説明

化学誘引物質に対する増大された感受性を有する幹細胞およびそれを産生および使用する方法

本発明は、化学的誘引物質に対する増大された感受性を示す幹細胞、さらに詳細には、幹細胞移植を含む臨床用途でのようなそれらの産生および使用の方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的誘引物質(chemoattractant)に対する増大された感受性を示す幹細胞、さらに詳細には、幹細胞移植を含む臨床用途でのようなそれらの産生および使用の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異常な臓器機能により引き起こされる障害の臨床的治療では、典型的にはこのような異常な臓器機能を補正するか、または機能不全の臓器組織を治療するために設計される薬剤を使用する。しかし、ある種の症例では、薬学的治療は、臓器機能がしばしば複雑であり、および/または、完全には理解されていないので授けられ得ない。
【0003】
このような場合には、唯一の生存可能な選択肢は、非機能的臓器の外科的置換であり、そしてそれは、現在、急性および慢性の両方の肝臓および腎臓不全の治療のために、並びに、癌および特定の先天性異常の治療のために広く使用されている。しかし、ドナー臓器の必要性は、その供給をはるかに超過している。臓器不足は、移植用の成人臓器を分割するなどの新たな外科的技術をもたらした。十分に素晴らしい結果にもかかわらず、このような技術は、なお、ドナー組織の不足に悩んでいる。
【0004】
生存可能なドナー組織の不足は、幹細胞の柔軟性、すなわち、新しい場所において幹細胞が配置されるその臓器には通常は存在しない細胞種を生じるその能力に依存する幹細胞交換療法の出現をもたらした。
【0005】
幹細胞は、一般に、それらの起源、特に成人、胚性または新生児の起源によって分類される。胚盤胞の内細胞塊に由来する胚性幹細胞は、多能性であり、全3つの胚葉に見出される細胞になり得る。長年信じられてきたにもかかわらず、成人の幹細胞は、以前に考えられていたようには、系統的に限定されない。特に、造血および神経系の幹細胞は、系統的境界を越えて最も多様性があるように見える。たとえば、最近の報告では、ヒト起源の造血幹細胞(HSC)が、肝性の(hepatic)潜在性を有することを示唆している。性別不一致の提供者からの肝臓または骨髄移植の研究では、レシピエントにおいて骨髄由来の造血細胞を確認した[Alison(2000年)Nature 406巻:257頁、Theise(2000年)Hepatology 32巻:11−16頁、Korbling(2002年)N Engl J Med 346巻:738−746頁]。マウスおよびラットHSCも、照射または損傷を受けた成体肝臓に移動し、そして肝細胞に分化することも明らかになった[Petersen(1999年)、Science 284巻:1168−1170頁、Theise(2000年)Hepatology 31巻:235−240頁、Lagasse(2000年)Nat Med 6巻:1229−1234頁]。さらに、マウス造血幹細胞の単回移植では、照射を受けたレシピエントの肝臓において、肝上皮細胞の免疫組織化学的および形態学的特性を示す、低い含有率の移植細胞を有するHSC由来の細胞を検出した[Krause(2001年)、Cell 105巻:369−377頁]。
【0006】
造血幹細胞の循環を誘導する機構は、幹細胞移植の成功が移植細胞をレシピエントの組織へ効率良く標的化(ホーミングとも称される)することに依存するので、臨床的に重要である[Mazoおよびvon Adrian(1999年)、Journal of leukocyte Biology 66巻、25−32頁]。あらゆる他の臓器の移植での場合と同様に、骨髄移植は浸潤的手術を必要としないが、むしろ単純な静脈灌流により達成される可能性があるのは、移植細胞のこのホーミングによる。
【0007】
HSCのホーミングは、循環中のHSCに、骨髄上皮細胞を識別させ、それに付着させ、そしてそれに渡って移動させる一連の分子間相互作用として定義され、そして特徴的な骨髄の造血促進微環境(hematopoiesis-promoting microenvironment)でのHSCの蓄積を生じうる。前駆細胞(progenitor cells)のホーミングは、多段階現象として考えられうる[Voermans(2001年)、J.Hematother.Stem Cell Res.10巻:725−738頁、Lapidot(2002年)、Leukemia 16巻:1992−2003頁]。骨髄に出現するHSCは、骨髄内皮の管腔表面と最初に相互作用する必要がある。この相互作用は、HSCが微小血管(microvasculature)に入った後数秒以内に起こるはずであり、そして粘着細胞が、流動中の血液によって発揮されるせん断力(shear force)に抵抗することを可能にするのに十分な物理的強度を供する。付着したHSCは、その後、内皮層を通過して、造血区分に入るに違いない。溢出した後にHSCは、系統特異的HSC分化、増殖および成熟に加えてストローマ細胞由来のサイトカインおよび他の成長シグナルに関与する過程である、ジャクスタポジションが自己更新過程により未熟なプールの維持をサポートする特化されたストローマ細胞に出会う。
【0008】
幹細胞ホーミングに関与するほんの限定された数の因子が、現在までに知られている;これらには、c−キット(c-kit)用のリガンド、幹細胞因子が含まれ、そしてそれは、基質に対するHSCの接着での主要な役割を果たすことが示された;さらにインテグリン相互作用(たとえば、β1−インテグリン)が含まれ、そしてそれは、胎児の肝臓へのHSCの遊走に重要であることが示された[Zanjani(1999年)Blood. 94巻:2515−2522頁]。HSCホーミングに重要であると見なされる1つの重要な分子間相互作用は、ケモカインであるストローマ細胞由来因子(SDF−1)およびそれの同種の受容体CXCR4によるものである。
【0009】
SDF−1は今までに知られているヒト[Aiuti(1997年)J.Exp.Med.185巻:111−120頁]およびマウス[Wright(2002年)J.Exp.Med.195巻:1145−1154頁]両方の起源の造血幹細胞に対する強力な化学誘引物質(chemoattractant)である。SDF−1は、たとえば肝臓[Shirozu(1995年)Genomics 28巻:495−500頁、Nagasawa(1996年)Nature 382巻:635−638頁、Goddard(2001年)Transplantation 72巻:1957−1967頁]など、発生過程[McGrath(1999年)Dev.Biol.213巻:442−456頁]から成人期[Nagasawa(1994年)Proc Natl Acad Sci USA 91巻:2305−2309頁、Imai(1999年)Br J Haematol 106巻:905−911頁、Pablos(1999年)Am J Pathol 155巻:1577−1586頁]にわたって幅広く多数の組織で発現されている。これまでに本発明者らは、ソートしたヒトCD34+/CD38-/低幹細胞を、照射を受けた免疫欠損種NOD/SCIDおよびNOD/SCID/B2mヌルマウスの尾部静脈に、移植したことによって、骨髄へのホーミングおよび再構築(repopulation)することが、SDF−1/CXCR4相互作用に依存することを示せた[Peled(1999年)Science 283巻:845−848頁、Kollet(2001年)Blood 97巻:3283−3291頁]。
【0010】
より最近、本発明者らは、マウスおよびヒト幹細胞のG−CSF誘導可動化(G-CSF-induced mobilization)におけるこれらの相互作用についての役割も確立した[Petit(2002年)Nat Immunol 3巻:687−694頁]。
【0011】
幹細胞療法の用途をいっそう拡張していくことの観点から、細胞置換療法(cell replacement therapy)の効率および成功率を改善するために、幹細胞ホーミングおよび標的再構築の背後の機構をさらに解明することは非常に望ましい。
【0012】
本発明を考えだすにあたって、本発明者らは、ストレス状態(stress conditions)が標的組織に対する幹細胞ホーミングを促進しうると仮定した。この仮説は、以下に示す先行研究によって強力に支持される:
(i)幹細胞は、損傷を受けたマウス肝臓に再構築することが見出された一方で、このような所見が、パラビオーゼマウス(parabiotic mice)で観察されなかった[Wagers(2002年)Science 297巻:2256−2259頁]ことから、再構築は非照射または非損傷である無傷の肝臓という恒常的な条件では生じないことを示唆した。
【0013】
(ii)照射を受けた肝臓に植えこんだ造血幹細胞で、肝細胞様アルブミン産生細胞に発達する細胞の度合いは非常に低いが、この過程は、肝臓の損傷またはウイルス性炎症により増幅されうる。したがって、酵素(FAH)の欠損による進行中の重篤な肝細胞傷害を示すフマリルアセトアセテートヒドロラーゼ(FAH)ヌルマウスに存在する強力な選択条件下で、移植された精製マウス造血幹細胞の膨大な増幅がみられ、それら細胞は代謝障害の改善と共に、肝形態学および機能を示している[Lagasse(2000年)Nat Med 6巻:1229−1234頁]。
【0014】
(iii)野生型レシピエントに移植され、続いてFasを介したアポトーシスにより誘導される肝臓の連続損傷および再生を繰り返されたBcl−2トランスジェニックマウスから得られる骨髄(BM)細胞による肝臓の再構築は、肝細胞への分化に続く移植された骨髄細胞の選択的な増幅の別の例を示す[Mallet(2002年)Hepatology 35巻:799−804頁]。
【0015】
(iv)移植された肝臓がC型肝炎ウイルスに感染した肝臓移植レシピエントにおいて、高濃度の骨髄由来の肝細胞が報告された[Theise(2000年)Hepatology 32巻:11−16頁]。
【0016】
要するに、これらの観察は、肝表現型を得る造血幹細胞のポテンシャルが、ストレス条件下で、明らかに増幅されうることを示す。しかし、損傷を受けた組織への幹細胞補充を調節し、そしてそれらの望ましい表現型を誘導する機構および因子は、現在知られていない。
【発明の開示】
【0017】
本発明の1つの態様によれば、幹細胞を、幹細胞の少なくとも1種の化学誘引物質受容体のレベル(level)を増大させ、それにより化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させる能力を有するマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分にさらすことを包含する、化学誘引物質に対する幹細胞の感受性(sensitivity)を増大させる方法が提供される。
【0018】
本発明の別の態様によれば、それを必要とする対象に、幹細胞の少なくとも1種の化学誘引物質受容体のレベルを増大させて、それによりその対象における細胞または組織交換を必要とする障害を治療する能力を有するマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分で処理した治療上有効な量の幹細胞を供することを包含する、細胞または組織交換を必要とする障害を治療する方法が提供される。
【0019】
本発明のさらに別の態様によれば、幹細胞の少なくとも1種の化学誘引物質受容体のレベルを増大させる能力を有するマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分、および幹細胞培養に適切な緩衝溶液を包含する培養培地であって、化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させるのに適切な培養培地の方法が提供される。
【0020】
下に記述される本発明の好ましい実施態様における別の特徴によれば、培養培地は、さらに、分化阻害因子を包含する。
【0021】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、培養培地は、さらに、血清または血清代替物を包含する。
【0022】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、培養培地は、さらに、SCF、HGFおよびIL−6よりなる群から選択される剤を包含する。
【0023】
本発明のさらに別の実施態様によれば、標的組織に対する幹細胞のホーミングを増大させるための薬剤を製造するために、マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分の用途が提供される。
【0024】
本発明の追加の実施態様によれば、(a)幹細胞を採取(collect)すること、(b)幹細胞を、マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分にさらすこと、および(c)所定の閾値より上のCXCR4レベルを示す幹細胞を単離して、それにより、移植に適した幹細胞を産生させることを包含するものである、移植に適した幹細胞を産生させる方法が提供される。
【0025】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によって、マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分にさらされる幹細胞は、(i)幹細胞中でマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分をコードするポリヌクレオチドを発現させ;および/または(ii)その幹細胞を、マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分と接触させることによって達成される。
【0026】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、幹細胞を採取することは、(i)幹細胞可動化手段(mobilization procedure);および/または(ii)外科的手段によって達成される。
【0027】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、所定の閾値より上のCXCR4レベルを示す幹細胞を単離することは、FACSによって達成される。
【0028】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、本方法は、さらに、工程(c)に続いて所定の閾値より上のCXCR4レベルを示す幹細胞のホーミング能力を決定することを包含する。
【0029】
本発明のさらに追加の態様によれば、マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分をコードする第一のポリヌクレオチド配列、および細胞中のポリヌクレオチドの発現を導く誘導性シス作用調節因子(cis-acting regulatory element)を包含する核酸構築物が提供される。
