説明

化成処理鋼板の製造方法

【課題】保存安定性に優れた鋼板処理用化成処理液を用いた化成処理鋼板を提供すること。
【解決手段】めっき鋼板に、水分散性有機樹脂エマルションおよびバルブメタル化合物を含む化成処理液を塗布し、120〜200℃で乾燥させる。水分散性有機樹脂エマルション中の有機樹脂の平均粒子径は、10〜100nmである。バルブメタル化合物は、炭酸ジルコニウムアンモニウム、フッ化チタン酸アンモニウムまたはモリブデン酸アンモニウムである。化成処理液中のバルブメタル化合物の含有量は、有機樹脂100質量部に対し、0.5〜5質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保存安定性に優れる鋼板用化成処理液を用いた化成処理鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建材、自動車、家電などの各分野で使用されるめっき鋼板は、その耐食性を向上させるために化成処理が施される。化成処理の代表的な例として、クロム酸を用いた処理が知られている。しかし、クロム酸処理は六価クロムを含む廃液の処理に多大な負担を要するため、近年、クロムを用いないクロムフリー処理が種々検討されている。
【0003】
特許文献1には、バルブメタル化合物を含む化成処理液(クロムフリー処理液)で処理された化成処理鋼板が開示されている。バルブメタルの酸化物は、高い絶縁抵抗を示す。そのため、化成処理皮膜にバルブメタルの酸化物が存在すると、電子の移動が妨げられ、下地鋼と雰囲気中の水分に含まれている溶存酸素との反応が抑制される。よって、当該化成処理鋼板は耐食性に優れるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−194559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記文献に開示の化成処理液は、水分散性ウレタン樹脂エマルション等の水分散性有機樹脂エマルションと、フッ化チタン酸アンモニウム等のバルブメタル化合物を混合して得られる。しかしながら、水分散性有機樹脂エマルジョンとバルブメタル化合物を含む化成処理液は、保存時にゲル化やスラッジが生じやすく、保存安定性が十分でないという問題があった。
かかる事情に鑑み、本発明は保存安定性に優れる鋼板用化成処理液を用いた化成処理鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは鋭意研究の結果、特定の平均粒子径を有する水分散性有機樹脂エマルションと、特定量のバルブメタル化合物とを含む化成処理液により前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、上記課題は以下の本発明により解決される。
【0007】
めっき鋼板を準備する工程と、前記めっき鋼板に、水分散性有機樹脂エマルションおよびバルブメタル化合物を含む化成処理液を塗布し、120〜200℃で乾燥させる工程と、を含み、前記水分散性有機樹脂エマルション中の有機樹脂の平均粒子径は、10〜100nmであり、前記バルブメタル化合物は、炭酸ジルコニウムアンモニウム、フッ化チタン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウムまたはこれらの組み合わせであり、前記化成処理液中の前記バルブメタル化合物の含有量は、前記有機樹脂100質量部に対し、0.5〜5質量部である、化成処理鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により保存安定性に優れた鋼板用化成処理液を用いた化成処理鋼板を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.鋼板用化成処理液
本発明の鋼板用化成処理液は、
(A)水分散性有機樹脂エマルションと、
(B)バルブメタル化合物を含む、鋼板用化成処理液であって、
前記(A)水分散性有機樹脂エマルションの平均粒子径は、10〜100nmであり、
前記(B)バルブメタル化合物の含有量は、前記有機樹脂100質量部に対し、0.5〜5質量部であることを特徴とする。
鋼板用化成処理液とは、鋼板に化成処理を施すための液である。以下、鋼板用化成処理液を単に「処理液」ともいう。
【0010】
(1) (A)水分散性有機樹脂エマルション
水分散性有機樹脂エマルションとは、水を溶剤または分散媒とし、水中に有機樹脂が微粒子として分散している液体をいう。前記有機樹脂の一部は、水に溶解していてもよい。
有機樹脂とは、有機高分子化合物である。有機樹脂は、鋼板に塗布されて、化成処理皮膜を形成する。有機樹脂の例には、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、ポリスチレン樹脂、またはこれらの変性物が含まれる。本発明においては、前記有機樹脂の2種以上を併用してもよい。
