説明

医学的疾患および医学的状態の診断、予後および治療におけるマイクロベシクルの使用

開示される事項は、対象における疾患または他の医学的状態の診断、予後、モニタリングおよび評価を、対象由来の生体試料から単離されたマイクロベシクル内のバイオマーカーを検出することによって支援する方法を対象とする。さらに、開示される事項は、生体試料中のマイクロベシクルの濃度を決定することによる疾患の診断、モニタリングの方法;核酸またはタンパク質を、該核酸またはタンパク質を含むマイクロベシクルを投与することによって標的細胞に送達する方法;マイクロベシクルを含まないかまたはマイクロベシクルに富む液体画分を患者に導入することによって体液輸注を行うための方法、も対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年2月1日に提出された米国仮出願第61/025,536号、および2008年9月26日に提出された第61/100,293号に対する優先権を主張し、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府の支援
本発明は、米国国立癌研究所(National Cancer Institute)によって授与された助成金NCI CA86355号およびNCI CA69246号の下で、米国政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、医学的診断、患者モニタリング、治療効能評価、核酸およびタンパク質の送達、ならびに輸血の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
神経膠芽腫は、徹底した研究および臨床的な取り組みにもかかわらず予後が不良な、悪性度の高い脳腫瘍である(Louis et al., 2007)。この腫瘍は浸潤性であるため、完全な外科的切除は不可能であり、生存期間中央値は約15カ月に過ぎない(Stupp et al., 2005)。神経膠芽腫細胞は、他の多くの腫瘍細胞と同様に、その間質環境を自らに有利となるような形に変える並外れた能力を有する。腫瘍細胞は、周囲の正常細胞を、腫瘍細胞の増殖、浸潤、化学療法抵抗性、免疫回避および転移を促進するように直接変化させる(Mazzocca et al., 2005;Muerkoster et al., 2004;Singer et al., 2007)。腫瘍細胞はまた、正常な脈管構造を乗っ取って、腫瘍に栄養を供給する新たな血管の急速な形成を促すこともする(Carmeliet and Jain, 2000)。免疫系は最初のうちは腫瘍増殖を抑制することができるが、多くの場合は、免疫抑制経路による腫瘍活性化によってその効果は次第に弱められる(Gabrilovich, 2007)。
【0005】
細胞によって離出分離(shed)される小さなマイクロベシクル(microvesicle)はエキソソームとして知られている(Thery et al., 2002)。エキソソームは、およそ30〜100nmの直径を有し、かつ、正常条件下および病的条件下のいずれにおいても数多くの異なる細胞タイプによって離出分離されることが報告されている(Thery et al., 2002)。これらのマイクロベシクルは当初、成熟しつつある網状赤血球の細胞表面からトランスフェリン受容体を廃棄する機序として記述された(Pan and Johnstone, 1983)。エキソソームは、エンドソーム膜の内向き出芽のために細胞内の多胞体(MVB)が生じ、それが後に原形質膜と融合してエキソソームを外部に放出することによって形成される(Thery et al., 2002)。しかし、現在ではエキソソームのより直接的な放出の証拠もある。Jurkat T細胞などのある種の細胞は、原形質膜の外向き出芽によってエキソソームを直接に離出分離するといわれている(Booth et al., 2006)。細胞によって離出分離される膜小胞はすべて、本明細書においてマイクロベシクルと総称される。
【0006】
キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)におけるマイクロベシクル、いわゆるアルゴソーム(argosome)は、Winglessタンパク質などのモルフォゲンを含み、かつ、発生過程にあるキイロショウジョウバエ胚において成虫原基上皮を通じて大きな距離を移動するといわれている(Greco et al., 2001)。プロスタソームとして知られる、精液中に認められるマイクロベシクルは、精子運動性の促進、先体反応の安定化、免疫抑制の亢進、および血管新生の阻害を含む、広範囲にわたる機能を有することが記述されている(Delves et al., 2007)。これに対して、悪性前立腺細胞によって放出されたプロスタソームは血管新生を促進するといわれている。マイクロベシクルはタンパク質を輸送するといわれており(Mack et al., 2000)、最近の諸研究では、種々の細胞系から単離されたマイクロベシクルがメッセンジャーRNA(mRNA)およびマイクロRNA(miRNA)を含むことができて、mRNAを他の細胞タイプに輸送しうることも記述されている(Baj-Krzyworzeka et al., 2006;Valadi et al., 2007)。
【0007】
B細胞および樹状細胞に由来するマイクロベシクルは、インビボで強力な免疫刺激効果および抗腫瘍効果を有することが記述されており、抗腫瘍ワクチンとして用いられている(Chaput et al., 2005)。樹状細胞由来のマイクロベシクルはT細胞活性化のために必要な共刺激タンパク質を含むが、一方、ほとんどの腫瘍細胞由来マイクロベシクルはそうでないことが記述されている(Wieckowski and Whiteside, 2006)。腫瘍細胞から単離されたマイクロベシクルは、免疫応答を抑制し、腫瘍増殖を速めるように作用する可能性がある(Clayton et al., 2007;Liu et al., 2006a)。乳癌マイクロベシクルは血管新生を刺激する可能性があり、血小板由来マイクロベシクルは腫瘍進行および肺癌細胞の転移を促進する可能性がある(Janowska-Wieczorek et al., 2005;Millimaggi et al., 2007)。
【0008】
癌は、無制限な細胞増殖を促進する遺伝的変化の蓄積を通じて生じる。各腫瘍は、非腫瘍細胞には存在しない、平均で50〜80個前後の突然変異を抱えていると記述されている(Jones et al., 2008;Parsons et al., 2008;Wood et al., 2007)。これらの突然変異プロファイルを検出するための現行の方法には、生検試料の分析、および、血液などの体液中を循環する突然変異性腫瘍DNA断片の非侵襲的分析が含まれる(Diehl et al., 2008)。前者の方法は侵襲的で複雑であり、ことによると対象にとって有害な恐れがある。後者の方法は、体液中の突然変異性癌DNAのコピー数が極めて少ないために本来的に感度に欠ける(Gormally et al., 2007)。このため、癌診断が直面している1つの課題は、さまざまなステージにある腫瘍細胞を非侵襲的に、なおかつ高い感度および特異性で検出することのできる診断方法を開発することである。また、遺伝子発現プロファイル(コード性のmRNAまたはマイクロRNA)によって癌組織と非癌組織とを識別しうることも記述されている(Jones et al., 2008;Parsons et al., 2008;Schetter et al., 2008)。しかし、遺伝子発現プロファイルを検出するための現行の診断手法は、組織の侵入性生検を必要とする。生検手順の中には高いリスクをもたらすものがあり、潜在的に有害である。さらに、生検手順では、組織試料を限られた部位から採取するため、異種混交的な、および/または正常組織内に分散している腫瘍では特に、偽陽性または偽陰性が得られる可能性がある。このため、バイオマーカーを検出するための非侵入性かつ高感度な診断方法は、非常に望ましいと考えられる。
【発明の概要】
【0009】
一般に、本発明は、対象においてマイクロベシクル中に含まれる種々のバイオマーカーの有無を検出し、それによって、マイクロベシクルバイオマーカーと関連のある疾患、他の医学的状態および治療効能の診断、モニタリングおよび評価を助けるための新規な方法である。
【0010】
本発明の1つの局面は、対象における疾患または他の医学的状態の診断またはモニタリングを助けるための方法であって、以下の段階を含む方法である:a)対象由来の生体試料からマイクロベシクル画分を単離する段階;およびb)マイクロベシクル画分内のバイオマーカーの有無を検出する段階であって、そのバイオマーカーが疾患または他の医学的状態と関連している段階。本方法はさらに、検出段階の結果を対照と比較する(例えば、試料中で検出された1つまたは複数のバイオマーカーの量を1つまたは複数の対照レベルと比較する)段階であって、対照と比較して検出段階の結果に測定可能な差がある場合に、対象が疾患または他の医学的状態(例えば、癌)を有すると診断される段階、を含んでもよい。
【0011】
本発明のもう1つの局面は、対象における治療効能の評価を助けるための方法であって、以下の段階を含む方法である:a)対象由来の生体試料からマイクロベシクル画分を単離する段階;およびb)マイクロベシクル画分内のバイオマーカーの有無を検出する段階であって、バイオマーカーが疾患または他の医学的状態に対する治療効能と関連している段階。本方法はさらに、対象からの、ある期間にわたる一連の生体試料を提供する段階を含んでもよい。加えて、本方法はさらに、その一連のものからの生体試料のそれぞれにおける検出段階の結果(例えば、1つまたは複数の検出されたバイオマーカーの量)の測定可能な変化を決定し、それによって疾患または他の医学的状態に対する治療効能を評価する、段階も含みうる。
【0012】
本発明の前記の局面のある好ましい態様において、対象由来の生体試料は体液の試料である。特に好ましい体液は血液および尿である。
【0013】
本発明の前記の局面のある好ましい態様において、本方法はさらに、特定のタイプの細胞(例えば、癌細胞または腫瘍細胞)に由来する選択的マイクロベシクル画分の単離を含む。加えて、選択的マイクロベシクル画分は、基本的に尿中マイクロベシクルからなってもよい。
【0014】
本発明の前記の局面のある態様において、疾患または他の医学的状態と関連のあるバイオマーカーは、i)1種の核酸;ii)1つまたは複数の核酸の発現レベル;iii)核酸変異体;またはiv)前記のもののいずれかの組み合わせ、である。そのようなバイオマーカーの好ましい態様には、メッセンジャーRNA、マイクロRNA、DNA、一本鎖DNA、相補的DNAおよび非コードDNAが含まれる。
【0015】
本発明の前記の局面のある態様において、疾患または他の医学的状態は、新生物性の疾患または異常(例えば、神経膠芽腫、膵癌、乳癌、黒色腫および結腸直腸癌)、代謝性の疾患または異常(例えば、糖尿病、炎症、周産期異常、または鉄代謝に関連した疾患もしくは異常)、移植後異常または胎児異常である。
【0016】
本発明のもう1つの局面は、対象における疾患または他の医学的状態の診断またはモニタリングを助けるための方法であって、a)対象由来の生体試料を入手する段階;およびb)生体試料内のマイクロベシクルの濃度を決定する段階、を含む方法である。
【0017】
本発明のさらにもう1つの局面は、個体における標的細胞に核酸またはタンパク質を送達するための方法であって、核酸もしくはタンパク質を含むマイクロベシクル、またはそのようなマイクロベシクルを産生する1つもしくは複数の細胞を、マイクロベシクルが個体の標的細胞に入るように個体に投与する段階を含む方法である。本発明のこの局面の1つの好ましい態様において、マイクロベシクルは脳細胞に送達される。
【0018】
本発明の1つのさらなる局面は、体液輸注(例えば、血液、血清または血漿)を行うための方法であって、すべてもしくは実質的にすべてのマイクロベシクルを含まない、または特定の細胞タイプ(例えば、腫瘍細胞)由来のすべてもしくは実質的にすべてのマイクロベシクルを含まない、ドナー体液の画分を入手する段階、およびマイクロベシクル非含有画分を患者に導入する段階を含む方法である。本発明の1つの関連した局面は、すべてもしくは実質的にすべてのマイクロベシクルを含まない、または特定の細胞タイプ由来のすべてもしくは実質的にすべてのマイクロベシクルを含まない、体液(例えば、血液、血清または血漿)の試料を含む、組成物である。
【0019】
本発明のもう1つの局面は、体液輸注(例えば、血液、血清または血漿)を行うための方法であって、ドナー体液のマイクロベシクルに富む画分(を入手する段階、およびマイクロベシクルに富む画分を患者に導入する段階を含む方法である。1つの好ましい態様において、画分は、特定の細胞タイプに由来するマイクロベシクルに富む。本発明の1つの関連した局面は、マイクロベシクルに富む体液の試料(例えば、血液、血清または血漿)を含む組成物である。
【0020】
本発明の1つのさらなる局面は、疾患または他の医学的状態と関連のある新たなバイオマーカーの同定を助けるための方法であって、対象から生体試料を入手する段階;試料からマイクロベシクル画分を単離する段階;および、マイクロベシクル画分内の核酸種;それらの各々の発現レベルもしくは濃度;核酸変異体;またはそれらの組み合わせを検出する段階、を含む方法である。
【0021】
本発明のさまざまな局面および態様を、これから詳細に説明する。本発明の範囲から逸脱することなく、細部の変更を行いうることは理解されるであろう。さらに、文脈が他のものを要求しない限り、単数形の用語は複数のものを含むものとし、複数形の用語は単数のものを含むものとする。
【0022】
特定されたすべての特許、特許出願および刊行物は、例えば、本発明とともに用いられる可能性のある、そのような刊行物中に記載された方法を説明および開示する目的で、参照により本明細書に明示的に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の提出日以前にさかのぼったそれらの開示のためのみに提供される。この点に関して、本発明者らが、先行発明の権限に基づいて、または任意の他の理由によって、そのような開示に先行する権利を持たないことを認めたものとみなされるべきではない。これらの文書の日付に関するすべての記述、またはそれらの内容に関する描写は、出願人が入手可能な情報に基づいており、これらの文書の日付または内容の正確さに関していかなる承認も行うものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】神経膠芽腫細胞は、RNAを含むマイクロベシクルを産生する。(a)初代神経膠芽腫細胞の走査型電子顕微鏡像(バー=10μm)。(b)細胞表面上のマイクロベシクルを示している、より高倍率の像。ベシクルのサイズはさまざまであり、直径は50nm前後から500nm前後までの間である(バー=1μm)。(c)RNアーゼAで処理したか、または処理しなかったマイクロベシクルから抽出した全RNAの量を示しているグラフ。量は、波長(x軸)が260nmでの吸光度(Abs、y軸)として示される。実験を5回繰り返し、代表的なグラフを示している。(d)初代神経膠芽腫細胞から抽出した全RNAのサイズ分布を示しているBioanalyzerデータ、および(e)初代神経膠芽腫細胞から単離したマイクロベシクルから抽出した全RNAのサイズ分布を示しているBioanalyzerデータ。25ntのピークは内部標準を表す。(d)における2つの顕著なピーク(矢印)は、18S(左の矢印)および28S(右の矢印)リボソームRNAを表す。リボソームのピークはマイクロベシクルから抽出したRNAには存在しない(e)。(f)初代神経膠芽腫細胞によって分泌されたマイクロベシクルの透過型電子顕微鏡像(バー=100nm)。
【図2】マイクロベシクルRNAの分析。図2(a)および2(b)は、2つの異なる実験による、マイクロベシクルにおけるmRNAレベルおよびドナー神経膠芽腫細胞におけるmRNAレベルの散布図である。線形回帰では、ドナー細胞におけるmRNAレベルとマイクロベシクルにおけるそれがあまりよく相関しないことが示されている。図2(c)および2(d)は、2種の異なるドナー細胞または2種の異なるマイクロベシクル調製物におけるmRNAレベルである。図2(a)および2(b)とは対照的に、線形回帰では、mRNAレベルがドナー細胞の図2(c)またはマイクロベシクルの図2(d)との間で密接に相関することが示されている。
【図3a】マイクロベシクルDNAの分析。核酸抽出の前にDNアーゼで処理したエキソソームからの、DNAテンプレートによるGAPDH遺伝子の増幅。レーンは以下の通りに特定される: 1.100bp MWラダー 2.陰性対照 3.GBM 20/3細胞からのゲノムDNA対照 4.正常血清中エキソソームからのDNA(腫瘍細胞を含まない対照) 5.正常ヒト線維芽細胞(NHF19)からのエキソソームDNA 6.初代髄芽腫細胞(D425)からのエキソソームDNA
【図3b】マイクロベシクルDNAの分析。事前のDNアーゼ処理を伴わないエキソソームからの、DNAテンプレートによるGAPDH遺伝子の増幅。レーンは以下の通りに特定される: 1.100bp MWラダー 2.初代黒色腫細胞0105からのDNA 3.黒色腫0105からのエキソソームDNA 4.陰性対照 5.初代GBM 20/3からのcDNA(陽性対照)
【図3c】マイクロベシクルDNAの分析。ヒト内因性レトロウイルスK遺伝子の増幅。レーンは以下の通りに特定される: 1.100bp MWラダー 2.髄芽腫D425 aからのエキソソームDNA 3.髄芽腫D425 bからのエキソソームDNA 4.正常ヒト線維芽細胞(NHF19)からのエキソソームDNA 5.正常ヒト血清からのエキソソームDNA 6.GBM 20/3からのゲノムDNA 7.陰性対照
【図3d】マイクロベシクルDNAの分析。テネイシンC遺伝子の増幅.レーンは以下のように列記され、特定される: 1.100bp MWラダー 2.正常ヒト線維芽細胞(NHF19)からのエキソソーム 3.血清(腫瘍細胞を含まない個体A)からのエキソソーム 4.血清(腫瘍細胞を含まない個体B)からのエキソソーム 5.初代髄芽腫細胞D425からのエキソソーム
【図3e】マイクロベシクルDNAの分析。転位因子Line 1の増幅。レーンは以下の通りに特定される: 1.100bp MWラダー 2.正常ヒト血清からのエキソソームDNA 3.正常ヒト線維芽細胞からのエキソソームDNA 4.髄芽腫D425 aからのエキソソームDNA 5.髄芽腫D425 bからのエキソソームDNA
【図3f】マイクロベシクルDNAの分析。DNAはD425髄芽腫細胞からのエキソソーム内に存在する。レーンは以下の通りに特定される: 1.100bpマーカー 2.D425、DNアーゼなし 3.D425、DNアーゼあり 4.1kbマーカー
【図3g】マイクロベシクルDNAの分析。RNAピコチップを用いた一本鎖核酸分析。上のパネル:精製DNAをDNアーゼで処理しなかった;下のパネル:精製DNAをDNアーゼで処理した。上のパネル中の矢印は検出された核酸を表している。25ntのピークは内部標準である。
【図3h】マイクロベシクルDNAの分析。初代髄芽腫D425からのエキソソーム内に含まれる核酸の分析。上のパネル:RNAピコチップによって検出された一本鎖核酸。下のパネル:DNA 1000チップによって検出された二本鎖核酸。上のパネル中の矢印は検出された核酸を表している。2つのピーク(15bpおよび1500bp)は内部標準である。
【図3i】マイクロベシクルDNAの分析。RNAピコチップを用いた、異なる由来のエキソソームDNAの分析。上のパネル:DNAを神経膠芽腫細胞からのエキソソームから抽出した。下のパネル:DNAを正常ヒト線維芽細胞からのエキソソームから抽出した。
【図4】血清からの細胞外RNA抽出は、血清中エキソソームの単離段階を含めた場合に、より効率的である。a)血清からのエキソソームRNA。b)直接的な全血清抽出。c)空ウェル。矢印は試料中の検出されたRNAを表している。
【図5】マイクロベシクルと由来細胞との間の遺伝子発現レベルの比較。3426種の遺伝子が、マイクロベシクル中に、その由来となった細胞と比較して5倍を上回って差異を伴い分布していることが見いだされた(p値<0.01)。
【図6】マイクロベシクルRNAのオントロジー分析。(a)円グラフは、マイクロベシクル中で最も多い500種のmRNA種の生物プロセスオントロジー(ontology)を提示している。(b)腫瘍増殖に関係するオントロジーに属するマイクロベシクルRNAの強度を示しているグラフ。x軸はそのオントロジー中に存在するmRNA転写物の数を表している。アレイ上の強度レベルの中央値は182であった。
【図7】mRNAレベルのクラスター図。細胞系およびこれらの細胞系の培地から単離したエキソソームにおけるmRNA発現プロファイルに関するマイクロアレイデータを分析し、発現プロファイルのクラスターを作成した。RNA種の標示は以下の通りである: 20/3C-1:神経膠芽腫20/3細胞RNA、アレイレプリケート1 20/3C-2:神経膠芽腫20/3細胞RNA、アレイレプリケート2 11/5C:神経膠芽腫11/5細胞RNA 0105C:黒色腫0105細胞RNA 0664C:黒色腫0664細胞RNA 0664 E-1:黒色腫0664エキソソームRNA、アレイレプリケート1 0664 E-2:黒色腫0664エキソソームRNA、アレイレプリケート2 0105E:黒色腫0105エキソソームRNA 20/3E:神経膠芽腫20/3エキソソームRNA 11/5E-1:神経膠芽腫11/5エキソソーム、アレイレプリケート1 11/5E-2:神経膠芽腫11/5エキソソーム、アレイレプリケート2 GBM:神経膠芽腫。目盛りはクラスター間の距離を表している。
【図8】血清からのマイクロベシクルはマイクロRNAを含む。2例の異なる患者(GBM1およびGBM2)由来のマイクロベシクルおよび神経膠芽腫細胞から抽出した成熟miRNAのレベルを、定量的miRNA RT-PCRを用いて分析した。サイクル閾値(Ct)値は平均±SEM(n=4)として提示されている。
【図9】マイクロRNAレベルのクラスター図。細胞系およびこれらの細胞系の培地から単離したエキソソームにおけるマイクロRNA発現プロファイルに関するマイクロアレイデータを分析し、発現プロファイルのクラスターを作成した。RNA種の標示は以下の通りである: 0664C-1:黒色腫0664細胞RNA、アレイレプリケート1 0664C-2:黒色腫0664細胞RNA、アレイレプリケート2 0105C-1:黒色腫0105細胞RNA、アレイレプリケート1 0105C-2:黒色腫0105細胞RNA、アレイレプリケート2 20/3C-1:神経膠芽腫20/3細胞RNA、アレイレプリケート1 20/3C-2:神経膠芽腫20/3細胞RNA、アレイレプリケート2 11/5C-1:神経膠芽腫11/5細胞RNA、アレイレプリケート1 11/5C-2:神経膠芽腫11/5細胞RNA、アレイレプリケート2 11/5E-1:神経膠芽腫11/5エキソソーム、アレイレプリケート1 11/5E-2:神経膠芽腫11/5エキソソーム、アレイレプリケート2 20/3E-1:神経膠芽腫20/3エキソソームRNA、アレイレプリケート1 20/3E-2:神経膠芽腫20/3エキソソームRNA、アレイレプリケート2 0664 E:黒色腫0664エキソソームRNA 0105E-1:黒色腫0105エキソソームRNA、アレイレプリケート1 0105E-2:黒色腫0105エキソソームRNA、アレイレプリケート2 GBM:神経膠芽腫。目盛りはクラスター間の距離を表している。
