説明

化学発光測定方法及び化学発光測定装置

【課題】ピストンが移動することにより、他方の溶液による噴流によってシリンダー内に乱流を発生させて試料溶液と反応剤溶液とを短時間で均一化することができ、発光効率が高く再現性の良い化学発光測定方法を提供する。
【解決手段】シリンダー2内で生じた化学発光を計測する化学発光測定方法であって、シリンダー2内でピストン3を移動させることにより試料溶液又は反応剤溶液の一方をシリンダー2内に吸入し、続いて他方の溶液を吸入し、他方の溶液による噴流によってシリンダー2内に乱流を発生させて試料溶液と反応剤溶液とを均一に混合させることにより生じた化学発光を計測することを特徴とする化学発光測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料溶液と反応剤溶液を混合させることにより生じた化学発光を計測する化学発光測定方法、及びそれに用いられる化学発光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工透析医療においては、ダイアライザと呼ばれる、内径100μm程度の半透膜でできた管状の中空糸集合体を用いている。血中に存在する尿素等の溶質は、ダイアライザを通過する過程で透析液側に浸透することにより体外に除去される。従来、血中の尿素量は、採血することにより分析され、血中尿素窒素(Blood Urea Nitrogen、以下「BUN」と略記することがある。)値として評価されていた。
【0003】
尿素を含む試料溶液中の尿素濃度を測定する方法として、尿素と反応して発色する試薬を用い、その試薬の標準色と比較することにより尿素濃度を測定する比色法、尿素に特異的に働く酵素であるウレアーゼをガラスビーズの周囲に固定化し、尿素の加水分解反応に伴う反応熱を測定することにより尿素濃度を測定する酵素サーミスタ法、尿素と反応して化学発光を生じる酸化剤、例えば、次亜ハロゲン酸塩を用い、その化学発光(Chemiluminescence、以下「CL」と略記することがある。)の強度から尿素濃度を測定する化学発光法等が知られている。
【0004】
比色法では、尿素と反応して変色する試薬の調製に手間がかかり、測定誤差の原因の一つにもなるとともに、測定が終わるまでに時間がかかってしまう問題があった。また、経時的に濃度変化をモニタリングをするには不向きであった。
【0005】
酵素サーミスタ法では、測定を繰り返すごとに酵素が劣化し、酵素の経時変化が大きく、長期間安定して測定することが困難であった。尿素濃度のモニタリングに用いることはできるが、複数回の測定に用いるには精度的に問題があった。
【0006】
化学発光は、尿素と次亜ハロゲン酸イオンが反応する過程で生成される励起窒素が基底状態に戻る際に生じるとされている(非特許文献1)。また、化学発光を生じさせるための反応容器として流通式反応容器や攪拌槽式反応容器等が知られているが、以下のような問題点があった。
【0007】
化学発光計測装置として流通式反応容器を用いた場合、均一な反応を生じさせるために狭い流通路を形成する精密加工が必要であり、化学発光を効率良く計測するためには流通路を渦巻き状などの複雑な形状に加工する必要がありコスト高となる場合があった。また反応液の粘度が高い場合や反応液に微粒子や高分子が含まれる場合には、長時間の計測により細い流通路が汚染されたり閉塞されるという問題点があった。更に反応容器内部のクリーニングのためには、別途クリーニング液を流通させる機構が必要であった。したがって多数のポンプやバルブが必要となるため周辺装置もコスト高となる場合があった。また、大量の反応液を混合することが困難であるため、化学発光量を増大させることが困難であった。
【0008】
一方、化学発光計測装置として攪拌槽式反応容器を用いた場合、複数の反応液をポンプに導入するためにポンプ及びバルブが複数必要であり、反応容器内の液体を均一に攪拌するためには攪拌装置が必要であるため、周辺装置が複雑となりコスト高となる場合があった。回転水流による攪拌においては、均一化に時間がかかるとともに回転の乱れにより攪拌状態が変化して反応効率に影響を与えるため精度良く測定することが困難であった。特に、少量の反応液と大量の反応液を短時間で均一に混合することが困難であった。また攪拌装置の性能が経時変化しやすく長期間安定して用いることができない場合もあった。
【0009】
