通じて保たれる。このナノ粒子製剤の薬物装荷は細胞脱離アッセイには影響を持たない。ましてや、装荷していないナノ粒子との細胞インキュベーションと比較して、薬物を装荷したナノ粒子での細胞インキュベーションの場合は、細胞脱離は有効である。さらにまた、薬物を装荷したこのナノ粒子製剤は、遊離ドキソルビシンよりも迅速な細胞死を誘導する。遊離ドキソルビシンと比較して、薬物を装荷した特異的ナノ粒子の高い細胞毒性というこの発見は、細胞生存率アッセイによって裏付けられる。
【0028】
結論として、本発明は、抗インテグリン受容体抗体、好ましくは抗av抗体、例えばDI17E6が共有結合されている細胞毒/化学療法剤が装荷されているナノ粒子、好ましくはHASナノ粒子に基づく薬物標的化系を提供する。この系は遊離細胞毒よりも効果的である。これらのナノ粒子製剤における特異的標的化と薬物装荷の組み合わせは、癌治療の改善をもたらす。上記のように、二重特異性特性(一方では黒色腫の増殖を妨げ、他方では血管新生を阻害する)を有するDI17E6は、癌治療のための有望なmAbである。従って、遊離DI17E6ばかりでなく、DI17E6修飾薬物装荷ナノ粒子はまた、腫瘍治療において両刃の剣として機能することができる。
【0029】
要約すれば、本発明は以下に関する:
・化学療法剤で事前に処理したタンパク質ナノ粒子の表面に抗インテグリン抗体またはその生物活性フラグメントを共有結合させることによって得られた抗インテグリン抗体ナノ粒子結合体;
・化学療法剤がタンパク質ナノ粒子への吸着によって装荷される、各抗体ナノ粒子結合体;
・タンパク質ナノ粒子が、ヒト血清アルブミン(HSA)またはウシ血清アルブミン(BSA)のナノ粒子である、各抗体ナノ粒子結合体;
・未処理のタンパク質ナノ粒子の粒径が150〜250nmであり、好ましくは160〜190nmである、各抗体ナノ粒子結合体;
・化学療法剤で処理されたタンパク質ナノ粒子が300〜400nmであり、好ましくは350〜390nmである、各抗体ナノ粒子結合体;
・抗体分子に導入されたスルフヒドリル基を介して抗体がタンパク質ナノ粒子に直接にまたはリンカーによって結合された、各抗体ナノ粒子結合体;
・前記タンパク質ナノ粒子を処理した化学療法剤が、シスプラチン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ブレオマイシンおよびイリノテカンからなる群から選択される、各抗体ナノ粒子結合体;
・前記タンパク質ナノ粒子に共有結合させた抗体が、LM609、ビタキシンおよび17E6ならびにそれらのバリアントの群から選択される、各抗体ナノ粒子結合体;
・タンパク質ナノ粒子がドキソルビシンが装荷されているHSAであり、この粒子に共有結合させた抗体が17E6またはDI17E6である、各抗体ナノ粒子結合体;
・薬理学的有効量で、場合により薬理学的に許容される担体、溶離液またはレシピエントと共に上記の抗体ナノ粒子結合体を含む医薬組成物;
・癌疾患の治療薬の製造のための、上記の抗体ナノ粒子結合体の使用;
・腫瘍性疾患の治療に使用するための、上記の抗体ナノ粒子結合体。
【0030】
化学療法薬/細胞毒が装荷され、抗インテグリン、特に抗av抗体が共有結合されている、本発明により得られたHSAナノ粒子は、この抗体が特異的に結合するインテグリン受容体を有する細胞を含む細胞接着/脱離アッセイにおいて、10時間後にすでに細胞死を示す。
化学療法薬/細胞毒が装荷されて抗体に結合した本発明による各HSAナノ粒子は、抗体が抗インテグリン抗体でない場合、および、細胞が抗体(IgG)が結合できるインテグリン受容体を含まない場合、前記細胞接着/脱離において20時間後に細胞死を示す。
このような系において、遊離細胞毒は17時間後に細胞死を示す。
このような系において、細胞毒化合物で前装荷されていないが抗インテグリン抗体に結合したナノ粒子は、遊離抗インテグリン抗体および無処理の細胞のように、細胞死を生じない。
その結果として、本発明による抗体ナノ粒子結合体は、相乗的に細胞死をもたらす。
【0031】
発明の詳細な説明
ナノ粒子の調製:ドキソルビシン装荷HSAナノ粒子にDI17E6を結合させるために、ヘテロ二官能性NHS-PEG-Malリンカーを用いた。このリンカーは、一方では、HSAナノ粒子の表面上のアミノ基と反応し、他方では、抗体DI17E6に導入されたスルフヒドリル基と反応する潜在性を有する。
【0032】
DI17E6のチオール化:チオール基の抗体への導入には、二量体またはそれ以上のオリゴマーの形成につながる酸化によるジスルフィド架橋形成のリスクがある[Steinhauser I, Spankuch B, Strebhardt K, Langer K.; Biomaterials 2006;27(28):4975-4983]。従って、二量体およびオリゴマーの形成は、2-イミノチオランでの2、5、16および24時間のインキュベーション時間後のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって評価される。チオール化時間および2-イミノチオランのモル過剰量が増すに従って、クロマトグラムにおける抗体の保持時間が少し長くなるという結果が得られる(図1A)。さらに、ピーク高さは減少し、ピークは広がる。50モル過剰量の2-イミノチオランおよび2時間のインキュベーション時間を用いるとき、得られたクロマトグラムは、より短い保持時間のさらなるピークを示す。SECの分子量キャリブレーションにより、このピークは元の抗体の2倍の分子量を有する化合物に相当するということが明らかとなる。インキュベーション時間(5、16、24時間)が長くなるほど、この二量体ピークは大きくなり、元のピークは広がる。このことはジスルフィド架橋形成の増加を示している。この観察は100倍過剰量の2-イミノチオランを用いた場合にさらに顕著である(図1B)。
【0033】
