説明

化粧シート及びこれを用いた化粧板

【課題】優れた耐候性と加工性とを有する化粧シート及びこれを用いた化粧板を提供すること。
【解決手段】基材、柄印刷層及び表面保護層からなり、該表面保護層が伸び率25%以上のカプロラクトン系ウレタンアクリレート、トリアジン系紫外線吸収剤、及び反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤を含むコーティング剤組成物を架橋硬化してなるものである化粧シート及びこれを用いた化粧板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及びこれを用いた化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般住居の玄関ドアや外装材、公共施設の床材や外壁などの内外装、あるいは建造物や屋外に設置される構造物は、日々直射日光や風雨に晒されるため、これらの内外装材や建造物の表面保護などに用いられるシートには、極めて厳しい耐候性が求められている。耐候性を向上させるため、種々のシートが検討されている(特許文献1〜3参照)。いずれも保護層に光安定剤や紫外線吸収剤などの添加剤を含有させることで、耐候性の向上を図っている。しかし、該保護層中の添加剤の含有量を向上させた場合、保護層を形成するバインダー樹脂との相溶性などに起因して、これらの添加剤がブリードアウトし、ベタ付きの原因となっていた。一方、ブリードアウトしない程度の添加剤の含有量では、これらの添加剤の十分な性能を得られず、耐候性の点で満足のいくものが得られないといった問題もあった。
【0003】
他方、上記したような玄関ドアや外装材などは、化粧シートを金属板に貼り合わせてプレス成形により作製され、意匠性あるいは環境性に優れるプロピレン系樹脂を主材料とした化粧シートが用いられるのが一般的である。しかし、化粧シートがプレス成形により曲げ加工されると、該化粧シートの折り曲げ部分の負荷が非常に大きいため、表面の意匠の割れや白化が発生する場合があり、その傾向はプロピレン系樹脂を主材料とした化粧シートに顕著であった。
【0004】
このような課題を解決するために、非ポリ塩化系材料の基材上に、ポリプロピレン樹脂を主体樹脂として構成され、所定の物性を有する透明ポリオレフィン樹脂層を有する化粧シートも提案されている(特許文献4参照)。しかし、この化粧シートでは、耐候性の点で十分ではなく、また割れや白化といった成形性についても、より厳しい条件下ではさらなる改良の余地があった。特に、特許文献4に開示されるシートは、実施例や図1に示されるように、透明ポリオレフィン樹脂層(以下、該樹脂層と同様の機能を有する樹脂層を透明樹脂層と称することがある。)と表面保護層とを有する、いわゆる複層の構成を有するため、厳しい環境下においては層間の密着強度が低下したり、割れや白化といった成形性において改良を要する場合があった。一方、透明樹脂層を有しないいわゆる単層の構成を有するシートの場合、成形性に優れるものの、耐候性を付与する剤を添加しうる樹脂層を有しないため、耐候性の点で改良を要する場合があった。
【0005】
ところで、上記したような内外装材や建造物は、空気中の埃や粉塵、油分といった汚染物が付着しやすく、該汚染物が付着した状態で風雨に晒されると、汚染物が雨筋に沿って線状に残ってしまうため、その外観が著しく低下するという問題がある。そこで、これらの内外装材や建造物の表面に用いられるシートには、防汚性も求められている。防汚性の向上には、通常シリコーンやフッ素の配合のほか、シリカなどの添加剤を用いることで保護層の親水性を向上させるという手法がとられる。しかし、十分な防汚性を確保するには、多量の添加剤を用いる必要があること、そのため該保護層から添加剤が脱落したり、擦過傷により親水性が低下するといった問題があった。また、特許文献5には、添加剤としてオルガノシリケート化合物を採用することが記載されている。しかし、この場合も、上記したような多量の添加剤を要すること、添加剤の脱落、擦過傷による親水性の低下などの問題を解決するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−245442号公報
【特許文献2】特開2009―66966号公報
【特許文献3】特開2009−184147号公報
【特許文献4】特開2009−292079号公報
【特許文献5】特許第2869443号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような課題に対して、透明樹脂層を有しない、いわゆる単層の構成を有するシートであって、優れた耐候性と加工性とを有する化粧シート及びこれを用いた化粧板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
1.基材、柄印刷層及び表面保護層からなり、該表面保護層が伸び率25%以上のカプロラクトン系ウレタンアクリレート、トリアジン系紫外線吸収剤、及び反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤を含むコーティング剤組成物を架橋硬化してなるものである化粧シート。
2.カプロラクトン系ウレタンアクリレートが、カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートである上記1に記載の化粧シート。
3.カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートが、ポリカプロラクトン系ポリオールと有機ポリイソシアネートとヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応で合成して得られ、該カプロラクトン系ポリオールがポリカプロラクトン及びジエチレングリコールであり、該有機ポリイソシアネートがイソホロンジイソシアネートであり、ヒドロキシ(メタ)アクリレートが2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレーである上記2に記載の化粧シート。
4.カプロラクトン系ウレタンアクリレートの数平均分子量(GPC法で測定したポリスチレン換算の数平均分子量)が、1000〜10000である上記1〜3のいずれかに記載の化粧シート。
5、反応性官能基Aが、エチレン性二重結合を有する官能基である上記1〜4のいずれかに記載の化粧シート。
6.エチレン性二重結合を有する官能基が、(メタ)アクリロイル基である上記5に記載の化粧シート。
7.コーティング剤組成物が、さらに反応性官能基Bを有するシリケート化合物を含むものである上記1〜6のいずれかに記載の化粧シート。
8.反応性官能基Bが、エチレン性二重結合を有する官能基、又は水酸基である上記7に記載の化粧シート。
9.反応性官能基Bが、(メタ)アクリロイル基である上記8に記載の化粧シート。
