化粧品の製造装置
【課題】電磁誘導で加熱される製造釜の冷却時間を短縮可能な化粧品の製造装置を提供することを課題とする。
【解決手段】化粧品の原材料が入る製造釜8Cと、前記製造釜8Cの下部を高周波磁界によって発熱させる誘導加熱コイル27と、前記原材料を前記製造釜8Cの内部全体に混ぜる攪拌機29と、を備え、前記製造釜8Cは、前記原材料を冷却する冷水が流れる第一のジャケット部16を側壁部分14に有し、前記攪拌機29は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第二のジャケット部34を攪拌翼31の内部に有する。
【解決手段】化粧品の原材料が入る製造釜8Cと、前記製造釜8Cの下部を高周波磁界によって発熱させる誘導加熱コイル27と、前記原材料を前記製造釜8Cの内部全体に混ぜる攪拌機29と、を備え、前記製造釜8Cは、前記原材料を冷却する冷水が流れる第一のジャケット部16を側壁部分14に有し、前記攪拌機29は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第二のジャケット部34を攪拌翼31の内部に有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品の製造プロセスには、原材料を加温しながら乳化する工程や、適切な温度になるまで冷却する工程がある。冷却方式としては、例えば、特許文献1にあるように、加温を行なう蒸気を流すジャケット部に冷水を流すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−141381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化粧品の製造プロセスにおいて、加温した化粧品を冷却したい場合に、加温がジャケット部を用いた蒸気によるものであれば、当該ジャケット部に冷水を流すことで化粧品を効果的に冷やすことができる。しかし、例えば、電磁誘導加熱のように、製造釜の特に底部を発熱させて加温した化粧品を冷却する場合、冷水を流すジャケット部を形成できる部位が限られる。すなわち、電磁誘導加熱の場合、発熱する部分を冷却する部分と別々の構成にする必要がある。この結果、電磁誘導加熱によれば製造釜の搬送が容易になることで製造工程上のメリットを享受できるものの、加温した化粧品の冷却に時間を要する。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、電磁誘導で加熱される製造釜の冷却時間を短縮可能な化粧品の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、化粧品の加温や冷却の際に回転させる攪拌機の攪拌翼の内部に冷水を流すことにした。
【0007】
詳細には、化粧品の原材料が入る製造釜と、前記製造釜の下部を高周波磁界によって発熱させる誘導加熱コイルと、前記原材料を前記製造釜の内部全体に混ぜる攪拌機と、を備え、前記製造釜は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第一のジャケット部を側壁部分に有し、前記攪拌機は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第二のジャケット部を攪拌翼の内部に有する。
【0008】
化粧品の原材料を加温および冷却する場合、温度分布がまだらになるのを防ぎ且つ熱交換を促進するために、攪拌機で原材料を製造釜の内部全体に混ぜながら行なうのが通例である。ここで、上記化粧品の製造装置であれば、製造釜の側壁部分に、冷水が流れる第一のジャケット部が形成されているため、攪拌機によって攪拌された原材料と冷水との間における熱交換が促進されることで、化粧品の原材料の冷却が促進される。
【0009】
また、上記化粧品の製造装置においては、攪拌機の攪拌翼の内部に冷水を流すための第二のジャケット部が設けられているため、製造釜の側壁部分のみならず、攪拌翼の部分でも原材料と冷水との間における熱交換が行われる。このため、電磁誘導で発熱させるためにジャケット部を形成できない製造釜の下部における冷却不足が、攪拌翼の内部に設けられた第二のジャケット部によって補われる。よって、電磁誘導加熱方式で加熱される製造釜の冷却時間を短縮することが可能となる。
【0010】
なお、前記攪拌機は、前記攪拌翼の翼端が前記製造釜の底面及び壁面に沿って形成されており、前記第二のジャケット部は、前記原材料を冷却する冷水が、前記攪拌翼の翼端に沿って形成される水室の内部で、前記製造釜の底面側から該製造釜の壁面側へ向けて流れるものであってもよい。攪拌翼および第二のジャケット部がこのように構成されていれば、製造釜のうち第一のジャケット部による冷却効果が期待できない下部側を、第二のジャケット部に流入した冷水が最初に通過することになるため、冷却効果が高まる。このため、製造釜の冷却時間を短縮することが可能となる。
【0011】
また、前記攪拌機は、前記製造釜の底面及び壁面に付着する前記原材料を削ぎ取るスクレーパーを前記攪拌翼の翼端部分に更に有するものであってもよい。製造釜の内面に付着する原材料がスクレーパーによって削ぎ取られることにより、製造釜の中の原材料の攪拌が更に促進され、また、製造釜の側壁における冷却効果も高まる。
【発明の効果】
【0012】
電磁誘導で加熱される製造釜の冷却時間を短縮することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】セル生産システムのレイアウト図である。
【図2】製造セルの正面図である。
【図3】製造釜の構造図である。
【図4】排出機構の構造図である。
【図5】排出機構の動作説明図である。
【図6】IH加温装置の構造図である。
【図7】高周波磁界の磁力線と製造釜に誘起される渦電流との関係を示した図である。
【図8】数種類の金属材について、常温における比透磁率を示したグラフである。
【図9】オーステナイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼のヒステリシス曲線を示したグラフである。
【図10】オーステナイト系ステンレス鋼の板状のワークを加熱コイルで誘導加熱した場合に形成される磁力線を示した図である。
【図11】フェライトコアを加熱コイルの下側に配した状態で、オーステナイト系ステンレス鋼の板状のワークをコイルで電磁誘導した場合に形成される磁力線を示した図である。
【図12】蓋の構成図である。
【図13】アンカーミキサーの内部構造を示す図である。
【図14】昇降装置による蓋の開閉動作を示した図である。
【図15】製造セルにおける化粧品の製造工程の処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本願発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本願発明の一態様を例示するものである。すなわち、本願発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係るセル生産システム1のレイアウト図である。セル生産システム1は、原材料の溶解や乳化といった化粧品の製造プロセスを司る製造セル2と、製造した化粧品を容器に充填するプロセスを司る充填セル3とを備える。セル生産システム1は、製造セル2や充填セル3の操作機器類が一つのオペレーションエリア4に集約されるようにレイアウトされており、原材料の溶解から充填までの一連のプロセスを1名で行うことも可能である。
【0016】
図2は、製造セル2の正面図である。製造セル2は、溶解ユニット5A,B、及び乳化ユニット5Cの3つのユニットを備えている。各ユニットは、制御盤6が併設された架台7に搭載されており、原材料を入れた製造釜8A〜Cがそれぞれセットされる。架台7は、溶解ユニット5A,Bや乳化ユニット5Cと床との間に隙間を確保することで、製造釜を搬送するハンドリフターの脚が干渉しないようになっている。なお、各ユニットにセットされる製造釜8A〜Cは全て同じものであるが、説明の便宜上、本願では、溶解ユニット5Aにセットされる製造釜を製造釜8A、溶解ユニット5Bにセットされる製造釜を製造釜8B、乳化ユニット5Cにセットされる製造釜を製造釜8Cと称する。
【0017】
溶解ユニット5Aは、製造釜8Aを加温するためのIH(Induction Heating)加温装
置9Aや、製造釜8Aの開口部を塞ぐ蓋10A、蓋10Aを昇降する昇降装置11A、IH加温装置9を制御する制御ユニット12Aを備えている。蓋10Aには、製造釜8Aの中に投入された原材料を攪拌する攪拌機13Aが取り付けられている。溶解ユニット5Aは、圧力調整機構を有しており、蓋10Aによって開口部が塞がれた製造釜8Aの内部を必要に応じて減圧あるいは加圧し、圧力を適当に調整する。溶解ユニット5Bおよび乳化ユニット5Cについても同様である。
