説明

化粧料用ポリマーエマルジョン

【課題】収縮性、柔軟性及び耐水性に優れた皮膜を形成しうる化粧料用ポリマーエマルジョン、その製造方法、及びまつ毛用化粧料を提供する。
【解決手段】コア・シェル型ポリマー粒子を含有するポリマーエマルジョンであって、シェル部のポリマーが、メタクリル酸及び/又はその塩由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー由来の構成単位を含み、ガラス転移温度が100℃以上である両親媒性ポリマーであり、コア部のポリマーが、疎水性ビニルモノマー由来の構成単位を含み、ガラス転移温度が10℃以下である疎水性ポリマーである、化粧料用ポリマーエマルジョン、その製造方法、及びそれを配合してなるまつ毛用化粧料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料用ポリマーエマルジョンに関し、詳しくは収縮性、柔軟性及び耐水性に優れた皮膜を形成しうる化粧料用ポリマーエマルジョン、その製造方法、及びまつ毛用化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
マスカラに代表されるまつ毛用化粧料は、まつ毛の形を整え、ボリューム感を与えて、より濃く長く美しく見せる化粧効果を有する。まつ毛の化粧効果は、上まつ毛の毛先を上向きにカールさせることにより向上する。そのため、ビューラー(まつ毛矯正器)を用いて、上まつ毛の毛先を上向きにカールさせた後、まつ毛用化粧料を塗布することがしばしば行われている。まつ毛を上向きにカールさせることにより、正面から見たときに、まつ毛が濃く長く見えるからである。
このまつ毛用化粧料の一成分として、造膜性を有するポリマーエマルジョンが使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水分散性ないし水溶性のショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸石鹸にポリマーエマルジョンを配合してなるまつ毛用化粧料が開示されている。しかしながら、このまつ毛用化粧料はカールアップ効果が十分でないという問題があった。
特許文献2には、ケラチン性物質に接着可能なポリマーとそれ以外のポリマー粒子やワックス等との組み合わせにより、まつ毛にカールアップ効果を与えるマスカラ組成物が開示されている。また、特許文献3には、角質層の1%を越える収縮を起こす皮膜を形成性できるポリマーと高硬度のワックスの組み合わせにより、カールアップ効果とまつ毛を太くする効果を与えるマスカラ組成物が開示されている。
しかしながら、特許文献2及び3に開示されたマスカラ組成物は、カールしたまつ毛が涙や雨によって流失しやすいという問題があった。
そのため、まつ毛用化粧料に配合するだけで、ビューラーを使用しなくてもまつ毛用化粧料に充分なカールアップ効果を与え、化粧持続性も付与することができる化粧料用ポリマーエマルジョンが求められていた。
【0004】
【特許文献1】特開2000−119140号公報
【特許文献2】特開2003−55136号公報
【特許文献3】特開平11−255619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、収縮性、柔軟性及び耐水性に優れた皮膜を形成しうる化粧料用ポリマーエマルジョン、その製造方法、及びまつ毛用化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の両親媒性ポリマーと疎水性ポリマーからなるコア・シェル型ポリマー粒子を含有するポリマーエマルジョンが、上記課題を達成しうることを見出した。
すなわち、本発明は、
(1)コア・シェル型ポリマー粒子を含有するポリマーエマルジョンであって、シェル部のポリマーが、メタクリル酸及び/又はその塩(a−1)由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー(a−2)由来の構成単位を含み、ガラス転移温度が100℃以上である両親媒性ポリマー(A)であり、コア部のポリマーが、疎水性ビニルモノマー(b)由来の構成単位を含み、ガラス転移温度が10℃以下である疎水性ポリマー(B)である、化粧料用ポリマーエマルジョン、
(2)両親媒性ポリマー(A)を分散剤として、疎水性ビニルモノマー(b)及び重合開始剤を水相中に分散し、重合する、上記(1)の化粧料用ポリマーエマルジョンの製造方法、及び
(3)上記(1)の化粧料用ポリマーエマルジョンを配合してなるまつ毛用化粧料、
