説明

化学発光式窒素酸化物測定装置

【課題】窒素酸化物濃度を測定した後の排気ガスから、NOやNO等のNOxを確実に除去可能とした化学発光式窒素酸化物測定装置を提供する。
【解決手段】窒素酸化物を含む試料ガスとオゾンガスとの反応によって生じる化学発光の強度から窒素酸化物濃度を測定する化学発光式窒素酸化物測定装置において、試料ガス及びオゾンガスを測定セルに導入して窒素酸化物濃度を測定した後の排気ガスを、オゾン分解触媒21、NOを酸化する酸化吸着剤22,NOを吸着する酸性ガス吸着剤23の順に通過させて排気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素酸化物濃度を測定した後の排気ガスの処理手段に特徴を有する化学発光式窒素酸化物測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化学発光式窒素酸化物測定装置は、窒素酸化物(以下、NOxともいう)を含む試料ガスとオゾンガスとの反応によって生じる化学発光を利用して窒素酸化物濃度を測定しており、上記オゾンガスの発生には、生成効率の良さに着目して無声放電方式のオゾン発生器が使用されている。
また、測定後の排気ガスには未反応のオゾン(以下、Oともいう)が高濃度で含まれるので、排気ガスを活性炭等の還元性物質や各種触媒に通過させて酸素に変換した後に排気する方法が採られている。
【0003】
空気を原料とする無声放電方式のオゾン発生器では、オゾン以外にNOxが生成され、その多くはNOやNOとして存在する。
二酸化マンガン(MnO)系等の一般的なオゾン分解触媒では、オゾンが破過する以前にNOやNOが排気ガス中に漏出する。しかしながら、NOやNOは樹脂やゴムに対する腐食性が強く、ポンプや配管、継手等を損傷させるおそれがある。このため、これらの部品に耐腐食性のあるものを使用したり、触媒を増量させる、部品や触媒の交換頻度を多くする、等の対策を講じることが考えられるが、この種の対策はコストの上昇やメンテナンス作業の煩雑化を招くという問題がある。
【0004】
また、オゾンの分解能力とNOxの吸着能力とを併せ持つ活性炭を用いた場合、活性炭の持つ還元作用によりNOがNOに還元される。しかし、NOに対する活性炭の吸着容量は小さいため、NOが早期に破過してしまい、オゾン分解触媒の場合と同様な問題が生じる。
【0005】
上記の点に鑑み、例えば特許文献1には、オゾン分解触媒を充填したオゾン分解器の下流にNOx吸着剤を配置した化学発光式窒素酸化物測定装置が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−213548号公報(段落[0016]〜[0018],図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、特許文献1に係る従来技術は、NOx吸着剤の下流に、オゾン及びNOxに反応して変色する指示薬カラムを配置し、その変色の有無によりオゾン分解触媒やNOx吸着剤の劣化を判断してこれらの寿命をモニタする機能を特徴とするものであり、NOやNOを確実に除去するという点では十分とは言えない。
【0008】
そこで、本発明の解決課題は、窒素酸化物濃度を測定した後の排気ガスから、オゾンはもとよりNOやNO等のNOxを確実に除去可能とした化学発光式窒素酸化物測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、窒素酸化物を含む試料ガスとオゾンガスとの反応によって生じる化学発光の強度から窒素酸化物濃度を測定する化学発光式窒素酸化物測定装置において、
前記試料ガス及びオゾンガスを測定セルに導入して窒素酸化物濃度を測定した後の排気ガスを、オゾン分解触媒,一酸化窒素を酸化する酸化吸着剤,二酸化窒素を吸着する酸性ガス吸着剤の順に通過させて排気するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来よりも長期に渡ってNOxを除去することができ、各種吸着剤等の薬剤の交換頻度、分量を少なくしてコストの低減、メンテナンス作業の容易化を図ることができる。また、漏出するNOxによりポンプや配管、継手等を損傷する恐れを低減し、これらの装置や部品の寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。まず、図1は、この実施形態に係る化学発光式窒素酸化物測定装置の主要部を示す構成図である。
