説明

化粧板及びその製造方法

【課題】薄物であっても自重によるたわみが少なく、運搬及び施工の際のハンドリング性が良く、作業し易く、更に、不燃性に優れた化粧板及びその製法を提供する。
【解決手段】マトリックス形成用水和性原料30〜70%;天然繊維3〜6質量%並びに無機繊維及び/または合成繊維(石綿を除く)0.5〜3%、;けい酸カルシウム水和物5〜30%;ワラストナイト5〜20%;及び無機質充填材1〜15%を含有してなる配合物を湿式混合してスラリーを得、得られたスラリーを抄造することにより生板を得、該生板を加圧脱水、養生硬化することにより得られた薄物無機質抄造板を基材とし、該基材の一表面に下地補強層、加飾層及び表面保護層の三層からなる化粧層を備えてなる化粧板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧板及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは、薄物であっても自重によるたわみが少なく、施工作業性に優れ且つ良好な不燃性を有する薄物無機質抄造板を基材とする化粧板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機質板を基材とし、その表面にアクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の塗膜層が形成された化粧板は、耐候性、耐水性、耐アルカリ性を有し、建築材料等として広く用いられている。例えば特許文献1には、目止め処理のなされた無機質窯業系基板の少なくとも一面に、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂塗料の被膜層を一種又は複数種設け、更にその表面に10μ〜300μの膜厚の紫外線硬化型高硬度クリヤーより形成される保護塗膜層を設けたことを特徴とする保護塗膜層を有する無機質窯業系化粧板(第1項);目止め処理のなされた無機質窯業系基板の表面に、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂塗料を塗布し硬化後において、その表面に、グラビアオフセット印刷機に取り付けたベタ版あるいはロールカーテンコーター等の塗布手段により、紫外線硬化型高硬度クリヤーを10μ〜300μの膜厚になるように塗布した後、紫外線ランプより紫外線を照射して、塗布されたクリヤーを硬化させクリヤーより形成される保護塗膜層を形成することを特徴とする保護層を有する無機質窯業系化粧板の製造方法(第2項);目止め処理のなされた無機質窯業系基板の表面に、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂塗料の塗布後の乾燥時において基板に蓄積される乾燥の際の熱風あるいは熱光線による熱エネルギーを利用して、前記樹脂の被膜層上に塗布される紫外線硬化型高硬度クリヤー中の溶剤を蒸発させた後、紫外線ランプより紫外線を照射して塗布したクリヤーを硬化させ、クリヤーより形成される保護塗布層を形成することを特徴とする保護塗膜層を有する無機質窯業系化粧板の製造方法(第3項)が開示されている。
【0003】
また、基材への石、煉瓦、木目、幾何学的模様等の印刷方法として、例えば特許文献2には、表面に柄を有する版ロール、この版ロールに塗布されたインクが転写されるオフセットロール、このオフセットロールに印刷用板材を圧接するための送りロールとからなる印刷機構と、この印刷機構に印刷用板材を送り込む送り込み手段と、印刷機構の各ロールの回転数および送り込み手段の送り込み速度を制御するための制御装置とからなる印刷装置による板材に対する印刷方法において、印刷された柄を検出して予定された柄ピッチに対する印刷された柄ピッチの伸縮量を割り出し、この伸縮量に対する修正を、版ロールの周速度を変更してオフセットロールの周速度に対する版ロールの周速度の割合を調整することにより行うことを特徴とする板材に対する印刷方法(請求項1)が開示されている。
【0004】
更に、特許文献3には、略四角形状の無機質抄造板を基材とし、前記基材の少なくとも片面には含浸シーラーが施されており、前記含浸シーラーが施された前記基材の片面上に、ウレタン系反応性ホットメルト接着剤層および印刷面を有する化粧紙がこの順で積層され、前記化粧紙の印刷面とは反対側の面が、前記ウレタン系反応性ホットメルト接着剤層と接しているとともに、前記化粧紙の抄紙方向が前記基材の抄造方向と一致している化粧板であって、前記基材の四辺のうち抄造方向に平行な二辺の端面と前記片面とは反対面の一部とが、前記化粧紙および前記ウレタン系反応性ホットメルト接着剤層によって被覆されていることを特徴とする化粧板(請求項1);前記基材と前記ウレタン系反応性ホットメルト接着剤層との間に、下地紫外線硬化型樹脂層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の化粧板(請求項2);前記化粧紙の印刷面上に、プライマー層および透明または半透明硬化樹脂からなるクリアー層がこの順に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の化粧板(請求項3);前記反対面の一部の、前記化粧紙および前記ウレタン系反応性ホットメルト接着剤層によって被覆されている端面からの長さが、5〜10mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化粧板(請求項4)が開示されている。
【0005】
上述のような化粧板の基材として使用されている無機質板には、例えばセメント系、石膏系、けい酸カルシウム系等の材質のものがある。これらの無機質板は、通常、抄造法、プレス成形法等の方法によって製造されている。
無機質板の原料としては、セメント系、石膏系及びけい酸カルシウム系とも、通常、マトリックス形成原料及び繊維原料を必須原料とし、これらの必須原料とともに、必要な性能を付与するための無機質充填材を併用している。従来は、繊維原料として石綿が使用されていた。石綿は、無機質板の製造および性能に極めて好適な繊維であるが、健康への影響も指摘されていることから、石綿を使用せずに無機質板を製造し、必要な性能を得るために様々な技術開発が行われてきた。
【0006】
例えば、非特許文献1には、けい酸カルシウム板の脱石綿化では、繊維原料として木質パルプ等のセルロース繊維が使用されているが、セルロース繊維を使用すると、けい酸カルシウム板を柔軟にすることができ、曲面施工等に適することが記載されている。
【0007】