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の化粧料用ポリマーエマルジョン及びまつ毛用化粧料は、高収縮性によるカールアップ効果に優れ、柔軟性と耐水性を高レベルに維持した化粧膜を形成することができる。また、本発明の製造方法によれば、化粧料用ポリマーエマルジョンを効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の化粧料用ポリマーエマルジョンは、水を連続相とし、コア・シェル型ポリマー粒子を含有するポリマーエマルジョンであって、シェル部のポリマーが、メタクリル酸及び/又はその塩(a−1)由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー(a−2)由来の構成単位を含み、ガラス転移温度(以下、「Tg」という)が100℃以上である両親媒性ポリマー(A)であり、コア部のポリマーが、疎水性ビニルモノマー(b)由来の構成単位を含み、Tgが10℃以下である疎水性ポリマー(B)であることが特徴である。以下、各成分について説明する。
【0009】
[両親媒性ポリマー(A)]
両親媒性ポリマー(A)は、本発明のコア・シェル型ポリマー粒子のシェル部を形成するポリマーであり、メタクリル酸及び/又はその塩(a−1)由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー(a−2)由来の構成単位を含み、Tgが100℃以上である。
この両親媒性ポリマー(A)は、乾燥後に堅実な皮膜形成性を有するポリマーであり、また高収縮性を有しているため、エマルジョンを乾燥させていくと、皮膜化する際にカール性を発現する性質を有する。ここで、「皮膜形成性」とは、ポリマーエマルジョンをテフロンシャーレに広げて、25℃で一日放置して乾燥させ、厚さ0.2mmの膜を作製したとき、0.2mm2以上の連続した透明又は半透明の堅牢な皮膜を形成する性質をいう。ただし、乾燥に伴ってヒビが生じてもよく、一枚の膜として得られる必要はない。
【0010】
両親媒性ポリマー(A)の構成単位の1つは、メタクリル酸及び/又はその塩(a−1)であり、メタクリル酸の塩としては、例えばメタクリル酸アンモニウム塩等が挙げられる。
両親媒性ポリマー(A)の他の構成単位は、疎水性ビニルモノマー(a−2)である。疎水性ビニルモノマーとは、該ビニルモノマーを20℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が2g以下、好ましくは1.8g以下であるビニルモノマーをいう。疎水性ビニルモノマー(a−2)の溶解度が低いほど、両親媒性ポリマー(A)を化粧料に配合したとき、その化粧料の耐湿性が向上し好ましい。
また、疎水性ビニルモノマー(a−2)は、収縮性の観点から、該モノマーを重合してホモポリマーとしたときのTgが80℃以上であるものが好ましく、100℃以上であるものがより好ましい。
疎水性ビニルモノマー(a−2)としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン、アルキルアクリルアミド、アルキルメタクリルアミド等が好適に挙げられる。これらのモノマーに含有されるアルキル基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖の炭化水素、炭素数5〜25の単環又は多環の脂肪族環又は芳香環を有する炭化水素基、環にさらに炭素数1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を置換基として有する炭化水素基等が挙げられる。
これらの中でも、収縮性の観点から、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、スチレン、ブチルアクリルアミド、ブチルメタクリルアミドが好ましく、特にメチルメタクリレート、tert−ブチルアクリルアミドが好ましい。
疎水性ビニルモノマー(a−2)は、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
【0011】
両親媒性ポリマー(A)のTgは、収縮性の観点から、100℃以上であり、Tg105℃以上が好ましく、Tg110℃以上がより好ましく、Tg120℃以上が特に好ましい。また、Tgが高いほどまつ毛カールアップ向上の観点から好ましいが、製造上の制約からTg250℃以下が好ましく、さらにTg230℃以下が好ましい。
なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計により測定された値をいう。具体的には、下記の連続する温度プログラム1〜4の条件で測定を行った場合、温度プログラム3で測定される値をTgとする。
温度プログラム:
1.30 〜 250℃:昇温速度 30℃/min,保持時間 1min
2.250〜−100℃:冷却速度200℃/min,保持時間10min
3.−100〜250℃:昇温速度 10℃/min,保持時間 1min
