説明

化粧料用色材およびメーキャップ化粧料

【課題】安全性が高く、鮮やかでくすみのない化粧料用色材およびメーキャップ化粧料を提供すること。
【解決手段】分子量1万〜10万で、体積平均粒径が0.1〜20μmであるポリアミド粉末と、化粧料用染料とを含む化粧料用色材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化粧料用色材に関し、特に鮮やかでくすみのない化粧料用色材に関する。また、この化粧料用色材を配合したメーキャップ化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧料に用いられる色材が鮮やかでくすみのない発色をするために、様々な試みがなされてきた。キラキラ感や立体感を演出するための種々のパール剤開発や、色材が本来持つ色調に色材の発色を近づけるための、粉末表面処理技術による色材分散性の向上などがある。
また、色材が本来持つ色調を新しく開発する試みもなされてきたが、薬事法等の安全性の面から新規染料の開発は困難であった。
【0003】
そこで、既存の染料と非染料材料とを用いて、安全性が高く、鮮やかでくすみのない新しい色調を持つ色材の開発が望まれている。
【0004】
特許文献1では、染料で染色した粒径30〜500μmの球状ナイロンを配合する皮膚洗浄剤が開示されているが、この球状ナイロンはスクラブ剤としての使用であり、染色後のナイロンの持つ色調は染料の色調とほとんど変化がなく、鮮やかでくすみのない新しい色調を有するものではない。また、その目的は皮膚洗浄剤を提供することにあり、メーキャップ化粧料に用いられる色材とは技術的範囲や解決すべき課題が異なる。
【0005】
【特許文献1】特開平5−320041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は安全性が高く、鮮やかでくすみのない色の発現が可能な化粧料用色材、および該色材を用いたメーキャップ化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記のような状況を鑑みて鋭意研究を行った結果、分子量10万以下のポリアミド粉末と、化粧料用染料とを含む化粧料用色材が、安全性が高く、既存の色材では出せなかった鮮やかでくすみのない蛍光発色をすることを確認して本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、重量平均分子量1万〜10万で、体積平均粒径が0.1〜20μmであるポリアミド粉末と、化粧料用染料とを含むことを特徴とする化粧料用色材である。この化粧料用色材は、主としてメーキャップ用色材として用いられるが、これに限定されるものではない。
【0009】
本発明は、化粧料用染料を溶解または分散した油分中に、重量平均分子量1万〜10万で、体積平均粒径が0.1〜20μmであるポリアミド粉末を添加し、加熱混合して化粧料用色材を製造することを特徴とする化粧料用色材の製造方法である。
【0010】
本発明は、上記記載の化粧料用色材を配合してなることを特徴とするメーキャップ化粧料である。
【0011】
本発明は、上記記載の化粧料用色材を配合してなることを特徴とする口紅である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性が高く、鮮やかでくすみのない蛍光発色をする化粧料用色材およびメーキャップ化粧料を提供することができる。
また本発明の化粧料用色材の製造方法によれば、色安定性が良く、簡便な方法で鮮やかなくすみのない化粧料用色材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。
(化粧料用色材)
本発明の化粧料用色材は、重量平均分子量1万〜10万で、体積平均粒径が0.1〜20μmであるポリアミド粉末と、化粧料用染料とを含むものである。
【0014】
本発明の化粧料用色材に用いられるポリアミド粉末としては、ナイロン粉末が好ましい。
