説明

化粧シート用再生セルロース多孔性多層平膜

【課題】
化粧成分を皮膚に安全に徐放させ、皮膚との密着性が優れ、皮膚に水分とハリを与える、皮膚内部への高浸透性の効果がある化粧シート用基材を提供すること。
【解決方法】
本発明の化粧シート基材では、平均孔径が20nm以上1um 以下、膜厚は50
um 以上500 um 以下、空孔率70% 以上で100 層以上の再生セルロース平膜を用いる。膜の孔径の大きい面を皮膚に密着させ、皮膚に浸透させる薬剤は膜中の孔に水溶液の形で保持させる。孔拡散と液体内拡散の拡散機構で、保持した化粧成分を皮膚に徐放させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体化粧品を含有した状態で皮膚に密着した状態で使用する化粧シート用再生セルロース多孔性多層平膜に関する。特に外部から皮膚を通してウイルスや細菌等の微生物による感染の恐れのない、安全性の高い化粧用パーク材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の化粧シート用基材はほとんど不織布である。特に皮膚に優しい、刺激性が少ないセルロース繊維系の不織布が多く用いられている。セルロース繊維自身が高い吸水性を示すが不織布の形態にすることにより吸液倍数が有するが、皮膚との密着性が低く、そのため皮膚への力学的キン張感、ハリを与えるものではなかった。不織布状であるため水分の蒸発も早く、長時間使用すると、不織布であるため皮膚への密着性の低さのため、皮膚から剥がれやすい欠点があった。
【0003】
不織布の液体徐放機構は液体を介したブラン運動による水中拡散だけであるので、不織布表面での蒸発に伴う物質移動の流れのため、液体化粧成分の肌への転写性が劣る。つまり、皮膚への化粧成分の浸透性が低い。結局、皮膚から不織布が剥がれる時点、まだ相当量な液体が不織布の内部に残る。この欠点について、現在、多くの消費者が不満を持っている。特に、高価な化粧液体を使う時に、経済面から見ると、残る液体にかかるコストが無駄になる。
【0004】
現在の化粧シート用不織布の外気に接する表面の孔径は大きすぎ、繊維間の隙間が
10um
以上であり、液体中の成分、例えば水、エタノールなどは空気中に揮発する傾向もあるので、その結果不織布に含ませた液体中の成分は蒸発面での濃度が高くなり、しかも不織布内での熱対流が起こるため、皮膚に転移性が劣る、しかも繊維間の隙間が大きいため、界面張力による蒸気圧低下がほとんど起こらずに、乾き易いので、長時間経つと、肌へのフィット感が悪く、剥がれやすく、化粧成分の損失量が多かった。
【0005】
近年、肌へのフィット感を得るために、合成高分子のフィルムとセルロース不織布を積層したシートが開発された(特許文献1、2及び3)。しかし、この積層されたシートは純粋なセルロース不織布と比べて、人体への安全性に問題があり、皮膚アレルギーの恐れがあり、さらに皮膚の通気性が下がるという欠点がある。
【0006】
【特許文献1】特開2000-86441
【特許文献2】特開2005-160833
【特許文献3】特開2007-169241
【特許文献4】特開2009-274010
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術の上述した問題点(1)皮膚への密着性、(2)薬剤のシート内での残存量の減少、(3)液体の蒸発防止、(4)通気性、(5)皮膚への安全性を高め、皮膚に優しい、皮膚に対する優れたフィット感を長時間保持し、ハリを与える、高浸透性の効果がある化粧シート用基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決するために膜素材、膜中の孔特性について鋭意検討した結果多層構造を持つ多孔性の再生セルロース平膜を化粧シートとして使用することで、皮膚に優しい、皮膚に対する優れたフィット感を長時間保持し、ハリを与える、化粧成分高浸透性の効果があることを見出した。特に多孔性で多層構造を持ち、膜の表裏面での孔構造に大幅な差がある再生セルロース平膜を発明し、本特許に到達した。膜の平均孔径が10nm以上2um 以下、膜厚が40