【0030】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、誘導性シス作用調節因子は、ずれ応力活性化因子(shear stress activation element)である。
【0031】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、核酸構築物は、さらに、第一のポリヌクレオチド配列に翻訳で融合されるべき第二のポリヌクレオチド配列を包含し、そしてその第二のポリヌクレオチド配列は、細胞の中から外へのマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分の分泌を指示する能力を有するシグナルペプチドをコードする。
【0032】
本発明のさらに追加の態様によれば、核酸構築物を包含する真核生物の細胞が提供される。
【0033】
本発明の別の態様によれば、マトリックスメタロプロテアーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを発現するために形質転換された幹細胞を包含する細胞株が提供される。
【0034】
本発明のなお追加の態様によれば、幹細胞の少なくとも1種の内因性MMPの発現または活性をアップレギュレーション(upregulation)して、それによって化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させることを包含するものである、化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大する方法が提供される。
【0035】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、少なくともひとつの化学誘引物質受容体はCXCR4である。
【0036】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、マトリックスメタロプロテアーゼは、MMP−2、MMP−3、MMP−9、MMP−10、MMP−13およびMMP−14よりなる群から選択される。
【0037】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、マトリックスメタロプロテアーゼは、MMP−2およびMMP−9よりなる群から選択される。
【0038】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、幹細胞は、造血幹細胞である。
【0039】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、造血幹細胞は、CD34+造血幹細胞である。
【0040】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、造血幹細胞は、CD34+/CD38-/低造血幹細胞である。
【0041】
記述される好ましい実施態様におけるさらに別の特徴によれば、幹細胞は、間葉幹細胞である。
【0042】
本発明のさらに別の態様によれば、患者に、少なくとも1種のマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分を投与することを包含する、必要である対象における化学誘引物質の感受性を増大させる方法が提供される。
【0043】
本発明は、化学誘引物質に対する感受性が増大したことを示す幹細胞、およびそれを産生および使用する方法を提供することによって、現在知られている構成の欠点に首尾よく対処する。
【0044】
別段の規定のない限り、ここに使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を示す。ここに記述されるものに類似か、または等価な方法および材料は、本発明の実施または試験に使用されうるが、適切な方法および材料は以下に記述される。論争の場合には、定義を含めた特許明細書がコントロールするであろう。さらに、材料、方法および実施例は、例示のみであって、限定することは意図されない。
【0045】
本発明を、添付の図面を参照して、実施例としてのみによって記述する。ここで、詳細に図面に関して特に、示される詳細は、実施例により、そして本発明の好ましい実施態様の例示の検討の目的のみであり、そして最も有用であると思われ、そして本発明の原理および概念上の実施態様の説明を十分に理解されるものを提供する理由に現れる。これに関して、本発明を基本的に理解するのに必要であるよりさらに詳細に本発明の構造的詳細を示す試みはなされておらず、図面と一緒になった説明は、本発明のいくつかの形態がどのように実際に実現されうるかを当業者に明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
本発明は、化学誘引物質に対して増大した感受性を示す幹細胞、およびそれを産生および使用する方法に関する。特に、本発明は、たとえば慢性または急性肝臓損傷を治療するような細胞または組織交換を必要とする障害を治療することを可能にする。
【0047】
本発明の原理および操作は、図面および付随の説明を参照してよりよく理解されうる。
【0048】
本発明の少なくとも1つの実施態様を詳細に説明する前に、本発明が、以下の記述で開示されるか、または実施例によって具体化された詳細にその用途が限定されないと理解すべきである。本発明は、他の実施態様を含むことができ、または種々の方法で実施または実行されうる。さらに、ここに使用される語法および用語は、説明の目的のためであって、限定すると見なされるべきでないことが理解されるべきである。
【0049】
細胞療法の用途は急速に成長しており、そして種々の障害の治療において次第に重要な治療様式になりつつある。造血幹細胞(HSC)(たとえば、骨髄から、臍帯血(umbilical cord blood )または可動化末梢血(mobilized peripheral blood))移植は、日常的に実施される保証償還細胞療法(insurance-reimbursed cellular therapy)の1つの例である。しかし、癌および感染性疾患についての免疫療法、軟骨欠損のための軟骨細胞療法、神経変性疾患のための神経細胞療法、および膨大な用途のための幹細胞療法を含めた多くの他の細胞療法が、同様に開発されつつある[Forbes(2002年)Clinical Science 103巻:355−369頁]。
【0050】
幹細胞療法に関連した問題の1つは、標的組織における細胞の長期間にわたる首尾よい移植を達成することの困難さである。最近、首尾よく移植された患者でも、非常に低いレベルの幹細胞および望ましい表現型を示す細胞を産生する未熟な前駆体(immature progenitors)を示している。
【0051】
したがって、幹細胞移植の成功は、静脈内注入した幹細胞が標的組織(たとえば、骨髄)に留まる能力に依存するのであり、そしてこのプロセスはホーミングと称される。ホーミングは多段階プロセスであり、骨髄洞様毛細血管の内皮細胞への幹細胞の接着、続いて化学誘引物質により導かれるトランス内皮遊走(transendothelial migration)、そして最後に、増殖および分化が起こる骨髄空間管外(extravascular bone marrow spaces)に定着することからなると仮定されている。
【0052】
研究により、接着分子、サイトカインおよび成長因子を含めた膨大な因子が、ホーミング過程に関与することが示された。1997年に、研究は、CD34+細胞の遊走(migration)が、化学誘引物質SDF−1によって支配されることを明らかにした。継続的研究は、インビトロにおいて、SDF−1がHSC上のインテグリンを活性化させ、HSCのトランス内皮遊走を誘発することを示した。SDF−1の受容体は、Gタンパク質に連動した受容体(G-protein coupled receptor)であり、CXCR−4と称される。SDF−1またはCXCR−4ノックアウトマウスにおいて造血前駆体が、胎児発生のあいだに骨髄に移行しないことは、SDF−1/CXCR−4相互作用が、幹細胞の遊走において重要な役割を担うことを示唆する[総説としては、Voermans(2001年)J.Hematother.Stem Cell Res.10巻:725−738頁、Lapidot(2002年)Leukemia 16巻:1992−2003頁を参照]。
【0053】
ホーミングプロセスの予備段階の理解にもかかわらず、幹細胞の遊走の調節についての情報はいまだに不完全および散漫である。幹細胞移植の効率の向上は、標的組織にホーミングする幹細胞の能力を調節することによって達成されうるであろうことは、十分に理解される。
【0054】
本発明を実施化しつつ、本発明者らは、マトリックスメタロプロテアーゼ活性が、造血幹細胞におけるCXCR4発現をアップレギュレート(upregulate)し、それにより損傷を受けた臓器組織へのSDF−1/CXCR4を介した幹細胞のホーミングを促進することを明らかにした。
【0055】
本発明者らは、MMP−2/9が、脾臓および骨髄への前駆体細胞のホーミング、および炎症がなくてもこのような臓器の再構築にも関与することを明らかにした。
【0056】
さらに、本発明らは、MMP−2/9の作用が、プレBLL細胞G2(pre BLL cell G2)のような白血病細胞の遊走にも関与することを示した。
【0057】
以下に説明され、そして続く実施例部分で示されるとおり、本発明者らは、肝臓損傷が、肝臓でのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性をアップレギュレートすること、そして損傷を受けた肝臓への造血前駆細胞のCXCR4発現およびSDF−1を介したホーミングの増加を導くことを示す。さらには、インビトロにおいて、分泌MMPで処理したCD34+前駆細胞が、CXCR4の発現および幹細胞の遊走をアップレギュレートする一方で、MMP阻害剤の添加が、遊走を完全に遮断することから、幹細胞のホーミングにおけるMMPの役割が実証された。
【0058】
マトリックスメタロプロテアーゼ活性(すなわち、MMP−2、3、9、10、13および14)は、肝臓損傷の後にアップレギュレートされること[Knittel(2000年)Histochem Cell Biol 113巻:443−453頁]が先に示されたが、ニットル(Knittel)の提案したHSCと称される肝星状細胞(Hepatic Stellate cells)のECMリモデリングおよび運動性における役割とは逆に、本発明者らは、MMP活性におけるこのアップレギュレーションが、CXCR4発現でのアップレギュレーションを導き、例えばHSCのように、そしてそれを発現した細胞のホーミングを促進することを最初に示した。
【0059】
さらに、エラスターゼ、カセプシン−G、MMP−2およびMMP−9のようなタンパク質分解酵素は、SDF−1のN末端部分で数個のアミノ酸を切断することによってSDF−1を不活性化し、それにより、走化性を欠いているケモカインを作成できること[Delgado(2001年)Eur.J.Immunol.31巻:699頁;McQuibban(2001年)J.Biol.Chem.276巻:43503頁]が分かったが、これらの事象は、ホーミングよりむしろ幹細胞の可動化(mobilization)に関係しており、2つの鏡像過程(two mirror image processes)は類似の機構を利用している。
【0060】
本所見は、幹細胞の産生を可能にし、そしてそれは、標的組織に有効に補充され得て、そしてそのようなものとして、肝臓損傷の補修、および肝臓または骨髄移植のような膨大な臨床用途で使用されうる。
【0061】
したがって、本発明の1つの態様によって、化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させる方法が提供される。
【0062】
さらに、本発明の別の態様によって、MMP−9/2阻害剤を使用することによって、プレBLL細胞のような白血病細胞の遊走を阻害する方法が提供される。
【0063】
ここに使用されるとおり、用語「幹細胞」は、特定の特化された機能(すなわち、「十分に分化された」細胞)を有する他の細胞種に分化しうる能力を有する細胞を意味する。
【0064】
本発明のこの態様による方法としては、幹細胞の少なくとも1種の化学誘引物質受容体のレベルを増大させ、それによって化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させうるマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分に幹細胞をさらすことが挙げられる。
【0065】
もうひとつの方法として、化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させることは、幹細胞の少なくとも1つの内因性MMPの発現または活性をアップレギュレートすることによっても達成されうる。
【0066】
下記でさらに記述されるとおり、マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分に幹細胞をさらすことは、その細胞を、該タンパク質またはそれの活性部分と接触させるか、または、これらの細胞内で、もしくはそれと共に培養された非幹細胞(たとえば、供給層(feeder layer)として使用される繊維芽細胞)中でそのタンパク質またはそれの活性部分を発現させることによるかのいずれかによって達成されうる。
【0067】
続く実施例部分で明瞭に示されるとおり、MMPに幹細胞をさらすことは、損傷を受けた組織にホーミングするそれらの能力をかなり増大させた。
【0068】
本発明の本態様によって使用されうる幹細胞の限定されない例は、あらゆる年齢での個体の骨髄組織から、または新生児個体の臍帯血から得られる造血幹細胞(HSC)および間葉幹細胞(MSC)、懐胎後形成した胚性組織から得られる胚性幹(ES)細胞(たとえば、胚盤)、または懐胎のあいだのいずれの時期、好ましくは懐胎の10週前の胎児の生殖組織から得られる胚性原基(EG)細胞である。本発明の本態様によって使用されうる幹細胞についてのさらなる説明は、下記に要約する。
【0069】
HSC−造血幹細胞(HSC)は、中でも、赤血球、リンパ球、マクロファージおよび巨核球のような造血または血液細胞の特定の種類のいずれかに分化する能力がある胎児肝臓、臍帯血、骨髄および末梢血に見出される形成多能性芽球細胞(formative pluripotential blast cells)である。HSCは特に骨髄内を適所として存在し、それらの能力を維持するために必要な全ての因子および全ての接着特性をサポートし、そして生体の寿命を超えて、成熟前駆体を適当なバランスがとれた生産をする[Whetton(1999年)Trends Cell Biol 9巻:233−238頁;Weissman(2000年)Cell 100巻:157−168頁;Jankowska−Wieczorek(2001年)Stem Cells 19巻:99−107頁;Chan(2001年)Br.J.Haematol.112巻:541−557頁]。
