説明

化学的安定性が改良された薬用エーロゾル配合物製品

本発明は、ブチルゴム、ブチルゴムの架橋剤、および架橋剤の促進剤からなる弾性組成物の硬化物から形成された封止リングおよび/またはガスケットを備えた定量バルブが装着されたエーロゾルキャニスタを含む加圧式の定量吸入器からなり、促進剤が、置換されたジチオ炭酸またはその誘導体から得られたポリスルフィド化合物を含み、加圧式定量吸入器に含まれるエーロゾルキャニスタが、長期間作用性β2作用薬、ヒドロフルオロカーボン噴射剤、補助溶媒、そして有効成分の安定剤として鉱酸からなる薬用エーロゾル配合物を含む化学的安定性が改良された薬用エーロゾル配合物製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬用エーロゾル配合物製品に関するものであり、特には、定量吸入器内で保存した際に時間とともに分解しやすい有効成分を含むエーロゾル配合物の放出のための定量吸入器(MDIs)のようなエーロゾル製品に関する。定量吸入器は、現在、人間の気道に少服用量の薬物を正確に放出するために、最も効率的で最高と認められた手段である。吸入により供給される治療薬は一般に、β2アドレナリン作用気管支拡張薬、特に長期間作用性β2作用薬(アゴニスト)を含む。
【背景技術】
【0002】
MDIsは、典型的には、液化された噴射剤中に溶解した薬剤または液化された噴射剤中に懸濁した微細化された粒子のような製品で満たされた耐圧性エーロゾルキャニスタからなり、その容器に定量バルブが装着されている。定量バルブの作動により、少量のスプレー製品が放出され、液化している噴射剤の圧力により、溶解または微細化している薬物粒子を容器から出して患者へと運ぶ。バルブ作動装置は、患者の口腔咽頭部にエーロゾル噴霧物を導くのに用いられる。
【0003】
一般に、バルブは、容器からの噴射剤の漏出を防止すると同時に、弁棒(バルブステム)の往復運動を可能にすることのできるゴム弁シール(ダイヤフラムまたはガスケット)を含む。
【0004】
上記のゴム弁シールは一般に、合成または天然のゴムポリマーを加硫する従来技術に基づく弾性材料から形成されている。
【0005】
幾つかの先行技術文献、例えば、特許文献1の8頁4−9行、および特許文献2の13頁16行から14頁23行までに、ハロブチルまたはブチルゴムは、他の弾性材料、例えば、低密度ポリエチレン、黒色および白色ブタジエンアクリロニトリルゴム、ネオプレン、及び多くのその他の材料と共に、ヒドロフルオロカーボン(HFAまたはHFC)噴射剤によって加圧される定量吸入器のバルブに用いられるガスケットのための材料として、同等に述べられている。
【0006】
それに対して、特許文献3では、ネオプレン(ポリクロロプレン)、ブチルゴム、またはブタジエン−アクリロニトリル「ブナ」ゴムのダイヤフラム(すなわち、ガスケットまたは封止リング)を用いた通常の装置は、時間とともにいくつかの配合物からHFC−134aまたはHFC−227のかなりの漏出を許すと記載されている。この漏出は、配合物中の有効成分濃度のかなりの増加をもたらし、結果として不適切な用量の放出を生じることになる。さらに、いくつかの配合物では、弁棒が、作動サイクルの間、つかえたり、休止したり、引き込まれたりしやすくなる。これらの問題を解決するために、特許文献3において、エチレン−プロピレン−ジエン(EPDM)からなる、HFC−134に晒されたときの寸法変化が少ないダイヤフラム材料が提供されている。
【0007】
最近では、Bespak名義の特許文献4に、ポリイソブチレン、ポリブテン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム及び誘導体の一もしくはそれ以上を含む特定の弾性組成物から形成された薬物投与用装置に使用するバルブ用の封止材が開示されている。特定の弾性組成物は、実際には、イソブチレンポリマーまたはコポリマー、架橋剤、そしてジチオ炭酸またはその誘導体から誘導されたポリスルフィド化合物を含む架橋剤の促進剤からなる。
【特許文献1】国際公開第93/11743号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/02167号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第708805号明細書
【特許文献4】国際公開第03/078538号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の基礎をなしている技術的課題は、定量吸入器によって放出されるエーロゾル配合物に含まれる治療薬として、好ましい部類の長期間作用性β2作用薬の化学的安定性が改良された、薬用エーロゾル配合物製品、特にエーロゾル配合物を放出するための定量吸入器(MDI)を提供することである。すなわち、そのような種類の有効成分を含んでいるエーロゾル配合物の放出のための薬用エーロゾル配合物製品の寿命を、長くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この技術的課題は、本発明により化学的安定性が改善された以下の薬用エーロゾル配合物製品によって解決される。
