説明

化粧品向け不織布

【課題】原料繊維として極細繊維を使用することにより、従来にない柔らかさ,肌触りと拭き取り性等の機能性を高めるとともに、透かし模様を付加することにより付加価値を高めた化粧品向け不織布を提供する。
【解決手段】フェイスマスクシート,拭き取りシート,クレンジングシート等の化粧品向け不織布において、該不織布は、湿式抄造した中間層の両面に、湿式抄造した表面層を重ねて抄紙機上で絡合させてなる三層構造の湿式不織布からなり、前記表面層は繊度0.1dtex〜0.8dtex,繊維長5mm〜25mm程度の極細繊維を原料として含む構成、前記中間層に、紙層の欠如部分又は薄層部分を形成することにより、表面層を介して該紙層の欠如部分又は薄層部分を透かし模様とする構成を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェイスマスクシート,拭き取りシート,クレンジングシート等の化粧品向け用途に適した三層構造の湿式不織布であって、原料繊維として極細繊維を使用することにより、従来にない柔らかさ,肌触りと拭き取り性等の機能性を高めるとともに、透かし模様を付加することにより付加価値を高めたものである。
【背景技術】
【0002】
化粧品として、顔面全体もしくは目もと,口もと,首筋の肌の手入れを行うための化粧料又は美容料を含浸したフェイスマスクシートや、メイク落としを使用した後のメイクの拭き取りを行う拭き取りシート、メイクを落とすためのクレンジングシート、或いはメイクを施すための化粧シート等の化粧品分野においては、基材となるシート材として従来より不織布シートが使用されている。例えば、フェイスマスクシート化粧品として、所定の形状に打抜かれた不織布シートでなる吸水性の高いシート材に化粧料を含浸し、包装体内に積層して密封するか、一つの包装体内に化粧料を含浸したシート材を1枚だけ封入した1回分の使い切りタイプのパック型化粧品が一般に提供されている。
【0003】
かかる化粧品向け不織布としては、合成繊維もしくは合成繊維+天然繊維の不織布が用いられている。例えば、特許文献1には、折畳み時の折れじわがなく、高粘度の化粧液を均一に含浸でき、使用時に顔面へのフィット感がよく、手へのべとつきや衣服の汚損が防止可能なフェイスマスクとして、セルロース質不織布と合成繊維不織布とが接合されてなるフェイスマスクが提供されている。更に、不織布のみに限らず、特許文献2には、化粧水を含浸したフェイスマスクシートを折り畳まれた状態から顔形状に展開して顔に当てる際に手間と時間がかからないようにするために、不織布の片面にネット状樹脂フィルム重ねて接合し、表面側(顔に当てる側)がセルロース系の不織布であり、裏面側がポリエチレン製のネット状樹脂フィルムであり、ラミネータ装置による熱溶着により接合したフェイスマスクシートも提供されている。
【特許文献1】特開2004−2253号公報
【特許文献2】特開2000−287751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化粧品向け不織布では、化粧料を含浸したり、拭き取ったりするために、保液性や嵩高性が要求される。そのため、これらを優先した安価に製造できる手段として、従来の化粧品向け不織布としては、一般的には繊維を分散させる媒体として空気を使用する乾式不織布が使用されている。この乾式不織布は繊維が偏ってムラができやすく、地合が悪いため、手触りがゴワゴワしており、滑らかさに欠けていた。更に、手触りをよくするために、細い繊維を使用して薄くしようとしても、乾式不織布では太さが1dtex以下の細い繊維は空気に吹き飛ばされるため、薄くしたり、地合を改善することはできなかった。また、地合がよくないため、拭き取りシートやクレンジングシート等肌に付着した汚れや化粧料を拭き取るための化粧品に要求されている拭き取り性には欠けており、充分なものとはいえなかった。
【0005】
一方において、不織布には繊維を分散させる手段として水を使用する湿式不織布も知られており、この湿式不織布は乾式不織布に比べて繊維が均一に絡み合ってムラが少なく地合も良好である。また、薄くすることも可能であるが、乾式不織布に比べて高価であるし、薄くすると化粧品向け不織布としての本来の機能である化粧料を含浸したり、拭き取ったりするために、保液性や嵩高性を実現することができず、化粧品向け不織布として使用することができなかった。そのため、細い繊維、特に極細繊維を使用した化粧品向け不織布としての湿式不織布は提供されていない。
【0006】
