説明

化学蓄熱システム

【課題】電気エネルギーを熱へ変換して貯蔵する場合において、蓄熱量を精度よく算出することができるようにする。
【解決手段】化学蓄熱システムは、電流電圧検出部94によって、電力供給部90から電気ヒーターへ供給される電流及び印加される電圧を検出し、内部温度センサ88によって、電気ヒーター層16Bの温度を検出する。電力量制御部90によって、検出された温度に基づいて、電力供給部90から供給される電力量を制御する。また、蓄熱ECUによって、電流電圧検出部94によって検出された電流及び電圧、並びに内部温度センサ88によって検出された温度に基づいて、反応器16の蓄熱量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生じる電気を有効利用するための化学蓄熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、2次電池以外のエネルギー貯蔵手段として、電気2重層キャパシターや、フライホイール(例えば、特許文献1、2)、顕熱、潜熱蓄熱が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4423794号明細書
【特許文献2】英国特許第2449117号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の如き従来の技術では、エネルギー貯蔵密度が低い、という問題や、長期保存ができない、という問題がある。また、電気エネルギーを熱へ変換して貯蔵するときにおいて、間欠的な電力供給条件となる場合には、蓄熱量を正確に把握することが必要となる。
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して、電気エネルギーを熱へ変換して貯蔵する場合において、蓄熱量を精度よく算出することができる化学蓄熱システムを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る化学蓄熱システムは、電気を熱に変換するエネルギー変換部と、前記エネルギー変換部からの熱供給により脱水反応を行って蓄熱し、かつ、水和反応により放熱する化学蓄熱材とが内蔵された反応器と、前記反応器から前記脱水反応に伴って放出された水蒸気を、冷媒との熱交換によって凝縮させると共に、冷媒との熱交換によって水を蒸発させることで、前記水和反応のための水蒸気を前記反応器に供給する蒸発凝縮部と、前記エネルギー変換部に電力を供給する電力供給部と、前記電力供給部から前記エネルギー変換部へ供給される電流及び印加される電圧を検出する電流電圧検出部と、前記エネルギー変換部の温度を検出する温度検出部と、前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記電力供給部から供給される電力量を制御する電力量制御部と、前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧、並びに前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記反応器の蓄熱量を算出する蓄熱量算出部と、を含んで構成されている。
【0007】
第1の発明に係る化学蓄熱システムでは、反応器の化学蓄熱材は、エネルギー変換部からの熱供給を受けることで、脱水反応を生じつつ蓄熱する。この脱水反応に伴って生じる水蒸気は、蒸発凝縮部にて凝縮される。化学蓄熱材に蓄熱した熱を放出する際には、蒸発凝縮部において、冷媒との熱交換によって水を蒸発させることで、水和反応のための水蒸気を反応器に供給する。これにより、化学蓄熱材の水和反応が生じ、該化学蓄熱材に蓄えられていた熱が放出される。
【0008】
ここで、化学蓄熱システムは、電流電圧検出部によって、前記電力供給部から前記エネルギー変換部へ供給される電流及び印加される電圧を検出し、温度検出部によって、前記エネルギー変換部の温度を検出する。電力量制御部によって、前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記電力供給部から供給される電力量を制御する。また、蓄熱量算出部によって、前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧、並びに前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記反応器の蓄熱量を算出する。
