説明

医用撮影システム、医用画像情報処理装置および撮影作業支援プログラム

【課題】被写体撮影により診断用画像を取得する際に、撮影業務を行う技師の作業負担を軽減するとともに、ぶれが少なく診断に適した画像を得る。
【解決手段】技師が画像の確認に使用する情報処理装置において、診断用画像のぶれとして許容可能なぶれの大きさを予め許容量として設定しておき、画像に含まれるエッジを画像上に定義された複数の方向について検出してそれぞれの特徴量を算出し、算出した特徴量に基づいて画像のぶれの大きさや方向を自動的に判別する処理を実行する。さらに、判別されたぶれの大きさを設定された許容量と比較することにより、画像のぶれが診断用画像のぶれとして許容可能な大きさか否かを自動的に判定する。許容不可能と判定したときには、被写体の再撮影を要求するメッセージなどを情報処理装置の画面に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用撮影システムと、そのシステムを構成する情報処理装置と、コンピュータを使って前記システムによる撮影作業を支援するためのプログラムに関する。詳しくは、被写体の撮影で常にぶれの少ない画像が得られるようにするための機能に関する。
【背景技術】
【0002】
病院や診療所では、X線撮影装置などの撮影装置(以下、モダリティ)を使った検査が行われることがある。通常このような検査では、撮影業務を専門に行う技師がモダリティを操作し、モダリティが生成した画像をワークステーションなどの画面に表示して、検像を行う。ここで、「検像」とは画像に不具合がないことの確認や、不具合があった場合にそれを修正することを意味する。技師による検像が完了した画像は、PACS(Picture Archiving and Communication System)の画像サーバへと転送され、保管され、放射線部門(あるいは診療部門)の医師により診断に利用される。このようなシステムでは、技師による検像が適切かつ迅速に行われることが求められる。
【0003】
検像時に修正すべき不具合の1つに、画像のぶれがある。画像のぶれは、撮影の最中に被写体の身体が動いてしまったときに生じる。また、心臓などの臓器の撮影では、被写体の身体が固定されていても画像にぶれが生じることがある。このため、技師は、検像の際に、個々の画像についてぶれの有無を確認し、ぶれ量が診断を行う上で許容できる大きさか否か判断し、許容できないほどに大きなぶれであれば撮影をやり直していた。
【0004】
この問題に対し、画像のぶれ量(位置変化量)を算出し、算出されたぶれ量に応じて画像のぶれを自動的に補正する撮影装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置によれば、ぶれが生じた場合の再撮影が不要になるため、技師の作業効率は向上する。しかし、病変の大きさに比してぶれ量が大きい場合には、自動補正により病変周辺の画像が変化してしまい、診断に支障をきたすおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、診断への影響が懸念される場合には再撮影を行うことを前提として、そのために技師が行わなければならない作業を支援し、技師の負担を軽減しつつ、診断に適したぶれの少ない画像を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するための撮影システムと、そのシステムを構成する情報処理装置と、コンピュータをそのような情報処理装置として機能させるためのプログラムを提供する。
【0008】
本発明の医用撮影システムは、被写体撮影により得た情報に基づいて医用画像を生成する画像生成装置と、前記画像生成装置が生成した医用画像を表示し得る画面を備えた情報処理装置とを備えた撮影システムであって、前記情報処理装置として次の特徴を有する装置を備えたものである。そして、以下に説明する情報処理装置が、本発明の情報処理装置である。
【0009】
この情報処理装置は、診断用画像のぶれとして許容可能なぶれの大きさを許容量として設定する許容量設定手段を備え、さらに画像生成装置が生成した医用画像に含まれるエッジを医用画像上に定義された複数の方向についてそれぞれ検出するエッジ検出手段と、エッジ検出手段が各方向において検出したエッジについて、それぞれの特徴量を算出し、その特徴量に基づいて医用画像のぶれの大きさを判別するぶれ具合判別手段を備える。