【0011】
本発明の有機樹脂としてはポリウレタン樹脂またはアクリル樹脂が好ましい。入手が容易であって、かつエマルションを調製しやすいからである。ポリウレタン樹脂とは、分子内にウレタン結合を有する樹脂の総称であり、通常は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させて得られる。ポリイソシアネートの例には、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、またはナフタレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、および、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、またはテトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが含まれる。ポリオール化合物の例には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、またはポリブタジエン系等のポリオレフィンポリオールが含まれる。
【0012】
アクリル樹脂とは、(メタ)アクリル酸やメチル(メタ)アクリレートアクリル基を有する化合物の重合体の総称である。(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。アクリル樹脂の例には、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリルアルキルエステルの重合体が含まれる。(メタ)アクリルアルキルエステルの例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、および(メタ)アクリル酸ステアリルが含まれる。
【0013】
本発明の水分散性有機樹脂エマルション(以下単に「エマルション」ともいう)は、その粒子径が10〜100nmであり、より好ましくは20〜60nmである。本発明において記号「〜」はその両端の数値を含む。エマルションの粒子径とは、分散媒である水に分散している有機樹脂の粒子径である。エマルションの平均粒子径が、10nm以下であると、化成処理液の保存安定性が十分でない。また、エマルションの平均粒子径が、100nmを超えると、形成される化成処理皮膜の緻密さが低下するので、化成処理鋼板としたときに耐食効果が十分でなく、また、化成処理鋼板の加工時の耐カジリ性も低下する。平均粒子径は公知の方法で測定してよいが、液体中の粒子がブラウン運動により拡散する速度を計測して粒子径を測定する「動的光散乱法」により測定することが好ましい。
【0014】
水分散性有機樹脂エマルションは、公知の方法で得てよい。公知の方法の例には、以下の方法が含まれる。
1)有機樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液と、界面活性剤と、水を高せん断攪拌してエマルションを得る界面活性剤法。
2)水中にモノマーが分散したエマルションを調製して、モノマーを重合させる乳化重合法。
3)親水基を分子内に導入した有機樹脂を準備して、水中に分散させる自己乳化法。
【0015】
1)の界面活性剤法は、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤を用いることができる。カチオン系界面活性剤とは、界面活性剤中の親水基が陽イオンに電離する界面活性剤である。同様に、アニオン系界面活性剤は、界面活性剤中の親水基が陰イオンに電離する界面活性剤である。非イオン系界面活性剤とは界面活性剤中の親水基が電離しない界面活性剤である。
【0016】
カチオン系界面活性剤は公知のものを用いてよいが、その例にはモノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、および塩化アルキルベンジルジメチルアンモニウム等のアミン塩が含まれる。
【0017】
アニオン系界面活性剤は公知のものを用いてよいが、その例には脂肪族モノカルボン酸塩等のカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホネート等のスルホン酸塩、アルキルエーテルサルフェート等の硫酸エステル、およびリン酸(モノまたはジ)アルキル塩等のリン酸エステルが含まれる。
【0018】
非イオン系界面活性剤は公知のものを用いてよいが、その例にはグリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル、脂肪酸ポリエチレングリコール等のエステルエーテル、および脂肪酸アルカノールアミド等のアルカノールアミドが含まれる。
【0019】