【0009】
このように、エネルギー変換部へ供給される電流及び印加される電圧を検出すると共に、エネルギー変換部の温度を検出し、検出された電流及び電圧、並びに検出された温度に基づいて、反応器の蓄熱量を算出することにより、電気エネルギーを熱へ変換して貯蔵する場合において、蓄熱量を精度よく算出することができる。
【0010】
第2の発明に係る化学蓄熱システムは、電気を熱に変換するエネルギー変換部、及び前記エネルギー変換部からの熱供給により脱水反応を行って蓄熱し、水和反応により放熱する化学蓄熱材が内蔵された反応器と、前記反応器から前記脱水反応に伴って放出された水蒸気を、冷媒との熱交換によって凝縮させると共に、冷媒との熱交換によって水を蒸発させることで、前記水和反応のための水蒸気を前記反応器に供給する蒸発凝縮部と、前記エネルギー変換部に対して一定電圧となるように電力を供給する電力供給部と、前記電力供給部から前記エネルギー変換部へ供給される電流及び印加される電圧を検出する電流電圧検出部と、前記エネルギー変換部の温度を検出する温度検出部と、前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧、並びに前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記反応器の蓄熱量を算出する蓄熱量算出部と、を含んで構成されている。
【0011】
第2の発明に係る化学蓄熱システムは、電力供給部によって、エネルギー変換部に対して一定電圧となるように電力を供給する。ここで、脱水が完了すると、化学蓄熱材の吸熱項Qs減少によりエネルギー変換部の温度が上昇し、エネルギー変換部の電気抵抗が増大して、供給電力量が制限され、脱水後のエネルギー変換部の過昇温が抑制される。
【0012】
第1の発明及び第2の発明に係る蓄熱量算出部は、前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧、前記温度検出部によって検出された温度、及び予め求められた前記反応器の熱容量に基づいて、前記エネルギー変換部へ供給された総電力量と、前記熱容量における顕熱変化量と、放熱量との関係に従って、前記反応器の蓄熱量を算出するようにすることができる。
【0013】
上記の温度検出部は、前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧に基づいて、前記エネルギー変換部の温度を算出するようにすることができる。これによって、エネルギー変換部に温度センサを内設せずに、蓄熱量を算出することができる。
【0014】
また、上記の温度検出部は、前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧と、予め求められた前記エネルギー変換部の抵抗温度係数、電気抵抗率、抵抗断面積、及び抵抗長さとに基づいて、前記エネルギー変換部の温度を算出するようにすることができる。
【0015】
上記の電力供給部は、車両に搭載された駆動部から供給される電力を、前記エネルギー変換部に供給するようにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明に係る化学蓄熱システムは、エネルギー変換部へ供給される電流及び印加される電圧を検出すると共に、エネルギー変換部の温度を検出し、検出された電流及び電圧、並びに検出された温度に基づいて、反応器の蓄熱量を算出することにより、電気エネルギーを熱へ変換して貯蔵する場合において、蓄熱量を精度よく算出することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用化学蓄熱システムの概略全体構成を示すシステム構成図である。
【図2】(A)電気ヒーターと発電部との接続関係を示す概略図、及び(B)反応器の構成を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る車両用化学蓄熱システムの反応器に対する制御構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る車両用化学蓄熱システムを構成する蓄熱ECUを示すブロック図である。