また、例えば、繊維補強された無機質板の抄造法による製造方法に関して、特許文献4には、マトリックス形成用水和性原料20〜60質量%;無機質充填材1〜50質量%;濾水度がカナディアン標準フリーネスで150〜450mlの範囲内にある天然繊維3〜11質量%及び繊維長6.0〜0.2mmで、繊維径20〜50μmの範囲内にある無機繊維および/または合成繊維0.5〜5質量%から構成される補強繊維(石綿を除く)3.5〜12質量%;および予め石灰質原料およびケイ酸質原料を水熱合成して得られる平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内にあるケイ酸カルシウム水和物10〜50質量%を含有してなる配合物を湿式混合してスラリーを得、得られたスラリーをエンドレスフェルト上での薄膜の脱水速度を5〜30%/秒の範囲内とし、且つメーキングロールに巻き取る際の薄膜の含水率を100〜180%とすることによりメーキングロールから切り離した後の生板の見掛け密度を0.35〜0.65g/cmの範囲内として抄造することにより生板を得、該生板を加圧脱水し、加圧脱水後の生板の見掛け密度を加圧脱水前の生板の見掛け密度の1.3〜2.0倍の範囲内とした後、養生硬化することにより得られた無機質抄造板を基材とし、該基材の少なくとも一面に透湿性表面化粧層を備えてなることを特徴とする表面化粧無機質抄造板(請求項1);基材と透質性表面化粧層の間に、透質性シーラー層を備えてなる、請求項1記載の表面化粧無機質抄造板(請求項2);基材として使用される無機質抄造板の抄造法が、丸網式抄造法である、請求項1記載の表面化粧無機質抄造板(請求項3)が開示されている。また、特許文献1の[0035]段落には、「生板の加圧脱水は、公知のプレス機等の加圧脱水装置を用いて行なうことができる。生板の加圧脱水条件(昇圧速度、保持圧力および保持時間等)は、加圧脱水後の生板の見掛け密度を加圧脱水前の生板の見掛け密度の1.3〜2.0倍の範囲内とするように定める必要がある。加圧脱水の条件の定め方としては、例えば、実製造に先立って、抄造を模した吸引脱水試験により、原料スラリーを5〜30%/秒で脱水して見掛け密度が0.35〜0.65g/cmの生板を作製し、これを加圧脱水試験して、加圧脱水後の生板の見掛け密度を加圧脱水前の生板の見掛け密度の1.3〜2.0倍の範囲内となるよう加圧脱水の条件を定めればよい。従って、加圧脱水の条件は、特定の範囲として限定されるものではないが、保持圧力は、概ね5〜30N/mmであり、保持圧力(N/mm)と保持時間(秒)の積は、概ね1000〜40000N/mm・秒である。」旨の記載もある。
【0008】
また、本出願人は、特願2008−78693号において、マトリックス形成用水和性原料20〜60質量%;濾水度がカナディアン標準フリーネスで150〜450mlの範囲内にある天然繊維3〜11質量%及び/または繊維長6.0〜0.2mm、繊維径20〜50μmの範囲内にある無機繊維及び/または合成繊維(石綿を除く)0.5〜5質量%、ただし天然繊維と無機繊維及び/または合成繊維の合計量3.5〜12質量%;予め石灰質原料及びケイ酸質原料を水熱合成して得られる平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内にあるケイ酸カルシウム水和物10〜50質量%;無機質充填材1〜50質量%;及びシリカフューム1〜20質量%を含有してなる配合物を湿式混合してスラリーを得、得られたスラリーを抄造することにより生板を得、該生板を加圧脱水時の保持圧力30N/mm超え40N/mmまでで加圧脱水した後、養生硬化することにより厚さ2〜4mm、見掛け密度1.2〜1.5g/cmの硬化体を得ることを特徴とする薄物無機質抄造板の製造方法(請求項1);幅910mm、長さ2575mmの寸法を有する薄物無機質抄造板の長さ方向の中央部にて一線支持した際の自重によるたわみが、中央部と縁端部との差で500mm以下であり、JIS A 1408規定の4号試験片を用いた中央一線支持3点曲げ試験による繊維方向の最大たわみが、15mm以下で且つ繊維方向の曲げ強さが、25N/mm以上である、請求項1記載の薄物無機質抄造板の製造方法(請求項2)を既に提案している。
【0009】
しかしながら、非特許文献1の記載は、セルロース繊維を使用したけい酸カルシウム板は、たわみが大きくなることを示唆するものであり、特に、けい酸カルシウム板の厚さが薄い場合には、たわみが極端に大きくなり、施工の際に反り返ってしまい、施工し難いという問題があった。特許文献4に開示されている表面化粧無機質抄造板についても、薄物の場合、自重によるたわみが大きく、運搬及び施工の際のハンドリング性が悪く、作業し難いという問題点が解消されてはいない。
【0010】
そこで、本出願人は、特願2008−302496号において、薄物でもたわみが少なく、運搬及び施工の際のハンドリング性が良好な薄物無機質抄造板を製造するための方法として、マトリックス形成用水和性原料30〜70質量%;濾水度がカナディアン標準フリーネスで150〜450mlの範囲内にある天然繊維3〜9質量%並びに繊維長6.0〜0.2mm、繊維径10〜50μmの範囲内にある無機繊維及び/または合成繊維(石綿を除く)0.5〜5質量%、ただし天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量3.5〜12質量%;予め石灰質原料及びけい酸質原料を水熱合成して得られる平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内にあるけい酸カルシウム水和物5〜30質量%;ワラストナイト5〜20質量%;及び無機質充填材1〜15質量%を含有してなる配合物を湿式混合してスラリーを得、得られたスラリーを抄造することにより生板を得、該生板を加圧脱水時の保持圧力16〜40N/mmで加圧脱水した後、養生硬化することにより厚さ2〜5mm、見掛け密度1.2〜1.5g/cmの硬化体を得ることを特徴とする薄物無機質抄造板の製造方法(請求項1);幅910mm、長さ2575mmの寸法を有する気乾状態の薄物無機質抄造板の長さ方向の中央部にて一線支持した際の自重によるたわみが、中央部と縁端部との差で500mm以下であり、JIS A 1408 4.1に規定された3号試験片を用い、JIS A 5430の10.3.2に基づく曲げ試験による最大たわみが20〜50mmで且つ曲げ強さが28N/mm以上である、請求項1記載の薄物無機質抄造板の製造方法(請求項2);天然繊維が3〜6質量%並びに無機繊維及び/または合成繊維が0.5〜3質量%、ただし天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量が3.5〜9質量%の範囲内にあり、薄物無機質抄造板のJIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量が4.5MJ/m以下である、請求項1または2記載の薄物無機質抄造板の製造方法を提案している。