特許文献1,2に示す化粧品向け不織布も、乾式不織布を使用しているものであり、乾式不織布の限界を他の手段によって緩和し、顔面へのフィット感や取り扱い性を向上させているのである。よって、従来の化粧品向け不織布においては、専ら化粧料を含浸したり、拭き取ったりするための保液性や嵩高性を前提とするものであり、使用者の希望する柔らかさ,肌触り、更には拭き取り性等において満足のいくものでなかった。
【0007】
更に、化粧品向け不織布は化粧品としての用途の制約から、塗料等を使用した印刷を施すことができず、化粧品向け不織布には何らの装飾が施されていなかった。そのため、包装袋等にはメーカー名や商品名、或いは好ましい意匠を施してあったとしても、フェイスマスクシート等として取り出したときは、無色無模様のものとなり、化粧品としてブランド等が不明となってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、これら従来の限界を打ち破り、化粧品向け不織布に要求される保液性や嵩高性を前提として、従来の化粧品向け不織布にない柔らかさ,肌触りと拭き取り性等の機能性を高めるとともに、透かし模様を付加することにより付加価値を高めた化粧品向け不織布を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、フェイスマスクシート,拭き取りシート,クレンジングシート等の化粧品向け不織布において、該不織布は極細繊維を含む原料を使用して湿式抄造した三層構造の湿式不織布からなる化粧品向け不織布、及び該不織布は極細繊維を含む原料を使用して湿式抄造するとともに、透かし模様を形成した三層構造の湿式不織布からなる化粧品向け不織布を基本として提供する。極細繊維として、繊度0.1dtex〜0.8dtex,繊維長5mm〜25mm程度の極細繊維を使用する。
【0010】
また、該不織布は、湿式抄造した中間層の両面に、湿式抄造した表面層を重ねて抄紙機上で絡合させてなる三層構造の湿式不織布からなり、前記表面層は繊度0.1dtex〜0.8dtex,繊維長5mm〜25mm程度の極細繊維を原料として含む構成、前記中間層に、紙層の欠如部分又は薄層部分を形成することにより、表面層を介して該紙層の欠如部分又は薄層部分を透かし模様とする構成を提供する。そして、前記中間層は、保液性及び/又は嵩高性を有する構成、前記中間層は、原料として極細繊維を含まない構成、極細繊維を少なくとも20重量%以上含有してなる構成を提供し、極細繊維によって、柔軟性,肌触りのよさ,拭き取り性能等の機能性を付与する。
【0011】
極細繊維として、レーヨン繊維,ポリエステル繊維,アクリル繊維から選択された一種又は複数のものを使用し、極細繊維に植物繊維,再生繊維,半合成繊維,合成繊維から選択された一種又は複数を混抄する。また、植物繊維として、クラフトパルプ,マニラ麻パルプ,楮繊維,コットンパルプから選択された一種又は複数を使用し、再生繊維としてレーヨンを使用し、半合成繊維としてアセテートを使用し、合成繊維として、ナイロン,ビニロン,ポリエステル,アクリル,ポリエチレン,ポリプロピレン,アセテートを使用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる化粧品向け不織布によれば、極細繊維を含む原料を使用することによって、従来の化粧品向け不織布では実現できなかった柔らかさ,肌触りと拭き取り性を実現することができる。しかも、三層構造の中間層には高価な極細繊維を使用する必要がなく、この中間層によって保液性や嵩高性を実現できる。そのため、直接使用者の肌に触れる表面層にのみ極細繊維を使用すればよく、しかも表面層の坪量は少なくてすむ。また、中間層に透かし模様を形成することにより、従来の無味乾燥で何らの意匠も施されていない化粧品向け不織布に付加価値を付けることができる。即ち、表面層は極細繊維によって、柔らかさ,肌触りと拭き取り性を実現し、中間層は化粧品向け不織布に要求される保液性や嵩高性を実現することができるので、従来両立ができなかった化粧品向け不織布としての機能と、肌触りのよさや拭き取り性等を同時に充足した化粧品向け不織布を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下図面に基づいて本発明にかかる化粧品向け不織布の最良の実施形態を説明する。本発明の対象とする化粧品向け不織布は、顔全体や目もと,口もと,首筋の肌の手入れを行うための所定の形状に打ち抜かれたシート材に化粧料を含浸したフェイスマスクシートや、メイク落としを使用した後のメイクの拭き取りを行う拭き取りシート、メイクを落とすためのクレンジングシート、或いはメイクを施すための化粧シート等のシートタイプの化粧品の基材となるものである。