【図10】血清中マイクロベシクルにおけるマイクロRNA-21の発現レベルは神経膠腫と関連している。棒グラフが示されており、正常対照血清が左、神経膠腫血清が右である。定量的RT-PCRを用いて、神経膠芽腫患者ならびに正常患者対照の血清由来のエキソソームにおけるマイクロRNA-21(miR-21)のレベルを測定した。神経膠芽腫血清ではCt値の5.4の低下が示されたが、これはmiR21のおよそ40(2ΔCt)倍の増加に対応する。各試料においてmiR21レベルはGAPDHに対して標準化した(n=3)。
【図11】ネステッドRT-PCRを用いて、腫瘍試料および対応する血清中エキソソームにおけるEGFRvIII mRNAを検出した。野生型EGFR PCR産物は1153bpのバンドとして出現し、EGFRvIII PCR産物は352bpのバンドとして出現する。GAPDH mRNAのRT PCRを陽性対照として含めた(226bp)。EGFRvIIIに関して陽性であると判断された試料は星印を付して示されている。患者11、12および14は、腫瘍試料ではEGFRvIIIの弱い増幅しか示さなかったが、より多くの試料をローディングした場合はそれが明白であった。
【図12】52例の正常対照血清からのマイクロベシクルに対してEGFRvIIIのネステッドRT PCRを行った。EGFRvIII(352bp)は正常対照血清中には全く見いだされなかった。GAPDH(226bp)のPCRを対照として含めた。
【図13】ヘプシジンmRNAはヒト血清からのエキソソーム内に検出可能である。A)Agilent Bioanalyzerによって生成されたシュードゲル(pseudo-gel)。B)陽性対照(試料1)に関してAgilent Bioanalyserによって生成された生プロット。C)陰性対照(試料2)に関してAgilent Bioanalyserによって生成された生プロット。D)エキソソーム(試料3)に関してAgilent Bioanalyserによって生成された生プロット。
【図14】尿中エキソソームの単離および尿中エキソソーム内の核酸同定。(a)尿細管細胞内の多くの小さな「エキソソーム」を含む多胞体(MVB)の電子顕微鏡像。(b)単離された尿中エキソソームの電子顕微鏡像。(c)Agilent Bioanalyzerによる、尿中エキソソーム内に含まれるRNA転写物の分析。広範囲にわたるRNA種が同定されたが、18Sおよび28SリボソームRNAはいずれも存在しなかった。(d)PCRによる、尿中エキソソーム中のさまざまなRNA転写物の同定。このようにして同定された転写物は以下の通りであった:アクアポリン1(AQP1);アクアポリン2(AQP2);キュブリン(CUBN);メガリン(LRP2);アルギニンバソプレッシン受容体2(AVPR2);ナトリウム/水素交換輸送体3(SLC9A3);V-ATPアーゼB1サブユニット(ATP6V1B1);ネフリン(NPHS1);ポドシン(NPHS2);およびクロライドチャンネル3(CLCN3)。上から下の順に、分子量(MW)レーン中の5つのバンドは1000、850、650、500、400、300塩基対断片に対応する。(e)尿試料からのエキソソーム核酸のBioanalyzerダイアグラム。数字はヒト個体の番号付けを表している。(f)(e)に記載の核酸抽出物を用いて種々のプライマー対によって生じたPCR産物を描写しているシュードゲル。ハウスはアクチン遺伝子を表しており、アクチンプライマーはAmbion(TX, USA)製とした。陽性対照はAmbion(TX, USA)製のヒト腎臓cDNAをテンプレートとして用いたPCRを表しており、陰性対照は核酸テンプレートを用いないPCRを表している。(g)核酸抽出の前にエキソソームのDNアーゼ処理を行うかまたは行わないPCRを介したアクチン遺伝子cDNAの陽性同定を示しているシュードゲル画像。(h)ヒト尿中エキソソームから単離された核酸の量を示しているBioanalyzerダイアグラム。
【図15】尿中エキソソームにおける前立腺癌バイオマーカーの分析。(a)TMPRSS2-ERG遺伝子のPCR産物およびPCR産物の消化断片を示しているゲル画像。P1およびP2はそれぞれ、患者1および患者2からの尿試料を表している。各試料に関して、未消化産物は左のレーンにあり、消化産物は右のレーンにある。MWMは、MWマーカーを有するレーンを示している。バンド(未消化および消化の両方)のサイズはパネルの右に示されている。(b)PCA3遺伝子のPCR産物およびPCR産物の消化断片を示しているゲル画像。P1、P2、P3およびP4はそれぞれ、患者1、患者2、患者3および患者4からの尿試料を表している。各試料に関して、未消化産物は左のレーンにあり、消化産物は右のレーンにある。MWMは、MWマーカーを有するレーンを示している。バンド(未消化および消化の両方)のサイズはパネルの右に示されている。(c)(a)および(b)に提示された患者の情報ならびにデータの概要。TMERGは、TMPRSS2-ERG融合遺伝子のことを指す。
【図16】BRAF mRNAは、黒色腫細胞によって離出分離されたマイクロベシクル内に含まれる。(a)BRAF遺伝子増幅のRT-PCR産物を示している電気泳動ゲル画像。(b)GAPDH遺伝子増幅のRT-PCR産物を示している電気泳動ゲル画像。レーンおよびそれらの対応する試料は以下の通りである:レーン#1‐100bp分子量マーカー;レーン#2‐YUMEL-01-06 exo;レーン#3-YUMEL-01-06細胞;レーン#4‐YUMEL-06-64 exo;レーン#5‐YUMEL-06-64細胞;レーン#6‐M34 exo;レーン#7‐M34細胞;レーン#8‐線維芽細胞;レーン#9‐陰性対照。指示語「exo」は、そのRNAが培地中のエキソソームから抽出されたことを意味する。指示語「細胞」は、そのRNAが培養細胞から抽出されたことを意味する。YUMELの後の数字は、YUMEL細胞系の特定のバッチの識別表示である。(c)YUMEL-01-06 exoからのPCR産物のシークエンシング結果。YUMEL-01-06細胞、YUMEL-06-64 exoおよびYUMEL-06-64細胞からの結果は、YUMEL-01-06 exoからのものと同じであった。(d)M34 exoからのPCR産物のシークエンシング結果。M34細胞からの結果は、M34 exoからのものと同じであった。
【図17】神経膠芽腫マイクロベシクルは、機能性RNAをHBMVECに送達すことができる。(a)精製したマイクロベシクルを膜色素PKH67(緑色)で標識し、HBMVECに添加した。マイクロベシクルは1時間以内にエンドソーム様構造内へのインターナリゼーションを受けた。(b)Glucを安定して発現する神経膠芽腫細胞からマイクロベシクルを単離した。RNA抽出ならびにGluc mRNAおよびGAPDH mRNAのRT-PCRにより、この両者がマイクロベシクル中に取り込まれたことが示された。(c)続いてマイクロベシクルをHBMVECに添加し、24時間インキュベートした。マイクロベシクル添加から0、15および24時間後の時点で培地中のGluc活性を測定し、マイクロベシクル中のGluc活性に対して標準化した。結果は平均±SEM(n=4)として提示されている。
【図18】神経膠芽腫マイクロベシクルはインビトロでの血管新生を刺激し、血管新生タンパク質を含む。(a)HBMVECを、基礎培地(EBM)のみの中、またはそれにGBMマイクロベシクル(EBM+MV)もしくは血管新生因子(EGM)を補充したものの中で、マトリゲル(商標)上にて培養した。16時間後に、EBM中で増殖させた細胞との比較下で、細管形成を細管平均長±SEMとして測定した(n=6)。(b)初代神経膠芽腫細胞、およびこれらの細胞由来のマイクロベシクル(MV)(各1mg)からの総タンパク質を、ヒト血管新生抗体アレイ上で分析した。(c)アレイをスキャニングし、強度をImage Jソフトウエアで分析した(n=4)。
【図19】初代神経膠芽腫細胞から単離したマイクロベシクルは、U87神経膠芽腫細胞系の増殖を促進する。100,000個のU87細胞を24ウェルプレートのウェルに播き、(a)通常の増殖培地(DMEM-5% FBS)または(b)125μgのマイクロベシクルを加えた通常の増殖培地の中で3日間増殖させた。(c)3日後に、非添加細胞は480,000個に増え、一方、マイクロベシクルを加えた細胞は810,000個に増えた。NCは正常対照培地中で増殖させた細胞を表し、MVはマイクロベシクルを加えた培地中で増殖させた細胞を表している。結果は平均±SEM(n=6)として提示されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
マイクロベシクルは、細胞の外部へと、真核細胞によって離出分離される、または原形質膜から出芽分離(budded off)される。これらの膜小胞はサイズの点で異種混交的であり、直径は約10nm〜約5000nmの範囲にある。細胞内多胞体のエキソサイトーシスによって放出される小さなマイクロベシクル(直径がおよそ10〜1000nm、より多くの場合は30〜200nm)は、当技術分野では「エキソソーム」と称される。本明細書に記載された方法および組成物は、すべてのサイズのマイクロベシクルに等しく適用されるが、好ましくは30〜800nm、より好ましくは30〜200nmである。
【0025】
文献の中には、「エキソソーム」という用語が、mRNA分解、ならびに核小体低分子RNA(snoRNA)、核内低分子RNA(snRNA)およびリボソームRNA(rRNA)のプロセシングに関与する、エキソリボヌクレアーゼを含むタンパク質複合体のことも指すものがある(Liu et al., 2006b;van Dijk et al., 2007)。そのようなタンパク質複合体は膜を有しておらず、本明細書で用いられる場合の用語「マイクロベシクル」でも「エキソソーム」でもない。
【0026】
診断用および/または予後用ツールとしてのエキソソーム
本発明のある局面は、神経膠芽腫由来のマイクロベシクルを、神経膠芽腫患者の血清から単離することができるという、驚くべき知見に基づく。これは、脳内の細胞に由来し、対象の体液中に存在するマイクロベシクルの初めての発見である。この発見の前には、神経膠芽腫細胞がマイクロベシクルを産生するか否かも、そのようなマイクロベシクルが血液脳関門を越えて身体のそのほかの部分に入ることができるか否かも不明であった。これらのマイクロベシクルは、腫瘍細胞に付随する突然変異体mRNAを含むことが見いだされた。マイクロベシクルはまた、神経膠芽腫に多く含まれることが見いだされているマイクロRNA(miRNA)も含んでいた。また、神経膠芽腫由来のマイクロベシクルは、培養下にある初代ヒト脳微小血管内皮細胞(HBMVEC)における血管新生特性を強力に促進することも見いだされた。この血管新生効果は、少なくとも一部には、マイクロベシクル中に存在する血管新生タンパク質によって媒介された。これらのマイクロベシクル内に認められる核酸、ならびにマイクロベシクルの他の内容物、例えば血管新生タンパク質などは、遺伝子プロファイルを得ることにより、腫瘍の診断、特性決定および予後のための価値のあるバイオマーカーとして用いることができる。また、これらのマイクロベシクル内の内容物を、腫瘍進行の間に他の突然変異が獲得されるかどうか、ならびにある種の突然変異のレベルが経時的にまたは治療の過程で増大または低下するかどうかを分析することにより、腫瘍進行を経時的にモニターするために用いることもできる。
【0027】
本発明のある局面は、マイクロベシクルが腫瘍細胞によって分泌され、体液中を循環するという知見に基づく。マイクロベシクルの数は腫瘍の増殖に伴って増加する。体液中のマイクロベシクルの濃度は、対応する腫瘍負荷量(tumor load)に比例する。腫瘍負荷量が大きいほど、体液中のマイクロベシクルの濃度は高くなる。
【0028】
本発明のある局面は、対象の体液中の細胞外RNAの大部分はマイクロベシクル内に含まれ、それ故にリボヌクレアーゼによる分解から保護されるという、もう1つの驚くべき知見に基づく。実施例3に示されているように、全血清中の細胞外RNAの90%超がマイクロベシクル中に回収されうる。
【0029】
本発明の1つの局面は、生体試料中のマイクロベシクルの濃度を決定することによって、対象における疾患または他の医学的状態を検出する、診断する、モニターする、治療する、または評価するための方法に関する。決定は、マイクロベシクルを最初に単離することなく、またはマイクロベシクルを最初に単離することにより、生体試料を用いて行うことができる。
【0030】
本発明のもう1つの局面は、対象における疾患または他の医学的状態を検出する、診断する、モニターする、治療する、または評価するための方法であって、対象の体液からエキソソームを単離する段階、およびエキソソーム内に含まれる1つまたは複数の核酸を分析する段階を含む方法に関する。核酸を定性的および/または定量的に分析し、その結果を、その疾患または他の医学的状態を有するかまたは有しない1例または複数例の他の対象に関して予想される、または得られた結果と比較する。1例または複数例の他の個体のそれと比較した場合の、対象のマイクロベシクル核酸内容物の違いの存在は、対象における疾患または他の医学的状態の有無、その進行(例えば、腫瘍サイズおよび腫瘍悪性度の変化)またはそれに対する感受性を指し示しうる。
【0031】
実際に、本明細書に記載された単離の方法および手法は、これまでに実現されていない以下の利点をもたらす:1)疾患特異的または腫瘍特異的なマイクロベシクルを液体試料内の他のマイクロベシクルから隔てて単離することによって実現されうる、疾患特異的または腫瘍特異的な核酸を選択的に分析する機会;2)液体試料から核酸を直接抽出することによって得られる収量/完全性(integrity)と比較して、核酸種の収量が有意に多く、配列完全性がより高度であること;3)例えば、低レベルで発現される核酸を検出するために、より大容積の血清からより多くのマイクロベシクルをペレット化することによって感度を高めることができる、スケーラビリティー(scalability);4)タンパク質および脂質、死細胞からの残渣、ならびにその他の可能性のある混入物およびPCR阻害物質が核酸抽出段階の前にマイクロベシクルのペレットから排除されるという点で、より純粋な核酸;ならびに5)マイクロベシクルのペレットの容積が出発時の血清のそれよりもはるかに小さいために、小容積のカラムフィルターを用いて、これらのマイクロベシクルのペレットから核酸を抽出することが可能であるので、核酸抽出方法の選択肢がより多いこと。
【0032】
マイクロベシクルは、好ましくは、対象からの体液から取り出した試料から単離される。本明細書で用いる場合、「体液」とは、対象の体内の任意の箇所、好ましくは末梢箇所から単離された液体の試料のことを指し、これには例えば、血液、血漿、血清、尿、痰、髄液、胸水、乳頭吸引液、リンパ液、気道、腸管および尿生殖路の液体、涙液、唾液、母乳、リンパ系からの液体、精液、脳脊髄液、臓器系内部の液体、腹水、腫瘍嚢胞液、羊水ならびにそれらの組み合わせが非限定的に含まれる。
【0033】
「対象」という用語は、マイクロベシクルを有することが示されているかまたは予想される、すべての動物を含むものとする。特定の態様において、対象は、哺乳動物、ヒトもしくは非ヒト霊長動物、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、他の家畜、または齧歯動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、その他)である。「対象」および「個体」という用語は、本明細書において互換的に用いられる。
【0034】
生体試料からマイクロベシクルを単離する方法は、当技術分野において公知である。例えば、分画遠心法は、Raposoらによる論文(Raposo et al., 1996)に記載されており、類似の方法は本明細書中の実施例の項に詳述されている。陰イオン交換および/またはゲル浸透クロマトグラフィーの方法は、米国特許第6,899,863号および第6,812,023号に記載されている。ショ糖密度勾配またはオルガネラ電気泳動の方法は、米国特許第7,198,923号に記載されている。磁気活性化細胞選別(MACS)の方法は、(Taylor and Gercel-Taylor, 2008)に記載されている。ナノ膜限外濾過濃縮器の方法は、(Cheruvanky et al., 2007)に記載されている。好ましくは、マイクロベシクルは、腫瘍由来のマイクロベシクルを効率的および選択的に分離するために独特なマイクロ流体プラットフォームを用いる、新たに開発されたマイクロチップ技術によって、対象の体液から同定すること、および単離することができる。Nagrathらによる論文(Nagrath et al., 2007)に記載されているようなこの技術は、その論文で教示されているのと類似の捕捉および分離の原理を用いてマイクロベシクルを同定および分離する目的に合わせて改変することができる。前記の参考文献のそれぞれは、これらの方法に関するその教示のために参照により本明細書に組み入れられる。
【0035】
1つの態様において、体液から単離されたマイクロベシクルは、特定の細胞タイプ、例えば、肺、膵臓、胃、腸、膀胱、腎臓、卵巣、精巣、皮膚、結腸直腸、乳房、前立腺、脳、食道、肝臓、胎盤、胎児の細胞から生じたものに富む。マイクロベシクルは多くの場合、それらのドナー細胞からの抗原などの表面分子を保有するため、表面分子を利用することで、特定のドナー細胞タイプからのマイクロベシクルを同定すること、単離すること、および/または濃縮することができる(Al-Nedawi et al., 2008;Taylor and Gercel-Taylor, 2008)。このようにして、別個の細胞集団から生じたマイクロベシクルを、それらの核酸内容物に関して分析することができる。例えば、腫瘍(悪性および非悪性)マイクロベシクルは腫瘍関連表面抗原を保有しており、これらの特異的な腫瘍関連表面抗原を介してそれらを検出すること、単離すること、および/または濃縮することができる。1つの例では、表面抗原は、肺、結腸直腸、乳房、前立腺、頭頸部および肝臓起源の癌からのマイクロベシクルに対しては特異的であるが、血液細胞起源のものに対してはそうでない上皮細胞接着分子(EpCAM)である(Balzar et al., 1999;Went et al., 2004)。もう1つの例では、表面抗原は、尿中マイクロベシクルに対して特異的な糖タンパク質であるCD24である(Keller et al., 2007)。さらにもう1つの例では、表面抗原は、CD70、癌胎児性抗原(CEA)、EGFR、EGFRvIIIおよび他の変異体、Fasリガンド、TRAIL、トランスフェリン受容体、p38.5、p97およびHSP72という分子の群から選択される。加えて、腫瘍特異的なマイクロベシクルを、CD80およびCD86といった表面マーカーの欠如によって特徴づけることもできる。
【0036】
特定の細胞タイプからのマイクロベシクルの単離は、例えば、所望の表面抗原に対して特異的な、抗体、アプタマー、アプタマー類似体、または分子インプリントポリマー(molecularly imprinted polymer)を用いることによって達成することができる。1つの態様において、表面抗原は癌のタイプに対して特異的である。もう1つの態様において、表面抗原は、必ずしも癌性ではない細胞タイプに対して特異的である。細胞表面抗原に基づくマイクロベシクル分離の方法の一例は、米国特許第7,198,923号に提示されている。例えば、米国特許第5,840,867号および第5,582,981号、WO/2003/050290号、ならびにJohnsonらによる刊行物(Johnson et al., 2008)に記載されているように、アプタマーおよびそれらの類似体は表面分子と特異的に結合することができ、細胞タイプ特異的なマイクロベシクルを回収するための分離用ツールとして用いることができる。また、分子インプリントポリマーも、例えば、米国特許第6,525,154号、第7,332,553号および第7,384,589号、ならびにBossiらによる刊行物(Bossi et al., 2007)に記載されているように表面分子を特異的に認識し、これらも細胞タイプ特異的なマイクロベシクルを回収および単離するためのツールである。前記の参考文献のそれぞれは、これらの方法に関するその教示のために本明細書に組み入れられる。
【0037】
分析の前にエキソソームから核酸を抽出することが有益であるか、または他の点で望ましい場合があるであろう。核酸分子は、当技術分野において周知の任意のさまざまな手順を用いてマイクロベシクルから単離することができ、選ばれる具体的な単離手順はその特定の生体試料に対して適切なものである。抽出のための方法の例は、本明細書中の実施例の項に提示されている。場合によっては、いくつかの手法を用いることで、マイクロベシクルからの抽出を伴わずに核酸を分析することも可能であろう。
【0038】
1つの態様においては、DNAおよび/またはRNAを含む、抽出した核酸を、増幅段階を伴わずに直接分析する。直接分析は、ナノストリング(nanostring)技術を非限定的に含む、種々の方法を用いて行うことができる。ナノストリング技術は、色分けされた蛍光性レポーターを各標的分子に付着させることにより、生体試料中の個々の標的分子の同定および定量化を可能にする。このアプローチは、バーコードのスキャニングによって在庫を評価する考え方と類似している。レポーターは、高度に多重化された分析を可能にする、数百種またはさらには数千種もの異なるコードを付けて作製することができる。この技術は、Geissらによる刊行物(Geiss et al., 2008)に記載されており、これはこの教示のために参照により本明細書に組み入れられる。
【0039】
もう1つの態様において、マイクロベシクルの核酸を、それを分析する前に増幅することが有益であるか、または他の点で望ましい場合があるであろう。核酸増幅の方法は一般的に用いられており、当技術分野において一般に公知であり、その多くの例が本明細書に記載されている。所望であれば、増幅を、それが定量的であるように行うこともできる。定量的増幅は、さまざまな核酸の相対的な量を定量的に決定して、下記のようなプロファイルを作成することを可能にすると考えられる。
【0040】
1つの態様において、抽出される核酸はRNAである。続いて、RNAを、好ましくは逆転写させて相補的DNAにして、その後にさらに増幅する。そのような逆転写は単独で行ってもよく、または増幅段階と組み合わせて行ってもよい。逆転写および増幅の段階を組み合わせる方法の一例は、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)であり、これをさらに定量的であるように改変することもでき、これには例えば、この教示のために参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,639,606号に記載された定量的RT-PCRがある。
【0041】
核酸増幅の方法には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(米国特許第5,219,727号)およびその変形物、例えば、インサイチューポリメラーゼ連鎖反応(米国特許第5,538,871号)、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(米国特許第5,219,727号)、ネステッドポリメラーゼ連鎖反応(米国特許第5,556,773号)、自家持続(self sustained)配列複製法およびその変形物(Guatelli et al., 1990)、転写増幅システムおよびその変形物(Kwoh et al., 1989)、Qbレプリカーゼ(Qb Replicase)およびその変形物(Miele et al., 1983)、コールド-PCR(cold-PCR)(Li et al., 2008)、または任意の他の核酸増幅方法が非限定的に含まれ、その後に、増幅された分子の検出を当業者に周知の方法に用いて行う。特に有用なのは、そのような分子が極めて少数しか存在しない場合の検出のために設計された、核酸分子の検出スキームである。前記の参考文献は、これらの方法に関するそれらの教示のために本明細書に組み入れられる。