【0011】
【非特許文献1】Composites,Vol.13,No.2[1982年4月]123〜128頁"Developing asbestos-free calcium silicate building boards"
【特許文献1】特公平4−63037号公報 特許請求の範囲
【特許文献2】特開2004−223906号公報 特許請求の範囲
【特許文献3】特開2006−168255号公報 特許請求の範囲
【特許文献4】特開2007−1043号公報 特許請求の範囲 [0035]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、薄物であっても自重によるたわみが少なく、運搬及び施工の際のハンドリング性が良く、作業し易く、更に、不燃性に優れた、すなわち、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量の少ない薄物化粧板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は、マトリックス形成用水和性原料30〜70質量%;濾水度がカナディアン標準フリーネスで150〜450mlの範囲内にある天然繊維3〜6質量%並びに繊維長6.0〜0.2mm、繊維径10〜50μmの範囲内にある無機繊維及び/または合成繊維(石綿を除く)0.5〜3質量%、ただし天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量3.5〜9質量%且つ合成繊維2質量%以下(ゼロを含む);予め石灰質原料及びけい酸質原料を水熱合成して得られる平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内にあるけい酸カルシウム水和物5〜30質量%;ワラストナイト5〜20質量%;及び無機質充填材1〜15質量%を含有してなる配合物を湿式混合してスラリーを得、得られたスラリーを抄造することにより生板を得、該生板を加圧脱水時の保持圧力16〜40N/mmで加圧脱水した後、養生硬化することにより得られた厚さ2〜5mm、見掛け密度1.2〜1.5g/cm、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量が3.5MJ/m以下である薄物無機質抄造板を基材とし、該基材の一表面に下地補強層、加飾層及び表面保護層の三層からなる化粧層を備えてなり、下地補強層、加飾層及び表面保護層の三層からなる化粧層の総有機固形分量が50〜140g/mの範囲内にある化粧板であって、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量が8.0MJ/m以下であることを特徴とする化粧板に係る。
【0014】
また、本発明の化粧板は、基材のもう一方の表面が、裏面保護層を備えてなり、下地補強層、加飾層及び表面保護層の三層からなる化粧層と裏面保護層の総有機固形分量が50〜140g/mの範囲内にあることを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の化粧板は、薄物無機質抄造板が、幅910mm、長さ2575mmの寸法を有する気乾状態の薄物無機質抄造板の長さ方向の中央部にて一線支持した際の自重によるたわみが、中央部と縁端部との差で500mm以下であり、JIS A 1408 4.1に規定された3号試験片を用い、JIS A 5430の10.3.2に基づく曲げ試験による最大たわみが20〜50mmで且つ曲げ強さが28N/mm以上であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の化粧板は、マトリックス形成用水和性原料30〜70質量%;濾水度がカナディアン標準フリーネスで150〜450mlの範囲内にある天然繊維3〜6質量%並びに繊維長6.0〜0.2mm、繊維径10〜50μmの範囲内にある無機繊維及び/または合成繊維(石綿を除く)0.5〜3質量%、ただし天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量3.5〜9質量%且つ合成繊維2質量%以下(ゼロを含む);予め石灰質原料及びけい酸質原料を水熱合成して得られる平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内にあるけい酸カルシウム水和物5〜30質量%;ワラストナイト5〜20質量%;及び無機質充填材1〜15質量%を含有してなる配合物を湿式混合してスラリーを得、得られたスラリーを抄造することにより生板を得、該生板を加圧脱水時の保持圧力16〜40N/mmで加圧脱水した後、養生硬化することにより厚さ2〜5mm、見掛け密度1.2〜1.5g/cm、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量が3.5MJ/m以下である薄物無機質抄造板を得;該薄物無機質抄造板の一表面に下地補強層を形成し;該下地補強層表面に加飾層を形成し;且つ該加飾層表面に表面保護層を形成し、ここで、下地補強層、加飾層及び表面保護層の総有機固形分量が50〜140g/mの範囲内にあり、得られた化粧板のJIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量が8MJ/m以下であることを特徴として製造することができる。
【0017】
更に、本発明の化粧板の製造方法は、薄物無機質抄造板のもう一方の表面に、裏面保護層を形成し、ここで、下地補強層、加飾層、表面保護層及び裏面保護層の総有機固形分量が50〜140g/mの範囲内にあることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の化粧板の製造方法は、薄物無機質抄造板が、幅910mm、長さ2575mmの寸法を有する気乾状態の薄物無機質抄造板の長さ方向の中央部にて一線支持した際の自重によるたわみが、中央部と縁端部との差で500mm以下であり、JIS A 1408 4.1に規定された3号試験片を用い、JIS A 5430の10.3.2に基づく曲げ試験による最大たわみが20〜50mmで且つ曲げ強さが28N/mm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の化粧板によれば、薄物であっても自重によるたわみが少なく、運搬及び施工の際のハンドリング性が良く、作業し易く、更に、不燃性に優れた、すなわち、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量の少ない化粧板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の化粧板及びその製造方法を更に詳細に説明する。