10.上記1〜9のいずれかに記載の化粧シートの表面保護層が最表面層となるように、当該化粧シートが被着材に積層されてなる化粧板。
11.被着材が、鋼板である上記10に記載の化粧板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた耐候性と加工性とを有する化粧シート及びこれを用いた化粧板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の化粧シートの断面を示す模式図である。
【図2】本発明の化粧シートの断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[化粧シート]
本発明の化粧シートは、基材、柄印刷層及び表面保護層からなり、該表面保護層が伸び率25%以上のカプロラクトン系ウレタンアクリレート、トリアジン系紫外線吸収剤、及び反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤を含むコーティング剤組成物を架橋硬化してなるものである。
【0013】
図1及び2は、本発明の化粧シートの好ましい態様の一例の断面を示す模式図である。図1に示す態様は、基材2上に柄印刷層3、接着層7、プライマー層4及び表面保護層5が順に積層されたものである。また、図2に示す態様は、基材2上に柄印刷層3、接着層7、プライマー層4及び表面保護層5がこの順に積層されたものであり、基材2の裏面に裏面プライマー層6が設けられている。さらに、図2に示す態様では、表面保護層5からプライマー層4にかけて凹凸模様が施されている。以下、各層について詳細に説明する。
【0014】
《基材2》
本発明で用いられる基材2は、通常化粧シート用として用いられるものであれば、特に限定されず、各種の紙類、各種繊維の織布や不織布、プラスチックフィルム、プラスチックシート、金属箔、金属シート、金属板、木材などの木質系の板、窯業系素材などを用途に応じて適宜選択することができる。これらの材料はそれぞれ単独で使用してもよいが、紙同士の複合体や紙とプラスチックフィルムの複合体など、任意の組み合わせによる積層体であってもよい。これらのうち、加工性などを考慮すると、プラスチックフィルム、プラスチックシートが好ましく、なかでもポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーなどのポリオレフィン系樹脂の基材が好ましく、加工性を考慮するとポリプロピレン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0015】
ポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン樹脂及びポリプロピレン結晶部を有し、かつプロピレン以外の炭素素2〜20のα−オレフィン共重合体なども好ましい。その他、エチレン、1−ブテン,4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、又は1−オクテンのコモノマーを15モル%以上含むプロピレン−α−オレフィン共重合体なども好ましく挙げられる。
また、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントにアイソタクチックポリプロピレン、ソフトセグメントにアタクチックポリプロピレンを質量比80:20で混合したものが好ましい。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂の基材は、例えばカレンダー法、インフレーション法、Tダイ押出法などにより得ることができる。
基材2の厚さについては特に制限はないが、加工性、柔軟性、強度などの観点から、50〜150μmの範囲であることが好ましく、50〜120μmの範囲であることがさらに好ましい。
【0017】
また、基材2は、物理的または化学的表面処理を施したり、プライマー層を設けることもできる。さらに、顔料や染料を用いて着色することもできる。基材シートの着色態様には、透明着色と不透明着床(隠蔽着色)とがあり、これらはその用途によって任意で選択しうる。
【0018】
《柄印刷層3》
図1に示される柄印刷層3は、本発明の化粧シートに装飾性を付与するものであり、好ましくは絵柄層3a及び着色層3bからなる層である。なお、後に詳述するように、基材2の色彩などをそのまま利用し、隠蔽する必要がないような場合には、絵柄層3aのみを施してもよいし、一方、柄を必要としない場合には、着色層3bのみを施してもよい。
柄印刷層の形成は、通常はインキを用い、グラビア印刷、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビアオフセット印刷、インキジェットプリントなどの公知の印刷法などで形成できる。
【0019】
絵柄層3aは基材2に装飾性を与えるものであり、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される。模様としては、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)などの岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様などがあり、これらを複合した寄木、パッチワークなどの模様もある。これらの模様は通常の黄色、赤色、青色、および黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷などによっても形成される。
【0020】
絵柄層3aに用いる絵柄インキとしては、バインダーに顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを適宜混合したものが使用される。
バインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂などの公知のバインダーの中から、要求される物性、印刷適性などに応じて適宜選択すれば良い。例えば、セルロース系樹脂、アクリル樹脂のほか、ウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などの単体又はこれらを含む混合物を用いることができる。
これらの樹脂は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
着色剤としては、無機顔料、有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮などの鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛などの鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料などが用いられる。
【0022】
