説明

化学的に架橋された細胞サンプルの分析

加熱または照射するステップにおいて、架橋を開裂し、抗原を回収することによって、細胞架橋(アルデヒド固定)された包埋細胞サンプルを分析する方法。分析は典型的に、質量分析に基づく。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ヒトおよび動物組織両方の顕微鏡的検査および組織病理学的診断は、医学診断および処置の精度、ならびに疾患およびそれらの可能な処置に関する研究の進歩を助けてきた。分析技術の進歩は、疾患の細胞機序を理解して適切な処置を選択する機会を提供してきた。腫瘍特異的抗原などの疾患の分子マーカーの同定は、分子プローブ(例えば抗体および核酸プローブ)の使用に依存してこれらのマーカーを検出する、診断アッセイおよび予後アッセイを開発するのを可能にした。
【0002】
歴史的にホルマリン固定は、保存された組織の光学顕微鏡検査のための最適な標本保存を提供するために、組織に対して使用されてきた。アルデヒドによる化学固定は、ペンダントの反応性アミンの架橋に起因する変性と結びついている。ホルマリン固定はタンパク質間にメチレン架橋をもたらし、タンパク質の免疫検出に必要な三次構造を効果的に減少させまたは除去する。さらにパラフィン包埋は、タンパク質の三次構造損失を引き起こすことができる温度で実施され、それによって折り畳まれていないが無傷のタンパク質が形成し、存在する場合酵素活性が減少または除去され、ならびに免疫検出に必要な構造(エピトープ)が除去される。
【0003】
ヘマトキシリン・エオジン(H&E)などの標準組織学的染色法は、概して限定量の情報のみを明らかにできる。顕微鏡的評価の現行の方法を拡大して、形態計測、免疫組織化学、インサイチュ(in situ)ハイブリダイズなどの方法を含めることができる。新しい臨床的に重要な分子マーカーの同定および開発は、多数の臨床標本において、これらのマーカーの発現を判定する遅く時間のかかるプロセスによって妨げられてきた。
【0004】
ヒトゲノムプロジェクトからのデータの自然の進行は、単一遺伝子から複数遺伝子(ゲノム)へ向かい、引き続いて全てのタンパク質(プロテオミクス)が同時に同定された。「プロテイン・チップ」は濃度、そしておそらくは機能を測定する可能性があるが、現時点では、免疫組織化学が位置確認できる唯一の方法である。免疫組織化学による位置確認は本来定性的であり、よくても訓練された評価者による主観的評価を使用して、半定量的である。
【0005】
免疫組織化学を使用した可能な処置のために、可能な薬物標的を同定する能力が、単一顕微鏡スライド上への多数の、典型的に500〜1000個の組織サンプルの配置を伴う技術である、組織マイクロアレイ(TMA)の使用によって増幅されている。単一基材上の複数の組織標本を群化する方法は、手動で複数のパラフィン包埋組織標本を切断して、それらを複合材ブロックに形成すること(例えばバッティフォーラ(Battifora)ら、1986年、Lab.Invest.55:244〜248頁;米国特許第4,820,504号明細書を参照されたい)、またはそれから横行切片を得ることができる「ストロー」または「ログ」に形成すること(例えばワン(Wan)ら、1987年、J.Immunol.Meth.103:121〜129頁;米国特許第4,914,022号明細書;ミラー(Miller)およびグローツイス(Groothuis)、1991年、A.J.C.P.96:228〜232頁を参照されたい)、およびコノーネン(Kononen)ら、1998年、Nat.Med.4:844〜7頁の長期保存組織ブロックから打ち抜かれたサンプルを使用して、数百の腫瘍標本を含んでなる組織アレイを作り出す技術に頼ってきた。
【0006】
組織マイクロアレイは、現在のところ標準質量分析法による分析で得ることが出来ない、細胞外マトリックスタンパク質などの不溶性の大型タンパク質を測定する能力を有する。さらに組織マイクロアレイは、可溶性タンパク質を測定する可能性を有するタンパク質マイクロアレイを補足する。しかしTMAに伴う主要な困難さは、各「ヒストスポット」(マイクロアレイ上にスポットされる直径0.15cmの組織切片)に伴う、限られた量のデータである。
【0007】
DNAは、典型的にホルマリンによる化学固定に続いて、パラフィン包埋組織標本から単離されている。しかしパラフィン切片形成に伴う方法は、これまで質量分析を含む分子分析法のほとんどから、これらの切片を除外してきた。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、有機固体材料(例えばパラフィン)中にサンプルが包埋される、化学的に架橋された分析物(例えばホルマリン固定タンパク質)を含む、細胞サンプル(例えば細胞、組織、器官)の分析に関するものである。典型的にかつ好ましくは、かかる分析は、必要ではないが質量分析の使用を伴う。
【0009】
より具体的には本発明は、一般に「抗原回収」と称されるプロセスにおいて、化学的に架橋された分析物(例えば架橋されたタンパク質)の少なくとも一部を逆転して、脱架橋された分析物を形成するステップに続く、質量分析を使用した、化学的に固定されたパラフィン包埋組織の分析法を提供する。質量分析は、物質のイオン化性に、そしてタンパク質の場合はタンパク質のイオン化性に依存し、タンパク質の一次構造は維持され、そして質量分析(および関連方法)を使用して分析されるのはこの一次構造であるので、タンパク質に対して質量分析を実施することが可能である。質量分析などの方法は、タンパク質断片の既知のアレイを使用してタンパク質を同定するので(例えばペプチドフィンガープリント法)、今や質量分析をパラフィン包埋組織サンプルに由来する物品にうまく適用できる。
【0010】
したがって本発明の抗原回収ステップ(脱架橋)は、組織マイクロアレイ(TMA)を含む、以前に化学的に固定されたパラフィン包埋組織サンプルの分析を可能にすることによって、豊富な未開発のプロテオミクス情報を解き明かす。好ましい実施態様では、質量分析技術の使用が、複数のタンパク質同時の同定を可能にする。
【0011】
一態様では、本発明は分析物を分析する方法を提供する。この実施態様では、方法は、化学的に架橋された分析物を含んでなり、有機固体材料中に包埋される細胞サンプルを提供するステップと、架橋された分析物中の化学架橋の少なくとも一部を逆転して脱架橋された分析物を形成するステップと、脱架橋された分析物を分析するステップを含む。
【0012】
特に好ましい実施態様では、細胞サンプルは化学的に固定された(例えばホルマリン固定)パラフィン包埋組織であり、分析物を分析するステップは、質量分析、そして特にマトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDIまたはMALDI−TOF)の使用を伴う。
【0013】
化学架橋の逆転(すなわち分析物の化学的架橋から形成された結合の中断または「脱架橋」)は、多様な技術を通じて起こすことができる。例えばそれは、水またはある範囲のpH値の緩衝液の存在下で、エネルギーをかけることで起こすことができる。かけられるエネルギーは、熱または放射線であってもよい。好ましくは逆転ステップにおける条件は、実質的に分析物中の自然発生的結合が中断されないように選択される。
【0014】
特定の実施態様では、方法は、脱架橋された分析物中の自然発生的結合(または化学固定剤によって形成されたのでないその他の結合)の少なくとも一部を開裂して、分析物断片を形成するステップをさらに含むことができる。タンパク質については、典型的にトリプシンなどの酵素、または臭化シアンなどの化学開裂試薬によって開裂が起きる。この開裂ステップは脱架橋前後に起こすことができるが、このステップを脱架橋後に実施することが好ましい。化学および/または酵素的開裂は、例えば質量分析などの一次構造に依存する方法による分析に適する、タンパク質からのペプチドなどの分析物の断片をもたらす。さらに好ましくはないが、脱架橋ステップは、脱架橋に加えて分析物の断片化ももたらすことができる。特定の実施態様では、脱架橋された分析物を分析するステップは、脱架橋された分析物を同定および/または定量化するステップを含むことができる。
【0015】
特に好ましい実施態様では、本発明は、1つ以上の化学的に固定された分析物を含んでなる化学的に固定されたパラフィン包埋組織切片を提供するステップと、化学的に固定された組織中の1つ以上の分析物の化学的に固定された結合の少なくとも一部を開裂するステップと、質量分析を使用して分析物を分析するステップを含む、分析物を分析する方法を提供する。
【0016】
マイクロアレイを含む多様な異なるタイプの細胞サンプル(例えば組織および/または個々の細胞)を使用できる。分析される標本がマイクロアレイである好ましい実施態様では、少なくとも1つのサンプルがヒト由来である。別の態様では、少なくとも1つのサンプルが植物由来である。別の態様では、少なくとも1つのサンプルが昆虫由来である。別の態様では、少なくとも1つのサンプルが疾患を持つ個体由来である。さらに別の態様では疾患は進行性疾患であり、サンプルは疾患の進行の異なる段階に相当する複数のサンプルを含むマイクロアレイである。一態様では、疾患は癌である。別の態様では、疾患は呼吸疾患、感染性疾患、免疫疾患、(男性または女性)生殖器官に影響する疾患、心臓血管疾患、内分泌系に影響する疾患、泌尿器系に影響する疾患、消化器系に影響する疾患、神経変性疾患および/または神経精神医学的疾患である。慢性疾患の場合、マイクロアレイは、緩解期および増悪期の両方に相当するサンプルを含むことができる。
【0017】
