説明

化成処理剤

【課題】耐食性及び塗膜密着性に優れており、かつ表面処理面に平滑で外観に優れた塗装面を形成することが可能な化成処理剤を提供する。
【解決手段】ジルコニウム、チタン、及びハフニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属元素(A)、フッ素(B)、アミノ基含有シランカップリング剤及びその加水分解物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のカップリング剤(C)、並びにアミノ基含有水溶性有機化合物(D)を含んでおり、前記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)に対する前記カップリング剤(C)の質量比(C/D)が1〜15である化成処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装前の被塗物に対して表面処理を施すための化成処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材の表面に電着塗装や粉体塗装等の塗装を施す場合、通常、耐食性や塗膜密着性等の性能を向上させる目的で、当該塗装前の金属基材の表面に化合物皮膜を化学的に形成する化成処理が施される。
従来、この化成処理に用いる化成処理剤として、クロメート系化成処理剤及びリン酸亜鉛系化成処理剤が広く用いられている。しかし、クロメート系化成処理剤は、クロムを含むため環境に負荷を与えるおそれがあり、リン酸亜鉛系化成処理剤は、リン酸イオンを含むため河川や海洋の富栄養化のおそれがある。
そのため、これらクロメート系化成処理剤及びリン酸亜鉛系化成処理剤に代わる化成処理剤として、ジルコニウム、チタン及びハフニウムの少なくとも1種を含む化成処理剤が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、並びに、アミノ基含有シランカップリング剤からなる化成処理剤が記載されている。
特許文献2には、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、並びに水溶性樹脂からなり、水溶性樹脂がポリビニルアミン樹脂及び/又はポリアリルアミンである化成処理剤が記載されている。
特許文献3には、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、密着性付与剤、並びに、化成反応促進剤からなり、前記密着性付与剤は、水溶性樹脂、シランカップリング剤等からなる群から選ばれる少なくとも一種である化成処理剤が記載されている。また特許文献3には、この水溶性樹脂としてポリビニルアミン樹脂やポリアリルアミン樹脂が挙げられており、シランカップリング剤としてアミノ基を有するアミノシランカップリング剤が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−218070号公報
【特許文献2】特許第4276530号公報
【特許文献3】特開2004−218075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3のような、ジルコニウム、チタン及びハフニウムの少なくとも1種を含む化成処理剤(以下、ジルコニウム等を含む化成処理剤と称することがある)は、従来のリン酸亜鉛系化成処理剤によって形成された化成皮膜と比べて、形成される化成皮膜の膜厚が小さいため、絶縁性が不足し、化成皮膜面上に平滑で外観に優れた塗装面を形成することができないおそれがある。そのため、このジルコニウム等を含む化成処理剤は、耐食性や塗膜密着性に優れるのみならず、化成皮膜面に平滑で外観に優れた塗装面を形成することができるものであることが望まれている。
しかしながら、特許文献1〜3では、化成処理面に形成した塗装面の外観に関する検討が充分になされていない。また、特許文献1〜3では、上記アミノ基含有シランカップリング剤とポリアリルアミン等との含有割合に関する検討も充分になされていない。
【0006】
すなわち、特許文献1,2では、化成処理面に形成した塗装面の外観に関する検討がなされていない。また、特許文献1には、化成処理剤中にアミノ基含有シランカップリング剤を含有させることの記載はあるが、更にポリビニルアミン樹脂やポリアリルアミン樹脂を含有させることの記載はない。反対に特許文献2には、化成処理剤中にポリビニルアミン樹脂やポリアリルアミン樹脂を含有させることの記載はあるが、更にアミノ基含有シランカップリング剤を含有させることの記載はない。
また、特許文献3では、化成皮膜自体の外観に関する検討はなされているが、その上に形成される塗装面の外観に関する検討はなされていない。また、特許文献3では、ポリビニルアミン樹脂及びポリアリルアミン樹脂とアミノシランカップリング剤とを同列に扱っており、これら樹脂及びカップリング剤の含有割合と塗装面の外観との関係には触れていない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、耐食性及び塗膜密着性に優れており、かつ表面処理面に平滑で外観に優れた塗装面を形成することが可能な化成処理剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ジルコニウム、チタン及びハフニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素成分、フッ素、アミノ基含有シランカップリング剤、及びアミノ基含有水溶性有機化合物を含有する化成処理剤であって、これらアミノ基含有水溶性有機化合物とアミノ基含有シランカップリング剤の含有割合を所定の範囲内にすることにより、その目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
