説明

化粧料の流動を解析するシミュレーション方法、及び、そのコンピュータプログラム

【課題】化粧料の流動を解析するシミュレーション方法、及び、そのコンピュータプログラムを提供すること。
【解決手段】
本発明は、皮膚表面に粘性のある化粧料を塗布する場合の、前記皮膚表面上の前記化粧料の流動をコンピュータを用いて解析するシミュレーション方法であって、前記皮膚表面に相当する条件として、表面に一つの溝が形成された固体表面に関する第1の情報を入力する工程と、前記皮膚表面と離間する曲面表面に関する第2の情報を入力する工程と、前記皮膚表面と前記曲面表面との間隙に、粘性流体を配置する条件に関する第3の情報を入力する工程と、一次元潤滑理論、前記第1の情報、前記第2の情報、及び、前記第3の情報に基づいて、前記間隙の前記粘性流体の流動に関する特性を算出する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料の流動を解析するシミュレーション方法、及び、そのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の表皮に指等で化粧料(化粧品)を塗布する場合、化粧料の物性及び使用態様(指の圧力、表皮の形状など)により、塗布時の使用感触が異なる結果となる。
【0003】
従来、塗布時の使用感触は、被験者が候補となる化粧料を被験者の皮膚表皮に塗布し、その塗布時の使用感触の感想を調査することで、定性的に評価していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
化粧品の塗布時の使用感触は、使用方法(塗り方)の選定及びユーザーの趣向性の観点から、新商品を開発するときの判断材料となる場合がある。
【0005】
従来の被験者による調査は、被験者の感覚的及び経験的な判断に基づくものであり、個人差がでる場合があった。そのため、定量的な評価は困難な場合があった。被験者による個人差を解消する目的で、多数の被験者により塗布を試行し、その平均値を評価の対象とすることもできるが、評価に相当な時間を要し、化粧品開発のコストアップに繋がっていた。
【0006】
また、塗り方(指の圧力、表皮の形状、化粧料の膜厚、表皮温度など)に起因する化粧料の物性の変化は、使用感触に影響を与える。しかし、被験者による調査では、塗り方に起因する物性の変化を特定することは困難な場合もある。
【0007】
さらに、使用方法の選定の判断材料となる塗布中における皮膚表皮上の化粧料の流動状態は、使用感触の調査からは明らかにすることは困難な場合があり、そのメカニズムは不明確なままであった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、皮膚等への化粧料の塗布時において、皮膚表皮上の化粧料の流動の特性をコンピュータを用いて明らかにするシミュレーション方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一実施の態様により、皮膚表面に粘性のある化粧料を塗布する場合の、前記皮膚表面上の前記化粧料の流動をコンピュータを用いて解析するシミュレーション方法であって、前記皮膚表面に相当する条件として、表面に一つの溝が形成された固体表面に関する第1の情報を入力する工程と、前記皮膚表面と離間する曲面表面に関する第2の情報を入力する工程と、前記皮膚表面と前記曲面表面との間隙に、粘性流体を配置する条件に関する第3の情報を入力する工程と、一次元潤滑理論、前記第1の情報、前記第2の情報、及び、前記第3の情報に基づいて、前記間隙の前記粘性流体の流動に関する特性を算出する工程と、を含むことを特徴とする化粧料の流動を解析するシミュレーション方法が提供される。
【0010】
また、他の実施の態様において、前記一次元潤滑理論の基礎方程式(数7)は、