図1において、10はNOxを含む試料ガスとオゾンガスとを反応させ、その際の化学発光強度からNO、更にはNOの濃度を測定する測定セル(反応槽)である。ここで、オゾンガスは空気を原料とする無声放電式のオゾン発生器(図示せず)から供給されている。
【0012】
測定セル10の排気側には、オゾン分解触媒21、酸化吸着剤22、酸性ガス吸着剤23がこの順で配置されており、測定セル10から出た排気ガスはこれらを通過して排気されるようになっている。
ここで、オゾン分解触媒21としては、二酸化マンガン(MnO)系の複合金属酸化物触媒(例えば、商品名「カロライト」)を用いている。また、酸化吸着剤22としては、酸化アルミニウム(Al)に過マンガン酸カリウム(KMnO)等の酸化剤を担持してNOを酸化させる作用を果たすガス吸着剤(例えば、商品名「ピュラフィル」)を用い、酸性ガス吸着剤23としては、活性炭に水酸化カリウム(KOH)等を混合してNOを吸着する作用を果たす活性炭系のガス吸着剤(例えば、商品名「ピュラカーボ」)を用いている。
【0013】
なお、オゾン分解触媒21、酸化吸着剤22、酸性ガス吸着剤23はそれぞれ別個の容器に充填しても良いし、酸化吸着剤22と酸性ガス吸着剤23とは、同一容器を二分して充填しても良い。
【0014】
次に、図2は、本実施形態の効果を検証するための試験装置の構成図(図2(a))及びNO,NO,Oの濃度の測定結果を示すグラフ(図2(b))である。
図2(a)に示す試験装置において、11は化学発光式の試料ガス測定用NOx計であり、図1に示した測定セル10及びオゾン発生器(図示せず)を備えて大気中の窒素酸化物濃度を測定する通常のNOx計である。ここでは、試料ガス測定用NOx計11(測定セル10)の排気ガスを、45℃の恒温槽30内のオゾン分解触媒21、酸化吸着剤22及び酸性ガス吸着剤23に順次通過させて排気するように構成されている。
【0015】
また、12は、試料ガス測定用NOx計11からの排気ガス(流量は約1.5L/min)と希釈ガス(流量は約1.5L/min)との混合ガスが供給され、排気ガス中のNOx濃度を測定する排気ガス測定用NOx計、13は同じく排気ガス中のO濃度を測定する排気ガス測定用O計である。
なお、前記オゾン分解触媒21には「カロライト」を約30g、酸化吸着剤22には「ピュラフィル」を約75g、酸性ガス吸着剤23には「ピュラカーボ」を約75g用いている。
【0016】
上記構成において、排気ガス測定用NOx計12及び排気ガス測定用O計13によりNO,NO,Oの濃度を測定した結果は図2(b)の通りである。
この図2(b)は、試料ガス測定用NOx計11に試料ガスを長期間、供給し続けた場合の経過日数と各ガスの濃度〔ppm〕との関係を示している。
【0017】
次いで、図3は、第1比較例の効果を検証するための試験装置の構成図(図3(a))及びNO,NO,Oの濃度の測定結果を示すグラフ(図3(b))である。
この第1比較例では、試料ガス測定用NOx計11の排気ガスを、恒温槽30内のオゾン分解触媒21(約150g)のみに通過させて排気している。
【0018】
図4は、第2比較例の効果を検証するための試験装置の構成図(図4(a))及びNO,NO,Oの濃度の測定結果を示すグラフ(図4(b))である。
この第2比較例では、試料ガス測定用NOx計11の排気ガスを、恒温槽30内の活性炭(約150g)21のみに通過させて排気している。
【0019】
また、図5は、第3比較例の効果を検証するための試験装置の構成図(図5(a))及びNO,NO,Oの濃度の測定結果を示すグラフ(図5(b))である。
この第3比較例では、試料ガス測定用NOx計11の排気ガスを、恒温槽30内のオゾン分解触媒(約30g)及び酸化吸着剤(約150g)22に順次通過させて排気している。
【0020】
これらの試験結果について考察すると、本発明の実施形態(図2(b))及び第1〜第3比較例(図3(b),図4(b),図5(b))の何れについても、オゾンは長期にわたって漏出しておらず、確実に除去されていることが分かる。