ブチルゴム、ブチルゴムの架橋剤、および架橋剤の促進剤からなる弾性組成物の硬化物から形成された封止リングおよび/またはガスケットを備えた定量バルブが装着されたエーロゾルキャニスタを含む加圧式の定量吸入器からなり、促進剤が、置換されたジチオ炭酸またはその誘導体から誘導されたポリスルフィド化合物を含み、加圧式定量吸入器に含まれるエーロゾルキャニスタが、長期間作用性β2作用薬、ヒドロフルオロカーボン噴射剤、補助溶媒、そして有効成分の安定剤としての鉱酸からなる薬用エーロゾル配合物を含む。
適当な鉱酸の例は、塩酸、リン酸、硝酸および硫酸である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、先行技術の典型的な定量吸入器を示す。
【0011】
図2aは、逆様にして使用するのための定量バルブを示す(Valois,フランス)。
【0012】
図2bは、直立させて使用するのための定量バルブを示す(Bespak,英国)。
【0013】
図1において、典型的な定量吸入器は、キャニスタ(1)、作動装置(2)、定量バルブ(3)、および作動装置開口部(4)からなる。
【0014】
定量バルブは、同一のパッケージのみならず異なるパッケージからも、同一の量を再現性よく正確に測定し、供給しなければならない。定量バルブの二つの基本タイプは、一方は倒立使用(図2aを参照)、そして他方は直立使用(図2bを参照)として利用できる。一般に、直立使用のバルブは、細い毛細管状のディップチューブ(303)を有し、溶液タイプのエーロゾルが使用される。一方、懸濁液または分散液のエーロゾルは、ディップチューブを持たない倒立タイプで使用する。図2aと図2bには、両タイプのバルブを例示した。それらは、商業的に入手可能な典型例である。
【0015】
図2aと2bにおいて、参照符号は以下の意味をもつ。
【0016】
図2a:
────────────────────
31=ハウジング/ボディ
32=スプリング
33=定量ガスケット
34=内側突起リング
35=定量チャンバ
36=口輪
37=封止ガスケット
38=ダイヤフラム/ステムガスケット
39=ステム
────────────────────
【0017】
図2b:
────────────────────
301=シート
302=シート
303=ディップチューブ
311=ボディ
322=スプリング
355=定量チャンバ
366=口輪
377=ガスケット
399=ステム
────────────────────
【0018】
定量吸入器によって放出されるβ2アドレナリン作用気管支拡張薬に関する問題は、一般に、定量吸入器に入れられている配合物中の治療上有効な薬剤の不安定さである。
【0019】
このように、本発明の基礎をなしている課題は、有効成分として、エーロゾル配合物に含まれている長期間作用性β2作用薬の化学的安定性が改良された薬用エーロゾル配合物製品を提供することにある。
【0020】
長期間作用性β2作用薬の好ましい種類は、式(I)
【0021】
【化2】

【0022】
[ここで、R1がメチルで、R2が水素であるか、またはR1とR2とで、メチレン架橋基−(CH2)n−(nは、1または2)を形成しており、
3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシ、直鎖または分岐を有するC1−C4のアルキル、一もしくはそれ以上のハロゲン原子および/またはヒドロキシ基で置換された直鎖または分岐を有するC1−C4のアルキル、ハロゲン、直鎖または分岐を有するC1−C4のアルコキシであり、
7は、水素、ヒドロキシ、直鎖または分岐を有するC1−C4のアルキル、直鎖または分岐を有するC1−C4のアルコキシであり、そして
8およびR9は独立に、水素、C1−C4のアルキル、または共同してビニレン(−CH=CH−)もしくはエチレン(−CH2CH2−)基を形成する]
およびその鏡像異性体、塩類、そして溶媒和物である。
【0023】
特に好ましい化合物は:
1はメチル、R4はメトキシ、R2、R3、R5、R6、R8、R9は水素、R7はヒドロキシ、そしてnは1(ホルモテロール)であるか、または
1はメチル、R4はメトキシ、R2、R3、R5、R6は水素、R7はヒドロキシ、R8とR9とが共同してビニレン(−CH=CH−)基を形成し、そしてnは1である。
【0024】