【0042】
マイクロベシクル中に存在する核酸の分析は、定量的および/または定性的である。定量分析のためには、マイクロベシクル内の関心対象の特定の核酸の相対的または絶対的な量(発現レベル)を、当技術分野において公知の方法(下記)を用いて測定する。訂正分析のためには、マイクロベシクル内の関心対象の特定の核酸の種を、それが野生型であるか変異体であるかを問わず、当技術分野において公知の方法(下記)を用いて同定する。
【0043】
「遺伝子異状(genetic aberration)」は、本明細書において、マイクロベシクル内の核酸量ならびに核酸変異体のことを指すために用いられる。具体的には、遺伝子異状には、1つの遺伝子(例えば、癌遺伝子)または遺伝子のパネルの過剰発現、1つの遺伝子(例えば、p53またはRBなどの腫瘍抑制遺伝子)または遺伝子のパネルの過小発現、1つの遺伝子または遺伝子のパネルのスプライス変異体の選択的産生、遺伝子または遺伝子のパネルの、遺伝子コピー数変異体(CNV)(例えば、二重微小DNA(DNA double minute))(Hahn, 1993)、核酸修飾(例えば、メチル化、アセチル化およびリン酸化)、一塩基多型(SNP)、染色体再配列(例えば、逆位、欠失および重複)および突然変異(挿入、欠失、重複、ミスセンス、ナンセンス、同義的または任意の他のヌクレオチド変化)が非限定的に含まれ、それらの突然変異は、多くの場合には、最終的には遺伝子産物の活性および機能に影響を及ぼして、選択的転写スプライシング変異体および/または遺伝子発現レベルの変化を招く。
【0044】
そのような遺伝子異状の判定は、当業者に公知の種々の手法によって行うことができる。例えば、核酸の発現レベル、選択的スプライシング変異体、染色体再配列および遺伝子コピー数は、マイクロアレイ分析(米国特許第6,913,879号、第7,364,848号、第7,378,245号、第6,893,837号および第6,004,755号)および定量的PCRによって決定することができる。特に、コピー数変化は、Illumina Infinium II全ゲノム遺伝子型判定アッセイ、またはAgilent Human Genome CGHマイクロアレイを用いて検出することができる(Steemers et al., 2006)。核酸修飾は、例えば、米国特許第7,186,512号および特許公報WO/2003/023065号に記載された方法によってアッセイすることができる。特に、メチル化プロファイルは、Illumina DNA Methylation OMA003 Cancer Panelによって決定することができる。SNPおよび突然変異は、アレル特異的プローブを用いたハイブリダイゼーション、酵素的突然変異検出、ミスマッチ性ヘテロ二重鎖の化学切断(Cotton et al., 1988)、ミスマッチ性塩基のリボヌクレアーゼ切断(Myers et al., 1985)、質量分析(米国特許第6,994,960号、第7,074,563号および第7,198,893号)、核酸シークエンシング、一本鎖高次構造多型(SSCP)(Orita et al., 1989)、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)(Fischer and Lerman, 1979a;Fischer and Lerman, 1979b)、温度勾配ゲル電気泳動(TGGE)(Fischer and Lerman, 1979a;Fischer and Lerman, 1979b)、制限断片長多型(RFLP)(Kan and Dozy, 1978a;Kan and Dozy, 1978b)、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)、アレル特異的PCR(ASPCR)(米国特許第5,639,611号)、ライゲーション連鎖反応(LCR)およびその変形物(Abravaya et al., 1995;Landegren et al., 1988;Nakazawa et al., 1994)、フローサイトメトリーヘテロ二重鎖分析(WO/2006/113590号)およびそれらの組み合わせ/改変物によって検出することができる。特に、遺伝子発現レベルは、遺伝子発現連続分析(SAGE)手法によって決定することができる(Velculescu et al., 1995)。一般に、遺伝子異状を分析するための方法は、本明細書中に引用されたものに限定されない、数多くの刊行物において報告されており、それらは当業者にとって利用可能である。分析の適切な方法は、分析の具体的な目的、患者の状態/履歴、検出、モニタリングまたは治療を行おうとする具体的な癌、疾患または他の医学的状態に依存すると考えられる。前記の参考文献は、これらの方法に関するそれらの教示のために本明細書に組み入れられる。
【0045】
種々の遺伝子異状が、癌の初期生成または進行に際して起こること、および/またはそれらに寄与することが特定されている。癌において高い頻度でアップレギュレートされる(すなわち、過剰発現される)遺伝子の例は、表4(種々のタイプの癌)および表6(膵癌)に提示されている。脳腫瘍においてアップレギュレートされるマイクロRNAの例は、表8に提示されている。本発明の1つの態様においては、表4および/もしくは表6に列記された遺伝子、ならびに/または表8に列記されたマイクロRNAの核酸発現レベルの増大がみられる。癌において高い頻度でダウンレギュレートされる(例えば、過小発現される)遺伝子の例は、表5(種々のタイプの癌)および表7(膵癌)に提示されている。脳腫瘍においてダウンレギュレートされるマイクロRNAの例は、表9に提示されている。本発明の1つの態様においては、表5および/もしくは表7に列記された遺伝子、ならびに/または表9に列記されたマイクロRNAの核酸発現レベルの低下がみられる。脳腫瘍において高い頻度で過小発現されるか、または過剰発現される遺伝子の例は、(Furnari et al., 2007)に概説されており、この対象は参照により本明細書に組み入れられる。脳腫瘍の発生に関して、RBおよびp53は多くの場合、それらの腫瘍抑制活性が別な様式で低下するようにダウンレギュレートされている。したがって、これらの態様においては、その調節不全(disregulated)的な発現レベルが、あるタイプの癌に特異的であるような、ある遺伝子および/またはマイクロRNAの核酸発現レベルの増大または低下の有無を利用することで、対象におけるそのタイプの癌の有無を指し示すことができる。
【0046】
同様に、核酸変異体、例えば、DNAまたはRNA修飾、一塩基多型(SNP)および突然変異(例えば、ミスセンス、ナンセンス、挿入、欠失、重複)を、胎児に由来するマイクロベシクルが血清ならびに羊水中にあると考えられる妊娠女性を含む、対象の体液からのマイクロベシクルにおいて分析することもできる。その非限定的な例は表3に提示されている。さらなるもう1つの態様において、ヌクレオチド変異体はEGFR遺伝子中にある。さらにもう1つの別の態様において、ヌクレオチド変異体はEGFRvIII突然変異/変異体である。「EGFR」、「上皮増殖因子受容体」および「ErbB1」という用語は、例えば、Carpenterによる論文(Carpenter, 1987)に記載されているように、当技術分野において互換的に用いられる。脳腫瘍の発生に関して、RB、PTEN、p16、p21およびp53は多くの場合、それらの腫瘍抑制活性が別な様式で低下するように突然変異している。特定形態の脳腫瘍における具体的な突然変異の例は、Furnariらによる論文(Furnari et al., 2007)に考察されており、この対象は参照により本明細書に組み入れられる。
【0047】
加えて、進行中のいくつかの研究プロジェクトにおいて、癌と関連のあるさらなる遺伝子異状も最近同定されている。例えば、Cancer Genome Atlas(TCGA)プログラムは、ヒトの癌に関与する多様なゲノム変化を探索している。このプロジェクトおよび他の類似の研究の取り組みの結果は公表・刊行されており、これらは参照により本明細書に組み入れられる(Jones et al., 2008;McLendon et al., 2008;Parsons et al., 2008;Wood et al., 2007)。具体的には、これらの研究プロジェクトは、ヒト神経膠芽腫、膵癌、乳癌および/または結腸直腸癌における、突然変異(例えば、ミスセンス、ナンセンス、挿入、欠失および重複)、遺伝子発現レベルの差異(mRNAまたはマイクロRNA)、コピー数の差異および核酸修飾(例えば、メチル化)といった遺伝子異状を同定している。これらの癌において最も高頻度に突然変異している遺伝子は、表11および表12(神経膠芽腫)、表13(膵癌)、表14(乳癌)および表15(結腸直腸癌)に列記されている。これらの遺伝子における、および癌において何らかの遺伝子異状を含む事実上あらゆる遺伝子における遺伝子異状は、本明細書に記載された方法による癌の診断および/またはモニタリングに用いるために選択しうる可能性のある標的である。
【0048】
1つまたは複数のヌクレオチド変異体の検出は、マイクロベシクル内の核酸に対してヌクレオチド変異体スクリーニングを行うことによって達成することができる。そのようなスクリーニングは、当業者による必要性または望ましさの判断に応じて、幅の広いものでも狭いものでもありうる。それは、幅広いスクリーニング(1つまたは複数の癌または疾患の状況と関連のあることが知られている遺伝子における、可能性のあるすべてのヌクレオチド変異体を検出するための構成)であってもよい。1つの特定の癌または疾患が存在することが疑われるかまたは判明している場合には、スクリーニングはその癌または疾患に対して特異的でありうる。その一例は、脳腫瘍/脳癌スクリーニング(例えば、脳癌のさまざまな臨床的に別個のサブタイプ、またはその癌の公知の薬剤耐性突然変異もしくは薬剤感受性突然変異と関連のある遺伝子における、可能性のあるすべてのヌクレオチド変異体を検出するための構成)である。
【0049】
1つの態様において、分析は、本明細書においてマイクロベシクルの「定量的核酸プロファイル」と称する、マイクロベシクル中に存在する特定の核酸の量(レベル)のプロファイルに関するものである。もう1つの態様において、分析は、本明細書において「核酸種プロファイル」と称する、マイクロベシクル中に存在する特定の核酸の種(野生型ならびに変異体の両方)のプロファイルに関するものである。これらのタイプのプロファイルの組み合わせを指すために本明細書で用いられる用語は「遺伝子プロファイル」であり、これはヌクレオチド種、変異体の有無、さらには核酸レベルの増大または低下の判定のことも指す。
【0050】
ひとたび作成したならば、マイクロベシクルのこれらの遺伝子プロファイルを、健常個体において予想される、または他の様式で健常個体から導き出されるものと比較する。プロファイルは、ゲノムワイドプロファイル(可能性のあるすべての、発現される遺伝子またはDNA配列を検出するための構成)であってもよい。それはまた、より狭いものであってもよく、癌の全般のプロファイル(1つまたは複数の癌と関連のある、またはそのことが判明している、可能性のあるすべての遺伝子またはそれに由来する核酸を検出するための構成)であってもよい。1つの特定の癌が存在することが疑われるか判明している場合には、そのプロファイル(例えば、その癌のさまざまな臨床的に別個のサブタイプ、またはその癌の公知の薬剤耐性突然変異もしくは薬剤感受性突然変異と関連のある、可能性のあるすべての遺伝子またはそれに由来する核酸を検出するための構成)は、その癌に対して特異的でありうる。
【0051】
どの核酸を増幅するか、および/または分析するかは、当業者によって選択可能である。エキソソームの核酸内容物の全体、または疾患もしくは他の医学的状態、例えば癌などの存在によって影響される可能性が高いかもしくはそれが疑われる、特定の核酸のサブセットのみを、増幅および/または分析することができる。分析したマイクロベシクル核酸における核酸異状の同定を利用して、その異状と関連のある癌、遺伝性疾患またはウイルス感染症などの疾患の存在に関して対象を診断することができる。例えば、癌に対して特異的な遺伝子の1つまたは複数の核酸変異体(例えば、EGFRvIII突然変異)の有無に関する分析により、その個体における癌の存在を指し示すことができる。代替的または追加的に、癌に対して特異的な核酸レベルの増大または低下に関する核酸の分析により、その個体における癌の存在を指し示すこともできる(例えば、EGFR核酸の相対的増加、またはp53などの腫瘍抑制遺伝子の相対的減少)。
【0052】
1つの態様において、癌などの疾患と関連のある遺伝子(例えば、ヌクレオチド変異体、過剰発現または過小発現を介して)の突然変異は、マイクロベシクル中の核酸の分析によって検出され、その核酸は元の細胞内のゲノムそれ自体に由来するか、またはウイルスを通じて導入された外因性遺伝子である。核酸配列は完全であっても部分的であってもよいが、これはそのどちらからも疾患の診断および予後に有用な情報が得られると予想されるためである。配列は、実際の遺伝子または転写された配列に対してセンス性であってもアンチセンス性であってもよい。当業者は、マイクロベシクル中に存在する可能性のあるセンスまたはアンチセンス核酸のいずれかからのヌクレオチドの相違に関する検出方法を考案することができるであろう。そのような多くの方法は、ヌクレオチド相違のすぐ側方に位置するか、またはそれを含むヌクレオチド配列に対して特異的なプローブの使用を伴う。そのようなプローブは、遺伝子配列およびその遺伝子内部での核酸変異体の場所に関する知識が与えられれば、当業者によって設計可能である。そのようなプローブは、当技術分野および本明細書において記載されているように、核酸変異体を単離するため、増幅するため、および/または、それを検出する目的で実際にハイブリダイズさせるために用いることができる。
【0053】
対象由来のマイクロベシクル内の核酸における特定の1つのヌクレオチド変異体または複数の変異体の有無の判定は、さまざまなやり方で行うことができる。そのような分析のためには、PCR、アレル特異的プローブを用いたハイブリダイゼーション、酵素的突然変異検出、ミスマッチ化学切断、質量分析、またはミニシークエンシングを含むDNAシークエンシングを非限定的に含む、種々の方法を利用することができる。特定の態様において、アレル特異的プローブを用いたハイブリダイゼーションは、2種類の方式で実施することができる:1)多くのDNAチップ用途におけるような、固相(ガラス、シリコン、ナイロン膜)に結合させたアレル特異的オリゴヌクレオチド、および溶液中の標識された試料、または2)結合させた試料(多くの場合は、クローニングしたDNAまたはPCR増幅したDNA)、および溶液中の標識されたオリゴヌクレオチド(アレル特異的なもの、またはハイブリダイゼーションによるシークエンシングが可能なような短いもの)。診断検査手段は、多くの場合は固相支持体上にある、相違物のパネルを含むことができ、それは複数の相違の同時決定を可能にする。もう1つの態様において、マイクロベシクル核酸における少なくとも1つの核酸相違の存在の判定は、ハプロタイプ判定検査を必然的に伴う。ハプロタイプを判定する方法は、例えば、WO 00/04194号におけるように、当業者に公知である。
【0054】
1つの態様において、核酸変異体の有無の判定は、1つまたは複数の変異体部位(標準からの核酸の差異が生じている配列内部の正確な場所)の配列を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、連鎖停止DNAシークエンシング(米国特許第5547859号)、ミニシークエンシング(Fiorentino et al., 2003)、オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、ピロシークエンシング、Illuminaゲノム分析装置、ディープ(deep)シークエンシング、質量分析または他の核酸配列の検出方法などの方法によって決定することを伴う。核酸変異体を検出するための方法は当技術分野において周知であり、WO 00/04194号に開示されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。1つの例示的な方法において、診断検査は、所望の遺伝子配列における1つまたは複数の公知の変異体の範囲に及ぶ、DNAまたはRNA(一般にはRNAを相補的DNAに変換させた後に)のセグメントを増幅することを含む。続いて、増幅されたセグメント中のヌクレオチド変異体を同定するために、増幅されたセグメントのシークエンシングを行う、および/またはそれを電気泳動にかける。
【0055】
1つの態様において、本発明は、本明細書に記載されたようにして単離されたマイクロベシクルの核酸中のヌクレオチド変異体に関するスクリーニングの方法を提供する。これは例えば、PCRによって、または代替的には、ライゲーション連鎖反応(LCR)で達成することができる(Abravaya et al., 1995;Landegren et al., 1988;Nakazawa et al., 1994)。LCRは、関心対象の遺伝子における点突然変異を検出するために特に有用である(Abravaya et al., 1995)。LCR法は、関心対象の遺伝子に対応する核酸の1つまたは複数の保存領域に対応するプライマーである、標的配列を増幅するための縮重プライマーを設計する段階、マイクロベシクルから得られた核酸をテンプレートとして用いて、そのプライマーによってPCR産物を増幅する段階、およびPCR産物を分析する段階を含む。マイクロベシクル核酸のPCR産物と対照試料(ヌクレオチド変異体を有するか、または有さないもの)との比較により、マイクロベシクル核酸中の変異体が指し示される。変化は、対照に応じて、マイクロベシクル核酸中のヌクレオチド変異体の欠如または存在のいずれであってもよい。
【0056】
増幅産物の分析は、自動化および手作業によるゲル電気泳動、質量分析などを含む、増幅産物をそれらのサイズ別に分離することのできる任意の方法を用いて行うことができる。
【0057】
または、増幅産物を、SSCP、DGGE、TGGE、化学切断、OLA、制限断片長多型、ならびにハイブリダイゼーション、例えば核酸マイクロアレイを用いて、配列の違いに基づいて分析することもできる。
【0058】
核酸の単離、増幅および分析の方法は当業者にとって定型的なものであり、プロトコールの例は、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3-Volume Set) Ed. Joseph Sambrook, David W. Russel, and Joe Sambrook, Cold Spring Harbor Laboratory, 3rd edition (January 15, 2001), ISBN: 0879695773に見いだすことができる。PCR増幅に用いられる方法に関する特に有用なプロトコールの出典は、PCR Basics: From Background to Bench by Springer Verlag; 1st edition (October 15, 2000), ISBN: 0387916008である。
【0059】
腫瘍生検試料に対して行われる多くの診断方法をマイクロベシクルでも行うことができるが、これは、腫瘍細胞ならびに一部の正常細胞がマイクロベシクルを体液中に離出分離することが知られており、本明細書で示されているように、これらのマイクロベシクル内の遺伝子異状が腫瘍細胞内のものを反映するためである。さらに、マイクロベシクルを用いる診断方法には、腫瘍生検試料に対して直接行われる診断方法にはない特徴がある。例えば、マイクロベシクル核酸の分析の1つの特別な利点は、腫瘍/癌の核酸の他の試料採取形式とは異なり、個体に存在する1つの腫瘍または遺伝的に異種混交的な腫瘍のすべての病巣に由来する腫瘍/癌の核酸の分析を行いうることである。生検試料は、それらがその生検試料が得られた腫瘍の特定の病巣に関する情報しか与えないという点で限界がある。体内に認められる、またはさらには単一の腫瘍内でさえも認められる、異なる腫瘍性/癌性病巣は、往々にして異なる遺伝子プロファイルを有し、それらは標準的な生検では分析されない。しかし、個体からのマイクロベシクル核酸の分析は、おそらく個体内部のすべての病巣の試料採取をもたらすと考えられる。これは、推奨される治療、治療の有効性、疾患の予後、および疾患再発の分析に関して、単純な生検によっては得られない価値のある情報を与える。
【0060】
また、本明細書に記載された方法による、特定の疾患および/または医学的状態と関連のある遺伝子異状の同定を、疾患または他の医学的状態、例えば癌などを有すると診断された個体の予後および治療上の決断のために用いることもできる。疾患および/または医学的状態の遺伝的基盤の同定は、疾患および/または医学的状態の治療の手引きとなる有用な情報を与える。例えば、多くの形態の化学療法は、特定の遺伝子異常/異状を有する癌に対して、より有効であることが示されている。その一例は、キナーゼ阻害薬であるゲフィチニブおよびエルロチニブなどの医用薬物を用いた、EGFRを標的とする治療の有効性である。そのような治療は、EGFR遺伝子がEGFRタンパク質のキナーゼドメイン内に特定のヌクレオチド突然変異を有する癌細胞に対して、より有効であることが示されている(米国特許公報第20060147959号)。換言すれば、EGFR核酸メッセージのキナーゼドメイン内に、同定されているヌクレオチド変異体の少なくとも1つが存在することにより、患者は、EGFRを標的とする化合物であるゲフィチニブまたはエルロチニブを用いる治療による恩恵を受ける可能性が高いことが指し示される。腫瘍起源のEGFR転写物が体液中のマイクロベシクルから単離されることは実証されているため、そのようなヌクレオチド変異体を、マイクロベシクル中に存在する核酸において、本明細書に記載された方法によって同定することができる。
【0061】
また、他の遺伝子における遺伝子異状が、治療の有効性に影響を及ぼすことも見いだされている。Furnariらによる刊行物(Furnari et al., 2007)に開示されているように、種々の遺伝子における突然変異は、脳腫瘍を治療するための化学療法に用いられる特定の医用薬物の有効性に影響を及ぼす。マイクロベシクル内の核酸におけるこれらの遺伝子異状の同定は、適正な治療計画の選択の手引きになると考えられる。
【0062】
このため、本発明の諸局面は、対象における疾患(例えば、癌)の進行のモニタリングのための方法、さらには個体における疾患再発のモニタリングのための方法に関する。これらの方法は、本明細書で考察しているように個体の体液からマイクロベシクルを単離する段階、および、本明細書で考察しているようにマイクロベシクル内の核酸を分析する段階(例えば、マイクロベシクルの遺伝子プロファイルを作り出すために)を含む。ある種の遺伝子異状/プロファイルの存在/欠如は、本明細書で考察しているように、対象における疾患(例えば、癌)の存在/欠如を指し示すために用いられる。このプロセスをある期間にわたって定期的に行い、その結果を検討することで、その疾患の進行もしくは退縮をモニターする、または疾患の再発を判定する。言い換えるならば、遺伝子プロファイルの変化は、その対象における疾患の状況の変化を指し示す。マイクロベシクルの単離および分析の実施のために、対象からのマイクロベシクルの試料採取の間におく期間は、対象の境遇に依存すると考えられ、当業者によって決定されるべきである。そのような方法は、対象が受けている治療法と関連のある遺伝子からの核酸を分析した場合に、極めて有益であることが証明されるであろう。例えば、その治療法が標的としている遺伝子を、それをその治療法に対して耐性化する突然変異の発生に関してモニターすることができ、その発生の時点で治療法をそれに応じて変更することができる。また、モニターする遺伝子は、特定の治療法に対する特異的な反応性を指し示すものであってもよい。
