説明

化粧組成物

【課題】肌の老化兆候の出現を予防若しくは遅延、又はその作用を減速させる活性化剤を含んだ化粧組成物の提供。
【解決手段】肌の老化兆候の出現を予防若しくは遅延、又はその作用を減速させ、特に上皮の再構成、肌の張り強化及び/又は特に顔や首の皺やすじの低減若しくは吸収の促進をする活性剤としての、クローバー(Trifolium repens)由来の蜂蜜又は該蜂蜜のエキスの化粧組成物における使用。該化粧組成物を使用する美容ケアの方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌の老化兆候の出現を予防若しくは遅延させる、又は老化の作用を低減させる活性剤としての、クローバー(Trifolium repens)由来の蜂蜜又は該蜂蜜のエキスの化粧組成物における使用、並びに活性剤を含有する化粧組成物及びその適用を含む美容ケアの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
よく知られているように、肌の老化は、遺伝的要因の他、例えば、日光への暴露といった環境要因にも起因し、上皮及び真皮における分子的、細胞的、組織的及び臨床的な同時変化によって顕在化する。
【0003】
老化過程において、アポトーシス即ち「遺伝的にプログラムされている細胞死」まで細胞の寿命を維持している機構に変化が起こることが見出されている。これらの障害によって、細胞増殖の減少、及び細胞周期の変化に反映される、酸化、細胞間通信の劣化又は遊離基の形成等の細胞活性の漸進的な低下が引き起こされる。
【0004】
したがって、上皮の厚みの低下及び上皮稜のサイズ低下が顕著に観察され、後者は、真皮上皮接合部の扁平化に反映され、さらには上皮及び真皮の境界の接着低下をもたらす。
【0005】
この皮膚萎縮は、コラーゲン生成の減少を伴う細胞外基質の変化及び肌のエラスチン線維の変化、並びにプロテオグリカン、グリコサミノグリカン及びフィブロネクチンの濃度低下にも徐々に反映される。
【0006】
これらの現象はすべて、特に肌が晒される環境ストレスに対する肌の保護機能及びバリア機能の劣化並びに肌の力学的性質の劣化(弾性の損失で笑い皺が目立ってくる)を伴った、肌の脆弱性を高める。
【0007】
繰り返される機械的ストレスによって、遺伝子発現の変化も引き起こされる。これにより、例えば、メタロプロテイナーゼの過剰活性化が起こると、局所的な実質の減少によって肌の老化を強めてしまい、結果として皺が深くなり、張りが失われる。
【0008】
逆に、治癒は、それ自体がとりわけ真皮及び上皮の組織修復過程であり、結果として創傷の再上皮化をもたらす。
【0009】
この過程は、以下のいくつかの段階を含む。
【0010】
−TGF−β(トランスフォーミング成長因子β)を含むサイトカインに依存して線維芽細胞の移動及び増殖、並びにコラーゲン、フィブロネクチン及びプロテオグリカンからなる新規の細胞外基質の合成に対応する、組織修復段階。
【0011】
−上皮細胞(角化細胞)の移動と、その後の分化による上皮の再形成を含む、創傷の上皮化段階。
【0012】
火傷、表在性創傷又は潰瘍のケアにおける蜂蜜の活性は公知である。
【0013】
蜂蜜は、手早く清潔に創傷を治癒でき、損傷した組織を迅速に置き換えることができる。
【0014】
蜂蜜は、肉芽組織の形成、新血管形成の進行及び線維芽細胞の増殖を刺激し、したがって創傷の上皮化を加速する(Molan、Primary Intentions、1998年12月、148〜158、Efem、Br.J.Surg.、1988、75、679〜681)。
【0015】
特に、手術創傷のケアにおけるタイム蜂蜜の使用は公知である(Descottes、Phytotherapie、2009、7、112〜116)。
【発明の目的】
【0016】
既に言及してきたように、細胞を増殖する機構及び肌の構造成分を合成する機構が老化過程で徐々に低下するため、これらの機構の刺激は、損傷肌の治癒過程を、同じ効果を得るように再現することを目指す戦略となる。
【0017】
本発明の主な目的は、治癒過程に関与する標的を刺激する活性剤を同定し、真皮及び上皮における細胞密度を増加させ、細胞外基質を再建することにより、肌の力学的及び機能的特性の改善に寄与することである。
【0018】
本発明の主な目的は、良好な治癒能力を有し、天然起源で、環境にやさしい、新規の化粧活性剤を供給することである。
【0019】
本発明の別の主な目的は、安価で、化粧品産業向けに充分な量を入手できる新規の化粧活性剤を見出すことである。
【発明の概要】
【0020】