【0010】
また、この情報処理装置は、ぶれ具合判別手段により判別されたぶれの大きさを、許容量設定手段により設定された許容量と比較することにより、その医用画像のぶれが診断用画像のぶれとして許容可能な大きさか否かを判定する判定手段と、判定手段が許容不可能と判定したときに、被写体の再撮影を要求する情報を出力する再撮影要求手段とを備える。
【0011】
許容量設定手段は、診断用画像のぶれとして許容可能なぶれの大きさを検査目的および/または撮影部位ごとに記憶しており、被写体撮影の際に指定された検査目的および/または撮影部位について記憶されているぶれの大きさを前記許容量として設定することが好ましい。
【0012】
また、本発明の撮影作業支援プログラムは、被写体を撮影するところから撮影により得られた医用画像を確認し必要に応じて不具合を修正して保存するまでの作業をコンピュータにより支援するためのプログラムであって、以下に説明する許容量設定処理、エッジ検出処理、ぶれ具合判別処理、判定処理および再撮影要求処理を、コンピュータに実行させるものである。
【0013】
許容量設定処理は、診断用画像のぶれとして許容可能なぶれの大きさを許容量として設定する処理である。許容量設定処理では、診断用画像のぶれとして許容可能なぶれの大きさを検査目的および/または撮影部位ごとに予めメモリに記憶しておき、被写体撮影の際に指定された検査目的および/または撮影部位について記憶されているぶれの大きさを前記許容量として設定することが好ましい。
【0014】
エッジ検出処理は、医用画像に含まれるエッジを、その医用画像上に定義された複数の方向についてそれぞれ検出する処理である。また、ぶれ具合判別処理は、エッジ検出処理において前記方向ごとに検出したエッジについて、それぞれの特徴量を算出し、該特徴量に基づいて前記医用画像のぶれの大きさを判別する処理である。
【0015】
判定処理は、ぶれ具合判別処理において判別されたぶれの大きさを、許容量設定処理により設定された許容量と比較することにより、その医用画像のぶれが診断用画像のぶれとして許容可能な大きさか否かを判定する処理であり、再撮影要求処理は、判定処理において許容不可能との判定がなされたときに、被写体の再撮影を要求する情報を出力する処理である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の撮影システム、情報処理装置および撮影作業支援プログラムによれば、被写体撮影により得られた医用画像のぶれ具合が自動的に判別され、診断への影響が懸念されるような大きなぶれであれば再撮影を要求するメッセージが出力される。このため、ぶれ具合の確認の負担が軽減され、不必要な再撮影を防止することができる。
【0017】
また、再撮影の要否の判断基準となる閾値(許容量)を、検査目的や撮影部位に応じて代えるようにすれば、技師の熟練度に拘わらず画像ごとに最適な基準で再撮影の要否が判断され、再撮影の回数を必要最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、病院の画像保管システムの概略構成を示す図である。図に示すように、このシステムは、モダリティ1a〜1d、画像確認用ワークステーション2、サーバ3、画像診断用ワークステーション4、画像参照用ワークステーション5a〜5c、放射線情報システム6(RIS:Radiology Information System)および図示しない病院情報システム(HIS:Hospital Information System)などにより構成され、それらはネットワーク7を介して互いに通信可能な状態で接続されている。
【0019】
このうち、モダリティ1a〜1dと画像確認用ワークステーション2からなる撮影系が本発明の医用撮影システムの一実施形態に相当する。また、画像確認用ワークステーション2が本発明の情報処理装置の一実施形態に相当し、画像確認用ワークステーション2の後述する機能を実現するソフトウェアプログラムが、本発明の撮影作業支援プログラムに相当する。
【0020】
モダリティ1a〜1dと画像確認用ワークステーション2、すなわち撮影システムは、病院の撮影室に配置され、通常、撮影業務を専門に行う技師により操作される。
【0021】