最も好ましい式(I)のβ2作用薬は、以下の式で表される。
【0025】
【化3】

【0026】
これは、実験コードTA−2005およびCHF−4226としても知られている8−ヒドロキシ−5−[(1R)−1−ヒドロキシ−2−[[(1R)−2−(4−メトキシフェニル)−1−メチルエチル]アミノ]エチル]−2(1H)−キノリノン塩酸塩である。
【0027】
TA−2005は、高い効能を有し、そしてその投薬量は、MDIsによって投与されることができる他の多くの薬物よりかなり少ない。従って、エーロゾル配合物中のそれの濃度は、非常に低く、そしてこの要因は、それの化学−物理的特性と共に、安定で、かつMDIsによる投与の際に投薬量の優れた再現性を与える配合物の製造および処方において問題を引き起こす。本発明に従って安定化することができる、さらに好ましい長期間作用性β2作用薬は、サルメテロールである。
【0028】
さらにまた、上述のように、本発明の配合物は液化された噴射剤を含む。
【0029】
ハロゲン化された噴射剤が、オゾン層を減少させることが知られて禁止されてから、適当な噴射剤系は、炭素骨格の上にフッ素および水素を半分もつアルキル分子であるヒドロフルオロカーボン(HFCまたはHFA)であると考えられている。本発明の配合物は、液化された噴射剤、すなわちHFA134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)およびHFA227(1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン)およびそれらの混合物から選ばれるHFA噴射剤を含む。
【0030】
配合物は、好ましくは有効成分が完全に溶解している溶液である。
【0031】
この目的のために、それは、噴射剤中の有効成分を溶解するための補助溶媒として、噴射剤よりも高い極性をもつ助剤を含んでもよい。補助溶媒は、好ましくはアルコールであり、最も好ましくはエタノールである。それは、噴射剤中の有効成分を溶解するために適切な量で存在させ、濃度は、配合物の質量に対して、6質量%と30質量%との間、好ましくは8質量%と25質量%との間、より好ましくは10質量%と20質量%との間にある。
【0032】
この種類の組成物は、本出願人の以前の特許出願、2001年5月18日に出願したEP1157689(’689)、2003年2月26日に出願したWO03/074024(’024)、2003年2月27日に出願したWO03/074025(’025)に記述してある。
【0033】
これらの先の出願で明らかにされているように、HFA噴射剤/補助溶媒系での溶液中の該発明の有効物質は、化学的安定性の課題に対応することができ、好ましくは塩酸、リン酸、硝酸および硫酸から選ばれる強い鉱酸の添加によって安定する。TA−2005の安定化のためには、リン酸が好ましく、特に15Mリン酸のように濃縮されたリン酸が好ましい。好ましくは、リン酸が薬用エーロゾル配合物中に、配合物中の全質量に対して0.001乃至0.040%w/w、より好ましくは0.004乃至0.027%w/wの15Mのリン酸と等しい量にて含まれている。
【0034】
’689出願では、異なる量のHClの0.08M(1.0、1.4および1.8μL)で安定化した、8−ヒドロキシ−5−[(1R)−1−ヒドロキシ−2−[[(1R)−2−(4−メトキシ−フェニル)−1−メチルエチル]アミノ]エチル]−2(1H)−キノリノン塩酸塩(TA−2005)3.5μg/50μL用量、12%w/wのエタノール、1%w/wのミリスチン酸イソプロピルからなるHFA134a溶液配合物の安定性データが報告されている(実施例7)。
【0035】
安定性は、商業的なバルブを装着した、内部表面がテフロンで被覆されたアルミニウムキャニスタ中にて、50℃、直立状態で、配合物を保存して測定されている。
【0036】
その配合物は、かなり優れた安定性を備えていると思われた。それにもかかわらず、本発明者等がテストを繰り返した結果、彼らは、配合物中での有効成分の進行的な分解の進行に気付いた。
【0037】
さらに、’689に例示されている配合物は、供与される粒子のMMAD(質量メジアン空気力学的径)を増加させるために、低揮発性化合物としてミリスチン酸イソプロピルを含んでいる。その後、直径が1.1μmと同等またはそれ未満の微粒子からなる少なくとも30%の重要な部分(フラクション)によって、深い肺への浸透という特徴をもつ高度に有効なTA−2005配合物を提供することが非常に有利であることが判明した。従って、低揮発性化合物は避けるべきである。
【0038】
他の先の出願’025において、HClによって安定化した8−ヒドロキシ−5−[(1R)−1−ヒドロキシ−2−[[(1R)−2−(4−メトキシ−フェニル)−1−メチルエチル]アミノ]エチル]−2(1H)−キノリノン塩酸塩(TA−2005)からなるHFA溶液配合物の安定性データが報告されている。