【図5】電気ヒーター層の温度、電気ヒーターの抵抗、電圧、電流、及び電力量の時間変化を示すグラフである。
【図6】電気ヒーター層の温度及び反応器の蓄熱量の時間変化を示すグラフである。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る車両用化学蓄熱システムの反応器に対する制御構成を示すブロック図である。
【図8】電流電圧検出部と電気ヒーターとの接続関係を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る車両用化学蓄熱システムを構成する蓄熱ECUを示すブロック図である。
【図10】本発明の第3の実施形態に係る車両用化学蓄熱システムの反応器に対する制御構成を示すブロック図である。
【図11】電気ヒーター層の温度、電気ヒーターの抵抗、電圧、電流、及び電力量の時間変化を示すグラフである。
【図12】電気ヒーター層の温度及び反応器の蓄熱量の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る車両用化学蓄熱システム10について、図1〜図6に基づいて説明する。
【0019】
図1には、車両用化学蓄熱システム10の概略全体構成が模式的なシステム構成図にて示されている。この図に示される如く、車両用化学蓄熱システム10は、ステンレスなどの金属材料で構成された容器12内における化学蓄熱材用空間としての蓄熱層に化学蓄熱材(図示所略)が充填された反応器16を備えている。反応器16を構成する化学蓄熱材は、脱水に伴って蓄熱(吸熱)し、水和(水酸化カルシウムへの復原)に伴って放熱(発熱)する構成とされている。
【0020】
この実施形態では、化学蓄熱材として、アルカリ土類金属の水酸化物の1つである水酸化カルシウム(Ca(OH))が採用されている。したがって、反応器16内では、以下に示す反応で蓄熱、放熱を可逆的に繰り返し得る構成とされている。
【0021】
Ca(OH) ⇔ CaO + H
【0022】
この式に蓄熱量、発熱量Qを併せて示すと、
【0023】
Ca(OH) + Q → CaO + H
CaO + HO → Ca(OH) + Q
【0024】
となる。この化学蓄熱材(Ca(OH))の1kg当たりの蓄熱容量は、略1.86[MJ/kg−Ca(OH)]とされている。
【0025】
さらに、この実施形態では、図2(B)の断面図に示すように、反応器16の容器12内には、2つの蓄熱層16Aの間であって、隔壁17を介して蓄熱層16Aに隣接するように配置された電気ヒーター層16Bが設けられている。このように、電気ヒーター層16Bは、蓄熱層16A内の化学蓄熱材との熱交換可能に、蓄熱層16Aに隣接して設けられている。電気ヒーター層16Bには、エネルギー変換部としての電気ヒーターが内蔵されている。電気ヒーターは、例えば、ヒーター線(発熱部)と絶縁部などを用いて構成されている。また、蓄熱層16Aの各々に隣接し、かつ、電気ヒーター層16Bと反対側に、化学蓄熱材に反応媒体蒸気を供給するための蒸気拡散層16Cが設けられている。
【0026】
図2(A)に示すように、電気ヒーター層16Bの電気ヒーターは、後述する電力供給部90(図3参照)を介して、電気エネルギー源としての発電部22に接続されている。この実施形態では、発電部22は、電気モータであり、例えば車両用化学蓄熱システム10が適用された自動車の駆動源としての電気モータであり、バッテリへの充電ができない余剰電力が、発電部22から電力供給部90に供給される構成とすることができる。余剰電力としては、例えば、車両減速に伴う回生エネルギ相当分や、燃料電池等の発電装置を搭載する構成においては、負荷変動に伴う余剰発電量相当分が挙げられる。
【0027】
また、図3に示すように、車両用化学蓄熱システム10は、反応器16の電気ヒーター層16Bの内部の温度Tdに対応した信号を出力する内部温度センサ88と、発電部22から供給された電力を用いて、電気ヒーター層16Bの電気ヒーターに電力を供給する電力供給部90と、内部温度センサ88によって検出された温度に基づいて、電力供給部90から供給される電力量を制御する電力量制御部92と、電力供給部90から電気ヒーターへ供給される電流及び印加される電圧を検出する電流電圧検出部94とを備えている。