【0018】
攪拌機13Aは、ロータと多数のスリットを有するスクリーンとによって構成されており、ロータを高速回転することにより、微小なクリアランスが保たれたロータとスクリーンとの間に原材料を通過させて、溶解および攪拌を行なう。攪拌機13Aは、蓋10Aに取り付けられている。
【0019】
図3は、製造釜8Aの構造図である。製造釜8Aは、上側が開口しており、円筒状の側部14と逆円錐状の底部15とを備える。製造釜8Aは、入手が容易なオーステナイト系のステンレス鋼(SUS304)で構成されている。ステンレス鋼は、鋼材に添加されているクロム(Cr)によって形成される薄く均一な不働体皮膜により、優れた耐食性を発揮する。ステンレス鋼は、その耐食性により衛生面に優れ、化粧品の生産に好適である。
【0020】
製造釜8Aの側部14は、二重構造になっており、冷却用の冷水を流す空間(以下、側面ジャケット16という)が周回するように形成されている。また、製造釜8Aの外側面には、側面ジャケット16に流す冷水配管を繋ぐための継ぎ手17が取り付けられている。冷水配管は、フレキシブルなホースであり、着脱自在な継ぎ手17により、製造釜8Aに接続および取り外しが可能である。
【0021】
製造釜8Aの底部15には、製造釜8Aの中にある原材料を排出するための排出機構18が取り付けられている。底部15は、逆円錐状になっているため、製造釜8A内の原材料が排出機構18に集まり、容易に排出できる。図4は、排出機構18の構造図である。排出機構18は、製造釜8Aの底部15にある排出孔を開閉するためのボール弁20と、排出孔にできるデッドスペースを埋めるピストン状の治具22とを備える。
【0022】
治具22は、デッドスペースに嵌る頭部23と、頭部23を押し上げるためのシャフト24とを備える。頭部23は、排出孔の内径と同じ外径になっており、デッドスペースに嵌ると排出孔の流路を塞ぐ。
【0023】
他方、ボール弁20の中の通路は、頭部23の外径よりもやや大きい内径になっている。また、シャフト24は、中空になっており、中空部25、及び中空部25に通じる微小孔26A,Bが設けられている。
【0024】
図5は、排出機構18の動作説明図である。製造釜8Aは、通常、原材料が排出されな
いようにボール弁20が閉じられている(図5(A))。一方、製造釜8Aの中に投入された原材料を攪拌し、あるいは乳化を行なう場合には、ボール弁20を開いてから治具22を押し上げる(図5(B))。治具22を最後まで押し上げれば、デッドスペース(窪み)に頭部23が嵌ってデッドスペースが埋まると共に、排出経路が塞がる(図5(C))。
【0025】
他方、原材料を排出する場合は、ボール弁20を開き、治具22はそのままの状態にする(図5(D))。ボール弁20が開くことにより、製造釜8Aの中にある原材料が排出孔およびボール弁20を通過する。原材料は、微小孔26A、中空部25、微小孔26Bを通過して製造釜8Aの下へ排出される。
【0026】
製造釜8Aの説明については以上の通りである。なお、製造釜8B,XCについても、製造釜8Aと同様である。
【0027】
次に、IH加温装置9Aについて説明する。図6は、IH加温装置9Aの構造図である。IH加温装置9Aは、コイル27、及びフェライトコア28を備える。コイル27は、製造釜8Aが嵌るスペースを周回する導線であり、高周波電流を発生するインバータによって数十kHzの交流電流が流されると、高周波磁界を発生する。インバータは、製造釜8Aに入力される加熱電力が一定になるように、コイル27を流れる電流と出力電圧との位相を制御する。コイル27の両極間には、コイル27を流れる電流を共振作用によって増幅させるための共振コンデンサが接続されている。その他、IH加温装置9Aには、コイル27やインバータを冷却する冷却ファンや電源ユニット等の補機類が設けられている。
【0028】
なお、溶解ユニット5B、及び乳化ユニット5Cについても、IH加温装置9Aと同様のIH加温装置9B,Cが設けられている。
【0029】
図7は、コイル27周辺に発生する高周波磁界の磁力線と、製造釜8Aに誘起される渦電流との関係を示した図である。なお、図7では、理解を容易にするため、製造釜8やコイル27の形状を簡略化している。コイル27が発生する高周波磁界に製造釜8Aを置くと、製造釜8Aはステンレス鋼で構成されているため、製造釜8Aを構成する材料に高周波磁界を打ち消す方向(レンツの法則)の渦電流が誘起される。製造釜8Aを構成するステンレス鋼は、電気抵抗を有しているため、ジュールの法則に従って以下の数式1に示されるジュール熱を発生する。この結果、製造釜8A自身が発熱し、誘導加熱が実現される。
【数1】
【0030】
誘導加熱において加熱対象物であるワーク(製造釜に相当する)に入力される入力電力Pは、ワークの表皮抵抗Rsに比例し、渦電流の発生源である磁界の強さHの2乗に比例する。ワークの表皮抵抗Rsは、ワークを構成する材料の電気抵抗率ρと透磁率μ、加熱コイルを流れる電流の周波数fの平方根に比例する。また、磁界の強さHは、加熱コイルの巻き数Nと加熱コイルを流れる電流Iに比例する。よって、入力電力Pは、以下の数式2で表すことができる。
【数2】
【0031】
ワークを効果的に発熱させるには、ワーク自身に流れる渦電流が大きくなるように、入力電力Pを大きくすればよい。入力電力Pを大きくするためには、数式2から明らかなように、加熱コイルの巻き数Nや加熱コイルを流れる電流I、加熱コイルを流れる電流の周波数fを大きくするといった、コイル側の方策が効果的である。
【0032】
ここで、加熱コイルの巻き数Nや加熱コイルを流れる電流Iを大きくする場合、加熱コイルの低損失化や高耐圧化を図る必要があり、具体的には、コイル素線の細線化や撚り線化、コイル線間の絶縁強化といった対応を採る必要がある。また、加熱コイルを流れる電流の周波数fを大きくする場合、インバータ内の半導体スイッチング素子がON−OFF動作する回数が周波数fに比例して増えるため、半導体スイッチング素子のスイッチング損失の増大を抑制するべく、インバータの低損失化を図る必要がある。
【0033】
しかし、加熱コイルの低損失化や高耐圧化といった処置を採る場合、コイル素線を細線化するとコイル素線を撚る際のテンション調整や絶縁膜の厚さの確保が難しくなる。また、インバータの低損失化といった処置を採る場合、スイッチング損失を抑制するためのゼロ電流スイッチングを行なう回路の制御が周波数fに比例して難しくなる。
【0034】
以上から明らかなように、加熱コイルの巻き数Nや加熱コイルを流れる電流I、加熱コイルを流れる電流の周波数fを大きくするといったコイル側の方策を採る場合、技術的な問題から、入力電力Pを大きくするには自ずと限界がある。よって、ワークの材質を電気抵抗率ρや透磁率μの側面から選定するという、ワーク側における方策も肝要であることが判る。
【0035】
図8は、数種類の金属材について、常温における比透磁率を示したグラフである。詳細には、普通鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、銅、アルミニウムの5種類の金属材の比透磁率を示している。このグラフから判るように、オーステナイト系ステンレス鋼の比透磁率は、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼の比透磁率よりも低い。よって、本実施形態に係るセル生産システム1のように、衛生面や設備面、生産効率の側面からの要請により、オーステナイト系ステンレスで構成した製造釜8Aを誘導加熱したい場合、何ら工夫を施さないと、入力電力Pを大きくすることができない。
【0036】
この場合の対策として、オーステナイト系ステンレスの外側の面に透磁率の高い材質を熱溶射してコーティングすることも考えられる。しかし、製造釜8A〜Cは、IH加温装置9A〜Cから出し入れして搬送したりすることを前提とするため、搬送時にコーティングが損傷して剥がれる虞がある。
【0037】
ここで、オーステナイト系ステンレス鋼の比透磁率がフェライト系ステンレス鋼に比べて低いのは、次のような理由による。すなわち、フェライト系ステンレス鋼を構成する粒子の量子スピンは、常温では、熱ゆらぎによる乱れが生ずることなく、隣り合うスピン同士が同一の方向を向いて整列し続けるので、全体として大きな磁気モーメントを持った強磁性を呈する。これに対し、オーステナイト系ステンレス鋼を構成する粒子の量子スピンは、常温では、熱ゆらぎによる乱れにより、自発的な配向が無い状態に陥り、磁気モーメントがほとんど無い常磁性を呈するためである。