1抗体当たり導入されるチオール基の数は、5,5’-ジチオ-ビス-2(ニトロ-安息香酸)(Ellman試薬)を用いてジスルフィド結合によって定量される。長期のインキュベーション時間は、二量体およびオリゴマーの形成を促進したので、DI17E6を、5倍、10倍、50倍および100倍モル過剰量の2-イミノチオランと共に2時間または5時間インキュベートする。モル過剰量が多ければ多いほど、かつ/またはインキュベーション時間が長ければ長いほど、1抗体当たりのチオール基の数は増す(図2)。2時間のインキュベーション時間を用いる場合、50倍のモル過剰量は、0.64±0.15チオール基/抗体をもたらし、100倍のモル過剰量は、1.22±0.09チオール基/抗体をもたらす。5時間のインキュベーション時間の後に、50倍のモル過剰量は1.2±0.29チオール基/抗体を示し、100倍のモル過剰量は2.9±0.12チオール基/抗体を示す。
【0034】
HSAナノ粒子の調製:HSAナノ粒子は脱溶媒和によって調製され、粒子マトリックスの100%の化学量論的架橋でグルタルアルデヒドによって安定化される。このナノ粒子は、それぞれ、ヘテロ二官能性ポリ(エチレングリコール)-α-マレイミド-ω-NHSエステル(NHS-PEG5000-Mal)または単官能性メトキシポリ(エチレングリコール)プロピオン酸スクシンイミジルエステル(mPEG5000-SPA)を用いて活性化される。最初の場合、ヘテロ二官能性架橋剤は抗体とナノ粒子の間の共有結合をもたらす。2番目の場合、ポリ(エチレン)グリコール鎖の末端における非反応性メトキシ基のために、抗体とナノ粒子の間の吸着性結合のみが期待される。
【0035】
装荷していないナノ粒子に関しては表1に、ドキソルビシン装荷ナノ粒子に関しては表2に、物理化学的解析の結果を示す。装荷していない粒子は、粒径140〜190nmを特徴とし、薬物を装荷した粒子は、より大きいサイズの350〜400nmを示す。すべてのナノ粒子の多分散性は0.01の範囲である。このことは、粒子が薬物を装荷されようと表面が修飾されようと、単分散粒径分布は独立していることを示している。
【0036】
薬物を装荷した粒子のドキソルビシン装荷は55〜60μg/mgである。粒子表面へのDI17E6の共有結合は、装荷していない粒子(NP-DI17E6)に関しては14〜18μg抗体/mgナノ粒子を用いて、ドキソルビシン(NP-Dox-DI17E6)が装荷されている粒子に関しては11〜20μg DI17E6/mgナノ粒子を用いて達成できる。対照抗体IgGを用いて同様な結果を得ることができる:
【0037】
装荷していないナノ粒子は16〜18μg抗体/mgナノ粒子(NP-IgG)の表面修飾を示すのに対し、薬物を閉じ込めた粒子は、その表面に15〜20μg IgG/mgナノ粒子(NP-Dox-IgG)の結合をもたらす。装荷していないナノ粒子またはドキソルビシン装荷ナノ粒子の表面には、わずかに少量の抗体が吸着によって接着される。その量は、DI17E6に関しては、2〜3μg/mg(装荷していない粒子)から0.1〜0.5μg/mg(ドキソルビシン装荷粒子)であり、IgGに関しては、4〜8μg/mg(装荷していない粒子)から2〜3.5μg/mg(ドキソルビシン装荷粒子)である。
【0038】
IgGはDI17E6よりも吸着性結合が強い傾向があることが認められる。さらに、ナノ粒子表面への抗体吸着が弱いことは、抗体分子の大部分がヘテロ二官能性PEGスペーサーによって粒子表面に共有結合されていることを示している。細胞培養実験には抗体の共有結合を有する試料のみを用いる。
【0039】
ナノ粒子表面上での抗体の可視化:DI17E6はIgG起源のモノクローナル抗体である。従って、18nm金コロイド抗ヒトIgG抗体との反応が可能であった。ナノ粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像(図3)において、200nmの範囲で、灰色の球として認識される。DI17E6を結合させたナノ粒子の表面上で小さな白色の球が示されたのに対し(図3AおよびB)、抗体を結合させてないナノ粒子の表面上では何も認められない(図3C)。小さな白色の球は、SEMにおける金標識試料の表面上での電子ビームの反射である。
【0040】
細胞結合:αvβ3インテグリン陽性黒色腫細胞M21およびαv陰性黒色腫細胞M21Lを、DI17E6を結合させたナノ粒子(NP-DI17E6)または非特異的対照mAb IgGを結合させたナノ粒子(NP-IgG)と共にインキュベートする。図4Aに示すように、NPDI17E6は、NP-IgGよりもM21細胞に対してより強い結合を示す。M21L細胞において、NP-DI17E6およびNP-IgGの類似の結合が観察されるが、これはM21細胞と比較して弱かった(図4B)。ドキソルビシンの取り込みは、ナノ粒子結合には影響しない。NP-Dox-DI17E6はM21細胞に対して強い結合を示すが、一方で、NPDox-IgGはこれらのM21細胞に対して弱い結合を示す(図4C)。ナノ粒子製剤は、共に、M21L細胞に対して弱い結合を示す(図4D)。
【0041】
細胞内取り込みおよび細胞内分布:これらのナノ粒子製剤の細胞内取り込みおよび細胞内分布は、共焦点レーザー走査型顕微鏡法(CLSM)によって示される。αvβ3インテグリン陽性M21黒色腫細胞をNP-Dox-DI17E6、NP-Dox-IgGまたは遊離ドキソルビシンと共にインキュベートする(図5)。M21細胞膜の外部においてはわずかに少しのNP-Dox-IgGが検出されるのに対し(図5C)、NP-Dox-DI17E6はこの細胞の内部に到達する(図5D、6)。NP-Dox-DI17E6とのインキュベーション後も(図5D)、遊離ドキソルビシンとのインキュベーション後も(図5B)、ドキソルビシンの赤色の蛍光を検出することができる。図6は、高い倍率でのNPDox-DI17E6の細胞内取り込みを明らかにする。種々の蛍光チャンネルのオーバーレイ(図6B〜D)は、NP-Dox-DI17E6の細胞内取り込みを裏付ける(図6A)。さらにまた、NP-Dox-DI17E6と共にインキュベートしたM21細胞を、1μm厚さのスタックに光学的にスライスし、それぞれを共焦点レーザー走査型顕微鏡法によって細胞内取り込みを立証する。この画像シリーズをギャラリーで示す(図7)。
