説明

化学重合型歯科用接着性組成物

【課題】 化学重合型歯科用接着性組成物において、重合活性を低減させることなく、接着強度の高さや、確実な硬化性を実現でき、且つ保存安定性や硬化体の色調変化についても優れるものを開発すること。
【解決手段】 (A)酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体
(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物
(C)第一級若しくは第二級の、脂肪族アミン化合物若しくは脂環族アミン化合物、またはこれらの塩
(D)カンファーキノン等のα−ジケトン化合物
を含有することを特徴とする化学重合型歯科用接着性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学重合型歯科用接着性組成物、さらに詳しくは歯牙に対する自己接着性を有する化学重合型歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体と重合触媒とを含む重合性組成物を硬化させる方法は、歯科分野では、歯科用セメント、歯科用接着材、コンポジットレジン、歯科用常温重合レジン、歯科用前処理材、義歯床用材料等として広く利用されている。重合性組成物に使用される重合触媒には、単一成分から成るものと複数成分から成るものがある。単一成分から成るものとしては光重合触媒があり、これを配合した重合性組成物は、専用の機械を用いて光照射を行うことで光重合が開始される。他方、複数成分からなるものとしては、化学重合触媒が該当する。化学重合触媒は、重合性組成物の保管形態を少なくとも二つの包装に分割し、夫々の包装に成分を分けて配合する。これらは、使用時に各包装を混合・練和することで、化学硬化が開始される。
【0003】
ここで、高活性な化学重合触媒として、有機過酸化物と、還元性物質であるアミン化合物を組合せたレドックス重合触媒が知られ、歯科分野においても汎用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。これらにおいて、有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ジブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイ等が例示されている。また、アミン化合物としては、第1級〜第3級アミン、さらに、脂肪族アミンも芳香族アミンも制限なく使用可能とされている(特許文献1〔0023〕)。しかし、その中でも、第3級アミンが好ましく、N,N−ジメチル−P−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチレン−P−トルイジン等の芳香族三級アミン化合物(特許文献2)や、これに脂肪族三級アミン化合物を併用したもの(特許文献3)が推奨されている。
【0004】
こうした有機過酸化物とアミン化合物とを組合せた化学重合触媒において、有機過酸化物は、過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキサイド類が、得られる活性が高く常温でも硬化が円滑に進行するため、大変有用である。しかし、その活性の高さから、室温で保管中において、長期間が経過すると分解及びラジカルが生成し、失活や、重合性単量体と混合されている場合には硬化が進行する問題があった。この点、クメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類は、熱的安定性が良好であり、室温下でも長期間保存が可能である。しかし、過酸化ベンゾイル等と比較すると活性が低く、今一歩実用的ではなかった。
【0005】
また、有機過酸化物と組合せるアミン化合物は、前記のとおり第3級アミン、特に、芳香族三級アミン化合物が、重合促進作用が高く好適なものとして使用されている。しかし、芳香族三級アミン化合物は、着色物質に変化し易く、硬化体において審美性が損なわれ、歯科用途では十分に満足でるとは言い難かった。この点、脂肪族三級アミン化合物は、着色物質に変化し難く、審美性の面で好適であるが、上記芳香族三級アミン化合物と比較すると重合促進作用が一歩低く、その一部として併用する程度しか使用できていないのが現状である。
【0006】
なお、化学重合触媒ではなく、光重合触媒を用いた歯科用重合性組成物において、該光重合触媒として、α−ジケトン化合物、アミン化合物、およびジアリールヨードニウム塩系化合物を組合せたものが知られている(特許文献4)。そして、この歯科用重合性組成物には、光重合能だけでなく化学重合能も付与しても良い(所謂、デュアルキュア化)とされ、そのために有機過酸化物を配合することが開示されている。しかし、上記アミン化合物としては、重合活性の高さからやはり芳香族三級アミン化合物が好ましいとされ、前記デュアルキュア化した場合に、該有機過酸化物と、α−ジケトン化合物およびアミン化合物とを具体的に如何様に組合せるかについては何も示されていない。
【0007】
翻って、重合性組成物からなる歯科材料において、歯科用接着材は、口腔内という過酷な環境下での長期使用による二次齲触の発生や修復物の脱落等を起こさないために、格別に歯牙と修復物とを高強度に接着することが求められる。したがって、化学重合型で硬化する歯科用接着材にあっても、その化学重合触媒は、上記有機過酸化物と、還元性物質であるアミン化合物を組合せたものが好適になる。ところが、一部の歯科用接着材に対しては、係るレドックス重合触媒を用いても、その高い触媒活性が十分に発現しない問題があることが発覚した。
【0008】
すなわち、一般に、歯科用接着性組成物を歯牙と接着させる前には、歯牙との馴染みを向上させるために、酸水溶液による脱灰処理や、歯質に対して親和性の高い重合性単量体を用いた浸透処理を行なうことが、接着強度向上の観点から大変有効である。しかし、これらの前処理は操作を煩雑にするため、近年では、歯科用接着性組成物に使用する重合性単量体の一部として、上記歯質の脱灰機能や浸透機能を備えた単量体を含有させ、接着性組成物自身にこれらの機能を兼備させて、前記前処理をしなくてもすむようにしたものが普及してきている(所謂、自己接着性の接着性組成物;特許文献5〜7)。
【0009】
ところが、こした重合性単量体して酸性基含有のものを配合した自己接着性の歯科用接着性組成物において、化学重合触媒として前記レドックス重合触媒を適用すると、還元性物質であるアミン化合物が、酸性基含有重合性単量体の酸性基により中和され、塩の状態ではその重合活性が大幅に低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−114221号公報
【特許文献2】特公平6−2651号公報
【特許文献3】特開2005−170813号公報
【特許文献4】特開2010−208964号公報
【特許文献5】特表2007−502282号公報
【特許文献6】特開2001−122718号公報
【特許文献7】特開2009−167132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上説明したように、重合性単量体して酸性基含有のものを配合した自己接着性の歯科用接着性組成物において、化学重合触媒として、有機過酸化物と、還元性物質であるアミン化合物を組合せた系を用いると、予期したような高い重合活性が発現せず、満足する接着強度が得られない問題があった。こうした状況にあって、本発明は、係る化学重合型歯科用接着性組成物において、重合活性を低減させることなく、接着強度の高さや、確実な硬化性を実現でき、且つ保存安定性や硬化体の色調変化についても優れるものを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、酸性基含有重合性単量体を用いた場合であっても、特定の有機過酸化物と特定のアミン化合物とを組合せた化学重合触媒に対して、さらにα―ジケトン化合物を配合することで、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(A)酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体
(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物
(C)第一級若しくは第二級の、脂肪族アミン化合物若しくは脂環族アミン化合物、またはこれらの塩
(D)α−ジケトン化合物
を含有することを特徴とする化学重合型歯科用接着性組成物である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯科用接着性組成物は、重合性単量体の少なくとも一部として酸性基含有のものを含み、歯質の脱灰機能や浸透機能を備えた自己接着性組成物である。そして、重合触媒が、有機過酸化物とアミン化合物とを組合せたレドックス系のものでありながら、酸性基含有重合性単量体が共存する中で、高い重合活性が発揮され、歯牙と修復物とを高強度で確実に接着できる。
【0015】
しかも、上記重合触媒において、有機過酸化物が、熱的安定性に優れるハイドロパーオキサイド系有機過酸化物であるため、これをラジカル重合性単量体に配合した重合性組成物は、室温下でも長期間保存が可能である。さらに、アミン化合物が、第一級若しくは第二級の、脂肪族アミン化合物若しくは脂環族アミン化合物(または、これらの塩)であるため着色物質に変化し難く、硬化体の審美性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の化学重合型歯科用接着性組成物は、化学重合触媒として、(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物、(C)第一級若しくは第二級の、脂肪族アミン化合物若しくは脂環族アミン化合物(以下、これらを「脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物」とも称する)、またはこれらの塩、(C)α-ジケトン化合物を含むものが使用される。還元性物質であるアミン化合物として、上記脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物を選定し、これに(D)α-ジケトン化合物を組合せて用いることにより、(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物による重合活性は特異的に大きく高まる。すなわち、有機過酸化物が、ハイドロパーオキサイド系以外の有機過酸化物(例えば、前記高活性なものとして汎用されている過酸化ベンゾイル等)であった場合、このような高い重合活性の向上作用は発現しない。
