説明

化粧料用顔料およびそれを含有する化粧料

【課題】 化粧用に配合された場合に、高い撥水性を有しつつ、感触がしっとりとして重くなく、肌への付着性が良く、延展性に優れる化粧料用顔料を提供し、併せてその化粧料用顔料を含有してなる化粧料を提供する。
【解決手段】 顔料の表面に、一般式(1)
CH−(CH15−Si(OC2n+1 …… (1)
(式中nは1または2である。)
で示される化合物を、シラン反応による化学結合により被覆処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ファンデーション、アイシャドウ、ほほ紅等のメイクアップ化粧料に用いられる化粧料用顔料およびその化粧料用顔料を含有してなる化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ファンデーション、アイシャドウ、ほほ紅等のメイクアップ化粧料に撥水性を付与するために、それら化粧料に配合される化粧料用顔料に、金属せっけんやシリコン化合物を表面処理したものが用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、金属せっけんで表面処理された化粧料用顔料を化粧料に配合した場合には、撥水性は向上するが感触が重たくなってしまうという問題点がある。一方、シリコン化合物で表面処理された化粧料用顔料を化粧料に配合した場合には、撥水性は飛躍的に向上するが、感触がサラっとし過ぎており、しっとり感に乏しく、肌への付着性もあまり良くないという問題点がある。
【0004】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、化粧用に配合された場合に、高い撥水性を有しつつ、感触がしっとりとして重たくなく、肌への付着性が良く、延展性に優れる化粧料用顔料を提供し、併せてその化粧料用顔料を含有してなる化粧料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、第1発明による化粧料用顔料は、
顔料の表面に、一般式(1)
CH−(CH15−Si(OC2n+1 …… (1)
(式中nは1または2である。)
で示される化合物を、シラン反応による化学結合により被覆処理してなることを特徴とするものである。
【0006】
本発明においては、被覆処理される顔料に対して、前記一般式(1)で示される化合物の重量比が0.5〜30重量%であるのが好ましい(第2発明)。
【0007】
次に、第3発明による化粧料は、
前記第1発明または、第2発明に記載の化粧料用顔料を含有してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
前記第1発明によれば、顔料の表面に、前記一般式(1)で示される化合物を被覆処理することによって、化粧料に配合したときに、十分な撥水性、良好な肌への付着性、しっとりとした感触等をその化粧料に付与することができる。ここで、前記一般式(1)の化合物のアルキル鎖部分が直鎖状でない場合には、十分な肌への付着性やしっとり感を付与することができないので、そのアルキル鎖部分は直鎖状でなければならない。一方、アルキル鎖部分の炭素数は16とする。これ未満であると特に優れた延展性を得ることができず、これを越えると逆に感触が硬くなるという欠点が生じるからである。また、前記一般式(1)のnを1または2に定めたのは、シラン反応を生じさせるのが極めて安易であり、かつnが1または2の化合物は、安価で入手し易いという利点があるためである。
【0009】
第2発明のように、前記一般式(1)で示される化合物の重量比は0.5〜30重量%とするのが好ましい。前記化合物の重量比が被覆処理される顔料に対して0.5重量%未満である場合は、十分な撥水性を得ることができず、目的とするしっとりとした感触や肌への付着性の良さが得られず、また30重量%を越えるとしっとり感を越えて油っぽい湿った感触となるため好ましくない。なお、この重量比は、より好ましくは1〜10重量%である。このように前記一般式(1)で示される化合物の重量比を被覆処理される顔料に対して1〜10重量%とすると、いかなる化粧料に配合されたとしても、目的とする、高い撥水性、しっとりとした感触、十分な肌への付着性、優れた延展性等を、その化粧料に付与できるという効果を奏する。
【0010】