タイプおよび疾患状態の同様のバリエーションは、例えばマウスまたはウサギなどの多様な実験的動物からのサンプルに適用できる。個々の組織または組織マイクロアレイにおけるような組織の収集物は、ヒト組織と同一の様式で分析でき、薬物標的同定および/または確認における方法の有用性を反映する。好ましくは非ヒト動物は、疾患の動物モデルである。別の態様では、非ヒト動物は、その中に外来性核酸(すなわち動物または植物ゲノム中に天然には見られない核酸)を有する少なくとも1つの細胞を含む。
【0018】
さらに別の態様では、非ヒト動物は疾患を処置する治療法で処置されている。
【0019】
別の方法では、細胞サンプルは、ポリマー材料(例えば熱収縮性フィルム)を含む基材に載せられ、本方法は、処理された基材が投影表面積および立体表面積を有し、前記立体表面積が前記投影表面積を超えるように(例えば加熱によって)基材を処理するステップをさらに含む。本発明はまた、投影表面積および立体表面積を有し、前記立体表面積が前記投影表面積を超えるポリマー材料と、化学的に固定されたパラフィン包埋組織を含む複数の組織切片を含む組織アレイも提供する。この実施態様については下の基材に関するセクションでさらに詳しく述べる。
【0020】
以下に記載する説明では、具体的な用語について以下の定義が提供される。
【0021】
「含んでなる」という用語およびその活用形は、説明および特許請求の範囲に現れた場合、限定的意味を有さない。
【0022】
本明細書で使用される単数形(「a」、「an」、「the」)、「少なくとも1つの」、および「1つ以上の」は、区別なく使用される。したがって例えば化学的に架橋された分析物を含んでなるサンプルは、サンプルが「1つ以上の」かかる分析物を含むことを意味するものと解釈できる。
【0023】
本明細書で使用される「分析物」は、対象のサンプル中に検出または測定される、またはそれから分離される自然発生的または合成分子、化合物、組成物、または複合体を意味するものとする。分析物としては、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂肪酸、核酸、炭水化物、ホルモン、ステロイド、脂質、ビタミン、細菌、ウィルス、医薬品、および代謝産物が挙げられるが、これらに限定されない。これらの分析物は、化学固定剤によって架橋可能であってもまたは架橋可能でなくてもよい。例えば医薬品、代謝産物、およびビタミンなどの特定の分析物は、化学的に架橋できない場合もあるが、本方法で分析できる。
【0024】
本明細書で使用される「化学的に架橋された分析物」とは、例えばホルマリンまたはグルタルアルデヒドなどの架橋ができる化学固定剤の添加の結果として、化学手段を使用して架橋されている分析物である。これにはエタノール固定は含まれない。すなわち分析物は、化学固定剤の添加に先だって分子内に架橋を有することもあるが、化学架橋試薬(例えば固定剤)を使用して、追加的「化学架橋」が分析物中に組み込まれる。
【0025】
本明細書で使用される「細胞サンプル」は、それらが個々の細胞、組織の一部、または器官の一部であるかに関わらず、その中に細胞を含む本質的に生物学的サンプルである。例えば遠心分離によって、例えば生物学的液体から細胞を単離して細胞凝集を形成し、一般に「細胞ブロック」と称される細胞凝集の化学的に固定されたパラフィン包埋切片を作り出すことは、認められた慣習である。細胞ブロック内の細胞は、それらの起源組織および器官を反映する。
【0026】
本明細書で使用される「組織」は、生物体中で特定の機能を果たす細胞凝集であり、概して(例えば細胞外のマトリックス材料などの)特定の生理学的領域からの細胞および細胞材料を指す。特定組織中の細胞は、いくつかの異なる細胞タイプを含むことができる。この限定を意図しない例としては、ニューロンおよびグリア細胞をさらに含む脳組織、ならびに毛細管内皮細胞、および血液細胞が挙げられる。
【0027】
本明細書で使用される「化学的に固定されたパラフィン包埋組織切片」とは、ホルマリン固定パラフィン包埋組織などの化学的に固定されたパラフィン包埋材料を指す。この用語は、慣習的にパラフィン中に包埋される組織、細胞、または器官を指すために使用されることが多い。ここでは、これは「化学的に固定されたパラフィン包埋細胞サンプル」とも称される。「切片」と称されながら、包埋される組織または細胞、概してあらゆる形状またはサイズであることができ、概して厚さが20μm以下である。
【0028】
本明細書で使用される「組織マイクロアレイ」は、複数の顕微鏡的位置を含むマイクロアレイであり、各位置は組織細胞および/または組織からの細胞外物質、または典型的に組織に浸潤する細胞を含んでなり、各位置における細胞または細胞外物質の形態学的特徴は、顕微鏡的検査を通じて見ることができる。「マイクロアレイ」という用語は、マイクロアレイ上の組織サンプルのサイズの上限を暗示しないが、一態様では顕微鏡を使用して見ることができる、複数の細胞(例えば組織)サンプルを単に包含する。本明細書で使用される「異なるタイプの組織」とは、好ましくは異なる器官からの組織、または少なくとも同一器官中の解剖学的および組織学的に異なる部位からの組織を指す。
【0029】
上の本発明の概要は、開示される各実施態様または本発明の各実装例について述べることを意図しない。続く説明は、例証的な実施態様をより詳しく例証する。本願明細書全体を通して、数カ所で実施例のリストを通じてガイダンスが提供され、それらの実施例は様々な組み合わせで使用できる。それぞれの事例で、列挙されたリストは代表的なグループとしてのみ機能し、網羅的リストと理解すべきではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明は、化学的に架橋された分析物(例えばホルマリン固定組織)を含む細胞サンプル(例えば細胞、組織、器官)の分析に関するものであり、サンプルは有機固体材料(例えばパラフィン、またはメチルメタクリレートまたはその他の「可塑性」包埋材料などのその他の媒質)内に包埋される。典型的にかつ好ましくはかかる分析は、質量分析の使用を伴うが、これは必ずしも必要でない。
【0031】
本明細書で使用される,「細胞サンプル」は、それらが個々の細胞、組織の一部、または器官の一部であるかに関わらず、その中に細胞を含む本質的に生物学的サンプルである。細胞サンプルは、好ましくは組織切片を含む。好ましくは細胞サンプルは、ホルマリン固定組織を含む。
【0032】
特に好ましい実施形態では、本発明は、質量分析を使用して、化学的に固定されたパラフィン包埋組織切片を分析する方法を提供する。本発明の方法によって分析できる組織サンプルは、MALDI質量分析を使用してハイスループット並行分析において評価でき、遺伝子同定、タンパク質同定、分子プロファイリング、有望な薬物標的の選択、発現した配列アレイデータのソートおよび優先順位付け、および疾患に関連した異常な生理学的プロセスの同定が可能になる。
【0033】
組織を評価する従来技術の図示を図1に示す。典型的に組織サンプルは凍結されているか、またはホルマリン固定(すなわち架橋)されているかのいずれかである。凍結サンプルは、直接に免疫組織化学または組織病理学の対象にできる。別法としては、凍結組織サンプルを抽出してゲル電気泳動法を施し、質量分析によって分析できる。ホルマリン固定組織サンプルは典型的にパラフィンに包埋され、ブロックまたはマイクロアレイのいずれかに形成され、次にどちらも5μm厚の切片に形成される。次にかかる切片を直接、組織病理学の対象にできる。別法としては、最も一般的には免疫応答を誘導できるタンパク質である分析物に、化学架橋(すなわちホルマリンによって形成された架橋)の少なくとも一部を逆転するプロセスを施すことができる。先行技術方法ではかかる分析物は抗原であり、そして分析法は従来から抗原/抗体ベースの技術に限られていたので、これは従来から「抗原回収」と称されている。次にかかる「抗原」を免疫組織化学の対象にする。
【0034】
質量分析およびタンパク質分析の分野における科学文献は、ホルマリンなどの化学架橋固定剤による固定に続いて、物質、特にタンパク質を分析することは可能でないと示唆してきたので、かかる「脱架橋された分析物」は、免疫組織化学および組織病理学以外の方法による分析の対象にされていなかった。
【0035】
本発明の好ましい実施形態の図示を図2に示す。この好ましい実施形態では、化学的に架橋され(例えばホルマリン固定され)、有機固体材料(例えばパラフィン)内に包埋され、ブロックまたはマイクロアレイのいずれかに形成され、次にそのどちらも典型的に5μm厚の切片に形成されている細胞サンプル(例えば組織サンプル)を本発明の方法の対象にでき、化学架橋の少なくとも一部を逆転して脱架橋された分析物を形成することによって分析物が入手できる。これは好ましくは、実質的に分析物中の自然発生的結合(または架橋に先だって存在するその他の結合)を開裂させずに達成される。
【0036】
所望ならば、固体有機材料(例えばパラフィン)からサンプルを分離できる。これは架橋を逆転するのに先だって起こすことができる。これは蒸気またはあらゆる加熱方法によって達成できる。好ましくは、これは脱架橋を引き起こす温度未満で起きる。
【0037】
多様な技術を使用して、化学架橋の少なくとも一部を逆転できる。好ましくは、これは、エネルギーの適用を通じて実施される。これはある範囲のpH値の水または緩衝液の存在下で達成できる。エネルギーは熱または放射エネルギーであってもよい。クエン酸などの酸を含む化学試薬の使用を含めたその他の方法もまた使用できる。かかる技術については、シ(Shi)S−R、コート(Cote)RJ、テイラー(Taylor)CR.、「抗原回収免疫組織化学:過去、現在、未来(Antigen retrieval immunohistochemistry:past,present,and future)」、J Histochem Cytochem 1997年;45(3):327〜343頁で述べられる。