経時変化が少なく、精度良く測定することができる分析装置としては、例えば、特開平9−229929号公報(特許文献1)に、試料中の特定成分を分析するための分析装置であって、試料を採取するためのサンプリング手段と、ピストンとその駆動機構を有するシリンジポンプと、前記シリンジポンプの頭部に設けたロータリーバルブと、試料と混合される試薬を貯蔵する試薬タンクと、前記シリンジポンプ及びロータリーバルブを制御する制御装置とを備え、ポンプ室にて試薬と混合した試料に対し、光の透過が可能となるように前記シリンジポンプの少なくとも一部に透明部を形成し、1対の投受光素子を前記透明部に取付けたことを特徴とする分析装置が記載されている。この分析装置によれば、ポンプ室内に吸引した試料、試薬に対して光の透過、受光が可能となり光学的に試料に含まれる特定成分を検出することができ、ポンプ室の内壁をピス卜ンに設けたパッキンが磨き上げるので汚れが付着することがなく精度が良く経時的劣化の非常に少ない分析装置を提供できるとされている。しかしながら、例えば、尿素と次亜ハロゲン酸イオンとの反応のように化学発光を検出する場合、特に化学発光時間が非常に短い場合には、必ずしも再現性良く測定できず改善が求められていた。
【0010】
更に、化学発光法は、試料溶液の濃度をリアルタイムで測定することが可能であるため、試料溶液が尿素を含む試料溶液である場合には、人工透析医療において透析治療の終了すべきタイミングを知る手段として用いることができる。例えば、非特許文献2では、BUN値を知る目安として、透析廃液中の尿素濃度を測定することが記載されている。具体的には、透析廃液中の尿素と、次亜臭素酸ナトリウムとが反応することにより生じた化学発光を測定することで、尿素濃度の測定を行う方法について記載されている。しかしながら、化学発光効率や再現性が必ずしも良好ではなく改善が求められていた。
【0011】
【特許文献1】特開平9−229929号公報
【非特許文献1】Xincheng Hu他,「Bull. Chem. Soc. Jpn.」,1996年,第69巻,第5号,p.1179-1185
【非特許文献2】岡林徹他,「臨牀透析」,2006年,第22巻,第8号,p.1199-1204
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、ピストンが移動することにより、他方の溶液による噴流によってシリンダー内に乱流を発生させて試料溶液と反応剤溶液とを短時間で均一化することができ、発光効率が高く再現性の良い化学発光測定方法を提供することを目的とするものである。また、そのような測定方法の好適な用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、シリンダー内で生じた化学発光を計測する化学発光測定方法であって、シリンダー内でピストンを移動させることにより試料溶液又は反応剤溶液の一方をシリンダー内に吸入し、続いて他方の溶液を吸入し、他方の溶液による噴流によってシリンダー内に乱流を発生させて試料溶液と反応剤溶液とを均一に混合させることにより生じた化学発光を計測することを特徴とする化学発光測定方法を提供することによって解決される。
【0014】
このとき、試料溶液を吸入してから反応剤溶液を吸入して混合させることが好適であり、試料溶液及び反応剤溶液を切替バルブにより別々にシリンダー内に吸入することが好適である。他方の溶液を吸入する際の噴流の平均流速が10mm/s以上であることが好適であり、試料溶液が尿素を含む試料溶液であることが好適である。また、試料溶液が透析廃液であることが好適であり、反応剤溶液が次亜ハロゲン酸イオンを含む反応剤溶液であることも好適である。
【0015】
更に上記課題は、ピストンとシリンダーと試料溶液供給部と反応剤溶液供給部と光検出器とを備え、シリンダー内で生じた化学発光を計測する化学発光測定装置であって、
シリンダーと試料溶液供給部とが試料溶液供給弁を有する配管で接続され、該配管とシリンダーとの境界部に試料溶液噴出口を有し、
シリンダーと反応剤溶液供給部とが反応剤溶液供給弁を有する配管で接続され、該配管とシリンダーとの境界部に反応剤溶液噴出口を有し、
シリンダーの少なくとも一部が透明部を有して該透明部の外側に光検出器が配置され、
シリンダー内でピストンを移動させることにより試料溶液又は反応剤溶液の一方をシリンダー内に吸入し、続いて他方の溶液を吸入し、他方の溶液による噴流によってシリンダー内に乱流を発生させて試料溶液と反応剤溶液とを均一に混合させることにより生じた化学発光を計測することを特徴とする化学発光計測装置を提供することによっても解決される。
【0016】