ジルコニウム、チタン、及びハフニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属元素(A)、フッ素(B)、アミノ基含有シランカップリング剤、その加水分解物、及びその重合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のカップリング剤(C)、並びにアミノ基含有水溶性有機化合物(D)を含んでおり、前記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)は、アミノ酸、ポリアリルアミン樹脂、アリルアミン類、ポリビニルアミン樹脂、ビニルアミン類、アミノ基含有有機スルホン酸化合物、アミノ基含有水溶性エポキシ化合物、アミノ基含有水溶性フェノール化合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、前記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)に対する前記カップリング剤(C)の質量比(C/D)が1〜15である化成処理剤、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、耐食性及び塗膜密着性に優れており、かつ表面処理面に平滑で外観に優れた塗装面を形成することが可能な化成処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の化成処理剤は、ジルコニウム、チタン、及びハフニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属元素(A)、フッ素(B)、アミノ基含有シランカップリング剤、その加水分解物及びその重合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のカップリング剤(C)、並びにアミノ基含有水溶性有機化合物(D)を含んでおり、前記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)に対する前記カップリング剤(C)の質量比(C/D)が1〜15であるものである。
本発明の化成処理剤は、このように上記質量比(C/D)を1〜15とすること等により、耐食性及び塗膜密着性に優れており、かつ表面処理面に平滑で外観に優れた塗装面を形成することが可能である。
次に、本発明の化成処理剤の各成分について説明する。なお、金属元素(A)を(A)成分といい、フッ素(B)を(B)成分といい、カップリング剤(C)を(C)成分といい、アミノ基含有水溶性有機化合物(D)を(D)成分といい、後述する金属元素(E)を(E)成分ということがある。
【0012】
[金属元素(A)]
本発明の化成処理剤は、ジルコニウム、チタン、及びハフニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属元素(A)を含む。これら金属元素(A)は化成皮膜形成成分であり、基材に当該金属元素(A)を含む化成皮膜が形成されることにより、基材の耐食性や耐磨耗性を向上させ、更に、この化成皮膜上に形成される塗膜との密着性を高めることができる。金属元素(A)は、ジルコニウムを含有することが好ましく、ジルコニウムであることがより好ましい。
上記ジルコニウムの供給源としては特に限定されず、例えば、K2ZrF6等のアルカリ金属フルオロジルコネート;(NH42ZrF6等のフルオロジルコネート;H2ZrF6等のフルオロジルコネート酸等の可溶性フルオロジルコネート等;フッ化ジルコニウム;酸化ジルコニウム;硝酸ジルコニウム等を挙げることができる。
【0013】
上記チタンの供給源としては特に限定されず、例えば、アルカリ金属フルオロチタネート、(NH42TiF6等のフルオロチタネート;H2TiF6等のフルオロチタネート酸等の可溶性フルオロチタネート等;フッ化チタン;酸化チタン等を挙げることができる。
上記ハフニウムの供給源としては特に限定されず、例えば、HHfF等のフルオロハフネート酸;フッ化ハフニウム等を挙げることができる。
上記金属元素(A)の供給源としては、皮膜形成能が高いことからZrF62-、TiF62-、HfF62-からなる群より選ばれる1種又は2種以上を有する化合物が好ましい。
【0014】
化成処理剤中における上記金属元素(A)の含有量は、化成処理剤全量に対して金属換算で下限50質量ppm、上限2000質量ppmの範囲であることが好ましい。上記下限以上であると得られる化成皮膜の耐食性が充分なものとなり、上記上限以下であると、化成処理の際に金属元素(A)がカップリング剤(C)およびアミノ基含有水溶性有機化合物(D)の析出を阻害することなく、密着性および耐摩耗性を向上させることができる。上記下限は、80質量ppmがより好ましく、90質量ppmが更に好ましい。上記上限は、1000質量ppmがより好ましく、600質量ppmが更に好ましく、500質量ppmが特に好ましく、250質量ppmがとりわけ好ましい。
【0015】
[フッ素(B)]
上記化成処理剤に含まれるフッ素(B)は、基材のエッチング剤としての役割を果たすものである。上記フッ素(B)の供給源としては、特に限定されず、フッ素を有する金属元素(A)の化合物やフッ素化合物が挙げられる。フッ素を有する金属元素(A)の化合物の具体例としては、K2ZrF6等のアルカリ金属フルオロジルコネート;(NH42ZrF6等のフルオロジルコネート;H2ZrF6等のフルオロジルコネート酸等の可溶性フルオロジルコネート等;フッ化ジルコニウム;アルカリ金属フルオロチタネート、(NH42TiF6等のフルオロチタネート;H2TiF6等のフルオロチタネート酸等の可溶性フルオロチタネート等;フッ化チタン;HHfF等のフルオロハフネート酸;フッ化ハフニウム等のハフニウム化合物を挙げることができる。なお、フッ素を有する金属元素(A)の化合物を使用する場合、金属元素(A)の化合物からフッ素イオンが供給されるため、別途フッ素化合物を用いなくてもよい。フッ素化合物の具体例としては、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化ホウ素酸、フッ化水素アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム等のフッ化物を挙げることができる。また、錯フッ化物としては、例えば、ヘキサフルオロケイ酸塩が挙げられ、その具体例としてケイフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸亜鉛、ケイフッ化水素酸マンガン、ケイフッ化水素酸マグネシウム、ケイフッ化水素酸ニッケル、ケイフッ化水素酸鉄、ケイフッ化水素酸カルシウム等を挙げることができる。