【0038】
なお、オーステナイト系ステンレス鋼は、常温のみならず、ネール温度以下においても磁気モーメントを持たないが、これは、オーステナイト系ステンレス鋼を構成する粒子の量子スピンが、隣り合うスピン同士が互い反対方向を向いた状態で整列することにより、全体として磁気モーメントを持たない状態になることで、反強磁性を呈するためである。もっとも、オーステナイト系ステンレス鋼のネール温度は数十K程度であるため、常温で
はオーステナイト系ステンレス鋼が反強磁性を呈するに至ることはない。
【0039】
また、フェライト系ステンレス鋼についても、如何なる環境下にあっても強磁性を呈するわけではない。すなわち、フェライト系ステンレス鋼がキュリー温度よりも温度の高い場合、フェライト系ステンレス鋼を構成する粒子の量子スピンは、熱ゆらぎによる乱れが発生して自発的な配向が無い状態に陥り、磁気モーメントがほとんど無い常磁性を呈するに至る。しかしながら、フェライト系ステンレス鋼のキュリー温度は、ステンレス鋼を構成する材料の成分比に応じて若干異なるものの一般的に千℃程度に達するため、本セル生産システム1において使用される温度領域では、フェライト系ステンレス鋼が常磁性を呈するに至ることはない。
【0040】
なお、ジュール熱は、オームの法則を勘案すると、以下の数式で表すことができる。
【数3】
【0041】
ここで、電圧E(V)はファラデーの電磁誘導の法則により磁束の変化率に比例にするため、これを一定とした場合、ワークを構成する材料の電気抵抗率ρを低くすることで渦電流を増大させてジュール熱を増大させる方策が考えられる。しかし、衛生面の観点から製造釜8A〜Cの材料としてステンレス鋼を採用せざるを得ない場合、電気抵抗率ρを最適化するという方策を採る余地はあまり無い。ステンレス鋼は、フェライト系やオーステナイト系、その他の如何なるものであっても、常温では銅の電気抵抗率ρの数十倍である約60〜70μΩ・cm程度の抵抗値を呈するためである。
【0042】
ところで、誘導加熱においては、上述したジュール熱の他に、ワークが有する磁気ヒステリシスに起因して発生するヒステリシス熱が加わる。ヒステリシス熱Pnは、加熱コイルを流れる電流の向きの変化に対する高周波磁界の磁束の変化の追従の遅れによって生じ、下記の数式で表される。
【数4】
【0043】
ここで、ヒステリシス係数ηは、ワークを構成する材料に固有のものであり、ヒステリシス熱Pnは、ヒステリシス係数ηに比例することが数式4から導かれる。よって、誘導加熱を効果的に行なうには、ヒステリシス熱による加熱促進の観点から、ヒステリシス係数ηの大きいものがワークの材料として選定し、あるいは磁束密度Bを高くすることが望まれる。
【0044】
図9は、オーステナイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼のヒステリシス曲線を示したグラフである。フェライト系ステンレス鋼の透磁率は、オーステナイト系ステンレス鋼の透磁率に比べて極めて大きい。よって、フェライト系ステンレス鋼のヒステリシス曲線で囲まれた部分の大きさ、換言すると、フェライト系ステンレス鋼のヒステリシス係数ηの大きさは、オーステナイト系ステンレス鋼のヒステリシス係数ηよりも極めて大きい値になる。このことから、オーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼に比べると、ヒステリシスによる加熱効果が劣ることが判る。
【0045】
本IH加温装置9Aのフェライトコア28は、以上のような事情を勘案した上で、オーステナイト系ステンレス鋼で構成される製造釜の誘導加熱を促進するべく、コイル27の下側を覆うように放射状に取り付けたものである。以下、フェライトコア28の効果について説明する。
【0046】
図10は、オーステナイト系ステンレス鋼の板状のワークを加熱コイルで誘導加熱した場合に形成される磁力線を示す。オーステナイト系ステンレス鋼は、透磁率が空気とさほど変わらないため、フェライトコアを設置しない場合、加熱コイルの回りには図10に示すような磁力線が形成される。
【0047】
図11は、フェライトコアを加熱コイルの下側に配した状態で、オーステナイト系ステンレス鋼の板状のワークを加熱コイルで誘導加熱した場合に形成される磁力線を示す。フェライトコアは、金属酸化物をセラミックで焼結した強磁性体であり、透磁率が極めて高い。このため、フェライトコアを加熱コイルの下側に設置すると、加熱コイルの下側の磁束がフェライトコアに引き寄せられて通過することになる。これにより、加熱コイルの周囲で広範囲に広がっていた磁束の多くが加熱コイルの周辺に集まり、ワークが設置されている空間の磁束密度や磁界の強さが増すことになる。この結果、ワークを通過する磁束が増えて見かけ上の透磁率が増加し、ワークで発生するジュール熱やヒステリシス熱が増えて効果的な誘導加熱が実現される。
【0048】
IH加温装置9Aについては以上の通りである。IH加温装置9B〜Cも同様である。次に、蓋10A〜Cのうち蓋10Cについては蓋10A,XBと異なる点があるため、その相違点について説明する。
【0049】
図12は、蓋10Cの構成図である。蓋10Cは、上述した攪拌機13Cの他、アンカーミキサー29が取り付けられている。蓋10Cには、中心を貫通するように配置されたアンカーミキサー29と、アンカーミキサー29の脇に配置された攪拌機13Cとが設けられている。
【0050】
アンカーミキサー29は、その名が示すように、船舶などを海上で停泊させる際に用いられるアンカーと同様の外形を有している。アンカーミキサー29は、モータ30に連結されたシャフト36を中心に、シャフト36の下端から斜め上方に延在する攪拌翼31が回転する。モータ30は、タップの切り替え、あるいはインバータの周波数調整を行なうことによって回転速度の調整が可能である。攪拌翼31には、製造釜8Cの底面及び側面に近接するようにスクレーパー37が取り付けられており、製造釜8の内面についた原材料を削ぎ取る。
【0051】
なお、攪拌機13Cは、ロータやスクリーンが内蔵されている下側の作動部分が、シャフト36と攪拌翼31との間の空間に配置されることにより、回転するアンカーミキサー29に接触しないようになっている。
【0052】
アンカーミキサー29は、ジャケット構造になっており、工場内のユーティリティ配管から供給される冷水が内部を流れる。冷水は、ロータリージョイント32を介して供給され、攪拌翼31の内部を通過するようになっている。
【0053】
図13は、アンカーミキサー29の内部構造を示す図である。シャフト36は、二重管構造になっており、ユーティリティ配管からロータリージョイント32を介して供給される冷水が内側の管内33Iを流れるようになっている。シャフト36を構成する二重管のうち内側の管内33Iを流れる冷水は、シャフト36の下端部分で各攪拌翼31に分岐す
る。攪拌翼31は、2つの水室によって構成されたアンカージャケット34を有しており、シャフト36の下端部分で各攪拌翼31に分岐した冷水はアンカージャケット34の下側の水室35Bに流入する。下側の水室35Bに流入した冷水は、攪拌翼31の周囲にある原材料の熱を除去しながら、上側の水室35Uに流入する。そして、シャフト36を構成する二重管のうち外側の管内33Oを通過し、ロータリージョイント32を介してユーティリティ設備へ排送される。
【0054】
なお、アンカージャケット34をこのように構成したのは、次のような理由による。すなわち、製造釜8Cを加温するIH加温装置9Cは、製造釜8Cのうち主に下側を加熱するように加熱コイル27が配設されている。また、製造釜8Cの外側面には、側面ジャケット16が設けられており、冷却の際には冷水が通水される。よって、製造釜8Cのうち下側の部分については、上側の部分よりも冷えにくいと推定される。そこで、本実施形態のアンカーミキサー29では、アンカージャケット34の流通経路を、最初に下側の水室35Bを通過し、次に上側の水室35Uを通過するようにしたものである。
【0055】
蓋10Cの構成については以上の通りである。次に、蓋10A〜Cの開閉動作について説明する。
【0056】
図14は、昇降装置11Cによる蓋10Cの開閉動作を示した図である。蓋10Cが製造釜8Cの開口部を閉じた状態(図14(A))で昇降装置11Cを作動させると、蓋10Cが上昇する(図14(B))。昇降装置11Cは、蓋10Cが所定の高さまで上昇すると、自動的に停止する(図14(C))。蓋10Cを降下させる場合は、上述と逆の順に動作する。なお、図14では、蓋10Cを上昇させる場合を例示しているが、蓋10A,Bについても同様である。
【0057】
