説明

化粧料用顔料分散液

【課題】
黒酸化鉄を配合してなる化粧料用顔料分散液であって、これをペン型容器に充填して使用しても、目詰まりを起こし難いように改良した化粧料用の顔料分散液の提供。
【解決手段】
黒酸化鉄に少量のベンガラを併用すると共にアルファオレフィンスルホン酸塩と硫酸ナトリウムを加配してなる水性化粧料用顔料分散液。アルファオレフィンスルホン酸塩の配合量を3〜5重量%とし、黒酸化鉄とベンガラの配合割合は重量比で4〜6対1とすることが好ましい。本発明に係る水性化粧料用顔料分散液は、ペン型容器に充填して用いるアイライナーの主剤として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料用顔料分散液に関する。詳しくは、ペン型容器に充填して用いる水系化粧料用の顔料分散液に関する。本発明に係る顔料分散液を主剤とする化粧料をペン型容器に充填したメイクアップ製品は、アイライナーとして好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
化粧料用の顔料には、従来から、黒色の着色剤として黒酸化鉄(四三酸化鉄)が使用されることが多い。黒酸化鉄は、安全性に問題がなく、着色性にすぐれている。
【0003】
しかし、黒酸化鉄は、強い磁性を有する上、比重が大きいため、分散性に乏しく、いったん分散させることができても、時間の経過と共に沈降して固化しやすい。そのため、ペン型容器に充填する化粧料に黒酸化鉄を配合すると、経時的に目詰まりを起こしやすいという問題がある。この問題を解消するために従来からいろいろな方法が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、配合する酸化鉄の70%の粒子径を1〜2μm以下に抑えると共に、疎水性不協和モノマーと親水性不協和モノマーとの共重合体及び/又はその塩とポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルを併用した分散剤を使用し、全体の粘度を200cps以下に抑えることによって、酸化鉄の沈降の抑制と経時的な安定性を向上させた液状化粧料が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、酸化鉄の表面処理剤として高級脂肪酸の塩を配合すると共に、ミセル化剤としてラウリル硫酸のアルカリ金属塩などを加え、全体の粘度を200cps以下に抑えることによって、粘度を制限することなく、安定なミセル状態を形成して経時的な目詰まりを防止した液状化粧料が提案されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、親水化処理された黒酸化鉄を用い、これに親水性非イオン界面活性剤、多糖類、金属イオン封鎖剤、ポリマーエマルジョンを配合することによって、黒酸化鉄の分散性が良好で使用性にすぐれた筆ペン型化粧料用液状化粧料が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献4には、黒酸化鉄と平均分子量を特定範囲とするアニオン性分散剤と水を含有すると共にベンガラ又は黄酸化鉄を含み、黒酸化鉄が微細な状態で均一に分散されており、経時での安定性にもすぐれている化粧料用顔料分散液が提案されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、酸素を含む雰囲気下の特定温度範囲において黒酸化鉄を酸化処理した顔料を含んでなり、耐水性及び肌密着性にすぐれ、化粧もちにもすぐれている水系液体アイライナーが提案されている。
【0009】
本発明者は、黒酸化鉄を配合した化粧料用顔料をさらに使いやすくするための研究を続け、その過程において上記公開された技術を全て追試してみたが、いずれも満足できる効果を示すものではなかった。そこで、本発明者は、さらに研究を重ね、黒酸化鉄にベンガラを併用すると共に、界面活性剤として知られているアルファオレフィンスルホン酸塩を用いる方法に着目して試験を続けた結果、ようやく本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平1−193210号公報
【特許文献2】特開平2−088514号公報
【特許文献3】特開2005−187397号公報
【特許文献4】特開2005−330222号公報
【特許文献5】特開2007−217320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、黒酸化鉄を配合してなる化粧料用顔料分散液において、これをペン型容器に充填して使用しても、目詰まりを起こし難いように改良した水系化粧料用の顔料分散液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、特許請求の範囲・請求項1に記載する発明は、黒酸化鉄に少量のベンガラを併用すると共にアルファオレフィンスルホン酸塩を加配してなる化粧料用顔料分散液である。
【0013】
同じく請求項2に記載する発明は、黒酸化鉄に少量のベンガラを併用すると共にアルファオレフィンスルホン酸塩と硫酸ナトリウムを加配してなる化粧料用顔料分散液である。
【0014】
また、同じく請求項3に記載する発明は、アルファオレフィンスルホン酸塩の配合量を3〜5重量%とする請求項1又は2に記載の化粧料用顔料分散液である。
【0015】