であり、ここで、Δx*は流れ方向の変位量(差分)の無次元量、Pi+1*及びP*は圧力(i+Δx及びiの位置における圧力)の無次元量、h*は前記間隙の離間距離(iの位置における離間距離)の無次元量、q*は流量の無次元量である、ことを含む。
【0011】
また、他の実施の態様において、前記第1の情報、前記第2の情報、前記第3の情報、及び、前記粘性流体の流動に関する特性を算出した結果に基づいて、前記固体表面または前記曲面表面の変形を算出する工程を含む。
【0012】
また、他の実施の態様において、前記第1の情報は、前記固体表面は弾性層であって、一層の弾性層に関する縦弾性率の情報を含み、前記第2の情報は、前記曲面表面は弾性層であって、一層の弾性層に関する縦弾性率の情報を含む。
【0013】
また、他の実施の態様において、前記第1の情報は、前記固体表面は弾性層であって、二層の弾性層に関する縦弾性率の情報を含む。
【0014】
また、他の実施の態様において、前記第2の情報は、前記曲面表面は弾性層であって、二層の弾性層に関する縦弾性率の情報を含む。
【0015】
また、他の実施の態様において、前記シミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラムを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被験者によらない方法で簡便、かつ、客観性及び再現性のある皮膚表皮上の化粧料の流動特性を明らかにするシミュレーション方法が提供される。これによって、従来の方法に比べて、調査の効率が大幅に改善され、ひいては化粧品開発の時間短縮及びコスト削減、並びに、定量的な評価による次の製品開発のための指標を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Malcolm M.Cross, Rheology of non−Newtonian fluids : a new flow equation for pseudoplastic systems, Journal of colloid science 20 (1965) 417−437
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】シミュレーションで解析する解析領域及び境界条件を説明する説明図である。
【図2】非ニュートン流体の粘度を説明する説明図である。
【図3】コンピュータの概略構成図である。
【図4】シミュレーション方法の手順を説明する説明図である。
【図5】シミュレーション方法において、流量の変化に対する圧力分布を説明する図である。
【図6】二層の弾性層の境界条件において、押し込み量に対する、粘性流体の流動の特性を評価した一例を示す図である。
【図7】一層の弾性層の境界条件において、押し込み量に対する、粘性流体の流動の特性を評価した一例を示す図である。
【図8】実施例1において、固体表面及び曲面表面の変形を解析した一例を示す図である。
【図9】実施例1において、圧力分布を解析した一例を示す図である。
【図10】実施例1において、せん断応力を解析した一例を示す図である。
【図11】実施例1において、粘度を解析した一例を示す図である。
【図12】実施例2において、固体表面及び曲面表面の変形を解析した一例を示す図である。
【図13】実施例2において、圧力分布を解析した一例を示す図である。
【図14】実施例2において、せん断応力を解析した一例を示す図である。
【図15】実施例2において、粘度を解析した一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
化粧料(化粧品)は粘性のある液体(以下、粘性流体という。)である。粘性流体は、せん断速度によって、粘度が変化する非ニュートン流体と粘性が変化しないニュートン流体とがある。乳液などの化粧料は非ニュートン流体のものがあり、化粧水などの化粧料はニュートン流体のものがある。
【0020】
皮膚表皮に化粧料を塗布する場合、せん断速度によって、乳液などの化粧料は粘度が変化する。この粘度の変化は、使用感触に影響を与える。例えば、粘度が高いと粘り気を感じ、粘度が低いとさらさら感を感じる。
【0021】
本発明は、皮膚表皮に化粧料を塗布する場合において、皮膚表面上の化粧料の流動の特性をコンピュータを用いて解析するシミュレーション方法である。
【0022】
<一次元潤滑理論の基礎方程式>
本発明におけるシミュレーション方法では、皮膚表皮に化粧料を塗布する場合において、皮膚表面上の化粧料の流動を、一次元潤滑理論で近似する。
【0023】
一次元潤滑理論は、一方向に運動する流体の潤滑流れを説明する理論である。一次元潤滑理論は、粘性流体において、曲面表面を押し込むときの押し込み量が曲面表面の半径より十分小さいとき、粘性流体の流れを層流と仮定し、重力を考慮しないで解析を行う。
【0024】
皮膚の表面は、弾性率や厚さの異なる複数の層から構成される。本発明では、皮膚表面は、表皮と真皮とからなる二層の弾性層で構成されると仮定する場合と、一層から構成されると仮定する場合とで、シミュレーションを行う。しかしながら、三層以上の弾性層から構成されると仮定してもよい。
【0025】
図1は、シミュレーションで解析する解析領域及び境界条件を説明する説明図である。図1(a)は固体表面及び曲面表面が二層の弾性層である境界条件を説明する説明図である。図1(b)は一層の弾性層である境界条件を説明する説明図である。図1(c)は固体表面の溝を含む境界条件を説明する説明図である。
【0026】
図1(a)において、シミュレーションの解析領域として、皮膚表皮に相当する固体表面の弾性層と塗布する指に相当する曲面表面の弾性層との間隙を示す。固体表面は表皮Skn1と真皮Skn2とで構成する二層の弾性層を含む。曲面表面は表皮Skn3と真皮Skn4とで構成する二層の弾性層を含む。曲面表面は速度Uでx軸の正方向に移動する境界条件である。
【0027】
ここで、図1(a)のRは、曲面表面の曲率半径である。yは、曲面表面を押し込むときの押し込み量である。h(x)はx座標における固体表面と曲面表面との離間距離である。
【0028】
図1(b)は、固体表面及び曲面表面は一層の弾性層を含む境界条件であることを示す。その他の条件は図1(a)と同様である。
【0029】
図1(c)は、図1(a)及び(b)のMを説明する拡大図である。図1(c)は、固体表面が皮膚表皮の形状に相当する一つの溝Mを含む境界条件であることを示す。また、溝の深さd及び溝の幅wを示す。皮膚表皮の形状に相当する溝は、複数の溝を含むことも可能である。溝以外の形状を含むことも可能である。
【0030】
解析条件として、化粧料である粘性流体を、固体表面と曲面表面との間隙に配置し、曲面表面を速度Uで移動したときの間隙における粘性流体の流動の特性を解析する。シミュレーションは、粘性流体の圧力分布及び速度分布を解析し、圧力分布及び速度分布から、固体表面等の変形、粘度の変化、膜厚、最小離間距離、及び、最大せん断応力などを解析する。
【0031】
本発明に用いる一次元潤滑理論の基礎方程式は、数1から導かれる。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、Pは圧力[Pa]、xはx座標(図1(a)及び(b))[m]、μは粘度[Pa・s]、Uは曲面表面の移動速度[m/s]、qは単位長さ当たりの流量[m/s]、hは固体表面と曲面表面との離間距雛[m]である。
【0034】
このとき、溝M(図1(c))の深さをd[m]、溝の幅をw[m]とし、x座標における溝の深さをS(x)[m]とすると、x座標における離間距雛h(x)は、押し込み量y(図1(a))で場合分けされ、数2で得ることができる。
【0035】
【数2】