【0017】
また、前記したように有機過酸化物とアミン化合物とを組合せたレドックス重合触媒では、アミン化合物は、第三級アミン、特に芳香族三級アミンにおいて高い重合促進作用が示されるが、本発明の(D)α-ジケトン化合物を共存させる系では、脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物で高い重合促進作用が示される。しかも、第二級アミンよりも第一級の方が、その向上効果はより優れたものになる。さらに、この高い重合促進作用は、接着性組成物が、(A)重合性単量体成分として、酸性基含有重合性単量体を含むものであったとしても、良好に保持されて発揮される。前記したように(C)α-ジケトン化合物は、光重合触媒としては汎用的なものであるが、このような化学重合触媒系の補助成分としての、特異な活性促進作用は何も知られておらず、全く予想外の挙動である。
【0018】
アミン化合物として、脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物を選定し、これにα-ジケトン化合物を組合せて用いることにより、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物による重合活性が、酸性基含有重合性単量体の存在下でも、大きく高まる原因は、本発明者らは、次のような機構によるものではないかと推定している。すなわち、通常のレドックス反応では、有機過酸化物とアミン化合物とが直接反応し、ラジカルが生成する。この際に、アミン化合物が中和反応によって塩を形成していると、上記有機過酸化物との反応が激しく阻害されてしまう。
【0019】
これに対して本発明で使用する上記重合触媒では、まず、脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物とα-ジケトン化合物のカルボニル基との付加反応が生じる。これにより、不安定なヘミアミナール化合物となり、続いて脱水反応が生じることでイミン化合物或いはエナミン化合物へと変換される。なお、この反応は可逆反応であり、上記生成したイミン化合物或いはエナミン化合物の一部は水との付加反応により、ヘミアミナール化合物を経て、当初のα-ジケトン化合物と脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物に戻ると考えられる。そして、これらの反応過程で生成するヘミアミナール化合物は、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物に対する還元剤として、非常に高い活性を有しているため、この段階でラジカルを活発に生成させ、高い重合活性が示されるのではないかと予測している。
【0020】
しかして、この反応機構では、上記脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物のα-ジケトン化合物への付加反応は、該アミン化合物が中和反応により塩を形成していても円滑に進行し、ヘミアミナール化合物となるため、重合性単量体として酸性基含有重合性単量体を使用していても、この高い重合活性は良好に維持されるのではないかと推定している。なお、この脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物のα-ジケトン化合物への付加反応は、アミン化合物が該脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物ではなく、第三級アミン化合物であると反応性が低下し、特に、これが芳香族系のものであると反応性はさらに低下する。すなわち、上記重合触媒においては、アミン化合物として脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物を用いて特異的に、この高い活性促進作用が示されるものである。
【0021】
以下、本発明の接着性組成物を構成する、(A)酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体、(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物、(C)脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物、またはその塩、(C)α-ジケトン化合物の各成分について、順次詳述する。
【0022】
<酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体>
本発明において重合性単量体は、一分子中に、少なくとも一つのラジカル重合性不飽和基を有す化合物を意味する。ラジカル重合性不飽和基の具体例としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基等の(メタ)アクリロイル基の誘導体基、ビニル基、アリル基、スチリル基等が例示される。歯科用途として生体への為害性を考慮すると、(メタ)アクリロイル基が好適に使用される。
【0023】
本発明では、重合性単量体成分は、少なくとも一部として、酸性基含有のものを含んでいる。ここで、酸性基とは、該基を有すラジカル重合性単量体の水溶液又は水懸濁液が酸性を呈す基であり、単なる酸性基だけでなく、当該酸性基の二つが脱水縮合した酸無水物構造や、酸性基がハロゲン化された酸ハロゲン化物基であっても良い。具体的には、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、リン酸二水素モノエステル基{−O−P(=O)(OH)}、リン酸水素ジエステル基{(−O−)P(=O)OH}、スルホ基(−SOH)、及び酸無水物骨格{−C(=O)−O−C(=O)−}等が挙げられる。水に対する安定性が高く、歯面のスメアー層の溶解や歯牙脱灰を緩やかに実施できるため、カルボキシル基、リン酸二水素モノエステル基、リン酸水素ジエステル基がより好ましい。さらには、pKaが低いために、アミン化合物との中和反応による、レドックス重合触媒の活性低下を生じさせ易いものであり、本発明の重合活性を維持する本発明の効果が特に顕著に発揮されるものであることから、リン酸二水素モノエステル基とリン酸水素ジエステル基が最も好ましい。
【0024】
リン酸二水素モノエステル基またはリン酸水素ジエステル基を有するラジカル重合性単量体としては、具体的には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−ジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5−{2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。
【0025】
カルボキシル基を有するラジカル重合性単量体としては、具体的には、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
【0026】
スルホ基を有するラジカル重合性単量体としては、具体的には、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等が挙げられる。
【0027】
こうした酸性基含有重合性単量体は、ラジカル重合性単量体成分の全量として用いても良いが、接着性組成物の歯質に対する浸透性を調節したり、硬化体の強度を向上させたりする観点から、酸性基非含有ラジカル重合性単量体と併用するのが好適である。その場合においても、酸性基含有ラジカル重合性単量体は、エナメル質および象牙質の両方に対する接着強度を良好にする観点から、全ラジカル重合性単量体成分中において5質量%以上含有させるのが好適であり、5〜60質量%含有させるのがより好適であり、10〜40質量%含有させるのが特に好適である。
【0028】
本発明において、酸性基非含有ラジカル重合性単量体は、公知のものが特に制限されることなく使用できるが、具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等のモノ(メタ)アクリレート系モノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス{4−[3−(メタ)アクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系モノマー等を挙げることができる。
【0029】
<ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物>
本発明において、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物は、レドックス反応の酸化剤として配合される、ハイドロパーオキサイド基を少なくとも1つ以上含む任意の化合物が制限なく使用できる。重合性組成物としたときの保存安定性の点から、10時間半減期温度が100℃以上の化合物を用いるのが好ましい。
【0030】
こうしたハイドロパーオキサイド系有機過酸化物の具体例としては、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイド、ピナンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。このうち、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドが、重合活性が特に高くなり好適である。これらのハイドロパーオキサイド系有機過酸化物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物は、ラジカル重合性単量体100質量部当り、0.1〜10質量部、特に0.5〜5質量部配合するのが好ましい。この配合量において、ラジカル重合性単量体を、より高い重合活性で硬化させることが可能になる。
【0032】
<脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物、またはその塩>
本発明では、上記ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物の還元剤として、脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物、またはその塩が使用される。これらの脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物としては、公知の化合物が制限なく使用できるが、好適には下記の一般式(1)
【0033】
【化1】