このとき、シリンダーの側面に反射材が設けられてなることが好適であり、シリンダーの、ピストンと対向する位置に透明部が配置され、該透明部の外側に光検出器が配置されてなることが好適である。また、試料溶液供給弁と反応剤溶液供給弁を兼ねる三方弁を有し、三方弁とシリンダーが1本の配管で接続されてなることが好適であり、シリンダーの断面積と前記他方の溶液を吸入する際の噴出口の断面積との比(シリンダーの断面積/噴出口の断面積)が2以上であることも好適である。更に尿素濃度を測定することが好適な実施態様である。
【0017】
また、上記化学発光測定測定装置により透析廃液中の尿素濃度を測定することを特徴とする人工透析装置が本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の化学発光測定方法は、ピストンが移動することにより、他方の溶液による噴流によってシリンダー内に乱流が発生して試料溶液と反応剤溶液とが極めて短時間で均一化されるため、最初にシリンダー内に吸入した一方の溶液と、その後に吸入した他方の溶液の濃度分布が、他方の溶液を吸入している間、常に空間的に一様に維持されるので、発光効率が高く再現性の良い化学発光測定を行うことができる。特に、試料溶液と反応剤溶液の化学発光反応時間が1秒以下で反応速度が速い場合でも、空間的に一様で再現性の良い化学発光測定を行うことができる。また、試料溶液が尿素を含む試料溶液である場合、リアルタイムで尿素濃度を測定することができるため、透析時間の終了を知ることのできる人工透析装置として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明をより具体的に説明する。図1は、本発明で用いられる化学発光測定装置1の一例を示した模式図であり、ピストン3とシリンダー2と試料溶液供給部5と反応剤溶液供給部6と光検出器14とを備えたものである。図1では、試料溶液供給部5が試料溶液供給弁と反応剤溶液供給弁を兼ねる三方弁12と配管9で接続され、反応剤溶液供給部6が前記三方弁12と配管10で接続され、前記三方弁12とシリンダー2が1本の配管11で接続されている。また、シリンダー2の側面を覆うように反射材16が設けられており、更に、シリンダー2の、ピストン3と対向する位置に透明部15が配置され、該透明部15の外側に光検出器14が配置されている。電動シリンダー4によりピストン3がO点からP点まで移動すると試料溶液又は反応剤溶液の一方が試料溶液噴出口と反応剤溶液噴出口を兼ねる噴出口13からシリンダー2内のP点まで吸入される。続いて三方弁12を切り替えて電動シリンダー4によりピストン3がP点からQ点まで移動すると、他方の溶液が前記噴出口13からシリンダー2内に吸入され、他方の溶液による噴流によってシリンダー2内に乱流を発生させて試料溶液と反応剤溶液とが瞬時に均一に混合され化学発光が生じる。生じた化学発光は反射材16で反射を繰り返し効率良く光検出器14まで導かれてその発光量が測定される。
【0020】
本発明の化学発光測定装置1は、ピストン3とシリンダー2と試料溶液供給部5と反応剤溶液供給部6と光検出器14とを備えたものである。本発明で用いられるピストン3は、シリンダー2内に設置され、ピストン3がシリンダー2内を移動することにより試料溶液及び反応剤溶液が噴出口13からシリンダー2内に吸入される。本発明ではシリンダー2内をピストン3が往復移動するため、シリンダー2の内壁をクリーニングすることができるため好ましい。ピストン3の移動はバネとダンパーを用いた機械的手段で行ってもよいし、電動シリンダー4のような自動制御手段により行ってもよく、シリンダー2内に一定量の試料溶液又は反応剤溶液を化学発光の反応速度に応じた最適な一定速度で精度良く吸入する観点から、ピストン3に電動シリンダー4のような自動制御手段が備えられていることが好ましい。このように、電動シリンダー4のような自動制御手段を備えることにより、例えば、最適な乱流を発生させるために、液体の粘度や噴出口13の形状等を考慮し、最適なピストン3の移動速度を自動制御して、最大の発光効率を得ることができる。また、試料溶液又は反応剤溶液を精度良く吸入するために、ピストン3のストロークを長くすることも好ましく、このことにより再現性の良い化学発光が得られる。
【0021】
