説明

化粧セメント板及びその製造方法

【課題】有機系塗膜を形成しなくても着色セメント層に対する無機系塗膜の密着性を高く得ることができる化粧セメント板を提供する。
【解決手段】化粧セメント板に関する。基材1の表面に着色セメント層2を形成する。この着色セメント層2の表面にシリコン系撥水剤を介して無機系塗膜3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根材や壁材などの建築材として用いられるセメントを主体とした化粧セメント板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、屋根材や壁材などに用いられる化粧セメント板としては、図3に示すようなものが提供されているが、このような化粧セメント板は、次のようにして製造されている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、基材1の表面に着色セメント材料を塗布することによって着色セメント層2を形成し、次にこの着色セメント層2の表面にアクリル樹脂などを含有する有機系塗料を塗布することによって有機系塗膜4を形成した後、この有機系塗膜4の表面にオルガノシラン樹脂などを含有する無機系塗料を塗布することによって無機系塗膜3を形成する。その後、これを蒸気養生すると、図3に示すような化粧セメント板を得ることができるものである。ここで、有機系塗膜4は、紫外線により劣化しやすいので、着色顔料や酸化セリウム等の紫外線吸収剤を添加した無機系塗料を用いて無機系塗膜3を形成することによって、化粧セメント板の耐候性を高めるようにしている。
【特許文献1】特開2003−238272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような紫外線遮蔽効果を得るために多量の紫外線吸収剤を用いると、無機系塗膜3が濁るなどして、この無機系塗膜3を透かして有機系塗膜4を視認することが困難となり、有機系塗膜4によって施された意匠が十分に活かされないこととなる。逆に、少量の紫外線吸収剤では、化粧セメント板の耐候性を十分に得ることができない。
【0004】
そこで、紫外線により劣化しやすい有機系塗膜4を形成しないで、着色セメント層2によって意匠を施すと共に、この着色セメント層2の表面に直接無機系塗膜3を形成することが考えられる。ところが、この場合、有機系塗膜4が存在しないので、蒸気養生の際にエフロレッセンス(白華)が発生することによって、着色セメント層2に対する無機系塗膜3の密着性が低下してしまうものである。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、有機系塗膜を形成しなくても着色セメント層に対する無機系塗膜の密着性を高く得ることができる化粧セメント板及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る化粧セメント板は、基材1の表面に着色セメント層2を形成し、この着色セメント層2の表面にシリコン系撥水剤を介して無機系塗膜3を形成して成ることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の請求項2に係る化粧セメント板の製造方法は、基材1の表面に着色セメント材料を塗布することによって着色セメント層2を形成し、次にこの着色セメント層2の表面にシリコン系撥水剤を塗布してから蒸気養生し、その後、シリコン系撥水剤の表面に無機系塗料を塗布することによって無機系塗膜3を形成して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1に係る化粧セメント板によれば、有機系塗膜を形成しなくても着色セメント層に対する無機系塗膜の密着性を高く得ることができるものである。
【0009】
本発明の請求項2に係る化粧セメント板の製造方法によれば、有機系塗膜を形成しなくても着色セメント層に対する無機系塗膜の密着性を高く得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
本発明において基材1としては、特に限定されるものではないが、例えば、基材用セメント材料11を成形したものを用いることができる。基材用セメント材料11は、例えば、骨材、セメント、補強繊維などの原材料をホッパーから供給し、各原材料を自動秤量しつつ、ミキサーで乾式均一混合することによって調製することができる。骨材としては、ブレーン値が3000〜5000の珪砂などを用いることができ、これをセメント100質量部に対して40〜60質量部添加することができる。セメントとしては、ポルトランドセメントやアルミナセメント等を用いることができる。補強繊維としては、例えば、平均繊維長2mmのパルプ繊維などを用いることができ、これをセメント100質量部に対して7〜15質量部添加することができる。そして、基材1は、基材用セメント材料11を乾式成形することによって、厚さ5mm程度の板状に成形することができる。