4.250 〜 30℃:冷却速度 30℃/min,保持時間 2min
また、Tgの測定は、後記のように、両親媒性ポリマー(A)に含まれるカルボキシル基を中和する場合は、その中和後に行う。
【0012】
両親媒性ポリマー(A)に含まれるメタクリル酸及び/又はその塩(a−1)由来の構成単位の含有率は、収縮性の観点から、15質量%が好ましく、15〜98質量%がより好ましく、20〜90質量%が更に好ましく、40〜80質量%が特に好ましい。
また、両親媒性ポリマー(A)に含まれる疎水性ビニルモノマー(a−2)の由来の構成単位の含有率は、エマルジョンの安定性を得るために、2〜80質量%が好ましく、10〜80質量%がより好ましく、20〜60質量%が更に好ましい。
【0013】
両親媒性ポリマー(A)の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した値で、5,000〜1,000,000が好ましく、8,000〜500,000が更に好ましい。質量平均分子量が5,000以上であれば、良好な収縮性の効果を得ることができ、1,000,000以下であれば、適度な塗布のしやすさを維持することができる。
両親媒性ポリマー(A)に含まれるカルボキシル基は、化粧料として使用する観点から、中和されることが好ましい。中和処理は、その中和度が酸1当量に対する中和剤当量数で0.01〜0.6当量の範囲にあることが好ましく、0.02〜0.3当量の範囲にあることがより好ましい。また、中和処理後のpH値は、4.8〜7.8であることが好ましく、5.0〜7.5であることがより好ましい。
中和剤としては、L−アルギニン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、2−アミノメチル−1−プロパノール、2−アミノメチル−プロパンジオール及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンから選ばれる一種以上の塩基性化合物を用いることが好ましい。
【0014】
[疎水性ポリマー(B)]
疎水性ポリマー(B)は、本発明のコア・シェル型ポリマー粒子のコア部を形成するポリマーであり、疎水性ビニルモノマー(b)由来の構成単位を含み、Tgが10℃以下、好ましくは5℃以下のポリマーである。Tgが低いほど、被膜化するときに柔らかさを感じることができ好ましい。疎水性ポリマー(B)のTgの測定は、前記の両親媒性ポリマー(A)のTgの測定と同様にして行う。
疎水性ポリマー(B)は、皮膜の耐水性の観点から架橋していないものが好ましい。
【0015】
疎水性ビニルモノマー(b)は、広義には疎水性ビニルモノマー(a−2)と同義である。すなわち、該ビニルモノマーを20℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が2g以下、好ましくは1.8g以下であるビニルモノマーをいう。
疎水性ビニルモノマー(b)は、化粧料用として使用するときの柔らかさの観点から、該モノマーを重合してホモポリマーとしたときのTgが20℃以下であるものが好ましく、10℃以下のものがより好ましい。
【0016】
疎水性ビニルモノマー(b)としては、好ましくは炭素数2〜45、より好ましくは炭素数4〜25、更に好ましくは炭素数8〜20の炭化水素鎖を有するものが好ましい。炭化水素鎖は、直鎖又は分岐鎖のいずれであってよい。また、単環又は多環の脂肪族環又は芳香環を有する炭化水素基を含んでもよい。また、環にさらに直鎖又は分岐のアルキル基を置換基として有する炭化水素基を含んでもよい。アルキル(メタ)アクリレートが好ましく用いられ、例えば、エチル(メタ)アクリレート、3−メトキシエチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−フェニルエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)メタクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中では、特にエチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレートが好ましい。
なお、疎水性ビニルモノマー(b)は、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。また、疎水性ポリマー(B)のTgが10℃以下である限り、上記のモノマー以外のモノマーを共重合することもできる。
【0017】
[化粧料用ポリマーエマルジョン]
コア・シェル型ポリマー粒子における両親媒性ポリマー(A)と疎水性ポリマー(B)の質量比は、ポリマーエマルジョンから形成される収縮性と耐水性を両立させる観点から、〔(A)/(B)〕の質量比が1/1〜1/10が好ましく、1/1〜1/7が更に好ましく、1/1〜1/5が特に好ましい。
