説明

化学療法又は放射線療法の副作用に対する栄養組成物

【課題】多量栄養素及び微量栄養素を供給するのに適しており、粘膜の損傷、特に放射線又は化学療法からもたらされるものを防ぐ及び/又は緩和する栄養組成物の提供。
【解決手段】蛋白質供給源、脂質供給源及び炭水化物供給源を含有する、ml当り少なくとも1.3kcalのエネルギー含量を有する栄養組成物であり、蛋白質供給源が、前記組成物のエネルギーの20〜30%を提供し、40〜80重量%のカゼイン及び60〜20重量%のホエーを含有し、前記組成物の100kcal当り0.5〜20μgのTGF−βを含有し、前記組成物のエネルギーの2〜15%を提供する量で遊離グルタミンを含有する、栄養組成物。該遊離グルタミンは、栄養組成物のエネルギーの5〜10%を提供するものであることが好ましい。脂質供給源が、脂質供給源の重量%で30〜70%の中鎖トリグリセリドを含有するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学療法又は放射線療法の間及び後に、そのような療法による癌の治療の副作用を治療する又は緩和するのに適する栄養組成物に関する。本発明は、又、化学療法又は放射線療法の副作用を治療する又は防ぐための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学療法及び放射線療法は、高い増殖速度を有する細胞、従って迅速に成長する組織を標的とするので腫瘍を破壊するのに有効である。胃腸管の幹細胞も高い増殖速度を有するので、化学療法又は放射線療法の問題を有する副作用は、分裂上皮細胞の早期死滅である。
【0003】
特に、癌患者にとってしばしば特別に優れた治療である化学療法及び放射線療法は、便中に血液(潰瘍形成)及び腹痛を有して又は有せずに、悪心、嘔吐、下痢のような腸の障害の症状と関連し得る。それらの症状は、胃腸管の内容物と直接接触する、腸の粘膜、腸管の内側を覆う上皮細胞層の損傷に関連している。化学療法中、胃腸管は、食事不耐症及び粘膜炎を引き起こし得る抗癌剤をしばしば含有する。口内炎もしばしば観察され、下痢とともに患者の生活の質を非常に阻害する。
【0004】
市場に出ているいくつかの製品は、癌患者にとって有益であると言われている。例えば、Abbott Laboratoriesにより市場に出されているPROSURE(商標)は、約21%のエネルギーが蛋白質により提供される約1.27kcal/mlのエネルギー密度を有するインスタント(rtd)飲料である。さらに、その製品は、ml当り0.021gの繊維を有する。しかし、エネルギーがさらに高く、より多くの蛋白質を供給する栄養組成物は、この製品よりも有益であることが判明され得る。
【0005】
Novartisにより市場にでているインスタント飲料である、RESOURCE SUPPORT(商標)は、約1.52kcal/ml、及び蛋白質により提供される23.3%のエネルギーを有する。この調合品は、ml当り0.127gの繊維を有する。有効であるには不十分の量で存在する成分の存在を避けながら、独特の蛋白質ブレンド、及び癌患者に適合する良好な味を提供するのがこの発明の目的である。
【0006】
B van’t Landらによる“Transforming Growth Factor−β2 protects the small intestine during methotrexate treatment in rats possibly by reducing stem cell cycling”、British Journal of Cancer (2002)、87、113−118には、牛乳から単離されたTGF−β2が、治療中の、上皮幹細胞の成長を可逆的に阻止し得ることが報告されている。ラットモデルにおいて、メトトレキサートに暴露されたラットのTGF−β2での経口補給が化学療法に関連する体重損失を低減させた。
【0007】
WO96/34614には、有効量の乳製品抽出物を投与することにより、化学療法が消化管の内膜にもたらす損傷を防ぐ方法が開示されている。この抽出物は、ホエーから単離され、ほとんどカゼインを含有しないGFE−2(成長因子抽出物)を含有する。
【0008】
米国特許第5,824,297号には、放射線治療又は化学療法のような抗腫瘍治療による細胞毒性中毒を阻止するためのTGF−β3の使用が開示されている。TGF−β3は局所的に投与される。米国特許第5,824,297号には栄養組成物は開示されていない。