【0038】
図2について述べると、この脱架橋された分析物は、直接に質量分析などの方法による分析の対象にできる。別法としては脱架橋された分析物を、分析物中の自然発生的結合(または架橋に先だって存在するその他の結合)の少なくとも一部を開裂させるプロセスの対象にできる。これは例えば、化学的にまたは酵素的に(例えばトリプシンを使用して)実施できる。
【0039】
任意選択で、脱架橋されたおよび/または開裂された分析物を、制御された様式で分析物のシグナル強度の増強または抑制を援助できる分子プローブ(例えば染料)で処理またはタグ付けできる。かかる試薬および方法は、当業者にはよく知られている。例えばホスホペプチドのタグ付けは、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)などの様々なよく知られている方法を通じて起こすことができる。本明細書で使用される「分子プローブ」は、あらゆる検出可能な分子、または生体分子との反応に際して検出可能なシグナルを生成する分子である。「反応」は、結合、標識、または酵素的反応開始を包含する。かかる検出可能な分子プローブは、検出可能な結合試薬によって認識できる。この文脈では「検出可能な結合試薬」とは、測定を望む分析物に結びついた分子プローブを特異的に認識して相互作用または結合する薬剤を指し、薬剤は結合すると検出が可能になる特性を有する。「特異的に認識して相互作用する」とは、連結剤が、サンプル中に存在するその他の分析物を実質的に除外して、測定を望む分析物に結びついた分子プローブと相互作用することを意味する。検出可能な結合試薬は、直接的検出を可能にする固有特性を有することができ、またはそれは検出可能な部分によって標識できる。本明細書で使用される「検出可能な部分」とは、特定の方法または方法群によって結合試薬の検出をもたらす結合試薬に付着できる部分を指す。検出可能な部分としては、放射標識(例えば32P、35S、125Iなど)、酵素(例えばアルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなど)、フルオロフォア(例えばフルオレセイン、アミノクマリン酢酸、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、テキサスレッド(Texas Red)、Cy3.0、Cy5.0、緑色蛍光性タンパク質など)、およびコロイド金属粒子が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0040】
本方法は好ましくは、脱架橋された分析物中のその他の結合(例えば架橋に先だつ分析物中の自然発生的結合またはその他の結合)の少なくとも一部を開裂して、分析物断片を形成するステップを含む。次にこれらの分析物断片を分析できる。脱架橋された分析物中の結合の少なくとも一部を開裂するステップは、脱架橋された分析物を酵素または化学試薬と接触させるステップを含む。好ましくはトリプシン、ペプシン、プロナーゼ、キモトリプシンなどの酵素、およびそれらの組み合わせが使用される。
【0041】
この開裂ステップは脱架橋の前後に起こすことができるが、このステップを脱架橋後に実施することが好ましい。化学および/または酵素的開裂は、例えばタンパク質からのペプチドなど、質量分析などの一次構造に依存する方法による分析を受け入れられる分析物断片をもたらす。さらに好ましくはないが、脱架橋ステップは、脱架橋に加えて分析物の断片化ももたらすことがある。
【0042】
再び図2について述べると、消化物は直接、質量分析などの分析法の対象にでき、または消化物の溶出液を取り除いて、これを分析法の対象にできる。
【0043】
脱架橋された分析物は、質量分析、ゲル電気泳動法、酵素連結イムノアッセイ、DNA/RNA発現、または免疫化学などの多様な技術を使用して分析できる。かかる技術については、当業者によく知られている。好ましくは質量分析が使用される。
【0044】
分析ステップは定性的であることができ、分析物を同定するステップを含むことができる(同定は分析において必ずしも必要でないが)。特定の実施形態では、分析ステップは定量的であってもよい。
【0045】
分析物を同定するステップは、脱架橋された分析物の固有の識別子の読み取りを伴うことができる。かかる固有の識別子としては、例えばタンパク質のためのペプチドフィンガープリントが挙げられる。それらは質量分析などの技術を使用して「読み取り」できる。
【0046】
分析物を定量化するステップは、蛍光性のまたは同位体のタグ付けを含んでもよい。これは質量分析とカップリングされた安定同位体タグなどの技術を使用して実施できる。
【0047】
細胞サンプルは、架橋されておらず引き続いて脱架橋される分析物を含むことができるものと理解される。例えば医薬品、代謝産物、およびビタミンなどの特定の分析物は、化学的に架橋されていない場合もある。かかる分析物もまた、本発明の方法を使用して脱架橋された分析物と同様に分析できる。
【0048】
サンプル調製
一態様では、サンプルは組織サンプルである。組織サンプルは、化学的に固定されたパラフィン包埋組織、そして特にホルマリン固定されたパラフィン包埋組織から得ることができる。本発明に従った化学的に固定されたパラフィン包埋組織サンプルは、典型的に組織および/または細胞に由来する1つ以上の切片を含む。好ましくは各サンプルは、少なくとも1つの既知の生物学的特徴(例えば組織タイプまたは細胞タイプまたは提供患者などの)を有する。
【0049】
組織は、コノーネン(Kononen)ら、1998年、Nat.Med.4:844〜7頁で述べられるものなどの組織マイクロアレイの形態であってもよい。マイクロアレイの作成は、国際公開第99/44062号パンフレット、国際公開第99/44063号パンフレット、および米国特許第6,136,592号明細書で述べられるものなどの組織マイクロアレイを使用して、部分的にまたは完全に自動化できる。
【0050】
また細胞を得て、1つ以上のサンプルを提供することができる。細胞は典型的に、遠心分離によってパラフィン切片に形成される。細胞は、組織からの細胞懸濁液から(例えば解剖組織などの切片組織細胞懸濁液から)、体液(例えば血液、血漿、血清など)から、粘膜剥離物から(例えば頬剥離物またはパップスメアなどから)、および/または気管支洗浄、羊水穿刺法、および/または白血球泳動などのその他の手順から得ることができる。いくつかの態様では、サンプルの一部にするのに先だって、最初に細胞を培養して分析する細胞数を増やす。一次細胞系および/または幹細胞からの連続的に生育する細胞系からの細胞もまた使用できる。
【0051】
一態様では、サンプルは単一個体からの複数の組織/細胞を含み、すなわちサンプルは、個体の「全身」に相当するマイクロアレイである。組織は、皮膚、神経組織、心臓組織、肝臓組織、胃組織、大腸組織、結腸組織、小腸組織、食道組織、肺組織、心臓組織、脾臓組織、膵臓組織、腎臓組織、(男性または女性)生殖器官からの組織、副腎組織などからなる群から選択できる。例えば器官が脳である場合の小脳、大脳、および髄質など、単一器官の異なる解剖学的または組織学的位置からの組織もまた得ることができる。いくつかのマイクロアレイは、例えば呼吸系、泌尿器系、腎臓系、心臓血管系、消化器系、および(男性または女性)生殖系などの器官系を代表するサンプルを含む(すなわち器官系内の複数器官からのサンプルを含んでなる)。好ましい態様では、全身マイクロアレイは、患者体液からの細胞サンプル(例えば血液サンプル)をさらに含んでなる。
【0052】
マイクロアレイはまた、特色を共有する個体からの複数の細胞を含むことができる。例えば共有される特色は、性別、年齢、病理学、病理学的疾病素質、感染性疾患(例えばHIV)への曝露、血縁、同一疾患による死亡、同一薬物での処置、化学療法への曝露、放射線療法への曝露、ホルモン療法への曝露、外科手術への曝露、同一環境条件(例えば発癌物質、汚染物質、アスベスト、TCE、過塩素酸塩、ベンゼン、クロロホルム、ニコチンなどの)への曝露、同一の遺伝的変化または変化群、同一の遺伝子または遺伝子セットの発現(例えばサンプルは、HLA対立遺伝子の特定のセットなどの共通のハプロタイプを共有する個体由来であってもよい)などであってもよい。
【0053】
サンプルは、血液疾患、血液脂質疾患、自己免疫疾患、骨または関節疾患、心臓血管疾患、呼吸疾患、内分泌疾患、免疫疾患、感染性疾患、筋肉消耗および全身消耗疾患、神経変性および/または神経精神疾患を含む神経疾患、皮膚疾患、腎臓疾患、強皮症、脳卒中、遺伝性出血末梢血管拡張症、糖尿病、糖尿病関連疾患(例えばPVD)、高血圧、ゴーシェ病、嚢胞性線維症、鎌状赤血球貧血、肝臓疾患、膵臓疾患、目、耳、鼻および/または喉の疾患、生殖器官に影響する疾患、胃腸疾患(結腸疾患、脾臓疾患、虫垂、胆嚢、およびその他の疾患を含む)などを含むが、これらに限定されるものではない、疾患または病的状態が有する個体から得ることができる。ヒト極期疾患のさらに詳しい考察は、ビクターA.マクジック(Victor A.McKusick)による「ヒトにおけるメンデル性遺伝:ヒト遺伝子と遺伝性疾患のカタログ(Mendelian Inheritance in Man:A Catalog of Human Genes and Genetic Disorders)」第12版(3巻セット)、1998年6月、Johns Hopkins University Press、ISBN:0801857422を参照されたい。好ましくは個体群統計学的にマッチする正常個体からのサンプル、および/または疾患を有する患者からの非疾患組織からのサンプルを同一または異なるマイクロアレイ上に配列して対照を提供する。
【0054】