【0014】
図1は本発明にかかる化粧品向け不織布1の断面構造を示す部分拡大断面図であり、化粧品向け不織布1は、湿式抄造した中間層2の両面に、湿式抄造した表面層3,4を重ねて抄紙機上で絡合させて抄き合わせた三層構造を有している。この化粧品向け不織布1は原料繊維として繊度0.1dtex〜0.8dtex,繊維長5mm〜25mm程度の極細繊維を使用している。なお、繊度1dtex(デシテックス)は、10000mで重さが1gの太さの繊維を表わす。極細繊維の具体例としては、例えばレーヨン繊維,ポリエステル繊維,アクリル繊維から選択された一種又は複数のものを使用する。
【0015】
この極細繊維は表面層3,4の双方に少なくとも原料の20重量%以上、更には20重量%〜100重量%配合する。この極細繊維によって、従来にない絹のような優しい柔らかさと肌触りを実現しつつ、同時に拭き取り性を向上させることができるものであり、極細繊維の機能を発揮するためには、少なくとも20重量%程度以上配合する必要がある。また、原料全てを極細繊維としてもよい。しかしながら、極細繊維は高価な繊維であるため、他の繊維を混抄することもできる。混抄される繊維は特に限定はなく、植物繊維,再生繊維,半合成繊維,合成繊維から選択された一種又は複数を混抄することができる。具体例としては、植物繊維として、クラフトパルプ,マニラ麻パルプ,楮繊維,コットンパルプを、再生繊維としてレーヨンを、半合成繊維としてアセテートを、合成繊維として、ナイロン,ビニロン,ポリエステル,アクリル,ポリエチレン,ポリプロピレン,アセテート等を使用することができる。好適な例としては、極細繊維20重量%〜100重量%に、繊度0.8dtexを超えるレーヨン80重量%〜0重量を配合する。
【0016】
両面に表面層3,4が抄き合わされる中間層2は、直接使用者の肌に触れることがないため、極細繊維を使用する必要はない。むしろ化粧品向け不織布1に要求される保液性や嵩高性を維持するために、クラフトパルプ,レーヨン,アセテート等の保液性の高い繊維や、異形断面の繊維や繊維径の大きい嵩を出すことのできる繊維を使用することが好ましい。このように、表面層3,4と中間層2との間で実現する化粧品向け不織布1としての機能を分担していることが本発明の特徴である。なお、中間層2に使用する繊維に限定はなく、極細繊維を使用することもできる。好適な例として、クラフトパルプ30重量%〜70重量%に繊度0.8dtexを超えるレーヨン70重量%〜30重量%を配合する。表面層3,4,中間層2の坪量の割合は特に考慮する必要はないが、中間層2の坪量を多くすることが保液性や嵩高性を確保するために適当である。また、中間層2の坪量を確保することにより、高価な極細繊維を使用する表面層3,4の坪量を少なくすることができる。適当な範囲の坪量の例としては表面層3,4が5g/m〜20g/m,中間層2が20g/m〜120g/m程度である。
【0017】
また、中間層2には、紙層の欠如部分又は薄層部分を形成することにより、表面層3,4を抄き合わせた際に、該紙層の欠如部分又は薄層部分、或いは厚層部分を透かし模様とすることもできる。
【0018】
次に本発明にかかる化粧品向け不織布1の製造工程を図2に示すフロー図に従って説明する。先ず、表面層3,4は繊度0.1dtex〜0.8dtex,繊維長5mm〜25mm程度の極細繊維を少なくとも20重量%以上配合した原料繊維をステップ6,7で配合し、湿式不織布の抄造工程に従い水中に分散させる。水中分散させた原料繊維をステップ9,10で円網抄紙機等の公知の抄紙機を利用して抄紙する。なお、表面層3,4は同一の原料繊維を使用することも、原料繊維の配合割合を変えてもよい。一方、中間層2も、保液性や嵩高性を実現できる原料繊維をステップ5で配合し、湿式不織布の抄造工程に従い水中に分散させる。水中分散させた原料繊維をステップ8で円網抄紙機等の公知の抄紙機を利用して抄紙する。なお、中間層2は原料繊維として極細繊維を使用する必要はない。
【0019】
次に、抄紙された中間層2の紙層を中心として、抄紙された表面層3,4の紙層をステップ11で抄紙機上で三層に重ね合わせ、ステップ12で公知のウォータージェット装置を使用して三層に重ね合わされた紙層を水流絡合させる。その結果、ステップ13に示すように三層の紙層は抄き合わせられて、三層構造の不織布となる。この三層に抄き合わせられた紙層をステップ14で乾燥させ、ステップ15でロール状に巻き取って化粧品向け不織布が完成する。