【0016】
化成処理剤中における上記フッ素(B)の含有量は、下限25質量ppm、上限12500質量ppmの範囲であることが好ましい。上記下限以上であるとエッチングが充分に得られ、良好な皮膜が得られる。また上記上限以下であると、エッチング過多となり化成反応が充分進まなくなることが防止される。上記下限は、60質量ppmがより好ましく、100質量ppmが更に好ましい。上記上限は、2500質量ppmがより好ましく、600質量ppmが更に好ましい。
【0017】
[カップリング剤(C)]
上記化成処理剤に含まれるカップリング剤(C)は、アミノ基含有シランカップリング剤、その加水分解物、及びその重合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上である。上記アミノ基含有シランカップリング剤は、分子中に少なくとも1つのアミノ基を有し、かつ、シロキサン結合を有する化合物である。上記アミノ基含有シランカップリング剤、その加水分解物及びその重合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上が、化成皮膜と塗膜の双方に作用することにより、両者の密着性が向上される。
このような効果は、加水分解してシラノールを生成する基が加水分解され金属基材の表面及び金属元素(A)と水素結合的に吸着することにより、化成皮膜と金属基材の密着性が高まるために生じると推測される。上述したように化成皮膜に含まれるアミノ基含有シランカップリング剤、その加水分解物及びその重合物からなる群より選ばれる1種又は2種以上が、金属基材及び塗膜の両方に働きかけることによって、相互の密着性を向上させる作用を有すると考えられる。
【0018】
上記アミノ基含有シランカップリング剤としては特に限定されず、例えば、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン等の公知のアミノ基含有シランカップリング剤等を挙げることができる。市販されているアミノ基含有シランカップリング剤であるKBM−602、KBM−603、KBE−603、KBM−903、KBE−9103、KBM−573(以上信越化学工業株式会社製)、XS1003(チッソ株式会社製)等も使用することができる。
【0019】
上記アミノ基含有シランカップリング剤の加水分解物は、従来公知の方法、例えば、上記アミノ基含有シランカップリング剤をイオン交換水に溶解し、任意の酸で酸性に調整する方法等により製造することができる。上記アミノ基含有シランカップリング剤の加水分解物としては、KBP−90(信越化学工業株式会社製:有効成分32%)等の市販の製品を使用することもできる。
【0020】
上記アミノ基含有シランカップリング剤の重合物は、従来公知の方法、例えば、上記アミノ基含有シランカップリング剤を二種以上、水溶液中で反応させる方法等により製造することができる。
【0021】
上記化成処理剤中における上記シランカップリング剤(C)の含有量は、固形分濃度で下限5質量ppm、上限1000質量ppmの範囲内であることが好ましい。別言すると、化成処理剤の全量中における、シランカップリング剤(C)の固形分の含有量は、下限5質量ppm、上限1000質量ppmの範囲内であることが好ましい。5質量ppm以上であると、金属基材との密着性を得ることができる。1000質量ppm以下であると、化成処理の際に金属元素(A)の析出を阻害することなく、耐食性を向上させることができる。上記下限は、10質量ppmがより好ましく、50質量ppmが更に好ましく、90質量ppmが特に好ましい。上記上限は、750質量ppmがより好ましく、500質量ppmが更に好ましく、300質量ppmが特に好ましい。
【0022】
[アミノ基含有水溶性有機化合物(D)]
上記化成処理剤に含まれるアミノ基含有水溶性有機化合物(D)は、アミノ酸、ポリアミノ酸、ポリアリルアミン樹脂、アリルアミン類、ポリビニルアミン樹脂、ビニルアミン類、アミノ基含有有機スルホン酸化合物、アミノ基含有水溶性エポキシ化合物、アミノ基含有水溶性フェノール化合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物が挙げられる。このアミノ基を含有する水溶性有機化合物には、上記カップリング剤(C)は含まれない。
このアミノ基含有水溶性有機化合物(D)を含む化成皮膜は、酸塩基相互作用により塗膜との密着性が高くなると考えられる。上記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法によって製造することができる。
【0023】
<アミノ酸、ポリアミノ酸、ポリアリルアミン樹脂、アリルアミン類、ポリビニルアミン樹脂及びビニルアミン類>
上記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)としては、密着性向上効果及び塗膜の平滑性向上効果に優れている点で、アミノ酸、ポリアミノ酸、ポリアリルアミン樹脂、アリルアミン類、ポリビニルアミン樹脂及びビニルアミン類がより好ましい。
上記アミノ酸としては特に限定されず、例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシンアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、システイン、シスチン、セリン、スレオニン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン等の市販のアミノ酸を使用することができる。
【0024】
