説明

化学発光チップおよびそのチップを用いた化学発光検出装置

【課題】 測定対象物質を酵素標識し、この標識酵素の活性を化学発光測定する場合において、種々の物質の検出や定量に用いられる化学発光チップおよびそのチップを用いた化学発光検出装置を提供する。
【解決手段】 この発明の化学発光チップは、測定対象物質の流入口1aと流出口1bを有する空間に、酵素を固定化した固定相2を充填した充填部1を、支台4に備えたものとしている。そして、この発明の化学発光検出装置は、前記化学発光チップTを暗箱11内に設置し、この化学発光チップTの上方に冷却CCDカメラ12を設置し、暗箱11外から配した流入管Paを前記化学発光チップTの充填部1の流入口1aに接続すると共に、この充填部1の流出口1bに暗箱11外へ配した流出管Pbを接続したものとしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば臨床検査の分野において、種々の物質の検出や定量に用いられる化学発光チップおよびそのチップを用いた化学発光検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、臨床検査の分野においては、測定対象物質を酵素標識し、この標識酵素の活性を化学発光測定する方法が開発されている。化学発光測定法は、その簡便、迅速、高感度などの点から、臨床検査には適しているといえる。この化学発光測定法に用いられる酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコールオキシダーゼなどがあり、この化学発光測定法に用いられる化学発光物質としては、ルミノール、イソルミノール、ロフィン、ルシゲニン、過シュウ酸エステルなどがある(特許文献1〜6)。
【0003】
また、本発明者らは、臨床検査の分野において、酸化ストレス、オキシダーゼ酵素の基質物質の測定(例えば、グルコース、コレステロールなどの測定)に必要な体液中の過酸化水素の測定方法として、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼと過酸化水素とイミダゾール類との反応により生ずる化学発光強度を測定するものを発明している(特許文献7)。
【特許文献1】特開昭59−171839号
【特許文献2】特開平2−174694号
【特許文献3】特開平2−291299号
【特許文献4】特開平3−35147号
【特許文献5】特開平7−327694号
【特許文献6】特開平8−313443号
【特許文献7】特開2004−81138号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した何れの化学発光測定でも、光電子増倍管を用いたフローインジェクション化学発光検出装置においては、画像化呈示をすることができなかったが、測定対象物質の検出を画像化呈示することは、それを評価、診断する者に強いインパクトを与え、感覚的に理解するには好ましい手段であるといえる。
【0005】
そこで、この発明は、臨床検査の分野などにおいて、測定対象物質を酵素標識し、この標識酵素の活性を化学発光測定する場合において、種々の物質の検出や定量に用いられる化学発光チップおよびそのチップを用いた化学発光検出装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の化学発光チップは、測定対象物質の流入口1aと流出口1bを有する空間に、酵素を固定化した固定相2を充填した充填部1を、支台4に備えたものとしている。
【0007】
さらに、この発明の化学発光チップは、前記充填部1を、透明チューブとしたり、合成樹脂シートに形成したスリットとしたり、平板に形成した溝としている。
【0008】
また、この発明の化学発光チップは、前記充填部1の形状を、直線形状としたり、ジグザグ形状としたり、蛇行形状としている。
【0009】
そして、この発明の化学発光検出装置は、前記化学発光チップTを暗箱11内に設置し、この化学発光チップTの上方に冷却CCDカメラ12を設置し、暗箱11外から配した流入管Paを前記化学発光チップTの充填部1の流入口1aに接続すると共に、この充填部1の流出口1bに暗箱11外へ配した流出管Pbを接続したものとしている。
【0010】
さらに、この発明の化学発光検出装置は、前記暗箱11内に、ヒータ13および温度センサー14を備えたものとしている。
【発明の効果】
【0011】
この発明の化学発光チップにより、測定対象物質と標識酵素との反応が迅速、簡便なものとなる。そして、この化学発光チップを用いたこの発明の化学発光検出装置は、種々の物質の検出や定量を容易に行うことができるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の化学発光チップおよびそのチップを用いた化学発光検出装置について詳細に説明する。
【0013】
この発明の化学発光チップは、図に示したように、測定対象物質の流入口1aと流出口1bを有する空間に、酵素を固定化した固定相2を充填した充填部1を、支台4に備えたものとしている。
【0014】