【0009】
WO99/56758には、初乳由来成長因子を含む食物組成物が開示されており、それによると、その組成物は、例えば、化学療法によりもたらされる消化管の疾患を防ぐために投与される。しかし、初乳は、子牛の誕生後の短期間しか得られない。さらに、WO99/56758には、栄養的に完全な組成物の態様は開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
先行技術を考慮して、多量栄養素及び微量栄養素を供給するのに適しており、粘膜の損傷、特に放射線又は化学療法からもたらされるものを防ぐ及び/又は緩和する栄養組成物を提供することが本発明の目的である。
【0011】
放射線療法又は化学療法を受けている患者における体重増加を促進するのに適する、良好な味を有する栄養組成物を提供することが特定の目的である。治療を受けていないヒトと比較して、化学的に又は放射線で治療を受けている癌患者は、しばしば異なる味の好みを有するという事実を考慮すると、この目的は重要である。
【0012】
栄養を供給し、例えば癌患者に対して化学療法又は放射線療法の副作用を防ぐ及び/又は治療することが本発明の目的である。
【0013】
さらに、胃腸管を通過中に活性のままであることができる、牛乳から誘導された又は得られた生体活性蛋白質を供給することが目的である。
【0014】
乳蛋白のような多量栄養素を含有し、同時に生体活性の蛋白質類を有効量含有する栄養組成物を提供することが目的である。
【0015】
栄養補給物、例えば完全栄養補給物を提供することが本発明の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第一の面において、本発明は、蛋白質供給源、脂質供給源及び炭水化物供給源を含有する、ml当り少なくとも1.3kcalのエネルギー含量を有する栄養組成物であり、蛋白質供給源が、前記組成物のエネルギーの20〜30%を提供し、40〜80重量%のカゼイン及び60〜20重量%のホエーを含有し、前記組成物の100kcal当り0.5〜20μgのTGF−βを含有し、前記組成物のエネルギーの2〜15%を提供するような量で遊離グルタミンを含有する、栄養組成物を提供する。
【0017】
他の面において、本発明は化学療法及び/又は放射線療法の副作用を緩和する及び/又は軽減するための栄養調合物又は栄養補給物の製造における、本組成物の使用、並びに化学療法を受けている癌患者に栄養を供給する方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書の文脈において、「を含有する」という用語は、「他のものと共に、含む」を意味すると解釈する。本用語は、「のみから成る」と解釈されることを意図しない。
【0019】
本発明による栄養組成物の特定の栄養物質により提供される「本組成物のエネルギー」という用語は、すべての多量栄養素全体により提供されるエネルギーを指す、「本組成物の総エネルギー」と理解される。
【0020】
「活性形態」におけるTGF−βという用語は、完全な生物学的活性を維持したTGF−βをいう。従って、この用語は、活性でないが、外部条件、特に胃腸管を通過することにより活性化され得るTGF−βも指す。この用語は、胃の又は十二指腸の酸度をシミュレートするモデルにおいて評価され得る。
【0021】
本発明の文脈において、「蛋白質供給源」という用語には、例えば、処理されていない又は加水分解された食事性蛋白質、及び添加されたペプチド又は遊離アミノ酸並びにそれらの混合物のようないずれかのアミノ酸系蛋白質原物質が含まれる。
【0022】
本発明による組成物の好ましい態様において、蛋白質供給源は、40〜80重量%のカゼイン及び60〜20重量%のホエーを含有する。
【0023】
好ましくは、蛋白質供給源は、45〜75重量%の、より好ましくは50〜70重量%の、最も好ましくは55〜65重量%のカゼインを含有する。好ましくは、蛋白質供給源は、55〜25重量%の、より好ましくは50〜30重量%の、より好ましくは45〜35重量%のホエー蛋白を含有する。
【0024】
カゼインは、遊離形態で又は塩の形態で、例えばナトリウム塩で供給され得る。カゼインをカルシウム塩又はカリウム塩として供給することも可能である。
