説明

化学除染方法

【課題】 放射能に汚染された除染対象物を還元溶解工程と酸化溶解工程により除染する化学除染方法において、化学除染時間を短縮し、除染対象物の腐食を少なくする。
【解決手段】 除染対象物1に還元剤溶液または酸化剤溶液を循環するオンライン処理系Aと、還元剤分解工程を行うオフライン処理系Bを設け、前記オンライン処理系Aで還元溶解工程に用いた還元剤溶液をオフライン処理系Bへ排出すると共に、オフライン処理系Bから新たな溶液をオンライン処理系Aへ供給し、その溶液に酸化剤を添加して酸化剤溶液を調整し、該酸化剤溶液をオンライン処理系Aに循環して酸化溶解工程を行い、オフライン処理系Bでは前記排出された溶液中の還元剤を還元剤分解工程で分解することを特徴とする化学除染方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力発電所等における放射性物質に汚染された除染対象物を還元溶解工程と酸化溶解工程により除染する化学除染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や原子力関係の研究施設では、ウラン等の本質的な放射性物質に関し、いわゆる5重の防護により隔離して外部への放射能漏れを防止している。しかし核燃料の核分裂等によって発生する中性子により、原子炉および冷却水配管等を構成するステンレス鋼や炭素鋼等の材料由来の核種が生成し、炉内や配管内面が汚染されることは避けられない。
【0003】
このような放射能汚染は原子炉および冷却水配管等の内部の液体流通部分の材質の改良や運転方法の改善等によりある程度は抑制できるが、皆無にすることは困難である。そのため原子炉等を長期間運転すると、例えばBWR式原子炉における再循環系配管内部などの冷却水が流れる流通部などにはそれら放射性物質が徐々に蓄積し、高線量の放射能汚染部分を形成する。
【0004】
そのため定期点検時などに原子炉を停止した後、該部分の近辺で作業を行う場合に被曝量が増加する可能性がある。そこで定期点検に先立って、放射能汚染された部分の除染作業が行われる。なお本発明では原子炉や冷却水配管等の除染を必要とする部分もしくは領域、または運転系統から取り外した部品や部材等を除染対象物という。
【0005】
除染対象物における放射性物質は配管の内壁面などにおいて放射能を含む金属酸化物(所謂クラッド)の形態で存在する。除染作業には放射性物質を含む金属酸化物をジェット水流やブラスト等により剥離して洗い流す物理的除染方法と、除染対象物に薬液を循環させて金属酸化物を溶解して除去する化学除染方法が存在するが、後者の化学除染方法は除染効果の均一性等に優れているので多く採用されている。
【0006】
化学除染方法を記載した文献として、例えば特許文献1や特許文献2がある。これら特許文献には金属酸化物を還元剤溶液で溶解する還元溶解工程と、酸化剤溶液で酸化して溶解する酸化溶解工程を交互に1回以上繰り返す方法が記載されている。還元剤溶液は処理水にシュウ酸等のジカルボン酸を還元剤として添加した溶液であり、鉄系酸化物の溶解性に優れている。酸化剤溶液は処理水にオゾン等を酸化剤として添加した溶液であり、クロム系酸化物の溶解性に優れている。
【0007】
図10は従来の化学除染方法の手順を説明する図である。なお以下の説明は還元溶解工程を2回、酸化溶解工程を1回行う場合である。化学除染を行う際には、先ず原子炉や冷却水系統を含む除染対象物に新鮮な水等の処理用の溶液を循環する循環系統(以下、オンライン処理系という。)を連通する。次にオンライン処理系に溶液を循環しながらヒータ等の加熱装置で加熱し、化学除染に適した温度に昇温したらシュウ酸等の還元剤を添加して還元剤溶液とし、それをオンライン系に循環しながら1回目の還元溶解工程を行う(ステップS1)。
【0008】
還元溶解工程で鉄、ニッケル、クロム、マンガン、コバルト等の金属イオンが溶液中に溶解するが、それらの中には59Fe、51Cr、54Mn、60Co等の放射性同位元素等の放射能がある。クロムイオン以外の金属イオンはオンライン系に連通したカチオン交換樹脂により除去できるが、クロムイオンはシュウ酸と錯体を構成し、カチオン交換樹脂では除去できないのでアニオン交換樹脂で除去する。しかしアニオン交換樹脂はシュウ酸を吸収してしまうので、通常、次の還元剤分解工程においてシュウ酸濃度が十分に低下した時点で、アニオン交換樹脂またはカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を混合した混床樹脂でクロムイオンを除去している。
【0009】
1回目の還元溶解工程が終了したら、次にオンライン処理系に過酸化水素(H2 2 )等の還元剤分解剤を添加し、例えばシュウ酸を二酸化炭素と水に分解する還元剤分解工程(ステップS2)を行う。なお、還元剤を分解するにはオゾン添加、UV(紫外線)照射、電解等で行う場合もある。循環を続けるとオンライン処理系の還元剤が徐々に分解するので、所定レベルまで還元剤が減少した時点で、酸化剤として例えばオゾンガスを吹き込んで酸化剤溶液を調整し、その酸化剤溶液をオンライン処理系に循環しながら酸化溶解工程を行う(ステップS3)。
【0010】
酸化溶解工程が終了したら、酸化剤溶液に溶解しているオゾン等の酸化剤を例えばバブリングや超音波脱気処理により除去し、次いでオンライン処理系に再び還元剤を添加して2回目の還元溶解工程を行う(ステップS4)。2回目の還元溶解工程が終了し後、オンライン処理系に過酸化水素等の還元剤分解剤を添加して還元剤分解工程(ステップS5)を行う。この還元剤分解工程により主な化学除染操作が終了する。
【0011】