【0020】
図3は、中間層2に透かし模様を形成する工程の説明図であり、中間層2に、紙層の欠如部分又は薄層部分を形成することにより、表面層3,4を介して該紙層の欠如部分又は薄層部分を透かし模様とする工程を説明する。図3において、16は中間層2を抄紙する抄紙機の抄紙網であり、透かし模様の形態だけ抄紙網16の網目の空隙を全部又は部分的に埋めて網目の欠如部分17(図3において黒く塗り潰した「絵」の文字部分)を形成する。図示例では、「絵」の文字の形状としているが、文字,図形,記号やこれらの組合せ等任意の形態とすることができる。この網目の欠如部分17には水中分散させた原料繊維が載らないため、抄紙された中間層の紙層18には、網目の欠如部分17に相当する部分が紙層の欠如部分又は薄層部分となって模様19となる。この模様19の両面には表面層3,4が抄き合わされるため、模様19は表面層3,4を介して透かし模様となるのである。
【0021】
以下、本発明にかかる化粧品向け不織布1の実施例1〜3及び比較例についての概要を説明するとともに、表1に示す。
【0022】
【表1】

【実施例1】
【0023】
表面層3,4として、極細繊維である0.1dtex×5mm(繊度×繊維長)のポリエステル30重量%と、極細繊維である0.6dtex×10mm(繊度×繊維長)のポリエステル30重量%と、1.1dtex×7mm(繊度×繊維長)のレーヨン40重量%を混合した原料を使用し、中間層2として、1.1dtex×7mm(繊度×繊維長)のレーヨン100重量%を使用して、前記した方法にて表面層3,4及び中間層2をそれぞれ湿式抄造し、抄紙機上で重ね合わせて、ウォータージェット装置で水流絡合させ、その後乾燥させて巻き取り、化粧品向け不織布1を得た。なお、表面層3,4の坪量はともに12.5g/mとし、中間層2の坪量を25g/mとし、全体として50g/mの坪量とした。
【実施例2】
【0024】
表面層3,4として、極細繊維である0.8dtex×7mm(繊度×繊維長)のレーヨン100重量%を原料として使用し、中間層2として、クラフトパルプ30重量%と、1.1dtex×7mm(繊度×繊維長)のレーヨン70重量%を混合した原料を使用して、実施例1と同様に湿式抄造して三層構造の湿式不織布からなる化粧品向け不織布1を得た。なお、表面層3,4の坪量はともに12.5g/mとし、中間層2の坪量を25g/mとし、全体として50g/mの坪量とした。
【実施例3】
【0025】
表面層3,4として、極細繊維である0.1dtex×6mm(繊度×繊維長)のアクリルと60重量%と、極細繊維である0.8dtex×7mm(繊度×繊維長)のレーヨン40重量%とを配合した原料を使用し、中間層2として、クラフトパルプ15重量%と、1.1dtex×7mm(繊度×繊維長)のレーヨン40重量%と、2.2dtex×10mm(繊度×繊維長)の異形断面ポリエステル45重量%を使用して、実施例1と同様に湿式抄造して三層構造の湿式不織布からなる化粧品向け不織布1を得た。なお、表面層3,4の坪量はともに10g/mとし、中間層2の坪量を30g/mとし、全体として50g/mの坪量とした。
【0026】
一方、比較例として、2つの表面層としてともに1.7dtex×10mm(繊度×繊維長)のレーヨン100重量%の原料を使用し、中間層として、クラフトパルプ80重量%と、1.7dtex×10mm(繊度×繊維長)のレーヨン20重量%を使用して、実施例1と同様に湿式抄造して三層構造の湿式不織布を得た。なお、2つの表面層の坪量はともに7.5g/mとし、中間層の坪量を35g/mとし、全体として50g/mの坪量とした。
【0027】
次に、これら実施例1,2と比較例についての柔らかさ、肌触り感、吸液性について実験をした結果を説明する。
【0028】
[柔らかさ]