【0025】
TGF−βは特に重要な生体活性蛋白質である。従って、本発明の組成物は、0.5〜20μgのTGF−β、好ましくはTGF−β2を供給する。例えば、緩和な処理により生成された酸カゼインを用いる場合に、TGF−β2はカゼイン中に活性な形態で天然に存在し得る。そのような処理の例は、例えば、脱カチオン化したホエーで牛乳のpHを低下させることによりカゼインを沈殿させることによりカゼインを得る方法が開示されているFR 1 469 793に記載されているように、脱カチオン化されたホエー及び/又は牛乳で牛乳のpHを低下させることによりカゼインを沈殿させる方法である。この方法は、乳糖の製造のためのホエー、及びマスト(mast)用の栄養組成物の同時生成に役立つ。この方法において、沈殿剤として用いられるホエーは、好ましくは、カチオンの交換の処理の前に乳糖及び/又はアルブミンから少なくとも部分的には遊離している。例えば、ホエーのスラリーのpHを4.3〜4.8に上げることを見込んで乳糖の除去後、チーズのスイートホエーのような製品、又は乳糖を濯いだ後に水を用いてホエーのスラリーを希釈し、次に(希釈したホエーを)90〜95℃に加熱し、そうすることでアルブミンを除去した後にカチオン交換体中でそれを処理することにより、そのホエーは得られる。
【0026】
予期せぬことに、先に記載した「緩和な」方法により得られるTGF−β2を含有するカゼインを供給することにより、蛋白質の変性のために処理中にTGF−β2は不活性化されない。さらに、TGF−β2は不活性形態であり得る−TGF−β結合蛋白質に複合化される−が、胃の酸性環境を通過する間に活性化される。予測しないことに、得られたカゼイン画分は、TGF−β2と会合し、TGF−β2を保護し、小腸に到達するまでその不活性化を防ぐ。さらに、TGF−β2はホエー画分に通常見出される可溶性因子であるので、TGF−β2を含有するカゼインが得られるのは非常に驚くべきことである。
【0027】
TGF−β2含有カゼインの保護特性ゆえに、本願発明の有益な効果を得るために投与されるTGF−βの量は、保護的本質を欠くTGF−βを投与する他の方法と比較して低い量であり得る。
【0028】
本発明による組成物の好ましい態様では、TGF−β含有カゼインは、カゼインのg当り0.25〜5μgの、好ましくは0.3〜2.5μgの、より好ましくは1〜2μgの活性TGF−β2を含有する。
【0029】
好ましい態様において、本発明による組成物は、好ましくは、栄養組成物の100kcal当り0.5〜20μgの、好ましくは0.8〜6.5μgの、最も好ましくは1.5〜4μgの活性TGF−β2を含有する。
【0030】
本発明の組成物において用いられるホエー蛋白は市販されている。ホエー及びホエー画分のような乳製品の供給先には、Arla Foods Ingredients、森永乳業株式会社(日本)、ニュージーランドにおけるTatuaが含まれる。例えば、Glanbia Nutritionalsは、TGF−βを含有する製品Salibra(商標)700、ホエー濃縮物を販売している。
【0031】
市販されている供給源におけるTGF−βの量的存在はELISA試験により評価され得る。例えば、定量ELISAキットは、R&D SystemsからウシTGF−β2用に市販されている(目録番号DB250)。
【0032】
蛋白質供給源には又、添加されたアミノ酸の形態でグルタミンが含まれる。本発明の文脈における「添加されたアミノ酸」は、蛋白質結合がされておらず、牛乳、肉及び植物性蛋白質のような典型的な食事性蛋白質供給源とは別に添加されるアミノ酸をいう。添加されるアミノ酸は、遊離アミノ酸として及び/又はアミノ酸を含有するジ−及び/又はトリ−ペプチドとして存在し得る。例えば、グルタミンは、L−アラニルグルタミンのようなジペプチドの形態で添加され得る。グルタミンが添加される様式の選択は、ある程度、本組成物が消費される直前に水で再構成されることが意図される粉末組成物として販売されるか又は液体組成物として販売されるかにより必然的に決められる。前者の場合では、コスト的理由により遊離アミノ酸が用いられ得て、好ましくは用いられる。しかし、液体環境では遊離グルタミンは安定でなく、従って、本組成物が液体として販売される場合、グルタミンは、ジペプチド又は他の液体安定形態として添加されなくてはならない。本組成物が液体として供給される場合、消費される直前に液体と混合するためにモジュール形態中に含有される適量の粉末グルタミンとしての他の可能性が存在する。