【0028】
電力量制御部92は、内部温度センサ88により検出された温度Tdと、予め設定された温度Tsとの偏差ε(=Ts−Td)に基づいた制御信号を、電力供給部90に出力することにより、電力供給部90から供給される電力量を制御する。これにより、電気ヒーター層16Bの温度を所定温度に設定することが可能となる。
【0029】
また、反応器16には、熱輸送ライン(図示省略)が接続されている。熱輸送ラインにおける下流側には、車両用化学蓄熱システム10による加熱対象(図示省略)との熱交換部が設けられている。これにより、車両用化学蓄熱システム10では、反応器16で化学蓄熱材が放熱した熱を加熱対象の加熱(暖機)に供することができる構成とされている。熱輸送ラインの下流端は大気開放端とされている。加熱対象としては、内燃機関EG、該内燃機関EGの排気ガスを浄化するための排気触媒、モータ駆動用のバッテリを統制する構成では該バッテリなどが挙げられ、複数の加熱対象(候補)から一部の加熱対象を選択する構成としても良い。
【0030】
また、車両用化学蓄熱システム10は、反応器16の蒸気拡散層16Cから導入された水蒸気を凝縮する凝縮部、及び水を蒸発させて反応器16の蒸気拡散層16Cに供給する水蒸気を生成する蒸発部としての機能を兼ね備える蒸発・凝縮器30を備えている。蒸発・凝縮器30は、反応器16の蒸気拡散層16Cに水蒸気循環ライン32を介して連通された蒸気流路34と、蒸気流路34内の水蒸気を凝縮すると共に、蒸気流路34内の水を蒸発させるための媒体流路38とが容器40内に形成されて構成されている。媒体流路38は、内部を流れる冷媒、熱媒と蒸気流路34内の水又は水蒸気との熱交換可能に、該蒸気流路34に隣接(図示は省略)して設けられている。
【0031】
蒸気流路34は、水蒸気循環ライン32、反応器16の蒸気拡散層16Cと共に真空脱気されている。水蒸気循環ライン32には、蒸気流路34と蒸気拡散層16Cとの連通、非連通を切り替えるための開閉弁42が設けられている。また、蒸気流路34における重力方向の低所は、水循環ライン44を介して水タンク46に連通されている。水循環ライン44には、ウォータポンプ48、開閉弁50が設けられている。水タンク46は、蒸気流路34で凝縮された水を、該蒸気流路34で蒸発させるための水として貯留するようになっている。ウォータポンプ48は、作動することで、水タンク46の水を蒸気流路34に供給するようになっている。
【0032】
媒体流路38には、冷媒循環ライン52が接続されている。冷媒循環ライン52には、冷却器54及び冷媒ポンプ56が媒体流路38と直列を成すように設けられている。これにより、冷媒ポンプ56が作動されることで冷媒が媒体流路38、冷却器54を循環し、媒体流路38における水蒸気の凝縮熱を冷却器54で放熱するようになっている。すなわち、車両用化学蓄熱システム10では、蒸発・凝縮器30を構成する媒体流路38での水蒸気から水への凝縮を維持するための凝縮器冷却系58が構成されているものと捉えることができる。
【0033】
冷媒循環ライン52は、媒体流路38の上流側及び下流側の各々で分岐しており、各分岐点で、冷却水循環ライン62に接続されている。冷却水循環ライン62には、冷却器64、冷却水ポンプ66、及び内燃機関EGが媒体流路38と直列を成すように設けられている。これにより、冷却水ポンプ66が作動されることでエンジン冷却水が内燃機関EG、媒体流路38、冷却器64を循環し、熱媒を媒体流路38に流すことにより、蒸気流路34内の水を蒸発させるようになっている。すなわち、車両用化学蓄熱システム10では、蒸発・凝縮器30の媒体流路38での水の蒸発のための蒸発熱を付与するための蒸発器加熱系60が構成されているものと捉えることができる。蒸発・凝縮器30では、熱媒から水への放熱(熱交換)が行われる構成である。
【0034】
冷媒循環ライン52と冷却水循環ライン62との2つの接続位置(分岐位置)には、媒体流路38に流れる媒体を、冷媒循環ライン52の冷媒及び冷却水循環ライン62のエンジン冷却水の何れかにするかを切り換える切換バルブ68A、68Bが設けられている。
【0035】