溶剤(又は分散媒)としては、例えば、石油系有機溶剤、エステル系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、塩素系有機溶剤、水などの無機溶剤などが挙げられる。これらの溶剤(又は分散媒)は、1種単独又は2種以上を混合して使用できる。
【0023】
さらに、絵柄インキには架橋剤を添加してもよい。架橋剤としては、イソシアネート基含有化合物、エポキシ基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、シラノール基含有化合物などが挙げられるが、イソシアネート基含有化合物が好ましい。
【0024】
着色層3bは、通常基材2を全面にわたって被覆する一様均一な層であり、本発明の化粧シートの意匠性を高める目的で所望により設けられる層である。隠蔽層、あるいは全面ベタ層とも称されるものであって、基材2の表面に意図した色彩を与えるものである。通常不透明色で形成することが多いが、着色透明色で形成し、下地が持っている模様を活かす場合もある。また、基材2が白色であることを活かす場合や、基材2自身が適切に着色されている場合には着色層3bの形成を行う必要はない。
着色層3bに用いるインキとしては、絵柄層3aで用いたのと同様のものを用いることができる。
【0025】
《表面保護層5》
表面保護層5は、伸び率が25%以上のカプロラクトン系ウレタンアクリレート、トリアジン系紫外線吸収剤、及び反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤を含むコーティング剤組成物を架橋硬化してなる層である。より具体的には、該コーティング剤組成物を塗工し、電離放射線などを照射することにより架橋硬化させて形成する層である。
【0026】
(伸び率が25%以上のカプロラクトン系ウレタンアクリレート)
コーティング剤組成物に含まれる伸び率が25%以上のカプロラクトン系ウレタンアクリレートは、電離放射線硬化性を有する樹脂であり、通常カプロラクトン系ポリオールと有機イソシアネートとヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応により得ることができるものである。
【0027】
ここで、カプロラクトン系ポリオールとしては、市販されるものを使用することができ、好ましくは2個の水酸基を有し、数平均分子量が好ましくは500〜3000、より好ましくは750〜2000のものが挙げられる。また、カプロラクトン系以外のポリオール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのポリオールを1種又は複数種を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0028】
有機ポリイソシアネートとしては、2個のイソシアネート基を有するジイソシアネートが好ましく、黄変を抑制する観点から、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどが好ましく挙げられる。また、ヒドロキシ(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが好ましく挙げられる。
【0029】
カプロラクトン系ウレタンアクリレートは、これらのポリカプロラクトン系ポリオールと有機ポリイソシアネートとヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応で合成することができる。合成法としては、ポリカプロラクトン系ポリオールと有機ポリイソシアネートとを反応させて、両末端に−NCO基(イソシアナート基)を含有するポリウレタンプレポリマーを生成させた後に、ヒドロキシ(メタ)アクリレートと反応させる方法が好ましい。反応の条件などは常法に従えばよい。
【0030】
本発明において、カプロラクトン系ウレタンアクリレートは、カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートであることが好ましい。カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートとは、カプロラクトン系ウレタンアクリレートのうち、末端がジエチレングリコールとなっているウレタンアクリレートのことである。カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートを用いることで、特に割れや白化が生じることがない加工性に優れる化粧シートが得られる。
【0031】
カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートとしては、カプロラクトン系ポリオールとしてポリカプロラクトンとジエチレングリコールとを併用し、有機ポリイソシアネートとしてイソホロンジイソシアネート、ヒドロキシ(メタ)アクリレートとして2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレーを用いて得られるものが特に好ましい。
【0032】
本発明で用いられるカプロラクトン系ウレタンアクリレートの伸び率は、25%以上であることを要し、好ましくは30%以上である。上限は特に規定されないが、好ましくは100%以下である。伸び率が25%未満になると、折り曲げ加工時に割れや白化が起こる。同様の観点から、ここで、伸び率は以下のようにして得られる値である。
本発明で用いられるカプロラクトン系ウレタンアクリレートを含むコーティング剤組成物を、ガラス板にアプリケーターを用い膜厚が150μmとなるように塗装し、60℃に加熱した熱風乾燥機内で約10分間乾燥し有機溶剤を揮発させた後、酸素濃度200ppmの環境化において、加速電圧175KeV、5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して、厚さ約60μmの硬化フィルムを得る。得られた硬化フィルムをガラス板から剥がし、JIS K7113に準拠して、伸び率を算出する。具体的には、硬化フィルムを長さ12mm、幅25mmの短冊形に切り出し、テストスパンを80mmとし、テンシロン万能試験機(「RTC−1250A(型番)」,株式会社エー・アンド・デイ製)で、引っ張り速度50mm/分の速度で硬化フィルムが破断するまで引っ張り、破断時の伸び(mm)から下記の計算式により算出した値が伸び率(%)である。
伸び率(%)=[破断時の伸び(mm)/テストスパン(mm)]×100
【0033】
本発明で用いられるカプロラクトン系ウレタンアクリレートは、その数平均分子量(GPC法で測定したポリスチレン換算の数平均分子量)が、1000〜10000であることが好ましく、2000〜10000がより好ましい。すなわち、カプロラクトン系ウレタンアクリレートはオリゴマーであることが好ましい。数平均分子量が上記範囲内(オリゴマー)であれば、加工性に優れ、コーティング剤組成物が適度なチキソ性が得られるので、表面保護層の形成が容易となる。
【0034】
(トリアジン系紫外線吸収剤)