【0039】
安定性は、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン)ガスケットからなるバルブを装着した、内部表面がテフロンで被覆されたアルミニウムキャニスタ中にて、5℃、直立状態で保存された、4μg/63μLの有効成分を含む配合物に関して測定されている。上記の冷蔵条件において、九ヶ月後のTA−2005の分析結果は、95%以上であった。
【0040】
しかし、本発明者によって、低濃度において、および他の保存条件においては、配合物中の有効成分が速やかに分解することが見い出された。これは、例えば、40℃、相対湿度70%でWO03/074025の缶を保存したときに発生した。
【0041】
’689はまた、少量の1.0M塩酸の添加によって、化学安定性が改善された、β2−作用薬として、ホルモテロールおよびその誘導体からなるHFA溶液配合物を提供している。
【0042】
第二の先の出願’024において、約1μmと同等またはそれ未満の粒子からなる特に高い部分(フラクション)を含む非常に効果的な配合物において、ホルモテロールおよびその誘導体は、極めて湿度に敏感であり、そして配合物の全質量の1500ppmを超える水の量は、それらの化学的安定性のために有害であることをさらに明らかにした。
【0043】
上述したように、溶液の状態の配合物は好ましい。
【0044】
しかし、配合物は、懸濁液の状態であることもあり、また任意に他の補助物質を含めることもある。補助物質は、バルブ潤滑剤として、あるいは吸入器の起動装置開口部の上の析出物を低減させ、これにより患者のための配合物を分散させるために使われる起動装置開口部を「清浄」にしておくことによって、繰り返し行われた投薬の後でも投薬の再現性を改善するために、少量の助剤(アジュバント)、およびこの種の配合物に使用される一般的な分散剤として選ばれる界面活性剤、例えば、ポリエトキシレート界面活性剤、フッ化界面活性剤、脂肪酸、それらの塩またはモノ-、ジ-もしくはトリグリセリドのエステル、ソルビタンエステル、リン脂質、アルキルサッカリド、第四級アンモニウム塩、油、またはラクトース、アラニン、アスコルビン酸のような微粉化された固形薬剤およびその他を包含する。
【0045】
本発明の第一の見地によれば、HFA噴射剤中の式(I)の化合物からなる配合物の安定性は、特定の種類のブチルゴムを含む弾性材料からなる封止リングおよび/またはガスケットを備えたバルブを装着したMDI容器中に保存されたときに高まることが判明した。
【0046】
本出願人のEP1157689において、クロロプレンを主成分とするゴムから形成されたガスケットを装着した定量バルブは、薬物の安定性に悪影響を与える湿気の浸入を低減するために好ましく用いることができると一般的に述べられる(5頁、13−14行)。さらに、本出願人のWO03/074025において、ブチルゴムは、ガスケットのための多くの他の適当な弾性材料の一つとして列挙されている。EPDM(エチレン−ポリプロピレン−ジエンモノマー)ゴムおよびTPE(熱可塑性エラストマー)が好ましい。EPDMが、特に好ましい(16頁、8−12行)。
【0047】
しかし、本発明者によって、HFA噴射剤および補助溶媒、さらに鉱酸を含む溶液中に溶解している本発明の式(I)の有効成分は、その記載内容が参照内容として本願に含められるWO03/078538に記載されているタイプの特定の種類のブチルゴムを含むエラスマー材料から形成されたガスケットおよび/または封止リングを有するバルブを備えた缶中に保存すると、良好な化学的安定性を有し、薬物製品の重要な変化は、その初期値から分析評価における5%の変化と定義されている「Stability Testing of new Active Substances(and Medicinal Products)」を言及しているICHガイドラインQ1Aの要求を満たすことが今回明らかになった。
【0048】
本発明に従う、薬用エーロゾル配合物製品の加圧式定量吸入器に用いられる定量バルブのための封止リングおよび/またはガスケットは、ブチルゴム、ブチルゴムの架橋剤、架橋剤の促進剤からなる弾性組成物の硬化物から成形されており、促進剤は、置換されたジチオ炭酸またはその誘導体から誘導されたポリスルフィド化合物である。
【0049】
ブチルゴムは、イソブチレンと少量のジオレフィン、例えば、イソプレン(2−メチルブタ−1,3−ジエン)とから製造される共重合体である。典型的には、本発明では、ブチルゴムは、約97%のイソブチレンと約3%のイソプレンとからなり、そして、それは、塩化アルミニウム触媒を使用して重合されたものである。
【0050】