また、図4に示されるように、車両用化学蓄熱システム10は、蓄熱ECU82を備えている。蓄熱ECU82は、開閉弁42、50、切換バルブ68A、68B、ウォータポンプ48、冷媒ポンプ56、冷却水ポンプ66、冷却器54、64のそれぞれに電気的に接続されており、これらの動作を制御するようになっている。
【0036】
この蓄熱ECU82には、自動車の図示しないスタートスイッチ(運転制御ECUやメインコントローラ)から適用された自動車の運転状態に応じた信号が入力されるようになっている。また、蓄熱ECU82は、内部温度センサ88及び電流電圧検出部94に電気的に接続されている。
【0037】
蓄熱ECU82は、電流電圧検出部94によって検出された電流及び電圧、並びに内部温度センサ88によって検出された温度に基づいて、反応器16の蓄熱量を算出する。
【0038】
ここで、本実施の形態における蓄熱量を算出する原理について説明する。
【0039】
検出された電流(I[A])、電圧(V[V])、電気ヒーター層16Bの内部温度により、供給電力量V×I×t[kJ](t:ヒーター加熱時間[s])と、全熱容量Ct[kJ/K](ヒーター層熱容量Ch、蓄熱層Cr、蒸気拡散層Cs、反応容器Cv[kJ/K]の和)における顕熱変化量ΔHt[kJ]と、外周への放熱量Qlとの関係から、以下の(1)式、(2)式に従って、蓄熱量Qs [kJ]を算出することができる。
【0040】
Qs[kJ]=V×l×t-ΔHt-Ql (Td≧Ts) ・・・(1)
Qs[kJ]=0 (Td≦Ts) ・・・(2)
顕熱変化量ΔHt[kJ]=Ct・(Td-Tl)
反応器熱容量 Ct[kJ]=Ch+Cr+Cs+Cv
放熱量 Ql[kJ]=f(Td,Ti)
【0041】
ただし、V[V]は検出電圧、I[A]は検出電流、Ch[kJ/K]は予め求められた電気ヒーター層16Bの熱容量、Cr[kJ/K]は予め求められた蓄熱層16Aの熱容量、Cs[kJ/K]は予め求められた蒸気拡散層16Cの熱容量、Cv[kJ/K]は予め求められた容器12の熱容量である。また、Ts[℃]は予め求められた脱水開始温度、Td[℃]は検出温度、Ti[℃]は予め求められた初期温度である。また、図5に示すように、Td≧Tsは、脱水開始の状態を表し、Td≦Tsは、脱水開始前の状態を表している。
【0042】
蓄熱ECU82は、上記(1)式、(2)式に従って、反応器16の蓄熱量を算出する。これにより間欠的な電力供給条件であっても、図6に示すように、蓄熱量を正確に把握することが可能となり、蓄熱材に熱を供給する電気ヒーターへの過剰な電力供給を防止することにより、電気エネルギーを有効利用することができる。
【0043】
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
【0044】
まず、発電部22から反応器16へ電力が供給されて、蓄熱モードが開始されると、蓄熱ECU82によって、電力供給部90からの電力供給を開始させると共に、凝縮器冷却系58の冷媒ポンプ56、冷却器54を作動させる。これにより、冷却器54、蒸発・凝縮器30の順で冷媒が冷媒循環ライン52を循環する。また、蓄熱ECU82は、開閉弁42、50をそれぞれ開放させる。
【0045】
反応器16では、電気ヒーター層16Bから供給された熱によって蓄熱層16Aの化学蓄熱材が脱水反応を生じ、該化学蓄熱材への蓄熱が成される。そして、化学蓄熱材の脱水反応に伴って生じた水蒸気が水蒸気循環ライン32を介して蒸発・凝縮器30の蒸気流路34に導入されると、該水蒸気が媒体流路38を流れる冷媒との熱交換によって凝縮され、重力にて水タンク46に回収される。水蒸気との熱交換で加熱された冷媒は、冷却器54で外気と熱交換することで冷却される。これにより、反応器16での蓄熱動作が維持される。
【0046】
このとき、内部温度センサ88の信号に基づき、電力量制御部92は、電力供給部90からの電力量を制御し、電気ヒーター層16Bの温度が設定温度となるように制御する。また、蓄熱ECU82は、内部温度センサ88によって検出された温度、及び電流電圧検出部94によって検出された電流・電圧に基づいて、化学蓄熱材の蓄熱量を算出する。また、蓄熱ECU82は、化学蓄熱材の蓄熱量が、予め求められた最大蓄熱量に達したこと(蓄熱率100%)を検出すると、蓄熱が完了したと判断し、蓄熱ECU82は、電力供給部90からの電力供給を停止させる。また、蓄熱ECU82は、開閉弁42、50をそれぞれ閉止させると共に、凝縮器冷却系58の冷媒ポンプ56、冷却器54を停止させ、蓄熱モードを終了する。