コーティング剤組成物に含まれるトリアジン系紫外線吸収剤としては、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤が好ましい。ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2'−エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンなどが好ましく挙げられ、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0035】
トリアジン系紫外線吸収剤の含有量は、カプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましく、5〜10質量部がさらに好ましい。トリアジン系紫外線吸収剤の含有量が上記範囲内であれば、該吸収剤がブリードアウトすることなく、また十分な紫外線吸収能が得られるので、優れた耐候性が得られる。これまで一般的には、バインダー樹脂100質量部に対して紫外線吸収剤を1質量部以上加えると、該吸収剤がブリードアウトする場合があるため、より優れた紫外線吸収能を得ようとしても得られなかった。しかし、本発明によって、トリアジン系紫外線吸収剤とカプロラクトン系ウレタンアクリレート及び所定の光安定剤との組合せにより、1質量部以上という多量の紫外線吸収剤を添加しても、該吸収剤がブリードアウトすることなく、優れた耐候性を得ることが可能となった。
【0036】
(反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤)
コーティング剤組成物に含まれるヒンダードアミン系光安定剤において、反応性官能基Aは、カプロラクトン系ウレタンアクリレートと反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性二重結合を有する官能基などが好ましく挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。なかでも(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0037】
このような光安定剤としては、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン)などが挙げられる。
【0038】
反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、カプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して、1〜10質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましく、5〜10質量部がさらに好ましい。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量が上記範囲内であれば、該光安定剤がブリードアウトすることなく、また十分な光安定性が得られるので、優れた耐候性が得られる。
【0039】
(反応性官能基Bを有するシリケート化合物)
本発明で用いられるコーティング剤組成物は、該組成物の被塗物に自浄性を付与するために、所望によりシリケート化合物を含有することができる。該シリケート化合物は、カプロラクトン系ウレタンアクリレートと反応性を有する反応性官能基Bを有するシリケート化合物であれば特に制限はない。反応性官能基Bとしては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基などのエチレン性二重結合を有する官能基などが好ましく挙げられ、これらから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。なかでも(メタ)アクリロイル基が好ましい。
反応性官能基Bを有するシリケート化合物は、好ましくは下記一般式(1)で示される化合物である。
【0040】
【化1】

【0041】
式(1)中、R1〜R3は、水素原子、又は炭素数1〜10の有機基を示し、複数のR1及びR2は、同じでも異なっていてもよい。また、R4は反応性官能基Bを含む官能基である。
炭素数1〜10の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリル基、アラルキル基などが好ましく挙げられる。これらの基は置換されていても置換されていなくてもよく、また、アルキル基及びアルケニル基は直鎖状であっても、枝分かれ状であってもよい。これらのうち、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。
また、n1は1〜30が好ましく、1〜10がより好ましい。
【0042】
より具体的には、下記一般式(2)で示される化合物が好ましい。
【0043】
【化2】

【0044】
式(2)中、R5〜R7は各々R1〜R3と同じである。R11はR1と同様であり、特に好ましくは水素原子又はメチル基である。また、R8及びR10は単結合又は2価の有機基を示す。また、R9は、単結合、カルボニル基(−CO−)、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−COO−)、チオエーテル結合(−S−)、アミド結合(−CONH−)、イミノ結合(−NH−)、カーボネート結合(−OCOO−)、及びこれらが複数個連結した基を示す。2価の有機基としては、アルカンジイル基、アルケンジイル基、アリーレン基、アリーレンアルカンジイル基などが好ましく挙げられる。これらの基は置換されていても置換されていなくてもよく、また、アルカンジイル基及びアルケンジイル基は直鎖状であっても、枝分かれ状であってもよい。これらのうち、炭素数1〜4のアルカンジイル基がより好ましい。R9としては、エステル結合(−COO−)がより好ましい。
また、n2は1〜30が好ましく、1〜10がより好ましい。
【0045】
反応性官能基Bを有するシリケート化合物の含有量は、カプロラクトン系ウレタンアクリレート100質量部に対して、1〜15質量部が好ましく、3〜15質量部がより好ましく、5〜15質量部がさらに好ましい。シリケート化合物の含有量が上記範囲内であれば、カプロラクトン系ウレタンアクリレートの良好な架橋状態が得られる。また、本発明の化粧シートの表面保護層6は、適度な親水性を有することになるため、本発明の化粧シートは水の濡れ性が高まり、優れた自浄性を有することができる。すなわち、内外装材や建造物は、風雨に晒されるが、表面保護層が親水性を有することで雨水が該表面保護層上に薄膜を形成しやすくなるため、汚染物自体の付着が抑制され、あるいは付着した汚染物が除去されやすくなる。
【0046】
(各種添加剤)
本発明で用いられるコーティング剤組成物は、その性能を阻害しない範囲で各種添加剤を含有することができる。各種添加剤としては、例えば重合禁止剤、架橋剤、帯電防止剤、接着性向上剤、酸化防止剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤などが挙げられる。
【0047】
(表面保護層5の形成)
本発明の化粧シートの表面保護層5の形成は、以下のようにして行われる。
コーティング剤組成物の塗工は、硬化後の厚さが通常1〜20μm程度となるように、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコートなどの公知の方式、好ましくはグラビアコートにより行う。また、優れた耐候性とその持続性、さらには透明性と防汚性とを得る観点から、好ましくは2〜20μmである。
【0048】
上記コーティング剤組成物の塗工により形成した未硬化樹脂層は、電子線、紫外線などの電離放射線を照射して架橋硬化することで、表面保護層5となる。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70〜300kV程度で未硬化樹脂層を硬化させることが好ましい。
【0049】
照射線量は、カプロラクトン系ウレタンアクリレートの架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。
電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
また、電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含むものを放射する。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。
【0050】
また、表面保護層5は、図2に示すように凹凸模様を有するような態様としてもよいし、均一で凹凸を有しないような態様であってもよい。意匠性の向上の観点からは、凹凸を有するような態様であることが好ましい。この場合の凹凸模様を形成する方法としては、エンボス加工など、透明樹脂層4に凹部を設けるのと同様の方法を用いることができる。
【0051】
《プライマー層4》
本発明の化粧シートにおいて、柄印刷層3と表面保護層5との間にプライマー層4が積層されることが好ましい。
プライマー層4は、ポリカーボネート系ウレタンアクリレートやポリエステル系ウレタンアクリレート、あるいはポリカーボネート系ウレタンアクリレートとアクリルポリオールとからなる樹脂を用いて形成することが好ましい。これらの樹脂を用いることで、極めて高い耐候性を本発明の化粧シートに付与することができる。
【0052】
ポリカーボネート系ウレタンアクリレートは、ポリカーボネートジオールとジイソシアネートとを反応させて得られるポリカーボネート系ポリウレタン高分子を、ラジカル重合開始剤として使用し、アクリルモノマーをラジカル重合させて得られる樹脂である。
ここで、ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族系イソシアネートや、イソホロンジイソシアネート、水素転化キシリレンジイソシアネートなどの脂環式系イソシアネートが好ましく挙げられる。アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸やアルキル基の炭素数が1〜6程度の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
ポリカーボネート系ウレタンアクリレートのアクリル成分とウレタン成分との質量比は、特に制限されないが、耐候性、耐溶剤性の点で、ウレタン成分:アクリル成分の質量比を80:20〜20:80の範囲とすることが好ましく、70:30〜30:70の範囲とすることがより好ましい。なお、アクリル及びウレタン成分の含有量が上記の範囲内であると過度に硬い塗膜となることがなく、十分な加工適性が得られ、折り曲げ加工時に樹脂表面上に白い筋(白化)が生じるといった問題が生じない。
【0054】
ポリエステル系ウレタンアクリレートは、ポリエステルジオールとジイソシアネートとを反応させて得られるポリエステル系ポリウレタン高分子をラジカル重合開始剤として使用し、アクリルモノマーをラジカル重合させて得られる樹脂である。ジイソシアネートやアクリルモノマーは、上記したポリカーボネート系ウレタンアクリレートの重合に用いるものから適宜選択されるものである。
また、アクリルポリオールは、上記したアクリルモノマーにヒドロキシル基が導入されたものである。例えば、上記アクリルモノマーに、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等のヒドロキシアクリレートを共重合させて合成することができる。これらのアクリルポリオールは、架橋剤としての機能を果たす。
【0055】
前記ポリカーボネート系ウレタンアクリレートとアクリルポリオールとの質量比は、ポリカーボネート系ウレタンアクリレート単独の100:0から10:90の範囲が好ましく、より好ましくは100:0〜30:70の範囲である。この範囲であると、十分な耐候性が得られる。なお、アクリルポリオールのみであると耐候性が低下するだけでなく、これがイソシアネートと反応を起こすため、経時で電離放射線硬化性樹脂との密着性が変化し、安定した性能が発現しない場合がある。
【0056】
上記プライマー層4には、耐候性をさらに向上させるため、紫外線吸収剤(UVA)や光安定剤(HALS)などの耐候性改善剤を含有させることが好ましい。
紫外線吸収剤としては、無機系、有機系のいずれでもよく、無機系紫外線吸収剤としては、平均粒径が5〜120nm程度の酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛などを好ましく用いることができる。また、有機系紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系、トリアジン系、ベンゾフェノン系、サリチレート系、アクリロニトリル系などが好ましく挙げることができる。なかでも、紫外線吸収能が高く、また紫外線などの高エネルギーに対しても劣化しにくいトリアジン系がより好ましい。
【0057】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系(HALS)などが好ましく挙げられる。
また、紫外線吸収剤や光安定剤として、分子内に(メタ)アクリロイル基などの重合性基を有する反応性の紫外線吸収剤や光安定剤を用いることもできる。
【0058】
紫外線吸収剤の含有量は、プライマー層4を形成する樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1〜25質量部、より好ましくは1〜25質量部、さらに好ましくは3〜20質量部であり、特に好ましくは5〜20質量部である。また、光安定剤の含有量は、プライマー層5を形成する樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05〜7質量部、より好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは1〜5質量部であり、特に好ましくは2〜5質量部である。