次に、オンライン処理系の内壁や溶液中に残留するシュウ酸や金属イオン等の不純物を浄化するため、例えばオンライン処理系にカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を混合した混合交換樹脂槽を連通し、そこに溶液を循環してこれら不純物を除去するオンライン浄化工程(ステップS6)を行った後、その浄化水をドレンとして排出して回収槽に回収する。
【0012】
【特許文献1】特開昭60−235099号公報
【特許文献2】特開2001−74887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記操作で実際に放射能汚染された酸化物を除去しているのは還元溶解工程と酸化溶解工程だけであり、還元剤分解工程は酸化溶解工程の準備工程に過ぎない。しかもこの還元剤分解工程をオンライン処理系で行う従来の方法には種々の問題が存在する。すなわち還元剤の分解に用いる分解剤は強い酸化作用があるので、還元剤の分解に最適な分解剤濃度(化学反応論で言えば還元剤と当量の分解剤)になるように分解剤を全量添加すると、オンライン処理系を構成する原子炉や冷却水配管自体を腐食・溶解して減肉現象などを起こす恐れがある。
【0014】
また、還元剤を迅速に分解すると、還元剤溶液に溶解していた金属イオンがカチオン交換樹脂槽で除去される前にオンライン処理系に析出して堆積することがある。このように金属析出物が堆積すると、折角溶解した放射性物質がオンライン処理系に残留してしまい化学除染の目的を達成できないことになる。そのため理論量より少ない分解剤を添加して時間をかけて還元剤分解工程を行わざるを得なく、現実には還元溶解工程と同じ程度の時間を還元剤分解工程に消費しており、それが化学除染時間を長くする主な要因になっている。
【0015】
一方、還元剤の分解に用いる分解剤はイオン交換樹脂を破壊するので、例えば還元剤の分解工程中も溶液中の金属イオンをカチオン交換樹脂槽で除去する操作を継続する場合は、カチオン交換樹脂槽に溶液が流入する前にUV照射装置などで分解に用いた過酸化水素等の分解剤を分解する必要がある。
【0016】
しかし過酸化水素を大量に分解する操作を行うと、過酸化水素の分解反応によって生成した二酸化炭素がオンライン処理系に気泡として滞留し、系統水位上昇や循環ポンプの異常振動を起こす。さらに二酸化炭素の一部は溶液中に溶解して炭酸イオンを生成し、その炭酸イオンが次のオンライン浄化工程に用いる混合交換樹脂槽のカチオン・アニオン交換樹脂に吸着してその吸着容量を消費するという問題もある。そこで本発明はこのような従来の化学除染における諸問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決する本発明の化学除染方法は、放射性物質に汚染された除染対象物を還元溶解工程と酸化溶解工程により除染する化学除染方法である。そして本方法は、前記除染対象物に還元剤溶液または酸化剤溶液を循環するオンライン処理系と、少なくとも還元剤分解工程を行うオフライン処理系を設け、前記オンライン処理系で還元溶解工程に用いた還元剤溶液をオフライン処理系へ排出すると共に、オフライン処理系から新たな溶液をオンライン系へ供給し、その溶液に酸化剤を添加して酸化剤溶液を調整し、その酸化剤溶液をオンライン処理系に循環して酸化溶解工程を行い、オフライン処理系では前記排出された溶液中の還元剤を還元剤分解工程で分解することを特徴とする(請求項1)。
【0018】
上記いずれかの化学除染方法において、前記オフライン処理系の還元剤分解工程は、溶液に含まれている金属イオンが析出する速度で還元剤の分解を行い、その析出物を濾過等の物理的分離手段により溶液から除去することができる(請求項2)。
【0019】
また、前記課題を解決する本発明の他の化学除染方法は、放射性物質に汚染された除染対象物を少なくとも2回の還元溶解工程と少なくとも1回の酸化溶解工程により除染する化学除染方法である。そして本方法は、前記除染対象物に還元剤溶液または酸化剤溶液を循環するオンライン処理系と、少なくとも還元剤溶液に含まれている金属イオンを除去する金属イオン除去工程を行うオフライン処理系を設ける。
そして前記オンライン処理系で還元溶解工程に用いた還元剤溶液をオフライン処理系へ排出すると共に、オフライン処理系から新たな溶液をオンライン系へ供給し、その溶液に酸化剤を添加して酸化剤溶液を調整し、その酸化剤溶液をオンライン処理系に循環して酸化溶解工程を行い、オフライン処理系では前記排出された溶液に含まれている金属イオンを金属イオン除去工程で除去し、得られた溶液を次の還元溶解工程のためにオンライン処理系へ供給することを特徴とする(請求項3)。
【0020】
さらに上記いずれかの化学除染方法において、前記オフライン処理系に処理槽を設け、その処理槽を利用してオンライン処理系から排出する溶液の受け入れとオンライン処理系への溶液供給を行うことができる(請求項4)。
【0021】
上記処理槽を設けた化学除染方法において、前記処理槽として硬質な収容部の内部に2つの可撓性容器を隣接して収容したものを用い、一方の可撓性容器にオンライン処理系へ供給する溶液を収容しておき、他方の可撓性容器をオンライン処理系から排出する溶液を受け入れ可能なように縮小状態としておき、他方の可撓性容器にオンライン処理系から排出する溶液を受け入れたとき、その膨張力により一方の可撓性容器を圧縮させてそれに収容していた溶液をオンライン処理系へ供給することができる(請求項5)。
【0022】
さらに上記処理槽を設けた化学除染方法において、前記処理槽として細長い収容槽を有し、その収容槽の一方の端部に溶液の入口部を設け、他方の端部に出口部を設けたものを用い、その収容槽にオンライン処理系へ供給する溶液を収容しておき、オンライン処理系から排出する溶液を入口部より受け入れ、その受け入れた溶液が収容部内を移動することにより収容していた溶液を出口部に押し出してオンライン処理系へ供給することができる(請求項6)。
【0023】
