説明

化粧シート

【課題】通常視認できる絵柄を利用した意匠性の高い化粧シートを提供する。
【解決手段】複数の第1及び第2の糸を直交させて編み込んだ織物調のエンボスが形成された表面層1を備え、表面層1は、所定の画像を表す少なくとも一つの画像領域と、当該画像領域の少なくとも一部を囲む背景領域とを有し、第1及び第2の糸の交点で当該第1の糸が上糸となる上糸比率が、画像領域と、背景領域とで、異なるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、付加価値を高めるために、意匠性を向上した化粧シートが多く提案されている。その中で、見る方向によって異なる絵柄を視認することができるいわゆる隠し絵を形成した化粧シートが提案されている。例えば、特許文献1に開示された化粧シートでは、表面に3つの領域を形成し、隠し絵効果を向上している。すなわち、この化粧シートは、梨地面で形成された第1の表面部分、一方向への反射光を得ることができる第2の表面部分、及び第2の表面部分とは異なる方向への反射光を得ることができる第3の表面部分を有し、各表面部分には絵柄が形成されている。そして、このような表面部分を有することにより、正面からこの化粧シートを見た場合には、まず、梨地面である第1の表面部分の絵柄が視認できる。そして、斜め方向から見た場合には、第2及び第3の表面部分の反射光の違いによるコントラストの差によって、第2の表面部分の絵柄を視認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−302656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記化粧シートは、正面から見た場合に視認できる絵柄と、斜めから見た場合に視認できる絵柄とが別の領域に現れるため、両絵柄に関連性はなく、意匠性の観点からは統一性がない。したがって、意匠性の観点からはさらなる改良の余地があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、通常視認できる絵柄を利用した意匠性の高い化粧シートを提供することを目的とする。
【0006】
本発明に係る化粧シートは、複数の第1及び第2の糸を交差させて編み込んだ織物調のエンボスが形成された表面層を備え、前記表面層は、所定の画像を表す少なくとも一つの画像領域と、当該画像領域の少なくとも一部を囲む背景領域とを有し、前記第1及び第2の糸の交点で当該第1の糸が上糸となる上糸比率が、前記画像領域と、背景領域とで、異なるように構成されている。
【0007】
この構成によれば、交差する第1及び第2の糸を編み込んだ織物調のエンボスを利用しつつ、織物の中に画像を視認することができる。まず、本発明における画像の視認のメカニズムについて説明する。織物調のエンボスにおいて、上糸は表面層のエンボスの最下面からの高さが高いため、上糸の延びる方向と直交する方向から光が当たった場合には、陰影が生じやすくなる。そのため、第1の糸の上糸の割合が多い領域と少ない領域とでは陰影の量が異なり、両者を識別することが可能となる。なお、織物において第1及び第2の糸は交差しているため、第1の糸が上糸の割合が多くても、光の向きが上糸と平行であれば、陰影は生じにくい。但し、この場合には、第2の糸の上糸の割合が多い領域で陰影が生じやすくなるため、結果的に両領域の識別は可能である。
【0008】
そこで、本発明においては、エンボスが形成された表面層に、画像領域と背景領域を設け、第1及び第2の糸の交点で第1の糸が上糸となる上糸比率が、画像領域と背景領域とで異なるように構成している。そのため、画像領域と背景領域とでは、陰影の生じ方に差が出る。これにより、両領域の境界が顕在化し、画像領域を視認することができる。このように、本発明においては、光の当たり方によって視認可能な画像を、織物の特性を利用して形成しているため、織物調という通常視認できる意匠の中に陰影による画像を視認可能に形成することができる。そのため、意匠としての統一感が増し、意匠性を向上することができる。なお、上記画像とは、絵柄のほか、文字、図形、模様など、種々の形態を含む。
【0009】
上記化粧シートにおいて、第1の糸及び第2の糸は、糸の延びる方向において、下糸となる箇所を挟んで切断され隙間を形成することができる。このようにすると、上糸から下糸に移行する部分に隙間が形成されるため、上糸部分が強調されて視認される。そのため、画像領域として存在する絵柄等を視認しやすくすることができる。
