説明

化粧材および基材の表面塗装方法

【課題】耐磨耗性、耐擦傷性と、クッション性とをあわせもち、かつ容易に表面塗装できる化粧材を提供する。
【解決手段】柔軟樹脂層12を表面に形成した基材11の表面に、インクジェット塗装方式によってインクを噴出塗布して、硬質保護層13を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅等の建築物における床材、階段材、壁材、天井材などの内装材や、扉などの建具材、家具の外装材として使用される化粧材および基材の表面塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、床材、壁材などに使用される化粧材または化粧シートにおいては、クッション性を有したものが種々提案されている。例えば、特許文献1には、化粧シートの最下層にあたる基材シートとして柔軟性を有したシートを採用することが記載されている。
【0003】
一方、化粧材は耐磨耗性、耐擦傷性も必要とされ、そのために表面に耐磨耗性、耐擦傷性にすぐれた保護層を形成したものが一般的に使用されている。特許文献1においては、基材シートの上に、べた印刷層、絵柄層、盛り上げ印刷層が順次形成され、さらにその上に表面保護層が形成されている。
【特許文献1】特開平10−119228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、化粧材のクッション性を高めるためには、なるべく表面層あるいは表面により近い層を柔軟にする必要があり、特許文献1のように、最下層が柔軟性を有していても、表面を押さえたり踏んだりしたときに柔軟な感触を得ることは、ほとんど期待できない。
【0005】
したがって、化粧材に、耐磨耗性、耐擦傷性と、クッション性とを有効にあわせもたせることはきわめて困難であり、従来ではそのような化粧材は存在していなかった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮して提案されたもので、その目的は、耐磨耗性、耐擦傷性と、クッション性とをあわせもち、かつ容易に表面塗装できる化粧材、および基材の表面塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の化粧材は、柔軟樹脂層を表面に形成した基材の表面に、インクジェット塗装方式によってインクを噴出塗布して、硬質保護層を形成している。
【0008】
請求項2では、柔軟樹脂層が無地のインク受理層であり、硬質保護層に模様が形成されている。
【0009】
請求項3では、柔軟樹脂層には模様が形成されており、硬質保護層は一部に透明性を有している。
【0010】
請求項4では、硬質保護層は、柔軟樹脂層が露出された隙間を介して、非連続に形成されている。
【0011】
請求項5では、インクが紫外線硬化タイプである。
【0012】
請求項6では、インクにシリカ、アルミナ、ジルコンなどの硬質粒子が含有されている。
【0013】
請求項7に記載の基材の表面塗装方法は、基材の表面を柔軟樹脂で塗装し、その表面に、インクジェット塗装方式によってインクを噴出塗布して、硬質保護層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の化粧材によれば、基材に形成した柔軟樹脂層の表面に、インクにより硬質保護層を形成しているので、柔軟樹脂層を保護でき、その結果、クッション性を有しながら、高度な耐磨耗性、耐擦傷性をあわせもたせることができる。
【0015】
この硬質保護層は、インクジェット塗装方式によるインク噴出で形成されるため、微小な硬質保護層を基材の表面に容易に形成することができ、化粧材の表面塗装が簡易に行える。硬質保護層をより微小厚とすることで、柔軟樹脂層のクッション性を十分に生かすことができる。
【0016】
請求項2に記載の化粧材によれば、表面保護層である硬質保護層に模様が形成されているため、それより下の層に模様を施す必要がなく、硬質保護層だけで表面模様が形成できる。つまり、注文のつど顧客の要望に合った硬質保護層を形成すればよく、そのため、表面模様の異なる多種の材料を多数準備しておく必要がなく、柔軟樹脂層を表面に形成した無垢の標準品を準備しておけばよい。
【0017】
請求項3に記載の化粧材によれば、柔軟樹脂層に模様が形成され、透明性を有した硬質保護層で保護されているため、模様が歪んだり削り取られたりすることがなく、模様が表面に表れる。また、硬質保護層全体を透明にするものでは、インクとして透明なもののみを使用するため、複数のインクジェットノズルを使用する必要がなく、インクジェット塗装装置を複雑な構成にしなくてもよい。
【0018】