好ましい一態様では、サンプルは、癌などの細胞増殖性疾患の異なる段階を表す複数の細胞を含む、マイクロアレイ形態で提供される。この文脈では「細胞増殖性疾患」とは、特定タイプのまたは特定組織の細胞数のあらゆる異常なまたは異所性増加によって特徴付けられる病状である。癌がプロトタイプの細胞増殖性疾患と考えられることが多いが、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、乾癬、炎症性疾患、いくつかの自己免疫疾患(例えば関節リウマチ)などの疾患もまた細胞の異常な増殖によって引き起こされ、したがって細胞増殖性疾患の例である。
【0055】
一態様では、疾患(例えば腫瘍サンプルなどの)の一次標的を含んでなるサンプルを含むのに加えて、マイクロアレイは、二次組織/細胞への癌の転移を表すサンプルを含む。好ましくは、マイクロアレイは、異常に増殖する組織が得られた同一患者からの正常な組織も含む。いくつかの態様では、少なくとも1つのマイクロアレイは、癌性細胞の細胞系(一次または連続細胞系のいずれか)からの細胞を含む。サンプルは均質で単一細胞タイプを含むことができ(例えば小型形式または超小型形式マイクロアレイの場合)、または不均一で、異常に増殖する細胞に加えて少なくとも1つの追加的タイプの細胞または細胞材料を含むことができる(例えばサンプルが概して直径0.6mmよりも大きい大型形式マイクロアレイの場合)。例えばサンプルは、異常に増殖する細胞と、少なくとも1つの繊維組織、炎症性組織、壊死細胞、アポトーシス細胞、正常細胞などを含むことができる。
【0056】
本発明の好ましい態様では、組織および/または細胞サンプルはヒト標本を含むが、本発明の一態様では、その他の生物体からの標本が使用される。一態様では非ヒト動物からの組織が使用されて、疾患またはその他の病的状態のモデルを提供する。サンプルが慢性疾患の動物モデルからの標本に相当する場合、サンプルは、例えば寛解期または増悪期の動物由来のものなどの疾患の異なる段階を表す標本を含む、マイクロアレイの形態であってもよい。マイクロアレイは、さらに、または別法として、疾患または病状を処置する治療法(例えば薬物、抗体、タンパク質療法,遺伝子療法、アンチセンス療法、それらの組み合わせなど)に曝露された、疾患または病状を有する非ヒト動物からの組織を含むことができる。いくつかの態様では、非ヒト動物は、外来性核酸を含有する少なくとも1つの細胞を含むことができる(例えば動物は、組換え動物、キメラ動物、ノックアウトまたはノックイン動物であってもよい。好ましくは、非ヒト動物からのアレイは、かかる非ヒト動物からの複数の組織/細胞タイプを含む。一態様では、異なる発達段階の組織/細胞が使用される。
【0057】
別の態様では、シューマッハー(Schumacher)U.、「ホルムアルデヒド固定パラフィン包材料を使用した植物組織における細胞増殖の免疫組織化学評価(Immunohistochemical assessment of cell proliferation in plant tissues using formaldehyde−fixed paraffin−embedded material)」、Acta Histochem.1995年7月:97(3):291〜4頁で述べられるものなどの植物からのサンプルを使用してもよい。サンプルは、ライフサイクルの異なる段階にある植物、および/または異なるタイプの植物組織を含むマイクロアレイを含んでもよい。いくつかの態様では、植物サンプルは、外来性核酸を含有する少なくとも1つの細胞を含むことができる(例えば植物は組換え植物であってもよい)。
【0058】
一実施形態では、ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片が得られ、H&Eで染色される。染色された切片をガイドとして使用して、サンプリングのために組織切片上の領域を選択する。いくつかの態様では、H&Eなどの標準的な組織または細胞染色による染色が対象の細胞または組織領域を同定するのに適切な場合もあるが、その他の態様では、組織の切片は、切片によって表されるサンプル中の1つ以上の生物学的特性(例えば対象の遺伝型、転写物、またはペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の発現など)の発現について評価される。特定の生物学的特徴を発現するまたは発現しない対象の領域が、同定できる。
【0059】
一実施形態では、サンプルは、組織サンプル切片を薄切して(すなわちサンプル軸の長手方向に対して横方向に組織サンプルから切断して)、しわにならないように基材上に落として調製される。好ましくは、各組織サンプルから2〜20μm厚さの150〜300枚の切片が作られる。より好ましくは、切片は4〜12μmの厚さである。
【0060】
いくつかの実施形態では、組織サンプル表面に粘着フィルムをのせて、薄切後に切片を平らに保ち、切片を破ったりしわを寄せたりしないで、切片をより容易に基材に移動させる表面を提供する。次にその粘着性裏材料上の切片を基材薄切面を下にして移動させ、粘着フィルムを切片からはがす。粘着フィルムおよび接着剤被覆スライドは、どちらもニュージャージー州のハッケンサックのインストゥルメデックス(Instrumedics,Inc.(Hackensack,N.J.))から得られる(例えばCRYOJANテープ移動システム参照)。
【0061】
ひとたび基材上にのせると、化学架橋(すなわちホルマリンなどの化学架橋剤によって架橋され形成されるもの)の少なくとも一部を逆転させることで、組織サンプルが処理される。これは従来から抗原回収ステップとして知られている。かかるプロセスについては、シ(Shi)S−R、コート(Cote)RJ、テイラー(Taylor)CR.、「抗原回収免疫組織化学:過去、現在、未来(Antigen retrieval immunohistochemistry:past,present,and future)」、J Histochem Cytochem 1997年;45(3):327〜343頁で述べられる。この脱架橋ステップ中に、典型的に水の存在下での加熱を通じて化学固定が逆転される。例えばホルマリン固定パラフィン包埋組織の脱架橋中に、pH9.3のクエン酸存在下で、組織サンプルを100℃の蒸気に曝す。当業者に知られているように、使用する酸、温度および/またはpHの変更は、異なる程度の架橋逆転および抗原回収をもたらす。その他のエネルギー源としては、マイクロ波エネルギーなどの放射線エネルギーが挙げられる。
【0062】
基材への付着前後に、組織切片を(従来は抗原回収と称された)架橋逆転プロセスに曝してもよい。好ましい実施形態では、組織切片は、架橋逆転(脱架橋)前に、ガラススライドなどの基材に付着される。
【0063】
好ましい実施形態では、次に脱架橋された分析物を酵素または化学試薬で処理して、タンパク質またはペプチドなどの対象の分析物中の自然発生的結合または架橋前に存在した結合の少なくとも一部を開裂できる。好ましくは、これはインサイチュ(in situ)消化を伴う。分析物を開裂させる適切な酵素としては、トリプシン、キモトリプシン、プロナーゼ、およびペプシンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ホルマリン固定パラフィン包埋組織の一実施形態では、酵素はトリプシンである。ギ酸および臭化シアンなどの結合を開裂させるためのその他の薬剤を用いてもよい。かかる薬剤および技術は、当業者によく知られている。
【0064】
使用方法
一態様では、本発明に従って分析されるサンプルを使用して、癌特異的マーカーまたは腫瘍特異的抗原の発現および/または形成をアッセイする。本明細書で使用される、「癌特異的マーカー」または「腫瘍特異的抗原」とは、それぞれ癌細胞および腫瘍細胞上に優先的に発現して、成体の非癌/腫瘍細胞には発現しない、またはわずかにしか発現しない分析物である。
【0065】
この文脈で、「発現特性の違い」または「示差的に発現される」遺伝子とは、特定のポリペプチドの測定可能な発現特性の増大または減少を指す。違いは、定量的測定(例えばタンパク質、またはタンパク質をコードするRNAの量)の増大または減少、あるいは定性的測定(例えばタンパク質の位置)の変化であってもよい。
【0066】
癌特異的マーカーは、癌の病理発生に伴うまたはそれと相関するあらゆる分析物であり、その発現または形態のいくつかの側面が、癌の存在または進行に影響し、またはそれと相関する限り、正または負の様式で作用できる。一態様では、発現する分析物のレベルが癌の進行または再発の指標を提供するのに対し、本発明の別の態様では、分析物の発現形態が指標を提供する(例えば開裂または非開裂状態、リン酸化または非リン酸化状態)。
【0067】
癌特異的マーカーは、例えば細胞増殖を促進する細胞生育関連ポリペプチドなどの特性決定遺伝子の生成物であってもよく、または特徴決定されていないまたは部分的にのみ特性決定されていてもよい(例えば上述の分子プロファイリング法の使用を通じて同定される)。癌特異的マーカーの限定を意図しない例としては、細胞増殖に必要な遺伝子活性化に伴う、成長因子、成長因子受容体、シグナル伝達経路関与物質、および転写因子が挙げられる。
【0068】