蓋10A〜Cが昇降装置11A〜Cにより所定の高さまで上昇すると、製造釜8A〜CをIH加温装置9A〜Cから取り出し可能になる。これにより、製造釜8A〜Cを他の溶解ユニット5A,XBや乳化ユニット5C、或いは充填セル3へ移動させることが可能になる。製造釜8A〜Cを動かす場合は、製造釜8A〜Cを2本の爪で挟持するように支持するフォークを備えたハンドリフターなどを使い、製造釜8A〜Cの昇降や位置の移動を行う。
【0058】
以上のように構成される製造セル2では、図15に示すような処理フローで化粧品の製造を行う。すなわち、製造釜8Aにおいては、原材料の投入(S101)を行なった後に蓋10Aを閉じ、攪拌機13Aを起動して原材料の攪拌および溶解(S102)を行う。また、適切なタイミングでIH加温装置9Aを起動して製造釜8Aを加熱(S103)し、原材料を適切な温度に制御する。そして、原材料が適切な温度に調整されたら、原材料を製造釜8Cに投入(S104)する。
【0059】
また、製造釜8Bにおいては、製造釜8Aに投入されたのとは異種の原材料の投入(S201)を行なった後に蓋10Bを閉じ、攪拌機13Bを起動して原材料の攪拌および溶解(S202)を行なう。また、適切なタイミングでIH加温装置9Bを起動して製造釜8Bを加熱(S203)し、原材料を適切な温度に制御する。そして、原材料が適切な温度に調整されたら、原材料を製造釜8Cに投入(S204)する。
【0060】
また、製造釜8Cにおいては、適切なタイミングでIH加温装置9Cを起動して製造釜8Cを加熱(S401)する。また、原材料が投入されたら蓋10Cを閉じた後、攪拌機13Cやアンカーミキサー29を起動し、乳化(S402)を行なう。また、乳化が完了したら、アンカーミキサー29を作動させた状態のまま攪拌機13CやIH加温装置9Cを停止すると共に、アンカージャケット34や側面ジャケット16に冷水を流して冷却(
S403)を行なう。
【0061】
また、製造釜8Cを冷却している間の適切なタイミングで、ステンレス容器等に投入(S301)した各種の添加成分を製造釜8Cに投入(S302)する。製造釜8Cにおいては、投入された添加成分が回転するアンカーミキサー29によって原材料と混ざり、適切な温度まで冷えれば化粧品の製造プロセスが完了する。なお、製造された化粧品は、サンプリングされて検査等が行なわれる。また、冷却が完了したら、側面ジャケット16やアンカージャケット34内の水は高圧の空気で排出する。
【0062】
以上により、製造セル2における化粧品の製造プロセスが完了すると、製造釜8Cを充填セル3へ搬送する。充填セル3においては、ハンドリング装置としてのロボットハンドが充填用の容器を把持して移動し、容器への化粧品の充填が行なわれる。容器への化粧品の充填に際しては、製造釜8Cの下部に設けられた排出孔を開くことにより、製造釜8Cが充填ホッパーとしての機能を発揮する。容器に充填された化粧品は、梱包された後に商品として出荷される。なお、本実施形態に係るセル生産システム1によって実行される生産プロセスは、上記に説明した処理フローに限定されるものではない。
【0063】
上記実施形態によれば、製造釜8A〜Cが蒸気配管に接続されておらず、非接触の誘導加熱によって加温されるため、製造釜8A〜Cを製造セル2から充填セル3へ容易に搬送できる。このため、少量多品種生産に容易に対応でき、且つ、一連の生産プロセスを一人で行なうこともできる。
【0064】
また、上記実施形態によれば、アンカーミキサー29によって攪拌されながら、側面ジャケット16のみならずアンカージャケット34を通過する冷水によって効率的に冷却されるため、化粧料の品質はそのままに、従来の製法に比べて約80%程度の時間で所望の温度まで冷却することができる。冷却時間が短縮されることにより、化粧品中に含まれる油脂類等の品質劣化を防ぐことができる。
【0065】
また、上記実施形態によれば、アンカーミキサー29で攪拌しながら乳化を行なうため、均一な乳化を短時間で行うことができる。よって、加熱時間が短縮され、油脂類等の品質劣化を防ぐことができる。
【0066】
フェライトコアの効果を検証する実験を行なったので、以下、実験の内容および結果について説明する。本実験では、誘導加熱するワークとして、以下の表に示す2つのサンプルを用意した。
【表1】
【0067】
また、本実験で使用した誘導加熱用のインバータの定格消費電力は5kWであり、加熱コイルは直径270mmの円板状コイルであり、フェライトコアは寸法が64mm(L)×10mm(W)×5mm(H)である。
【0068】
実験における記録項目は、コイル特性(負荷時と無負荷時のそれぞれの場合におけるインダクタンスL(μH)およびコイル性能Q)、ギャップ、電力、出力周波数、最大出力
電流、入力電圧、温度分布である。コイル性能Qは、リアクタンス成分と抵抗成分との比である。
【0069】
実験条件は、フェライトコアが無い状態(通常運転)、フェライトコアをワークとコイルとの間に置いた本実施形態に相当する状態(条件変更1)、フェライトコアをワークと反対側であるコイルの下側に置いた状態(条件変更2)の3つの条件を設定した。実験結果を以下の表に示す。
【表2】
【0070】
上記の表が示す実験結果から、通常運転の場合、サンプル1に比べてサンプル2は電力(kW)が半分以下になり、有効に加熱できていないことが判る。これは、コイルとワークとがアンマッチング状態になったためと推定される。また、実験結果から、出力周波数が増大することが判る。これは、サンプル2の方がサンプル1よりも比透磁率が低いためにインダクタンスが低下し、これにより共振周波数が低下したためと推定される。また、実験結果から、最大出力電流が増大することが判る。これは、共振周波数の低下に伴ってコイルの表面における表皮効果が低減され、これにより高周波抵抗が減って電流値が増大したためと推定される。
【0071】
また、上記の表が示す実験結果から、条件変更1の場合、通常運転に比べるとサンプル1とサンプル2ともに電力(kW)が増えており、加熱効果が改善されていることが判る。この結果から、フェライトコアをワークと反対側であるコイルの下側に置くことで、コイルで発生する磁束がワークの誘導加熱に効果のある磁束へと変化することが判る。
【0072】
また、上記の表が示す実験結果から、条件変更2の場合、通常運転に比べるとサンプル1とサンプル2ともに電力(kW)が減っており、有効な加熱ができないことが判る。この結果から、フェライトコアをワークとコイルとの間に置くことで、ワークを通過すべき磁束のほとんどがフェライトコアに吸収されてしまうことが判る。
【0073】
なお、上記実施形態では、アンカーミキサー29について、例えば図12に示すように攪拌翼31を2つとしていたが、3つ以上であってもよい。また、攪拌翼31の枚数やモータ30の回転速度、製造釜8Cの温度、冷水の流量等は、製造釜8Cに投入されている原材料の物性に応じて適宜調整する。例えば、原材料を乳化するときの攪拌翼31の枚数やモータ30の回転速度、製造釜8Cの温度は、化粧料の品質(例えば、粘度や気泡の大きさ)が製品としての要件を満たすように調整する。攪拌翼31の枚数は、攪拌翼31の
枚数が互いに異なる数種類のアンカーミキサーの中から適宜選択して交換することにより調整する。また、乳化した原材料を冷却するときのモータ30の回転速度や冷水の流量は、アンカーミキサー29や製造釜8Cへの化粧料の付着の程度(ダマの解消)等に基づいて決定する。
【符号の説明】
【0074】
1・・セル生産システム
2・・製造セル
3・・充填セル
5A,B・・溶解ユニット
5C・・乳化ユニット
8A,B,C・・製造釜
9A,B,C・・IH(Induction Heating)加温装置
13A,B,C・・攪拌機
16・・側面ジャケット
17・・継ぎ手
18・・排出機構
22・・治具
27・・コイル
28・・フェライトコア
29・・アンカーミキサー
31・・攪拌翼
34・・アンカージャケット