上記細長い収容槽を有する化学除染方法において、前記収容槽における溶液の流通路を直線状、螺旋状または折り返し状に形成することができる(請求項7)。
【0024】
さらに細長い収容槽を有するいずれかの化学除染方法において、オンライン処理系から排出される溶液よりオンライン処理系へ供給する溶液が低温である場合、前記収容槽の長手方向に沿って所定間隔で複数の仕切板を設けると共に、各仕切板の底部と収容槽の底面との間に液流通路を形成し、前収容槽にオンライン処理系へ供給する溶液を収容しておき、オンライン処理系から排出する溶液を前記収容槽の一方の端部上方に設けた入口部より受け入れ、その受け入れた溶液が収容槽内を移動することにより収容しておいた溶液を前記収容槽の他方の端部下方に設けた出口部に押し出してオンライン処理系へ供給することができる(請求項8)。
【0025】
上記化学除染方法において、前記仕切板を回転可動式とし、最初に全ての仕切板を溶液流通方向に対して直角にしておき、入口部から受け入れた溶液の先端部分が収容槽内を移動することを温度上昇位置の移動から検出し、それに合わせて入口部23に近い仕切板29から順に回転して流動抵抗を下げていくことができる(請求項9)。
【発明の効果】
【0026】
請求項1に記載した本発明の化学除染方法は、還元剤分解工程をオンライン処理系とは別に設けたオフライン処理系で行うので、オンライン処理系は金属酸化物を溶解する還元溶解工程と酸化溶解工程だけを行えばよい。そのため、オンライン処理系で還元溶解工程の後に行う酸化溶解工程と、オフライン処理系での還元剤分解工程を同時平行的に行うことができ、化学除染時間が大幅に短縮される。
【0027】
さらにオンライン処理系では種々の機器類を含む除染対象物の内部溶解を防止するため、従来は還元剤を分解する過酸化水素等の分解剤濃度を高めることができず、そのために還元剤分解工程の時間が長くなっていたが、本方法によれば除染対象物の内部溶解等を考慮することなく、高濃度の分解剤で還元剤を分解できるので、その処理時間を大幅に短縮できる。
また、従来のように還元剤の分解時に還元剤溶液に溶解した金属イオンがカチオン交換樹脂槽で除去する前にオンライン処理系に析出して堆積するという問題も解消される。さらに従来のように還元剤の分解に用いる分解剤でイオン交換樹脂を破壊するという問題も解消される。
【0028】
上記いずれかの化学除染方法において、請求項2に記載のように、前記オフライン処理系の還元剤分解工程の還元剤分解を金属イオンが析出する速度で行い、その析出物を濾過等の物理的分離手段で溶液から除去する場合は、還元剤分解をさらに迅速に行える上に、金属イオンを除去すべきカチオン交換樹脂の交換基消費量を大幅に抑制できる。
【0029】
また、請求項3に記載した本発明の化学除染方法は、オンライン処理系からオフライン処理系に排出された還元剤溶液を分解せず、そこで溶液に含まれている金属イオンを金属イオン除去工程で除去し、得られた溶液を次の還元溶解工程のためにオンライン処理系へ供給することを特徴している。そのため2回目以降の還元溶解工程に添加すべき還元剤を節約できると共に、還元剤分解工程を最後の1回だけに限定できる。しかも従来のようにオンライン処理系での還元剤分解工程が存在しないので、それに起因する前記した種々の問題も発生しない。
【0030】
さらに上記いずれかの化学除染方法において、請求項4に記載のように、前記オフライン処理系に処理槽を設け、その処理槽を利用してオンライン処理系から排出する溶液の受け入れとオンライン処理系への溶液供給を行う場合は、処理槽をバッファーとして利用できるので、例えば未使用の溶液(例えば新鮮水)を加温または非加温して収容しておき、それをオンライン処理系へ効率よく供給することができる。
【0031】
上記処理槽を設けた化学除染方法において、請求項5に記載のように、前記処理槽として硬質な収容部の内部に2つの可撓性容器を隣接して収容したものを用いる場合は、処理槽全体としての寸法が小さくなるのでその設置スペースが減少する。さらに同じ収容部内でオンライン処理系から受け入れる溶液とオンライン処理系へ供給する溶液を互いに交じり合うことなく完全に分離した状態で授受することができる。
【0032】
さらに上記処理槽を設けた化学除染方法において、請求項6に記載のように、処理槽として細長い収容槽を用い、その一方の端部に設けた溶液の入口部にオンライン処理系から排出する溶液を受け入れ、他方の端部に設けた出口部から収容していた溶液を押し出してオンライン処理系へ供給する場合は、2種の溶液が互いに交じり合うことを抑制しながら置換でき、処理槽の設置スペースを小さくできる。
【0033】
上記化学除染方法において、請求項7に記載のように、収容槽における溶液の流通路を直線状、螺旋状または折り返し状に形成することにより、その形状に適合した設置スペースを最大限活用して設置できる。
【0034】
さらに上記化学除染方法において、請求項8に記載のように、オンライン処理系から排出される溶液よりオンライン処理系へ供給する溶液が低温である場合、その温度差を利用して複数の仕切板の抵抗作用により2種の溶液が交じり合わないように収容槽内で効率よく置換させることができる。そして請求項9に記載のように、入口部から受け入れた溶液の先端部分が収容槽内を移動するのに合わせて、入口部に近い仕切板から順に開けていくことにより、温度差のある2種の溶液の置換をより少ない流動抵抗で且つ確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。図1は本発明の化学除染方法の手順を説明する図であり、左側にオンライン処理系による各処理工程を示し、右側にオフライン処理系による各処理工程を示している。なお以下の説明は還元溶解工程を2回、酸化溶解工程を1回行う場合であるが、本発明はこれに限らず、還元溶解工程を1回または3回以上、酸化溶解工程を2回以上行う場合にも適用できる。