いわゆる腫瘍抗原もまた、増殖関連ポリペプチド中に含まれる。腫瘍抗原は、非形質転換細胞よりも形質転換腫瘍細胞によって、より大きな程度に発現される傾向があるタンパク質マーカーのクラスである。したがって腫瘍抗原は非腫瘍細胞によっても発現されるが、通常はより低い濃度であり、または組織または生物体のより早い発達段階中に起きる。腫瘍抗原としては、前立腺特異的抗原(PSA;オスターリング(Osterling)、1991年、J.Urol.145:907〜923頁)、上皮性膜抗原(複数の上皮性腫瘍;ピンカス(Pinkus)ら、1986年、Am.J.Clin.Pathol.85:269〜277頁)、CYFRA21−1(肺癌;ライ(Lai)ら、1999年、Jpn.J.Clin.Oncol.29:421〜421頁)、およびEp−CAM(pan−腫瘍;チャウバル(Chaubal)ら、1999年、Anti Cancer Res.19:2237〜2242頁)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。腫瘍抗原のさらに別の例としては、CA125(卵巣癌)、無処置モノクローナル免疫グロブリンまたは軽鎖切片(骨髄腫)、およびヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(HCG、胚細胞腫瘍)が挙げられる。
【0069】
本発明のさらに別の態様では、癌特異的マーカー活性の発現を調べることによって、癌の進行を検出および/またはモニターできる。例えば一態様では、テロメラーゼの活性をサンプル中のインサイチュ(in situ)でモニターする。テロメラーゼのインサイチュ(in situ)検出方法については技術分野で知られており、例えば米国特許第6,194,206号明細書で述べられる。
【0070】
組織サンプルはまた、同一またはその他のタイプのサンプルについて、その他のタイプの分析を通じて得られた結果との組み合わせで使用でき、またはそれを確認するのに使用できる。例えば本発明の方法は、インサイチュ(in situ)検出および免疫組織化学を使用した可視化を使用した分析、PCT国際出願国際公開第09917094A2号パンフレットおよび国際公開第0198352A1号パンフレットで述べられるようなサンプルのレーザーキャプチャー顕微解剖(LCM)、全てPCT国際出願国際公開第02/48674A2号パンフレットで述べられるゲル電気泳動法およびその他との組み合わせで、またはそれに代えて使用できる。
【0071】
本発明に従って調製された組織サンプルは、1つまたは複数の分析物とのその相互作用が疾患と結びついた薬物標的を同定するのにも使用できる。例えば薬物標的は、病理学的プロセス中に過剰発現または過少発現される分子であってもよい。薬物標的を同定することで、細胞/組織の正常な生理学的機能を復元できるものについて、薬物をスクリーンできる。例えば薬物標的が過剰発現または過少発現される分子である場合、適切な薬物は、実質的に正常な薬物標的レベルを復元する分子である(例えば治療的抗体、ポリペプチド、または核酸)。
【0072】
一態様では、診断用分析物を同定するステップは、マイクロアレイ上のどの分子が、疾患サンプル中に実質的に常に存在して健康なサンプル中に実質的に常に不在であるか、または疾患サンプル中に実質的に常に不在で健康なサンプル中に実質的に常に存在するか、または疾患サンプル中に特定の形態または量で実質的に常に存在して健康なサンプル中に特定のその他の形態または量で実質的に常に存在するかを判定することによって実施される。「実質的に常に」とは、分析物または分析物セットの発現/形態と、疾患などの異常な生理学的プロセスの存在との間に統計学的に顕著な相関があることを意味する。
【0073】
好ましくは診断用分析物または分析物セットの発現は、薬物処置された患者からの組織と、未処置疾患患者からのおよび/または健康な患者からの組織を含んでなるマイクロアレイ中で調べられる。この態様では薬物の有効性は、診断用分子の発現プロフィールが、健康な患者または所望の治療的転帰を達成した患者における同一分析物の発現プロフィールと実質的に同様のプロフィールに戻るかどうかを判定することで、モニターされる(例えば日常的統計学的試験による判定で顕著に異ならない)。本発明の一態様では、組織タイプ、発達または疾患の段階、患者病歴、家族歴、診断、予後、薬物療法、形態学、併発症、分子特性の発現(例えばマーカー)などのいずれかのまたは全てに関するデータを記録してデータベースに保存し、得られた組織サンプルに従って索引をつける。
【0074】
基材
基材は、基材上でサンプルの質量を濃縮し、および/またはサンプル中の分析物に選択的に結合することで、質量分析を使用した基材表面上の組織サンプルの分析を容易にする。基材のサイズと形状は、所望の組織切片またはサンプルのサイズと形状次第で異なってもよい。本発明で使用するのに適した基材としては、米国特許第6,376,619号明細書、米国特許第6,548,607号明細書、および米国特許第6,573,338号明細書で述べられる小型化アレイが挙げられる。高密度の小型化アレイの使用は、標準アレイと比較して、限られたまたは高価なサンプルについて効率を劇的に増大することもあるので、かかるアレイが望ましい。
【0075】
基材は、いくつかの理由で、質量分析で使用するための高度に効果的な基材の役目を果たす。基材は、検出シグナル強度を増大させる能力を含む高密度に付随する利点をもって、組織および/または細胞サンプルの付着および濃縮を容易にする。この文脈で「付着」は、物質の基材へのあらゆる様式の付着を含むものとする。かかる様式としては、共有およびイオン結合、接着剤などによる接着、および基材内における物理的捕捉が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
基材は、表面積の減少の前後に、組織および/または細胞サンプル中の対象の分析物を濃縮でき、それによって質量分析計に、そして特にMALDI−TOF質量分析に、標準調製方法すなわち金属プレートなどよりも高い感度がもたらされる。以下に記載される連結剤(本明細書で「連結剤」とは、「反応物質」を基材に付着できるあらゆる化学種を意味するものとする)を用いるものなどの多くの実施形態で、基材は、マトリックスと付着組織および/または細胞サンプルとの相互作用を安定化させ、マトリックスが質量分析計内で真空状態において昇華する傾向を低下できる。場合によっては、基材のためのポリマー材料および連結剤の選択は、質量分析による検出のために対象の分析物を選択的に単離する可能性もある。
【0077】
米国特許第6,376,619号明細書、米国特許第6,548,607号明細書、および米国特許第6,573,338号明細書で述べられるように、上記のように処理された組織切片において、熱収縮材料を使用する場合は加熱、またはエラストマー材料を使用する場合は引き伸ばした基材の弛緩のどちらかによって、基材の表面積を減少させることができる。次に標準質量分析技術を使用して、付着した組織サンプルを有する縮小基材を分析する。
【0078】
本発明の一実施形態では、ポリマー基材は表面積を有する主面を含む。組織および/または細胞サンプルは、基材主面に付着する。主面の表面積は減少し、それによって基材上の特異点の濃度を増大させる。好ましい実施形態では、基材は二軸延伸の熱収縮フィルムである。本発明の別の実施形態では、熱収縮フィルムが官能性付与されて、引き続く組織および/または細胞サンプルの付着のためにフィルム表面に連結剤が作り出される。基材表面の表面積が減少して、それによって基材上の連結剤濃度が増大してもよい。好ましくは熱収縮表面は、アズラクトン連結剤で官能性付与される。
【0079】
本発明のさらに別の実施形態では、エラストマー基材が引き伸ばされて官能性付与され、基材表面に連結剤が作り出される。組織切片は、連結剤を通じて基材に付着してもよい。基材は引き続いて弛緩され、それによって基材表面積が減少して、基材上の連結剤濃度が増大する。裏材料またはその他の構造を追加して、基材を縮小した定位に保ってもよい。
【0080】
多くのポリマー材料が、基材として使用するのに適切な場合もある。しかし下でより詳細に述べるように、連結剤コーティングの高表面積表面を形成するために、材料は好ましくは延伸でき、すなわちフィルムは、エネルギー、好ましくは熱がフィルムに規定の時間適用されると、フィルム平面内で少なくとも一方向に縮小する。組織および/または細胞サンプルの付着に先だって少なくとも一方向に引き伸ばされ、サンプルの付着中に引き伸ばされた状態で拘束され、次に正常な状態に戻され、それによって基材表面の投影表面積(すなわち表面の「x」および「y」軸を包含する平面について計算される表面の表面積)が引き伸ばされた状態から減少するエラストマー材料もまた、本発明で使用するのに適している。基材物質は、好ましくは所望の分析法の試薬、そして温度およびpHなどの条件と適合性である。
【0081】
延伸フィルムについて、収縮は、フィルム平面内のあらゆる2つの直交性方向で必ずしも等しくなくてよいが、実質的に均一の収縮が好ましい。収縮をフィルム平面内の方向の関数として考えると、実質的な均一さが好ましく、すなわちフィルム平面上の位置にかかわらず、フィルムは好ましくは各方向で実質的に同一量収縮する。用いられるフィルムが実質的に均一の収縮特性を示さない場合、見当合わせ指標を追加してもよい。
【0082】
本発明の開始基材物質は延伸フィルムを含むが、本発明の基材は概して弛緩しており、すなわち概して延伸でなくまたは事実上等方性でない。裏材料を基材に被着して、基材を延伸状態未満に保ってもよい。裏材料は任意選択で剥離ライナーを含んで、所望ならば裏材料が除去できるようにしてもよい。
【0083】
基材は好ましくは、その上にコーティングおよび/または反応物質が付着してもよい非多孔性表面を提供する。延伸基材の弛緩または主面の表面積の減少時に、基材はその上のコーティングおよび/または反応物質に担体および団結性を提供する。さらに基材は、組織および/または細胞サンプルの相対空間的関係を維持する。
【0084】