【0012】
また、本発明において着色セメント材料21としては、特に限定されるものではないが、例えば、骨材、セメント、顔料などの原材料をホッパーから供給し、各原材料を自動秤量しつつ、ミキサーで乾式均一混合することによって調製することができる。骨材としては、平均粒径0.1mmの珪砂などを用いることができ、これをセメント100質量部に対して10〜20質量部添加することができる。セメントとしては、ポルトランドセメントやアルミナセメント等を用いることができる。顔料としては、酸化鉄(黒色)、弁柄(赤色)、酸化クロム(緑色)、酸化チタン(白色)等を適宜に組み合わせて用いることができ、これらを全体でセメント100質量部に対して0.5〜4.0質量部添加することができる。
【0013】
また、本発明においてシリコン系撥水剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルキルアルコキシシラン反応物、メチルハイドロジェンシリコーン、ナトリウムメチルシリコーン、ジメチルシリコーン等を用いることができる。
【0014】
また、本発明において無機系塗料としては、特に限定されるものではないが、例えば、下記(A)〜(C)を含有するものを用いることができる。
【0015】
(A)下記(a)と(b)との加水分解縮合反応物を中和剤で中和し、水を添加して得られた有機無機複合樹脂水分散液。
【0016】
(a)下記[化1]で示されるオルガノシラン及びその部分加水分解縮合物100質量部。
【0017】
(b)加水分解性シリル基、又は水酸基と結合したケイ素原子を有するシリル基を有し、かつ、酸価が20〜150mgKOH/gのシリル基含有ビニル系樹脂5〜200質量部。
【0018】
(B)アミノ基を有する加水分解縮合反応可能なアルコキシシラン。
【0019】
(C)上記(B)成分のアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物。
【0020】
【化1】

【0021】
上記R1としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ビニル基などを挙げることができる。
【0022】
また、アルキル基は直鎖でも分岐したものでもよく、このようなアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などを挙げることができる。好ましいアルキル基は炭素数が1〜4個のものである。
【0023】
また、シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などを挙げることができる。
【0024】
また、アリール基としては、例えば、フェニル基などを挙げることができる。
【0025】
上記の各官能基は任意に置換基を有していてもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、脂環式基などを挙げることができる。
【0026】
上記R2で示されるアルキル基は直鎖でも分岐したものでもよく、このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基などを挙げることができる。好ましいアルキル基は炭素数が1〜2個のものである。
【0027】
上記[R1]で示されるオルガノシランの具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン等を挙げることができる。好ましくは、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシランである。これらのオルガノシランは1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。
【0028】
上記(a)成分は、上記のオルガノシランの部分加水分解縮合物であってもよい。この部分加水分解縮合物のポリスチレン換算質量平均分子量は、例えば、300〜5000、好ましくは、500〜3000である。このような分子量の縮合物を使用することにより、貯蔵安定性を悪化させることなく、密着性の良い塗膜を得ることができる。また、オルガノシランの部分加水分解縮合物は、ケイ素原子に結合した−OH基や−OR2基を1個以上、好ましくは、3〜30個有するものである。
【0029】
このような縮合物の具体例としては、市販品である信越化学工業社製「KR−211」、「KR−212」、「KR−213」、「KR−214」、「KR−216」、「KR−218」や、東芝シリコーン社製「TSR−145」、「TSR−160」、「TSR−165」、「YR−3187」等を挙げることができる。
【0030】