【0036】
先ず原子炉や冷却水系統を含む除染対象物にオンライン処理系を連通する。次に除染対象物を含むオンライン処理系に処理用の溶液(例えば新鮮な水)を循環し、オンライン処理系に連通した加熱装置で溶液を加熱し、化学除染に適した温度に昇温する。さらにシュウ酸等の還元剤を添加して還元剤溶液に調整し、それをオンライン処理系に循環しながら1回目の還元溶解工程を行う(ステップS10)。
【0037】
還元溶解工程を続けると前記した各種の放射性物質を含む金属イオンが還元剤溶液中に溶解してくるが、クロムイオン以外の金属イオンはオンライン処理系に連通したカチオン交換樹脂槽により還元溶解工程を継続しながら除去する。クロムイオンは後述するオフライン処理系で還元剤分解の際に系統中に析出して回収される。析出させない速度で分解した際は、後述する分解終了後のカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を混合した混床樹脂により回収する。還元剤を分解せず再利用する場合は、後述する最後のオンライン浄化工程(S13)においてアニオン交換樹脂槽またはカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を混合した混床樹脂で除去する。
【0038】
オンライン処理系において1回目の還元溶解工程が終了したら、次にその還元溶液をオフライン処理系に配管等を経由して徐々に排出する。それと共に同量の新しい処理用の溶液をオフライン処理系からオンライン処理系に供給することにより、オンライン処理系を新しい処理用の溶液(通常新鮮な水)で置換する。その際、オフライン処理系ではステップS20において処理用の溶液を還元溶解工程に適した温度まで予め加熱保温しておくことが望ましい。
【0039】
次にオンライン処理系において、新たに供給された処理用の溶液に酸化剤として例えばオゾンを添加(具体的にはオゾンガスを吹き込んで溶解させる。)して所定濃度の酸化剤溶液を調整し、その酸化剤溶液を循環して酸化溶解工程を行う(ステップS11)。酸化剤としてオゾンを用いる場合は脱気等の物理現象により酸化剤濃度が徐々に低下するので、オンライン処理系にオゾンガスを連続的に吹き込み、オゾン濃度を一定に保持したほうがより酸化処理効果がある。この場合、吹き込んだオゾンガスは多くが溶解せず気泡となって系統水中に存在するため、オンライン処理系には大気開放面やタンク等の気液分離機構を設け、それらにより回収した残存オゾンガス処理を行う必要がある。酸化溶解工程が終了したら、酸化剤溶液に溶解しているオゾンを例えばバブリングや脱気処理により除去し、オンライン処理系に再びシュウ酸等の還元剤を添加して2回目の還元溶解工程を行う(ステップS12)。
【0040】
一方、オフライン処理系では、前記オンライン処理系で酸化溶解工程を行っている間に受け入れた溶液の還元剤を還元剤分解工程で分解する(ステップS21)。シュウ酸のような還元剤の分解には従来法と同様に過酸化水素等の分解剤を用いることができるが、その際、前記のようにオフライン処理系ではオンライン処理系のように除染対象物を含まないので、還元剤を迅速に分解する比較的多くの分解剤を添加することができる。
【0041】
分解剤の添加量をさらに多くして還元剤を急速に分解し、それによって溶液に溶解している金属イオンを析出させることもできる。析出物は例えばフィルタや比重分別等の物理的分離手段により除去できる。なお還元剤の分解はオゾン添加、UV(紫外線)照射、電解等によって行うこともできる。
【0042】
還元剤の分解工程が終了したら、次にその溶液中に残留する還元剤や金属イオン等の不純物を浄化するため、オフライン処理系に例えばカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を混合した混床樹脂を連通し、そこに溶液を循環してこれら不純物を除去する(ステップS22の溶液液の浄化工程)。なお、この工程によりオフライン処理系の内壁に付着している不純物も同時に除去できる。
【0043】
上記のようにオンライン処理系における2回目の還元溶解工程およびオフライン処理系における溶液の浄化工程が共に終了したら、次にオンライン処理系の2回目の還元剤溶液をオフライン処理系に徐々に排出し、それと同量の前記浄化したオフライン処理系の溶液をオンライン処理系に供給する。オンライン処理系ではその溶液を循環して内壁に付着している放射能汚染された付着物を洗い流すオンライン浄化工程を行い(ステップS13)、その溶液をドレンとして排出する。
【0044】
一方、オフライン処理系では受け入れた溶液に含まれる還元剤を前記と同様な還元剤分解工程で分解する(ステップS23)。還元剤分解工程が終了したら内壁や溶液中に残留するシュウ酸や金属イオン等の不純物をオフライン浄化工程で浄化し(ステップS24)、最後にその溶液をドレンとして排出する。
【0045】
図2は本発明の化学除染方法の他の方法における手順を説明する図であり、左側にオンライン処理系による各処理工程を示し、右側にオフライン処理系による各処理工程を示している。なお本実施形態についても図1の例と同様に、理解を容易にするため還元溶解工程を2回、酸化溶解工程を1回行う場合についてのみ説明する。
【0046】
本実施形態が図1に示す例と異なる部分は、オンライン処理系における1回目の還元溶解工程終了後に排出する還元剤溶液に含まれている還元剤をオフライン処理系では分解せずに、還元剤溶液から金属イオン等を除去してオンライン処理系における2回目の還元溶解工程に戻すこと、およびオンライン処理系から排出する酸化剤溶液から酸化剤を除去すること、の2点であり、そのほかは同様である。したがって図1の例と重複する説明はできるだけ省略する。
【0047】