モダリティ1a〜1dには、CT、MR、超音波撮影のように被写体撮影により得られたデータから直接画像データを生成するタイプと、CR(Computed Radiography)、マンモグラフィーのように被写体撮影により得た画像をフィルムその他の記録媒体に記録し、記録媒体から画像を読み取ることにより画像データを生成するタイプのものがある。後者のタイプのモダリティでは、記録媒体から画像を読み取る読取装置がネットワーク7に接続される。また、本実施形態では、モダリティ1a〜1dは、いずれもDICOM規格に準拠する装置であり、各モダリティ1a〜1dは、生成した画像データにDICOM規格で規定された付帯情報を付加したものを画像情報として出力する。
【0022】
画像確認用ワークステーション2は、処理装置と1台または2台の高精細ディスプレイとキーボード・マウスなどの入力機器により構成される。この処理装置には、検像に必要な機能、すなわち画像を表示したり表示された画像に対して濃度調整その他の画像処理を施すことを可能にしたりするソフトウェアプログラムが組み込まれている。また、画像確認用ワークステーション2は、モダリティ1a〜1dからDICOMに準拠した画像情報を受信し、検像済みの画像情報をサーバ3に転送するための通信機能を備える。
【0023】
サーバ3は、PACSの中核をなすコンピュータで、汎用の処理装置に、画像確認用ワークステーション2から転送された画像情報を大容量ストレージ8に記憶するファイリングシステムの機能と、ファイリングされた画像情報を画像診断用ワークステーション4や画像参照用ワークステーション5からの要求に応じて参照可能な形式で提供する画像サーバとしての機能を組み込んだものである。なお、大容量ストレージ8は、サーバ3に直接接続されたハードディスクに限らず、ネットワーク7に接続されているNAS(Network Attached Storage)やSAN(Storage Area Network)でもよい。いずれの構成を採用する場合も、耐障害性を高めるべくRAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)とすることが望ましい。
【0024】
画像診断用ワークステーション4と、放射線情報システム6は、放射線科の医師(以下、放射線科医)により利用される。
【0025】
画像診断用ワークステーション4は、放射線科医が画像の読影に利用する装置であり、処理装置と1台または2台の高精細ディスプレイとキーボード・マウスなどの入力機器により構成される。この処理装置には、放射線科医による診断を支援する機能、例えば画像中の病変らしき部分を自動検出して強調表示する機能や、診断レポートの作成を支援する機能などを提供するソフトウェアプログラムが多数組み込まれている。また、画像診断用ワークステーション4は、サーバ3にアクセスしてDICOMに準拠した画像情報を取得したり、診断レポートなど診断に係る情報をサーバ3に転送したりするための通信機能を備える。
【0026】
放射線情報システム6は、放射線科医と技師との連携を助け、検査の効率化を図るための各種機能を提供するシステムであり、1台もしくは複数台のコンピュータにより構成される。放射線情報システム6の一機能として、診療科もしくは放射線科の医師が入力した検査オーダに基づいて撮影に使用するモダリティを割り当てる機能がある。検査オーダに含まれている患者コード、患者名、検査コード、検査名、検査日などの情報は、この機能よりモダリティ1a〜1dや画像確認用ワークステーション2に転送される。本実施形態では、放射線情報システム6からモダリティ1a〜1dへのデータ転送は、DICOMのMWM(Modality Worklist Management)に準拠して行われ、モダリティ1a〜1dから放射線情報システム6へのデータ転送は、DICOMのMPPS(Modality Performed Procedure Step)に準拠して行われる。
【0027】
転送された情報は、モダリティ1a〜1dもしくは画像確認用ワークステーション2により、生成された医用画像と関連付けられる。関連付けの方法としては、検査オーダの情報を付帯情報としてそのまま画像に付与する方法や、検査オーダの情報へのリンク情報を付帯情報として画像に付与する方法などが考えられるが、データの構造は特に限定されない。
【0028】
画像参照用ワークステーション5a〜5cは各診療科にそれぞれ配置される装置で、診療科の医師(以下、診療科医)が、サーバ3に保管されている画像情報および放射線科医が作成した診断レポートを参照する際に利用される。画像参照用ワークステーション5は、画像診断用ワークステーション4と同じく処理装置と高精細ディスプレイとキーボード・マウスなどの入力機器により構成される。この処理装置には、サーバ3に保管されている上記各情報を参照する機能を提供するソフトウェアプログラムが組み込まれている。