【0010】
上記化粧シートにおいては、画像領域の上糸比率と、背景領域の上糸比率との差が10%以上とすることが好ましい。このような上糸比率の差を設けることで、両領域における陰影の量の差がさらに大きくなり、両領域を識別できるため、画像領域をさらに明確に視認することができる。
【0011】
また、上記化粧シートにおいては、表面層のエンボスの最下面から上糸の上面までの高さが、0.3〜1.0mmであることが好ましい。これは、高さが低すぎると陰影が生じにくくなり、高すぎるとエンボスを形成することが困難になるからである。
【0012】
上記化粧シートにおいては、前記第1の糸同士の間隔、及び第2の糸同士の間隔がそれぞれ、0.2〜3.0mmとすることが好ましい。陰影は、糸と糸の間の隙間に形成されるため、その間隔が小さいと陰影が形成される領域が少なくなり、陰影効果が低減する。一方、間隔が広すぎると、糸が粗になり、織物としての意匠性が低減する。そのため、各糸同士の間隔は、上記のように設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、通常視認できる絵柄を利用した意匠性の高い化粧シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る化粧シートの一実施形態の断面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】エンボスの元になる織物デザインを示す拡大平面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】上糸比率が高い場合の織物デザインの一例を示す平面図である。
【図6】図3の織物デザインを元に作成された表面層のエンボスの断面図である。
【図7】表面層に光Lが入射したときの平面図及び断面図である。
【図8】エンボス画像の例を示す平面図である。
【図9】図8(b)のエンボス画像から作製したエンボスを平面から見た写真である。
【図10】図9のエンボスを斜めから見た写真ある。
【図11】図3の他の例を示す織物デザインの拡大平面図である。
【図12】図8の織物デザインを元に作成された表面層のエンボスの断面図である。
【図13】図2の他の例を示す平面図である。
【図14】実施例及び比較例における実験の態様を示す概略側面図(a)及び平面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る化粧シートの一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1はこの化粧シートの断面図である。
【0016】
図1に示すように、この化粧シートは、表面にエンボスが形成されたシート状の表面層1と、この表面層1の下面に配置されるシート状の基材2とで、形成されている。表面層1は、0.1〜1.5mmの厚さを有し、化粧シートとして一般的に用いられる樹脂材料、発泡樹脂材料で形成される。そして、後述するように、エンボス版による押圧によって表面に凹凸を形成できるものが好ましい。また、基材2は、表面層1を支持する役割を果たし、例えば、厚さが0.08〜0.15mm程度の繊維質シート(いわゆる裏打紙)を用いることができる。
【0017】
次に、表面層について図2〜図4を参照しつつ詳細に説明する。表面層1には、後述するように、エンボス版を樹脂材料などに押圧することで、エンボスが形成されるのであるが、まず、エンボスのデザインの元になる織物デザインについて説明する。図2は図1の平面図となるエンボス画像、図3はエンボスの元になる織物デザインの拡大平面図、図4は図3のA−A線断面図である。図2(a)に示すように、表面層1の上面には、縦糸101と横糸102とを編み込んだ織物調のエンボスが形成されている。そして、このエンボスの元になる織物デザイン1100は、図3に示すように形成されている。すなわち、所定の幅D1,D2及び高さH1,H2を有する複数の縦糸101及び横糸102がそれぞれ所定間隔T1,T2をおいて平行に延びており、これらが編み込まれることで織物調のデザインを形成している。このとき、縦糸101及び横糸102は、互いに直角に交差し、各交差点Cにおいて縦糸101または横糸102のいずれか一方が、他方の上側を通過するように配置されている。ここでは、交差点Cにおいて上側を通過する糸を上糸U、下側を通過する糸を下糸Lと称することとする。上記のように、縦糸101及び横糸102は所定の高さを有するので、2つの糸が交差する交差点Cの高さHTは一本の糸の約1.5〜2倍程度になる。