【0042】
細胞接着/細胞脱離:ビトロネクチンでコーティングされた表面への細胞接着は、主に、いわゆるビトロネクチン受容体であるαvβ3インテグリンによって媒介される。αvβ3インテグリン阻害により、すでに接着した細胞の脱離を引き起こすこともできるし、細胞の接着を阻害することもできる。DI17E6は、ビトロネクチンでコーティングされた表面へのM21細胞の接着を阻害する(図8)。粒子表面にDI17E6を有するナノ粒子製剤は、ビトロネクチンへのM21細胞接着も阻害するが、対照抗体を有するナノ粒子製剤は、細胞接着に小さな影響を有するのみである(図8)。
【0043】
脱離アッセイにおいて、細胞脱離のためには接着阻害のための接着アッセイの場合よりもやや高いDI17E6濃度が必要である(2ng/μlに対して、それぞれ4ng/μlおよび10ng/μl)。しかしながら、遊離DI17E6ばかりでなくNP-DI17E6を用いたビトロネクチンでコーティングされた表面からのαvβ3陽性黒色腫細胞M21の細胞脱離もまた可能である(図9)。さらにまた、NP-Dox-DI17E6は同じ脱離効率を示す(図9)。
【0044】
種々のナノ粒子製剤または遊離ドキソルビシンの平行した脱離動力学的研究により、細胞脱離アッセイが確立される。この研究において、1〜2日間にわたって、透過型微速度顕微鏡法によって脱離が観察される。画像は7分毎に測定した。細胞の脱離時間を測定する。NP-DI17E6ナノ粒子によって引き起こされる細胞脱離は、2〜22時間の間に起こるが(表3)、ドキソルビシン含有ナノ粒子NP-Dox-DI17E6はより効果的であり、最初の3時間以内に完全な脱離を引き起こす(表3)。IgG修飾NP-Dox-IgGを有する対照ナノ粒子は、細胞脱離を引き起こさない(表3)。さらに、DI17E6修飾ドキソルビシン含有ナノ粒子のさらなる利点が観察される。これらのナノ粒子は10時間以内に細胞死を引き起こし、これは遊離ドキソルビシンのインキュベーションの場合よりも速い。この場合は、細胞死は17時間後にやっと起きる(表3)。図4Cおよび図5Cに示すように、IgG修飾ドキソルビシン装荷ナノ粒子のやや非特異的細胞結合によって、NP-Dox-IgG粒子もまた20時間後に細胞死を誘導する。しかしながら、NPDox-IgGによって引き起こされる細胞死は遊離ドキソルビシンのインキュベーションよりも遅く起きる。これは、NP-Dox-IgGインキュベーション後の細胞による下限に近い非特異的ドキソルビシン取り込みを示す。
【0045】
このNP-Dox-DI17E6によって引き起こされる脱離および細胞アポトーシスは、補遺1における微速度超音波顕微鏡動画においてさらに示される。
【0046】
細胞生存率アッセイ:種々のナノ粒子製剤の生物活性はMTT細胞生存率アッセイで試験される。遊離形またはナノ粒子に組み込まれたドキソルビシンの細胞生存率を50%低下させる有効性はIC-50値で表される(表4)。NP-Dox-DI17E6または非PEG化NP-Doxは、αvβ3陽性M21黒色腫細胞において遊離ドキソルビシンよりも有効である。非特異的IgG mAbに結合された対照ナノ粒子は試験濃度において細胞生存率に影響を有さない(IC-50値:NP-Dox 30.8±3.5ng/ml、NP-Dox-DI17E6 8.0±0.2ng/ml、遊離ドキソルビシン 57.5±3.7ng/ml、NP-Dox-IgG>100ng/ml)。対照的に、NP-Dox-DI17E6は試験濃度においてαv陰性M21L細胞の生存率を低下させないが、遊離ドキソルビシンおよび非PEG化NP-DoxはM21Lの細胞生存率を低下させた(IC-50値:NP-Dox 75.4±8.3ng/ml、NP-Dox-DI17E6>100ng/ml、遊離ドキソルビシン 70.7±0.8ng/ml、NP-Dox-IgG>100ng/ml)。
【0047】
本明細書において、用語"薬学的に許容される"は、望ましくない生理効果、例えば吐き気、めまい、急性胃ぜん動などを生じることなく、哺乳動物に投与することができる物質を表す組成物、担体、希釈剤および試薬のことを言う。溶解または分散された活性成分を含む薬理学的組成物の製造は当該技術分野で公知であり、製剤に基づいて限定される必要はない。一般的には、このような組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかの注射剤として製造できる。しかしながら、使用前に液体に入れる、溶液または懸濁液に適した固体製剤もまた製造できる。この製剤は乳剤にすることもできる。活性成分は、ここで説明する治療法に使用するのに適した量で、薬学的に許容され、活性成分と適合する賦形剤と混合することができる。適切な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水,デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびそれらの組み合わせである。本発明の治療用組成物は、その組成物中に、その成分の薬学的に許容される塩を含むことができる。
【0048】
生理学的に許容される担体は当該分野で公知である。液体担体の具合例は、活性成分および水に加えて物質を何も含まない滅菌水溶液であるか、あるいは緩衝液、例えば生理学的なpH値のリン酸ナトリウム、生理食塩水またはその両方、例えばリン酸緩衝化生理食塩水を含む滅菌水溶液である。さらにまた、水性担体は、2以上の緩衝塩ばかりでなく、塩、例えばナトリウムおよび塩化カリウム、デキストロース、ポリエチレングリコールならびに他の溶質を含むことができる。また、液体組成物は、水に加えて、および水を除外して液相を含むことができる。このようなさらなる液相の具体例は、グリセリン、植物油、例えば綿実油および油水乳剤である。
【0049】