【0033】
好ましくは、蛋白質供給源は、50〜85重量%のカゼイン及びホエー並びに15〜50重量%の添加されたグルタミンを含有し、より好ましくは、本組成物の蛋白質供給源は、60〜75重量%のカゼイン及びホエー並びに25〜40重量%の添加されたグルタミンを含有する。
【0034】
蛋白質供給源により提供されるエネルギーについては、本発明による組成物の蛋白質供給源は、本栄養組成物の20〜30%、好ましくは21〜29%、より好ましくは22〜27%のエネルギーを提供する。
【0035】
好ましくは、カゼイン及びホエーは、本栄養組成物のエネルギーの10〜22%、より好ましくは15〜20%を提供する。好ましくは、添加されたグルタミンは、本栄養組成物のエネルギーの4〜13%、より好ましくは6〜10%を提供する。
【0036】
明らかにカゼイン及びホエー蛋白は、それら自体、いくらかのグルタミンを含有し、好ましくは、蛋白質結合がされた及び添加されたグルタミンの合計は、本組成物のエネルギーの7〜15%、より好ましくは8〜12%を提供する。
【0037】
本発明による蛋白質供給源は、処理されていない蛋白質であり得るか又は加水分解され得る。しかし、好ましくは、蛋白質供給源は処理されていないホエー及びカゼイン蛋白を含有する。
【0038】
本発明による栄養組成物は脂質供給源を含有する。本栄養組成物における使用のための脂質の供給源は、例えば、オリーブ油、ヒマワリ油、(低エルカ酸)ナタネ油、ヘーゼルナッツ油、サフラワー油、大豆油、トウモロコシ油、ココヤシ油、乳脂、クロスグリ種子油、魚油、パーム油、落花生油及び単細胞油並びにそれらの混合物から選ばれ得る。
【0039】
脂質供給源は、飽和脂肪酸(SFA)、一不飽和脂肪酸(MUFA)及び/又は多不飽和脂肪酸(PUFA)を含有し得る。SFAは部分的に、C〜C12脂肪酸を含有するトリグリセリドを指す中鎖トリグリセリド(MCT)として存在し得る。
【0040】
本発明の好ましい態様において、脂質供給源は、脂質供給源の重量%において30〜70%の、好ましくは40〜60%の、より好ましくは45〜55%のMCTを含有する。
【0041】
好ましくは、脂質供給源は、本組成物のエネルギーの25〜45%、好ましくは30〜40%、より好ましくは32〜38%を提供する。
【0042】
好ましくは、本組成物の脂質供給源は、n−3及び/又はn−6PUFAを含有する。
【0043】
好ましくは、本発明による組成物は、2/1〜8/1の範囲の、好ましくは2/1〜7/1の範囲のn−6/n−3脂肪酸比を含有し、より好ましくはその比は約2/1〜5/1の範囲である。
【0044】
脂質供給源の総脂肪酸の好ましくは5〜15%、より好ましくは8〜12%、例えば10%がn−3脂肪酸の形態で存在する。好ましくは、そのn−3脂肪酸は、α−リノレン酸(18:3n−3)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5n−3)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5n−3)又はドコサヘキサエン酸(DHA、22:6n−3)又はそれらの混合物から選ばれる。
【0045】
好ましくは、n−3脂肪酸は、本栄養組成物の一日当りの摂取量当り1〜6gの、好ましくは2〜4gのn−3脂肪酸に相当する量で存在する。
【0046】
好ましくは、本発明による組成物は、1/1.5〜1/2.5の、例えば1/2のEPA/DHA比においてEPA及びDHAを含有する。EPA及びDHCの分子量はほとんど同じであるので、それらの比は、重量として又は分子比として考えられ得る。
【0047】
本発明による組成物は、少なくとも一つの消化性炭水化物供給源を含有する。消化性炭水化物供給源はいずれかの適する炭水化物又は炭水化物混合物であり得る。例えば、炭水化物供給源は、マルトデキストリン、例えばタピオカ、トウモロコシ、米、他の穀類、ジャガイモからの天然澱粉又は修飾澱粉、又は高アミロース澱粉、蔗糖、ブドウ糖、果糖及び/又はそれらの混合物であり得る。好ましくは、消化性炭水化物供給源は、マルトデキストリン、より好ましくはマルトデキストリン及び蔗糖を含有する。
【0048】