【0070】
本発明の本態様によるHSCは、好ましくは、CD34+細胞、そしてさらに好ましくはCD34+/CD38-/低細胞であり、そしてそれは、いっそう未発達の幹細胞集団であり、したがって、系統制限(lineage-restricted)されておらず、そして主要な長期骨髄再構築細胞(major long-term BM repopulating cells)であることが示された。
【0071】
MSC−間葉幹細胞は、サイトカインのような生物活性因子からの種々の影響によって、間葉または結合組織(すなわち、特化された要素をサポートする体の組織;たとえば、脂肪、骨性、基質、軟骨性、弾性および繊維性結合組織)の1つ以上の特定の型に分化する能力のある、とくに骨髄、血、真皮および骨膜で見出される形成多能性芽球細胞(formative pluripotential blast cells)である。
【0072】
およそ、プラスチックに接着する30%のヒト骨髄アスピレート細胞(human marrow aspirate cells)は、MSCであると考えられている。これらの細胞は、インビトロで展開され、そしてその後、分化誘導される。成熟したMSCが、インビトロで展開され、そして刺激により、骨、軟骨、腱、筋肉、または脂肪細胞を形成しうるという事実は、組織工学および遺伝子療法戦略にとって魅力である。インビボアッセイは、MSC機能を分析するために開発された。その循環に注入されたMSCは、上記された多数の組織に組込みうる。特に、骨格および心臓の筋肉は、5−アザシチジンにさらすことにより誘発され得て、そして培養中のラットおよびヒトMSCの神経系への分化は、β−メルカプトエタノール、DMSOまたはブチル化ヒドロキシアニソールにさらすことによって誘発されうる[Tomita(1999年)100巻:11247−11256頁;Woodbury(2000年)J.Neurosci.Res.61巻:364−370頁]。さらに、MSC由来の細胞は、末梢注入の後、並びにラットの脳へのヒトMSCの直接注入の後に、脳に深く組込まれることが見られた;それらは、神経幹細胞の発生時の遊走に使用される経路にそって遊走し、広く分布されるようになり、そしてHSC特化のマーカーを失い始める[Azizi(1998年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95巻:3908−3913頁]。間葉幹および系統特化(lineage-specific)細胞増殖を促進する方法は、米国特許第6,248,587号に開示される。
【0073】
米国特許第5,486,359号で記述されるSH2、SH3およびSH4のようなヒト間葉幹細胞(hMSC)表面のエピトープは、たとえば骨髄で存在するような、異種細胞集団から得られる間葉幹細胞集合をスクリーニングおよび捕捉する試薬として使用されうる。これらの前駆体間葉幹細胞は、種々の間葉系統に分化しうるので、CD45について陽性である前駆体間葉幹細胞は、好ましくは、本発明の本態様によって使用される。
【0074】
本発明の本態様による好ましい幹細胞は、ヒト幹細胞である。
【0075】
下の表1は、成人幹細胞(adult stem cell)の例を提供し、そしてそれは、本発明の本態様によって、目的の標的組織中の指標表現型を得るために使用されうる。
【0076】

【0077】
ここで上に記されるとおり、本発明の本態様による幹細胞は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)またはそれの活性部分にさらされる。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は、MMPファミリーの酵素を意味し、そしてそれは、結合組織および結合組織構成要素を分解することが特に知られている。MMPは、亜鉛結合モチーフHEXXHXXGXXHおよび保存的メチオニンを含めた約170個のアミノ酸の触媒ドメインによって特徴づけられ、そしてそれは、特徴的な「Met−ターン(Met-turn)」構造を形成する。触媒的ドメインは、5個の鎖βシート、3個のα−へリックス、および架橋ループを包含する。MMP−2およびMMP−9は、触媒的ドメインに挿入されたフィブロネクチンII型ドメイン3つの反復を有する。これらの反復は、コラーゲンおよびゼラチンと相互作用する。約210個のアミノ酸を含むC末端ヘモペキシン様ドメインは、4つの羽根状β−プロペラ構造を示す楕円形を示す。各羽根は、4つの逆平行β−鎖およびα−へリックスより構成される。触媒的ドメインのみが、他の基質に対してタンパク質分解活性を保持するが、ヘモペキシンドメインは、三重螺旋間質コラーゲン(triple helical interstitical collagens)を切断するコラゲナーゼにとって全面的に必須である。三重螺旋コラーゲンとそれとの相互作用は、分子モデル化に基づいて仮定されているが、触媒およびヘモペキシンドメインを結合するプロリンの豊富なリンカーペプチドは知られていない。MMP−23は、ヘモペキシンドメインの代わりに、システイン豊富、プロリン豊富、およびIL−1受容体様領域を有する。膜貫通ドメインは、MT−MMPに見られ、そしてそれは、細胞表面に酵素を定着させる。本発明の本態様によるMMPの活性部分は、好ましくは、最小MMP配列を意味し、そしてそれは、化学誘引物質への本発明の幹細胞の感受性を増大させるのに十分である。ここで使用されるように、MPPの活性部分は、突然変異タンパク質、融合タンパク質、機能性誘導体、フラグメント、循環で置換されたMMP(circulary permutated MMP)および/またはそれの塩をも意味する。本発明によるMMPの活性部分を決定するために、幹細胞は、MMPセグメントと接触され得て、そしてそこへの細胞の応答は、当業者に周知であり、そしてさらに下記の方法を使用して、分子的に、生化学的に、または機能的に(たとえば、運動性、ホーミング、遊走アッセイ)モニターされうる。下の表2は、多数の脊椎動物MMPを列挙し、そしてそれは、本発明のこの態様による化学誘引物質受容体の発現を増大させるのに使用されうる。
【0078】

【0079】
本発明のこの態様によって使用されるMMPの選択は、活性化される受容体に依存する。多数の走化性細胞受容体(chemotactic cell receptors)が、幹細胞のトランス内皮遊走に関与することが知られる。これらの受容体の多くは、Gタンパク質に結合した7膜間受容体(7−TMR)のファミリーに属する。Gタンパク質、特にGiタンパク質を介したシグナリングは、対応するリガンドの勾配に向かう細胞の走化性応答を生じる[Voermans(2001年)J.Hematother.Stem Cell Res.10巻:725−738頁]。最近の研究は、走化性効果を強力に介在しうる未熟な造血前駆細胞でのいくつかの7−TMRの発現についての証拠を提供した:ケモカイン受容体(たとえば、CXCR4、ストローマ細胞由来の因子−1のための受容体)、脂質メディエーターの受容体(たとえば、システイニルロイコトリエン受容体cysLT1および末梢カナビノイド受容体cb2)、および神経エンドクラインホルモンの受容体(たとえば、ソマトスタチン受容体sst2)。これらの研究から、造血前駆体および幹細胞の遊走が、単一のケモカイン(たとえば、SDF−1)によるよりむしろ多様な走化性因子によって制御されると結論づけられうる。
【0080】
幹細胞によって発現される多数の化学誘引物質受容体が識別されたので、幹細胞中のこれらの受容体の発現における様々なタイプのMMPの効果が測定され、そして評価されうる。したがって、走化性受容体発現におけるあらゆるMMPまたはそれの活性部分の効果が、当技術分野で周知であり、それらの内のいくつかは、下記に詳細に記述される生化学または好ましくは機能性アッセイを使用して測定されうる。
【0081】
好ましくは、本発明の方法によって使用されるMMPは、MMP2および/またはMMP9である。続く実施例部分に示されるとおり、これらのMMPのいずれかへ幹細胞をさらすことによって、CXCR4、SDF−1のGタンパク質結合受容体のアップレギュレーションを生じた。
【0082】
上記で明記されるとおり、MMPまたはそれの活性部分に幹細胞をさらすことは、幹細胞を、該タンパク質と接触させるか、または幹細胞内での該タンパク質を発現させることによって達成されうる。
【0083】
本発明は、組織から循環への幹細胞の遊走およびMMPへの循環中の幹細胞をさらすことも目論んでいるが、幹細胞をMMPまたはそれの活性部分と接触させることは、好ましくは、収穫した(harvested)細胞を使用して生体外(ex-vivo)で行われる。
【0084】
本発明は、MMPおよびその塩、機能性誘導体、前駆体および活性分画(active fractions)、並びにそれの活性変異体に関するものであって、これらは、MMPと同じ活性を有するポリペプチドまたはタンパク質を得るために、その構造中の1つまたはそれ以上のアミノ酸が、除去または他のアミノ酸で置換される、または1つまたはそれ以上のアミノ酸がその配列に加えられた他のたんぱく質またはポリペプチド、および対応する「融合タンパク質」、すなわちMMPまたは他のタンパク質に融合したそれの変異体からなるポリペプチドをも包含するものである他のタンパク質またはポリペプチドである。したがって、MMPは、たとえば免疫グロブリンのような別のタンパク質と融合されうる。
【0085】
ここで用語「塩」は、本発明のMMPタンパク質またはそれの突然変異タンパク質のカルボキシル基の塩、およびアミノ酸の酸付加塩の両方を意味する。カルボキシル基の塩は、当技術分野で知られている手段によって形成されうるのであって、無機塩たとえばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、第二鉄または亜鉛塩など、およびたとえば、トリエタノールアミン、アルギニンまたはリシン、ピペリジン、プロカインなどのアミンと形成されるもののような有機塩基との塩が挙げられる。酸付加塩としては、たとえば、塩酸または硫酸のような鉱酸との塩、およびたとえば酢酸またはシュウ酸のような有機酸との塩が挙げられる。もちろん、あらゆるこのような塩は、本発明のMMPタンパク質またはそれの突然変異タンパク質に対して実質的に類似の活性を示すに違いない。
【0086】
ここに使用されるところの定義「機能性誘導体(functional derivative)」は、既知方法によってアミノ酸部分の側鎖に、またはN−またはC−末端に存在する官能基から作製されうる誘導体を意味し、そしてそれらが、薬学上許容しうる場合、すなわち、それらが、タンパク質活性を破壊しないか、またはそれらを含有する医薬組成物に毒性を与えない場合に、本発明に含まれる。このような誘導体としては、たとえばカルボキシル基のエステルまたは脂肪族アミド、および遊離アミノ基のN−アシル誘導体または遊離水酸基のO−アシル誘導体が挙げられ、そしてたとえばアルカノイルまたはアロイル基などのアシル基を用いて形成される。
【0087】
本発明のタンパク質の「フラグメント」は、該化合物それ自体のポリペプチド鎖のあらゆるフラグメントまたは前駆体それ自体、またはそれに結合した関連分子または残基、たとえば、糖またはホスフェートの残基との組み合わせ、またはそのようなフラグメントまたは前駆体が、薬剤としてMMPと同じ活性を示す場合にポリペプチド分子の凝集体を意味する。
【0088】
ここに使用されるところの用語「環状にて入れ替えた(circularly permuted)」とは、直鎖状分子の末端同士が、環状分子を生成するために直接的に、またはリンカーを介して一緒に連結され、そしてその後環状分子が、当初の分子中の末端と異なる末端を有する新たな直鎖状分子を生成する別の位置で開環されるものである直鎖状分子を意味する。環状での入れ替え(circular permutation)としては、その構造が環状にされ、その後開環た分子に等価な分子が挙げられる。したがって、環状にて入れ替えた分子は、おそらく線状分子としてデノボ(de novo)で合成されて、環状化および開環工程を経由しない。分子の特別の環状での入れ替えは、そのあいだでペプチド結合が除去されたアミノ酸残基を含有するブラケットによって明示される。DNA、RNAおよびタンパク質を含みうる、環状で入れ替えた分子は、しばしばリンカーと融合したそれらの正常な末端を有し、そして別の位置で新たな末端を含む一本鎖状分子である。Goldenbergら、J.Mol.Biol.165巻:407−413頁(1983年)およびPanら、Gene 125巻:111−114頁(1993年)を参照。両者は、ここに参照することによって組込まれる(both incorporated by recerence herein)。環状での入れ替えは、直鎖状分子の末端を融合して、環状分子を形成し、そしてその後、様々な位置で環状分子を切断して、様々な末端を有する新たな直鎖分子を形成することと機能的に等価である。そのようにして得られる環状での入れ替えは、その配列を基本的に保存する効果を示し、そして様々な位置で新たな末端を生じつつ、タンパク質のアミノ酸の同一性を示す。
【0089】
本明細書中、用語「ポリペプチドおよびタンパク質」は、相互に交換可能である。
【0090】
本発明は、本発明の上記のMMPタンパク質の突然変異タンパク質にも関し、そしてその突然変異タンパク質は、基本的に、MMPの天然に生じる配列のみを有するMMPタンパク質の基本的に同じ生物学的活性を保持する。そのような「突然変異タンパク質」は、約20および10個までのアミノ酸残基が、この種の修飾が、タンパク質それ自身に関してタンパク質突然変異タンパク質の生物学上の活性を実質的に変化させないように、MMP蛋白質において、それぞれ、欠失、付加、または他のもので置換されうるものでありうる。
【0091】
これらの突然変異タンパク質は、既知の合成法により、および/または部位特異的突然変異技術により、またはそれに適切ないずれかの他の既知技術により作製される。
【0092】
あらゆるこのような突然変異タンパク質は、好ましくは、実質的に類似の活性を有するなど、MMPの基本を十分に複製可能であるアミノ酸配列を有する。したがって、突然変異タンパク質を下記の実施例で説明される生物学的活性試験に付することからなる日常的な実験の手段によって、いずれかの所定の突然変異タンパク質が、本発明の基本となるタンパク質と実質的に同じ活性を示すかどうかが決定されうる。
【0093】