クローバー(Trifolium repens)由来の蜂蜜が、治癒過程に関与するサイトカインの合成をコードする遺伝子の発現を有意に刺激すること、さらには人工的に損傷した真皮における線維芽細胞の増殖を加速できることが、本出願人によって見出された。
【0021】
これらの結果に基づいて、この特定の活性剤を、その力学的及び機能的特性が回復するように、健常な無傷の肌の表面組織、特に真皮及び上皮の修復過程を刺激する化粧活性剤として、使用することが想定できる。
【0022】
肌の力学的特性の改善は、肌、特に顔や首の皺及びすじの目に見える低減に顕著に反映される。
【0023】
図1a、1b、2a〜2f及び3は、以下の実施例1に関連しており、図4〜6は、実施例2に関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1a及び1bは、正常ヒト線維芽細胞(NHF)を培養するウェルの1つの同一の人工的「傷害」域を位相差顕微鏡で観察した2つの例を示す図である。図1aの画像は、IBIDIカルチャーインサートを取り除いた直後に、前記インサートが置かれていた場所に相当する無細胞域を示す。図1bは、NHFによって部分的に再定着した後の同域を示す。
【図2】図2a〜2dは、IBIDIインサートによって人工的に損傷した支持体の域の線維芽細胞定着を特徴付けるために、青色蛍光及び赤色蛍光で記録した画像の4段階分析を示す図である。図2c及び2dは、それぞれ、細胞核の標識後(画像分析第3段階)、次いで該細胞核の自動検出を行った後(画像分析第4段階)の非処置の損傷域(陰性対照)を示す。図2e及び2fは、それぞれ、画像分析第3段階後(図2e)及び画像分析第4段階後(図2f)に、本発明によるクローバー蜂蜜で処置した後の損傷域を示す。
【図3】図3は、試験した各製品、即ちNTと称した非処置対照、陽性基準対照としての市販品「Gatuline Skin Repair」、別の基準製品としてのタイム蜂蜜、及び本発明のクローバー蜂蜜で得られた、瘢痕に再定着した細胞の数/cmを縦軸に示す棒グラフである。
【図4】図4は、試験した各製品、即ちNTと称した対照、陽性基準対照としての市販品「Gatuline Skin Repair」、及び本発明のクローバー蜂蜜で得られた、β−2−ミクログロブリンで正規化した、処置済みの正常のNHK細胞(正常ヒト角化細胞)と非処置の正常のNHK細胞との間のHMGB1遺伝子の転写物の比率を縦軸に示す棒グラフである。
【図5】図5は、試験した各製品、即ちNTと称した対照、陽性基準対照としての市販品「Gatuline Skin Repair」、及び本発明のクローバー蜂蜜で得られた、β−2−ミクログロブリンで正規化した、処置済みのNHF細胞(正常ヒト線維芽細胞)と非処置のNHF細胞との間のTGF−β遺伝子の転写物の比率を縦軸に示す棒グラフである。
【図6】図6は、試験した各製品、即ちNTと称した対照、陽性基準対照としての市販品「Gatuline Skin Repair」、及び本発明のクローバー蜂蜜で得られた、β−2−ミクログロブリンで正規化した、処置済みのNHFと非処置のNHFとの間のβ―1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼの遺伝子発現に関する転写物の比率を縦軸に示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
驚くべきことに、治癒過程の間に生成される細胞因子の合成に関与する遺伝子の発現に関して、タイム蜂蜜又は治癒能力を有することが知られている他の活性剤と比較して、クローバー蜂蜜は、効果的に作用することが、本出願人によって見出された。クローバー蜂蜜は、人工的に損傷した肌の真皮における線維芽細胞の増殖を刺激する上でもより有効である。
【0026】
したがって、細胞活性が漸進的に低下すると肌の弾性が失われ、皺又はすじの形成に至るが、クローバー蜂蜜は、その細胞活性の回復に特に有効な活性剤である。
【0027】
クローバー蜂蜜は、広範に市販されている。
【0028】
クローバー蜂蜜は、Trifolium repens植物種に特徴的な形状及び大きさの花粉粒を、固まり中に固定された状態で主に含む。
【0029】
したがって、本出願の第1の目的は、肌の老化兆候の出現を予防若しくは遅延させる、又は老化の作用を減速させる活性剤、特に上皮の再構成、肌の張り強化及び/又は特に顔や首の皺やすじの低減若しくは吸収の促進をする活性剤としての、クローバー(Trifolium repens)由来の蜂蜜又は該蜂蜜のエキスの化粧組成物における使用に関する。