好ましくは、本発明による組成物は、臨床的に乳糖を含有しない。本発明の文脈において「臨床的に乳糖を含有しない」とは、本組成物100kcal当り最大0.2gの乳糖しか含有しない栄養組成物をいう。好ましくは、本組成物は、本組成物100kcal当り0.2g未満の、より好ましくは0.17g未満の乳糖しか含有しない。
【0049】
消化性炭水化物供給源は、本組成物のエネルギーの25%〜55%を提供し得て、本組成物のエネルギーの好ましくは30%〜約50%、より好ましくは35%〜45%、最も好ましくは37%〜43%を提供し得る。例えば、消化性炭水化物供給源は、本組成物のエネルギーの約40%を提供する。
【0050】
本腸溶性組成物は、好ましくは完全なビタミン及びミネラルプロフィールを有する。例えば、十分なビタミン類及びミネラル類は、本栄養組成物の1,500カロリー当り、一日当りの推奨されるビタミン類及びミネラル類の許容量の約100%〜約250%を与えるために供給され得る。
【0051】
種々の風味剤、甘味剤及び他の添加剤が存在し得る。
【0052】
本組成物は、少なくとも一つのプレバイオティックをさらに含有し得る。プレバイオティックという用語は、食物繊維、又は有益な腸内細菌の基質として役立ち得る他の食物成分をいう。好ましくは、本組成物は、プレバイオティックとして役立ち得る少なくとも一つのタイプの可溶性繊維を含有する。
【0053】
プレバイオティックは、少糖類、又は異なる少糖類及び/又は多糖類の混合物であることができる。少糖類は、ラフィノース、ガラクトース、果糖、ラクトスクロース、キシロースに基づく少糖類から選ばれ得て、例えば、EP 0307 523は、それにより少糖類が得られる文献を開示している。
【0054】
好ましくは、プレバイオティックは、イヌリン及び/又はフルクトオリゴ糖類又はそれらの混合物から選ばれる。
【0055】
イヌリンは、果糖ポリマー(F−F60)の混合物であり、例えば、湯抽出によりチコリの根から単離され得る。このように得られるイヌリンは、ほとんど常に、一般式、GFn(式中、nは2〜60であり、好ましくは11〜50である)に従う最終ブドウ糖単位により特徴付けられる。イヌリンは、商品名Raftiline(登録商標)でベルギーの“Orafti”から又は商品名Frutafit(登録商標)でCosucraから市販されている。
【0056】
フルクトオリゴ糖類は一般的に果糖のオリゴポリマーであり、少なくとも2つの方法:
(1)Raftilose(登録商標)の種々の異なる商品名でベルギーの“Orafti”から市販されている、イヌリン(上記参照)の加水分解物、
(2)日本の明治製菓株式会社から市販されているアスペルギルス・ニガーからのβ−フルクトフラノシダーゼを用いての蔗糖からの合成による方法、
において得られる。後者の方法は、5より多い果糖単糖類単位の少糖類を生成しない(いわゆる短鎖、SC FOS)。
【0057】
本発明による組成物は、好ましくは、約30〜80%のFOSと20〜70%のイヌリンを含有する、イヌリンとFOSの混合物を含有する。
【0058】
本組成物は、又、他の可溶性非澱粉多糖類のような他のプレバイオティックを含有する。水における可溶性による可溶性及び不溶性繊維における繊維の分類について、標準プロトコルは、L.ProskyらによるJ.Assoc.Off.Anal.Chem.、71、1017−1023(1988)に見出される。典型的に可溶性の非澱粉多糖類の例は、イヌリン、ペクチン、β−グルカン類、アラビアガム、トラガカント、粘漿剤類、グアー及びロカストビーンガム、寒天、カラギーナン類、アルギン酸塩類、キサンタン等のような種々のガム類である。それらの成分は市販されている。
【0059】
可溶性繊維の典型的な供給源は又、商品名Sweelite(登録商標)でCosucraから市販されている、エンドウ細胞壁としても知られているエンドウ内部繊維である。
【0060】
好ましくは、本組成物は、乾燥分の重量%において、0〜10%、好ましくは1〜8%、より好ましくは2〜5%のプレバイオティックを含有する。
【0061】
好ましくは、本発明による組成物は、一つ以上のプロバイオティック、すなわち、消費者において有益な効果を発揮する微生物又はそれらの発酵基質を含有する。
【0062】
プロバイオティックは商業的に得られるか又は発酵プロセスそして任意に乾燥により一般的に生成され得る。特定の菌株には、しばしば特別な培地又は培養基が選ばれ、当業者は、その選択について知っている。