本発明で用いられるシリンダー2としては、可変容量型反応容器であれば円筒型の容器であっても角型の筒状容器であってもよく、攪拌効率が良好である観点から、円筒型の容器が用いられる。本発明で用いられるシリンダー2には、試料溶液及び反応剤溶液が吸入される噴出口13が設けられているが、ピストン3の移動により試料溶液又は反応剤溶液を吸入する際に混入した気泡や反応後の廃液を完全に排出するためには、ピストン3と対向する位置であるシリンダー2の先端部に噴出口13が設けられていることが好ましい。更にこの先端部がシリンダー2の鉛直上方に位置するようにシリンダー2を配置することがより好ましく、このことによりシリンダー2内に混入した気泡をより完全に排出することができる。また、噴出口13は複数であってもよく、特に強い乱流を発生させるための突出部を噴出口13の部分に設けてもよい。また、噴出口13から試料溶液又は反応剤溶液をシリンダー2内に吸入する際に乱流を発生させるとともに、反応後の廃液をシリンダー2内から完全に排出させるためには、シリンダー2先端部は傾斜が小さい形状、すなわちシリンダー2先端部の傾斜角度が一定以上であることが好ましい。ここで、傾斜角度は、シリンダー2の軸となす角度を表しており、シリンダー2先端部の傾斜角度が30度未満の場合、シリンダー2内全域に乱流を発生させることが困難となるおそれがあり、傾斜角度は45度以上であることが好ましく、60度以上であることがより好ましい。
【0022】
本発明で用いられる試料溶液供給部5としては、試料溶液の供給が可能であれば特に限定されず、例えば、試料溶液が一定量満たされたタンク等が挙げられる。試料溶液の濃度測定をリアルタイムで行う観点からは、試料溶液供給部5が随時新たな試料溶液を供給できる手段を備えていることが好ましい。このような試料溶液供給部5としては、試料溶液を直接サンプリングする手段を備えたものであってもよいし、試料溶液供給部5が、外部から試料溶液を導入する導入口7と試料溶液を外部へ排出する排出口8とを備え、導入口7と排出口8を通じて試料溶液を試料溶液供給部5の内部と外部との間で流通させる手段を備えていてもよい。特に、試料溶液供給部5が試料溶液を流通させる手段を有する場合、シリンダー2内や配管などを試料溶液や反応剤溶液で洗浄した後の廃液や、試料溶液と反応剤溶液との反応後の廃液などを試料溶液供給部5へ流入させても試料溶液の流通により廃液が排出口8から排出されるため好ましい。また、本発明で用いられる反応剤溶液供給部6としては、反応剤溶液の供給が可能であれば特に限定されず、例えば、反応剤溶液が一定量満たされたタンク等が挙げられる。本発明では、反応後の廃液や未反応の廃液などが排出されるたびに配管等の内部がクリーニングされるので閉塞したり内壁に汚染が蓄積することがないため好ましく、特に、反応剤溶液が強い酸化性溶液である場合はクリーニングの効果が大きいため好ましい。
【0023】
本発明の化学発光測定装置1は、シリンダー2と試料溶液供給部5とが試料溶液供給弁を有する配管9、11で接続され、該配管11とシリンダー2との境界部に試料溶液の噴出口13を有し、シリンダー2と反応剤溶液供給部6とが反応剤溶液供給弁を有する配管10で接続され、該配管10とシリンダー2との境界部に反応剤溶液の噴出口13を有するものである。このように、シリンダー2と試料溶液供給部5とが試料溶液供給弁を有する配管9で接続されているため、ピストン3の移動により試料溶液の噴出口13からシリンダー2内に試料溶液が吸入される。同様に、シリンダー2と反応剤溶液供給部6とが反応剤溶液供給弁を有する配管10で接続されているためピストン3の移動により反応剤溶液の噴出口13からシリンダー2内に反応剤溶液が吸入される。
【0024】
本発明の化学発光測定装置1には、シリンダー2と試料溶液供給部5とが接続された配管9、11に試料溶液供給弁を有し、シリンダー2と反応剤溶液とが接続された配管10、11に反応剤溶液供給弁を有するため、弁の開閉によりシリンダー2内への試料溶液及び反応剤溶液の吸入を制御することができる。ここで、試料溶液及び反応剤溶液がシリンダー2内に同時に吸入されないように制御するためには、試料溶液供給弁及び反応剤溶液供給弁をそれぞれの配管に設けてもよいし、切替バルブを設けて試料溶液及び反応剤溶液を別々にシリンダー2内に吸入させてもよい。試料溶液供給弁及び反応剤溶液供給弁の設置箇所や個数については特に限定されないが、図1に示されるように試料溶液供給弁と反応剤溶液供給弁を兼ねる三方弁12のような切替バルブを設けて三方弁12とシリンダー2が1本の配管11で接続されるようにすることが好ましい。このことにより装置構成が複雑とならず、コスト面での利点も有する。
【0025】