【0029】
ネットワーク7は、病院内の各種装置を接続するローカルエリアネットワークである。但し、例えば画像参照用ワークステーション5の一部を他の病院あるいは診療所に設置する場合には、ネットワーク7は、ローカルエリアネットワーク同士がインターネットもしくは専用回線で接続された構成となる。いずれの場合にも、ネットワーク7は光ネットワークなど画像情報の高速転送を実現できるものとすることが望ましい。
【0030】
上記システムでは、放射線情報システム6にオーダ情報が入力されると、オーダ情報は撮影に使用されるモダリティと画像確認用ワークステーション2に転送され、技師による被写体撮影が行われる。撮影が終了するとモダリティから出力された画像情報が、画像確認用ワークステーション2の画面に表示され、技師による検像が行われる。検像終了後の画像情報は、サーバ3に転送されストレージ8にファイリングされる。ファイリングされた画像情報は、放射線科医からの要求に応じて画像診断用ワークステーション4の画面に表示され、放射線科医による診断が行われる。診断が終了すると、診断レポートなど診断時に生成された情報がサーバ3に転送され、画像情報と関連付けられてストレージ8にファイリングされる。ファイリングされた全情報は、診療科医からの要求に応じて画像参照用ワークステーション5a〜5cの画面に表示される。
【0031】
以下、本発明の医用画像情報処理装置の一実施形態に相当する画像確認用ワークステーション2について、さらに説明する。前述のとおり、画像確認用ワークステーション2は、処理装置と高精細ディスプレイとキーボード・マウスなどの入力機器により構成され、処理装置には検像のための各種機能を提供するプログラムが組み込まれている。そして、そのようなプログラムの1つとして、モダリティ1a〜1dから供給された医用画像のぶれが診断に支障をきたすほどに大きい場合に再撮影を要求するメッセージの表示もしくは音声の出力を行う撮影作業支援機能を提供するプログラムが組み込まれている。
【0032】
また、この処理装置のメモリには、許容できるぶれの大きさを示す許容量設定値が記憶されている。本実施形態では、許容量設定値は、検査目的や撮像部位ごとの値として記憶されている。例えば、検査目的が骨折の有無を調べることであり、撮影部位が下肢の場合には、数十画素のぶれがあっても診断に大きな支障はないため、許容量設定値として比較的大きな値が設定される。同じく骨折の有無を調べる検査であっても、撮影部位が手指の場合には、撮影部位が下肢の場合よりも小さい値が設定される。また、直径が十数画素〜数十画素の微小石灰をみつけることが検査の目的のときは、許容量設定値は十画素以下に設定される。許容量設定値は、処理装置に組み込まれた他のプログラムが提供する設定変更機能により、変更することもできる。
【0033】
図2は、撮影作業支援プログラムが画像確認用ワークステーション2の処理装置に実行させる処理の概略を示すフローチャートである。図に示すように、処理装置はモダリティ1a〜1dから画像情報を取得して、処理装置内のメモリに格納する(S101)。次に、画像情報と関連付けられている検査オーダの情報を参照することにより、その画像情報の検査目的および撮影部位を判別する(S102)。続いて、メモリに記憶されている検査目的や撮像部位ごとの許容量設定値の中から、判別した検査目的および撮影部位に対応する許容量設定値を選択し、処理中の画像のぶれ許容量として設定する(S103)。
【0034】
続いて、処理装置は、画像情報に含まれる医用画像(画像データ)を処理装置内のフレームメモリに格納し、エッジ検出を行う(S104)。
【0035】
エッジの検出には公知のあらゆるエッジ検出技術を利用することができるが、本実施形態では、以下に説明する手順でエッジを検出する。まず、フレームメモリに格納された画像に対し縮小処理を施して縮小画像を得る。続いて、その縮小画像を使い、8方向の直線について所定以上のエッジ強度を有するエッジを探索する。エッジの探索を行う方向は、図3に示すように、22.5度ずつずれた方向とする。なお、以下の説明では、各方向を符号D1〜D8により区別することとする。
【0036】