一般的には、本発明による抗インテグリン抗体の治療的有効量は、生理学的に許容される組成物で投与されたとき、約0.01マイクログラム(μg)/ミリリットル(ml)〜約100μg/ml、好ましくは約1μg/ml〜約5μg/ml、通例約5μg/mlの血漿中濃度を得るのに十分な量である。別の言い方をすれば、用量は、毎日1回以上の投与で1日から数日間、約0.1mg/kg〜約300mg/kg、好ましくは約0.2mg/kg〜約200mg/kg、最も好ましくは約0.5mg/kg〜約20mg/kgの範囲で変化することができる。モル濃度での好ましい血漿中濃度は、約2μM(μM)〜約5ミリモル(mM)であり、好ましくは、約100μM〜1mMである抗体アンタゴニストである。
【0050】
本発明による化学細胞毒または化学療法剤の典型的な用量は、体重1kg当たり1日当たり10mg〜1000mgであり、好ましくは約20〜200mgであり、より好ましくは50〜100mgである。
【0051】
本発明の医薬組成物は、限定するものではないが、例えば、抗癌剤の毒作用を低減する薬剤、例えば、骨吸収阻害薬、心臓保護薬を含む、本発明の併用療法と関連する副作用を低減または防止する薬剤を用いる被験者の治療("補助的療法")を含む語句を含むことができる。前記補助薬は、化学療法、放射線療法または手術と関連する吐き気および嘔吐の発生を低下または低減するか、あるいは骨髄抑制性抗癌剤の投与と関連する感染の発生を低減する。補助薬は当該分野で公知である。本発明による免疫療法剤は、さらに、BCGおよび免疫系刺激剤などのアジュバントと共に投与することができる。さらにまた、組成物は、免疫療法剤または、細胞傷害性放射標識同位体または他の細胞毒、例えば細胞傷害性ペプチド(例えばサイトカイン)または細胞毒などを含む化学療法剤を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】A.)50倍およびB.)100倍モル過剰量の2-イミノチオランを用いるDI17E6のチオール化の図である。2、5、16および24時間の反応時間後にサイズ排除クロマトグラフィーによって抗体を分析した。DI17E6は約11分間の保持時間で検出されたが、より高次の結合体はより短い保持時間で検出された。
【図2】それぞれ、5、10、50または100モル過剰量の2-イミノチオランを用いる、2時間(黒い棒)および5時間(斜線棒グラフ)でのDI17E6のチオール化を示す図である。1抗体分子当たり導入されたチオール基の量は、Ellman試薬での反応後に光度測定により検出された(平均値±SD;n=3)。
【図3】走査型電子顕微鏡法(SEM)による、ナノ粒子表面上へのDI17E6の結合の証明を示す図である。表面にDI17E6の結合を有するナノ粒子(A、B=赤色四角形内のAの拡大)および抗体の結合のないナノ粒子(C)を、18nm金コロイド抗ヒトIgG抗体を用いて4℃で1時間インキュベートした。標識したナノ粒子を固定し、脱水した。SEMで試験を行った。
【図4】装荷していないおよびドキソルビシン装荷ナノ粒子製剤の細胞結合を示す図である。αvβ3インテグリン陽性黒色腫細胞M21(AおよびC)ならびにαv欠損黒色腫細胞M21L(BおよびD)を、種々の装荷していない(AおよびB)またはドキソルビシン装荷(CおよびD)ナノ粒子製剤2ng/μlを用い、37℃で4時間処理した(DI17E6または同等なNP量に基づいて濃度を算出する)。それらの細胞結合を定量するためにフローサイトメトリー(FACS)分析を行った。データをFL1-H-チャンネルのヒストグラムで示す(ナノ粒子の自己蛍光)。緑はそれぞれNP-DI17E6およびNP-Dox-DI17E6であり、赤はそれぞれNP-IgGおよびNP-Dox-IgGであり、青は無処置対照である((Aは、3つの独立した実験の中からの1つの代表的な実験を示し、(Bはn=1であり、(Cは、14の独立した実験の中からの1つの代表的な実験を示し、(Dはn=1である)。
【図5】共焦点レーザー走査型顕微鏡法(CLSM)によって試験したナノ粒子の細胞内取り込みおよび細胞内分布を示す図である。M21細胞をスライドガラス上で培養し、37℃で4時間、種々のナノ粒子製剤10ng/μlで処理した(DI17E6濃度または対照ナノ粒子の相当濃度に基づいて)。緑色の自己蛍光およびドキソルビシンの赤色自己蛍光を検出に用いた。細胞膜をコンカナバリンA AlexaFluor 350(ブルー)で染色した。細胞の内側部分の画像を測定した。A):対照(ナノ粒子なしの細胞)、B)遊離ドキソルビシンを用いる細胞のインキュベーション、C)NP-Dox-IgGを有する非特異的ナノ粒子を用いる細胞のインキュベーション、D)NP-Dox-DI17E6を有する特異的ナノ粒子を用いる細胞のインキュベーション。
【図6】共焦点レーザー走査型顕微鏡法によって試験したNP-Dox-DI17E6の細胞内取り込みおよび細胞内分布:蛍光チャンネルの分割を示す図である。M21細胞をスライドガラス上で培養し、37℃で4時間、10ng/μlのNP-Dox-DI17E6で処理した。ナノ粒子の緑色自己蛍光およびドキソルビシンの赤色自己蛍光を検出に用いた。コンカナバリンA AlexaFluor 350(ブルー)で細胞膜を染色した。細胞の内側部分の画像を測定した。A):すべての蛍光チャンネルのオーバーレイ、B)ブルー細胞膜チャンネルのディスプレイ、C)緑色ナノ粒子チャンネルのディスプレイ、D)赤色ドキソルビシンチャンネルのディスプレイ。
【図7】共焦点レーザー走査型顕微鏡法によって試験したNP-Dox-DI17E6の細胞内取り込みおよび細胞内分布:光学スタック(optical stack)である。M21細胞をスライドガラス上で培養し、37℃で4時間、2ng/μlのNP-Dox-DI17E6で処理した。ナノ粒子の緑色自己蛍光およびドキソルビシンの赤色自己蛍光を検出に用いた。細胞膜をコンカナバリンA AlexaFluor 350(ブルー)で染色した。細胞をそれぞれ1μm厚さのスタックに光学的にスライスした。この画像シリーズを一覧表示する。