本発明によって使用されうるMMPタンパク質の突然変異タンパク質、またはそれをコードする核酸は、ここに表される教示および指針に基づいて、過度の実験なしに、当業者によって日常的に得られうる置換ペプチドまたはポリペプチドとして、実質的にMMPに対応する配列の限定された組が挙げられる。タンパク質化学および構造の詳細な説明については、Schulz,G.E.ら、Principles of Protein Structure、Springer−Verlag、New York、1978年;およびCreighton,T.E.、Proteins:Structure and Molecular Properties,W.H.Freeman & Co.、サンフランシスコ、1983年Schulz,G.E.ら、Principles of Protein Structure、Springer−Verlag、New York、1978年;およびCreighton,T.E.、Proteins:Structure and Molecular Properties,W.H.Freeman & Co.、サンフランシスコ、1983年を参照。これらはここに参照することによって組み込まれる。。コドン優先(preferences)のようなヌクレオチド配列置換の表示については、Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publications and Wiley Interscience、ニューヨーク、ニューヨーク州、1987−1995年;Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1989年を参照。
【0094】
本発明による突然変異タンパク質についての好ましい変化は、「保存的(conservative)」置換として知られるものである。基本的に天然に生じるMMP配列を有するタンパク質中の保存的アミノ酸置換は、グループ内の同義のアミノ酸を含み得て、そしてそれは、グループの構成要素のあいだの置換は、分子の生物学上の機能を保存するのに十分に類似の物理化学的特性を有しうる。Grantham、Science 185巻、862−864頁(1974年)を参照。特に、挿入または欠失が、わずかなアミノ酸のみ、たとえば50個以下、そして好ましくは、20個以下のMMPを包含し、そして機能的配座、たとえばシステイン残基に重要であるアミノ酸を除去または置換しない場合、アミノ酸の挿入および欠失も、それの機能を改変せずに、上で定義された配列で行われうることも明らかである。Anfinsen、「Principles That Govern The Folding of Protein Chains」,Science 181巻、223−230頁(1973年)。このような欠失および/または挿入により産生される突然変異タンパク質は、本発明の範囲内になる。
【0095】
好ましくは、同義のアミノ酸基は、表Aで定義されるものである。さらに好ましくは、同義のアミノ酸基は、表Bで定義されるものである;そして最も好ましくは、同義のアミノ酸基は、表Cで定義されるものである。
【0096】
表A 同義のアミノ酸の好ましいグループ
アミノ酸 同義のグループ
Ser Ser、Thr、Gly、Asn
Arg Arg、Gln、Lys、Glu、His
Leu Ile、Phe、Tyr、Met、Val、Leu
Pro Gly、Ala、Thr、Pro
Thr Pro、Ser、Ala、Gly、His、Gln、Thr
Ala Gly、Thr、Pro、Ala
Val Met、Tyr、Phe、Ile、Leu、Val
Gly Ala、Thr、Pro、Ser、Gly
Ile Met、Tyr、Phe、Val、Leu、Ile
Phe Trp、Met、Tyr、Ile、Val、Leu、Phe
Tyr Trp、Met、Phe、Ile、Val、Leu、Tyr
Cys Ser、Thr、Cys
His Glu、Lys、Gln、Thr、Arg、His
Gln Glu、Lys、Asn、His、Thr、Arg、Gln
Asn Gln、Asp、Ser、Asn
Lys Glu、Gln、His、Arg、Lys
Asp Glu、Asn、Asp
Glu Asp、Lys、Asn、Gln、His、Arg、Glu
Met Phe、Ile、Val、Leu、Met
Trp Trp
【0097】
表B 同義のアミノ酸のさらに好ましいグループ
アミノ酸 同義のグループ
Sers Sers
Arc His、Lys、Arg
Leu Ile、Phe、Met、Leu
Pro Ala、Pro
Thr Thr
Ala Pro、Ala
Val Met、Ile、Val
Gly Gly
Ilea Ile、Met、Phe、Val、Leu
Phe Met、Tyr、Ile、Leu、Phe
Try Phi、Try
Cys Ser、Cys
His Arg、Gln、His
Gln Glu、His、Gln
Asn Asp、Asn
Lys Arg、Lys
Asp Asn、Asp
Glu FLN、Glu
Met Phe、Ile、Val、Leu、Met
Trp Trp
【0098】
表C 同義のアミノ酸の最も好ましいグループ
アミノ酸 同義のグループ
Sers Sers
Arc Arc
Leu Ile、Met、Leu
Pro Pro
Thr Thar
Alan Alan
Val Val
Gly Gly
Ilea Ile、Met、Leu
Phi Phi
Try Try
Cys Ser、Cys
His His
Gln Gln
Asn Asn
Lys Lys
Asp Asp
Glu Glu
Met Ile、Leu、Met
Trp Trp
【0099】
本発明で使用するためのタンパク質の突然変異タンパク質を得るために使用されうるタンパク質におけるアミノ酸置換の生成の例は、Markらに対する米国特許番号RE33,653号、4,959,314号、4,588,585号および4,737,462号;Kothsらに対する5,116,943号、Namenらに対する4,965,195号;Chongらに対する4,879,111号;およびLeeらに対する5,017,691号で表されるもの;および米国特許第4,904,584号(Strawら)で表されるリシン置換タンパク質のような、あらゆる既知方法段階が挙げられる。
【0100】
本発明の別の好ましい実施態様で、本発明で使用するためのMMPタンパク質のあらゆる突然変異タンパク質は、本発明の上に明記されるMMPタンパク質のものに原則的に相当するアミノ酸配列を有する。用語「〜に原則的に相当する(essntially corresponding to)」とは、基本となるタンパク質の配列に対し、そのタンパク質の基本的な特徴に影響を及ぼさない程度の些細な変化を伴う突然変異タンパク質を含むことが意図され、MMPとしての能力についての(基本的な特徴に影響を及ぼさないことが)重要である。「〜に原則的に相当する」言語の範囲に入ると一般的にみなされる変化のタイプは、本発明のMMPタンパク質をコードするDNAの従来の突然変異誘発技術(mutagenesis techniques)から生じるものであり、それによっていくつかのマイナーな修飾が生じたり、たとえば化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させるような望みの活性をスクリーニングする。
【0101】
本発明は、MMP変異体(MMP variant)をも包含する。好ましいMMP変異体は、少なくとも80%アミノ酸同一性を示すものであり、さらに好ましいMMP変異体は、少なくとも90%同一性を示し、そして最も好ましい変異体は、MMPアミノ酸配列に対して少なくとも95%同一性を示すものである。
【0102】
ここに示される場合、用語「配列の同一性(sequence identity)」は、アミノ酸配列がHanksおよびQuinn(1991年)による配列によって比較され、低相同性領域の微細な区分においてはClustalW多配列の配列プログラムについてのウインドウズインターフェース(Thompsonら、1994年)であるClustal−Xプログラムを用いてリファインメントすることを意味する。Clustal−Xプログラムは、ftp://ftp−igbmc.u−strasbg.fr/pub/clustalx/でインターネットじゅうで利用可能である。もちろん、このリンクが無効になったばあい、当業者は過度な実験なしに、標準インターネット検索技術を使用して、他の関連でこのプログラムのバージョンを見出しうるということが、理解されるべきである。別段の規定のない限り、本出願の有効出願日現在で最新版の、ここで参照したいずれかのプログラムは、本発明を実施するために使用されるものである。
【0103】
「配列の同一性」を測定する別の方法は、以下のものである。配列は、−12のギャップオープンペナルティーおよび−4のギャップエクステンションペナルティー(ギャップでの個々の追加の連続ヌル当たり)を示すデフォルト(BLOSUM62)マトリックス(値−4から+11まで)を使用して、Genetic Computing GroupのGDAP(グローバル・アラインメント・プログラム)のバージョン9を使用して配列する。配列の後、同一性百分率は、請求された配列中のアミノ酸の数の百分率として適合の数を発現させることによって計算される。
【0104】
本発明による突然変異タンパク質としては、ストリンジェントな条件下でDNAまたはRNAとハイブリッドを形成し、そして本発明によるMMPタンパク質をコードするDNAまたはRNAのような核酸によってコードされるものが挙げられるのであって、基本的にMMPをコードする天然に生じる配列、および、遺伝子コードの縮重に基づいてそれのヌクレオチド配列で、天然に由来するヌクレオチド配列と異なる可能性のある、すなわちある程度異なる核酸が、この縮重により、なお、同じアミノ酸配列をコードする可能性がある配列の全てを包含するものである。
【0105】
ここに使用される場合、用語「ハイブリダイゼーション」は、核酸の鎖が、塩基対を通して相補的な鎖と連結するあらゆる過程を包含するべきである(Coombs J、1994年、Dictionary of Biotechnology、ストックトン・プレス、ニューヨーク、ニューヨーク州)。「増幅」は、核酸配列をさらに複写した産物として定義され、そして一般に、当技術分野で周知であるポリメラーゼ連鎖反応技術(polymerase chain reaction technologies)(DieffenbachおよびDveksler、1995年、PCR Primer、a Laboratory Manual、コールド・スプリング・ハーバー・プレス、ニューヨーク州プレインビュー(Plainview NY))を使用して行われる。
【0106】
「ストリンジェンシー」は、特に、約Tm−5℃(プローブの溶融温度(melting temperature)より5℃低い)から、Tmより下の約20℃〜25℃までの範囲に生じる。
【0107】
用語「ストリンジェントな条件」は、ハイブリダイゼーションおよびそれにひきつづく洗浄(washing)の条件に該当し、それを当業者は、従来「ストリンジェント」と呼んでいる。Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、グリーン・パブリケーションズ・アンド・ウイリー・インターサイエンス、ニューヨーク州ニューヨーク、1987−1995;Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー、1989年を参照

【0108】
ここで使用される場合、ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション実験で使用される温度、一価陽イオンのモル濃度、およびハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドの含有率の関数である。あらゆる所定の組の条件に含まれるストリンジェンシーの程度を決定するために、ひとつとしては、DNA−DNAハイブリッドの融解温度Tmとして表される100%同一性のハイブリッドの安定性を測定するためにMeinkothら(1984年)の方程式を使用する。
Tm=81.5C+16.6(LogM)+0.41(%GC)−0.61(%form)−500/L
【0109】
式中、Mは、一価陽イオンのモル濃度であり、%GCは、DNA中のGおよびCヌクレオチドの含有率であり、%formは、ハイブリダイゼーション溶液中のホルムアミドの含有率であり、そしてLは、塩基対中のハイブリッドの長さである。1C毎に、100%同一性ハイブリッドについて計算されたTmから減じられ、許容されるミスマッチの量は、約1%ずつ増加される。したがって、特定の塩およびホルムアミド濃度でのいずれかの所定のハイブリダイゼーション実験のために使用されるTmが、Meinkothの方程式によって100%ハイブリッドについて計算されたTmより10C下である場合、ハイブリダイゼーションは、約10%までミスマッチがある場合でさえ生じる。
【0110】
ここで使用される場合、「高度にストリンジェントな条件(highly stringent conditions)」とは、上の方程式により計算される場合、または実際に測定される場合のいずれかにおいて、完全な二重鎖について存在するであろうTmより10Cよりは低くない標的配列のTmを提供するものである。「中程度にストリンジェントな条件(moderately stringent conditions」とは、上の方程式により計算される場合、または実際に測定される場合のいずれかにおいて、完全な二重鎖について存在するであろうTmより低く20Cよりは低くない標的配列のTmを提供するものである。制限することなく、高度にストリンジェントな(ハイブリッドの計算または測定されたTmより5−10C低い)および中程度のストリンジェントな(ハイブリッドの計算または測定されたTmより15−20C低い)条件の例では、ハイブリッドの計算されたTmより下の適切な温度で、2×SSC(標準クエン酸生理食塩水)および5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の洗浄溶液を使用する。非常に高度なストリンジェントな条件(ultimate stringency of the conditions)は、第一に、洗浄条件によるのであって、とくに用いられるハイブリダイゼーションの条件がそれらである場合、安定性の低いハイブリッドが安定なハイブリッドと共に形成されうる。その後非常に高度なストリンジェントの洗浄条件は、安定性の低いハイブリッドを取り除く。上に記述される非常にストリンジェントから中程度にストリンジェントな洗浄条件までで使用されうる一般のハイブリダイゼーション条件は、Tmよりおよそ20から25Cまで低い温度で、6×SSC(または6×SSPE)(標準リン酸生理食塩水−EDTA)、5×デンハート(Denhard's)の試薬、0.5%SDS、100およびマイクロ;g/ml変性された断片化サーモン精子DNAの溶液中でのハイブリダイゼーションである。混合プローブを使用する場合、SSCの代わりに塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)を使用することが好ましい(Ausubel、1987、1999)。
【0111】
成人幹細胞は、骨髄吸引のような外科的手段を使用して得られうるか、または米国カリフォルニア州アービンのネックスエル・セラピューティックス・インク.から入手可能なもののような市販のシステムを使用して収穫されうる。
【0112】