続いて、各方向において探索により検出されたエッジの、縮小前のもとの画像における座標位置を算出し、検出されたエッジの座標位置に基づいて、横軸を位置、縦軸を画素値とするエッジプロファイルを作成する。図4に、エッジプロファイルの一例を示す。
【0037】
続いて、処理装置は、各方向において検出されたエッジについて、上記エッジプロファイルを使ってエッジの特徴量を算出し、その特徴量に基づいて各方向のぶれ具合を判別する(S105)。ここでは、特徴量としてエッジ幅を算出する。ここで、エッジ幅とは、図4に示すようにエッジの立ち上がりの位置から画素値がほぼピークに達した位置までの距離である。そして、算出されたエッジ幅のデータから、エッジ幅を横軸、エッジの発生頻度を縦軸とする方向ごとのヒストグラム(以下、単にヒストグラムと称する)を生成する。図5にヒストグラムの一例を示す。
【0038】
図6は、ヒストグラムを使ったぶれ具合の判別方法について説明するための図である。図6(a)は、ぶれのある画像とぶれのない画像のヒストグラムを重ねて表示したものである。この図に示されるように、一般にぶれのない画像は、ぶれのある画像に比べてエッジ幅が小さくなる。このため、本実施形態では、各方向のエッジ幅の平均値(平均エッジ幅)を算出し、平均エッジ幅が最も大きい方向の平均エッジ幅の値を閾値T1と比較する。ここで、閾値T1は、ぶれがないことがわかっている画像と、ぶれがあることがわかっている画像を使って、両者を区別する境界となり得る平均エッジ幅を調べ、その平均エッジ幅を閾値T1としたものである。医用画像のぶれの有無は、平均エッジ幅が最も大きい方向の平均エッジ幅が閾値T1以上であれば「ぶれ有」、閾値T1より小さければ「ぶれ無」と判断する。
【0039】
また、画像のぶれには方向性があるぶれと方向性がないぶれがある。被写体が動いたことにより発生するぶれは通常方向性を有しているが、心臓の拡張収縮により生じたぶれなどは方向性がない。上記ヒストグラムによれば、これら2種類のぶれも判別することができる。
【0040】
図6(b)および図6(c)は、いずれも図3のD1とD5のように直行する2方向のヒストグラムを重ねて表示したものであるが、図6(b)は、方向性のあるぶれを含む画像のヒストグラムを表しており、図6(c)は方向性がないぶれを含む画像のヒストグラムを表している。図からわかるように、ぶれに方向性がある場合には、直行する2方向のヒストグラムには相関性がなく、ぶれに方向性がない場合には、直行する2方向のヒストグラムの間に相関性がみられる。よって、2方向のヒストグラムの相関性を利用すれば、方向性の有無および方向性がある場合のぶれの方向を求めることができる。
【0041】
そこで、本実施形態では、図3に示した方向D1〜D8を、互いに直行する方向同士が同じ組になるようにD1とD5、D2とD6、D3とD7、D4とD8の4組に分け、各方向組について、それぞれヒストグラムの相関値を求める。なお、相関値には、相関が大きいほど値が大きくなる相関値と、相関が小さいほど値が大きくなる相関値があるが、本実施形態では、前者のタイプの相関値を採用している。
【0042】
続いて、求められた相関値が最も小さかった組の相関値を、閾値T2と比較する。ここで、閾値T2は、ぶれに方向性があることがわかっている画像と、ぶれに方向性がないことがわかっている画像を使って、両者の境界となり得る相関値を調べ、それを閾値T2としたものである。そして、求められた相関値が最も小さかった組の相関値が閾値T2以上であれば方向性のないぶれ、閾値T2より小さければ方向性のあるぶれと判断する。
【0043】
方向性のあるぶれの場合には、閾値T2と比較された相関値が求められた組を構成する2方向のうち、平均エッジ幅が大きいほうの方向をその画像のぶれの方向とし、その方向の平均エッジ幅をその画像のぶれの大きさLとする。一方、方向性がないぶれの場合には、全方向の平均エッジ幅の平均値を、その画像のぶれの大きさLとする。
【0044】
図7は、以上に説明したぶれ具合の判別方法を図にまとめたものである。図に示すように、各ヒストグラムを生成したら、まず、下記(1)式が満たされるか否か判定する。
max(各方向の平均エッジ幅) > 閾値T・・・(1)
(1)式が満たされなければ、その画像はぶれのない画像とみなし、(1)式が満たされていれば、続いて下記(2)式が満たされるか否か判定を行う。
min(各方向組の相関値) < 閾値T・・・(2)