【0059】
プライマー層4の厚さについては、本発明の効果を奏する範囲で特に限定されないが、十分な耐候性を得るとの観点から、0.5〜10μmの範囲が好ましく、さらには1〜5μmの範囲が好ましい。
【0060】
プライマー層4の形成は、上記樹脂組成物をそのままで又は溶媒に溶解若しくは分散させた状態で用い、公知の印刷方法、塗布方法などによって行うことができる。また、プライマー層4は、図2に示すように凹凸模様を有するような態様としてもよいし、均一で凹凸模様を有しないような態様であってもよい。意匠性の向上の観点からは、凹凸模様を有するような態様であることが好ましい。
【0061】
《接着層7》
接着剤層7は、柄印刷層3による凹凸をならし、基材2と表面保護層5との接着性を向上させるために、所望により設けられる層であり、透明の樹脂からなる層である。
接着剤層7の形成に用いられるインキとしては、バインダーに必要に応じて、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、紫外線吸収剤、光安定剤及び硬化剤などを適宜混合したものが使用される。該バインダーとしては特に制限はないが、アクリル/ポリウレタン系共重合体が、柔軟性、強靭性及び弾性を兼ね備えており好ましい。なお、環境を考慮した場合には、塩素を含有する樹脂系は使用しないことが好ましい。
【0062】
また、接着剤層7の塗布量は、2〜25g/m2の範囲であることが好ましい。2g/m2以上であれば、基材2と表面保護層5との十分な接着性が得られ、25g/m2以下であると経済的に好ましい。以上の点から、該インキの塗布量は、基材2の種類にもよるが、通常、3〜20g/m2の範囲がさらに好ましい。
また、接着剤層7の厚さとしては、通常2〜25μmの範囲であり、3〜20μmの範囲が好ましい。
【0063】
[化粧板]
本発明の化粧板は、本発明の化粧シートの表面保護層が最表面層となるように、該シートが被着材に積層されてなるものである。
本発明の化粧シートが適用される被着材は、特に制限されるものではなく、公知の化粧板に用いられるものと同様のものを用いることができる。例えば、木質材、金属、セラミックス、プラスチックス、ガラスなどが挙げられ、なかでも鋼板などの金属材料、木質材が好ましく挙げられる。鋼板としては、具体的には、溶融亜鉛メッキ鋼板などが挙げられ、木質材としては、具体的には、杉、檜、欅、松、ラワン、チーク、メラピーなどの各種素材から作られた突板、木材単板、木材合板、パティクルボード、中密度繊維板(MDF)などが挙げられる。
【0064】
本発明の化粧シートの各種被着材への積層方法としては特に限定されるものではなく、例えば接着剤によりシートを被着材に貼着する方法などを採用することができる。接着剤は、被着材の種類などに応じて公知の接着剤から適宜選択すれば良い。例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマーなどのほか、ブタジエン−アクリルニトリルゴム、ネオプレンゴム、天然ゴムなどが挙げられる。
なお、接着剤で本発明の化粧シートを各種被着材に接着するに際し、裏面プライマー層6を設けることが接着性を高めることができるので好ましい。
【0065】
このようにして製造された化粧板は、例えば、壁、天井、床などの建築物の内装材、窓枠、扉、手すりなどの建具の表面化粧板、家具又は弱電、OA機器などのキャビネットの表面化粧板、玄関ドアなどの外装材として好ましく用いることができる。特に、本発明の化粧板は耐候性に優れ、加工適性が高いため、鋼板などに貼付され、玄関などの外装材として用いることが好適である。
【実施例】
【0066】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)耐候性の評価(耐候性試験)
実施例及び比較例で得られた化粧シートを、ダイプラ・ウィンテス株式会社製メタルウェザーにセットし、ライト条件(照度:60mW/cm2、ブラックパネル温度63℃、層内湿度50%RH)で20時間、結露条件(照度:0mW/cm2、ブラックパネル温度30℃、層内湿度98%RH)で4時間、水噴霧条件(結露条件の前後10秒間)の条件で800時間放置する耐候性試験を行った。該試験後、25℃50%RHの条件下で2日間保持してから、シート表面にクラックや白化などの外観を下記の基準で評価した。
◎ :外観変化は全くなかった
○ :外観変化はほとんどなかった
△ :外観変化は若干あるが、実用上問題なかった
× :外観変化が著しかった
【0067】
(2)加工性
実施例及び比較例で得られた化粧シートを、鋼板に貼付して、90度の折り曲げ加工を行い、その際に割れや白化が生じないかを目視して、下記の基準で評価した。
○ :割れや白化はほとんど確認されなかった
△ :割れや白化が確認された
× :割れや白化が著しかった
【0068】
(3)耐溶剤性の評価
各実施例及び比較例で得られた化粧シートの表面を、酢酸エチルを染み込ませたガーゼを輪ゴムで取り付けた300g/cm2の錘で横方向に50往復し、シートの表面を目視して、下記の基準で評価した。
○ :シート表面の変化は全くみられなかった
△ :シート表面の変化が若干みられたが、実用上問題なかった
× :シート表面の変化が著しかった
【0069】
(4)べたつき(ブリードアウトの評価)
実施例及び比較例で得られた化粧シートを常温下で24時間保管した後、化粧シートの表面を指で触って、下記の基準で評価した。
○ :べたつきは全くなかった
△ :紫外線吸収剤などのブリードによるべたつきは若干あるが、実用上問題なかった
× :ブリードによるべたつきが著しかった
【0070】
(5)耐汚染性の評価
実施例及び比較例で得られた化粧シートにJIS K6902に規定された汚染物質を塗布し、時計皿で被覆して24時間後にエタノールでふき取ったときの汚染物の残存具合を目視にて観察した。判定基準を以下のようにして評価した。
○ :汚染物の残存は全くない
△ :汚染物の残存はあるものの軽微なもので実用上問題がない
× :汚染物の残存が著しい
【0071】
(6)耐候密着性の評価
上記耐候性試験を行ったシートについて、その表面にニチバン製セロテープ(登録商標)を貼付けて急激に剥離する操作を1回行った。このときの、基材上に設けた各層が剥離するかどうかを肉眼観察により確認し、下記の基準で評価した。
◎ :層の剥離は全くなかった
○ :層の剥離はほとんどなかった
△ :層の剥離は若干あるが、実用上問題なかった
× :層の剥離が著しかった
【0072】
(7)自浄性の評価
各実施例及び比較例で得られたシートを、屋外南向きに傾斜45°で設置して、3ヶ月放置する屋外曝露試験を行った。その後、表面の汚れの付着及び沈着状態を下記の基準で評価した。
○ :汚れの付着や沈着はほとんどなかった