【図8】ビトロネクチンでコーティングされた表面への細胞接着を示す図である。遊離DI17E6または種々のナノ粒子製剤2ng/μlを、ビトロネクチンでコーティングされたELISAプレート上でαvβ3インテグリン陽性黒色腫細胞M21と共にインキュベートした(DI17E6または同等なNP量に基づいて濃度を算出する)。インキュベーション1時間後、非接着細胞を除去した。残った接着した細胞をCyQUANT GRで染色し、製造業者の使用説明書の記載に従って、無処置対照に対して計数した(3つの独立した実験の中から、代表的実験の1つである、各実験n=10の内部対照が示される)。
【図9】ビトロネクチンでコーティングされた表面からの細胞脱離を示す図である。細胞脱離アッセイに関しては、ビトロネクチンで96ウェルELISAプレートをコーティングし、細胞を接着させ、1時間増殖させた。次いで、遊離DI17E6または種々の装荷していないもしくはドキソルビシンナノ粒子製剤4ng/μlを加え、プレートをさらに4時間37℃でインキュベートして脱離を誘導した(DI17E6または同等なNP量に基づいて濃度を算出する)。非接着細胞を除去し、残った接着した細胞をCyQUANT GRで染色し、製造業者の使用説明書の記載に従って、無処置対照に対して計数した(9つの独立した実験の中から、代表的実験の1つである、各実験n=10の内部対照が示される)。
【0053】
補遺1:ビトロネクチンでコーティングされた表面からの細胞脱離:微速度超音波顕微鏡検査、細胞脱離の動力学を試験するためのさらなる方法として、超音波顕微鏡検査を用いた[41〜43]。従って、αvβ3インテグリン陽性黒色腫細胞M21をビトロネクチンでコーティングされたチャンバー上に播種し、接触させ、増殖させ、次いで粒子表面にDI17E6抗体の結合を有するドキソルビシン装荷ヒト血清アルブミンナノ粒子と共にインキュベートした。1〜2日間にわたって微速度超音波顕微鏡検査によって脱離を観察した。画像を毎分測定した。データのマニュアル評価によって細胞の脱離を分析した。
【実施例1】
【0054】
ナノ粒子の調製
(1)試薬および化学物質:ヒト血清アルブミン(HSA、フラクションV、純度96〜99%)、8%グルタルアルデヒド水溶液およびヒトIgG抗体はSigma社(シュタインハイム、ドイツ)から入手した。ドキソルビシンはSicor社(ミラノ、イタリア)から入手した。2-イミノチオラン(Traut試薬)、5,5’-ジチオ-ビス(2-ニトロ-安息香酸)(Ellman試薬)およびD-Salt(登録商標)デキストラン脱塩カラムは、Pierce社(ロックフォード、米国)から購入し、ヒドロキシルアミン塩酸塩およびシステイン塩酸塩x H2Oは、Fluka社(ブックス、スイス)から購入した。DI17E6は、Merck社(ダルムシュタット、ドイツ)から入手した。メトキシポリ(エチレングリコール)プロピオン酸スクシンイミジルエステル(平均分子量5.0kDa(mPEG5000-SPA))および架橋剤ポリ(エチレングリコール)-α-マレイミド-ω-NHSエステル(平均分子量5.0kDa(NHSPEG5000-Mal))は、Nektar社(ハンツヴィル、米国)から購入した。すべての試薬は、分析級(analytical grade)であり、そのまま使用した。
【0055】
(2)DI17E6のチオール化:二量体化反応の動力学:抗体の第一級アミノ基は、2-イミノチオランと反応して開環反応によってスルフヒドリル基を導入することができる。遊離スルフヒドリル基は、その後、粒子表面にリンカーによって抗体を共有結合させるのに必要である。しかしながら、チオール基の導入には、DI17E6の二量体またはそれ以上のオリゴマーを生成する酸化的ジスルフィド架橋形成のリスクがある。DI17E6は、リン酸緩衝液(pH8.0)に、1mg/mlの濃度で溶解した。チオール基を導入するために、250.0μl(50倍モル過剰量)および500.0μl(100倍モル過剰量)の2-イミノチオラン(リン酸緩衝液(pH8.0)50ml中に6.9mg)を、DI17E6溶液500.0μlに6加え、試料の容量をリン酸緩衝液(pH8.0)で調整した。これらの試料を一定の振盪条件(600rpm)、20℃で、それぞれ2、5、16または24時間インキュベートした。ヒドロキシルアミン溶液(リン酸緩衝液(pH8.0)中に0.28mg/ml)500.0μlを添加して反応を停止させた。この混合物をさらに20分間インキュベートした。その後、流速1.0ml/分でリン酸緩衝液(pH6.6)を溶離液として用いる、TSKgel SWXLガードカラム(6mm x4cm)(Tosoh Bioscience社、シュトゥットガルト、ドイツ)と組み合わせたSWXLカラム(7.8mm x30cm)でのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって試料を分析し、二量体またはオリゴマーの形成を検出した。20.0μlのアリコートを注入し、溶離液フラクションを280nmでの検出によってモニターした。SECシステムにおける分子量を較正するために、球状タンパク質の標準品を用いた。
【0056】
(3)DI17E6のチオール化:チオール基の定量:DI17E6を1mg/mlの濃度でリン酸緩衝液(pH8.0)に溶解した。この抗体溶液(1000μg/ml)を、4.02μl(5倍モル過剰量)、8.04μl(10倍モル過剰量)、40.2μl(50倍モル過剰量)または80.4μl(100倍モル過剰量)の2-イミノチオラン溶液(リン酸緩衝液(pH8.0)5.0ml中に5.7mg)と共に、一定の振盪条件下、20℃で、それぞれ2時間および5時間インキュベートした。次いで、溶離液としてリン酸緩衝液を用い、DSalt(登録商標)デキストラン脱塩カラムを用いるSECによってチオール化抗体を精製した。280nmで光学的に抗体含有フラクションを検出し、その後プールした。精製工程によって入手した抗体溶液を、Microcon(登録商標)30,000ミクロ濃縮器(Amicon社、ベヴァリー、米国)を用いて約1.1mg/mlの含有量まで濃縮した。濃縮DI17E6溶液のアリコート(250μl)を、25℃で15分間、Ellman試薬(リン酸緩衝液(pH8.0)2.0ml中に8.0mg)6.25μlと共にインキュベートした。その後、UVettes(登録商標)(Eppendorf社、ハンブルク、ドイツ)を用いて412nmで光度測定により試料を測定した。導入されたチオール基の数を算出するために、抗体溶液と同様に処理したL-システイン標準溶液を用いた。DI17E6の含有量を微小重量測定により測定した。