本発明の化学発光測定方法は、シリンダー2内でピストン3を移動させることにより試料溶液又は反応剤溶液の一方をシリンダー2内に吸入し、続いて他方の溶液を吸入し、他方の溶液による噴流によってシリンダー2内に乱流を発生させて試料溶液と反応剤溶液とを均一に混合させることにより生じた化学発光を計測することを特徴とする。本発明のように、他方の溶液による噴流によってシリンダー2内に乱流を発生させることにより、試料溶液と反応剤溶液とが急激に混合されて短時間で均一化するため、生じた化学発光強度を測定する際の発光強度の揺らぎが減少してS/N比が向上し、その結果、化学発光強度の測定の再現性が良好となる。また、試料溶液と反応剤溶液の液量が著しく異なる場合であっても、試料溶液と反応剤溶液とが乱流により急激に混合されて短時間で均一化され、ピストン3が移動している間は溶液全体が一様に混合撹拌されて最大の発光効率が得られるので好ましく、特に化学反応速度が速い場合であっても混合速度による揺らぎの影響を受けない利点を有する。化学発光を生じる化学反応は、その反応のメカニズムが完全に明らかになっていない場合も多く、反応条件によって副反応の進行状況も異なり、反応条件に応じた特定の時間で混合攪拌して均一化するためのピストン3の移動速度を選択することが再現性の良いデータを得るために重要である。
【0026】
シリンダー2内でどの程度乱流が発生しているかは必ずしも明らかではないが、ピストン3が刻々と移動するとともに後から吸入される溶液による噴流によってシリンダー2内に乱流が発生するので、シリンダー2内の全域が速やかに乱流状態になることができ、その結果、試料溶液と反応剤溶液とが短時間で均一化されると共に、ピストン3が移動している間は一様に混合撹拌されると考えられる。このとき、乱流により瞬時に急激な混合が生じるため均一化の速度は温度に依存しないと考えられる。また、温度変化に由来する溶液の粘度の変化の影響を受けにくいため再現性の良い化学発光が得られる。本発明者らは、ピストン3を移動させてシリンダー2内にインクを吸入し、続いて、後から吸入される溶液として水を吸入した場合に、ピストン3の移動とともに乱流が発生してシリンダー2内全体に一様に広がり、インクの濃度むらが観測されなかったことを確認している。また、化学発光の反応速度を2次元のフォトンカウンティング装置を用いて計測し、その速度が試料溶液と反応剤溶液の混合均一化の速度で律速されることを確認している。本発明では、後から吸入される溶液をシリンダー2内に吸入する際に乱流を発生させることにより先に吸入される溶液と混合することが重要であり、この観点から、先に吸入される溶液をシリンダー2内に吸入する際に、乱流を発生させるように吸入することは必ずしも必要ではない。
【0027】
本発明の化学発光測定方法では、試料溶液を吸入してから反応剤溶液を吸入して混合させてもよいし、反応剤溶液を吸入してから試料溶液を吸入して混合させてもよいが、混合効率の向上が発光効率の向上をもたらすという観点から、ピストン3に吸入する試料溶液と反応剤溶液の量が異なる場合には、どちらか一方の少量溶液を吸入してから他方の多量溶液を吸入して混合させることが好ましい。試料溶液と反応剤溶液のいずれかを少量とするかは、試料溶液の測定濃度範囲と、当該化学発光反応における化学量論比に応じて選択する。試料溶液が尿素を含む試料溶液、特に透析廃液である場合は、少量の反応剤溶液を先に吸入すると試料溶液と反応剤溶液との化学発光反応における化学量論比が合わなくなるおそれがあり、試料溶液を吸入してから反応剤溶液を吸入して混合させることが好ましい。また、再現性の良い化学発光測定を行うために試料溶液でシリンダー2内や配管内を洗浄した場合は、そのまま試料溶液を先に吸入してから反応剤溶液を吸入して試料溶液と反応剤溶液を混合させることが好ましい。
【0028】
本発明の化学発光測定方法において、後から吸入される溶液を吸入する際の噴流の平均流速が10mm/s以上であることが好ましい。噴流の平均流速が10mm/s以上であることにより、後から吸入される溶液による噴流によってシリンダー2内に乱流が発生して試料溶液と反応剤溶液との混合により生じた化学発光の再現性が高くなるため好ましい。噴流の平均流速が10mm/s未満の場合、シリンダー2内に乱流と層流が混在して試料溶液と反応剤溶液との混合により生じる化学発光の再現性が低下するおそれがあり、噴流の平均流速は50mm/s以上であることがより好ましく、200mm/s以上であることが更に好ましい。一方、噴流の平均流速が速いほど、シリンダー2内で激しい乱流が発生するため、試料溶液と反応剤溶液とがより短時間で均一化すると考えられるが、噴流の平均流速は、通常、5000mm/s以下である。化学発光反応が終了するよりも早く、ピストン3の移動が終了する場合には、発光効率と発光量の再現性が低下するので、反応条件に応じて最適なピストン3の移動速度を決定することが必要である。
【0029】