上記(a)成分について、n値が1のオルガノシラン、その部分加水分解縮合物と、n値が2のオルガノシラン、その部分加水分解縮合物との質量比が50:50〜100:0、好ましくは、60:40〜95:5の混合物を用いると、加水分解縮合反応させる際に安定に反応し、また、耐クラック性の良い塗膜が得られる。
【0031】
また、上記(b)成分は、ビニル系樹脂の末端あるいは側鎖に加水分解性シリル基、又は水酸基と結合したケイ素原子を有するシリル基を樹脂1分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上有し、かつ、酸価が20〜150mgKOH/gであり、好ましくは分子量が1000〜50000のビニル系樹脂である。
【0032】
上記シリル基は下記[化2]で示されるものである。
【0033】
【化2】

【0034】
シリル基含有ビニル系樹脂は、例えば、下記[化3]で示されるヒドロシラン化合物と、炭素−炭素二重結合を有するビニル系樹脂とを常法に従って反応させることにより製造される。
【0035】
【化3】

【0036】
なお、上記ヒドロシラン化合物として、例えば、メチルジクロロヒドロシラン、メチルジエトキシヒドロシラン、メチルジアセトキシヒドロシラン等を代表的なものとして挙げることができる。
【0037】
シリル基含有ビニル系樹脂を製造する際のヒドロシラン化合物の使用量は、ビニル系樹脂中に含まれる炭素−炭素二重結合の数に対して0.5〜2倍となるモル量が適当である。
【0038】
上記ビニル系樹脂は、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸又は無水マレイン酸などの酸無水物を必須モノマー単位として含有し、さらに(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、シクロヘキシル(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等からなる群から選ばれるビニル系モノマーをコモノマー単位として含有する共重合体を用いることができ、共重合体製造時に(メタ)アクリル酸アリル、ジアリルフタレート等をラジカル共重合させることにより、ビニル系樹脂中にヒドロシリル化反応のための炭素−炭素二重結合を導入することが可能となる。
【0039】
なお、得られるビニル系樹脂の酸価が20〜150mgKOH/g、好ましくは50〜120mgKOH/gとなるように、共重合体の構成モノマー中に上記のカルボン酸又は酸無水物を含有させる必要がある。ビニル系樹脂の酸価が20mgKOH/gより小さいと、得られる水分散液の貯蔵安定性が悪くなり、逆にビニル系樹脂の酸価が150mgKOH/gを超えると、得られる塗膜の耐水性、耐熱水性が悪くなるので、いずれも好ましくない。
【0040】
また、上記シリル基含有ビニル系樹脂のその他の製造方法としては、上記カルボン酸又は酸無水物を含むビニル系モノマーと、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシビニルエーテル等から選ばれる水酸基含有モノマーと、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等から選ばれるシリル基含有ビニル化合物とをラジカル重合させる方法もある。
【0041】
これらシリル基含有ビニル系樹脂の具体例としては、例えば、市販品である鐘淵化学工業社製「カネカゼムラック」等を挙げることができる。
【0042】
次に、主剤成分として用いる(A)成分の有機無機複合樹脂水分散液の製造方法について説明する。まず、上記(a)成分と(b)成分との混合物にさらに水及び触媒を存在させて加水分解及び縮合反応を生じさせる。(a)成分と(b)成分との混合割合は、(a)成分100質量部に対し、(b)成分が5〜200質量部、好ましくは10〜150質量部である。
【0043】
なお、(b)成分の配合量が5質量部より少ないと、得られる塗膜の外観や耐クラック性、耐凍害性、耐アルカリ性などが悪くなり、逆に(b)成分の配合量が200質量部を超えると、得られる塗膜の耐候性、耐汚染性などが悪くなるので好ましくない。
【0044】
上記(a)成分と(b)成分との混合物に添加する水の量は、(a)成分と(b)成分との混合物中に初期に存在していた加水分解性基の好ましくは45〜100%、より好ましくは50〜90%を加水分解及び縮合反応させるのに充分な量であり、具体的には上記の混合物中の加水分解性基の総数の0.45〜1.0倍、好ましくは0.5〜0.9倍のモル数となる量が適当である。なお、ここで45%以上が好ましいとする理由は、有機無機複合樹脂水分散液(エマルジョン)となったときの貯蔵安定性が良く、また、塗料に用いたときに透明性の高い膜形成が可能であるためである。
【0045】
上記(a)成分と(b)成分との混合物に添加する触媒としては、硝酸、塩酸などの無機酸や、酢酸、蟻酸、プロピオン酸などの有機酸を挙げることができる。触媒の添加量は、上記混合物のpHが3〜6になる量が適当である。加水分解反応については、(a)成分と(b)成分との混合物を、水及び触媒の存在下で、40〜80℃、好ましくは45〜65℃で、2〜10時間、撹拌しながら反応させる方法が適当であるが、この方法に限定されるものではない。