【0036】
ここで、hは押し込み量y(図1(a))、Rは曲面表面の曲率半径(図1(a))、Lを弾性層の厚み[m](下添え1は図1(a)の固体表面の表皮Skn1、下添え2は真皮Skn2、下添え3は曲面表面の表皮Skn3、下添え4は真皮Skn4を示す。)、Eは弾性層の縦弾性率[Pa]である(下添えは「L」と同様である。)。
【0037】
次に、各物理量を無次元化すると、数3が成り立つ。ここで、無次元化した物理量は記号に*を付加して、示す。
【0038】
【数3】

【0039】
また、数1及び数2をそれぞれ無次元化すると、数4及び数5が成り立つ。
【0040】
【数4】

【0041】
【数5】

【0042】
ここで、Neは弾性数[−]であり、数6で定義される。
【0043】
【数6】

【0044】
数4を1次前進差分法で解くと、数7となる。
【0045】
【数7】

【0046】
ここで、Δx*は流れ方向の差分(積分値)の無次元量、Pi+1*及びP*は圧力(i+Δx及びiの位置における圧力)の無次元量、h*は間隙の離間距離(iの位置における離間距離)の無次元量、q*は流量の無次元量である。
【0047】
解析条件は、数8を用いる。
【0048】
【数8】

【0049】
とEを同値にすることで、境界条件として、固体表面及び曲面表面が一層の弾性層の場合の解析をすることができる(図1(b))。
【0050】
せん断応力τ[Pa]及び膜厚hf[μm]は数9及び数10を用いて算出する。
【0051】
【数9】