(2)式が満たされていれば、その画像は方向性のあるぶれを含むものであり、(2)式が満たされていなければ、方向性のないぶれを含む画像とみなす。
【0045】
以下、再び図2を参照して説明する。前述したとおり、ぶれ具合判別ステップS105では、ぶれの種類に応じた方法で、ぶれの方向とぶれの大きさLとが求まることになる。そこで次に、ぶれの大きさLを、ステップS103において設定されたぶれ量の許容量と比較することにより、その画像が診断用画像として利用可能か否かを判定する(S106)。
【0046】
ぶれの大きさLが許容量よりも大きいときには、処理装置はディスプレイに再撮影を要求するメッセージもしくは再撮影の必要を示唆するメッセージを出力する(S107)。図8に、再撮影を要求するメッセージが出力された画面の例を示す。あるいは、画像確認用ワークステーション2がスピーカを備えている場合には、同様のメッセージを音声として出力してもよい。一方、ぶれの大きさLが許容量以下のときには、そのようなメッセージは出力しない。ぶれの大きさLが許容量以下のときには、画像処理によりぶれを自動補正するようにしてもよい。ぶれの補正には、公知の技術を用いることができる。
【0047】
なお、上記例ではエッジを探索するときの方向を8方向としているが、探索方向の数は必ずしも8方向には限定されない。また上記例では、ぶれ具合を判別するためのエッジ特徴量としてエッジ幅を利用しているが、判別に利用する特徴量はエッジ幅には限定されず、他の特徴量であってもよい。
【0048】
また、ぶれの大きさLが許容量以下のときの処理としては、補正を行うか否かを問いかけるメッセージを画面に出力し、補正に係る指示入力があったときのみ補正を行う処理なども考えられる。ぶれの補正を行う場合には、検査目的ごと撮影目的ごとに最適なぶれ補正プログラムを用意しておき、ステップS102において判別された検査目的や撮影部位に基づいて最適な処理プログラムを選択して画像処理を行うようにしてもよい。さらには、ステップS102において判別された検査目的や撮影部位に基づいて補正の要否を判定し、特定の検査目的や撮影部位についてのみ自動補正を行うようにしてもよい。
【0049】
以上に説明したように、本実施形態のシステムでは、画像確認用ワークステーション2がモダリティ1a〜1dから転送された画像について自動的にぶれ具合を判別し、ぶれが診断に影響しそうな場合には、再撮影を要求するメッセージを出力する。このため、目視によるぶれ判別に労力を費やすことなく再撮影が必要な画像を素早く認知することができ、技師の負担が軽減されるのみならず、患者を長く検査室に留める必要もなくなる。
【0050】
また、従来、画像のぶれが診断を行う医師の目からみて許容できるものか否かを技師が正確に判断するためには、技師自身が検査の目的や部位ごとの注目箇所を十分に理解しなければならなかった。これは大病院など、多くの診療部門からの多種多様な検査依頼が発生する環境では、技師にとって大きな負担となっていた。本実施形態のシステムは、検査目的や撮影部位に応じた最適な判断基準で再撮影の要否を判断するものであるため、上記のような技師の負担を軽減することができ、さらには技師の熟練度によらず常に再撮影の回数を必要最小限に抑えることができる。
【0051】
また、本実施形態のシステムによれば、診断の段階になって再撮影が必要であることがわかり診断が中断されるということもなくなる。さらには、ぶれの大きな画像や不必要に補正された画像が診断医のもとに回ることもないので、診断の質の向上にもつながる。
【0052】
このように、本発明は、技師をはじめとする病院関係者の作業負担を大きく軽減するとともに作業の質を向上させ、特に、撮影回数(画像の数)が多く、検像の迅速さ正確さが要求される環境において多大な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】病院の医用画像保管システムの概略構成を示す図
【図2】本発明の撮影作業支援プログラムの一実施形態における処理概要を示すフローチャート
【図3】エッジ検出処理におけるエッジの探索方向について説明するための図
【図4】エッジプロファイルの一例を示す図
【図5】エッジ幅のヒストグラムの一例を示す図
【図6】ヒストグラムを使ったぶれ具合の判別方法について説明するための図
【図7】ヒストグラムを使ったぶれ具合の判別方法の流れを示す図
【図8】再撮影を要求するメッセージが出力された画面の一例を示す図
【符号の説明】