【0030】
好ましくは、クローバー蜂蜜又は該蜂蜜のエキスは、皺取り化粧剤として使用される。
【0031】
特に好ましくは、クローバー蜂蜜は、ニュージーランド製のものである。
【0032】
本発明の第2の目的は、化粧活性剤としてクローバー(Trifolium repens)由来の蜂蜜又は該蜂蜜のエキスを含む化粧組成物に関する。
【0033】
より詳細には、本発明は、皺取り又は老化防止活性剤としてクローバー(Trifolium repens)由来の蜂蜜又は該蜂蜜のエキスを含む、老化防止又は皺取り化粧組成物に関する。
【0034】
該組成物は、他の植物由来の1種若しくは複数の単花蜂蜜、好ましくはタイム(Thymus vulgaris)由来の単花蜂蜜又はマヌカ(Leptospermum scoparium)由来の蜂蜜、及び/又は1種若しくは複数の多花蜂蜜、及び/又は1種若しくは複数のこれらの蜂蜜のエキス、及び/又はローヤルゼリー等の養蜂由来の製品1種若しくは複数をも含むことができる。
【0035】
蜂蜜エキスの調製は当業者によく知られている。
【0036】
好ましいエキスは、極性溶媒を使用して得られる。
【0037】
極性溶媒又は極性溶媒の混合物として、溶媒又は溶媒の混合物は、水、C〜Cアルコール、例えばエタノール、好ましくはグリセロール、ブチレングリコール及びプロピレングリコールから選択されるC〜Cグリコール、並びにこれらの混合物から有利に選択される。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によれば、含水アルコール混合物又は含水グリコール混合物を使用して抽出が実施される。
【0039】
クローバー蜂蜜の特性は、美容効果が前記蜂蜜と類似及び/又は相補している、植物由来の精製分子及び/又はエキスの形態の他の活性剤と組み合わせた化粧組成物中で、獲得又は改善できる。
【0040】
したがって、化粧組成物は、前記クローバー蜂蜜に加えて、老化防止活性を有する物質、脱色活性又は肌の美白活性を有する物質、痩身活性を有する物質、水和活性を有する物質、沈静、緩和若しくは弛緩活性を有する物質、特に顔の輝きを向上するために皮膚微小循環を刺激する物質、脂肪肌のケア向けに皮脂調節活性を有する物質、肌の洗浄又は清浄を目的とする物質、抗ラジカル活性を有する物質から選択される1種又は複数の他の化粧活性剤を含むことができる。
【0041】
したがって、本発明の化粧組成物は有利には、以下のものから選択される1種又は複数の他の物質を含む。
【0042】
−細胞再生を促進する分子、例えばビタミンA、レチノール及び/又はそのエステル;果実由来の酸、とりわけリンゴ酸、グリコール酸又はクエン酸等のα又はβ−ヒドロキシ酸、サリチル酸又はそのエステル、ゲンチシン酸又はそのエステル、特にトコフェロールゲンチサート。
【0043】
−肌の張りを刺激する分子又はエキス、例えばコラーゲン、特にタイプI、II、IV又はVIIのコラーゲンの合成を刺激するペプチド、Centella asiaticaのエキス、マデカシン酸、アジア酸、オートムギエキス、Bertholletia excelsaのエキス、大豆タンパク質又はペプチドの水解物、Potentilla erectaのエキス、Siegesbeckia orientalisのエキス、ジンセノサイド又はノトジンセノサイド、特にRb1、R0、Vigna aconitifoliaの種のエキス。
【0044】
−上皮及び真皮におけるヒアルロン酸又はグリコサミノグリカンの合成を促進させる分子又はエキス、例えばMamaku Vital Essenceエキス、Cyathea medullarisの葉のエキス、Eriobotrya japonicaのエキス又はヒアルロン酸の低分子量断片又はAdenium obesumのエキス。
【0045】
−上皮の分化を調節する分子又はエキス、例えばエクジステロン、ツルケステロン、カルシウム誘導体、ビタミンD前駆体。
【0046】
−アデノシン、カルニチン又はその誘導体、特にアセチルカルニチン、ビタミンA又は化粧上許容されるそのエステルの1種、特にビタミンAのプロピオン酸エステル又はパルミチン酸エステル。
【0047】
−メタロプロテイナーゼ(MMP)の阻害剤、特にMMP1、2、9の阻害剤、例えばRuscus aculeatusのエキス、大豆ペプチド、又はケルセチン、ケンフェロール、アピゲニン、オウゴニン等のフラボノイド類、又はこれらを含有する植物エキス。
【0048】