上記ポリアリルアミン樹脂としては特に限定されず、例えば、PAA−01、PAA−10C、PAA−H−10C、PAA−D11HCl(いずれも日東紡株式会社製)等の市販のポリアリルアミン樹脂を使用することができる。上記ポリビニルアミン樹脂としては特に限定されず、PVAM−0595B(三菱化学株式会社製)等の市販のポリビニルアミン樹脂を使用することができる。上記アリルアミン類としては、アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン等を使用することができる。上記ビニルアミン類としてはジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等を使用することができる。また、これらの2種以上を併用してもよい。
アミノ酸、ポリアリルアミン樹脂、アリルアミン類、ポリビニルアミン樹脂、ビニルアミン類を用いると、表面処理後の金属基材の塗装性・耐食性を向上させることができる。理由は以下が考えられる。
金属元素(A)のみからなる化成皮膜成分は結合が弱く、鋼板および塗料との密着性が弱い。また化成皮膜成分は乾燥時の体積収縮による凝集破壊により、皮膜自体に割れを生ずることに起因する密着性不良が生じやすい。上記アミノ酸、ポリアリルアミン樹脂、アリルアミン類、ポリビニルアミン樹脂及びビニルアミン類を用いると、上記樹脂中のアミノ基が鋼板および塗膜に吸着・結合することにより密着性がより強固なものとなる。また、樹脂が皮膜に入ることによる応力緩和により密着性が向上する。また形成される化成皮膜の絶縁性が向上することで、特に電着塗装での塗膜抵抗形成を促進させることにより、化成皮膜面上に平滑で外観に優れた塗装面を形成することができる。
上記観点から、このアミノ基含有水溶性有機化合物(D)は、ポリアリルアミン樹脂及びポリビニルアミン樹脂の少なくとも1種が更に好ましく、中でもポリアリルアミン樹脂を含むことが更に好ましく、ポリアリルアミン樹脂が更に好ましい。
上記化合物(D)の含有量は、固形分濃度で下限0.1質量ppm、上限10000質量ppmの範囲内で含有することが好ましい。別言すると、化成処理剤の全量中における上記化合物(D)の固形分の含有量は、下限0.1質量ppm、上限10000質量ppmの範囲内で含有することが好ましい。当該含有量が0.1質量ppm以上であると、塗膜密着性、塗膜外観を向上させる効果を充分に得ることができ、10000質量ppm以下であると、化成処理の際の金属元素(A)の析出を阻害することが抑制される。上記下限は1質量ppmがより好ましく、10質量ppmが更に好ましく、40質量ppmが特に好ましい。上記上限は、1000質量ppmがより好ましく、300質量ppmが更に好ましく、200質量ppmが特に好ましい。
【0025】
<アミノ基含有有機スルホン酸化合物>
アミノ基含有有機スルホン酸化合物としては、タウリン、アミノナフタレンジスルホン酸、及びこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
アミノ基含有有機スルホン酸化合物を用いると、表面処理後の金属基材の塗装性・耐食性を向上させることができる。そのメカニズムは明らかではないが、以下の二つの理由が考えられる。
まず1つは、鋼板等の金属基材の表面には、シリカ偏析物等が存在しており、表面組成が不均一であるため、表面処理においてエッチングされにくい部分が存在する。しかしながら、スルホン酸化合物を添加することにより、そのようなエッチングされにくい部分をエッチングすることができ、その結果、被塗物表面に均一な防錆皮膜が形成されやすくなるものと推測される。即ち、アミノ基含有有機スルホン酸化合物はエッチング促進剤として作用するものと推測される。
もう1つは、化成処理時においては、化成反応により発生しうる水素ガスが界面の反応を妨げている可能性があり、アミノ基含有有機スルホン酸化合物は復極作用として水素ガスを取り除き、反応を促進しているものと推測される。
【0026】
アミノ基含有有機スルホン酸化合物の含有量は、固形分濃度で下限0.1質量ppm、上限10000質量ppmの範囲内で含有することが好ましい。当該含有量が0.1質量ppm以上であると、スルホン酸化合物を添加する効果を充分に得ることができ、10000質量ppm以下であると、化成処理の際の金属元素(A)の析出を阻害することが抑制される。上記下限は1質量ppm、上記下限が1000質量ppmがより好ましい。
【0027】
<アミノ基含有水溶性エポキシ化合物>
上記アミノ基含有水溶性エポキシ化合物としては、必要量を化成処理剤中に溶解できる程度の溶解性を有するものであれば、特に限定されない。上記アミノ基としては特に限定されず、例えば、−NH2基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノヒドロキシアミノ基、ジヒドロキシアミノ基、その他1級〜3級のアミンを有する化合物等を挙げることができる。
上記アミノ基含有水溶性エポキシ化合物は、エポキシ樹脂を骨格とするものであってよい。上記エポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素添加ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加型エポキシ樹脂、ビスフェノールFプロピレンオキサイド付加型エポキシ樹脂等を挙げることができる。なかでも、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールFエピクロルヒドリン型エポキシ樹脂が好ましい。
上記骨格を形成するエポキシ樹脂にアミノ基を導入する反応としては特に限定されるものではなく、溶媒中でエポキシ樹脂とアミン化合物とを混合する方法等を挙げることができる。
【0028】
上記化成処理剤は、上記アミノ基含有水溶性エポキシ化合物を固形分濃度で下限20質量ppm、上限5000質量ppmの範囲内で含有することが好ましい。20質量ppm以上であると、得られる化成皮膜中において、適正な塗装後性能が得られ、5000質量ppm以下であると、効率的に化成皮膜が形成される。より好ましい下限は50質量ppm、より好ましい上限は1000質量ppmである。
【0029】
上記アミノ基含有水溶性エポキシ化合物は、更に、イソシアネート基を有するものであることが好ましい。上記イソシアネート基を有することによって、エポキシ化合物との間に架橋反応を生じ、これによって皮膜の物性が向上する点で好ましい。上記イソシアネート基は、ブロック剤でブロックされたブロックイソシアネート基であることが好ましい。ブロックされていることによって、化成処理剤中に安定に配合することができる。
