説明

化成処理性に優れた冷延鋼板の製造方法

【課題】特に、冷延鋼板表面に、縮合りん酸塩を含有する前処理液で表面調整した後にりん酸塩皮膜を形成した場合であっても、良好なりん酸塩皮膜を形成することができる、化成処理性に優れた冷延鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.01%以下、Si:0.01〜0.1%、Mn:0.05〜0.5%、S:0.003〜0.02%およびP:0.005〜0.1%を含有する極低炭素鋼素材を熱間圧延した後、550℃以下の低温で巻き取り、その後、冷間圧延を施したのち、露点−40〜0℃で、かつ酸素10〜40体積ppm、水素1〜10体積%、残部が窒素からなる還元ガスの雰囲気中で焼鈍を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特に、冷延鋼板表面に、縮合りん酸塩を含有する前処理液で表面調整した後にりん酸塩皮膜を形成した場合であっても、良好なりん酸塩皮膜を形成することができる、化成処理性に優れた冷延鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板は、自動車、家電等の広い分野にわたって使用されている。
自動車に用いられる鋼板のうち、腐食環境に曝される部分、例えばドアや下回り部分には、通常、冷延鋼板に亜鉛系めっきを施した亜鉛系めっき鋼板が用いられ、一方、自動車のルーフ部分のようにさほど腐食が問題にならない部分には、コスト削減の観点から、冷延鋼板(非めっき鋼板)が用いられている。そして、ルーフ部分と、下回り等とを組み上げて車体形状としたいわゆるホワイトボデーに対して化成処理が施され、この化成処理はホワイトボデーを処理液に浸漬することにより行われる。このようにかかる化成処理工程では、亜鉛系めっき鋼板と冷延鋼板(非めっき鋼板)とが同一ラインで同時に化成処理されるのが一般的である。
【0003】
上述の化成処理工程では、上記亜鉛系めっき鋼板および冷延鋼板には、塗装後の耐食性向上等のため、表面上に微細で緻密なりん酸塩皮膜が形成される。
【0004】
冷延鋼板は、冷延鋼板(母材)表面にりん酸塩皮膜が直接形成され、冷延鋼板表面に対するりん酸塩処理液ののりが良いため、化成処理性に優れている。
【0005】
一方、亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき表面にりん酸塩皮膜が形成されるものの、亜鉛系めっき表面に対するりん酸塩処理液ののりが悪いため、化成処理性に劣る傾向がある。
【0006】
このため、亜鉛系めっき鋼板の化成処理性を向上させることが必要である。
亜鉛系めっき鋼板の化成処理性を向上させる手段としては、例えば、金属表面を活性化し、りん酸塩皮膜結晶析出の核を生成することを目的として、りん酸塩皮膜形成前に、縮合りん酸塩を含有する表面調整用前処理液で表面調整を行う方法が知られている(例えば特許文献1の従来技術の記載)。
【特許文献1】特開2003−119571号公報
【0007】
かかる方法は、亜鉛系めっき鋼板の化成処理性を向上させるには有用な手段であるが、冷延鋼板の場合には、縮合りん酸が冷延鋼板表面と反応し不活性皮膜を形成して、その後のりん酸塩皮膜化成工程において化成不良が発生しやすくなるという問題があった。
【0008】
冷延鋼板では化成処理性が良好であるため、化成処理前に表面調整することは本来必要がないものの、上記のような問題は、特に亜鉛めっき鋼板と同一製造ラインで製造されるがゆえに、冷延鋼板表面が不可避的に表面調整される場合に顕著に生じる。
【0009】