【0018】
このように、表面層1に形成されるエンボスは、上記のような織物デザインを元に形成されるのであるが、表面層1に形成されるエンボスの中には、2種類の領域が形成されている。すなわち、図2(a)に示すように、絵柄を表す少なくとも一つの画像領域11と、その周囲を囲む背景領域12とが形成されている。図2(a)に示す例では、画像領域11としてリンゴの絵が表されている。つまり、外形がリンゴの形状をなしている。図2(b)は、図2(a)の画像領域11を見やすくするために補助線Kを付したものである。画像領域11と背景領域12とは、いずれも縦糸101及び横糸102を有する織物調のエンボスで形成されているが、縦糸101が上糸になっている割合(以下、上糸比率と称する)が相違している。以下、この点を、図5を参照しつつ詳細に説明する。図5は画像領域の元になる織物デザインの拡大平面図である。
【0019】
一般的な織物は、図3に示すように、縦糸101及び横糸102がそれぞれ、上糸、下糸を交互に繰り返す格子状に形成されている。上述した上糸比率は、全交差点Cのうち、縦糸101が上糸となっている箇所の比率である。図3の例では、16個の交差点Cが存在するが、このうち、縦糸101が上糸になっている箇所は、8箇所である。したがって、上糸比率は50%であり、本実施形態では、これを背景領域12の元になる織物デザイン1100の一例として採用している。これに対して、図5の例では、図3とは上糸比率が相違しており、これを画像領域11の元になる織物デザイン1200としている。すなわち、背景領域12の上糸比率が50%であるのに対し、画像領域11の上糸比率は75%となっている。図5では、16個の交差点Cのうち、12箇所で縦糸101が上糸Uとなっている。すなわち、上糸比率は75%である。このように、本実施形態では、画像領域11と背景領域12とで、上糸比率を相違させている。
【0020】
上記のように形成された織物デザイン1100,1200は、エンボスの元になるものであり、例えば、エンボス版で樹脂材料を押圧することによってエンボスを形成すると、平面形状は、図3及び図4と同等であるが、断面形状としては、図6に示すような形態が表面層1に現れる。すなわち、図4に示す織物デザイン1100の最上面の部分のみが表面層1に現れ、下糸Lなどの表面から見えない部分は、エンボスには現れない。
【0021】
次に、本実施形態で画像領域11と背景領域12を形成する意義について説明する。上記のように、画像領域11と背景領域12とで、上糸比率を相違させると、次のような効果を得ることができる。この点を図7を参照しつつ説明する。図7は表面層に光Lが入射したときの平面図及び断面図を示している。同図に示すように、化粧シートの側方のX方向から斜めに光Lが入射した場合、上糸Uは表面層1の最下面からの高さが高いので、陰影Sが生じやすい。このとき、光Lの入射方向Xと平行な糸が上糸である場合に比べ、直交する糸が上糸である場合の方が、陰影Sが生じる面積が大きくなる。したがって、光Lの入射方向と直交する上糸の割合が多い領域には陰影Sが生じやすく、そのような上糸の割合が小さい領域との差が生じ、視認しやすくなる。一方、光Lが化粧シートの側方のY方向(X方向と直交する方向)から斜めに入射した場合には、その反対になる。いずれにしても、本実施形態のように画像領域101と背景領域102とで、上糸比率を異ならせることにより、各領域で生じる陰影Sに差を設けることができ、その結果、画像領域101を背景領域102から識別することができる。すなわち、陰影Sによる絵柄の識別効果を得ることができる。以下、これを陰影効果と称する。このような陰影効果は、光Lの入射方向に依存するほか、目視を行う位置にも依存する。すなわち、側方からの光Lの入射が弱い場合でも、斜め側方から目視を行うことで、同等の効果を得ることができる。
【0022】