【0030】
上記ブロックイソシアネート基は、イソシアネート基の一部がブロックされたポリイソシアネート化合物をエポキシ化合物と反応させることによってエポキシ化合物中に導入することができる。上記ポリイソシアネートとしては特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ポリイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等を挙げることができる。
上記ブロック剤としては特に限定されず、例えば、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(又は芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類等を挙げることができる。オキシム類及びラクタム類のブロック剤は低温で解離するため、樹脂硬化性の観点からより好ましい。
上記アミノ基含有水溶性エポキシ化合物としては、アデカレジンEM−0436シリーズ、アデカレジンEM−0436Fシリーズ、アデカレジンEM0718シリーズ(いずれも旭電化工業社製)等の市販の製品を使用することもできる。
【0031】
上記アミノ基含有水溶性エポキシ化合物は、更にリン元素を有するものであってもよい。上記リンは、リン酸エステル基として上記アミノ基含有水溶性エポキシ化合物中に含まれることが好ましい。上記リン酸エステル基は、部分的にアルキル化されたものであってもよい。上記リン酸エステル基は、上記エポキシ基とリン酸化合物との反応によってエポキシ化合物に導入することができる。
【0032】
<アミノ基含有水溶性フェノール化合物>
上記アミノ基含有水溶性フェノール化合物としてはスミライトレジンPR−NPK−225系、238系、246系、248系、249系、252系、260系、261系(住友ベークライト社製)等の市販品を使用することもできる。
また、本発明の目的を損なわない範囲で、上記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)のアミノ基の一部をアセチル化する等の方法によって修飾したもの、アミノ基の一部又は全部が酸により中和されたもの、溶解性に影響を与えない範囲で架橋剤によって架橋したもの等も使用することができる。
【0033】
上記化成処理剤中におけるアミノ基含有水溶性フェノール化合物の含有量は、固形分濃度下限20質量ppm、上限5000質量ppmの範囲であることが好ましい。上記下限以上であると得られる化成皮膜の性能が充分なものとなり、上記上限以下であると、化成処理の際の金属元素(A)の析出を阻害することが抑制される。上記下限は50質量ppmがより好ましく、上記上限は1000質量ppmがより好ましい。
【0034】
[金属元素(E)]
上記化成処理剤は、鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、バリウム、銅、マンガン、スズ、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属元素(E)を含んでいてもよい。この金属元素(E)を含むことにより、耐食性及び/又は塗膜の塗装性が向上する。特に、バリウムを含むことにより、塗膜の平滑性が向上する。アルミニウムを含むことにより、耐食性が向上する。
【0035】
上記金属元素(E)の供給源としては特に限定されず、例えば、金属元素(E)の硝酸塩、硫酸塩、塩化物塩、酢酸塩等を挙げることができる。特に、硝酸塩が好ましい。
【0036】
上記化成処理剤中における金属元素(E)の含有量は、下限0.1質量ppm、上限5000質量ppmの範囲であることが好ましい。上記下限以上であると得られる化成皮膜の性能が充分なものとなり、上記上限以下であると、化成処理の際に金属元素(A)、カップリング剤(C)およびアミノ基含有水溶性有機化合物(D)の析出を阻害することが抑制される。上記下限は0.5質量ppmがより好ましく、上記上限は3000質量ppmがより好ましい。
【0037】
[質量比(C/D)]
上記化成処理剤中における上記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)に対する上記カップリング剤(C)の質量比(C/D)が1〜15である。この質量比(C/D)が1未満であると、化成皮膜上に形成される塗膜の耐食性が低下し、15よりも大きいと化成皮膜上に形成される塗膜の平滑性が低下する。上記下限は1.5であることが好ましく、2であることがより好ましい。また、上記上限は10であることが好ましく、8であることがより好ましい。
【0038】
[質量比(C/A)]
上記化成処理剤中における上記金属元素(A)に対する上記カップリング剤(C)の質量比(C/A)は、下限0.1が好ましく、上限5が好ましい。この質量比(C/A)が0.1以上であると、耐食性確保に必要な化成皮膜が充分に析出する。上記下限は0.15が好ましく、0.2がより好ましい。また、この質量比(C/A)は5以下であると、化成皮膜上に形成される塗膜が平滑性に優れたものとなる。上記下限は4がより好ましく、3が更に好ましい。
【0039】
[モル比(F/Zr)]
上記金属元素(A)がジルコニウムである場合、ジルコニウムに対するフッ素(B)のモル比(F/Zr)は、耐食性、化成皮膜上に形成される塗膜との密着性及び外観の向上の観点から、好ましくは4〜8であり、より好ましくは5〜7である。
【0040】
[化成処理剤のpH]
本発明の化成処理剤は、pHが下限1.5、上限6.5での範囲内であることが好ましい。1.5以上であると、エッチング過剰となることが防止され、充分な皮膜形成が得られる。6.5以下であると、エッチングが充分となり、良好な皮膜が得られる。上記下限は、2がより好ましく、2.5が更に好ましく、3が特に好ましい。上記上限は、5.5がより好ましく、5が更に好ましく、4.5が特に好ましい。pHを調整するために、pH調整剤として、硝酸、硫酸等の酸性化合物、及び、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性化合物を使用することができる。