また、化成処理性を改善するための従来技術としては、冷延鋼板製造後の鋼板表面の改質を主眼とするものがほとんどであり、冷延鋼板自体の製造工程に着目したものは現状では見当たらない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明の目的は、熱間圧延後の巻取り温度と、冷間圧延後に行う焼鈍条件の適正化により、特に、冷延鋼板表面を縮合りん酸塩含有の前処理液で表面調整した後にりん酸塩皮膜を形成した場合であっても、新たな工程を付加することなく、良好なりん酸塩皮膜を形成することができる、化成処理性に優れた冷延鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、冷延鋼板表面を縮合りん酸塩含有の前処理液で表面調整した後にりん酸塩皮膜を形成した場合であっても、良好なりん酸塩皮膜が形成できる方法を検討したところ、熱間圧延後の巻取り温度の適正化により表面酸化層の生成量をコントロールすると共に、冷間圧延後に行う連続焼鈍時の鋼板表面の不活性化防止のため炉内露点の適正化を図ることにより、鋼中のSi、MnおよびPを鋼板表面に濃化させることにより、優れた化成処理性が得られることを見出した。
【0012】
すなわち、この発明の主な要旨構成は以下の通りである。
(I)質量%で、C:0.01%以下、Si:0.01〜0.1%、Mn:0.05〜0.5%、S:0.003〜0.02%およびP:0.005〜0.1%を含有する極低炭素鋼素材を熱間圧延した後、550℃以下の低温で巻き取り、その後、冷間圧延を施したのち、露点−40〜0℃で、かつ酸素10〜40体積ppm、水素1〜10体積%、残部が窒素からなる還元ガスの雰囲気中で焼鈍を行うことを特徴とする、化成処理性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、熱間圧延後の巻取り温度と、冷間圧延後に行う焼鈍条件の適正化により、特に、冷延鋼板表面を縮合りん酸塩含有の前処理液で表面調整した後にりん酸塩皮膜を形成した場合であっても、新たな工程を付加することなく、良好なりん酸塩皮膜を形成することができる、化成処理性に優れた冷延鋼板の製造方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
まず、本発明に用いる極低炭素鋼素材の化学成分の限定理由について述べる。なお、以下の化学成分で表す%は質量%を意味する。
【0015】
C:0.01%以下
Cは、プレス成形等の加工性への影響が大きいため、C含有量は少ない方が望ましい。また、C含有量が0.01%よりも多い鋼板は、縮合りん酸塩を含有する表面調整用前処理液で表面調整を行っても、後のりん酸塩皮膜化成工程において化成不良の問題は生じにくい。このため、C含有量は、かかる問題が生じやすく、本発明の効果が顕著に発現する範囲として0.01%以下に限定する。
【0016】
Si:0.01〜0.1%
Siは容易に酸化される元素であり、鋼板の焼鈍工程において表面にSiO2を形成させ、これが過剰に形成されると化成処理性を悪化させる。このためSi含有量は0.1%以下とした。また、Siを0.01%未満にまで低減するのは、製造コストの上昇を招くため、下限は0.01%とする。
【0017】
Mn:0.05〜0.5%
Mnは、鋼板表面に析出して酸化物となり易い。鋼板表面に形成したMnOは、化成処理性を向上させる。そのため、Mnは0.05%以上とする。しかし、Mnを0.5%を超えて添加すると、加工性の劣化を招くため、0.5%以下とする。
【0018】
P:0.005〜0.1%
Pは化成処理性の向上に有効であるが、0.005%未満では十分な効果が発現しないので0.005%以上とする。一方、0.1%超では、加工性が劣化するため、0.1%以下とする。
【0019】
S:0.003〜0.02%
Sは、化成処理性の向上に有効な元素であり、0.003%以上含有させる必要がある。一方、0.02%超では、耐食性が劣化するため、0.02%以下とする。
【0020】
本発明に用いる極低炭素鋼素材の基本組成は上記のとおりであるが、深絞り性等の加工性をより向上させる必要がある場合には、上記基本組成に加えてさらにTi、NbおよびBから選ばれる1種または2種以上の元素をさらに含有することができる。
【0021】
Ti:0.1%以下
Tiは、TiCやTiNの析出によるC,Nの固定化作用を有する元素であり、加工性の向上に有効である。0.1%を超えて含有させても、その効果は飽和するため、0.1%以下とする。
【0022】
Nb:0.1%以下
Nbは、NbCとして析出し、Cの固定化作用を有する元素であり、加工性の向上に有効である。0.1%を超えて含有させても、その効果は飽和するため、0.1%以下とする。
【0023】
B:0.01%以下