ポリマーエマルジョン中のポリマー粒子の粒径は、エマルジョンの安定性等の観点から、0.05〜20μmが好ましく、0.08〜15μmが更に好ましい。なお、ポリマー粒子の粒径は、レーザ回折粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0018】
[化粧料用ポリマーエマルジョンの製造方法]
本発明の化粧料用ポリマーエマルジョンの製造方法は、水相中において両親媒性ポリマー(A)と疎水性ポリマー(B)を接触し、コア・シェル型ポリマー粒子を含有するポリマーエマルジョンとすることができる方法であれば、特に限定されない。例えば、疎水性ポリマー(B)を公知の方法で重合した後、得られた疎水性ポリマー(B)を微粉化し、両親媒性ポリマー(A)を分散剤として水相に分散させる方法を採用することができる。
しかしながら、本発明の化粧料用ポリマーエマルジョンを効率的に製造するためには、両親媒性ポリマー(A)を分散剤として、疎水性ビニルモノマー(b)及び重合開始剤を水相中に分散し、重合する方法を採用することが好ましい。
分散に使用される乳化装置としては、超音波ホモジナイザー、ホモミキサー、マイルダー、アトライター、(超)高圧ホモジナイザー、ナノマイザーシステム、膜乳化装置等が挙げられる。
【0019】
重合方法としては、溶液重合、バルク重合、沈殿重合、無乳化重合等を用いることができる。重合開始剤は特に限定されず、例えばクメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等のパーオキサイド類、及びアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類等の有機系重合開始剤、並びに過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等の無機系重合開始剤等が挙げられる。また、重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸及びその塩等の還元剤を重合開始剤と組合せて用いる、いわゆるレドックス系重合開始剤を使用することもできる。
本発明の製造方法によれば、水中に分散した疎水性ビニルモノマー(b)の液滴の周囲に両親媒性ポリマー(A)が存在した状態で重合が進行することにより、コア・シェル型の構造を有するポリマー粒子が形成される。
【0020】
[まつ毛用化粧料]
本発明の化粧料用ポリマーエマルジョンは、形成される皮膜の収縮性に起因する引っ張り効果を有するため、引っ張り機能を謳うことができるパック、化粧水、まつ毛用化粧料等に好適に配合することができる。特に本発明の化粧料用ポリマーエマルジョンを配合したまつ毛用化粧料をまつ毛上面に塗布すると、ポリマーエマルジョンの乾燥によりカール性が発現し、また、化粧持ちも良好となる。
本発明のまつ毛用化粧料は、着色顔料を配合したマスカラと称されるメイクアップ化粧料だけでなく、いわゆるまつ毛下地剤や、トップコートと称されるメイクアップ化粧料の上に適用される化粧料も包含する。なかでも、本発明のまつ毛用化粧料は、マスカラ組成物の配合成分として好適に利用できる。
【0021】
[マスカラ組成物]
マスカラ組成物としては、本発明の化粧料用ポリマーエマルジョンの他に、ワックスを含有することが好ましい。ワックスは、特に高いカールアップ効果を得る観点から、針入度8以上のワックスがより好ましい。ここで、針入度とは、JIS K−2235−5.4に準じて測定したものをいう。すなわち、25°±0.1℃に保ったワックスの試料に、規定の針(針の質量2.5±0.02g、針保持具の質量47.5±0.02g、おもりの質量50±0.05g)が、5秒間に針入する長さを測定し、その針入距離(mm)を10倍した値を針入度とする。
ワックスは、動物系ワックス、植物系ワックス、鉱物系ワックス、合成ワックス等から適宜選択して使用することができる。具体的には、カルナウバロウ、ミツロウ、極度水添ホホバ油、ラノリンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、常温(25℃)で固体のグリセリド、シリコーンワックス等が挙げられる。これらの中では、ミツロウ、マイクロクリスタリンワックスが好ましい。上記のワックスは、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
ワックスの配合量は、マスカラ組成物中、0.1〜20質量%が好ましい。0.1質量%以上配合することで、まつ毛の十分なカールアップ効果を得ることができ、20質量%以下とすることで、良好な仕上がりを期待することができる。
【0022】