△ :汚れの付着や沈着は若干あるが、実用上問題なかった
× :汚れの付着や沈着が著しかった
【0073】
(8)自浄性持続性
実施例及び比較例で得られたシートに赤色染料で着色したサラダ油を塗布した後、水で洗い流した。その後、表面の汚れの付着及び沈着状態を下記の基準で評価した。
○ :汚れの付着や沈着はほとんどなかった
△ :汚れの付着や沈着は若干あるが、実用上問題なかった
× :汚れの付着や沈着が著しかった
【0074】
(9)耐温水白化性
実施例及び比較例で得られたシートを、50℃の温水に浸漬し、2日間保持してから、シート表面の白化状態を下記の基準で評価した。
○ :外観変化は全くなかった
△ :外観変化は若干あるが、実用上問題なかった
× :外観変化が著しかった
【0075】
(10)耐傷性の評価
各実施例及び比較例で得られたシートについて、スチールウールを用いて、300g/cm2の荷重をかけて5往復擦り、外観を目視で評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ :外観にほとんど変化なかった
△ :外観に若干の傷つきや艶変化があった
× :外観に傷つきがあり、艶変化があった
【0076】
(11)耐水試験後の層間密着の評価
耐水性試験は、化粧シートの試験片を、25℃中の水道水中に30日間浸漬させ、取り出した後、室内環境中に2日間放置し、該化粧シートの表面に長さ50mmのセロハン粘着テープ(ニチバン株式会社、商品名「セロテープ(登録商標)」、産業用24mm幅)を貼り、室温(25℃)にて布でこすり圧着した。温度上昇したテープ表面を室温(25℃)にまで冷却し、手で一気にセロハン粘着テープを剥離し、セロハン粘着テープへの付着の有無を目視で確認し、下記の基準で評価した。
○ :化粧シートを構成する層の付着は全く確認されなかった
△ :化粧シートを構成する層の付着は若干確認されたものの、実用上問題ない
× :化粧シートを構成する層の付着が著しかった
【0077】
実施例1
基材2として、着色ポリプロピレン樹脂(厚さ80μm)からなる樹脂シートを準備した。この表面及び裏面にコロナ放電処理を施した後、表面に木目柄をグラビア印刷により形成し、柄印刷層3を形成し、該柄印刷層3の上に、下記組成のプライマー層形成用組成物を2.5g/m2で塗工し、プライマー層4(厚さ:2μm)を形成した。一方、裏面には、ウレタン系樹脂をバインダーとした裏面プライマー層7(厚さ2μm)をグラビア印刷により形成した。
次に、下記組成の電離放射線硬化性樹脂組成物を、グラビアコートにより塗工し、塗膜を形成した後、175keV及び5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して上記塗膜を架橋硬化させることにより、表面保護層(10g/m2)を形成させて化粧シートを得た。なお、表面保護層の厚さは10μmであった。得られた化粧シートについて上記評価を行った結果を第1表に示す。
【0078】
プライマー層形成用組成物の組成
以下の樹脂組成物と硬化剤とを100:5(質量比)の割合で混合して得られる組成物である。
樹脂組成物:
ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(ポリカーボネート系ウレタンアクリレートにおけるウレタン成分とアクリル成分の質量比:70/30):100質量部
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン400(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製):15質量部
ヒンダードアミン系光安定剤(「チヌビン123(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製):3質量部
硬化剤:
ヘキサンメチレンジイソシアネート
【0079】
電離放射線硬化性樹脂組成物の組成
カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレート(2官能,分子量:約1000,伸び率:40%):100質量部
トリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン479(商品名)」,2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン,チバ・ジャパン株式会社製):2質量部
反応性官能基を有する光安定剤(商品名「サノールLS−3410」,1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレート,チバ・ジャパン株式会社製):6質量部
【0080】
実施例2
実施例1において、電離放射線硬化性樹脂組成物にさらに反応性官能基を有するシリケート化合物(「MKCシリケート MS56S(商品名)」,テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物,三菱化学株式会社製)を10質量部加えたものを電離放射線硬化性樹脂組成物とした以外は、実施例1と同様にして化粧シートを作製した。得られた化粧シートについて上記評価を行った結果を第1表に示す。
【0081】
実施例3
実施例2において、表面保護層5の厚さを20μmとした以外は、実施例2と同様にして化粧シートを得た。得られた化粧シートについて上記評価を行った結果を第1表に示す。
【0082】
比較例1
実施例2において、電離放射線硬化性樹脂組成物のカプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートをカプロラクトン系ウレタンアクリレート(3官能,分子量:約1200,伸び率:17%)とした以外は、実施例2と同様にして化粧シートを作製した。得られた化粧シートについて上記評価を行った結果を第1表に示す。
【0083】
比較例2
比較例1において、表面保護層5の厚さを20μmとした以外は、比較例1と同様にして化粧シートを得た。得られた化粧シートについて上記評価を行った結果を第1表に示す。
【0084】
比較例3
比較例1において、表面保護層5の厚さを5μmとした以外は、比較例1と同様にして化粧シートを得た。得られた化粧シートについて上記評価を行った結果を第1表に示す。
【0085】
比較例4
実施例2において、カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートのかわりにポリエーテル系ウレタンアクリレート(2官能,分子量:約3000)を用いた以外は、実施例2と同様にして化粧シートを作製した。得られた化粧シートについて上記評価を行った結果を第1表に示す。
【0086】
比較例5
基材として、着色ポリプロピレン樹脂(厚さ80μm)からなる樹脂シートを準備した。この表面及び裏面にコロナ放電処理を施した後、表面に木目柄をグラビア印刷により形成し、柄印刷層を得た。