この文脈で「反応物質」とは、単独で、または例えば補酵素など、分析物と基材との結合を助ける分子または化合物との組み合わせで、対象のサンプル中において分析物と結合できる、自然発生的または合成のいずれかのあらゆる化学分子、化合物、組成物または複合体を意味するものとする。本発明の反応物質は、化学または生化学的測定、検出、または分離に有用である。したがって「反応物質」という用語は、具体的には上述のように分析物と結合しないインクなどの分子、化合物、組成物または複合体を除外する。反応物質の例としては、アミノ酸、オリゴヌクレオチドおよびcDNAを含む核酸、炭水化物、および酵素や抗体などのタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
好ましい延伸フィルムとしては、二軸延伸低密度ポリエチレン、二軸延伸直鎖低密度ポリエチレン、および二軸延伸超低密度ポリエチレンが挙げられる。2つの直交する平面内方向(以下「x」および「y」方向)で収縮を示すことから、二軸延伸フィルムが好ましい。本発明で使用するのに適したその他の延伸フィルムとしては、溶融延伸と、ブローンフィルム、バブル、ダブルバブル、およびチューブプロセスと、縦延伸と、幅出しプロセスと、マンドレル上の進展と、熱成形と、押出吹込成形が挙げられるが、これらに限定されるものではない、技術分野で知られているあらゆるプロセスによって製造された一軸、二軸、または多軸延伸フィルムが挙げられる。
【0086】
かかるフィルムで用いてもよいポリマーとしては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、およびエチレンコポリマー(エチレンプロピレンコポリマーおよびエチレン酢酸ビニルコポリマーを含む)を含むポリエチレンと、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、およびポリメチルペンテンを含むポリオレフィンと、ポリアセタールと、ポリアミド6およびポリアミド66を含むポリアミドと、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタラート、およびポリエチレンナフタレートを含むポリエステルと、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、およびポリフッ化ビニリデンを含むハロゲン化ポリマーと、汎用ポリスチレンおよびシンジオタクチックポリスチレンを含むスチレンポリマーと、酢酸セルロースおよびセルロースプロピオネートを含むセルロースエステルと、ポリエーテルエーテルケトンおよび一酸化炭素とエチレンおよび/またはプロピレンとのコポリマーおよびターポリマーを含むポリケトンと、ビスフェノールAのポリカーボネートを含むポリカーボネートと、ポリフェニレンスルフィドを含むフェニル環ポリマーと、ポリスルホンと、ポリウレタンと、アクリル酸およびメタクリル酸のポリマーおよびそれらのエステルと、イオノマーと、上で名前を挙げたあらゆるポリマーのコポリマー、混合物、または層状構造が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのあらゆるポリマーの延伸フィルムを任意選択で架橋してもよい。
【0087】
本発明で使用するのに適したエラストマー材料の例としては、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ナイトレート、ポリウレタン、シリコーン、ランダムコポリマーおよびターポリマー(エチレン−プロピレンコポリマーおよびエチレン−プロピレン−ジエンモノマーターポリマーなど)、およびブロックコポリマーが挙げられる。
【0088】
基材は、連結剤を含んでなるコーティングを任意選択で含む。連結剤は、基材に付着させる組織および/または細胞サンプル、およびサンプルが使用される用途に基づいて選択される。
【0089】
いくつかの実施形態では、連結剤は、コーティングが少なくとも部分的に基材に接着するように基材主面に被覆される。連結剤を含んでなるコーティングは、投影表面積および立体表面積を有する。基材上のコーティングは、概して外見が滑らかである。したがって投影表面積および立体表面積は実質的に等しい。この文脈で「投影表面積」とは、表面の「x」および「y」軸を包含する平面について計算される表面の表面積を意味し、「立体表面積」は、表面の「x」、「y」および「z」軸を包含する平面について計算される表面の表面積を意味し、換言すればコーティングの表面特徴の測定である。
【0090】
以下でより詳細に述べるように、基材の弛緩時に、立体表面積は投影表面積を超えるようになる。コーティングの立体表面積は影表面積の少なくとも2倍を超え、好ましくは少なくとも5倍を超え、より好ましくは投影表面積の少なくとも15倍を超える。
【0091】
好ましい実施形態では、基材の弛緩時に、連結剤のコーティングは波形になる。波形はあらゆる認識できるパターンに関して不規則であってもよいが、本発明の方法に従って波形の規則正しいパターンが達成可能な場合もあることが考察される。この文脈で、「波形」とは屈曲した波様形態を意味する。「波形」は、例えば印捺、エンボス加工、キャスティング、成形、レーザースクライビング、写真平板、エッチング、機械的スクラッチングまたはスコーリングなどの方法によって作り出される、レザバーまたはマイクロウェルなどの構造を含まない。
【0092】
0.1μm〜10μmのコーティングが好ましく、より厚いコーティングを使用する際に起きる可能性がある拡散の困難さを最小化するために、1μm未満のコーティングが好ましい。
【0093】
好ましい連結剤は、米国特許第4,304,705号明細書、米国特許第4,451,619号明細書、米国特許第5,262,484号明細書、米国特許第5,344,701号明細書、および米国特許第5,403,902号明細書で教示されるようなコポリマーによって提供されるものなどのアズラクトン部分である。特に好ましいコポリマーは、アクリルアミドおよびアクリルアミド誘導体、ヒドロキシエチルアクリレートおよびメタクリレートなどの親水性または水溶性コモノマーを使用して調製されるものである。アズラクトン連結剤に加えて、その他の連結剤を含むコポリマーを利用してもよい。これらとしては、例えばエポキシ、カルボン酸、ヒドロキシル、アミン、N−ヒドロキシスクシンイミド、イソ−およびイソチオシアネート、水素化、アルデヒド、および反応物質の固定化技術分野でよく知られているその他の化学基が挙げられる。連結剤を含んでなるコポリマーは、技術分野でよく知られている逐次重合または連鎖生長重合プロセスのいずれかによって調製されてもよい。
【0094】
コーティングを塗布してもよく、架橋して、または別のやり方で処理して不溶化し、ガラス遷移温度(Tg)を変化させまたはコーティングの接着特性を変性してもよい。例えば得られるコーティングのTgを上昇させるために、低いTgを有するコポリマーを架橋剤と共に調合してもよい。コーティングは、押出しコーティング、ダイコーティング、浸漬コーティング、エアナイフコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、スプレーコーティング、巻き線コーティングロッドの使用などの技術分野で既知のいくつかの従来の手段によって基材に塗布できる。コーティングは、引き続いて溶剤を除去して溶液から形成しても、または100%固形分調合物のホットメルトコーティングによって形成してもよい。
【0095】
所望ならば、当業者に知られているあらゆる方法によって、基材へのコーティングの接着を改善してもよい。これらの方法としては、コロナまたはプラズマ処理、またはプライマー塗布などの主面に対する様々な前処理またはコーティングが挙げられる。適切なプライマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリ塩化ビニリデン、米国特許第5,602,202号明細書で述べられるものなどのプライマー、および米国特許第5,204,219号明細書、米国特許第5,464,900号明細書、および米国特許第5,639,546号明細書で述べられるような両側官能性(ambifunctional)シランと組み合わせた無機金属酸化物のコロイド分散体が挙げられるが、これらに限定されない。コポリマーのポリオレフィン基材への接着を増大させるその他の方法は、米国特許第5,500,251号明細書で開示される。
【0096】
連結剤は、実質的に主面などの基材表面全域に被覆されてもよく、またはかかる表面上の規則正しいまたは不規則なパターンのスポットであってもよい。後者の場合、基材の弛緩時に、各スポットの立体表面積は、かかるスポットの投影表面積を超える。別法としては、連結剤を含んでなる1つを超えるポリマー層を基材に被覆してもよい。波形を得るために、連結剤の第1のコーティングに、連結剤を含んでなる第2のコーティングを上塗りしてもよい。
【0097】
連結剤に加えて、基材を反応物質でさらに被覆して、組織および/または細胞サンプルの付着を助ける結合部位を作り出してもよく、または組織および/または細胞マイクロアレイを作り出してもよい。使用する反応物質タイプは、用途と対象の分析物に従って変化する。この文脈で「結合部位」とは、使用する場合、反応物質がそこに付着する、基材上の離散した位置を意味する。単一結合部位が、基材に付着するかなりの量の1つ以上の同一反応物質を含んでもよい。
【0098】
米国特許第6,395,483号明細書、および米国特許第6,593,089号明細書で述べられるマスク層などのマスク層をさらに含む基材もまた、有用な場合もある。ポリマー材料とコーティングの間に付着されたチタンなどの金属のマスク層は、信号対雑音比を改善し、または別のやり方で分析の質を改善することもある。
【0099】
組織切片は、組織切片を基材に付着するのに使用してもよい、技術分野で既知のいずれかのプロセスによって基材に付着される。付着の様式は、意図される分析および材料の選択に従って変化してもよいものと理解される。
【0100】