マスカラ組成物には、まつ毛への付着性を向上させるために、1価又は多価アルコールを配合することができる。1価アルコールとしては、エタノール、イソプロパノール、ブチルアルコール等が挙げられ、多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、1,3−ブチレングリコール等が挙げられる。これらの中では、取り扱いやすさの観点から、エタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールが好ましい。これらの1価又は多価アルコールは、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
1価又は多価アルコールの配合量は、マスカラ組成物中、1〜12質量%が好ましく、2〜10質量%が更に好ましい。1質量%以上であれば、まつ毛への付着性向上し、12質量%以下であればカールアップ効果を維持することができる。
【0023】
マスカラ組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、化粧料用ポリマーエマルジョン以外の皮膜形成性ポリマー、液状油、増粘剤、繊維、その他の通常化粧品に添加される成分を配合することができる。
皮膜形成性ポリマーとしては、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、シリコーン系ポリマー等が挙げられる。これらのポリマーは、溶液系、エマルジョン系等の化粧品の形態にかかわらず使用できる。
液状油は、美しい仕上がりを得る観点から用いられる。その具体例としては、軽質イソパラフィン、流動イソパラフィン、流動パラフィン、重質流動イソパラフィン等の炭化水素系オイル;リンゴ酸ジイソステアリル、イソノナン酸イソトリデシル、ジミリスチン酸グリセリル、ジイソステアリン酸グリセリル、ミリスチン酸・イソステアリン酸グリセリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ひまし油、マカデミアンナッツオイル、ホホバ油等のエステルやトリグリセライド類;ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油等が挙げられる。
液状油の配合量は、マスカラ組成物中、0.01〜10質量%が好ましく、1〜8質量%が更に好ましい。
【0024】
増粘剤は、水性成分に溶解し、粘度を付与することができる材料であり、まつ毛への付着性を向上させるために添加することができる。増粘剤は、化粧料に使用可能なものであれば特に制限はない。例えば、グアーガム、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、変性コーンスターチ、デンプン等の天然系増粘剤;メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース等の半合成系増粘剤;カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・ビニルアルコール共重合体、ポリメチルビニルエーテル等の合成系増粘剤が挙げられる。
増粘剤の配合量は、まつ毛への付着性向上の観点から、マスカラ組成物中、0.01〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%が更に好ましい。
【0025】
繊維は、ロングラッシュ効果を高めるために含有することができる。繊維としては、木綿、絹、麻等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、ポリアミド、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリオレフィン等の合成繊維が挙げられるが、強度の点からナイロン等のポリアミド繊維が好ましい。必要に応じて、例えばシリカ処理、シリコーン処理、フッ素化合物処理、金属せっけん処理、油脂処理等の表面処理を施した繊維を使用することもできる。繊維の形態は、まつ毛への付着性の点から、太さが0.1〜20T、長さが0.1〜5mmのものが好ましい。
繊維の配合量は、十分なロングラッシュ効果を得る観点から、マスカラ組成物中、0.1〜6質量%が好ましい。
【0026】
その他の通常化粧品に添加される成分としては、例えば、顔料、界面活性剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、保湿剤、酸化防止剤、香料、防腐剤等が挙げられる。これらは、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
顔料としては、無機顔料、有機顔料、体質顔料等が上げられる。無機顔料として、酸化チタン、黒酸化チタン、亜鉛華、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄等等が挙げられ、有機顔料として、タール色素等が挙げられる。