【0041】
[(A)〜(D)成分及び(A)〜(E)成分の含有量]
化成処理剤が(E)成分を含まない場合において、化成処理剤から溶媒及びpH調整剤を除いた成分中における(A)〜(D)成分の含有量は、耐食性、塗膜密着性及び外観の向上の観点から、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは99質量%以上であり、更に好ましくは100質量%である。
化成処理剤が(E)成分を含む場合において、化成処理剤から溶媒及びpH調整剤を除いた成分中における(A)〜(E)成分の含有量は、同様の観点から、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは99質量%以上であり、更に好ましくは100質量%である。
【0042】
[化成処理剤の製造方法]
本発明の化成処理剤は、例えば、工業用水等の水に対して、前述した金属元素(A)の供給源、フッ素(B)の供給源、カップリング剤(C)、アミノ基含有水溶性有機化合物(D)、及び必要に応じて前述した金属元素(E)の供給源や他の成分を添加し、混合することによって好適に製造することができる。
この場合、水に対して各成分を同時に添加・混合してもよく、1種類又は複数種ずつ順番に添加・混合してもよい。順番に添加・混合する場合には、その順番には特に制限はない。
【0043】
[化成処理方法]
上記化成処理剤による金属の化成処理方法は、特に限定されるものではなく、通常の化成処理条件によって化成処理剤と金属表面とを接触させることによって行うことができる。上記化成処理における化成処理温度は、下限20℃、上限70℃の範囲内であることか好ましい。上記下限は30℃であることがより好ましく、上記上限は50℃であることがより好ましい。上記化成処理における化成処理時間は、下限5秒、上限1200秒の範囲内であることが好ましい。上記下限は30秒がより好ましく、上記上限は120秒がより好ましい。化成処理方法としては特に限定されず、例えば、浸漬法、スプレー法、ロールコート法等を挙げることができる。
【0044】
上記表面処理金属の表面は、上記化成処理剤によって化成処理される前に脱脂処理、脱脂後水洗処理を行い、化成処理後に化成後水洗処理を行うことが好ましい。
上記脱脂処理は、基材表面に付着している油分や汚れを除去するために行われるものであり、無リン・無窒素脱脂洗浄液等の脱脂剤により、通常30〜55℃において数分間程度の浸漬することで行われるものである。所望により、脱脂処理の前に、予備脱脂処理を行うことも可能である。
上記脱脂後水洗処理は、脱脂処理後の脱脂剤を水洗するために、大量の水洗水によって1回又はそれ以上スプレー処理を行うことにより行われるものである。
上記化成後水洗処理は、その後の各種塗装後の密着性、耐食性等に悪影響を及ぼさないようにするために、1回又はそれ以上により行われるものである。この場合、最終の水洗は、純水で行われることが好ましい。この化成後水洗処理においては、スプレー水洗又は浸漬水洗のどちらでもよく、これらの方法を組み合わせて水洗することも可能である。
【0045】
また、本発明の化成処理剤を使用する化成処理は、リン酸亜鉛系化成処理剤を用いたときに必要とされるような表面調整処理を行わなくてもよいため、より少ない工程で金属基材の化成処理を行うことが可能となる。
上記化成後水洗処理の後で乾燥工程を行ってもよいが、乾燥工程は必ずしも必要ではない。乾燥工程を行わず化成皮膜がウェットな状態のまま、塗装を行っても得られる性能に影響は与えない。また、乾燥工程を行う場合は、冷風乾燥、熱風乾燥等を行うことが好ましい。熱風乾燥を行う場合、有機分の分解を防ぐためにも、300℃以下が好ましい。
【0046】
[金属基材]
本発明の化成処理剤により処理される金属基材は、亜鉛系基材、鉄系基材、アルミニウム系基材等を挙げることができる。亜鉛系、鉄系、及びアルミニウム系基材とは、基材が亜鉛及び/又はその合金からなる亜鉛系基材、基材が鉄及び/又はその合金からなる鉄系基材、基材がアルミニウム及び/又はその合金からなるアルミニウム基材、を意味する。
また、本発明の化成処理剤は、亜鉛系基材、鉄系基材、及びアルミニウム系基材のうちの複数の金属基材からなる被塗物の化成処理に対しても使用することができる。例えば、本発明の化成処理剤は、少なくとも亜鉛系基材を含む被塗物の化成処理用として好適に使用することができる。
本発明の化成処理剤は、従来ジルコニウム等からなる化成処理剤での前処理が不適であった鉄系基材に対しても、充分な塗膜密着性を付与することができる点で好ましく、このため、特に、少なくとも一部に鉄系基材を含む被塗物の化成処理にも使用することができる点で優れた性質を有するものである。
【0047】
上記亜鉛系基材としては特に限定されず、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛−ニッケルめっき鋼板、亜鉛−鉄めっき鋼板、亜鉛−クロムめっき鋼板、亜鉛−アルミニウムめっき鋼板、亜鉛−チタンめっき鋼板、亜鉛−マグネシウムめっき鋼板、亜鉛−マンガンめっき鋼板等の亜鉛系の電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき鋼板等の亜鉛又は亜鉛系合金めっき鋼板等を挙げることができる。上記鉄系基材としては特に限定されず、例えば、冷間圧延鋼板(以下、SPCと称することがある)、熱間圧延鋼板等を挙げることができる。上記アルミニウム系基材としては特に限定されず、例えば、5000番系アルミニウム合金、6000番系アルミニウム合金等を挙げることができる。上記化成処理剤を用いて、亜鉛系、鉄系、及びアルミニウム系基材を同時に化成処理することが可能である。
【0048】
本発明の化成処理剤により得られる化成皮膜は、皮膜量が化成処理剤に含まれる金属元素(A)の皮膜量が下限5mg/m2、上限1000mg/m2の範囲内であることが好ましい。5mg/m2以上であると、均一な化成皮膜が得られる。1000mg/m2以下であると、経済的に有利である。上記下限は、10mg/m2がより好ましく、20mg/m2が更に好ましい。上記上限は、500mg/m2がより好ましく、200mg/m2が更に好ましい。