本発明の化粧板において基材として使用される薄物無機質抄造板は、マトリックス形成用水和性原料30〜70質量%;濾水度がカナディアン標準フリーネスで150〜450mlの範囲内にある天然繊維3〜6質量%並びに繊維長6.0〜0.2mm、繊維径10〜50μmの範囲内にある無機繊維及び/または合成繊維(石綿を除く)0.5〜3質量%、ただし天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量3.5〜9質量%且つ合成繊維2質量%以下(ゼロを含む);予め石灰質原料及びけい酸質原料を水熱合成して得られる平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内にあるけい酸カルシウム水和物5〜50質量%;ワラストナイト5〜20質量%;及び無機質充填材1〜15質量%を含有してなる配合物を湿式混合してスラリーを抄造、加圧脱水及び養生硬化することにより製造することができる。
【0021】
ここで、マトリックス形成用水和性原料は、水硬性および気硬性のいずれであってもよく、特に限定されるものではないが、強度発現力が高いことから水硬性セメントが好適であり、例えば、普通ポルトランドセメント、早強セメント、高炉セメント、低熱セメント、エコセメント等を挙げることができる。また、気硬性セメントとしては、半水石膏、II型無水石膏等の石膏系材料を挙げることができる。石膏系材料を用いる場合は、必要に応じて硬化遅延剤(クエン酸、フタル酸、酒石酸等)または硬化促進剤(硫酸ナトリウム等のアルカリ金属硫酸塩等)を所定量添加することができる。なお、マトリックス形成用水和性原料の比表面積は、水硬性セメントの場合、2500〜5000cm/g、好ましくは3000〜4000cm/gの範囲内にあり、気硬性セメントの場合、4000〜8000cm/g、好ましくは4500〜6500cm/gの範囲内にあることが望ましい。
【0022】
また、補強繊維は、例えば、木質パルプ、各種麻類等の天然繊維、ガラス繊維、ロックウール、セラミックウール、炭素繊維等の無機繊維、人造パルプ、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、アクリル、レーヨン等の合成繊維が挙げられる。中でも、曲げ強度及び耐衝撃性能を一層高めるという観点から、木質パルプ等のセルロース系繊維を補強繊維の主成分として用いるのが好適である。なお、天然繊維の濾水度は、JIS P 8121に規定されるカナディアン標準フリーネス(以下「CSF」という)で150〜450ml、好ましくは150〜350mlの範囲内にある。CSFは、補強繊維、例えば木質パルプを湿式にてリファイナー等による叩解処理を行うことで調整することができる。該叩解処理により、繊維の枝分かれが増加し、いわゆるフィブリル化がなされ、その結果、マトリックス形成用水和性原料が水和して形成されるマトリックスとの密着性及び柔軟性の向上を図ることができる。ここで、CSFを450ml以下にすることにより、補強繊維とマトリックスとの十分な密着が達成されるとともに、良好な補強繊維の分散が得られ、製品(無機質抄造板)に高い強度を付与することができる。また、CSFを150ml以上にすることにより、スラリーの濾水性を高め、加圧脱水時の脱水ムラ、フクレ、ハクリ等を防止するとともに、良好な柔軟性、ひいては耐衝撃性能を製品に付与することができる。
【0023】
なお、抄造法においては、抄造適性(薄膜の形成、生板の形成等)の面から、無機繊維及び合成繊維の繊維長は、6.0〜0.2mm、好ましくは4.0〜0.5mmの範囲内にあり、かつ繊維径が10〜50μmの範囲内である。合成繊維の場合、繊維径は、20〜50μmが好ましく、更に好ましくは20〜40μmの範囲内とするのが好適である。
【0024】
また、けい酸カルシウム水和物は、石灰質原料及びけい酸質原料を水とともに混合し、高温高圧下での水熱合成により生成させることができる。
石灰質原料としては、生石灰、消石灰等が挙げられ、けい酸質原料としては、珪石、珪藻土、シリカヒューム等が挙げられ、特に珪石が好適である。
けい酸カルシウム水和物の合成は、例えば次のようにして行うことができる。石灰質原料とけい酸質原料とを、例えば配合比(CaO/SiOのモル比)0.5〜1.5、好ましくは0.5〜1.2とし、この配合物に対し、質量比で5〜20倍、好ましくは7〜16倍の水を加え、混合分散し、原料スラリーとし、この原料スラリーを撹拌可能な圧力容器内にて150〜230℃、好ましくは170〜210℃の温度で、1〜20時間、好ましくは3〜12時間にわたり水熱合成を行う。このようにして、例えばトバモライト、ゾノトライト等としてけい酸カルシウム水和物が得られる。なお、けい酸カルシウム水和物の平均粒子径は、30μm〜100μm、好ましくは50μm〜90μmの範囲内にある。
【0025】
なお、前記平均粒子径は、けい酸質原料の粒度、使用される水の割合、圧力容器内における撹拌の度合い等によって調整することができる。例えばけい酸質原料の粒度を80μm以下、好ましくは60μm以下とし、水の使用量を、石灰質原料とけい酸質原料との混合物に対し、質量比で7〜16倍とし、圧力容器内に備えられた撹拌回転羽根の周速を100〜200m/分とすることにより、得られるけい酸カルシウム水和物の平均粒子径を前記のように30μm〜100μmの範囲で調整することができる。なお、本明細書で規定するけい酸カルシウム水和物の平均粒子径は、レーザー回折散乱法による粒度分布測定装置により求められたものである。
【0026】
また、ワラストナイトは混和材として使用される。
【0027】
更に、無機質充填材は、一般的に無機質板に使用されるものであれば特に限定されるものではないが、例えばマイカ等の耐熱性向上用充填材、二水石膏や炭酸カルシウム等の耐火性向上用充填材、珪石等の亀裂発生防止用充填材といった水和性原料でないものを使用することができる。なお、これらは2種以上を併用することもできる。
【0028】