顔料は、表面処理されていてもよく、例えばシリカ処理、アルミナ処理、シリカーアルミナ処理、ポリアクリル酸処理等の親水化表面処理、シリコーン処理、フッ素化合物処理、金属せっけん処理、レシチン処理、油脂処理等疎水化表面処理を施したものを使用できる。
なかでも親水化表面処理を施した顔料は、ポリマーエマルジョンとの親和性が高く、特にポリアクリル酸処理された顔料はカールアップ効果、仕上がり性の点でより好ましい。
顔料の配合量は、まつ毛用化粧料中、0.1〜20質量%が好ましく、1〜8質量%が更に好ましい。
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両親媒性界面活性剤等が挙げられる。
【0027】
本発明のマスカラは、本発明のコア・シェル型ポリマーを溶解する溶媒を用いた溶液系、水を用いた水中油型乳化系(O/W)、油中水型乳化系(W/O)等の形態で提供される。これらのうち、カールアップ効果を向上させる観点から、水中油型乳化系(O/W)が好ましい。
【実施例】
【0028】
製造例1(両親媒性ポリマー(A)液:ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)ナトリウム塩水溶液の製造)
ガラス製反応容器にエタノール1900gを入れ、室温で窒素バブリングを30分行った後、窒素雰囲気下63℃まで加熱した。アゾ系重合開始剤2,2’−アビゾス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製、V−65)6.1gをエタノール30gに溶解した液を添加した後、メタクリル酸300g、tert−ブチルアクリルアミド300g、及びエタノール490gからなる混合物を2時間かけて添加した。該混合物の添加終了後、63℃で6時間攪拌し、その後71℃に昇温し、2時間攪拌して重合を行った。
得られたポリマー溶液をヘキサンに滴下し、再沈殿を行った。沈殿物を回収し、減圧下、70℃で12時間以上乾燥し、ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)を得た。NMRにて測定したポリマー組成はメタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド=56/44(質量比)であった。GPCにて測定した質量平均分子量は66,000(ポリスチレン換算)であった。
得られたポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)15gをエタノール70gに溶解した液に、1N水酸化ナトリウム水溶液を8.34g滴下した。更に水を70g加え、エバポレーターにてエタノールを留去し、ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)ナトリウム塩水溶液を得た(中和度0.08)。このポリマーのTgを示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製、DSC6200。Tgの測定は以下同様である。)にて測定した結果、213℃であった。なお、tert−ブチルアクリルアミドのホモポリマーのTgは135℃である。
得られたポリマー液のpHは5.8であり、エバポレーターで濃縮した後の固形分は22%であった。
【0029】
実施例1(ポリマーエマルジョンの製造)
製造例1で得られたポリマー液を水で濃度12.5%に希釈し、250gの水相を調製した。一方、ラウリルメタクリレート30g、メタクリル酸0.4g、開始剤としてラウロイルパーオキサイドを0.4g加え、混合し均一な油相とした。この油相を水相に加えホモミキサーにより8000rpm12分攪拌を行った。その後、70℃で4時間重合を行い、更に80℃に昇温後2時間重合を継続して、ポリマーエマルジョンを得た。このポリマーエマルジョンは、ポリラウリルメタクリレート(PLMA)をコア部とし、ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)をシェル部とするポリマー粒子を含有するエマルジョンであった。
得られたポリマーエマルジョンのpHは5.8、レーザ回折粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA−920)を用いて測定した粒経(メジアン径)は8μmであった。また、重合終了後、エバポレーターで濃縮した後の固形分は42%であった。コア部のポリマーのTgは−65℃であった。
【0030】
実施例2(ポリマーエマルジョンの製造)
実施例1の油相のラウリルメタクリレート30gを90gに変えた以外は実施例1と同様に行い、ポリラウリルメタクリレート(PLMA)をコア部とし、ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)をシェル部とするポリマー粒子を含有するエマルジョンを得た。
