説明

化粧板用樹脂組成物及び化粧板。

【課題】 含浸時に有機溶剤を使用せず、環境負荷の少ない化粧板を得る。
【解決手段】 末端に不飽和二重結合を有する乳酸オリゴマーと、硬化性を有し常温で固体の結晶性オリゴマーを含む化粧板用樹脂組成物を化粧紙とコア基材に含浸或いは塗布した後、それぞれの裏面に硬化剤溶液を塗布して樹脂含浸化粧紙と樹脂含浸コア紙を得、両者を積層し、連続成形する。硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーの配合割合は、乳酸オリゴマー5〜95重量部に対して、結晶化オリゴマー95〜5重量部(ただし、乳酸オリゴマーと結晶性オリゴマーの合計を100重量部とする)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物及び化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合板、パーティクルボードなどの木質系基材を芯材にした机、テーブル、カウンターなど天板の木口面に接着加工される化粧材として、ジアリルフタレート化粧板が知られている。このジアリルフタレート化粧板は、樹脂含浸化粧紙と樹脂含浸コア紙を積層し、平板プレス機、連続式プレス機などの熱圧成形機で一体化することにより得られる。化粧紙、コア紙に含浸する際には、ジアリルフタレートプレポリマー、不飽和ポリエステル樹脂、あるいはこれらの混合樹脂を主な成分とし、硬化剤、重合禁止剤、アセトン、トルエン、メタノールなどの有機溶剤が配合されて、含浸用の樹脂液(ワニス)とされる。
【0003】
一方、国際的な環境に対する意識が高まり、石油資源の枯渇、二酸化炭素の増大による地球温暖化が問題視される中、植物を原料として合成されるバイオマスプラスチックの研究が盛んに行われている。ポリ乳酸に代表されるバイオマスプラスチックは石油に依存せず、「カーボンニュートラル」や「再生可能資源からの生産性」という観念から、環境にやさしいプラスチックとして注目を集めている。
【特許文献1】特開平6−316050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでのジアリルフタレート化粧板は、前述のように含浸紙作製時に有機溶剤を使用しており、そのため環境負荷が大きく、生産時や使用時に溶剤やVOCが放散されることがあった。
【0005】
一方、ポリ乳酸は耐熱性が低いため用途展開に限界があった。例えばポリ乳酸結晶成形体の場合、軟化点が60℃未満であるため、日常の使用環境に於いて白化、変形等を生じやすいという問題が指摘されている。また、結晶性オリゴマーは熱硬化後の架橋密度が高く、単独で用いると化粧材が硬くなり、曲げ加工性に劣るという欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はかかる状況に鑑み検討されたもので、末端に不飽和二重結合を有する乳酸オリゴマーと、硬化性を有し常温で固体の結晶性オリゴマーを含む樹脂組成物を化粧紙とコア基材に含浸或いは塗布させて樹脂含浸化粧紙、樹脂含浸コア紙を得、該樹脂含浸化粧紙と該樹脂含浸コア紙とが積層され、熱圧一体化されてなることを特徴とする化粧板である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、硬化性を有し常温で固体の結晶性オリゴマーを含む樹脂組成物は常温にて固体であり、融点以上の温度に加熱し液状状態にすると、化粧板原紙に含浸させることができるため、含浸時に有機溶剤を使用することなく、環境負荷の少ないものづくりが可能である。また、植物由来の原料であるラクチドから生成される乳酸オリゴマーを使用することにより、使用後焼却しても排出される二酸化炭素は植物が成長時に吸収したものであり、結果的に大気中の二酸化炭素の増加を抑制することができる。さらに、結晶性オリゴマーと乳酸オリゴマーを混合することにより、物性面においても実使用上問題ない耐熱性が得られ、曲げ加工性にも優れた化粧材を得ることが可能となる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
本発明で用いる不飽和二重結合を有する乳酸オリゴマーは、水酸基と不飽和結合を有する化合物を開始剤として、ラクチドの開環重合により得られるものである。ラクチドは、乳酸の2分子環状エステルであり、L−ラクチド、D−ラクチド、D,L−ラクチドなどが挙げられる。
【0009】
水酸基と不飽和結合を有する化合物としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アリルアルコール、エチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、1,4シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、4ーヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテルが好ましく用いられる。
【0010】
水酸基と不飽和結合を有する化合物と、ラクチドの反応モル比は、1:2〜1:350(水酸基と不飽和結合を有する化合物:ラクチド)とするのが良く、これよりも、ラクチドの量が少ないと化石資源由来成分の割合が多くなり、バイオマスプラスチックによる二酸化炭素の排出量抑制の効果が十分に得られない。これよりもラクチドの量が多いと結晶性モノマーとの相溶性が悪く、樹脂組成物を含浸することが困難となる。
【0011】
硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーには、ウレタン(メタ)アクリレート、アリルウレタン、ビニルエーテルウレタン、エポキシ(メタ)アクリレート、不飽和ポリエステルなどが挙げられる。これらは、常温において固形であって、室温においてベトつかず、取り扱い性が良好であることから使用上好都合である。
【0012】
硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーを合成する一例として、水酸基を有する重合性化合物と、イソシアネート基を持つ化合物とを反応させてウレタン(メタ)アクリレート、アリルウレタン、ビニルエーテルウレタンを得る方法がある。また、エポキシ樹脂にカルボキシル基を含有する(メタ)アクリル酸などを反応させてエポキシ(メタ)アクリレートを得る方法、あるいはフマル酸とヘキサメチレングリコールを重縮合させてなる不飽和ポリエステルなどが挙げられる。
【0013】
水酸基を有する重合性化合物と、イソシアネート基を有する化合物とを反応させる際に用いる水酸基を有する重合性化合物としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1、4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどのアクリル系モノマーおよびオリゴマー類、エチレングリコールモノアリルエーテル、アリルアルコール、ポリエチレングリコールモノアリルエーテルなどのアリル系モノマーおよびオリゴマー類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテルなどビニルエーテル系モノマーおよびオリゴマー類が例示される。
【0014】
イソシアネート基を有する化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート;4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネート、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、2,4−キシリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、などが挙げられる。好ましくはジイソシアネート基間が直鎖状炭化水素構造、左右対称直線構造のものが得られる化合物の結晶性の点で優れている。
【0015】
硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーの合成例について説明すれば、攪拌装置、温度計、コンデンサー、滴下装置を備えたフラスコに、水酸基を持つ重合性化合物を仕込み、生成させる結晶性オリゴマーの融点まで昇温したのち、イソシアネート基を有する化合物を滴下し、重合固化しない温度条件に保持しながらウレタン化反応させることにより、硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーが得られる。
【0016】
カルボキシル基を含有する(メタ)アクリル酸などを反応させてエポキシ(メタ)アクリレートを得る合成に使用されるエポキシ樹脂としては、常温で固体、好ましくは融点が50〜120℃で、1分子あたり2個以上のエポキシ基を有するものがあり、具体例として脂肪族ジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂肪族トリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、酸ペンダントエポキシ(メタ)アクリレート、カルボン酸塩、あるいはリン酸塩含有エポキシ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0017】
不飽和二重結合を有する乳酸オリゴマーと、硬化性を有し常温において固形の結晶性オリゴマーの配合割合は、乳酸オリゴマー5〜95重量部に対して、結晶化オリゴマー95〜5重量部(ただし、乳酸オリゴマーと結晶性オリゴマーの合計を100重量部とする)とするのが好ましく、乳酸オリゴマーの割合が下限に満たないと、優れた曲げ加工性が得られず、且つ乳酸オリゴマー(バイオマスプラスチック)による二酸化炭素の排出量抑制の効果が十分に得られない。上限を超えると耐熱性、耐煮沸性等の物性低下を招く。
【0018】
化粧板用樹脂組成物が化粧紙とコア基材に含浸或いは塗布された後には、硬化剤溶液が裏面に塗布される。硬化剤溶液は重合開始剤をジアリルフタレートモノマーに溶解させたものが適用される。重合開始剤には、加熱によって融解した硬化性を有する結晶性オリゴマー、さらには反応性モノマー等の重合を引き起こすものであれば、いずれも使用できる。具体例として、ケトンパーオキサイド系、パーオキシケタール系、ジアルキルパーオキサイド系、ジアシルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、パーオキシジカーボネート系などの有機過酸化物ならびにアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。
【0019】
コア基材としては特に制約はなく、例えば、クラフト紙、不織布、織布などが挙げられる。
【0020】
本発明の化粧板は樹脂含浸化粧紙と樹脂含浸コア紙を積層し、平板プレス機、連続プレス機などで熱圧成形することにより得られ、連続プレス機を用いると生産性に優れ好ましい。
【0021】
合成例1 乳酸オリゴマー(A1)