組織切片は、主面の縮小または基材の弛緩の前後または最中に付着されてもよい。しかし達成可能な場合もあるサンプル密度の濃縮を活用するために、主面の縮小または基材の弛緩に先だって、サンプルを付着することが好ましい。
【0101】
基材出発原料は、少なくとも部分的に延伸される。延伸フィルムは、延伸中のフィルムの伸びの程度にある程度依存する面積収縮低下を示す。面積収縮低下は、その延伸された収縮前の寸法から、エネルギーがかけられてフィルムが収縮した後の寸法へのフィルムの面積収縮の測定値である。25%の面積収縮が、本発明で使用するのに適切である。
【0102】
付着様式次第で、表面に官能性付与して連結剤を作り出して基材をさらに調製してもよい。官能性付与のタイプは、基材および反応物質のタイプに左右される。例えば延伸ポリエチレンなどの延伸フィルムを使用する一実施形態では、連結剤はアズラクトン部分である。上述のアズラクトンコポリマーに加えて、適切なアズラクトン官能性化合物としては、米国特許第4,485,236号明細書および米国特許第5,149,806号明細書で開示されるものなどが挙げられる。
【0103】
表面に官能性付与する一方法では、基材の酸洗浄とそれに続くビス−アミノ分子の添加によってアミン官能性表面を作り出し、それにアズラクトン連結剤が付着される。ポリマーに官能性付与するその他のプロセスは技術分野で知られており、それらを用いて、例えば米国特許第5,436,147号明細書で開示されるヘテロ二官能性架橋剤のような、反応物質への付着のための連結剤を作り出すことができる程度に適切である。連結剤は、好ましくは主面の表面積の減少後、実質的に基材に付着したままであり、さらに好ましくは表面積の減少によって実質的に分解しない。
【0104】
当業者は、エラストマー材料表面を化学的に反応性にする多様なアプローチが知られており、本発明でそれらを使用して、引き続く反応物質の付着のための連結剤を基材上に作り出すことができる程度に適切であることを理解するはずである。連結剤は、好ましくは主面の表面積の減少後、または基材の弛緩後、実質的に基材に付着したままであり、さらに好ましくはかかる減少または弛緩によって実質的に分解しない。分析物付着のために表面を処理する、かかるアプローチの一例は、米国特許第5,258,041号明細書で述べられる。
【0105】
見当合わせの目的で、組織サンプルを既知のパターンで基材に導入することが好ましい。例えばサンプルの最初の開始位置は、基材サイズがアッセイを行うのに用いられる寸法に減少した後に、この位置と最終位置とを相関させるために、知られていなくてはならない。例としては、標識、染料使用などが挙げられる。
【0106】
基材、好ましくはその主面への組織サンプルの付着後、または特定の場合は、連結剤を作り出す基材への官能性付与後、延伸フィルムの場合は熱などのエネルギーをかけることで、エラストマー材料の場合は伸展力の弛緩によって、基材が弛緩されて基材主面の表面積が減少する。組織および/または細胞サンプル、そして存在する場合は反応物質および連結剤の密度の増大は、劇的な場合もある。このサンプルの増大した密度は、例えば質量分析を実施する場合など、検出のための増大するシグナルが所望される時に有利である。
【0107】
延伸フィルムでは、減少は好ましくは加熱によってもたらされる。しかし主面の表面積減少をもたらすあらゆる様式が、本発明の目的では十分な場合もある。好ましくは加熱などのサイズ変化の様式は、反応物質の活性を実質的に損なわない。本発明では、熱を用いて、質量分析を使用して得られる基材を分析する能力を損なうことなく、そこに付着された組織切片を有する基材を収縮させてもよい。
【0108】
エラストマー材料では、材料を引き伸ばされた状態に保持する力を緩めることで、表面積減少を達成してもよい。基材を引き続いて処理して、基材を縮小した形状に保ってもよい。別法としては裏材料またはその他の物理的手段を基材に付着させて、それをサイズ変更形状に保持してもよい。基材のサイズ変更後、所望ならば基材を処理して、減少した表面積状態に基材を保持してもよい。かかる処置としては、基材を架橋することが挙げられる。別法としては、裏材料を基材に付着させるなどの物理様式を使用してもよい。
【実施例】
【0109】
これらの実施例は例証のみを目的とし、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。実施例および明細書中の残りの部分の全ての部、百分率、比率などは、特に断りのない限り重量を基準とする。さらに実施例中および明細書の残りの部分の分子量は、特に断りのない限り重量平均分子量である。
【0110】
【表1】

【0111】
各実施例で、ホルマリン固定パラフィン包埋組織のサンプルを薄切した。4μm厚さの切片を米国特許第6,376,619号明細書の実施例No.14で述べられるようにして調製したフィルムにマウントした。実施例2〜7は組織マイクロアレイとして購入したので既に薄切りされており、上述のようにフィルムにマウントしなかった。次に抗原回収ステップ中、pH9.3のクエン酸存在下で、ホルマリン固定パラフィン包埋組織を100℃の蒸気に曝した。抗原回収ステップ後、最終濃度1.0μg/μLでpH8.3の50mM炭酸水素アンモニウム(シグマ(Sigma))に溶解したミズーリ州セントルイスのシグマ(Sigma(St.Louis,MO))から市販される凍結乾燥トリプシン(T8658)で組織をインサイチュ(in situ)処理によって消化し、37℃で8時間インキュベートした。消化された溶液を取り除いて、分析時まで4℃で保存した。実施例1では、ウィスコンシン州ラシーンのマスター・アプライアンス(Master Appliance Corp.(Racine,WI))からのヒートガン(HG−501A)で、フィルムをxおよびy方向に25倍に収縮させ、ミネソタ州セントポールの3M(3M(St.Paul,MN))からの両面テープによって圧廷サンプル標的プレートに接着した。さらに実施例1では、カリフォルニア州フォスターシティのアプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems(Foster City,CA)からのα−シアノ−ヒドロキシケイ皮酸のマトリックス溶液(シークエンザイム(Sequazyme)キット)をフィルムに添加した。
【0112】
風乾後、マトリックス支援レーザ脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOFMS)を使用して、調製されたペプチドをフィンガープリントした。マサチューセッツ州フレーミングハムのアプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems(Framingham,MA))からのボイジャー(Voyager)DE−STRを正イオン化および20または25kVのいずれかの加速電位で、反射材およびリニアモードで使用して、実施例1〜7で分析を実施した。質量精度のために、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)のシークエンザイム(Sequazyme)キットからのペプチドおよびタンパク質標準で装置を較正した。窒素レーザは337nmの波長を有し、サンプルスポットあたり150個のスペクトルを得るように装置を設定した。レーザービームは、およそ150〜200μmのリニアスポット直径を有する。次にスペクトルを合計し、実施例を図3、4、6、8〜11に示す。
【0113】
タンパク質データベース検索手順
タンパク質同定のために、実施例1〜3の質量スペクトルで観察されたペプチド質量をプロテイン・プロスペクター(Protein Prospector)(http://prospector.ucsf.edu)およびMASCOT(http://www.matrixscience.com)などの公開タンパク質データベース検索エンジンに入力した。観察されたペプチドからのタンパク質に関するアミノ酸配列カバレッジは、(およそ)25〜75%の範囲である。表2〜4に示すように、最高の確率スコアがあるタンパク質ヒットを表にした。表2は、実施例1のブタ創傷組織に関して同定されたタンパク質の一覧をそれらの等電点分子量と共に示す。表3は、実施例2の前立腺癌組織に関して同定されたタンパク質の一覧をそれらの等電点分子量と共に示す。表4は、実施例3の乳癌組織に関して同定されたタンパク質の一覧をそれらの等電点分子量と共に示す。
【0114】
【表2】

【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
【表5】

【0118】
図5は、実施例2の前立腺癌組織の顕微鏡写真であり、タンパク質同定表3および図4に示す質量スペクトルに対応する。同様に図7は、実施例3の乳癌組織の顕微鏡写真であり、タンパク質同定表4および図6に示す質量スペクトルに対応する。
【0119】
本発明の範囲と精神を逸脱することなく本発明の様々な変更と修正が可能であることは、当業者には明らかである。本発明はここに記載される例証的な実施形態によって不当に限定されないものとし、かかる実施形態は例としてのみ提示され、本発明の範囲は、冒頭に記載した特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】先行技術で使用される代表的な方法の概略図である。
【図2】本発明の代表的な方法の概略図である。
【図3】実施例1のブタ創傷組織によって得られた質量スペクトルの代表的なグラフである。
【図4】実施例2の前立腺癌組織によって得られた質量スペクトルの代表的なグラフである。
【図5】実施例2の前立腺癌組織の顕微鏡写真である。
【図6】実施例3の乳癌組織によって得られた質量スペクトルの代表的なグラフである。
【図7】実施例3の乳癌組織の顕微鏡写真である。