先ずオフライン処理系において、ステップS30で処理用の溶液を還元溶解工程に適した温度まで予め加熱保温しておく。そしてオンライン処理系で1回目の還元溶解工程が終了したら、その還元剤溶液をオフライン処理系に徐々に排出する。それと共にオフライン処理系から前記処理用の溶液を同量オンライン処理系に供給する。
【0048】
次にオンライン処理系ではステップS11の酸化溶解工程を行い、オフライン処理系では受け入れた還元剤溶液を例えばカチオン交換樹脂槽またはUV照射装置や電解槽などの鉄イオン還元装置に通し、主として鉄イオンからなる金属イオンを除去する(ステップS31の金属イオン除去工程)。この金属イオン除去工程は通常オンライン処理系にも設置されているが、それを用いる場合には除染対象物の腐食を考慮しながら鉄の還元速度をコントロールする必要がある。本実施形態のようにオフライン処理系に設置して処理すればそのような除染対象物の腐食等を考慮する必要がないので、より迅速に処理することができる。なお変形例として、還元装置等を用いて溶液中の鉄イオンを積極的に二価に還元してからカチオン交換樹脂で除去することもできる。
【0049】
オンライン処理系における酸化溶解工程とオフライン処理系における金属イオン除去工程が終了した時点で、オンライン処理系の酸化剤溶液を徐々にオフライン処理系に排出すると共に、オフライン処理処理系の前記金属イオン除去工程を終了した還元剤溶液を同量オンライン処理系に供給する。
【0050】
次にオンライン処理系ではステップS12で2回目の還元溶解工程を行い、オフライン処理系ではステップS32の酸化剤除去工程で酸化剤溶液の酸化剤を除去する。なおステップS12の還元溶解工程では、通常、新しい還元剤(シュウ酸等)を添加する必要はないが、例えば還元剤濃度が所定値、例えば最初の還元工程の際より低下している場合には、それを補償する量の還元剤を添加する。
【0051】
オンライン処理系における還元溶解工程とオフライン処理系における酸化剤除去工程が終了したら、オンライン処理系の還元剤溶液を徐々にオフライン処理系に排出すると共に、オフライン処理系の前記酸化剤除去工程を終了した溶液を同量オンライン処理系に供給する。オンライン処理系では次にステップS13のオンライン浄化工程を行って、そのドレンを回収槽に排出し、オフライン処理系ではステップS33の還元剤分解工程とステップS34のオフライン浄化工程を順に行ってそのドレンを排出する。
【0052】
図3は図1または図2の化学除染方法を実施するオンライン処理系とオフライン処理系の1例を示すプロセスフロー図である。オンライン処理系Aとオフライン処理系Bは互いに配管で接続される。オンライン処理系Aには原子炉や冷却水配管等を含む放射性物質で汚染された除染対象物1が含まれ、その除染対象物1にオンライン処理系Aを構成する循環配管2(太線)が接続される。
【0053】
循環配管2にはポンプ3が設けられ、さらに電気ヒータ等の加熱装置4、カチオン交換樹脂槽5、UV照射装置(または電解槽等の鉄イオン還元装置)6、酸化剤供給装置7、混合交換樹脂槽8、還元剤供給装置9が連通し、それらは開閉弁の開閉操作によりオンライン処理系Aに連通またはバイパス状態に切り換えることができる。なお還元剤供給装置9は還元剤槽10とポンプ10aを有している。
【0054】
ポンプ3はオンライン処理系Aに還元剤溶液や酸化剤溶液等を循環すると共に、それら溶液をオフライン処理系Bに排出するものであり、加熱装置4はオンライン処理系Aに循環する溶液を所定温度に昇温するものである。カチオン交換樹脂槽5は内部にカチオン交換樹脂を充填したもので、オンライン処理系Aに循環する溶液から陽イオン性の金属イオンを吸着して除去するために利用される。
【0055】
UV照射装置6は、オンライン処理系Aを循環する還元剤溶液中の鉄イオンの還元を行うと共に酸化剤溶液から酸化剤であるオゾンを除去する場合等に利用され、酸化剤供給装置7は酸化剤溶液を調整するためにオンライン処理系Aに加圧されたオゾンガス等の酸化剤を添加するために利用される。さらに混合交換樹脂槽8は内部にカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を充填したもので、オンライン処理系の浄化工程などに利用され、還元剤供給装置9は還元溶解工程に用いるシュウ酸等の還元剤をオンライン処理系Aに供給するために利用される。
【0056】
オフライン処理系Bを構成する循環配管11は開閉弁c,dを介してオンライン処理系Aの循環配管2に接続される。循環配管11に処理槽12とポンプ13が設けられ、処理槽12には内部に収容した溶液を加熱する電気ヒータ等の加熱部14が付設される。さらに処理槽12に外部から新鮮な水を補給する配管15が接続される。また処理槽12は図1や図2に示す溶液の浄化工程、オフライン浄化工程、金属イオン除去工程、酸化剤除去工程、またはオンライン処理系Aに溶液を供給する場合の主要な処理領域またはバッファータンクの機能を有する。したがって処理槽12の容量はオンライン処理系Aに流通する溶液の容量と同等以上とされる。
【0057】
循環配管11には還元剤を分解する過酸化水素(H2 2 )等の分解剤をオフライン処理系Bに供給する分解剤供給装置16と、オフライン浄化等に利用される混合交換樹脂槽17が連通し、それらは開閉弁の開閉操作によりオフライン処理系Bに連通またはバイパス状態に切り換えることができる。なお分解剤供給装置16は分解剤槽18とポンプ19を有している。さらに循環配管11にカチオン交換樹脂槽20が設けられ、このカチオン交換樹脂槽20は図2に示す化学除染方法を採用する場合に利用される。
【0058】
オンライン処理系Aから溶液を徐々に排出し、それと同量の溶液をオフライン処理系Bからオンライン処理系Aに供給するには、循環配管2の開閉弁a,bを閉じ、循環配管11の開閉弁c,dを開けた状態でポンプ3とポンプ13を同期して運転する。その際、例えば開閉弁a,b,c,d等の開度を調整することにより、オンライン処理系Aの排出量とオフライン処理系Bからの供給量を一致させることができる。