【0063】
微生物は、乾燥形態であり得るか、又は例えば胞子を形成する微生物については胞子形態であることができる。発酵による生成の後の微生物の乾燥は当業者に知られている。例えば、粉砕化物の乾燥法が記載されているEP 0 818 529(SOCIETE DES PRODUITS NESTLE)又はWO 0144440(INRA)を参照。通常、細菌微生物は、培地から濃縮され、噴霧乾燥、流動床乾燥、凍結乾燥又は他の適切な乾燥法により乾燥される。例えば、微生物は、乾燥の間又は乾燥の前に、炭水化物、例えば蔗糖、乳糖もしくはマルトデキストリン、脂質又は蛋白質、例えば粉乳のような担体物質と混合される。
【0064】
しかし、微生物は、必ずしも乾燥形態において存在することが必要ではない。微生物を発酵の後に例えば粉末栄養組成物と直接混合し、そしてその後に任意に乾燥プロセス、好ましくは低温(70℃より低い)において乾燥プロセスを行うことも適し得る。そのようなアプローチは、WO 02065840(SOCIETE DES PRODUITS NESTLE)に開示されている。
【0065】
多くのプロバイオティックが市販されており、種々の供給先から粉末形態で得られ、例えばビフィドバクテリウム・ラクチス(DSM 20215)は、Christian Hansen BioSystems A/S(CHL)(10−12 Goge Alle、P.O.Box 407、DK−2970 Horsholm、デンマーク)から得られる。そのような粉末は、粉末栄養組成物に直接添加され得る(ドライブレンド)。
【0066】
文献は、それから、適するプロバイオティックが選ばれ得る微生物のいくつかを記載している。例えば、EP 0 862 863A2、特に3頁、25−37行、は、本発明によるプロバイオティックが選ばれ得るリストを含む。
【0067】
例えば、選ばれるプロバイオティックはビフィドバクテリウムである。好ましくは、ビフィドバクテリウム・ラクチス又はビフィドバクテリウム・ロンガムである。
【0068】
例えば、選ばれるプロバイオティックは、ラクトバチルス・パラカセイである。好ましくは、選ばれるプロバイオティックは、ビフィドバクテリウム・ロンガム(CNCM I−2170)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(German Culture Collection:DSM20215)、ラクトバチルス・パラカセイ(CNCM I−2116、CNCM I−1292)、ラクトバチルス・ジョンソニ(CNCM I−1225)又はそれらの混合物から成る群から選ばれる。
【0069】
プロバイオティックという用語は又、プロバイオティック死菌、発酵基質及び/又はプロバイオティック誘導物質も含む。
【0070】
例えば、本発明による栄養組成物は、栄養組成物の一日当りの投与量当り10〜1011cfu、より好ましくは10〜10cfuを含有し得る。本発明の組成物が完全栄養として与えられる場合、その一日当りの投与量を数回の投与に分け得て、任意に再構成される場合、一日当りの投与量は約1.5〜2リットルの本発明の栄養組成物に相当する。
【0071】
本組成物が粉末化される場合、本発明組成物は、粉末組成物75g当り10〜1011cfuを含有する。
【0072】
好ましくは、本発明による組成物のエネルギー含量は、1.3〜1.8kcal/ml、より好ましくは1.4〜1.6kcal/mlである。本組成物は、個々の食事の栄養補給物として用いられ得るが、完全栄養維持物を供給することも企図され得る。
【0073】
先に記載したように、本発明による組成物は、粉末形態又は液体形態で販売され得る。粉末形態である場合、沸騰した及び冷却した水道水又は栄養的に安全な水のような水の添加により再構成され得る。粉末組成物の場合には、kcal/mlで記載したエネルギー含量は、本技術分野で通例であるように、提供された使用説明書に従う水での再構成の後の本組成物のエネルギー含量をいう。例えば、50〜100g、より好ましくは60〜90gの粉末組成物を180mlの水と混合し、振盪するか又は攪拌する。
【0074】
本組成物は、チューブで供給され得るが、好ましくは経口投与されて、経口投与により、本組成物が、特に化学療法によりしばしば激しく影響を受ける口腔上皮細胞と接触することが可能になる。