界面活性剤法において高せん断攪拌する手段は、公知の手段を採用してよい。公知の手段の例には、ディスパーザーが含まれる。
【0020】
界面活性剤法においては、せん断速度を大きくするほど、または攪拌時間を長くするほどエマルションの粒子径が小さくなるので、せん断速度等を最適化することで、本発明のエマルションの粒子径を前述の値とすることができる。また、詳しくは後述するが、有機樹脂がカルボキシル基等の親水基を有すると、粒子径が小さくなる。よって有機樹脂のカルボキシル基等の含有量(酸価)を最適化することによってもエマルションの粒子径を前記範囲にできる。
【0021】
2)の乳化重合法は有機樹脂をアクリル樹脂とする際に好適な方法である。乳化重合は、界面活性剤を用いてモノマーが水中に分散したエマルションを調製し、次にこのエマルションを重合する。エマルションの調製時には、前述の界面活性剤を用いることが好ましい。乳化重合においても、せん断速度を大きくするほど、または攪拌時間を長くするほどモノマーが水中に分散したエマルションの粒子径が小さくなる。すなわち、モノマーのエマルションを調製する際のせん断速度等を最適化することで、本発明のエマルションの粒子径を前述の値とすることができる。
【0022】
3)の自己乳化法は、有機樹脂をウレタン樹脂とする際に好適な方法である。ウレタン樹脂に導入される親水基の例には、水酸基、スルホン酸(塩)基、カルボキシル(塩)基、エーテル基が含まれる。ウレタン樹脂にこれらの親水基を導入するには、これらの親水基を有するポリオールまたはポリイソシアネートを原料とすればよい。例えば、ポリオールとしてエチレングリコールを用いると、分子内にエーテル基を有するウレタン樹脂が得られる。
【0023】
水酸基が導入されたウレタン樹脂はアニオン性、スルホン酸(塩)基やカルボキシル(塩)基等が導入されたウレタン樹脂はカチオン性、エーテル基が導入されたウレタン樹脂は非イオン性である。本発明においては、ウレタン樹脂にスルホン酸(塩)基やカルボキシル(塩)基を導入することが好ましい。得られるエマルションの粒子径が小さくなるからである。
【0024】
本発明においては、上記いずれの方法で得たエマルションを使用してもよいが、後述する理由から、1)または2)の方法で得たエマルションが好ましく、特に、アニオン系の界面活性剤を使用したエマルションが好ましい。
【0025】
本発明のエマルションにおける有機樹脂の含有量は、水100質量部に対して、10〜40質量部が好ましく、20〜30質量部がより好ましい。有機樹脂の含有量が10質量部未満であると、乾燥過程における水の蒸発が著しく多くなり、皮膜の成膜性や緻密性が十分でなくなり、化成処理鋼板の耐食性が低下することがある。また、有機樹脂の含有量が40質量部を超えると、後述する理由から化成処理液の保存安定性が低下することがある。
【0026】
(2) (B)バルブメタル化合物
バルブメタルとは、その酸化物が高い絶縁抵抗を示す金属をいい、バルブメタル元素を含む化合物をバルブメタル化合物という。バルブメタルの例には、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、およびWが含まれる。バルブメタル化合物の例には、これらの金属の塩や有機金属化合物が含まれ、その具体例には以下の化合物が含まれる。
【0027】
nTiF6(Kはアルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、nは1または2である)、K2[TiO(COO)2]、(NH4)2TiF6〔フッ化チタン酸アンモニウム〕、TiCl4、TiOSO4、Ti(SO4)2、Ti(OH)4等のTi化合物。
【0028】
(NH4)2ZrF6、Zr(SO4)2、(NHZrO(CO〔炭酸ジルコニウムアンモニウム〕等のZr化合物。
【0029】
(NHMo24〔モリブデン酸アンモニウム〕、K(MoO)等のMo化合物。
【0030】
その他、NaWO(NHTiF、TiOSOVF、KNbF等の化合物。
【0031】
この中でも入手の容易さ等から、バルブメタル化合物としては、フッ化チタン酸アンモニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、またはモリブデン酸アンモニウムが好ましい。バルブメタル化合物として、上述の化合物を2種以上併用してもよい。
【0032】
バルブメタル化合物の含有量は、有機樹脂100質量部に対し、0.5〜5質量部であり、好ましくは1.0〜2質量部である。前記バルブメタル化合物の含有量が0.5質量部未満であると、鋼板の耐食性が十分でなく、5質量部を超えると、後述する理由から化成処理液の保存安定性が低下する。
【0033】