【0052】
【数10】

【0053】
<非ニュートン性の粘性流体>
図2は、粘性流体の粘度を説明する説明図である。化粧料は非ニュートン性の粘性流体(以下、非ニュートン流体という。)のものがある。本発明の実施例では、非ニュートン流体(図2のA乃至C)において、せん断速度γzに基づいて粘度μを算出し、その粘度を用いて、流動の特性を解析する。なお、ニュートン流体(図2のD)では、せん断速度γzが変化しても、粘度μは変化しない。
【0054】
図2において、非ニュートン流体の粘性μを算出するために、Crossモデルを用いる。本発明は、Crossモデル以外の粘性モデルを用いることが可能である。
【0055】
Crossモデルを数11及び数12に示す。
【0056】
【数11】

【0057】
【数12】

【0058】
ここで、γz(x)はx座標(図1(a))におけるせん断速度、μはせん断速度が無限大のときの粘度、μはせん断速度が無限小のときの粘度、αは粘度変化を表す係数である。α=0の場合は、ニュートン流体となる。
数11において、μ及びμは、数13を用いる。
【0059】
【数13】

【0060】
数11において、αは、0.01(図2のC)を用いる。
【0061】
αの値は、解析する化粧料に応じて、その値を定めることが可能である。具体的には、非ニュートン流体の化粧料、例えば乳液など、では、その粘度に応じて、αの値を定めることが可能である。ニュートン流体の化粧料、例えば化粧水など、では、α=0(図2のD)にすることが可能である。
【0062】
<コンピュータ>
図3は、コンピュータの概略構成図である。
【0063】
図3において、コンピュータ100は、少なくともCPU11、メモリ12、記憶装置13、入力装置14、出力装置15、及び、上述したハードウェアを接続する内部接続バスを含む。コンピュータ100は、外部に接続することが可能であり、インターネット、有線/無線のLAN、WAN等の外部のネットワークに接続することにより、外部のコンピュータ等とデータ通信することが可能である。
【0064】
CPU11は、内部接続バスを介して、メモリ12等と接続され、メモリ12等の動作を制御するとともに、記憶装置13に記憶してあるプログラムに従って、種々のソフトウェア的機能を実行する。本発明では、シミュレーション方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム110により、一次元潤滑理論、第1の情報、第2の情報、及び、第3の情報に基づいて、皮膚表面に塗布される化粧料の流動に関する特性をシミュレーションで解析する。
【0065】
メモリ12は、SRAM、SDRAM等の揮発性メモリで構成される。解析実行時に、記憶装置13に記憶してあるコンピュータプログラム110を一時的に記憶する。また、解析した間隙の粘性流体の圧力分布、速度分布、圧力分布と速度分布とから解析する固体表面等の変位量、粘度の変化量、膜厚、最小間隙の距離、及び、最大せん断応力に関するデータ等(以下、解析結果という。)を一時的に記憶する。
【0066】
記憶装置13は、内蔵される固定型記憶装置(ハードディスク)、SRAM等の揮発性メモリ、ROM等の不揮発性メモリ等で構成される。記憶装置13に記憶してあるコンピュータプログラム110は、実行時に記憶装置13からメモリ12へ展開される。また、記憶装置13は、解析結果を記憶する。
【0067】
入力装置14は、キーボード、マウス等のデータ入力装置であり、I/Oインタフェースを介して、内部接続バスに接続される。入力装置14は、初期条件、解析終了条件、及び、計算精度条件等(以下、解析条件という。)を入力する。初期条件は、第1の情報、第2の情報、及び、第3の情報等がある。
【0068】
第1の情報は、皮膚表面に相当する条件として、表面に一つの溝が形成された固体表面の物理量及び位置等に関する情報である。第2の情報は、皮膚表面と離間する曲面表面の物理量及び位置等に関する情報である。第3の情報は、皮膚表面と曲面表面との間隙に配置する粘性流体の物理量等に関する情報である。
【0069】
出力装置15は、CRTモニタ、LCD等の表示装置であり、I/Oインタフェースを介して、内部接続バスに接続される。出力装置15は、解析結果等を表示する。
【0070】
<シミュレーション方法の手順>
シミュレーション方法の手順について、図4を用いて、詳細に説明する。
【0071】
図4は、シミュレーション方法の手順を説明するフローチャートである。
【0072】
図4において、ステップS1は、入力装置14(図3)において、解析条件を入力する手順である。解析条件は記憶装置13(図3)に記憶される。入力が完了すると、ステップS2にすすむ。