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品の製造プロセスには、原材料を加温しながら乳化する工程や、適切な温度になるまで冷却する工程がある。冷却方式としては、例えば、特許文献1にあるように、加温を行なう蒸気を流すジャケット部に冷水を流すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−141381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化粧品の製造プロセスにおいて、加温した化粧品を冷却したい場合に、加温がジャケット部を用いた蒸気によるものであれば、当該ジャケット部に冷水を流すことで化粧品を効果的に冷やすことができる。しかし、例えば、電磁誘導加熱のように、製造釜の特に底部を発熱させて加温した化粧品を冷却する場合、冷水を流すジャケット部を形成できる部位が限られる。すなわち、電磁誘導加熱の場合、発熱する部分を冷却する部分と別々の構成にする必要がある。この結果、電磁誘導加熱によれば製造釜の搬送が容易になることで製造工程上のメリットを享受できるものの、加温した化粧品の冷却に時間を要する。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、電磁誘導で加熱される製造釜の冷却時間を短縮可能な化粧品の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、化粧品の加温や冷却の際に回転させる攪拌機の攪拌翼の内部に冷水を流すことにした。
【0007】
詳細には、化粧品の原材料が入る製造釜と、前記製造釜の下部を高周波磁界によって発熱させる誘導加熱コイルと、前記原材料を前記製造釜の内部全体に混ぜる攪拌機と、を備え、前記製造釜は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第一のジャケット部を側壁部分に有し、前記攪拌機は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第二のジャケット部を攪拌翼の内部に有する。
【0008】
化粧品の原材料を加温および冷却する場合、温度分布がまだらになるのを防ぎ且つ熱交換を促進するために、攪拌機で原材料を製造釜の内部全体に混ぜながら行なうのが通例である。ここで、上記化粧品の製造装置であれば、製造釜の側壁部分に、冷水が流れる第一のジャケット部が形成されているため、攪拌機によって攪拌された原材料と冷水との間における熱交換が促進されることで、化粧品の原材料の冷却が促進される。
【0009】
また、上記化粧品の製造装置においては、攪拌機の攪拌翼の内部に冷水を流すための第二のジャケット部が設けられているため、製造釜の側壁部分のみならず、攪拌翼の部分でも原材料と冷水との間における熱交換が行われる。このため、電磁誘導で発熱させるためにジャケット部を形成できない製造釜の下部における冷却不足が、攪拌翼の内部に設けられた第二のジャケット部によって補われる。よって、電磁誘導加熱方式で加熱される製造釜の冷却時間を短縮することが可能となる。
【0010】
なお、前記攪拌機は、前記攪拌翼の翼端が前記製造釜の底面及び壁面に沿って形成されており、前記第二のジャケット部は、前記原材料を冷却する冷水が、前記攪拌翼の翼端に沿って形成される水室の内部で、前記製造釜の底面側から該製造釜の壁面側へ向けて流れるものであってもよい。攪拌翼および第二のジャケット部がこのように構成されていれば、製造釜のうち第一のジャケット部による冷却効果が期待できない下部側を、第二のジャケット部に流入した冷水が最初に通過することになるため、冷却効果が高まる。このため、製造釜の冷却時間を短縮することが可能となる。
【0011】
また、前記攪拌機は、前記製造釜の底面及び壁面に付着する前記原材料を削ぎ取るスクレーパーを前記攪拌翼の翼端部分に更に有するものであってもよい。製造釜の内面に付着する原材料がスクレーパーによって削ぎ取られることにより、製造釜の中の原材料の攪拌が更に促進され、また、製造釜の側壁における冷却効果も高まる。
【発明の効果】
【0012】
電磁誘導で加熱される製造釜の冷却時間を短縮することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】セル生産システムのレイアウト図である。
【図2】製造セルの正面図である。
【図3】製造釜の構造図である。
【図4】排出機構の構造図である。
【図5】排出機構の動作説明図である。
【図6】IH加温装置の構造図である。
【図7】高周波磁界の磁力線と製造釜に誘起される渦電流との関係を示した図である。
【図8】数種類の金属材について、常温における比透磁率を示したグラフである。
【図9】オーステナイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼のヒステリシス曲線を示したグラフである。
【図10】オーステナイト系ステンレス鋼の板状のワークを加熱コイルで誘導加熱した場合に形成される磁力線を示した図である。
【図11】フェライトコアを加熱コイルの下側に配した状態で、オーステナイト系ステンレス鋼の板状のワークをコイルで電磁誘導した場合に形成される磁力線を示した図である。
【図12】蓋の構成図である。
【図13】アンカーミキサーの内部構造を示す図である。
【図14】昇降装置による蓋の開閉動作を示した図である。
【図15】製造セルにおける化粧品の製造工程の処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本願発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本願発明の一態様を例示するものである。すなわち、本願発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係るセル生産システム1のレイアウト図である。セル生産システム1は、原材料の溶解や乳化といった化粧品の製造プロセスを司る製造セル2と、製造した化粧品を容器に充填するプロセスを司る充填セル3とを備える。セル生産システム1は、製造セル2や充填セル3の操作機器類が一つのオペレーションエリア4に集約されるようにレイアウトされており、原材料の溶解から充填までの一連のプロセスを1名で行うことも可能である。
【0016】
図2は、製造セル2の正面図である。製造セル2は、溶解ユニット5A,B、及び乳化ユニット5Cの3つのユニットを備えている。各ユニットは、制御盤6が併設された架台7に搭載されており、原材料を入れた製造釜8A〜Cがそれぞれセットされる。架台7は、溶解ユニット5A,Bや乳化ユニット5Cと床との間に隙間を確保することで、製造釜を搬送するハンドリフターの脚が干渉しないようになっている。なお、各ユニットにセットされる製造釜8A〜Cは全て同じものであるが、説明の便宜上、本願では、溶解ユニット5Aにセットされる製造釜を製造釜8A、溶解ユニット5Bにセットされる製造釜を製造釜8B、乳化ユニット5Cにセットされる製造釜を製造釜8Cと称する。
【0017】
溶解ユニット5Aは、製造釜8Aを加温するためのIH(Induction Heating)加温装
置9Aや、製造釜8Aの開口部を塞ぐ蓋10A、蓋10Aを昇降する昇降装置11A、IH加温装置9を制御する制御ユニット12Aを備えている。蓋10Aには、製造釜8Aの中に投入された原材料を攪拌する攪拌機13Aが取り付けられている。溶解ユニット5Aは、圧力調整機構を有しており、蓋10Aによって開口部が塞がれた製造釜8Aの内部を必要に応じて減圧あるいは加圧し、圧力を適当に調整する。溶解ユニット5Bおよび乳化ユニット5Cについても同様である。
【0018】
攪拌機13Aは、ロータと多数のスリットを有するスクリーンとによって構成されており、ロータを高速回転することにより、微小なクリアランスが保たれたロータとスクリーンとの間に原材料を通過させて、溶解および攪拌を行なう。攪拌機13Aは、蓋10Aに取り付けられている。
【0019】
図3は、製造釜8Aの構造図である。製造釜8Aは、上側が開口しており、円筒状の側部14と逆円錐状の底部15とを備える。製造釜8Aは、入手が容易なオーステナイト系のステンレス鋼(SUS304)で構成されている。ステンレス鋼は、鋼材に添加されているクロム(Cr)によって形成される薄く均一な不働体皮膜により、優れた耐食性を発揮する。ステンレス鋼は、その耐食性により衛生面に優れ、化粧品の生産に好適である。
【0020】
製造釜8Aの側部14は、二重構造になっており、冷却用の冷水を流す空間(以下、側面ジャケット16という)が周回するように形成されている。また、製造釜8Aの外側面には、側面ジャケット16に流す冷水配管を繋ぐための継ぎ手17が取り付けられている。冷水配管は、フレキシブルなホースであり、着脱自在な継ぎ手17により、製造釜8Aに接続および取り外しが可能である。
【0021】
製造釜8Aの底部15には、製造釜8Aの中にある原材料を排出するための排出機構18が取り付けられている。底部15は、逆円錐状になっているため、製造釜8A内の原材料が排出機構18に集まり、容易に排出できる。図4は、排出機構18の構造図である。排出機構18は、製造釜8Aの底部15にある排出孔を開閉するためのボール弁20と、排出孔にできるデッドスペースを埋めるピストン状の治具22とを備える。
【0022】