本発明の目的のために、特に好ましいのは、上述の構成(約97%のイソブチレンおよび約3%のイソプレン)のハロゲン化ブチルゴムであり、ブロモブチルゴムが最も好ましい。
【0051】
架橋剤(硬化剤としても知られている)は、ネットワーク形成を提供または促進し、三次元ポリマーネットワーク構造を生じさせる。架橋剤は、ポリマー鎖の官能基と反応することによって作用する。架橋剤は、典型的には、硫黄あるいは硫黄含有化合物からなる。架橋剤は、好ましくは、実質的に、過酸化ジクミルのような任意の過酸化物加硫剤を含むことがない。
【0052】
促進剤として使用されるポリスルフィド化合物は、好ましくは、置換されたキサントゲン酸またはその誘導体から誘導され、好ましくは、ROC(S)SH型(Rは、典型的には、C1−C6のアルキル基)である。ポリスルフィド化合物の置換基は、典型的には、イソプロピル基からなる。
【0053】
ポリスルフィド化合物は、好ましくは三個もしくはそれ以上の架橋硫黄原子、より好ましくは三個、四個または五個の架橋硫黄原子を含む。
【0054】
ポリスルフィド化合物は、好ましくは、実質的に、窒素、リンおよび金属元素を含むことがない。
【0055】
ポリスルフィド化合物は、ジイソプロピルキサントゲンポリスルフィドを含むか、またはそれ自体からなることが有利である。
【0056】
硬質物を製造するための弾性組成物は、典型的には組成物中の促進剤とブチルゴムとの全質量に対して、促進剤を3質量%以下の量、より典型的には構成物中の促進剤とブチルゴムとの全質量に対して、促進剤を1.5質量%以下の量、さらに典型的には成物中の促進剤とブチルゴムとの全質量に対して、促進剤を1質量%以下の量にて含む。
【0057】
弾性組成物中の架橋剤に対する促進剤の質量比は、1:1乃至3:1、より好ましくは1:1乃至2:1の範囲内である。
【0058】
封止リングおよび/またはガスケットは、さらに、その記載内容が本出願の記載内容として明確に含まれる、WO03/078538の9頁28行から10頁26行までに記載されているような、充填材、好ましくは無機充填材を含んでいてもよく、処理用助剤、好ましくは低分子量ポリエチレン、そしてさらに補助剤を含んでいてもよい。
【0059】
定量バルブの封止リングおよび/またはガスケットは、独立した構成部品として提供されてもよく、あるいはバルブと一体的に形成されてもよい。
【0060】
好ましくは、ゴムは、それが定量吸入器中に組み込まれる前に、薬学的に許容できる適当な溶剤、好ましくは温エタノールにて抽出される。一般に、薬学的に許容でき、酸化物および過酸化物の抽出に十分な能力を有する溶媒を利用することができる。
【実施例】
【0061】
TA−2005の安定性の実証は、実施例1の中で提示される。
【0062】
[実施例1]
一作動当たりTA−2005を1μgの名目用量にて放出するための配合物は、以下の組成で調製された:
【0063】
────────────────────────────────────────
ユニット当たりの量
構成成分 ──────────────────
mg %
────────────────────────────────────────
TA−2005(1μg/63μL) 0.154 0.0016w/v
エタノール 1650.0 15.00w/w
リン酸15M 1.00 0.009w/w
HFA134a(9.72mL相当量) 9348.8 −
────────────────────────────────────────
【0064】
同様にして、一作動当たりの有効成分を0.5、1.5、2、2.5、3、3.5または4μgの名目用量にて放出するための配合物を、調製することができる。
【0065】
配合物(120作動/キャニスタ、30作動過剰)を、内部表面がテフロンで被覆されたアルミニウムキャニスタ中に充填し(二段加圧充填)、次いで前述のWO03/078538(Bespak)に記載されているようにブチルゴムガスケットを備えた63μL定量チャンバーを持つ定量バルブに装着した。特に、ガスケットは、約97%のイソブチレンと約3%のイソプレンとからなり、塩化アルミニウム触媒を用いて重合させ、そして、このようにして得られたイソプレン−イソブチレンゴムを臭素で処理することによって得たブロモブチルゴムから形成された。
【0066】
同一の配合物を、EPDMゴムガスケットを備えたバルブを装着した同種の缶に充填した。
【0067】
安定性の評価は、配合物を、直立および倒立させた缶の中で、40℃、相対湿度75%で保存して行われた。
【0068】
三ヶ月後、直立および倒立の両方のブロモブチルゴムガスケットを備えたバルブを装着したそれぞれの缶中のTA−2005のパーセント量は、98%および97%であった。
【0069】