【0059】
図3の実施形態ではオフライン処理系Bに1つの処理槽12を設けている。前記のように1つの処理槽12で溶液の排出および供給を同時に行う際には、処理槽12内部でオンライン処理系Aから排出する溶液とオンライン処理系Aに供給する溶液をスムーズに置換する必要があるが、その具体的手段は後述する。なお、許容される設置スペースが比較的大きい場合は、処理槽12を別個に2つ設けることもできる。
【0060】
図4は処理槽12の1例を模式的に示す断面図である。処理槽12は硬質なプラスチックや金属材料で作られた保護用の密閉性を維持できる収容部21の内部に、2つの可撓性容器22を隣接して収容したもので、各可撓性容器22は密閉袋に溶液の入口部23と出口部24を形成すると共に、一方の側面に硬質な板材25を取り付けて構成される。そして2つの可撓性容器22はそれぞれの板材25部分を互いに接触させて収容部21に収容される。なお、可撓性容器22は耐熱性を有し、且つ化学除染に用いる薬品類、特にシュウ酸等の還元剤に対する耐食性を有するフッ素系の可撓性樹脂シートで作ることが望ましい。
【0061】
図4の処理槽12を使用するには、例えば図示のように左側の可撓性容器22にオンライン処理系Aへ供給する溶液を収容し且つその入口部23の開閉弁を閉じておく。また右側の可撓性容器22をオンライン処理系Aから排出する溶液を受け入れ可能なように例えば蛇腹状に縮小し、且つその出口部24はベント管に接続しておく。この状態でオンライン処理系Aから排出する溶液を循環配管11の上流側から右側の可撓性容器22の入口部23に供給すると、流入した溶液により右側の可撓性容器22が膨張し、その膨張力により左側の可撓性容器22が左方に押圧され、内部に収容している溶液がその出口部24から循環配管11の下流側に排出してオンライン処理系Aに供給される。
【0062】
上記のようにして右側の可撓性容器22に収容された溶液、例えば還元剤溶液に含まれる還元剤は、還元剤分解工程において、例えばその入口部23と出口部24を循環配管11に連通した状態で、図3に示すポンプ13を運転して開閉弁eを開けると、還元剤溶液が循環配管11を循環しながら分解される。そして分解後の溶液を循環しながら溶液の浄化工程で混合交換樹脂槽17により浄化する。浄化した溶液は溶液切換操作時にオンライン処理系Aに供給するが、その際にはオンライン処理系Aから排出する2回目の還元溶液を左側の可撓性容器22に受け入れる。
【0063】
図5は処理槽12の他の例を模式的に示す断面図である。処理槽12は細長い収容槽26を有し、その収容槽26の一方の端部上方に溶液の入口部23が設けられ、他方の端部下方に出口部24が設けられている。この処理槽12を利用してオンライン処理系Aから排出する溶液を受け入れ、収容していた溶液をオンライン処理系Aに供給することができる。それには先ず収容槽26にオンライン処理系Aへ供給する溶液を収容しておき、オンライン処理系Aから排出する溶液を入口部23より緩やかに受け入れる。すると受け入れた溶液が収容槽内を徐々に移動することにより収容していた溶液が出口部24に押し出され、その溶液が循環配管11を経てオンライン処理系Aに供給される。
【0064】
図5(a)〜図5(d)はオンライン処理系Aから排出する溶液Cとオンライン処理系Aに供給する溶液Dが収容槽26の内部で順次置換されていく状態を示している。なお以下の説明は理解を容易にするため、溶液Cの温度が溶液Dより高い場合を例にしている。そして溶液Cや溶液Dの定点温度をモニタするため、収容槽26の中央部上下2箇所および出口部24付近に温度検出器27を設けている。
【0065】
初期状態の図5(a)では収容槽26内に溶液Dが収容されている。その状態で図5(b)のように入口部23から溶液Cが流入すると、溶液Cの流入量と同量の溶液Dが出口部24から排出する。その際、溶液Cは溶液Dより温度が高いため、その温度差(密度差)により図示のように溶液Cが収容槽26の上層により拡散しながら移動して溶液Dと置換する。そして溶液Cと溶液Dの境界部分には両溶液が交じり合った混合溶液Eの帯が形成され、それが溶液C,Dと共に平行移動する。
【0066】
混合溶液Eの幅はできるだけ小さいほうが望ましく、それには溶液Cの供給速度を遅く(例えば1m/分程度)し且つそれを一定に維持すべきである。収容槽26の内部を移動する溶液Cと溶液Dの境界部が乱れると混合溶液Eの幅も大きくなる。その境界部の乱れは温度検出器27でモニタできるので、乱れが大きくなったことを確認したときは、必要に応じて溶液Cの供給を一時停止するなどの対策を取る。
【0067】
なお、混合溶液Eが出口部から排出することを避けたい場合は、図示のように収容槽26に必要最小容量(例えばオンライン処理系の溶液容量)のほかに、例えば収容槽26の容積の20%程度の余裕容量部28を出口部24付近に付加しておく。溶液Cの供給を続けると、図5(c),図5(d)のように収容槽26の内部が溶液Dから溶液Cに順次置き換わっていき、最後に収容槽26は実質的に溶液Cだけになる。一方、図5の処理槽12を還元剤分解工程、オフライン浄化工程、金属イオン除去工程、酸化剤除去工程等に利用する場合は、図3のポンプ13を運転し開閉弁eを開けて循環配管11に処理すべき溶液を循環させながら薬液を注入するなどして、その循環溶液を収容槽26の入口部23から供給し、出口部24から排出する。
【0068】
図6は処理槽12のさらに他の例を模式的に示す斜視図である。この処理槽12は先に収容した溶液より後から収容する溶液の温度が高い場合に適用される。処理槽12は細長い収容槽26を有し、その収容槽26の一方の端部の上方に溶液の入口部23が設けられ、他方の端部の下方に出口部24が設けられている。さらに収容槽26には、複数(図示の例では3つ)の回転可動式の仕切板29が所定間隔で設けられ、各仕切板29は細長い板材30とその板材30から延長する軸に連結した可逆電動機等の駆動部31を有している。