本発明により利用される幹細胞は、好ましくは、幹細胞可動化手段(stem cell mobilization procedure)を使用して採取(すなわち収穫)されるのであって、化学療法または対象の循環(circulation of subjects)へのHSCの放出に対するサイトカイン刺激を利用する。幹細胞は、好ましくは、可動化(mobilization)が、骨髄手術より多くのHSCおよび前駆細胞を生じることが知られているので、この手段を使用して回収される。
【0113】
幹細胞の可動は、多数の分子によって誘導されうる。例としては、それに限定はされないが、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、インターロイキン(IL)−7、IL−3、IL−2、幹細胞因子(SCF)、およびflt−3リガンドのようなサイトカイン;IL−8、Mip−1α、Groβ、またはSDF−1のようなケモカイン;および化学療法剤シクロホスホアミド(Cy)およびパクリタキセル(paclitaxel)が挙げられる。これらの分子は反応速度論および効率で異なることが予測されるが、しかし、最近知られる実施態様によれば、G−CSFは、好ましくは、単独で、または幹細胞を可動化するシクロホスホアミドのようなものと組み合わせて使用されることが予測される。特に、G−CSFは、5−10日間、5−10μg/kgの用量で毎日、投与される。幹細胞を可動化する方法は、米国特許第6,447,766号および第6,162,427号に開示されている。
【0114】
ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚盤胞から単離されうる。ヒト胚盤胞は、特に、インビボにおいて、着床前の胚から、またはインビトロ受精(IVF)胚から得られる。代わりに、単一の細胞ヒト胚は、胚盤胞段階まで延長されうる。ヒトES細胞の単離については、透明帯状物(zona pellucida)を、胚盤胞から除去し、そして内細胞塊(ICM)を、免疫手術により除去し、そしてそれは、栄養外胚葉細胞(trophectoderm)を溶解させ、そして穏やかなピペッティングにより無傷のICMから取り出す。その後、ICMを、それの生長を可能にする適切な培地を含有する組織培養フラスコで培養した。9から15日に続いて、ICMで誘導された生長は、機械的解離によるか、または酵素的分解によるかのいずれかにより、凝集塊(clumps)に解離され、そしてその後、細胞を、新たな組織培養培地上で再度培養させる。未分化形態を示すコロニーは、マイクロピペットにより個々に選択され、機械的に凝集塊に解離され、そして再度平板培養される。その後、生じるES細胞を、1−2週間ごとに定期的に分割する。ヒトES細胞を作製する方法についてさらに詳細には、Thomsonら[米国特許第5,843,780号;Science 282巻:1145頁、1988年;Curr.Top.Dev.Biol.38巻:133頁、1998年;Proc.Natl.Acad.Sci.USA92巻:7844、1995年];Bongsoら[Hum Reprod 4巻:706頁、1989年];Gardnerら[Fertil.Steril.69巻:84頁、1998年]を参照。
【0115】
市販で入手可能な幹細胞は、本発明の本態様によっても使用されうることが予想される。ヒトES細胞は、NIHヒト胚性幹細胞レジストリー(<http://escr.nih.gov>)から購入されうる。市販で入手可能な胚性幹細胞株の制限なしの例は、BG01、BG02、BG03、BG04、CY12、CY30、CY92、CY10、TE03、TE32である。
【0116】
ヒトEG細胞は、当業者に知られる実験技術を使用して、妊娠約8−11週のヒト胎児から得られる原始生殖細胞(primordial germ cells)から回収されうる。生殖隆起(genital ridges)は、解離され、機械的解離により分けられる小さな塊に切断される。その後、EG細胞は、適切な培地を用いて組織培養フラスコ中で育成される。EG細胞と一致する細胞形態が、大体7−30日後、または1−4世代に観察されるまで、細胞を毎日培地を交換して培養する。EG細胞を作製する方法における別の詳細のために、Shamblottら[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95巻:13726頁、1998年]および米国特許第6,090,622号を参照。
【0117】
多分化能を示す幹細胞個体群(population)の濃縮(enrichment)は、好ましくは、達成されるべきである。したがって、たとえば、ここで上に概説されるとおり、CD34+幹細胞は、さらに、ここで下に記述されるとおり、アフィニティーカラムまたはFACSを使用して濃縮されうる。
【0118】
増殖条件下で幹細胞を培養することは、幹細胞数が治療で使用するのには少なすぎる場合にも達成されうる。幹細胞の培養は、米国特許第6,511,958号、第6,436,704号、第6,280,718号、第6,258,597号、第6,184,035号、第6,132708号および第5,837,5739号に記述される。
【0119】
いったん幹細胞が得られると、それらは、可溶性マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分と接触される。
【0120】
可溶性マトリックスメタロプロテアーゼ、そして特に、それの活性部分は、たとえば標準的な固相技術を使用することによって生化学的に合成されうる。これらの方法は、限定的固相合成(exclusive solid phase synthesis)、部分的固相合成法(partial solid phase synthesis)、フラグメント圧縮(fragment condensation)、古典的溶液合成(classical solution synthesis)が含まれる。固相ペプチド合成手段は、当技術分野で周知であり、そしてJohn Morrow StewartおよびJanis Dillaha Young、Solid Phase Peptide Syntheses(2版、ピアス・ケミカル・カンパニー、1984年)によりさらに詳述される。
【0121】
合成ペプチドは、分取高速液体クロマトグラフィー[Creighton T.(1983年)Proteins,structures and molecular principles,ダブリュ・エイチ・フリーマン・アンド・シーオー.ニューヨーク]によって精製され得て、そしてそれの組成物は、アミノ酸配列決定を介して確認されうる。
【0122】
ある種の可溶性マトリックスメタロプロテアーゼは、たとえば、イスラエルのメガファーム(MegaPharm)、オンコジーン・リサーチ・プロダクツ、ホド−ハシャロン(Hod-Hasharon)のような商業上の供給者からも得られうる。
【0123】
大量のマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分が望まれる場合には、このようなポリペプチドは、好ましくは、組換え技術(recombinant techniques)を使用して得られる。
【0124】
このようなポリペプチドを組換え体で合成するためには、プロモーターのような調節因子の転写制御の下流に可溶性マトリックスメタロプロテアーゼをコードするポリヌクレオチドまたはそれの活性部分を含めた発現構築物(すなわち、発現ベクター)を、宿主細胞に導入される。
【0125】
「形質転換された」細胞を、ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質の発現を可能にする適切な条件下で培養する。
【0126】
予備測定期間に続いて、発現したタンパク質は、細胞または細胞培養物から回収され、そして精製が達成される。
【0127】
多様な原核生物または真核生物細胞の多様性は、修飾されたポリペプチドコーディング配列を発現するために、宿主−発現系として使用されうる。これらとしては、それに限定はされないが、所望のコーディング配列を含有する組換え体バクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換されたバクテリアのような微生物が挙げられる;真核生物の細胞は、翻訳後での修飾タンパク質の産生を可能にするので、好ましくは、哺乳類発現系が、可溶性マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分を発現するために使用される。しかし、細菌系は、それらが、低費用で高生産量を可能にするので、特に、組換えタンパク質を産生させるために使用される。したがって、宿主系は、産生されるべき組換えタンパク質およびそれの最終用途によって選択される。
【0128】
バクテリアの系では、発現された修飾ポリペプチドとして意図される用途によって、多数の発現ベクターが都合よく選択されうる。たとえば多量のコンジュゲートが望まれる場合は、おそらくは疎水性シグナル配列との融合として、タンパク質産物が容易に精製されうるように、バクテリアのペリプラズムまたは培養培地に発現産物を導くように、高濃度のタンパク質産物の発現を指示するベクターが、望まれる可能性がある。コンジュゲートからの回収を助けるために、特定の切断部位が設計された融合タンパク質も望ましい。このような操作に適合性のあるこのようなベクターとしては、それに限定されないが、イー.コリ(大腸菌)発現ベクターのpETシリーズ[Studierra(1990年)Methods in Enzymol.185巻:60−89頁]が挙げられる。
【0129】
当技術分野で周知である昆虫および哺乳類宿主細胞系のような他の発現系も、本発明によって使用されうる(米国特許第6,541,623号)。
【0130】
どんな場合でも、形質転換細胞は、有効な条件下で培養され、そしてそれは、多量の組換えポリペプチドの発現に対処する。有効な培養条件は、それに限定されないが、有効な培地(effective media)、生物反応器(bioreactor)、温度、pHおよびタンパク質生産を可能にする酸素条件が挙げられる。有効な培地は、細胞が、本発明の組換え修飾ポリペプチドを産生するために培養されるあらゆる培地に該当する。このような培地としては、特に、同化できる炭素、窒素およびリン酸源、および適切な塩、ミネラル、金属およびビタミン類のような他の栄養分を有する水性溶液が挙げられる。本発明の細胞は、従来の発酵生物反応器、振とうフラスコ、試験管、マイクロタイター皿、およびペトリ皿で培養されうる。培養は、組換え細胞に適切な温度、pHおよび酸素含有量で行われうる。このような培養条件は、当業者の専門知識の範囲内にある。
【0131】
結果物の本発明の組換えタンパク質は、好ましくは、成長(たとえば、発酵)培地に分泌される。
【0132】
培養中の所定の時間に続いて、組換えタンパク質の回収が達成される。語句「組換えタンパク質を回収すること」は、タンパク質を含有する全成長培地を採取することに該当し、そして分離または精製の別の段階を意味する必要はない。本発明のタンパク質は、それに限定されないが、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、濾過、電気泳動、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、コンカナバリンAクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、およびディファレンシャル可溶化のような多様な標準タンパク質精製技術を使用して精製されうる。
【0133】
本発明のタンパク質は、好ましくは、「十分に純粋な(substantially pure)」形態で回収される。ここに使用される場合、「十分に純粋な」は、ここで下に記述された多様な用途においてタンパク質を有効に使用できる純度に該当する。
【0134】
本発明のMMPまたはそれの活性部分の組換え体産物は、インビトロでも達成されうることが予測される。
【0135】
MMPまたはそれの活性部分は、収穫された幹細胞を培養または維持するために使用される培養培地に含まれうる。このような培養培地は、特に、幹細胞培養のために適した緩衝溶液(すなわち、成長培地)が含まれる。培養培地は、幹細胞の成長および生存を支える成長因子を含む血清または血清置換も含まれうる。培養培地は、SDF−1、IL−6、SCF、HGFなどのような剤も含み得て、そしてそれは、細胞成長、生存分化およびホーミングを促進できる。さらに、本発明の成長培地は、白血病阻害剤因子(LIF)のような分化阻害剤も含みうる。
【0136】
本発明の幹細胞は、MMP発現および随意的に表示細胞(すなわち、不溶性膜結合型MMP)とも接触されうる。これは、分泌または膜結合型MMPを発現する細胞と本発明の幹細胞とを同時培養(co-culturing)することによって達成されうる。たとえば、幹細胞を未分化状態においてそれの増殖を支える細胞としてしばしば同時培養される繊維芽細胞フィーダー細胞は、目的のMMPを発現して、それにより二重の役割、すなわち、幹細胞の成長を支えると共にホーミング能力の増大を行うことができる。
【0137】
しかし、本発明の幹細胞は、好ましくは、臨床用途に使用されるので、幹細胞の少なくとも1つの化学誘引物質受容体を十分なレベルに誘導し、続いて第二のMMP発現細胞個体群から幹細胞を単離する手段が取られる。細胞個体群を分類する方法を、さらに以下において説明する。
【0138】
代わりに、本発明の幹細胞は、幹細胞中のマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分を発現するために、上に記述されるもののような発現構築物(expression construct)で形質転換されうる。
【0139】
このような場合の発現構築物としては、(例としては上記)哺乳類細胞で活性なシス作用調節因子(cis-acting regulatory element)が挙げられ、好ましくは成長特異的または組織特異的条件下で誘導しうる。
【0140】
細胞種特異的および/または組織特異的プロモーターの例としては、肝臓特異的であるアルブミンのようなプロモーター[Pinkertら、(1987年)Genes Dev. 1巻:268−277頁]、リンパ系特異的プロモーター[Calameら(1988年)Adv.Immunol.43巻:235−275頁];特にT細胞受容体のプロモーター[Winotoら、(1989年)EMBO J.8巻:729−733頁]および免疫グロブリン;[Banerjiら、(1983年)Cell 33729−740]、ニューロフィラメントプロモーターのような神経特異的プロモーター[Byrnera,(1989年)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86巻:5473−5477頁]、膵臓特異的プロモーター[Edlunchra,(1985年)Science 230巻:912−916頁]またはミルクホエイプロモーターのような乳腺特異的プロモーター(米国特許第4,873,316号および欧州出願広報番号第264,166号)が挙げられる。本発明の核酸構築物は、さらに、プロモーター配列に隣接または遠位にあるエンハンサーを含むことができ、そしてそこから転写をアップレギュレーションするのに機能できる。