−エラスターゼの阻害剤、例えばAspergillus fumigatus、苦瓜(Momordica charantia)、セイヨウカボチャ(Cucurbita maxima)の植物エキス。
【0049】
−デルマトポンチンの合成を刺激する物質、例えば琥珀エキス。
【0050】
−孔を塞ぐ、植物の収斂性の分子又はエキス、例えばHamamelisのエキス。
【0051】
−UVA及びUVB放射線から保護するフィルター、例えば、単独又はチタン酸化物と併用する、ベンゾフェノン、4−ブチルメトキシジベンゾイルメタン、メトキシケイ皮酸エチルヘキシル、オクトクリレン、サリチル酸エチルヘキシル、フェニルベンゾイミダゾールスルホン酸、ホモサラート。
【0052】
−色素沈着に作用する分子又は植物エキス、例えばコウジ酸、カンゾウ又はクワの根のエキス、アルブチン、パンテテインスルホン酸カルシウム、ボルジン、ジアセチルボルジン、ビタミンC又はその誘導体の1種、例えばグリコシド、ユリの特に球根のエキス。
【0053】
−抗ラジカル性又は抗炎症性の分子又はエキス、例えばArtemisia capillarisのエキス、Sanguisorba officinalisのエキス、レスベラトロル及びその誘導体、クルクマ、クルクミン又はテトラヒドロクルクミン、ブドウの種から抽出したポリフェノール、ビタミンE及びその誘導体、特にそのホスフェート誘導体、エルゴチオネイン若しくはその誘導体、イデベノン、ピセイド、スチルベン又はヒドロキシフェナントレン。
【0054】
−Brassocattleya属に属するラン、例えばランBrassocattleya marcellaのエキス、又はVanda属に属するラン、例えばVanda coerulea、Vanda teres若しくはVanda denisonianaから選択されるランのエキス等のランのエキス。
【0055】
−水和分子、例えばグリセロール又は天然ポリオール、天然又は合成セラミド、スプリング又はミネラルウォーター。
【0056】
有利には、組成物は、顔料、染料、ポリマー、界面活性剤、レオロジー剤、香料、電解液、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、及びこれらの混合物から選択できる少なくとも1種の化粧上許容される賦形剤をさらに含む。
【0057】
化粧組成物は、有利には、セラム、ローション、クリーム若しくはヒドロゲル、好ましくはマスクの形態であるか、又はスティック若しくはパッチの形態である。
【0058】
本発明の組成物は、肌の老化兆候の出現の予防若しくは遅延又はその作用の減速、特に上皮の再構成、肌の張り強化、及び/又は皺の低減若しくは吸収の促進に特に望ましい効果がある。
【0059】
既に述べたように、本発明は、肌の老化兆候の出現の予防若しくは遅延又はその作用の減速を目的とし、特に上皮の再構成、肌の張り強化、及び/又は皺の低減若しくは吸収の促進を目的とする化粧活性剤として、上記のクローバー蜂蜜を使用することに関する。
【0060】
本発明はまた、肌の老化兆候の出現の予防若しくは遅延又はその作用の減速、特に上皮の再構成、肌の張り強化、及び/又は皺の低減若しくは吸収の促進に有効な量の前記のクローバー蜂蜜又は化粧組成物を肌の問題の部分に塗布することを含むことを特徴とする、美容ケアの方法にも関する。
【0061】
有利には、皺やすじの存在等の老化兆候がある顔、首又は身体、特に手の肌の面に適用する。
【0062】
前述の発明の各目的のために、化粧活性剤として使用するクローバー蜂蜜の濃度は、化粧組成物の重量に対して、0.001〜10重量%、より特定すれば0.01〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%となろう。
【0063】
本発明のその他の目的、特徴及び利点は、単に例示するためだけに示され、したがって本発明の範囲を決して限定しない、エキスの調製と、エキスの特性を実証する試験とに関する実施例、並びに前記エキスを使用した化粧組成物に関する実施例に言及しながら、以下に続く説明的記述から明らかとなろう。
【0064】
本実施例において、特に指定のない限り、すべての百分率は重量基準であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧である。
【実施例】
【0065】
実施例1−インビトロでの治癒モデルにおけるクローバー蜂蜜の研究
本実験は、インビトロでの治癒現象の定量的且つ完全に再現性のある測定を可能にする生体適合性のセルカルチャーインサートの使用に基づいている。
【0066】
材料及び方法
1.細胞培養
