説明

化粧用発泡体及びその製造方法

【課題】酢酸ブチル等の極性油に対する耐久性が高く、かつ粉体化粧料の取れ付きにも優れた化粧用発泡体を提供する。
【解決手段】エチレンプロピレンジエン共重合体と発泡剤とを含有する樹脂組成物からなり、連続気泡を有する発泡体であるものとする。樹脂組成物はポリエチレン樹脂をさらに含有してもよく、その場合エチレンプロピレンジエン共重合体とポリエチレン樹脂との合計量中でポリエチレン単位の割合が70重量%以下であるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧用パフとして用いられる化粧用発泡体及びその製造方法に関する。より詳細には、粉体や半固形状(クリーム状)の化粧料を皮膚に塗布するのに適した化粧用発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧の際にファウンデーション等の粉体や半固形状の化粧料を皮膚に塗布するのに使用する化粧用発泡体の素材としては、従来は、ウレタン、エチレンプロピレンゴム、ニトリルブタジエンゴムやシリコーンゴム等が多く使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
しかし、酢酸ブチル等の極性油を含む化粧料に使用する場合、ウレタンやニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴムからなる発泡体は極性油により膨潤して劣化し易く、また、エチレンプロピレンゴムを用いた場合は独立気泡体しか得られず、粉体化粧料の取れ付きがよくないという問題がある。
【0004】
上記のような問題に対し、酢酸ブチル等の極性油に対する耐久性が高く、かつ粉体化粧料の取れ付きにも優れた化粧用発泡体が模索されているが、満足のいくものは未だ得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−27240号公報
【特許文献2】特開2007−54164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、極性油に強く、かつ粉体化粧料の取れ付きにも優れた化粧用発泡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の化粧用発泡体は、上記の課題を解決するために、エチレンプロピレンジエン共重合体と発泡剤とを含有する樹脂組成物から得られ、連続気泡を有する発泡体であるものとする。
【0008】
上記化粧用発泡体において、樹脂組成物がポリエチレン樹脂をさらに含有し、上記エチレンプロピレンジエン共重合体とポリエチレン樹脂との合計量中でポリエチレン単位の割合が70重量%以下であるものとすることもできる。
【0009】
本発明の化粧用発泡体は、発泡倍率が4〜15倍であり、気泡径が100〜400μであることが好ましい。
【0010】
上記本発明の化粧用発泡体は、粉体又は半固形状の化粧料用のパフとして用いることができる。
【0011】
本発明の化粧用発泡体の製造方法は、エチレンプロピレンジエン共重合体と発泡剤とを含有する樹脂組成物を発泡させて、独立気泡を有する発泡体を製造したのち、その独立気泡の気泡壁を破壊することにより、上記した本発明の連続気泡を有する発泡体を製造する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化粧用発泡体は、極性油に対する耐久性が高く、かつ粉体化粧料の取れ付きにも優れたものとなる。従って、粉体又は半固形状のファウンデーション等の化粧料の塗布に好適に用いることができる。
【0013】
また、本発明の製造方法によれば、上記した本発明の発泡体を容易に得ることができる。
【0014】
なお、本明細書でいう極性油とは、酸素原子のような炭素・水素以外の原子を分子中に含み、比較的低分子の非イオン性有機化合物であり、その例としては、酢酸ブチル、アセトン、アルコール類、紫外線吸収剤として知られるパラメトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明で用いるエチレンプロピレンジエン共重合体(以下、EPDMと略記する場合もある)とは、エチレンとプロピレンとの共重合体であるエチレン−プロピレンゴムに比較的少量の第3成分を導入し、ポリマー分子中に二重結合をもたせたものである。