実施例3(ポリマーエマルジョンの製造)
実施例1の油相のラウリルメタクリレート30gを120gに変えた以外は実施例1と同様に行い、ポリラウリルメタクリレート(PLMA)をコア部とし、ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)をシェル部とするポリマー粒子を含有するエマルジョンを得た。
【0031】
実施例4(ポリマーエマルジョンの製造)
実施例1の油相のラウリルメタクリレート30gをイソブチルアクリレート30gに変えた以外は実施例1と同様に行い、ポリイソブチルアクリレート(PiBuAA)をコア部とし、ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)をシェル部とするポリマー粒子を含有するエマルジョンを得た。コア部のポリマーのTgは、−24℃であった。
実施例5(ポリマーエマルジョンの製造)
実施例1の油相のラウリルメタクリレート30gをイソブチルアクリレート90gに変えた以外は実施例1と同様に行い、ポリイソブチルアクリレート(PiBuAA)をコア部とし、ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)をシェル部とするポリマー粒子を含有するエマルジョンを得た。
実施例6(ポリマーエマルジョンの製造)
実施例1の油相のラウリルメタクリレート30gをイソブチルアクリレート150gに変えた以外は実施例1と同様に行い、ポリイソブチルアクリレート(PiBuAA)をコア部とし、ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)をシェル部とするポリマー粒子を含有するエマルジョンを得た。
【0032】
実施例7(ポリマーエマルジョンの製造)
実施例1の油相のラウリルメタクリレート30gをエチルアクリレート26g及びエチルメタクリレート4gに変えた以外は実施例1と同様に行い、ポリエチルアクリレート/エチルメタクリレート共重合体(PEA/EMA)をコア部とし、ポリ(メタクリル酸/tert−ブチルアクリルアミド)をシェル部とするポリマー粒子を含有するエマルジョンを得た。コア部のポリマーのTgは−14℃であった。
【0033】
比較例1
実施例1において、コアポリマー(ポリラウリルメタクリレート(PLMA))を用いなかった以外は実施例1と同様に行った。
比較例2
ガラス製反応容器にイオン交換水1050g、N−ステアロイル−N−メチルタウリンナトリウム(日光ケミカルズ株式会社製、ニッコールSMT)0.75gを加え70℃まで昇温した。その後、窒素を130ml/minで10分間流した。過酸化物系重合開始剤として過硫酸アンモニウム(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)3gを水30gに溶解し、反応容器に添加した。次いで、メチルメタクリレート(三菱ガス化学株式会社製)243g、ブチルアクリレート(和光純薬工業株式会社製)339g、及びアクリル酸(東亜合成株式会社製、80%水溶液)22.5gの混合物を3時間かけて反応容器中に添加した。添加終了後、70℃で1時間重合した後、75℃に昇温して3時間熟成した。その後、室温まで冷却し、1N水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)87gを添加した。得られたポリマーエマルジョンは、ポリメチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸(質量比)=40.5/56.5/3からなる単一層の皮膜形成性ポリマーエマルジョン(中和度0.35)であり、これを濃縮し、濃度を50%とした。
【0034】
(ポリマーエマルジョンの評価)
実施例1〜7、比較例1〜2で得られた化粧料用ポリマーエマルジョンから形成された皮膜の収縮性、柔軟性、耐水性について下記の方法で評価し、その結果を表1に示した。
皮膜の収縮性評価(毛髪カール角度)
長さ1〜1.5cmの毛髪を3本とり、水平に固定する。この毛髪にポリマーエマルジョンを23℃、相対湿度60%で10回塗布し、水平面からの毛髪の反り角度を測定した。測定は3回行い、平均値を反り角度として下記基準で評価した。
皮膜の柔軟性評価
ポリマーエマルジョン、及び、マスカラ液を75μmナイロンフィルムに厚さ200μmでキャストし、一晩乾燥させた後90度の曲げを繰り返し、皮膜の破断した時点の曲げ回数を評価した。
皮膜の耐水性評価
ポリマーエマルジョンをテフロンシャーレに展開し一晩乾燥させた。乾燥後の皮膜に水を滴下し白化するまでの時間を測定し評価した。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例8〜9及び比較例3〜4(マスカラ液の製造)
