説明

化粧ブラシ用毛材および化粧ブラシ

【課題】化粧料の保持性に優れると共に、肌への触感も良好な化粧ブラシ用毛材、およびこれを用いた化粧ブラシを提供する。
【解決手段】合成樹脂製モノフィラメントのブリッスルからなり、その少なくとも一端にテーパー部を形成した化粧ブラシ用毛材であって、少なくとも前記テーパー部の表面に、開口部の最大長が2μm以上、30μm以下の凹部を100平方μm当たり0.1〜10個有することを特徴とする化粧ブラシ用毛材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料の保持性に優れると共に、肌への触感も良好な化粧ブラシ用毛材、およびこれを用いた化粧ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧ブラシ用毛材としては、獣毛や合成樹脂製の毛材などが多用されてきた。
【0003】
この内、獣毛は化粧液の保持性が良く毛腰が柔軟で使用感が良好とされるが、近年では動物保護の観点から入手困難となりつつあり、また品質のばらつきが大きく、さらに使用者によっては動物性アレルギーにより使用できないケースもあるという問題があった。
【0004】
一方、合成樹脂製の毛材、特にその先端を先鋭なテーパー状とした毛材は、安定した品質が得られ大量生産も可能であり、また動物性アレルギーを発症させることもないことから多用されているが、表面が平滑であるため化粧液の保持性や肌触りの点で獣毛に劣るといる問題があった。
【0005】
これらの問題点を改善するため、合成樹脂製毛材の断面を異形とするもの(例えば、特許文献1参照)や、毛材の長手方向に波型を設けたもの(例えば、特許文献2参照)が提案され、それなりの効果を上げているが、いずれも未だに獣毛の性能には及ばないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平4−124683号公報
【特許文献2】特開平11−235230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した従来の合成樹脂製毛材が有する問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、その目的は、獣毛に匹敵する化粧料の優れた保持性と、肌への良好な触感を有する化粧ブラシ用毛材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、先端をテーパー状とした合成樹脂製毛材において、その少なくともテーパー部の表面に、特定の大きさと密度を有する凹部を設けることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、合成樹脂製モノフィラメントのブリッスルからなり、その少なくとも一端にテーパー部を形成した化粧ブラシ用毛材であって、少なくとも前記テーパー部の表面に、開口部の最大長が2μm以上、30μm以下の凹部を100平方μm当たり0.1〜10個有することを特徴とする化粧ブラシ用毛材が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、獣毛に匹敵する化粧料の優れた保持性と、肌への良好な触感とを兼備した化粧ブラシ用ブリッスルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の化粧ブラシ用毛材は、合成樹脂製モノフィラメントのブリッスルからなり、その少なくとも一端にテーパー部を形成した化粧ブラシ用毛材であって、少なくとも前記テーパー部の表面に、開口部の最大長が2μm以上、30μm以下の凹部を100平方μm当たり0.1〜10個有することを特徴とする。
【0013】
本発明の化粧ブラシ用毛材を構成する合成樹脂製モノフィラメントとしては、公知の溶融紡糸方法によって製造されたものが使用される。その素材については特に限定しないが、テーパー部を公知のアルカリ溶解法によって形成する場合には、ポリエステル系樹脂、具体的にはポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略称する)、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、あるいはこれらを主体とする共重合体やブレンド物が適している。また、テーパー部を公知の酸溶解法によって形成する場合には、ポリアミド系樹脂、具体的にはポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6、ポリアミド66、あるいはこれらを主体とする共重合体やブレンド物が適している。
【0014】
本発明の化粧ブラシ用毛材を構成する合成樹脂製モノフィラメント表面の凹部は、いかなる方法で形成させても良いが、上記の合成樹脂として不活性粒子を添加したモノフィラメントを用いることにより、テーパー部の溶解処理によってこの不活性粒子が脱落し、少なくともテーパー部に凹部を形成させることが可能である。また、予めモノフィラメント全体を溶解処理した上でさらに先端だけを溶解処理すれば、非テーパー部も含めてモノフィラメントの表面全体に凹部を形成させることもできる。
【0015】
ここで、形成される凹部の大きさと密度が重要であり、凹部の開口部の最大長が2μm以上、300μm以下であり、かつ100平方μm当たり0.1〜10個とする必要がある。大きさおよび密度が上記範囲以上では、肌に対してざらざら感を与えることとなり、また上記範囲以下では、密着感を伴う不自然な使用感になるとともに、化粧料の保持性も著しく低下するため好ましくない。
【0016】
上記不活性粒子は、有機粒子、無機粒子いずれでも良く、例えばポリエステル系樹脂に添加する場合は、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、燐酸カルシウム、燐酸カリウム、燐酸アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどが挙げられるが、特に酸化ケイ素を主成分とする一次粒子が数十から数百nmなどの微粒子が集合した凝集粒子や球状の単分散性粒子が取り扱い易さの面で好ましい。