〔式中、RおよびRは、相互に独立して、水素、水酸基、アルキル基、シクロアルキル基、または下記式(2)
【0034】
【化2】

(式中、Rは、アルキレン基であり、RおよびRは、相互に独立して、水素、水酸基、アルキル基、またはシクロアルキル基を示す。)
であり、RおよびRが同時に水素同士または水酸基同士であることはない。〕

で示されるアミン化合物が挙げられる。
【0035】
ここで、R、R、R、Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、n−イコシル基、n−ペンタコシル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基、n−イコシル基等の炭素数が1〜25のものが好ましく、このうち炭素数が5〜20のものがより好ましく、炭素数が12〜18のものが特に好ましい。
【0036】
、R、R、Rのシクロアルキル基としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の炭素数が4〜10のものが挙げられる。
【0037】
また、Rのアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、イコシレン基等の炭素数が2〜20のものが好ましく、このうち炭素数が2〜15のものがより好ましく、炭素数が5〜15のものが特に好ましい。
【0038】
また、これらのアルキル基、シクロアルキル基、およびアルキレン基は、水素原子の1個または2個以上が置換されていても良く、該置換基としては、水酸基、(メタ)アクリロイル基、アルデヒド基、アシル基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が例示される。
【0039】
上記一般式(1)で示されるアミン化合物の内、脂肪族・脂環族二級アミン化合物の具体例としては、メチルエタノールアミン、メチルヘキシルアミン、メチルドデシルアミン、メチルステアリルアミン、メチルアミノエチルメタクリレート、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジオクチルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−メチルヒドロキシルアミン等が挙げられる。
【0040】
さらに、上記一般式(1)で示されるアミン化合物の内、脂肪族・脂環族一級アミン化合物の具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、ステアリルアミン、ノナデシルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、エタノールアミン、イソプロパノールアミン、ヒドロキシルアミン等を挙げることができる。
【0041】
一方、RおよびRの内のいずれか一方が前記式(2)で表される基を有している場合には、ジアミン化合物となる。ジアミン化合物としては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、cis−1,2−シクロヘキサンジアミン、N,N,N’−トリエチルエチレンジアミン、N−オクタデシルトリメチレンジアミン、N,N’−ジドデシル−1,4−ブタンジアミン、β−ヒドロキシデシルエチレンジアミン等 等が挙げられる。
【0042】
さらに、RおよびRの両方が前記式(2)で表される基を有している場合には、トリアミン化合物となる。トリアミン化合物としては、ジエチレントリアミン、N−(2−アミノエチル)−N’−ドデシル−1,2−エタンジアミン、N−ドデシル-N'−[2−(ドデシルアミノ)エチル]−1,2−エタンジアミン、N,N,N’,N’−テトラエチルジエチレントリアミン3,3’−ジアミノジプロピルアミン等を挙げることができる。
【0043】
本発明において、これらの一般式(1)で表される脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物は、塩として配合しても、脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物を配合する場合に近い効果を奏することができる。このような塩としては、塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩等が挙げられる。
【0044】
本発明において、これらの脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物およびその塩は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
本発明において、これら脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物またはその塩を、α-ジケトン化合物と共存させることにより、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物の重合活性を大きく向上させる作用は、窒素原子に結合する3つの基の少なくとも1つが水素であることによるところが大きいと考えられる。詳述すると、この水素の結合により、該アミン化合物はα-ジケトン化合物と反応しヘミアミナール構造を有する化合物になり易く、これにより上記重合活性の強い向上作用が発揮されるようになると推定される。これらに対して、窒素原子に結合する3つの基の全てが水素原子でなく、置換されている三級アミン化合物であると、上記α-ジケトン化合物のカルボニル基に対する付加反応は起こり難くなり、その重合活性の向上作用は低下する。
【0046】
このような重合活性の向上作用は、一般式(1)で表される脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物であれば、R、R、R、Rが、水素やアルキル基である方がより好ましく、さらに、水素である方が特に好ましい。言い換えれば、本発明で使用する脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物は、重合活性の向上効果から、脂環式化合物よりも脂肪族アミン化合物の方が好ましく、さらに、2級アミン化合物よりも1級アミン化合物であるのが、より好ましい。
【0047】
なお、前記脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物またはその塩には、アミン特有の臭気や毒性が問題となる場合がある事から、上記重合活性以外の物性として、沸点が100℃以上、さらには120℃以上であるものを用いるのが好ましい。
【0048】
以上を総合して、本発明において最も好適に使用できる(C)成分のアミン化合物は、デシルアミン、ラウリルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、ステアリルアミン、ノナデシルアミン等の脂肪族1級アミン化合物、またはその塩である(塩よりも、脂肪族1級アミン化合物として用いる方がより好ましい)。
【0049】
本発明において、脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物またはその塩の配合量は、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物100質量部に対して10〜1000質量部、特に50〜500質量部であるのが好ましい。この配合量において、ラジカル重合性単量体を、より高い重合活性で硬化させることが可能になる。
【0050】
<α-ジケトン化合物>
本発明において、α-ジケトン化合物は、前記したように、化学重合触媒能の活性向上補助成分として機能する。こうしたα−ジケトン化合物は、α−ジケトン構造を有する公知の化合物が何ら制限なく使用でき、具体的には、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸等のカンファーキノン類;ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、4,4’−ジメトキシベンジル、4,4’−オキシベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナントレンキノン、アセナフテンキノン、1,2−シクロヘキサンジオン、o−ベンゾキノン等を挙げることができる。