【0016】
第3成分の例としては、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等が挙げられ、本発明ではエチリデンノルボルネンを好適に用いることができる。
【0017】
上記エチレンプロピレンジエン共重合体は、エチレンが50〜80重量%、第3成分が3〜12重量%、残部がプロピレンからなるのが好ましい。市販されているものでは、例えば住友化学(株)製エスプレン(登録商標)EPDMシリーズ(エチレン:52〜77重量%、第3成分:3.6〜10.4重量%、残部:プロピレン)を好適に使用できる。また、ムーニー粘度が20〜70ML(1+4)100℃であるのが好ましい。
【0018】
上記エチレンプロピレンジエン共重合体は単独で用いてもよいが、ポリエチレン樹脂を併用することもできる。ここでいうポリエチレン樹脂は、エチレンと炭素数3〜18のオレフィンとの共重合体等のコポリマーも含むものとする。ポリエチレン樹脂を併用した場合、引張り強度が向上する、発泡(架橋)の制御がし易いという利点がある。
【0019】
ポリエチレン樹脂を併用する場合は、エチレンプロピレンジエン共重合体とポリエチレン樹脂との合計量中でポリエチレン単位の割合を70重量%以下とすることが好ましい。ポリエチレン単位量が70重量%を越えるとゴムライクな質感や弾力性が低下し、歪みが増大するようになる。
【0020】
次に、本発明で用いる発泡剤は加熱により化学発泡を生じるものであり、例としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)、バリウムアゾジカルボキシレート等のアゾ系化合物、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、トリニトロトリメチルトリアミン等のニトロソ系化合物や、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等のヒドラジド系化合物、トリエンスルホニルセミカルバジド等のスルホニルセミカルバジド系化合物等が挙げられ、中でもアゾジカルボンアミドが好ましい。樹脂組成物中の発泡剤の含有量(重量比)は2〜25phrが好ましく、4〜15phrが特に好ましい。
【0021】
本発明で用いる樹脂組成物は、上記各成分以外に化粧用発泡体に通常用いられることのある添加物、例えばシリコンパウダー、タルク、炭酸カルシウム、抗菌剤、防カビ剤等を含有するものとすることもできる。
【0022】
本発明の化粧用発泡体は、上記各成分からなる樹脂組成物を発泡させて、独立気泡を形成し、次いでその気泡膜を破壊して連続気泡を形成することにより得られる。
【0023】
好ましい態様としては、EPDM樹脂又はポリエチレン樹脂を含むEPDM樹脂に、発泡剤の他、有機過酸化物、軟化剤、充填材等の添加物を必要に応じて添加し、これをミキシングロール、加圧式ニーダー、押出機等によって練和し、発泡性樹脂組成物を得る。
【0024】
得られた発泡性樹脂組成物をプレス機で加圧中の金型に充填し、圧力150kg/cm以下の加圧下で115〜150℃にて加熱し、発泡剤を一部分解させ、発泡倍率1.05〜1.1の中間発泡体を生成させる。次いで、この中間発泡体を常圧下にて密閉系でない直方体型等の所望の形状の型内に入れ、140〜180℃にて加熱し、有機過酸化物及び発泡剤を分解させて独立気泡を有する発泡体(独立気泡体)を得る。
【0025】
上記のようにして得られた独立気泡体に、例えば等速二本ロール等により圧縮変形を加えることによって気泡膜が破壊され、気泡が連通化されて、連続気泡体が得られる。その際、等速二本ロールの表面に小さい針を多数設けるか、又は等速二本ロールの前及び/又は後に小さい針を多数設けたロールを配置して、気泡体の表面に小孔を開けることによって、気泡の連通化を促進することもできる。
【0026】
上記により得られる発泡体は、発泡倍率が4〜15倍であることが好ましく、6〜12倍であることがより好ましい。発泡倍率が4倍未満であると脱泡が困難となり、15倍を越えると脱泡後の圧縮回復性が低下し、底付き感が強くなり、いわゆる腰がない状態となる。
【0027】