【0063】
本発明の諸局面はまた、種々の非癌性の疾患および/または医学的状態にも遺伝的連関(genetic link)および/または原因があり、そのような疾患および/または医学的状態を、本明細書に記載された方法によって同様に診断および/またはモニターすることができるという事実にも関する。そのような多くの疾患は代謝性、感染性または変性性である。そのような疾患の1つは、バソプレシン2型受容体(V2R)が改変されている糖尿病(例えば、尿崩症)である。もう1つのそのような疾患は、コラーゲン、フィブロネクチンおよびTGF-βの遺伝子に関する遺伝子プロファイルが変化している腎線維症である。薬物乱用(例えば、ステロイドまたは薬物の使用)、ウイルスおよび/または細菌感染症、ならびに遺伝性疾病に起因する遺伝子プロファイルの変化を、本明細書に記載された方法によって同様に検出することができる。
【0064】
本明細書に記載された本発明を適用しうる疾患または他の医学的状態には、腎症、尿崩症、糖尿病I型、糖尿病II、腎疾患糸球体腎炎、細菌性またはウイルス性糸球体腎炎、IgA腎症、へノッホ-シェーンライン紫斑病、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症、シェーグレン症候群、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症および関連疾患、急性腎不全、急性尿細管間質性腎炎、腎盂腎炎、GU管炎症性疾患、子癇前症、腎移植片拒絶反、ハンセン病、逆流性腎症、腎結石、遺伝性腎疾患、髄質嚢胞腎、海綿腎、多発性嚢胞腎、常染色体優性多発性嚢胞腎、常染色体劣性多発性嚢胞腎、結節性硬化症、フォンヒッペル-リンダウ病、家族性糸球体基底膜菲薄症、コラーゲンIII糸球体症、フィブロネクチン糸球体症、アルポート症候群、ファブリー病、爪膝蓋骨症候群、先天性泌尿器奇形、単クローン性免疫グロブリン血症、多発性骨髄腫、アミロイドーシスおよび関連疾患、発熱性疾患、家族性地中海熱、HIV感染症-AIDS、炎症性疾患、全身性血管炎、結節性多発性動脈炎、ヴェゲナー肉芽腫症、多発性動脈炎、壊死性および半月体形成性糸球体腎炎、多発筋炎-皮膚筋炎、膵炎、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、痛風、血液疾患、鎌状赤血球病、血栓性血小板減少性紫斑病、ファンコニ症候群、移植、急性腎損傷、過敏性腸症候群、溶血性尿毒症症候群、急性皮質壊死、腎血栓栓塞症、外傷および手術、広範損傷、熱傷、腹部および血管の手術、麻酔導入、薬物使用の副作用または薬物乱用、循環器疾患心筋梗塞、心不全、末梢血管疾患、高血圧、冠動脈性心疾患、非アテローム硬化性心血管疾患、アテローム硬化性心血管疾患、皮膚疾患、乾癬、全身性硬化症、呼吸器疾患、COPD、閉塞性睡眠時無呼吸症、高所での低酸素症、または内分泌疾患、先端巨大症、糖尿病もしくは尿崩症が非限定的に含まれる。
【0065】
マイクロベシクルを単離する個体の選択は、当業者により、種々の要因のうち1つまたは複数の分析に基づいて行われる。そのような検討要因には、対象に特定の疾患(例えば、癌)の家族歴があるか否か、そのような疾患の遺伝的素因があるか否か、家族歴、遺伝的素因、素因を指し示す他の疾患もしくは身体症状、または環境的な理由からそのような疾患のリスクが高いか否かがある。環境的な理由には、生活様式、疾患を引き起こすかそれに寄与する作用物質、例えば、大気、土地、水または食事などの中にあるものに対する曝露が含まれる。加えて、その疾患を過去に有していたこと、治療法の前または治療法の後にその疾患を有すると現時点で診断されていること、その疾患に対して現時点で治療されていること(治療法を受けていること)、その疾患から寛解または回復中であることも、本方法を行うために個体を選択するためのその他の理由となる。
【0066】
本明細書に記載された方法は、任意で、分析段階の前に、分析のための遺伝子または核酸を選択する追加の段階を伴って行われる。この選択は、対象の任意の素因、または任意の過去の曝露もしくは診断、または対象が経験したかもしくは現在受けている治療的処置に基づくことができる。
【0067】
診断される、モニタリングされる、または他の様式でプロファイル化が行われる癌は、任意の種類の癌であってよい。これには、肺癌、卵巣癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、乳癌、脳癌、結腸癌および前立腺癌などの上皮細胞癌が非限定的に含まれる。同じく含まれるものには、消化管癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、神経系の癌、腎臓癌、網膜癌、皮膚癌、肝臓癌、膵癌、尿生殖器癌および膀胱癌、黒色腫および白血病がある。加えて、本発明の方法および組成物は、個体における非癌(例えば、神経線維腫、髄膜腫およびシュワノーマ)の検出、診断および予後に対しても等しく適用することができる。
【0068】
1つの態様において、癌は脳癌である。脳の腫瘍および癌のタイプは当技術分野において周知である。神経膠腫は、脳のグリア(支持)組織から生じる腫瘍の一般的名称である。神経膠腫は、最も頻度の高い原発性脳腫瘍である。星状細胞腫、脳室上皮腫、乏突起細胞腫、および、混合性神経膠腫と呼ばれる2種またはそれ以上の細胞タイプの混合物を伴う腫瘍は、最も頻度の高い神経膠腫である。以下は、頻度の高いその他のタイプの脳腫瘍である:聴神経腫(神経線維鞘腫、シュワノーマ、神経鞘腫)、腺腫、星状細胞腫、低悪性度星状細胞腫、巨細胞星状細胞腫、中悪性度および高悪性度星状細胞腫、再発性腫瘍、脳幹神経膠腫、脊索腫、脈絡叢乳頭腫、CNSリンパ腫(原発性悪性リンパ腫)、嚢胞、類皮嚢腫、類表皮嚢胞、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫 退形成性上衣腫、神経節細胞腫(神経節腫)、神経節膠腫、多形性神経膠芽腫(GBM)、悪性星状細胞腫、神経膠腫、血管芽細胞腫、手術不能脳腫瘍、リンパ腫、髄芽腫(MDL)、髄膜腫、転移性脳腫瘍、混合性神経膠腫、神経線維腫症、乏突起細胞腫。視神経神経膠腫、松果体部腫瘍、下垂体腺腫、PNET(未分化神経外胚葉性腫瘍)、脊髄腫瘍、上衣下腫および結節性硬化症(ブルヌヴィーユ病)。
【0069】
これまでに判明している核酸異状(疾患と関連のあるものなど)を同定することに加えて、本発明の方法を、その異状がある特定の疾患および/または医学的状態と関連している、これまでに同定されていない核酸配列/修飾(例えば、転写後修飾)を同定するために用いることもできる。これは例えば、所与の疾患/医学的状態(例えば、癌の1つの臨床的なタイプまたはサブタイプ)を有する1例または複数例の対象の体液からのマイクロベシクル内の核酸の分析、および、その所与の疾患/医学的状態を有さない1例または複数例の対象のマイクロベシクル内の核酸との比較を行って、それらの核酸内容物の違いを同定することによって達成することができる。その違いは、核酸の発現レベル、選択的スプライス変異体、遺伝子コピー数多型(CNV)、核酸の修飾、一塩基多型(SNP)、および核酸の突然変異(挿入、欠失または単一ヌクレオチド変化)を非限定的に含む、任意の遺伝子異状であってよい。ある特定の疾患に関して、特定の核酸の遺伝的パラメーターの違いがひとたび同定されれば、その特定の核酸の遺伝子異状と疾患との相関を立証するために、臨床的かつ統計学的に意味のある数の対象を必要とするさらなる試験を実施することができる。遺伝子異状の分析は、当業者によって適切と判断されるような、本明細書に記載された1つまたは複数の方法によって行うことができる。
【0070】
送達媒体としてのエキソソーム
本発明の局面はまた、本明細書に記載された実際のマイクロベシクルにも関する。1つの態様において、本発明は、個体から単離された、本明細書に記載されたような、単離されたマイクロベシクルである。1つの態様において、マイクロベシクルは、個体の脳内の細胞(例えば、腫瘍細胞または非腫瘍細胞)によって産生される。もう1つの態様において、マイクロベシクルは、本明細書に記載されたように、個体の体液から単離される。単離の方法は本明細書に記載されている。
【0071】
本発明のもう1つの局面は、ヒト神経膠芽腫細胞から単離されたマイクロベシクルが、mRNA、miRNAおよび血管新生タンパク質を含むという知見に関する。そのような神経膠芽腫マイクロベシクルは、おそらくエンドサイトーシス機構を介して、初代ヒト脳内皮細胞によって取り込まれ、マイクロベシクル中に取り込まれたレポータータンパク質mRNAはそれらの細胞内で翻訳された。このことは、マイクロベシクルによって送達されたメッセージが、標的細胞(マイクロベシクルを取り込む細胞)の遺伝的および/または翻訳プロファイルを変化させることができることを指し示している。マイクロベシクルはまた、神経膠芽腫に多く存在することが知られているmiRNAも含んでいた(Krichevsky et al, 投稿準備中)。すなわち、神経膠芽腫腫瘍に由来するマイクロベシクルは、特定のmRNA種の送達を介して他の細胞の翻訳状態を変化させることのできる、mRNA、miRNAおよびタンパク質の送達媒体として働き、内皮細胞の血管新生を促進し、かつ、腫瘍増殖を刺激する。
【0072】
1つの態様において、マイクロベシクルは、ドナー対象からの体液から、前記体液がレシピエント対象に送達される前に枯渇させられる。ドナー対象は検出不能な腫瘍を有する対象であってよく、体液中のマイクロベシクルは腫瘍に由来する。ドナー体液中の腫瘍マイクロベシクルは、もし除去されなければ、マイクロベシクル中の遺伝物質およびタンパク質がレシピエント対象において細胞の無制限な増殖を促進する可能性があるため、有害と考えられる。
【0073】
このため、本発明のもう1つの局面は、核酸を細胞に送達するための、本明細書において特定されたマイクロベシクルの使用である。1つの態様において、細胞は個体の体内にある。本方法は、核酸を含むマイクロベシクル、またはそのようなマイクロベシクルを産生する細胞を、マイクロベシクルが個体の細胞と接触する、および/またはそれに入るように、個体に投与する段階を含む。核酸を送達させようとする細胞は、標的細胞と称する。
【0074】
マイクロベシクルは、それが通常であれば含まないと考えられる核酸(すなわち、マイクロベシクルの通常の内容物に対して外因性であるもの)を含むように人為的に操作することができる。このことは、核酸をマイクロベシクル中に物理的に挿入することによって達成することができる。または、細胞(例えば、培養下で増殖させた)を、1つまたは複数の特定の核酸がエキソソーム中に入るような標的化を行うように人為的に操作した上で、エキソソームを細胞から単離することもできる。または、人為的に操作された細胞それ自体を個体に投与することもできる。
【0075】
1つの態様において、投与用のエキソソームを産生する細胞は、標的細胞と同一もしくは類似の起源を有するもの、または同一もしくは類似の場所にあるものである。すなわち、脳細胞へのマイクロベシクルの送達の場合には、マイクロベシクルを産生する細胞は脳細胞(例えば、培養下で増殖させた初代細胞)であると考えられる。もう1つの態様において、エキソソームを産生する細胞は、標的細胞とは異なる細胞タイプのものである。1つの態様において、エキソソームを産生する細胞は、体内で標的細胞に近接して位置するタイプである。
【0076】
エキソソームを介して細胞に送達することのできる核酸配列は、RNAでもDNAでもよく、一本鎖でも二本鎖でもよく、かつ、以下のものを含む群から選択することができる:関心対象のタンパク質をコードする核酸、オリゴヌクレオチド、核酸類似体、例えばペプチド-核酸(PNA)、偽相補的(pseudo-complementary)PNA(pc-PNA)、ロックト(locked)核酸(LNA)、その他。そのような核酸配列には、例えば転写リプレッサーとして作用するタンパク質をコードする核酸配列、アンチセンス分子、リボザイム、例えばRNAi、shRNA、siRNA、miRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドを非限定的に含む阻害性低分子核酸配列、およびそれらの組み合わせなどが非限定的に含まれる。
【0077】
ある細胞タイプから単離されたマイクロベシクルを、レシピエント対象に送達する。前記マイクロベシクルは、そのレシピエント対象に医学的に恩恵を与えることができる。例えば、腫瘍エキソソームの血管新生効果および増殖誘発効果は、レシピエント対象における損傷組織の再生を援助する可能性がある。1つの態様において、送達手段は、マイクロベシクルを、ドナー対象からの体液中に、前記体液をレシピエント対象に送達する前に添加する、体液輸注である。
【0078】
もう1つの態様において、マイクロベシクルは、成分(例えば、対象への投与(例えば、本明細書に記載された方法における)のために適した薬学的に許容される製剤中の活性成分)である。一般に、これは、活性成分に対する薬学的に許容される担体を含む。具体的な担体は、さまざまな要因(例えば、投与の経路)に依存すると考えられる。
【0079】
「薬学的に許容される担体」とは、標的化送達用組成物を混合するため、および/または送達するための、薬学的に許容される任意の手段のことを意味する。これには、対象作用物質を1つの臓器または身体の部分から別の臓器または身体の部分に搬送または輸送するのにかかわる、液体または固体の増量剤、希釈剤、添加剤、溶媒または封入用材料といった、薬学的に許容される材料、組成物または媒体が含まれる。各担体は、製剤の他の成分と適合性があり、かつ、対象、例えばヒトへの投与との適合性があるという意味で「許容され」なければならない。
【0080】
対象への投与は全身性であっても局所性であってもよい。これには、非経口的または経口的な経路のいずれかによる送達、筋肉内注射、皮下/皮内注射、静脈内注射、口腔内投与、経皮的送達、および直腸、結腸、膣、鼻内または気道経路による投与を含む、対象における所望の場所への活性化合物の送達のために適した任意の経路によって、活性化合物(例えば、薬学的製剤中にある)を対象に投薬すること、送達すること、または適用することが非限定的に含まれる。
【0081】
本発明は、本明細書に記載された特定の方法、プロトコールおよび試薬には限定されず、そのようなものは変更しうることが理解されるべきである。本明細書で用いられる用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、それは特許請求の範囲のみによって規定される。
【0082】
1つの局面において、本発明は、本発明に必須なものとして、本明細書に記載された組成物、方法およびそれらの各々の構成要素に関し、その上でさらに、特定されていない要素を、必須であるか否かにかかわらず、包含する余地がある(「含む(comrising)」)。いくつかの態様において、組成物、方法またはそれらの各々の構成要素の記載に含められる他の要素は、本発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限られる「から本質的になる(consisting essentially of)」)。このことは、記載された方法における諸段階、ならびにそれらの中の組成物および構成要素に対しても等しく適用される。他の態様において、本明細書に記載された、本発明、組成物、方法およびそれらの各々の構成要素は、構成要素、組成物または方法の必須な要素ではないと考えられるあらゆる要素が排除されていることを意図している(「からなる(consisting of)」)。
【実施例】
【0083】
実施例1〜7.腫瘍細胞はマイクロベシクルを離出分離し、それらはmRNAおよびマイクロRNAを含むRNAを含有しており、かつマイクロベシクルは体液中の細胞外RNAの90% 超を含んでいる。
実施例1:マイクロベシクルは初代ヒト神経膠芽腫細胞によって離出分離される。
神経膠芽腫組織を外科的切除によって入手し、腫瘍細胞を解離させて、単層として培養した。具体的には、神経病理医によって多形性神経膠芽腫と診断された患者からの脳腫瘍標本を手術によって直接採取し、低温の滅菌Neurobasal培地(invitrogen, Carlsbad, CA, USA)中に置いた。その標本を、Neural Tissue Dissociation Kit(Miltenyi Biotech, Berisch Gladbach, Germany)を用いて、手術時から1時間以内に単細胞に解離させ、ペニシリン-ストレプトマイシン(それぞれ10IU ml-1および10μg ml-1、Sigma-Aldrich, St Louis, MO, USA)を加えたDMEM 5% dFBS中に置いた。マイクロベシクルは、細胞を培養するために伝統的に用いられるウシ胎仔血清(FBS)中に認められ、これらのマイクロベシクルはかなりの量のmRNAおよびmiRNAを含むことから、マイクロベシクル枯渇FBS(dFBS)を含む培地中で腫瘍細胞を増殖させることが重要であった。3つの神経膠芽腫腫瘍から得られた培養初代細胞が、早期継代および後期継代の両方でマイクロベシクルを産生することが見いだされた(継代とは、細胞の分割処理(splitting)によって定義される細胞世代のことであり、これは一般的な細胞培養手法であり、細胞を生き続けさせるために必要である)。マイクロベシクルを、走査型電子顕微鏡検査(図1aおよび1b)および透過型電子顕微鏡検査(図1f)によって検出することができた。手短に述べると、ヒト神経膠芽腫細胞を、オルニチンでコーティングしたカバースリップ上に載せ、0.5倍カルノフスキー(Karnovskys)固定液中で固定した上で、PBSで2×5分(5分間ずつ2回)洗浄した。細胞を、35% EtOH中で10分間、50% EtOH中で2×10分間、70% EtOH中で2×10分間、95% EtOH中で2×10分間、および100% EtOH中で4×10分間かけて脱水した。続いて細胞をTousimis SAMDR1-795半自動Critical Point Dryerにおける臨界点乾燥に移し、その後にGATAN Model 681 High Resolution Ion Beam Coaterにおいてクロムでコーティングした。図1aおよび1bに示されているように、腫瘍細胞は約50〜500nmのさまざまなサイズのマイクロベシクルで覆われていた。
【0084】
実施例2:神経膠芽腫マイクロベシクルはRNAを含む。
マイクロベシクルを単離するために、継代1〜15回の神経膠芽腫細胞を、マイクロベシクル非含有培地(ウシのマイクロベシクルを除去するために110,000×g、16時間の超遠心法によって調製した5%dFBSを含むDMEM)中で培養した。4000万個の細胞からの馴化培地を48時間後に収集した。マイクロベシクルを分画遠心法によって精製した。具体的には、神経膠芽腫馴化培地を、細胞混入物を除去するために300×gで10分間遠心分離した。上清をさらに16,500×gで20分間遠心分離し、0.22μmフィルターに通して濾過した。続いてマイクロベシクルを110,000×g、70分間の超遠心法によってペレット化した。マイクロベシクルのペレットを13mlのPBS中で洗浄し、再びペレット化して、PBS中に再懸濁させた。
【0085】
単離したマイクロベシクルを、DC Protein Assay(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を用いて、それらの総タンパク質含量に関して測定した。
【0086】
マイクロベシクルからのRNAの抽出のためには、マイクロベシクルの外側にあるRNAを取り除き、それ故に、抽出されるRNAが確実にマイクロベシクルの内側からのものとなるように、マイクロベシクルの懸濁液にRNアーゼA(Fermentas, Glen Burnie, MD, USA)を最終濃度100μg/mlで添加して、37℃で15分間インキュベートした。続いて、MirVana RNA単離キット(Ambion, Austin TX, USA)を製造元のプロトコールに従って用いて、マイクロベシクルから全RNAを抽出した。製造元のプロトコールに従ってDNアーゼで処理した後に、nanodrop ND-1000装置(Thermo Fischer Scientific, Wilmington, DE, USA)を用いて、全RNAを定量化した。
【0087】
神経膠芽腫マイクロベシクルは、RNAおよびタンパク質をおよそ1:80(μg RNA:μgタンパク質)の比で含むことが見いだされた。48時間の期間にわたって培養下にあったマイクロベシクルから単離されたタンパク質およびRNAの平均収量は、細胞100万個当たりでタンパク質が4μg前後、RNAが50ng前後であった。
【0088】
RNAがマイクロベシクルの内側に含まれていたことを確かめるために、RNA抽出の前にマイクロベシクルをRNアーゼAまたは偽処理(mock treatment)に曝露させた(図1c)。RNアーゼ処理の後に、RNA含量の7%を上回る減少は全くみられなかった。したがって、培地からの細胞外RNAのほとんどすべてはマイクロベシクル内に含まれており、その結果、周囲のベシクル膜によって外部のRNアーゼから保護されるように思われる。
【0089】
マイクロベシクルおよびそれらのドナー細胞からの全RNAをBioanalyzerによって分析したところ、マイクロベシクルは種々のmRNAおよびmiRNAに合致する広範囲にわたるサイズのRNAを含むが、細胞RNAに特徴的な18Sおよび28SリボソームRNAのピークを欠いていることが示された(図1dおよび1e)。
【0090】
実施例3:マイクロベシクルはDNAを含む。
マイクロベシクルがDNAも含むか否かを検証するために、実施例2で述べたようにエキソソームを単離し、続いてDNアーゼで処理した後に、内容物を放出させるために溶解させた。DNアーゼ処理の段階は、エキソソームの内側に存在するDNAのみが抽出されるように、エキソソームの外側のDNAを除去するためであった。具体的には、DNアーゼ処理は、Ambion社のDNA非含有キットを、製造元の推奨(Catalog#AM1906)に従って用いて行った。DNA精製段階に関しては、単離したエキソソームのアリコートを、MirVana RNA単離キット(Ambion)の一部である300μlの溶解バッファー中で溶解させ、溶解された混合物から、DNA精製キット(Qiagen)を製造元の推奨に従って用いてDNAを精製した。
【0091】
抽出されたDNAが頻度の高い遺伝子を含むか否かを検討するために、GAPDH、ヒト内因性レトロウイルスK、テネイシン-cおよびLine-1に対して特異的なプライマー対を用いてPCRを行った。GAPDH遺伝子については、以下のプライマーを用いた:Forw3GAPDHnew(SEQ ID NO:1)およびRev3GAPDHnew(SEQ ID NO:2)。このプライマー対は、テンプレートがスプライシングされたGAPDH cDNAである場合は112bpアンプリコンを増幅させ、テンプレートがスプライシングされていないゲノムGAPDH DNAである場合には216bpアンプリコンを増幅させる。1つの実験では、単離したエキソソームを、DNA抽出のために溶解させる前にDNアーゼで処理した(図3a)。予想通り、腫瘍血清(図3a中のレーン4を参照)および初代腫瘍細胞(図3a中のレーン6を参照)由来のエキソソームからは112bp断片が増幅されたが、正常ヒト線維芽細胞由来のエキソソームからは増幅されなかった(図3a中のレーン5を参照)。216bp断片は、この3種の起源のいずれのエキソソームからも増幅不能であった。しかし、神経膠芽腫細胞から単離したゲノムDNAをテンプレートとして用いた場合には、112bpおよび216bpの両方の断片が増幅された(図3a中のレーン3を参照)。したがって、スプライシングされたGAPDH DNAは、腫瘍細胞から単離されたエキソソーム内には存在するが、正常線維芽細胞から単離されたエキソソーム内には存在しない。