本発明の化成処理剤により形成された表面処理金属に対して行うことができる塗装としては特に限定されず、電着塗装、粉体塗装等の従来公知の塗装を行うことができる。なかでも、鉄、亜鉛、アルミニウム等の全ての金属に対して良好な処置を施すことができることから、少なくとも一部が鉄系基材からなる被塗物のカチオン電着塗装の前処理として好適に使用することができる。上記カチオン電着塗装としては特に限定されず、アミノ化エポキシ樹脂、アミノ化アクリル樹脂、スルホニウム化エポキシ樹脂等からなる従来公知のカチオン電着塗料を塗布することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0050】
実施例1
<基材>
市販の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA;SCGA270D、日本テストパネル株式会社製、70mm×150mm×0.8mm)及び冷間圧延鋼板(SPC;SPC270D、日本テストパネル株式会社製、70mm×150mm×0.8mm)を基材として、下記の条件で表面処理を施した。
【0051】
<塗装前処理>
(1)脱脂処理
2質量%「サーフクリーナーEC92」(日本ペイント株式会社製脱脂剤)で40℃、2分間浸漬処理した。
(2)脱脂後水洗処理
水道水で30秒間スプレー処理した。
(3)化成処理
10Lの工業用水に対し、化成皮膜形成成分である金属元素(A)及びフッ素(B)の供給源として40%ジルコンフッ化水素酸(H2ZrF6)5.7gを用い、カップリング剤(C)としてKBM−603(N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン(純度100%:信越化学工業株式会社製)(表中では「APS−1」と表記する)2gを用い、アミノ基含有水溶性有機化合物(D)としてPAA−15C(ポリアリルアミン樹脂:重量平均分子量15000:日東紡株式会社製)3.3gを用い、表1に示す組成を有する化成処理剤を調製した。
pHは、硝酸又は水酸化ナトリウムを用いて表1の値に調整した。調整した化成処理剤の温度を表1の値に調整し、各基材を10〜120秒間浸漬処理した。カップリング剤(C)及びアミノ基含有水溶性有機化合物(D)の濃度は、固形分換算で示している。
(4)化成処理後水洗処理
水道水で30秒間スプレー処理した。更にイオン交換水で30秒間スプレー処理した。
(5)乾燥処理
水洗処理後の金属基材を乾燥処理せず、皮膜がウェットな状態なまま次の塗装工程に入った。
【0052】
<塗装>
化成処理剤1L当たり1m2の金属基材を処理した後に、「パワーフロート1200」(日本ペイント株式会社カチオン電着塗料)を用い、以下の条件で電着塗装した。
電圧:100V
時間:30秒間立上げ、150秒間キープ
温度:30℃
水洗後、170℃で20分間加熱して焼き付け、試験板を作成した。
なお、電着塗膜の膜厚の測定結果を表1に示す。
【0053】
<評価試験>
(1)塗膜の中心線平均粗さ(Pa)
得られた電着塗膜における断面曲線の中心線平均粗さ(Pa)を、JIS−B0601:2001に準拠し、評価型表面粗さ測定機(Mitsutoyo株式会社、SURFTEST SJ−201P)を用いて測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均によりPa値を得た。結果を表1に示す。
【0054】
(2)二次密着性試験(SDT)
得られた試験板を、5%NaCl水溶液中において50℃で840時間浸漬した。その後、カット部をテープ剥離し、剥離した塗膜の面積(Zmm2)を測定した。次いで、2本の縦平行カット内の面積(X×Ymm2)に対する剥離した塗膜の面積(Zmm2)の面積率(Z/(X×Y)×100%)を算出し、以下の基準で塗膜の剥離性を評価した。
5点:面積率5%以下
4点:面積率5%超かつ20%以下
3点:面積率20%超かつ30%以下
2点:面積率30%超かつ50%以下
1点:面積率50%超
評価結果は、表1に示す。
【0055】
(3)サイクル腐食試験(CCT)
得られた試験板のエッジと裏面とをテープでシーリングし、試験板の表面にカッターナイフでクロスカット疵(金属に達する深さの疵)を入れた。
次いで、クロスカット疵を入れた試験板の表面に対して、35℃に保温した5質量%NaCl水溶液を2時間連続噴霧した後、60℃、湿度20〜30%の条件下で4時間乾燥し、その後、50℃、湿度95%以上の湿潤雰囲気下で2時間静置した。これを1サイクルとし、100サイクル繰り返した後に、クロスカット疵からの塗膜の膨れ幅(片側)の最大値を測定した。
5点:片側4mm以下
4点:片側4mm超かつ6mm以下
3点:片側6mm超かつ8mm以下
2点:片側8mm超かつ10mm以下
1点:片側10mm超
結果を表1に示す。
【0056】
実施例2〜14、実施例17〜18及び比較例1〜7
表1に示す組成を有する化成処理剤を調製したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
なお、表中の各表記は、次のことを意味する。
APS−2:KBM−903(3−アミノプロピルトリメトキシシラン、純度
100%、信越化学工業株式会社製)
APS−3:KBP−90(3−アミノプロピルトリメトキシシラン加水分解物、
純度32%、信越化学工業株式会社製)
PVA :PVAM−0595B(ポリビニルアミン樹脂、数平均分子量
70000、三菱化学株式会社製)
また、金属元素(E)としてのアルミニウム、マグネシウム、及びバリウムは、それぞれ、硝酸アルミニウム、硝酸マグネシウム、及び硝酸バリウムを供給源として添加している。また、表中には、供給源の濃度ではなく、金属元素の濃度を示している。
【0057】
実施例15
実施例1の「(3)化成処理」を下記の「(3−1)化成処理」のとおりとしたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
(3−1)化成処理