【図8】実施例4の卵巣癌組織によって得られた質量スペクトルの代表的なグラフである。
【図9】実施例5の結腸癌組織によって得られた質量スペクトルの代表的なグラフである。
【図10】実施例6の肺癌組織によって得られた質量スペクトルの代表的なグラフである。
【図11】実施例7の植物組織によって得られた質量スペクトルの代表的なグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的に架橋された分析物を含んでなり、有機固体材料中に包埋される細胞サンプルを提供するステップと、
前記架橋された分析物中の前記化学架橋の少なくとも一部を逆転して、脱架橋された分析物を形成するステップと、
前記脱架橋された分析物を分析するステップと、
を含んでなる、分析物を分析する方法。
【請求項2】
前記サンプルが化学的に架橋されていない分析物をさらに含んでなり、分析するステップが脱架橋された分析物および化学的に架橋されていない分析物の両方を分析するステップを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記化学的に架橋されていない分析物が、医薬品、代謝産物、またはビタミンを含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞サンプルが化学的に固定された組織切片を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記化学的に固定された組織切片がホルマリン固定された組織切片である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記有機固体材料が有機ポリマー材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有機ポリマー材料がメチルメタクリレート包埋媒質を含んでなる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記有機固体がパラフィンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
架橋を逆転するステップに先だって、前記細胞サンプルを前記固体有機材料から分離するステップをさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記脱架橋された分析物が、1つ以上のタンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂肪酸、核酸、炭水化物、ホルモン、ステロイド、脂質、細菌、およびウィルスからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記架橋された分析物が、1つ以上の架橋されたタンパク質、DNA、RNA、炭水化物、脂質、またはそれらの混合物を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記脱架橋された分析物を分析するステップが、質量分析またはゲル電気泳動法を使用して前記脱架橋された分析物を分析するステップを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記脱架橋された分析物を分析するステップが、質量分析を使用して前記脱架橋された分析物を分析するステップを含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記化学架橋の少なくとも一部を逆転するステップが、前記分析物中の前記化学架橋を開裂して、架橋に先だつ自然発生的結合またはその他の結合を実質的に開裂しないステップを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記化学架橋の少なくとも一部を逆転するステップが、水またはある範囲のpH値の緩衝液の存在下でエネルギーをかけて実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
かけられる前記エネルギーが熱である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
かけられる前記エネルギーが放射線である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記脱架橋された分析物中の結合の少なくとも一部を開裂して分析物断片を形成するステップをさらに含んでなり、前記脱架橋された分析物を分析するステップが前記分析物断片を分析するステップを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記脱架橋された分析物中の結合の少なくとも一部を開裂するステップが、前記脱架橋された分析物と酵素または化学試薬とを接触させるステップを含んでなる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記脱架橋された分析物中の結合の少なくとも一部を開裂するステップが、前記脱架橋された分析物と酵素とを接触させるステップを含んでなる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記酵素が、トリプシン、ペプシン、プロナーゼ、キモトリプシン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記脱架橋された分析物がタンパク質を含んでなり、前記酵素がトリプシンを含んでなり、且つ前記脱架橋された分析物を分析するステップが、タンパク質断片を含んでなる溶出液を分析するステップを含んでなる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞サンプルが植物または動物由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞サンプルがヒト由来である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞サンプルが疾患を有する個体由来である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記疾患が進行性疾患であり、前記細胞サンプルが前記疾患の進行の異なる段階を表す複数の組織切片を含んでなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞サンプルが疾患モデルである非ヒト動物由来である、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞サンプルが外来性核酸をその中に含んでなる少なくとも1つの細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記脱架橋された分析物を分析するステップが、前記脱架橋された分析物を同定するステップを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記脱架橋された分析物を分析するステップが、
質量分析計を使用して前記脱架橋された分析物を分析するステップと、
前記脱架橋された分析物の固有の識別子を読み取るステップと、
前記分析物のアイデンティティを判定するステップと、
を含んでなる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記脱架橋された分析物を分析するステップが、前記脱架橋された分析物を定量化するステップを含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
1つ以上の化学的に固定された分析物を含んでなる、化学的に固定されたパラフィン包埋組織切片を提供するステップと、
前記化学的に固定された組織中の1つ以上の分析物中の化学的に固定された結合の少なくとも一部を開裂するステップと、
質量分析を使用して前記分析物を分析するステップと、
を含んでなる、分析物を分析する方法。
【請求項33】
前記化学的に固定されたパラフィン包埋組織をポリマー材料を含んでなる基材にのせるステップを含んでなる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記パラフィンを除去するステップをさらに含んでなる、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記処理された基材が投影表面積および立体表面積を有し、且つ前記立体表面積が前記投影表面積を超えるように上記基材を処理するステップをさらに含んでなる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記基材が熱により処理される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
投影表面積および立体表面積を有し、且つ前記立体表面積が前記投影表面積を超えるポリマー材料、および
化学的に固定されたパラフィン包埋組織を含んでなる複数の組織切片
を含んでなる組織アレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−514951(P2007−514951A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545454(P2006−545454)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/042339
【国際公開番号】WO2005/059520
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】