【0054】
1a,1b,1c,1d モダリティ、 2 画像確認用ワークステーション、
3 サーバ、 4 画像診断用ワークステーション、
5 画像参照用ワークステーション、 6 放射線情報システム、
7 ネットワーク、 8 大容量ストレージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体撮影により得た情報に基づいて医用画像を生成する画像生成装置と、前記画像生成装置が生成した医用画像を表示し得る画面を備えた情報処理装置とを備えた撮影システムを構成する前記情報処理装置であって、
診断用画像のぶれとして許容可能なぶれの大きさを許容量として設定する許容量設定手段と、
前記画像生成装置が生成した医用画像に含まれるエッジを、該医用画像上に定義された複数の方向についてそれぞれ検出するエッジ検出手段と、
前記エッジ検出手段が各方向において検出したエッジについて、それぞれの特徴量を算出し、該特徴量に基づいて前記医用画像のぶれの大きさを判別するぶれ具合判別手段と、
前記ぶれ具合判別手段により判別されたぶれの大きさを、前記許容量設定手段により設定された許容量と比較することにより、該医用画像のぶれが診断用画像のぶれとして許容可能な大きさか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段が許容不可能と判定したときに、前記被写体の再撮影を要求する情報を出力する再撮影要求手段とを備える医用画像情報処理装置。
【請求項2】
前記許容量設定手段は、診断用画像のぶれとして許容可能なぶれの大きさを検査目的および/または撮影部位ごとに記憶しており、被写体撮影の際に指定された検査目的および/または撮影部位について記憶されているぶれの大きさを前記許容量として設定することを特徴とする請求項1記載の医用画像情報処理装置。
【請求項3】
被写体撮影により得た情報に基づいて医用画像を生成する画像生成装置と、前記画像生成装置が生成した医用画像を表示し得る画面を備えた情報処理装置とを備えた撮影システムであって、前記情報処理装置が、
診断用画像のぶれとして許容可能なぶれの大きさを許容量として設定する許容量設定手段と、
前記画像生成装置が生成した医用画像に含まれるエッジを、該医用画像上に定義された複数の方向についてそれぞれ検出するエッジ検出手段と、
前記エッジ検出手段が各方向において検出したエッジについて、それぞれの特徴量を算出し、該特徴量に基づいて前記医用画像のぶれの大きさを判別するぶれ具合判別手段と、
前記ぶれ具合判別手段により判別されたぶれの大きさを、前記許容量設定手段により設定された許容量と比較することにより、該医用画像のぶれが診断用画像のぶれとして許容可能な大きさか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段が許容不可能と判定したときに、前記被写体の再撮影を要求する情報を出力する再撮影要求手段とを備えたことを特徴とする医用撮影システム。
【請求項4】
被写体を撮影し撮影により得られた医用画像を確認してから保存する作業をコンピュータにより支援するためのプログラムであって、
診断用画像のぶれとして許容可能なぶれの大きさを許容量として設定する許容量設定処理と、
前記医用画像に含まれるエッジを、該医用画像上に定義された複数の方向についてそれぞれ検出するエッジ検出処理と、
前記エッジ検出処理において前記方向ごとに検出したエッジについて、それぞれの特徴量を算出し、該特徴量に基づいて前記医用画像のぶれの大きさを判別するぶれ具合判別処理と、
前記ぶれ具合判別処理において判別されたぶれの大きさを、前記許容量設定処理により設定された許容量と比較することにより、該医用画像のぶれが診断用画像のぶれとして許容可能な大きさか否かを判定する判定処理と、
前記判定処理において許容不可能との判定がなされたときに、前記被写体の再撮影を要求する情報を出力する再撮影要求処理とを、コンピュータに実行させる撮影作業支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−175138(P2007−175138A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374517(P2005−374517)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】