【0051】
これらのα-ジケトン化合物の中でも、カンファーキノン、9,10−フェナントレンキノン、アセナフテンキノン、1,2−シクロヘキサンジオン、o−ベンゾキノン等のα−ジケトン構造が環構造上に存在する化合物が、化学重合の活性向上効果が高く好ましい。これは、環構造によりα−ジケトン構造が固定化されていることにより、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物と脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物との反応性が高まる為ではないかと考えられる。中でもカンファーキノンは、最も活性向上効果が高く、さらに、他の成分への溶解性や、保存安定性にも優れるため、特に好ましい。
【0052】
本発明において、これらのα-ジケトン化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
ここで、これらα−ジケトン化合物の中には、カンファーキノンのように色調を有するものがあるがあり、本発明の化学重合触媒を配合した重合性組成物は若干の色身を帯びることがある。しかし、α−ジケトン化合物の色身は、硬化に伴って退色する。これは、α−ジケトン構造が、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物と飽和炭化水素アミン化合物との反応によって、構造変化しているためであると考えられる。この現象を利用(重合中の退色の程度を確認)することにより、本発明の接着性組成物では、硬化の進行具体を目視で判断できる利点がある。
【0054】
本発明において、α−ジケトン化合物の配合量は、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物100質量部に対して0.1〜200質量部、特に1〜100質量部であるのが好ましい。この配合量において、ラジカル重合性単量体を、より高い重合活性で硬化させることが可能になる。
【0055】
<充填材>
本発明の接着性組成物には、機械的強度や操作性を向上させるために、充填材を含有させても良い。係る充填材としては、無機充填材、有機充填材、または無機―有機複合フィラーを適宜用いることができる。有機充填材の具体例としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート・エチル(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・ブチル(メタ)アクリレート共重合体あるいはメチル(メタ)アクリレート・スチレン共重合体等の非架橋性ポリマー若しくは、メチル(メタ)アクリレート・エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、メチル(メタ)アクリレート・トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体あるいは(メタ)アクリル酸メチルとブタジエン系単量体との共重合体等の(メタ)アクリレート重合体等が使用できる。
【0056】
無機充填材は、例えば、周期律第I、II、III、IV族、遷移金属、若しくはそれらの酸化物、水酸化物、塩化物、硫酸塩、亜硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩、または珪酸塩等が制限なく使用できる。これらは、混合物や複合塩であっても良い。
【0057】
好適には、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ヒュームドシリカ、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、ケイ酸塩ガラス等が挙げられる。また、無機充填材としては、フルオロアルミノシリケートガラス等の酸化物のようなカチオン溶出性フィラーも好適に用いることができる。これらの無機充填材の中でも、シリカ、アルミナ、ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等を、特に好適に用いることができる。
【0058】
また、充填材としては、無機−有機複合フィラーも好適に使用できる。無機−有機複合フィラーは、無機フィラーに重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後、重合させ、粒状物に粉砕したものが好適である。
【0059】
充填材として、無機フィラーまたは無機―有機複合フィラーを用いる場合、(D)ラジカル重合性単量体との親和性、分散性を良好にし、硬化体の機械的強度および耐水性を向上させるために、シランカップリング剤で表面処理して用いるのが好ましい。こうしたシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランあるいはヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。また、シランカップリング剤以外にも、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、ジルコ−アルミネート系カップリング剤等により表面処理して用いても良い。さらには、充填材粒子表面に前記ラジカル重合性単量体をグラフト重合させて用いても良い。
【0060】
本発明において、これらの充填材は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
なお、これら充填材は、屈折率が1.4〜2.2の範囲のものが好適に用いられる。また、粒子径については、大きすぎる場合には重合性組成物の表面に凹凸が生じる場合があり好ましく無いため、平均粒子径が0.001〜100μm、特に0.001〜10μmのものを用いるのが好ましい。
【0062】
本発明において、これら充填材のラジカル重合性単量体に対する配合量は、得られる重合性組成物の粘度(操作性)や硬化体の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、該ラジカル重合性単量体100質量部当り、10〜1000質量部、特に100〜700質量部であるのが好ましい。
【0063】
<他の重合触媒>
本発明の接着性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で他の公知の化学重合触媒を併用しても良い。当該他の化学重合触媒としては、酸性化合物及びアリールボレート類の組合せ、酸性化合物及びアリールボレート類に金属錯体を加えた組合せ、バルビツール酸、アルキルボラン等が挙げられる。
【0064】
本発明の接着性組成物には、重合性単量体の少なくとも一部として酸性基含有のものが含有されているため、上記他の化学重合触媒が酸性化合物を必要成分とするものである場合には、当該成分を利用すれば良い。無論、必要に応じて、上記酸性基含有重合性単量体の他に、他の無機酸や有機酸を配合しても良い。
【0065】
アリールボレート類としては、テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル−p−トルイジン塩、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム、ブチルトリ(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム等が挙げられる。金属錯体としては、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)、等のバナジウム化合物が挙げられる。バルビツール酸としては5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等を挙げることが出来る。アルキルボランとしてはトリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、トリフェニルボラン等が挙げられる。