【0046】
なお、(a)成分と(b)成分との加水分解縮合反応を上記のように一段階で実施することが可能であるが、生成物の貯蔵安定性の観点から、次のような二段階で反応させることが好ましい。
【0047】
すなわち、第一段階として、水及び触媒の存在下で、(a)成分と(b)成分との混合物中に初期に存在していた加水分解性基の40〜80%、好ましくは45〜70%が加水分解縮合反応するように、40〜80℃、好ましくは45〜65℃で1〜8時間、撹拌しながら反応させる。
【0048】
第二段階として、第一段階に続いて、さらに、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン等のトリアルコキシボラン、トリ−n−ブトキシエチルアセテートジルコニウム、ジ−n−ブトキシ(エチルアセテート)ジルコニウム、テトタラキス(エチルアセテート)ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物、ジイソプロポキシビス(アセチルアセテート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセテート)チタン等のチタンキレート化合物、モノアセチルアセテートビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム、ジイソプロポキシエチルアセトアセテートアルミニウム等のアルミニウムキレート化合物などの有機金属化合物触媒を水と共に添加し、加水分解及び縮合反応を生じさせる。
【0049】
なお、第二段階で用いるトリアルコキシボランや有機金属化合物触媒は縮合反応を促進するため、塗膜の外観、耐候性、耐汚染性、耐熱水性などを向上させることができる。
【0050】
第二段階で添加する水の量は、(a)成分と(b)成分との混合物中に初期に存在していた加水分解性基の45〜100%、好ましくは50〜90%が加水分解及び縮合反応するのに充分な量である。第二段階で添加する触媒の量は、第一段階で得られた反応物と未反応で残っている上記(a)成分及び(b)成分との合計量100質量部に対して0.001〜5質量部、好ましくは0.005〜2質量部である。第二段階における加水分解縮合反応は、第一段階と同様に40〜80℃で2〜5時間反応させるのが適当である。
【0051】
なお、加水分解縮合反応物は、その反応で生成するアルコール分により、又はそのアルコール分と必要に応じて添加した有機溶媒(後述)とにより、溶液状態となっている。このようにして得られた反応物である有機無機複合樹脂の溶液に中和剤を加えて均一に分散させ、中和した後、水を加えるか、若しくは中和剤と水とを同時に加え、撹拌することにより強制分散させて水分散液(エマルジョン)を得る。
【0052】
中和剤の量は、安定なエマルジョンが得られるように、反応物である有機無機複合樹脂中の酸基の50〜100%、好ましくは、70〜100%を中和する量である。
【0053】
なお、中和剤としては、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、モルホリン等が代表的なものとして挙げられる。
【0054】
また、中和後に加える水の量は塗料の塗装作業性などを考慮して任意に決定されるが、通常、塗料組成物の固形分が10〜70質量%になる程度の量が適当である。なお、このようにして得られた有機無機複合樹脂水分散液中には上記の加水分解縮合反応により生成したアルコール分が残っている。従って、その水分散液をそのまま塗料組成物として使用すると、揮発性有機成分(VOC)が多くなるので、常法に従ってアルコール分を減圧下で除去することが好ましい。
【0055】
また、上記(B)成分は、分子内にアミノ基を有する加水分解縮合反応可能なアルコキシシランであり、具体的には、下記[化4]で示されるアミノ基含有アルコキシシランを使用することができる。
【0056】
【化4】

【0057】
なお、R4としてのアルキル基は直鎖でも分岐したものでもよく、その例として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基などを挙げることができる。好ましいアルキル基は炭素数が1〜2個のものである。
【0058】
R5としてのアルキレン基は直鎖でも分岐したものでもよく、その例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などを挙げることができる。
【0059】