【0073】
ステップS2は、CPU11(図3)において、記憶装置に記憶された初期条件をメモリ12(図3)に設定する手順である。初期条件は、入口条件として無次元の流量q*(数3)及び固体表面等の物理量(数8)、境界条件として曲面表面の移動速度(数8)などがある。設定が完了すると、ステップS3にすすむ。
【0074】
ステップS3は、CPUにおいて、初期条件等から境界条件を算出する手順である。境界条件として、固体表面及び曲面表面の位置及び変位量などがある。固体表面等の変位量は、数5及び数6等を用いて、算出する。算出が完了すると、算出した結果をメモリに記憶し、ステップS4にすすむ。
【0075】
ステップS4は、CPUにおいて、圧力分布等を算出する手順である。圧力分布は、解析条件の計算精度条件等に基づいて、数7乃至数13を用いて、算出する。算出の手順は、まず、入口位置(図1(a)のx座標が−10[mm]の位置)に無次元圧力P*=0に設定し、x軸方向に、差分50μm(数7のΔx*)で積分し、出口位置(図1(a)のx座標が10[mm]の位置)の無次元圧力P*を算出する(数7)。算出が完了すると、算出した結果を、メモリに記憶し、ステップS5にすすむ。
【0076】
ステップS5は、CPUにおいて、解析が終了したか否かを判断する手順である。CPUは、解析の結果が所定の範囲内にあると判断した場合、解析を終了する。CPUが判断する方法を、図5を用いて、具体的に説明する。
【0077】
図5は、無次元の流量q*の変化に対する圧力分布を説明する図である。解析により、出口位置の圧力が算出できる(ステップ4、数7及び数3)。このとき、出口位置の圧力が所定の範囲内のとき、解析を終了する。CPUは、出口位置の無次元圧力P*の絶対値が、0.01以下のとき(図5のBの場合)、解析を終了すると判断することができる。
【0078】
所定の範囲は、解析条件の解析終了条件に基づき、定めることができる。所定の範囲は、解析する化粧料に応じて、その範囲を定めることが可能である。
【0079】
図4のステップS5において、CPUが解析を終了すると判断した場合は、解析結果を記憶装置に記憶し、ステップS6にすすむ。解析が終了しないと判断した場合は、解析結果をメモリに記憶し、ステップS2に戻る。ステップS2に戻る場合では、初期条件の入口条件の無次元の流量q*は、解析結果の出口位置の無次元圧力に基づき、その値を設定することができる。具体的には、図5において、出口位置(x=10[mm])の圧力Pが正の場合は無次元の流量q*を加算し、出口位置の圧力Pが負の場合は無次元の流量q*を減算する。
【0080】
ステップS6は、CPUにおいて、解析を終了する手順である。CPUは、出力装置15(図3)により、解析結果を出力し、解析を終了する。
【0081】
以上の手順により、本発明のシミュレーション方法により、コンピュータを用いて、皮膚表面に塗布される化粧料の流動に関する特性を解析することができる。
【0082】
<解析結果の評価>
以下に、解析結果の評価方法について、図6及び図7を用いて、詳細に説明する。
【0083】
図6は、二層の弾性層の境界条件(図1(a))において、押し込み量に対する、粘性流体の流動の特性を評価した一例を示す図である。図6(a)は膜厚hfの場合、図6(b)は最小離間距離hminの場合、及び、図6(c)は最大せん断応力τmaxの場合である。
【0084】
図6(a)は、押し込み量y(図1(a))が増加(固体表面と曲面表面の離間距離が増加)すると、膜厚hf(数10)も増加することを示す。これにより、粘性流体である化粧料を指で塗布する場合、指と皮膚表面の離間距離に対応して、その化粧料の膜厚が変化すると評価できる。
【0085】
図6(b)は、押し込み量yが減少すると、最小離間距離(図1(a)のx=0の離間距離)hminも減少することを示す。また、押し込み量yが負の場合でも、最小離間距離hminが正であることを示す。これにより、粘性流体である化粧料を指で塗布する場合、指が皮膚表面を押し込む場合(押し込み量が負の場合)でも、その指と皮膚表面との間に間隙が生じ、その間隙に化粧料が存在すると評価できる。
【0086】
図6(c)は、押し込み量yが減少すると、最大せん断応力(図1(a)のx=0のせん断応力)τmax(数9)が増加することを示す。また、最大せん断応力τmaxの増加は、粘度μの減少を示す(数11、及び、数12)。これにより、粘性流体である化粧料を指で塗布するとき、皮膚表面に強く押し込む(塗り込む)場合は、その化粧料の粘度が減少し、使用感触として、よりさらさら感を与えると評価できる。