本研究で使用される細胞は、正常ヒト線維芽細胞(NHF)である。
この細胞を、175cmのフラスコにフラスコ1個当たり100万個の密度で、10%ウシ胎児血清及びL−グルタミン1.3mMで補ったDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)培養培地中に播種する。コンフルエント時に、細胞をトリプシン処理し、再播種して治癒試験を行う。
【0067】
2.治癒試験
細胞の播種
細胞を播種する前に、IBIDI社(ドイツ)製のCulture−Insert(整理番号:80209)という名称のキット形式で市販されているインサートをプレートの6個ウェルの底に置く。10%ウシ胎児血清含有DMEM培地にNHFを細胞20000個/cmの比率で播種し、48時間培養する。
【0068】
細胞がコンフルエントになったら、培地を交換して、DMEMのみにする。培養を24時間継続する。
【0069】
処置
本研究では、2つの同じ実験を同じ条件下にて1週間間隔で実施した。各試験した物質に対して2個のウェルを使用する。
【0070】
試験した物質は、以下のとおりである。
GATULINE SKIN REPAIR(陽性対照) 0.10%
タイム蜂蜜(原産地:フランス) 100μg/ml
クローバー蜂蜜(原産地:ニュージーランド) 100μg/ml
【0071】
非処置対照(NT)として、試験物質を全く添加しないDMEM培地のみでの細胞培養も2個のウェルで実施する。
【0072】
GATULINE SKIN REPAIRは、角化細胞の分化マーカーの発現を刺激する(剥離皮膚外植片におけるエキソビボ試験)ことによって、損傷した肌の保護作用を有すると記載されている、野生のアカンサスの水−アルコール抽出物であり、GATTEFOSSE社(フランス)から市販されている。
【0073】
試験した活性剤(タイム蜂蜜及びクローバー蜂蜜)は、以下のように調製する。PBS中蜂蜜100mg/mlの原液を調製し、次いで0.22μmフィルターに通して滅菌する。最終希釈(1/1000)は、DMEMのみにおいて行う。
【0074】
治癒
先ず、カルチャーインサートを滅菌鉗子で取り出す。位相差顕微鏡を使用して、インサートが置かれていた場所の完全に細胞が存在しない「損傷」域を観察する(図1a)。
【0075】
次いで、各ウェルで、上記の条件に従って、最初の培養培地を、試験する活性剤を含有する培養培地と交換する。
【0076】
37℃の恒温槽(stove)中で、5%COを含有する雰囲気下にて16時間(事前に求めた最適な測定時間)細胞を培養し続ける。処置に応じた瘢痕域の再定着比率は、画像分析技術を使用して観察する(図1b)。
【0077】
細胞の標識
PBSですすいだ後、10%ホルマリン溶液で細胞を10分間固定し、次いでPBSですすぐ。次いで、細胞を0.1%Triton溶液X100で10分間透過処理する。
【0078】
細胞核の標識に使用される蛍光分子であるDAPI(4’,6’−ジアミジノ−2−フェニルインドール)及びアクチン細胞骨格の標識に使用されるPhalloidine546を含有する溶液を細胞に付着させ、室温で光から離して1時間インキュベートする。
【0079】
次いで、細胞をPBSですすぎ、水性封入剤1滴で被覆する。
【0080】
Nikon TE2000ビデオ顕微鏡で、損傷域における、青色蛍光(細胞核)及び赤色蛍光(アクチンフィラメント)の画像が、各ウェルにつき2枚ずつ写真で即座に得られる。
【0081】
画像分析
画像分析は、インサートを取り出した後の人工的「損傷」域の線維芽細胞による定着を可視化及び定量化するために用いる。Leica QWINソフトウェアを使用して、分析を実施する。
【0082】
分析には、以下の4つの段階が含まれる。
1−NISソフトウェアを搭載したNIKON TE2000ビデオ顕微鏡による処置前(時間0)の画像の撮影(図2a)。画像は、インサートを取り出した後の無細胞の剥離域を示す。
2−コンピュータによる測定域の決定、黄色の域(図2b)。
3−処置段階及び細胞核標識段階後の新規画像の撮影(図2c及び2dの対照NI並びに図2e及び2fの本発明の蜂蜜を用いた処置)。損傷域は、最初の無細胞域に再定着する線維芽細胞を含む。
4−第2段階で定義した域における標識した細胞核の自動選択、及び前記標識した細胞核の測定(図2d及び2f)。
【0083】
単位面積(cm)当たりの、損傷域に再定着した細胞の数を計算する。試験した活性剤ごとに4枚の画像に対してこの測定を繰り返す。
【0084】
3.結果
瘢痕への再定着に対する試験した各活性剤の効果を図3に示す。
【0085】