前記各種原料は、得られる薄物無機質抄造板に対する質量割合として、マトリックス形成用水和性原料30〜70質量%、好ましくは40〜60質量%、繊維原料(天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量)3.5〜9質量%、好ましくは3.5〜7質量%、けい酸カルシウム水和物5〜30質量%、好ましくは8〜20質量%、ワラストナイト5〜20質量%、好ましくは10〜20質量%、及び無機質充填材1〜15質量%、好ましくは3〜10質量%となるように配合するのが好ましい。なお、補強繊維は、濾水度がCSFで150〜450mlの範囲内にある天然繊維3〜6質量%、好ましくは3〜5質量%並びに繊維長6.0〜0.2mmで、繊維径10〜50μmの範囲内にある無機繊維及び/または合成繊維0.5〜3質量%、好ましくは0.5〜2質量%から構成され、天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量が上記範囲内となるように配合する。ただし、合成繊維は2質量%以下(ゼロを含む)、好ましくは0.1〜2質量%、更に好ましくは0.5〜1.5質量%の範囲内とする。合成繊維の配合量が2質量%を超えると、基材の総発熱量が多くなり、得られる化粧板の不燃性が低下するので好ましくない。化粧層の総有機固形分量が比較的多い場合には、合成繊維の配合量を1.5質量%以下とすることが好適である。合成繊維を配合すると、抄造法により基材を製造する際の生板の成形性が向上するので、0.1質量%以上配合するのが好適であり、0.5質量%以上配合すれば、化粧板の基材となる薄物無機質抄造板の強度を高めるうえでも好適である。一方、無機繊維は、基材の総発熱量を増やすことなく、すなわち不燃性を損なうことなく基材の強度を高めるうえで有効であるが、補強効果は合成繊維よりも劣る場合が多い。従って、無機繊維と合成繊維は上記した配合条件とするのが好適である。
【0029】
ここで、マトリックス形成用水和性原料の配合量が30質量%未満では、十分な強度が得られないため好ましくなく、また、70質量%を超えると、見掛け密度が高くなりすぎるため好ましくない。また、繊維原料(天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量)の配合量が3.5質量%未満では、十分な強度が得られず、材質がもろくなるため好ましくなく、また、9質量%を超えると、材質が必要以上にやわらかくなり、施工性が低下するため好ましくない。更に、有機繊維である天然繊維や合成繊維を多くすると、発熱性試験において総発熱量が所定の値を超えてしまい、所望の不燃性能を得ることができないため好ましくない。なお、無機繊維は分散性があまり良くないので、多くを使用しにくい。けい酸カルシウム水和物の配合量が5質量%未満では、十分な強度が得られないため好ましくなく、また、30質量%を超えると、製品の見掛け密度が低くなり、十分な強度が得られなくなるため好ましくない。また、ワラストナイトの配合量が5質量%未満であると、JIS A 5430 10.7に規定される吸水による長さ変化率が大きくなるため好ましくなく、また、20質量%を超えると、材質がもろくなるため好ましくない。また、無機質充填材の配合量が1質量%未満では、抄造法による薄膜形成時において安定した薄膜を形成し難くなるために好ましくなく、また、15質量%を超えると、十分な強度が得られなくなるために好ましくない。
【0030】
本発明の化粧板の基材として使用する薄物無機質抄造板は、前記の各種材料を、好ましくは前記配合割合にて配合し、そこに各種材料の7〜30倍(質量比)、好ましくは10〜20倍の水を加えて湿式混合してスラリーとし、得られたスラリーを抄造することにより生板を得、得られた生板を加圧脱水した後、養生硬化することにより製造することができる。
【0031】
なお、本明細書でいう抄造法は、当業界において知られる抄造法をいずれも適用することができ、例えば丸網式抄造法、長網式抄造法、フローオン式抄造法等が挙げられる。例えば丸網式抄造法は、原料スラリーを金網シリンダーで抄き上げてグリーンフィルム(薄膜)を形成し、得られたグリーンフィルムをエンドレスフェルトに移し取り、エンドレスフェルト上で脱水し、メーキングロールに所定の厚さとなるまで巻き取り、所定の厚さとなったならばメーキングロールから切り離してグリーンシート(生板)を得る方法である。また、フローオン式抄造法は、原料スラリーを直接エンドレスフェルト上に供給し、エンドレスフェルト上で脱水してグリーンフィルム(薄膜)を形成し、メーキングロールに所定の厚さとなるまで巻き取り、所定の厚さとなったならばメーキングロールから切り離してグリーンシート(生板)を得る方法である。中でも、丸網式抄造法は、製造効率が高く、薄物の製造も可能であり、繊維の二次元配向がよいので、その補強性能を十分に発揮できるという点から好ましい。なお、本発明では、スラリーを抄造した後に得られる加圧脱水前のシート状成形物を「生板」と定義する。
【0032】
生板の加圧脱水は、公知のプレス機等の加圧脱水装置を用いて行なうことができる。生板の加圧脱水条件は、保持圧力16〜40N/mm、好ましくは20〜40N/mmの範囲内である。なお、保持圧力が16N/mm未満であると、十分な強度が得られないために好ましくなく、また、40N/mmを超えると、亀裂が発生し、成形体を得ることができなかったり、得られる成形体が硬くなりすぎて脆くなるために好ましくない。
【0033】
なお、本明細書でいう「見掛け密度」とは、得られた材料の絶乾状態(105℃で恒量となるまで乾燥した状態)まで乾燥し、乾燥後の質量(g)をその体積(cm)で除する方法により算出できる。本発明の製造方法で得られる無機質抄造板の見掛け密度は1.2〜1.5g/cm、好ましくは1.3〜1.5g/cmである。見掛け密度が1.2g/cm未満であると、十分な強度が得られないため好ましくなく、また、1.5g/cmを超えると、材質が硬くなり、薄物無機質抄造板を下地へ固定する際の施工性が低下するため好ましくない。
【0034】
また、養生硬化の方法は、特に制限されるものではなく、例えば自然養生、スチーム養生、冷却養生等の公知の手段を適用することができる。
【0035】
現在市販されている無機質抄造板の厚さは、薄物で3mmないし4mmが下限であり、それ以下のものは自重によるたわみが生じて運搬及び施工の際のハンドリング性が悪く、作業し難いのが現状である。しかし、本発明の化粧板に基材として使用する薄物無機質抄造板は、2〜5mmの厚さでも、自重によるたわみを生ずることがなく、運搬及び施工の際のハンドリング性が良好で、作業し易いという利点を有する。
【0036】
ここで、「自重によるたわみ」としては、一般に建材市場において流通している寸法のうち、長さが長いタイプである幅910mm、長さ2575mm(通称8.5尺サイズ)の気乾状態の板を、長手方向の中央部にて一線で支持し、自重により垂れ下がった状態での支持部と端部との高低差を計測したものである。実施工における施工性としては、この高低差が500mm以下、好ましくは400mm以下となるような剛直性を有することが有効となる。本発明の化粧板に基材として使用する薄物無機質抄造板は、この自重によるたわみ量が小さく、施工性が良好であり、施工時の作業がし易くなる。なお、本明細書に記載する「気乾状態」は、JIS A 5430 10.1 表11に準じるものであり、通風のよい室内に7日間以上放置した状態のことを示す。