治具22は、デッドスペースに嵌る頭部23と、頭部23を押し上げるためのシャフト24とを備える。頭部23は、排出孔の内径と同じ外径になっており、デッドスペースに嵌ると排出孔の流路を塞ぐ。
【0023】
他方、ボール弁20の中の通路は、頭部23の外径よりもやや大きい内径になっている。また、シャフト24は、中空になっており、中空部25、及び中空部25に通じる微小孔26A,Bが設けられている。
【0024】
図5は、排出機構18の動作説明図である。製造釜8Aは、通常、原材料が排出されな
いようにボール弁20が閉じられている(図5(A))。一方、製造釜8Aの中に投入された原材料を攪拌し、あるいは乳化を行なう場合には、ボール弁20を開いてから治具22を押し上げる(図5(B))。治具22を最後まで押し上げれば、デッドスペース(窪み)に頭部23が嵌ってデッドスペースが埋まると共に、排出経路が塞がる(図5(C))。
【0025】
他方、原材料を排出する場合は、ボール弁20を開き、治具22はそのままの状態にする(図5(D))。ボール弁20が開くことにより、製造釜8Aの中にある原材料が排出孔およびボール弁20を通過する。原材料は、微小孔26A、中空部25、微小孔26Bを通過して製造釜8Aの下へ排出される。
【0026】
製造釜8Aの説明については以上の通りである。なお、製造釜8B,XCについても、製造釜8Aと同様である。
【0027】
次に、IH加温装置9Aについて説明する。図6は、IH加温装置9Aの構造図である。IH加温装置9Aは、コイル27、及びフェライトコア28を備える。コイル27は、製造釜8Aが嵌るスペースを周回する導線であり、高周波電流を発生するインバータによって数十kHzの交流電流が流されると、高周波磁界を発生する。インバータは、製造釜8Aに入力される加熱電力が一定になるように、コイル27を流れる電流と出力電圧との位相を制御する。コイル27の両極間には、コイル27を流れる電流を共振作用によって増幅させるための共振コンデンサが接続されている。その他、IH加温装置9Aには、コイル27やインバータを冷却する冷却ファンや電源ユニット等の補機類が設けられている。
【0028】
なお、溶解ユニット5B、及び乳化ユニット5Cについても、IH加温装置9Aと同様のIH加温装置9B,Cが設けられている。
【0029】
図7は、コイル27周辺に発生する高周波磁界の磁力線と、製造釜8Aに誘起される渦電流との関係を示した図である。なお、図7では、理解を容易にするため、製造釜8やコイル27の形状を簡略化している。コイル27が発生する高周波磁界に製造釜8Aを置くと、製造釜8Aはステンレス鋼で構成されているため、製造釜8Aを構成する材料に高周波磁界を打ち消す方向(レンツの法則)の渦電流が誘起される。製造釜8Aを構成するステンレス鋼は、電気抵抗を有しているため、ジュールの法則に従って以下の数式1に示されるジュール熱を発生する。この結果、製造釜8A自身が発熱し、誘導加熱が実現される。
【数1】
【0030】
誘導加熱において加熱対象物であるワーク(製造釜に相当する)に入力される入力電力Pは、ワークの表皮抵抗Rsに比例し、渦電流の発生源である磁界の強さHの2乗に比例する。ワークの表皮抵抗Rsは、ワークを構成する材料の電気抵抗率ρと透磁率μ、加熱コイルを流れる電流の周波数fの平方根に比例する。また、磁界の強さHは、加熱コイルの巻き数Nと加熱コイルを流れる電流Iに比例する。よって、入力電力Pは、以下の数式2で表すことができる。
【数2】
【0031】
ワークを効果的に発熱させるには、ワーク自身に流れる渦電流が大きくなるように、入力電力Pを大きくすればよい。入力電力Pを大きくするためには、数式2から明らかなように、加熱コイルの巻き数Nや加熱コイルを流れる電流I、加熱コイルを流れる電流の周波数fを大きくするといった、コイル側の方策が効果的である。
【0032】
ここで、加熱コイルの巻き数Nや加熱コイルを流れる電流Iを大きくする場合、加熱コイルの低損失化や高耐圧化を図る必要があり、具体的には、コイル素線の細線化や撚り線化、コイル線間の絶縁強化といった対応を採る必要がある。また、加熱コイルを流れる電流の周波数fを大きくする場合、インバータ内の半導体スイッチング素子がON−OFF動作する回数が周波数fに比例して増えるため、半導体スイッチング素子のスイッチング損失の増大を抑制するべく、インバータの低損失化を図る必要がある。
【0033】
しかし、加熱コイルの低損失化や高耐圧化といった処置を採る場合、コイル素線を細線化するとコイル素線を撚る際のテンション調整や絶縁膜の厚さの確保が難しくなる。また、インバータの低損失化といった処置を採る場合、スイッチング損失を抑制するためのゼロ電流スイッチングを行なう回路の制御が周波数fに比例して難しくなる。
【0034】
以上から明らかなように、加熱コイルの巻き数Nや加熱コイルを流れる電流I、加熱コイルを流れる電流の周波数fを大きくするといったコイル側の方策を採る場合、技術的な問題から、入力電力Pを大きくするには自ずと限界がある。よって、ワークの材質を電気抵抗率ρや透磁率μの側面から選定するという、ワーク側における方策も肝要であることが判る。
【0035】
図8は、数種類の金属材について、常温における比透磁率を示したグラフである。詳細には、普通鋼、フェライト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼、銅、アルミニウムの5種類の金属材の比透磁率を示している。このグラフから判るように、オーステナイト系ステンレス鋼の比透磁率は、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼の比透磁率よりも低い。よって、本実施形態に係るセル生産システム1のように、衛生面や設備面、生産効率の側面からの要請により、オーステナイト系ステンレスで構成した製造釜8Aを誘導加熱したい場合、何ら工夫を施さないと、入力電力Pを大きくすることができない。
【0036】
この場合の対策として、オーステナイト系ステンレスの外側の面に透磁率の高い材質を熱溶射してコーティングすることも考えられる。しかし、製造釜8A〜Cは、IH加温装置9A〜Cから出し入れして搬送したりすることを前提とするため、搬送時にコーティングが損傷して剥がれる虞がある。
【0037】
ここで、オーステナイト系ステンレス鋼の比透磁率がフェライト系ステンレス鋼に比べて低いのは、次のような理由による。すなわち、フェライト系ステンレス鋼を構成する粒子の量子スピンは、常温では、熱ゆらぎによる乱れが生ずることなく、隣り合うスピン同士が同一の方向を向いて整列し続けるので、全体として大きな磁気モーメントを持った強磁性を呈する。これに対し、オーステナイト系ステンレス鋼を構成する粒子の量子スピンは、常温では、熱ゆらぎによる乱れにより、自発的な配向が無い状態に陥り、磁気モーメントがほとんど無い常磁性を呈するためである。
【0038】
なお、オーステナイト系ステンレス鋼は、常温のみならず、ネール温度以下においても磁気モーメントを持たないが、これは、オーステナイト系ステンレス鋼を構成する粒子の量子スピンが、隣り合うスピン同士が互い反対方向を向いた状態で整列することにより、全体として磁気モーメントを持たない状態になることで、反強磁性を呈するためである。もっとも、オーステナイト系ステンレス鋼のネール温度は数十K程度であるため、常温で
はオーステナイト系ステンレス鋼が反強磁性を呈するに至ることはない。
【0039】
また、フェライト系ステンレス鋼についても、如何なる環境下にあっても強磁性を呈するわけではない。すなわち、フェライト系ステンレス鋼がキュリー温度よりも温度の高い場合、フェライト系ステンレス鋼を構成する粒子の量子スピンは、熱ゆらぎによる乱れが発生して自発的な配向が無い状態に陥り、磁気モーメントがほとんど無い常磁性を呈するに至る。しかしながら、フェライト系ステンレス鋼のキュリー温度は、ステンレス鋼を構成する材料の成分比に応じて若干異なるものの一般的に千℃程度に達するため、本セル生産システム1において使用される温度領域では、フェライト系ステンレス鋼が常磁性を呈するに至ることはない。
【0040】
なお、ジュール熱は、オームの法則を勘案すると、以下の数式で表すことができる。
【数3】
【0041】
ここで、電圧E(V)はファラデーの電磁誘導の法則により磁束の変化率に比例にするため、これを一定とした場合、ワークを構成する材料の電気抵抗率ρを低くすることで渦電流を増大させてジュール熱を増大させる方策が考えられる。しかし、衛生面の観点から製造釜8A〜Cの材料としてステンレス鋼を採用せざるを得ない場合、電気抵抗率ρを最適化するという方策を採る余地はあまり無い。ステンレス鋼は、フェライト系やオーステナイト系、その他の如何なるものであっても、常温では銅の電気抵抗率ρの数十倍である約60〜70μΩ・cm程度の抵抗値を呈するためである。