また、透明には半透明のものを含んでもよく、また全面が透明ではなく、透明なインクと着色インクの両方で硬質保護層を形成してもよく、そうすることによって、柔軟樹脂層の模様を変形させたり、色を変化させたりして、模様の色や濃度、柄などを調整することができる。
【0019】
請求項4に記載の化粧材によれば、硬質保護層が隙間を介して非連続に形成されているので、柔軟樹脂層の膨張、収縮によって硬質保護層が割れるおそれがなく、耐クラック性も保持できる。
【0020】
請求項5に記載の化粧材によれば、インクが紫外線硬化タイプであるので、紫外線照射装置を使用すれば、硬質保護層を迅速に硬化させることができる。
【0021】
請求項6に記載の化粧材によれば、インクの中にシリカ、アルミナ、ジルコンなどの硬質粒子が分散含有されているため、表面を均一で一定の硬度に仕上げることができる。
【0022】
請求項7に記載の基材の表面塗装方法によれば、基材の表面を柔軟樹脂で塗装し、その表面に、インクジェット塗装方式によってインクを噴出塗布して、硬質保護層を形成するようにしているため、耐磨耗性、耐擦傷性と、クッション性とをあわせもった化粧材を簡易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面とともに説明する。
【0024】
図1は、本発明の化粧材の一例を説明するための図で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【0025】
化粧材10は、木材、樹脂材、フィルム材などの基材11の表面に白色等の無地(柄のない)の柔軟樹脂層12を塗装形成し、さらにその上に、インクジェット塗装方式により、模様を有した硬質保護層13を形成したものである。つまり本例では、柔軟樹脂層12はインクジェットで模様を施すためのインク受理層として機能する。なお、基材11が白色等の無地であれば、柔軟樹脂層12を透明にしてもよい。
【0026】
柔軟樹脂層12としては、可撓性、弾性的性質などを有した軟質のウレタン系樹脂(例えば発泡ウレタンなど)が望ましいが、他の軟質樹脂でもよい。また、柔軟樹脂層12と硬質保護層13とを時間的に連続して形成する場合には、速乾性のものを使用することが望ましい。
【0027】
柔軟樹脂層12の形成方法としては、グラビアコート、スプレーコート、カーテンコート、インクジェット塗装など種々のものが使用できる。なお、柔軟樹脂層12は基材11表面の全面に形成することが望ましい。
【0028】
一方、硬質保護層13は、インクジェット塗装方式でインクを噴出塗布することにより形成されている。図示するように、インクは異なる色、異なる濃度のものが液滴P状に形成され、それによって表面に木目模様を形成させている。なお、硬質保護層13による模様はモノクロであってもよい。また硬質保護層13は、木目の濃淡に応じて高さを異ならせてもよい。
【0029】
ここで、硬質保護層13は、下層の柔軟樹脂層12のクッション性を生かし、かつ柔軟樹脂層12を十分に保護して耐磨耗性、耐擦傷性をもたせるために、0.1〜0.5mm程度の厚さとすることが好ましいが、使用用途によっては、後述する使用可能なインク粒径に合わせて5μm〜2mm程度の厚さとしてもよい。
【0030】
なお、模様は木目模様に限らず、石目、天然皮革の表面柄、布目、抽象柄など種々の模様に適用できる。
【0031】
また硬質保護層13は、下方の柔軟樹脂層12の全面を覆わなくてもよく、液滴P間に、柔軟樹脂層12の露出された部分的な隙間Sを有して、液滴Pが非連続に形成されているほうが望ましい。なお、図1(b)の符号Paで示すように、一部に連続させた箇所があってもよい。
【0032】
また、インクの噴出密度を変えて隙間Sの大きさを種々異ならせてもよく、種々の大きさの隙間Sを配分させることで、硬質保護層13と隙間Sによる凹凸感によって他の模様パターンを形成するようにしてもよい。
【0033】
このように硬質保護層13を非連続形成することで、化粧材製造後に、柔軟樹脂層12の膨張、収縮によって硬質保護層13が割れるおそれがなく、耐クラック性が保持できる。また非連続にしたり、連続と非連続を組み合わせたりすることで、実際の木目と同様の凹凸感をもたせることもできる。
【0034】
インクは、硬化して硬くなるものを使用する。例えば樹脂、溶剤、硬化剤、添加剤等に基本色を構成する顔料を混合した溶液の中に、シリカ、アルミナ、ジルコンなどの硬質粒子が分散含有されているものが好適に使用できる。硬質粒子の粒径は、20nm〜100μm程度のものを使用することが望ましい。
【0035】