次に、第3発明に係る化粧料によれば、高い撥水性を有し、しっとりとして重たくなく、肌への付着性が高く、延展性に優れた化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明による化粧料用顔料およびそれを含有する化粧料の具体的な実施の形態について説明する。
【0012】
本実施形態において、一般式(1)
CH−(CH15−Si(OC2n+1 …… (1)
(式中nは1または2である。)
で示される化合物としては、n−ヘキサデシルトリメトキシシランまたは、n−ヘキサデシルトリエトキシシランであり、これら化合物を直接表面被覆処理反応に用いる。
【0013】
これら化合物を用いて、シラン反応による化学結合にて表面被覆処理を行う方法としては、被覆処理される顔料を適当なミキサーに投入して大気中で撹拌し、撹拌中に前記一般式(1)で示される化合物を滴下あるいはスプレー噴霧にて加えて一定時間高速撹拌した後、撹拌を続けながら80〜200℃に加熱熟成させることによって、反応表面被覆処理を行う方法が一般的である。
【0014】
また、前記一般式(1)で示される化合物を不活性な有機溶剤、例えばn−ヘキサン、塩化メチレン等に溶解させて撹拌し、撹拌中に化粧料用顔料を添加撹拌した後、有機溶剤を完全に蒸発除去し、80〜200℃に加熱熟成させることにより、反応表面被覆処理を行う方法等も、表面被覆処理の方法として挙げることができる。
【0015】
ここで、シラン反応とは、一般に、表面被覆処理される顔料表面の水酸基と、シラン化合物のアルコキシ基が、脱アルコール反応にて化学的に結合する反応のことである。
【0016】
本実施形態において、顔料の表面被覆処理に用いられる前記一般式(1)で示される化合物、すなわちn−ヘキサデシルトリメトキシシランあるいは、n−ヘキサデシルトリエトキシシサンの重量比は、被覆処理される顔料に対して0.5〜30重量%とする。前記重量比が0.5重量%未満であると撥水性が十分でなく、また30重量%を越えると、感触が非常に油っぽく湿った感じとなり、化粧料としては適さない。なお、前記化合物の重量比は、1〜10重量%とするのがより好ましい。
【0017】
本実施形態において、被覆処理される顔料としては、無機顔料、有機顔料および樹脂粉体顔料が挙げられる。ここで、無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、黄酸化鉄、黒色酸化鉄、群青、亜鉛華、酸化マグネシウム、マイカ、セリサイト、タルク、シリカ、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化クロム、ケイ酸マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、チタン被覆雲母等が挙げられる。また、前記有機顔料としては、リソールルビンB、レーキレッドC、リソールレッド、ローダミンB、ヘリンドンピンクCN、パーマネントレッド、ベンジジンオレンジG、フタロシアニンブルー等が挙げられる。また、前記樹脂粉体顔料としては、ナイロンパウダー、アクリルパウダー、シリコンパウダー等が挙げられる。
【0018】
本実施形態において、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、またはn−ヘキサデシルトリエトキシシランにより表面被覆処理されてなる化粧料用顔料を化粧料に配合した場合、十分な撥水性、しっとりとした感触、優れた肌への付着性、良好な延展性をその化粧料に付与することができる。
【実施例】
【0019】
次に、本発明による化粧料用顔料およびそれを含有する化粧用の具体的実施例について説明する。
【0020】
(製造実施例1)
ヘンシェルミキサーを用いて酸化チタンを高速撹拌しながら、n−ヘキサデシルトリエトキシシランを酸化チタンに対して、その重量比が3重量%となるように滴下した。このとき、反応速度のバラツキをなくすため、ヘンシェルミキサー内の温度を50度に設定した。滴下終了後、同じ温度で30分間撹拌し、ミキサー内の温度を110℃にして3時間反応熟成させた。その後、ミキサー内から固形物を取り出し、ハンマー式粉砕機を用いて粉砕し、目的とする表面被覆処理酸化チタン(化粧料用顔料)を得た。
【0021】
次に、これと同様の方法で、ベンガラ、黄酸化鉄、黒色酸化鉄、タルク、セリサイト、マイカの表面被覆処理をそれぞれ行い、表面被覆処理された各々の化粧料用顔料を得た。なお、前記n−ヘキサデシルトリエトキシシランの量(重量比)は、ベンガラ、黄酸化鉄、黒色酸化鉄の被覆処理を行うときには、酸化チタンのときと同様に被覆処理される顔料に対して3重量%とし、タルク、セリサイト、マイカの被覆処理を行うときには、各々の顔料に対して5重量%とした。