バルブメタル化合物は、化成処理により化学変化を起こし、鋼板の表面に形成される化成処理皮膜中において、バルブメタル酸化物またはバルブメタル水酸化物(以下「バルブメタル酸化物等」という)を生成する。バルブメタル酸化物等は、電子の移動を妨げるため、化成処理鋼板の下地鋼と、化成処理鋼板が置かれている雰囲気中の水分に含まれている溶存酸素との酸化反応が抑制される。その結果、鋼板の耐食性が向上する。
【0034】
しかしながら、化成処理皮膜には、化成処理や加工において皮膜欠陥部が形成され、その部分を基点にして腐食が生じることがある。そのため本発明においては、化成処理皮膜にバルブメタル化合物の水溶性フッ化物(「バルブメタルフッ化物」ともいう)を含有させることが好ましい。バルブメタルフッ化物は化成処理皮膜に自己修復作用機能を付与する。具体的には、バルブメタルフッ化物は、雰囲気中の水分に溶解し、皮膜欠陥部から露出している下地鋼の表面に難溶性の酸化物または水酸化物となって再析出し、皮膜欠陥部を被覆する。
【0035】
化成処理皮膜にバルブメタルフッ化物を含ませるには、化成処理液にバルブメタルフッ化物を含ませればよい。すなわち、バルブメタル化合物として、KnTiF6や(NH4)2ZrF6等の、バルブメタル元素とフッ素元素を含む化合物を用いることが好ましい。
また、フッ素化合物と前記バルブメタル化合物を含む化成処理液を調製し、化成処理中にフッ素とバルブメタルを反応させて、バルブメタルフッ化物を皮膜中に生成させてもよい。この場合のフッ素化合物の例には、NHFやMF6が含まれる(Mは金属元素)。NHFやMFの含有量は、有機樹脂100質量部に対し0.1〜3.0質量部であることが好ましい。
【0036】
上記の他、本発明の化成処理液は、鋼板との密着性向上に有効なシランカップリング剤、加工性向上に有効な固形潤滑剤、または皮膜密度を向上させて耐食性向上に寄与するシリカゾルなどのゾル成分をさらに含んでいてもよい。
【0037】
(3)保存安定性向上のメカニズム
本発明の化成処理液は保存安定性に優れる。このメカニズムは次のように推察される。
化成処理液中においては、バルブメタル化合物は水に溶解し、電離してバルブメタルイオン(陽イオン)が形成される。するとバルブメタルイオンは有機樹脂エマルションの有機樹脂微粒子と水との界面(以下単に「界面」という)に影響を与え、エマルションの電荷バランスを崩すように作用する。エマルションの電荷バランスが崩れると、化成処理液はゲル化し、保存安定性が損なわれる。
【0038】
エマルションの平均粒子径が比較的大きな場合は、界面の総面積が小さいため、バルブメタルイオンと界面が接触する機会が少なくなり、エマルションの電荷バランスは保たれやすい。しかし、エマルションの平均粒子径が比較的小さくなると、界面の総面積が大きくなり、バルブメタルイオンと界面が接触する機会が多くなり、エマルションの電荷バランスが崩壊しやすい。そこで、エマルションの平均粒子径を特定の範囲にすることにより、化成処理液の保存安定性を向上させることができる。
【0039】
この効果は、界面活性剤によりエマルションが形成されている場合に顕著である。このメカニズムは以下のように推察される。エマルションの平均粒子径を大きくすると、界面の総面積が減少するため界面に存在する界面活性剤の量も減少する。界面に作用しない界面活性剤は、水中にフリーの状態で存在すると考えられる。すると、バルブメタルイオンは、界面に存在する界面活性剤よりもフリーに存在する界面活性剤と反応しやすくなり、界面に存在する界面活性剤は影響されないことになる。
【0040】
バルブメタルイオンはカチオン性であるため、特に、アニオン系の界面活性剤を用いて製造されたエマルションは電荷バランスが崩されやすく、保存安定性が低下しやすい。しかし、エマルションの平均粒子径を特定の範囲にすることで、アニオン系の界面活性剤を用いて製造されたエマルションにおいても、保存安定性が向上する。すなわち、本発明は、アニオン系の界面活性剤を用いて製造されたエマルションにおいて、特に顕著な効果を奏する。
【0041】
また、バルブメタル化合物の含有量が多すぎると、バルブメタルイオンと界面が接触する機会が多くなるため、化成処理液の保存安定性は低くなる。以上から、本発明は、エマルションの平均粒子径を10〜100nmとし、バルブメタル化合物の添加量を有機樹脂100質量部に対し、0.5〜5質量部とすることにより、保存安定性に優れる化成処理液が得られると考えられる。
【0042】
さらに、有機樹脂の含有量が多すぎると、有機樹脂微粒子同士が接触しやすくなるため、化成処理液の保存安定性は低くなる。以上から、エマルション中の有機樹脂の含有量は、水100質量部に対して10〜40質量部であることが好ましい。
【0043】
(4)鋼板
鋼板とは板状の鋼である。鋼板の例には、冷圧延鋼板や、溶融めっき、電気めっき、蒸着めっき処理により製造された亜鉛系めっき鋼板またはアルミニウム系めっき鋼板が含まれる。
【0044】