フラスコにL−ラクチド200g(1.39mol)と開環重合の開始点となる2−ヒドロキシエチルメタクリレート72.8g(0.56mol)、触媒としてオクチル酸スズ0.4g、メタクリロイル基の重合禁止としてMEHQ(ヒドロキノンモノメチルエーテル)0.003gを添加した。重合は70℃でL−ラクチドを10分間溶解させた後、95℃で6時間反応させ乳酸オリゴマーを得た。
【0022】
合成例2 乳酸オリゴマー(A2)
合成例1において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート13g(0.1mol)とした以外は同様に合成した。
【0023】
合成例3 乳酸オリゴマー(A3)
合成例1において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1.17g(0.009mol)とした以外は同様に合成した。
【0024】
合成例4 乳酸オリゴマー(A4)
合成例1において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.52g(0.004mol)とした以外は同様に合成した。
【0025】
合成例5 乳酸オリゴマー(A5)
合成例3において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.009molを、2−ヒドロキシアクリレート0.009molとした以外は同様に合成した。
【0026】
合成例6 乳酸オリゴマー(A6)
合成例3において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.009molを、2−ヒドロキシブチルメタクリレート0.009molとした以外は同様に合成した。
【0027】
合成例7 乳酸オリゴマー(A7)
合成例3において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.009molを、2−ヒドロキシブチルアクリレート0.009molとした以外は同様に合成した。
【0028】
合成例7 乳酸オリゴマー(A7)
合成例3において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.009molを、1,4シクロヘキサンジメタノールモノメタクリレート0.009molとした以外は同様に合成した。
【0029】
合成例8 乳酸オリゴマー(A8)
合成例3において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート0.009molを、1,4シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート0.009molとした以外は同様に合成した。
【0030】
合成例 結晶性オリゴマー(A) HDI系ウレタンメタクリレート
攪拌装置、温度計、留分凝縮冷却管(コンデンサー)、滴下装置を備えた2リットルのセパラブルフラスコに2−ヒドロキシエチルメタクリレート260g(2モル)及びウレタン化触媒であるn−ブチルスズラウリレート0.13gを加え撹拌して70℃に昇温した。内温が90℃以下になるようにヘキサメチレンジイソシアネートの滴下速度を調整しながら168g(1モル)を添加した。滴下終了後、内温を80℃に保ちながら、反応液をサンプリングし、FTIRにてイソシアネート基にもとづく2275cm−1の吸収ピークが消失したことを確認した時点で、冷却バットに反応液を移送し、結晶化固化した結晶性オリゴマー(A)を得た。DTA測定(昇温速度・毎分10℃)による吸熱ピーク先端温度の測定法で融点78℃であった。
【0031】
合成例 結晶性オリゴマー(B) MDI系ウレタンメタクリレート
攪拌装置、温度計、留分凝縮冷却管(コンデンサー)、滴下装置を備えた2リットルのセパラブルフラスコにジフェニルメタン−ジイソシアネート250g(1モル)を加え50℃に昇温し融解させた後、攪拌を開始した。内温が100℃以下になるように2−ヒドロキシエチルジメタクリレートの滴下速度を調整しながら260g(2モル)を添加した。滴下終了後、内温を100℃に保ちながら、反応液をサンプリングし、FTIRにてイソシアネート基にもとづく2275cm−1の吸収ピークが消失したことを確認した時点で、冷却バットに反応液を移送し、結晶化固化した結晶性オリゴマー(B)を得た。DTA測定(昇温速度・毎分10℃)による吸熱ピーク先端温度の測定法で融点93℃であった。
【実施例】
【0032】
実施例1
樹脂含浸化粧紙の作製
合成で得られた乳酸オリゴマー(A1)10部と結晶性オリゴマー(A)90部、ヒュームドシリカ7部、離型剤2部を配合し、樹脂組成物を得、坪量80g/mの化粧紙にホットロールコーター(90℃)により塗布量80g/mで塗布し、常温まで温度を下げプリプレグを得た。しかる後、ジアリルフタレートモノマーにベンゾイルパーオキシドを10重量%溶解させた硬化剤溶液をプリプレグの裏面に20g/m塗布し、樹脂含浸化粧紙を得た。
【0033】
樹脂含浸コア紙の作製
乳酸オリゴマー(A1)25部と結晶性オリゴマー(B)75部を配合し樹脂組成物を得、坪量220g/mのクラフト紙にホットロールコーターにより塗布量105g/mで常温まで温度を下げプリプレグを得た。しかる後、ジアリルフタレートモノマーにベンゾイルパーオキシドを10重量部溶解させた硬化剤溶液をプリプレグの裏面に20g/m塗布し、樹脂含浸コア紙を得た。
【0034】
化粧板の作製
下から順に樹脂含浸コア紙を1枚、樹脂含浸化粧紙を1枚積層して、ダブルベルト機に挿入し、温度140℃、圧力10kg/cmの条件で熱圧成形して化粧板を得た。
【0035】
実施例2〜10
表1、2に示す配合割合にした以外は実施例1と同様に実施した。
【0036】
【表1】