図1〜6に示したこの発明の化学発光チップは、充填部1を透明チューブとし、この透明チューブを透明板3で押さえるようにして、前記支台4に備えたものとしている。
【0015】
図7、8に示したこの発明の化学発光チップは、充填部1を合成樹脂シートに形成したスリットとし、この合成樹脂シートを透明板3で押さえるようにして、前記支台4に備えたものとしている。
【0016】
さらに、図示していないがこの発明の化学発光チップは、充填部1を平板に形成した溝とし、この平板を上から透明板3で押さえるようにして、前記支台4に備えたものとしている。
【0017】
前記充填部1を透明チューブとした場合、この透明チューブとしては、テフロンチューブ(テフロンは登録商標)などの耐薬品性に優れると共に、透光性に優れたものを使用するのが好ましい。
【0018】
前記充填部1を合成樹脂シートとした場合、この合成樹脂シートとしては、テフロンシート(テフロンは登録商標)などの耐薬品性に優れたものを使用するのが好ましい。
【0019】
前記充填部1を平板とした場合、この平板としては、耐薬品性に優れた合成樹脂板や金属板が用いられる。また、前記溝は、切削加工や光エッチング加工により、平板に形成される。
【0020】
なお、前記透明板3も、テフロン板(テフロンは登録商標)やガラス板等の耐薬品性に優れると共に、透光性に優れたものを使用するのが好ましいことはいうまでもない。
【0021】
この発明の化学発光チップにおいて、前記測定対象物質としては、過酸化水素、イミダゾール環を有する化合物、過酸化水素生成酸化酵素などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0022】
また、この発明の化学発光チップにおいて、前記酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコールオキシダーゼなどが挙げられ、固定相2としては、キトサンゲル、ガラスビーズ、ポリスチレンゲル、アクリルゲルなどのアミノ基導入ゲルが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0023】
さらに、この発明の化学発光チップにおいては、前記充填部1の形状を、図3、4に示したようなジグザク形状にしたり、図5、6に示したような蛇行形状などとすれば、固定相2の充填量を多くすることができるので、測定対象物質の酵素標識をより確実で完全なものとして、測定対象物質の検出や定量をより容易なものとすることができる。
【0024】
この発明の化学発光検出装置は、図9、10に示したように、前記化学発光チップTを暗箱11内に設置し、この化学発光チップTの上方に冷却CCDカメラ12を設置し、暗箱11外から配した流入管Paを前記化学発光チップTの充填部1の流入口1aに接続すると共に、この充填部1の流出口1bに暗箱11外へ配した流出管Pbを接続したものとしている。
【0025】
さらに、この発明の化学発光検出装置は、前記暗箱11内には、箱内温度を調節するヒータ13、および箱内温度を感知するために温度センサー14を備えたものとしている。また、前記暗箱11外には、冷却CCDカメラ12で撮影した画像データを処理するコンピュータ15が備えられ、さらにこのコンピュータ15で処理した画像データを画像表示するモニター16が設置されている。なお、前記流入管Paへは、送液ポンプ17およびループインジェクター18により測定対象物質が繰り返し注入される。
【0026】
次に、この発明の化学発光チップおよびそのチップを用いた化学発光検出装置において、測定対象物質を過酸化水素とした場合の具体的な構成について説明する。
【0027】
先ず、この発明の化学発光チップは、前記充填部1をチューブとし、このチューブの内部に、酵素としてのホースラディシュ・ペルオキシダーゼ(以下、HRPという)を固定化した固定相2を充填し、このチューブを透明板3で押さえるようにして、支台4に備えたものとしている。
【0028】
前記充填部1のチューブとしては、テフロンチューブ(テフロンは登録商標)を用い、前記固定相2としては、キトパールビース(フジボー社製)およびアミノ基導入無孔性ガラスビーズ(ケムコ社製)を用いた。
【0029】
そこで、この発明の化学発光検出装置において、アルカリ性緩衝液でpH調製がされたイミダゾール類の溶液を、送液ポンプ17により流入管Paに流し込み、各種の濃度に調製した過酸化水素水を、ループインジェクター18により流入管Paに注入する。そして、このイミダゾール類の溶液と過酸化水素水の混合液が流入管Paを経て、化学発光チップTの充填部1の流入口1aからその充填部1の固定相2に到ると、この固定相2で化学発光が生じる。そこで、その化学発光を前記冷却CCDカメラ12で撮影する。そして、この撮影した画像データをコンピュータ15で処理し、モニター16に画像表示する。
【0030】
前記アルカリ性緩衝液としては、トリシン緩衝液、トリス塩酸緩衝液、ホウ酸緩衝液などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この例では、トリシン緩衝液を用い、その濃度を50mmol/Lとした。この場合のpH値は9.4であった。
【0031】