R6としてのアルキル基は上記R4の場合と同様である。また、R6としてのシクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などを挙げることができる。また、R6としてのアリール基としては、例えば、フェニル基などを挙げることができる。さらに、R6としてのアミノ基としては、アミノ基中の水素原子の一方又は両方が、例えば、炭素数1〜5のアルキル基で置換されたもの等を挙げることができる。
【0060】
上記[化4]で示されるアミノ基含有アルコキシシランとしては、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−シクロヘキシル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0061】
(B)成分であるアルコキシシランの配合量は、上記(A)成分である有機無機複合樹脂水分散液の固形分(有機無機複合樹脂)100質量部に対し、好ましくは0.5〜30質量部、より好ましくは2〜15質量部である。なお、(B)成分の配合量が0.5質量部よりも少ないと、得られる塗膜の硬化性や耐汚染性が悪くなる傾向があり、逆に(B)成分の配合量が30質量部よりも多いと、耐熱水性や耐クラック性が悪くなる傾向がある。
【0062】
また、上記(C)成分は上記(B)成分中のアミノ基との反応性を有するエポキシ基を分子内に有する化合物を用いることができる。このような化合物としては、エポキシ基含有アルコキシシラン、アルキルグリシジルエーテル及びエステル、シクロエポキシ化合物、ビスフェノールAF系の低分子量エポキシ樹脂、あるいはこれらの乳化物などを用いることができる。
【0063】
具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロペニルオキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイミノオキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリイソプロペニルオキシシランとグリシドールとの付加物、ブチルグリシジルエーテル、ポリオキシエチレングリシジルエーテル、「カージュラーE」(シェル社製商品名)、ブチルフェニルグリシジルエーテル、「エピコート815、828、834」(油化シェルエポキシ社製商品名)及びこれらの乳化物などが代表的なものとして挙げられる。
【0064】
上記エポキシ基含有化合物の中でも加水分解性シリル基をもつエポキシ基含有アルコキシシラン化合物を用いた場合には塗膜の硬化性が向上し、耐熱性、耐アルカリ性などが良くなるので好ましい。
【0065】
上記(C)成分の配合量は、上記(B)成分であるアミノ基含有アルコキシシラン化合物のアミノ基の活性水素の総数に対して、エポキシ基含有化合物のエポキシ基の総数が好ましくは0.1〜2.0倍、より好ましくは0.2〜1.2倍となる量である。
【0066】
なお、上記(C)成分のエポキシ基含有化合物の量が上記の範囲より少ないと、得られる塗膜の耐熱水性などが悪くなる傾向があり、逆に上記の範囲より多いと、塗膜の耐候性、耐クラック性などが悪くなる傾向がある。上記(B)成分であるアミノ基含有アルコキシシラン化合物及び(C)成分であるエポキシ基含有化合物は塗装直前に(A)成分の水分散液と混合し、分散させて使用する。
【0067】
上記(B)成分及び(C)成分は硬化剤として作用し、(B)成分中のアミノ基は(C)成分中のエポキシ基と反応すると共に、(B)成分中のシリル基、さらには(C)成分中のシリル基(存在する場合のみ)が、(A)成分中の有機無機複合樹脂中に残存するシリル基と加水分解縮合反応し、耐熱水性、耐アルカリ性、耐候性、耐汚染性、耐溶剤性などに優れた硬化塗膜を形成する。
【0068】
そして、本発明における無機系塗料は、上述のように、主剤成分となる(A)成分の有機無機複合樹脂水分散液とその硬化剤となる(B)成分であるアミノ基含有アルコキシシラン化合物及び(C)成分であるエポキシ基含有化合物とを主成分とし、さらに必要に応じて、塗料組成物の貯蔵安定性や塗装作業性を良くするための水、有機溶媒(後述)、充填剤、染料、さらには、硬化促進剤、増粘剤、顔料分散剤などの各種添加剤などを配合したものから構成することができる。
【0069】
上記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類などの親水性有機溶媒やそれとトルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の疎水性の各種塗料用有機溶媒との混合溶媒が使用可能である。
【0070】
上記有機溶媒は、上記(A)成分である有機無機複合樹脂水分散液の製造時において、反応が均質に生じるように溶媒として配合することも可能である。有機溶媒の配合量は、塗料組成物の好ましくは0〜20質量%、より好ましくは0〜10質量%である。
【0071】