【0087】
図7は、一層の弾性層の境界条件(図1(b))において、押し込み量に対する、粘性流体の流動の特性を評価した一例を示す図である。図7は、図6と同様の評価となるため、説明を省略する。
【0088】
<実施例>
【実施例1】
【0089】
実施例1として、二層の弾性層の境界条件における、皮膚表皮上の粘性流体のシミュレーションの解析結果の一例を、図8乃至図11に示す。
【0090】
図8は、本実施例において、押し込み量に対する、固体表面及び曲面表面の変形を解析した一例である。図8(a)は押し込み量y=100μmの場合(図1(a))、図8(b)はy=10μmの場合、及び、図8(c)はy=−25μmの場合である。解析は数5及び数6等を用いる。
【0091】
図8(a)は、押し込み量yが100μmの場合では、固体表面及び曲面表面は変形が小さいことを示す。
【0092】
図8(b)より、押し込み量yが10μmの場合は、固体表面及び曲面表面が変形する。これは、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が小さくなり、その間隙で粘性流体の圧力が増加し(後述の図9(b))、その圧力増加により固体表面及び曲面表面の弾性層が圧力による力をより大きく受けるからである。
【0093】
図8(c)より、押し込み量yが−25μmの場合は、固体表面及び曲面表面の変形は更に大きくなる。
【0094】
図9は、本実施例において、押し込み量に対する、圧力分布を解析した一例である。図9(a)は押し込み量y=100μmの場合、図9(b)はy=10μmの場合、及び、図9(c)はy=−25μmの場合である。解析は数7及び数8等を用いる。
【0095】
図9(a)は、押し込み量yが100μmの場合では、圧力は略一定に分布し、圧力変動が小さいことを示す。
【0096】
図9(b)より、押し込み量yが10μmの場合は、固体表面の溝M(図1(a)のx=0)近傍において、圧力変動が大きくなる。これは、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が小さくなり(図8(b))、その間隙を流れる粘性流体が抵抗を受けるからである。
【0097】
図9(c)より、押し込み量yが−25μmの場合は、固体表面の溝M近傍において、圧力変動が更に大きくなる。
【0098】
図10は、本実施例において、押し込み量に対する、せん断応力を解析した一例である。図10(a)は押し込み量y=100μmの場合、図10(b)はy=10μmの場合、及び、図10(c)はy=−25μmの場合である。解析は数7、数8、及び、数9等を用いる。
【0099】
図10(a)は、押し込み量yが100μmの場合では、固体表面の溝M近傍において、せん断応力が増加することを示す。これは、溝M近傍では、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が小さくなり、その間隙を流れる粘性流体の速度勾配(数12)が大きくなるからである(数9)。
【0100】
図10(b)より、押し込み量yが10μmの場合は、固体表面の溝M近傍において、せん断応力が更に増加する。これは、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が更に小さくなり、その間隙を流れる粘性流体の速度勾配が更に大きくなるからである。
【0101】
図10(c)は、図10(b)と同様に、せん断応力が更に増加することを示す。
【0102】
図11は、本実施例において、押し込み量に対する、粘性流体の粘度の変化を解析した一例である。図11(a)は押し込み量y=100μmの場合、図11(b)はy=10μmの場合、及び、図11(c)はy=−25μmの場合である。解析は数7、数11、及び、数12等を用いる。
【0103】
図11(a)は、押し込み量yが100μmの場合では、溝M近傍において、粘度が減少することを示す。これは、溝M近傍では、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が小さくなり、その間隙を流れる粘性流体の速度勾配(数12)が大きくなるからである(数11)。
【0104】
図11(b)より、押し込み量yが10μmの場合は、固体表面の溝M近傍において、粘度が更に減少する。これは、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が更に小さくなり、その間隙を流れる粘性流体の速度勾配が更に大きくなるからである。