この図から、クローバー蜂蜜が、GATULINE SKIN REPAIR(陽性対照)と同じ程度に、線維芽細胞による損傷域への再定着に有意な活性を有することが明白に理解できる。これに対して、治癒能力が周知であるタイム蜂蜜が発揮する効果に比べて、クローバー蜂蜜自体の方がはるかに優れた効果を発揮し、予期せぬ結果となっている。
【0086】
これにより、皮膚の老化兆候の出現の予防若しくは遅延、又はその作用の減速に特に効果的な化粧活性剤として、クローバー蜂蜜を選択することが正当であることが示される。
【0087】
実施例2−治癒マーカーをコードする遺伝子の発現に対する蜂蜜の効果
本研究は、クローバー蜂蜜を含む処置によって、治癒過程に関与するタンパク質をコードする3つの遺伝子の発現の調節を評価することを目的とする。
【0088】
選択した遺伝子は、以下のとおりである。
【0089】
HMGB1(高移動度群ボックス1):この遺伝子は、炎症反応及び治癒に関わる多機能性サイトカインをコードする。このタンパク質の高レベルの発現は、良質の治癒を表す(Strainoら、J.Invest.Dermatol.、2008年6月、128(6):1545〜53)。
【0090】
β−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ:この遺伝子は、治癒において基本成分であるコラーゲンの沈着に関与するガラクトシルトランスフェラーゼをコードする(Shenら、Am J Dermatopathol.2008年2月、30(1):10〜5)。
【0091】
TGF−β:この遺伝子は、治癒過程全体において中心的な役割を持つ(Wang XJら、J.Investig.Dermatol.Symp.Proc.2006年9月、11(1):112〜7)。
【0092】
遺伝子の発現に対する各活性剤の影響は、本発明の活性剤を用いた正常ヒト角化細胞(NHK)又は正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHF)の処置段階の後に、定量PCRによって確認する。
【0093】
1.細胞培養
皮膚細胞(角化細胞又は線維芽細胞)は、使用するまで液体窒素(−180℃)に浸漬してクライオチューブ(Cryotube)に保存する。37℃で解凍した後、各Cryotubeの内容物を溶解し、次いで(室温で150gを5分間)遠心する。
【0094】
細胞ペレットを各細胞の種類に適した培養培地10mLに溶解し、次いで75cmの瓶に播種する。
【0095】
これらの培地の組成物は以下のとおりである。
【0096】
角化細胞の培養に適した培地A
KSFM(Invitrogen)
+下垂体エキス(Invitrogen) 50μg/ml
【0097】
線維芽細胞の培養に適した培地B
DMEM(Invitrogen)
+ウシ胎児血清(Biowest) 10%v/v
【0098】
コンフルエント時に、細胞(角化細胞又は線維芽細胞)をトリプシン−EDTA培地(1mLの0.5%トリプシン及び0.2g/LのEDTA)を有する培養支持体から37℃で数分間外す。トリプシンの作用を無効にし、再び遠心した後、各細胞ペレットを1mLの培地A(NHK)又は培地B(NHF)に溶解する。
【0099】
2.処置
細胞(NHK又はNHF)を直径35mmのペトリ皿に各培地において2.5x10個の細胞/皿の比率で播種する。処置段階の24時間前に、NHFの培養培地(培地B)をDMEM培地のみと交換する。
【0100】
培養条件ごとに2枚の皿、即ち試験する物質ごとに2枚の皿に播種し、必要に応じて培養培地(非処置対照)の2枚の皿に播種する。
【0101】
試験した物質(培養培地中で希釈)
クローバー蜂蜜 100μg/mL
GATULINE SKIN REPAIR(陽性対照) 0.01%
【0102】
24時間処置後に、細胞を回収して細胞の全RNAを抽出する。
【0103】
3.EZ1抽出装置(Qiagen)による全RNAの採取
細胞の培養培地を取り除き、次いで500μLのQiazol(キットに付属)を添加する。細胞溶解物を1.5mLの管に回収する。供給業者のプロトコルに従って、全RNAを抽出する。
【0104】
得た全RNAの溶液をアッセイにかけ、結果分析向け特製ソフトウェア(ソフトウェア2100エキスパート)の入ったコンピュータに接続したBioanalyser 2100(Agilent Technologies)によって質を検証する。この技術には、12ウェルのマイクロプレート(RNA 6000 NanoChips)及び真核性全RNAのアッセイに特異的な試薬キット(RNA 6000 Nano Reagent & Supplies)を必要とする。