【0066】
また、他の化学重合触媒としては、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル等のジアシルパーオキサイド類、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化ジクミル等のジアルキルパーオキサイド類等の有機過酸化物も併用可能である。
【0067】
また、本発明の接着性組成物は、通常は光重合触媒として使用されている、α-ジケトン化合物を、必須成分として含有している。したがって、ある程度の光重合活性能も有しており、デュアルキュア型の接着材として使用しても良い。
【0068】
本発明の接着性組成物を光重合させる場合、上記α-ジケトン化合物の重合活性能だけでは十分でないことがあるので、重合促進成分を配合するか、他の光重合触媒を併用するのが好ましい。但し、α―ジケトン化合物を利用した光重合触媒において最も一般的に用いられている芳香族三級アミン化合物は、酸性基含有重合性単量体を中和させてしまい、また、着色物質に変化する問題もあるため使用しないか、使用する場合でも少量の使用に留めるべきである(具体的には、ラジカル重合性単量体成分中に、少なくとも5質量%、より好適には10質量%の酸性基含有重合性単量体は中和されることなく、残存する量に留めることが求められる)。
【0069】
他の光重合触媒を具体的に例示すると、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンソイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類や、メチルチオキサンソン、ベンゾフェノン、p,p’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、p,p’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0070】
また、光重合触媒の促進剤として、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、7−ヒドロキシ−4−メチル−クマリン等のクマリン系色素類や2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物等の光酸発生剤を添加することも可能である。
【0071】
<その他の任意添加成分>
本発明の接着性組成物には、目的に応じその性能を低下させない範囲で、水、有機溶媒、増粘剤、重合禁止材等を配合させることも可能である。当該有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル等があり、増粘剤としてはポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物や高分散性シリカが例示される。
また、歯牙の色調に合わせるために、上述した各成分に加えて、顔料、蛍光顔料、染料、紫外線に対する変色防止のために紫外線吸収剤を添加してもよい。
【0072】
<接着性組成物の保管形態>
本発明の接着性組成物において、各成分を同一包装に共存させると化学重合が開始されてしまうため、これを長期間保管する場合には、少なくとも2包装に分割し、これら全成分が共存しないように分ける必要がある。なお、脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物の、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物に対する重合促進作用は、これ単独では、芳香族三級アミン化合物に比較して格段に弱い。よって、該脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物とハイドロパーオキサイド系有機過酸化物とを同じ包装に配合しても、α−ジケトン化合物がこれに配合されなければ、この包装はある程度であるならば保管可能になる。ただし、長期間の安定的保管になると、この分け方では十分ではなく、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物と脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物とが、別包装に分けられた形態とするのが好ましい。この場合、α−ジケトン化合物は、ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物が含有される包装と、脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物が配合される包装とのいずれに配合されても良い。ただし、α−ジケトン化合物が脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物と反応すると、水が生じて、疎水性の重合性単量体中で濁りとなり、触媒活性も若干低下する場合があることから、前者の包装の方がより好ましい。
【0073】
従って、(I)重合性単量体成分の内の酸性基含有重合性単量体、および脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物またはその塩を含む第一包装、
(II)(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物、および(D)α−ジケトン化合物を含む第二包装
の少なくとも2包装に分包するのが最も好ましい。
【0074】
<歯科用接着性組成物>
本発明の歯科用接着性組成物は、歯科用レジンセメント、歯科用前処理材、歯科用接着材、歯科用コート材、小窩裂溝填塞材等の歯牙の表面に接着させて層形成させる材料である。特に、齲蝕や事故等により損傷を受けた歯牙と、この歯牙を修復するための材料(例えばコンポジットレジン、金属、セラミックス等の歯冠修復材料)とを接着するために、両者の間に介在させる、歯科用レジンセメント、歯科用前処理材、歯科用接着材として好適である。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した、略称、略号については以下の通りである。
略称及び略号
【0076】
[(A)重合性単量体]
<酸性基含有重合性単量体>
PM:2−メタクリルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート及びビス(2−メタクリルオキシエチル)ジハイドロジェンホスフェートの混合物
Mac−10:11−メタクロイルオキシー1,1−ウンデカンジカルボン酸
MHP:6−メタクリルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート及びビス(6−メタクリルオキシヘキシル)ジハイドロジェンホスフェートの混合物
MDP:10−メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート及びビス(10−メタクリルオキシデシル)ジハイドロジェンホスフェートの混合物
【0077】
<酸性基非含有重合性単量体>
BisGMA:2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
D2.6E:2,2−ビス(4−(メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル)プロパン
UDMA:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)2,2,4−トリメチルヘキサン
【0078】
[(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物]