Bは、粒界を強化し、耐2次加工脆性を向上させるのに有効であり、低温で用いられる部材への用途を考慮すると、含有させることが好ましい元素である。しかし、0.01%を超えて含有させると、熱間変形抵抗を上昇させ、冷延鋼板製造用の母材となる、熱延鋼板製造工程において、製造が困難となるため、0.01%以下とする。
【0024】
なお、上記した元素以外の残部はFeおよび不可避的不純物であることが好ましい。
【0025】
次に、本発明の冷延鋼板の製造方法について以下で説明する。
まず、上記化学組成を有する極低炭素鋼素材を熱間圧延した後、550℃以下の低温で巻き取る。
【0026】
巻取り温度を550℃以下の低温に限定した理由は、従来のように550℃よりも高い温度で巻き取ると、鋼板表面に形成される黒皮直下の内部酸化層が厚くなり、冷間圧延後に行う還元焼鈍においても、鋼中のSi,Mn,Pが内部酸化層の酸素原子にトラップされて鋼板表面に拡散して濃化することができないが、巻取り温度を550℃以下の低温にすれば、鋼板表面に形成される黒皮直下の内部酸化層が薄くなって、冷間圧延後に行う還元焼鈍においても、鋼中のSi,Mn,Pが内部酸化層の酸素原子にトラップされることなく鋼板表面に速やかに拡散して濃化することができ、これらの成分の濃化層が鋼板表面に形成されることによって、その後の還元焼鈍との組み合わせによって、化成処理性の向上が可能になる。
【0027】
特に、極低炭素鋼を素材として製造される冷延鋼板は、Si,Mn,Pのような微量成分の量が、高合金成分含有の高強度鋼に比べて少ないため、Si,Mn,Pを鋼板表面に濃化させるのは難しいが、本発明者は、550℃の低温で巻き取れば、鋼板表面に形成される内部酸化層を薄くすることができ、その後に行われる適正な還元焼鈍によって、Si, Mn,Pを鋼板表面に有効に濃化させた結果、冷延鋼板の化成処理性を格段に向上させることに成功したのである。
【0028】
上記巻取り後、冷間圧延を施したのちに焼鈍を行う。
焼鈍は、露点−40〜0℃で、かつ酸素10〜40体積ppm、水素1〜10体積%、残部が窒素からなる還元ガスの雰囲気中で行う。
【0029】
ここで、露点を−40〜0℃としたのは、露点が0℃よりも高い場合には、鋼板表面が酸化して化成処理性を圧下させるからであり、露点が−40℃よりも低い場合には、Si,Mn,Pが表面に濃化しないためである。なお、Feを酸化させずに、Si,Mn,Pを有効に表面に濃化させる観点から、露点は、−30〜−20℃とすることが好ましい。
【0030】
還元ガスとしては、酸素10〜40体積ppm、水素1〜10体積%、残部が窒素からなる混合ガスを用いる。酸素濃度を10〜40体積ppmとしたのは、この範囲は、鉄は酸化しにくいがSi,Mn,Pが酸化しやすくして、鋼板表面にSi,Mn,Pを濃化させるためである。酸素濃度が10体積ppm未満だと、鋼板表面でSi,Mn,Pを有効に酸化させることができず、また、40体積ppmよりも多いと、鉄も酸化されてしまい、Si,Mn,Pを優先的に酸化させることができないからである。なお、Si,Mn,Pの選択的な酸化を進行させて、表面濃化させる観点から、酸素濃度は、20〜30体積ppmであることが好ましい。
【0031】
還元ガス中の水素濃度を1〜10体積%としたのは、水素濃度が1体積%未満では、鋼板表面にFe酸化物が形成され化成処理性が劣化するからであり、水素濃度が10体積%超えだと、表面純度が上がりすぎ、化成処理時の前処理(縮合りん酸塩による表面調整)性の向上に寄与するSi,Mn,P濃化層が得られないためである。
【0032】
なお、還元ガスは、酸素および水素以外の残部を不活性ガスとし、特にコストの点から窒素ガスとする。
【0033】
焼鈍温度は特に限定はしないが、750〜900℃であることが好ましい。750℃未満では,冷間圧延後の鋼板が再結晶しない傾向があるからであり、また、900℃超えでは、鋼組織が粗大化し、成形加工時に肌荒れが発生する鋼板となるおそれがあるからである。
【0034】