【0105】
4.相補的DNAの合成
使用する逆転写(RT)キットは、High Capacity cDNA Archive kitである。これを供給されたプロトコルに従って使用した。DNAseに続き、全RNA100ngを水で希釈して最終体積25μLとする。次いで、以下に示すように事前に調製したHigh Capacity cDNA Archive kit2Xの反応混合物25μLと共に、25℃で10分間、次いで37℃で2時間インキュベートする。
【0106】
1つの反応のためのHigh Capacity cDNA Archive kit2X反応混合物:
RTバッファー 5μL
dNTPバッファー 2μL
ランダムプライマー 5μL
RNAse OUT 0.5μL
RT 2.5μL
O 10μL
【0107】
5.リアルタイム定量RT−PCR
個々の処置の効果は、7900HTの96ウェルfastブロック(Applied biosystems)を用いたリアルタイム定量PCRによって評価する。
【0108】
1つの反応のための7900HT Fast Real−time PCR System反応混合物Highの調製:
TaqMan Fast universal PCR master mix(2x) 10μL
TaqMan gene expression assay 1μL
O 4μL
【0109】
混合物15μLを7900HT装置用に特別に設計された96ウェルプレートのウェルに入れ、(ブランク用として)水5μL又は(範囲用として)cDNAの連続希釈液又は1/50に希釈した試料5μLを対応するウェルに添加する。
【0110】
結果
24時間処置後のNHKにおけるHMGB1遺伝子の発現
試料で測定したHMGB1遺伝子をコードする転写物の比率は、非変異遺伝子β−2−ミクログロブリン(β−2−m)をコードする転写物の比率を指す。得られた結果をヒストグラムの形で処理する(図4)。クローバー蜂蜜を用いた処置によって、遺伝子発現は、非処置対照に対して1.17倍増加する。対照的に、陽性対照は、前記遺伝子の発現を増加させない。
【0111】
24時間の処置後のNHFにおけるTGF−β遺伝子の発現
TGF−β遺伝子をコードする転写物の比率は、非変異遺伝子β−2−ミクログロブリン(β−2−m)をコードする転写物の比率を指す。得られた結果をヒストグラムの形で処理する(図5)。クローバー蜂蜜を用いた細胞の処置によって、研究中の遺伝子発現は非処置対照に対して1.76倍増加する。陽性対照でも、研究中の遺伝子発現は著しく増加する。
【0112】
24時間の処置後のNHFにおけるβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子の発現
β−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ遺伝子をコードする転写物の比率は、非変異遺伝子β−2−mをコードする転写物の比率を指す。得られた結果をヒストグラムの形で処理する(図6)。クローバー蜂蜜で処置後、β−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ−1遺伝子の転写比率は非処置対照に対して1.59倍増加するのが観察される。陽性対照も有意に活性である。
【0113】
結論
クローバー蜂蜜は、マーカーであるHMGB1、TGF−β及びβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現を有意に刺激する。
これにより、組織の修復及び治癒に関与するすべての過程を促進させる。
これによりクローバー蜂蜜を、肌の老化兆候の出現を予防若しくは遅延、又はその作用を減速させるのに特に有効な化粧活性剤として選択することが正当化される。
【0114】
実施例3:肌の張りを改善する老化防止セラム
セラムを以下の組成物(最終組成物に対する重量%)を用いて調製する。
クローバー蜂蜜 4
ローヤルゼリー 0.5
Centella asiaticaの配糖体 0.1
Malva sylvestrisのエキス 0.1
Vigna aconitifoliaのエキス 0.1
防腐剤を包含する賦形剤 100まで十分量
【0115】
朝、セラムを顔に塗布して肌の張りを改善する。
【0116】
実施例4:老化防止スージングナイトクリーム
乳液を以下の組成物(最終組成物に対する重量%)を用いて調製する。
【0117】
クローバー蜂蜜のグリコール分解物 1