【0092】
対照的に、もう1つの実験では、単離したエキソソームを、DNA抽出のために溶解させる前に、DNアーゼで処理しなかった(図3b)。初代黒色腫細胞から単離したエキソソームからは、112bp断片だけでなく216bp断片も増幅され(図3b中のレーン3を参照)、このことは、逆転写されたスプライシングされていないGAPDH DNAまたは部分的にスプライシングされたcDNAがエキソソームの外側に存在することを示唆する。
【0093】
ヒト内因性レトロウイルスK(HERV-K)遺伝子については、以下のプライマーを用いた:HERVK_6Forw(SEQ ID NO:3)およびHERVK_6Rev(SEQ ID NO:4)。このプライマー対は172bpアンプリコンを増幅させる。単離してDNアーゼで処理したエキソソームからDNAを抽出し、PCR増幅のためのテンプレートとして用いた。図3cに示されているように、すべての腫瘍エキソソームおよび正常ヒト血清エキソソームで172bp断片が増幅されたが、正常ヒト線維芽細胞からのエキソソームでは増幅されなかった。これらのデータは、正常ヒト線維芽細胞からのエキソソームとは異なり、腫瘍エキソソームおよび正常ヒト血清エキソソームが内因性レトロウイルスDNA配列を含むことを示唆する。腫瘍エキソソームが転位因子も含むか否かを検討するために、以下のLinE-1特異的プライマーをPCR増幅のために用いた:Line1_Forw(SEQ ID NO:5)およびLine1_Rev(SEQ ID NO:6)。これらの2つのプライマーは、各プライマーが2種の異なる同量のオリゴ体を含むことから、すべての種におけるLinE-1を検出するように設計されている。Line1_Forwプライマーの場合、一方のオリゴ体は「s」と指定された位置にCを1つ含み、もう一方のオリゴ体はGを1つ含む。Line1_Revプライマーの場合、一方のオリゴ体は「r」と指定された位置にAを1つ含み、もう一方のオリゴ体はGを1つ含む。このプライマー対は290bpのアンプリコンを増幅させる。テンプレートは、DNアーゼで処理したエキソソームから抽出したDNAとした(上記の通り)。図3eに示されているように、290bpのLinE-1断片を、腫瘍細胞および正常ヒト血清からのエキソソームからは増幅させることができたが、正常ヒト線維芽細胞からのエキソソームからはそうでなかった。
【0094】
エキソソームがテネイシン-C DNAも含むか否かを検証するために、以下のプライマー対を、PCRを行うために用いた:Tenascin C Forw(SEQ ID NO:7)およびTenascin C Rev(SEQ ID NO:8)。このプライマー対は197bpのアンプリコンを増幅させる。テンプレートは、単離した後に、溶解の前にDNアーゼで処理したエキソソームから抽出したDNAとした。図3dに示されているように、腫瘍細胞または正常ヒト血清からのエキソソームでは197bpのテネイシンC断片が増幅されたが、正常ヒト線維芽細胞からのエキソソームでは増幅されなかった。したがって、テネイシン-C DNAは腫瘍エキソソームおよび正常ヒト血清エキソソーム中には存在するが、正常ヒト線維芽細胞からのエキソソーム中には存在しない。
【0095】
エキソソーム中のDNAの存在をさらに確かめるために、D425髄芽腫細胞から、上記の方法を用いてエキソソームDNAを抽出した。具体的には、エキソソームを単離し、溶解の前にDNアーゼで処理した。同じ容積の最終的なDNA抽出物を、DNアーゼで処理するか、またはDNアーゼで処理せず、その後に1%アガロースゲル中での臭化エチジウム染色によって視覚化した。臭化エチジウムは核酸を特異的に染色する色素であり、紫外光の下で視覚化させることができる。図3fに示されているように、臭化エチジウム染色はDNアーゼ処理後には消失したが(図3f中のレーン3を参照)、処理しなかったアリコートでは強い染色を視覚化させることができた(図3f中のレーン2を参照)。DNアーゼで処理した抽出物および処理しなかった抽出物を、RNAピコチップ(Agilent Technologies)上でも分析した。図3gに示されているように、DNアーゼで処理しなかった抽出物では一本鎖DNAを容易に検出することができたが(図3g中の上のパネルを参照)、DNアーゼで処理した抽出物ではほとんど検出することができなかった(図3g中の下のパネルを参照)。
【0096】
抽出されたDNAが一本鎖であるか否かを検証するために、前段落で記載したように処理したエキソソームから核酸を抽出し、RNA混入物を取り除くためにさらにRNアーゼで処理した。続いて、処理した核酸を、RNA pico Bioanalyzerチップ上、およびDNA 1000チップにおいて分析した。RNAピコチップは一本鎖核酸のみを検出する。DNA 1000チップは二本鎖核酸を検出した。図3hに示されているように、一本鎖核酸は検出されたが(上のパネルを参照)、二本鎖核酸は検出されなかった(下のパネルを参照)。したがって、腫瘍エキソソーム内に含まれるDNAはほとんどが一本鎖である。
【0097】
一本鎖DNAが腫瘍細胞内には存在するが正常ヒト線維芽細胞内には存在しないことを実証するために、神経膠芽腫患者血清または正常ヒト線維芽細胞のいずれかからのエキソソームから、核酸を抽出した。エキソソームを溶解の前にDNアーゼで処理し、精製した核酸を分析の前にRNアーゼで処理した。図3iに示されているように、神経膠芽腫患者血清から抽出されたエキソソーム核酸は、RNAピコチップによって検出可能であった。対照的に、正常ヒト線維芽細胞からは、極めてわずかな量の一本鎖DNAしか抽出されなかった。
【0098】
以上により、腫瘍細胞および正常ヒト血清からのエキソソームは一本鎖DNAを含むことが見いだされた。この一本鎖DNAは、その増幅産物がイントロンを含まないため、逆転写産物である(図3aおよび図3b)。腫瘍細胞も正常始原細胞/幹細胞も有効な逆転写酵素(RT)活性を有することが知られているが、正常始原細胞/幹細胞における活性は相対的にはるかに低い。このRT活性のため、細胞においてRNA転写物が逆転写されてcDNAとしてエキソソーム中にパッケージングされる可能性は十分に考えられる。興味深いことに、腫瘍細胞からのエキソソームは腫瘍特異的な遺伝子転写物に対応するcDNAをより多く含むが、これは腫瘍細胞では通常、逆転写酵素活性がアップレギュレートされているためである。このため、エキソソーム中の腫瘍特異的cDNAは、種々のタイプの腫瘍の診断または予後のためのバイオマーカーとして用いうる可能性がある。cDNAをバイオマーカーとして用いると、mRNAを腫瘍のバイオマーカーとして用いる場合に比べて、逆転写の段階を省けると考えられる。加えて、血清/血漿は死にかけの細胞から放出されたゲノムDNAを含むため、エキソソームcDNAの使用は全血清/血漿中DNAの使用よりも有利である。増幅された全血清/血漿中DNAを検査する場合には、より多くのバックグラウンドが存在すると考えられる。
【0099】
実施例4:ヒト血清中のほとんどの細胞外RNAはエキソソーム内に含まれる。
「遊離RNA」/RNA-タンパク質複合体として血清中を循環するRNAの量を、エキソソーム内に含まれるRNAの量と対比して決定するために、本発明者らは健常ヒト対象から血清を単離し、その血清を均等に分けて、同じ容積の2つの試料とした。試料1に関しては、ほとんどのマイクロベシクルを除去するために血清を超遠心した。続いて、血清上清を収集し、上清中に残ったRNAをTrizol LSを用いて抽出した。試料2に関しては、血清を超遠心せずに、Trizol LSを用いて血清から全RNAを抽出した。試料1上清および試料2血清におけるRNAの量を測定した。その結果、試料1上清中の遊離RNAの量は、血清試料2から単離された全RNAの量の10%未満であることが見いだされた。したがって、血清中のRNAの大半はエキソソームに付随している。
【0100】
実施例5:血清中細胞外核酸の抽出の高い効率は、血清中エキソソームの単離段階を組み入れることによって達成される。
全血清および血漿は、大量の循環性DNAを、さらにおそらくはRNAをも、タンパク質複合体中に保護された状態で含むが、一方、遊離RNAの血清中での半減期は数分間に過ぎない。血清中細胞外核酸のプロファイルは、正常哺乳動物と罹患哺乳動物との間で違いがあり、このため、ある種の疾患に関するバイオマーカーとして用いうる可能性がある。これらのプロファイルを検討するためには、核酸を抽出する必要がある。しかし、血清および血漿からの核酸の直接抽出は現実的でなく、大容積の血清/血漿からの場合は特にそうである。この場合には、エキソソーム核酸を抽出する前に、大容積のTrizol LS(RNA抽出試薬)が、すべての血清中ヌクレアーゼを即座に失活させるために用いられる。その後、混入物が試料中に沈殿して、その後の分析に影響を及ぼす。実施例4に示されているように、血清中のほとんどの細胞外RNAは血清中エキソソームに含まれる。このため、本発明者らは、核酸抽出の前に血清中エキソソームを単離することによって細胞外核酸を単離することがより効率的であるか否かを検証した。
【0101】
患者からの4ミリリットル(ml)の血清を、2mlずつの2つのアリコートに分けた。一方のアリコートからの血清中エキソソームは、RNA抽出の前に単離した。エキソソームの単離およびRNAの抽出の方法は、実施例2に述べたものと同じである。もう一方のアリコートに関しては、Trizol LSを製造元の推奨に従って用いて、RNAを直接抽出した。これらの2通りの抽出による核酸を、Bioanalyzer RNAチップ(Agilent Technologies)上で分析した。図4に示されているように、前者の方法によって抽出されたRNAの量は、後者の方法によって得られたものよりも有意に多い。さらに、後者の方法によって抽出されたRNAの質は、前者の方法によるものと比べて相対的に劣っている。したがって、エキソソーム単離の段階は、血清からの細胞外RNA抽出の効率に寄与する。
【0102】
実施例6:mRNAのマイクロアレイ分析。
神経膠芽腫細胞およびそれらに由来するマイクロベシクルにおけるmRNA集団のマイクロアレイ分析が、Miltenyi Biotech(Auburn, CA, USA)によって、Agilent Whole Human Genome Microarray、4×44K、2色アレイを用いて行われた。このマイクロアレイ分析は、実施例1および2に記載された通りに調製された、初代神経膠芽腫細胞からの2種類のRNA調製物およびそれらの対応するマイクロベシクルRNA調製物を用いて行われた。データはGeneSifterソフトウエア(Vizxlabs, Seattle, WA, USA)を用いて解析した。両方のアレイ上で容易に検出された遺伝子を抽出するために、Intersectorソフトウエア(Vizxlabs)を用いた。このマイクロアレイデータはNCBIのGene Expression Omnibusに寄託されており、GEOシリーズのアクセッション番号GSE13470を通じてアクセス可能である。
【0103】
本発明者らは、両方のアレイ上でバックグラウンドレベルを十分に上回って検出された(99%信頼区間)、細胞におけるおよそ22,000種の遺伝子転写物、およびマイクロベシクルにおけるおよそ27,000種の遺伝子転写物を見いだした。およそ4,700種のmRNAが、両方のアレイ上でマイクロベシクルのみにおいて検出されたが、このことはマイクロベシクル内での選択的な濃縮プロセスを指し示している。これに合致して、マイクロベシクル中のmRNAレベルの、2種の腫瘍細胞調製物からのそれらの起源細胞と比較した場合の全体的な相関は乏しかった(図2aおよび2b)。対照的に、一方の細胞培養物からのmRNAのレベル(A)には第2の細胞培養物(B)との比較で優れた相関があり(図2c)、対応するマイクロベシクル(A)および(B)からのmRNAのレベルにも同様の相関があった(図2d)。以上により、腫瘍細胞およびマイクロベシクルの内部でのmRNA分布には一貫性がある。マイクロベシクルとそれらの起源細胞との間での転写物の比の比較において、本発明者らは、5倍を上回る差異を伴って分布している3,426種の転写物を見いだした(p値<0.01)。これらのうち、2,238種の転写物は、細胞におけるよりも多く含まれ(最大で380倍)、1,188種の転写物は存在量がより少なかった(最大で90分の1)(図5)。すべての遺伝子転写物の強度および比を文書に記録した。10倍を上回る差異で多く含まれるか、または減少しているmRNA転写物のオントロジーを記録して、詳しく検討した。
【0104】
マイクロベシクル中の方が極めてより濃縮されていたmRNA転写物は、必ずしも、マイクロベシクルにおいて最も存在量の多いものではなかった。最も存在量の多い転写物は、送達された時にレシピエント細胞において効果を生じさせる可能性がより高いと考えられ、このため、マイクロベシクル中に存在する最も存在量の多い500種のmRNA転写物を、それらのオントロジー上の記載に基づいて種々の生物プロセスに分けた(図6a)。さまざまなオントロジーのうち、血管新生、細胞増殖、免疫応答、細胞遊走およびヒストン修飾をさらなる検討のために選択したが、これはそれらが腫瘍間質のリモデリングおよび腫瘍増殖の増強に関与しうると考えられる具体的な機能に相当するためである。これらの5種のオントロジーに属する神経膠芽腫マイクロベシクルmRNAをプロットして、それらのレベルおよびmRNAスペクトルに対するそれらの寄与を比較した(図6b)。この5種のオントロジーはすべて、アレイのシグナル強度レベルの中央値と比較して、mRNAを極めて高い発現レベルで含んでいた。
【0105】
ドナー細胞との比較でマイクロベシクル中により濃縮されているmRNAの徹底的な分析により、これらのメッセージをマイクロベシクル中に局在化させる細胞機構が存在する可能性が示唆されており、これはことによると、βアクチンに関するもののような、細胞の特定の場所で翻訳されるmRNAに関して記載されている、3' UTRにおける「ジップコード」を介したものかもしれない(Kislauskis et al., 1994)。マイクロベシクル中のmRNAのコンフォメーションは不明であるが、それらはリボ核粒子(RNP)として存在する可能性があり(Mallardo et al., 2003)、そうであればドナー細胞における分解および時期尚早な翻訳(premature translation)を防止すると考えられる。
【0106】
神経膠芽腫細胞および神経膠芽腫細胞に由来するマイクロベシクル、黒色腫細胞および黒色腫細胞に由来するマイクロベシクルにおけるmRNA集団のマイクロアレイ分析が、Illumina Inc.(San Diego, CA, USA)によって、全ゲノムcDNAを仲介とするアニーリング、選択、伸長およびライゲーション(Whole-Genome cDNA-mediated Annealing, Selection, Extension and Ligation)(DASL)アッセイを用いて行われた。全ゲノムDASLアッセイは、Illumina社のDASLアッセイのPCRおよび標識の段階を、Illumina社のHumanRef-8BeadChipの遺伝子ベースのハイブリダイゼーションおよび全ゲノムプローブセットと組み合わせたものである。このBeadChipは、RefSeq(Build 36.2、Release 22)に由来する、注釈付けが行われた24,000種を上回る遺伝子をカバーしている。このマイクロアレイ分析は、初代神経膠芽腫細胞、神経膠芽腫細胞からのマイクロベシクル(実施例1および2に記載された通りの方法を用いて得た)、黒色腫細胞、黒色腫細胞からのマイクロベシクル(実施例1および2に記載された通りの方法を用いて得た)からの2種類ずつのRNA調製物に対して行われた。
【0107】
各RNA調製物に関する発現データをまとめてプールし、これを用いてクラスターダイアグラムを作成した。図7に示されているように、神経膠芽腫細胞、神経膠芽腫細胞からのマイクロベシクル、黒色腫細胞、および黒色腫細胞からのマイクロベシクルに関するmRNA発現プロファイルは、それぞれまとまってクラスター化される。2つの初代神経膠芽腫細胞系20/3Cおよび11/5cの発現プロファイルは、約0.06の距離でクラスター化される。2つの初代黒色腫細胞系0105Cおよび0664Cの発現プロファイルは、約0.09の距離でクラスター化される。2つの初代黒色腫細胞系0105Cおよび0664Cからのエキソソームの発現プロファイルは、0.15前後の距離でまとまってクラスター化される。2つの初代神経膠芽腫細胞系20/3Cおよび11/5cからのエキソソームの発現プロファイルは、0.098前後の距離でまとまってクラスター化される。このように、神経膠芽腫および黒色腫からのエキソソームは弁別的なmRNA発現シグネチャ(signature)を有し、エキソソームの遺伝子発現シグネチャはそれらの元の細胞のものとは異なる。これらのデータは、マイクロベシクルからのmRNA発現プロファイルを、癌の診断および予後のための本明細書に記載された方法において用いうる可能性を実証している。
【0108】
実施例7:神経膠芽腫マイクロベシクルはmiRNAを含む。
マイクロベシクルから、およびドナー細胞からの成熟miRNAを、定量的miRNA逆転写PCRを用いて検出した。具体的には、マイクロベシクルおよびドナー細胞から、mirVana RNA単離キット(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いて全RNAを単離した。TaqMan(登録商標)MicroRNA Assayキット(Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)を用いて、30ngの全RNAを、製造元のプロトコールに従って、特異的miR-プライマーを用いてcDNAに変換し、さらに増幅した。
【0109】
神経膠腫においてアップレギュレートされ、かつ存在量が多いことが知られているもののうち、11種のmiRNAのサブセットを、2種の異なる初代神経膠芽腫(GBM 1およびGBM 2)から精製したマイクロベシクルにおいて分析した。これらのサブセットは、let-7a、miR-15b、miR-16、miR-19b、miR-21、miR-26a、miR-27a、miR-92、miR-93、miR-320およびmiR-20を含んでいた。これらのmiRNAのすべてが、ドナー細胞およびマイクロベシクルにおいて容易に検出された(図8)。全RNA 1μg当たりのレベルは、親細胞におけるよりもマイクロベシクル中の方が一般に低かった(10%、Ct値およそ3に対応)が、これらのレベルはよく相関しており、このことは、これらの11種のmiRNA種がマイクロベシクル中により濃縮されるわけではないことを指し示している。
【0110】
神経膠芽腫細胞および神経膠芽腫細胞に由来するマイクロベシクル、黒色腫細胞および黒色腫細胞に由来するマイクロベシクルにおけるマイクロRNA集団のマイクロアレイ分析が、Illumina Inc.(San Diego, CA, USA)によって、DASLアッセイを備えたMicroRNA Expression Profiling Panelを用いて行われた。このヒトMicroRNA Panelは1146種のマイクロRNA種を含む。このマイクロアレイ分析は、初代神経膠芽腫細胞、神経膠芽腫細胞からのマイクロベシクル(実施例1および2に記載された通りの方法を用いて得た)、黒色腫細胞、および黒色腫細胞からのマイクロベシクル(実施例1および2に記載された通りの方法を用いて得た)からの2種類ずつのRNA調製物に対して行われた。
【0111】
各RNA調製物に関する発現データをまとめてプールし、これを用いてクラスターダイアグラムを作成した。図9に示されているように、神経膠芽腫細胞、神経膠芽腫細胞からのマイクロベシクル、黒色腫細胞、および黒色腫細胞からのマイクロベシクルに関するマイクロRNA発現プロファイルは、それぞれまとまってクラスター化される。2つの初代黒色腫細胞系0105Cおよび0664Cの発現プロファイルは、約0.13の距離でクラスター化される。2つの初代神経膠芽腫細胞系20/3Cおよび11/5cの発現プロファイルは、約0.12の距離でクラスター化される。2つの初代神経膠芽腫細胞系20/3Cおよび11/5cからのエキソソームの発現プロファイルは、0.12前後の距離でまとまってクラスター化される。2つの初代黒色腫細胞系0105Cおよび0664Cからのエキソソームの発現プロファイルは、0.17前後の距離でまとまってクラスター化される。このように、神経膠芽腫および黒色腫からのエキソソームは弁別的なマイクロRNA発現シグネチャを有し、エキソソームの遺伝子発現シグネチャはそれらの元の細胞のものとは異なる。さらに、本明細書において実証されているように、マイクロベシクルからのマイクロRNA発現プロファイルは、癌の診断および予後のための本明細書に記載された方法において用いうる可能性がある。
【0112】
マイクロベシクル中のmiRNAに関する知見は、腫瘍由来のマイクロベシクルが、周囲の正常細胞を、それらの転写/翻訳プロファイルを変化させることによって改変しうることを示唆する。さらに、本明細書において実証されているように、マイクロベシクルからのmiRNA発現プロファイルは、神経膠芽腫を非限定的に含む癌の診断および予後のための本明細書に記載された方法において用いうる可能性がある。
【0113】
実施例8〜15.これらの実施例は、体液からのエキソソーム内の核酸を、疾患または他の医学的状態に関するバイオマーカーとして用いうることを示す。
実施例8:マイクロベシクル中のmiRNAの発現プロファイルは、神経膠芽腫に関する高感度なバイオマーカーとして用いることができる。
エキソソーム内のマイクロRNAを疾患および/または医学的状態に関するバイオマーカーとして用いうるか否かを明らかにするために、本発明者らは、マイクロRNAの発現レベルと疾患状況との間の相関の存在について検討した。マイクロRNA-21は神経膠芽腫細胞において高レベルで発現され、神経膠芽腫患者の血清から単離したエキソソーム中で容易に検出可能であることから、本発明者らは、神経膠芽腫患者の血清からのエキソソーム内のマイクロRNA-21のコピー数を定量的RT-PCRによって定量的に測定した。具体的には、エキソソームを、9例の正常ヒト対象および9例の神経膠芽腫患者からの4mlの血清試料から単離した。RNA抽出手順は、実施例2に記載されたRNA抽出手順と同様であった。miR-21のレベルは、singleplex qPCR(Applied Biosystems)を用いて分析し、GAPDH発現レベルに対して標準化した。
【0114】
図10に示されているように、平均Ct値は神経膠芽腫血清試料の方が5.98低く、このことは、神経膠芽腫患者におけるエキソソーム性miRNA-21の発現レベルが正常ヒト対象におけるものよりもおよそ63倍高いことを示唆する。この差は統計学的に有意であり、p値は0.01である。したがって、マイクロRNA-21の発現レベルと神経膠芽腫の疾患状況との間には相関があり、このことは本明細書に開示された非侵襲的な診断方法の妥当性および適用可能性を実証している。例えば、1つの局面において、本方法は、対象の体液からエキソソームを単離する段階、エキソソーム内のマイクロRNA-21の発現レベルをマイクロRNA-21のコピー数を測定することによって分析する段階、および、その数を、正常対象からのエキソソーム内のもの、または正常対象の群からのエキソソーム内のマイクロRNA-21含量を分析することによってもたらされる標準的な数と比較する段階を含む。コピー数の増加は、対象における神経膠芽腫の存在を指し示す;一方、コピー数の増加がみられないことは、対象に神経膠芽腫が存在しないことを指し示す。この基本的な方法を、別のマイクロRNA種と関連のある他の疾患および/または医学的状態を診断/モニターするために外挿することができる。