【0037】
また、本発明の化粧板の基材として使用する薄物無機質抄造板は、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量を3.5MJ/m以下とすることが好ましい。なお、本明細書における総発熱量の測定は、東洋精機製作所製「コーンカロリーメーターIII」C3型(ISO5660規定装置)を用い、輻射量50kW/mにて行われた結果である。
【0038】
更に、本発明の化粧板に基材として使用する薄物無機質抄造板において、曲げ試験時の曲げ加圧における最大たわみが、JIS A 1408 4.1に規定された3号試験片(試験体の寸法は幅400mm、長さ500mm)を用い、繊維の流れ方向を3号試験片の長さ方向とし、長さ方向に垂直な曲げ試験、すなわち、JIS A 5430 10.3.2に規定された曲げ試験(気乾状態)にて、20〜50mmであることにより、前記剛直性を評価する代用特性となり得る。ここで言う「最大たわみ」とは、前記曲げ試験、すなわち、JIS A 1408 5.1.1の2等分点1線荷重方式による試験において、材料が破断するまでの載荷部の弾性領域と塑性領域を合わせた最大変位量を指す。なお、最大たわみが50mmを超えると、薄物無機質抄造板が柔らかくなりすぎ、この薄物無機質抄造板を基材として得られる化粧板の施工性が低下するために好ましくなく、また、最大たわみが20mm未満であると、薄物無機質抄造板が硬くなりすぎ、もろくなることがあるため好ましくない。
【0039】
また、前記曲げ試験(試験体の寸法は、幅400mm、長さ500mmであり、スパンは400mmである)において、繊維の流れ方向を試験体の長さ方向にした場合の曲げ強さを28N/mm以上にすることができる。この曲げ強さが28N/mmを下回ると、前記自重によるたわみが発生した場合に、薄物無機質抄造板にかかる曲げ応力に耐えることができず、亀裂、割れが発生してしまう。しかし、この曲げ強さを満たすことで、自重によるたわみにおける曲げ応力に耐え、化粧板の施工性が格段に向上する。
【0040】
本発明の化粧板は、前記薄物無機質抄造板を基材とし、その一表面に下地補強層、加飾層及び表面保護層の三層からなる化粧層を備えてなるものである。化粧層を設けることにより、薄物無機質抄造板の意匠性を向上させて付加価値の高い化粧板とすることができる。
【0041】
まず、基材の一表面に下地補強層を形成して基材表面を強化し且つ基材中の空隙を充填して加飾層の密着性を向上させることができる。また、基材からのアルカリ成分の溶出も防止する。下地補強層は、公知の含浸シーラー処理により形成することができ、例えば湿気硬化型ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、イソシアネートまたはポリイソシアネートとポリオールとの反応生生物である遊離イソシアネート基を有するプレポリマー、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート及び無溶剤シーラーなどの公知のシーラーを、例えばロールコーター、フローコーター、スプレー等の方法により塗布することにより形成することができる。なお、基材へ下地補強層を形成する前に、基材表面を例えばプラテン式研磨機にて80番〜400番の研磨紙を用いて表面研磨することが好ましい。この表面研磨により、化粧層の膜厚を制御して表面精度を確保することができる。
【0042】
前記下地補強層の表面には次に加飾層を形成する。加飾層は例えばウレタン系、アクリル系、アクリルウレタン系、不飽和ポリエステル系、ウレタンアクリレート系または紫外線硬化型樹脂等の公知の塗料を使用して形成することができる。加飾層の形成には、上記塗料をロールコーター、フローコーター、スプレー、転写、スクリーン印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷等の一般的な方法を用いることができる。なお、加飾層は一層から構成されるものであっても、二層以上から構成されるものであってもよい。例えば、一層をロールコーター、フローコーター、スプレー等により形成してベースコートとし、このベースコート上に転写、スクリーン印刷、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷等により加飾を施すことができる。
【0043】
また、加飾層は、下地補強層の表面上に化粧紙を接着することにより形成することもできる。化粧紙は、原紙を土台とし、原紙を印刷するのに適するように公知のキャレンダー加工等で表面性(印刷インクのしみ込みを抑えるために密度を高める)を向上させ、そのキャレンダー加工を施した面に印刷が設けられたものである。原紙としては、坪量30〜120g/mの建築用チタン紙、建築用薄葉紙、プリント用紙、純白紙、晒または未晒のクラフト紙、いわゆる合成樹脂等を混合して抄造した混抄紙、チタン紙をラテックス等の樹脂で含浸した含浸チタン紙、ラテックス等をコーティングした含浸コートチタン紙等を使用することができる。なかでも、含浸チタン紙は紙間強度が高いだけでなく、紙間に存在する気泡が少なく、化粧紙上に表面保護層を設けた場合、紙間から気泡が抜け出ることによる発泡、泡かみ等の塗装不良も防止されると言う理由から更に好ましい。化粧紙の片面に設けられる印刷面は、例えば全面的に印刷を施したベタインキ層の上に意匠を目的とした抽象柄、石目柄、木目柄、幾何学的柄等任意の絵柄模様が印刷形成された面である。絵柄模様の印刷方式は特に特定されるものではなく、公知の印刷方式、例えばグラビア印刷、インクジェット印刷等によって形成することができる。生産性が高く、連続印刷することができ、色、濃度変化を自在に行うことができ、且つ隠蔽性が高いという理由から、公知のグラビア印刷を使用することが好ましい。なお、化粧層に耐熱性が要求される場合には、ベタインキ層、絵柄模様印刷層を形成するインクに耐熱インクを使用することが好ましい。
【0044】
加飾層として上述のような化粧紙を使用する場合、下地補強層と化粧紙の接着にはウレタン系反応性ホットメルト接着剤を使用して接着することが好ましい。ウレタン系反応性ホットメルト接着剤としては、100〜130℃で溶融し、粘度が1000〜30000mPa・sのものが好ましく、その中でも特に初期接着力に優れることからポリエステルポリオールタイプのウレタン系反応性ホットメルト接着剤を使用することが好ましい。特に、このようなウレタン系反応性ホットメルト接着剤は、ポリエステルポリオールにポリエーテルポリオールやその他のポリオール、例えばアクリルポリオール併用して得られるものが好適である。なお、ポリウレタン反応性ホットメルト接着剤は市販されているものを使用することができ、例えば大日本インキ化学工業(株)社製タイホースFH−100等を使用することができる。