【0047】
また、加熱対象の加熱が必要となり、放熱モードに遷移した場合には、加熱対象の要求熱量(W)を求め、蓄熱ECU82は、要求熱量だけ反応器16(化学蓄熱材)に放熱させるための水和反応量(W)を算出する。また、蓄熱ECU82は、開閉弁42、50をそれぞれ開放させ、ウォータポンプ48を作動させる。
【0048】
次いで蓄熱ECU82は、水和反応を行うために必要な量の水蒸気を蒸発・凝縮器30が発生するように、蒸発器加熱系を制御し、蒸発器加熱系の熱媒は、蒸発・凝縮器30の媒体流路38において、水タンク46から蒸気流路34に供給された水との熱交換(凝縮熱の付与)に供される。これにより、蒸気流路34から反応器16の反応流路14に水蒸気が供給され、反応流路14内の化学蓄熱材が水和反応を生じ、該水和反応に伴い放熱する。この熱は、熱輸送ラインを流れる空気によって加熱対象に輸送され、該加熱対象の加熱(暖機)に寄与する。
【0049】
さらに、蓄熱ECU82は、加熱対象の昇温が完了したか否かを判断し、加熱対象の昇温が完了したと判断した場合、蓄熱ECU82は、開閉弁42、50をそれぞれ閉止させると共に、ウォータポンプ48を停止させ、放熱モードを終了する。
【0050】
以上説明したように、第1の実施の形態に係る車両用化学蓄熱システムによれば、電気ヒーター層へ供給される電流及び印加される電圧を検出すると共に、電気ヒーター層の温度を検出し、検出された電流及び電圧、並びに検出された温度に基づいて、反応器の蓄熱量を算出することにより、電気エネルギーを熱へ変換して貯蔵する場合において、蓄熱量を精度よく算出することができる。また、算出した蓄熱量に基づいて、化学蓄熱材に熱を供給する電気ヒーターへの過剰な電力供給を防止することにより、エネルギーを有効利用することができる。
【0051】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る車両用化学蓄熱システム10について、図7〜図9に基づいて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0052】
図7には、車両用化学蓄熱システム10の反応器16に対する制御構成が模式的なシステム構成図にて示されている。この図に示される如く、第2の実施形態に係る車両用化学蓄熱システム10は、内部温度センサが、反応器16に内設されていない点で、第1の実施形態に係る車両用化学蓄熱システム10とは異なる。
【0053】
また、図8に示すように、電流電圧検出部294は、電気ヒーター層16Bの電気ヒーター(ヒーター電気抵抗)との間が4本の導線で接続される4線式となっている。これにより、ヒーター電気抵抗(Rh)が小さい場合には、導線抵抗(RL)が無視できないレベルとなるため、4線式により導線抵抗RLを相殺・排除させて、検出精度を向上させることができる。
【0054】
図9に示すように、蓄熱ECU82は、電流電圧検出部94によって検出された電流及び電圧と、予め求められた電気ヒーター層16Bのヒーター材質の抵抗温度係数α[1/K]、電気抵抗率ρ[Ωm]、及びヒーター線の形状(断面積A[m2]、長さL[m])とに基づいて、以下の(3)式に従って、電気ヒーター層16Bの内部温度Tdを算出して、電力量制御部92に出力する。
【0055】
【数1】

【0056】
ただし、ρo[Ωm]は、予め求められた電気ヒーター層16Bのヒーター材質の電気抵抗率であり、α[1/K]は予め求められた電気ヒーター層16Bのヒーター材質の抵抗温度係数である。A[m2]は予め求められた電気ヒーター層16Bのヒーター線の抵抗断面積であり、L[m]は予め求められた電気ヒーター層16Bのヒーター線の抵抗長さである。T0[℃]は、予め定められた基準温度である。
【0057】
電力量制御部92は、蓄熱ECU82により算出された温度Tdと、予め設定された温度Tsとの偏差ε(=Ts−Td)に基づいた制御信号を、電力供給部90に出力することにより、電力供給部90から供給される電力量を制御する。
【0058】
また、蓄熱ECU82は、電流電圧検出部94によって検出された電流及び電圧、並びに算出された温度Tdに基づいて、上記(1)式、(2)式に従って、反応器16の蓄熱量を算出する。