um 以上1mm 以下、空孔率が70% 以上、100層以上の多孔性多層再生セルロース膜を用い、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の最大の特徴は表裏面で孔径差のある再生セルロース膜を用いる点にある、該孔径差は表裏面の電子顕微鏡で得られた面内での平均孔径の比が1/3以下を意味する。表裏面の孔径の差を大きくすると膜中の水分の蒸発速度が上がる。再生セルロース膜であるために吸湿性が優れ、表裏面の孔径差を大きくすることにより、吸湿状態が長くつづく。再生セルロース多孔性多層平膜がセルロースの誘導体である酢酸セルロースのミクロ相分離方法で作製した膜をさらにケン化反応によって、作製される。得られた再生セルロースの結晶度は10% 以下であり、再生セルロースの中で最高の親水性を示す。製膜の際に、外気に接した膜表面(E面)とミクロな凹凸を有する支持板に接触する膜裏面(孔径の大きい面,S面)を比べて、孔の面内の平均孔径は小さい。つまり、E面からS面まで、グラディエント的に平均孔径がだんだん増加する。詳細な製膜方法が特許文献4に掲載された、その方法によって本発明物は作製可能である。
【0010】
本発明の次の特徴は孔径の大きい面(S面)を皮膚の必要個所を被覆する点にある。S面を皮膚に密着させることにより薬剤の皮膚内への浸透率が高まり、また膜表面より水分の蒸発速度が低下する。化粧シートとして使用する際に、E面を上にして、S面を皮膚に接触することによって、液体化粧料中の揮発性が高い成分が空気への揮発を遅くし、逆にS面を介して化粧成分が皮膚への輸送効率が高まる。また、多層構造、高空孔率で、多量な液体化粧成分を吸収されて、孔拡散と液体内拡散の機構で、保持した化粧成分を皮膚に徐放させる。
【0011】
再生セルロース多孔性多層平膜を使用する際に、一定量な化粧成分を水に溶解または分散した状態で含浸したシート状物を皮膚の必要個所を被覆する点に特徴を持つ。薬剤を水溶液の状態にすることにより平膜の皮膚への密着性が高まる。本発明で多孔性とは空孔率30%以上、平均孔径5nm以上10um以下、膜厚10um以上1mm以下の膜を意味する。多層とは厚さ0.1um~0.3umの層状構造が膜の断面の電子顕微鏡で観察される膜である。多層構造を持つ膜は微粒子除去性が優れる。特に平均孔径20nm以上1um以下、膜厚は50um以上500um以下、空孔率70%以上で、100層以上の多層構造を持つ膜が特に優れる。特に特定された平均孔径を採用することにより孔拡散での薬剤分子の輸送が起り、薬剤の皮膚内への浸透が容易となる。層数を100層以上にすることにより安全性の増大と保湿性が高い。
【0012】
本発明の平膜の孔中に存在する薬剤の水溶液中の濃度は適切な濃度がある。濃度が高すぎると浸透圧が水分の蒸発と共に高まり、皮中の水分を吸収する効果が高まる。また、薬剤の膜中への残存する割合も高まり薬剤の損失、さらに通気性の低下も起る。
これらの問題点が起りにくい濃度として、成分総量としての濃度が0.6モル/L以下であれば良い。
【0013】
皮膚に接する面の孔構造は非円形で、Up孔と分類される孔であれば膜の吸水状態が継続し望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明には、20nm以上1um 以下ナノレベル平均孔径を持つ孔が70%以上で、膜厚は50um 以上500um 以下、空孔率70%以上で、100 層以上の多孔多層構造を持つ再生セルロース平膜が化粧シート用基材として使用することで、化粧水中の揮発性が高い成分、例えばエタノールなどが空気中へ揮発し損失するのを避けて、また、孔拡散と液体内拡散の拡散機構で、化粧成分を皮膚に徐放させるため、高浸透性の効果がある、化粧成分のロスが少なく、特に高価な化粧水を使う時に、使用者にとって、化粧成分を効率的に利用できる。
不織布と違って、再生セルロース多孔性多層平膜は薄く、非常にソフトな絹のような感触であり、皮膚に密着し、皮膚との接触面積が高く、効率的に化粧成分が皮膚に放出できる。
また、化粧水が皮膚へ転写の過程中、膜の表面で起るゆっくりとした蒸発により、再生セルロースがある程度に収縮するため、皮膚に対する優れたフィット感を長時間保持し、肌にさらにハリを与える美容効果がある。皮膚にしっかり一体感になり、皮膚から剥がれ落ちることがない。装着している間に、家事も可能となる程度である。
さらに膜の材質がセルロースであることから、皮膚に優しく、刺激性が少なく、使用者への安全性や安心感が得られる。
また再生セルロース多孔性多層平膜が化粧水を含浸させることにより、ある程度透明性を示すため、使用者に冷涼感を与えることもある。