【0069】
板材30の幅は収容槽26の内幅と略同じ寸法を有し、その底部は収容槽26の底面26aから僅か上方に位置しており、各板材30と底面26aの間隙により溶液の流通路の一部が形成される。そして前記流通路の温度を検出する複数の温度検出器32が設けられ、各温度検出器32の検出信号は制御装置33に伝送される。
【0070】
制御装置33は例えばコンピュータ装置により構成することができ、その記憶部に格納された制御プログラムに従って制御操作が実行される。最初は各仕切板29が閉じた状態に制御され、特定の温度検出器32の検出温度が予め設定された温度を超えたとき、制御装置33は当該温度検出器32が設置されている仕切板29を回転して閉じた状態から開いた状態に緩やかに切り換える制御をする。なお温度検出器32は出口部付近にも設けられている。
【0071】
図7(a)〜図7(d)は図6の処理槽12に図5の例と同様なオンライン処理系Aから排出する溶液Cとオンライン処理系Aに供給する溶液Dが収容槽26の内部で順次置換していく変化を示す模式的な図である。収容槽26に予め溶液Dを収容しておき、入口部23から溶液Cを供給すると、図7(a)のように溶液Cが溶液Dを押しながら内部に流入する。
【0072】
溶液Cは溶液Dより温度が高いので図示のように一番左側の閉じた仕切弁29と入口部23とで囲まれた1番目の領域の上方に拡散し、そこに収容されている溶液Dを押し下げて下方の流通部から2番目の領域(1番目の仕切弁29と2番目の仕切弁29で囲まれた領域)に押し出す。さらに溶液Cの供給を続けると1番目の領域に収容されていた溶液Dがすべて2番目の領域に押し出され、一番目の領域の溶液Cが下方の流通路から2番目の領域に流入する。するとそこに設けた温度検出器32が溶液Cによる温度上昇の移動位置を検出し、制御装置33にその検出信号を伝送する。
【0073】
その検出信号を受けた制御装置33は、図7(b)のように1番左側の仕切板29の板材30を90度緩やかに回転する制御を行い、1番目の領域と2番目の領域を連通(一体化)させる。この制御により1番左側の仕切板29による溶液Cの流通抵抗が低くなるので、それ以降の溶液Cの該領域における流動性がスムーズになる。
【0074】
上記のようにして溶液Cの供給量の増加に応じて各仕切板29が次々と開けられて最後は図7(d)の状態になる。なお溶液Cが出口部24まで達すると、そこに設けた温度検出器32がその温度上昇を検出し、制御装置33に伝送する。制御装置33はその検出信号を受けて溶液の置換完了ランプの表示または溶液Cの供給停止等の制御を行う。なお各仕切板29は固定式としてもよい。その場合は流動抵抗が最大になるように板材30を溶液Cの流通方向に対し直角な位置にする。
【0075】
図8(a)は処理槽12のさらに他の例を模式的に示す斜視図であり、図8(b)はその平面図である。本実施形態の処理槽12が図6の例と異なる部分は、図6の細長い収容槽26を円形に巻き込んだ形状に変更した点であり、そのほかは同様に構成される。したがって同じ部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0076】
収容槽26は円筒状の外周面を有し、その内部に螺旋状の仕切壁34が配置され、仕切壁34の間に形成される流通路に複数の仕切板29が設けられ、図示しない制御装置33で制御される。なお図8は収容槽26の上側を開放した状態が示されているが、運転時は図示しない開閉蓋で閉鎖する。さらに収容槽26の周囲に電気ヒータ等の加熱装置14が点線で示されているが、この加熱装置14は図3に示すものと同じものである。なお加熱部14は図4〜図6の処理槽12にも設けることができる。
【0077】
図9(a)は処理槽12のさらに他の例を模式的に示す斜視図であり、図9(b)はその平面図である。本実施形態の処理槽12は図8の変形例であり、円筒状の処理槽26が方形に変えられていること、その内部に複数の仕切壁34が所定間隔で平行に設けられていることが図8の例と異なる。そして各仕切壁34の端部と内壁との間に間隙部が形成され、それらの間隙部を閉鎖するように仕切板29がそれぞれ設けられる。なおその作用は図8の場合と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の化学除染方法は原子力発電所等の放射能汚染された対象物を化学除染するために利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の化学除染方法の手順を説明する図。
【図2】本発明の化学除染方法の他の方法における手順を説明する図。
【図3】図1または図2の化学除染方法を実施するオンライン処理系とオフライン処理系の1例を示すプロセスフロー図。
【図4】本発明の化学除染方法に用いる処理槽12の1例を模式的に示す断面図。
【図5】本発明の化学除染方法に用いる処理槽12の他の例を模式的に示す断面図。
【0080】
【図6】本発明の化学除染方法に用いる処理槽12の更に他の例を模式的に示す斜視図。
【図7】図6の処理槽12の収容槽26の内部で溶液Cと溶液Dが順次置換していく変化を示す模式的な図。
【図8】本発明の化学除染方法に用いる処理槽12の更に他の例を模式的に示す斜視図と平面図。
【図9】本発明の化学除染方法に用いる処理槽12の更に他の例を模式的に示す斜視図と平面図。
【図10】従来の化学除染方法の手順を説明する図。
【符号の説明】
【0081】
1 除染対象物
2 循環配管
3 ポンプ
4 加熱装置
5 カチオン交換樹脂槽
6 UV照射装置
7 酸化剤供給装置