本発明の化学発光装置において、シリンダー2の断面積と前記他方の溶液を吸入する際の噴出口13の断面積との比(シリンダー2の断面積/噴出口13の断面積)が2以上であることが好ましい。このことにより、他方の溶液を吸入した際にシリンダー2内に乱流が発生して試料溶液と反応剤溶液との混合により生じた化学発光の再現性が高くなるため好ましい。前記断面積比が2未満の場合、シリンダー2内に乱流と層流が混在して試料溶液と反応剤溶液との混合により生じる化学発光の再現性が低下するおそれがある。断面積比は、3以上であることがより好ましく、5以上であることが更に好ましく、10以上であることが特に好ましい。一方、断面積比は、通常、1000以下である。
【0030】
本発明の化学発光計測装置には、試料溶液と反応剤溶液との混合により生じた化学発光を計測するために、シリンダー2の少なくとも一部が透明部15を有して該透明部15の外側に光検出器14が配置されている。この光検出器14でシリンダー2内で試料溶液と反応剤溶液との混合により生じた化学発光がフォトンカウンティングされる。このように、光検出器14を用いて化学発光強度を測定することにより、間接的に試料溶液の濃度を定量することができる。光検出器14の配置については特に限定されず、シリンダー2の側面に配置してもよいが、図1に示されるように、シリンダー2の、ピストン3と対向する位置に透明部15が配置され、該透明部15の外側に光検出器14が配置されてなることが好ましく、化学発光強度を効率良く測定することができる。更に、本発明で用いられるシリンダー2の側面に反射材16が設けられていることが好ましい。図1に示されるようにシリンダー2の側面に反射材16を設けることにより、シリンダー2内で生じた化学発光がシリンダー2内の内壁で全反射し、反射材16がライトガイド、すなわちシリンダー2自体が光導波管として機能する。このことにより、シリンダー2内で試料溶液と反応剤溶液との混合により生じた化学発光の大部分を光検知器に導くことができるため、より効率良く化学発光強度を測定できる。反射材16はシリンダー2の内部に設けても、シリンダー2の外部に設けてもよいが、シリンダー2内でのピストン3の移動が円滑に行われる観点からは、透明なシリンダー2の外部に反射材16を設けることが好ましい。
【0031】
本発明で用いられる試料溶液としては、反応剤溶液と混合することにより化学発光するものであれば特に限定されないが、尿素を含む試料溶液であることが好ましい。試料溶液が尿素を含む試料溶液である場合、本発明の化学発光測定装置1は、尿素濃度測定装置として種々の用途に好適に用いることができる。また、本発明で用いられる反応剤溶液としては、試料溶液と混合することにより化学発光するものであれば特に限定されないが、尿素、アミノ酸、タンパク質などを含む試料溶液と反応して化学発光するという観点から、反応剤溶液が次亜ハロゲン酸イオンを含む反応剤溶液であることが好ましい。次亜ハロゲン酸イオンとしては特に限定されず、FO、ClO、BrO、IO等の次亜ハロゲン酸イオンが挙げられるが、次亜臭素酸イオン又は次亜塩素酸イオンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、次亜ハロゲン酸イオンを含む反応剤溶液は、次亜ハロゲン酸イオンを含む水溶液として予め調製されたものを装置に供給してもよいし、装置内でハロゲンイオンを含む水溶液を電気分解することにより供給してもよい。刺激性を有する次亜ハロゲン酸塩を直接ハンドリングしなくてもよい観点からは、ハロゲンイオンを含む水溶液を電気分解により供給することが好ましい。電気分解により次亜ハロゲン酸イオンを含む反応剤溶液を供給する場合は、反応剤溶液供給部6に電解槽が設けられることが好ましい。
【0032】
本発明で用いられる試料溶液が透析廃液である場合、透析廃液中の尿素濃度を測定することを特徴とする人工透析装置として好適に用いることができる。特に、リアルタイムで尿素濃度を測定することができるため、透析治療の終了すべきタイミングを知ることのできる人工透析装置として好適に用いることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。
【0034】
実施例1
図1に示される化学発光測定装置1を用いた。内径9.5mmのシリンダー2(ポリプロピレン製,内容積5ml)内にピストン3(ネオプレン製)を設けたものを反応容器として用いた。シリンダー2において、OP間を10mm、OQ間を50mmに設定した。シリンダー2の先端部には光電子増倍管である光検出器14が取り付けられ、ピストン3には自動制御が可能な電動シリンダー4が取り付けられている。電動シリンダー4の移動速度は、31mm/sに設定した。透明なシリンダー2の外壁はアルミテープの反射材16で覆われており、シリンダー2内で生じた化学発光を効率良く光検出器14に導くことができる。シリンダー2の先端部に設けられた内径2mmの噴出口13は、内径1mmのテフロン(登録商標)チューブを介して三方弁12に接続され、三方弁12は更に内径2mmのテフロン(登録商標)チューブを介して試料溶液供給部5と反応剤溶液供給部6に各々接続されている。