【0115】
実施例9:マイクロベシクル中のmRNAは、診断用の高感度なバイオマーカーとして用いることができる。
核酸はバイオマーカーとして大きな価値があるが、これはPCR法によってそれらを高い感度で検出しうるためである。このことから、マイクロベシクル中のmRNAを、医学的疾患または医学的状態、今回の場合には神経膠芽腫腫瘍に関するバイオマーカーとして用いうるか否かを明らかにするために、以下の検査をデザインして実施した。上皮増殖因子受容体(EGFR)mRNAを選択したが、これは、EGFRvIII突然変異の発現がいくつかの腫瘍に特異的であり、かつ、神経膠腫の臨床的に別個のサブタイプを規定するためである(Pelloski et al., 2007)。加えて、EGFRvIII突然変異は、これらの突然変異が体細胞突然変異であって生殖細胞系突然変異ではないため、従来より、病変組織以外の組織では検出することができない。このため、EGFRvIII突然変異を検出するためには、神経膠腫腫瘍などの病変組織からの生検が慣例的に必要とされる。以下に詳述するように、ネステッドRT-PCRを用いて神経膠腫腫瘍生検試料におけるEGFRvIII mRNAを同定し、その結果を、同じ患者からの血清試料から精製したマイクロベシクル中に認められるmRNA種と比較した。
【0116】
マイクロベシクルを初代ヒト神経膠芽腫細胞から精製し、その後にマイクロベシクルおよびドナー細胞(生検)の両方からRNA抽出を行った。試料は暗号化し、PCRは盲検形式で行った。Gli36EGFRvIII(EGFRvIIIを安定的に発現するヒト神経膠腫細胞)を陽性対照として含めた。0.5〜2mlの凍結血清試料から、実施例2に記載された通りにマイクロベシクルをペレット化し、MirVana Microvesicles RNA単離キットを用いてRNAを抽出した。続いて、ネステッドRT-PCRを用いて、野生型EGFR(1153bp)およびEGFRvIII(352bp)転写物の両方を、マイクロベシクルおよびドナー細胞の両方から、同じプライマーのセットを用いて増幅した。具体的には、Omniscript RTキット(Qiagen Inc, Valencia, CA, USA)を製造元の推奨プロトコールに従って用いて、RNAをcDNAに変換した。GAPDHプライマーは、GAPDH Forward(SEQ ID NO:9)およびGAPDH Reverse(SEQ ID NO:10)とした。EGFR/EGFRvIII PCR1プライマーは、SEQ ID NO:11およびSEQ ID NO:12であった。EGFR/EGFRvIII PCR2プライマーは、SEQ ID NO:13およびSEQ ID NO:14であった。PCRサイクルのプロトコールは、94℃ 3分間;94℃ 45秒間、60℃ 45秒間、72℃ 2分間を35サイクル;および最終段階を72℃ 7分間とした。
【0117】
本発明者らは、EGFRvIII mRNAが存在するか否かを明らかにするために生検試料を分析し、その結果を、同じ患者の凍結血清試料から精製したエキソソームから抽出したRNAと比較した。30件の腫瘍試料のうち14件(47%)がEGFRvIII転写物を含んでおり、これは、他の研究(Nishikawa et al., 2004)においてこの突然変異を含むことが見いだされた神経膠芽腫のパーセンテージに合致する。EGFRvIIIは、手術時の前後に血清を採取した25例の患者のうち7例(28%)におけるエキソソームから増幅させることができた(図11および表1)。新たなプライマー対であるEGFR/EGFRvIII PCR3:SEQ ID NO:15およびSEQ ID NO:16を、上記のネステッドPCR増幅のための第2のプライマー対として用いたところ、より多くの個体がEGFRvIII突然変異を保有することがことが見いだされた(表1)。EGFRvIIIは、古い方のプライマー対であるEGFRvIII PCR2:SEQ ID NO:13およびSEQ ID NO:14では陰性と識別された6例の患者におけるエキソソームから増幅させることができた。注目されることとして、生検試料ではEGFRvIII突然変異が示されなかった個体13からのエキソソームはEGFRvIII突然変異を含むことが示され、このことはエキソソーム技術を用いるEGFRvIII突然変異検出の感度がより高いことを示唆する。52件の正常対照血清試料から単離したエキソソームからは、EGFRvIIIを増幅させることができなかった(図12)。興味深いことに、腫瘍試料がEGFRvIII陰性であった2例の患者は血清中エキソソームではEGFRvIII陽性であることが判明したが、このことは神経膠腫腫瘍におけるEGFRvIII発現の混成中心(heterogeneous foci)であることを裏づける。さらに、本発明者らのデータから、予想外のことに、マイクロベシクル中の無傷RNAを、神経膠芽腫患者の凍結体液血清から単離しうることも示された。神経膠芽腫と確定された患者からのこれらの盲検血清試料は、Cancer Reserch Center(VU medical center, Amsterdam, Netherlands)から入手し、使用時まで-80℃で保存した。血清中マイクロベシクルにおける腫瘍特異的RNAの同定は、腫瘍細胞に存在する体細胞突然変異の検出を可能にする。そのような技術は、診断および治療上の決断の改良をもたらすはずである。
【0118】
マイクロベシクル中に認められるRNAは、ある所与の時点での、かなり多数に上る細胞遺伝子発現プロファイルの「スナップショット」を含む。神経膠芽腫由来のマイクロベシクル中に認められるmRNAのうち、EGFR mRNAは、EGFRvIIIスプライス変異体が神経膠芽腫と特異的に関連しているため、特に関心が持たれる(Nishikawa et al., 2004)。今回、脳腫瘍が血液-脳-関門(BBB)を越えて血流中にマイクロベシクルを放出することが実証されたが、このことは以前には示されていなかった。さらに、脳腫瘍におけるEGFRvIIIのようなmRNA変異体を、少量の患者血清からエキソソームを単離する段階、および前記マイクロベシクル中のRNAを分析する段階を含む方法によって検出しうることも実証されている。
【0119】
腫瘍におけるEGFRvIII突然変異を知ることは、最適な治療レジメンを選択する上で重要である。EGFRvIII陽性の神経膠腫は、エルロチニブまたはゲフィチニブなどのEGFR阻害薬による治療に反応する可能性が50倍も高い(Mellinghoff et al., 2005)。
【0120】
実施例10:鉄代謝障害の診断
本エキソソーム診断方法は、以下の例によって示されるように、他の目的に合わせて改変することができる。
【0121】
抗菌ペプチドの1つであるヘプシジンは、鉄代謝の主要なホルモン性調節因子である。このペプチドは主として哺乳動物の肝臓で産生され、骨髄の赤血球形成活性、循環性および貯蔵性の身体鉄の量、ならびに炎症によって制御される。刺激されると、ヘプシジンは血行中または尿中に分泌され、そこで標的であるフェロポーチン発現細胞に対して作用しうる。フェロポーチンは現在までに同定されている唯一の鉄排出輸送体(iron exporter)であり、ヘプシジンと結合すると、それはインターナリゼーションを受けて分解される。その結果として生じるフェロポーチンの破壊は、マクロファージおよび腸細胞といったフェロポーチン発現細胞における鉄貯留を招く。この病態生理学的な機序は、慢性疾患に伴う貧血の基礎をなす。より具体的には、ヘプシジンの不適切に高いレベル、および細網内皮系の内部での鉄含量の増加が貧血を特徴づける。実際に、貧血は、感染症(急性および慢性)、癌、自己免疫、実質臓器移植後の慢性的な拒絶反応、ならびに慢性腎疾患および炎症といった多くの疾患および/または医学的状態と関連している場合がある(Weiss and Goodnough, 2005)。その一方で、遺伝性ヘモクロマトーシスなどの遺伝性鉄過剰疾患では、ヘプシジンの不適切に低い発現レベルが、細網内皮系の内部からの、致死的な恐れのある鉄の極度の流出を助長する。このように、ヘプシジンは慢性疾患に伴う貧血ではアップレギュレートされるが、ヘモクロマトーシスではダウンレギュレートされる。
【0122】
現時点では、高度に特化した装置を必要とし、このため容易には利用できない飛行時間型質量分析(TOF MS)を除き、血行または尿におけるヘプシジンレベルを定量的に測定するのに適したアッセイは存在しない(Kemna et al., 2008)。最近、固相酵素免疫アッセイ(ELISA)法がヘプシジンホルモンレベルを定量的に測定する目的で提唱されているが、この方法は、ヘプシジン(Kemna et al., 2005;Kemna et al., 2007)および他の鉄関連パラメーター(Brookes et al., 2005;Roe et al., 2007)との明らかな相関を欠いているため、一貫性がない。
【0123】
以下のようにして、ヒト血清からのエキソソーム中のヘプシジンmRNAを検出した。エキソソームをまずヒト血清から単離し、それらのmRNA内容物を抽出した後に、cDNAへの変換およびPCR増幅を行った。PCRプライマーは、ヒトヘプシジンの129ヌクレオチド断片を増幅するように設計した。このプライマーの配列は、SEQ ID NO:57およびSEQ ID NO:58である。129ヌクレオチドのヘプシジン転写物(図13D中の中央のピーク)が、Bioanalyzerによって容易に検出された。陽性対照(図13B)として、ヒト肝細胞癌細胞系Huh-7からRNAを抽出し、cDNAに変換した。陰性対照(図13C)はmRNAを伴わないものである。これらのBioanalyzerデータは、図13A中のシュードゲル中にも示されている。
【0124】
血行中のマイクロベシクル中のヘプシジンmRNAは、肝細胞におけるヘプシジンmRNAと相関する。このため、体液試料中のマイクロベシクル内のヘプシジンmRNAを測定することは、対象における貧血またはヘモクロマトーシスを診断またはモニターすることを可能にすると考えられる。
【0125】
すなわち、体液からマイクロベシクルを単離して、前記マイクロベシクル中のヘプシジンmRNAを正常対象からのmRNAと比較することによって、対象における貧血およびヘモクロマトーシスを診断および/またはモニターすることが可能である。貧血の対象では、mRNAのコピー数が、正常な非貧血レベルよりも増加している。ヘモクロマトーシスに罹患している対象では、正常対象におけるmRNAに比してそのコピー数が減少している。
【0126】
実施例11:糖尿病性腎症の診断のための、エキソソームの非侵襲的な転写プロファイリング
糖尿病性腎症(DN)は、特効的な治療法が現時点では存在しない、命にかかわる合併症である。このため、DNを発症しつつあるか、またはそれを発症するリスクのある患者を同定するための高感度な診断法を開発し、早期の介入およびモニタリングを可能にすることに対しては需要がある。
【0127】
尿分析は、生検試料を採取することを必要とせずに腎機能を検査するための1つの手段である。現時点では、この分析は、尿中のタンパク質の試験に限定されている。本実施例は、通常であれば腎生検のみによって入手しうると考えられる細胞に由来する尿中転写プロファイルを入手するための方法を述べる。具体的には、本方法は、尿エキソソームを単離する段階、および前記エキソソーム内のRNAを分析して転写プロファイルを入手する段階を含み、そのプロファイルは、糖尿病性個体において腎細胞によって作り出される分子的変化を検討し、腎臓によって作り出される何らかの新たなタンパク質の「スナップショット」を得るために用いることができる。エキソソーム転写プロファイルを入手するための最先端技術には、最新のハイブリダイゼーションアレイ、PCRベースの技術、および次世代シークエンシング法が非限定的に含まれる。直接シークエンシングは、事前に設計されたプライマーも、スポッティングされたDNAオリゴ体も必要としないため、それはエキソソームRNAプロファイルの偏りのない記述を与えると考えられる。次世代シークエンシング技術の一例は、Illumina Genome Analyserによって与えられ、これは、1回の動作当たりにヒトゲノムの1/3に相当するものをシークエンシングすることを可能にする超並列シークエンシング技術を利用する。この分析によって入手しうるデータは、尿中エキソソーム転写プロファイルを迅速かつ包括的に検討することを可能にし、かつ腎臓全体との比較も可能にすると考えられる。対照における転写物と糖尿病由来の尿中エキソソームにおける転写物との比較により、糖尿病性腎症に関して、予想されるとともに新たなバイオマーカーの包括的なリストを得ることが可能と考えられる。
【0128】
上記の診断方法の実行可能性を証明する目的で、尿中エキソソームを単離して、これらのエキソソーム内の腎臓特異的バイオマーカーの存在を確かめるための実験をデザインし、実施した。この実験では、28歳の健常男性対象から220mlの新鮮な早朝尿試料を収集し、尿中エキソソームを単離するために分画遠心法によって処理した。具体的には、試料から細胞を除去するために、尿をまず300×g、10分間で遠心分離した。上清を収集し、続いて、細胞残渣またはタンパク質凝集物をすべて沈降させるために16,500×gで20分間の遠心分離を行った。続いて、直径が0.22uMよりも大きい残差を除去するために、上清を0.22uMの膜フィルターに通した。最後に、エキソソームをペレット化するために、試料を100,000×g、1時間の超遠心にかけた(Thery et al., 2006)。ペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)で穏やかに洗浄し、Qiagen RNeasyキットを製造元の指示に従って用いてRNAを抽出した。単離したRNAを、Omniscript RTキット(Qiagen)を用いてcDNAに変換し、その後に腎臓特異的遺伝子のPCR増幅を行った。
【0129】
検討した腎臓特異的遺伝子、およびそれらの遺伝子が発現されるそれらの対応する腎臓区域は以下の通りである:AQP1‐近位尿細管;AQP2‐遠位尿細管(主細胞);CUBN‐近位尿細管;LRP2‐近位尿細管;AVPR2‐近位および遠位尿細管;SLC9A3(NHE-3)‐近位尿細管;ATP6V1B1‐遠位尿細管(間在細胞);NPHS1‐糸球体(足細胞);NPHS2‐糸球体(足細胞);ならびにCLCN3‐集合管のB型間在細胞。各遺伝子を増幅するために設計したプライマーの配列は、AQP1-F(SEQ ID NO:17)およびAQP1-R(SEQ ID NO:18);AQP2-F(SEQ ID NO:19)およびAQP2-R(SEQ ID NO:20);CUBN-F(SEQ ID NO:21)およびCUBN-R(SEQ ID NO:22);LRP2-F(SEQ ID NO:23)およびLRP2-R(SEQ ID NO:24);AVPR2-F(SEQ ID NO:25)およびAVPR2-R(SEQ ID NO:26);SLC9A3-F(SEQ ID NO:27)およびSLC9A3-R(SEQ ID NO:28);ATP6V1B1-F(SEQ ID NO:29)およびATP6V1B1-R(SEQ ID NO:30);NPHS1-F(SEQ ID NO:31)およびNPHS1-R(SEQ ID NO:32);NPHS2-F(SEQ ID NO:33)およびNPHS2-R(SEQ ID NO:34);CLCN5-F(SEQ ID NO:35)およびCLCN5-R(SEQ ID NO:36)である。
【0130】
各遺伝子に関するPCR産物の予想されるサイズは、AQP1-226bp、AQP2-208bp、CUBN-285bp、LRP2-220bp、AVPR2-290bp、SLC9A3-200bp、ATP6V1B1-226bp、NPHS1-201bp、NPHS2-266bpおよびCLCN5-204bpである。PCRサイクルのプロトコールは、95℃ 8分間;95℃ 30秒間、60℃ 30秒間、72℃ 45秒間を30サイクル;および最終段階を72℃10分間とした。
【0131】
図14aに示されているように、腎尿細管細胞は、エキソソーム生成過程における中間段階である多胞体を含む。これらの細胞から単離したエキソソームは、電子顕微鏡によって同定可能である(図14b)。尿中エキソソームから抽出した全RNAの分析では、広範囲にわたるサイズのRNA種の存在が指し示されている(図14c)。18Sおよび28SリボソームRNAは認められなかった。PCR分析により、尿中エキソソーム内の腎臓特異的転写物の存在が確かめられた(図14d)。これらのデータは、腎細胞がエキソソームを尿中に離出分離し、これらの尿中エキソソームが腎臓起源の転写物を含むこと、ならびに、このエキソソーム法が、ある種の腎疾患および/または他の医学的状態と関連のある腎臓バイオマーカーを検出しうることを示している。
【0132】
尿中エキソソーム中の腎臓特異的mRNA転写物の存在をさらに確かめるために、6例の個体からの尿試料を用いて、独立したセットの実験を行った。上述した手順に従って、各個体からの200mlの早朝尿試料から、エキソソーム核酸を抽出した。具体的には、全細胞および細胞残渣を遠沈させるために、尿試料を、1000×gの遠心分離から始める分画遠心法にかけた。上清を慎重に取り出して、16,500×gで20分間遠心分離した。続いて、その結果得られた上清を取り出し、エキソソームを含む上清から残った残渣を除去するために、0.8μmフィルターに通して濾過した。続いて、最終的な上清を、100,000×gでの1時間10分間の超遠心にかけた。ペレットをヌクレアーゼ非含有PBSで洗浄した上で、核酸抽出を直ちに行うことのできるエキソソームペレットを得るために、100,000×gで1時間10分間にわたり再び遠心分離した。ペレット化したエキソソームから、Arcturus PicoPure RNA Isolationキットを用いて核酸を抽出し、核酸の濃度および完全性を、Bioanalyzer(Agilent)Picoチップを用いて分析した。図14eに示されているように、尿中エキソソームから単離された核酸は個体ごとに異なる。腎臓バイオマーカーの存在も個体ごとに異なるか否かを検証するために、新たなプライマー対のセットを用いて、アクアポリン1遺伝子、アクアポリン2遺伝子およびキュビリン遺伝子に関するPCR増幅を行った:AQP1用の新たなプライマー対:SEQ ID NO:37およびSEQ ID NO:38;AQP2用の新たなプライマー対:SEQ ID NO:39およびSEQ ID NO:40;CUBN用の新たなプライマー対:SEQ ID NO:41およびSEQ ID NO:42。これらのプライマー対は、スプライシングされ、逆転写されたcDNA断片を特異的に増幅するように設計した。逆転写は、Qiagen Sensiscriptキットを用いて行った。図14fに示されているように、個体1では、おそらくは核酸抽出の失敗のために、増幅が全く認められなかった。AQP1は個体2のみで増幅された。CUBNは個体2および3において増幅された。そして、AQP2は個体2、3、4および5において増幅された。一方、アクチン遺伝子(図14f中に「ハウス」によって表示)は、個体2、3、4、5および6において増幅された。これらのデータは、尿中エキソソームが腎臓特異的mRNA転写物を含むものの、その発現レベルは異なる個体間では異なるという、さらなる証拠を提供する。
【0133】
尿中エキソソーム中のcDNAの存在を検証するために、200mlのヒト尿試料を、100mlの2つの尿試料に分けた。尿中エキソソームを各試料から単離した。一方の試料からのエキソソームはDNアーゼで処理し、もう一方の試料からのものは偽処理した。続いて、各試料からのエキソソームを、PicoPure RNA単離キット(Acturus)を用いた核酸抽出のために溶解させた。これらの核酸を、事前の逆転写を行わないネステッド-PCR増幅(実施例9に記載されたPCRプロトコール)のためのテンプレートとして用いた。アクチン遺伝子を増幅するためのプライマー対は、アクチン-FOR(SEQ ID NO:43)およびActin-REV(SEQ ID NO:44);Actin-nest-FOR(SEQ ID NO:45)およびActin-nest-REV(SEQ ID NO:46)とし、アクチン遺伝子のcDNA配列に基づいて予想される最終的なアンプリコンは100bpであった。図14gに示されているように、100bp断片が陽性対照(ヒト腎臓cDNAをテンプレートとした)、DNアーゼで処理したエキソソームおよび処理しなかったエキソソーム中に存在したが、陰性対照レーン(テンプレートなし)には存在しなかった。このように、アクチンcDNAは、DNアーゼで処理した尿中エキソソーム、および処理しなかった尿中エキソソームの両方に存在する。
【0134】
本方法によって抽出されたほとんどの核酸がエキソソーム内に存在したか否かを検証するために、DNアーゼで処理したエキソソームおよび処理しなかったエキソソームから抽出した核酸を同じ容積の中に溶かして、RNA Picoチップ(Agilent Technologies)を用いて分析した。図14hに示されているように、DNアーゼで処理した試料から単離された核酸の濃度は1,131pg/ulであり、処理しなかった試料からのものは1,378pg/ulであった。すなわち、上記の方法を用いて尿中エキソソームから抽出された核酸の80%超がエキソソームの内側にあった。
【0135】
尿中エキソソームの内容物を体系的に同定するために、尿中エキソソームから核酸を抽出し、シークエンシングのためにBroad instituteに提出した。それぞれ長さ76ヌクレオチドのおよそ1400万個の配列読み取りが生成された。これらの配列読み取りは、尿中エキソソーム内に存在するDNA/RNA転写物の断片に対応する。極めて厳密なアラインメントパラメーター(配列全長にわたって100%の同一性)を用いることで、これらの読み取り物のおよそ15%がヒトゲノムに対してアラインメントされた。このパーセンテージは、より厳密性の低いアラインメント基準を用いた場合には高くなる可能性が高いと考えられる。これらの15%の読み取り物の大半は、タンパク質をコードする遺伝子に対してはアラインメントされず、その代わり、トランスポゾンおよび種々のLinE & SinEリピートエレメントのような非コード性ゲノムエレメントに対してアラインメントされた。注目されることとして、ヒトゲノムに対してアラインメントされないそのような読み取り物の場合、その多くはウイルス配列に対してアラインメントされる。尿中エキソソーム中に含まれる核酸の組成およびレベルが疾患状況に関連して変化する範囲内では、核酸のプロファイルを疾患診断用のバイオマーカーとして本方法に従って用いることができると考えられる。
【0136】
本実施例は、尿中エキソソームを分析するエキソソーム法を用いることで、リスクの高い侵襲的な腎生検を用いることを必要とせずに、糖尿病に関連した腎疾患における腎臓での細胞性変化を判定しうることを実証している。本方法は、糖尿病性腎症などの腎疾患の早期発見のためにエキソソームを用いる、新たな、かつ高感度な診断用ツールを提供する。これは、即時的な介入および治療を可能にすると考えられる。以上を要約すれば、本明細書に記載されたエキソソーム診断の方法および技術は、尿中エキソソーム中に含まれる核酸のある種のプロファイルと関連のある糖尿病性腎症および他の疾患に関して、切望されている診断手段を提供する。
【0137】
実施例12:前立腺癌の診断および尿中エキソソーム
前立腺癌は現在、男性において最も頻度の高い癌である。前立腺癌のリスクはおよそ16%である。2008年に米国では218,000人を上回る男性が診断を受けている。前立腺癌がより早期に発見されるほど、治療が成功する見込みは大きくなる。米国癌学会(American Cancer Society)によれば、前立腺癌が前立腺それ自体の中、または付近の区域にまだ留まっている時点で発見されたならば、相対的5年生存率は98%を上回る。