溶融亜鉛系めっき鋼板の例には、溶融Zn浴、溶融Zn−Al合金浴、溶融Zn−Al−Mg合金浴、溶融Zn−Mg合金浴、溶融Zn−Ni合金浴などを用い、連続めっきまたは浸漬めっきにより得られるものが含まれる。さらに、溶融亜鉛系めっき鋼板には、溶融めっき後に合金化処理した合金化溶融めっき鋼板が含まれる。
【0045】
溶融アルミニウム系めっき鋼板の例には、溶融Al浴、溶融Al−Si合金浴、溶融Al−Zn合金浴などを用い、連続めっきまたは浸漬めっきにより得られるものが含まれる。
【0046】
2.化成処理液の製造方法
本発明の化成処理液は、発明の効果を損なわない範囲で任意に製造されるが、以下、好ましい製造方法を説明する。
本発明の化成処理液は、
(a)水分散性有機樹脂エマルションを準備する工程と、
(b)前記水分散性有機樹脂エマルションに、バルブメタル化合物を混合する工程と、を含み製造されることが好ましい。
【0047】
(1) (a)の工程
本工程では、水分散性有機樹脂エマルションを準備する。準備する手段は特に限定されないが、既に述べたとおりの方法で水分散性有機樹脂エマルションを準備することが好ましい。または、市販品を購入して水分散性有機樹脂エマルションを準備してもよい。
(2) (b)の工程
本工程では、前工程で準備した水分散性有機樹脂エマルションに、バルブメタル化合物を混合する。両者を混合する手段は特に限定されないが、攪拌機や三本ロールを用いて両者を混合することが好ましい。混合する温度も特に限定されないが、室温で混合することが好ましい。
【0048】
3.化成処理方法
本発明の化成処理液は、鋼板の化成処理に用いられる。化成処理は公知の方法で行ってよいが、以下に好ましい化成処理方法を説明する。
本発明の化成処理液を用いた化成処理は、
(c)めっき鋼板を準備する工程と、
(d)前記めっき鋼板に、本発明の化成処理液を塗布し、加熱する工程と、を含み実施されることが好ましい。
【0049】
(1) (c)の工程
本工程ではめっき鋼板を準備する。準備する手段は特に限定されないが、既に述べたとおりの方法で準備することが好ましい。または、市販品を購入してめっき鋼板を準備してもよい。
【0050】
(2) (d)の工程
本工程では、前工程で準備しためっき鋼板に、本発明の化成処理液を塗布し、乾燥する。塗布する工程を塗布工程、乾燥する工程を乾燥工程ともいう。
化成処理液は既に述べた方法で調製される。調製された処理液は、ロールコート法、スピンコート法、スプレー法などでめっき鋼板のめっき層の上に塗布される。塗布後、水洗することなく塗布膜を乾燥して、めっき層の上に化成処理皮膜を形成する。
【0051】
本発明においては、処理液を塗布して得た膜を「塗布膜」、塗布膜を乾燥したものを「化成処理皮膜」という。塗布膜の乾燥温度は特に限定されないが、バルブメタル化合物の反応を促進させるため、好ましくは100℃以上、より好ましくは120〜200℃である。過度に高温で乾燥すると有機樹脂が分解して化成処理皮膜の性能が低下するため、乾燥温度の上限は200℃が好ましい。
【0052】
化成処理皮膜の厚みは、0.1〜5μmであることが好ましい。化成処理皮膜の厚みがこの範囲であると、上記の性能とコストのバランスに優れる。化成処理皮膜の厚みの効果は、5μm程度で飽和するため、5μmを超えてもこれ以上の厚み増加に伴う性能向上が期待できない。
【実施例】
【0053】
[実施例1〜16]
1)鋼板の準備
溶融Zn−6質量%Al−3質量%Mg系合金めっき浴を用いてめっきを施した、Zn系めっき鋼板(以下「めっき鋼板A」ともいう)を準備した。
溶融Zn−55質量%Al系合金めっき浴を用いてめっきを施した、Al系めっき鋼板(以下「めっき鋼板B」ともいう)を準備した。
【0054】
2)化成処理液の調製
ポリウレタン樹脂、アニオン系界面活性剤、水を含み、エマルションの平均粒子径が10、23、25、100nmである水分散性ウレタン樹脂エマルションを準備した。エマルションの平均粒子径は、水分散性ウレタン樹脂エマルション10gを純水90gと混合したものを試料として、動的光散乱式の測定器(大塚電子(株)製、ELS−8000)により測定した。水分散性ウレタン樹脂エマルションの有機樹脂の含有量は、水100質量部に対し、30質量部であった。
【0055】
このようにして調製したウレタン樹脂エマルションに、バルブメタル化合物として、炭酸ジルコニウムアンモニウム(「Zrソース」ともいう)、フッ化チタン酸アンモニウム(「Tiソース」ともいう)、またはモリブデン酸アンモニウム(「Moソース」ともいう)を、それぞれ表1に示す配合で混合し、各種化成処理液を調製した。
【0056】
アクリル樹脂、アニオン系界面活性剤、水を含む水分散性アクリル樹脂エマルションであって、エマルションの平均粒子径が、20、22nmである水分散性アクリル樹脂エマルションを準備した。エマルションの平均粒子径は前述の通りに測定した。水分散性アクリル樹脂エマルションのアクリル樹脂の含有量は、水100質量部に対し、30質量部であった。