【0045】
上述のように形成された加飾層の表面には、表面保護層が形成される。表面保護層は化粧層表面を保護するためのものであり、無色透明ないし半透明樹脂を塗布することにより形成することができる。無色透明ないし半透明樹脂としては、例えばウレタン系、アクリル系、アクリルウレタン系、不飽和ポリエステル系、ウレタンアクリレート系及び紫外線硬化型樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は例えばロールコーター、フローコーター、スプレー等の方法により塗布することができる。
【0046】
更に、基材のもう一方の表面(裏面)には、裏面補強層を形成して基材表面を強化し且つ基材中の空隙を充填することもできる。また、基材からのアルカリ成分の溶出も防止する。裏面補強層は、公知の含浸シーラー処理により形成することができ、例えば湿気硬化型ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、イソシアネートまたはポリイソシアネートとポリオールとの反応生生物である遊離イソシアネート基を有するプレポリマー、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート及び無溶剤シーラーなどの公知のシーラーを、例えばロールコーター、フローコーター、スプレー等の方法により塗布することにより形成することができる。なお、基材へ裏面補強層を形成する前に、基材表面を例えばプラテン式研磨機にて80番〜400番の研磨紙を用いて表面研磨することが好ましい。
【0047】
本発明の化粧板において、上述のような下地補強層、加飾層及び表面保護層からなる化粧層並びに裏面補強層が存在する場合には化粧層と裏面補強層の総有機固形分量を50〜140g/m、好ましくは50〜130g/mとすることが好ましい。総有機固形分量が140g/mを超えると、不燃性が悪くなるために好ましくなく、また、50g/m未満となると、加飾における意匠性や塗膜耐久性を維持することができない場合があるために好ましくない。
【0048】
本発明の化粧板は、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量を8.0MJ/m以下、好ましくは7.5MJ/m以下とすることができる。なお、本明細書における総発熱量の測定は、東洋精機製作所製「コーンカロリーメーターIII」C3型(ISO5660規定装置)を用い、輻射量50kW/mにて行われた結果である。
【実施例】
【0049】
薄物無機質抄造板の製造例:
平均粒径40μmのけい酸カルシウム水和物[トバモライト(スラリー状態、固形分濃度=10質量%)]15質量%、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、比表面積3300cm/g)55質量%;ワラストナイト15質量%;天然繊維として木質パルプ(繊維長3.5mm、繊維径30μm、CSF280ml)6質量%;合成繊維としてポリビニルアルコール繊維(繊維長4.0mm、繊維径27μm)2質量%;炭酸カルシウム(無機質充填材)7質量%の配合を有する配合物に、水を加えて混合し、濃度約10質量%のスラリーとし、このスラリーを丸網式抄造機にて抄造して所定厚さの生板を得た。得られた生板をプレス機により32N/mmの圧力にて10分間にわたり加圧脱水した後、温度60℃で15時間スチーム養生し、硬化させることにより厚さ3.2mmの無機質抄造板を得た。得られた無機質抄造板の物性は以下の通りである:
見掛け密度:1.36g/cm
自重によるたわみ:幅910mm、長さ2572mmで470mm
曲げ試験による最大たわみ:30.6mm
曲げ強さ:31N/mm
総発熱量:2.9MJ/m
【0050】
実施例1
上述のようにして得られた薄物無機質抄造板を基材とし、この基材表面をプラテン式研磨機にて120番の研磨紙を用いて表面研磨した後、湿気硬化型イソシアネートをロールコーターにて塗布することにより下地補強層を形成した。なお、下地補強層の有機固形分塗布量は3.8g/mであった。
次に、上述のようにして得られた下地補強層の表面に、アクリルウレタン系樹脂をフローコーターにて塗布することにより加飾層を形成した。なお、加飾層の有機固形分塗布量は33.0g/mであった。
更に、上述のようにして得られた加飾層の表面に、アクリルウレタン系紫外線硬化型樹脂をフローコーターにて塗布することにより表面保護層を形成した。なお、表面保護層の有機固形分塗布量は72.1g/mであった。
得られた化粧板の総有機固形分量は108.9g/mであり、総発熱量は7.0MJ/mであった。
【0051】
実施例2
上述のようにして得られた薄物無機質抄造板を基材とし、この基材表面をプラテン式研磨機にて120番の研磨紙を用いて表面研磨した後、湿気硬化型イソシアネートをロールコーターにて塗布することにより下地補強層を形成した。なお、下地補強層の有機固形分塗布量は3.5g/mであった。
次に、上述のようにして得られた下地補強層の表面に、アクリルウレタン系樹脂をフローコーターにて塗布し(有機固形分塗布量:33.0g/m)、次に、アクリルウレタン系樹脂をグラビアオフセット印刷にて塗布(有機固形分塗布量:1.1g/m)することにより加飾層を形成した。
更に、上述のようにして得られた加飾層の表面に、アクリルウレタン系紫外線硬化型樹脂をフローコーターにて塗布することにより表面保護層を形成した。なお、表面保護層の有機固形分塗布量は65.0g/mであった。
得られた化粧板の総有機固形分量は116.2g/mであり、総発熱量は7.5MJ/mであった。
【0052】
実施例3
上述のようにして得られた薄物無機質抄造板を基材とし、この基材表面をプラテン式研磨機にて120番の研磨紙を用いて表面研磨した後、湿気硬化型イソシアネートをロールコーターにて塗布することにより下地補強層を形成した。なお、下地補強層の有機固形分塗布量は3.0g/mであった。
次に、上述のようにして得られた下地補強層の表面に、アクリルウレタン系樹脂をフローコーターにて塗布することにより加飾層を形成した。なお、加飾層の有機固形分塗布量は38.5g/mであった。
更に、上述のようにして得られた加飾層の表面に、アクリルウレタン系紫外線硬化型樹脂をフローコーターにて塗布することにより表面保護層を形成した。なお、表面保護層の有機固形分塗布量は69.3g/mであった。