また、再生セルロース多孔性多層平膜が化粧シートとして皮膚に接する面の孔構造は非円形Up孔で、乾燥した後に、膜が完全に透明化したので、さらに使用者に高級感を与える効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ミクロ相分離法で得られた酢酸セルロース多孔膜を苛性ソーダによりケン化処理し、平均孔径が5nm以上3um 以下、膜厚は20 um
以上1mm 以下、空孔率50% 以上で100 層以上の再生セルロース平膜を作製することは可能である。本発明の平膜はこの方法で作製される。
【0016】
化粧シートとしては、膜厚が80um 以上120um 以下、空孔率が80% 以上の再生セルロース平膜が好ましい。空孔率が高くなると含水率が上昇し、しかも皮膚へのフィット感が良好となる。
【0017】
平均孔径は、(純水の粘度・膜厚・濾過速度/膜間差圧・空孔率)の平方根で与えられる。ここで濾過速度は一平方メートル当りの純水の濾過速度でmL/min の単位で測定され、膜厚はミクロン単位、粘度はセンチポイズ、膜間差圧はmmHg単位で、空孔率は無次元単位である。この際の平均孔径はnm単位となる。空孔率は次式で与えられる。
空孔率 =(1−膜の密度/素材高分子の密度)
膜の密度は(膜の重量/膜の面積X膜の厚さ)で算出される。素材高分子の密度は空孔率0%の時の膜の密度で、セルロースは1.50g/cm3
【0018】
本発明の化粧用シート用再生セルロース多孔性多層平膜では、液体化粧料を保持する場所は膜表面と膜内部の孔である。膜表面の孔は20nm以下に設定され、水の蒸発速度を小さくすると共に外気より微生物の汚染と皮膚への付着を保持する。
【0019】
理論上の最大吸液倍数は空孔率から与えられる。
吸液倍数 = 空孔率(%)/(100-空孔率(%))
再生セルロースを膨潤させる溶液では、この値より大きくなるが、アルコール類のように、水に比較して膨潤率が低い場合には逆に低くなる。
【0020】
本発明の再生セルロース多孔性多層平膜では、使用する際に、適量の化粧水を含浸した後、顔の全体または目元、口元、頬等、使用者の好みの体の所定箇所に被覆して使用される。
【0021】
本発明の再生セルロース平膜では、多孔性多層構造で、膜中の孔拡散と液体中拡散で、液体化粧成分を皮膚に転写する、しかも、孔はナノサイズので、化粧水の成分のうち、分子状に溶解した成分としてのみ輸送されるので、化粧成分は皮膚への浸透率が高い効果がある。時々、平膜を軽く圧力を加える操作をすれば、平膜中の孔によって化粧成分中の会合体の分子状に溶解して孔中を通過するので、さらに浸透率は高くなる。
【実施例1】
【0022】
平均置換度2.45の酢酸セルロース(平均重合度200)を15 wt%でアセトンに溶解させ、この溶液中にメタノール、水、塩化カルシウム、シクロヘキサンノールを添加して流延用溶液を作製した。その溶液組成については文献値(上出、真鍋、松井、坂本、梶田、高分子論文集、34巻205頁(1977))を参考にして決定した。すり板ガラス上に流延し、得られた多孔性多層構造を持つ酢酸セルロース膜を0.1 規定の苛性ソーダで再生セルロースへと変化させ、この膜をアセトンを用いた水置換法で乾燥させた。その結果、すり板ガラスに接していた面に孔数の多い膜面となり膜厚100 um、平均孔径500 nm、 空孔率83%、電子顕微鏡で膜の断面を観察して、膜は400層以上あることを確認した。膜の表面の平均孔径は30nmで、裏面の平均孔径は600nmで、その孔構造はUp孔であった。
【0023】
空孔率から理論吸液倍数は以下のとおり。
理論吸液倍数=83/(100-83)=
4.9
実測された吸水率は 550%であった。
【0024】
化粧水に対して吸液倍数、つまり化粧水の保持量は次のように求めた。
上記方法で作製された再生セルロース多孔性多層平膜から10cm´10cmの試料を切り取り、その重量を測定する。これをある市販化粧水(薬剤濃度0.1重量%)に1分間浸漬し、その後、膜を1分間以上吊り下げることによって、滴る化粧水を落とし、該膜の重量を測定し、次式により吸液倍数を算出する。
吸液倍数 =
[(吸液後の試料の重さ)-(試料の重さ)]/(試料の重さ)
【0025】
上記方法で作製された再生セルロース多孔性多層平膜の化粧水に対する実測の吸液倍数は4.5倍であった。この数値は空孔率から計算した数値(4.9)とやや近い。
【0026】
[化粧シートの評価]