気泡径(平均径)は100〜400μであることが好ましく、200〜300μであることがより好ましい。気泡径が100μ未満であると発泡体への化粧料の含みが低下し、400μを越えると化粧料が必要以上に掻き取られすぎ、よってケーキング現象が起こるとともに、含みが低下し、肌当たりも悪くなる。
【0028】
密度は0.08〜0.2g/cmであることが好ましく、0.10〜0.18g/cmであることがより好ましい。密度が0.08g/cm未満であると底付き感が強く、腰がなくなり、0.2g/cmを越えると硬くなり、肌当たりが悪くなる。また、いずれの場合も化粧料の含みが悪くなる。
【0029】
硬度はF型硬度計で20〜80の範囲であることが好ましく、40〜70であることがより好ましい。硬度が20未満であると柔らかすぎるため、指の底付きがあり、化粧性が低下(均一な塗布が困難となる)し、80を越えると硬すぎるため発泡体への均一な化粧料の転写が行われず、この場合も化粧性が低下する。
【0030】
本発明の化粧用発泡体を、ファウンデーション等の粉体又は半固形状の化粧料用のパフとする場合の、形状、寸法等については特に限定されないが、薄過ぎると均一に塗布し難く、厚過ぎると細部に塗布し難くなることから、厚さは5〜25mmであることが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1]
次の処方1の各成分を加圧式ニーダーによって練和して発泡性樹脂組成物を得た。
【0033】
〈処方1〉
EPDM樹脂(住友化学(株)製、エスプレン(登録商標)514F(エチレン:70重量%、ジエン:5.5%、ムーニー粘度:35ML(1+4)100℃)) 70重量部
ポリエチレン樹脂(ダウ・ケミカル日本(株)製、アフィニティー(登録商標)EG8150) 30重量部
発泡剤(英和化成工業(株)製、ビニホールAC#3k7) 6重量部
シリコーン(信越化学工業(株)製、KF−96−100CS) 1重量部
石油系炭化水素(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルPW90) 15重量部
炭酸カルシウム(丸尾カルシウム(株)製、スーパー2000) 20重量部
含水ケイ酸マグネシウム(松村産業(株)製、クラウンタルクC) 30重量部
顔料(住友化学(株)製、住化カラー) 0.5重量部
【0034】
得られた発泡性樹脂組成物をプレス中の金型(42mm×160mm×160mm)に充填し、圧力100kg/cm下で134℃にて80分間加熱し、発泡倍率1.1倍の中間発泡体を得た。次いで、この中間発泡体を常圧下にて密閉系でない90cm×300cm×300cmの直方体型の型内に入れ、160℃で加熱し、独立気泡体を得た。
【0035】
上記のようにして得られた独立気泡体に等速二本ロール等により圧縮変形を加えることによって気泡膜を破壊し、連続気泡体となした。
【0036】
得られた発泡体(連続気泡体)は発泡倍率が7.5倍、気泡径が220μ、密度が0.153g/cm、硬度がF型硬度計で50であった。
【0037】
また、極性油に対する耐久性の評価として、酢酸ブチル溶剤に1時間浸漬し、軽く絞った試験片の引張強度の保持率を調べたところ、初期強度が22.6N/cm、浸漬後の強度は15.4N/cmで、強度保持率は68.1%であった。
【0038】
さらに、この発泡体から厚み8.5mm、径が52mmφの化粧用パフを形成し、粉末化粧料の取れ付きを次の一般的処方からなる粉末固形ファウンデーションを用いて評価した。すなわち、40mm×50mmの角型中皿に成型した粉末固形ファウンデーション12gを上記化粧料パフで10回掻き取り、NBR板材の被膜面に10回塗布するのを1サイクルとして、何サイクル行えるか(目詰まりを起こさずに使用を継続できるか)を調べた。
【0039】
〈粉末固形ファウンデーション処方〉
粉 体:
タルク 20.3%(重量%、以下同様)
マイカ 35.0%
カオリン 5.0%
二酸化チタン 10.0%
雲母チタン 3.0%
ステアリン酸亜鉛 1.0%
顔料 4.2%
ナイロンパウダー 10.0%
結合剤:
スクワラン 6.0%
酢酸ラノリン 1.0%
ミリスチン酸オクチルドデシル 2.0%
ジイソオクタン酸ネオペンチルグリコール 2.0%
モノオレイン酸ソルビタン 0.5%
【0040】
その結果、化粧料が目詰まり(ケーキング現象)を起こすことなく、45サイクルで全てなくなるまで使用することができた。
【0041】
[実施例2]