また、基材のもう一方の表面をプラテン式研磨機にて100番の研磨紙を用いて表面研磨した後、湿気硬化型イソシアネートをロールコーターにて塗布することにより裏面補強層を形成した。なお、裏面補強層の有機固形分塗布量は2.1g/mであった。
得られた化粧板の総有機固形分量は112.9g/mであり、総発熱量は7.3MJ/mであった。
【0053】
比較例1
上述のようにして得られた薄物無機質抄造板を基材とし、この基材表面をプラテン式研磨機にて120番の研磨紙を用いて表面研磨した後、湿気硬化型イソシアネートをロールコーターにて塗布することにより下地補強層を形成した。なお、下地補強層の有機固形分塗布量は4.8g/mであった。
次に、上述のようにして得られた下地補強層の表面に、アクリルウレタン系樹脂をフローコーターにて塗布することにより加飾層を形成した。なお、加飾層の有機固形分塗布量は45.6g/mであった。
更に、上述のようにして得られた加飾層の表面に、アクリルウレタン系紫外線硬化型樹脂をフローコーターにて塗布することにより表面保護層を形成した。なお、表面保護層の有機固形分塗布量は96.2g/mであった。
得られた化粧板の総有機固形分量は146.6g/mであり、総発熱量は9.1MJ/mであった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の化粧板は、建材等として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス形成用水和性原料30〜70質量%;濾水度がカナディアン標準フリーネスで150〜450mlの範囲内にある天然繊維3〜6質量%並びに繊維長6.0〜0.2mm、繊維径10〜50μmの範囲内にある無機繊維及び/または合成繊維(石綿を除く)0.5〜3質量%、ただし天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量3.5〜9質量%且つ合成繊維2質量%以下(ゼロを含む);予め石灰質原料及びけい酸質原料を水熱合成して得られる平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内にあるけい酸カルシウム水和物5〜30質量%;ワラストナイト5〜20質量%;及び無機質充填材1〜15質量%を含有してなる配合物を湿式混合してスラリーを得、得られたスラリーを抄造することにより生板を得、該生板を加圧脱水時の保持圧力16〜40N/mmで加圧脱水した後、養生硬化することにより得られた厚さ2〜5mm、見掛け密度1.2〜1.5g/cm、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量が3.5MJ/m以下である薄物無機質抄造板を基材とし、該基材の一表面に下地補強層、加飾層及び表面保護層の三層からなる化粧層を備えてなり、下地補強層、加飾層及び表面保護層の三層からなる化粧層の総有機固形分量が50〜140g/mの範囲内にある化粧板であって、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量が8.0MJ/m以下であることを特徴とする化粧板。
【請求項2】
基材のもう一方の表面が、裏面保護層を備えてなり、下地補強層、加飾層及び表面保護層の三層からなる化粧層と裏面保護層の総有機固形分量が50〜140g/mの範囲内にある、請求項1記載の化粧板。
【請求項3】
薄物無機質抄造板は、幅910mm、長さ2575mmの寸法を有する気乾状態の薄物無機質抄造板の長さ方向の中央部にて一線支持した際の自重によるたわみが、中央部と縁端部との差で500mm以下であり、JIS A 1408 4.1に規定された3号試験片を用い、JIS A 5430の10.3.2に基づく曲げ試験による最大たわみが20〜50mmで且つ曲げ強さが28N/mm以上である、請求項1または2記載の化粧板。
【請求項4】
マトリックス形成用水和性原料30〜70質量%;濾水度がカナディアン標準フリーネスで150〜450mlの範囲内にある天然繊維3〜6質量%並びに繊維長6.0〜0.2mm、繊維径10〜50μmの範囲内にある無機繊維及び/または合成繊維(石綿を除く)0.5〜3質量%、ただし天然繊維並びに無機繊維及び/または合成繊維の合計量3.5〜9質量%且つ合成繊維2質量%以下(ゼロを含む);予め石灰質原料及びけい酸質原料を水熱合成して得られる平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内にあるけい酸カルシウム水和物5〜30質量%;ワラストナイト5〜20質量%;及び無機質充填材1〜15質量%を含有してなる配合物を湿式混合してスラリーを得、得られたスラリーを抄造することにより生板を得、該生板を加圧脱水時の保持圧力16〜40N/mmで加圧脱水した後、養生硬化することにより厚さ2〜5mm、見掛け密度1.2〜1.5g/cm、JIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量が3.5MJ/m以下である薄物無機質抄造板を得;該薄物無機質抄造板の一表面に下地補強層を形成し;該下地補強層表面に加飾層を形成し;且つ該加飾層表面に表面保護層を形成し、ここで、下地補強層、加飾層及び表面保護層の総有機固形分量が50〜140g/mの範囲内にあり、得られた化粧板のJIS A 5430附属書JA規定の試験装置を用いた加熱時間20分での発熱性試験における総発熱量が8.0MJ/m以下であることを特徴とする化粧板の製造方法。
【請求項5】
薄物無機質抄造板のもう一方の表面に、裏面保護層を形成し、ここで、下地補強層、加飾層、表面保護層及び裏面保護層の総有機固形分量が50〜140g/mの範囲内にある、請求項4記載の化粧板の製造方法。
【請求項6】
薄物無機質抄造板は、幅910mm、長さ2575mmの寸法を有する気乾状態の薄物無機質抄造板の長さ方向の中央部にて一線支持した際の自重によるたわみが、中央部と縁端部との差で500mm以下であり、JIS A 1408 4.1に規定された3号試験片を用い、JIS A 5430の10.3.2に基づく曲げ試験による最大たわみが20〜50mmで且つ曲げ強さが28N/mm以上である、請求項4または5記載の化粧板の製造方法。

【公開番号】特開2010−137435(P2010−137435A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315602(P2008−315602)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】