【0057】
(4)装荷していないナノ粒子の調製:HSA(200mg)を精製水2mlに溶解した。濾過(0.22μm)後、この溶液をpH8.5に調整した。ナノ粒子を形成させるために、室温で一定に撹拌しながら、チューブポンプ(Ismatec社、グラットブルグ、スイス)によって1ml/分の速度でエタノール8.0mlを加えた。得られた粒子を、8%グルタルアルデヒド溶液(117.5μl)を用いて安定化させた。室温で24時間撹拌を続けて、この架橋プロセスを行った。2回の遠心分離ステップ(16,100g、10分間)によって粒子を精製し、元の容量のリン酸緩衝液(pH8.0)に再分散させた。ボルテックサーおよび超音波処理を用いて、この再分散を行った。
【0058】
(5)ドキソルビシン装荷ナノ粒子の調製:HSA160mgを精製水4mlに溶解し、この溶液を0.22μm酢酸セルロースメンブランフィルター(Schleicher&Schuell社、ダッセル,ドイツ)によって濾過した。この溶液のアリコート(500μl)を、ドキソルビシンの0.5%(w/v)水性原液200μlに加えた。この混合物に精製水300μlを加えた。溶液中でヒト血清アルブミンにドキソルビシンを吸着させるために、この混合物を撹拌(550rpm)下、室温で2時間インキュベートした。脱溶媒和によってナノ粒子を調製するために、チューブポンプ(Ismatec社、グラットブルグ、スイス)を用いてエタノール(96%、v/v)3mlを一定に(1ml/分)加えた。タンパク質の脱溶媒和後に、粒子の架橋を誘導するために、8%グルタルアルデヒド溶液11.75μlのアリコートを加えた(100%化学量論的タンパク質架橋に相当する)。周囲温度で24時間撹拌を続けて架橋させた。得られたナノ粒子のアリコート(2.0ml)を、示差遠心分離(16,100g、12分)および再分散2サイクルによって精製した。第1サイクルにおいては、再分散は精製水2.0mlを用いて行い、第2サイクルにおいては、ボルテックサーおよび超音波処理を用いて、リン酸緩衝液(pH8.0)500μlの容量にナノ粒子を再分散させた。重量測定によって、ナノ粒子含有量を測定した。採取した上清を用いて、HPLCによって、閉じ込められていないドキソルビシンを測定した。全ドキソルビシンと非結合薬物との差から、閉じ込めたドキソルビシンの含有量を算出した。ドキソルビシンの定量のために、LiChroCART(登録商標)250-4 LiChrospher(登録商標)-100RP-18カラム(Merck社、ダルムシュタット、ドイツ)を備えたMerck Hitachi D7000 HPLCシステムを用いた。0.1%トリフルオロ酢酸を含有する水/アセトニトリル(70:30)の移動層を用い、0.8ml/分の流速を用いて分離を行った。UV(250nm)および蛍光検出(励起560nm、発光650nm)によってドキソルビシンを定量した。
【0059】
(6)ナノ粒子の表面修飾:装荷していないおよび薬物を装荷したHSAナノ粒子を前に述べたように調製し、以下のように修飾を行った:リン酸緩衝液(pH8.0)に分散したHSAナノ粒子懸濁液1ミリリットルを、一定の振盪条件下(Eppendorfサーモミキサー、600rpm)、20℃で1時間、それぞれmPEG5000-SPA溶液(リン酸緩衝液(pH8.0)中に60mg/ml)またはポリ(エチレングリコール)-α-マレイミド-ω-NHSエステル250μlと共にインキュベートした。前述のように、遠心分離および再分散によってナノ粒子を精製した。ナノ粒子の含有量を微小重量測定によって測定した。抗体のチオール化工程のために、DI17E6またはIgGをリン酸緩衝液(pH8.0)に1.0mg/mlの濃度で溶解した。チオール基の導入のために、Steinhauserら(2006)[7]によって既述された方法に従って、DI17E6またはIgGを、それぞれ、50倍モル過剰量の2-イミノチオラン溶液(c=1.14mg/ml;40.2μl)と共に2時間インキュベートした。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC、D-Salt(登録商標)デキストラン脱塩カラム)によって抗体を精製した。得られた溶液は、チオール化抗体(それぞれ、DI17E6またはIgG)を約500μg/mlの濃度で含んでいた。結合反応のために、スルフヒドリル反応性ナノ粒子懸濁液1.0mlを、それぞれ、チオール化DI17E6またはIgG1.0mlと共にインキュベートし、抗体とナノ粒子系との間の共有結合を形成させた。吸着により接着した抗体を有する試料の調製のために、mPEG5000-SPA修飾ナノ粒子1.0mlを、それぞれ、チオール化DI17E6またはIgG1.0mlと共にインキュベートした。一定の振盪条件下(600rpm)、20℃で12時間、すべての試料のインキュベーションを行った。前に述べたように、遠心分離および再分散によって未反応の抗体から試料を精製した。非結合抗体を測定するために、得られた上清を採取し、前述のように、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析した。ナノ粒子表面に結合した抗体の量は、チオール化および精製後に得られた抗体の量と結合工程後に得られた上清において測定された抗体の量との差で算出した。
【実施例2】
【0060】
ナノ粒子の解析