【0138】
確立している1つの診断方法は、血液中の前立腺特異的抗原(PSA)のレベルの測定を、直腸内診と組み合わせることによって行われる。しかし、PSA検査の感度および特異性はいずれもかなりの改善を要する。この特異性の低さは多数の偽陽性をもたらし、それは必要性がない上に費用もかかる数多くの生検を引き起こす。他の診断方法は、血清および尿などの体液中に認められる前立腺癌細胞における、前立腺癌遺伝子3(PCA3)(Groskopf et al., 2006;Nakanishi et al., 2008)、膜貫通性プロテアーゼセリン2とETS関連遺伝子との融合遺伝子(TMPRSS2-ERG)(Tomlins et al., 2005)、グルタチオンS-トランスフェラーゼπ(Goessl et al., 2000;Gonzalgo et al., 2004)およびα-メチルアシルCoAラセマーゼ(AMACR)(Zehentner et al., 2006;Zielie et al., 2004)を非限定的に含む、新たに同定されたバイオマーカーの遺伝子プロファイルを検出することによって行われる(Groskopf et al., 2006;Wright and Lange, 2007)。これらのバイオマーカーは、前立腺癌細胞における過剰発現のために特異性の向上をもたらす可能性があるが(例えば、PCA3発現は前立腺癌細胞において60〜100倍に増加している)、標本採取の直前に、前立腺細胞を尿中に絞り出すために直腸内診が必要である(Nakanishi et al., 2008)。そのような直腸診察には、尿中に容易に絞り出されるような癌細胞が採取されやすいというバイアス、および費用も時間もかかる医師の参加といった、固有の欠点がある。
【0139】
ここでは、上述した限界を克服するための、これらのバイオマーカーの遺伝子プロファイルを検出する新たな方法を提案する。本方法は、体液からエキソソームを単離する段階、および前記エキソソームからの核酸を分析する段階を含む。本方法の諸手順は、実施例9に詳述したものと同様である。本実施例では、尿試料を、診断が下された4例の前立腺癌患者からのものとした。図15cに示されているように、癌の諸ステージは、グレード、グリーソン(Gleason)ステージおよびPSAレベルの点から特徴づけた。加えて、実施例7に詳述したネステッド-RT-PCRによって分析する核酸は、前立腺癌の新たに同定されたバイオマーカーの中の2つである、TMPRSS2-ERGおよびPCA3とした。TMPRSS2-ERGの増幅に関して、第1の増幅段階のためのプライマー対はTMPRSS2-ERG F1(SEQ ID NO:47)およびTMPRSS2-ERG R1(SEQ ID NO:48)とした;ならびに、第2の増幅段階のためのプライマー対はTMPRSS2-ERG F2(SEQ ID NO:49)およびTMPRSS2-ERG R2(SEQ ID NO:50)とした。予想されるアンプリコンは122塩基対(bp)であり、制限酵素HaeIIによる消化後には2つの断片(一方は68bp、もう一方は54bp)が生じる。PCA3の増幅に関して、第1の増幅段階のためのプライマー対はPCA3F1(SEQ ID NO:51)およびPCA3R1(SEQ ID NO:52)とした;ならびに、第2の増幅段階のためのプライマー対はPCA3F2(SEQ ID NO:53)およびPCA3R2(SEQ ID NO:54)とした。予想されるアンプリコンの長さは152bpであり、制限酵素Sca1による消化後には2つの断片(一方は90bp、もう一方は62bp)が生じる。
【0140】
図15aに示されているように、患者1および2の両方において、TMPRSS2-ERGの予想されるアンプリコンを検出し、かつ予想されるサイズの2つの断片に消化することができたが、患者3および4ではそうではなかった。図15bに示されているように、4例の患者全例において、PCA3の予想されるアンプリコンを検出し、かつ予想されるサイズの2つの断片に消化することができた。このように、PCA3の発現は4例の患者全例からの尿試料において検出することができたが、一方、TMPRSS2-ERGの発現は患者1および2からの尿試料中のみで検出することができた(図15c)。これらのデータは、標本数が少ないために決定的ではないものの、前立腺癌のバイオマーカーの検出におけるこの新たな方法の適用可能性を実証している。さらに、本エキソソーム法は診断には限定されず、前立腺癌に関連した他の医学的状態の予後および/またはモニタリングのために用いることもできる。
【0141】
実施例13:非侵襲的な出生前診断におけるマイクロベシクル
出生前診断は現在、世界中で、確立された産科医療行為の一部となっている。遺伝分析のために胎児組織を入手する従来の方法は、羊水穿刺および絨毛膜試料採取を含むが、これらはいずれも侵襲的であり、出産前の胎児にリスクを及ぼす。臨床遺伝学において、非侵襲的な診断方法を開発することは、長い間にわたる切実な要望である。幅広く研究されてきた1つのアプローチは、母体血漿中の循環性の胎児細胞の発見に基づく。しかし、臨床現場におけるその適用を妨げる障壁が数多くある。そのような障壁には、胎児細胞が稀少であり(1.2個/母体血液1mlに過ぎない)、そのために比較的大容積の血液試料が必要になること、および、過去の妊娠による残留性胎児細胞の半減期が長く、それが偽陽性の原因になりうることが含まれる。もう1つのアプローチは、母体血漿中の胎児DNAの発見に基づく。胎児DNAの量が十分であること、および排出時間が短いことにより、胎児細胞の方法に伴う障壁は克服される。しかしながら、DNAは遺伝性の遺伝情報およびある程度のエピジェネティック(epigenetic)情報を与えるのみであり、これらはいずれも、胎児の医学的状態と結び付いている動的な遺伝子発現プロファイルは表さない。母体血漿中の循環性の胎児RNAの発見(Ng et al., 2003b;Wong et al., 2005)は、非侵襲的な出生前診断のために選択される方法となりうる可能性がある。
【0142】
いくつかの研究により、胎児RNAには高い診断上の価値があることが示唆されている。例えば、胎児性の副腎皮質刺激ホルモン放出因子ホルモン(CRH)転写物の発現増大は、妊娠中の子癇前症(高血圧、浮腫およびタンパク尿によって顕在化する臨床的異常)と関連している(Ng et al., 2003a)。加えて、母体血漿中の胎盤特異的4(PLAC4)mRNAは、異数体妊娠(21トリソミー、ダウン症候群など)に関する非侵襲的検査において首尾良く用いられている(Lo et al., 2007)。さらに、母体血漿中の胎児性ヒト絨毛性ゴナドトロピ(hCG)転写物は、母体宿主における胎児組織の腫瘍性増殖である、妊娠性絨毛性疾患(GTD)のマーカーとなる可能性がある。循環性の胎児RNAは主として胎盤起源である(Ng et al., 2003b)。これらの胎児RNAは早ければ妊娠第4週から検出することができ、そのようなRNAは出産後に急速に排除される。
【0143】
それにもかかわらず、母体血漿中の循環性の胎児RNAを用いる出生前診断にはいくつかの限界がある。第1の限界は、循環性の胎児RNAが循環性の母体RNAと混ざっており、効果的に分離することができないことである。現在のところ、胎児転写物は、ある仮説に基づき、分娩前の妊娠女性ならびに彼女らの児の臍帯血において検出され、さらに出産後24時間以内または36時間以内に母体血液中で著しく減少するか、または存在しなくなるものとして同定される(Maron et al., 2007)。第2の限界は、胎児RNAがどのようにしてパッケージングおよび放出を受けるかが依然として不明であるため、診断感度を高める目的で循環性の胎児RNAを濃縮するための方法が確立されていないことである。これらの限界を克服するための1つの手段は、マイクロベシクルの単離およびその中の胎児RNAの分析にあると考えられる。
【0144】
いくつかの事実から、真核細胞によって離出分離されるマイクロベシクルは、母体血漿中の循環性の胎児RNAの媒体であることが示唆されている。第1に、マイクロベシクル内の循環性のRNAはRNアーゼ分解から保護される。第2に、循環性の胎児RNAは母体血漿中の非細胞性画分に残ることが示されており、このことは、これらの胎児RNAを包含するマイクロベシクルを0.22um膜に通して濾過することができるという見解に合致する。第3に、マイクロベシクルを離出分離することが判明している腫瘍性組織と同様に、偽悪性胎児組織である胎盤細胞もマイクロベシクルを離出分離しうる可能性が非常に高い。このため、1つの新規な非侵襲的な出生前診断の方法は、母体血漿から胎児マイクロベシクルを単離する段階、ならびに続いて、マイクロベシクル内の核酸を、ある種の疾患および/または他の医学的状態と関連のある遺伝子変異体に関して分析する段階を含む。
【0145】
非侵襲的な出生前診断の1つの仮想的な事例は、以下の通りである:末梢血試料を妊娠女性から収集し、胎児特異的なマイクロベシクルを単離および濃縮するために、磁気細胞選別(MACS)または他のアフィニティー精製にかける。マイクロベシクルのペレットをPBS中に再懸濁させて、直ちに用いるか、またはさらに処理するまで-20℃で保存する。単離したマイクロベシクルから、Qiagen RNA抽出キットを製造元の指示に従って用いてRNAを抽出する。RNA内容物を、胎児性のヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)転写物の発現レベルに関して分析する。標準的な範囲と比較してhCGの発現レベルが高いことにより、妊娠性絨毛性疾患(GTD)の発生が指摘され、さらに、胎児におけるこの異常増殖に対する臨床的治療が必要となる。マイクロベシクル技術の感度が高いことから、症状発現の前、または構造変化が超音波検査で検出可能になる前に、GTDを極めて早期に発見することが可能になる。hCG転写物のレベルの標準的な範囲は、正常妊娠による、統計学的に有意な数の循環性の胎児RNA試料を検討することによって決定することができる。
【0146】
この出生前診断方法は、他の疾患または医学的状態と関連のある転写物を検討することによって、そのような疾患または医学的状態の出生前診断および/またはモニタリングへと外挿することができる。例えば、母体血液からの、胎児起源のマイクロベシクルからの未分化型リンパ腫キナーゼ(ALK)核酸の抽出および分析は、キナーゼドメイン内部の突然変異またはALKの発現増大と密接に関連している神経芽腫の非侵襲的な出生前診断法となる(Mosse et al., 2008)。このことから、本明細書に記載されたマイクロベシクルの方法および技術は、切望されている非侵襲的な出生前遺伝子診断の新たな時代を導く可能性がある。
【0147】
実施例14:黒色腫の診断
黒色腫はメラノサイト(色素細胞)の悪性腫瘍であり、ほとんどは皮膚で認められる。これは重篤な型の皮膚癌であり、皮膚癌に関連した全死亡のうち75%に相当する。BRAFの体細胞性活性化突然変異(例えば、V600E)は、ヒト黒色腫の発生において検出される、最も早期の、かつ最も頻度の高い遺伝子異常である。活性化されたBRAFは、黒色腫細胞の周期進行および/または生存を促進する。
【0148】
現在のところ、黒色腫の診断は、身体診察および摘出生検に基づいて下される。しかし、生検は病変内部の限られた数の病巣しか試料採取することができず、偽陽性または偽陰性を生み出す可能性がある。本エキソソーム法は、黒色腫を診断するためのより正確な手段を提供する。以上に考察したように、本方法は、対象の体液からエキソソームを単離する段階、および前記エキソソームからの核酸を分析する段階を含む。
【0149】
黒色腫細胞によって離出分離されたエキソソームがBRAF mRNAを含むか否かを明らかにするために、本発明者らは、エキソソーム枯渇FBSを加えたDMEM培地中で初代黒色腫細胞を培養し、培地中のエキソソームを、実施例2に詳述したものと同様の手順を用いて収集した。初代細胞系はYumelおよびM34とした。Yumel細胞はBRAF中にV600E突然変異を有しておらず、一方、M34細胞はBRAF中にV600E突然変異を有する。エキソソームからRNAを抽出し、続いてBRAF mRNAの存在をRT-PCRによって分析した。PCR増幅のために用いたプライマーは以下であった:BRAF forward(SEQ ID NO:55)およびBRAF reverse(SEQ ID NO:56)。アンプリコンは118塩基対(bp)長であり、これはV600E突然変異が位置するBRAF cDNA配列の部分をカバーする。図16aに示されているように、初代黒色腫細胞(Yumel細胞およびM34細胞)からのエキソソーム中には118bpのバンドが検出されたが、ヒト線維芽細胞または陰性対照からのエキソソーム中には検出されなかった。118bpのPCR産物のバンドの検出が陰性であったことは、黒色腫細胞およびヒト線維芽細胞の両方からのエキソソーム中でGAPDH転写物を検出することができたため、RNA抽出の誤りに起因するのではない(図16b)。V600E突然変異を検出するために、この118bpのPCR産物のシークエンシングをさらに行った。図16cおよび16dに示されているように、YUMEL細胞からのPCR産物は、予想された通り、野生型BRAF mRNAを含む。対照的に、M34細胞からのPCR産物は、予想された通り、BRAFタンパク質のアミノ酸位置600にあるアミノ酸バリン(V)がグルタミン酸(E)によって置き換えられる原因となるT-A点突然変異を伴う突然変異体BRAF mRNAを含む。さらに、正常ヒト線維芽細胞からのエキソソーム中ではBRAF mRNAを検出することができず、このことは、BRAF mRNAがあらゆる組織起源のエキソソーム中に含まれないことを示唆する。
【0150】
これらのデータは、黒色腫細胞が血行中にエキソソームを離出分離すること、およびそれ故に、血清からこれらのエキソソームを単離し、それからの核酸をBRAF中の突然変異(例えば、V600E)の有無に関して分析することによって黒色腫を診断しうることを示唆する。上記の方法はまた、他のBRAF突然変異および他の遺伝子中の突然変異と関連のある黒色腫を診断するために用いることもできる。本方法はまた、BRAFおよび他の核酸の発現プロファイルと関連のある黒色腫を診断するために用いることもできる。
【0151】
実施例15:移植後異常をモニターするための、エキソソームからのMMPレベルの検出。
臓器移植は、臓器不全に対して通常は有効な治療である。腎不全、心疾患、末期の肺疾患および肝硬変はすべて、移植によって有効に治療することのできる異常である。しかし、移植後合併症によって引き起こされる臓器拒絶反応は、同種移植片レシピエントの長期生存のための主要な障害となる。例えば、肺移植では、閉塞性細気管支炎症候群が、生存率に影響する重症合併症である。腎移植では、慢性同種移植片腎症が腎臓同種移植片不全の主因であり続けている。虚血-再灌流障害は心移植後にドナーの心臓を損傷させるとともに、同所性肝移植後にドナー肝臓も損傷させる。これらの移植後合併症は、早期に発見されれば改善される可能性がある。このため、すべての有害な合併症を改善するためには、移植後異常をモニターすることが必須である。
【0152】
細胞外マトリックスにおける変化は、移植後合併症における間質リモデリングの一因となる。マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、細胞外マトリックス(ECM)タンパク質の代謝回転および分解の両方に関与する。MMPはタンパク質加水分解性の亜鉛依存性酵素のファミリーであり、現在までに27個のメンバーが記載されており、多ドメイン構造および基質特異性を呈し、かつ、種々の可溶性因子のプロセシング、活性化または不活性化において働く。血清中MMPレベルは、移植後異常の状況を指し示す可能性がある。実際に、腎移植レシピエントにおいて、循環性のMMP-2は、シスタチンC、移植後期間および糖尿病と関連している(Chang et al., 2008)。MMP-9の不釣り合いな発現は、肺移植後の閉塞性細気管支炎症候群の発症と結び付いている(Hubner et al., 2005)。
【0153】
MMP mRNA(MMP1、8、12、15, 20、21、24、26および27)は、実施例4および表10に示されているように、神経膠芽腫細胞によって離出分離されたエキソソーム中にて検出することができる。本エキソソーム法は体液からエキソソームを単離する段階、および前記エキソソームからの核酸を分析する段階を含み、移植異常をモニターするために用いることができる。エキソソーム単離の手順は、実施例2に詳述したものと同様である。エキソソーム内に含まれる核酸を分析するための本手順は、実施例9に詳述されている。腎移植後のMMP-2の発現レベルの著しい増大は、移植後合併症の開始および/または悪化を指し示すと考えられる。同様に、肺移植後のMMP-9レベルの著しい増大は、閉塞性細気管支炎症候群の開始および/または悪化を示唆する。
【0154】
このため、本エキソソーム法は、移植後合併症と関連のあるMMPタンパク質の発現レベルを決定することによって移植後異常をモニターするために用いることができる。また、本方法は、他のマーカー遺伝子の発現を決定することによって移植後異常をモニターするため、ならびに、他の医学的状態と関連のある核酸の遺伝子プロファイルを決定することによってこれらの医学的状態をモニターするために外挿することができる。
【0155】
実施例16〜18.マイクロベシクルは、治療薬、または治療薬の送達媒体となりうる。
実施例16:マイクロベシクルタンパク質はインビトロでの血管新生を誘導する。
神経膠芽腫マイクロベシクルが血管新生に寄与することを実証するために、ある試験をデザインして実施した。脳内皮細胞系の1つであるHBMVEC(30,000個)(Cell Systems, Catalogue #ACBRI-376, Kirkland, WA, USA)を、マトリゲルでコーティングした24ウェルプレート中のウェル上で、基礎培地(EBM)のみ(Lonza Biologics Inc., Portsmouth, NH, USA)、神経膠芽腫マイクロベシクル(7μg/ウェル)を加えた基礎培地(EBM+MV)、または血管新生因子の混成物(EGM;ヒドロコルチゾン、EGF、FGF、VEGF、IGF、アスコルビン酸、FBSおよびヘパリン;Singlequots)を加えた基礎培地(EBM陽性対照)中において培養した。細管形成を16時間後に測定し、Image Jソフトウエアによって分析した。神経膠芽腫マイクロベシクルの存在下で培養したHBMVECでは、細管長の倍加時間が16時間以内であることが示された。この結果は、血管新生因子の存在下で培養したHBMCECを用いて得られた結果と類似していた(図18a)。これらの結果は、神経膠芽腫由来のマイクロベシクルが、脳内皮細胞における血管新生を惹起する上で役割を果たすことを示している。
【0156】
マイクロベシクル中の血管新生タンパク質のレベルも分析し、神経膠芽腫ドナー細胞におけるレベルと比較した。ヒト血管新生抗体アレイを用いて、本発明者らは、血管新生に関与する19種のタンパク質を検出することができた。具体的には、初代神経膠芽腫細胞または前記細胞から単離した精製マイクロベシクルのいずれかからの総タンパク質を溶解バッファー(Promega, Madison, WI, USA)中で溶解させ、ヒト血管新生抗体アレイ(Panomics, Fremont CA, USA)に対して、製造元の推奨に従って添加した。このアレイをスキャニングし、Image Jソフトウエアによって分析した。図18bに示されているように、19種の血管新生タンパク質のうち7種がマイクロベシクル中で容易に検出され、6種(アンジオゲニン、IL-6、lL-8、TIMP-I、VEGFおよびTIMP-2)は、神経膠芽腫細胞と比較して、総タンパク質ベースでより高いレベルで存在した(図18c)。腫瘍細胞と比較して、マイクロベシクル中に最も濃縮されていた3種の血管新生タンパク質はアンジオゲニン、IL-6および1L-8であり、これらはすべて神経膠腫の血管新生との関連が示されており、より高いレベルであることが悪性度の高さと関連している(25-27)。
【0157】
初代神経膠芽腫細胞から単離したマイクロベシクルは、ヒトU87神経膠腫細胞系の増殖も促進することが見いだされた。これらの試験では、100000個のU87細胞を24ウェルプレート中のウェル内に播種して、(DMEM-5%FBS)中で、または初代神経膠芽腫細胞から単離した125μgのマイクロベシクルを加えたDMEM-5%FBS中で、3日間増殖させた。3日後に、処理しなかったU87細胞(図19a)は、ビュルケル(Burker)チャンバーを用いて算定した数が、マイクロベシクルを加えたもの(図19b)よりも少ないことが見いだされた。添加しなかったU87細胞および添加を行ったU87細胞はいずれも、この期間に数がそれぞれ5倍および8倍に増加した(図19c)。したがって、神経膠芽腫マイクロベシクルは他の神経膠腫細胞の増殖を刺激するように思われる。
【0158】
実施例17:神経膠芽腫マイクロベシクルはHBMVECによって取り込まれる。
神経膠芽腫マイクロベシクルがヒト脳微小血管内皮細胞(HBMVEC)によって取り込まれうることを実証するために、精製した神経膠芽腫マイクロベシクルを、PKH67 Green Fluorescent標識キット(Sigma-Aldrich, St Louis, MO, USA)で標識した。標識されたマイクロベシクルを、培養下にあるHBMVECとともに、4℃で20分間インキュベートした(5μg/50,000個)。細胞を洗浄し、37℃で1時間インキュベートした。PKH67で標識されたマイクロベシクルは、30分以内に、HBMVEC内のエンドソーム様構造の中へのインターナリゼーションを受けた(図17a)。これらの結果は、神経膠芽腫マイクロベシクルが、脳内皮細胞によるインターナリゼーションを受けることができることを示している。
【0159】
蛍光標識したマイクロベシクルを初代神経膠芽腫細胞に添加した場合にも、同様の結果が得られた。
【0160】
実施例18:神経膠芽腫マイクロベシクルによって送達されたmRNAはレシピエント細胞において翻訳されうる。
神経膠芽腫由来のマイクロベシクルmRNAが、レシピエント細胞内に送達されて、そこで発現されうるか否かを明らかにするために、CMVプロモーターを95%を上回る感染効率で用いて、初代ヒト神経膠芽腫細胞を、分泌型ガウシア(Gaussia)ルシフェラーゼ(Gluc)を発現する自己不活性化性のレンチウイルスベクターに感染させた。細胞は安定的な形質導入を受け、その後の継代(継代2〜10回のものを分析した)の間にマイクロベシクルを生成した。上記の通りに、マイクロベシクルを細胞から単離して精製した。RT-PCR分析により、GlucのmRNA(555bp)ならびにGAPDHのmRNA(226bp)がマイクロベシクル中に存在することが示された(図17b)。定量的RT-PCRによる評価では、Gluc mRNAのレベルはGAPDHに関するものよりもはるかに高かった。
【0161】
50マイクログラムの精製マイクロベシクルを50,000個のHBMVE細胞に添加して、24時間インキュベートした。上清中のGluc活性を、マイクロベシクル添加の直後(0時間)ならびに15時間後および24時間後に測定した。上清中のGluc活性を、マイクロベシクルに付随するGlucタンパク質活性に対して標準化した。結果は平均±SEM(n=4)として提示している。具体的には、レシピエントHBMVE細胞における活性により、マイクロベシクルGluc mRNAの持続的な翻訳が実証された。したがって、腫瘍マイクロベシクル中に組み込まれたmRNAをレシピエント細胞内に送達して、機能性タンパク質を生成させることが可能である。
【0162】
すべての実施例における統計分析は、ステューデント(Student)のt検定を用いて行った。
【0163】
参考文献