前記イミダゾール類としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、アラントイン、エチレンウレア、ヒスチジン、ピラゾールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。この例では、イミダゾールを用い、その濃度を100mmol/Lとした。
【0032】
前記過酸化水素水の濃度は、9.8μmol/L、98μmol/L、980μmol/Lの三種に調製した。また、過酸化水素水の使用量は、5〜50μL程度の少量とすることができ、この例では20μLとした。
【0033】
また、前記流入管Paにおけるイミダゾールの流速は、低速とするのが好ましく、この例では100μL/minとしたが、100μL/min以下であってもよい。
【0034】
なお、この化学発光検出装置では、固定相2に固定化されたHRPとイミダゾールと過酸化水素が反応すると化学発光が生じ、この化学発光が生じた後のHRPは、その活性中心がプロトン化されて失活する。しかし、その失活したHRPの活性中心のプロトンはアルカリ性緩衝液とイミダゾールにより除去されて活性HRPとなり、再び化学発光が生ずるものとなる。
【0035】
以上に述べたように、この発明の化学発光検出装置において、測定対象物質を過酸化水素とした場合、前記モニター16には、過酸化水素水の濃度に応じた強さの化学発光画像が表示された。
【0036】
したがって、この発明において、前記過酸化水素測定試料を汗、涙、血液、尿、唾液、リンパ液などの体液とすることにより、これら体液中の過酸化水素の検出や定量を簡便に行うことができるものとなる。これら体液中の過酸化水素の検出や定量は、酸化ストレス、オキシダーゼ酵素の基質物質の測定に必要であり、臨床検査の分野において非常に有用なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の化学発光チップの一実施形態の平面図である。
【図2】図1に示すこの発明の化学発光チップの側面図である。
【図3】この発明の化学発光チップの他の実施形態の平面図である。
【図4】図3に示すこの発明の化学発光チップの側面図である。
【図5】この発明の化学発光チップのさらに他の実施形態の平面図である。
【図6】図5に示すこの発明の化学発光チップの側面図である。
【図7】この発明の化学発光チップのさらに他の実施形態の平面図である。
【図8】図7に示すこの発明の化学発光チップの一部を断面した状態の側面図である。
【図9】この発明の化学発光検出装置の概略を示す断面図である。
【図10】この発明の化学発光検出装置の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
【0038】
1 充填部
1a 流入口
1b 流出口
2 固定相
3 透明板
4 支持台
11 暗箱
12 冷却CCDカメラ
13 ヒータ
14 温度センサー
T 化学発光チップ
Pa 流入管
Pb 流出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物質の流入口(1a)と流出口(1b)を有する空間に、酵素を固定化した固定相(2)を充填した充填部(1)を、支台(4)に備えたことを特徴とする化学発光チップ。
【請求項2】
前記充填部(1)を、透明チューブとしたことを特徴とする請求項1記載の化学発光チップ。
【請求項3】
前記充填部(1)を、合成樹脂シートに形成したスリットとしたことを特徴とする請求項1記載の化学発光チップ。
【請求項4】
前記充填部(1)を、平板に形成した溝としたことを特徴とする請求項1記載の化学発光チップ。
【請求項5】
前記充填部(1)の形状を、直線形状としたことを特徴とする請求項1記載の化学発光チップ。
【請求項6】
前記充填部(1)の形状を、ジグザグ形状としたことを特徴とする請求項1記載の化学発光チップ。
【請求項7】
前記充填部(1)の形状を、蛇行形状としたことを特徴とする請求項1記載の化学発光チップ。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の化学発光チップ(T)を暗箱(11)内に設置し、この化学発光チップ(T)の上方に冷却CCDカメラ(12)を設置し、前記暗箱(11)外から配した流入管(Pa)を前記化学発光チップ(T)の充填部(1)の流入口(1a)に接続すると共に、この充填部(1)の流出口(1b)に暗箱(11)外へ配した流出管(Pb)を接続したことを特徴とする化学発光検出装置。
【請求項9】
前記暗箱(11)内に、ヒーター(13)および温度センサー(14)を備えたことを特徴とする請求項8記載の化学発光検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−204251(P2006−204251A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23582(P2005−23582)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(502313196)
【出願人】(502313200)
【出願人】(503276285)
【Fターム(参考)】