ナノ粒子の粒径および多分散性に関しては、Malvern Zetasizer 3000HSA(Malvern Instruments社、モルヴァン、イギリス)を用い、光子相関分光法(PCS)によって分析した。同じ器械で、レーザードップラー微小電気泳動法によってゼータ電位を測定した。両方の測定の前に、試料を濾過(0.22μm)精製水で希釈した。粒子含有量を微小重量測定によって測定した。この目的のために、ナノ粒子懸濁液50.0μlをアルミニウム秤量皿にピペットで移し、80℃で2時間乾燥した。乾燥器中に30分間貯蔵後、試料を微量天秤(Sartorius社、ドイツ)で計量した。
【実施例3】
【0061】
ナノ粒子表面上への抗体の結合の証明
表面にDI17E6が結合したナノ粒子(NP-DI17E6)および抗体が結合してないナノ粒子(NP)を、PBS中、18nm金コロイド抗ヒトIgG抗体(dianova社、ハンブルク、ドイツ)を用いて、4℃で1時間インキュベートした。標識したナノ粒子を、2%グルタルアルデヒド/0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液で固定し、ミリポアフィルター(0.22μm)またはミリポアフィルターインサートで濾過した。次いで、試料を30%、50%および100%エタノールで脱水し、風乾し、SCD-030コーティング機(Balzers社、リヒテンシュタイン)によって炭素でコーティングし、電界放射型走査電子顕微鏡FESEM XL30(Phillips社、米国)で試験した。二次電子(SE)イメージングのために、10kVの加速電圧を用いた。ナノ粒子表面での抗体の検出のために、反射電子(BSE)モードを用いて試料を試験した。
【実施例4】
【0062】
細胞培養
すべての実験にαvβ3インテグリン陽性黒色腫細胞株M21を用いた。αv陰性黒色腫細胞株M21Lを対照として用いた(2つの細胞株はMerck社によって提供された)。これらの細胞を、10%ウシ胎児血清(Invitrogen社、カールスルーエ、ドイツ)、1%ピルビン酸(Invitrogen社、カールスルーエ、ドイツ)ならびに抗生物質(50U/mlペニシリンおよび50μg/mlストレプトマイシン;Invitrogen社、カールスルーエ、ドイツ)を添加したRPMI1640培地(Invitrogen社、カールスルーエ、ドイツ)中、37℃、5%CO2で培養した。PBSはCa2+/Mg2+を含んでいた(Invitrogen社、カールスルーエ、ドイツ)。
【実施例5】
【0063】
細胞結合
M21またはM21L細胞を24ウェルプレート(Greiner社、フリッケンハウゼン、ドイツ)で培養し、種々のナノ粒子製剤で37℃で4時間処理した。DI17E6修飾ナノ粒子の試験に関しては、粒子表面に結合したDI17E6濃度とされる2ng/μlの濃度を用いた。DI17E6修飾を有さない対照ナノ粒子を、同等のナノ粒子量で用いた。インキュベーション後、PBS(Invitrogen社、カールスルーエ,ドイツ)を用いて2回細胞を洗浄し、次いでトリプシン処理し、採取した。FACS-Fix(PBS(pH7.4)中、10g/l PFAおよび8.5g/l NaCl)で固定化後、FACSCaliburおよびCellQuest Proソフトウェア(Becton Dickinson、Heidelberg、ドイツ)を用い、1試料あたり10,000細胞を用いてフローサイトメトリー(FACS)分析を行った。ナノ粒子は488/520nmで検出できた。
【実施例6】
【0064】
細胞内取り込みおよび細胞内分布
共焦点レーザー走査型顕微鏡法によって、ナノ粒子の細胞内取り込みおよび細胞内分布を試験した。M21細胞をスライドガラス上で培養し、37℃で4時間、2ng/μlまたは10ng/μlの種々のナノ粒子製剤で処理した(2.5に記載のように、DI17E6または同等なNP量に基づいて濃度を算出する)。インキュベーション時間後、細胞をPBSで2回洗浄し、細胞膜を50ng/μlのコンカナバリンA AlexaFluor 350(346/442°nm)(Invitrogen社、カールスルーエ、ドイツ)で2分間染色した。細胞を0.5%PFAで5分間固定した。固定後、細胞を洗浄し、Vectashield HardSet Mounting Medium(Axxora社、グリューンベルク、ドイツ)に封入した。共焦点顕微鏡試験を510 NLO Meta装置(Zeiss社、イェーナ、ドイツ)、MaiTaiフェント秒またはアルゴンイオンレーザーおよびLSM Image Examinerソフトウェアを備えたAxiovert 200M顕微鏡を用いて行った。ナノ粒子を488/520nmで検出した。ドキソルビシンを488/590nmの赤色蛍光で検出した。
【実施例7】
【0065】
細胞接着および脱離アッセイ
ビトロネクチン(MoBiTec社、ゲッティンゲン、ドイツ)でコーティングされたELISAプレート(Nunc社、ヴィースバーデン、ドイツ)上でαvβ3インテグリン陽性黒色腫細胞M21を増殖させた。従って、ELISA96ウェルプレートを、1μg/mlビトロネクチンを用い、37℃で1時間コーティングした。プレートを1%熱失活BSA(PAA社、ケルベ、ドイツ)でブロックし、細胞接着用培地(1%BSAを添加し2mM L-グルタミンを含むRPMI 1640)中の細胞と共に、2ng/μlの遊離DI17E6または種々のナノ粒子製剤(遊離mAbと呼ぶ)のいずれかとインキュベートした。37℃での1時間のインキュベーション後に、予熱したPBSで非接着細胞を穏やかに洗浄して除去した。残った接着した細胞をCyQUANT GR(Invitrogen社、カールスルーエ)で染色し、製造業者の使用説明書の記載に従って、マイクロタイターELISA読取り機を用いて無処置対照に対して計数した。
【0066】
細胞脱離アッセイのため、前述のようにビトロネクチンで96ウェルELISAプレートをコーティングした。ブロッキング後、細胞を接着させ、細胞接着用培地中で1時間増殖させた。次いで、4ng/μlまたは10ng/μlの遊離DI17E6または種々のナノ粒子製剤(遊離mAbと呼ぶ)のいずれかを加え、プレートを37℃でさらに4時間インキュベートし、脱離を誘導した。続いて、プレートを洗浄し、細胞接着アッセイ用に処理した。接着の特異的阻害または脱離の誘導を、ビトロネクチンでコーティングされ、BSAでブロックされた表面と比較して測定した。