パーメンタH:p−メンタンハイドロパーオキサイド
パーオクタH:1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
パークミルH:クメンハイドロパーオキサイド
【0079】
[(C)脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物、またはその塩]
DA:ドデシルアミン
BA:ブチルアミン
BA−HCl:ブチルアミン塩酸塩
SA:ステアリルアミン
CA:シクロヘキシルアミン
DAH:1,7−ジアミノヘプタン
DBA:ジブチルアミン
【0080】
[(D)α−ジケトン化合物]
CQ:カンファーキノン
CD:1,2−シクロヘキサンジオン
OQ:o−ベンゾキノン
【0081】
[(E)充填材]
F−1:球状シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物、平均粒子径0.2μm、粒子系の範囲0.08〜0.60μm
F−2:平均粒子径0.2μmの球状シリカ−ジルコニアを75質量部、D2.6Eを10質量部、3Gを15質量部の混合物にアゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を溶解し、加熱硬化した後粉砕した平均粒子径38μmの有機無機複合フィラー
F−3:不定形シリカ−ジルコニア、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物、平均粒子径3.5μm、粒子系の範囲0.25〜0.80μm
F−4:ヒュームドシリカ、メチルトリクロロシラン表面処理物、平均粒子径0.01μm、粒子系の範囲0.005〜0.04μm
F−5:有機フィラー、エチル(メタ)アクリレート(EMA)とメチル(メタ)アクリレート(MMA)の共重合体、質量平均分子量500,000、平均粒子径30μm、EMA/MMA比50/50
【0082】
[有機溶媒]
IPA:イソプロピルアルコール
[脂肪族・脂環族一・二級アミン化合物以外のアミン化合物]
TEOA:トリエタノールアミン
DEPT:ジエタノールパラトルイジン
DMPT:ジメチルパラトルイジン
[ハイドロパーオキサイド系以外の有機過酸化物]
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
[重合禁止剤]
BHT:2,6−ジt−ブチルヒドロキシトルエン
また、以下の実施例および比較例において、各種の物性の測定は以下の方法により実施した。
【0083】
(1)硬化時間の測定方法
硬化時間の測定は、サーミスタ温度計による発熱法によって行った。本発明の化学重合型歯科用接着性組成物を歯科用ヘラで練和し、2cm×2cm×1cmの中心に6mmφの孔の空いたテフロン(登録商標)製モールドに流し込んだ後、サーミスタ温度計を差し込み、練和開始から最高温度を記録するまでの時間を硬化時間とした。尚、測定は23℃で行った。
【0084】
(2)接着強度の測定方法
<歯科用接着性組成物が、歯科用レジンセメントである例(実施例1〜24、比較例1〜8)での測定方法>
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、流水下、#600のエメリーペーパーで研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、象牙質及びエナメル質平面を削りだした。次に、削りだした平面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させた。次に、この平面に、直径3mmの穴を有する両面テープを貼り付け、さらに厚さ0.5mm及び直径8mmの穴を有するパラフィンワックスの中心を、先に貼り付けられた両面テープの穴の中心に合わせて固定することで模擬窩洞を形成した。続いて、この模擬窩洞内に、歯科用レジンセメントを充填した後に、この上からステンレス製アタッチメントを圧接し、接着試験片を作製した。このまま37℃・湿度100%の恒温高湿箱中で1時間放置して、充填した歯科用レジンセメントを化学重合させた。この接着試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、引張り試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ AG5000D)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて、上記ステンレス製アタッチメントを引張り、歯牙との引張り強度を測定した。
なお、この引張り強度の測定は、各実施例あるいは各比較例につき、接着試験片を4本作成、それぞれについて測定して、その平均値を該当する接着強度の値とした。
【0085】
<歯科用接着性組成物が、歯科用接着材である例(実施例25〜27、比較例9〜16)での測定方法>
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、流水下、#600のエメリーペーパーで研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、象牙質及びエナメル質平面を削りだした。次に、削りだした平面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させた。次に、この平面に、直径3mmの穴を有する両面テープを貼り付け、さらに厚さ0.5mm及び直径8mmの穴を有するパラフィンワックスの中心を、先に貼り付けられた両面テープの穴の中心に合わせて固定することで模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞の底面に当る牛歯面に歯科用接着材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を10秒間吹き付けて溶媒を揮発させて乾燥した。続いて、模擬窩洞内にコンポジットレジン「エステライトコアクイック」(株式会社トクヤマデンタル製)を充填し、37℃・湿度100%の恒温高湿箱中で1時間放置して、塗布した歯科用接着材及びコンポジットレジンを化学重合させた。1時間放置後、パラフィンワックスを歯面から外し、コンポジットレジンの硬化面にステンレス製アタッチメントを、市販の歯科用レジンセメント「ビスタイトII」(トクヤマデンタル製)を用いて取り付け接着試験片を作製し、37℃の水中に24時間浸漬した。最後に歯科用接着性組成物が歯科用レジンセメントである場合の接着強度の測定方法と同様にして、ステンレス製アタッチメントの歯牙との引張り強度を測定した。
【0086】
(3)色調安定性の評価方法
<歯科用接着性組成物が、歯科用レジンセメントである例(実施例1〜24、比較例1〜8)での測定方法>
JIS T6611:2005(歯科用レジンセメント)6.11 色調安定性に準拠して評価を行った。15mmφの孔の空いた1mm厚のテトラフルオロエチレン製モールドに、歯科用接着性組成物を流し込んだ後、ポリエチレン製のフィルムではさんで圧接し、37℃で1時間硬化させた硬化体を試験サンプルとした。試験サンプルを37℃の蒸留水中に30日間浸漬させ、浸漬前後の色調変化(ΔE)を測定した。色調測定は東京電色社製のTC−1800MK2を用いて行った。なお、ΔEが小さいほど色調変化が小さいことを意味し、ΔEが4.0以下であれば目視でその変化を認識することはできないため、色調安定性が良好であると判断した。
【0087】
(歯科用レジンセメント)
実施例1
下記組成
(A)重合性単量体
酸性基含有重合性単量体 PM 23.0g
酸性基非含有重合性単量体 BisGMA 18.0g
3G 34.0g
D2.6E 18.0g
UDMA 7.0g
(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物
パーオクタH 2.0g
(C)脂肪族アミン化合物 DA 1.0g
(D)α−ジケトン化合物 CQ 0.5g
(E)充填材 F−1 125.0g
F−2 50.0g
F−3 75.0g
重合禁止剤 BHT 0.1g