実施例1、7及び比較例1、2で得られたポリマーエマルジョン、カルナウバロウ(株式会社セラリカ野田製、精製カルナウバワックスNo.1、針入度1以下)、ミツロウ(クローダジャパン株式会社製、BEES WAX−S、針入度18)、ステアリン酸(花王株式会社製、精製ステアリン酸700V)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール)、モノステアリン酸ポリオキシエチレン(オキシエチレン付加モル数:15)グリセリン、黒酸化鉄(三好化成株式会社製、PA−ブラックBL−100、3%ポリアクリル酸処理黒酸化鉄)を用意し、表2に示す割合で各成分を均一攪拌混合することにより、マスカラ組成物を調製した。各組成物の粘度は、いずれも温度25℃において100〜2000Pa・sの範囲であった。
得られたマスカラ液から形成された皮膜の収縮性、柔軟性、耐水性について下記の方法で評価し、その結果を表2に示した。
皮膜の収縮性評価(フィルム屈曲試験)
スライドガラスにテープで短辺の一端を固定した2×5cmのPETフィルム(帝人デュポン(株)製、メリネックスS、フィルム厚さ75μm)の中心に、4mm幅で帯状にマスカラを0.04g塗布し、23℃、60%RHの条件下で乾燥し、3時間後のフィルムの湾曲角度を測定する。角度測定は分度器にて行い、1サンプルにつき3点測定し、その平均値を湾曲角度とした。
皮膜の柔軟性評価
ポリマーエマルジョン、及び、マスカラ液を75μmナイロンフィルムに厚さ200μmでキャストし、一晩乾燥させた後90度の曲げを繰り返し、皮膜の破断した曲げ回数を評価した。
皮膜の耐水性評価
マスカラ液を人工皮革に1.5cm×1.5cmの範囲に10g塗布し一晩乾燥させた。乾燥後の皮膜に水を滴下し1秒1回指でたたき、皮膜が滲む、もしくは崩れるまでの時間を測定し評価した。
【0037】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の化粧料用ポリマーエマルジョンは、高収縮性によるカールアップ効果に優れ、柔軟性と耐水性を高レベルに維持した化粧膜を形成することができる。このため、まつ毛用のメークアップ化粧料、特にマスカラに配合すると、まつ毛に優れたカールアップ効果を与え、柔軟性と耐水性に優れているため、カール保持効果が長時間続き、仕上がりを美しく維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア・シェル型ポリマー粒子を含有するポリマーエマルジョンであって、シェル部のポリマーが、メタクリル酸及び/又はその塩(a−1)由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー(a−2)由来の構成単位を含み、ガラス転移温度が100℃以上である両親媒性ポリマー(A)であり、コア部のポリマーが、疎水性ビニルモノマー(b)由来の構成単位を含み、ガラス転移温度が10℃以下である疎水性ポリマー(B)である、化粧料用ポリマーエマルジョン。
【請求項2】
両親媒性ポリマー(A)における、メタクリル酸及び/又はその塩(a−1)由来の構成単位の含有率が15質量%以上である、請求項1に記載の化粧料用ポリマーエマルジョン。
【請求項3】
〔両親媒性ポリマー(A)/疎水性ポリマー(B)〕の質量比が1/1〜1/10である、請求項1又は2に記載の化粧料用ポリマーエマルジョン。
【請求項4】
疎水性ビニルモノマー(a−2)が、該モノマーを重合してホモポリマーとしたときのガラス転移温度が80℃以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の化粧料用ポリマーエマルジョン。
【請求項5】
疎水性ビニルモノマー(b)が、炭素数2〜45の炭化水素鎖を有するものである、請求項1〜4のいずれかに記載の化粧料用ポリマーエマルジョン。
【請求項6】
両親媒性ポリマー(A)を分散剤として、疎水性ビニルモノマー(b)及び重合開始剤を水相中に分散し、重合する、請求項1〜5のいずれかに記載の化粧料用ポリマーエマルジョンの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の化粧料用ポリマーエマルジョンを配合してなるまつ毛用化粧料。
【請求項8】
まつ毛用化粧料がマスカラである請求項7に記載のまつ毛用化粧料。

【公開番号】特開2007−161600(P2007−161600A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356324(P2005−356324)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】