【0141】
好ましくは、誘導可能なシス作用調節因子は、ホーミング−移植プロセスのあいだに幹細胞の環境変化によって調節可能である。
【0142】
幹細胞は遊走のあいだに、循環中の血液内の細胞の運動によって生じるせん断力(shear forces)にかけられるのであって、いったん移植されると、幹細胞は、もはやそのようなせん断力にさらされない。MMPは、ホーミングプロセス(遊走)の間だけ活性である必要があるので、遊走の段階でのみ活性であるシス作用調節因子は、特に有利である。1つのこのような調節因子は、ResnickらPNAS USA90巻:4591−4595頁、1993年により記述されたずれ応力応答性因子(shear stress responsive element)である。
【0143】
間葉幹細胞の遺伝的修飾(genetic modofication)は、米国特許第5,591,625号で検討される。HSCの遺伝的修飾は、Zheng 2000年 Nat.Biotechnol.18巻:176−180頁およびLotti、2002年、J.Virol.76(8)巻、3996−4007頁で検討される。
【0144】
いったんMMPまたはそれの活性部分にさらされると、幹細胞は化学誘引物質受容体の発現レベルが増大を示し、その結果化学誘引物質に対する感受性が高まることは、好ましくは識別され、そして単離される。そのような工程は走化性が高い細胞を濃縮するが、濃縮されていないMMP処置された固体群の使用(use of a non-enriched MMP-treated population)も、本発明において予測される。
【0145】
本発明の本態様によるこのような細胞の識別および単離は、当技術分野で周知である多数の細胞学上、生化学上および分子の手法を使用して達成されうる。
【0146】
たとえば、受容体レベルの分析は、フローサイトメトリーによって達成されうる。このアプローチは、液体培地中の後励起源(past excitation sources)に続き単一の細胞を走査する装置を使用する。その技術は、可視および蛍光発光の測定に基づいて、単一の生存(または死滅)細胞を高速、定量的に、マルチパラメーターでの分析を提供しうる。この基本的なプロトコールは、細胞に付属した分子を特異的に結合する蛍光標識抗体およびリガンドが生じる蛍光の強度を測定することに注目する。蛍光活性化セルソーターで細胞個体群を単離するために、本発明の幹細胞をR&D、ミネソタ州エヌイー・ミネアポリスのマッキンレイ・パレス614から市販で入手可能な抗CXCR4と接触させる。
【0147】
走化性受容体発現のレベルを定量的に評価するための他の細胞学上または生化学的方法としては、それに限定はされないが、標識(たとえば、放射性標識)したケモカイン、ウエスタンブロット分析、細胞表面ビオチン化および免疫蛍光染色を用いたバインディングアッセイが挙げられる。
【0148】
受容体の発現レベルは、mRNAレベルでも測定されうることが予測される。たとえば、CXCR4のmRNAは、特異的プローブに対するハイブリダイゼーションにより細胞中で検出されうる。このようなプローブは、クローン化DNAまたはそれのフラグメント、特にインビトロ転写によって作製されるRNA、または固相合成により通常に生産されるオリゴヌクレオチドプローブでありうる。特異的ハイブリダイゼーションに適したプローブを産生および使用する方法は、周知であり、そして当技術分野で使用される。mRNAレベルの定量は、増幅反応[たとえば、PCR、「PCR Protocols:A Guide To Methods And ApplicationsPCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、アカデミック・プレス、カリフォルニア州サンディエゴ(1990年)]を使用して、目的の走化性受容体のmRNAに特異的にハイブリッド形成するプライマーを使用しても達成されうる。
【0149】
多様なコントロールが、mRNA検出アッセイでの精度を改善するために有効に使用されうる。たとえば、サンプルは、関連性のないプローブにハイブリッド形成され、そしてハイブリダイゼーションの前にRNAseAで処理して、偽ハイブリダイゼーションを見極めうる。
【0150】
機能性アッセイは、走化性受容体発現を測定するためにも使用されうる。たとえば、走化性試薬(たとえば、SDF−1)の勾配を用いた、走化性試薬に向かって膜を貫通して幹細胞の遊走を使用する走化性アッセイは、走化性が増大したことを示す幹細胞を識別および単離するために利用されうる。細胞が、十分なレベルの走化性受容体(たとえば、CXCR4)を発現しない場合、細胞の大半は、膜上に保持される。しかし、本発明の化学誘引物質受容体の発現が増大されたことにより、細胞は膜を貫通して遊走し、そして走化性プレート(実施例区分の実施例2を参照)のウエルの底に定着する。
【0151】
機能性ホーミングアッセイが、本発明の方法によっても利用されうることが予想される。このようなアッセイは、Kollet(2001年)Blood 97巻:3283−3291頁に記述される。
【0152】
化学誘引物質に対する感受性が増大したことを示す幹細胞は、広範な臨床用途で使用されうる。
【0153】
したがって、本発明の別の態様によって、細胞または組織交換を要求する傷害を治療する方法の提供がある。本発明は、それを必要とする対象に、ここで上に記述されるとおりの幹細胞の少なくとも1種の化学誘引物質受容体のレベルを増大する能力があるマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分で処理された治療上有効な量の幹細胞を供して、それにより対象における細胞または組織交換を必要とする障害を処理することによって達成される。
【0154】
細胞または組織交換を必要とする障害としては、それに限定はされないが、Tおよび/またはBリンパ球、またはリューマチ様関節炎(rheumatoid arthritis)のような免疫障害のような種々の免疫不全が挙げられる。このような免疫不全は、ウイルス感染、HTLVI、HTLVII、HTLVIII、重篤な放射線被爆、癌治療または他の医療上の治療の結果でありうる;血液不全(hematological deficiencies)としては、それに限定されないが、急性リンパ芽球白血病(ALL)、急性非リンパ芽球白血病(ANLL)、急性骨髄球性白血病(AML)または慢性骨髄球性白血病(CML)のような白血病が挙げられる。他のこのような血液不全は、それに限定されないが、重篤な複合免疫不全(severe combined immunodeficiency)(SCID)症候群[たとえば、アデノシンデアミナーゼ(ADA)不全およびX−リンク(X-linked)SCID(XSCID)]、大理石骨病(osteopetriosis)、再生不良性貧血(aplastic anemia)、ゴシュ病(Gaucher's disease)、サラセミアおよび他の先天的または遺伝子的に決定された造血異常(hematopoietic abnormalities)でありうる;細胞または組織交換を必要とする他の障害としては、肝不全、膵不全、神経学上の障害に関連したもの、骨形成が増大されることを必要とする障害として変形性関節炎(osteoartbritis)および骨粗しょう症(osteoporosis);骨欠損、結合組織欠損、骨格欠損または軟骨欠損のような結合組織のいずれかに関与する外傷性の、または病理学上の症状のようなものが挙げられる。
【0155】
本発明による好ましい個体の対象は、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシおよび好ましくはヒトのような哺乳類である。
【0156】
本発明の本態様による幹細胞は、好ましくは、治療されるべき対象から得られる。しかし、幹細胞は、同一遺伝子の、同種異系の、そして好ましくなくは、異種のドナーからも得られうる。
【0157】
同種異系または異種の幹細胞が使用される場合、対象のレシピエントおよび/または細胞は、好ましくは、移植片対宿主および宿主対移植片拒絶を防止するために治療されることが予測される。免疫抑制プロトコールは、当技術分野で周知であり、そしてある種のものは、米国特許第6,447,765号に開示される。
【0158】
本発明の幹細胞は、米国特許第5,928,638号で詳述される肝炎に対する抗ウイルス剤のようないずれかの治療的遺伝子を発現するように遺伝子で修飾されうる。
【0159】
幹細胞は、対象のレシピエントに移植される。これは、一般に、当技術分野で周知な方法を使用して達成され、そして通常には、当業者に周知の医療のツールを使用して、処理された幹細胞(treated stem cells)を対象に注入または導入することを含む(米国特許第6,447,765号、第6,383,481号、第6,143,292号および第6,326,198号)。
【0160】
たとえば、本発明の幹細胞を導入することは、静脈内または動脈内投与、腹腔内投与などを含めた血管内投与を介して局所に、または全身に達成されうる。細胞は、滅菌シリンジまたは他の滅菌トランスファーメカニズムを使用して、50モルフェンウォール注入バック(50 mol Fenwall infusion bag)に注入されうる。その後、細胞は、たとえば15分間かけてIV投与を介して、患者にフリーフローIVラインに直ぐに注入されうる。ある種の実施形態では、緩衝液または塩のような別の試薬も同様に添加しうる。投与のための組成物は、適切な滅菌性および安定性を伴う標準的な方法によって、配合、生産および保存されなければならない。
【0161】
幹細胞投与量は、処方された使用法によって決定されうる。一般に、非経口投与の場合には、レシピエントの体重1キログラム当たり約0.01から約5百万個までの細胞を投与するのが通例である。使用される細胞の数は、レシピエントの体重および症状、投与の回数または頻度、そして当業者に知られる他の変数に依存する。
【0162】
細胞を対象に投与した後、治療の効果は、所望であれば、当技術分野で知られるとおりに評価されうる。処置は、必要な場合繰り返されうる。本発明は、細胞または組織交換を必要とする障害を処置するために、治療上有効な量のMMPまたはそれの活性部分を包含する医薬組成物も提供する。
【0163】
本発明の別の目的、利点、または新規特性は、限定されることを意図されることなく以下の実施例の試験により当業者に明らかになろう。さらに、ここに上で概説されるとおり、そして下の請求項区分で請求されるとおり本発明の種々の実施形態および態様の各々は、以下の実施例における実験上のサポートを見出す。
【0164】
実施例
ここで、以下の実施例の参照を行い、そしてそれは、上の説明と一緒に、限定なしの形態で本発明を示す。
【0165】
一般に、ここに使用される専門用語および本発明で利用される実験室手段としては、分子、生化学、微生物学上および組換え体DNA技術が挙げられる。このような技術は、文献で十分に説明される。たとえば、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、Sambrookら(1989年);「Current Protocols in Molecular Biology」、I−III巻、Ausubel,R.M.編(1994年);Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、ジョン・ウイリー・アンド・サンズ、メリーランド州ボルチモア(1989年);Perbal、「A Practical Guide to Molecular Cloning」、ジョン・ウイリー・アンド・サンズ、ニューヨーク(1988年);Watsonら、「Recombinant DNA」、サイエンティフィック・アメリカン・ブックス、ニューヨーク;Birrenら(編)「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」、1−4巻、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、ニューヨーク(1998年);米国特許第4,666,828号;第4,683,202号;第4,801,531号;第5,192,659号および第5,272,057号で説明されるとおりの方法論;「Cell Biology:A Laboratory Handbook」、I−III巻、Cellis,J.E.編(1994年);「Current Protocols in Immunology」、I−III巻 Coligan J.E.編(1994年);Stitesら(編)、「Basic and Clinical Immunology」(8版)、アップルトン・アンド・レンジ、コネチカット州ノーウォーク(1994年);MishellおよびShiigi(編)、「Selected Methods in Cellular Immunology」、ダブリュ・エイチ・フリーマン・アンド・シーオー.、ニューヨーク(1980年を参照;利用可能な免疫アッセイは、特許および科学文献で集約的に記述され、たとえば、米国特許第3,791,932号;第3,839,153号;第3,850,752号;第3,850,578号;第3,853,987号;第3,867,517号;第3,879,262号;第3,901,654号;第3,935,074号;第3,984,533号;第3,996,345号;第4,034,074号;第4,098,876号;第4,879,219号;第5,011,771号および第5,281,521号を参照;「Oligonucleotide Synthesis」、Gait,M.J.編(1984年);「Nucleic Acid Hybridization」、Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1985年);「Transcription and Translation」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1984年);「Animal Cell Culture」、Freshney,R.I.編(1986年);「Immobilized Cells and Enzymes」、IRL Press、(1986年);「A Practical Guide to Molecular Cloning」、Perbal,B.、(1984年)および「Methods in Enxymology」、1巻−317、アカデミック・プレス;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、アカデミック・プラス、カリフォルニア州サンディエゴ(1990年);Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization − A Laboratory Course Manual」、CSHLプレス(1996年)を参照;その全ては、ここで十分に説明されるように参照により組込まれる。他の一般的文献は、この文書に渡って供される。そこにある手段は、当技術分野で周知であり、そして読み手の便宜を与える。そこに含まれる全ての情報は、参照してここに組込まれる。