また、同じく請求項4に記載する発明は、黒酸化鉄とベンガラの配合割合を重量比で4〜6対1とする請求項1から3のいずれかに記載の化粧料用顔料分散液である。
【0016】
さらに、請求項5に記載する発明は、ペン型容器に充填して使用する請求項1から4のいずれかに記載の化粧料用顔料分散液である。
【0017】
さらに、請求項6に記載する発明は、アイライナーとして使用する請求項5に記載の化粧料用顔料分散液である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、黒酸化鉄を配合してなる化粧料用顔料分散液について、これを化粧料の主剤としてペン型容器に充填して使用しても、目詰まりを起こし難い。そのため、本発明に係る化粧料用顔料分散液は、アイライナーの主剤としてきわめて好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る化粧料用顔料分散液は、黒酸化鉄に少量のベンガラを併用すると共にアルファオレフィンスルホン酸塩を加配してなることに特徴がある。具体的には、アルファオレフィンスルホン酸塩として、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムなどを使用し、その配合量は、分散液全体の3〜5重量%とすることが好ましい。なお、特に好ましいアルファオレフィンスルホン酸塩の配合量は4重量%である。
【0020】
また、本発明において、顔料としての黒酸化鉄とベンガラの配合割合は、重量比で黒酸化鉄4〜6対ベンガラ1とすることが好ましい。なお、特に好ましいのは、黒酸化鉄5対ベンガラ1とする配合割合である。さらに、黒酸化鉄とベンガラを併せた顔料全量の配合割合は、分散液全量の30重量%以内とすることが好ましい。
【0021】
本発明に係る化粧料用顔料分散液において、比重の大きい黒酸化鉄がゲル化せず、分散状態を良好に維持できる理由は、黒酸化鉄をベンガラと併用することによって顔料の色調を整えると共に黒酸化鉄の加配量を抑え、かつ、アルファオレフィンスルホン酸塩の分散剤としての界面活性作用によって黒酸化鉄の粒子を親水性に維持できるからであると考えられる。
【0022】
顔料用の分散剤としては、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩などもそれなりの効果はあるが、化粧料としての使用感(肌触り)や分散性を考慮すると、アルファオレフィンスルホン酸塩が最適である。なお、本発明者は、界面活性剤として、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムの他に、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、スルコハク酸ジエチルヘキシルナトリウムなどを使って試験してみたが、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム以外は、分散状態を維持できなかった。
【0023】
アルファオレフィンスルホン酸塩は、従来から洗剤やインキや洗髪料の界面活性剤として使用されており、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸カリウム、アルファオレフィンスルホン酸アンモニウムなどの種類があるが、本発明においては、そのいずれでも使用できる。特に、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムの使用が好ましい。
【0024】
また、本発明に係る化粧料用顔料分散液には、黒酸化鉄やベンガラなどの顔料の感触を柔らげるため、硫酸ナトリウム(特にコンドロイチン硫酸ナトリウム)を配合することが好ましい。硫酸ナトリウムは、目の角膜の保護作用があり、保湿性にもすぐれている。
【0025】
さらに、本発明に係る化粧料用顔料分散液には、黒酸化鉄のベンガラなどの顔料の分散性を補助するため、オレイン酸を配合することが好ましい。オレイン酸は、天然の液体油を原料として加水分解して得られる脂肪酸の一種であり、通常は無色の液状を呈し、肌へのなじみがよいので化粧料に使用されることが多い。なお、オレイン酸は酸化されやすいので、保存には注意を要する。
【0026】
本発明に係る化粧料用顔料分散液の製法は、従来の顔料分散液の作り方と特に異なるところはない。全原料をホモミキサーやボールミルなどの攪拌機器に投入してよく混合・攪拌すればよい。なお、少量の場合は、粉末原料に水性原料を少しずつ添加してダマにならないように混合・攪拌すればよい。
【0027】
本発明に係る化粧料用顔料分散液には、上記の原料に防腐剤、保湿剤、増粘剤、pH調整剤などを加えてもよい。防腐剤としては、例えば、パラクロルメタキシレノール、イソプロピルメチルフェノール、パラオキシ安息香酸エステル類などが好適である。
【0028】
また、好適な保湿剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、マルチトール、ソルビットなどを挙げることができる。
【0029】
また、好適な増粘剤としては、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、カゼイン、ローカストビーンガムなどを挙げることができる。
【0030】
さらに、好適なpH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムなどを挙げることができる。
【0031】