【0022】
(製造実施例2)
n−ヘキサデシルトリメトキシシランを被覆処理される酸化チタンに対して5重量%になるように秤量し、濃度が30重量%となるようにn−ヘキサンに溶解させ、この溶液をヘンシェルミキサーに投入して撹拌し、撹拌中に酸化チタンを加えてさらに30分間撹拌した。次いで、ヘンシェルミキサー内の温度を50℃にするとともに減圧して、n−ヘキサンが完全に蒸発除去されるまで撹拌し続けた。その後、ヘンシェルミキサー内の温度を120℃として3時間反応熟成させた。そして、ヘンシェルミキサー内の固形物を取り出してハンマー式粉砕機で粉砕し、目的とする表面被覆処理酸化チタン(化粧料用顔料)を得た。
【0023】
これと同様の方法で、ベンガラ、黄酸化鉄、黒色酸化鉄、タルク、セリサイト、マイカの表面被覆処理をそれぞれ行い、表面被覆処理された各々の化粧料用顔料を得た。なお、前記n−ヘキサデシルトリメトキシシランの量(重量比)は、ベンガラ、黄酸化鉄、黒色酸化鉄の被覆処理を行う際には、酸化チタンのときと同様に被覆処理される顔料に対して5重量%とし、タルク、セリサイト、マイカの被覆処理を行う場合には、各々の顔料に対して7重量%とした。
【0024】
なお、製造実施例1、2において、タルク、セリサイト、マイカについてのn−ヘキサデシルトリエトキシシラン、あるいはn−ヘキサデシルトリメトキシシランの量(重量比)を多くしているのは、これら顔料は、活性点が少なく、酸化チタンや、種々の酸化鉄と同様の揮発性を得るためには、表面被覆量を増さねばならないという理由による。
【0025】
(製造比較例1)
n−ヘキサデシルトリエトキシシランの重量比が、酸化チタン、ベンガラ、黄酸化鉄、黒色酸化鉄、タルク、セリサイト、マイカに対して0.2重量%となる他は、製造実施例1と同様の表面被覆処理を行い、表面被覆処理された各々の化粧料用顔料を得た。
【0026】
(製造比較例2)
n−ヘキサデシルトリエトキシシランの重量比が、酸化チタン、ベンガラ、黄酸化鉄、黒色酸化鉄、タルク、セリサイト、マイカに対して40重量%となる他は、製造実施例1と同様の表面被覆処理を行い、表面被覆処理された各々の化粧料用顔料を得た。
【0027】
このように製造実施例1,2および製造比較例1,2で得られた各(表面被覆)化粧料用顔料をプレス機によって200kg/cmの押圧力でプレスして粉体プレートを作製し、この粉体プレート上での水の接触角を測定し、この測定結果を表1に纏めた。なお、この接触角は、数値が大きいほど撥水性が高いことを示している。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、製造実施例1,2で得られた各化粧料用顔料は、全て接触角が100°を大きく越えており、良好な撥水性が得られることが分かる。また、製造比較例1にて得られた各化粧料用顔料は、n−ヘキサデシルトリエトキシシランによる表面被覆処理量(重量比)が0.5重量%より少ないために、接触角が100°を大きく下回っているため、良好な撥水性が得られないことが分かる。さらに、製造比較例2の各化粧料用顔料は、n−ヘキサデシルトリエトキシシランによる表面被覆処理量(重量比)が30重量%を越えているため、得られた化粧料用顔料は油っぽく湿った状態となっていた。そのため、製造実施例1、2、製造比較例1の各化粧料用顔料のようにプレートを作製することができず、水の接触角を測定することができなかった。
【0030】
(実施例1,2)
製造実施例1および2で調製された化粧料用顔料を使用し、以下の配合にてパウダーファンデーションを調製した。
表面被覆処理タルク 10.0
表面被覆処理チタン 10.0
表面被覆処理セリサイト 65.4
表面被覆処理ベンガラ 0.3
表面被覆処理黄酸化鉄 1.5
表面被覆処理黒色酸化鉄 0.4
未処理チタンブラック 0.4
メチルフェニルポリシロキサン 2.0
メチルポリシロキサン(6CS) 4.0
メチルポリシロキサン(20CS) 3.0
メチルポリシロキサン(10,000CS) 3.0
_________________________________
合計100.0
【0031】
(実施例3,4)
製造実施例1および2で調製された化粧料用顔料を使用し、油性ファンデーションを調製した。
表面被覆処理タルク 10.00
表面被覆処理チタン 20.00
表面被覆処理セリサイト 21.35
表面被覆処理ベンガラ 0.70
表面被覆処理黄酸化鉄 2.50