【0042】
ところで、誘導加熱においては、上述したジュール熱の他に、ワークが有する磁気ヒステリシスに起因して発生するヒステリシス熱が加わる。ヒステリシス熱Pnは、加熱コイルを流れる電流の向きの変化に対する高周波磁界の磁束の変化の追従の遅れによって生じ、下記の数式で表される。
【数4】
【0043】
ここで、ヒステリシス係数ηは、ワークを構成する材料に固有のものであり、ヒステリシス熱Pnは、ヒステリシス係数ηに比例することが数式4から導かれる。よって、誘導加熱を効果的に行なうには、ヒステリシス熱による加熱促進の観点から、ヒステリシス係数ηの大きいものがワークの材料として選定し、あるいは磁束密度Bを高くすることが望まれる。
【0044】
図9は、オーステナイト系ステンレス鋼とフェライト系ステンレス鋼のヒステリシス曲線を示したグラフである。フェライト系ステンレス鋼の透磁率は、オーステナイト系ステンレス鋼の透磁率に比べて極めて大きい。よって、フェライト系ステンレス鋼のヒステリシス曲線で囲まれた部分の大きさ、換言すると、フェライト系ステンレス鋼のヒステリシス係数ηの大きさは、オーステナイト系ステンレス鋼のヒステリシス係数ηよりも極めて大きい値になる。このことから、オーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼に比べると、ヒステリシスによる加熱効果が劣ることが判る。
【0045】
本IH加温装置9Aのフェライトコア28は、以上のような事情を勘案した上で、オーステナイト系ステンレス鋼で構成される製造釜の誘導加熱を促進するべく、コイル27の下側を覆うように放射状に取り付けたものである。以下、フェライトコア28の効果について説明する。
【0046】
図10は、オーステナイト系ステンレス鋼の板状のワークを加熱コイルで誘導加熱した場合に形成される磁力線を示す。オーステナイト系ステンレス鋼は、透磁率が空気とさほど変わらないため、フェライトコアを設置しない場合、加熱コイルの回りには図10に示すような磁力線が形成される。
【0047】
図11は、フェライトコアを加熱コイルの下側に配した状態で、オーステナイト系ステンレス鋼の板状のワークを加熱コイルで誘導加熱した場合に形成される磁力線を示す。フェライトコアは、金属酸化物をセラミックで焼結した強磁性体であり、透磁率が極めて高い。このため、フェライトコアを加熱コイルの下側に設置すると、加熱コイルの下側の磁束がフェライトコアに引き寄せられて通過することになる。これにより、加熱コイルの周囲で広範囲に広がっていた磁束の多くが加熱コイルの周辺に集まり、ワークが設置されている空間の磁束密度や磁界の強さが増すことになる。この結果、ワークを通過する磁束が増えて見かけ上の透磁率が増加し、ワークで発生するジュール熱やヒステリシス熱が増えて効果的な誘導加熱が実現される。
【0048】
IH加温装置9Aについては以上の通りである。IH加温装置9B〜Cも同様である。次に、蓋10A〜Cのうち蓋10Cについては蓋10A,XBと異なる点があるため、その相違点について説明する。
【0049】
図12は、蓋10Cの構成図である。蓋10Cは、上述した攪拌機13Cの他、アンカーミキサー29が取り付けられている。蓋10Cには、中心を貫通するように配置されたアンカーミキサー29と、アンカーミキサー29の脇に配置された攪拌機13Cとが設けられている。
【0050】
アンカーミキサー29は、その名が示すように、船舶などを海上で停泊させる際に用いられるアンカーと同様の外形を有している。アンカーミキサー29は、モータ30に連結されたシャフト36を中心に、シャフト36の下端から斜め上方に延在する攪拌翼31が回転する。モータ30は、タップの切り替え、あるいはインバータの周波数調整を行なうことによって回転速度の調整が可能である。攪拌翼31には、製造釜8Cの底面及び側面に近接するようにスクレーパー37が取り付けられており、製造釜8の内面についた原材料を削ぎ取る。
【0051】
なお、攪拌機13Cは、ロータやスクリーンが内蔵されている下側の作動部分が、シャフト36と攪拌翼31との間の空間に配置されることにより、回転するアンカーミキサー29に接触しないようになっている。
【0052】
アンカーミキサー29は、ジャケット構造になっており、工場内のユーティリティ配管から供給される冷水が内部を流れる。冷水は、ロータリージョイント32を介して供給され、攪拌翼31の内部を通過するようになっている。
【0053】
図13は、アンカーミキサー29の内部構造を示す図である。シャフト36は、二重管構造になっており、ユーティリティ配管からロータリージョイント32を介して供給される冷水が内側の管内33Iを流れるようになっている。シャフト36を構成する二重管のうち内側の管内33Iを流れる冷水は、シャフト36の下端部分で各攪拌翼31に分岐す
る。攪拌翼31は、2つの水室によって構成されたアンカージャケット34を有しており、シャフト36の下端部分で各攪拌翼31に分岐した冷水はアンカージャケット34の下側の水室35Bに流入する。下側の水室35Bに流入した冷水は、攪拌翼31の周囲にある原材料の熱を除去しながら、上側の水室35Uに流入する。そして、シャフト36を構成する二重管のうち外側の管内33Oを通過し、ロータリージョイント32を介してユーティリティ設備へ排送される。
【0054】
なお、アンカージャケット34をこのように構成したのは、次のような理由による。すなわち、製造釜8Cを加温するIH加温装置9Cは、製造釜8Cのうち主に下側を加熱するように加熱コイル27が配設されている。また、製造釜8Cの外側面には、側面ジャケット16が設けられており、冷却の際には冷水が通水される。よって、製造釜8Cのうち下側の部分については、上側の部分よりも冷えにくいと推定される。そこで、本実施形態のアンカーミキサー29では、アンカージャケット34の流通経路を、最初に下側の水室35Bを通過し、次に上側の水室35Uを通過するようにしたものである。
【0055】
蓋10Cの構成については以上の通りである。次に、蓋10A〜Cの開閉動作について説明する。
【0056】
図14は、昇降装置11Cによる蓋10Cの開閉動作を示した図である。蓋10Cが製造釜8Cの開口部を閉じた状態(図14(A))で昇降装置11Cを作動させると、蓋10Cが上昇する(図14(B))。昇降装置11Cは、蓋10Cが所定の高さまで上昇すると、自動的に停止する(図14(C))。蓋10Cを降下させる場合は、上述と逆の順に動作する。なお、図14では、蓋10Cを上昇させる場合を例示しているが、蓋10A,Bについても同様である。
【0057】
蓋10A〜Cが昇降装置11A〜Cにより所定の高さまで上昇すると、製造釜8A〜CをIH加温装置9A〜Cから取り出し可能になる。これにより、製造釜8A〜Cを他の溶解ユニット5A,XBや乳化ユニット5C、或いは充填セル3へ移動させることが可能になる。製造釜8A〜Cを動かす場合は、製造釜8A〜Cを2本の爪で挟持するように支持するフォークを備えたハンドリフターなどを使い、製造釜8A〜Cの昇降や位置の移動を行う。
【0058】
以上のように構成される製造セル2では、図15に示すような処理フローで化粧品の製造を行う。すなわち、製造釜8Aにおいては、原材料の投入(S101)を行なった後に蓋10Aを閉じ、攪拌機13Aを起動して原材料の攪拌および溶解(S102)を行う。また、適切なタイミングでIH加温装置9Aを起動して製造釜8Aを加熱(S103)し、原材料を適切な温度に制御する。そして、原材料が適切な温度に調整されたら、原材料を製造釜8Cに投入(S104)する。
【0059】
また、製造釜8Bにおいては、製造釜8Aに投入されたのとは異種の原材料の投入(S201)を行なった後に蓋10Bを閉じ、攪拌機13Bを起動して原材料の攪拌および溶解(S202)を行なう。また、適切なタイミングでIH加温装置9Bを起動して製造釜8Bを加熱(S203)し、原材料を適切な温度に制御する。そして、原材料が適切な温度に調整されたら、原材料を製造釜8Cに投入(S204)する。
【0060】
また、製造釜8Cにおいては、適切なタイミングでIH加温装置9Cを起動して製造釜8Cを加熱(S401)する。また、原材料が投入されたら蓋10Cを閉じた後、攪拌機13Cやアンカーミキサー29を起動し、乳化(S402)を行なう。また、乳化が完了したら、アンカーミキサー29を作動させた状態のまま攪拌機13CやIH加温装置9Cを停止すると共に、アンカージャケット34や側面ジャケット16に冷水を流して冷却(
S403)を行なう。
【0061】