【0059】
なお、第2の実施の形態に係る車両用化学蓄熱システム10の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0060】
以上説明したように、第2の実施の形態に係る車両用化学蓄熱システムによれば、検出された電流及び電圧に基づいて、電気ヒーター層の温度を算出するため、反応器に温度センサを内設せずに、蓄熱量を算出することができる。
【0061】
なお、上記の実施の形態では、電流電圧検出部を、4線式で電気ヒーターと接続した場合を例に説明したが、電気ヒーターの抵抗が大きい場合には、導線抵抗を無視できるため、電流電圧検出部を、2線式で電気ヒーターと接続するようにしてもよい。
【0062】
(第3の実施形態)
【0063】
本発明の第3の実施形態に係る車両用化学蓄熱システム10について、図10〜図12に基づいて説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0064】
図10には、車両用化学蓄熱システム10の反応器16に対する制御構成が模式的なシステム構成図にて示されている。この図に示される如く、車両用化学蓄熱システム10は、内部温度センサが反応器16に内設されていない点と、電力量制御部を設けていない点とで、第1の実施形態に係る車両用化学蓄熱システム10とは異なる。
【0065】
蓄熱ECU82は、電流電圧検出部94によって検出された電流及び電圧と、予め求められた電気ヒーター層16Bのヒーター材質の抵抗温度係数α[1/K]、電気抵抗率ρ[Ωm]、及びヒーター線の形状(断面積A[m2]、長さL[m])とに基づいて、上記(3)式に従って、電気ヒーター層16Bの内部温度Tdを算出して、電力量制御部92に出力する。
【0066】
電力供給部390は、発電部22から供給された電力を用いて、電気ヒーター層16Bの電気ヒーターに対して、一定電圧となるように電力を供給する。発電部22から電力が供給されていない場合には、電力供給部390から電気ヒーター層16Bの電気ヒーターへは、電力が供給されない。
【0067】
ここで、本実施の形態における電気ヒーター層16Bへの電力量を制御する原理について説明する。
【0068】
電力供給部390の電力供給を一定電圧による供給とし、電力量制御部を持たないとした場合、図11、図12に示すように、蓄熱完了後は吸熱項Qsの減少により発熱と吸熱のバランスが崩れてヒーター温度は上昇する。ヒーター温度の上昇に伴い電気抵抗は増大するため、一定電圧の供給において供給電力量は抑制され、脱水後の発熱と吸熱のバランスが回復し、ヒーター温度の過昇温を抑制することが可能となる。これにより、一定電圧による電力供給部390が、脱水完了のヒーター過昇温を防止する保護機能を有するため、電力量制御部を持つことなく、化学蓄熱材を脱水することが可能となる。
【0069】
なお、第3の実施の形態に係る車両用化学蓄熱システム10の他の構成及び作用については、第1の実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0070】
以上説明したように、第3の実施の形態に係る車両用化学蓄熱システムによれば、電力制御手段を持つことなく、電気ヒーターの電流抑制機能により電気ヒーターの過昇温を防止することができる。
【0071】
また、上記の第1の実施の形態〜第3の実施の形態では、車両用化学蓄熱システムに本発明を適用する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、車両以外に搭載された化学蓄熱システムに、本発明を適用するようにしてもよい。
【0072】
また、エネルギー変換部として、電気ヒーターを用いた場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、電気エネルギーを熱に変換できるものであれば、電気ヒーター以外のエネルギー変換部であってもよい。
【0073】
また、上記した実施形態では、蒸発器としての機能と凝縮器としての機能とを併せ持つ蒸発・凝縮器30を備えて車両用化学蓄熱システムが構成された例を示したが、これに限定されるものではなく、例えば、車両用化学蓄熱システムが、独立して構成された蒸発器、凝縮器を備えた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10 車両用化学蓄熱システム