【0035】
この化学発光測定装置1を用いて、試料溶液として尿素濃度が5.35×10−3mol/lの尿素水溶液を用い、反応剤溶液として同体積の9%次亜臭素酸溶液と0.4mol/lのNaOH水溶液の混合溶液を用いて、試料溶液と反応剤溶液との反応による化学発光強度を測定した。その手順は以下のとおりである。
(1)三方弁12の切替口Cと切替口Aを接続し、ピストン3に取り付けられた電動シリンダー4を用いてピストン3を移動させ、シリンダー2内を3.544mlの反応剤溶液で満たすことによりシリンダー2内を洗浄した。
(2)次に、切替口Cと切替口Bを接続し、ピストン3を移動させて反応剤溶液由来の廃液を試料溶液供給部5へ排出した。試料溶液供給部5には順次新たな試料溶液が流入するので、廃液は試料溶液供給部5の外部へ排出される。
(3)続いて、切替口Cと切替口Bを接続し、ピストン3を移動させて試料溶液をシリンダー2内に吸入し、試料溶液でシリンダー2内をリンスした後、ピストン3を移動させて試料溶液由来の廃液を排出した。
(4)更に、ピストン3の先端をO点からP点まで移動させ、試料溶液0.7mlをシリンダー2内に吸入した。
(5)また、切替口Cと切替口Aを接続し、ピストン3の先端をP点からQ点まで急激に移動させることにより、シリンダー2内に2.835mlの反応剤溶液を吸入した。このときの噴流の平均流速は、700mm/sであった。試料溶液と反応剤溶液の混合により生じた化学発光を光電子増倍管である光検出器14で0.1秒ごとにフォトンカウンティング法により計測した。
(6)その後、切替口Cと切替口Bを接続し、廃液を試料溶液供給部5に排出した。
以上の(1)〜(6)の操作を繰り返して化学発光量の再現性を確認した。1回の測定における発光強度は約1.2×10cpsであり、発光量は約9.5×10countsであった。得られた化学発光の応答波形図を図2に、発光量の再現性についての図を図4に、尿素濃度と化学発光強度との相関図を図6に示す。
【0036】
比較例1
内径20mmの円筒型反応容器に、5mlの次亜臭素酸溶液をスターラー(攪拌子)で攪拌しながら、0.1mlの尿素水溶液を3回に分けて注入し、生じた化学発光を測定した。1回の測定における発光強度は約4×10cpsであり、発光量は約2.5×10countsであった。得られた化学発光の応答波形図を図3に、発光量の再現性についての図を図5に、尿素濃度と化学発光強度との相関図を図7に示す。
【0037】
図2及び図4から分かるように本発明の化学発光測定装置1を用いた実施例1では、発光強度は約1.2×10cpsであり、発光量は約9.5×10countsであり、発光量の相対標準偏差は2.8%であった。これに対し、図3及び図5から分かるように円筒型反応容器内でスターラーを用いた比較例1では、発光強度は約4×10cpsであり、発光量は約2.5×10countsであり、発光量の相対標準偏差は5.1%であった。このとき、本発明の化学発光測定装置1を用いて得られた発光量は、円筒型反応容器内でスターラーを用いて得られた発光量の約38倍であった。このことは、本発明では他方の溶液による噴流によってシリンダー2内に乱流が発生して、試料溶液と反応剤溶液とが短時間で均一化されるとともに、シリンダー2の周囲に設けられた反射材16がライトガイドとして機能してシリンダー2内で生じた化学発光の大部分が光検出器14で集光されるためと考えられる。特に、本発明者らにより、円筒型反応容器内にインクを注入してスターラーを用いて攪拌した場合に、インクのプルームがスターラーで作られる渦の中に一度流れ込んだ後に容器の周辺部に広がり、その後徐々に均一化することが目視により確認された。また、2次元のフォトンカウンティング装置を用いて化学発光を動画により観測した場合には、注入された一方の溶液と他の溶液との境界部で化学発光が強く、時間の経過とともに発光点が移動していく様子が観測された。このことから、化学発光を生じる部分は、注入された一方の溶液のプルームと他の溶液との境界部であることが分かる。攪拌における渦の状況によってバラツキやすいと考えられる。
【0038】