一方、直立および倒立させた、EPDMゴムガスケットを備えたバルブを装着した缶で保存されたそれぞれの配合物中のTA−2005のパーセント量は、98%および77%であった。結果は、二つの缶の平均として得た。
【0070】
ホルモテロールフマル酸塩の安定性は、実施例2の中で提示される。
【0071】
[実施例2]
一作動当たりホルモテロールフマル酸塩を12μgの名目用量にて放出するための配合物は、以下の組成で調製された:
【0072】
────────────────────────────────────────
ユニット当たりの量
構成成分 ──────────────────
mg %
────────────────────────────────────────
ホルモテロールフマル酸塩
(12μg/63μL) 1.92 0.019w/v
エタノール 1387.2 12.00w/w
塩酸1M 4.3 0.037w/w
HFA134a 10166.58
────────────────────────────────────────
【0073】
配合物(120作動/キャニスタ、40作動過剰)を、標準的なアルミニウムキャニスタ中に充填し(二段加圧充填)、次いで前述のWO03/078538(Bespak)に記載されているようにブチルゴムガスケットを備えた63μL定量チャンバーを持つ定量バルブに装着した。特に、ガスケットは、約97%のイソブチレンと約3%のイソプレンとからなり、塩化アルミニウム触媒を用いて重合させ、そして、このようにして得られたイソプレン−イソブチレンゴムを臭素で処理することによって得たブロモブチルゴムから形成された。
【0074】
同一の配合物を、EPDMゴムガスケットを備えたバルブを装着した同種の缶に充填した。
【0075】
安定性の評価は、配合物を、直立および倒立させた缶の中で、25℃で保存して行われた。
【0076】
三ヶ月後、直立および倒立の両方のブロモブチルゴムガスケットを備えたバルブを装着したそれぞれの缶中のホルモテロールフマル酸塩のパーセント量は、98%および97%であった。
【0077】
一方、直立および倒立させた、EPDMゴムガスケットを備えたバルブを装着した缶で保存された配合物中のフマル酸ホルモテロールのパーセント量は、40℃、31日保存後ですでに、94%および93%であった。結果は、二つの缶の平均として得た。
【0078】
この結果は、バルブ材料が式(I)の化合物の化学的安定性に影響を与えること、および、特定のブロモブチルゴムガスケットを備えたバルブは、HFA溶液配合物中の上記化合物の安定性を改善することを示す。
【0079】
実施例1および2の安定性の試験では、直立および倒立した缶の両方で行われた。倒立した姿勢において、配合物中の有効成分の安定性に悪影響を及ぼす可能性のあるバルブ材料の化学的相互作用を検出するために、配合物は、試験の全期間中、バルブ材料に直接接触させた。直立した缶では、バルブ材料と配合物との相互作用は非常に制限され、そして、また、配合物中の有効成分の安定性に対する悪影響の可能性には気付かないかもしれない。
【0080】
実施例2で示すように、特定の種類のブロモブチルゴムを含む弾性材料からなる封止リングおよび/またはガスケットを備えている本発明の定量バルブは、ヒドロフルオロカーボン噴射剤、補助溶媒および鉱酸からなる溶液中にホルモテロールまたはその誘導体を含む薬用配合物で満たされた定量吸入器にもまた有利に利用することができる。ホルモテロール誘導体のために、好ましい鉱酸は塩酸、特に1.0Mの塩酸であり、そして、一作動当たり12μgの用量の放出する配合物のために、1.0Mの塩酸の量は、配合物の全体積に対して0.020乃至0.050体積%、好ましくは0.025乃至0.045体積%であり、配合物の全質量に対して、0.030乃至0.045質量%、好ましくは0.035乃至0.040質量%に相当する。
【0081】
実際、WO03/078538に記載されているタイプの特定種類のブチルゴムを含む弾性材料から形成された定量バルブ用の封止リングおよび/またはガスケットは、おそらく、化合物の化学的安定性に有害な、周囲の水分の浸入に対して、配合物により高い保護を提供し、加圧したキャニスタの気密封止の結果、ホルモテロールフマル酸塩の化学安定性も改善することが判明した。
【0082】
式(I)の化合物の安定性はまた、バルブの金属部分(特に配合物と接触するスプリング)から放たれた金属イオンの存在による影響を受けるかもしれない。
この理由のために、チタンを含んでいるステンレス鋼合金から形成されたスプリングが特に好ましい。
【0083】