以上のことから、この発明は、巻取り温度と還元焼鈍との適正化によって、冷延鋼板の縮合りん酸塩処理を前処理として適用した場合の化成処理性の向上が可能になる。なお、縮合りん酸塩処理とは、2価または3価の金属のりん酸塩粒子を0.001〜30g/L含有し、アンモニウム塩又はこれらの混合物を含有し、pHを4〜13に調整した処理液で表面を調整する処理が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に沿って設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0036】
表1に示す化学成分の極低炭素鋼素材を溶製して得た鋳片を熱間圧延した後、表2に示す温度で巻き取り、その後、冷間圧延を施したのち、表2に示す露点および還元ガス組成の雰囲気中にて表2に示す温度で焼鈍を行い、本発明の冷延鋼板を製造した。このようにして得られた各冷延鋼板表面に化成処理を施し、化成処理性を評価した。その結果を表2に示す。
【0037】
化成処理は、各冷延鋼板表面を、縮合りん酸塩を含有する前処理液で表面調整した後、りん酸塩処理液で行い、本発明に従う条件で製造したものを本発明例とし、本発明に従う条件とは異なる条件で製造したものを比較例とした。
ここで、前処理液としては、Zn3(PO42粒子:2g/L,Na3PO4:5g/Lを含有し、pHを10.0に調整した水溶液を用いた。また、りん酸塩処理液としては、パルボンドL3020(日本パーカライジング(株)製)を4.8%に希釈した水溶液を、自動車のりん酸亜鉛処理で一般に用いられている成分濃度、酸濃度、遊離酸度、促進剤濃度に調整したものを用いた。化成処理の処理工程は以下の通りとした。
(1)アルカリ脱脂 :42℃、120秒スプレー
(2)水洗 :室温、30秒スプレー
(3)表面調整(前処理) :室温、20秒浸漬
(4)りん酸亜鉛処理 :42℃、120秒浸漬
(5)水洗 :室温、30秒スプレー
【0038】
参考のため、各冷延鋼板表面を、上記の前処理液で表面調整しないで直接、りん酸塩処理液で行った場合(参考例)についても試作したので、併せて化成処理性を評価した。
【0039】
化成処理性は、りん酸塩処理後の鋼板の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、全面が微細なりん酸塩皮膜で覆われていたものを「◎」、一部に粗大なりん酸塩結晶が存在するものを「○」、粗大なりん酸塩皮膜が多く、一部にりん酸塩皮膜の欠落が認められるものを「×」として評価した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表2の結果から、本発明例No.1〜11はいずれも、Alキルド鋼である比較例No.12および13や、表面調整を行わない参考例No.18〜23と同様、化成処理性に優れていた。
一方、本発明に従う条件とは異なる条件で製造した比較例No.14〜17は、いずれも化成処理性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、熱間圧延後の巻取り温度と、冷間圧延後に行う焼鈍条件の適正化により、特に、冷延鋼板表面を縮合りん酸塩含有の前処理液で表面調整した後にりん酸塩皮膜を形成した場合であっても、新たな工程を付加することなく、良好なりん酸塩皮膜を形成することができる、化成処理性に優れた冷延鋼板の製造方法を提供することが可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.01%以下、Si:0.01〜0.1%、Mn:0.05〜0.5%、S:0.003〜0.02%およびP:0.005〜0.1%を含有する極低炭素鋼素材を熱間圧延した後、550℃以下の低温で巻き取り、その後、冷間圧延を施したのち、露点−40〜0℃で、かつ酸素10〜40体積ppm、水素1〜10体積%、残部が窒素からなる還元ガスの雰囲気中で焼鈍を行うことを特徴とする、化成処理性に優れた冷延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2006−265682(P2006−265682A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−88589(P2005−88589)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】