【0075】
粉末形態の本組成物は、リンゴジュースのようなジュース、風味付けされた水又は他の飲料で再構成され得る。好ましくは、それらの飲料は、中性のpHを有する。しかし、再構成のために用いられる液体自体がカロリー含有量を有する場合、完成した組成物が高すぎるエネルギー含量を有しないように、水と比較して液体100ml当りの粉末の量を低減させることが推奨される。
【0076】
本発明の組成物が完全栄養を提供するために用いられる場合、一日当り、好ましくは1.0〜2.5リットル、より好ましくは1.2〜2.0リットル、例えば1.5リットルの本組成物(必要な場合、再構成された)が投与される。
【0077】
本発明の態様により、本組成物は、胃腸管に損傷を与え得る化学療法及び/又は放射線療法の副作用を緩和する及び/又は軽減するために用いられる。そのような副作用には、潰瘍形成、特に口内における潰瘍形成、下痢、口内炎、一般的に粘膜炎、感染、増大した腸の透過性及び栄養の低減された吸収が含まれ得る。増大した腸の透過性(粘膜細胞における酸化ストレスによる)のような直接的及び明白な原因を有する副作用の他に、癌を患い、癌を治療するために化学療法又は放射線療法を受けている患者は、例えば、口腔潰瘍により、食べることは痛みを伴うので、又は味覚の変化又は吐き気の感覚を有するので、しばしば食べることをしたくなくなる。それらの本質的に精神的な副作用は、化学療法及び放射線療法の期間中の患者における栄養状態を維持することがしばしば困難である他の理由である。
【0078】
従って、本発明の組成物は、栄養調合物、栄養薬剤、又は放射線療法及び化学療法の副作用を治療する、防ぐ又は緩和するための経口投与療法の他の形態の調製においても用いられ得る。
【0079】
本発明による栄養組成物は従来のように調製され得て、例えば、蛋白質供給源、炭水化物供給源及び脂質供給源を一緒にブレンドすることにより生成され得る。乳化剤がそのブレンド中に含有され得る。ビタミン類及びミネラル類がこの時点で添加され得るが、熱による分解を避けるために、後に添加することも可能である。いずれかの親油性ビタミン類、乳化剤等は、ブレンドする前に脂質供給源に溶解され得る。次に、液体混合物を形成するために水、好ましくは逆浸透に付された水を混合し得る。その水の温度は、成分の分散を促進するために約50℃〜約80℃が便利である。液体混合物を形成するために、市販の液化剤が用いられ得る。
【0080】
次に、その液体混合物は、細菌装填を低減するために熱処理され得る。例えば、液体混合物は、約80℃〜約110℃の温度に約5秒間〜約5分間、迅速に加熱され得る。その加熱は、蒸気噴射により又は熱交換機、例えばプレート式熱交換機により行われ得る。
【0081】
次に、その液体混合物は約60℃〜約85℃の温度に、例えばフラッシュ冷却により、冷却され得る。次に、その液体混合物は均質化される。その均質化された混合物は、次に、ビタミン類及びミネラル類のような熱過敏性成分を添加するためにさらに冷却され得る。均質化された混合物のpH及び固体含量は、この時点で都合良く標準化される。
【0082】
本組成物が粉末として販売される場合、次にその混合物を蒸発させ、例えば噴霧乾燥により、粉末に乾燥させる。従来の操作が用いられ得る。プロバイオティック及び特定のミネラル類のような他の熱過敏性成分が乾燥の前に添加されない場合、この時点で乾燥組成物に添加され得る。
【0083】
本混合物が液体として販売される場合、必要なら適する濃度に調整し、充填された容器のレトルト化、又は熱処理続いて望ましい容器の無菌充填のような従来の包装工程に置かれる。
【実施例】
【0084】
実施例1
表1に記載した成分を用いて粉末栄養組成物を調製する。
【表1】



【0085】
粉末化した再構成された栄養組成物を調製するために、マルトデキストリン、中和した酸カゼイン、ホエー粉末及びアミノ酸を約50℃〜60℃において水道水中で水和し、溶液(溶液という用語は、技術的用語である分散液又は懸濁液を含むために用いられる)を得る。その溶液を、25%の総固体含量(TS)に標準化する。水和時間は、蛋白質の良好な水和を有するように適合させる。
【0086】
ビタミン類及びミネラル類をその溶液に添加する。
【0087】
KOH又はクエン酸を用いてpHを6.8〜7の値に調整する。
【0088】