以下、実施例と試験例をもって本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明の説明において、「%」の表示は全て重量割合を示す。
【実施例1】
【0032】
(1)本発明に係る化粧料用顔料分散液の配合の一例
原料名 配合率(重量%)
黒酸化鉄(粉状) 20.00
硫酸ナトリウム 0.01
ベンガラ(粉状) 5.00
オレイン酸 7.50
アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム 4.00
水 63.49
合計 100.00
【0033】
(2)上記配合の化粧料用顔料分散液の製法の一例
黒酸化鉄の粉末とベンガラの粉末の所定量を秤取して混合する。一方、所定量の水に所定量のオレイン酸とアルファオレフィンスルホン酸ナトリウムを乳化させ、この乳化液に硫酸ナトリウムを溶解させ、その溶解液を黒酸化鉄とベンガラの混合粉体に加えて攪拌・混合する。
【0034】
《試験例1》
(1)試験の目的
黒酸化鉄との親和性にすぐれた分散剤を確認すること
(2)試験方法
実施例1の配合・製法に基づいて3種類の化粧料用顔料分散液を作成した。アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムの代わりに同量のラウリル硫酸トリエタノールアミンを用い、その他の原料は実施例1と同じものを同じ量使用して作った分散液をA、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムの代わりに同量のスルコハク酸ジエチルヘキシルナトリウムを用い、その他の原料は実施例1と同じものを同じ量使用して作った分散液をB、実施例1と同じ分散液(すなわちアルファオレフィンスルホン酸ナトリウムを使用したもの)をCとする。これら3種の分散液をそれぞれ容量100ccの透明容器(口径80mm)に開口部近くまで充填し、蓋をして、10℃の室内に静置して、1時間ごとに状態を観察した。
【0035】
(3)試験結果
イ.分散液Aは、試験開始後40時間後に黒酸化鉄が分離して沈降し始めた。43時間後 にはほぼ完全に分離・沈降した。
ロ.分散液Bは、試験開始後65時間後に黒酸化鉄が分離して沈降し始めた。68時間後 にはほぼ完全に分離・沈降した。
ハ.分散液Cは、試験開始後120時間を経過しても黒酸化鉄の分離は見られなかった。
【0036】
(4)考察
上記の試験結果から、黒酸化鉄を使用した化粧料用顔料分散液にアルファオレフィンスルホン酸塩を配合すると、黒酸化鉄の分離を抑止できることが確認された。
【0037】
《試験例2》
(1)試験の目的
アルファオレフィンスルホン酸塩を配合して作ったアイライナーの使用適正を確認すること
(2)試験方法
試験例1で作った3種類の分散液に、それぞれマルチトールとアルギン酸ナトリウムを配合してアイライナー用化粧料を作成し、ペン型容器に充填して3種類のアイライナーを作成した。このアイライナーを熟練したパネラー20名(女性)にそれぞれ交互に10日間使用してもらい、使用感(肌触り)と分散性(目詰まりの有無)についての評価を求めた。
【0038】
(3)試験結果
パネラーの評価は、以下のとおりである。
イ.使用感(肌触り)
分散液Aで作ったアイライナーを推す者= 1名
分散液Bで作ったアイライナーを推す者= 1名
分散液BC作ったアイライナーを推す者=18名
ロ.分散性(目詰まりの有無)
分散液Aで作ったアイライナーを推す者= 1名
分散液Bで作ったアイライナーを推す者= 0名
分散液BC作ったアイライナーを推す者=19名
【0039】
(4)考察
上記の試験結果から、黒酸化鉄を使用したアイライナー用顔料分散液にアルファオレフィンスルホン酸塩を配合すると、使用感・分散性共にすぐれたものとなることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上詳しく説明したとおり、本発明に係る化粧料用顔料分散液は、分散性と使用感にすぐれているので、黒酸化鉄を使用した従来のペン型容器入り化粧料の問題点を解消でき、その適用範囲は、アイライナーに限るものではなく、種々のメイクアップ製品に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒酸化鉄に少量のベンガラを併用すると共にアルファオレフィンスルホン酸塩を加配してなる化粧料用顔料分散液。
【請求項2】
黒酸化鉄に少量のベンガラを併用すると共にアルファオレフィンスルホン酸塩と硫酸ナトリウムを加配してなる化粧料用顔料分散液。
【請求項3】
アルファオレフィンスルホン酸塩の配合量を3〜5重量%とする請求項1又は2に記載の化粧料用顔料分散液。
【請求項4】
黒酸化鉄とベンガラの配合割合を重量比で4〜6対1とする請求項1から3のいずれかに記載の化粧料用顔料分散液。
【請求項5】
ペン型容器に充填して使用する請求項1から4のいずれかに記載の化粧料用顔料液。
【請求項6】
アイライナーとして使用する請求項5に記載の化粧料用顔料分散液。

【公開番号】特開2012−184181(P2012−184181A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47151(P2011−47151)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(511057917)株式会社アイリード (1)
【Fターム(参考)】