上記のような陰影効果を得るためには、以下のようにエンボスを形成することが好ましい。まず、陰影効果は、上糸比率に依存するため、画像領域101と背景領域102とで、少なくとも上糸比率が相違する必要があり、その差が10%以上であることが好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。但し、上限は特にはないが、上糸比率の相違が大きすぎると、画像領域101の隠し絵的な効果が低減し、はっきりと視認できる模様になってしまう可能性がある。この点は、化粧シートの作製目的にもよるが、正面から見たときに画像領域が視認しやすくなるのを防止し、隠し絵的な効果を奏したい場合には、上糸比率を40%以下とすることが好ましい。特に、背景領域または画像領域のいずれかの上糸率が100%になると、すべての上糸が縦糸になってしまうため、画像領域が正面視から容易に視認でき、隠し絵効果が低減する可能性がある。この観点から、画像領域及び背景領域の上糸率は、10%以上90%以下にすることが好ましい。
【0023】
また、エンボスによって積極的に陰影を生じさせるためには、エンボスの凹凸の差が大きいことが好ましい。本実施形態においては、表面層1のエンボスの最下面103(図6参照)から、上糸の上面までの高さHTが0.3〜1.0mmであることが好ましく、0.5〜0.7mmであることがさらに好ましい。0.3mmより小さいと、陰影効果が生じにくく、1.0mmより大きいと、後述するエンボス版によってその高さを形成できないおそれがあることによる。また、各糸の間隔も陰影効果に影響を与える。すなわち、糸の間隔が小さいと、陰影が生じる箇所が小さくなり、結果として陰影効果が小さくなる。一方、間隔が大きすぎると、表面層1に対する縦糸101及び横糸102の密度が小さくなり、織物としての意匠性が悪くなる。このような観点から、縦糸101及び横糸102の間隔T1,T2は、それぞれ、0.2〜3.0mmであることが好ましく、0.4〜2.0mmであることがさらに好ましい。その他、各糸101、102の幅D1,D2は、小さすぎると形成しがたく、大きすぎると高さとのバランスが悪くなるため、0.5〜3.0mmであることが好ましく、1.0〜2.0mmであることがさらに好ましい。しかし、糸の太さは必ずしも均一である必要はなく、太い糸、細い糸が混在していたり、1本の糸の太さが変化していてもよい。また、糸の間隔、糸の太さについては、縦糸101と横糸102とで相違させることもできる。
【0024】
ここで、図8にエンボスの画像の例を示す。図2及び図3に示す例は、すべて、縦糸及び横糸の幅D1,D2が1.6mm、縦糸間及び横糸間の間隔T1,T2が1.4mm、エンボスの高さHTが0.5mmとしている。そして、各例での上糸比率は次の通りである。図8(a)は背景領域が0%、画像領域が100%、図8(b)は背景領域が50%、画像領域が90%、図8(c)は背景領域が50%、画像領域が80%である。また、図8(b)の画像からエンボスを作製したものが図9の写真である。この写真は、エンボスを正面から見たものである。この写真では、織物としてのエンボスが現れているが、画像領域の絵柄はほとんど視認できない。これに対して、図10の写真は、図9のエンボスを斜めから見たものであり、このように見ると上述した陰影効果により画像領域の絵柄(リンゴ)が視認できる。
【0025】
続いて、上記のように構成される化粧シートの製造方法の一例について説明する。また、以下の説明の中で、本実施形態に係る化粧シートの材料についても例示する。まず、繊維質シートで形成された基材2の上に、表面層1となる発泡剤を含有した樹脂層Aを接着し、化粧シート基材を形成する。このとき、Tダイスを用い、溶融押し出しラミネート法により、樹脂層Aを非発泡状態で接着させる。なお、樹脂層Aの表裏に、非発泡の透明樹脂層B,Cを設けて、3層押し出しをすることもできる。樹脂層Aの材料組成としては、主原料にエチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などのオレフィン系樹脂を使用することができる。その他の材料として、無機充填剤、顔料、発泡剤、発泡助剤、架橋助剤、安定剤、滑剤等を公知の配合でブレンドすることができる。発泡前の表面層1は0.04〜0.1mm程度の厚みで製膜し、後の工程で発泡させて0.3〜1.0mm程度の発泡樹脂層とすることが好ましい。
【0026】