柄印刷層3の上に、2液硬化型ウレタン樹脂からなる塗液を塗工して接着剤層(乾燥状態での厚さ15μm)を形成し、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマーをTダイで溶融して得た透明樹脂層(厚さ80μm)を形成し、透明樹脂層をドライラミネート法により積層させた。さらに、該透明樹脂層の上に、ウレタン系樹脂をバインダーとした樹脂組成物を塗工し、厚さ2.5μmのプライマー層を形成した。
次に、下記組成の電離放射線硬化性樹脂組成物を、グラビアコートにより塗工し、塗膜を形成した後、175keV及び5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して上記塗膜を架橋硬化させることにより、表面保護層(10g/m2)を形成させて化粧シートを得た。なお、表面保護層の厚さは10μmであった。得られた化粧シートについて上記評価を行った結果を第1表に示す。
【0087】
電離放射線硬化性樹脂組成物の組成
カプロラクトン系ウレタンアクリレート(3官能,分子量:約1200,伸び率:17%):100質量部
シリカ微粒子(平均粒径:5μm,吸油量:200〜300ml/g,見かけ比重:0.08〜0.16g/cm3):10質量部
シリカ微粒子(平均粒径:4μm,吸油量:0〜50ml/g,見かけ比重:0.45〜0.85g/cm3):5質量部
ワックス(脂肪族系ワックス,融点110〜200℃):5質量部
トリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン479(商品名)」,2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン,チバ・ジャパン株式会社製):2質量部
反応性官能基を有する光安定剤(商品名「サノールLS−3410」,1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニルメタクリレート,チバ・ジャパン株式会社製):6質量部
反応性官能基を有するシリケート化合物(「MKCシリケート MS56S(商品名)」,テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物,三菱化学株式会社製):10質量部
【0088】
比較例6
比較例5において、電離放射線硬化性樹脂組成物の塗工量を5g/m2とした以外は、比較例5と同様にして化粧シートを作製した。得られた化粧シートについて上記評価を行った結果を第1表に示す。


【表1】

【0089】
実施例1〜3の化粧シートは、優れた性能を示すことが確認された。
一方、伸び率が25%以下のカプロラクトン系ウレタンアクリレートを用いた比較例1〜3の化粧シートは、加工性の点で十分な性能を有しないことが、またコーティング剤にポリエーテル系を使用した比較例4の化粧シートは、べたつきや耐溶剤性及び耐汚染性の点で十分な性能を有しないことが確認された。透明樹脂層を有する比較例5及び6の化粧シートは、耐水試験後という極めて厳しい条件に晒された場合、その層間密着の評価の点で、十分な性能を有しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、優れた耐候性と加工性とを有する化粧シート及びこれを用いた化粧板を提供することができる。本発明の化粧板は、一般住居の玄関ドアや外装材、公共施設の床材や外壁などの内外装、あるいは建造物や屋外に設置される構造物への用途として有効である。
【符号の説明】
【0091】
1.化粧シート
2.基材
3.柄印刷層
3a.絵柄層
3b.着色層
4.プライマー層
5.表面保護層
6.裏面プライマー層
7.接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材、柄印刷層及び表面保護層からなり、該表面保護層が伸び率25%以上のカプロラクトン系ウレタンアクリレート、トリアジン系紫外線吸収剤、及び反応性官能基Aを有するヒンダードアミン系光安定剤を含むコーティング剤組成物を架橋硬化してなるものである化粧シート。
【請求項2】
カプロラクトン系ウレタンアクリレートが、カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートである請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレートが、ポリカプロラクトン系ポリオールと有機ポリイソシアネートとヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応で合成して得られ、該カプロラクトン系ポリオールがポリカプロラクトン及びジエチレングリコールであり、該有機ポリイソシアネートがイソホロンジイソシアネートであり、ヒドロキシ(メタ)アクリレートが2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレーである請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
カプロラクトン系ウレタンアクリレートの数平均分子量(GPC法で測定したポリスチレン換算の数平均分子量)が、1000〜10000である請求項1〜3のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項5】
反応性官能基Aが、エチレン性二重結合を有する官能基である請求項1〜4のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項6】
エチレン性二重結合を有する官能基が、(メタ)アクリロイル基である請求項5に記載の化粧シート。
【請求項7】
コーティング剤組成物が、さらに反応性官能基Bを有するシリケート化合物を含むものである請求項1〜6のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項8】
反応性官能基Bが、エチレン性二重結合を有する官能基、又は水酸基である請求項7に記載の化粧シート。
【請求項9】
反応性官能基Bが、(メタ)アクリロイル基である請求項8に記載の化粧シート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の化粧シートの表面保護層が最表面層となるように、当該化粧シートが被着材に積層されてなる化粧板。
【請求項11】
被着材が、鋼板である請求項10に記載の化粧板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−212999(P2011−212999A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84281(P2010−84281)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】