12 容器
16 反応器
16A 蓄熱層
16B 電気ヒーター層
16C 蒸気拡散層
22 発電部
30 蒸発・凝縮器
82 蓄熱ECU
88 内部温度センサ
90 電力供給部
90、390 電力供給部
92 電力量制御部
94、294 電流電圧検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気を熱に変換するエネルギー変換部と、前記エネルギー変換部からの熱供給により脱水反応を行って蓄熱し、かつ、水和反応により放熱する化学蓄熱材とが内蔵された反応器と、
前記反応器から前記脱水反応に伴って放出された水蒸気を、冷媒との熱交換によって凝縮させると共に、冷媒との熱交換によって水を蒸発させることで、前記水和反応のための水蒸気を前記反応器に供給する蒸発凝縮部と、
前記エネルギー変換部に電力を供給する電力供給部と、
前記電力供給部から前記エネルギー変換部へ供給される電流及び印加される電圧を検出する電流電圧検出部と、
前記エネルギー変換部の温度を検出する温度検出部と、
前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記電力供給部から供給される電力量を制御する電力量制御部と、
前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧、並びに前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記反応器の蓄熱量を算出する蓄熱量算出部と、
を含む化学蓄熱システム。
【請求項2】
電気を熱に変換するエネルギー変換部、及び前記エネルギー変換部からの熱供給により脱水反応を行って蓄熱し、水和反応により放熱する化学蓄熱材が内蔵された反応器と、
前記反応器から前記脱水反応に伴って放出された水蒸気を、冷媒との熱交換によって凝縮させると共に、冷媒との熱交換によって水を蒸発させることで、前記水和反応のための水蒸気を前記反応器に供給する蒸発凝縮部と、
前記エネルギー変換部に対して一定電圧となるように電力を供給する電力供給部と、
前記電力供給部から前記エネルギー変換部へ供給される電流及び印加される電圧を検出する電流電圧検出部と、
前記エネルギー変換部の温度を検出する温度検出部と、
前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧、並びに前記温度検出部によって検出された温度に基づいて、前記反応器の蓄熱量を算出する蓄熱量算出部と、
を含む化学蓄熱システム。
【請求項3】
前記蓄熱量算出部は、前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧、前記温度検出部によって検出された温度、及び予め求められた前記反応器の熱容量に基づいて、前記エネルギー変換部へ供給された総電力量と、前記熱容量における顕熱変化量と、放熱量との関係に従って、前記反応器の蓄熱量を算出する請求項1又は2記載の化学蓄熱システム。
【請求項4】
前記温度検出部は、前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧に基づいて、前記エネルギー変換部の温度を算出する請求項1〜請求項3の何れか1項記載の化学蓄熱システム。
【請求項5】
前記温度検出部は、前記電流電圧検出部によって検出された電流及び電圧と、予め求められた前記エネルギー変換部の抵抗温度係数、電気抵抗率、抵抗断面積、及び抵抗長さとに基づいて、前記エネルギー変換部の温度を算出する請求項4記載の化学蓄熱システム。
【請求項6】
前記電力供給部は、車両に搭載された駆動部から供給される電力を、前記エネルギー変換部に供給する請求項1〜請求項5の何れか1項記載の化学蓄熱システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−113551(P2013−113551A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262349(P2011−262349)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)