ナイロンとしては、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−6,12コポリマー、ナイロン−11、ナイロン−12等が挙げられるが、その中でもナイロン−12、ナイロン−6、ナイロン−6,12コポリマーが好ましい。ナイロン−12としては、ナイロンSP−500(東レ社製、粒径10μm以下、球状粉末)、ナイロンSP−10(東レ社製、粒径10μm、球状粉末)、ナイロンSP−20(東レ社製、粒径20μm、球状粉末)などが挙げられる。ナイロン−6としては、東レTR−1(東レ社製、粒径13μm、多孔質粉末)、オルガゾル 1002 D NAT COS(アルケマ社製、粒径20μm、塊状粉末)などが挙げられる。ナイロン−6,12コポリマーとしては、ナイロンパウダーHK−5000(シントーファイン社製、粒径7μm、球状粉末)などが挙げられる。上記した各粉末は、いずれも分子量が1万〜10万のものである。
【0015】
本発明の化粧料用色材に使用するポリアミド粉末の分子量は、重量平均分子量で1万〜10万が好ましく、1万〜6万がより好ましい。10万より大きくなると鮮やかな発色性で劣るようになり、蛍光発色もしなくなる。分子量が1万より小さいと、化粧品用の粉末として、結晶性が不足するため、配合が難しい。
【0016】
また、ポリアミド粉末の体積平均粒径は、0.1〜20μmの範囲のものが好ましく、2〜15μmのものがより好ましい。体積平均粒径が20μmより大きいと使用感を悪くするので好ましくない。
さらに、ポリアミド粉末の形状は塊状のものより球状、多孔質状のものが蛍光発色性の点から好ましい。
【0017】
本発明に用いられる化粧料用染料とは、通常化粧料用途として用いられる染料をいい、特に鮮やかさの点で油溶性染料が好ましく、赤色218号(テトラクロルテトラブロムフルオレセイン)、赤色223号(テトラブロムフルオレセイン)、だいだい色201号(ジブロムフルオレセイン)等が挙げられる。その中でも赤色218号(テトラクロルテトラブロムフルオレセイン)が特に好ましい。赤色106号や青色1号等の水溶性染料を用いた場合には、鮮やかさがやや劣ると共に、蛍光を発しない。
【0018】
また本発明の化粧料用色材に用いられる化粧料用染料の配合量は、ポリアミド粉末に対して0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜2質量%である。
【0019】
本発明の化粧料用色材は、染料を溶解または分散させた油分中に、ポリアミド粉末を添加し、加熱しながら攪拌混合し、ろ過することにより得られるが、染料の溶媒として、アルコールなど揮発性の高い物質を使用した場合には、ポリアミド粉末を添加後、加熱して溶媒を揮散させる方法も可能である。また、メーキャップ化粧料を製造する場合は、その配合成分とともに、ポリアミド粉末と染料を混合することで、化粧料製造中での色材調製も可能である。
【0020】
(メーキャップ化粧料、口紅)
本発明のメーキャップ化粧料は、上記化粧料用色材を配合してなることを特徴とするメーキャップ化粧料である。
メーキャップ化粧料としては、口紅、リップグロス、アイシャドー、頬紅等が挙げられ、一般的なメーキャップ化粧料に、その種類を問わず適用することができるが、特に口紅は鮮やかでくすみのない化粧料用色材の効果を発現するのに好ましいものである。
【0021】
本発明のメーキャップ化粧料は、上記化粧料用色材をあらかじめ調製し、これを化粧料基材に添加して調製しても良いが、化粧料用染料を溶解または分散した油分中に、ポリアミド粉末を添加し、加熱した後、さらに通常化粧料に用いられる成分を添加して製造しても良い。後者のように化粧料の製造段階で化粧料用色材を調製する方が操作性の点では好ましい。
【0022】
本発明のメーキャップ化粧料に使用するポリアミド粉末の配合量は、化粧料全量中0.1〜30質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜20質量%であり、特に好ましくは0.1〜10質量%である。
【0023】
また本発明のメーキャップ化粧料に用いられる化粧料用染料の配合量は、化粧料全量中0.0003〜1.0質量%が好ましく、より好ましくは0.001〜1.0質量%であり、特に好ましくは0.01〜0.5質量%である。
【0024】
本発明のメーキャップ化粧料には、上記必須成分以外に、通常メーキャップ化粧料に用いられる成分、例えば、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。ただし、これにより、本発明の技術的範囲が限定解釈されるべきものではない。
【0026】
〔試験例1〕
発色試験および蛍光試験を分子量の異なるナイロンを用い、以下の処方で各口紅を調製した。発色試験では自然光を当てた場合の発色を評価し、蛍光試験ではUVランプ(ブラックライト)を当てた場合の発色を評価した。
【0027】
(処方、製法)