柔らかさの評価は、JIS L 1096(一般織物試験方法)の剛軟性試験E法に準拠して行った。試料は200mm角を3枚用意し、試験機(熊谷理機工業株式会社製ハンドルオメータ)のスリット幅は20mmとした。試料の端から6.7mm(1/3)の部分において1試料につき縦方向及び横方向それぞれ2カ所の合計4カ所を測定することにし、n=6で縦横それぞれの平均を求め0.1単位で丸めて結果を出した。数値が小さいほど柔らかく、大きいほど堅い。その結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例2と比較例は、表面層において、ともに同一の繊維レーヨンを使用しているが、比較例では1.7dtexであるのに対し、実施例2では繊度0.8dtexと極細繊維を使用しているため、三層構造の不織布全体の柔らかさとしては、比較例が273.9mNであるのに対し、実施例2では115.8mNと、約2.4倍ほど柔軟性が向上している。更に、実施例1はより極細繊維である繊度0.1dtexと0.6dtexのポリエステル繊維を60重量%配合してあるため、柔らかさは73.2mNと、比較例より3.7倍程度柔軟性が向上している。一方、実施例1,2ともに中間層には1.1dtexの繊維を配合しているが、柔らかさに悪影響を与えていない。
【0031】
[肌触り感]
肌触り感の評価は、KES(川端エバリューションシステム)試験機を用いた方法で行った。試験機(カトーテック株式会社製摩擦感テスター)を使って、試験台に100mm角に切断した試料を載せ、1cm角の摩擦子の付いたアームをセットし荷重50g(50g/cm)を載せて、秒速1mmで30秒間水平移動(移動距離30mm)させた時のMMD値を測定した。表裏それぞれn=5で行い平均させ、縦横に分けて結果を出した。このMMD値は変動の度合いや偏差=ざらつき感を表す数値であり、数値が大きいほどざらつき、値が小さいほどなめらかであることを示している。その結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
縦横のMMD値は、比較例では0.0079,0.0103であるのに対し、実施例1では、0.0044,0.0076と、実施例2でも0.0063,0.0086と大幅に向上している。更に、実施例1と実施例2のデータから、より繊度の細かい極細繊維を配合することにより肌触り感が向上することが判る。
【0034】
[吸液性]
吸液性の評価は、JIS L 1912(医療用不織布試験方法)の吸水量試験に準拠して行った。試料100±1mm角を採取して2枚1組(坪量50g/mの場合)として重量を測定する。この試料をステンレス金網(網目間隔2mm)に縁をクリップで留め、室温の水槽に水面下20mmに気泡の出ないように斜めにして浸す。60±1秒後に試験片と金網を一緒に取り出し、一端のクリップを残して他のクリップを外し、垂直に120±3秒間吊るし余分な水分を切った後金網から試料を取り出して、重量既知のハカリビンに入れ秤量して吸液性(吸水能力)を測定した。N=5で平均値をとった。数値の大きいほど吸液性及び保液性が高く、小さいほど吸液性及び保液性は悪い。その結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
更に、実施例1,2にかかる化粧品向け不織布は、柔らかさ、肌触り感によって、肌への密着性が向上するため、必然的にクレンジング時の化粧品の拭き取り、その他の拭き取り性能が向上する。この点について、実施例1,2及び比較例について、クレンジング化粧品にてメイク落としをした化粧品の拭き取りの官能試験を複数の女性にて行ったところ、実施例1,2の拭き取り性能が比較例に比して良好であるとの結果を得た。
【0037】
実施例1の中間層は、1.1dtexのレーヨン100重量%を使用し、実施例2はクラフトパルプ30重量%と1.1dtexのレーヨン70重量%を使用し、坪量はともに25g/mであるが、極細繊維を使用していないため、吸液性はそれぞれ686%と841%であり、クラフトパルプ80重量%と1.7dtexのレーヨンを使用した坪量35g/mの比較例と同等かそれ以上の吸液性を示している。また、実施例1〜3に透かし模様として製造メーカーのロゴマークを入れたところ、従来の無味乾燥の化粧品向け不織布の中に鮮やかにロゴマークが透かし模様として浮かび上がった。
【0038】
なお、実施例3については、前記した柔らかさ等の試験を行っていないが、実施例3は表面層3,4として、0.1dtex×6mm(繊度×繊維長)のアクリル繊維60重量%と0.8dtex×7mm(繊度×繊維長)のレーヨン繊維40重量%のより繊度の細かい極細繊維のみから構成したものであり、実施例1,2を上回る効果を奏することが推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、極細繊維を含む原料を使用することによって、従来の化粧品向け不織布では実現できなかった柔らかさ,肌触りと拭き取り性を実現することができる。しかも、三層構造の中間層には高価な極細繊維を使用する必要がなく、この中間層によって保液性や嵩高性を実現できる。