(例えば、含水グリコール性(水−ブチレングリコール混合物))
グリセロール 3
マンゴーバター 2
ヒアルロン酸 1
エルゴチオネイン 0.4
アスコルビルグルコシド 0.4
α−トコフェロール 0.2
グリチルリチン酸カリウム 0.05
防腐剤 適量
賦形剤芳香乳液 100までの十分量
【0118】
クリームは、就寝時に、顔、特に肌の老化兆候がある部分に塗布する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧活性剤として、Trifolium repens種のクローバー由来の蜂蜜又はそのエキスを含む、化粧組成物。
【請求項2】
老化防止又は皺取りの組成物であって、前記クローバー蜂蜜又はそのエキスを皺取り又は老化防止活性剤として含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Trifolium repens種のクローバー蜂蜜又はそのエキスを0.01〜10重量%含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
Trifolium repens種のクローバー蜂蜜又はそのエキスを0.01〜5重量%含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
他の植物由来の単花蜂蜜を1種又は複数含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記単花蜂蜜がタイム(Thymus vulgaris)由来の単花蜂蜜、マヌカ(Leptospermum scoparium)由来の蜂蜜、1種又は複数の多花蜂蜜、1種又は複数のこれらの蜂蜜のエキス、1種又は複数の養蜂由来の製品、ローヤルゼリー、及びこれらの任意の混合物からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
セラム、ローション、クリーム、ヒドロゲル、マスク、スティック、又はパッチである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
肌の老化兆候の出現を予防若しくは遅延又はその作用を減速するための、Trifolium repens種のクローバー由来の蜂蜜又はそのエキス。
【請求項9】
上皮の再構成、肌の張り強化又は皺や皮膚すじの低減若しくは吸収の促進をするための、Trifolium repens種のクローバー由来の蜂蜜又はそのエキス。
【請求項10】
化粧組成物中の化粧活性剤である、請求項8に記載のTrifolium repens種のクローバー由来の蜂蜜又はそのエキス。
【請求項11】
有効量のTrifolium repens種のクローバー蜂蜜又はそのエキスを含む化粧組成物であって、肌の老化兆候の出現の予防又は遅延、その作用の減速、上皮の再構成、肌の張り強化、及び皺の低減又は吸収の促進からなる群から選択される上記の美容ケアのうち少なくとも1つをもたらす組成物。
【請求項12】
Trifolium repens種の前記クローバー蜂蜜又はそのエキスを、老化兆候が現れている顔、首、手の肌の部分、又は皺若しくは皮膚すじが存在する肌の部分に適用する、請求項11に記載の化粧組成物。
【請求項13】
Trifolium repens種の前記クローバー蜂蜜又はそのエキスを0.01〜10重量%含む、請求項11に記載の化粧組成物。
【請求項14】
Trifolium repens種のクローバー蜂蜜を0.01〜5重量%含む、請求項11に記載の化粧組成物。
【請求項15】
他の植物由来の単花蜂蜜を1種又は複数含む、請求項11に記載の化粧組成物。
【請求項16】
前記単花蜂蜜がタイム(Thymus vulgaris)由来の単花蜂蜜、マヌカ(Leptospermum scoparium)由来の蜂蜜、1種又は複数の多花蜂蜜、1種又は複数のこれらの蜂蜜のエキス、1種又は複数の養蜂由来の製品、ローヤルゼリー、及びこれらの任意の混合物からなる群から選択される、請求項15に記載の化粧組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−157356(P2011−157356A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−15563(P2011−15563)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(502189579)エルブイエムエイチ レシェルシェ (68)
【Fターム(参考)】