要約すると、本発明は、定量バルブの封止リングおよび/またはガスケットのための材料としての特定のブチルゴムを用い、そして、特に適当な鉱酸で安定させたエーロゾル配合物を用いた加圧式の定量吸入器(MDI)からなる、化学安定性が改善された薬用エーロゾル配合物製品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】先行技術の典型的な定量吸入器を示す。
【図2】図2Aは、倒立使用のための定量バルブを示し、図2bは、直立使用のための定量バルブを示す。
【符号の説明】
【0085】
1 キャニスタ
2 作動装置
3 定量バルブ
4 作動装置開口部
31 ハウジング/ボディ
32 スプリング
33 定量ガスケット
34 内側突起リング
35 定量チャンバー
36 口輪
37 封止ガスケット
38 ダイヤフラム/ステムガスケット
39 ステム
301 シート
302 シート
303 ディップチューブ
311 ボディ
322 スプリング
355 定量チャンバー
366 口輪
377 ガスケット
399 ステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブチルゴム、ブチルゴムの架橋剤、および架橋剤の促進剤からなる弾性組成物の硬化物から形成された封止リングおよび/またはガスケットを備えた定量バルブが装着されたエーロゾルキャニスタを含む加圧式の定量吸入器からなり、促進剤が、置換されたジチオ炭酸またはその誘導体から誘導されたポリスルフィド化合物を含み、エーロゾルキャニスタが、式(I):
【化1】


[ここで、R1がメチルで、R2が水素であるか、またはR1とR2とで、メチレン架橋基−(CH2)n−(nは、1または2)を形成しており、
R3、R4、R5及びR6は、それぞれ独立に、水素、ヒドロキシ、直鎖または分岐を有するC1−C4のアルキル、一もしくはそれ以上のハロゲン原子および/またはヒドロキシ基で置換された直鎖または分岐を有するC1−C4のアルキル、ハロゲン、直鎖または分岐を有するC1−C4のアルコキシであり、
R7は、水素、ヒドロキシ、直鎖または分岐を有するC1−C4のアルキル、直鎖または分岐を有するC1−C4のアルコキシであり、そして
R8およびR9は独立に、水素、C1−C4のアルキル、または共同してビニレン(−CH=CH−)もしくはエチレン(−CH2CH2−)基を形成する]
およびその鏡像異性体、塩、溶媒和物である長期間作用性β2−作用薬、ヒドロフルオロカーボン噴射剤、補助溶媒、そして有効成分の安定剤である鉱酸を含む薬用エーロゾル配合物を含有する、化学的安定性が改良された薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項2】
式(I)のR1がメチル、R4がメトキシ、R2、R3、R5、R6、R8およびR9が水素、R7がヒドロキシ、そしてnが1である請求項1に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項3】
式(I)のR1がメチル、R4がメトキシ、R2、R3、R5およびR6が水素、R7がヒドロキシ、R8およびR9が共同してビニレン(−CH=CH−)基を形成し、そしてnが1である請求項1に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項4】
薬用エーロゾル配合物が薬用エーロゾル溶液配合物である請求項1乃至3のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項5】
薬用エーロゾル配合物が薬用エーロゾル懸濁液配合物である請求項1乃至3のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項6】
薬用エーロゾル懸濁液配合物がバルブ潤滑剤および/または分散剤を含む請求項5に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項7】
ヒドロフルオロカーボン噴射剤が、HFA134a、HFA227およびそれらの混合物からなる群より選ばれる請求項1乃至6のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項8】
補助溶媒がエタノールである請求項1乃至4のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項9】
加圧式定量吸入器の内部表面の一部または全部が、ステンレス綱かアルマイトからなるか、あるいは不活性有機被膜で内張りされている請求項1乃至8のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項10】
不活性有機被膜が、ペルフルオロアルコキシアルカン、ペルフルオロアルコキシアルキレン、ペルフルオロアルキレン、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ−フェノール樹脂あるいはフッ素化−エチレン−プロピレン、ポリエーテルスルホンまたはそれらの組み合わせである請求項9に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項11】