になるように各成分を混合し、歯科用レジンセメントを調製した。続いて、この歯科用レジンセメントについて、硬化時間、接着強度、及び色調安定性を評価した。結果を表2に示した。
【0088】
実施例2〜24、比較例1〜8
実施例1において、製造する歯科用レジンセメントの組成を、表1〜3に示したように変更した以外は実施例1と同様にして歯科用接着性レジンセメントを製造した。得られた各歯科用接着性レジンセメントについて、硬化時間、接着強度、及び色調安定性を評価した。結果を表4及び表5に夫々示した。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【0093】
【表5】

【0094】
(歯科用接着材)
実施例25
下記各成分
(A)重合性単量体
酸性基含有重合性単量体 PM 23.0g
酸性基非含有重合性単量体 BisGMA 18.0g
3G 34.0g
D2.6E 18.0g
UDMA 7.0g
(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物
パーオクタH 4.0g
(C)脂肪族アミン化合物 DA 2.0g
(D)α−ジケトン化合物 CQ 0.5g
(E)充填材 F−4 5.0g
有機溶媒 IPA 200.0g
重合禁止剤 BHT 0.1g

を混合し、均一になるまで攪拌することにより、歯科用接着材を調整した。この歯科用接着材について、接着強度を評価した。結果を表7に示した。
【0095】
実施例26〜27、比較例9〜16
調製する歯科用接着材の組成を、表6に示したように変更した以外は実施例25と同様にして歯科用接着材を調製した。得られた各歯科用接着材について、接着強度を評価した。結果を表7に夫々示した。
【0096】
【表6】