【0164】
(表1)高感度バイオマーカーとして用いることのできる、神経膠芽腫マイクロベシクル中のRNA
ネステッドRT-PCRを用いて、神経膠腫生検組織、ならびに同じ患者からの凍結血清試料から精製したエキソソームにおけるEGFRvIII mRNAをモニターした。30例の患者からの試料を盲検方式で分析し、各試料に関してPCR反応を少なくとも3回繰り返した。30例の正常対照からの血清中マイクロベシクル中には、EGFRvIII mRNAは見いだされなかった。PP1は、SEQ ID NO:13および14で構成されるプライマー対を指す。PP2は、SEQ ID NO:15および16で構成されるプライマー対を指す。「-」は「該当なし(not available)」を指す。

*腫瘍除去手術後の日数
【0165】
(表2)表3で用いている略号

【0166】
(表3)癌において高い頻度で突然変異している遺伝子
















*Swiss-Prot/Refseqによる。‡D(大欠失)は、多くの劣性癌遺伝子でアレル損失/ヘテロ接合性の消失をもたらす異常を対象として含む。§治療に関連した急性骨髄性白血病の症例を指す。||「突然変異のタイプ」の列におけるO(その他)は、主として、KIT/PDGFRAで認められるような小規模なインフレーム欠失/挿入、ならびにFLT3およびEGFRで認められるような、より大規模な重複/挿入を指す。逆位/大欠失が融合タンパク質をもたらすことが示されている場合、これらは転座の下に列記されていることに注意されたい。Wellcome Trust Sanger研究所のウェブ版の癌-遺伝子セットは、http://www.sanger.ac.uk/genetics/CPG/Census/で見ることができる。A、増幅;AEL、急性好酸球性白血病;AL、急性白血病;ALCL、未分化大細胞リンパ腫;ALL、急性リンパ球性白血病;AML、急性骨髄性白血病;APL、急性前骨髄球性白血病;B-ALL、B細胞急性リンパ球性白血病;B-CLL、B細胞リンパ球性白血病;B-NHL、B細胞非ホジキンリンパ腫;CLL、慢性リンパ性白血病;CML、慢性骨髄性白血病;CMML、慢性骨髄単球性白血病;CNS、中枢神経系;D、大欠失;DFSP、隆起性皮膚線維肉腫;DLBCL、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫;Dom、優性;E、上皮;F、フレームシフト;GIST、消化管間質腫瘍;JMML、若年性骨髄単球性白血病;L、白血病/リンパ腫;M、間葉性;MALT、粘膜関連リンパ組織;MDS、骨髄異形成症候群;MM、多発性骨髄腫;Mis、ミスセンス;N、ナンセンス;NHL、非ホジキンリンパ腫;NK/T、ナチュラルキラーT細胞;NSCLC、非小細胞肺癌;O、その他;プレB-ALL、プレB細胞急性リンパ芽球性白血病;Rec、劣性;S、スプライス部位;T、転座;T-ALL、T細胞急性リンパ芽球性白血病;T-CLL、T細胞慢性リンパ球性白血病;TGCT、精巣胚細胞腫瘍;T-PLL、T細胞前リンパ球性白血病。
【0167】
(表4)癌において高い頻度でアップレギュレートされている遺伝子

No 被験遺伝子に関する発現データが入手可能な研究(癌のタイプ)の数
アップ#またはダウン# 被験遺伝子の発現がアップレギュレートされているか、またはダウンレギュレートされている癌のタイプの数。これらの遺伝子はすべて、大多数のタイプの癌において一貫して有意にアップレギュレートされている(P<10)。
doi:10.137/journal pone. 0001149.001
【0168】
(表5)癌において高い頻度でダウンレギュレートされている遺伝子

これらの遺伝子はすべて、大多数のタイプの癌において一貫して有意にダウンレギュレートされている(P<10-5)。
doi:10.1371/journal.pone.0001149.t002
【0169】
(表6)膵癌において高い頻度でアップレギュレートされている遺伝子






注:アクセッションID「NM_XXXX」は、National Center for Biotechnology information(NCBI)によって、各遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=nuccore)。
【0170】
(表7)膵癌において高い頻度でダウンレギュレートされている遺伝子




注:アクセッションID「NM_XXXX」は、National Center for Biotechnology information(NCBI)によって、各遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=nuccore)。
【0171】
(表8)神経膠芽腫細胞においてアップレギュレートされているマイクロRNA

【0172】
(表9)神経膠芽腫細胞においてダウンレギュレートされているマイクロRNA

【0173】
(表10)神経膠芽腫細胞系から単離されたマイクロベシクル内に含まれるMMP遺伝子

注:遺伝子記号は、Entrz Geneによって指定されている標準的な記号である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene)。アクセッションIDは、National Center for Biotechnology information(NCBI)によって、各遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=nuccore)。
【0174】
(表11)神経膠芽腫において体細胞突然変異を含む遺伝子。出典は、TCGAプロジェクトの結果(McLendon et al., 2008)による。





注:Hugo遺伝子記号は、HUGO Gene Nomenclature Committeeによって、個々の遺伝子に対して指定されている(http://www.genenames.org/)。Entrez_Gene_Idは、Entrz Geneによって個々の遺伝子に対して指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene)。
【0175】
(表12)神経膠芽腫において体細胞突然変異を含む遺伝子。出典は、Parsonsらの論文(Parsons et al., 2008)による。













注:遺伝子記号は、Entrz Geneによって指定されている標準的な記号である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene)。アクセッションID「NM_XXXX」は、National Center for Biotechnology information(NCBI)によって、各遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=nuccore)。アクセッションID「CCDSXXXX」は、National Center for Biotechnology information(NCBI)によって、個々の遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/CCDS/)。アクセッションID「ENSTXXXXXXXXXXX」は、Ensemblによって、個々の遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ensembl.org/index.html)。
【0176】
(表13)膵癌において体細胞突然変異を含む遺伝子。出典は、Jonesらの論文(Jones et al., 2008)による。









注:遺伝子記号は、Entrz Geneによって指定されている標準的な記号である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene)。アクセッションID「NM_XXXX」は、National Center for Biotechnology information(NCBI)によって、各遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=nuccore)。アクセッションID「CCDSXXXX」は、National Center for Biotechnology information(NCBI)によって、個々の遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/CCDS/)。アクセッションID「ENSTXXXXXXXXXXX」は、Ensemblによって、個々の遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ensembl.org/index.html)。
【0177】
(表14)乳癌において体細胞突然変異を含む遺伝子。出典は、Woodらの論文(Wood et al., 2007)による。








注:遺伝子記号は、Entrz Geneによって指定されている標準的な記号である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene)。アクセッションID「NM_XXXX」は、National Center for Biotechnology information(NCBI)によって、各遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=nuccore)。
【0178】
(表15)結腸直腸癌において体細胞突然変異を含む遺伝子。出典は、Woodらの論文(Wood et al., 2007)による。






注:遺伝子記号は、Entrz Geneによって指定されている標準的な記号である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=gene)。アクセッションID「NM_XXXX」は、National Center for Biotechnology information(NCBI)によって、各遺伝子に対して一意的に指定されている(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=nuccore)。
【図1−1】

【図1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における疾患または他の医学的状態の検出を助ける、診断方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)対象由来の生体試料からマイクロベシクル(microvesicle)画分を単離する段階;
(b)マイクロベシクル画分内のバイオマーカーの有無を検出する段階であって、該バイオマーカーが疾患または他の医学的状態と関連している段階。
【請求項2】
対象における疾患または他の医学的状態の状況のモニタリングを助ける、モニタリング方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)対象由来の生体試料からマイクロベシクル画分を単離する段階;
(b)マイクロベシクル画分内のバイオマーカーの有無を検出する段階であって、該バイオマーカーが疾患または他の医学的状態と関連している段階。
【請求項3】
疾患または他の医学的状態を有する対象における治療効能の評価を助ける、評価方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)対象由来の生体試料からマイクロベシクル画分を単離する段階;
(b)マイクロベシクル画分内のバイオマーカーの有無を検出する段階であって、該バイオマーカーが疾患または他の医学的状態に対する治療効能と関連している段階。
【請求項4】
生体試料が体液の試料である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
バイオマーカーが、
(i)ある種の核酸;
(ii)核酸の発現レベル;
(iii)核酸変異体;または
(iv)それらの組み合わせ、
である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
バイオマーカーがメッセンジャーRNA、マイクロRNA、siRNAまたはshRNAである、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
バイオマーカーがDNA、一本鎖DNA、相補的DNAまたは非コードDNAである、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
疾患または他の医学的状態が、新生物性の疾患または異常である、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
バイオマーカーが、表3〜15のいずれかに列記された核酸、またはその変異体である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
疾患または他の医学的状態が神経膠芽腫である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
バイオマーカーが、表8〜12のいずれかに列記された核酸、またはその変異体である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
バイオマーカーがマイクロRNA-21である、請求項8〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
バイオマーカーが、腫瘍の臨床的に別個のタイプまたはサブタイプと関連している、請求項8記載の方法。
【請求項14】
バイオマーカーがEGFR遺伝子の変異体である、請求項1〜13のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
バイオマーカーがEGFRvIII突然変異である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
バイオマーカーが前立腺癌と関連している、請求項8記載の方法。
【請求項17】
バイオマーカーが、TMPRSS2-ERG、PCA-3、PSA、またはそれらの変異体である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
バイオマーカーが黒色腫と関連している、請求項8記載の方法。
【請求項19】
バイオマーカーがBRAF変異体である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
バイオマーカーが、let-7a;miR-15b;miR-16;miR-19b;miR-21;miR-26a;miR-27a;miR-92;miR-93;miR-320およびmiR-20からなる群より選択される1つまたは複数の核酸の発現レベルである、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
疾患または他の医学的状態が代謝性の疾患または異常である、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
代謝性の疾患または異常が、糖尿病、炎症または周産期異常である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
代謝性の疾患または異常が鉄代謝と関連している、請求項21記載の方法。
【請求項24】
バイオマーカーが、ヘプシジンをコードする核酸、またはその断片もしくは変異体である、請求項21記載の方法。
【請求項25】
医学的状態が移植後異常である、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
バイオマーカーが、マトリックスメタロプロテイナーゼのファミリーのメンバーをコードするmRNAである、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
バイオマーカーが、表10に列記された核酸である、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
疾患または他の医学的状態が癌であり、かつバイオマーカーがKras遺伝子の核酸変異体である、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
マイクロベシクル画分中のマイクロベシクルが、約30nm〜約800nmの範囲にある直径を有する、請求項1〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
範囲が約30nm〜約200nmである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
段階(a)が、サイズ排除クロマトグラフィー、密度勾配遠心法、分画遠心法、ナノ膜限外濾過、免疫吸着捕捉(immunoabsorbent capture)、アフィニティー精製、マイクロ流体分離(microfluidic separation)、またはそれらの組み合わせによって行われる、請求項1〜30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
バイオマーカーが核酸である方法であって、核酸の増幅をさらに含む、請求項1〜31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
検出する段階(b)が、マイクロアレイ分析、PCR、アレル特異的プローブとのハイブリダイゼーション、酵素的突然変異検出、ライゲーション連鎖反応(LCR)、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)、フローサイトメトリーヘテロ二重鎖分析、ミスマッチ化学切断法、質量分析、核酸シークエンシング、一本鎖高次構造多型(SSCP)、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、温度勾配ゲル電気泳動(TGGE)、制限断片多型、遺伝子発現連続分析(serial analysis of gene expression)(SAGE)、またはそれらの組み合わせによって行われる、請求項1〜32のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
特定のタイプの細胞に由来する選択的マイクロベシクル画分の単離をさらに含む、請求項1〜33のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
細胞が腫瘍細胞である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
マイクロベシクル画分が、肺、膵臓、胃、腸、膀胱、腎臓、卵巣、精巣、皮膚、結腸直腸、乳房、前立腺、脳、食道、肝臓、胎盤、胎児の細胞、またはそれらの組み合わせに由来する、請求項34記載の方法。
【請求項37】
選択的マイクロベシクル画分が、基本的に尿中マイクロベシクルからなる、請求項34記載の方法。
【請求項38】
対象における疾患または他の医学的状態の検出を助ける、診断方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)対象由来の生体試料を入手する段階;および
(b)生体試料内のマイクロベシクルの濃度を決定する段階。
【請求項39】
対象における疾患または他の医学的状態の状況のモニタリングを助ける、モニタリング方法であって、以下の段階を含む方法:
(a)対象由来の生体試料を入手する段階;および
(b)生体試料内のマイクロベシクルの濃度を決定する段階。
【請求項40】
濃度を決定する段階の前に、生体試料からマイクロベシクル画分を単離する段階をさらに含む、請求項38または39記載の方法。
【請求項41】
単離する段階が、サイズ排除クロマトグラフィー、密度勾配遠心法、分画遠心法、ナノ膜限外濾過、免疫吸着捕捉、アフィニティー精製、マイクロ流体分離、またはそれらの組み合わせによって行われる、請求項40記載の方法。
【請求項42】
マイクロベシクル画分が特定のタイプの細胞に由来する、請求項40または41記載の方法。
【請求項43】
細胞が腫瘍細胞である、請求項42記載の方法。
【請求項44】
マイクロベシクル画分が、肺、膵臓、胃、腸、膀胱、腎臓、卵巣、精巣、皮膚、結腸直腸、乳房、前立腺、脳、食道、肝臓、胎盤、胎児の細胞、またはそれらの組み合わせに由来する、請求項42記載の方法。
【請求項45】
選択的マイクロベシクル画分が、基本的に尿中マイクロベシクルからなる、請求項42記載の方法。
【請求項46】
マイクロベシクルが、約30nm〜約800nmの範囲にある直径を有する、請求項38〜45のいずれか一項記載の方法。
【請求項47】
範囲が約30nm〜約200nmである、請求項46記載の方法。
【請求項48】
個体中の標的細胞に核酸またはタンパク質を送達するための方法であって、核酸もしくはタンパク質を含む1つもしくは複数のマイクロベシクル、またはそのようなマイクロベシクルを産生する1つもしくは複数の細胞を、マイクロベシクルが個体の標的細胞に入るように個体に投与する段階を含む、方法。
【請求項49】
マイクロベシクルが脳細胞に送達される、請求項48記載の方法。
【請求項50】
送達される核酸が、siRNA、shRNA、mRNA、マイクロRNA、DNA、またはそれらの組み合わせである、請求項48または49記載の方法。
【請求項51】
体液輸注を行うための方法であって、すべてもしくは実質的にすべてのマイクロベシクルを含まない、または特定の細胞タイプ由来のすべてもしくは実質的にすべてのマイクロベシクルを含まない、ドナー体液の画分を入手する段階、およびマイクロベシクル非含有画分を患者に導入する段階を含む、方法。
【請求項52】
細胞タイプが腫瘍細胞タイプである、請求項51記載の方法。
【請求項53】
体液が血液、血清または血漿である、請求項51または52記載の方法。
【請求項54】
すべてもしくは実質的にすべてのマイクロベシクルを含まない体液試料、または特定の細胞タイプ由来のすべてもしくは実質的にすべてのマイクロベシクルを含まない体液試料を含む、組成物。
【請求項55】
体液が血液、血清または血漿である、請求項54記載の組成物。
【請求項56】
体液輸注を行うための方法であって、ドナー体液の、マイクロベシクルに富む画分を入手する段階、およびマイクロベシクルに富む画分を患者に導入する段階を含む、方法。
【請求項57】
画分が、特定の細胞タイプに由来するマイクロベシクルに富む、請求項56記載の方法。
【請求項58】
体液が血液、血清または血漿である、請求項56または57記載の方法。
【請求項59】
マイクロベシクルに富む体液の試料を含む、組成物。
【請求項60】
マイクロベシクルが特定の細胞タイプに由来する、請求項59記載の組成物。
【請求項61】
体液が血液、血清または血漿である、請求項59または60記載の組成物。

【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図3g】
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【図3h】
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【図3i】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2011−510663(P2011−510663A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545256(P2010−545256)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【国際出願番号】PCT/US2009/032881
【国際公開番号】WO2009/100029
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】