樹脂層Aの表面(基材2とは反対側の面)に設ける透明樹脂層Bとしては、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などが好ましい。また、表面強度の向上、耐汚染性の向上、押し出し時の目ヤニ防止などの観点から、厚みは5〜20μmとすることが好ましい。一方、樹脂層Aの裏面(基材2に接する面)に設ける透明樹脂層Cとしては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)が好ましい。基材2との密着、押し出し時の目ヤニ防止などの観点から、厚みは5〜10μmとすることが好ましい。
【0027】
次に、樹脂層A(または透明樹脂層B)の上に絵柄模様層を設ける。絵柄模様層の形成にはグラビア印刷、フレキソ印刷等が用いられる。印刷インキとしては、着色剤、結着材樹脂、溶剤を含む印刷インキを使用できる。これらのインキは公知、又は市販のものを使用してもよい。さらに絵柄模様層の上に表面保護層を積層してもよい。表面保護層についてもグラビア印刷、フレキソ印刷等、フィルムラミネート、押し出しラミネート等公知の方法を用いることができる。表面保護層は艶調整が目的であれば、例えば、シリカなどの既知フィラーを含んでもよい。表面強度が目的であれば、電離放射線硬化型樹脂を樹脂成分として含有するものが好適である。厚みは0.1〜15μmが好ましい。
【0028】
続いて、上述した化粧シート基材に電離放射線を照射してもよい。樹脂層Aに電子線を照射することで発泡性や強度を調整することができる。電子線照射の条件としては、加速電圧150〜250kv、照射量10〜70kGyがよい。
【0029】
上記のように支持層2上に表面層1を形成すると、これに続いて、化粧シート基材を加熱発泡炉に通し、表面層1の厚みを5〜10倍となるように発泡させる。加熱条件は、熱分解型発泡剤の分解により発泡樹脂層が形成される条件であれば特には限定されないが、炉内温度200〜400℃が好ましい。
【0030】
発泡した化粧シート基材に対して、最表層(表面層1)にエンボスを賦型する。エンボス凹凸模様は、エンボス加工(エンボス版を用いた凹凸賦型)により賦型する。エンボス版の製造は、種々の方法があるが、例えば、特開2010−287204、特開2011−148184に記載のような方法で、織物の糸の径、性状(糸のケバなど)、ピッチなどを入力して、上記のような織物デザインを形成した後、これを元にエンボス版が形成される。
【0031】
以上のように、本実施形態によれば、エンボスが形成された表面層1に、画像領域11と背景領域12を設け、縦糸101と横糸102との交差点Cで縦糸101が上糸となる上糸比率が、画像領域11と背景領域12とで異なるように構成している。そのため、画像領域11と背景領域12とでは、陰影の生じ方に差が出る。これにより、両領域の境界が顕在化し、画像領域11を視認することができる。このように、本実施形態においては、光の当たり方によって視認可能な陰影を、織物の特性を利用して形成しているため、織物調という通常視認できる意匠の中に陰影による画像を視認可能に形成することができる。そのため、意匠としての統一感が増し、意匠性を向上することができる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、画像領域11の上糸比率を、背景領域12の上糸比率よりも大きくしているが、これを反対にしてもよい。すなわち、背景領域12の上糸比率が、画像領域11よりも大きくてもよく、上糸比率の差によって両領域を識別できればよい。また、上記実施形態では、縦糸101の上糸比率を用いたが、横糸102が上糸になる上糸比率を用いてもよく、何れかの糸を基準にして上糸比率の差を両領域で設けておけばよい。
【0033】
上記実施形態に係る化粧シートでは、連続的に延びる縦糸101及び横糸102を採用しているが、例えば、図11に示すように、糸の延びる方向において、各糸を、下糸Uとなる箇所を挟んで切断し隙間Nを形成することができる。隙間Nの大きさは、特には限定されないが、最大で糸間の間隔にすることができる。図11は、図4の織物デザインにおいて、下糸となる箇所を挟んで糸を切断し、隙間Nを形成した織物デザイン2000である。そして、この織物デザイン2000を元にエンボスを形成すると、図12のような断面のエンボスが形成される。つまり、図11に示す織物デザインの最上面の形状がエンボスとして現れる。また、平面形状としては、図13のようなエンボスが現れる。このようにすると、上糸Uから下糸Lに移行する部分に隙間Nが形成されるため、上糸U部分が強調されて視認される。そのため、画像領域11として存在する隠し絵を視認しやすくすることができる。なお、図13の例は、図8(b)の例に基づいて、隙間Nを形成したものであり、隙間の間隔は、1.5mmである。