定量バルブが、チタンを含むステンレス鋼合金から形成されたバルブスプリングを含む請求項1乃至10のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項12】
バルブの封止リングおよび/またはガスケットが、使用の前に、エタノール、好ましくは温エタノールで抽出処理されている請求項1乃至11のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項13】
鉱酸が、塩酸、特に1Mの塩酸であって、薬用エーロゾル配合物中に、配合物の全質量に対して、0.030乃至0.045%w/wの1Mの塩酸に等しい量にて含まれている請求項2に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項14】
鉱酸が、リン酸、特に15Mのリン酸であって、薬用エーロゾル配合物中に、配合物の全質量に対して、0.001乃至0.040%w/wの15Mのリン酸に等しい量にて含まれている請求項3に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項15】
ブチルゴムが、約97%のイソブチレンと約3%のイソプレンとから形成され、そして塩化アルミニウム触媒を用いて重合させたものである請求項1乃至13のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項16】
ブチルゴムが、ブロモブチルゴムである請求項15に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項17】
架橋剤が硫黄または硫黄供与化合物である請求項1乃至16のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項18】
ポリスルフィド化合物が、置換されたキサントゲン酸またはその誘導体から誘導されたものである請求項1乃至17のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項19】
ポリスルフィド化合物の置換基が、イソプロピル基を含むか、もしくはそれからなる請求項1乃至18のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項20】
ポリスルフィド化合物が、ジイソプロピルキサントゲンポリスルフィドを含むか、もしくはそれからなる請求項1乃至19のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項21】
ポリスルフィド化合物が、三個以上の架橋硫黄原子を含む請求項1乃至20のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項22】
ポリスルフィド化合物が、実質的に、窒素、リンおよび金属元素を含まない請求項1乃至21のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項23】
弾性組成物が、組成物中の促進剤とブチルゴムとの全質量に対して、促進剤を3質量%以下の量で含む請求項1乃至22のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項24】
弾性組成物が、組成物中の促進剤とブチルゴムとの全質量に対して、促進剤を1.5質量%以下の量で含む請求項1乃至22のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。
【請求項25】
弾性組成物中の架橋剤に対する促進剤の質量比が、1:1乃至3:1の範囲内にある請求項1乃至24のうちのいずれか一項に従う薬用エーロゾル配合物製品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−537170(P2007−537170A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−511888(P2007−511888)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/002041
【国際公開番号】WO2005/112902
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(503332606)
【氏名又は名称原語表記】CHIESI FARMACEUTICI S.P.A.
【Fターム(参考)】