また、インクは速乾性、速硬化性のものが好ましく、紫外線(UV)硬化タイプのものが使用できる。例えばラジカル重合型のUV硬化樹脂、カチオン重合型のUV硬化樹脂などが使用できる。また、インク塗装時に速硬化をねらう方法として、噴射する直前、ヘッド部分で固形樹脂を加熱して溶融させ、基材11に滴下し、基材表面に塗装したところで放熱硬化する方法もある。
【0036】
なお、インク樹脂や硬化剤等だけで硬化したときに硬くなるものであれば、上記のような硬質粒子を含有させなくてもよい。また、その他、公知のインクジェット用インク、例えば、メチルエチルケトンやエタノール、アセトンなどを溶剤とする速乾性インク、オイルベースの油性インク、水性インクなどが適用可能であり、硬化して硬質となるものであればどのようなものでもよく、アクリル系、メタクリル系、ウレタン系、フッ素系などの樹脂が含有されたものとしてもよい。
【0037】
UV硬化タイプのインクを使用すれば、紫外線照射装置(不図示)によって迅速に硬化することができるため、同品質ものを量産するのに都合がよく、生産リードタイムを短縮することもできる。
【0038】
また、インク粒子は、粒径が5μm〜2mm程度の粒径のものが使用できるが、床材、階段材などに用いる場合、5μm〜0.5mm程度のものが好ましい。それよりも微細な粒径50〜100nm程度の超微粒子でも使用できる。なお、図1(b)に示した液滴Pは、1粒子でもよいが複数粒子を集合させて形成するようにしてもよい。
【0039】
図1に示した化粧材10によれば、基材11に形成した柔軟樹脂層12の表面に、インクによる硬質保護層13を形成しているので、柔軟樹脂層12を保護でき、そのためクッション性を有しながら、高度な耐磨耗性、耐擦傷性、耐キャスター性をあわせもたせることができる。この硬質保護層13はインクジェット塗装方式により形成されるため、微小厚の層を容易に形成することができ、上記の特性を有した化粧材10の表面形成が簡易に行える。
【0040】
また、表面保護層である硬質保護層13に模様が形成されているため、それより下の層に模様を施す必要がなく、硬質保護層13だけで表面模様が形成できる。つまり、注文のつど顧客の要望に合った硬質保護層13を形成すればよく、そのため、表面模様の異なる多種の材料を多数準備しておく必要がなく、柔軟樹脂層12を表面に形成した無垢の標準基材を準備しておけばよい。
【0041】
図2は、本発明の化粧材の他例を説明するための図で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【0042】
化粧材10Aは、図1の例と同様に、木材、樹脂材、フィルム材などの基材11の表面に柔軟樹脂層12を塗装形成し、さらにその上に、硬質保護層13を形成している。ただし本例では、模様が柔軟樹脂層12によって形成され、その柔軟樹脂層12の上に透明の硬質保護層13が形成されている。
【0043】
模様を含んだ柔軟樹脂層12は、グラビア印刷方式、インクジェット塗装方式など種々の方法によって形成されている。
【0044】
なお、柔軟樹脂層12の成分や特性、インクの成分や特性については、図1と同様のものが適用できるため、説明は省略する。また、硬質保護層13の非連続性についても、図1の例と同様である。
【0045】
本図例の化粧材10Aによれば、柔軟樹脂層12に模様が形成され、その柔軟樹脂層12が透明な硬質保護層13で保護されているため、模様が歪んだり削り取られたりすることがない。また、硬質保護層13全体を透明にするものでは、硬質保護層13が透明なインクのみによって形成されるため、色、濃度などの異なる複数のインクジェットノズルを使用する必要がなく、そのためインクジェット塗装装置を複雑な構成にしなくてもよい。
【0046】
また、インクは、透明なものだけを使用してもよいが、一部に着色インクを使用してもよい。なお透明インクには半透明のものを含んでもよい。このように半透明や着色のものを使用することによって、柔軟樹脂層12の模様を変形させたり、色を変化させたりして、模様の色や濃度、柄を調整することができる。
【0047】
なお本例では、硬質保護層13の一部を透明に形成する必要があるため、硬質粒子を含有させる場合、無色、白色のものを使用して硬質に形成することが望ましい。
【0048】
図3は、本発明の基材の表面塗装方法を示したフローチャートである。
【0049】
同表面塗装方法は、基材11の表面を柔軟樹脂で塗装するステップ(101)と、その柔軟樹脂層12の表面に、インクジェット塗装方式によってインクを噴出塗布して、硬質保護層13を形成するステップ(102)とより構成され、この方法を実行することによって、図1,2に示した化粧材10,10Aが製造できる。
【0050】