【0034】
上記実施形態では、縦糸101と横糸102とを直交させているが、必ずしも直角に交差させる必要はなく、縦糸101と横糸102とが編み込まれている限り、これらが斜めに交差していてもよい。また、上記実施形態では、化粧シートを表面層1と基材シート2とで構成しているが、本発明の化粧シートは、少なくともエンボスが形成される表面層1を有していればよい。すなわち、表面層1だけで化粧シートを構成してもよいし、その他、複数の層を表面層1の下面に積層することもできる。
【0035】
上記実施形態では、画像領域11は一つであるが、複数でもよい。また、画像領域11は、絵柄、図形、文字など、種々の形態を採用することができる。そして、この画像領域11の全周が必ずしも背景領域12に囲まれていなくてもよく、例えば、画像領域11が化粧シートの端部に配置されている場合には、画像領域11の周囲のうち、化粧シートの端部に接していない部分を背景領域12が囲んでいればよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0037】
ここでは、図2に示すようなリンゴの絵柄の画像領域を有する化粧シートを作製し、実施例として5つ、比較例として1つのサンプルを作製した。そして、この化粧シートを水平面上に配置し、斜め側方から照明を照射したときの陰影効果を目視により検証した。
【0038】
1.化粧シートの作製
(1)織物デザインの作製
画像領域の画像(リンゴ)をパソコンに入力し、公知の画像処理ソフト(例えば、Adobe
Photoshop)を用いて背景領域と画像領域の濃度を調整した。例えば、背景領域の画像濃度を50%、画像領域の濃度を80%とする。続いて、当該ソフトの「モノクロ2階調−誤差拡散法(ディザ)」処理を濃度調整後の画像に施すことにより、白と黒の画素の出現比率が異なる画像を作成した。次に、特開2010−287204、特開2011−148184に記載のような方法で糸の太さ、糸の間隔などを入力し、同時にモノクロ2階調の画像を読み込み、各画素と織物の横糸と縦糸の各交点を対応させ、上糸比率を調整した。例えば白い画素なら横糸が上糸、黒い画素なら縦糸が上糸となるように調整した。こうして、織物デザインのエンボス画像を形成した。
【0039】
(2)エンボス版の作製
2−1.完成した織物デザインのエンボス画像に「Adobe Photoshop」の「ポスタリゼーション」で濃度を10階調に変換した。エンボス版はネガ版となるため、画像は階調反転しておく。
2−2.レーザー刷版機(Schepers(DIGILAS))でエンボスシリンダーにレジスト層を形成した。1−1で準備した画像濃度90〜100%(エンボス版完成時にもっとも深度が深くなる領域)の領域がレーザーによって焼き飛ばされるようにした。
2−3.エンボスシリンダーのエッチングを行った。深度は60μmである。
2−4.エンボスシリンダーのレジスト層を洗浄剥離した。
2−5.2−2〜2−4の工程を、レジスト焼き飛ばし画像を変えてさらに8回実施した。使用する焼き飛ばし画像は、エッチング2回目用の画像濃度が80〜100%、エッチング3回目用の画像が70〜100%、エッチング4回目用の画像が60〜100%、・・・9回目用の画像が10〜100%とした。
2−6.9回のエッチングが終わったら、シリンダー表面にレジストをつけずに全体を数μmエッチングすることで、版面の艶を合わせた。
2−7.クロム鍍金を20μmかけた。
【0040】
(3)化粧シート基材の作製
まず、マルチマニホールドTダイ押出し機を用いて、3層で構成された表面層を押し出し、支持層の上に製膜した。表面層は、支持層側の下から非発泡樹脂層(接着層)/発泡剤含有樹脂層/非発泡樹脂層(スキン層)で形成されており、順に厚みが10μm/70μm/10μmになるように支持層上に製膜した。こうして、化粧シート基材を作成した。なお、押出し条件は、非発泡樹脂層(スキン層)を形成するための樹脂を収容したシリンダー温度は115℃とし、発泡剤含有樹脂層を形成するための樹脂組成物を収容したシリンダー温度は110℃とした。そして、非発泡樹脂層(接着層)を形成するための樹脂を収容したシリンダー温度は100℃とした。また、ダイス温度はいずれも110℃とした。