上記充填剤としては、通常の無機・有機染顔料を使用することができる。具体的には、酸化チタン、硫化亜鉛、亜鉛華、鉛白、リトポン、カーボンブラック、油煙、紺青、フタロシアニンブルー、群青、カーミンFB、黄鉛、亜鉛黄、ハンザイエロー、オーカー、弁柄、不活性含有アゾ染料などが代表的なものとして挙げられる。充填剤の配合量は、塗料組成物の固形分の好ましくは0〜70質量%、より好ましくは0〜50質量%である。
【0072】
なお、本発明において用いられる無機系塗料は、これによって形成される無機系塗膜3の風合いを活かすために、クリヤ塗料とすることが好ましい。カラークリヤ塗料とする場合は上記の無機・有機染顔料を樹脂固形分に対して0.01〜15質量%の割合で含んでもよい。この無機・有機染顔料の量が0.01質量%よりも少ないと、充分な色調の変化が得られず、逆に15質量%よりも多いと、形成される塗膜の透明度が低下するため深みのある色調の変化が得られなくなる傾向がある。特に、無機・有機染顔料の量が0.05〜10質量%程度のものが好ましい。
【0073】
そして、本発明に係る化粧セメント板は、図2に示すようにして、製造することができる。すなわち、上述した基材用セメント材料11を混合調製し、これを落下供給装置12により、矢印の向きに回転駆動中の無端コンベヤ13の搬送面上に連続的に落下供給する。
【0074】
上記無端コンベヤ13に落下供給された基材用セメント材料11は、邪魔板14でほぼ一定の厚さにならした後、加圧ローラ15で加圧する。そして、散水装置16によりセメント硬化用の水を散布した後、さらに、加圧ローラ17で加圧して略一定の厚さ(例えば5mm程度)の基材1を成形する。
【0075】
さらに、上述した着色セメント材料21を混合調製し、これを落下供給装置22により、矢印の向きに搬送中の基材1の上面に連続的に落下供給する。
【0076】
上記基材1の上面に落下供給された着色セメント材料21は、邪魔板24でほぼ一定の厚さにならした後、加圧ローラ25で加圧する。そして、散水装置26によりセメント硬化用の水を散布した後、さらに、加圧ローラ27で加圧して略一定の厚さに成形される。このように、基材1の表面に着色セメント材料21を塗布することによって、着色セメント層2が形成される。この着色セメント層2は、例えば、厚さ0.5mm程度に成形することができる。着色セメント層2が表面に形成された基材1は、切断装置18により適当な寸法に切断され、矩形板状体19となる。
【0077】
そして、上記のようにして得られる矩形板状体19を数日間自然養生した後、無端コンベヤ23で所定の位置まで搬送してからパンチプレス20で打ち抜くことによって、所定の寸法形状の板材28を得ることができる。この板材28を加熱装置29により60〜70℃に予熱し、次に、塗装装置を用い、この板材28の着色セメント層2の表面に下塗りとしてシリコン系撥水剤を塗布する。この下塗工程で着色セメント層2の表面に塗布されるシリコン系撥水剤の塗布量は、例えば、100〜200g/mに設定することができる。このようにシリコン系撥水剤による下塗りを行なってから、板材28をオートクレーブ30に入れて、蒸気養生する。この蒸気養生は、例えば、155〜185℃、5〜15時間の条件で行なうことができる。ここで、シリコン系撥水剤は、耐熱性及び耐アルカリ性に優れているので、蒸気養生の際にエフロレッセンスが発生するのを防止することができるものである。その後、塗装装置を用い、シリコン系撥水剤の表面に上塗りとして無機系塗料を塗布することによって無機系塗膜3を形成すると、図1に示すような化粧セメント板を得ることができるものである。
【0078】
上記のようにして得られる化粧セメント板にあっては、基材1の表面に着色セメント層2を形成し、この着色セメント層2の表面にシリコン系撥水剤を介して無機系塗膜3を形成してあるので、有機系塗膜4を形成しなくても着色セメント層2に対する無機系塗膜3の密着性を高く得ることができるものである。すなわち、従来の有機系塗膜4に比べてシリコン系撥水剤は、紫外線により劣化しにくいうえに、エフロレッセンスの発生も防止するので、着色セメント層2に対する密着性を高く得ることができる。そして、シリコン系撥水剤の表面に形成される無機系塗膜3は、同じシリコン系のオルガノシラン樹脂を主体として形成することができるので、シリコン系撥水剤と無機系塗膜3との間において親和性を高く得ることができ、その結果、有機系塗膜4を形成しなくても、着色セメント層2に対する無機系塗膜3の密着性を高く得ることができるものである。さらにこのように、有機系塗膜4を形成する必要がなくなるので、無機系塗膜3に紫外線吸収剤を含有しておく必要がなくなり、濁りのない無機系塗膜3及びシリコン系撥水剤を透かして、着色セメント層2によって施された種々の意匠を明瞭に視認することができるものである。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0080】
図2に示すように、基材用セメント材料11を混合調製し、この基材用セメント材料11を落下供給装置12により、回転駆動中の無端コンベヤ13の搬送面上に連続的に落下供給した。