【0037】
【表2】


【0038】
ヒュームドシリカ;商品名レオロシールDM−30 平均粒径7nm 株式会社トクヤマ製
離型剤;商品名セパール326 中京油脂株式会社製
参考例1〜2
表3に示す配合割合にした以外は同様に実施した。
【0039】
【表3】


【0040】
評価結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
試験方法は以下の通りとした。
耐熱性;JIS K 6902;1998(熱硬化性樹脂高圧化粧板試験方法)に基づいて実施した。
耐煮沸性;JIS K 6902;1998(熱硬化性樹脂高圧化粧板試験方法)に基づいて実施した。
曲げ性;化粧板より巾25mm,長さ150mmの試験片を切り取り、円形の断面を有する鋼製のバーの外周に沿って180°の角度に曲げ、クラック、割れの発生のないR(半径mm)を調べる。バーの半径は10mmから段階的に1mmずつ減らし、1mmまで行った。
樹脂混合性;乳酸オリゴマーと結晶性オリゴマーの混合性
○:乳酸オリゴマーと結晶性オリゴマーが均一に混ざる
×:乳酸オリゴマーと結晶性オリゴマーが均一に混ざらず分離し白濁している


【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端に不飽和二重結合を有する乳酸オリゴマーと、硬化性を有し常温で固体の結晶性オリゴマーを含む化粧板用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の化粧板用樹脂組成物が化粧紙とコア基材に含浸或いは塗布された樹脂含浸化粧紙と樹脂含浸コア紙とが積層され、熱圧一体化されてなることを特徴とする化粧板。


【公開番号】特開2010−77275(P2010−77275A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247049(P2008−247049)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】