【0041】
次に、上記化粧シート基材の表面に、電子線(195KV,3Mrad)を照射して発泡剤含有樹脂層と非発泡樹脂層(スキン層)とを樹脂架橋した。また、非発泡樹脂層A上にコロナ放電処理を行った。続いて、非発泡樹脂層(スキン層)上に水性インキ「ハイドリック」(大日精化工業社製)により抽象絵柄を印刷した。これに続いて、抽象絵柄を印刷した化粧シート基材をギアオーブンで加熱(220℃×35秒)し、発泡剤含有樹脂層を500μmの厚みまで発泡させた。
【0042】
なお、上記化粧シート基材を構成する材料の組成は、以下の通りである。
(a) スキン層
EMAA樹脂(ニュクレルN1560「三井デュポンポリケミカル株式会社製」)100重量部
(b) 発泡層
EVA樹脂(エバフレックスV406「三井デュポンポリケミカル株式会社製」)100重量部
酸化チタン(タイペークCR63「石原産業株式会社製」)30重量部
発泡剤(AZ3050I・「大塚化学株式会社製」)6重量部
キッカー剤(エフコケムZNS−P「株式会社ADEKA」)4.2重量部
(c) 接着層
EVA樹脂(エバフレックスEV150「三井デュポンポリケミカル株式会社製」)100重量部
(d) 支持層
WK665DO「株式会社興人社製」
(4)エンボスの作製
上述したエンボス版で化粧シート基材を押圧し、エンボスを施した。なお、化粧シートの大きさは、縦が100mm、横が100mmであり、中央に画像領域を配置した。画像領域のリンゴの外形は、縦が約50mm、横が約50mmである。
【0043】
2.照明の照射方法
まず、化粧シートをテーブルに置く。シートは中央に画像領域が位置するようにする。そして、図14に示すように、化粧シートの中央から化粧シート面に対し20°の方向2mの距離に40w昼白色蛍光灯を3つ設置する。
【0044】
3.目視の方法
図14に示すように、化粧シートからみて蛍光灯と反対側に観察者が立ち、化粧シート面に対し20°の方向1mの距離で観察をおこなう。
【0045】
4.実施例及び比較例の態様
【表1】

【0046】
5.実験結果
上記実験の結果を以下の通り、評価した。
(1) 評価1:画像領域と背景領域に陰影による濃度差が認められず、画像領域を視認できない。
(2) 評価2:画像領域と背景領域に陰影による濃度差が認められ、画像領域を視認できる。
結果は、以下の通りである。
【表2】

以上の結果によれば、画像領域と背景領域とで上糸比率に差を設けている実施例は陰影効果が出ているが、上糸比率の差がない比較例は陰影を視認できていない。実施例5は、背景領域の上糸比率を低くしているが、この場合でも画像領域と背景領域とで上糸比率に差を設けると、陰影効果を奏することが分かる。
【符号の説明】
【0047】
1 表面層
11 画像領域
12 背景領域
101 縦糸(第1の糸)
102 横糸(第2の糸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1及び第2の糸を交差させて編み込んだ織物調のエンボスが形成された表面層を備え、
前記表面層は、所定の画像を表す少なくとも一つの画像領域と、当該画像領域の少なくとも一部を囲む背景領域とを有し、
前記第1及び第2の糸の交点で当該第1の糸が上糸となる上糸比率が、前記画像領域と、背景領域とで、異なるように構成されている、化粧シート。
【請求項2】
前記第1の糸及び第2の糸は、当該糸の延びる方向において、下糸となる箇所を挟んで切断されて隙間が形成されている、請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記画像領域の上糸比率と、前記背景領域の上糸比率との差が10%以上である、請求項1または2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記表面層のエンボスの最下面から前記上糸の上面までの高さが、0.3〜1.0mmである、請求項1から3のいずれかに記載の化粧シート。
【請求項5】
前記第1の糸同士の間隔、及び第2の糸同士の間隔がそれぞれ、0.2〜3.0mmである、請求項1から4のいずれかに記載の化粧シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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