8 混合交換樹脂槽
9 還元剤供給装置
10 還元剤槽
10a ポンプ
【0082】
11 循環配管
12 処理槽
13 ポンプ
14 加熱部
15 配管
16 分解剤供給装置
17 混合交換樹脂槽
18 分解剤槽
19 ポンプ
20 カチオン交換樹脂槽
【0083】
21 収容部
22 可撓性容器
23 入口部
24 出口部
25 板材
26 収容槽
26a 底面
27 温度検出器
28 余裕容量部
29 仕切板
30 板材
【0084】
31 駆動部
32 温度検出器
33 制御装置
34 仕切壁
C 溶液
D 溶液
E 混合溶液
a〜e 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質に汚染された除染対象物1を還元溶解工程と酸化溶解工程により除染する化学除染方法において、前記除染対象物1に還元剤溶液または酸化剤溶液を循環するオンライン処理系Aと、少なくとも還元剤分解工程を行うオフライン処理系Bを設け、前記オンライン処理系Aで還元溶解工程に用いた還元剤溶液をオフライン処理系Bへ排出すると共に、オフライン処理系Bから新たな溶液をオンライン処理系Aへ供給し、その溶液に酸化剤を添加して酸化剤溶液を調整し、その酸化剤溶液をオンライン処理系Aに循環して酸化溶解工程を行い、オフライン処理系Bでは前記排出された溶液中の還元剤を還元剤分解工程により分解することを特徴とする化学除染方法。
【請求項2】
請求項1において、前記オフライン処理系Bの還元剤分解工程は、溶液に含まれている金属イオンが析出する速度で還元剤の分解を行い、その析出物を濾過等の物理的分離手段により溶液から除去することを特徴とする化学除染方法。
【請求項3】
放射性物質に汚染された除染対象物を少なくとも2回の還元溶解工程と少なくとも1回の酸化溶解工程により除染する化学除染方法において、前記除染対象物に還元剤溶液または酸化剤溶液を循環するオンライン処理系Aと、少なくとも還元剤溶液に含まれている金属イオンを除去する金属イオン除去工程を行うオフライン処理系Bを設け、前記オンライン処理系Aで還元溶解工程に用いた還元剤溶液をオフライン処理系Bへ排出すると共に、オフライン処理系Bから新たな溶液をオンライン処理系Aへ供給し、その溶液に酸化剤を添加して酸化剤溶液を調整し、その酸化剤溶液をオンライン処理系Aに循環して酸化溶解工程を行い、オフライン処理系Bでは前記排出された溶液に含まれている金属イオンを金属イオン除去工程で除去し、得られた溶液を次の還元溶解工程のためにオンライン処理系Aへ供給することを特徴とする化学除染方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかにおいて、前記オフライン処理系Bに処理槽12を設け、その処理槽12を利用してオンライン処理系Aから排出する溶液の受け入れとオンライン処理系Aへの溶液供給を行うことを特徴とする化学除染方法。
【請求項5】
請求項4において、前記処理槽12として硬質な収容部21の内部に2つの可撓性容器22を隣接して収容したものを用い、一方の可撓性容器22にオンライン処理系Aへ供給する溶液を収容しておき、他方の可撓性容器22をオンライン処理系Aから排出する溶液を受け入れ可能なように縮小状態としておき、他方の可撓性容器22にオンライン処理系Aから排出する溶液を受け入れたとき、その膨張力により一方の可撓性容器22を圧縮させてそれに収容しておいた溶液をオンライン処理系Aへ供給することを特徴とする化学除染方法。
【請求項6】
請求項4において、前記処理槽12として細長い収容槽26を有し、その収容槽26の一方の端部に溶液の入口部23を設け、他方の端部に出口部24を設けたものを用い、その収容槽26にオンライン処理系Aへ供給する溶液を収容しておき、オンライン処理系Aから排出する溶液を入口部23より受け入れ、その受け入れた溶液が収容槽26内を移動することにより収容していた溶液を出口部24に押し出してオンライン処理系Aへ供給することを特徴とする化学除染方法。
【請求項7】
請求項6において、前記収容槽26における溶液の流通路を直線状、螺旋状または折り返し状に形成したことを特徴とする化学除染方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、オンライン処理系Aから排出される溶液よりオンライン処理系Aへ供給する溶液が低温である場合、前記収容槽26の長手方向に沿って所定間隔で複数の仕切板29を設けると共に、各仕切板29の底部と収容槽26の底面26aとの間に液流通路を形成し、前収容槽26にオンライン処理系Aへ供給する溶液を収容しておき、オンライン処理系Aから排出する溶液を収容槽26の一方の端部上方に設けた入口部23より受け入れ、その受け入れた溶液が収容槽26内を移動することにより収容しておいた溶液を収容槽26の他方の端部下方に設けた出口部24に押し出してオンライン処理系Aへ供給することを特徴とする化学除染方法。
【請求項9】
請求項8において、前記仕切板29を回転可動式とし、最初に全ての仕切板29を溶液流通方向に対して直角にしておき、入口部23から受け入れた溶液の先端部分が収容槽26内を移動することを温度上昇位置の移動から検出し、それに合わせて入口部23に近い仕切板29から順に回転して流動抵抗を下げていくことを特徴とする化学除染方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−105828(P2006−105828A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294096(P2004−294096)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(390014568)東芝プラントシステム株式会社 (273)