また、製造釜8Cを冷却している間の適切なタイミングで、ステンレス容器等に投入(S301)した各種の添加成分を製造釜8Cに投入(S302)する。製造釜8Cにおいては、投入された添加成分が回転するアンカーミキサー29によって原材料と混ざり、適切な温度まで冷えれば化粧品の製造プロセスが完了する。なお、製造された化粧品は、サンプリングされて検査等が行なわれる。また、冷却が完了したら、側面ジャケット16やアンカージャケット34内の水は高圧の空気で排出する。
【0062】
以上により、製造セル2における化粧品の製造プロセスが完了すると、製造釜8Cを充填セル3へ搬送する。充填セル3においては、ハンドリング装置としてのロボットハンドが充填用の容器を把持して移動し、容器への化粧品の充填が行なわれる。容器への化粧品の充填に際しては、製造釜8Cの下部に設けられた排出孔を開くことにより、製造釜8Cが充填ホッパーとしての機能を発揮する。容器に充填された化粧品は、梱包された後に商品として出荷される。なお、本実施形態に係るセル生産システム1によって実行される生産プロセスは、上記に説明した処理フローに限定されるものではない。
【0063】
上記実施形態によれば、製造釜8A〜Cが蒸気配管に接続されておらず、非接触の誘導加熱によって加温されるため、製造釜8A〜Cを製造セル2から充填セル3へ容易に搬送できる。このため、少量多品種生産に容易に対応でき、且つ、一連の生産プロセスを一人で行なうこともできる。
【0064】
また、上記実施形態によれば、アンカーミキサー29によって攪拌されながら、側面ジャケット16のみならずアンカージャケット34を通過する冷水によって効率的に冷却されるため、化粧料の品質はそのままに、従来の製法に比べて約80%程度の時間で所望の温度まで冷却することができる。冷却時間が短縮されることにより、化粧品中に含まれる油脂類等の品質劣化を防ぐことができる。
【0065】
また、上記実施形態によれば、アンカーミキサー29で攪拌しながら乳化を行なうため、均一な乳化を短時間で行うことができる。よって、加熱時間が短縮され、油脂類等の品質劣化を防ぐことができる。
【0066】
フェライトコアの効果を検証する実験を行なったので、以下、実験の内容および結果について説明する。本実験では、誘導加熱するワークとして、以下の表に示す2つのサンプルを用意した。
【表1】
【0067】
また、本実験で使用した誘導加熱用のインバータの定格消費電力は5kWであり、加熱コイルは直径270mmの円板状コイルであり、フェライトコアは寸法が64mm(L)×10mm(W)×5mm(H)である。
【0068】
実験における記録項目は、コイル特性(負荷時と無負荷時のそれぞれの場合におけるインダクタンスL(μH)およびコイル性能Q)、ギャップ、電力、出力周波数、最大出力
電流、入力電圧、温度分布である。コイル性能Qは、リアクタンス成分と抵抗成分との比である。
【0069】
実験条件は、フェライトコアが無い状態(通常運転)、フェライトコアをワークとコイルとの間に置いた本実施形態に相当する状態(条件変更1)、フェライトコアをワークと反対側であるコイルの下側に置いた状態(条件変更2)の3つの条件を設定した。実験結果を以下の表に示す。
【表2】
【0070】
上記の表が示す実験結果から、通常運転の場合、サンプル1に比べてサンプル2は電力(kW)が半分以下になり、有効に加熱できていないことが判る。これは、コイルとワークとがアンマッチング状態になったためと推定される。また、実験結果から、出力周波数が増大することが判る。これは、サンプル2の方がサンプル1よりも比透磁率が低いためにインダクタンスが低下し、これにより共振周波数が低下したためと推定される。また、実験結果から、最大出力電流が増大することが判る。これは、共振周波数の低下に伴ってコイルの表面における表皮効果が低減され、これにより高周波抵抗が減って電流値が増大したためと推定される。
【0071】
また、上記の表が示す実験結果から、条件変更1の場合、通常運転に比べるとサンプル1とサンプル2ともに電力(kW)が増えており、加熱効果が改善されていることが判る。この結果から、フェライトコアをワークと反対側であるコイルの下側に置くことで、コイルで発生する磁束がワークの誘導加熱に効果のある磁束へと変化することが判る。
【0072】
また、上記の表が示す実験結果から、条件変更2の場合、通常運転に比べるとサンプル1とサンプル2ともに電力(kW)が減っており、有効な加熱ができないことが判る。この結果から、フェライトコアをワークとコイルとの間に置くことで、ワークを通過すべき磁束のほとんどがフェライトコアに吸収されてしまうことが判る。
【0073】
なお、上記実施形態では、アンカーミキサー29について、例えば図12に示すように攪拌翼31を2つとしていたが、3つ以上であってもよい。また、攪拌翼31の枚数やモータ30の回転速度、製造釜8Cの温度、冷水の流量等は、製造釜8Cに投入されている原材料の物性に応じて適宜調整する。例えば、原材料を乳化するときの攪拌翼31の枚数やモータ30の回転速度、製造釜8Cの温度は、化粧料の品質(例えば、粘度や気泡の大きさ)が製品としての要件を満たすように調整する。攪拌翼31の枚数は、攪拌翼31の
枚数が互いに異なる数種類のアンカーミキサーの中から適宜選択して交換することにより調整する。また、乳化した原材料を冷却するときのモータ30の回転速度や冷水の流量は、アンカーミキサー29や製造釜8Cへの化粧料の付着の程度(ダマの解消)等に基づいて決定する。
【符号の説明】
【0074】
1・・セル生産システム
2・・製造セル
3・・充填セル
5A,B・・溶解ユニット
5C・・乳化ユニット
8A,B,C・・製造釜
9A,B,C・・IH(Induction Heating)加温装置
13A,B,C・・攪拌機
16・・側面ジャケット
17・・継ぎ手
18・・排出機構
22・・治具
27・・コイル
28・・フェライトコア
29・・アンカーミキサー
31・・攪拌翼
34・・アンカージャケット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧品の原材料が入る製造釜と、
前記製造釜の下部を高周波磁界によって発熱させる誘導加熱コイルと、
前記原材料を前記製造釜の内部全体に混ぜる攪拌機と、を備え、
前記製造釜は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第一のジャケット部を側壁部分に有し、
前記攪拌機は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第二のジャケット部を攪拌翼の内部に有する、
化粧品の製造装置。
【請求項2】
前記攪拌機は、前記攪拌翼の翼端が前記製造釜の底面及び壁面に沿って形成されており、
前記第二のジャケット部は、前記原材料を冷却する冷水が、前記攪拌翼の翼端に沿って形成される水室の内部で、前記製造釜の底面側から該製造釜の壁面側へ向けて流れる、
請求項1に記載の化粧品の製造装置。
【請求項3】
前記攪拌機は、前記製造釜の底面及び壁面に付着する前記原材料を削ぎ取るスクレーパーを前記攪拌翼の翼端部分に更に有する、
請求項1または2に記載の化粧品の製造装置。
【請求項1】
化粧品の原材料が入る製造釜と、
前記製造釜の下部を高周波磁界によって発熱させる誘導加熱コイルと、
前記原材料を前記製造釜の内部全体に混ぜる攪拌機と、を備え、
前記製造釜は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第一のジャケット部を側壁部分に有し、
前記攪拌機は、前記原材料を冷却する冷水が流れる第二のジャケット部を攪拌翼の内部に有する、
化粧品の製造装置。
【請求項2】
前記攪拌機は、前記攪拌翼の翼端が前記製造釜の底面及び壁面に沿って形成されており、
前記第二のジャケット部は、前記原材料を冷却する冷水が、前記攪拌翼の翼端に沿って形成される水室の内部で、前記製造釜の底面側から該製造釜の壁面側へ向けて流れる、
請求項1に記載の化粧品の製造装置。
【請求項3】
前記攪拌機は、前記製造釜の底面及び壁面に付着する前記原材料を削ぎ取るスクレーパーを前記攪拌翼の翼端部分に更に有する、
請求項1または2に記載の化粧品の製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−66169(P2012−66169A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211284(P2010−211284)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】
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