【0166】
実施例1
SDF−1/CXCR4相互作用は、NOD/SCIDマウスでの肝臓へのヒトCD34+前駆体細胞のホーミングを仲介(mediate)する。
肝臓へヒト幹細胞(HSC)を補充することにおけるSDF−1の役割を検討するために、照射されたNOD/SCIDマウスに、CXCR4抗体を中和して、またはせずに、可動化末梢血(mobilized peripheral blood)または臍帯血からヒトCD34+濃縮細胞(human CD34+ enriched cells)を移植し、そしてそれのホーミングを分析した。
【0167】
材料および実験手段
ヒト細胞−ワインズマン研究所(Weizmann Institute)の人間倫理委員会により承認された手段によって承諾を得た後、臍帯血(CB)細胞および成人可動化末梢血(MPB)細胞を得た。CD34+細胞の濃縮は、先に記述[Kollet(2001年)Blood 97巻:3283−3291頁]されるとおりに、マグネットビーズでの分離を使用して得られた。CXCR4の発現は、精製抗ヒトCXCR4(クローン12G5、アール・アンド・ディー、ミネソタ州ミネアポリス)および二次としてヤギ抗マウスIgG FITCのF(ab’)2フラグメント(ジャクソン、ペンシルベニア州ウエスト・グローブ)を用いて、フローサイトメトリーによって測定した。
【0168】
マウス−先に記述[Kollet(2001年)Blood 97巻:3283−3291頁]されるとおりにNOD/SCIDマウスを交配させ、収容(house)した。全ての実験は、ワイズマン研究所の動物保護委員会によって承認されている。マウスは移植の24時間前に、示されるとおり致死量近く照射(すなわち、375cGy)した。SDF−1の局所肝臓注入が達成されたときに、非照射マウスを使用した。
【0169】
CXCR4の中和−ヒトCD34+細胞は抗ヒトCXCR4中和mAb(10μg/0.5×106細胞、12G5、アール・アンド・ディー)とプレインキュベートし、そして洗浄することなく尾部に静脈注入(マウス当たり0.5−0.6×106 のCD34+細胞)した。示されるとおり、細胞移植に続いて4時間、16時間、または5−6週にマウスを屠殺した。肝臓組織の単一の細胞懸濁物を、PBSで十分に洗浄した。ヒト細胞のホーミングは、記述[Kollet(2001年)Blood 97巻:3283−3291頁]されるとおり測定し、そして1.5×106細胞/サンプルを獲得した。
【0170】
結果
CXCR4の中和は、ヒト臍帯血または可動化末梢血のCD34+濃縮細胞移植16時間後におけるNOD/SCIDレシピエントの骨髄、脾臓および肝臓へのホーミングを明らかに阻害した(図1A)。興味深いことに、ヒトHSC[Peled(1999年)Science 283巻:845−848頁]および肝様能力を示す細胞[Danet(2002年)Proc Natl Acad Sci USA 99巻:10441−10445頁;Wang(2003年)Blood(印刷に先立つ電子公表)]で高度に濃縮された、より初期の未分化CD34+/CD38-/低細胞も、マウス肝臓へのそこへの遊走のためのSDF−1/CXCR4相互作用を要求した(図1B)。
【0171】
さらには、非照射NOD/SCIDレシピエントの肝臓実質組織(hepatic parenchyma)へのヒトSDF−1の局所注入、および濃縮されたヒトCD34+細胞の静脈(IV)注入後に、SDF−1は、CD34+前駆体のホーミングを増大させた一方で、CXCR4中和抗体はほとんど完全にそのホーミングを抑制させたことは明らかであった(図1C)。
【0172】
要するにこれらの知見はSDF−1の局所組織発現が、ヒト幹および前駆細胞の、照射マウス肝臓への遊走において走化性の役割を果たすことを示す。
【0173】
実施例2
ストレスは、損傷を受けた肝臓に対しCXCR4+造血前駆体の補充を誘発する
肝臓損傷は、ラットおよびマウス肝臓での肝臓表現型を示す移植されたげっ歯類骨髄前駆細胞のレベルを増大することが見出された[Petersen(1999年)Science 284巻:1168−1170頁;Theise(2000年)Hepatology 31巻:235−240頁;Lagasse(2000年)Nat Med 6巻:1229−1234頁]。肝臓成長因子(HGF)刺激と組み合わせた移植1ヶ月後の四塩化炭素(CCl4)誘発肝臓損傷は、ヒトCD34+およびCD34+/CD38-前駆体で移植された免疫欠損NOD/SCIDおよびNOD/SCID/B2mヌルマウスにおける肝臓様分化およびヒトアルブミン生産のレベルを明らかに増大させ、異なったプロトコールを用いた別の報告[Kakinuma(2003年)Stem Cells 21巻:217−227頁]で立証されたように、移植の2ヵ月後にマウス肝臓中の<1%のヒトアルブミン産生細胞を示した[Wang(2003年)Blood(印刷の前の等価物)]。
【0174】
実験手段
肝臓損傷−マウス腹膜内(IP)にCCl4を10、15または30μl/マウスあたり注入し、そして肝臓サンプルを、示されるとおりに注入に続いて数時間、または1−2日以内に採取した。ホーミングアッセイでは、肝臓採取の4時間前に、マウスにヒト可動化末梢血のCD34+細胞(0.6×106細胞/マウス)を静脈内(IV)に移植を行った。マウスあたり10μgの抗CXCR4を移植細胞にプレインキュベーションすること、または特異的MMP2/9阻害剤III(カルバイオケム(CalBiochem)、カタログ番号444251号)をマウスあたり100μgIP注入することにより、ホーミングは遮断された。ヒト臍帯血のMNC(20×106細胞/マウス)を用いて1ヶ月前に移植されたマウスの血液循環でのヒト前駆体は、記述[Kollet(2001年)Blood 97巻:3283−3291頁]されるとおりにコロニー形成単位アッセイで2×105単核細胞/mlを播種することによって、定量した。CXCR4発現はフローサイトメトリーによって測定を行った。
【0175】
結果
図2Aに示されるように、CCl4の単回注入は、CXCR4依存的手段で処理したマウスの肝臓に対する、濃縮したヒトCD34+細胞のホーミングを迅速に誘導した。興味深いことに、CCl4を介した肝臓傷害は、移植NOD/SCIDマウスにおける骨髄から循環へのヒトコロニー形成前駆体の補充をも誘導した(図2B)。意外にも、増大したレベルのヒトMNC細胞におけるCXCR4発現は、CCl4処理マウスの循環で観察された(図2C)。さらに、CCl4処理は、処理されたNOD/SCIDマウスの肝臓において、タンパク質分解酵素MMP−2の活性の増大およびMMP−9発現を生じた(図2D)。これらの結果は、損傷を受けた肝臓に対するヒトCD34+幹細胞のホーミングにおけるメタロプロテアーゼについての役割を示す。
【0176】
損傷を受けた肝臓に対し造血前駆体を補充することにおけるMMP−2およびMMP−9の役割をさらに具体化するために、可溶性MMP−2/9の存在下における遊走アッセイが達成された。
【0177】
MMP−2およびMMP−9を分泌するHT1080ヒト細胞株由来の上清は、濃縮されたヒトCD34+細胞における表面CXCR4発現を増大させることが判明した(図2E)。さらには、インビトロにおいて、MMPで濃縮された上清はヒト前駆体のSDF−1が介在する遊走を明らかに増大させる一方でその遊走はMMP−2/9阻害剤(図2F)の存在下で阻害され、そのことはこれらのタンパク質分解酵素が、濃縮したヒトCD34+前駆体の運動性に直接影響することを示した。HT1080上清の代わりに精製したMMP−2または精製したMMP−9を使用しても同様の結果が観察された(図5)。上に記述されるとおり、この阻害剤はインビボでの損傷を受けた肝臓へのヒトCD34+前駆体の遊走をも減少させ(図2A)、そしてそれは、損傷を受けた肝臓での炎症の部位に対する造血前駆体のSDF−1を介した補充におけるこれらのタンパク質分解酵素についての中心的役割を示す。
【0178】
実施例3
炎症の不在下での骨髄および脾臓への前駆細胞の遊走および再構築(repopulation)におけるMMP−9/2の関与
本研究は、MMP−2/9が、炎症の不在下でも脾臓および骨髄への前駆細胞のホーミングに、そしてこのような臓器の再構築にも関与するかを明らかにすることを狙いとした。
【0179】
初めに、ヒト臍帯血CD34+細胞をMMP−9/2阻害剤で2時間処理し、そして致死近くに照射を受けたNOD/SCIDマウスへ注入した。
【0180】
CD34+細胞をMMP−9/2阻害剤で2時間予備処理し、そして致死近くに照射を受けたNOD/SCIDマウス(1−2×105細胞/マウス)へ注入した。マウスを5週後に屠殺し、そしてマウスの骨髄を、ヒトパン白血球マーカー(human pan leukocyte marker)CD45を標識し、そしてFACSを用いて分析した。5週後にマウスを屠殺し、そしてマウス骨髄中におけるヒト細胞の数を計測した。表1は、骨髄への移植が、コントロールの非処理細胞と比較して、MMP−2/9阻害剤で処理された細胞において阻害されるように思われることを示す。
【0181】

【0182】
MMP−9/2もまた、脾臓および骨髄へのCD34+細胞のホーミングに関与することがさらに探査された。したがって、可動化末梢血(MPB)CD34+細胞を、MMP−9/2阻害剤で2時間予備処理後に、致死近く照射を受けたNOD/SCIDマウス(0.5×105細胞/マウス)へ注入した。16時間後、マウスを屠殺した後に1.5×106獲得細胞中のヒト細胞の存在を分析した。
【0183】
図3での結果は、MMP−9/2阻害剤が、骨髄でなく脾臓へ、可動化末梢血のCD34+細胞の遊走を明らかに阻害することを示す。したがって、この結果は、MMP−9/2が、脾臓へのホーミングに関与することを示唆する。
【0184】
MMP−2およびMMP−9を分泌するHT1080ヒト細胞株から得られる上清のインキュベーションは、濃縮されたヒトCD34+細胞での表面CXCR4発現を増大されることが明らかとなったことが先に示された(実施例2)。したがって、MMP−2およびMMP−9による表面CXCR4発現におけるこのような増大は、ホーミングおよび再構築の観察された誘導を説明しうる。
【0185】
MMP−9/2は骨髄の再構築には要求されるが(表1)、この同じ臓器への遊走には要求されない(図3)結果は、脾臓を介して間接的に再構築するよりも前に、骨髄への移植細胞の遊走による可能性が明らかにある。このセッティングでMMP−9/2は最初に脾臓へのホーミングのために要求され、そしてタンパク質分解酵素の阻害は、脾臓へのホーミングを阻害し、そして間接的に骨髄再構築の阻害を生じうる。
【0186】
実施例4
プレBLL細胞の遊走におけるMMP−9/2の関与
上に明記されるとおり(実施例2および3)、MMP−9/2の作用は、正常な造血系前駆体細胞の遊走および再構築を制御する機構に関与する。次に、このようなタンパク質分解酵素の作用が、白血病細胞の遊走にも関与しうるか探査された。この目的のために、SDF−1への、B細胞の前駆体から生じるリンパ腫であるプレBLL細胞G2のインビトロ遊走に対するMMP−9/2阻害剤の影響を、観察した(図4)。
【0187】
G2の遊走におけるMMP−9/2の関与を探査するために、G2細胞(1×105 G2細胞)は、MMP−9/2阻害剤と、またはMMP−2およびMMP−9を分泌するHT1080細胞株上清とのいずれかとプレインキュベートし、そしてSDF−1(10ng/ml)に対するトランスウエル遊走アッセイで分析した。図4で表される結果では、G2細胞がSDF−1への遊走に対して要求されるMMP−9/2を生産することを示す。その結果は、異所性(ectopic)MMP9/2の添加は、G2細胞のSDF−1への遊走をさらに促進しなかったことを示す。さらに、MMP−9/2による遊走の阻害は、異所性MMP9/2の添加によって遮断されなかった。
【0188】
MMP−9/2は、正常の前駆体細胞のものでのみならず、B細胞前駆体から発生する白血球細胞でもSDF−1を介した遊走に関与することを示す結果が得られた。
【0189】
MMP9/2阻害剤は、外因的に添加されたMMP9/2の存在下でさえ、白血球G2細胞の遊走を有効に阻害することも示す。
【0190】
本発明は、それの特定の実施形態と関連して記述されたが、多くの代替物、修飾および変更は、当業者に明らかであることは明白である。したがって、付随の請求項の概念および広範な範囲に入る全てのこのような代替物、修飾および変更を受け入れることが意図される。本明細書で明記される全ての出版物、特許および特許出願は、各個々の出版物、特許または特許出願が、参照してここに組込まれることが特定に、そして個々に示される場合に、同じ範囲までそれらの全体に参照して明細書に組込まれる。さらに、本出願でのいずれの参照文献の引用および同一性は、かかる参照文献が、本発明に先行技術として利用可能であるという認可と見なされるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】図1A−Cは、NOD/SCIDマウスの様々の標的組織に対するヒトCD34+細胞のSDF−1/CXCR4依存性ホーミングを描くグラフを示す。図1Aは、CXCR4抗体を中和させることによって、ヒト臍帯血または可動化末梢血の濃縮CD34+細胞のマウス骨髄、脾臓および肝臓に対するホーミングの阻害を示す棒グラフである。データは、コントロールの百分率として阻害を示す。P0.008、抗CXCR4で処理したサンプルに対するコントロール相対物と比較する。図1Bは、非処理細胞(上部パネル)、CXCR4中和細胞(中間パネル)およびネガティブコントロールとして役割を果たす非注入マウス(下部パネル)それぞれで移植されたマウスの肝臓中のヒトCD34+/CD38-/低ホーミング細胞(ゲート内)を示す代表的ホーミング実験を示す。図1Cは、非照射マウスの肝臓に対するCXCR4−中和または非処理CD34+細胞の4時間ホーミング実験を示す。ヒトSDF−1を、示されるとおり肝臓実質組織に注入した。細胞を、注入葉(injected lobe)から採取して、ヒトCD34+細胞のホーミングを測定した。