なお、柔軟樹脂層12形成ステップと、硬質保護層13形成ステップとを時間的に連続して実行してもよいが、連続実行させなくてもよい。つまり、例えば図1のように硬質保護層13で模様を形成する場合、基材11の表面に柔軟樹脂層12だけを形成し、そのような標準基材を大量生産し在庫しておき、注文のつど顧客の要望に合った硬質保護層13を形成するようにしてもよい。
【0051】
図4は、本発明の化粧材を生産する(硬質保護層13を形成する)ためのインクジェット塗装装置の一例の概略平面図である。
【0052】
図4中、20はインクジェット塗装装置、20aは同装置本体、21は柔軟樹脂層12を表面形成した基材11が載置される基台、25は同装置21を操作制御するための制御装置、26はインクジェット塗装装置20と制御装置25とを結ぶ信号線である。基台21は、基材11の形状や大きさに合わせて形成されている。
【0053】
インクジェット塗装装置20へは、例えば、ベルトコンベアなどの搬送手段(不図示)により、前工程(例えば、柔軟樹脂層12の形成工程)が完了した基材11が搬送されてくる。インクジェット塗装が完了した、表面に硬質保護層13が形成された化粧材10は、同様の搬送手段により、次工程に向けて搬送される。
【0054】
インクジェット塗装装置20は、基台21に隣接して配設された装置本体20aと、装置本体20aに連結され、ノズルヘッド23を案内するノズルヘッド案内棹22とを有し、装置全体が基台21に載置された基材11に対して、白抜矢印Y方向に移動可能に構成されている。
【0055】
ノズルヘッド案内棹22は、基台21を挟んで装置本体20aに対して対向配置された案内棹支持部24と、装置本体20aとにより支持されている。
【0056】
ノズルヘッド23は、ノズルヘッド案内棹22に沿って、白抜矢印X方向に移動可能に構成されており、裏面には、インクを噴出する複数の噴出ノズル(不図示)を有している。例えば図1のように、インクによって模様を形成する場合は、使用する色や濃度の数に応じて複数の噴出ノズルを設けるようにすればよい。
【0057】
また、硬質保護層13による模様は、制御装置25と連携された記憶手段(不図示)に予め保存した、形成座標位置と模様とを対応付けた模様データ(不図示)を使用して形成するようにすればよい。
【0058】
以上のようにして製造された化粧材10,10Aは、床材、階段材、扉材、カウンタ材などに使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の化粧材の一例を説明するための図で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図2】本発明の化粧材の他例を説明するための図で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図3】本発明の基材の表面塗装方法の一例を示したフローチャートである。
【図4】インクジェット塗装装置の一例の概略平面図である。
【符号の説明】
【0060】
10 化粧材
11 基材
12 柔軟樹脂層
13 硬質保護層
P 液滴
S 隙間
20 インクジェット塗装装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟樹脂層を表面に形成した基材の表面に、インクジェット塗装方式によってインクを噴出塗布して、硬質保護層を形成したことを特徴とする化粧材。
【請求項2】
請求項1において、
上記柔軟樹脂層は無地のインク受理層であり、上記硬質保護層に模様が形成されている化粧材。
【請求項3】
請求項1において、
上記柔軟樹脂層には模様が形成されており、上記硬質保護層の一部が透明性を有している化粧材。
【請求項4】
請求項2または3において、
上記硬質保護層は、柔軟樹脂層が露出された隙間を介して、非連続に形成されている化粧材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、
上記インクは、紫外線硬化タイプである化粧材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、
上記インクには、シリカ、アルミナ、ジルコンなどの硬質粒子が含有されている化粧材。
【請求項7】
基材の表面を柔軟樹脂で塗装し、その表面に、インクジェット塗装方式によってインクを噴出塗布して、硬質保護層を形成することを特徴とする基材の表面塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−265229(P2008−265229A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114185(P2007−114185)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】