【0021】
一方、NOについては、第1比較例(図3(b))、第2比較例(図4(b))において約30日を経過した頃から漏出し始め、第3比較例(図5(b))では約20日を経過した頃から漏出し始めているのに対し、本発明の実施形態(図2(b))では、140日前後までほとんど漏出していない。
【0022】
また、NOについては、第1比較例(図3(b))において40日前後から漏出し始め、第2比較例(図4(b))では試験開始当初から高濃度で漏出し始めているのに対し、本発明の実施形態(図2(b))では、80日頃までほとんど漏出していない。なお、第2比較例(図4(b))におけるNOの漏出は、NOが一部還元されて漏出したことによるものとも考えられるが、何れにしても、NOx全体では試験開始後の早期から漏出していると言える。
また、第3比較例(図5(b))では、NOがオゾンとほぼ同様に除去されている。これは、酸化吸着剤22の作用によりNOが酸化されてNOとなったため、見かけ上はNOとしての漏出がないように測定されるためと考えられる。
【0023】
以上まとめると、本実施形態の如く、化学発光式のNOx計の排気ガスをオゾン分解触媒21、酸化吸着剤22及び酸性ガス吸着剤23を順次通過させることにより、オゾンがほぼ完全に分解されると共に、NOが酸化吸着剤22により酸化されてNOとなり、このNOが酸性ガス吸着剤23により吸着される結果、NOxは、各比較例に比べて長期にわたり漏出量がほぼゼロの状態を維持することができる。
また、NO,NOの合計量に着目した場合、例えばオゾン分解触媒21のみを使用した第1比較例(図3(b))では、試験開始後、約60日を経過してNO,NOの合計量が約5ppmであるのに対し、本実施形態(図2(b))では、試験開始後、約180日を経過してNO,NOの合計量が約5ppmとなっているため、薬剤の寿命が約3倍に延びることが確認されている。
【0024】
なお、オゾン分解触媒21、酸化吸着剤22及び酸性ガス吸着剤23は実施形態に説明した物質に限定されるものではなく、同等の作用を持つ物質を使用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る化学発光式窒素酸化物測定装置の主要部を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態の効果を検証するための試験装置の構成図(図2(a))及び各種ガス濃度の測定結果を示すグラフ(図2(b))である。
【図3】第1比較例の効果を検証するための試験装置の構成図(図3(a))及び各種ガス濃度の測定結果を示すグラフ(図3(b))である。
【図4】第2比較例の効果を検証するための試験装置の構成図(図4(a))及び各種ガス濃度の測定結果を示すグラフ(図4(b))である。
【図5】第3比較例の効果を検証するための試験装置の構成図(図5(a))及び各種ガス濃度の測定結果を示すグラフ(図5(b))である。
【符号の説明】
【0026】
10:測定セル
11:試料ガス測定用NOx計
12:排気ガス測定用NOx計
13:排気ガス測定用O
21:オゾン分解触媒
22:酸化吸着剤
23:酸性ガス吸着剤
24:活性炭
30:恒温槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物を含む試料ガスとオゾンガスとの反応によって生じる化学発光の強度から窒素酸化物濃度を測定する化学発光式窒素酸化物測定装置において、
前記試料ガス及びオゾンガスを測定セルに導入して窒素酸化物濃度を測定した後の排気ガスを、オゾン分解触媒,一酸化窒素を酸化する酸化吸着剤,二酸化窒素を吸着する酸性ガス吸着剤の順に通過させて排気することを特徴とする化学発光式窒素酸化物測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−210452(P2009−210452A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54520(P2008−54520)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】