恒温恒湿の条件下(23℃,65% RH)で、顔の形に沿った形状の再生セルロース多孔性多層平膜(本発明平膜)に、一般的に市販されている化粧水(株式会社資生堂製、ドルックス ホードルックス(ノーマル) N)を膜重量比で4倍含浸させた。その膜サンプルを5人の成人女性パネルに提供し、顔に15分間被覆して(膜のS面が顔に付く)、フィット感、ハリ感、冷涼感、乾燥後の透明性、すべすべ感と作業性(装着過程中)、それぞれについて官能評価を行った。評価基準は、1:全く効果が感じられない、2:あまり効果が感じられない、3:どちらでもない、4:効果が感じられる、5:非常に強く効果を感じる。
比較のため、次の日に、市販錠剤型化粧パック材(セルロース不織布、株式会社ユノス製、ローション用フェイスマスク)を使用して同じ実験を行った。パック材に同じ化粧水(株式会社資生堂製、ドルックス ホードルックス(ノーマル) N)を基材重量比で4倍含浸させ、顔の形に沿って展開させた後、同じ5人の成人女性パネルの顔に15分間被覆し、フィット感、ハリ感、冷涼感、乾燥後の透明性、すべすべ感と作業性(装着過程中)、それぞれについて官能評価を行った。
以上の評価の結果を表1に示した。
表1

【0027】
表1から、本発明の再生セルロース多孔性多層平膜は、市販化粧パック材(不織布)と比べ、フィット感、ハリ感、冷涼感、透明性、およびすべすべ感において優れた評価であった。作業性も非常に良かった。
【0028】
また、再生セルロース多孔性多層平膜とセルロース繊維で構成された不織布を化粧シートとして、皮膚へ化粧水の浸透率を比較するため、以下の実験を行った。
上述した市販錠剤型化粧パック材(セルロース不織布、株式会社ユノス製、ローション用フェイスマスク)と同じ顔に沿った形状をした再生セルロース多孔性多層平膜に、それぞれ、自重(W)に対して、化粧水を4倍含浸させた後(この時の重量=5W1)、上述した5人の成人女性パネル内の3人に提供した。女性パネル3名の顔にパック材と膜サンプルを被覆し、所定時間経過毎の不織布と膜の重量(測定時間毎の重量:W2)を測定し、次式により各時間経過の転写率 (%)と転写倍数(基材に対する)を算出した。


表2

a完全に顔から剥がれた。
表2から、再生セルロース多孔性多層平膜では、市販のセルロース不織布パック材と比べて、皮膚へ化粧水の転写率が殆どロスなく、効率的に皮膚に転移した。逆に、不織布のほうが転写率は半分程度しかなく、10分後に完全に顔から剥がれた。結局、不織布基材の約2倍量の化粧水がロスした。この結果から、高価な化粧水を使う時、再生セルロース多孔性多層平膜を化粧シートとして使うことで、ロスなく有効に皮膚に転移できるので、使用者にとって、コストを安くすることができる。
また、多孔性多層平膜の基材はセルロースであるため、皮膚に優しく、長時間に付けても、アレルギーは起こりにくい。化粧シートとして皮膚に被覆し、約20分乾燥した後でも、使用者の好みによって、さらに装着したまま化粧水を付けて使用することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏面で孔径差のある再生セルロース平膜において、化粧成分を溶解または分散した液体を該膜中の孔に充填して、孔径の大きな面を皮膚の必要個所を被覆するのに使用することを特徴とするシート用基材。
【請求項2】
請求項1のある液体が、化粧水、乳液、美容液、医用液体などの水溶液液体であり、これらの成分の水溶液中の濃度が成分総量として、0.6モル/L以下であることを特徴とするシート用基材。
【請求項3】
請求項1の再生セルロース平膜が、ミクロ相分離法で製膜された平膜材料であり、平均孔径が20nm以上1um 以下 膜厚は50
um 以上500 um 以下、空孔率70% 以上で100 層以上の多孔性多層構造を持つ。孔拡散と液体内拡散の拡散機構で、化粧成分を皮膚に徐放させることを特徴とする化粧水を含浸したシート用基材。
【請求項4】
請求項1において孔径の大きな面の孔が非円形孔で構成されることを特徴とするシート用基材。

【公開番号】特開2012−25704(P2012−25704A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166995(P2010−166995)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(307002932)株式会社セパシグマ (23)
【Fターム(参考)】