【0081】
無端コンベヤ13に落下供給した基材用セメント材料11は、邪魔板14で略一定の厚さにならした後、加圧ローラ15で加圧した。そして、散水装置16によりセメント硬化用の水を散布した後、加圧ローラ17で加圧して略一定の厚さの基材1を成形した。
【0082】
さらに、着色セメント材料21を基材1の上面に散布して、上述した基材1と同様の工程(図2中、22〜27はそれぞれ12〜17に対応する)により基材1に着色セメント層2を形成した。そして、これを搬送した後、適当な寸法に切断することによって、矩形板状体19を得た。
【0083】
上記のようにして、基材1の表面に着色セメント材料21を散布することによって着色セメント層2を形成し、次にこの着色セメント層2の表面にシリコン系撥水剤を塗布してから、160〜180℃、8〜13時間の条件で蒸気養生し、その後、シリコン系撥水剤の表面に無機系塗料を塗布した。
【0084】
ここで、無機系塗料は、次のようにして調製した。すなわち、還流冷却器及び撹拌機を備えた反応器に、(a)成分であるメチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物23質量部、メチルトリメトキシシラン8質量部、ジメチルジメトキシシラン1.7質量部、シリル基含有ビニル系樹脂溶液の調製で得た(b)成分であるシリル基含有ビニル系樹脂溶液25質量部、及びイソプロパノール10質量部を加え、混合した後、イオン交換水3.0質量部及び1規定塩酸0.05質量部を加え、60℃で3時間反応させた。次いでモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)アルミニウム0.3質量部及びイオン交換水0.8質量部を加え、さらに60℃で3時間反応させた。次いでジメチルアミノエタノール0.55質量部及び水37質量部を加え、50℃で1時間撹拌した後、減圧(1.3×10Pa)下で脱溶剤を行った後、水で固形分濃度35%になるように希釈調整を行って、無機系塗料を調製した。
【0085】
そして、上記のようにして、シリコン系撥水剤の表面に無機系塗料を塗布することによって無機系塗膜3を形成すると、図1に示すような化粧セメント板が得られた。なお、化粧セメント板は、シリコン系撥水剤の塗装濃度を変えて、3種類製造した(下記[表3]参照)。また、下記[表3]中、塗装濃度の欄の10%、7%、4%はそれぞれ撥水剤成分の固形分濃度を示し、残りの成分は水である。
【0086】
さらに、シリコン系撥水剤を用いないで、化粧セメント板を製造した。
【0087】
そして、上記の各化粧セメント板(試験体)について、下記[表1]に示すような各種試験を行い、無機系塗膜3の密着性を調査した。
【0088】
【表1】

【0089】
上記[表1]に示す試験を行なった後、各化粧セメント板について、布テープ及びセロテープ(登録商標)を用いて、碁盤目剥離試験を行なった。そして、下記[表2]に基づいて、各化粧セメント板に点数を付けた。その結果を下記[表3]に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
上記[表3]にみられるように、シリコン系撥水剤を用いなかったものに比べて、シリコン系撥水剤を用いたものの方が、着色セメント層2に対する無機系塗膜3の密着性を高く得ることができることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係る化粧セメント板の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る化粧セメント板の製造方法の一例を示す説明図である。
【図3】従来の化粧セメント板の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0094】
1 基材
2 着色セメント層
3 無機系塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に着色セメント層を形成し、この着色セメント層の表面にシリコン系撥水剤を介して無機系塗膜を形成して成ることを特徴とする化粧セメント板。
【請求項2】
基材の表面に着色セメント材料を塗布することによって着色セメント層を形成し、次にこの着色セメント層の表面にシリコン系撥水剤を塗布してから蒸気養生し、その後、シリコン系撥水剤の表面に無機系塗料を塗布することによって無機系塗膜を形成して成ることを特徴とする化粧セメント板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−38416(P2007−38416A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221783(P2005−221783)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】