表1記載の分子量の異なるナイロン粉末(平均粒径10μm程度)5質量%と、赤色218号 0.05質量%とを、表2記載のような口紅処方に添加し、80℃まで加熱、混合して、5℃まで冷却した。
【0028】
(発色評価基準/蛍光評価基準)
下記評価基準に従い各サンプルの評価を行い、評価結果を表1に示す。
(方法)
各サンプルの赤色の発色状態を観察した。
◎:強く発色
○:よく発色
△:わずかに発色
×:発色しない
【0029】
また、蛍光試験ではUVランプ(ブラックライト)を当てた場合の発色を評価した。
(方法)
各サンプルの蛍光状態を観察した。
◎:強い蛍光が認められる
○:蛍光が認められる
△:わずかに蛍光が認められる
×:蛍光は認められない
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
〔試験例2〕
顔料の検討を行うため、表3に示す試験例(2−1)〜(2−6)の各試料を調製し、400〜750nmの吸光度(反射率)を測定した。
【0033】
【表3】

【0034】
※1:ナイロンSP−500(東レ社製、粒径10μm以下、平均分子量45000、球状粉末)
表3中の赤色202号(リソールルビンBCA)、赤色104号の(1)(フロキシン)、ベンガラは顔料である。また表3中、調色ベースとは、表2におけるポリエチレンワックスからトコフェロールまでの処方を示す。
【0035】
図1は各試験例の400〜750nmにおける光の反射率を示す。図中、A〜Fがそれぞれ試験例(2−1)〜(2−6)を示す。図1のように、A=(2−1)は、400〜550nmの波長領域では吸収が認められる一方、他の色材と比べ600nm付近の波長領域において、強い反射スペクトルが観察されており、このことからも、既存の色材にない特異な発色が得られていることが分かる。
【0036】
〔実施例1〕口紅
以下に示す処方で口紅を調製した。
(1)ポリエチレン 1.0 質量%
(2)セレシン 12.0
(3)カルナバロウ 2.0
(4)トリ安息香酸ペンタエリスリチル 20.0
(5)ヒマシ油 15.0
(6)ヒマワリ油 2.0
(7)ジメチルポリシロキサン 10.0
(8)ナイロン−6(分子量20,000) 10.0
(9)赤色218号 0.1
(10)ベンガラ 0.5
(11)ビタミンEアセテート 適量
(12)トコフェロール 適量
(13)香料 適量
(14)ジカプリン酸ネオペンチルグリコール 残余
<製法>
この例に示した各処方成分を90℃に加熱し、攪拌・混合、脱泡した後、口紅容器に充填し、5℃まで冷却して口紅を得た。この化粧料は色材凝集など製造中の問題もなく、発色に優れていた。
【0037】
〔実施例2〕口紅
以下に示す処方で口紅を調製した。
(1)マイクロクリスタリンワックス 2.0 質量%
(2)セレシン 13.0
(3)ポリブテン 10.0
(4)液状ラノリン 2.0
(5)マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリル 6.0
(6)リンゴ酸ジイソステアリル 10.0
(7)ジイソステアリン酸グリセル 10.0
(8)オキシステアリン酸イソステアリル 10.0
(9)メトキシケイ皮酸オクチル 5.0
(10)メチルフェニルポリシロキサン 5.0
(11)スクワラン 1.0
(12)ナイロン−6(分子量20,000) 1.0
(13)硫酸バリウム 2.0
(14)赤色223号 0.05
(15)ベンガラ被覆雲母チタン 0.1
(16)トコフェロール 適量
(17)香料 適量
(18)トリオクタン酸グリセル 残余
<製法>
この例に示した各処方成分を90℃に加熱し、攪拌・混合、脱泡した後、口紅容器に充填し、5℃まで冷却して口紅を得た。この化粧料は色材凝集など製造中の問題もなく、発色に優れていた。
【0038】
〔実施例3〕口紅
以下に示す処方で口紅を調製した。
(1)ポリエチレンワックス 10.0 質量%
(2)キャンデリラロウ 2.0
(3)ポリブテン 5.0
(4)トリイソステアリン酸グリセリル 15.0
(5)テトラ−2エチルヘキサン酸ペンタエリスリチル 15.0
(6)ダイマージリノール酸ジ(イソステアリル/フィトステリル) 10.0
(7)リン酸水素カルシウム 0.5
(8)ナイロン−12(分子量50,000) 3.0
(9)赤色218号 0.2
(10)ベンガラ 2.1
(11)黒酸化鉄 0.1
(12)酸化チタン 2.3
(13)青色1号 0.2
(14)トコフェロール 適量