本発明の化学発光測定装置1を用いて得られた尿素濃度と化学発光強度との相関図である図6と、円筒型反応容器内でスターラーを用いて攪拌することにより得られた尿素濃度と化学発光強度との相関図である図7との対比から分かるように、本発明の化学発光測定装置1を用いた場合では、尿素濃度と化学発光強度とがリニアに相関している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の化学発光測定装置の実施態様を示す図である。
【図2】実施例1における化学発光の応答波形図である。
【図3】比較例1における化学発光の応答波形図である。
【図4】実施例1における発光強度を積分して得られた全発光量の再現性についての図である。
【図5】比較例1における発光強度を積分して得られた全発光量の再現性についての図である。
【図6】実施例1における尿素濃度と化学発光強度との相関図である。
【図7】比較例1における尿素濃度と化学発光強度との相関図である。
【符号の説明】
【0040】
1 化学発光測定装置
2 シリンダー
3 ピストン
4 電動シリンダー
5 試料溶液供給部
6 反応剤溶液供給部
7 導入口
8 排出口
9、10、11 配管
12 三方弁
13 噴出口
14 光検出器
15 透明部
16 反射材
A、B、C 切替口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダー内で生じた化学発光を計測する化学発光測定方法であって、シリンダー内でピストンを移動させることにより試料溶液又は反応剤溶液の一方をシリンダー内に吸入し、続いて他方の溶液を吸入し、他方の溶液による噴流によってシリンダー内に乱流を発生させて試料溶液と反応剤溶液とを均一に混合させることにより生じた化学発光を計測することを特徴とする化学発光測定方法。
【請求項2】
試料溶液を吸入してから反応剤溶液を吸入して混合させる請求項1記載の化学発光測定方法。
【請求項3】
試料溶液及び反応剤溶液を切替バルブにより別々にシリンダー内に吸入する請求項1又は2記載の化学発光測定方法。
【請求項4】
他方の溶液を吸入する際の噴流の平均流速が10mm/s以上である請求項1〜3のいずれか記載の化学発光測定方法。
【請求項5】
試料溶液が尿素を含む試料溶液である請求項1〜4のいずれか記載の化学発光測定方法。
【請求項6】
試料溶液が透析廃液である請求項1〜5のいずれか記載の化学発光測定方法。
【請求項7】
反応剤溶液が次亜ハロゲン酸イオンを含む反応剤溶液である請求項1〜6のいずれか記載の化学発光測定方法。
【請求項8】
ピストンとシリンダーと試料溶液供給部と反応剤溶液供給部と光検出器とを備え、シリンダー内で生じた化学発光を計測する化学発光測定装置であって、
シリンダーと試料溶液供給部とが試料溶液供給弁を有する配管で接続され、該配管とシリンダーとの境界部に試料溶液噴出口を有し、
シリンダーと反応剤溶液供給部とが反応剤溶液供給弁を有する配管で接続され、該配管とシリンダーとの境界部に反応剤溶液噴出口を有し、
シリンダーの少なくとも一部が透明部を有して該透明部の外側に光検出器が配置され、
シリンダー内でピストンを移動させることにより試料溶液又は反応剤溶液の一方をシリンダー内に吸入し、続いて他方の溶液を吸入し、他方の溶液による噴流によってシリンダー内に乱流を発生させて試料溶液と反応剤溶液とを均一に混合させることにより生じた化学発光を計測することを特徴とする化学発光計測装置。
【請求項9】
シリンダーの側面に反射材が設けられてなる請求項8記載の化学発光測定装置。
【請求項10】
シリンダーの、ピストンと対向する位置に透明部が配置され、該透明部の外側に光検出器が配置されてなる請求項8又は9記載の化学発光測定装置。
【請求項11】
試料溶液供給弁と反応剤溶液供給弁を兼ねる三方弁を有し、三方弁とシリンダーが1本の配管で接続されてなる請求項8〜10記載の化学発光測定装置。
【請求項12】
シリンダーの断面積と前記他方の溶液を吸入する際の噴出口の断面積との比(シリンダーの断面積/噴出口の断面積)が2以上である請求項8〜11のいずれか記載の化学発光測定装置。
【請求項13】
尿素濃度を測定する請求項8〜12のいずれか記載の化学発光計測装置。
【請求項14】
請求項13記載の化学発光計測装置により透析廃液中の尿素濃度を測定することを特徴とする人工透析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−69024(P2009−69024A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238382(P2007−238382)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(806000011)財団法人岡山県産業振興財団 (12)
【Fターム(参考)】