その溶液を50℃に予熱する。MCT、低エルカ酸菜種油及びトウモロコシ油を含有する脂質供給源を別に予熱し、次にインラインで添加し、その混合物を直接的蒸気噴射により105℃に加熱し、その温度を5秒間維持する。
【0089】
次にその生成物を蒸発器内に直接フラッシュさせ、その生成物をScheffers薄膜蒸発器により40〜50%総固体(乾燥分)にまで濃縮する。
【0090】
その後、濃縮された溶液を均質化のために緩衝タンク中に維持し、そこで75℃に予熱し、高圧ポンプを用いて150バールにおいて均質化し、次に噴霧乾燥する。
【0091】
次にその粉末を大豆レシチン及びビタミンとミネラルのプレミックス及び少量のマルトデキストリンと混合する。
【0092】
その粉末を、N及びCOの不活性雰囲気下で、ガス処理した缶又はガス処理したパウチに充填し得る。
【0093】
得られた粉末は、抗癌治療を受けている患者のための完全栄養として特に適する栄養組成物である。その粉末は、水道水で再構成され得る。成人患者のために推奨される一日当りの投与サイズは、一日当り152gの粉末であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質供給源、脂質供給源及び炭水化物供給源を含有する、ml当り少なくとも1.3kcalのエネルギー含量を有する栄養組成物であり、蛋白質供給源が、
前記組成物のエネルギーの20〜30%を提供し、
40〜80重量%のカゼイン及び60〜20重量%のホエーを含有し、
前記組成物の100kcal当り0.5〜20μgのTGF−βを含有し、
前記組成物のエネルギーの2〜15%を提供するような量で遊離グルタミンを含有する、栄養組成物。
【請求項2】
TGF−βが、酸カゼインにより供給されるTGF−β2であり、蛋白質供給源のカゼイン成分が、TGF−β2を供給するのに少なくとも十分な酸カゼインを含有する、請求項1又は2に記載の栄養組成物。
【請求項3】
栄養組成物が、100kcal当り1.5〜4μgのTGF−β2を含有する、請求項2に記載の栄養組成物。
【請求項4】
エネルギー含量が1.2〜2kcal/mlである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の栄養組成物。
【請求項5】
遊離グルタミンが、栄養組成物のエネルギーの5〜10%を提供する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の栄養組成物。
【請求項6】
脂質供給源が、栄養組成物のエネルギーの25〜45%を提供する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の栄養組成物。
【請求項7】
脂質供給源が、脂質供給源の重量%で30〜70%の中鎖トリグリセリドを含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の栄養組成物。
【請求項8】
炭水化物供給源が、栄養組成物のエネルギーの25〜55%を提供する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の栄養組成物。
【請求項9】
化学療法及び/又は放射線療法の副作用を緩和する及び/又は軽減するための栄養調合物又は栄養補給物の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項10】
化学療法及び/又は放射線療法の副作用が、下痢、口内炎、粘膜炎及び増大された腸管透過性を含む、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
癌を患っている患者に、化学療法及び/又は放射線療法の治療の期間中及びそのような治療期間の直後に栄養を与えるための栄養調合物又は栄養補給物の製造における、請求項1〜8のいずれか一項に記載の栄養組成物の使用。

【公開番号】特開2012−211139(P2012−211139A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−117592(P2012−117592)
【出願日】平成24年5月23日(2012.5.23)
【分割の表示】特願2006−534683(P2006−534683)の分割
【原出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】