発泡性樹脂組成物の処方を次のものに変えた以外は実施例1と同様にして発泡体を得た。
【0042】
〈処方2〉
EPDM樹脂(JSR(株)製、JSR133P) 100重量部
発泡剤(英和化成工業(株)製、ビニホールAC#3k7) 7重量部
シリコーン(信越化学工業(株)製、KF−96−100CS) 1重量部
石油系炭化水素(出光興産(株)製、ダイアナプロセスオイルPW90) 15重量部
炭酸カルシウム(丸尾カルシウム(株)製、スーパー2000) 20重量部
含水ケイ酸マグネシウム(松村産業(株)製、クラウンタルクC) 30重量部
顔料(住友化学(株)製、住化カラー) 0.5重量部
【0043】
得られた発泡体につき、実施例1と同様にして極性油に対する耐久性を評価した。すなわち、酢酸ブチル溶剤に1時間浸漬し、軽く絞った試験片の引張強度の保持率により評価したところ、初期強度は18.5N/cm、浸漬後の強度は11.5N/cmで、強度保持率は62.1%であった。
【0044】
また、実施例1と同様にして化粧用パフを形成し、化粧料の取れ付きを評価したところ、化粧料が目詰まり(ケーキング現象)を起こすことなく、48サイクルで全てなくなるまで使用することができた。
【0045】
[比較例1]
以下の処方及び製法によりウレタンフォームを得た。
【0046】
ポリオール(三井化学(株)製、ポリオールMN−30500NE) 100重量部
イソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、T−80) 50重量部
発泡剤(水) 5重量部
発泡剤(C12) 3重量部
触媒(ジオクタン酸スズ) 0.2重量部
シリコーン系整泡剤(日本ユニカー(株)製、L−580) 1.5重量部
【0047】
得られた発泡体につき、実施例1と同様にして極性油に対する耐久性を評価した。すなわち、極性油に対する耐久性を酢酸ブチル溶剤に1時間浸漬し、軽く絞った試験片の引張強度の保持率により評価したところ、初期強度は28.5N/cm、浸漬後の強度は6.2N/cmで、強度保持率は21.8%であった。
【0048】
また、実施例1と同様にして化粧用パフを形成し、化粧料の取れ付きを評価したところ、20サイクルで目詰まり(ケーキング現象)が起こり、化粧料全てを使い切ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンプロピレンジエン共重合体と発泡剤とを含有する樹脂組成物から得られ、連続気泡を有する発泡体であることを特徴とする、化粧用発泡体。
【請求項2】
前記樹脂組成物がポリエチレン樹脂をさらに含有し、前記エチレンプロピレンジエン共重合体とポリエチレン樹脂との合計量中でポリエチレン単位の割合が70重量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の化粧用発泡体。
【請求項3】
発泡倍率が4〜15倍であり、かつ気泡径が100〜400μであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の化粧用発泡体。
【請求項4】
粉体又は半固形状の化粧料用のパフであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化粧用発泡体。
【請求項5】
エチレンプロピレンジエン共重合体と発泡剤とを含有する樹脂組成物を発泡させて独立気泡を有する発泡体を製造したのち、前記独立気泡の気泡壁を破壊することにより連続気泡を有する発泡体を製造することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化粧用発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2010−179026(P2010−179026A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27081(P2009−27081)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【出願人】(000177380)三和化工株式会社 (21)
【出願人】(000229634)日本パフ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】