【図2】図2Aは、アッセイの24時間前に非照射NOD/SCIDマウスの肝臓に対して、ヒトの濃縮CD34+細胞を、15μlCCl4と共に注入し4時間ホーミングアッセイを行ったグラフを示す。 図2Bは、移植6週のマウスにおけるヒト前駆体のレベルを、10μlのCCl4を単回注射した1日後における半固形培地中のキメラマウスの末梢血単核細胞(MNC)をもちいて測定し描いた柱グラフを示す。 図2Cは、図2Bの非処理またはCCl4注入キメラマウスから得られる末梢血MNCのヒトCXCR4染色を描く柱グラフを示す。 図2Dは、CCl4注入マウスの肝臓におけるMMP−2/9活性が増大したことを示すザイモグラフアッセイを描く顕微鏡写真を示す。コントロールとしての血液サンプル(レーン1、2);15μlのCCl4を注入し1日後に得られた血液サンプル(レーン3);30μlのCCl4を注入し2日後に得られた血液サンプル(レーン4);15μlのCCl4を注入し2日後に得られた血液サンプル(レーン5);HT1080ヒト細胞株から得られるMMP2/9濃縮調整培地(レーン6)。 図2Eは、MMP2/9での処理に続くCXCR4発現のアップレギュレーションを描くFACS分析により測定されたグラフを示す。臍帯血のCD34+細胞は、RPMI生育培地およびHT1080調整培地を用いて5時間インキュベートした。細胞を、ネガティブコントロールとしてアイソトープコントロール抗体(isotope control antibody)(Isot)で、またはCXCR4抗体で染色した。3つの実験の代表的データが示される。 図2Fは、SDF−1に向かう臍帯血のおよび可動化末梢血のCD34+細胞の遊走を、トランスウエルシステムを用いて測定し描いた棒グラフを示す。RPMI(コントロール)、または分泌MMP−2/9を濃縮した細胞株HT1080の調整培地を(Ginestra (1997年)J.Biol Chem 272巻:17216−17222)、CD34+細胞と一緒に上部トランスウエルに加えた。細胞を遊走の前に、特異的MMP−2/9阻害剤III(100μM、CalBiochem、30分)でインキュベートした。一緒に添加したときには上部トランスウエル中の細胞を添加する前に、HT1080調整培地およびMMP2/9阻害剤を一緒にプレインキュベートした(30分)。データは、コントロール細胞に比較して遊走が倍増したことを表す。
【図3】図3は、MMP−9/2は、脾臓に対するMBP CD34+細胞のホーミングに関与することを示す。MBP CD34+細胞を、MMP−9/2阻害剤で2時間予備処理し、そして致死量に近く照射を受けたNOD/SCIDマウス(0.5×105細胞/マウス)に注入した。マウスを16時間後に屠殺し、そして1.5×106獲得細胞中のヒト細胞の存在について分析した。
【図4】図4は、MMP−9/2が、G2細胞のSDF−1を介したインビトロ遊走に関与することを示す。1×105 G2細胞を、MMP−9/2阻害剤および/またはHT1080細胞株のいずれかを用いてプレインキュベートし、そして10ng/ml SDF−1に対するトランスウエル遊走アッセイで分析した。
【図5】図5は、精製したMMP−2/MMP−9が、CD34+細胞のインビトロ遊走に関与することを示す。1×105 未処理臍帯血のCD34+を、MMP−2/MMP−9阻害剤の存在または不在下で、精製した組換えMMP−2またはMMP−9を用いてトランスウエル中で分析した。遊走における倍増は、MMP−9またはMMPの存在下で、未処理細胞のSDF−1(10ng/ml)を介した遊走と比較する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させる方法であって、幹細胞を、幹細胞の少なくとも1種の化学誘引物質受容体のレベルを増大させ、それにより化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させる能力を有するマトリックスメタロプロテアーゼまたはその活性部分にさらすことを包含する方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種の化学誘引物質受容体が、CXCR4である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2、MMP−3、MMP−9、MMP−10、MMP−13およびMMP−14よりなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2およびMMP−9よりなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項5】
幹細胞が造血幹細胞である請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記造血幹細胞がCD34+造血幹細胞である請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記造血幹細胞がCD34+/CD38-/低造血幹細胞である請求項6記載の方法。
【請求項8】
幹細胞が間葉幹細胞である請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分に幹細胞をさらすことが、
(i)幹細胞中でマトリックスメタロプロテアーゼまたはその活性部分をコードするポリヌクレオチドを発現させること;および/または
(ii)幹細胞を、マトリックスメタロプロテアーゼまたはその活性部分と接触させること
によって達成される請求項1記載の方法。
【請求項10】
細胞または組織交換を必要とする障害を治療する方法であって、それを必要とする対象に、幹細胞の少なくとも1種の化学誘引物質受容体のレベルを増大させて、それによりその対象における細胞または組織交換を必要とする障害を治療する能力を有するマトリックスメタロプロテアーゼまたはその活性部分で処理した治療上有効な量の幹細胞を供することを包含する方法。
【請求項11】
前記少なくとも1種の化学誘引物質受容体がCXCR4である請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2、MMP−3、MMP−9、MMP−10、MMP−13およびMMP−14よりなる群から選択される請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2およびMMP−9よりなる群から選択される請求項10記載の方法。
【請求項14】
幹細胞が造血幹細胞である請求項10記載の方法。
【請求項15】
前記造血幹細胞がCD34+造血幹細胞である請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記造血幹細胞がCD34+/CD38-/低造血幹細胞である請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記幹細胞が間葉幹細胞である請求項10記載の方法。
【請求項18】
化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させるために適切な培養培地であって、幹細胞の少なくとも1種の化学誘引物質受容体のレベルを増大させる能力を有するマトリックスメタロプロテアーゼまたはその活性部分、および幹細胞培養に適切な緩衝溶液を包含する培養培地。
【請求項19】
さらに、分化阻害因子を包含する請求項18記載の培養培地。
【請求項20】
さらに、血清または血清代替物を包含する請求項18記載の培養培地。
【請求項21】
さらに、SCF、HGFおよびIL−6よりなる群から選択される薬剤を包含する請求項18記載の培養培地。
【請求項22】
標的組織に対する幹細胞のホーミングを増大させるための医薬品を製造するためのマトリックスメタロプロテアーゼまたはその活性部分の用途。
【請求項23】
前記幹細胞が造血幹細胞である請求項22記載の用途。
【請求項24】
前記造血幹細胞がCD34+造血幹細胞である請求項23記載の用途。
【請求項25】
前記造血幹細胞がCD34+/CD38-/低造血幹細胞である請求項24記載の用途。
【請求項26】
前記幹細胞が間葉幹細胞である請求項22記載の用途。
【請求項27】
前記標的組織が、骨髄、血管、心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓、神経系、皮膚、骨および骨格筋よりなる群から選択される請求項22記載の用途。
【請求項28】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2、MMP−3、MMP−9、MMP−10、MMP−13およびMMP−14よりなる群から選択される請求項22記載の用途。
【請求項29】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2およびMMP−9よりなる群から選択される請求項22記載の方法。
【請求項30】
移植に適した幹細胞を産生させる方法であって、
(a)幹細胞を採取すること、
(b)幹細胞を、マトリックスメタロプロテアーゼまたはその活性部分にさらすこと、および
(c)所定の閾値より上のCXCR4レベルを有する幹細胞を単離して、それにより、移植に適した幹細胞を産生させること、
を包含する方法。
【請求項31】
幹細胞を採取することが、
(i)幹細胞可動化手段;および/または
(ii)外科的手段
によって達成される請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2、MMP−3、MMP−9、MMP−10、MMP−13およびMMP−14よりなる群から選択される請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2およびMMP−9よりなる群から選択される請求項30記載の方法。
【請求項34】
前記幹細胞が造血幹細胞である請求項30記載の方法。
【請求項35】
前記造血幹細胞がCD34+造血幹細胞である請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記造血幹細胞がCD34+/CD38-/低造血幹細胞である請求項34記載の方法。
【請求項37】
前記幹細胞が間葉幹細胞である請求項30記載の方法。
【請求項38】
前記マトリックスメタロプロテアーゼまたはその前記活性部分に前記幹細胞をさらすことが、
(i)該幹細胞中で該マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの該活性部分をコードするポリヌクレオチドを発現させること;および/または
(ii)該幹細胞を、該マトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの該活性部分と接触させること
によって達成される請求項30記載の方法。
【請求項39】
前記所定の閾値より上のCXCR4レベルを有する該幹細胞を単離することが、FACSによって達成される請求項30記載の方法。
【請求項40】
さらに、工程(c)に続いて前記所定の閾値より上のCXCR4レベルを有する該幹細胞のホーミング能力を測定する請求項31記載の方法。
【請求項41】
マトリックスメタロプロテアーゼまたはその活性部分をコードする第一のポリヌクレオチド配列、および細胞中の該ポリヌクレオチドの発現を指示する誘導性シス作用調節因子を包含する核酸構築物。
【請求項42】
前記誘導性シス作用調節因子が、ずれ応力活性化因子である請求項41記載の核酸構築物。
【請求項43】
さらに、前記第一のポリヌクレオチド配列に翻訳で融合される第二のポリヌクレオチド配列を包含し、そして該第二のポリヌクレオチド配列は、該細胞の中から外への該マトリックスメタロプロテアーゼまたは該その活性部分の分泌を指示する能力のあるシグナルペプチドをコードする請求項41記載の核酸構築物。
【請求項44】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2、MMP−3、MMP−9、MMP−10、MMP−13およびMMP−14よりなる群から選択される請求項41記載の核酸構築物。
【請求項45】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2およびMMP−9よりなる群から選択される請求項41記載の核酸構築物。
【請求項46】
請求項41の核酸構築物を包含する真核生物の細胞。
【請求項47】
マトリックスメタロプロテアーゼをコードする外因性ポリヌクレオチドを発現するために形質転換された幹細胞を包含する細胞株。
【請求項48】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2、MMP−3、MMP−9、MMP−10、MMP−13およびMMP−14よりなる群から選択される請求項47記載の細胞株。
【請求項49】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2およびMMP−9よりなる群から選択される請求項47記載の細胞株。
【請求項50】
前記幹細胞が造血幹細胞である請求項47に記載の細胞株。
【請求項51】
前記造血幹細胞がCD34+造血幹細胞である請求項50記載の細胞株。
【請求項52】
前記造血幹細胞がCD34+/CD38-/低造血幹細胞である請求項51記載の細胞株。
【請求項53】
前記幹細胞が間葉幹細胞である請求項47記載の細胞株。
【請求項54】
化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させる方法であって、幹細胞の少なくとも1種の内因性MMPの発現または活性をアップレギュレーションし、それによって化学誘引物質に対する幹細胞の感受性を増大させることを包含する方法。
【請求項55】
必要とする対象における化学誘引物質の感受性を増大させる方法であって、該患者に、少なくとも1種のマトリックスメタロプロテアーゼまたはその活性部分を投与することを包含する方法。
【請求項56】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2、MMP−3、MMP−9、MMP−10、MMP−13およびMMP−14よりなる群から選択される請求項55記載の方法。
【請求項57】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2およびMMP−9よりなる群から選択される請求項56記載の方法。
【請求項58】
移植に適した幹細胞を産生させる方法であって、
(a)幹細胞を採取すること、および
(b)該幹細胞を、MMPまたはその活性部分にさらすこと、
を包含する方法。
【請求項59】
細胞または組織交換を必要とする障害を治療するために少なくとも1種のマトリックスメタロプロテアーゼまたはそれの活性部分を包含する医薬組成物。
【請求項60】
前記マトリックスメタロプロテアーゼが、MMP−2およびMMP−9よりなる群から選択される請求項59記載の医薬組成物。
【請求項61】
前記マトリックスがMMP−2である請求項60記載の医薬組成物。
【請求項62】
前記マトリックスがMMP−9である請求項60記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−522603(P2006−522603A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507602(P2006−507602)
【出願日】平成16年4月7日(2004.4.7)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000314
【国際公開番号】WO2004/090120
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
ウィンドウズ
【出願人】(500018608)イエダ リサーチ アンド ディベロップメント カンパニー リミテッド (35)
【Fターム(参考)】