【0017】
上記合成樹脂製モノフィラメントの断面形状については、使用される化粧液の性状によって、円形、楕円形、多角形、多葉形、星型、T型、Y型、C型、繭形、菱形などを挙げることができる。また、これらの断面形状のモノフィラメントを組み合わせた毛材、あるいは混合した毛材とすることも可能である。
【0018】
なお、この合成樹脂製モノフィラメントには、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、耐熱剤、耐候剤、耐光剤、酸化防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、着色剤および可塑剤などの添加剤を任意に含有させることができる。
【実施例】
【0019】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。実施例における化粧ブラシ用毛材を植毛した化粧ブラシにおける性能評価は次の方法により行った。なお、化粧ブラシについては、実施例における化粧ブラシ用毛材を金具に植毛し、金具を軸に接合することにより製作したアイライナーブラシで評価を実施した。
【0020】
[化粧料塗布性能]
液体化粧料(資生堂:ff プラネタリウムアイズ パールブルー)を、下記の方法で作成したアイライナーブラシで紙に5mm幅で塗布し、持続的且つ均一に塗布できた長さを測定した。
【0021】
[肌への触感]
上記実験と同時に肌への触感についても、モニター数名から回答を得た。判定基準は以下の五段階とした。
判定:1・・柔軟であり獣毛に匹敵する触感
2・・獣毛には劣るが良好な触感
3・・特に良い触感ではないが実用上問題なし
4・・肌への刺激または密着感により、やや悪い触感
5・・肌への刺激または密着感により、悪い触感。
【0022】
[実施例1]
PBT樹脂(東レ製”トレコン”1200S)に対して酸化ケイ素粒子2.0重量%を添加した原料を用い、常法の溶融紡糸法で直径0.10mmの円形断面のモノフィラメントを得た。
【0023】
次に、このモノフィラメントを束ねた上で紙テープで巻き直径45mmの束とし、さらにこれを切断して長さ50mmのブリッスル束とした。このブリッスル束の片端を水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬させ、片端にテーパー部を有する毛材を作成した。得られた毛材のテーパー部の表面には、開口部の最大径が2〜30μmの凹部が100平方μmあたり0.02個形成されていた。さらに、このブリッスルを金具に植毛し、軸に接合することにより、アイライナーブラシを作製した。
【0024】
[実施例2]
実施例1において、酸化ケイ素粒子の平均粒子径を1.16μmとした以外は、同様の方法でアイライナーブラシを作製した。得られた毛材のテーパー部の表面には、開口部の最大径が2〜30μmの凹部が100平方μmあたり0.5個形成されていた。
【0025】
[実施例3]
実施例1において、酸化ケイ素粒子の添加量を5.0重量%とした以外は、同様の方法でアイライナーブラシを作製した。得られた毛材のテーパー部の表面には、開口部の最大径が2〜30μmの凹部が100平方μmあたり5個形成されていた。
【0026】
[比較例1]
実施例1において、酸化ケイ素粒子を添加しないこととした以外は、実施例1と同様の方法でアイライナーブラシを作製した。得られた毛材のテーパー部の表面には、凹部が形成されていなかった。
【0027】
[比較例2]
実施例1において、酸化ケイ素粒子の添加量を0.05重量%とした以外は、実施例1と同様の方法でアイライナーブラシを作製した。得られた毛材のテーパー部の表面には、開口部の最大径が2〜30μmの凹部が100平方μmあたり0.05個形成されていた。
【0028】
[比較例3]
実施例1において、酸化ケイ素粒子の添加量を15重量%とした以外は、同様の方法でアイライナーブラシを作製した。得られた毛材のテーパー部の表面には、開口部の最大径が2〜30μmの凹部が100平方μmあたり12個形成されていた。
【0029】
上記の各アイライナーブラシについて評価した結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1の結果から明らかなように、実施例1および2のブラシは、凹部のない比較例1および凹部の密度が低い比較例2に比べて、化粧料を多く保持できるため塗布長さが長く、また肌への感触も獣毛に匹敵すると評価された。また、実施例3のブラシは、凹部の密度がさらに高いために肌への感触がやや損なわれるが、塗布長さはさらに向上するものとなった。さらに凹部の密度を上げた比較例5は、塗布長さはやや向上するものの、使用時のざらざら感が顕著となるため、使用感が著しく劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の化粧ブラシ用毛材によれば、化粧料の優れた保持性と肌への良好な触感を兼備できることから、アイライナーブラシ、チークブラシ等の化粧ブラシにおいて、獣毛に匹敵する性能を有しながら、品質ばらつきが小さい製品を大量生産することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製モノフィラメントのブリッスルからなり、その少なくとも一端にテーパー部を形成した化粧ブラシ用毛材であって、少なくとも前記テーパー部の表面に、開口部の最大長が2μm以上、30μm以下の凹部を100平方μm当たり0.1〜10個有することを特徴とする化粧ブラシ用毛材。
【請求項2】
請求項1に記載のブラシ用毛材を少なくとも一部に使用したことを特徴とする化粧ブラシ。

【公開番号】特開2010−194149(P2010−194149A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43700(P2009−43700)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】