未処理チタンブラック 0.45
カルナウバワックス 2.00
パラフィンワックス 3.00
キャンデリアワックス 2.50
ジステアリン酸エチルグリコール 2.00
ショ糖脂肪酸エステル 2.00
メチルフェニルポリシロキサン 8.50
メチルポリシロキサン(6CS) 10.00
メチルポリシロキサン(20CS) 8.00
メチルポリシロキサン(10,000CS) 7.00
_________________________________
合計100.0
【0032】
(実施例5,6)
製造実施例1および2で調製された化粧料用顔料を使用し、以下の配合にてW/O(Watar in Oil)ファンデーションを調製した。
表面被覆処理タルク 3.0
表面被覆処理チタン 15.0
表面被覆処理セリサイト 2.0
表面被覆処理ベンガラ 0.2
表面被覆処理黄酸化鉄 2.5
未処理チタンブラック 0.8
メチルポリシロキサン(6CS) 7.4
ジメチルシクロヘキサン
−メチル(ポリオキシエチレン)ジメチルシロキサン共重合体 1.8
メチルポリシロキサン(100CS) 8.0
メチルポリシロキサン(10,000CS) 4.0
メチルフェニルポリシロキサン 10.0
エタノール 10.0
1,3−ブチレングリコール 2.0
精製水 33.3
__________________________________
合計100.0
【0033】
(比較例1,2)
市販のメチルハイドロキシポリシロキサン2重量%表面処理顔料と、ステアリン酸マグネシウム5重量%表面処理顔料を用いて、実施例1,2と同様の配合にてパウダーファンデーションをそれぞれ調製した。
【0034】
(比較例3,4)
比較例1,2で使用した表面処理顔料を用いて、実施例3,4と同様の配合にて油性ファンデーションを調製した。
【0035】
(比較例5,6)
比較例1,2で使用した表面処理顔料を用いて、実施例5,6と同様の配合にてW/Oファンデーションを調製した。
【0036】
(比較例7,8)
製造比較例1,2で調製された化粧料用顔料を用いて、実施例1,2と同様の配合にてパウダーファンデーションを調製した。
【0037】
(比較例9,10)
製造比較例1,2で調製された化粧料用顔料を用いて、実施例3,4と同様の配合にて油性ファンデーションを調製した。
【0038】
(比較例11,12)
製造比較例1,2で調製された化粧料用顔料を用いて、実施例5,6と同様の配合にてW/Oファンデーションを調製した。
【0039】
次に、実施例1〜6、比較例1〜12で得られた化粧料を肌に実際に塗布したときの感触についてのパネラー評価を行い、表2に纏めた。ここでパネラー評価は5段階で評価され、1が最も悪い評価、3が普通の評価、5が最も良い評価という基準である。また、評価の対象とした感触は、撥水性、しっとり感、肌への吸着性、のびの良さの4種類である。
【0040】
【表2】

【0041】
表2から明らかなように、前記製造実施例1,2の化粧料用顔料を用いて調製された化粧料(実施例1〜6)は、市販のメチルハイドロキシポリシロキサン2重量%表面処理顔料、あるいはステアリン酸マグネシウム5重量%表面処理顔料を用いて調製された化粧料(比較例1〜6)および、製造比較例1,2の化粧料用顔料を用いて調製された化粧料(化粧料7〜12)と比較して、撥水性、しっとり感、肌への吸着性、のびの良さの全てにおいて著しく優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料の表面に、一般式(1)
CH−(CH15−Si(OC2n+1 …… (1)
(式中nは1または2である。)
で示される化合物を、シラン反応による化学結合により被覆処理してなることを特徴とする化粧料用顔料。
【請求項2】
被覆処理される顔料に対して、前記一般式(1)で示される化合物の重量比が0.5〜30重量%である請求項1に記載の化粧料用顔料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化粧料用顔料を含有してなることを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2006−16360(P2006−16360A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197543(P2004−197543)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】