そのため、直接使用者の肌に触れる表面層にのみ極細繊維を使用すればよく、しかも表面層の坪量は少なくてすむ。また、中間層に透かし模様を形成することにより、従来の無味乾燥で何らの意匠も施されていない化粧品向け不織布に付加価値を付けることができる。即ち、表面層は極細繊維によって、柔らかさ,肌触りと拭き取り性を実現し、中間層は化粧品向け不織布に要求される保液性や嵩高性を実現することができるので、従来両立ができなかった化粧品向け不織布としての機能と、肌触りのよさや拭き取り性等を同時に充足した化粧品向け不織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明にかかる化粧品向け不織布の断面構造を示す部分拡大断面図。
【図2】本発明にかかる化粧品向け不織布の製造工程を示すフロー図。
【図3】中間層に透かし模様を形成する工程の説明図。
【符号の説明】
【0041】
1…化粧品向け不織布
2…中間層
3,4…表面層
16…抄紙網
17…網目の欠如部分
18…中間層の紙層
19…模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイスマスクシート,拭き取りシート,クレンジングシート等の化粧品向け不織布において、
該不織布は極細繊維を含む原料を使用して湿式抄造した三層構造の湿式不織布からなることを特徴とする化粧品向け不織布。
【請求項2】
フェイスマスクシート,拭き取りシート,クレンジングシート等の化粧品向け不織布において、
該不織布は極細繊維を含む原料を使用して湿式抄造するとともに、透かし模様を形成した三層構造の湿式不織布からなることを特徴とする化粧品向け不織布。
【請求項3】
極細繊維として、繊度0.1dtex〜0.8dtex,繊維長5mm〜25mm程度の極細繊維を使用した請求項1又は2記載の化粧品向け不織布。
【請求項4】
フェイスマスクシート,拭き取りシート,クレンジングシート等の化粧品向け不織布において、
該不織布は、湿式抄造した中間層の両面に、湿式抄造した表面層を重ねて抄紙機上で絡合させてなる三層構造の湿式不織布からなり、前記表面層は繊度0.1dtex〜0.8dtex,繊維長5mm〜25mm程度の極細繊維を原料として含むことを特徴とする化粧品向け不織布。
【請求項5】
前記中間層に、紙層の欠如部分又は薄層部分を形成することにより、表面層を介して該紙層の欠如部分又は薄層部分を透かし模様とする請求項4記載の化粧品向け不織布。
【請求項6】
前記中間層は、保液性及び/又は嵩高性を有する請求項4又は5記載の化粧品向け不織布。
【請求項7】
前記中間層は、原料として極細繊維を含まない請求項4,5又は6記載の化粧品向け不織布。
【請求項8】
極細繊維を少なくとも20重量%以上含有してなる請求項1,2,3,4,5,6又は7記載の化粧品向け不織布。
【請求項9】
極細繊維によって、柔軟性,肌触りのよさ,拭き取り性能等の機能性を付与した請求項1,2,3,4,5,6,7又は8記載の化粧品向け不織布。
【請求項10】
極細繊維として、レーヨン繊維,ポリエステル繊維,アクリル繊維から選択された一種又は複数のものを使用する請求項1,2,3,4,5,6,7,8又は9記載の化粧品向け不織布。
【請求項11】
極細繊維に植物繊維,再生繊維,半合成繊維,合成繊維から選択された一種又は複数を混抄してなる請求項1,2,3,4,5,6,7,8,9又は10記載の化粧品向け不織布。
【請求項12】
植物繊維として、クラフトパルプ,マニラ麻パルプ,楮繊維,コットンパルプから選択された一種又は複数を使用する請求項11記載の化粧品向け不織布。
【請求項13】
再生繊維としてレーヨンを使用する請求項11又は12記載の化粧品向け不織布。
【請求項14】
半合成繊維としてアセテートを使用する請求項11,12又は13記載の化粧品向け不織布。
【請求項15】
合成繊維として、ナイロン,ビニロン,ポリエステル,アクリル,ポリエチレン,ポリプロピレン,アセテートを使用する請求項11,12,13又は14記載の化粧品向け不織布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−95223(P2008−95223A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276440(P2006−276440)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【出願人】(398012410)三和製紙株式会社 (2)
【Fターム(参考)】