(15)流動パラフィン 残余
<製法>
この例に示した各処方成分を90℃に加熱し、攪拌・混合、脱泡した後、口紅容器に充填し、5℃まで冷却して口紅を得た。この化粧料は色材凝集など製造中の問題もなく、発色に優れていた。
〔実施例4〕リップグロス
以下に示す処方でリップグロスを調製した。
(1)流動パラフィン 10.0 質量%
(2)ポリイソブテン 10.0
(3)リンゴ酸ジイソステアリル 10.0
(4)パルミチン酸デキストリン 10.0
(5)ナイロン−12(分子量50,000) 1.0
(6)だいだい色201号 0.2
(7)ベンガラ 0.2
(8)黄酸化鉄 0.2
(9)二酸化チタン 0.6
(10)赤色202号 0.1
(11)トコフェロール 適量
(12)香料 適量
(13)ジイソステアリン酸グリセリル 残余
<製法>
この例に示した各処方成分を90℃に加熱し、攪拌・混合、脱泡した後、口紅容器に充填し、5℃まで冷却して口紅を得た。この化粧料は色材凝集など製造中の問題もなく、発色に優れていた。
【0039】
〔実施例5〕アイシャドー
以下に示す処方でアイシャドーを調製した。
(1)セリサイト 7.0 質量%
(2)マイカ 15.0
(3)ポリメタクリル酸メチル 3.0
(4)合成マイカ 2.0
(5)酸化チタン被覆雲母 4.0
(6)酸化鉄 1.5
(7)窒化ホウ素 5.0
(8)タルク 残余
(9)ナイロン−6(分子量20,000) 10.0
(10)赤色218号 0.1
(11)スクワラン 2.0
(12)ジメチルポリシロキサン 2.0
(13)モノオレイン酸ソルビタン 0.5
(14)防腐剤 適量
(15)香料 適量
<製法>
(1)〜(8)の各成分を粉砕混合したところへ、(9)から(13)を80℃で加熱混合して化粧料用色材としたものを加えて、中皿に成型してアイシャドーを得た。この化粧料は色材凝集など製造中の問題もなく、発色に優れていた。
【0040】
実施例1〜5で得られたメーキャップ化粧料はいずれも鮮やかでくすみのない発色であった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】試験例2の400〜750nmにおける光の反射率と波長との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量1万〜10万で、体積平均粒径が0.1〜20μmであるポリアミド粉末と、化粧料用染料とを含むことを特徴とする化粧料用色材。
【請求項2】
前記化粧料用染料が、油溶性染料であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料用色材。
【請求項3】
前記ポリアミド粉末が、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−6,12コポリマー、ナイロン−11、ナイロン−12から選ばれる一種または二種以上であり、前記油溶性染料が、赤色218号(テトラクロルテトラブロムフルオレセイン)、赤色223号(テトラブロムフルオレセイン)、だいだい色201号(ジブロムフルオレセイン)から選ばれる一種または二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の化粧料用色材。
【請求項4】
蛍光発色することを特徴とする請求項1に記載の化粧料用色材。
【請求項5】
化粧料用染料を溶解または分散した油分中に、重量平均分子量1万〜10万で、体積平均粒径が0.1〜20μmであるポリアミド粉末を添加し、加熱しながら攪拌混合して化粧料用色材を製造することを特徴とする化粧料用色材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化粧料用色材を配合してなることを特徴とするメーキャップ化粧料。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化粧料用色材を配合してなることを特徴とする口唇用化粧料。

【図1】
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【公開番号】特開2008−120687(P2008−120687A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302685(P2006−302685)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】