【0097】
【表7】

【0098】
(歯科用レジンセメントの保存安定性)
実施例38
実施例1で製造したのと同じ歯科用接着性組成物を、下記のように包装Iと包装IIの組成に分け、各ペーストを歯科用シリンジ中に分包した。
【0099】
包装I
(A)重合性単量体
酸性基非含有重合性単量体 BisGMA 11.0g
3G 34.0g
(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物
パーオクタH 2.0g
(E)充填材 F−1 125.0g

重合禁止剤 BHT 0.05g

包装II
(A)重合性単量体
酸性基含有重合性単量体 PM 23.0g
酸性基非含有重合性単量体 BisGMA 7.0g
D2.6E 18.0g
UDMA 7.0g


(C)脂肪族アミン化合物 DA 1.0g
(D)α−ジケトン化合物 CQ 0.5g
(E)充填材 F−2 50.0g
F−3 75.0g
重合禁止剤 BHT 0.05g

これら包装Iの収納シリンジと、包装IIの収納シリンジとを、夫々50℃で1週間、および37℃で5週間保存した。保存後、包装Iと包装IIの各ペーストを等量質量比で混合して歯科用レジンセメントを製造した。この歯科用レジンセメントについて、硬化時間、及び接着強度を各評価した。結果を表9に夫々示した。
【0100】
実施例39〜43
実施例38において、酸性基含有重合性単量体であるPM、(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物であるパーオクタH、(C)脂肪族アミン化合物であるDA、(D)α−ジケトン化合物であるCQの配合包装を、表8に示したように変更する以外は、実施例38と同様にして歯科用接着性レジンセメントを製造した。得られた各歯科用接着性レジンセメントについて、硬化時間、及び接着強度を各評価した。結果を表9に夫々示した。
【0101】
【表8】

【0102】
【表9】

【0103】
実施例39〜43は、いずれも早い硬化時間と高い接着強度が保持されており、良好な保存安定性を示した。特に、(A)成分の内の酸性基含有重合性単量体、および(C)第一級若しくは第二級の、脂肪族アミン化合物若しくは脂環族アミン化合物、またはこれらの塩を配合した第一包装と、(II)(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物、および(D)α−ジケトン化合物を配合した第二包装に分包された実施例42は、最も良好な保存安定性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸性基含有重合性単量体を含んでなる重合性単量体
(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物
(C)第一級若しくは第二級の、脂肪族アミン化合物若しくは脂環族アミン化合物、またはこれらの塩
(D)α−ジケトン化合物
を含有することを特徴とする化学重合型歯科用接着性組成物。
【請求項2】
(C)成分が、脂肪族一級アミン化合物若しくは脂環族一級アミン化合物、またはこれらの塩である請求項1に記載の化学重合型歯科用接着性組成物。
【請求項3】
さらに、(E)充填材を含んでなる請求項1または請求項2に記載の化学重合型歯科用接着性組成物。
【請求項4】
包装形態が、
(I)(A)成分の内の酸性基含有重合性単量体、および(C)第一級若しくは第二級の、脂肪族アミン化合物若しくは脂環族アミン化合物、またはこれらの塩を配合した第一包装、
(II)(B)ハイドロパーオキサイド系有機過酸化物、および(D)α−ジケトン化合物を配合した第二包装
の少なくとも2包装からなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の化学重合型歯科用接着性組成物。