【実施例8】
【0067】
細胞脱離の動力学
細胞脱離の動力学を測定するために、ビトロネクチンでコーティングされたマルチウェルチャンバーに細胞を播種し、37℃で加湿、CO2通気環境チャンバー中で種々のナノ粒子製剤または遊離ドキソルビシンと共にインキュベートした。1〜2日間にわたって透過型微速度顕微鏡法によって脱離を観察した。7分毎に画像を測定した。細胞の脱離を、データのマニュアル評価によって分析した。
【実施例9】
【0068】
細胞生存率アッセイ
以前に述べたように改変して[28]、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)色素還元アッセイ[27]を用いて細胞生存率を評価した。
【0069】
表1.100%架橋を有するDI17E6およびIgG修飾HSAナノ粒子の物理化学的特性(平均値±SD;n=3)

【0070】
表2.100%架橋を有するDI17E6およびIgG修飾ドキソルビシン負荷HSAナノ粒子の物理化学的特性(平均値±SD;n=3)

【0071】
表3.微速度脱離測定の計算結果

*インキュベーション時間合計:1〜2日間
【0072】
表4.種々のナノ粒子調製物のIC-50値


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学療法剤で事前に処理したタンパク質ナノ粒子の表面に抗インテグリン抗体またはその生物活性フラグメントを共有結合させることによって得られる抗インテグリン抗体ナノ粒子結合体。
【請求項2】
化学療法剤がタンパク質ナノ粒子への吸着によって装荷される、請求項1記載の抗体ナノ粒子結合体。
【請求項3】
タンパク質ナノ粒子が、ヒト血清アルブミン(HSA)またはウシ血清アルブミン(BSA)のナノ粒子である、請求項1または2記載の抗体ナノ粒子結合体。
【請求項4】
未処理のタンパク質ナノ粒子の粒径が150〜280nmである、請求項1〜3のいずれかに記載の抗体ナノ粒子結合体。
【請求項5】
化学療法剤で処理されたタンパク質ナノ粒子の粒径が300〜390nmである、請求項1〜3のいずれかに記載の抗体ナノ粒子結合体。
【請求項6】
抗体分子に導入されたスルフヒドリル基を介して抗体がタンパク質ナノ粒子に直接にまたはリンカーによって結合された、請求項1〜5のいずれかに記載の抗体ナノ粒子結合体。
【請求項7】
タンパク質ナノ粒子を処理した化学療法剤が、シスプラチン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ブレオマイシンおよびイリノテカンからなる群から選択される、請求項1〜6のいずれかに記載の抗体ナノ粒子結合体。
【請求項8】
タンパク質ナノ粒子に共有結合させた抗体が、LM609、ビタキシンおよび17E6ならびにそれらのバリアントの群から選択される、請求項1〜7のいずれかに記載の抗体ナノ粒子結合体。
【請求項9】
タンパク質ナノ粒子が、ドキソルビシンが装荷されているHSAであり、共有結合させた抗体が17E6またはDI17E6である、請求項1記載の抗体ナノ粒子結合体。
【請求項10】
薬理学的有効量で、場合により薬理学的に許容される担体、溶離液またはレシピエントと共に、請求項1〜9のいずれかに記載の抗体ナノ粒子結合体を含む医薬組成物。
【請求項11】
癌疾患の治療薬の製造のための、請求項1〜9のいずれかに記載の抗体ナノ粒子結合体の使用。
【請求項12】
腫瘍性疾患の治療に使用するための、請求項1〜9のいずれかに記載の抗体ナノ粒子結合体。

【図1】
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【図2】
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【図3A)】
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【図3B)】
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【図3C)】
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【図4】
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【図5A)】
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【図5B)】
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【図5C)】
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【図5D)】
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【図6A)】
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【図6B)】
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【図6C)】
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【図6D)】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−510804(P2013−510804A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538212(P2012−538212)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/006443
【国際公開番号】WO2011/057709
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】