【0057】
このようにして調製したアクリル樹脂エマルションに、バルブメタル化合物として、炭酸ジルコニウムアンモニウム、またはモリブデン酸アンモニウムを、それぞれ表1に示す配合で混合し、各種化成処理液を調製した。
【0058】
3)化成処理液の保存安定性
前記のように調製した化成処理液を、液温40℃の状態で30日間保管した。保管前と後とでの化成処理液の粘度を、フォードカップNo.4を用い、JIS K−5402に準拠して測定した。具体的には、容器から処理液が流下するまでの時間を測定し、粘度の指標とした。その時間の変化量(保管後の処理液の前記時間から保管前の処理液の前記時間を差し引いた値)を求め、保存安定性を評価した。
具体的には、時間の変化量が3s未満の化成処理液は◎、3s以上10s未満の化成処理液は○、10s以上30s未満の化成処理液は△、30s以上の化成処理液は×と評価した。
【0059】
4)化成処理鋼板の調製
前記の通りに調製した化成処理液を、めっき鋼板AまたはBにロールコーターにて直接塗布した。続いて、鋼板を、板温150℃で乾燥し、膜厚1.0μmの化成処理皮膜が形成された化成処理鋼板を得た。
【0060】
5)耐食性
このようにして得た化成処理鋼板から、試験片(150mm×70mm)を切り出し、端面にシールを施した。当該試験片を用いて、JIS Z237に準拠して塩水噴霧試験(試験時間を240h)を行った。試験後のサンプル平坦部に発生した白錆発生面積率により、耐食性を評価した。
具体的には、白錆発生面積率が5%未満の場合は◎、5%以上10%未満の場合は○、10%以上20%未満の場合は△、20%以上の場合は×と評価した。
【0061】
(3)耐カジリ性
化成処理鋼板から試験片(30mm×250mm)を切り出し、ドロービード試験(金型;ビード高さ4mm、加圧力;3000N、引き抜き速度8.3×10−2m/秒)を実施した。試験後の化成処理鋼板を観察し、金型摺動部の化成処理皮膜の残存率により、耐カジリ性を評価した。
具体的には、化成処理皮膜の残存率が80%以上の場合は◎、60%以上80%未満の場合は○、40%以上60%未満の場合は△、40%未満の場合は×として評価した。
これらの結果を表1に示す。
【0062】
[比較例1〜8]
実施例と同様にして、炭酸ジルコニウムを有機樹脂100質量部に対して1質量部含む水分散性ウレタン樹脂エマルションであって、エマルションの平均粒子径が5nmと120nmのものをそれぞれ準備した。
また、実施例と同様にして、エマルションの平均粒子径が25nmの水分散性ウレタン樹脂エマルションであって、有機樹脂100質量部に対して0.05質量部と6質量部の炭酸ジルコニウムを含むものをそれぞれ準備した。
【0063】
このようにして得た化成処理液を用い、実施例と同様にして化成処理鋼板を調製し、評価した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例および比較例から、本発明の化成処理液は保存安定性に優れることが明らかである。また、本発明の化成処理液で処理された化成処理鋼板は、耐食性、耐カジリ性に優れることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の化成処理液は、保存安定性に優れ、かつ耐食性等に優れた化成処理鋼板を与えるため、建材、自動車、家電等の鋼板の化成処理に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼板を準備する工程と、
前記めっき鋼板に、水分散性有機樹脂エマルションおよびバルブメタル化合物を含む化成処理液を塗布し、120〜200℃で乾燥させる工程と、
を含み、
前記水分散性有機樹脂エマルション中の有機樹脂の平均粒子径は、10〜100nmであり、
前記バルブメタル化合物は、炭酸ジルコニウムアンモニウム、フッ化チタン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウムまたはこれらの組み合わせであり、
前記化成処理液中の前記バルブメタル化合物の含有量は、前記有機樹脂100質量部に対し、0.5〜5質量部である、
化成処理鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−233264(P2012−233264A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−168181(P2012−168181)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2007−334990(P2007−334990)の分割
【原出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】