【0105】
図11(c)は、図11(b)と同様に、粘度が更に減少することを示す。
【0106】
以上により、シミュレーション方法によるコンピュータを用いた解析により、固体表面及び曲面表面の変形、圧力分布、せん断応力、及び、粘性流体の粘度の変化を解析することが可能となる。
【実施例2】
【0107】
実施例2として、一層の弾性層の境界条件における(図1(b))、皮膚表皮上の粘性流体のシミュレーションの解析結果の一例を、図12乃至図15に示す。
【0108】
図12は、本実施例において、押し込み量に対する、固体表面及び曲面表面の変形を解析した一例である。図12(a)は押し込み量y=100μmの場合(図1(b))、図12(b)はy=10μmの場合、及び、図12(c)はy=−25μmの場合である。解析は数5及び数6等を用いる。
【0109】
図12(a)は、押し込み量yが100μmの場合では、固体表面及び曲面表面は変形が小さいことを示す。
【0110】
図12(b)より、押し込み量yが10μmの場合は、固体表面及び曲面表面が変形する。これは、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が小さくなり、その間隙で粘性流体の圧力が増加し(後述の図13(b))、その圧力増加により固体表面及び曲面表面の弾性層が圧力による力をより大きく受けるからである。
【0111】
図12(c)より、押し込み量yが−25μmの場合は、固体表面及び曲面表面の変形は更に大きくなる。
【0112】
図13は、本実施例において、押し込み量に対する、圧力分布を解析した一例である。図13(a)は押し込み量y=100μmの場合、図13(b)はy=10μmの場合、及び、図13(c)はy=−25μmの場合である。解析は数7及び数8等を用いる。
【0113】
図13(a)は、押し込み量yが100μmの場合では、圧力は略一定に分布し、圧力変動が小さいことを示す。
【0114】
図13(b)より、押し込み量yが10μmの場合は、固体表面の溝M(図1(a)のx=0)近傍において、圧力変動が大きくなる。これは、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が小さくなり(図12(b))、その間隙を流れる粘性流体が抵抗を受けるからである。
【0115】
図13(c)より、押し込み量yが−25μmの場合は、固体表面の溝M近傍において、圧力変動が大きくなる。
【0116】
図14は、本実施例において、押し込み量に対する、せん断応力を解析した一例である。図14(a)は押し込み量y=100μmの場合、図14(b)はy=10μmの場合、及び、図14(c)はy=−25μmの場合である。解析は数7、数8、及び、数9等を用いる。
【0117】
図14(a)は、押し込み量yが100μmの場合では、固体表面の溝M近傍において、せん断応力が増加することを示す。これは、溝M近傍では、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が小さくなり、その間隙を流れる粘性流体の速度勾配(数12)が大きくなるからである(数9)。
【0118】
図14(b)より、押し込み量yが10μmの場合は、固体表面の溝M近傍において、せん断応力が更に増加する。これは、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が更に小さくなり、その間隙を流れる粘性流体の速度勾配が更に大きくなるからである。
【0119】
図14(c)は、図14(b)と同様に、せん断応力が更に増加することを示す。
【0120】
図15は、本実施例において、押し込み量に対する、粘性流体の粘度の変化を解析した一例である。図15(a)は押し込み量y=100μmの場合、図15(b)はy=10μmの場合、及び、図15(c)はy=−25μmの場合である。解析は数7、数11、及び、数12等を用いる。
【0121】
図15(a)は、押し込み量yが100μmの場合では、溝M近傍において、粘度が減少することを示す。これは、溝M近傍では、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が小さくなり、その間隙を流れる粘性流体の速度勾配(数12)が大きくなるからである(数11)。
【0122】
図15(b)より、押し込み量yが10μmの場合は、固体表面の溝M近傍において、粘度が更に減少する。これは、固体表面と曲面表面との間隙の離間距離が更に小さくなり、その間隙を流れる粘性流体の速度勾配が更に大きくなるからである。