10Lの工業用水に対し、化成皮膜形成成分である金属元素(A)及びフッ素(B)の供給源として40%ジルコンフッ化水素酸(H2ZrF6)4.54gを用い、更に金属元素(A)の供給源として20%ZrO2含有硝酸ジルコニウム水溶液1.35gを用い、カップリング剤(C)としてKBM−603(N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン(純度100%:信越化学工業株式会社製)(表中では「APS−1」と表記する)2gを用い、アミノ基含有水溶性有機化合物(D)としてPAA−15C(ポリアリルアミン樹脂:重量平均分子量15000:日東紡株式会社製)3.3gを用い、表1に示す組成を有する化成処理剤を調製した。
pHは、水酸化ナトリウムを用いて表1の値に調整した。調整した化成処理剤の温度を表1の値に調整し、各基材を10〜120秒間浸漬処理した。カップリング剤(C)及びアミノ基含有水溶性有機化合物(D)の濃度は、固形分換算で示している。
【0058】
実施例16
実施例1の「(3)化成処理」を下記の「(3−2)化成処理」のとおりとしたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果を表1に示す。
(3−2)化成処理
10Lの工業用水に対し、化成皮膜形成成分である金属元素(A)及びフッ素(B)の供給源として40%ジルコンフッ化水素酸(H2ZrF6)5.68gを用い、更にフッ素(B)の供給源として酸性フッ化ソーダ(NaF・HF)0.41gを用い、カップリング剤(C)としてKBM−603(N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン(純度100%:信越化学工業株式会社製)(表中では「APS−1」と表記する)2gを用い、アミノ基含有水溶性有機化合物(D)としてPAA−15C(ポリアリルアミン樹脂:重量平均分子量15000:日東紡株式会社製)3.3gを用い、表1に示す組成を有する化成処理剤を調製した。
pHは、水酸化ナトリウムを用いて表1の値に調整した。調整した化成処理剤の温度を表1の値に調整し、各基材を10〜120秒間浸漬処理した。カップリング剤(C)及びアミノ基含有水溶性有機化合物(D)の濃度は、固形分換算で示している。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すとおり、実施例1〜14及び実施例15〜18の化成処理剤により得られた化成皮膜にあっては、その表面に形成される電着塗膜が凹凸の小さいものとなり、また耐食性に優れていた。
これに対し、アミノ基含有水溶性有機化合物(D)を含まない比較例1の化成処理剤により得られた化成皮膜にあっては、その上に形成された電着塗膜が凹凸の大きい外観の悪いものとなった。
また、質量比(C/D)が本発明の範囲よりも小さい値となっている比較例2〜4の化成処理剤により得られたSPC鋼板上の化成皮膜にあっては、その上に形成される電着塗膜が耐食性に劣っていた。また、比較例2および3の化成処理剤により得られた化成皮膜にあっては、その上に形成される電着塗膜が凹凸の大きい外観の低いものとなった。
カップリング剤(C)を含まない比較例5も、電着塗膜が耐食性に劣っていた。
一方、アミノ基含有水溶性有機化合物(D)を含まない比較例6と、質量比(C/D)が本願発明の範囲よりも大きい値(20)となっている比較例7は、表面に形成される電着塗膜が共に凹凸の大きいものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム、チタン、及びハフニウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属元素(A)、
フッ素(B)、
アミノ基含有シランカップリング剤、その加水分解物、及びその重合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上のカップリング剤(C)、並びに
アミノ基含有水溶性有機化合物(D)
を含んでおり、
前記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)は、アミノ酸、ポリアリルアミン樹脂、アリルアミン類、ポリビニルアミン樹脂、ビニルアミン類、アミノ基含有有機スルホン酸化合物、アミノ基含有水溶性エポキシ化合物、アミノ基含有水溶性フェノール化合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、
前記アミノ基含有水溶性有機化合物(D)に対する前記カップリング剤(C)の質量比(C/D)が1〜15である化成処理剤。
【請求項2】
更に鉄、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、バリウム、銅、マンガン、スズ、ストロンチウム、カルシウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属元素(E)を含む請求項1に記載の化成処理剤。
【請求項3】
前記金属元素(A)に対する前記カップリング剤(C)の質量比(C/A)が0.1〜5である請求項1または2に記載の化成処理剤。
【請求項4】
前記金属元素(A)の含有量が50〜2000質量ppmであり、前記カップリング剤(C)の含有量が固形分濃度5〜1000質量ppmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の化成処理剤。
【請求項5】
pHが1.5〜6.5である請求項1〜4のいずれか1項に記載の化成処理剤。
【請求項6】
少なくとも亜鉛系基材を含む被塗物の化成処理用である請求項1〜5のいずれか1項に記載の化成処理剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の化成処理剤を金属の表面に接触させる、金属の化成処理方法。

【公開番号】特開2013−100600(P2013−100600A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−226997(P2012−226997)
【出願日】平成24年10月12日(2012.10.12)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】