【0123】
図15(c)は、図15(b)と同様に、粘度が更に減少することを示す。
【0124】
以上により、コンピュータを用いたシミュレーション方法による解析により、固体表面及び曲面表面の変形、圧力分布、せん断応力、及び、粘性流体の粘度の変化を解析することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、皮膚等への化粧料の塗布時において、被験者によらない方法で簡便、かつ、客観性及び再現性のある皮膚表皮上の化粧料の流動特性を明らかにするシミュレーション方法が提供される。これによって、従来の方法に比べて、調査の効率が大幅に改善され、ひいては化粧品開発の時間短縮及びコスト削減、並びに、定量的な評価による次の製品開発のための指標を得ることができる。
【0126】
本発明は、シミュレーションの解析条件(粘性流体(化粧料)、境界条件(皮膚表皮)等)を変更することで、化粧料以外の様々な分野において、液体の固体表面上の流動の特性を明らかにすることが可能である。
【0127】
なお、上記実施例に挙げた構成等に他の要素を組み合わるなど、ここで示した構成に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0128】
Fv : 粘性流体
Skn1: 表皮(固体表面)
Skn2: 真皮(固体表面)
Skn3: 表皮(曲面表面)
Skn4: 真皮(曲面表面)
M : 溝(固体表面)
Δx* : 流れ方向の変位量(差分)の無次元量
i : x座標
* : 圧力(iの位置における圧力)の無次元量
* : 間隙の離間距離(iの位置における離間距離)の無次元量
q* :流量の無次元量
E :縦弾性率
110 : コンピュータプログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚表面に粘性のある化粧料を塗布する場合の、前記皮膚表面上の前記化粧料の流動をコンピュータを用いて解析するシミュレーション方法であって、
前記皮膚表面に相当する条件として、表面に一つの溝が形成された固体表面に関する第1の情報を入力する工程と、
前記皮膚表面と離間する曲面表面に関する第2の情報を入力する工程と、
前記皮膚表面と前記曲面表面との間隙に、粘性流体を配置する条件に関する第3の情報を入力する工程と、
一次元潤滑理論、前記第1の情報、前記第2の情報、及び、前記第3の情報に基づいて、前記間隙の前記粘性流体の流動に関する特性を算出する工程と、
を含むことを特徴とする化粧料の流動を解析するシミュレーション方法。
【請求項2】
前記一次元潤滑理論の基礎方程式(数7)は、


であり、
ここで、Δx*は流れ方向の変位量(差分)の無次元量、Pi+1*及びP*は圧力(i+Δx及びiの位置における圧力)の無次元量、h*は前記間隙の離間距離(iの位置における離間距離)の無次元量、q*は流量の無次元量である、
ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記第1の情報、前記第2の情報、前記第3の情報、及び、前記粘性流体の流動に関する特性を算出した結果に基づいて、
前記固体表面または前記曲面表面の変形を算出する工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記第1の情報は、前記固体表面は弾性層であって、一層の弾性層に関する縦弾性率の情報を含み、
前記第2の情報は、前記曲面表面は弾性層であって、一層の弾性層に関する縦弾性率の情報を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記第1の情報は、前記固体表面は弾性層であって、二層の弾性層に関する縦弾性率の情報を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記第2の情報は、前記曲面表面は弾性層であって、二層の弾性層に関する縦弾性率の情報を含むことを特徴とする請求項5に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の前記シミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−8160(P2013−8160A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139816(P2011−139816)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)